説明

多焦点レンズおよび撮像システム

【課題】 撮影対象となる被写体までの距離が異なっても、ピントのぼけ方の状態が略同じになり、被写体までの距離にかかわらず画像改質処理を同じデータを使った処理で実現することができる多焦点レンズおよび撮像システムを提供すること。
【解決手段】 複数の焦点距離を持つ多焦点レンズ(例えば2つの焦点距離を持つ多焦点レンズ521)を構成するにあたり、第1の焦点距離を持つ複数の第1のレンズ部から、第N(Nは2以上の整数)の焦点距離を持つ複数の第Nのレンズ部までのそれぞれ焦点距離の異なる各レンズ部を一体化した。この際、例えば円形状や楕円形状の第1のレンズ部を中心として第1〜第Nのレンズ部を同心状に複数回繰り返して配置した。なお、各レンズ部は、回折レンズにより形成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の焦点距離を持つ多焦点レンズおよび撮像システムに係り、例えば、所望の静止画像や動画像を撮影することができるとともに、デジタルコード等の近接静止画像を読み取り、そのデジタルコードの認識処理および認識したデジタルコードの情報に基づく各種処理を行うことができる情報端末装置等に装着する光学レンズおよび撮像システムとして利用できる。
【背景技術】
【0002】
一般に、電荷結合素子(CCD:Charge Coupled Device)等の画像入力機能を持った情報端末装置においては、例えば、使用者自身の映像や風景の映像等の所望の映像を撮影する機能を有するとともに、バーコードや虹彩や文字等の近接静止画像を読み取る機能を有することが、極めて有用であることが多い。例えば、バーコードであれば、メールアドレス、ホームページアドレス、電話番号、FAX番号、会社名、所属、役職名等の多くの情報を表すことができるので、これらのバーコードを上記の所望の映像や画像と組み合わせて使用することにより、極めて有用なコミュニケーションを実現することができる。
【0003】
従来より、上記のようなバーコードの読み取りは、専用の読取り用スキャナを用いて行われていた。また、パーソナル・コンピュータ等の画像入力機器を用いてバーコードを読み取るようにした例もあるが、この場合は、例えば、被写界深度の近点(例えば0.3m程度)から無限遠までの標準的な距離にある使用者や風景等の通常の被写体の撮影に用いる標準撮影用レンズを用いて、近接被写体であるバーコードの読み取りも行っていた。
【0004】
しかし、上記のような専用の読取り用スキャナを用いてバーコードを読み取る方法については、操作が複雑で、手間がかかり面倒であるため、実用上、不便であった。また、使用者や風景等の通常の被写体の撮影を行うための標準撮影用レンズを用いてバーコードの読み取りを行うと、解像度が不十分であるため、特に、2次元バーコード等の複雑な情報を読み取って認識することは困難であった。
【0005】
このような問題に対処するために、本願発明者は、被写界深度の近点から無限遠までの標準的な距離にある通常の被写体を撮影するための標準撮影用レンズと、標準的な距離にある通常の被写体よりも近い距離に配置された近接被写体を撮影するための近接撮影用レンズとを備え、これらの両レンズを取り付けた円盤を回転させるか、あるいはこれらのレンズをスライドさせることにより、これらの互いに異なる焦点距離を持つレンズを切り替えて用いるようにした携帯型情報端末装置を提案した(特許文献1参照)。この携帯型情報端末装置では、使用者や風景等の通常の被写体を撮影する際には、標準撮影用レンズを用いて結像させ、バーコード等の近接被写体を撮影する際には、近接撮影用レンズを用いて結像させることができるので、上述したような従来技術による問題点が解消され、使用者自身や風景等の通常の被写体の撮影のみならず、バーコード等の近接被写体の撮影も、容易かつ高い精度で行うことが可能となった。
【0006】
一方、従来より、焦点距離の異なる二つのレンズ部を備えた二焦点レンズが遠近両用コンタクトレンズとして用いられている。このような二焦点レンズにより構成されるコンタクトレンズを人間が装着した場合には、二つのレンズ部により形成されるピントの合った画像と、ピントの合わない画像(いわゆるピンぼけ画像)とを、人間が無意識のうちに選択し、ピントの合った画像のみを見るようにしていると考えられる。
【0007】
ところで、このような二焦点レンズを、例えば携帯電話機や携帯情報端末(PDA)等の情報端末装置に設ければ、被写界深度の近点(例えば0.3m程度)から無限遠までの標準的な距離にある通常の被写体(例えば、人物や風景等)を、長い焦点距離を有する長焦点レンズ部(本願明細書では、遠レンズ部ということもある。)により撮影し、一方、それよりも近い距離に配置された近接被写体(例えば、2次元バーコードや虹彩や文字等)を、短い焦点距離を有する短焦点レンズ部(本願明細書では、近レンズ部ということもある。)により撮像することにより、それぞれ高い解像度の画像を得ることができる。そして、このような二焦点レンズを備えた情報端末装置は、本願発明者により既に提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
しかし、このような長焦点レンズ部および短焦点レンズ部からなる二焦点レンズを備えた情報端末装置では、例えば液晶シャッタ等の光学シャッタを二焦点レンズと撮像素子との間に設けることにより長焦点レンズ部と短焦点レンズ部とを切替可能な構成とした場合等には、コントラストの高い画像を得ることができるものの、そのようなレンズ部の切替を行わない場合には、二つの各レンズ部により形成されるピントの合った画像とピントの合わない画像とが重なってしまうため、鮮明な画像を得ることが困難であるという問題がある。
【0009】
この際、前述したように二焦点レンズを使用した遠近両用コンタクトレンズを人間が装着した場合には、ピントの合った画像とピントの合わない画像とを人間が無意識のうちに選択し、ピントの合った画像のみを見るようにしていると考えられるが、このような人間の脳内における画像の選択処理と類似の処理を、通常の携帯電話機や携帯情報端末等の携帯型の情報端末装置に搭載されている程度の性能を有する中央演算処理装置(CPU)により短時間で実行できれば、情報端末装置の使い勝手や性能の向上を図ることができ、しかも低コストで実現できるので便利である。
【0010】
そこで、本願発明者により、二焦点レンズで撮像された画像の質を短時間の処理で改善することができ、ピント合わせ機構を用いることなく、標準的な距離にある通常の被写体およびこれよりも近距離にある近接被写体のいずれもについても鮮明な画像を得ることができる画像改質処理装置が提案されている(特許文献3参照)。この画像改質処理装置では、畳み込み演算行列を用いることにより、二焦点レンズを構成する一方のレンズ部により形成されるピントの合った画像と、他方のレンズ部により形成されるピントのぼけた画像とが重なった画像から、ピントの合った画像を求めることができる。
【0011】
また、本願発明者は、二焦点レンズによる撮影を行った場合に、撮像素子の全ての画素で完全に同じ形状のぼけが発生するのではなく、各画素で異なる形状のぼけが発生することを考慮し、より画像改質効果を高めた画像改質処理装置も提案している(特許文献4参照)。
【0012】
【特許文献1】特開2002−27047号公報(図1、要約)
【特許文献2】特開2002−123825号公報(図1、図3、図9、要約)
【特許文献3】特開2003−309723号公報(図1、図2、図4、図7、要約)
【特許文献4】特開2005−63323号公報(図1、図2、図5〜図9、要約)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、前述した特許文献3に記載された画像改質処理装置において、画像素子の出力信号と、畳み込み演算行列とを用いて、被写体についてのピントの合った画像を求める際には、撮影する被写体が、標準的な距離にある通常の被写体であるか、あるいは通常の被写体よりも近距離にある近接被写体であるかによって、畳み込み演算行列の各要素の値は一般的に異なる。すなわち、通常の被写体を撮影する場合と、近接被写体を撮影する場合とでは、ピントの合った画像を形成するレンズ部と、ピントのぼけた画像を形成するレンズ部とが逆転するので、これに伴って、ピントのぼけ方の状態が異なってくる。図18は、この様子を説明するために示した図である。
【0014】
図18において、二焦点レンズ900は、被写界深度の近点(例えば0.3m程度)から無限遠までの標準的な距離(本願明細書では、遠距離ということもある。)にある通常の被写体を撮影するための遠レンズ部901と、標準的な距離よりも近い距離にある近接被写体を撮影するための近レンズ部902とにより構成されている。ここでは、遠レンズ部901の平面形状(正面形状)は、円形とし、近レンズ部902の平面形状(正面形状)は、円環状とする。また、二焦点レンズ900を通過した被写体からの光は、撮像素子903に投影されるようになっている。
【0015】
図18(a)には、標準的な距離にある通常の被写体を撮影する場合についてのピントのぼけ方の状態を説明するために、二焦点レンズ900の光軸904上において、通常の被写体上に点光源905(1点のみに輝点のある通常の被写体)を配置したときに、撮像素子903上に結像される像の様子が示されている。この場合、撮像素子903上には、正面から見ると、図18(a)に示すような投射像906が得られる。すなわち、標準的な距離にある通常の被写体上に点光源905を配置した場合には、遠レンズ部901により、ピントの合った点状の像907が形成されるとともに、近レンズ部902により、点状の像907の位置を中心として、その外周側に有限幅を持った環状の像908、すなわちピントのぼけた像が形成される。この際、ピントのぼけた像908の形状は、近レンズ部902の平面形状に従って、ここでは円環状となる。そして、これらのピントの合った点状の像907と、ピントのぼけた環状の像908とにより、投射像906が形成されている。
【0016】
図18(b)には、標準的な距離よりも近い距離にある近接被写体を撮影する場合についてのピントのぼけ方の状態を説明するために、二焦点レンズ900の光軸904上において、近接被写体上に点光源909(1点のみに輝点のある近接被写体)を配置したときに、撮像素子903上に結像される像の様子が示されている。この場合、撮像素子903上には、正面から見ると、図18(b)に示すような投射像910が得られる。すなわち、近接被写体上に点光源909を配置した場合には、近レンズ部902により、ピントの合った点状の像911が形成されるとともに、遠レンズ部901により、点状の像911の位置を中心とする円形の像912、すなわちピントのぼけた像が形成される。この際、ピントのぼけた像912の形状は、遠レンズ部901の平面形状に従って、円形となっている。そして、これらのピントの合った点状の像911と、ピントのぼけた円形の像912とが重なった状態で、投射像910が形成されている。
【0017】
このため、標準的な距離にある通常の被写体を撮影する標準撮影状態(図18(a)の撮影状態)から、近接被写体を撮影する近接撮影状態(図18(b)の撮影状態)に移行するとき、あるいはその逆方向に移行するときには、どちらの撮影状態なのかを自動的に識別するか、または例えばボタンを押したり、スイッチを切り替える等の手動操作を行うことにより、撮影状態を切り替えなければならない。
【0018】
しかし、上記のように切り替えを自動的に行う場合には、切替回路が必要となるため、装置の複雑化や製造コストの増加を招来し、一方、使用者にボタンやスイッチ等を手動で操作させることは、使用者に負担をかけることになるため、望ましくない。
【0019】
従って、撮影対象となる被写体までの距離が異なっても、ピントのぼけ方の状態が略同じになり、ぼけを取り除くための画像改質処理を、被写体までの距離によらずに同じデータ(例えば、同じ値の行列要素、同じ値の係数、同じ特性、同じ関数等)を使った処理で実現可能となるような多焦点レンズを作ることができれば、切替回路を不要にすることができ、また、使用者の負担を軽減することができる。
【0020】
本発明の目的は、撮影対象となる被写体までの距離が異なっても、ピントのぼけ方の状態が略同じになり、被写体までの距離にかかわらず画像改質処理を同じデータを使った処理で実現することができる多焦点レンズおよび撮像システムを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、複数の焦点距離を持つ多焦点レンズであって、Nを2以上の整数とすると、第1の焦点距離を持つ複数の第1のレンズ部から、第Nの焦点距離を持つ複数の第Nのレンズ部までのそれぞれ焦点距離の異なる各レンズ部が、一体化されて構成され、第1のレンズ部を中心として第1〜第Nのレンズ部が同心状に複数回繰り返して配置され、中心に配置される第1のレンズ部の平面形状は、円形状、楕円形状、多角形状、またはその他の閉環状線により囲まれて形成される形状とされ、中心以外の位置に配置される第1のレンズ部の平面形状および第1のレンズ部以外のレンズ部の平面形状は、環状とされていることを特徴とするものである。
【0022】
ここで、「第1〜第Nのレンズ部が同心状に複数回繰り返して配置され」とあるが、必ずしも最も外周側にくるレンズ部が第Nのレンズ部になる必要はなく、例えば、第1〜第3のレンズ部の繰り返しの場合であれば、中心から順に、第1,第2,第3,…,第1,第2,第3,第1,第2,第3という具合に、第3のレンズ部が最も外周側にくる場合に限らず、第1,第2,第3,…,第1,第2,第3,第1,第2という具合に、第2のレンズ部が最も外周側にきてもよく、第1,第2,第3,…,第1,第2,第3,第1という具合に、第1のレンズ部が最も外周側にきてもよい。また、第1および第2のレンズ部を交互に配置する場合も同様であり、最も外周側には、必ずしも第2のレンズ部がくる必要はなく、第1のレンズ部が最も外周側にきてもよい。
【0023】
また、「その他の閉環状線により囲まれて形成される形状」とは、例えば、円の一部と楕円の一部とを組み合わせた閉環状線、円の一部と直線とを組み合わせた閉環状線、楕円の一部と直線とを組み合わせた閉環状線、円の一部と楕円の一部と直線とを組み合わせた閉環状線等により囲まれて形成される形状である。
【0024】
このような本発明においては、被写体を撮影すると、第1〜第Nのレンズ部のうちの1つのレンズ部により、ピントの合った画像が形成され、他のレンズ部により、ピントのぼけた画像が形成される。この際、多焦点レンズから被写体までの距離に応じ、ピントの合った画像を形成するレンズ部が変わり、これに伴って、ピントのぼけた画像を形成するレンズ部も変わる。
【0025】
従って、多焦点レンズから被写体までの距離に応じ、ピントのぼけた画像を形成するレンズ部が変わるので、ピントのぼけ方の状態は、厳密に言えば、被写体までの距離に応じて変化することになるが、本発明では、第1〜第Nのレンズ部が同心状に複数回繰り返して配置されるので、被写体までの距離にかかわらず、ピントのぼけ方の状態が略同じになる。つまり、従来は、前述した図18(a)の投射像906と、図18(b)の投射像910との相違の如く、被写体までの距離が異なれば、ピントのぼけ方の状態が異なっていたが、本発明では、同じ焦点距離を持つレンズ部が平面的に分散配置される状態となるので、ぼけを平面全体に薄く拡げるような感じで分散させ、ぼけの程度を均一化または滑らかに変化させるようにすることが可能となり、結果的に、被写体までの距離にかかわらず、ピントのぼけ方の状態が略同じとみなせるようになる(後述する図7参照)。
【0026】
このため、撮影対象となる被写体までの距離が変わっても、ぼけを取り除くための画像改質処理を同じデータ(例えば、同じ値の行列要素、同じ値の係数、同じ特性、同じ関数等)を使った処理で実現することが可能となるので、撮影状態を自動的に識別するための切替回路の設置を省略することが可能となり、また、手動操作による切替えも行う必要がなくなることから、使用者の負担を軽減することが可能となり、これらにより前記目的が達成される。
【0027】
