説明

多液塗料混合方法及び装置

【課題】3液以上であっても、またどのような混合比でもそれぞれの液を正確な量で混合装置に供給し、精度の高い混合比で塗料を混合する。
【解決手段】サーボモータで駆動されパルス数に応じて定量吐出するシリンダポンプ2のシリンダを複数連接して同時に駆動し、それぞれのシリンダ内に供給液容器から供給した液を吐出工程において吐出させ、各吐出通路はそれぞれの切替弁を介して混合器1に連通させるとともに前記切替弁の他方の通路を前記各シリンダの供給液容器に戻流するよう構成し、その吐出工程において各液の必要とする吐出量に応じたパルス数の間は混合器側に吐出させ、それ以外の間は供給液容器に戻流するよう切替弁を制御し、各液を混合器に供給した後、撹拌手段によって混合撹拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反応性多液塗料のように主剤と硬化剤を一定の割合で混合し使用する場合に、正確な混合比を簡単に得られ、特に溶剤を含めた3種以上の液体でも有効に混合することができる方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スプレー塗装の分野において、二液ウレタン塗装や二液エポキシ塗装等に代表される多液塗料は塗膜性能が優れていることの他、溶剤の削減が図れる等の特長を備え、工業的分野での使用拡大が進んでいる。しかし常に問題とされていることに、使用時に正確な混合を行なわなければならないことが絶対条件として求められ、作業者の大きな負担の一つになっている。
【0003】
これらの塗料における多くは主剤と硬化剤を混合し、必要によって溶剤を加え、噴霧塗装に適した塗料粘度に調整することが必要で、しかも混合により硬化が行なわれるために、硬化が始まる前に使用しなければならず、通常は使用する直前に混合し噴霧機に供給する方法が採られことになる。正確な混合に対しては、これまでも多くの方法・装置が提案されてきており、混合するそれぞれの液を正確に混合手段に供給することができるかが重要となっている。
【0004】
液体を供給する場合、その定量性、正確性はポンプに代表される供給装置の種類に左右される。一般に容積型のポンプであれば回転式であれ往復式であれサイクルあたりの吐出量があり、その駆動量によって吐出量を求めることができる。しかしながら多液塗料における各液の供給量は高い正確性が要求され且つ作動位置によるばらつきを許容することはできない。すなわち往復式などで避けられない切替時の変動は大きな問題点となってくる。
【0005】
したがって、このような高精度の定量性を必要とする手段として、ポンプで定量性を得る場合はギアポンプが採用されている。ギアポンプの場合には回転角度に比例した吐出量が得られることから、各液用のギアポンプを、供給する液の割合に応じて、回転数(角度)が混合比に合わせた比率となるように構成し、同時に駆動して混合器に供給するようにしている(特許文献1参照)
【0006】
しかしながらギアポンプの場合、多液塗料のように主剤や硬化剤等の供給液がさまざまな性状を有しており、低粘度の場合やチクソ性の高い場合には定量性を保つことが困難で構造自体が複雑且つ精度を必要としコストがかかるといった問題点を持っている。
【0007】
定量供給を確実に行なう簡単な手段としてはシリンジが知られるところであるが、同様にシリンダ内に吸引した液を、ピストンを用いて吐出するシリンダポンプは、吐出する際のピストンの駆動をパルス信号で駆動量を制御するサーボモータを使用することによって、極めて高い精度で定量吐出できる特長がある。しかしながらこのような技術手段も、多液塗料の場合には混合する必要な液体毎にシリンダポンプを設ける必要があり、それぞれのシリンダポンプを混合比に応じて駆動制御することから前記のギアポンプ同様コストに問題がある。
【0008】
一方で、ポンプの定量性が十分でない場合に対応する手段として、多液のそれぞれを供給装置で混合器に供給する段階で、その流路に流量計を設け、実供給量を計測し、その計測値が必要とする混合比に一致する流量となるように供給装置の駆動制御装置にフィードバックしながら供給する方法が採られている。(特許文献2参照)
【0009】
このような流量計測方式は計測値を元に供給装置を常に制御する必要があり、その制御が複雑であるばかりでなく、計測装置そのものの信頼性を保つための管理維持が必要となるなど、多くの問題点が内在している。特に粘性、チクソ性のある塗料の流量を正確に計測するには高価なコリオリ流量計を使用する必要があるなど商業的に採用しがたい面が残されている。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平05−041305号公報
【特許文献2】特公平03−018502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように多液塗料の混合は、それぞれの液を高い精度で定量供給し、且つ種々の混合比に対応できる必要があるが、いずれの技術も精度を高めるとコストが高くなり、装置自体の維持管理も作業者の負担になっている。更に多液塗料自体は通常の主剤と硬化剤の他、添加剤や促進剤を混合する塗料であっても、反応に影響のない液を予め混合して二液として扱うこともできるが、噴霧塗装においては塗料粘度を下げて塗装することによって仕上げ精度を向上させることが重要となることも多く、その場合は種々の条件に応じて溶剤を混合しなければならない。
このような状況では更に混合する液が増えることになり、前述の装置の複雑化、コスト増加が更に増すことになる。

