多波長分光装置
【課題】低偏光依存性、高回折効率、高角分散を実現しつつ、光学素子サイズを保ち、かつ、偏光依存性の相殺に関わる部材数を抑えることで、低コスト、かつ、全体での回折効率の波長依存性を抑えることのできる多波長分光装置を提供する。
【解決手段】回折格子を使った多波長分光装置において、1枚目の回折格子は、使用波長範囲の短波長側でP偏光とS偏光の回折効率が一致するようなものを使い、2枚目の回折格子は、使用波長の長波長側でP偏光とS偏光の回折効率が一致するようなものを使う。分光をこのような2枚の回折格子を使って行うことにより、角分散量を大きくすることができるとともに、回折効率の波長依存性を相殺し、回折効率の波長依存性が小さい分光装置を製造することができる。
【解決手段】回折格子を使った多波長分光装置において、1枚目の回折格子は、使用波長範囲の短波長側でP偏光とS偏光の回折効率が一致するようなものを使い、2枚目の回折格子は、使用波長の長波長側でP偏光とS偏光の回折効率が一致するようなものを使う。分光をこのような2枚の回折格子を使って行うことにより、角分散量を大きくすることができるとともに、回折効率の波長依存性を相殺し、回折効率の波長依存性が小さい分光装置を製造することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多波長を同時に扱う機能を有する分光装置に関し、特に、その光学系を小型にし、かつ、使用波長範囲において低偏光依存性と低挿入損失を実現する分光部の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分光装置は、主に測定器、観測器などで単色スペクトルの検出等に用いられてきた。しかし、近年、光通信システムにおいて、波長領域での多重化による通信容量拡大や、波長の違いを利用した柔軟なシステム運用が期待され、多波長同時利用を前提とした分光装置が求められるようになってきた。
【0003】
光通信システムに分光装置を含むデバイスを適用するためには、測定器などで従来から求められている低偏波依存性に加え、低挿入損失化、小型化、低コスト化が非常に重要となってくる。
【0004】
多波長を同時に利用するデバイスでは、分光部(装置)を回折格子で構成する場合、分光方向に所望の波長間隔でアレイ状に機能素子(フォトダイオード、偏向スイッチ等)を並べることになり、機能素子のアレイピッチまで、分光された光の波長間隔が分離されるまで、回折格子の角分散量(単位波長あたりの分散角の大きさ)に応じて、距離を離す必要がある。この距離がデバイスサイズを決める大きな要因の一つであり、回折格子の角分散量を大きくすることが小型化のポイントとなる。
【0005】
一方、デバイスの挿入損失に関して、分光部では回折格子の回折効率(当該波長に対して、当該波長の分光方向へのパワー集中の割合)を高くすることがポイントとなる。
しかし、回折効率の波長特性はP偏光、S偏光により異なり、偏光依存性損失:PDL(Polarization Dependent Loss)を発生する。
【0006】
回折格子において、低偏光依存性を維持しながら、大きな角分散量と高い回折効率を同時に満足することは、特定の波長範囲以外では一般に難しい。もしくは、ある波長範囲を指定した場合には、低偏光依存で高回折効率が得られる角分散量を任意に選ぶことが難しい。例えば、反射型回折格子では、1550nm付近の波長に対して、格子間隔600本/mmで実現される角分散量が、低偏光依存で高回折効率が得られる場合の角分散量に相当する。
【0007】
従来、上記課題に対して以下に述べる3通りの方法が、適用もしくは提案されてきた。
第一の方法は、古くから用いられている一般的な方法であり、非特許文献1に記載されている。この場合には、偏光依存性を不問とし、一方の偏光状態に対して使用波長における角分散量と回折効率を優先した回折格子パラメータを選定する。この回折格子への入射光の偏光状態を、偏光を分離する光学材料(ルチル等)にて空間的に分離し、分離した片方の光を1/2波長板を用いて他方の高回折効率となる偏光状態と揃えた後、回折格子に入射させることで、低偏光依存性、高回折効率、高角分散を実現する。
【0008】
図7は、従来の第一の方法の分光装置の構成を示すブロック図である。
ファイバ及びコリメータ10から出力される多波長光は、偏光分離/変換部11において、P偏光とS偏光に分離され、一方が他方の偏光状態に、波長板などにより変換される。たとえば、図7の分光装置がP偏光に対して最適に動作するように構成されている場合には、偏光分離/変換部11において、S偏光の光がP偏光の光に変換される。このようにして偏光分離/変換された光のビーム幅は、プリズムペア12によって広げられ、コンデンサレンズ13に入力される。コンデンサレンズ13によって集光された光は、MEMSミラーアレイ14によって反射され、分解レンズ15に入力される。分解レンズ15は、たとえば、P偏光の光と、S偏光からP偏光に変換された後の光とを回折格子16に照射する。そして、この回折格子16によって分光が行われる。図7から明らかなように、回折格子16は、2つの別々の光ビームを受けるために面積が広くなくてはならない。回折格子16は、面積が大きくなるほど作るのが難しく、歩留まりが悪くなるので、大きな面積の回折格子を使用しなくてはならないとすると、分光装置全体の値段も高いものになってしまう。また、分光装置自体も大きくなってしまい、小型化、低価格化が望まれる現状の要求に反してしまうことになる。
【0009】
図8及び図9は、従来技術の第二の方法を説明する図である。
第二の方法は、特許文献1などに述べられる方法である。1枚の回折格子の角分散量を不問とし、指定したある波長にて、低偏光依存で高回折効率が得られるように回折格子のパラメータを選定する。図8に示す様に、不足した角分散量を補うため、2枚(偶数枚)の回折格子を波長分散が加算されるように配置する。さらに、ある波長を含む波長範囲でのPDLの発生を抑えるため、波長板を回折格子間に配置し、2つの回折格子の間で偏光状態を反転することにより相殺する。これらにより低偏光依存性、高回折効率、高角分散を実現する。
【0010】
図8(a)に示されるように、回折格子20で分光された光を集光光学系21で集光し、正しく受光素子または可動反射体アレイ22に入射させるためには、分光された光の集光後の空間的間隔が受光素子または可動反射体アレイ22のアレイ間隔に一致しなければならない。したがって、回折格子20の角分散量が十分でない場合には、回折格子20と受光素子または可動反射体アレイ22との間の距離を長くする必要がある。しかし、これでは、装置全体が大きくなってしまう。そこで、図8(b)に示すように、回折格子20を2枚以上使用し、角分散量を大きくとるようにする。これにより、回折格子20と受光素子または可動反射体22との距離を小さくすることができ、装置全体を小型化することができる。また、第二の方法では、更に、回折格子20間に波長板23を設け、偏光依存性を解消している。
