説明

多焦点眼科用レンズに関連したグレアを低減させるための方法

【課題】本発明の目的の1つは、グレアまたはハローを減少させる多焦点眼科用レンズを提供することである。
【解決手段】近UV及び/または青色光の透過を遮断する1つまたは複数の色素を有する多焦点眼科用レンズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、眼科用レンズの分野に関し、特に、二重焦点、可変焦点または多焦点眼内レンズ(IOL)に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の眼は、その最も単純な意味において、角膜と呼ばれる透明外側部分を通して光を透過させることと、網膜の上に水晶体によって画像を合焦させることとによって、視力を提供する機能を果たす。この合焦画像の品質は、眼の大きさ及び形状と、網膜および水晶体の透明度とを含む様々なファクタに依存している。年齢または疾病のために水晶体の透明度が低下すると、不十分な画像により、または、網膜に送られる光が散乱もしくは減少することによって、視力が低下する。こうした眼の水晶体の欠陥は、医学的には白内障として知られている。この病気に関して一般的に是認されている治療は、外科的な水晶体の切除と、IOLによる水晶体機能の置き換えである。
【0003】
現在使用されているIOLを含む眼科用レンズの多くは、単焦点設計である(すなわち、1つの固定焦点距離を有する)。移植されたIOLの焦点距離は、一般的に、患者から3メートルの距離における遠距離視力を最適化するように選択される。鮮明な遠距離及び近距離視力を得るためには、IOLを受け入れている患者の大半が依然として眼鏡を必要とする。
【0004】
多焦点眼科用レンズの様々な設計が現在研究調査中であり、こうした設計は、一般的に、屈折形レンズと回折形レンズという2つの種類のどちらか一方に帰属する。屈折形レンズは、本明細書にその内容全体が引例として組み入れられている、米国特許第5,147,393号及び同第5,217,489号(Van Noy他)、米国特許第5,152,787号(Hamblen)、米国特許第4,813,955号(Achatz他)、米国特許第5,089,024号及び同第5,112,351号(Christie他)、米国特許第4,769,033号、同第4,917,681号、同第5,019,099号、同第5,047,877号、同第5,236,452号及び同第5,326,348号(Nordan)、同第5,192,318号及び同第5,366,500号(Schneider他)、米国特許第5,139,519号及び同第5,192,317号(Kalb) 、米国特許第5,158,572号(Neilsen)、米国特許第5,507,806号及びPCT公開No.WO 95/31156(Blake) 、並びに、米国特許第4,636,211号(Nielsen他)にさらに詳細に開示されている。回折形レンズは、多数の方向に同時に光を回折させるためにそのレンズ上の概ね周期的な微細構造を使用する。これは回折格子に類似しており、多重回折次数がレンズの様々な焦点距離に対応する様々な画像に光を合焦させる。回折形多焦点コンタクトレンズおよびIOLは、本明細書にその内容全体が引例として組み入れられている、米国特許第5,178,636号(Silberman)、米国特許第4,162,122号、同第4,210,391号、同第4,338,005号、同第4,340,283号、同第4,995,714号、同第4,995,715号、同第4,881,804号、同第4,881,805号、同第5,017,000号、同第5.054,905号、同第5.056,908号、同第5,120,120号、同第5,121,979号、同第5,121,980号、同第5,144,483号及び同第5,117,306号(Cohen) 、米国特許第5,076,684号及び同第5,116,111号(Simpson他)、米国特許第5,129,718号(Futhey他)、並びに、米国特許第4,637,697号、同第4,641,934号及び同第4,655,565号(Freeman)にさらに詳細に開示されている。
【0005】
回折形IOLは多数の焦点距離を有することが可能であるが、一般的に、2つだけの焦点距離(遠距離と近距離)を有するIOLが最も一般的である。同時視力多焦点レンズ(simultaneous vision multifocal lens)の場合には、第2のレンズパワーによって、1つまたは複数のデフォーカスされた(defocused)画像が(網膜上で)合焦成分と重ね合わされるが、このデフォーカスされた画像は、対象画像に注意を集中している使用者に気づかれることは稀である。デフォーカスされた画像はベール状(veiling)のグレア源(veiling glare source)として作用し、したがって、合焦画像に干渉してその画像を劣化させる。特定の条件下(例えば、夜)では、使用者の瞳孔直径が5ミリメートル(mm)以上に拡大する可能性があり、別個の遠方の光源(例えば、自動車のヘッドライトや街路灯)が「ハロー(halo)」または「リング」によって囲まれているように見える可能性がある。このハローの主要部分は、網膜においてデフォーカスされることになる近距離画像に向けられた光によって生じさせられる。ハローの視感度は、近距離画像に光を向ける水晶体領域の直径と、近距離画像に方向付けられる総エネルギーの割合と、眼の総合的な画像形成上の収差とによって影響を受ける。