【0012】
本発明は、このように3液以上であっても、またどのような混合比でもそれぞれの液を正確な量で混合装置に供給し、精度の高い混合比で塗料を混合することができる方法を提供し、これによって多液塗料における種々の混合を幅広く行なうことができコストの掛からない混合装置を得て好適な多液塗料供給装置を得ることを課題とする。

【課題を解決するための手段】
【0013】
サーボモータで駆動されパルス数に応じて定量吐出するシリンダポンプのシリンダを複数連接して同時に駆動し、それぞれのシリンダ内に供給液容器から供給した液を吐出工程において吐出させ、各吐出通路はそれぞれの切替弁を介して混合器に連通させるとともに前記切替弁の他方の通路を前記各シリンダの供給液容器に戻流するよう構成し、その吐出工程において各液の必要とする吐出量に応じたパルス数の間は混合器側に吐出させ、それ以外の吐出液は供給液容器に戻流するよう切替弁を制御し、各液を混合器に供給した後、撹拌手段によって混合撹拌する。
【0014】
装置としては、シリンダポンプと該シリンダポンプへの供給手段とシリンダポンプからの吐出液を受容し、混合手段を備えた混合器からなる多液塗料混合装置であって、シリンダポンプは、シリンダ内に供給された液体をパルス信号で所要量が駆動されるサーボモータによりピストンを作動して定量吐出するポンプシリンダを多数配置し、それぞれ同じサーボモータにより同時に駆動される構成とし、前記多数のポンプシリンダの吐出口にはそれぞれ切替弁を接続し、該切替弁の一方の出口を前記混合器と接続し、他方の出口を各ポンプシリンダへ各液を供給する供給手段の液容器と接続、該切替弁によりそれぞれのポンプシリンダから吐出される各液を混合器と接続する時間と液容器に戻流する時間を予め設定したプログラムに基づいて制御する制御装置を設ける。
【0015】
シリンダポンプの各ポンプシリンダには、それぞれ供給手段からの各液を流入させるときポンプシリンダと連通し、吐出作動時には遮断して供給手段からの吐出液を液容器に戻す制御弁を備えている。
【発明の効果】
【0016】
上記の構成により、混合する各液を正確に混合器に供給でき、多液塗料の機能を最大限に引き出すとともに、噴霧塗装における塗料の安定供給が可能で、結果として塗装の品質を安定的に保つことができる。特に溶剤を含めた3液でも問題なく定量混合が可能で、塗装条件に適した多液塗料をスプレーガンに供給できることになる。
【0017】
シリンダポンプは駆動源を1つとして多数のポンプシリンダを備えた1つのポンプですむために、多数の液であってもそれほどコストを増加させること無く混合用の供給装置を得ることができ、制御装置により切替弁の作動シーケンスを変更するだけでどのような混合比でも容易に対応でき、広範囲の混合供給装置として使用することができる。