【0011】
図9は、特許文献1に記載された分光装置の基本構成図である。この構成では、回折格子20を2枚設ける代わりに、光を2回回折格子20に通過させて、角分散量を稼ぐ構成としている。ポート24から入ってきた光は、回折格子20によって分光される。そして、分光された光は、1/4波長板23を通過し、ミラー22によって反射される。ミラー22によって反射された光は、再び1/4波長板23を通過する。ここで、光は、1/4波長板を2回通過したことになるので、光の偏光状態が入れ替わり、P偏光はS偏光に、S偏光はP偏光になる。そして、このように偏光が入れ替わった状態で回折格子20を再び通過する。光が2回回折格子20を通過するので、角分散量が2倍になるのであるが、光が1回目に回折格子20を通過する場合と2回目に回折格子を通過する場合とでは、偏光が入れ替わっている。偏光が入れ替わった状態で、同じ回折格子20を2回通過すると、回折格子20の有する偏光特性が、相殺される。すなわち、1回目に光がP偏光であった場合に受けたロスがaであり、2回目に光がS偏光であった場合に受けたロスがbとすると、2回回折格子20を通過したことによるロスは、a+bとなる。一方、1回目にS偏光であった光が、1回目と2回目で偏光を入れ替えて回折格子20を2回通過する際のロスがb+aとなるので、いずれの偏光成分も回折格子20を2回通過した後のロスは同じになるという効果を得ることができる。
【0012】
図10は、従来の第三の方法を説明する図である。
第三の方法は、特許文献2や特許文献3などに述べられる方法である。第二の方法と同様に1枚の回折格子の角分散量を不問とし、指定したある波長にて、低偏光依存で高回折効率が得られるように回折格子のパラメータを選定する。不足した角分散量を補うため、2枚(偶数枚)の回折格子を波長分散が加算されるように配置する。このとき、回折格子の溝が互いに垂直になるように配置する。回折格子の溝が互いに垂直なため、P偏光とS偏光の入射条件が反転することになり、波長板を回折格子間に配置したのと同様の効果が得られる。これらにより低偏光依存性、高回折効率、高角分散を実現する(第二の方法に比べ波長板が不要である点がメリット)。
【0013】
図10において、光ファイバ25から入力された光は、コリメータレンズ26によってコリメートされた後、第1の回折格子27によって分光される。分光された光は、第2の回折格子28に進む。第2の回折格子の溝は、第1の回折格子27のそれと直交しており、光は、第2の回折格子28によって、第1の回折格子27と直交する方向に分光される。第2の回折格子28によって分光された光は、集光レンズ29によって、アレイ素子30上に集光される。この場合、角分散量は、第1の回折格子27と第2の回折格子28の角分散方向が直交しているため、両者の単純な和とはならず、単純な和よりも小さくなる。
【特許文献1】米国特許第6765724号
【特許文献2】特開平2−61529号公報
【特許文献3】特開2001−13006号公報
【非特許文献1】D.M.Marom "Wavelength Selective 1xK Switching System" Optical MEMS 2003 P.43〜P.44。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記の3方法はそれぞれ以下のような問題がある。
第一の方法は、図7の様に偏光分離により、回折格子を含む偏光分離以降の有効エリアが2倍必要となり、光学エレメント大型化によりコストが上昇する。特に回折格子などで面積が倍になると歩留りは倍以上劣化し、コストは倍以上の上昇となる場合が多い。
【0015】
図11に第二の方法での回折効率の概略図を示す。第二の方法は、特性の同じ回折格子なので、P偏光、S偏光の回折効率が等しい波長が、使用波長範囲の中心において、対称な特性でないと使用波長範囲において、全体の挿入損失に波長依存性を発生する。対称な特性は、特定の使用波長、回折効率、角分散量の場合にのみ実現でき、一般的には難しい。すなわち、図11(a)のような特性を回折格子が有していたとすると、S偏光とP偏光を入れ替えて重ね合わせた特性は、図11(b)のようになる。この場合、使用波長範囲において、回折効率が波長依存性を依然有していることが示されている。
【0016】
第三の方法は、第二の方法での問題の他、図10に図示の通り、デバイス内部での光学配置が立体的になる(アレイ素子は回折格子の溝に対して45°傾斜)、全体での角分散量が第二の方法に比べほぼ1/√2になるなどの問題がある。
【0017】
本発明の課題は、低偏光依存性、高回折効率、高角分散を実現しつつ、光学素子サイズを保ち、かつ、偏光依存性の相殺に関わる部材数を抑えることで、低コスト、かつ、全体での回折効率の波長依存性を抑えることのできる多波長分光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の多波長分光装置は、使用波長範囲内の所定の波長について、回折効率が高い回折格子と回折効率が低い回折格子とを、回折格子の溝がほぼ平行になるように配置した分光手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる多波長分光装置によれば、小型かつ良好な光学特性(広い波長範囲での低偏光依存性、高回折効率)を有する多波長同時制御デバイスを、低コストで実現することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施形態の多波長分光装置においては、回折格子の溝がほぼ平行な配置で、P偏光とS偏光の回折効率が等しい波長の位置が、少なくとも一組において、それぞれ使用波長範囲の異なる両端付近にある回折格子を複数枚用いる、もしくは、使用波長範囲でP偏光、S偏光の回折効率の高低が反転している回折格子を複数枚用いる。
【0021】
図1は、本発明の実施形態の第1の原理説明図である。
