説明

多発性硬化症の患者における疾患および疾患活性の両方と相関するマーカーとしてのCX3CR1

本発明は、多発性硬化症 (MS) は、明瞭な診断パラメーターを欠如する、臨床的提示および過程の大きい変動により特徴づけられる中枢神経系 (CNS) の自己免疫疾患である。それゆえ、本発明者らは、診断マーカーとしてケモカインレセプターCX3CR1の役割を示す、RNAスクリーンを実施した。遺伝子の発現およびフローサイトメトリー分析は、健康な個体に比較してMS患者において有意に低いCX3CR1の発現を証明した。重要なことには、本発明者らは、また、疾患活性とCX3CR1+ NK細胞の頻度との間の相関を発見した。これらの発見は、MSの進展および過程におけるNK細胞の掛かり合いを強調し、そしてCX3CR1の発現がMS患者および疾患活性のマーカーであることの証拠を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多発性硬化症 (MS) における診断マーカーとしてのケモカインレセプターCX3CR1に関する。遺伝子の発現およびフローサイトメトリー分析は、健康な個体に比較してMS患者においてCX3CR1の発現が有意に低いことを証明した。重要なことには、本発明者らは、また、疾患活性とCX3CR1+ NK細胞の頻度との間の相関を発見した。これらの発見は、MSの進展および過程におけるNK細胞の掛かり合いを強調し、そしてCX3CR1の発現がMS患者および疾患活性のマーカーであることの証拠を提供する。結局、CX3CR1に基づく患者における多発性硬化症 (MS) のin vitro診断法およびそれに関係する面が提供される。
【背景技術】
【0002】
説明
多発性硬化症 (MS) は、西洋の国々における若い成人の重症能力障害の主要な原因を表す中枢神経系 (CNS) の炎症性脱髄疾患である。MSは病因が不明瞭である自己免疫疾患であると考えられるが、疾患の感受性は遺伝学的に決定されるが、開始は環境的因子により支配されることが仮定される (Noseworthy JH、Lucchinetti C、Rodriguez M、Weinshenker BG、Multiple sclerosis. N. Engl. J. Med. 2000、343: 938-952; O’Connor P、Key issues in the diagnosis and treatment multiple sclerosis. An overview. Neurology 2002、59: S1-33) 。
【0003】
MSの多遺伝子的病因および環境的因子との複数の可能な相互作用は、この疾患の表現型的異質性を決定し、医師のMSにおける診断能力および予後能力を大きく複雑化する病気の臨床的提示および過程における莫大な変動性により特徴づけられる。MSの開始時において、MSは回帰-軽減MS (RRMS) および一次進行性MS (PPMS) として分類され、RRMSにおいて急性発作に引き続いて不能状態の前から存在する段階への完全なまたは部分的回復が存在し、そしてPPMSは開始からの疾患の進行性により特徴づけられ、これは時々プラトーにより中断されることがある (Noseworthy JH、Lucchinetti C、Rodriguez M、Weinshenker BG、Multiple sclerosis. N. Engl. J. Med. 2000、343: 938-952; O’Connor P、Key issues in the diagnosis and treatment multiple sclerosis. An overview. Neurology 2002、59: S1-33; Hafler DA、Multiple sclerosis. J. Clin. Invest. 2004、113: 788-794) 。こうして、RRMSおよびPPMSの両方の臨床的表現型において、この疾患の安定期ならびに急性期が発生することがある。
【0004】
MSの特徴を示す遺伝子発現の構造特性を同定する試みにおいて、過去3年間においていくつかの発現の研究が発表された。すべてのこれらの研究において、著者らは、一般にcDNAマイクロアレイ (Ramanathan M、Weinstock-Guttman B、Nguyen LT 他、In vivo gene expression revealed by cDNA arrays: the pattern in relapsing-remitting multiple sclerosis patterns compared with normal subjects. J. Neuroimmunol. 2001、116: 213-219; Maas K、Chan S、Parker J 他、Cutting edge: molecular portrait of human autoimmune disease. J. Immunol. 2002、169: 5-9; Bomprezzi R、Ringner M、Kim S 他、Gene expression profile in multiple sclerosis patients and healthy controls: identifying pathways relevant to disease. Hum. Mol. Genet. 2003、12: 2191-2199) またはDNAマイクロアレイ (Achiron A、Gurevich M、Friedman N、Kaminski N、Mandel M、Blood transcriptional signatures of multiple sclerosis: unique gene expression of disease activity. Ann. Neurol. 2004、55: 410-417; Iglesias AH、Camelo S、Hwang D、Villanueva R、Stephanopoulos G、Dangond F、Microarray detection of E2F pathway activation and other targets in multiple sclerosis peripheral blood mononuclear cells. J. Neuroimmunol. 2004、150: 163-177) を使用して、RRMS患者からの末梢血単核細胞 (PBMC) の遺伝子発現パターンを研究した。
【0005】
MSの診断、予後および/または監視を促進するマーカーを提供する前述の試みにかかわらず、現在入手可能なマーカーの組は不十分である。
【発明の開示】
【0006】
したがって、本発明の目的は、MSを規定するばかりでなく、かつまたMS、特にRRMSまたはPPMSの予後および/または監視において助けとなるさらにマーカーを提供することである。本発明のそれ以上の目的は、前記マーカーに基づいて、MSを診断し、予後しおよび/または監視し、そしてそれらを治療する、それぞれの方法を提供することである。本発明のそれ以上の目的は、安定な疾患の患者の状態 (寛解または回復) とRRMSまたはPPMSにおける活性な疾患 (回帰) 状態とを区別するそれぞれの方法を提供することである。
【0007】
本発明の第1の面において、この目的は下記の工程を含んでなる、多発性硬化症 (MS) の患者のin vitro診断法により解決される: a) 診断すべき患者から生物学的試料を準備し、b) 健康なドナーからの生物学的試料または健康なドナーを示す参照値を準備し、そしてc) 前記試料におけるCX3CR1遺伝子またはタンパク質の発現レベルを決定し、ここで前記健康なドナーに比較して30%、好ましくは40%より大きい相対発現の減少は前記患者におけるMSを示す。参照値は文献 (例えば、それぞれのチャート) および/または以前の実験から採ることができるか、あるいはCX3CR1遺伝子またはタンパク質の発現に関する同一および/または並行のそれぞれの実験または検査から決定することができる。
【0008】