また、前述した多焦点レンズにおいて、第1〜第Nのレンズ部の各々は、回折レンズを配置して形成されるか、または回折レンズの配置されない平坦面部分により形成されていることが望ましい。
【0028】
ここで、「回折レンズを配置して形成されるか、または回折レンズの配置されない平坦面部分により形成されている」という意味は、第1〜第Nのレンズ部のうちの少なくとも1つのレンズ部は、回折レンズを配置して形成され、回折レンズの配置されないレンズ部を形成する場合には、そのレンズ部は、平坦面部分により形成するという意味である。従って、第1〜第Nのレンズ部の全てが回折レンズを配置して形成されていてもよく、この場合には、回折レンズの配置されない平坦面部分により形成されるレンズ部はない。なお、第1〜第Nのレンズ部の全てを回折レンズの配置されない平坦面部分により形成する場合は含まない。
【0029】
このように第1〜第Nのレンズ部の各々を回折レンズまたは平坦面部分とした場合には、あたかもフレネルレンズのような断面形状またはこれに近い断面形状になるので、多焦点レンズを全体的に薄くすることができ、軽量化を図ることが可能となるうえ、設計の自由度を向上させることが可能となり、さらに製造の容易化、製造コストの低減が図られる。
【0030】
そして、第1〜第Nのレンズ部の各々を回折レンズまたは平坦面部分とする構成の多焦点レンズとしては、より具体的には、以下のような構成のものを採用することができる。
【0031】
すなわち、前述した多焦点レンズにおいて、Nは、2とされ、第1のレンズ部を中心として第1のレンズ部と第2のレンズ部とが同心状に交互に配置され、第1または第2のレンズ部のうちのいずれか一方のレンズ部は、回折レンズを配置して形成され、他方のレンズ部は、回折レンズの配置されない平坦面部分により形成されている構成とすることができる。
【0032】
ここで、「回折レンズ」は、凹レンズによる回折レンズでもよく、凸レンズによる回折レンズでもよい。
【0033】
また、上述した回折レンズおよび平坦面部分を用いたN=2の多焦点レンズにおいて、回折レンズの段差部分の厚み方向の最大寸法は、回折レンズの中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分または半波長分ずれる寸法とされていることが望ましい。
【0034】
ここで、「波長」は、色が変われば変化し、空気中を通過する光の波長λは、おおよそ、赤色で、570〜700ナノメータ、緑色で、480〜570ナノメータ、青色で、400〜480ナノメータとなる。従って、一般的には、緑色で計算し、例えば、λ=555ナノメータ(人間の視感度曲線の最大値を示す波長)等とすることができる。また、これに限らず、例えば、監視用の暗視カメラの場合には、赤色(例えば、λ=650ナノメータ等)で計算することができ、その他、カメラの用途に応じて波長を設定すればよい。以下に述べる他の構成の多焦点レンズとする場合も同様である。
【0035】
このように回折レンズの段差部分の厚み方向の最大寸法を1波長分または半波長分ずれる寸法とした場合には、同じ点光源から出て、同じ焦点距離を持つレンズ部を通過した光の波の位相は、2波長分または1波長分ずれて一致するようになり、回折光を利用した像が得られる。すなわち、1波長分ずれる寸法とした場合には、同じ焦点距離を持つレンズ部は、1つ置きに配置されているので、同じ焦点距離を持つレンズ部であって隣り合うもの同士を通過した光の波は、2波長分ずれて位相が一致するようになり、2次回折光を利用した像が得られる。また、半波長分ずれる寸法とした場合には、同じ焦点距離を持つレンズ部であって隣り合うもの同士を通過した光の波は、1波長分ずれて位相が一致するようになり、1次回折光を利用した像が得られる。
【0036】
さらに、前述した多焦点レンズにおいて、Nは、2とされ、第1のレンズ部を中心として第1のレンズ部と第2のレンズ部とが同心状に交互に配置され、第1および第2のレンズ部は、互いに曲率の異なる回折レンズを配置して形成されている構成とすることができる。
【0037】
ここで、「互いに曲率の異なる回折レンズ」は、双方が凹レンズによる回折レンズでもよく、双方が凸レンズによる回折レンズでもよい。なお、曲率が異なるという意味は、双方の回折レンズの対応位置(光軸から等距離にある位置)における曲率が異なるという意味である。従って、双方の回折レンズは、それぞれについて見れば、曲率が一定のレンズであってもよく、曲率が一定でないレンズであってもよい。
【0038】
また、上述した曲率の異なる回折レンズを用いたN=2の多焦点レンズにおいて、第1または第2のレンズ部のうちのいずれか一方のレンズ部を形成する回折レンズの段差部分の厚み方向の最大寸法は、回折レンズの中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分または半波長分ずれる寸法とされていることが望ましい。このようにした場合には、回折レンズおよび平面を用いたN=2の多焦点レンズの場合と同様に、同じ点光源から出て、同じ焦点距離を持つレンズ部を通過した光の波の位相は、2波長分または1波長分ずれて一致するようになり、回折光を利用した像が得られる。
【0039】
そして、前述した多焦点レンズにおいて、Nは、2とされ、第1のレンズ部を中心として第1のレンズ部と第2のレンズ部とが同心状に交互に配置され、第1および第2のレンズ部のうちのいずれか一方のレンズ部は、凹レンズによる回折レンズを配置して形成され、他方のレンズ部は、凸レンズによる回折レンズを配置して形成されている構成とすることができる。
【0040】
また、上述した凹レンズによる回折レンズおよび凸レンズによる回折レンズを用いたN=2の多焦点レンズにおいて、第1または第2のレンズ部のうちの少なくとも一方のレンズ部を形成する回折レンズの段差部分の厚み方向の最大寸法は、回折レンズの中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分または半波長分ずれる寸法とされていることが望ましい。このようにした場合には、回折レンズおよび平面を用いたN=2の多焦点レンズの場合と同様に、同じ点光源から出て、同じ焦点距離を持つレンズ部を通過した光の波の位相は、2波長分または1波長分ずれて一致するようになり、回折光を利用した像が得られる。
【0041】
さらに、前述した多焦点レンズにおいて、Nは、3とされ、第1のレンズ部を中心として第1〜第3のレンズ部が同心状に複数回繰り返して配置され、第1〜第3のレンズ部のうちのいずれか1つのレンズ部は、凹レンズによる回折レンズを配置して形成され、他の1つのレンズ部は、凸レンズによる回折レンズを配置して形成され、残りの1つのレンズ部は、回折レンズの配置されない平坦面部分により形成されている構成とすることができる。
【0042】
また、上述した凹レンズによる回折レンズ、凸レンズによる回折レンズ、および平坦面部分を用いたN=3の多焦点レンズにおいて、第1〜第3のレンズ部のうちの少なくとも1つのレンズ部を形成する回折レンズの段差部分の厚み方向の最大寸法は、回折レンズの中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分、3分の1波長分、または3分の2波長分ずれる寸法とされていることが望ましい。
【0043】
このように回折レンズの段差部分の厚み方向の最大寸法を1波長分、3分の1波長分、または3分の2波長分ずれる寸法とした場合には、同じ点光源から出て、同じ焦点距離を持つレンズ部を通過した光の波の位相は、3波長分、1波長分、または2波長分ずれて一致するようになり、回折光を利用した像が得られる。すなわち、1波長分ずれる寸法とした場合には、同じ焦点距離を持つレンズ部は、2つ間隔を空けて3つに1つの割合で配置されているので、同じ焦点距離を持つレンズ部であって隣り合うもの同士を通過した光の波は、3波長分ずれて位相が一致するようになり、3次回折光を利用した像が得られる。また、3分の1波長分ずれる寸法とした場合には、同じ焦点距離を持つレンズ部であって隣り合うもの同士を通過した光の波は、1波長分ずれて位相が一致するようになり、1次回折光を利用した像が得られる。さらに、3分の2波長分ずれる寸法とした場合には、同じ焦点距離を持つレンズ部であって隣り合うもの同士を通過した光の波は、2波長分ずれて位相が一致するようになり、2次回折光を利用した像が得られる。
【0044】
さらに、前述した凹レンズによる回折レンズおよび凸レンズによる回折レンズを用いたN=2の多焦点レンズ、または前述した凹レンズによる回折レンズ、凸レンズによる回折レンズ、および平坦面部分を用いたN=3の多焦点レンズにおいて、凹レンズと凸レンズとは、同一または略同一の曲率とされていることが望ましい。
【0045】
ここで、「同一または略同一の曲率」とは、絶対値でみた場合の曲率が同一または略同一という意味である。なお、曲率が同一または略同一という意味は、双方の回折レンズの対応位置(光軸から等距離にある位置)における曲率が同一または略同一という意味である。従って、双方の回折レンズは、それぞれについて見れば、曲率が一定のレンズであってもよく、曲率が一定でないレンズであってもよい。
【0046】
このように凹レンズと凸レンズとの曲率を同一または略同一とした場合には、凹レンズによる回折レンズの段差部分の厚み方向の最大寸法と、凸レンズによる回折レンズの段差部分の厚み方向の最大寸法とが一致または略一致するので、レンズ面の不要な面、すなわち像の形成に寄与しない面を無くすことが可能となる。
【0047】
また、以上に述べた本発明の多焦点レンズを用いて、以下のような本発明の撮像システムを構成することができる。
【0048】
すなわち、本発明は、被写体を撮像する撮像機構と、この撮像機構により撮像された画像の質を改善する画像改質処理装置とを備えた撮像システムにおいて、撮像機構が、被写体を撮像する本発明の多焦点レンズと、この多焦点レンズにより形成された画像を電気的信号に変換して出力する撮像素子とを含んで構成され、画像改質処理装置が、被写体の1点から出た光が本発明の多焦点レンズの作用により撮像素子上で拡がる状態を示すポイント・スプレッド・ファンクション行列を用いて算出された畳み込み演算行列の各要素の値と、被写体を本発明の多焦点レンズにより撮像して得られた画像についての撮像素子の出力信号を示す行列の各要素の値とを用いて、畳み込み演算処理を行うことにより、被写体の発する光の明るさを示す行列の各要素の値を算出する構成とされていることを特徴とするものである。
【0049】
ここで、上記のような畳み込み演算行列を用いた再生演算を行う画像改質処理装置としては、例えば、前述した特許文献3,4に記載された画像改質処理装置(但し、二焦点レンズの場合に限らず、三焦点以上のレンズの場合に適用してもよい。)等を採用することができる。
【0050】
より具体的には、前述した特許文献3に記載された画像改質処理装置は、撮像素子の大きさをM画素×J画素とし、被写体の発する光の明るさを示すM行J列の行列をAとし、被写体を多焦点レンズにより撮像して得られた画像についての撮像素子の出力信号を示すM行J列の行列をZとしたとき、下式(1)に基づき算出された畳み込み演算処理を行うための(2M−1)行(2J−1)列の畳み込み演算行列Qの各要素Q(x,y)の値のうち少なくとも非零要素を含む行列部分の値を記憶する畳み込み演算行列記憶手段と、この畳み込み演算行列記憶手段に記憶された各要素Q(x,y)のうちの少なくとも一部の値と撮像素子の出力信号の行列Zの各要素Z(h,k)の値とを用いて下式(2)に基づき被写体の行列Aの各要素A(s,t)の値を算出する再生演算手段とを備えた構成のものである。
【0051】
Q(x,y)=1/c−(W(0,0)−c)/cpower
(x=0,y=0の場合)
=−W(x,y)/cpower
(x=0,y=0以外の場合)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
【0052】
A(s,t)=ΣhΣkQ(s−h,t−k)Z(h,k)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
【0053】
ここで、xおよびyは整数で、(1−M)≦x≦(M−1)、(1−J)≦y≦(J−1)であり、sおよびtは自然数で、1≦s≦M、1≦t≦Jであり、hおよびkは自然数で、1≦h≦M、1≦k≦Jであり、W(x,y)は、(2M−1)行(2J−1)列の行列Wの各要素の値であり、この行列Wは、被写体の1点(m,j)から出た光がレンズの作用により撮像素子上で拡がる状態を示すポイント・スプレッド・ファンクション行列(PSF:point spread function行列)であり、端部を除く座標(m,j)で示される1点のみに輝点のある被写体を多焦点レンズで撮像したときに、各レンズ部により形成される画像についての撮像素子の出力信号を示すM行J列の行列Zmjを、x=h−m、y=k−jを満たす座標(h,k)から座標(x,y)への座標変換で、W(0,0)=Zmj(m,j)となるように平行移動することにより、Zmj(h,k)のうちの非零要素を含む行列部分を行列Wの中央部に配置するとともに、中央部に配置された非零要素を含む行列部分の外側部分を零要素で埋めることにより構成され、cは、比例係数で、多焦点レンズの全体面積に対するピントの合った画像を形成するレンズ部の面積の比の値であり、powerは、cのべき乗数となる実数で、1≦power≦2であり、Σhは、h=1〜Mの和であり、Σkは、k=1〜Jの和である。
【0054】
また、前述した特許文献4に記載された画像改質処理装置は、撮像素子の大きさをM画素×J画素とし、被写体の発する光の明るさを示すM行N列の行列をAとし、被写体を多焦点レンズにより撮像して得られた画像についての撮像素子の出力信号を示すM行J列の行列をZとし、被写体座標系の1点(m,j)から出た光の結像位置が画像座標系の1点(m,j)となるように被写体座標系および画像座標系を設定したとき、各座標(m,j)の全部または一部について、下式(1’)に基づき算出された畳み込み演算処理を行うための座標(m,j)についての(2M−1)行(2J−1)列の畳み込み演算行列Qm,jの各要素Qm,j(x,y)の値のうち少なくとも非零要素を含む行列部分の値を記憶する畳み込み演算行列記憶手段と、この畳み込み演算行列記憶手段に記憶された各要素Qm,j(x,y)のうちの少なくとも一部の値と撮像素子の出力信号の行列Zの各要素Z(m+x,j+y)の値とを用いて下式(2’)に基づき被写体の行列Aの各要素A(m,n)の値を算出する再生演算手段とを備えた構成のものである。
【0055】
m,j(x,y)=1/Wm,j(0,0)
(x=0,y=0の場合)
=−Wm,j(−x,−y)/Wm,j(0,0)power
(x=0,y=0以外の場合)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1’)
【0056】
A(m,j)=ΣxΣym,j(x,y)Z(m+x,j+y)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2’)
【0057】
ここで、xおよびyは整数で、(1−M)≦x≦(M−1)、(1−J)≦y≦(J−1)であり、mおよびjは自然数で、1≦m≦M、1≦j≦Jであり、Wm,j(x,y)は、(2M−1)行(2J−1)列の行列Wm,jの各要素の値であり、この行列Wm,jは、被写体の1点(m,j)から出た光がレンズの作用により撮像素子上で拡がる状態を示すポイント・スプレッド・ファンクション行列であり、Wm,j(0,0)は、拡がりの中心部分に位置する画素の出力信号の値であり、Wm,j(−x,−y)は、周囲のぼけ部分に位置する画素の出力信号の値であり、powerは、Wm,j(0,0)のべき乗数となる実数で、1≦power≦2であり、Σxは、x=(1−M)〜(M−1)の和であり、Σyは、y=(1−J)〜(J−1)の和である。
【0058】
