説明

多段遠心ポンプ

【課題】対向多段遠心ポンプの配管を簡略にする。
【解決手段】多段遠心ポンプ10を構成する要素ポンプを上流側、下流側の二つの群14A,14Bに分ける。一方の群14Bにおいては、一つの要素ポンプ、例えば要素ポンプ12-5は、背面側に配置された前段の要素ポンプ12-4から送られてきた取扱い流体を正面側から吸い込み、吐出する取扱い流体を、正面側に配置された次段の要素ポンプ12-6に向けて送り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段遠心ポンプに関し、特にその流路の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
共通のポンプ軸上に複数のインペラを配置し、取扱い流体をこれらのインペラにより順次送り出す多段遠心ポンプが知られている。個々のインペラは、そのインペラに対応したケーシング内に配置され、これらは、一つの単段の遠心ポンプを構成しているとみることができる。この単段の遠心ポンプを以降、多段遠心ポンプの一つの段を構成する要素と言う意味で要素ポンプと呼ぶ。
【0003】
下記特許文献1には、多段遠心ポンプが示されている。このポンプは、ポンプを駆動するモータが一体に設けられ、モータの下方に2段、上方に2段の要素ポンプを有している。下側の2段の要素ポンプと、上側2段の要素ポンプの向きは反対となっており、いわゆる対向多段遠心ポンプの構成を採る。すなわち、下側の要素ポンプの吸込み口は下方を向き、上側の要素ポンプは上方を向いており、上下で背中合わせとなるように配置されている。この要素ポンプの配置により、上側と下側で発生するスラストの少なくとも一部を相殺している。
【0004】
取扱い流体は、下方に開いた多段ポンプの吸込み口より、下側の要素ポンプに吸い込まれ、下側の要素ポンプから吐出されて、モータの周囲を通って、上側に送られる。上側に送られた取扱い流体は、上側の要素ポンプへ上方より送り込まれ、順に下の要素ポンプに送られて、多段遠心ポンプの側方に向けて設けられた吐出口より吐出される。
【0005】
【特許文献1】特開平8−219076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の多段遠心ポンプにおいては、モータの上側の要素ポンプの吸込み口は上方にあるため、下側の要素ポンプが送り出した取扱い流体を上側の要素ポンプの上方まで導くための配管が必要となる。
【0007】
また、上記特許文献1の多段遠心ポンプは、下方から吸い込んだ取扱い流体を側方へ吐出しており、このポンプに接続される配管の取り回しが複雑になりがちである。
【0008】
本発明は、多段遠心ポンプの配管を簡略化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の多段遠心ポンプは、これを構成する要素ポンプが、上流側の段を構成する第1群と、下流側の段を構成する第2群とに分けられ、第1群の要素ポンプは第1の向きに向き、第2群の要素ポンプは第1の向きとは反対向きの第2の向きに向いている。ここで、要素ポンプの向きとは、インペラの吸い込み口の向きをいう。つまり、第1群に属する各要素ポンプと、第2群に属する各要素ポンプとは、インペラの吸込み口が相対して配置されるか、または背中合わせとなって配置される。
【0010】
一方の群の要素ポンプは、当該要素ポンプの各々の正面側より送られてきた取扱い流体を正面側より吸い込み、吐出する取扱い流体を各々の要素ポンプの背面側へと送り出す。これは一般的な、多段遠心ポンプの取扱い流体の流れである。他方の群の要素ポンプは、当該要素ポンプの各々の背面側より送られてきた取扱い流体を各々の正面側より吸い込み、吐出する取扱い流体を各々の要素ポンプの正面側へと送り出す。他方の群においては、取扱い流体の、ポンプ軸方向の流れは、個々の要素ポンプを通過するごとに、反転を繰り返す。
【0011】
第1群の要素ポンプと第2群の要素ポンプは、これらを駆動するモータを境にして反対側に配置されるようにでき、また多段遠心ポンプの吸込み口と吐出口とは、各要素ポンプのインペラが配置されたポンプ軸の延長線上に位置するようにできる。また、第1群の要素ポンプと第2群の要素ポンプは、モータの同じ側に、配置されるようにできる。
【0012】
また、上記多段遠心ポンプは、キャンドモータポンプとして構成することができる。