図1の例では、図1(a)に示されるように、一枚目の回折格子に、使用波長範囲の短波長側にP偏光とS偏光の回折効率が等しい点を有するように設計されたものを用い、二枚目の回折格子に、図1(b)に示されるように、長波長側にP偏光とS偏光の回折効率が等しい点を有するように設計されたものを用いる。光が一枚目の回折格子と二枚目の回折格子の両方を通った後の各波長の偏光毎の回折効率は、一枚目と二枚目の積となり、図1(c)の様になる。一枚目と二枚目の偏光による回折効率の差の最大量が等しい場合には、どちらかの回折格子に波長板を用いた場合の特性と同様の効果が得られる。図1(c)から分かるように、上記構成によれば、二枚の回折格子を合わせた回折効率は、使用波長範囲内において、S偏光、P偏光両者に対し、変動幅が少なく、仕様範囲内に回折効率の変動幅を収めることができる。また、二枚の回折格子の溝をほぼ平行とすることにより、分光の方向がほぼ同じとなり、二枚の回折格子の角分散が加算されるようになるので、角分散を大きくすることができる。
【0022】
図2は、本発明の実施形態の第2の原理説明図である。
図2の例では、図2(a)の一枚目の回折格子と図2(b)の二枚目の回折格子において、P偏光とS偏光の回折効率が等しい波長がほぼ同じて、P偏光(またはS偏光)の回折効率が反転するように設計されたものを用いる。各波長の偏光毎の回折効率は、一枚目と二枚目の積となり、図2(c)の様になる。図1の例との違いは、P偏光とS偏光の回折効率の等しい波長の相対位置である。これは回折効率設計に制限がある、もしくは製造公差により特性が変動した場合においても、図1、または、図2のどちらかの構成とすることで、偏光依存性低減効果が得られることを意味し、所望の特性を得るためのコストを低減する効果がある。
【0023】
本発明の実施形態にて用いる回折格子の特性は、一つ目の回折格子に対して、格子形状等を微調整することで得ることができる。ただし、回折格子の回折効率を含めた設計は一般に単純ではなく、シミュレーションを用いて設計する。反射型の設計例としては、Applied Optics Vol.16,No.10 p.2711、Vol.18,No.13 p.2262、Vol.37,No.25 p.5823等に開示されている。また透過型の設計例は、US 6765724B1、特開2004-206039等に開示されている。
【0024】
図3は、回折格子の回折効率特性の一例を示す図である。
図3においては、使用波長をλ、回折格子の格子間隔をDとして、λ/Dの各値に対する回折効率を表している。設計に対しては、まず、使用波長範囲を設定する。そして、格子間隔Dを調整して、一枚目と二枚目の回折格子がこの使用波長範囲において、図1や図2のような回折効率特性を回折格子が持つようにする。格子間隔を一枚目と二枚目で変えることにより図1や図2のような特性を得ることができる。
【0025】
なお、上記実施形態では、回折格子を二枚だけ使用する場合について説明したが、3枚以上の回折格子を組み合わせても良い。すなわち、回折効率特性の変動を、使用波長範囲内で、互いに打ち消すように回折格子を組み合わせれば、何枚の回折格子を私用しても良い。
【0026】
また、本発明の実施形態では、従来技術に比べ、多波長分光装置全体での使用波長範囲での効率変動が少ないので、波長板を適用することにより、さらに波長依存性を低減することができる。波長板を使用する場合には、回折格子を偶数枚使用し、光が波長板を通過する前後で、回折格子を通過するように構成する。波長板は、光のP偏光とS偏光とを入れ替え、P偏光の特性とS偏光の特性とを平均化する作用を有する。波長板は、たとえば、1/4波長板である。
【0027】
図4は、本発明の実施形態に従った分光装置が用いられるデバイスの例を示す図である。
本構成のデバイスは波長選択スイッチと呼ばれ、波長多重された光信号を分光するための分光部34、入出力ポート等を有する入出力光学系(入力光学系および出力光学系)(ファイバ31、コリメータ32、拡大光学系33)、集光光学系35、波長に対応して配置されるMEMSミラーアレイあるいはフォトダイオードアレイ36を最小の構成要素としている。本発明の実施形態によれば、分光部34の回折格子は、2枚以上を使用する。ファイバ31のcomから出力された入力光は、コリメータ32によって平行光とされ、拡大光学系33によって、ビーム幅が拡大される。分光部34の回折格子で分光され、集光光学系35の焦点レンズでMEMSミラーアレイあるいはフォトダイオードアレイ36の素子上に集光される。MEMSミラーアレイ上に光が集光される場合には、集光された光は反射され、集光光学系35、分光部34、拡大光学系33、コリメータ32の順に進み、出力用ファイバ31のいずれかに結合される。フォトダイオードアレイに光が集光される場合には、光は、フォトダイオードによって電気信号に変換されるので、反射はされない。
【0028】
図示の分光素子は、透過型の回折格子を用いた例であり、この分光素子は、入力された光に含まれる波長成分を波長毎に異なる方向に分散して出力する。可動反射体(MEMSミラーアレイ)は、波長の分散方向に沿って各波長に応じる位置に配置される。この可動反射体の角度をポートの配列方向に沿って変化させることにより、入力ポートから入力された波長を任意の出力ポートのいずれか一つに振り分けることができる。また、この構成において、透過型回折格子対42の間に、1/4波長板49を設けてもよい。これにより、光デバイスの偏光依存性が更に軽減され、より性能の良い光デバイスを得ることができる。波長板は、回折格子間でなくても、MEMSミラーアレイあるいはフォトダイオード36の前、すなわち、穴48の第2偏向ミラー45側に設けても良い。
【0029】
図5は、本発明の実施形態を波長選択スイッチに適用した場合の具体的構成例を示す図である。
図5において、光は、矢印の示すように進行する。まず、光は、コリメータアレイ40から入射し、ビームエキスパンダ(拡大光学系)41を通る。ビームエキスパンダ41によって、ビーム幅が拡大される。次に、透過型回折格子対42を通過することによって、光は、分光される。透過型回折格子対42は、本発明の実施形態に従い、二枚以上の回折格子からなるが、図5では、二枚の回折格子を使用した例を示している。透過型回折格子対42を出た光は、第1偏向ミラー43によって反射され、集光レンズ44に入射される。集光レンズ44で集光された光は、第2偏向ミラー45によって進行方向を変えられ、MEMSミラーアレイ46が配置される位置に向けられる。MEMSミラーアレイ46は、通常パッケージとして構成されており、筐体47に設けられた穴48に取り付けられる。
【0030】
図5の波長選択スイッチは、本発明の実施形態により、小型かつ良好な光学特性(広い波長範囲での低偏光依存性、高回折効率)を有する。
図6は、本発明の実施形態を応用する場合の光装置の工夫点を説明する図である。
【0031】
