説明

多槽傾斜型湿式抄紙機およびそれを用いた湿紙シートの製造方法

【課題】 従来の蓄電デバイス用セパレータ製造方法における、電極間で内部短絡を生じさせる貫通孔が存在しやすいこと、薄膜化が困難であること、層間剥離を起こしやすいため、表裏で繊維種の異なる蓄電デバイス用セパレータの製造は困難であること、表裏で繊維種の異なるセパレータを得ることができないこと、を解決する。
【解決手段】 斜め上方に走行する傾斜走行部を有する抄紙ネットと、該抄紙ネットの傾斜走行部上に、スラリーを流し出す第1のフローボックスと、該第1のフローボックス内の吃水線と傾斜走行部との交差部近傍に第2のフローボックスの下部が位置する多槽傾斜型湿式抄紙機、およびそれを用いて湿紙シートを得る製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、リチウムイオン二次電池、ポリマーリチウム二次電池、アルミニウム電解コンデンサ、電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイス用セパレータに用いられる湿紙シートを製造するための多槽傾斜型湿式抄紙機およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、産業用、民生用のいずれにおいても電気・電子機器が増加している上に、ハイブリッド自動車や電気自動車が実用化されたことにより、それらに搭載される蓄電デバイス、例えば、リチウムイオン二次電池、ポリマーリチウム二次電池、アルミニウム電解コンデンサ、電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスの需要が著しく増加している。蓄電デバイスは、高機能化が日進月歩で進行しており、それに使用されるセパレータにおいては、薄膜化、表裏機能分離化等の高機能化が要求されてきている。
【0003】
このようなセパレータの製造方法としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂を材料とする従来のカード法や乾式不織布や織布とするスパンボンド法があるが、薄膜化には不向きである。また、セルロース等を材料とする薄膜化に有利な湿式抄紙法があるが、ピンホールによる貫通孔に問題がある。従来、このような湿式抄紙法としては、繊維長3〜25mmの分割型複合繊維で形成した繊維ウェブに流体流を作用させる湿式製造法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この湿式抄紙法では、分割型複合繊維で形成した繊維ウェブに流体流を作用させた場合、高圧にて流体を噴射し繊維を分割させる行為がピンホールのような貫通孔を生じさせ、電極間の内部短絡を生じさせていた。また、他の湿式抄紙法としては、フィブリル化された高分子と、フィブリル化された天然繊維を混抄もしくは積層する湿式抄紙法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、フィブリル化された繊維は、繊維表面に空気を抱き込みやすく、不織布層に巻き込まれた泡に起因するピンホールが電極間の内部短絡等の欠陥を生じさせやすくさせていた。
【0004】
一方、多層抄湿式抄紙法により複数の層を積層する蓄電デバイス用セパレータの製造方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、従来のような湿紙シートの積層、もしくは、湿紙シートの張り合わせによる製造方法では、層間剥離を起こしやすい等の問題があった。
【特許文献1】特開平8−273654号公報
【特許文献2】特開2003−168629号公報
【特許文献3】特開2003−123723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セパレータには薄膜化、表裏機能分離が強く要求されているが、従来のセパレータ製造方法では、電極間で内部短絡を生じさせる貫通孔が存在しやすく、薄膜化は困難であった。また、湿紙シートの積層、もしくは、湿紙シートの張り合わせによる製造方法では、層間剥離を起こしやすいため、表裏で繊維種の異なる蓄電デバイス用セパレータの製造は困難であった。また、バインダー樹脂を使用して、不織布を積層する製造方法では、通気性が低下するため、表裏で繊維種の異なる蓄電デバイス用セパレータの製造には不向きであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされた発明である。