マーカーを同定し、MSの規定ばかりでなく、かつまたその過程の規定を促進する目的で、本発明者らは研究を拡張し、そしてRRMSまたはPPMSを患っている患者、ならびに健康な個体の機能的ゲノムの分析を実施した。本発明者らは、cDNAマイクロアレイ (Li J、Pankratz M、Johnson JA、Differential gene expression patterns revealed by oligonucleotide versus long cDNA arrays. Toxicol. Sci. 2002、69: 383-390) よりも再現性があると考えられる、高密度のオリゴヌクレオチドに基づくDNAマイクロアレイを使用し、そして3つの異なるコホート、RRMSおよびPPMS患者、およびHDにおける12,000遺伝子の発現を分析した。
【0009】
興味深いことには、本発明者らは、RRMS患者/PPMS患者において有意な遺伝子調節を検出しなかったが、対照個体に比較して両方のグループの患者において高度に有意にかつ示差的に調節された6遺伝子を同定することができた。これらの遺伝子の1つはケモカインレセプターCX3CR1 (ケモカイン (C-X3-Cモチーフ) レセプター1、またG-タンパク質結合レセプター13、フラクトアルカイン (fractalkine) レセプターCX3CL1、およびケモカイン (C-C) レセプター様1) をコードし、これは健康な対照に比較したとき、PPMS患者およびRRMS患者の両方において発現の減少を示した。
【0010】
本発明の1つの好ましい態様において、前述した患者における多発性硬化症のin vitro診断法は、CX3CR1遺伝子の相対発現が少なくとも2倍、好ましくは3倍減少することを特徴とする。この発現は、通常、マイクロアレイ設定を使用することによって得られる (また、下記の実施例参照) 。好ましくは、CX3CR1遺伝子の相対発現は少なくとも4倍減少し、最も好ましくはRRMS患者において4.3倍であり、そしてPPMS患者において3.7倍の減少である (図2参照) 。
【0011】
なお好ましい態様において、前述の患者における多発性硬化症のin vitro診断法は、前記生物学的試料において抹消単核細胞 (PBMC) が濃縮されていることを特徴とする。したがって、このような濃縮された画分はより大きい数の特定のグループの細胞型、例えば、単球、Tリンパ球、Bリンパ球、特に樹枝状細胞およびナチュラルキラー (NK) を含有する。
【0012】
本発明のなお他の好ましい態様において、前述の患者における多発性硬化症のin vitro診断法は、前記患者が回帰-軽減MS (RRMS) または一次進行性MS (PPMS) を患っていることを特徴とし、RRMSにおいて急性発作に引き続いて不能状態の前から存在する段階への完全なまたは部分的回復が存在し、そしてPPMSは開始からの疾患の進行性により特徴づけられ、これは時々プラトーにより中断されることがある。こうして、RRMSおよびPPMSの両方の臨床的表現型において、この疾患の安定期なならびに急性期が発生することがある。
【0013】
RRMSおよびPPMSの臨床的表現型はさらに下記の文献に記載されている: Rovaris M、Filippi M. (MR-based technology for in vivo detection, characterization, and quantification of pathology of relapsing-remitting multiple sclerosis. J. Rehabil. Res. Dev. 2002、Mar-Apr、39 (2): 243-59) およびUkkonen M、Elovaara I、Dastidar P、Tammela TL. (Urodynamic findings in primary progressive multiple sclerosis are associated with increased volumes of plaques and atrophy in the central nervous system. Acta Neurol. Scand. 2004 Feb、109 (2): 100-5) ならびにBoylan MT、Crockard AD、McDonnell GV、McMillan SA、Hawkins SA. (Serum and cerebrospinal fluid soluble Fas levels in clinical subgroups of multiple sclerosis. Immunol. Lett. 2001 Oct 1、78 (3): 183-7) およびKurtzke JF. (Clinical definition for multiple sclerosis treatment trials. Ann. Neurol. 1994、36 Suppl.: S73-9) 。
【0014】
本発明のなお他の好ましい態様において、前述の患者における多発性硬化症のin vitro診断法は、遺伝子の発現がそれぞれRRMSおよびPPMSを患っている患者において少なくとも30%および少なくとも50%減少することを特徴とする。この発現は、通常、rtPCR (逆転写ポリメラーゼ連鎖反応) またはTaqMan(商標)設定 (また、下記の実施例参照) を使用することによって得られる。それぞれRRMSおよびPPMSを患っている患者において、少なくとも35%および少なくとも55%は好ましい。それぞれ、RRMS及びPPMSに患っている患者において、少なくとも40%及び少なくとも57%が最も好ましい。
【0015】
驚くべきことには、本発明によるマーカーは、例えば、所属医師による疾患の進行の監視の改良を可能とする。本発明の関係において、MSの 「安定な」 疾患期は、特に臨床的表現型RRMSおよびPPMSの場合において、MSを患っている患者について決定される診断パラメーター (本明細書中に引用されたそれぞれの刊行物、例えば、上記参照) 、すなわち、不能状態の前から存在する段階への完全なまたは部分的回復に基づいて、寛解または回復として定義することができる。さらに、安定な疾患期は、また、自然に起こるか、あるいは患者の適当な治療に通して起こるかどうかにかかわらず、診断パラメーターの定常状態、すなわち、疾患の進行の停止または休止を包含する。
【0016】
適当な安定な疾患期と対照的に、MSの 「急性」 疾患期は、特に臨床的表現型RRMSおよびPPMSの場合において、MSを患っている患者について測定される診断パラメーター (本明細書中に引用されたそれぞれの刊行物、例えば、上記参照) に基づいて決定される疾患の、例えば、回帰の形態の、急性 (進行する) 悪化として本明細書において定義される。前記パラメーターの1つは、疾患の進行間に形成する病変の発生 (病変が表現型的に可視であるか否かにかわらず) であろう。
【0017】
本発明の特に好ましい態様において、患者における急性および/または安定な多発性硬化症のin vitro診断法は下記の工程を含んでなる: a) 診断すべき患者からNK細胞が濃縮した生物学的試料を準備し、そしてb) 前記試料におけるCX3CR1タンパク質の発現を決定し、ここでNK細胞の15%より高いCX3CR1タンパク質の発現は前記患者における急性 (活性) MSを示す。好ましくは、前記患者は、安定な疾患 (寛解または回復) 期または活性疾患 (回帰) 期におけるRRMSを患っているとして診断されることを特徴とする。
【0018】
本発明のなお他の好ましい態様において、前述の患者における多発性硬化症のin vitro診断法は、前記CX3CR1遺伝子またはタンパク質の発現を決定することを含んでなり、前記決定はマイクロアレイ分析、リアルタイムPCRおよび/またはフローサイトメトリー分析を含んでなる。遺伝子またはタンパク質の発現を決定する他の方法はこの分野において知られており、そしてそれぞれの文献から入手することができ、これらの方法、例えば、抗原に基づく試験法を適用することもできる。
【0019】
本発明の他の特に好ましい態様において、前述の患者における多発性硬化症のin vitro診断法において、前記生物学的試料は全血または血清であり、そして前記CX3CR1タンパク質の発現の分析はフローサイトメトリー分析を含んでなる。好ましくは、このようなフローサイトメトリー分析は、抗CD3 FITC/抗CD56CD16PE、抗CD3/抗CD4または抗CD3/抗CD8を使用する染色を含んでなる。