MEMSミラーアレイ、もしくは、フォトダイオードアレイ51は、製造性を考慮すると個別のパッケージであることが望ましい。しかしながら、本構成では入力光がほぼパッケージ窓50に垂直に近い角度で入射し、パッケージ窓50での反射減衰量が有限であることからゴースト光を出力ポートに発生する。
【0032】
本構成でMEMSミラーアレイ、もしくは、フォトダイオードアレイ51を個別パッケージとする場合には、図6に示すように、パッケージ窓50を傾斜させることでゴースト光の発生を抑えることができる。すなわち、パッケージ窓50が傾斜していないと、光が、パッケージ窓50で反射してしまい、ゴースト光を発生する。そこで、パッケージ窓50を傾斜させると、パッケージ窓50で反射された光は、光路からそれて、ゴースト光が出力ポートにいたることがなくなる。このようにして、本発明の実施形態の多波長分光装置を用いた光デバイスの性能を向上することができる。
【0033】
また、波長選択スイッチの構成においては、同じ回折格子を2回通過するため、波長板を回折格子間のみでなく、可動反射体アレイの前に設置することによっても、同様の効果を得ることができる。ただし、波長板の設置においては、図6にて説明したような、波長板によって反射された光がゴースト光として出力ポートに発生してしまうという問題を回避するため、パッケージ窓50と同様に、波長板を傾斜させて設置するのが好ましい。なお、波長板は、たとえば、1/4波長板である。
【0034】
以上のように、本発明の実施形態では、分光部に回折格子の溝がほぼ平行な配置で、P偏光、S偏光の回折効率が等しい波長の位置が、少なくとも一組において、それぞれ使用波長範囲の異なる両端付近にある回折格子を複数枚用いる構成とする。あるいは、分光部に回折格子の溝がほぼ平行な配置で、使用波長範囲でP偏光、S偏光の回折効率の高低が反転している回折格子を複数枚用いる構成とする。そして、回折格子数が偶数枚の構成において、少なくとも一組の回折格子の間にP偏光、S偏光を反転する波長板を設置することにより分光装置の性能を高めることができる。また、本発明の実施形態の分光装置を光通信に使用することを考えると、回折格子の動作波長範囲は、Cバンドの1520〜1567nm、Lバンドの1567〜1618nm、あるいは、CバンドとLバンドの両方を含む1520〜1618nmのそれぞれ±10%の範囲であることが好ましい。
【0035】
更に、MEMSミラーアレイあるいはフォトダイオードを備える光デバイスを構成する場合、MEMSミラーアレイあるいはフォトダイオードを構成するパッケージのパッケージ窓は、光路に対して、傾斜していることが好ましい。この傾斜の角度は、経験的に5度以上が良いことが分かっている。また、波長板を回折格子間、あるいは、MEMSミラーアレイ、あるいは、フォトダイオードの前に設ける場合、この波長板も傾斜させることが好ましい。波長板を傾斜させる角度も、やはり、経験的に5度以上が良いことがわかっている。
【0036】
以上、説明したように、本発明の実施形態の多波長分光装置、および、それを用いたデバイスは、小型かつ良好な光学特性(広い波長範囲での低偏光依存性、高回折効率)を示す。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態の第1の原理説明図である。
【図2】本発明の実施形態の第2の原理説明図である。
【図3】回折格子の回折効率特性の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に従った分光装置が用いられるデバイスの例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態を波長選択スイッチに適用した場合の具体的構成例を示す図である。
【図6】本発明の実施形態を応用する場合の光装置の工夫点を説明する図である。
【図7】従来の第一の方法の分光装置の構成を示すブロック図である。
【図8】従来技術の第二の方法を説明する図(その1)である。
【図9】従来技術の第二の方法を説明する図(その2)である。
【図10】従来の第三の方法を説明する図である。
【図11】第二の方法での回折効率の概略図を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
31 ファイバ
32 コリメータ
33 拡大光学系
34 分光部(回折格子)
35 集光光学系(焦点レンズ)
36 MEMSミラーアレイ、あるいは、フォトダイオード
40 コリメータアレイ
41 ビームエキスパンダ
42 透過型回折格子対
43 第1偏向ミラー
44 集光レンズ
45 第2偏向ミラー
46 MEMSミラーアレイ
47 筐体
48 穴
50 パッケージ窓
51 MEMSミラーアレイ、または、フォトダイオード
【技術分野】
【0001】
本発明は、多波長を同時に扱う機能を有する分光装置に関し、特に、その光学系を小型にし、かつ、使用波長範囲において低偏光依存性と低挿入損失を実現する分光部の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分光装置は、主に測定器、観測器などで単色スペクトルの検出等に用いられてきた。しかし、近年、光通信システムにおいて、波長領域での多重化による通信容量拡大や、波長の違いを利用した柔軟なシステム運用が期待され、多波長同時利用を前提とした分光装置が求められるようになってきた。
【0003】
光通信システムに分光装置を含むデバイスを適用するためには、測定器などで従来から求められている低偏波依存性に加え、低挿入損失化、小型化、低コスト化が非常に重要となってくる。
【0004】
多波長を同時に利用するデバイスでは、分光部(装置)を回折格子で構成する場合、分光方向に所望の波長間隔でアレイ状に機能素子(フォトダイオード、偏向スイッチ等)を並べることになり、機能素子のアレイピッチまで、分光された光の波長間隔が分離されるまで、回折格子の角分散量(単位波長あたりの分散角の大きさ)に応じて、距離を離す必要がある。この距離がデバイスサイズを決める大きな要因の一つであり、回折格子の角分散量を大きくすることが小型化のポイントとなる。
【0005】
一方、デバイスの挿入損失に関して、分光部では回折格子の回折効率(当該波長に対して、当該波長の分光方向へのパワー集中の割合)を高くすることがポイントとなる。
しかし、回折効率の波長特性はP偏光、S偏光により異なり、偏光依存性損失:PDL(Polarization Dependent Loss)を発生する。
【0006】