また、畳み込み演算行列記憶手段には、各座標(m,j)についての畳み込み演算行列Qm,jのうち光軸位置から一方向に延びる直線上に並ぶ座標についての畳み込み演算行列Qm,jをサンプリング行列として選択し、このサンプリング行列Qm,jの各要素Qm,j(x,y)の値のみを記憶させておき、その他の座標についての畳み込み演算行列Qm,jの各要素Qm,j(x,y)の値については、畳み込み演算行列回転算出手段を設け、この畳み込み演算行列回転算出手段により、レンズの軸対称を利用して、サンプリング行列Qm,jの各要素Qm,j(x,y)の値の配置を光軸位置を中心として回転させることにより算出するようにしてもよい。
【0059】
そして、以上のような特許文献3,4に記載された画像改質処理装置は、プリズムを用いてR,G,Bに色分解された各色の光をこれらに対応して設けられた3つの画像素子(いわゆる3板)に投射させる構成の撮像機構と組み合わせてもよく、R,G(GbおよびGr),Bの各色用の画素を同色用の画素(但し、Gb用の画素とGr用の画素とは異なるものと考える。)が縦横に一個置きになるように並ベるベイヤー配列の画像素子を備えた構成の撮像機構と組み合わせてもよい。
【0060】
プリズムを用いた撮像機構と組み合わせる場合には、R用の画像素子の出力信号と、G用の画像素子の出力信号と、B用の画像素子の出力信号とについて、同じ畳み込み演算行列を用いた画像改質処理を行うことができる。
【0061】
ベイヤー配列の画像素子を備えた構成の撮像機構と組み合わる場合には、画像素子を構成する各画素のそれぞれについて、R,G,Bの各色全ての信号が出力される構成の撮像機構(同色用の画素は、縦横に一個置きにしか設けられていないので、それらの間の欠落している画素の出力信号については、周囲の同色用の画素の出力信号を用いて補間処理(例えば、ハードウェア回路による1次補間処理等)を行って算出される。)のみならず、実際に設けられている画素の信号のみが出力される構成の撮像機構(同色用の画素は、縦横の各方向について一個置きにしか設けられていないので、全体の4分の1の画素数となる。)と組み合わせてもよい。
【0062】
前者のように、ベイヤー配列の画像素子を備えた構成の撮像機構から、補間処理を行った出力信号を受け取る場合には、プリズムを用いた撮像機構と組み合わせる場合と同様に、Rの信号と、Gの信号と、Bの信号とについて、同じ畳み込み演算行列を用いた画像改質処理を行うことができる。
【0063】
後者のように、ベイヤー配列の画像素子を備えた構成の撮像機構から、補間処理を行っていない出力信号を受け取る場合(従って、同色用の信号数は、4分の1になる。)には、欠落要素のないモノクロのポイント・スプレッド・ファンクション行列WまたはWm,jから、行数および列数がそれぞれ2分の1で要素数が4分の1となるW’またはWm,j’を作成した後、これらのW’またはWm,j’に基づき、式(1)または式(1’)を用いて、行数および列数がそれぞれ2分の1で要素数が4分の1となる畳み込み演算行列Q’またはQm,j’の各要素の値を算出してもよく、あるいは欠落要素のないモノクロのポイント・スプレッド・ファンクション行列WまたはWm,jに基づき、式(1)または式(1’)を用いて、欠落要素のない畳み込み演算行列QまたはQm,jの各要素の値を算出した後、これらの畳み込み演算行列QまたはQm,jから、行数および列数がそれぞれ2分の1で要素数が4分の1となる畳み込み演算行列Q’またはQm,j’を作成してもよい。この際、いずれの手順で求めた畳み込み演算行列Q’またはQm,j’についても、R,G,Bの各色について同じ行列とすることができる。そして、撮像機構から受け取った4分の1の信号数の出力信号と、4分の1の要素数の畳み込み演算行列Q’またはQm,j’とを用いて、式(2)または式(2’)に基づき各色毎に畳み込み演算処理を行った後、R,G,Bを合成すればよい。
【0064】
なお、欠落要素のないモノクロのポイント・スプレッド・ファンクション行列WまたはWm,jから、行数および列数がそれぞれ2分の1で要素数が4分の1となるW’またはWm,j’を作成する際には、周囲の要素の値を集めて加算する処理を行えばよい。例えば、W(u,v)に対応するW’の要素をW’(u’,v’)とすれば、W’(u’,v’)=a×W(u−1,v−1)+b×W(u−1,v)+a×W(u−1,v+1)+b×W(u,v−1)+W(u,v)+b×W(u,v+1)+a×W(u+1,v−1)+b×W(u+1,v)+a×W(u+1,v+1)という式により、W’(u’,v’)を求めることができる。ここで、例えば、a=0.25、b=0.5等とすることができるが、a=b=0としてW’(u’,v’)=W(u,v)としてもよい。また、Wm,jからWm,j’を作成する場合も同様である。さらに、欠落要素のない畳み込み演算行列QまたはQm,jから、行数および列数がそれぞれ2分の1で要素数が4分の1となる畳み込み演算行列Q’またはQm,j’を作成する場合も同様である。
【0065】
また、本発明は、被写体を撮像する撮像機構と、この撮像機構により撮像された画像の質を改善する画像改質処理装置とを備えた撮像システムにおいて、撮像機構が、被写体を撮像する本発明の多焦点レンズと、この多焦点レンズにより形成された画像を電気的信号に変換して出力する撮像素子とを含んで構成され、画像改質処理装置が、撮像素子の出力信号に対し、被写体の1点から出た光が多焦点レンズの作用により撮像素子上で拡がる状態を示すポイント・スプレッド・ファンクションの伝達関数の逆関数を補正関数として荷重加算演算処理を行う構成とされていることを特徴とするものである。
【0066】
ここで、「ポイント・スプレッド・ファンクションの伝達関数の逆関数を補正関数として荷重加算演算処理を行う構成」とは、例えば、空間座標軸で表現される多焦点レンズのポイント・スプレッド・ファンクション(PSF)を、フーリエ変換やz変換により座標変換することにより多焦点レンズのPSFの伝達関数Hを求め、この伝達関数Hの逆関数1/Hに対し、逆フーリエ変換、あるいは逆FFT等を行い、逆関数1/Hのフィルタ係数列、すなわち改質フィルタ係数を求めておき、この改質フィルタ係数を用いて荷重加算演算処理を行う構成である。
【0067】
なお、以上の説明では、ポイント・スプレッド・ファンクション行列をモノクロのポイント・スプレッド・ファンクション行列Wとしたが、レンズの特性として色収差を持つ場合は、撮像素子の各色に対応する色に対してのポイント・スプレッド・ファンクション行列とし、各色毎に行数および列数がそれぞれ2分の1で要素数が4分の1となる畳み込み演算行列Q’またはQm,j’の各要素の値を算出してもよい。また、ポイント・スプレッド・ファンクションの伝達関数Hおよびその逆関数1/Hのフィルタ係数列を求める場合も同様である。
【発明の効果】
【0068】
以上に述べたように本発明によれば、それぞれ異なる焦点距離を持つ第1〜第Nのレンズ部が同心状に複数回繰り返して配置されるので、撮影対象となる被写体までの距離が異なっても、ピントのぼけ方の状態が略同じになり、被写体までの距離にかかわらず画像改質処理を同じデータを使った処理で実現することができるため、撮影状態を自動的に識別するための切替回路の設置を省略することができるうえ、手動操作による切替えも行う必要がなくなることから、使用者の負担を軽減することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0069】
以下に本発明の各実施形態について図面を参照して説明する。
【0070】
[第1実施形態]
図1には、本発明の第1実施形態の多焦点レンズ21を含む撮像システム10の全体構成が示されている。また、図2には、多焦点レンズ21の詳細構成が示されている。さらに、図3は、1点(座標(m,j))のみに輝点のある被写体を多焦点レンズ21で撮像したときに、撮像素子24上に投射像が形成される様子を示す説明図であり、図4は、相対的に遠距離にある被写体(本実施形態では、一例として、被写界深度の近点から無限遠までの標準的な距離にある通常の被写体とする。)を多焦点レンズ21で撮影する場合と、相対的に近距離にある被写体(本実施形態では、一例として、標準的な距離よりも近い距離にある近接被写体とする。)を多焦点レンズ21で撮影する場合とで、ピントのぼけ方の状態が異なることを示す説明図である。撮像システム10は、例えば、携帯電話機(PHSも含む。)や携帯情報端末(PDA)等の携帯型の情報端末装置に設けられた撮像システム、あるいはパーソナル・コンピュータおよびそれに接続されたカメラにより構成される撮像システム等である。
【0071】
図1において、撮像システム10は、被写体を撮像する撮像機構20と、この撮像機構20により撮像された画像の質を改善する画像改質処理装置30と、この画像改質処理装置30により質の改善を行った画像を表示する表示手段40とを備えている。
【0072】
撮像機構20は、被写体を撮像する多焦点レンズ21と、この多焦点レンズ21により形成された画像を取り込む撮像素子24とを含んで構成されている。
【0073】
図2において、本実施形態の多焦点レンズ21は、多焦点光学系(本実施形態では、二焦点光学系)として、平面形状(正面形状)が円形である円形レンズ部22Aを中心とし、その外周側に平面形状(正面形状)が円環状である複数(本実施形態では、3つ)の環状レンズ部23A,22B,23Bをこの順に配置することにより、互いに焦点距離の異なる第1のレンズ部と第2のレンズ部とを交互に同心状に配置して構成されている。すなわち、多焦点レンズ21は、第1の焦点距離を持つ複数の第1のレンズ部としての円形レンズ部22Aおよび環状レンズ部22Bと、第1の焦点距離とは異なる第2の焦点距離を持つ複数の第2のレンズ部としての環状レンズ部23A,23Bとが同一の面に配置されて一体化されることにより構成されている。従って、隣り合うレンズ部同士は、互いに接する状態で配置され、また、円形レンズ部22Aおよび各環状レンズ部23A,22B,23Bは、同心状に配置されているので、これらの各レンズ部22A,23A,22B,23Bの光軸は一致している。
【0074】
そして、第1のレンズ部である円形レンズ部22Aおよび環状レンズ部22Bにより、長い焦点距離で集束する遠レンズ部22が構成され、第2のレンズ部である環状レンズ部23A,23Bにより、短い焦点距離で集束する近レンズ部23が構成されている。例えば、遠レンズ部22は、被写界深度の近点(例えば0.3m程度)から無限遠までの標準的な距離にある通常の被写体(例えば、人物や風景等)を撮影するためのレンズ部であり、近レンズ部23は、標準的な距離よりも近い距離(例えば、10cm未満等)にある近接被写体(例えば、バーコードや虹彩や文字等)を撮影するためのレンズ部である。
【0075】
なお、本第1実施形態では、平面形状が円形である円形レンズ部22Aを中心とし、その外周側に平面形状が円環状である複数の環状レンズ部23A,22B,23Bが同心状に配置された構成を例に挙げて説明しているが、各レンズ部の平面形状は、これらの形状に限定されるものではなく、例えば、楕円形や多角形等のレンズ部を中心に、楕円形や多角形等の各環状レンズ部が同心状に配置される構成を備えた多焦点レンズとしてもよい。
【0076】
図1において、撮像素子24としては、例えば、相補性金属酸化膜半導体(CMOS:Complementary Metal-oxide Semiconductor)や電荷結合素子(CCD:Charge Coupled Device)等を採用することができる。ここで、撮像素子24の大きさは、縦方向M画素×横方向J画素であるものとする(図3参照)。
【0077】
画像改質処理装置30は、撮像素子24の出力信号を引き出して記憶する出力信号記憶手段31と、次の式(1)に基づき予め算出された畳み込み演算行列Qの各要素Q(x,y)の値のうちの少なくとも一部を記憶する畳み込み演算行列記憶手段32と、被写体を再生する演算処理を行う再生演算手段33とを備えている。この画像改質処理装置30は、前述した特許文献3に記載された画像改質処理装置と同様のものであるため、以下では、詳細な説明は省略し、簡単な説明のみを行う。
【0078】
Q(x,y)=1/c−(W(0,0)−c)/cpower
(x=0,y=0の場合)
=−W(x,y)/cpower
(x=0,y=0以外の場合)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
【0079】
ここで、xおよびyは整数で、(1−M)≦x≦(M−1)、(1−J)≦y≦(J−1)であり、sおよびtは自然数で、1≦s≦M、1≦t≦Jであり、hおよびkは自然数で、1≦h≦M、1≦k≦Jである。
【0080】
また、W(x,y)は、(2M−1)行(2J−1)列の行列Wの各要素の値であり、この行列Wは、被写体の1点(m,j)から出た光がレンズの作用により撮像素子24上で拡がる状態を示すポイント・スプレッド・ファンクション行列(PSF:point spread function行列)であり、端部を除く座標(m,j)で示される1点のみに輝点のある被写体を多焦点レンズ21で撮像したときに、遠レンズ部22および近レンズ部23により形成される画像の出力信号を示すM行J列の行列Zmjを、x=h−m、y=k−jを満たす座標(h,k)から座標(x,y)への座標変換で、W(0,0)=Zmj(m,j)となるように平行移動することにより、Zmj(h,k)のうちの非零要素を含む行列部分を行列Wの中央部に配置するとともに、中央部に配置された非零要素を含む行列部分の外側部分を零要素で埋めることにより構成されている。
【0081】
なお、本実施形態では、撮像素子24の全ての画素で同じ形状のぼけが形成されるものと仮定し、ポイント・スプレッド・ファンクション行列Wは、各画素について共通の行列であるものとして説明を行うが、前述した特許文献4に記載された画像改質処理装置のように、各画素で異なる形状のぼけが発生することを考慮し、各座標(m,j)毎に異なる行列Wm,jとしてもよい。このようにした場合には、畳み込み演算行列Qについても、各座標(m,j)毎に異なる行列Qm,jとなるが、各座標(m,j)についての畳み込み演算行列Qm,jは、特許文献4に記載された画像改質処理装置のように、レンズの軸対称性を利用して、光軸位置から一方向に延びる直線上に並ぶ座標についての畳み込み演算行列Qm,jを、光軸位置を中心として回転させることにより算出してもよい。
【0082】
さらに、cは、比例係数で、多焦点レンズ21の全体面積に対するピントの合った画像を形成するレンズ部の面積の比の値である。そして、本発明では、標準撮影状態または近接撮影状態のいずれの場合でも、すなわち遠レンズ部22または近レンズ部23のいずれがピントの合った画像を形成するレンズ部となった場合でも、同じデータを使って画像改質処理を行うことができるようにするという観点から、二焦点レンズである本第1実施形態では、cの値は0.5の近傍とする。なお、後述する第6実施形態のように、三焦点レンズである場合には、cの値は1/3の近傍とする。
【0083】
また、powerは、cのべき乗数となる実数で、1≦power≦2である。なお、powerの値は、cの値に応じて決定すればよい。この際、cの値が、0.5近傍のときには、powerの値を2以外の値とする必要がある。より具体的には、cの値が、0.5近傍のときには、powerの値を1以上2未満とし、より好ましくは1とする。一方、cの値が、0.5近傍以外のときには、1以上2以下とする。
【0084】
さらに、以上の説明では、多焦点レンズ21のうちピントの合った画像を形成するレンズ部は、ぼけの無い画像を形成するという前提で、説明が行われている。従って、ピントの合った画像を形成するレンズ部により形成される画像には、W(0,0)にのみ非零要素があり、その値はcであるという仮定を置いている。
【0085】
しかし、実際には、ピントの合った画像を形成するレンズ部により形成される画像には、収差等によるボケが生じることがあるので、ピントの合った画像を形成するレンズ部により形成される画像は、W(0,0)の周囲に拡がり、W(0,0)の周囲の要素も非零要素となり得る。
【0086】