【0020】
本発明のなお他の好ましい態様において、前述の患者における多発性硬化症のin vitro診断法は少なくとも1〜4回/年実施される。もちろん、前記方法を実施する実際のスキームは、例えば、診断および/または監視される患者の特定の状態に基づいて、所属医師により決定されるであろう。頻度は、再び、診断および/または監視される患者の特定の状態に依存して増減することができる。
【0021】
本発明の他の面は、下記の工程を含んでなる、患者における多発性硬化症の治療法に関する: a) 前述の方法を実施し、そしてb) 投薬を必要とする患者に適当な投薬を装備する。このような投薬は、この分野において知られているMSのすべての適当な療法、例えば、インターフェロン、スタチン類 (statins) 、免疫調節剤、例えば、ミトキサントロン (mitoxantrone) 、ステロイド、中和性抗体および/またはハチの毒液およびそれらの組合わせを含んでなることができる。患者における多発性硬化症の前記治療法の1つの態様において、前記患者は急性RRMSまたはPPMSを患っている。
【0022】
本発明の他の好ましい面は、前述の方法を実施するために適当な材料および化合物を含んでなるキットに関する。前記材料は一般にこの分野において知られており、そして化学物質、緩衝剤、使い捨て試験装置、箔パック、前記試験キット、緩衝剤、抗体、色チャート、健康なドナーからの参照血液または血清の使用説明書、およびプラスチック材料、例えば、皿および管から選択することができる。前記キットが治療点 (point-of-care) の分析に適当な材料および化合物を含んでなる、前述のキットはより好ましい。治療点の分析は、通常、試験を実施する患者に近接する、臨床研究所の物理的設備の外側で実施される試験として定義される。POC試験の中心となる特徴は、それが永久的、手の込んだ空間を必要としないことである。
【0023】
最後に、本発明の他の好ましい面は、健康な個体とMS患者とを区別しおよび/または急性MS疾患期および安定なMS疾患期を区別するためにCX3CR1の発現を使用することに関し、ここで本発明の他の面について前述したのと同一の考慮が適用される。特に、本明細書に記載する患者における多発性硬化症を診断および/または監視するin vitro法は、少なくとも1〜4回/年実施される。もちろん、前記方法を実施する実際のスキームは、例えば、診断および/または監視される患者の特定の状態に基づいて、所属医師により決定されるであろう。頻度は、再び、診断および/または監視される患者の特定の状態に基づいて、増減することができる。
【0024】
本発明によるマーカーは、所属医師による疾患の進行の監視の改良を可能とする。重要なことには、急性の病理学的プロセスが外部の現象により直接可視でない場合でさえ、治療を開始することができる。診断のために、マーカーの発現は患者の血液または血清およびFACS決定に基づいて容易に測定することができる。現在まで、疾患の診断ならびに表現型的に可視ではない病変の診断は、非常に高価なMRT検査によってのみ達成することができる。こうして、安価でありかつおだやかであるが、有効である検査法が高度に要求されている。
【0025】
CX3CR1は、フラクトアルカインのユニークレセプター (CX3CL1) 、すなわち、可溶性の表面結合した形態で存在するケモカインであり (Bazan JF、Bacon KB、Hardiman G 他、A new class of membrane-bound chemokine with a CX3C motif. Nature 1997、385: 640-644) 、そして白血球の化学走性および接着の両方を仲介する (Fong AM、Robinson LA、Steeber DA 他、Fractalkine and CX3CR1 mediate a novel mechanism of leukocyte capture, firm adhesion, and activation under physiologic flow. J. Exp. Med. 1998、188: 1413-1419; Haskell CA、Cleary MD、Charo IF、Molecular uncoupling of fractalkine-mediated cell adhesion and signal transduction. Rapid flow arrest of CX3CR1-expressing cells is independent of G-protein activation. J. Biol. Chem. 1999、274: 10053-10058) 。
【0026】
CX3CR1は単球、NK細胞および活性化T細胞、優先的にTh1様細胞上で発現される (Fraticelli P、Sironi M、Bianchi G 他、Fractalkine (CX3CL1) as an amplification circuit of polarized Th1 responses. J. Clin. Invest. 2001、107: 1173-1181) が、B細胞上で発現されない (Nishimura M、Umehara H、Nakayama T 他、Dual functions of fractalkine/CX3C ligand 1 in trafficking of perforin+ /granzyme B+ cytotoxic effector lymphocytes that are defined by CX3CR1 expression. J. Immunol. 2002、168: 6173-6180) 。
【0027】
その上、それは高いレベルの細胞内パーフォリンおよびグランザイムBを含有する細胞障害性リンパ球上で発現され、細胞障害性エフェクターリンパ球 (Nishimura M、Umehara H、Nakayama T 他、Dual functions of fractalkine/CX3C ligand 1 in trafficking of perforin+ /granzyme B+ cytotoxic effector lymphocytes that are defined by CX3CR1 expression. J. Immunol. 2002、168: 6173-6180) および前炎症性Th細胞 (Fraticelli P、Sironi M、Bianchi G 他、Fractalkine (CX3CR1) as an amplification circuit of polarized Th1 responses. J. Clin. Invest. 2001、107: 1173-1181) の移動における掛かり合いを示唆する。これらの細胞はMSの病原性において特に重要であると考えられるので、本発明者らはMS患者におけるサイトカインレセプターCX3CR1の役割の研究に集中した。
【0028】
Sunnemark 他 (Sunnemark D、Eltayeb S、Wallstrom E、Appelsved L、Malmberg A、Lassmann H、Ericsson-Dahlstrand A、Piehl F、Olsson T、Differential expression of the chemokine receptors CX3CR1 and CCR1 by microglia and macrophages in myelin-oligodendrocyte-induced experimental autoimmune encephalomyelitis. Brain Pathol. 2003 Oct、13 (4): 617-29) は、ラットミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質誘導実験的自己免疫性脳脊髄炎における、それぞれケモカインCCL3/CCL5/CCL7 (MIP-1α/RANTES/MCP-3) およびCX3CL1 (フラクトアルカイン) 、CCR1およびCX3CR1に対するレセプターのin vivo発現に関する研究を記載している。