本発明の多槽傾斜型湿式抄紙機は、斜め上方に走行する傾斜走行部を有する抄紙ネットと、該抄紙ネットの傾斜走行部上に、スラリーを流し出す第1のフローボックスと、該第1のフローボックス内の吃水線と傾斜走行部との交差部近傍に第2のフローボックスの下部が位置することを特徴とする。
また、本発明の湿紙シートの製造方法は、斜め上方に走行する抄紙ネットの傾斜走行部上に、第1のフローボックスからスラリーを流し出すと共に、該第1のフローボックス内の吃水線と傾斜走行部との交差部近傍にフローボックスの下部が位置する第2のフローボックスからスラリーを流し出すことにより、複数層の湿紙シートを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多槽傾斜型湿式抄紙機は、第1のフローボックス内の吃水線と抄紙ネットの傾斜走行部との交差部近傍に第2のフローボックス下部が位置するため、該交差部近傍においてそれぞれのフローボックスから流し出された繊維どうしが絡み合い、得られた湿紙シートの積層間は、層間剥離がおこりにくい。
また、本発明の製造方法は、ピンホールがなく薄膜化された蓄電デバイス用セパレータに好適な湿紙シートを製造することができ、また、表裏で繊維種の異なる湿紙シートの製造に優れており、リチウムイオン二次電池用セパレータ、電気二重層キャパシタ用セパレータ等の蓄電デバイス用セパレータに好適な湿紙シートの製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
図1に示したように、本発明の多槽傾斜型湿式抄紙機においては、抄紙ネット10は、複数のガイドローラーによって矢印α方向に走行される。ガイドローラー11からガイドローラー12の間の傾斜した抄紙ネット10を傾斜走行部13という。本発明においては、第1のフローボックス14内の吃水線WLと傾斜走行部13との交差部近傍Aに第2のフローボックス15の下部が位置する。該交差部近傍Aでは、第1のフローボックス14内のスラリー16と第2のフローボックス15内のスラリー17が、隔壁18を隔てて隣接している。
交差部近傍Aにおける隔壁18と傾斜走行部13との間は、間隙を有し、抄紙ネット10の走行にともない第1のフローボックス14から流れ出されたスラリー16は、この間隙を通って第2のフローボックス15内のスラリー17と混合される。
本発明において、図1の例ではフローボックスが2段となっているが、図2のように第3のフローボックス20を加えた3段以上の多数のフローボックスを有する多段式の多槽傾斜型湿式抄紙機であってもよい。
【0009】
本発明においては、上記の多槽傾斜型湿式抄紙機を用いて湿紙シートを製造するものである。すなわち、図1において斜め上方に走行する抄紙ネット10の傾斜走行部13上に、第1のフローボックス14からスラリー16を流し出すと共に、該第1のフローボックス14内の吃水線WLと傾斜走行部13との交差部近傍Aに、フローボックスの下部が位置する第2のフローボックス15からスラリー17を流し出すことにより、複数層の湿紙シートを形成することができる。
交差部近傍Aで第1のフローボックス14のスラリー16と第2のフローボックス15のスラリー17とが湿潤状態で混合されるため、繊維どうしが絡み合い、得られた湿紙シートの積層間は、層間剥離がおこりにくい。交差部近傍Aにおける第1のフローボックス14内の吃水線WLは、抄紙ネット10の傾斜走行部13に接触させないことが好ましい。吃水線WLが、傾斜走行部13に接触させた場合は、スラリー16が傾斜走行部13に流れ出された際に抄紙ネット内部に水分が吸収され、第2のフローボックス15のスラリー17との繊維どうしの絡み合いが十分得られにくくなる。
【0010】
上記スラリーは、水などの液体に繊維を混合したものであり、繊維としては次のものを挙げることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、全芳香族ポリアリレート繊維等のポリエステル繊維、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、半芳香族ポリアミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、綿、麻、ケナフ繊維、バナナ繊維、パイナップル繊維、羊毛、絹、アンゴラ、カシミア、レーヨン、キュプラ、ポリノジック、溶剤紡糸セルロース等を挙げることができる。これらは1種または2種以上を使用してもよい。上記繊維の繊維径は0.1μm〜100μm、繊維長は10mm以下が好ましい。