【0006】
米国特許第4,881,805号においてCohenは、レンズ周辺部におけるエシュレット(echelette)の深さを減少させることによって、回折レンズを通過する光の強さが変化させられ、それによってグレアを減少させ(第4欄、63−68行)ることが可能であることを示唆している。Cohenは、さらに、回折領域(diffractive zone)の領域境界円弧(zone boundary radii)が次式に従わなければならないと述べており、
Rm=√(2mwf)
前式中で、
w=光の波長、
m=m番目のゾーンを表す整数、
f=一次回折の焦点距離
である(第5欄、17−31行)。
【0007】
Cohenの理論は、回折領域の境界におけるステップの深さに帰因するグレアは、眼内レンズよりもコンタクトレンズにより一層適している可能性があることを示している。コンタクトレンズは、一般的に、眼球上で移動し、溝にゴミが詰まる可能性がある。これに加えて、一般的にコンタクトレンズに付加できるパワーが眼内レンズのものより小さく、このことがデフォーカスされた画像をより一層合焦させ、さらに、患者の眼の自然残留調節作用が、グレアまたはハローの視感度を変化させる可能性もある。
【0008】
本明細書にその内容全体が引例として組み入れられている米国特許第5,470,932号及び同第5,662,707号(Jinkerson)は、レンズを通過する近UV及び青色光(300−500ナノメートル)を遮断するかまたはその強さを低下させるために、黄色の色素を眼科用レンズで使用することを開示している。近UVおよび青色光は網膜にとって有害であると考えられており、したがって、IOL中に青色光遮断色素を含むことが、本来の水晶体が取り除かれている場合の網膜保護の損失を回復させると考えられている。本発明の以前には、多焦点IOLに関連付けられることが可能であるグレアおよびハローを減少させるために、近UVおよび青色光遮断色素を使用することは、当業界では知られていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、グレアまたはハローを最小限に抑える多焦点IOLが必要とされ続けている。
【0010】
本発明の目的の1つは、グレアまたはハローを減少させる多焦点眼科用レンズを提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、近UV及び/または青色光を遮断する1つまたは複数の色素を含む多焦点眼科用レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、近UV及び/または青色光の透過を遮断する1つまたは複数の色素を有する多焦点眼科用レンズを提供することによって、従来技術に改良を加えるものである。
【0013】
本発明のこの目的と他の効果及び目的とが、下記の詳細な説明と請求の範囲とから明らかになるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者は、近UV及び/または青色光を遮断する1つ又は複数の色素を多焦点レンズ10、110中に含むことが、多焦点光学(multifocal optics)に関連したグレアおよびハローの減少または除去をもたらすことを発見している。作用のメカニズムは、網膜と水晶体とにより合焦された画像及びデフォーカスされた画像の視線内における光源のRayleigh散乱が、短い波長がより長い波長と比較してより多く散乱させられるので、透過帯域内で不均衡であるというものである。(Rayleighの法則は、λが波長である時に散乱の強度がλ−4に比例していると見なす)。したがって、より短い波長をろ波して除去することは、この散乱を減少させると共に、色収差も減少させる。他のメカニズムの1つは、視線内にはないグレア源に関連した不快が、次の方程式を使用して予測されることが可能であるという照明業界の認識に基づいている。
【0015】
グレア感覚=(Bsn/Bbc)*(ωb/ρd)
前式中で、
Bs=グレア源の輝度、
Bb=背景の輝度、
ω=グレア源に対する立体角
ρ=視線からのグレア源の偏差
視線から外れているグレア源(例えば、隣接車線内の自動車のヘッドライト、または、街路灯)によって引き起こされるグレア感覚を予想するための定数n、b、c、dは、明確には確定されてはいない。Durrant(1977)は、これらの値をn=1.6、b=0.8、c=1、d=1.6として設定した。これらの値を使用することにより、グレア源及び視線の外側の背景源の輝度の短い波長に対する輝度を、25%低減させることが、その短い波長によって引き起こされるグレア感覚のほぼ56%の低減をもたらす。
【0016】
同時視力光学に基づく全ての多焦点IOLは、特に瞳孔が大きく開いている夜間の自動車運転中には、ベール状の、Rayleighの散乱法則に基づいた視線内の光源の合焦画像からのグレアと、同様に視線から外れている光源のグレア効果とを有する。したがって、本発明の青色光遮断及び/または近UV光を遮断する多焦点IOLは、両方のタイプのグレアを解決し、約400ナノメートルから約550ナノメートルの範囲内のより短い波長を選択的にろ波して除去することによって、従来技術に改良を加える。
【0017】