そこで、ピントの合った画像を形成するレンズ部により形成される画像に、収差等によるボケが生じ、W(0,0)以外の要素も非零要素となる場合には、W(0,0)の値およびW(0,0)の周囲に生じた非零要素の値を合計し、その合計値をcの値としてW(0,0)に入れ直すとともに、W(0,0)の周囲に生じた非零要素の値をゼロにするという修正作業を行い、これらの修正作業を経て作成された各要素W(x,y)の値を用いて、畳み込み演算行列Qの各要素Q(x,y)の値を算出すればよい。
【0087】
一方、ピントのぼけた画像を形成するレンズ部により形成される画像については、遠レンズ部22または近レンズ部23のいずれがピントのぼけた画像を形成するレンズ部となった場合でも、同じデータを使って画像改質処理を行うことができるようにするという観点から、いずれの撮影状態の場合でも各要素W(x,y)の値を同じ値に設定し、畳み込み演算行列Qの各要素Q(x,y)の値を算出すればよい。例えば、同一の焦点距離を持つ複数のレンズ部のうち最も外周側に配置されるレンズ部(本実施形態では、遠レンズ部22を構成する環状レンズ部22Bと、近レンズ部23を構成する環状レンズ部23Bとがある。)により形成されるピントのぼけた画像の外周線が、各焦点距離を持つレンズ部毎に形成されるが(本実施形態では、図4に示すように、環状レンズ部22Bにより形成されるピントのぼけた円環状の像63の外周線63Aと、環状レンズ部23Bにより形成されるピントのぼけた円環状の像53の外周線53Aとが形成される。)、各要素W(x,y)の値を、これらの外周線のうち最も外周側に位置する外周線(本実施形態では、外周線53Aとなる。)で囲まれる範囲で均一化することができる。また、各要素W(x,y)の値を、この範囲で滑らかに変化させるようにしてもよい。
【0088】
畳み込み演算行列記憶手段32は、畳み込み演算行列Qの各要素Q(x,y)の値のうちの少なくとも一部を、x,yの並び順に従って表の如く整列させて記憶するものである。少なくとも一部であるから、全部を記憶しておいてもよいが、計算容量およびメモリ容量を小さくするため、非零要素を含む行列部分のみを記憶しておくことが好ましい。従って、ここでは、非零要素を含む行列部分のみを記憶するものとして説明を行う。
【0089】
再生演算手段33は、畳み込み演算行列記憶手段32に記憶された畳み込み演算行列Qの各要素Q(x,y)の値(上記の非零要素を含む行列部分の各値)と、出力信号記憶手段31に記憶された画像の出力信号を示す行列Zの各要素Z(h,k)の値とを用い、次の式(2)に基づき、被写体の行列Aの各要素A(s,t)の値を算出する処理を行うものである。なお、畳み込み演算行列Qの各要素Q(x,y)のうちの非零要素を含む行列部分以外の部分、すなわち、畳み込み演算行列記憶手段32に記憶されない部分については、零要素であるので、計算は行われない。
【0090】
A(s,t)=ΣhΣkQ(s−h,t−k)Z(h,k)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
【0091】
ここで、Σhは、h=1〜Mの和であり、Σkは、k=1〜Jの和である。
【0092】
そして、出力信号記憶手段31および畳み込み演算行列記憶手段32としては、例えば、ハードディスク、ROM、EEPROM、フラッシュ・メモリ、RAM、MO、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−RAM、FD、磁気テープ、あるいはこれらの組合せ等を採用することができる。
【0093】
また、再生演算手段33は、撮像システム10を構成する各種の情報端末装置(例えば、携帯電話機や携帯情報端末等の携帯型の情報端末装置、あるいはカメラを接続したパーソナル・コンピュータ、監視カメラ装置等)の内部に設けられた中央演算処理装置(CPU)、およびこのCPUの動作手順を規定する1つまたは複数のプログラムにより実現される。
【0094】
表示手段40としては、例えば、液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ、プロジェクタおよびスクリーン、あるいはこれらの組合せ等を採用することができる。
【0095】
このような第1実施形態においては、多焦点レンズ21を用いて撮影を行うと、以下のような光学結像系が構成される。
【0096】
図4には、図2に示した多焦点レンズ21における光学結像系が示されている。図4(a)は、多焦点レンズ21の光軸27上において、長い焦点距離を持つ遠レンズ部22による撮影に適した相対的に遠距離にある被写体、例えば、被写界深度の近点(例えば0.3m程度)から無限遠までの標準的な距離にある通常の被写体(例えば、人物や風景等)に点光源28を配置した場合の光学結像系を示している。
【0097】
図4(a)の場合には、撮像素子24上には、正面から見ると、図4(a)に示すような投射像50が得られる。すなわち、遠レンズ部22による撮影に適した距離にある被写体上に点光源28を配置した場合には、遠レンズ部22を構成する円形レンズ部22Aおよび環状レンズ部22Bによるピントの合った点状の像51を中心に、その外周側に、環状レンズ部23Aによる円環状の像52、さらに円環状の像52の外周側に、環状レンズ部23Bによる円環状の像53のようなピントのぼけた像が投射される。
【0098】
一方、図4(b)は、多焦点レンズ21の光軸27上において、短い焦点距離を持つ近レンズ部23による撮影に適した相対的に近距離にある被写体、例えば、標準的な距離よりも近い距離にある近接被写体(例えば、バーコードや虹彩や文字等)に点光源29を配置した場合の光学結像系を示している。
【0099】
図4(b)の場合には、撮像素子24上には、正面から見ると、図4(b)に示すような投射像60が得られる。すなわち、近レンズ部23による撮影に適した距離にある被写体上に点光源29を配置した場合には、近レンズ部23を構成する環状レンズ部23A,23Bによるピントの合った点状の像61を中心に、その外周側に、円形レンズ部22Aによる円形の像62、さらに円形の像62の外周側に、環状レンズ部22Bによる円環状の像63のようなピントのぼけた像が投射される。
【0100】
そして、本実施形態では、図4(a)の場合および図4(b)の場合を併せて考えると、いずれの場合も同様に、ピントのぼけた像は、環状レンズ部23Bにより形成されるピントのぼけた円環状の像53の外周線53Aの位置まで略一様に拡がると考えることができるので(図4(b)の場合は、外周線63Aの位置までの拡がりであるが、図4(a)の外周線53Aの位置まで拡がっているとみなすことができる。)、この外周線53Aで囲まれる範囲で、PSF行列Wの各要素W(x,y)の値を均一化し、または滑らかに変化するようにし、畳み込み演算行列Qの各要素Q(x,y)の値を算出することができる。
【0101】
このような第1実施形態によれば、次のような効果がある。すなわち、多焦点レンズ21を用いて標準的な距離にある通常の被写体および近接被写体を撮影すると、図4に示したように、ピントのぼけ方の状態は、厳密に言えば、撮影状態に応じて、つまり被写体までの距離に応じて変化することになるが、多焦点レンズ21では、第1および第2のレンズ部が同心状に複数回繰り返して、すなわち交互に配置されているので、被写体までの距離にかかわらず、ピントのぼけ方の状態が略同じになる。
【0102】
従って、撮影対象となる被写体までの距離が変わっても、ぼけを取り除くための画像改質処理を同じデータを使った処理で実現すること、すなわち畳み込み演算行列Qの各要素Q(x,y)の値を同じ設定として画像改質処理を行うことができる。このため、撮影状態を自動的に識別するための切替回路の設置を省略することができ、また、手動操作による切替えも行う必要がなくなることから、使用者の負担を軽減することができる。
【0103】
[第2実施形態]
図5には、本発明の第2実施形態の多焦点レンズ221の詳細構成が示されている。また、図6は、相対的に遠距離にある被写体(本実施形態では、一例として、被写界深度の近点から無限遠までの標準的な距離にある通常の被写体とする。)を多焦点レンズ221で撮影する場合と、相対的に近距離にある被写体(本実施形態では、一例として、標準的な距離よりも近い距離にある近接被写体とする。)を多焦点レンズ221で撮影する場合とで、ピントのぼけ方の状態が異なることを示す説明図である。多焦点レンズ221は、前記第1実施形態の撮像システム10(図1参照)と同様な撮像システムに組み込まれて使用されるレンズであり、撮像システム全体については、多焦点レンズの構成が前記第1実施形態と異なり、その他の構成および機能は前記第1実施形態と同様であるため、同一部分には同一符号を付して詳しい説明は省略し、以下では異なる部分を中心として説明を行う。
【0104】
図5において、多焦点レンズ221は、多焦点光学系(本実施形態では、二焦点光学系)として、平面形状(正面形状)が円形である円形レンズ部222Aを中心とし、その外周側に平面形状(正面形状)が円環状である複数(本実施形態では、7つ)の環状レンズ部223A,222B,223B,222C,223C,222D,223Dをこの順に配置することにより、互いに焦点距離の異なる第1のレンズ部と第2のレンズ部とを交互に同心状に配置して構成されている。すなわち、多焦点レンズ221は、第1の焦点距離を持つ複数の第1のレンズ部としての円形レンズ部222Aおよび環状レンズ部222B,222C,222Dと、第1の焦点距離とは異なる第2の焦点距離を持つ複数の第2のレンズ部としての環状レンズ部223A,223B,223C,223Dとが同一の面に配置されて一体化されることにより構成されている。従って、隣り合うレンズ部同士は、互いに接する状態で配置され、また、円形レンズ部222Aおよび各環状レンズ部223A,222B,223B,222C,223C,222D,223Dは、同心状に配置されているので、これらの各レンズ部222A,223A,222B,223B,222C,223C,222D,223Dの光軸は一致している。
【0105】
そして、第1のレンズ部である円形レンズ部222Aおよび環状レンズ部222B,222C,222Dにより、長い焦点距離で集束する遠レンズ部222が構成され、第2のレンズ部である環状レンズ部223A,223B,223C,223Dにより、短い焦点距離で集束する近レンズ部223が構成されている。例えば、遠レンズ部222は、被写界深度の近点(例えば0.3m程度)から無限遠までの標準的な距離にある通常の被写体(例えば、人物や風景等)を撮影するためのレンズ部であり、近レンズ部223は、標準的な距離よりも近い距離(例えば、10cm未満等)にある近接被写体(例えば、バーコードや虹彩や文字等)を撮影するためのレンズ部である。
【0106】
なお、本第2実施形態では、平面形状が円形である円形レンズ部222Aを中心とし、その外周側に平面形状が円環状である複数の環状レンズ部223A,222B,223B,222C,223C,222D,223Dが同心状に配置された構成を例に挙げて説明しているが、各レンズ部の平面形状は、これらの形状に限定されるものではなく、例えば、楕円形や多角形等のレンズ部を中心に、楕円形や多角形等の各環状レンズ部が同心状に配置される構成を備えた多焦点レンズとしてもよい。
【0107】
このような第2実施形態においては、多焦点レンズ221を用いて撮影を行うと、以下のような光学結像系が構成される。
【0108】
図6には、図5に示した多焦点レンズ221における光学結像系が示されている。図6(a)は、多焦点レンズ221の光軸227上において、長い焦点距離を持つ遠レンズ部222による撮影に適した相対的に遠距離にある被写体、例えば、被写界深度の近点(例えば0.3m程度)から無限遠までの標準的な距離にある通常の被写体(例えば、人物や風景等)に点光源228を配置した場合の光学結像系を示している。
【0109】
図6(a)の場合には、撮像素子24上には、正面から見ると、図6(a)に示すような投射像250が得られる。すなわち、遠レンズ部222による撮影に適した距離にある被写体上に点光源228を配置した場合には、遠レンズ部222を構成する円形レンズ部222Aおよび環状レンズ部222B,222C,222Dによるピントの合った点状の像251を中心に、その外周側に、近レンズ部223を構成する円環状の環状レンズ部223A,223B,223C,223Dによる円環状の像252,253,254,255がこの順に中心から外周方向に向かって並ぶ状態でピントのぼけた像が投射される。
【0110】
一方、図6(b)は、多焦点レンズ221の光軸227上において、短い焦点距離を持つ近レンズ部223による撮影に適した相対的に近距離にある被写体、例えば、標準的な距離よりも近い距離にある近接被写体(例えば、バーコードや虹彩や文字等)に点光源229を配置した場合の光学結像系を示している。
【0111】
図6(b)の場合には、撮像素子24上には、正面から見ると、図6(b)に示すような投射像260が得られる。すなわち、近レンズ部223による撮影に適した距離にある被写体上に点光源229を配置した場合には、近レンズ部223を構成する環状レンズ部223A,223B,223C,223Dによるピントの合った点状の像261を中心に、その外周側に、円形レンズ部222Aによる円形の像262、さらに円形の像262の外周側に、環状レンズ部222B,222C,222Dによる円環状の像263,264,265のようなピントのぼけた像が投射される。
【0112】
そして、本実施形態では、図6(a)の場合および図6(b)の場合を併せて考えると、いずれの場合も同様に、ピントのぼけた像は、環状レンズ部223Dにより形成されるピントのぼけた円環状の像255の外周線255Aの位置まで略一様に拡がると考えることができるので、この外周線255Aで囲まれる範囲(但し、環状レンズ部222Dにより形成されるピントのぼけた円環状の像265の外周線265Aの方が外周側に位置する場合には、外周線265Aで囲まれる範囲とする。)で、PSF行列Wの各要素W(x,y)の値を均一化し、または滑らかに変化するようにし、畳み込み演算行列Qの各要素Q(x,y)の値を算出することができる。
【0113】
ところで、前述した図18で説明した従来例のように、遠レンズ部901および近レンズ部902の2つのみの構成で同心状にレンズ部を配置した場合、近レンズ部902により形成されるピントのぼけた像908は、円環状となり(図18(a)参照)、遠レンズ部901により形成されるピントのぼけた像912は、円形となり(図18(b)参照)、図18(a)と図18(b)とでは、それぞれ形状が全く異ったピンぼけ像が投影される。これに対し、前記第1実施形態では、図2で示したように、円形レンズ部22Aを中心に、近レンズ部23と遠レンズ部22とが交互にそれぞれ同心状に配置される形状とすることにより、近レンズ部23により形成されるピントのぼけた像50は、同心状に配置された複数の円環状となり(図4(a)参照)、遠レンズ部22により形成されるピントのぼけた像60は、同心状に配置された円形および円環状となり(図4(b)参照)、それぞれピントのぼけた像が同心状に複数個投影される。
【0114】
さらに、図2に示した前記第1実施形態の多焦点レンズ21と、図5に示した本第2実施形態の多焦点レンズ221とを比較すると、同心状に交互に配置する遠レンズ部と近レンズ部との個数(繰り返し数)を増すことにより、近レンズ部により形成される円環状の複数のピントのぼけた像と、遠レンズ部により形成される円形および円環状の複数のピントのぼけた像は、いずれも1つの円形状のぼけた像に、より近似していくことがわかる。すなわち、前記第1実施形態の多焦点レンズ21や本第2実施形態の多焦点レンズ221を用いて撮影を行った場合、遠距離にある被写体を撮影した際に焦点距離の短いレンズ部により形成されるピントのぼけた像成分と、近距離にある被写体を撮影した際に焦点距離の長いレンズ部により形成されるピントのぼけた像成分とが同様に類似した形状となり、撮像素子24上には、いずれの撮影状態でも同様の形状となるピントのぼけた像が投射される。
【0115】