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を実施するために使用される装置の基本的構成図
【図2】本発明の基本作動を説明するシーケンス図
【図3】ポンプシリンダを用いた定量供給の仕組みを表す説明図
【図4】ポンプシリンダの作動を説明する装置の構成図
【図5】本発明の応用例として示す装置の基本的構成図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の具体的構成は、図1に示すことができる。多液を混合するため混合器1に各液を供給するポンプはシリンダポンプ2が用いられる。このシリンダポンプ2は3つのポンプシリンダ2a、2b、2cを備え、図示されていないがそれぞれのポンプシリンダは1つの共通する駆動装置によって同時に一体的に駆動される。
【0020】
各ポンプシリンダは、そのうちの一つを図3に示すように、シリンダ25とピストン26で構成され、シリンダ25内に液を送り込む入口通路24には制御弁3が設けられ、シリンダ25内に吸引された液は、前記制御弁3を閉じピストン26を作動させると吐出口28から吐出されるもので、ピストン26の移動量によって吐出が定量化されることを特長としている。そしてその吐出量を制御するため、ピストン26の移動は図5に概略の構成を示すように、パルス信号により回転が制御されるサーボモータ11の回転がボールねじ12に伝えられ、その回転によって移動体13が上下動し、その移動体13に固定された前記ピストン26が上下に移動する構成が一般的に用いられる。
【0021】
シリンダからの吐出量はピストン26の移動量と比例して押し出されるため、正確に移動量が設定されるサーボモータ11によって、サーボモータの駆動パルス数に応じた吐出量が制御できる構成となっている。この種のポンプはシリンダとピストンとの気密性等、他に必要な要件があるが、それらの構成についても広く知られ、特に限定されるものではないため詳細な説明は省略する。
【0022】
前記各々のシリンダポンプの入口通路側に設けた制御弁3には、入口側に、液容器4に入った液体を吸込んで吐出する補助ポンプ5の吐出側が接続され、出口側は前記シリンダへの連通と前記液容器4に戻る通路7との連通を切り替えるもので、補助ポンプ5から吐出された液体は前記シリンダ25内に送り込まれるか、液容器4に戻るかが制御される。ここで補助ポンプ5として示した供給手段はこれに限定されること無く、他の供給手段とすることでも良い。したがって供給手段が所定の吐出圧で停止する方式や吐出通路側の閉止によって吸込み側に還流する方式であれば、前記制御弁27はシリンダ側への開閉弁であっても良いことになる。
【0023】
図1例で上記構成と機能を有する各ポンプシリンダ2とその供給回路の構成は、混合するそれぞれの液に添え字a、b、cを付して区別し、主剤a、硬化剤b及び溶剤cの3液としている。各々のポンプシリンダ2の吐出通路8側にそれぞれ切替弁6a、6b、6cを設け、その出口側の一方は混合器1に供給するように接続され、他方は戻流通路7a、7b、7cを介してそれぞれの液容器4a、4b、4cに接続されている。それぞれの切替弁6a、6b、6cは、制御装置14からの信号により作動し予め設定入力されたシーケンスプログラムに基づいて各液の供給が制御される。混合器1は各液の供給を受ける容器を形成し、混合撹拌するための撹拌機15が設置されている。
【0024】
以上の構成により、シリンダポンプ2の各ポンプシリンダ2a、2b、2cには各液容器4から補助ポンプ5によって吸上げられた液が切替弁6を通して供給される。各ポンプシリンダに各液が吸引された段階で切替弁6が補助ポンプ5側を遮断し、ピストンが移動することによって吸引された各液は各ポンプシリンダの吐出口より切替弁6a、6b、6cに供給される。
【0025】
このときの各ポンプシリンダは共通の駆動源により同時に移動して同じ量が吐出されることになるが、各吐出通路8に設けられた切替弁6は、最初に主剤の切替弁6aが混合器1への通路を開として供給されていて、他の通路の切替弁6b、6cは戻流通路7b、7c側に開としている。したがって主剤のみが混合器1に供給され、必要量供給されたところで切替弁6aが働き、主剤は戻流通路7aを経て液容器4aに戻される。同時に硬化剤の吐出通路8bに設けられた切替弁6bが混合器1側に開となり、今度は硬化剤のみが混合器1に供給される。そして硬化剤の供給量が所定の量になったところで再び切替弁6bが作動し、戻流通路7bより液容器4bに戻され、同様に次の溶剤が所要量混合器1に供給されてポンプシリンダの1吐出工程が完了して再び各補助ポンプによる吸引工程に移ることになる。このような各液の供給をシーケンスで示すと図2のようになる。
【0026】
すなわちシリンダポンプの吐出工程において、各液のポンプシリンダから混合器に供給される液量は混合比に応じて必要な量だけ混合器1に供給し、それ以外の吐出液は液容器4側に戻すようにしている。これらのタイミングは混合比に応じてピストンの移動量を設定し、パルス信号によるサーボモータの移動と連動した制御装置からの切替信号によって制御される。このため混合比が変動してもそれぞれの切替弁6のタイミングを変更するだけであらゆる混合比に対応できることになる。
【0027】
図1では各液の混合にのみ使用するポンプシリンダで構成しているため、各液の切替弁作動を1回のシリンダ吐出工程の中で配分して順次吐出するようにしているが、その順番は任意であり、また必ずしも順に切り替える必要も無く同時に混合器への供給をした後それぞれの供給量に達した時点で液容器側に戻すようにプログラムすることでも良い。