【0013】
前記他方の群の要素ポンプは、インペラ半径方向外側のケーシング内に、要素ポンプの吸込み口へと取扱い流体が流れる吸込み流路と、インペラが送り出した取扱い流体が吐出される吐出流路が設けられ、これらが周方向に交互に配置されるようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、本実施形態の多段遠心ポンプ10の概略構成を示す断面図である。多段遠心ポンプ10は、要素ポンプ12-1,12-2,・・・,12-6を6個を直列に連ねた6段のポンプである。個々の要素ポンプを区別する必要がない場合には、添え字(1,2,・・・,6)を省略して、単に「要素ポンプ12」として説明する。また、個々の要素ポンプは、ほぼ同一の構成を有しており、各要素ポンプの構成要素について、その構成要素が属するポンプの符号の添え字(1,2,・・・,6)を付して説明する。要素ポンプの場合と同様に、区別の必要がない場合は、添え字を省略する。
【0015】
6個の要素ポンプ12は、3個ずつの二つの群14A,14Bに分けられ、二つの群は、ポンプを駆動する電気モータ(以下、単にモータと記す。)16を境にして反対側に配置されている。図中モータ16の右側の群を第1群14A、左側の群を第2群14Bと呼ぶ。モータ16の出力軸18が図中左右方向両側に向けて延長されたポンプ軸20上に、個々の要素ポンプ12-1,12-2,・・・,12-6のインペラ22-1,22-2,・・・,22-6が固定されている。第1群14Aに属する要素ポンプ12-1,12-2,12-3は、図中右側である取扱い流体の流れの上流側に向けて開口しており、一方第2群14Bに属する要素ポンプ12-4,12-5,12-6は、反対に下流側に向けて開口している。
【0016】
モータ16は、ロータ24がキャン26内に収められたキャンドモータの構成を採る。キャン26の外側にステータ28が配置されている。出力軸18、すなわちポンプ軸20は、キャン26内に設けられた軸受30に支持されている。キャン26内は、取扱い流体で満たされており、よってロータ24は取扱い流体に漬かり、また軸受30は、取扱い流体で潤滑されている。キャン26の外側、すなわちステータ28を収めたステータ室32には、取扱い流体は浸入せず、ステータ28は取扱い流体に浸かっていない。
【0017】
多段遠心ポンプ10のポンプ吸込み口34から流入した取扱い流体は、1段目の要素ポンプのインペラ22-1のインペラ吸込み口36-1より吸い込まれ、このインペラにより半径方向外側に送り出される。次に、取扱い流体は、送り流路38-1を軸方向に流れ、更に要素ポンプ12-1の背面側に位置する戻し流路40-1に沿って、半径方向内側に向けて流れて2段目の要素ポンプのインペラ吸込み口36-2に送られる。同様に、2段目の要素ポンプ12-2により送り出された流体は、送り流路38-2を流れ、要素ポンプ12-2の背面側の戻し流路40-2を流れて、3段目の要素ポンプ12-3に送られる。3段目の要素ポンプ12-3においては、インペラ吸込み口36-3から吸い込んだ取扱い流体は、半径方向外側に送り出された後、モータ16の外側の送り流路38-3を介して、要素ポンプの第2群14Bに向けて送られる。
【0018】
上述の、要素ポンプの第1群14Aにおける取扱い流体の流れは、一般の多段遠心ポンプの流れと同様のものである。すなわち、一つの要素ポンプ12は、インペラ吸込み口36が開口した側である正面側から取扱い流体を吸い込み、正面側と反対側の背面側に吐出する。
【0019】
第2群14Bに送られた取扱い流体は、送り流路38-3を流れて、第2群の最初の要素ポンプ12-4を通り過ぎ、その正面側に送られる。取扱い流体は、要素ポンプ12-4の正面側、すなわち図中左側に位置する戻し流路40-3を半径方向内側に向けて流れ、インペラ吸込み口36-4よりインペラ22-4に吸い込まれる。インペラ22-4により送り出された取扱い流体は、送り流路38-4に吐出されて、戻し流路40-4を流れ、5段目の要素ポンプ12-5の正面側に回り込む。要素ポンプ12-5のインペラ22-5により送り出された取扱い流体は、送り流路38-5、戻し流路40-5を流れて、6段目の要素ポンプ12-6の正面側に回り込む。要素ポンプ12-6により吐出された取扱い流体は、送り流路38-6を流れ、多段遠心ポンプ10のポンプ吐出口42より吐出される。
【0020】