すなわち、図2に示した前記第1実施形態の多焦点レンズ21および図5に示した本第2実施形態の多焦点レンズ221については、遠距離の被写体を撮影する場合における複数の第2のレンズ部により構成される近レンズ部23,223によるポイント・スプレッド・ファンクション(PSF)と、近距離の被写体を撮影する場合における複数の第1のレンズ部により構成される遠レンズ部22,222によるPSFとは、近似しており、環状のレンズ部の個数を増やすことで、これらのPSFは、より近似するようになる。従って、このように多焦点レンズを構成する各レンズ部によるPSFが近似する場合には、代表的なPSF行列Wを1つ定め、その代表的なPSF行列Wを用いて、畳み込み演算行列Qを求め、再生演算手段33(図1参照)による処理を行うことができる。
【0116】
図7は、前述した図18に示した従来の多焦点レンズ900と、前述した図2に示した前記第1実施形態の多焦点レンズ21と、図5に示した本第2実施形態の多焦点レンズ221とで、ぼけの状態(光量分布)を比較し、環状のレンズ部の個数を増やすことで、ぼけが均一化されていく様子(あるいは、ぼけを示す光量分布の凹凸が小さくなり、なだらかな分布になっていく様子と考えてもよい。)を概念的に示している。縦軸は光量を示す。
【0117】
従来の多焦点レンズ900の場合の光量分布は、中心位置において、ピントの合った点状の像907,911の光量が突出し、その周囲において、近レンズ部902によるピントのぼけた円環状の像908の光量、または遠レンズ部901によるピントのぼけた円形の像912の光量が分布する状態となっている。また、前記第1実施形態の多焦点レンズ21の場合の光量分布は、中心位置において、ピントの合った点状の像51,61の光量が突出し、その周囲において、近レンズ部23を構成する環状レンズ部23A,23Bによる円環状の像52,53の光量、または遠レンズ部22を構成する円形レンズ部22Aおよび環状レンズ部22Bによる円形の像62および円環状の像63の光量が分布する状態となっている。さらに、本第2実施形態の多焦点レンズ221の場合の光量分布は、中心位置において、ピントの合った点状の像251,261の光量が突出し、その周囲において、近レンズ部223を構成する環状レンズ部223A,223B,223C,223Dによる円環状の像252,253,254,255の光量、または遠レンズ部222を構成する円形レンズ部222Aおよび環状レンズ部222B,222C,222Dによる円形の像262および円環状の像263,264,265の光量が分布する状態となっている。これにより、従来の多焦点レンズ900の場合に比べ、前記第1実施形態の多焦点レンズ21の場合および本第2実施形態の多焦点レンズ221の場合の光量分布は、ピントのぼけた像の光量が均一化され(あるいは、平面上における光量の変化が滑らかになり)、値が小さくなっていることがわかり、さらに環状のレンズ部の個数を増やすことで、より均一化が図られることがわかる。
【0118】
このような第2実施形態によれば、次のような効果がある。すなわち、多焦点レンズ221を用いて標準的な距離にある通常の被写体および近接被写体を撮影すると、図6に示したように、ピントのぼけ方の状態は、厳密に言えば、撮影状態に応じて、つまり被写体までの距離に応じて変化することになるが、多焦点レンズ221では、第1および第2のレンズ部が同心状に複数回繰り返して、すなわち交互に配置されているので、被写体までの距離にかかわらず、ピントのぼけ方の状態が略同じになる。
【0119】
従って、撮影対象となる被写体までの距離が変わっても、ぼけを取り除くための画像改質処理を同じデータを使った処理で実現すること、すなわち畳み込み演算行列Qの各要素Q(x,y)の値を同じ設定として画像改質処理を行うことができる。このため、撮影状態を自動的に識別するための切替回路の設置を省略することができ、また、手動操作による切替えも行う必要がなくなることから、使用者の負担を軽減することができる。
【0120】
[第3実施形態]
図8には、本発明の第3実施形態の多焦点レンズ321の詳細構成が示されている。また、図9は、多焦点レンズ321による撮影状態の説明図であり、図10は、多焦点レンズ321により光が屈折する状態の説明図である。多焦点レンズ321は、前記第1実施形態の撮像システム10(図1参照)と同様な撮像システムに組み込まれて使用されるレンズであり、撮像システム全体については、多焦点レンズの構成が前記第1実施形態と異なり、その他の構成および機能は前記第1実施形態と同様であるため、同一部分には同一符号を付して詳しい説明は省略し、以下では異なる部分を中心として説明を行う。
【0121】
図8および図9において、多焦点レンズ321は、二焦点レンズであり、相対的に遠距離にある被写体(本実施形態では、一例として、被写界深度の近点から無限遠までの標準的な距離にある通常の被写体とする。)を撮影するための長い焦点距離を持つ遠レンズ部322と、相対的に近距離にある被写体(本実施形態では、一例として、標準的な距離よりも近い距離にある近接被写体とする。)を撮影するための短い焦点距離を持つ近レンズ部323とを備えている。
【0122】
多焦点レンズ321は、図9に示すように、被写体側に設けられた主レンズ324と、撮像素子24側に設けられた補助レンズ328とを組み合わせて構成されている。このうち、主レンズ324は、図8に示すように、あたかもフレネルレンズのような断面形状を有し、平板状の基盤325と、この基盤325の表面側(被写体側)に設けられた複数の近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dとが一体化されて構成されている。また、補助レンズ328は、凸レンズであり、主レンズ324と一定距離を置いて配置されている。なお、補助レンズ328は、主レンズ324よりも被写体側の位置に配置してもよい。
【0123】
近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dは、図8に示すように、環状(本実施形態では、円環状)の平面形状(正面形状)を有し、同心状に配置されている。これらの近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dは、被写界深度の近点(例えば0.3m程度)から無限遠までの標準的な距離よりも近い距離(例えば、10cm未満等)にある近接被写体(例えば、バーコードや虹彩や文字等)を撮影するためのレンズ部の構成要素として、1つの焦点距離を持つ1つの凸レンズである近接撮影用レンズ326から切り出されて形成されたものである。すなわち、近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dは、図8中の点線で示された近接撮影用レンズ326を、その光軸に直交する面により所定の間隔dで仕切るとともに、近接撮影用レンズ326の表面と所定の間隔dの各面とが交わる位置Pによりリングピッチを決定し、そのピッチで近接撮影用レンズ326を同心状の複数の筒(本実施形態では、円筒)により仕切った後、近接撮影用レンズ326の表面を含む断面略三角形の部分を1つ置きに切り出して形成したものである。なお、近接撮影用レンズ326は、球面レンズでもよく、非球面レンズでもよい。
【0124】
また、主レンズ324を構成する近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dの材質(つまり、近接撮影用レンズ326の材質)は、同じく主レンズ324を構成する基盤325の材質と同じであり、例えば、ガラス等であり、屈折率nは、例えば、n=1.5〜1.8程度である。
【0125】
さらに、基盤325の平面形状(正面形状)は、本実施形態では、円形であり、基盤325の表面(被写体側の面)のうち、近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dが配置されていない部分は、円形の平坦面部分325Aおよび円環状の平坦面部分325B,325C,325D,325Eとなっている。
【0126】
そして、基盤325のうち円形の平坦面部分325Aおよび円環状の平坦面部分325B,325C,325D,325Eにより、複数の第1のレンズ部が形成されている。一方、近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dと、基盤325のうち近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dが配置された部分とにより、複数の第2のレンズ部が形成されている。従って、第1のレンズ部を中心として、第1のレンズ部と第2のレンズ部とが同心状に交互に配置されている。
【0127】
また、図9に示すように、第1のレンズ部としての基盤325の平坦面部分325A,325B,325C,325D,325Eと、補助レンズ328とにより、無限遠方からの光(つまり、標準的な距離にある通常の被写体上の単一輝点からの光)が撮像素子24上で結像するので、これらの組合せにより、遠レンズ部322が構成される(図9中の実線で示された光路参照)。一方、第2のレンズ部としての近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dおよびこれらが配置された基盤325と、補助レンズ328とにより、近レンズ部323が構成される(図9中の点線で示された光路参照)。
【0128】
このような第3実施形態においては、以下のようにして多焦点レンズ321により回折光を利用した撮影が行われる。
【0129】
図10において、例えば、光の波面W1〜W8がこの順で、多焦点レンズ321を構成する主レンズ324の近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dに入射したとすると、光路L1〜L6のように、光は近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dで屈折する。この際、近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dのうち、隣り合って配置される近接撮影用レンズ切出片同士(図10の例では、近接撮影用レンズ切出片326A,326B)に光が入射されると、波面は2つ分ずれて、例えば、近接撮影用レンズ切出片326Aを通過した波面W3と、近接撮影用レンズ切出片326Bを通過した波面W1とが一致するようになる。すなわち、2波長分ずれて位相が一致することにより、2次回折光による結像が実現される。従って、近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dおよびこれらと一体化された基盤325により、回折レンズが形成されている。
【0130】
ここで、回折レンズを形成する近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dの厚み方向の最大寸法(つまり、回折レンズの段差部分の厚み方向の最大寸法)は、前述した近接撮影用レンズ326からの切り出しの際の仕切の間隔dであり、この間隔dは、本第3実施形態では、近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dの中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分ずれる寸法とされている。
【0131】
すなわち、空気中を通過する光の波長をλとし、近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dの材質(例えば、ガラス等)の屈折率をnとすると、近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dの中を通過する光の波長は、λ/nとなり、短くなる。この際、近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dの中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分ずれるために必要な距離をdとし、距離dの近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dの中の波数をmとすれば、距離dの空気中の波数は、m−1とすればよいので、次の式(3)および式(4)が成立する。これらの式(3)および式(4)を解いてmを消去すると、次の式(5)が得られる。
【0132】
m=d/(λ/n) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
【0133】
m−1=d/λ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
【0134】
d=λ/(n−1) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
【0135】
ここで、例えば、n=1.5とすれば、d=2λとなり、図10に示した例となる。この例では、距離dに対し、空気中の波数は、2となり、近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dの中の波数は、3となるので、1波長分ずれて位相が一致することになる。従って、図10中の二点鎖線の如く、近接撮影用レンズ切出片326A,326Bの間に、同じ焦点距離を持つ近接撮影用レンズ切出片(近接撮影用レンズ326から切り出されたもの)が隙間無く隣接配置されていると仮定すれば、波面が1つずれ、例えば、近接撮影用レンズ切出片326Bの中を通過した波面W1と、二点鎖線で描かれた近接撮影用レンズ切出片を通過したと仮定した波面W2(図10中のかっこ内)とが一致する。本第3実施形態では、1つ置きに近接撮影用レンズ切出片が配置されるので、隣り合って配置された近接撮影用レンズ切出片326A,326Bをそれぞれ通過した波面は2つずれ、例えば、近接撮影用レンズ切出片326Bの中を通過した波面W1と、近接撮影用レンズ切出片326Aの中を通過した波面W3とが一致する。
【0136】
なお、例えば、n=1.6とすれば、d=1.67λとなり、n=1.8とすれば、d=1.25λとなり、n=2とすれば、d=λとなる。また、本第3実施形態では、前述した近接撮影用レンズ326からの切り出しの際の仕切の間隔dを、近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dの中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分ずれる寸法としているが、近接撮影用レンズ切出片を1つ置きに配置するので、切り出しの際の仕切の間隔dを、半波長分ずれる寸法としてもよく、この場合には、1つ置きに配置された近接撮影用レンズ切出片の隣り合う切出片を通過した光は、1波長ずれ、1次回折光による結像が実現される。
【0137】
このような第3実施形態によれば、次のような効果がある。すなわち、前記第1、第2実施形態の場合と同様に、多焦点レンズ321では、第1および第2のレンズ部が同心状に複数回繰り返して、すなわち交互に配置されているので、被写体までの距離にかかわらず、ピントのぼけ方の状態が略同じになる。従って、撮影対象となる被写体までの距離が変わっても、ぼけを取り除くための画像改質処理を同じデータを使った処理で実現すること、すなわち畳み込み演算行列Qの各要素Q(x,y)の値を同じ設定として画像改質処理を行うことができる。このため、撮影状態を自動的に識別するための切替回路の設置を省略することができ、また、手動操作による切替えも行う必要がなくなることから、使用者の負担を軽減することができる。
【0138】
また、近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dおよびこれらと一体化された基盤325により回折レンズが形成され、あたかもフレネルレンズのような断面形状またはこれに近い断面形状になっているので、主レンズ324を全体的に薄くすることができ、軽量化を図ることができるうえ、設計の自由度を向上させることができ、さらに製造の容易化、製造コストの低減を図ることができる。
【0139】
[第4実施形態]