【0029】
in situハイブリダイゼーションおよび免疫組織化学の組合わせは、初期の活性的に脱髄性プラークにおけるCCR1 mRNAの発現を強くアップレギュレートしたが、CX3CR1はいっそう一般化した発現パターンを表示した。彼らは小グリア細胞誘導マクロファージと単球誘導マクロファージとの間の示差的レセプター発現を示唆し、そして主として後者の細胞型が活性脱髄の原因となることを示唆している。これは脱髄性疾患、例えば、多発性硬化症における治療的における関与の可能性に対して、例えば、単球リクルートメントに導くシグナリング事象をターゲッティングすることによって、大きい関連性を有する。Sunnemark 他は、いっそう一般化した発現パターンのために、診断マーカーとしてCX3CR1を使用することを教示していない。
【0030】
オリゴヌクレオチドアレイを使用して、本発明者らは、健康な個体に比較してMS患者のPBMCにおいて示差的に発現される17の遺伝子を同定した。それらのうちの16はRRMSにおいて特異的に調節され、そして1つはHDに比較してPPMS患者においてのみ示差的に発現された。発現が増加した遺伝子は下記に関係づけられた: (1) 細胞の周期および活性化、(2) 化学走性、接着および内皮貫通移動、(3) 細胞内輸送機構および他の細胞プロセス。発現が減少した遺伝子は、他方において、インターフェロンに対する応答に関係づけられ、そしてB細胞応答の調節に関係づけられた (図1) 。患者のグループ中の男女を比較することによって、MS患者において観察された遺伝子の発現構造は性依存性でないことを本発明者らは証明した (データは示されてない) 。RRMS患者において示差的に調節された16遺伝子のうちで、6遺伝子はPPMSにおいて同様に発現された。
【0031】
MS患者におけるCX3CR1遺伝子およびタンパク質の発現の減少 - マイクロアレイ分析を使用して得られたデータは、サイトカインレセプターCX3CR1の発現が、HDと比較したとき、RRMSおよびPPMSの両方のPBMCにおいて減少することを示す。レセプターの相対発現 (HDに関係する) は、RRMSにおいて-4.9でありそしてPPMSにおいて-3.3であった (図2A) 。これらの結果を確認するために、リアルタイムrtPCRを使用して拡張した患者およびHDコホートにおいてCX3CR1の遺伝子の発現を検査し (HD n = 28; RRMS患者n = 25; およびPPMS n = 20) および他の19人のRRMS患者対19人のHDにおいてフローサイトメトリー分析を使用してタンパク質の発現を検査した (表1Cに含まれている) 。
【0032】
図2Bおよび第2C図にプロットしたデータ (平均相対発現 + SEM) により、対照個体に比較してMS患者は減少したCX3CR1遺伝子の発現 (図2B) およびタンパク質の発現 (図2C) を示すことが確認される。遺伝子の発現は、HDと比較したとき、それぞれRRMSおよびPPMSからのPBMCが40%および57%減少した。タンパク質の分析のために、リンパ球 についてCX3CR1の発現が58%減少するRRMSの患者に集中した (図2C) 。
【0033】
MS患者のNK細胞上のCX3CR1の発現は減少したが、細胞障害性T細胞上では減少しない - マルチパラメーターフローサイトメトリー分析を使用して、CX3CR1の発現がMS患者のすべてのリンパ球においてダウンレギュレートされるかどうか、またはそれは特定のリンパ球の下位集団の特徴を示すかどうかを研究した。NK細胞、CD4+ T細胞およびCD8+ 細胞障害性T細胞上のCX3CR1の発現を分析して、発現はNK細胞上でのみ減少するが、CD4+ またはCD8+ T細胞上で減少しないことが示された (図3Aおよび図3B) 。CD4+ T細胞上のレセプターの発現は、患者および健康な対照の両方においてほとんど検出不可能であった (図3B) 。
【0034】
臨床的症状発現とCX3CR1発現との間の相関 - RRMS患者およびHDにおけるCX3CR1の詳細な分析において、健康な個体の約72%がNK細胞上で通常の量のCXCR1を発現した (パイチャートの暗色セクター) が、彼らの28%は低いまたは検出不可能なレベルのレセプターを発現した (チャートのハッチングセクター) 。他方において、患者の分布は正確に対抗し、患者のほぼ70%はNK細胞上でレセプターのわずかな発現を示すか、あるいは発現を示さなかったが、他の30%は健康な集団の発現に匹敵する発現を示した (図4A) 。 「正常の」 レセプター発現を示す患者の30%の大部分は共通の臨床的特性を共有し、活性な疾患期にあったが、低い発現を示す患者は安定な状態であることが観察された。
【0035】
こうして、次の目的は、レセプターの発現が臨床的症状発現と実際に相関するか否かを確立することであった。したがって、NK細胞上のCX3CR1発現の分析を追加の健康な個体および十分に特性決定されたRRMS患者に拡張した。患者の臨床的特徴およびCX3CR1+ NK細胞の頻度を表2に要約する。これらから確認されるように、疾患が安定である患者の大部分 (92%) はNK細胞上で非常に低いCX3CR1の発現を示したが、急性回帰を患っているか、あるいはガドリニウム (Gd) 増強磁気共鳴 (MR) の病変を有する患者の大部分 (89%) はレセプター発現の増加を示した。
【0036】
患者のデータは、健康な個体におけるレセプター発現の平均と一緒に、図4Bにプロットされている。この図面が示すように、活性疾患を有する患者におけるCX3CR1+ NK細胞の頻度は健康な対照におけるそれらの細胞の頻度に匹敵し、安定な患者におけるよりも4倍高い (図4B) 。
【0037】
RRMS患者およびPPMS患者の両方について、大規模の遺伝子の発現の分析および定量的リアルタイムrtPCRを使用してマーカー遺伝子を同定した。cDNAマイクロアレイを使用して実施した他の発現分析と一致して、本発明の発見はMSにおける免疫および細胞周期に関係する遺伝子の役割を強調し (Ramanathan M、Weinstock-Guttman B、Nguyen LT 他、In vivo gene expression revealed by cDNA arrays: the pattern in relapsing-remitting multiple sclerosis patients compared with normal subjects. J. Neuroimmunol. 2001、116: 213-219; Maas K、Chan S、Parker J 他、Cutting edge: molecular portrait of human autoimmune disease. J. Immunol. 2002、169: 5-9; Bomprezzi R、Ringner M、Kim S 他、Gene expression profile in multiple sclerosis patients and healthy controls: identifying pathways relevant to disease. Hum. Mol. Genet. 2003、12: 2191-2199) 、その上、この疾患における移行に関係する機構の掛かり合いを強調する (図1) 。
【0038】
化学誘引プロセスに関係する1つのこのような遺伝子はCX3CR1遺伝子であった。CX3CR1は細胞障害性NK細胞およびCD8+ T細胞およびCD4+ Th1細胞上で発現される。そのリガンド、すなわち、フラクトアルカイン (CX3CL1) は、なかでも、内皮細胞により産生される。CX3CL1の発現は前炎症条件下に、例えば、IFN-γの存在下に増加し、ここでIFN-γは炎症においてCX3CR1+ 細胞の移行を促進する (Yoneda O、Imai T、Nishimura M 他、Membrane-bound form of fractalkine induces IFN-gamma production by NK cells. Eur. J. Immunol. 2003、33: 53-58) 。
【0039】