要素ポンプの第2群14Bにおける取扱い流体の流れは、ポンプ軸20に沿う方向において、ポンプ吸込み口34からポンプ吐出口42に向かう正方向(図中左向きの方向)と、その逆の向きである逆方向を、個々の要素ポンプを通過するごとに繰り返す。このように取扱い流体を流す場合、ある要素ポンプ12に流れ込む流体の流路と、この要素ポンプ12から吐出される流体の流路は、双方ともに、ポンプ軸20に直交する一つの平面内に存在する場合がある。例えば、図1に示す軸直交断面A−Aにおいては、第5段の要素ポンプ12-5に流れ込む側の流路、すなわち送り流路38-4と、このポンプ12-5から吐出する側の流路、すなわち送り流路38-5との双方が存在する。これらの流路は、当然、独立していなければならず、周方向に分かれて配置される。これが図2および図3に示されている。
【0021】
図2は、第5段の要素ポンプ12-5のケーシング(要素ポンプケーシング)44-5の図1に示すA−A線における断面図である。また、図3は、要素ポンプケーシング44-5を図1の左方よりみた状態を示す図である。インペラ22-5により半径方向外側に向けて送り出された取扱い流体は、ディフューザ46を通って送り流路38-5に送られて、次の段の要素ポンプ12-6の正面側に送られる。また、この第5段の要素ポンプ12-5に流れ込む取扱い流体は、前の段の要素ポンプ12-4から送り流路38-4を介して、当該要素ポンプ12-5の正面側に送られる。送り流路38-4と、送り流路38-5は、図示するように周方向に交互に配置され、ケーシング壁48により分離されている。図示する例においては、送り流路38、戻し流路40は、それぞれ6個設けられ、周方向に交互に配置されている。しかし、それぞれの流路の個数は、6個以外であってもよい。
【0022】
本実施形態によれば、要素ポンプの第1群から、第2群の、モータより最も遠い要素ポンプまで取扱い流体を送る配管を設ける必要がなく、配管の簡略化を図ることができる。
【0023】
また、第2群の、最もモータに近い要素ポンプの背面のオリフィス50には、1段分の差圧が作用するのみであり、この部分の漏れを抑制することができる。すなわち、従来のように、第2群の最もモータに近い要素ポンプが最終段のものであると、このオリフィスに係る差圧は、第2群の全要素ポンプにより昇圧された積算分となるが、本実施形態のように、モータに近い要素ポンプが第1群の要素ポンプの次に続くものであれば、1段分の差圧となり、差圧を小さくすることができる。
【0024】
また、ポンプ吸込み口34とポンプ吐出口42を直線上に配置することができ、多段遠心ポンプ10前後の配管もこの直線上に配置することができる。これにより、当該ポンプ周囲の配管系の配置も簡略なものとすることができる。
【0025】
実施形態の多段遠心ポンプ10においては、ステータ28により回転磁界を形成し、ロータ24を駆動したが、マグネット駆動ポンプの構成を採ることも可能である。すなわち、多段遠心ポンプ10のステータ28に代えて、ロータ24を取り囲むように周方向に複数の永久磁石を配列し、この磁石を回転させて回転磁界を形成し、ロータ24を回転駆動するよう構成することができる。
【0026】
また、多段遠心ポンプ10は6段構成であるが、4段であってもよく、また8段以上であってもよい。さらに、キャンドモータポンプ等の、ロータまたはポンプ全体が取扱い流体に浸漬するものではなく、外部にモータを配置したポンプにも適用することができる。
【0027】
図4は、他の実施形態の多段遠心ポンプ110の構成を示す断面図である。多段遠心ポンプ110は、6段の要素ポンプ12を有し、6個の要素ポンプは、それぞれ3個の要素ポンプからなる二つの群114A,114Bに分けられる。要素ポンプの二つの群114A,114Bは、双方ともモータ116の一方の側(図においては右側)に位置し、第1の群114Aがモータ116から遠い側、第2の群114Bがモータ116に近い側に位置される。要素ポンプおよびこれを構成する要素部品、モータ116を構成する要素部品は、前述の多段遠心ポンプ10と同様であるので、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0028】
第1群114Aに属する要素ポンプ12と、第2群に属する要素ポンプ12は、多段遠心ポンプ10と同様に、互いに反対向きに配置され、それぞれが発生するスラストが相殺される。
【0029】