回折格子において、低偏光依存性を維持しながら、大きな角分散量と高い回折効率を同時に満足することは、特定の波長範囲以外では一般に難しい。もしくは、ある波長範囲を指定した場合には、低偏光依存で高回折効率が得られる角分散量を任意に選ぶことが難しい。例えば、反射型回折格子では、1550nm付近の波長に対して、格子間隔600本/mmで実現される角分散量が、低偏光依存で高回折効率が得られる場合の角分散量に相当する。
【0007】
従来、上記課題に対して以下に述べる3通りの方法が、適用もしくは提案されてきた。
第一の方法は、古くから用いられている一般的な方法であり、非特許文献1に記載されている。この場合には、偏光依存性を不問とし、一方の偏光状態に対して使用波長における角分散量と回折効率を優先した回折格子パラメータを選定する。この回折格子への入射光の偏光状態を、偏光を分離する光学材料(ルチル等)にて空間的に分離し、分離した片方の光を1/2波長板を用いて他方の高回折効率となる偏光状態と揃えた後、回折格子に入射させることで、低偏光依存性、高回折効率、高角分散を実現する。
【0008】
図7は、従来の第一の方法の分光装置の構成を示すブロック図である。
ファイバ及びコリメータ10から出力される多波長光は、偏光分離/変換部11において、P偏光とS偏光に分離され、一方が他方の偏光状態に、波長板などにより変換される。たとえば、図7の分光装置がP偏光に対して最適に動作するように構成されている場合には、偏光分離/変換部11において、S偏光の光がP偏光の光に変換される。このようにして偏光分離/変換された光のビーム幅は、プリズムペア12によって広げられ、コンデンサレンズ13に入力される。コンデンサレンズ13によって集光された光は、MEMSミラーアレイ14によって反射され、分解レンズ15に入力される。分解レンズ15は、たとえば、P偏光の光と、S偏光からP偏光に変換された後の光とを回折格子16に照射する。そして、この回折格子16によって分光が行われる。図7から明らかなように、回折格子16は、2つの別々の光ビームを受けるために面積が広くなくてはならない。回折格子16は、面積が大きくなるほど作るのが難しく、歩留まりが悪くなるので、大きな面積の回折格子を使用しなくてはならないとすると、分光装置全体の値段も高いものになってしまう。また、分光装置自体も大きくなってしまい、小型化、低価格化が望まれる現状の要求に反してしまうことになる。
【0009】
図8及び図9は、従来技術の第二の方法を説明する図である。
第二の方法は、特許文献1などに述べられる方法である。1枚の回折格子の角分散量を不問とし、指定したある波長にて、低偏光依存で高回折効率が得られるように回折格子のパラメータを選定する。図8に示す様に、不足した角分散量を補うため、2枚(偶数枚)の回折格子を波長分散が加算されるように配置する。さらに、ある波長を含む波長範囲でのPDLの発生を抑えるため、波長板を回折格子間に配置し、2つの回折格子の間で偏光状態を反転することにより相殺する。これらにより低偏光依存性、高回折効率、高角分散を実現する。
【0010】
図8(a)に示されるように、回折格子20で分光された光を集光光学系21で集光し、正しく受光素子または可動反射体アレイ22に入射させるためには、分光された光の集光後の空間的間隔が受光素子または可動反射体アレイ22のアレイ間隔に一致しなければならない。したがって、回折格子20の角分散量が十分でない場合には、回折格子20と受光素子または可動反射体アレイ22との間の距離を長くする必要がある。しかし、これでは、装置全体が大きくなってしまう。そこで、図8(b)に示すように、回折格子20を2枚以上使用し、角分散量を大きくとるようにする。これにより、回折格子20と受光素子または可動反射体22との距離を小さくすることができ、装置全体を小型化することができる。また、第二の方法では、更に、回折格子20間に波長板23を設け、偏光依存性を解消している。
【0011】
図9は、特許文献1に記載された分光装置の基本構成図である。この構成では、回折格子20を2枚設ける代わりに、光を2回回折格子20に通過させて、角分散量を稼ぐ構成としている。ポート24から入ってきた光は、回折格子20によって分光される。そして、分光された光は、1/4波長板23を通過し、ミラー22によって反射される。ミラー22によって反射された光は、再び1/4波長板23を通過する。ここで、光は、1/4波長板を2回通過したことになるので、光の偏光状態が入れ替わり、P偏光はS偏光に、S偏光はP偏光になる。そして、このように偏光が入れ替わった状態で回折格子20を再び通過する。光が2回回折格子20を通過するので、角分散量が2倍になるのであるが、光が1回目に回折格子20を通過する場合と2回目に回折格子を通過する場合とでは、偏光が入れ替わっている。偏光が入れ替わった状態で、同じ回折格子20を2回通過すると、回折格子20の有する偏光特性が、相殺される。すなわち、1回目に光がP偏光であった場合に受けたロスがaであり、2回目に光がS偏光であった場合に受けたロスがbとすると、2回回折格子20を通過したことによるロスは、a+bとなる。一方、1回目にS偏光であった光が、1回目と2回目で偏光を入れ替えて回折格子20を2回通過する際のロスがb+aとなるので、いずれの偏光成分も回折格子20を2回通過した後のロスは同じになるという効果を得ることができる。
【0012】
図10は、従来の第三の方法を説明する図である。
第三の方法は、特許文献2や特許文献3などに述べられる方法である。第二の方法と同様に1枚の回折格子の角分散量を不問とし、指定したある波長にて、低偏光依存で高回折効率が得られるように回折格子のパラメータを選定する。不足した角分散量を補うため、2枚(偶数枚)の回折格子を波長分散が加算されるように配置する。このとき、回折格子の溝が互いに垂直になるように配置する。回折格子の溝が互いに垂直なため、P偏光とS偏光の入射条件が反転することになり、波長板を回折格子間に配置したのと同様の効果が得られる。これらにより低偏光依存性、高回折効率、高角分散を実現する(第二の方法に比べ波長板が不要である点がメリット)。
【0013】
図10において、光ファイバ25から入力された光は、コリメータレンズ26によってコリメートされた後、第1の回折格子27によって分光される。分光された光は、第2の回折格子28に進む。第2の回折格子の溝は、第1の回折格子27のそれと直交しており、光は、第2の回折格子28によって、第1の回折格子27と直交する方向に分光される。第2の回折格子28によって分光された光は、集光レンズ29によって、アレイ素子30上に集光される。この場合、角分散量は、第1の回折格子27と第2の回折格子28の角分散方向が直交しているため、両者の単純な和とはならず、単純な和よりも小さくなる。
【特許文献1】米国特許第6765724号
【特許文献2】特開平2−61529号公報