ここで、MS患者からのPBMCが、健康な個体と比較したとき、減少した頻度のCX3CR1陽性単核細胞を含有することを示す。この減少した発現はRNAレベルおよびタンパク質レベルの両方で観測され、NK細胞にもっぱら影響を与え、細胞障害性T細胞集団に影響を与えなかった。CX3CR1+ NK細胞は高いレベルでCD57、CD11bおよびCD11aを発現し、そしてパーフォリンおよびグランザイムを含有する細胞内細胞障害性顆粒を大量に有する (Nishimura M、Umehara H、Nakayama T 他、Dual functions of fractalkine/CX3C ligand 1 in trafficking of perforin+ /granzyme B+ cytotoxic effector lymphocytes that are defined by CX3CR1 expression. J. Immunol. 2002、168: 6173-6180) 。
【0040】
これにより示されるように、これらの細胞は細胞障害性エフェクター集団を表し、この集団は炎症組織に移動することができ、異なる障害、例えば、アテローム性動脈硬化症、腎疾患または慢性関節リウマチの病理学に関係づけられる (Umehara H、Bloom ET、Okazaki T、Nagano Y、Yoshie O、Imai T. Fractalkine in vascular biology: from basic research to clinical disease. Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 2004、24: 34-40) 。
【0041】
MSにおいて、CX3CL1/CX3CR1経路の役割は知られていない。回帰を患っているMS患者は、CNSの他の炎症性疾患を有する患者およびCNSの非炎症性疾患を有する他の患者と比較したとき、血清中のCX3CL1のレベルが顕著に増加していることが報告された (Kastenbauer S、Koedel U、Wick M、Kieseier BC、Hartung HP、Pfister HW、CSF and serum levels of soluble fractalkine (CX3CL1) in inflammatory diseases of the nervous system. J. Neuroimmunol. 2003、137: 210-217) 。
【0042】
CNSにおいて、CX3CL1はニューロンおよび星状膠細胞により発現されるが、レセプターはニューロン、小グリア細胞および星状膠細胞上で発現される (Hatroi K、Nagai A、Heisel R、Ryu JK、Kim SU、Fractalkine and fractalkine receptors in human neurons and glial cells. J. Neurosci. Res. 2002、69: 418-426. Hulshof S、van Haastert ES、Kuipers HF 他、CX3CL1 and CX3CR1 expression in human brain tissue: noninflammatory control versus multiple sclerosis. J. Neuropathol. Exp. Neurol. 2003、62: 899-907) 。
【0043】
CX3CL1は前炎症条件下にアップレギュレートされることができるが、齧歯類CNSにおける急性炎症の誘導はリガンドおよびレセプターの脳における発現に影響を与えず (Hughes PM、Botham MS、Frentzel S、Mir A、Perry VH、Expression of fractalkine (CX3CL1) and its receptor, CX3CR1, during acute and chronic inflammation in the rodent CNS. Glia 2002、37: 314-327) 、これまで脳組織におけるCX3CL1発現の差は対照患者とMS患者との間において検出されてきていない (Hulshof S、van Haastert ES、Kuipers HF 他、CX3CL1 and CX3CR1 expression in human brain tissue: noninflammatory control versus multiple sclerosis. J. Neuropathol. Exp. Neurol. 2003、62: 899-907) 。
【0044】
CX3CR1+ NK細胞はもっぱら自然に細胞障害性CD56(dim) NK細胞であり、そして免疫調節能力を有する集団を表さない (Cooper MA、Fehniger TA、Caligiuri MA、The biology of human natural killer-cell subsets. Trends Immunol. 2001、22: 633-640) 。本発明において証明されたCX3CR1+ NK細胞の頻度の減少は、MS患者における欠陥のある細胞障害性エフェクターNK細胞集団の存在を意味し、MSにおける欠陥のあるNK細胞の活性のいくつかの報告を確証する (Benczur M、Petranyl GG、Palffy G 他、Dysfunction of natural killer cells in multiple sclerosis: a possible pathogenetic factor. Clin. Exp. Immunol. 1980、39: 657-662; Neighbour PA、Grayzel AI、Miller AE、Endogenous and interferon-augmented natural killer cell activity of human peripheral blood mononuclear cells in vitro. Studies of patients with multiple sclerosis, systemic lupus erythematosus or rheumatoid arthritis. Clin. Exp. Immunol. 1982、49: 11-21; Hirsch RL、Johnson KP、Natural killer cell activity in multiple sclerosis patients treated with recombinant interferon-alpha 2. Clin. Immunol. Immunopathol. 1985、37: 236-244; Vranes Z、Poljakvic Z、Marusic M、Natural killer cell number and activity multiple sclerosis. J. Neurol. Sci. 1989、94: 115-123; Kastrukoff LF、Morgan NG、Zecchini D 他、A role for natural killer cells in the immunopathogenesis of multiple sclerosis. J. Neuroimmunol. 1998、86: 123-133; Baxter AG、Smyth MJ、The role of NK cells in autoimmune disease. Autoimmunity 2002、35: 1-14) 。
【0045】