【0011】
本発明の製造方法において、第1のフローボックスと第2のフローボックスにおけるスラリーが、同一組成の場合には、水中で、同一繊維層が順次形成されるため、ピンホールのない蓄電デバイス用セパレータに好適な湿紙シートを抄紙ネット上に形成できる。
また、本発明の製造方法では、各々のフローボックスに繊維径の異なる繊維や、種類の異なる繊維からなるスラリーを用いることにより、繊維径や繊維種の異なる層を順次形成させることが出来るため、表裏で機能を分離した蓄電デバイス用セパレータに好適な湿紙シートを形成できる。さらに、層間にあたる部分をグラデーション化させることが出来きるため、傾斜構造化された蓄電デバイス用セパレータに好適な湿紙シートも形成できる。また、交差部近傍Aにおけるフォーミング中に層間で繊維が絡み合いやすいため、接着剤や粘着剤を使用せずに複数層を積層した蓄電デバイス用セパレータに好適な湿紙シートを形成できる。
【実施例1】
【0012】
繊維径2.5μm、繊維長6mmのポリエチレンテレフタレート繊維からなる繊維と、繊維径0.2μm、繊維長0.6mmにフィブリル化された全芳香族ポリアミドからなる繊維と、繊維径0.5μm、繊維長1mmにフィブリル化された溶剤紡糸セルロースからなる繊維を、各々25:60:15の質量比率でイオン交換水に0.05質量%の濃度でパルパー内に投入し30分間分散し、スラリーaを作製した。
【0013】
上記スラリーaを、図1の多槽傾斜型湿式抄紙機における第1のフローボックス14と第2のフローボックス15の両者に供給し、抄紙ネット10を走行させ傾斜走行部13に各フローボックスから流し出した。このように、同一繊維組成の繊維層を順次積層させた湿体シートを抄造し、ヤンキードライヤーにて130℃で乾燥して厚さ20μm、密度は0.45g/cmのピンホールのない蓄電デバイス用セパレータを得た。この蓄電デバイス用セパレータは、長期間電極間の内部短絡がなく、層間剥離も生じなかった。
【実施例2】
【0014】
繊維径2.5μm、繊維長6mmのポリエチレンテレフタレート繊維からなる繊維をイオン交換水に0.05質量%の濃度でパルパー内に投入し30分間分散し、スラリーbを作製した。繊維径0.2μm、繊維長0.6mmにフィブリル化された全芳香族ポリアミドからなる繊維と、繊維径0.5μm、繊維長1mmにフィブリル化された溶剤紡糸セルロースからなる繊維を、各々80:20の質量比率でイオン交換水に0.05質量%の濃度でパルパー内に投入し30分間分散し、スラリーcを作製した。
【0015】
上記スラリーbを、図1における多槽傾斜型湿式抄紙機の第1のフローボックス14に供給し、上記スラリーcを第2のフローボックス15に供給した。次に抄紙ネット10を走行させ傾斜走行部13に各フローボックスからスラリーを流し出した。このように、繊維種の異なる繊維層を順次積層させた湿体シートを抄造し、ヤンキードライヤーにて130℃で乾燥して厚さ20μm、密度は0.45g/cmのピンホールがなく、表裏で繊維種の異なる蓄電デバイス用セパレータを得た。この蓄電デバイス用セパレータは、長期間電極間の内部短絡がなく、層間剥離も生じなかった。
【実施例3】
【0016】
繊維径2.5μm、繊維長6mmのポリエチレンテレフタレート繊維からなる繊維をイオン交換水に0.05質量%の濃度でパルパー内に投入し30分間分散し、スラリーdを作製した。該ポリエチレンテレフタレート繊維からなる繊維と繊維径0.5μm、繊維長1mmにフィブリル化された溶剤紡糸セルロースからなる繊維を、各々50:50の質量比率でイオン交換水に0.05質量%の濃度でパルパー内に投入し30分間分散し、スラリーeを作製した。また、繊維径0.5μm、繊維長1mmにフィブリル化された溶剤紡糸セルロースからなる繊維をイオン交換水に0.05質量%の濃度でパルパー内に投入し30分間分散し、スラリーfを作製した。
【0017】