【特許文献3】特開2001−13006号公報
【非特許文献1】D.M.Marom "Wavelength Selective 1xK Switching System" Optical MEMS 2003 P.43〜P.44。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記の3方法はそれぞれ以下のような問題がある。
第一の方法は、図7の様に偏光分離により、回折格子を含む偏光分離以降の有効エリアが2倍必要となり、光学エレメント大型化によりコストが上昇する。特に回折格子などで面積が倍になると歩留りは倍以上劣化し、コストは倍以上の上昇となる場合が多い。
【0015】
図11に第二の方法での回折効率の概略図を示す。第二の方法は、特性の同じ回折格子なので、P偏光、S偏光の回折効率が等しい波長が、使用波長範囲の中心において、対称な特性でないと使用波長範囲において、全体の挿入損失に波長依存性を発生する。対称な特性は、特定の使用波長、回折効率、角分散量の場合にのみ実現でき、一般的には難しい。すなわち、図11(a)のような特性を回折格子が有していたとすると、S偏光とP偏光を入れ替えて重ね合わせた特性は、図11(b)のようになる。この場合、使用波長範囲において、回折効率が波長依存性を依然有していることが示されている。
【0016】
第三の方法は、第二の方法での問題の他、図10に図示の通り、デバイス内部での光学配置が立体的になる(アレイ素子は回折格子の溝に対して45°傾斜)、全体での角分散量が第二の方法に比べほぼ1/√2になるなどの問題がある。
【0017】
本発明の課題は、低偏光依存性、高回折効率、高角分散を実現しつつ、光学素子サイズを保ち、かつ、偏光依存性の相殺に関わる部材数を抑えることで、低コスト、かつ、全体での回折効率の波長依存性を抑えることのできる多波長分光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の多波長分光装置は、使用波長範囲内の所定の波長について、回折効率が高い回折格子と回折効率が低い回折格子とを、回折格子の溝がほぼ平行になるように配置した分光手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる多波長分光装置によれば、小型かつ良好な光学特性(広い波長範囲での低偏光依存性、高回折効率)を有する多波長同時制御デバイスを、低コストで実現することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施形態の多波長分光装置においては、回折格子の溝がほぼ平行な配置で、P偏光とS偏光の回折効率が等しい波長の位置が、少なくとも一組において、それぞれ使用波長範囲の異なる両端付近にある回折格子を複数枚用いる、もしくは、使用波長範囲でP偏光、S偏光の回折効率の高低が反転している回折格子を複数枚用いる。
【0021】
図1は、本発明の実施形態の第1の原理説明図である。
図1の例では、図1(a)に示されるように、一枚目の回折格子に、使用波長範囲の短波長側にP偏光とS偏光の回折効率が等しい点を有するように設計されたものを用い、二枚目の回折格子に、図1(b)に示されるように、長波長側にP偏光とS偏光の回折効率が等しい点を有するように設計されたものを用いる。光が一枚目の回折格子と二枚目の回折格子の両方を通った後の各波長の偏光毎の回折効率は、一枚目と二枚目の積となり、図1(c)の様になる。一枚目と二枚目の偏光による回折効率の差の最大量が等しい場合には、どちらかの回折格子に波長板を用いた場合の特性と同様の効果が得られる。図1(c)から分かるように、上記構成によれば、二枚の回折格子を合わせた回折効率は、使用波長範囲内において、S偏光、P偏光両者に対し、変動幅が少なく、仕様範囲内に回折効率の変動幅を収めることができる。また、二枚の回折格子の溝をほぼ平行とすることにより、分光の方向がほぼ同じとなり、二枚の回折格子の角分散が加算されるようになるので、角分散を大きくすることができる。
【0022】
図2は、本発明の実施形態の第2の原理説明図である。
図2の例では、図2(a)の一枚目の回折格子と図2(b)の二枚目の回折格子において、P偏光とS偏光の回折効率が等しい波長がほぼ同じて、P偏光(またはS偏光)の回折効率が反転するように設計されたものを用いる。各波長の偏光毎の回折効率は、一枚目と二枚目の積となり、図2(c)の様になる。図1の例との違いは、P偏光とS偏光の回折効率の等しい波長の相対位置である。これは回折効率設計に制限がある、もしくは製造公差により特性が変動した場合においても、図1、または、図2のどちらかの構成とすることで、偏光依存性低減効果が得られることを意味し、所望の特性を得るためのコストを低減する効果がある。
【0023】
本発明の実施形態にて用いる回折格子の特性は、一つ目の回折格子に対して、格子形状等を微調整することで得ることができる。ただし、回折格子の回折効率を含めた設計は一般に単純ではなく、シミュレーションを用いて設計する。反射型の設計例としては、Applied Optics Vol.16,No.10 p.2711、Vol.18,No.13 p.2262、Vol.37,No.25 p.5823等に開示されている。また透過型の設計例は、US 6765724B1、特開2004-206039等に開示されている。
【0024】
図3は、回折格子の回折効率特性の一例を示す図である。
図3においては、使用波長をλ、回折格子の格子間隔をDとして、λ/Dの各値に対する回折効率を表している。設計に対しては、まず、使用波長範囲を設定する。そして、格子間隔Dを調整して、一枚目と二枚目の回折格子がこの使用波長範囲において、図1や図2のような回折効率特性を回折格子が持つようにする。格子間隔を一枚目と二枚目で変えることにより図1や図2のような特性を得ることができる。
【0025】
なお、上記実施形態では、回折格子を二枚だけ使用する場合について説明したが、3枚以上の回折格子を組み合わせても良い。すなわち、回折効率特性の変動を、使用波長範囲内で、互いに打ち消すように回折格子を組み合わせれば、何枚の回折格子を私用しても良い。
【0026】
また、本発明の実施形態では、従来技術に比べ、多波長分光装置全体での使用波長範囲での効率変動が少ないので、波長板を適用することにより、さらに波長依存性を低減することができる。波長板を使用する場合には、回折格子を偶数枚使用し、光が波長板を通過する前後で、回折格子を通過するように構成する。波長板は、光のP偏光とS偏光とを入れ替え、P偏光の特性とS偏光の特性とを平均化する作用を有する。波長板は、たとえば、1/4波長板である。
【0027】