さらに、Kastruhoff 他は、寛解間のNK細胞活性の増加について報告したが、回帰前に機能的活性の減少が存在した (Kastruhoff LF、Lau A、Wee R、Zecchini D、White R、Paty DW、Clinical relapses of multiple sclerosis are associated with ‘novel’ valleys in natural killer cell functional activity. J. Neuroimmunol. 2003、145: 103-114) 。NK細胞は免疫応答および自己免疫プロセスの進展を調節するために必須であるように思われる (Horwitz DA、Gray JD、Ohtsuka K、Hirokawa M、Takahashi T、The immunoregulatory effects of NK cells: the role of TGF-beta and implications for autoimmunity. Immunology Today 1997、18: 538-542; Heusel JW、Ballas ZK、Natural killer cells: emerging concepts in immunity to infection and implications for assessment of immunodeficiency. Curr. Opin. Pediatr. 2003、15: 586-593) 。
【0046】
それらの免疫調節特性はMSのマウスモデル、実験的脳脊髄炎 (EAE) において証明され、ここでNK細胞は多分自己免疫性に対する保護に関係づけられる (Zhang B、Yamamura T、Kondo T、Fujiwara M、Tabira T、Regulation of experimental autoimmune encephalomyelitis by natural killer (NK) cells. J. Exp. Med. 1997、186: 1677-1687) 。
【0047】
なお、慢性関節リウマチの患者において、CD8+ T細胞上でCX3CR1発現の増加が発見された (Ruth JH、Rottman JB、Katschke KJ, Jr. 他、Selective lymphocyte chemokine receptor expression in the rheumatoid joint. Arthritis Rheum. 2001、44: 2750-2760; Nanki T、Imai T、Nagasaka K 他、Migration of CX3CR1-positive T cell producing type 1 cytokines and cytotoxic molecules into the synovium of patients with rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum. 2002、46: 2878-2883) が、全身性エリテマトーデスおよび乾癬の患者はそれぞれTリンパ球およびNK細胞上のレセプターの正常の発現を示す (Amoura Z、Combadiere C、Faure S 他、Roles of CCR2 and CXCR3 in the T cell-mediated response occurring during lupus flares. Arthritis Rheum. 2003、48: 3487-3496; Echigo T、Hasegawa M、Shimada Y、Takehara K、Sato S、Expression of fractalkine and its receptor, CX3CR1, in atopic dermatitis: possible contribution to skin inflammation. J. Allerg. Clin. Immunol. 2004、113: 940-948) 。
【0048】
これらの事実が示すように、リンパ球上の示差的CX3CR1発現は一般に炎症性自己免疫疾患を伴う現象ではなく、むしろMSに対して特異的である。NK細胞上のCX3CR1発現は安定なRRMSにおいて全体的に減少したが、CX3CR1+ NK細胞の頻度は健康な個体において検出されるものに比較して回帰期または活性期間に増加さえした。患者における規則的CX3CR1発現は急性回帰および/またはガドリニウム増強性磁気共鳴病変の存在と明らかに相関した (表2および図4) 。
【0049】
これまで、MS患者におけるNK細胞サブセットの正確な役割は解明されていない。最近、Takahashi 他は、臨床的寛解に関係づけられるNK細胞がCD95陽性であり、2型サイトカインを産生し、自己反応性細胞を阻害できることを示した (Takahashi K、Miyake S、Kondo T 他、Natural killer type 2 bias in remission of multiple sclerosis. J. Clin. Invest. 2001、107: R23-29; Takahashi K、Aranami T、Endoh M、Miyake S、Yamamura T、The regulatory role of natural killer cells in multiple sclerosis. Brain 2004、127: 1917-1927) 。対照的に、CX3CR1+ NK細胞は1型サイトカインを産生することが知られている。こうして、ここで報告した回帰間のCX3CR1+ NK細胞の増加は、疾患の増悪についてNK細胞の前炎症性サブセットの重大な役割を示すことがある。
【0050】
要約すると、本発明において証明されたように、MS患者、特にRRMS患者からのNK細胞上のCX3CR1発現は疾患の活性に依存し、そして特に安定なRRMS疾患過程を有する患者において減少する。これらの結果はMSにおける、生得的免疫性の重要な役割、特にNK細胞の役割を確証しかつ強調し、そして、より重要なことには、NK細胞の活性を監視しかつMS診断を促進する、免疫学的パラメーターとしてばかりでなく、かつまた疾患過程を監視しかつ疾患の診断を支持する信頼性ある道具として、CX3CR1+ NK細胞を定量することを提案する。
【0051】
この説明、特許請求の範囲および/または添付図面において開示する特徴は、別々にかつ組合わせて、それらの多様な形態で本発明を実現する材料であることができる。下記の実施例および添付図面に基づいて、本発明をさらに説明する。
【0052】
図1は、多発性硬化症において示差的に発現された遺伝子の機能的分類を示す。遺伝子は、方法において説明する選択法に従い選択した。2より大きい発現カットオフを使用して、MS患者において示差的に調節された合計17の遺伝子が同定された。この図面は、HDに対してMS患者における発現が増加した (右) および発現が減少した (左) 同定された遺伝子の機能的グループ化を示す。各グループの遺伝子の数を表示する。
【0053】
図2は、MSを有する患者からの末梢血単核細胞におけるCX3CR1発現を示す。(A) ダイヤグラムは、それぞれ10人のRRMS患者 (左のグラフ) および8人のPPMS患者 (右のグラフ) についてのマイクロアレイから得られたCX3CR1遺伝子の発現の結果を表示する。各患者について、12の対方法比較の平均発現 (特定の患者対12人の健康な対照) を示す。各ダイヤグラムの右部分のハッチング棒は、それぞれ10人のRRMS患者および8人のPPMS患者の平均発現を表す。(B) リアルタイムrtPCRを使用して、28人の健康な個体、25人のRRMS患者および20人のPPMS患者からのPBMC上のCX3CR1遺伝子の発現を分析した。データをハウスキーピング遺伝子、18S rRNAに対して正規化し、平均相対発現 + SEMとして表す。有意p値 (< 0.05) を星印 (*) で示す。(C) 19人のRRMS患者および19人の健康な個体からのPBMCについて実施したフローサイトメトリー分析により、CX3CR1タンパク質の発現を定量した。データを平均タンパク質発現 + SEMとして表す。星印 (*) は有意p値 (< 0.05) を示す。
【0054】
図3は、MS患者においてNK細胞上のCX3CR1の発現が減少するが、細胞障害性Tリンパ球上で減少しないことを示す。RRMS患者および健康な個体からのPBMCについて実施したフローサイトメトリー分析により、CX3CR1タンパク質の発現を定量した。(A) ドットプロットが証明するように、MS患者およびHDからのCD8+ T細胞上のCX3CR1発現は同様であるが、NK細胞上のレセプター発現はMS患者において減少する。CX3CR1および対応するアイソタイプの染色をx軸に示し、そしてCD8およびNK細胞の染色をy軸に示す。結果はいくつかの染色分析を表す。(B) この図面はHD (明るい棒) 対MS患者 (暗い棒) におけるNK細胞、CD8+ T細胞およびCD4+ T細胞上のCX3CR1発現の定量を示す。y軸はCX3CR1陽性細胞の頻度を示す。19人のHDおよび19人の患者からの平均発現 + SEMとしてデータを示す。星印 (*) は有意p値 (< 0.05) を示す。