上記スラリーdを、図2における多槽傾斜型湿式抄紙機の第1のフローボックス14に供給し、上記スラリーeを第2のフローボックス15に供給し、さらに、上記スラリーfを第3のフローボックス20に供給した。次に抄紙ネット10を走行させ傾斜走行部13に各フローボックスからスラリーを流し出した。このように、繊維種の異なるの繊維層を順次積層させた湿体シートを抄造し、ヤンキードライヤーにて130℃で乾燥して厚さ20μm、密度は0.45g/cmのピンホールがなく、繊維組成が傾斜構造の蓄電デバイス用セパレータを得た。この蓄電デバイス用セパレータは、長期間電極間の内部短絡がなく、層間剥離も生じなかった。
【0018】
[比較例1]
繊度2.2dt、繊維長6mmのポリエチレン/ポリプロピレン菊花状18分割繊維をイオン交換水に0.05質量%の濃度でパルパー内に投入し30分間分散し、フローボックスを1漕のみ使用し、湿紙シートを形成し、ヤンキードライヤーにて130℃で乾燥して繊維ウェブを作製した。ついで、融着した繊維ウェブを水圧80kg/cmの水流により分割型複合繊維を分割すると同時に絡合し、熱風乾燥機で乾燥して、厚さ100μm、密度は0.45g/cmの比較用の蓄電デバイス用セパレータを得た。このセパレータは、ピンホールが多数存在し、蓄電デバイス用セパレータとして使用できなかった。
【0019】
[比較例2]
実施例2と同様に、繊維径2.5μm、繊維長6mmのポリエチレンテレフタレート繊維からなる繊維をイオン交換水に0.05質量%の濃度でパルパー内に投入し30分間分散し、スラリーbを作製した。次に繊維径0.2μm、繊維長0.6mmにフィブリル化された全芳香族ポリアミドからなる繊維と、繊維径0.5μm、繊維長1mmにフィブリル化された溶剤紡糸セルロースからなる繊維を、各々80:20の質量比率でイオン交換水に0.05質量%の濃度でパルパー内に投入し30分間分散し、スラリーcを作製した。
上記スラリーbを長網上で湿式抄紙し、湿紙シートを得た。さらに、得られた湿紙シート上にスラリーcを湿式抄紙し、湿紙シートを形成しようとしたが、層間剥離を起こし、抄紙ワイヤー上より取り出すことが出来なかった。
【0020】
以上のように、本発明の多槽傾斜型湿式抄紙機および製造方法で作製した実施例1〜3の湿紙シートは、多段式のフローボックスにおける交差部近傍においてそれぞれのフローボックスから流し出された繊維どうしが絡み合うために、積層間は層間剥離がおこりにくく、ピンホールがなく薄膜であり、蓄電デバイス用セパレータに好適なものであった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明にかかる多槽傾斜型湿式抄紙機の構成を示す断面図である。
【図2】本発明にかかる他の多槽傾斜型湿式抄紙機の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0022】
10 抄紙ネット
11 ガイドローラー
12 ガイドローラー
13 傾斜走行部
14 第1のフローボックス
15 第2のフローボックス
16 スラリー
17 スラリー
18 隔壁
20 第3のフローボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜め上方に走行する傾斜走行部を有する抄紙ネットと、該抄紙ネットの傾斜走行部上に、スラリーを流し出す第1のフローボックスと、該第1のフローボックス内の吃水線と傾斜走行部との交差部近傍に第2のフローボックスの下部が位置することを特徴とする多槽傾斜型湿式抄紙機。
【請求項2】
斜め上方に走行する抄紙ネットの傾斜走行部上に、第1のフローボックスからスラリーを流し出すと共に、該第1のフローボックス内の吃水線と傾斜走行部との交差部近傍にフローボックスの下部が位置する第2のフローボックスからスラリーを流し出すことにより、複数層の湿紙シートを形成することを特徴とする湿紙シートの製造方法。
【請求項3】
前記湿紙シートが、蓄電デバイス用セパレータであることを特徴とする請求項2に記載の湿紙シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−126829(P2010−126829A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301077(P2008−301077)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】