図11には、本発明の第4実施形態の多焦点レンズ421の詳細構成が示されている。また、図12は、多焦点レンズ421による撮影状態の説明図であり、図13は、多焦点レンズ421の製造方法の説明図である。多焦点レンズ421は、前記第1実施形態の撮像システム10(図1参照)と同様な撮像システムに組み込まれて使用されるレンズであり、撮像システム全体については、多焦点レンズの構成が前記第1実施形態と異なり、その他の構成および機能は前記第1実施形態と同様であるため、同一部分には同一符号を付して詳しい説明は省略し、以下では異なる部分を中心として説明を行う。
【0140】
図11および図12において、多焦点レンズ421は、二焦点レンズであり、相対的に遠距離にある被写体(本実施形態では、一例として、被写界深度の近点から無限遠までの標準的な距離にある通常の被写体とする。)を撮影するための長い焦点距離を持つ遠レンズ部422と、相対的に近距離にある被写体(本実施形態では、一例として、標準的な距離よりも近い距離にある近接被写体とする。)を撮影するための短い焦点距離を持つ近レンズ部423とを備えている。
【0141】
多焦点レンズ421は、図11に示すように、あたかもフレネルレンズのような断面形状を有し、平板状の基盤425と、この基盤425の表面側(被写体側)に設けられた複数の近接撮影用レンズ切出片426A,426B,426C,426D,426Eおよび複数の標準撮影用レンズ切出片427A,427B,427C,427Dとが一体化されて構成されている。なお、本第4実施形態では、前記第3実施形態のような補助レンズは設けられていないが、補助レンズを設けてもよい。
【0142】
近接撮影用レンズ切出片426Aは、図11に示すように、円形の平面形状(正面形状)を有し、近接撮影用レンズ切出片426B,426C,426D,426Eは、環状(本実施形態では、円環状)の平面形状を有し、これらは同心状に配置されている。これらの近接撮影用レンズ切出片426A,426B,426C,426D,426Eは、標準的な距離よりも近い距離(例えば、10cm未満等)にある近接被写体(例えば、バーコードや虹彩や文字等)を撮影するためのレンズ部の構成要素として、1つの焦点距離を持つ1つの凸レンズである近接撮影用レンズ426から切り出されて形成されたものである。なお、近接撮影用レンズ426は、球面レンズでもよく、非球面レンズでもよい。
【0143】
また、標準撮影用レンズ切出片427A,427B,427C,427Dは、図11に示すように、環状(本実施形態では、円環状)の平面形状を有し、これらは同心状に配置されている。これらの標準撮影用レンズ切出片427A,427B,427C,427Dは、被写界深度の近点(例えば0.3m程度)から無限遠までの標準的な距離にある通常の被写体(例えば、風景や人物等)を撮影するためのレンズ部の構成要素として、1つの焦点距離を持つ1つの凸レンズである標準撮影用レンズ427から切り出されて形成されたものである。この標準撮影用レンズ427は、近接撮影用レンズ426よりも曲率が小さく、長い焦点距離を持つレンズである。なお、標準撮影用レンズ427は、球面レンズでもよく、非球面レンズでもよい。
【0144】
近接撮影用レンズ切出片426A,426B,426C,426D,426Eの材質(つまり、近接撮影用レンズ426の材質)および標準撮影用レンズ切出片427A,427B,427C,427Dの材質(つまり、標準撮影用レンズ427の材質)は、基盤425の材質と同じであり、例えば、ガラス等であり、屈折率nは、例えば、n=1.5〜1.8程度である。
【0145】
そして、近接撮影用レンズ切出片426A,426B,426C,426D,426Eと、基盤425のうち近接撮影用レンズ切出片426A,426B,426C,426D,426Eが配置された部分とにより、複数の第1のレンズ部が形成されている。一方、標準撮影用レンズ切出片427A,427B,427C,427Dと、基盤425のうち標準撮影用レンズ切出片427A,427B,427C,427Dが配置された部分とにより、複数の第2のレンズ部が形成されている。従って、第1のレンズ部を中心として、第1のレンズ部と第2のレンズ部とが同心状に交互に配置されている。
【0146】
また、図12に示すように、無限遠方からの光(つまり、標準的な距離にある通常の被写体上の単一輝点からの光)が、第2のレンズ部としての標準撮影用レンズ切出片427A,427B,427C,427Dおよびこれらが配置された基盤425を通過して撮像素子24上で結像するので、これらにより遠レンズ部422が構成される(図12中の実線で示された光路参照)。一方、第1のレンズ部としての近接撮影用レンズ切出片426A,426B,426C,426D,426Eおよびこれらが配置された基盤425により、近レンズ部423が構成される(図12中の点線で示された光路参照)。
【0147】
このような第4実施形態においては、以下のようにして多焦点レンズ421が製造される。
【0148】
図13において、先ず、近接撮影用レンズ426を、その光軸に直交する面K1により所定の間隔dで仕切るとともに、近接撮影用レンズ426の表面と所定の間隔dの各面K1とが交わる位置Pによりリングピッチを決定し、そのピッチで近接撮影用レンズ426を同心状の複数の筒(本実施形態では、円筒)K2により仕切った後、近接撮影用レンズ426の表面を含む断面略三角形の部分を1つ置きに切り出すことにより、近接撮影用レンズ切出片426A,426B,426C,426D,426Eを形成する。
【0149】
次に、標準撮影用レンズ427を、その光軸に直交する面K3により所定の間隔dで仕切るとともに、近接撮影用レンズ426を仕切った複数の筒K2と同じ大きさの複数の筒(本実施形態では、円筒)K4で、すなわち近接撮影用レンズ426を仕切ったピッチと同じピッチで標準撮影用レンズ427を仕切った後、光軸に直交する各面K3のうち標準撮影用レンズ427の表面と交わらない面で標準撮影用レンズ427を切るようにして、標準撮影用レンズ427の表面を含む断面略台形の部分を1つ置きに切り出すことにより、標準撮影用レンズ切出片427A,427B,427C,427Dを形成する。なお、標準撮影用レンズ427を複数の筒で仕切る際には、近接撮影用レンズ426の場合とは異なり、標準撮影用レンズ427の表面と所定の間隔dの各面K3とが交わる位置Gによりリングピッチを決定するのではなく、近接撮影用レンズ426を仕切ったピッチと同じピッチで仕切るため、標準撮影用レンズ切出片427A,427B,427C,427Dの断面形状は、略三角形状ではなく、略台形状となっているが、このように近接撮影用レンズ426を基準としたリングピッチとするのではなく、標準撮影用レンズ427を基準としたリングピッチとしてもよい。すなわち、標準撮影用レンズ427の表面と所定の間隔dの各面K3とが交わる位置Gにより、リングピッチを決定し、そのピッチで標準撮影用レンズ427を同心状の複数の筒(本実施形態では、円筒)K5により仕切った後(図13中の一点鎖線参照)、標準撮影用レンズ427の表面を含む断面略三角形の部分を1つ置きに切り出す一方、近接撮影用レンズ426を仕切る際には、標準撮影用レンズ427を仕切ったピッチと同じピッチで仕切ってもよい。
【0150】
そして、以上に述べた仕切の間隔dは、前記第3実施形態の場合と同様に、近接撮影用レンズ切出片426A,426B,426C,426D,426Eや標準撮影用レンズ切出片427A,427B,427C,427Dの中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分ずれる寸法である。これにより、前記第3実施形態の場合と同様に、近接撮影用レンズ切出片426A,426B,426C,426D,426Eのうち隣り合って配置された近接撮影用レンズ切出片を通過する光は、2波長分ずれて位相が一致し、これにより、2次回折光による結像が実現される。従って、近接撮影用レンズ切出片426A,426B,426C,426D,426Eおよびこれらと一体化された基盤425により、回折レンズが形成されている。さらに、標準撮影用レンズ切出片427A,427B,427C,427Dのうち隣り合って配置された標準撮影用レンズ切出片を通過する光も、2波長分ずれて位相が一致し、これにより、2次回折光による結像が実現される。従って、標準撮影用レンズ切出片427A,427B,427C,427Dおよびこれらと一体化された基盤425により、回折レンズが形成されている。
【0151】
但し、近接撮影用レンズ切出片426A,426B,426C,426D,426E(つまり、回折レンズの段差部分)の厚み方向の最大寸法は、前述した近接撮影用レンズ426からの切り出しの際の仕切の間隔d、すなわち近接撮影用レンズ切出片426A,426B,426C,426D,426Eの中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分ずれる寸法とされているのに対し、標準撮影用レンズ切出片427A,427B,427C,427D(つまり、別の回折レンズの段差部分)の厚み方向の最大寸法は、近接撮影用レンズ426と標準撮影用レンズ427との対応位置(光軸から等距離にある位置)における曲率の大きさが異なるため、厳密に言えば、仕切の間隔d、すなわち1波長分ずれる寸法にはならない。また、前述したように、標準撮影用レンズ427を基準としたリングピッチとしてもよく、この場合には、標準撮影用レンズ切出片の厚み方向の最大寸法が、仕切の間隔d、すなわち1波長分ずれる寸法となる一方、近接撮影用レンズ切出片の厚み方向の最大寸法は、仕切の間隔d、すなわち1波長分ずれる寸法にはならない。従って、基準とされたいずれか一方のレンズの切出片の厚み方向の最大寸法が、仕切の間隔dとなればよい。
【0152】
なお、本第4実施形態では、上記のように、仕切の間隔dは、近接撮影用レンズ切出片や標準撮影用レンズ切出片の中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分ずれる寸法とされているが、本第4実施形態では、近接撮影用レンズ切出片や標準撮影用レンズ切出片を1つ置きに配置するので、仕切の間隔dを、半波長分ずれる寸法としてもよく、この場合には、1つ置きに配置された近接撮影用レンズ切出片や標準撮影用レンズ切出片の隣り合う切出片を通過した光は、1波長ずれ、1次回折光による結像が実現される。
【0153】
このような第4実施形態によれば、次のような効果がある。すなわち、前記第1〜第3実施形態の場合と同様に、多焦点レンズ421では、第1および第2のレンズ部が同心状に複数回繰り返して、すなわち交互に配置されているので、被写体までの距離にかかわらず、ピントのぼけ方の状態が略同じになる。従って、撮影対象となる被写体までの距離が変わっても、ぼけを取り除くための画像改質処理を同じデータを使った処理で実現すること、すなわち畳み込み演算行列Qの各要素Q(x,y)の値を同じ設定として画像改質処理を行うことができる。このため、撮影状態を自動的に識別するための切替回路の設置を省略することができ、また、手動操作による切替えも行う必要がなくなることから、使用者の負担を軽減することができる。
【0154】
また、近接撮影用レンズ切出片426A,426B,426C,426D,426Eおよびこれらと一体化された基盤425、並びに標準撮影用レンズ切出片427A,427B,427C,427Dおよびこれらと一体化された基盤425により、それぞれ回折レンズが形成され、あたかもフレネルレンズのような断面形状またはこれに近い断面形状になっているので、多焦点レンズ421を全体的に薄くすることができ、軽量化を図ることができるうえ、設計の自由度を向上させることができ、さらに製造の容易化、製造コストの低減を図ることができる。
【0155】
[第5実施形態]
図14には、本発明の第5実施形態の多焦点レンズ521の詳細構成が示されている。また、図15は、多焦点レンズ521による撮影状態の説明図である。多焦点レンズ521は、前記第1実施形態の撮像システム10(図1参照)と同様な撮像システムに組み込まれて使用されるレンズであり、撮像システム全体については、多焦点レンズの構成が前記第1実施形態と異なり、その他の構成および機能は前記第1実施形態と同様であるため、同一部分には同一符号を付して詳しい説明は省略し、以下では異なる部分を中心として説明を行う。
【0156】
図14および図15において、多焦点レンズ521は、二焦点レンズであり、相対的に遠距離にある被写体(本実施形態では、一例として、被写界深度の近点から無限遠までの標準的な距離にある通常の被写体とする。)を撮影するための長い焦点距離を持つ遠レンズ部522と、相対的に近距離にある被写体(本実施形態では、一例として、標準的な距離よりも近い距離にある近接被写体とする。)を撮影するための短い焦点距離を持つ近レンズ部523とを備えている。
【0157】
多焦点レンズ521は、被写体側に設けられた主レンズ524と、撮像素子24側に設けられた補助レンズ528とを組み合わせて構成されている。このうち、主レンズ524は、図14に示すように、あたかもフレネルレンズのような断面形状を有し、平板状の基盤525と、この基盤525の表面側(被写体側)に設けられた複数の標準撮影用レンズ切出片526A,526B,526C,526D,526Eおよび複数の近接撮影用レンズ切出片527A,527B,527C,527Dとが一体化されて構成されている。また、補助レンズ528は、凸レンズであり、主レンズ524と一定距離を置いて配置されている。なお、補助レンズ528は、主レンズ524よりも被写体側の位置に配置してもよい。
【0158】
標準撮影用レンズ切出片526Aは、図14に示すように、円形の平面形状(正面形状)を有し、標準撮影用レンズ切出片526B,526C,526D,526Eは、環状(本実施形態では、円環状)の平面形状を有し、これらは同心状に配置されている。これらの標準撮影用レンズ切出片526A,526B,526C,526D,526Eは、被写界深度の近点(例えば0.3m程度)から無限遠までの標準的な距離にある通常の被写体(例えば、風景や人物等)を撮影するためのレンズ部の構成要素として、1つの焦点距離を持つ1つの凹レンズである標準撮影用レンズ526から切り出されて形成されたものである。なお、標準撮影用レンズ526は、球面レンズでもよく、非球面レンズでもよい。
【0159】
また、近接撮影用レンズ切出片527A,527B,527C,527Dは、図14に示すように、環状(本実施形態では、円環状)の平面形状を有し、これらは同心状に配置されている。これらの近接撮影用レンズ切出片527A,527B,527C,527Dは、標準的な距離よりも近い距離(例えば、10cm未満等)にある近接被写体(例えば、バーコードや虹彩や文字等)を撮影するためのレンズ部の構成要素として、1つの焦点距離を持つ1つの凸レンズである近接撮影用レンズ527から切り出されて形成されたものである。この近接撮影用レンズ527は、標準撮影用レンズ526と対応位置(光軸から等距離にある位置)における曲率の大きさ(絶対値)が同じである。なお、近接撮影用レンズ527は、球面レンズでもよく、非球面レンズでもよい。
【0160】
標準撮影用レンズ切出片526A,526B,526C,526D,526Eの材質(つまり、標準撮影用レンズ526の材質)および近接撮影用レンズ切出片527A,527B,527C,527Dの材質(つまり、近接撮影用レンズ527の材質)は、基盤525の材質と同じであり、例えば、ガラス等であり、屈折率nは、例えば、n=1.5〜1.8程度である。
【0161】
そして、標準撮影用レンズ切出片526A,526B,526C,526D,526Eと、基盤525のうち標準撮影用レンズ切出片526A,526B,526C,526D,526Eが配置された部分とにより、複数の第1のレンズ部が形成されている。一方、近接撮影用レンズ切出片527A,527B,527C,527Dと、基盤525のうち近接撮影用レンズ切出片527A,527B,527C,527Dが配置された部分とにより、複数の第2のレンズ部が形成されている。従って、第1のレンズ部を中心として、第1のレンズ部と第2のレンズ部とが同心状に交互に配置されている。