【0055】
図4は、MS患者からのNK細胞上のCX3CR1発現が疾患の活性間に増加することを示す。MS患者からのNK細胞上のCX3CR1発現をフローサイトメトリー分析により定量した。(A) パイチャートはわずかのCX3CR1を発現するNK細胞の頻度 (ハッチングセクター) 対大量のCX3CR1を発現するNK細胞の頻度 (暗色セクター) を示す。このダイヤグラムが証明するように、患者およびHDはNK細胞サブグループの逆分布を表す: HDと反対に、患者の30%は規則的CX3CR1+ NK細胞の集団を表示するが、患者の70%はCX3CR1発現が減少したNK細胞集団を示す。(B) 規則的CX3CR1+ NK細胞の集団を表示する患者は、活性疾患を有する患者、すなわち、急性回帰を患っている患者またはガドリニウム増強性MR病変を有する患者である (暗い棒) が、安定な疾患過程を有する患者はCX3CR1+ NK細胞の頻度が減少している (ハッチング棒) 。y軸はCX3CR1陽性細胞の頻度を示す。28人のHD、13人の安定な患者および9人の活性疾患を有する患者からの平均発現 + SEMとしてデータを示す。星印 (*) は有意p値 (< 0.05) を示す。
【実施例】
【0056】
患者および対照個体
n = 10 RRMS患者およびn = 8 PPMS患者ならびにn = 12 健康な対照個体において、オリゴヌクレオチドマイクロアレイを使用して、RNAレベルを監視した (表1A) 。マイクロアレイのデータを確証するために、n = 25 RRMS患者、n = 20 PPMS患者およびn = 28 健康なドナー (HD) から成る拡張したコホート (表1B) を構成して、リアルタイムrtPCRによりCX3CR1の発現を分析した。19人のRRMS患者 (彼らのうちの15人はリアルタイムrtPCR分析に含めた患者と異なっていた) および19人のHD (彼らのうちの14人はリアルタイムrtPCR分析に含めたHDと異なっていた) のコホートにおいて、マルチパラメーター血球計算分析を実施した (表1C) 。22人のRRMS患者 (彼らのうちの7人は第1血球計算分析に含めた患者と異なっていた) および28人のHD (彼らに対して9人の追加のHDを第1血球計算分析に含めた) のコホートにおいて、疾患活性と血球計算データとの間の相関の分析を実施した (表1D) 。
【0057】
回帰軽減 (RRMS) または一次慢性進行性 (PPMS) 過程を有する臨床的に明確に限定されたMS患者 (McDonald WI、Compston A、Edan 他、Recommended diagnostic criteria for multiple sclerosis: guideline from the International Panel on the diagnosis of multiple sclerosis. Ann. Neurol. 2001、50: 121-127) を大学病院チャリテの神経免疫学研究所 (the Institute of Neuroimmunology of the University Hospital Charite) に登録した。
【0058】
患者 (患者12を除外する) は免疫調節治療を受けず、静脈穿刺前の少なくとも6週間、ステロイドで治療されなかった。拡張された不能状態の目盛り (Expanded Disability Status Scale) (EDSS) (Kurtzke JF、Rating neurologic impairment in multiple sclerosis: an expanded disability status scale (EDSS). Neurology 1983、33: 1444-1452) は、RRMS症例において0〜4およびPPMS患者において1.5〜8であった。患者の特徴を表1に記載する。
【0059】
患者およびランダムに選択した健康なドナーの抹消血試料を、本発明において使用するためにインフォームドコンセントで得た。
RNA分析のために、LymphoprepTM密度勾配遠心 (Nycomed Pharma、デンマーク国ロスキルド) を使用して患者およびHDのPBMCを新鮮な血液から単離し、次いで後のRNA調製のために液体窒素中で冷凍保存した。キット (RNeasy(商標) Midi Kit、Qiagen、米国カリフォルニア州サンタクラリタ) を製造業者の使用説明書に従い使用して、約6〜7×106のPBMCからRNAを抽出した。
【0060】
マイクロアレイ分析
5’ T7 RNAポリメラーゼプロモーター配列を含む修飾されたオリゴ-dTプライマーおよびcDNA合成システム (Superscript Choice、Life Technologies、米国ニューヨーク州) を使用して、10 μgの全RNAを二本鎖cDNAに転化した。ATP、CTP、GTP、ビオチン-11-CTPおよびビオチン-16-UTPの混合物 (ENZO Diagnostics、米国ニューヨーク州ファーミングダーレ) の存在下にT7 RNAポリメラーゼ (T7 Megascript kit、Ambion) および0.5〜1 μgの二本鎖cDNAテンプレートを使用して、in vitro転写を実施した。40 mMのTris-アセテートpH 8.1、100 mMのK+アセテートおよび30 mMのMg2+アセテート中で94℃において35分間インキュベートすることによって、20 μgのcRNAをランダムにフラグメント化した。
【0061】
3工程の染色およびストレプトアビジン-フィコエリトリン (SAPE) 、ビオチニル化抗ストレプトアビジン抗体を使用する増幅手順、および最終SAPE工程を含む、標準的調製プロトコル (Mahadeyappa M、Warrington JA、A high-density probe array sample preparation method using 10- to 100-fold fewer cells. Nature Biotechnol. 1999、17: 1134-1136) に従い、ヒトゲノムU95Aアレイ (Affymetrix、米国カリフォルニア州サンタクララ) をハイブリダイゼーションし、洗浄し、そして染色した。
【0062】
共焦点スキャナー (Affymetrix) を使用して、個々のオリゴヌクレオチドプローブについて蛍光強度を決定した。患者/HDグループにおいて示差的に調節された遺伝子を同定するために、2つのグループ (RRMS対HD、PPMS対HD、PPMS対RRMS) の個々の試料間で複数の対方法比較を実施した。商業的に入手可能なデータ圧縮アルゴリズム (Expressionist form GeneData、スイス国バーゼル) を使用して、グループ方法比較のためのp値を計算した。いずれかの方向における調節を示す比較の数として、各遺伝子の結果を表した。対方法比較が1.3の任意のカットオフ値を超える場合にのみ、対方法比較を考慮した。
【0063】
最も代表的な示差的に発現された遺伝子を選択するために、2つの異なる選択法を適用した。第1は数値の基準に基づき、個々の対方法比較の≧又は75%において等しく調節された (上下) 遺伝子を選択し、1以下の個体 (患者またはHD) において反対の傾向との≦又は5の対方法比較を可能とした。第2 の方法は、MS病態生理学に関係するすべての遺伝子の中から選択を実施することである。ここで、複数の対方法比較後、各患者における調節の平均値を使用した。同一方向の調節は、HDに比較して、10 RRMS患者のうちの≧又は7または8 PPMS患者のうちの≧又は6において必要とされ、ただ1人の患者において反対の傾向を可能とした (上下の調節) 。第1 (数値) または第2 (問題の遺伝子) の基準を適用した後選択した、これらのグループの遺伝子から2より大きい (上下) 相対発現を示す遺伝子のみを選択した。
【0064】
定量的リアルタイムrtPCR