【0028】
図4に示す構成は、図1の構成に加え、スプレーガンへの多液塗料供給用ポンプシリンダ20を追加し定量供給を可能とした実施例を示す。したがってポンプシリンダは4つ設けられ同時に駆動される構成となっている。この混合液用ポンプシリンダ20の吐出側には切替バルブ60が設けられるが、その切替は、一方がスプレーガン10に、他方が混合器1側に戻るように戻流通路70に接続され、吸引側は混合器1で混合された多液塗料を送り出す供給ポンプ50に接続されている。
【0029】
したがって多液塗料供給用ポンプシリンダの吐出工程において定量供給による噴霧塗装が可能となる。但しこの場合シリンダポンプ側の吸引工程が交互に入るため、塗装のサイクルタイムによって吐出工程との関連を図り、シーケンスを組む必要がある。シリンダポンプの吸引工程は噴霧塗装における待機時間の間に行われる必要がある。さらに混合器へ貯留される塗料は必要に応じてその液量を検知し、必要以上の流入を避ける必要がある。このような液面検出は種々の装置が提案されているが特に限定されるものではなく、条件の中で適用できる装置を選択すればよい。
【0030】
ここでスプレーガン10に供給する混合液用ポンプシリンダ20は、必ずしも同一の駆動源により同時作動させる必要は無く、スプレーガンの作動に合わせ駆動制御される構成でも良い。特に塗装の品質を問われる場合、スプレーガンの噴霧と同期をとりながら正確な噴霧を行なうための作動制御が必要となったり、混合器から複数のスプレーガンに塗料を供給する場合等、いろいろな塗装条件によって選択することも必要となる。
【0031】
本発明の場合、それぞれのポンプシリンダより予め設定された定量の液を混合器に供給して、混合器内で撹拌して使用するため、混合後に硬化反応が生じる前に使用し、順次混合を繰り返しながら使用する必要がある。したがっていわゆるポットライフが比較的長い時間が得られる塗料に適しているといえる。

【符号の説明】
【0032】
1 混合器
2 シリンダポンプ
2a、2b、2c ポンプシリンダ
3、3a、3b、3c 制御弁
4、4a、4b、4c 液容器
5、5a、5b、5c 補助ポンプ
6、6a、6b、6c 切替弁
7、7a、7b、7c 戻流通路
8、8a、8b、8c 吐出通路
11 サーボモータ
12 ボールねじ
13 移動体
14 制御装置
15 撹拌機
24 入口通路
25 シリンダ
26 ピストン
28 吐出口






















【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータで駆動されパルス数に応じて定量吐出するシリンダポンプのシリンダを複数連接して同時に駆動し、それぞれのシリンダ内に供給液容器から供給した液を吐出工程において吐出させ、各吐出通路はそれぞれの切替弁を介して混合器に連通させるとともに前記切替弁の他方の通路を前記各シリンダの供給液容器に戻流するよう構成し、その吐出工程において各液の必要とする吐出量に応じたパルス数の間は混合器側に吐出させ、それ以外の間は供給液容器に戻流するよう切替弁を制御し、各液を混合器に供給した後、撹拌手段によって混合撹拌する多液塗料混合方法。
【請求項2】
シリンダポンプと該シリンダポンプへの供給手段とシリンダポンプからの吐出液を受容し、混合手段を備えた混合器からなる多液塗料混合装置において、シリンダポンプは、シリンダ内に供給された液体をパルス信号で所要量が駆動されるサーボモータによりピストンを作動して定量吐出するポンプシリンダを多数配置し、それぞれ同じサーボモータにより同時に駆動される構成とし、前記多数のポンプシリンダの吐出口にはそれぞれ切替弁を接続し、該切替弁の一方の出口を前記混合器と接続し、他方の出口を各ポンプシリンダへ各液を供給する供給手段の液容器と接続、前記切替弁により、それぞれのポンプシリンダから吐出される各液を混合器へ供給する時間と液容器に戻流する時間を予め設定したプログラムに基づいて制御する制御装置を設けてなる多液塗料混合装置。
【請求項3】
シリンダポンプの各ポンプシリンダには、それぞれ供給手段からの各液を流入させるときポンプシリンダと連通し、吐出作動時には遮断して供給手段からの吐出液を液容器に戻す制御弁を備えている請求項2の多液塗料混合装置。
【請求項4】
混合器は各液を受容する液容器と機械式撹拌機からなる請求項2の多液塗料混合装置。

























【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−20107(P2011−20107A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169776(P2009−169776)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【Fターム(参考)】