図4は、本発明の実施形態に従った分光装置が用いられるデバイスの例を示す図である。
本構成のデバイスは波長選択スイッチと呼ばれ、波長多重された光信号を分光するための分光部34、入出力ポート等を有する入出力光学系(入力光学系および出力光学系)(ファイバ31、コリメータ32、拡大光学系33)、集光光学系35、波長に対応して配置されるMEMSミラーアレイあるいはフォトダイオードアレイ36を最小の構成要素としている。本発明の実施形態によれば、分光部34の回折格子は、2枚以上を使用する。ファイバ31のcomから出力された入力光は、コリメータ32によって平行光とされ、拡大光学系33によって、ビーム幅が拡大される。分光部34の回折格子で分光され、集光光学系35の焦点レンズでMEMSミラーアレイあるいはフォトダイオードアレイ36の素子上に集光される。MEMSミラーアレイ上に光が集光される場合には、集光された光は反射され、集光光学系35、分光部34、拡大光学系33、コリメータ32の順に進み、出力用ファイバ31のいずれかに結合される。フォトダイオードアレイに光が集光される場合には、光は、フォトダイオードによって電気信号に変換されるので、反射はされない。
【0028】
図示の分光素子は、透過型の回折格子を用いた例であり、この分光素子は、入力された光に含まれる波長成分を波長毎に異なる方向に分散して出力する。可動反射体(MEMSミラーアレイ)は、波長の分散方向に沿って各波長に応じる位置に配置される。この可動反射体の角度をポートの配列方向に沿って変化させることにより、入力ポートから入力された波長を任意の出力ポートのいずれか一つに振り分けることができる。また、この構成において、透過型回折格子対42の間に、1/4波長板49を設けてもよい。これにより、光デバイスの偏光依存性が更に軽減され、より性能の良い光デバイスを得ることができる。波長板は、回折格子間でなくても、MEMSミラーアレイあるいはフォトダイオード36の前、すなわち、穴48の第2偏向ミラー45側に設けても良い。
【0029】
図5は、本発明の実施形態を波長選択スイッチに適用した場合の具体的構成例を示す図である。
図5において、光は、矢印の示すように進行する。まず、光は、コリメータアレイ40から入射し、ビームエキスパンダ(拡大光学系)41を通る。ビームエキスパンダ41によって、ビーム幅が拡大される。次に、透過型回折格子対42を通過することによって、光は、分光される。透過型回折格子対42は、本発明の実施形態に従い、二枚以上の回折格子からなるが、図5では、二枚の回折格子を使用した例を示している。透過型回折格子対42を出た光は、第1偏向ミラー43によって反射され、集光レンズ44に入射される。集光レンズ44で集光された光は、第2偏向ミラー45によって進行方向を変えられ、MEMSミラーアレイ46が配置される位置に向けられる。MEMSミラーアレイ46は、通常パッケージとして構成されており、筐体47に設けられた穴48に取り付けられる。
【0030】
図5の波長選択スイッチは、本発明の実施形態により、小型かつ良好な光学特性(広い波長範囲での低偏光依存性、高回折効率)を有する。
図6は、本発明の実施形態を応用する場合の光装置の工夫点を説明する図である。
【0031】
MEMSミラーアレイ、もしくは、フォトダイオードアレイ51は、製造性を考慮すると個別のパッケージであることが望ましい。しかしながら、本構成では入力光がほぼパッケージ窓50に垂直に近い角度で入射し、パッケージ窓50での反射減衰量が有限であることからゴースト光を出力ポートに発生する。
【0032】
本構成でMEMSミラーアレイ、もしくは、フォトダイオードアレイ51を個別パッケージとする場合には、図6に示すように、パッケージ窓50を傾斜させることでゴースト光の発生を抑えることができる。すなわち、パッケージ窓50が傾斜していないと、光が、パッケージ窓50で反射してしまい、ゴースト光を発生する。そこで、パッケージ窓50を傾斜させると、パッケージ窓50で反射された光は、光路からそれて、ゴースト光が出力ポートにいたることがなくなる。このようにして、本発明の実施形態の多波長分光装置を用いた光デバイスの性能を向上することができる。
【0033】
また、波長選択スイッチの構成においては、同じ回折格子を2回通過するため、波長板を回折格子間のみでなく、可動反射体アレイの前に設置することによっても、同様の効果を得ることができる。ただし、波長板の設置においては、図6にて説明したような、波長板によって反射された光がゴースト光として出力ポートに発生してしまうという問題を回避するため、パッケージ窓50と同様に、波長板を傾斜させて設置するのが好ましい。なお、波長板は、たとえば、1/4波長板である。
【0034】
以上のように、本発明の実施形態では、分光部に回折格子の溝がほぼ平行な配置で、P偏光、S偏光の回折効率が等しい波長の位置が、少なくとも一組において、それぞれ使用波長範囲の異なる両端付近にある回折格子を複数枚用いる構成とする。あるいは、分光部に回折格子の溝がほぼ平行な配置で、使用波長範囲でP偏光、S偏光の回折効率の高低が反転している回折格子を複数枚用いる構成とする。そして、回折格子数が偶数枚の構成において、少なくとも一組の回折格子の間にP偏光、S偏光を反転する波長板を設置することにより分光装置の性能を高めることができる。また、本発明の実施形態の分光装置を光通信に使用することを考えると、回折格子の動作波長範囲は、Cバンドの1520〜1567nm、Lバンドの1567〜1618nm、あるいは、CバンドとLバンドの両方を含む1520〜1618nmのそれぞれ±10%の範囲であることが好ましい。
【0035】
更に、MEMSミラーアレイあるいはフォトダイオードを備える光デバイスを構成する場合、MEMSミラーアレイあるいはフォトダイオードを構成するパッケージのパッケージ窓は、光路に対して、傾斜していることが好ましい。この傾斜の角度は、経験的に5度以上が良いことが分かっている。また、波長板を回折格子間、あるいは、MEMSミラーアレイ、あるいは、フォトダイオードの前に設ける場合、この波長板も傾斜させることが好ましい。波長板を傾斜させる角度も、やはり、経験的に5度以上が良いことがわかっている。
【0036】
以上、説明したように、本発明の実施形態の多波長分光装置、および、それを用いたデバイスは、小型かつ良好な光学特性(広い波長範囲での低偏光依存性、高回折効率)を示す。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態の第1の原理説明図である。
【図2】本発明の実施形態の第2の原理説明図である。