あらゆる多焦点レンズ10または110が本発明で使用されることが可能であり、レンズ10または110が、ポリメチルメタクリレート、シリコーン、軟質アクリル、または、HEMAのような適切な材料のいずれかで作られることが可能である。使用される青色光遮断色素が、レンズ10または110を作るために使用される材料中に共有結合されており、浸出しないことが好ましい。例えば、またレンズ10または110が、軟質アクリルレンズである場合には、米国特許第5,470,932号及び同第5,662,707号(Jinkerson)に開示されている色素が使用可能である。
【0018】
上記記述内容は、例示と説明とのために示されている。本発明の範囲と思想とから逸脱することなしに、本明細書で説明されている通りの本発明に対して変更が加えられることが可能であることが、当業者には明らかだろう。例えば、ろ波されなければならない波長と、同様に減衰の度合いとが、使用されるレンズ材料に応じて異なっている。したがって、410ナノメートル未満の、420ナノメートル未満の、430ナノメートル未満の、440ナノメートル未満の、450ナノメートル未満の、460ナノメートル未満の、470ナノメートル未満の、480ナノメートル未満の、490ナノメートル未満の、500ナノメートル未満の、510ナノメートル未満の、520ナノメートル未満の、530ナノメートル未満の、540ナノメートル未満の、および、550ナノメートル未満の波長を遮断する色素が、本発明と共に使用するのに適しているだろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明と共に使用されることが可能である回折形眼科用レンズの平面図である。
【図2】本発明と共に使用されることが可能である屈折形眼科用レンズの平面図である。
【符号の説明】
【0020】
10 多焦点レンズ
110 多焦点レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多焦点眼科用レンズ中に青色光遮断色素を含ませることを含む、多焦点眼科用レンズに関連したグレアを低減させる方法。
【請求項2】
前記レンズが眼内レンズである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
近UV遮断色素をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
多焦点眼科用レンズ中に近UV及び/または青色光遮断色素を含ませることを含む、多焦点眼科用レンズに関連したグレアを低減させる方法。
【請求項5】
前記レンズが眼内レンズである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
眼の視線内の光源からの550ナノメートル未満の波長の光をろ波して取り除くことを含む、眼内に移植されている多焦点眼科用レンズに関連したグレアを低減させる方法。
【請求項7】
前記光の波長が540ナノメートル未満である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記光の波長が530ナノメートル未満である請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記光の波長が520ナノメートル未満である請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記光の波長が510ナノメートル未満である請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記光の波長が500ナノメートル未満である請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記光の波長が490ナノメートル未満である請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記光の波長が480ナノメートル未満である請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記光の波長が470ナノメートル未満である請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記光の波長が460ナノメートル未満である請求項6に記載の方法。
【請求項16】
前記光の波長が450ナノメートル未満である請求項6に記載の方法。
【請求項17】
前記光の波長が440ナノメートル未満である請求項6に記載の方法。
【請求項18】
前記光の波長が430ナノメートル未満である請求項6に記載の方法。
【請求項19】
前記光の波長が420ナノメートル未満である請求項6に記載の方法。
【請求項20】
前記光の波長が410ナノメートル未満である請求項6に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−181726(P2007−181726A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84487(P2007−84487)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【分割の表示】特願平11−531011の分割
【原出願日】平成10年11月5日(1998.11.5)
【出願人】(594195498)アルコン ラボラトリーズ,インコーポレイティド (3)
【Fターム(参考)】