第1群114Aに属する各要素ポンプ12は、多段遠心ポンプ10の第1群14Aと同様に、それぞれの要素ポンプ12の正面側から送られてきた取扱い流体を背面側へと送り出す。第2群114Bに属する各要素ポンプ12は、第1群の要素ポンプと反対向きに配置され、多段遠心ポンプ10の第2群14Bと同様に、それぞれの要素ポンプ12の背面側から送られてきた取扱い流体を正面側から吸い込み、正面側へと送り出す。最終段の要素ポンプから送り出された取扱い流体は、モータ116の周囲に配置された送り流路38-6を通って吐出口42に向かう。また、最終段から送り出された取扱い流体が流れる送り流路は、ポンプ軸20に略直交する方向に向かうようにしてもよい。
【0030】
二つの要素ポンプの群114A,114Bをモータ116の一方側に配置した構成においても、マグネット駆動ポンプの構成を採ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態の多段遠心ポンプ10の軸線を含む平面における断面図である。
【図2】多段遠心ポンプ10の軸直交断面図である。
【図3】多段遠心ポンプ10の要素ポンプケーシング44の側面図である。
【図4】他の実施形態の多段遠心ポンプ110の軸線を含む平面における断面図である。
【符号の説明】
【0032】
10,110 多段遠心ポンプ、12(12-1,12-2,・・・,12-6) 要素ポンプ、14A,114A 要素ポンプの第1群、14B,114B 要素ポンプの第2群、16,116 モータ、22(22-1,22-2,・・・,22-6) インペラ、34 ポンプ吸込み口、36(36-1,36-2,・・・,36-6) インペラ吸い込み口、38(38-1,38-2,・・・,38-6) 送り流路、40(40-1,40-2,・・・,40-5) 戻し流路、42 ポンプ吐出口、44 要素ポンプケーシング、46 ディフューザ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に連なる複数の要素ポンプより構成され、各要素ポンプのインペラが共通のポンプ軸上に配置された多段遠心ポンプであって、
要素ポンプを、取扱い流体の流れの上流側にあり複数の要素ポンプからなる第1群と、下流側にあり複数の要素ポンプからなる第2群とに分けたとき、
第1群の要素ポンプと、第2群の要素ポンプとは反対向きに配置され、
一方の群の要素ポンプは、当該要素ポンプの各々の正面側より送られてきた取扱い流体を正面側より吸込み、吐出する取扱い流体を各々の要素ポンプの背面側へと送り出し、
他方の群の要素ポンプは、当該要素ポンプの各々の背面側より送られてきた取扱い流体を各々の正面側より吸込み、吐出する取扱い流体を各々の要素ポンプの正面側へと送り出す、
多段遠心ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の多段遠心ポンプであって、
当該多段遠心ポンプを駆動するモータを有し、第1群の要素ポンプと第2群の要素ポンプが前記モータを境にして反対側に配置され、
当該多段遠心ポンプの吸込み口と吐出口とは、前記ポンプ軸の延長線上に位置する、
多段遠心ポンプ。
【請求項3】
請求項1に記載の多段遠心ポンプであって、
当該多段遠心ポンプを駆動するモータを有し、第1群の要素ポンプと第2群の要素ポンプは前記モータの同じ側に配置され、第2群の要素ポンプが前記モータに近い側に位置する、
多段遠心ポンプ。
【請求項4】
請求項2または3に記載の多段遠心ポンプであって、当該多段遠心ポンプはキャンドモータポンプである、多段遠心ポンプ。
【請求項5】
請求項1から4に記載の多段遠心ポンプであって、
前記他方の群の要素ポンプは、
インペラの半径方向外側のケーシング内に、要素ポンプの吸込み口へと取扱い流体が流れる吸込み流路と、インペラが送り出した取扱い流体が吐出される吐出流路が設けられ、
吸込み流路と吐出流路は、周方向に交互に配置される、
多段遠心ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−121424(P2008−121424A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302623(P2006−302623)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】