【図3】回折格子の回折効率特性の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に従った分光装置が用いられるデバイスの例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態を波長選択スイッチに適用した場合の具体的構成例を示す図である。
【図6】本発明の実施形態を応用する場合の光装置の工夫点を説明する図である。
【図7】従来の第一の方法の分光装置の構成を示すブロック図である。
【図8】従来技術の第二の方法を説明する図(その1)である。
【図9】従来技術の第二の方法を説明する図(その2)である。
【図10】従来の第三の方法を説明する図である。
【図11】第二の方法での回折効率の概略図を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
31 ファイバ
32 コリメータ
33 拡大光学系
34 分光部(回折格子)
35 集光光学系(焦点レンズ)
36 MEMSミラーアレイ、あるいは、フォトダイオード
40 コリメータアレイ
41 ビームエキスパンダ
42 透過型回折格子対
43 第1偏向ミラー
44 集光レンズ
45 第2偏向ミラー
46 MEMSミラーアレイ
47 筐体
48 穴
50 パッケージ窓
51 MEMSミラーアレイ、または、フォトダイオード
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用波長範囲内の所定の波長について、回折効率が高い回折格子と回折効率が低い回折格子とを、回折格子の溝がほぼ平行になるように配置した分光手段
を備えることを特徴とする多波長分光装置。
【請求項2】
前記分光手段は、
P偏光とS偏光の回折効率が等しい波長の位置が、使用波長範囲内の異なる両端付近にある回折格子を複数枚配置して構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の多波長分光装置。
【請求項3】
前記分光手段は、
使用波長範囲内で、P偏光とS偏光の回折効率の高低が反転している回折格子を複数枚配置して構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の多波長分光装置。
【請求項4】
1組の回折格子間に、P偏光とS偏光を反転する波長板を備えることを特徴とする請求項1に記載の多波長分光装置。
【請求項5】
前記使用波長範囲は、1520〜1567nm、1567〜1618nm、あるいは、1520〜1618nmのいずれかの±10%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の多波長分光装置。
【請求項6】
光の入力ポートと、
該入力ポートからの光を分光する請求項1の多波長分光装置と、
該分光された光を集光する集光光学系と、
該集光光学系のほぼ集光位置に1次元に配列された光素子と、
を備えることを特徴とする光デバイス。
【請求項7】
前記光素子は、受光素子であることを特徴とする請求項6に記載の光デバイス。
【請求項8】
前期光素子は、可動体反射鏡であり、
更に、該可動体反射鏡によって反射された光を出力する出力ポートを
備えることを特徴とする請求項6に記載の光デバイス。
【請求項9】
前記可動体反射鏡は、窓を有するパッケージに収納され、該窓は、光路に対し傾斜していることを特徴とする請求項8に記載の光デバイス。
【請求項10】
前記可動体反射鏡と前記集光光学系の間に、光路に対し傾斜された1/4波長板が設けられることを特徴とする請求項8に記載の光デバイス。
【請求項1】
使用波長範囲内の所定の波長について、回折効率が高い回折格子と回折効率が低い回折格子とを、回折格子の溝がほぼ平行になるように配置した分光手段
を備えることを特徴とする多波長分光装置。
【請求項2】
前記分光手段は、
P偏光とS偏光の回折効率が等しい波長の位置が、使用波長範囲内の異なる両端付近にある回折格子を複数枚配置して構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の多波長分光装置。
【請求項3】
前記分光手段は、
使用波長範囲内で、P偏光とS偏光の回折効率の高低が反転している回折格子を複数枚配置して構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の多波長分光装置。
【請求項4】
1組の回折格子間に、P偏光とS偏光を反転する波長板を備えることを特徴とする請求項1に記載の多波長分光装置。
【請求項5】
前記使用波長範囲は、1520〜1567nm、1567〜1618nm、あるいは、1520〜1618nmのいずれかの±10%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の多波長分光装置。
【請求項6】
光の入力ポートと、
該入力ポートからの光を分光する請求項1の多波長分光装置と、
該分光された光を集光する集光光学系と、
該集光光学系のほぼ集光位置に1次元に配列された光素子と、
を備えることを特徴とする光デバイス。
【請求項7】
前記光素子は、受光素子であることを特徴とする請求項6に記載の光デバイス。
【請求項8】
前期光素子は、可動体反射鏡であり、
更に、該可動体反射鏡によって反射された光を出力する出力ポートを
備えることを特徴とする請求項6に記載の光デバイス。
【請求項9】
前記可動体反射鏡は、窓を有するパッケージに収納され、該窓は、光路に対し傾斜していることを特徴とする請求項8に記載の光デバイス。
【請求項10】
前記可動体反射鏡と前記集光光学系の間に、光路に対し傾斜された1/4波長板が設けられることを特徴とする請求項8に記載の光デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2007−163780(P2007−163780A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359307(P2005−359307)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人情報通信研究機構、「経済的な光ネットワークを実現する高機能集積化光スイッチングノードの研究開発」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人情報通信研究機構、「経済的な光ネットワークを実現する高機能集積化光スイッチングノードの研究開発」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]