【0162】
また、図15に示すように、第1のレンズ部としての標準撮影用レンズ切出片526A,526B,526C,526D,526Eおよびこれらが配置された基盤525と、補助レンズ528とにより、無限遠方からの光(つまり、標準的な距離にある通常の被写体上の単一輝点からの光)が撮像素子24上で結像するので、これらの組合せにより、遠レンズ部522が構成される(図15中の実線で示された光路参照)。一方、第2のレンズ部としての近接撮影用レンズ切出片527A,527B,527C,527Dおよびこれらが配置された基盤525と、補助レンズ528とにより、近レンズ部523が構成される(図15中の点線で示された光路参照)。
【0163】
このような第5実施形態においては、以下のようにして多焦点レンズ521が製造される。
【0164】
図14において、標準撮影用レンズ526を、その光軸に直交する面により所定の間隔dで仕切るとともに、標準撮影用レンズ526の表面と所定の間隔dの各面とが交わる位置によりリングピッチを決定し、そのピッチで標準撮影用レンズ526を同心状の複数の筒(本実施形態では、円筒)により仕切った後、標準撮影用レンズ526の表面を含む断面略三角形の部分を1つ置きに切り出すことにより、標準撮影用レンズ切出片526A,526B,526C,526D,526Eを形成する。同様にして、近接撮影用レンズ527から、近接撮影用レンズ切出片527A,527B,527C,527Dを切り出して形成する。
【0165】
この際、標準撮影用レンズ526と近接撮影用レンズ527との対応位置(光軸から等距離にある位置)における曲率の大きさ(絶対値)は、同じであるため、これらを複数の筒で仕切る際のピッチも同じとなる。また、これに伴って、標準撮影用レンズ切出片526A,526B,526C,526D,526E(以下に述べるように、回折レンズの段差部分となる。)の厚み方向の最大寸法と、近接撮影用レンズ切出片527A,527B,527C,527D(以下に述べるように、別の回折レンズの段差部分となる。)の厚み方向の最大寸法とは、いずれも仕切の間隔dとなり、一致する。
【0166】
そして、以上に述べた仕切の間隔dは、前記第3、第4実施形態の場合と同様に、標準撮影用レンズ切出片526A,526B,526C,526D,526Eや近接撮影用レンズ切出片527A,527B,527C,527Dの中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分ずれる寸法である。これにより、前記第3、第4実施形態の場合と同様に、標準撮影用レンズ切出片526A,526B,526C,526D,526Eのうち隣り合って配置された標準撮影用レンズ切出片を通過する光は、2波長分ずれて位相が一致し、これにより、2次回折光による結像が実現される。従って、標準撮影用レンズ切出片526A,526B,526C,526D,526Eおよびこれらと一体化された基盤525により、回折レンズが形成されている。さらに、近接撮影用レンズ切出片527A,527B,527C,527Dのうち隣り合って配置された近接撮影用レンズ切出片を通過する光も、2波長分ずれて位相が一致し、これにより、2次回折光による結像が実現される。従って、近接撮影用レンズ切出片527A,527B,527C,527Dおよびこれらと一体化された基盤525により、回折レンズが形成されている。なお、本第5実施形態では、上記のように、仕切の間隔dは、標準撮影用レンズ切出片や近接撮影用レンズ切出片の中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分ずれる寸法とされているが、本第5実施形態では、標準撮影用レンズ切出片や近接撮影用レンズ切出片を1つ置きに配置するので、仕切の間隔dを、半波長分ずれる寸法としてもよく、この場合には、1つ置きに配置された標準撮影用レンズ切出片や近接撮影用レンズ切出片の隣り合う切出片を通過した光は、1波長ずれ、1次回折光による結像が実現される。
【0167】
このような第5実施形態によれば、次のような効果がある。すなわち、前記第1〜第4実施形態の場合と同様に、多焦点レンズ521では、第1および第2のレンズ部が同心状に複数回繰り返して、すなわち交互に配置されているので、被写体までの距離にかかわらず、ピントのぼけ方の状態が略同じになる。従って、撮影対象となる被写体までの距離が変わっても、ぼけを取り除くための画像改質処理を同じデータを使った処理で実現すること、すなわち畳み込み演算行列Qの各要素Q(x,y)の値を同じ設定として画像改質処理を行うことができる。このため、撮影状態を自動的に識別するための切替回路の設置を省略することができ、また、手動操作による切替えも行う必要がなくなることから、使用者の負担を軽減することができる。
【0168】
また、標準撮影用レンズ切出片526A,526B,526C,526D,526Eおよびこれらと一体化された基盤525、並びに近接撮影用レンズ切出片527A,527B,527C,527Dおよびこれらと一体化された基盤525により、それぞれ回折レンズが形成され、あたかもフレネルレンズのような断面形状またはこれに近い断面形状になっているので、主レンズ524を全体的に薄くすることができ、軽量化を図ることができるうえ、設計の自由度を向上させることができ、さらに製造の容易化、製造コストの低減を図ることができる。
【0169】
さらに、標準撮影用レンズ526と近接撮影用レンズ527とは、対応位置(光軸から等距離にある位置)における曲率の大きさ(絶対値)が同じであるため、標準撮影用レンズ切出片526A,526B,526C,526D,526E(つまり、回折レンズの段差部分)の厚み方向の最大寸法と、近接撮影用レンズ切出片527A,527B,527C,527D(つまり、別の回折レンズの段差部分)の厚み方向の最大寸法とを一致させることができる。そして、標準撮影用レンズ切出片についての光軸に平行な面と、近接撮影用レンズ切出片についての光軸に平行な面とを、向かい合わせにして配置するので、レンズ面の不要な面、すなわち像の形成に寄与しない面を無くすことができる。
【0170】
[第6実施形態]
図16には、本発明の第6実施形態の多焦点レンズ621の詳細構成が示されている。また、図17は、多焦点レンズ621による撮影状態の説明図である。多焦点レンズ621は、前記第1実施形態の撮像システム10(図1参照)と同様な撮像システムに組み込まれて使用されるレンズであり、撮像システム全体については、多焦点レンズの構成が前記第1実施形態と異なり、その他の構成および機能は前記第1実施形態と同様であるため、同一部分には同一符号を付して詳しい説明は省略し、以下では異なる部分を中心として説明を行う。
【0171】
図16および図17において、多焦点レンズ621は、三焦点レンズであり、相対的に遠距離にある被写体(本実施形態では、一例として、1m程度から無限遠までの標準的な距離にある通常の被写体とする。)を撮影するための長い焦点距離を持つ遠レンズ部622と、相対的に中間距離にある被写体(本実施形態では、一例として、50cm程度の距離にある被写体とする。)を撮影するための中間的な焦点距離を持つ中間レンズ部629と、相対的に近距離にある被写体(本実施形態では、一例として、7cm程度の距離にある近接被写体とする。)を撮影するための短い焦点距離を持つ近レンズ部623とを備えている。
【0172】
多焦点レンズ621は、被写体側に設けられた主レンズ624と、撮像素子24側に設けられた補助レンズ628とを組み合わせて構成されている。このうち、主レンズ624は、図16に示すように、あたかもフレネルレンズのような断面形状を有し、平板状の基盤625と、この基盤625の表面側(被写体側)に設けられた複数の標準撮影用レンズ切出片626A,626B,626Cおよび複数の近接撮影用レンズ切出片627A,627B,627Cとが一体化されて構成されている。また、補助レンズ628は、凸レンズであり、主レンズ624と一定距離を置いて配置されている。なお、補助レンズ628は、主レンズ624よりも被写体側の位置に配置してもよい。
【0173】
標準撮影用レンズ切出片626Aは、図16に示すように、円形の平面形状(正面形状)を有し、標準撮影用レンズ切出片626B,626Cは、環状(本実施形態では、円環状)の平面形状を有し、これらは同心状に配置されている。これらの標準撮影用レンズ切出片626A,626B,626Cは、例えば1m程度から無限遠までの標準的な距離にある通常の被写体(例えば、風景や人物等)を撮影するためのレンズ部の構成要素として、1つの焦点距離を持つ1つの凹レンズである標準撮影用レンズ626から切り出されて形成されたものである。なお、標準撮影用レンズ626は、球面レンズでもよく、非球面レンズでもよい。
【0174】
また、近接撮影用レンズ切出片627A,627B,627Cは、図16に示すように、環状(本実施形態では、円環状)の平面形状を有し、これらは同心状に配置されている。これらの近接撮影用レンズ切出片627A,627B,627Cは、例えば7cm程度の距離にある近接被写体(例えば、バーコードや虹彩や文字等)を撮影するためのレンズ部の構成要素として、1つの焦点距離を持つ1つの凸レンズである近接撮影用レンズ627から切り出されて形成されたものである。この近接撮影用レンズ627は、標準撮影用レンズ626と対応位置(光軸から等距離にある位置)における曲率の大きさ(絶対値)が同じである。なお、近接撮影用レンズ627は、球面レンズでもよく、非球面レンズでもよい。
【0175】
標準撮影用レンズ切出片626A,626B,626Cの材質(つまり、標準撮影用レンズ626の材質)および近接撮影用レンズ切出片627A,627B,627Cの材質(つまり、近接撮影用レンズ627の材質)は、基盤625の材質と同じであり、例えば、ガラス等であり、屈折率nは、例えば、n=1.5〜1.8程度である。
【0176】
さらに、基盤625の平面形状(正面形状)は、本実施形態では、円形であり、基盤625の表面(被写体側の面)のうち、標準撮影用レンズ切出片626A,626B,626Cおよび近接撮影用レンズ切出片627A,627B,627Cが配置されていない部分は、環状(本実施形態では、円環状)の平坦面部分625A,625B,625Cとなっている。
【0177】
そして、標準撮影用レンズ切出片626A,626B,626Cと、基盤625のうち標準撮影用レンズ切出片626A,626B,626Cが配置された部分とにより、複数の第1のレンズ部が形成されている。一方、近接撮影用レンズ切出片627A,627B,627Cと、基盤625のうち近接撮影用レンズ切出片627A,627B,627Cが配置された部分とにより、複数の第2のレンズ部が形成されている。また、基盤625のうち環状の平坦面部分625A,625B,625Cにより、複数の第3のレンズ部が形成されている。従って、第1のレンズ部を中心として、第1〜第3のレンズ部が同心状に複数回繰り返して配置されている。
【0178】
また、図17に示すように、第1のレンズ部としての標準撮影用レンズ切出片626A,626B,626Cおよびこれらが配置された基盤625と、補助レンズ628とにより、無限遠方からの光(つまり、標準的な距離にある通常の被写体上の単一輝点からの光)が撮像素子24上で結像するので、これらの組合せにより、遠レンズ部622が構成される(図17中の実線で示された光路参照)。一方、第2のレンズ部としての近接撮影用レンズ切出片627A,627B,627Cおよびこれらが配置された基盤625と、補助レンズ628とにより、近レンズ部623が構成される(図17中の点線で示された光路参照)。また、第3のレンズ部としての基盤625の平坦面部分625A,625B,625Cと、補助レンズ628とにより、中間レンズ部629が構成される(図17中の一点鎖線で示された光路参照)。
【0179】
このような第6実施形態においては、以下のようにして多焦点レンズ621が製造される。
【0180】
図16において、標準撮影用レンズ626を、その光軸に直交する面により所定の間隔dで仕切るとともに、標準撮影用レンズ626の表面と所定の間隔dの各面とが交わる位置によりリングピッチを決定し、そのピッチで標準撮影用レンズ626を同心状の複数の筒(本実施形態では、円筒)により仕切った後、標準撮影用レンズ626の表面を含む断面略三角形の部分を1つ置きに切り出すことにより、標準撮影用レンズ切出片626A,626B,626Cを形成する。同様にして、近接撮影用レンズ627から、近接撮影用レンズ切出片627A,627B,627Cを切り出して形成する。
【0181】
この際、標準撮影用レンズ626と近接撮影用レンズ627との対応位置(光軸から等距離にある位置)における曲率の大きさ(絶対値)は、同じであるため、これらを複数の筒で仕切る際のピッチも同じとなる。また、これに伴って、標準撮影用レンズ切出片626A,626B,626C(以下に述べるように、回折レンズの段差部分となる。)の厚み方向の最大寸法と、近接撮影用レンズ切出片627A,627B,627C(以下に述べるように、別の回折レンズの段差部分となる。)の厚み方向の最大寸法とは、いずれも仕切の間隔dとなり、一致する。
【0182】
そして、以上に述べた仕切の間隔dは、前記第3〜第5実施形態の場合と同様に、標準撮影用レンズ切出片626A,626B,626Cや近接撮影用レンズ切出片627A,627B,627Cの中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分ずれる寸法である。これにより、標準撮影用レンズ切出片626A,626B,626Cのうち隣り合って配置された標準撮影用レンズ切出片を通過する光は、3波長分ずれて位相が一致し、これにより、3次回折光による結像が実現される。従って、標準撮影用レンズ切出片626A,626B,626Cおよびこれらと一体化された基盤625により、回折レンズが形成されている。さらに、近接撮影用レンズ切出片627A,627B,627Cのうち隣り合って配置された近接撮影用レンズ切出片を通過する光も、3波長分ずれて位相が一致し、これにより、3次回折光による結像が実現される。従って、近接撮影用レンズ切出片627A,627B,627Cおよびこれらと一体化された基盤625により、回折レンズが形成されている。なお、本第6実施形態では、上記のように、仕切の間隔dは、標準撮影用レンズ切出片や近接撮影用レンズ切出片の中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分ずれる寸法とされているが、本第6実施形態では、標準撮影用レンズ切出片や近接撮影用レンズ切出片を、2つ間隔を空けて3つに1つの割合で配置するので、仕切の間隔dを、3分の1波長分または3分の2波長分ずれる寸法としてもよく、この場合には、2つ間隔を空けて3つに1つの割合で配置された標準撮影用レンズ切出片や近接撮影用レンズ切出片の隣り合う切出片を通過した光は、1波長または2波長ずれ、1次回折光または2次回折光による結像が実現される。
【0183】
このような第6実施形態によれば、次のような効果がある。すなわち、多焦点レンズ621では、第1〜第3のレンズ部が同心状に複数回繰り返して配置されているので、被写体までの距離にかかわらず、ピントのぼけ方の状態が略同じになる。従って、撮影対象となる被写体までの距離が変わっても、ぼけを取り除くための画像改質処理を同じデータを使った処理で実現すること、すなわち畳み込み演算行列Qの各要素Q(x,y)の値を同じ設定として画像改質処理を行うことができる。このため、撮影状態を自動的に識別するための切替回路の設置を省略することができ、また、手動操作による切替えも行う必要がなくなることから、使用者の負担を軽減することができる。
【0184】
また、標準撮影用レンズ切出片626A,626B,626Cおよびこれらと一体化された基盤625、並びに近接撮影用レンズ切出片627A,627B,627Cおよびこれらと一体化された基盤625により、それぞれ回折レンズが形成され、あたかもフレネルレンズのような断面形状またはこれに近い断面形状になっているので、主レンズ624を全体的に薄くすることができ、軽量化を図ることができるうえ、設計の自由度を向上させることができ、さらに製造の容易化、製造コストの低減を図ることができる。