TaqMan(商標)逆転写試薬 (Perkin Elmer、カリフォルニア州フォスターシティー) を製造業者の使用説明書に従い使用して、全RNAをランダムヘキサマーでcDNAに逆転写した。配列検出システム (ABI Prism(商標)7700 Sequence Detection System、Perkin Elmer) (Wandinger KP、Sturzebecher CS、Bielekova B 他、Complex immunomodulatory effects of interferon-beta in multiple sclerosis include the upregulation of T helper 1-associated marker genes. Ann. Neurol. 2001、50: 349-357) 18により、定量的リアルタイムrtPCRを実施した。18S rRNA (Perkin Elmer) を除外して、ソフトウェア (Primer Expressソフトウェア、Perkin Elmer) を使用して、CX3CR1のためのプライマーおよびプローブを設計した: 前方向5’-TGA CTG GCA GAT CCA GAG GTT-3’ (配列番号1); 逆方向5’-TTC TGT CAC TGA TTC AGG GAA CTG-3’ (配列番号2); プローブ5’-AGT CCA CGC CAG GCC TTC ACC A-3’ (配列番号3) 。
【0065】
プローブをリポーター色素として6-カルボキシ-フルオレセイン (FAM) およびクエンチャー色素として6-カルボキシテトラメチル-ローダミン (TAMRA) で標識化した。異なる濃度(100〜800nM)のプライマーおよびプローブを試験して、PCR増幅を最適化した。使用したサーマルサイクリング条件は次の通りであった: 50℃において2分および95℃において10分、次いで40サイクルの95℃において15秒および60℃において1分。PCR反応は50 μlの最終体積で実施した。すべての試料を二重反復実験した。
【0066】
リアルタイムrtPCRにより得られた結果を、比較限界法 (比較Ct法) により定量化した。標的 (mRNA) 数を各試料について対応する内因的ハウスキーピング遺伝子 (18S rRNA) に対して正規化して、試料間のコントロールされなかった変動性を調節した。
【0067】
フローサイトメトリー分析
ヒトCX3CR1に対するモノクローナル抗体 (クローン2A9-1; ラットIgG2b) は、Imai博士 (Kan Research Institute、日本国京都) から提供された。MS患者および健康な個体からのPBMC (表1C) を前述したように染色した。14 簡単に述べると、細胞をまず抗CX3CR1と室温において20分間インキュベートし、次いでAPC複合化ヤギ抗ラットIgG (Codalane、カナダ国) で染色した。次いで細胞を1%ラット血清中で15分間インキュベートし、最後に抗CD3 FITC/抗CD56CD16 PE、抗CD3/抗CD4または抗CD3/抗CD8 (すべての抗体はBDから) でさらに20分間染色した。試料を4色フローサイトメトリー (FACScaliburを使用する) により分析し、そして各試料のために10,000のゲート化T細胞またはNK細胞を必要とした。
【0068】
統計的解析
マイクロアレイの結果、rtPCR産物および血球計算データのグループ間の比較のためのp値を計算するために、マン-ホワイトニー-U検定 (Mann-Whitney-U-test) を使用した。ウィンドウズ(登録商標)のためのSPSS 10.0ソフトウェア (SPSS、米国イリノイ州シカゴ) を使用して、計算を実施した。< 0.05のp値を有意と見なした。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0071】
(原文記載なし)
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含んでなる、多発性硬化症 (MS) の患者のin vitro診断法:
a) 診断すべき患者から生物学的試料を準備し、
b) 健康なドナーからの生物学的試料または健康なドナーを示す参照値を準備し、そして
c) 前記試料におけるCX3CR1遺伝子またはタンパク質の発現レベルを決定し、
ここで前記健康なドナーに比較して30%より大きい相対発現の減少は前記患者におけるMSを示す。
【請求項2】
相対発現が少なくとも2倍、好ましくは3倍減少することを特徴とする、請求項1に記載の患者における多発性硬化症のin vitro診断法。
【請求項3】
生物学的試料において抹消単核細胞 (PBMC) が濃縮されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の患者における多発性硬化症のin vitro診断法。
【請求項4】
前記患者がRRMSまたはPPMSを患っていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の患者における多発性硬化症のin vitro診断法。
【請求項5】
遺伝子の発現がそれぞれRRMSおよびPPMSを患っている患者において少なくとも30%および少なくとも40%減少していることを特徴とする、請求項4に記載の患者における多発性硬化症のin vitro診断法。
【請求項6】
下記の工程を含んでなる、患者における急性および/または安定な多発性硬化症のin vitro診断法:
a) 診断すべき患者からNK細胞を含有する生物学的試料を準備し、そして
b) 前記試料におけるCX3CR1タンパク質の発現を決定し、
ここでNK細胞のCX3CR1タンパク質の15%より高い発現は前記患者における急性MSを示す。
【請求項7】
生物学的試料においてNK細胞が濃縮されている、請求項6に記載の患者における多発性硬化症のin vitro診断法。
【請求項8】
前記CX3CR1遺伝子またはタンパク質の発現の決定がマイクロアレイ分析、実時間PCRおよび/またはフローサイトメトリー分析を含んでなる、請求項1〜7のいずれかに記載の患者における多発性硬化症のin vitro診断法。
【請求項9】
前記生物学的試料が全血または血清であり、そして前記CX3CR1タンパク質の発現の分析がフローサイトメトリー分析を含んでなる、請求項1〜8のいずれかに記載の患者における多発性硬化症のin vitro診断法。
【請求項10】
前記方法を少なくとも1〜4回/年実施する、請求項1〜9のいずれかに記載の患者における多発性硬化症のin vitro診断法。
【請求項11】
下記の工程を含んでなる、患者における多発性硬化症の治療法:
a) 請求項1〜10のいずれかに記載の方法を実施し、そして
b) 投薬を必要とする患者に適当な投薬を装備する。
【請求項12】
前記患者が急性RRMSまたはPPMSを患っている、請求項11に記載の患者における多発性硬化症の治療法。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法を実施するために適当な材料および化合物を含んでなるキット。
【請求項14】
前記キットが治療点の分析に適当な材料、チャートおよび化合物を含んでなる、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
急性MSと安定なMSとの区別、特にRRMSおよび/またはPPMSの疾患期の区別のためのCX3CR1発現の使用。

【公表番号】特表2008−526245(P2008−526245A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550775(P2007−550775)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際出願番号】PCT/EP2006/000466
【国際公開番号】WO2006/077126
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(300049958)バイエル・シエーリング・ファーマ アクチエンゲゼルシャフト (357)
【Fターム(参考)】