【0185】
さらに、標準撮影用レンズ626と近接撮影用レンズ627とは、対応位置(光軸から等距離にある位置)における曲率の大きさ(絶対値)が同じであるため、標準撮影用レンズ切出片626A,626B,626C(つまり、回折レンズの段差部分)の厚み方向の最大寸法と、近接撮影用レンズ切出片627A,627B,627C(つまり、別の回折レンズの段差部分)の厚み方向の最大寸法とを一致させることができる。そして、標準撮影用レンズ切出片についての光軸に平行な面と、近接撮影用レンズ切出片についての光軸に平行な面とを、向かい合わせにして配置するので、レンズ面の不要な面、すなわち像の形成に寄与しない面を無くすことができる。
【0186】
なお、本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲内での変形等は本発明に含まれるものである。
【0187】
すなわち、前記第1、第2実施形態では、同心状に配置された第1のレンズ部と第2のレンズ部との繰り返し数が、それぞれ2回、4回であったが、繰り返し数は、これに限定されるものではなく、複数回であればよい。なお、図7で説明した如く、同心状に配置された第1のレンズ部と第2のレンズ部との繰り返し数の増加とともに、標準的な距離にある通常の被写体の撮影時のPSFと、これよりも近い距離にある近接被写体の撮影時のPSFとが近似するため、繰り返し数を増すことにより、画像改質処理の精度の向上を図ることができる。前記第3〜第6実施形態の場合も同様である。
【0188】
また、前記第1、第2、第3、第5実施形態では、中心に配置されるレンズ部、すなわち第1のレンズ部が、遠レンズ部を構成するレンズ部とされ、第2のレンズ部が、近レンズ部を構成するレンズ部とされていたが、第1のレンズ部を、近レンズ部を構成するレンズ部とし、第2のレンズ部を、遠レンズ部を構成するレンズ部としてもよい。
【0189】
一方、前記第4実施形態では、中心に配置されるレンズ部、すなわち第1のレンズ部が、近レンズ部を構成するレンズ部とされ、第2のレンズ部が、遠レンズ部を構成するレンズ部とされていたが、第1のレンズ部を、遠レンズ部を構成するレンズ部とし、第2のレンズ部を、近レンズ部を構成するレンズ部としてもよい。
【0190】
そして、前記第6実施形態では、中心に配置されるレンズ部、すなわち第1のレンズ部が、遠レンズ部を構成するレンズ部とされ、第2のレンズ部が、近レンズ部を構成するレンズ部とされ、第3のレンズ部が、中間レンズ部を構成するレンズ部とされていたが、第1のレンズ部は、近レンズ部や中間レンズ部を構成するレンズ部であってもよく、あるいは並び順も、遠レンズ部を構成するレンズ部、近レンズ部を構成するレンズ部、中間レンズ部を構成するレンズ部の順に限定されるものではなく、任意である。
【0191】
さらに、前記第1〜第5実施形態の多焦点レンズ21,221,321,421,521は、遠レンズ部と近レンズ部との2つの焦点距離を持つレンズ部により構成され、前記第6実施形態の多焦点レンズ621は、遠レンズ部と近レンズ部と中間レンズ部との3つの焦点距離を持つレンズ部により構成されていたが、本発明の多焦点レンズは、二焦点レンズや三焦点レンズに限定されるものではなく、4以上の焦点距離を持つレンズ部により構成されていてもよい。
【0192】
また、前記第1、第2実施形態の多焦点レンズ21,221を構成する各レンズ部の幅は、図2、図5に示した例に限定されず、任意である。但し、ぼけを取り除くための画像改質処理を同じデータを使った処理で実現するという観点からは、同一の焦点距離を持つ複数のレンズ部の面積(平面形状についての面積)の合計が、それぞれの焦点距離について同一または略同一になることが好ましく、例えば、二焦点レンズの場合には、複数の第1のレンズ部の面積の合計と、複数の第2のレンズ部の面積の合計とが、同一または略同一になることが好ましい。3以上の焦点距離を持つ多焦点レンズとする場合も同様である。
【0193】
さらに、前記第3実施形態では、主レンズ324は、基盤325と、凸レンズである近接撮影用レンズ326から切り出されて形成された近接撮影用レンズ切出片326A,326B,326C,326Dとを一体化して構成されていたが、平板状の基盤と、凹レンズから切り出されて形成された凹レンズ切出片とを一体化して主レンズを構成してもよく、この場合には、凹レンズ切出片および基盤のうち凹レンズ切出片が配置されている部分と、凸レンズである補助レンズとにより、遠レンズ部が構成され、基盤のうち凹レンズ切出片の配置されない平坦面部分と、凸レンズである補助レンズとにより、近レンズ部が構成される。
【0194】
そして、前記第3〜第6実施形態では、基盤の表面(被写体側の面)に凸レンズ切出片や凹レンズ切出片を設けていたが、基盤の裏面(撮像素子24側の面)に凸レンズ切出片や凹レンズ切出片を設けてもよく、あるいは基盤の表裏両面に凸レンズ切出片や凹レンズ切出片を設けてもよい。
【0195】
また、前記第3〜第6実施形態では、基盤の表面に凸レンズ切出片や凹レンズ切出片を設け、これらの切出片と基盤とを一体化することにより回折レンズを形成していたが、切出片に相当する部分と、基盤に相当する部分とを、1つの材料から加工して仕上げることにより、回折レンズを形成してもよい。
【0196】
さらに、前記第3、第5、第6実施形態では、一枚の補助レンズ328,528,628が用いられていたが、補助レンズは、一枚のレンズである必要はなく、複数のレンズからなる組合せレンズとしてもよい。
【0197】
そして、前記各実施形態の画像改質処理装置30は、畳み込み演算行列QまたはQm,jを用いた再生演算を行う構成とされていたが、これに限定されず、例えば、撮像素子24の出力信号に対し、ポイント・スプレッド・ファンクションの伝達関数の逆関数を補正関数として荷重加算演算処理を行う構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0198】
以上のように、本発明の多焦点レンズおよび撮像システムは、例えば、所望の静止画像や動画像を撮影することができるとともに、デジタルコード等の近接静止画像を読み取り、そのデジタルコードの認識処理および認識したデジタルコードの情報に基づく各種処理を行うことができる情報端末装置等に装着する光学レンズおよび撮像システムとして用いるのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1】本発明の第1実施形態の多焦点レンズを含む撮像システムの全体構成図。
【図2】第1実施形態の多焦点レンズの詳細構成図。
【図3】第1実施形態において1点(座標(m,j))のみに輝点のある被写体を多焦点レンズで撮像したときに、撮像素子上に投射像が形成される様子を示す説明図。
【図4】第1実施形態において相対的に遠距離にある被写体を多焦点レンズで撮影する場合と、相対的に近距離にある被写体を多焦点レンズで撮影する場合とで、ピントのぼけ方の状態が異なることを示す説明図。
【図5】本発明の第2実施形態の多焦点レンズの詳細構成図。
【図6】第2実施形態において相対的に遠距離にある被写体を多焦点レンズで撮影する場合と、相対的に近距離にある被写体を多焦点レンズで撮影する場合とで、ピントのぼけ方の状態が異なることを示す説明図。
【図7】従来の多焦点レンズと、第1実施形態の多焦点レンズと、第2実施形態の多焦点レンズとで、ぼけの状態(光量分布)を比較し、環状のレンズ部の個数を増やすことで、ぼけが均一化されていく様子を示す概念的。
【図8】本発明の第3実施形態の多焦点レンズの詳細構成図。
【図9】第3実施形態の多焦点レンズによる撮影状態の説明図。
【図10】第3実施形態の多焦点レンズにより光が屈折する状態の説明図。
【図11】本発明の第4実施形態の多焦点レンズの詳細構成図。
【図12】第4実施形態の多焦点レンズによる撮影状態の説明図。
【図13】第4実施形態の多焦点レンズの製造方法の説明図。
【図14】本発明の第5実施形態の多焦点レンズの詳細構成図。
【図15】第5実施形態の多焦点レンズによる撮影状態の説明図。
【図16】本発明の第6実施形態の多焦点レンズの詳細構成図。
【図17】第6実施形態の多焦点レンズによる撮影状態の説明図。
【図18】通常の被写体を撮影する場合と、近接被写体を撮影する場合とで、ピントのぼけ方の状態が異なる様子を示す説明図。
【符号の説明】
【0200】
21,221,321,421,521,621 多焦点レンズ
22A,222A 第1のレンズ部である円形レンズ部
22B,222B,222C,222D 第1のレンズ部である環状レンズ部
23A,23B,223A,223B,223C,223D 第2のレンズ部である環状レンズ部
325A,325B,325C,325D,325E,625A,625B,625C 平坦面部分
326A,326B,326C,326D,426A,426B,426C,426D,426E 回折レンズを形成する近接撮影用レンズ切出片
427A,427B,427C,427D 回折レンズを形成する標準撮影用レンズ切出片
526A,526B,526C,526D,526E,626A,626B,626C 凹レンズによる回折レンズを形成する標準撮影用レンズ切出片
527A,527B,527C,527D,627A,627B,627C 凸レンズによる回折レンズを形成する近接撮影用レンズ切出片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の焦点距離を持つ多焦点レンズであって、
Nを2以上の整数とすると、第1の焦点距離を持つ複数の第1のレンズ部から、第Nの焦点距離を持つ複数の第Nのレンズ部までのそれぞれ焦点距離の異なる各レンズ部が、一体化されて構成され、
前記第1のレンズ部を中心として前記第1〜前記第Nのレンズ部が同心状に複数回繰り返して配置され、
中心に配置される前記第1のレンズ部の平面形状は、円形状、楕円形状、多角形状、またはその他の閉環状線により囲まれて形成される形状とされ、
中心以外の位置に配置される前記第1のレンズ部の平面形状および前記第1のレンズ部以外のレンズ部の平面形状は、環状とされている
ことを特徴とする多焦点レンズ。
【請求項2】
請求項1に記載の多焦点レンズにおいて、
前記第1〜前記第Nのレンズ部の各々は、回折レンズを配置して形成されるか、または回折レンズの配置されない平坦面部分により形成されていることを特徴とする多焦点レンズ。
【請求項3】
請求項2に記載の多焦点レンズにおいて、
Nは、2とされ、前記第1のレンズ部を中心として前記第1のレンズ部と前記第2のレンズ部とが同心状に交互に配置され、
前記第1または前記第2のレンズ部のうちのいずれか一方のレンズ部は、回折レンズを配置して形成され、他方のレンズ部は、回折レンズの配置されない平坦面部分により形成されていることを特徴とする多焦点レンズ。
【請求項4】
請求項3に記載の多焦点レンズにおいて、
前記回折レンズの段差部分の厚み方向の最大寸法は、前記回折レンズの中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分または半波長分ずれる寸法とされていることを特徴とする多焦点レンズ。
【請求項5】
請求項2に記載の多焦点レンズにおいて、
Nは、2とされ、前記第1のレンズ部を中心として前記第1のレンズ部と前記第2のレンズ部とが同心状に交互に配置され、
前記第1および前記第2のレンズ部は、互いに曲率の異なる回折レンズを配置して形成されていることを特徴とする多焦点レンズ。
【請求項6】
請求項5に記載の多焦点レンズにおいて、
前記第1または前記第2のレンズ部のうちのいずれか一方のレンズ部を形成する前記回折レンズの段差部分の厚み方向の最大寸法は、前記回折レンズの中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分または半波長分ずれる寸法とされていることを特徴とする多焦点レンズ。
【請求項7】
請求項2に記載の多焦点レンズにおいて、
Nは、2とされ、前記第1のレンズ部を中心として前記第1のレンズ部と前記第2のレンズ部とが同心状に交互に配置され、
前記第1および前記第2のレンズ部のうちのいずれか一方のレンズ部は、凹レンズによる回折レンズを配置して形成され、他方のレンズ部は、凸レンズによる回折レンズを配置して形成されていることを特徴とする多焦点レンズ。
【請求項8】
請求項7に記載の多焦点レンズにおいて、
前記第1または前記第2のレンズ部のうちの少なくとも一方のレンズ部を形成する前記回折レンズの段差部分の厚み方向の最大寸法は、前記回折レンズの中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分または半波長分ずれる寸法とされていることを特徴とする多焦点レンズ。
【請求項9】
請求項2に記載の多焦点レンズにおいて、
Nは、3とされ、前記第1のレンズ部を中心として前記第1〜前記第3のレンズ部が同心状に複数回繰り返して配置され、
前記第1〜前記第3のレンズ部のうちのいずれか1つのレンズ部は、凹レンズによる回折レンズを配置して形成され、他の1つのレンズ部は、凸レンズによる回折レンズを配置して形成され、残りの1つのレンズ部は、回折レンズの配置されない平坦面部分により形成されていることを特徴とする多焦点レンズ。
【請求項10】
請求項9に記載の多焦点レンズにおいて、
前記第1〜前記第3のレンズ部のうちの少なくとも1つのレンズ部を形成する前記回折レンズの段差部分の厚み方向の最大寸法は、前記回折レンズの中を通過する光と、空気中を通過する光とが、1波長分、3分の1波長分、または3分の2波長分ずれる寸法とされていることを特徴とする多焦点レンズ。
【請求項11】
請求項7または9に記載の多焦点レンズにおいて、
前記凹レンズと前記凸レンズとは、同一または略同一の曲率とされていることを特徴とする多焦点レンズ。
【請求項12】
被写体を撮像する撮像機構と、この撮像機構により撮像された画像の質を改善する画像改質処理装置とを備えた撮像システムにおいて、
前記撮像機構は、
前記被写体を撮像する請求項1〜11のいずれかに記載の多焦点レンズと、
この多焦点レンズにより形成された画像を電気的信号に変換して出力する撮像素子とを含んで構成され、
前記画像改質処理装置は、
前記被写体の1点から出た光が前記多焦点レンズの作用により前記撮像素子上で拡がる状態を示すポイント・スプレッド・ファンクション行列を用いて算出された畳み込み演算行列の各要素の値と、前記被写体を前記多焦点レンズにより撮像して得られた画像についての前記撮像素子の出力信号を示す行列の各要素の値とを用いて、畳み込み演算処理を行うことにより、前記被写体の発する光の明るさを示す行列の各要素の値を算出する構成とされている
ことを特徴とする撮像システム。
【請求項13】
被写体を撮像する撮像機構と、この撮像機構により撮像された画像の質を改善する画像改質処理装置とを備えた撮像システムにおいて、
前記撮像機構は、
前記被写体を撮像する請求項1〜11のいずれかに記載の多焦点レンズと、
この多焦点レンズにより形成された画像を電気的信号に変換して出力する撮像素子とを含んで構成され、
前記画像改質処理装置は、
前記撮像素子の出力信号に対し、前記被写体の1点から出た光が前記多焦点レンズの作用により前記撮像素子上で拡がる状態を示すポイント・スプレッド・ファンクションの伝達関数の逆関数を補正関数として荷重加算演算処理を行う構成とされている
ことを特徴とする撮像システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−139246(P2006−139246A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179942(P2005−179942)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(503421128)リバーベル株式会社 (10)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】