説明

多硫化物の製造に用いる電解槽の性能回復方法及び多硫化物の製造方法

【課題】パルプ製造工程における白液から電解法により高濃度の多硫化イオウを含む蒸解液を高効率かつ低電力で製造する方法において、電解槽の性能を回復するのに重要な洗浄方法を提供する。
【解決手段】多孔性アノード2を配するアノード室3、カソード室5、アノード室3とカソード室5を区画する隔膜6を有し、アノード室2に硫化物イオンを含む溶液を導入し、カソード室5に苛性ソーダを含む水溶液を導入して、電解酸化で多硫化硫黄を含む多硫化物を製造するための電解槽1において、該アノード室3を無機酸、キレート剤、スケール洗浄剤の少なくとも一つを含有する水溶液で洗浄することによって、電解槽1の性能を回復する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白液または緑液を電解酸化して多硫化物の製造するために使用する電解槽の性能回復方法及び電解槽の性能を回復して多硫化物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材資源の有効利用として、化学パルプの高収率化は重要な課題である。この化学パルプの主流をなすクラフトパルプの高収率化技術の一つとして多硫化物蒸解プロセスがある。多硫化物蒸解プロセスにおける蒸解薬液は、硫化ナトリウムを含むアルカリ性水溶液、いわゆる白液を、下記反応式(1)のように、活性炭等の触媒の存在下に空気等の分子状酸素により酸化することにより製造される(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
この方法により硫化物イオンベースで転化率60%、選択率60%程度で多硫化硫黄濃度が5g/L程度の多硫化物蒸解液を得ることができる。しかし、この方法では転化率を上げた場合に、下記反応式(2)、(3)で示されるような副反応により蒸解には全く寄与しないチオ硫酸イオンが多く副生するため、高濃度の多硫化硫黄を含む蒸解液を高選択率で製造することは困難であった。
【0004】
【化1】

【0005】
ここで多硫化硫黄とは、ポリサルファイドサルファ(PS−S)とも称し、例えば、多硫化ナトリウムNa2Xにおける価数0の硫黄、すなわち原子(x−1)個分の硫黄をいう。また、多硫化物イオン中の酸化数−2の硫黄に相当する硫黄(Sx2-またはNa2Xにつき1原子分の硫黄)及び硫化物イオン(S2-)を総称したものを本明細書中ではNa2S態硫黄と表す。なお、本明細書では容量の単位リットルをLで表す。
【0006】
一方、特許文献3には多硫化物蒸解液の電解製造方法について開示されている。この方法は、少なくとも表面がニッケルまたはニッケルを50wt%(wt%=質量%。以下同じ)以上含有するニッケル合金からなる物理的に連続な三次元の網目構造を有し、かつアノード室の単位体積当りのアノードの表面積が500〜20000m2/m3である多孔性アノードを配するアノード室、カソードを配するカソード室、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有する電解槽のアノード室に硫化物イオンを含有する溶液を導入し、電解酸化により多硫化物イオンを得ることを特徴とする多硫化物の製造方法である。
【0007】
そのような電解槽の運転を長期間安定して継続する上で問題となるのが原料とする溶液に由来する不純物の蓄積である。こうした不純物として、例えば、Ca、Sr、SO4、I/Ba複合物、Al/SiO2複合物、Mg、Niなどが知られている。これらの不純物は、隔膜に沈着して電流効率の低下を引き起こしたり、膜抵抗を上昇させて電圧の上昇を引き起こすことになる(非特許文献1)。
【0008】
このように不純物が沈着した隔膜の洗浄方法として、特許文献4には、有隔膜電解整水装置の隔膜を、陽電極として通電可能な材質で構成するとともに、電解整水電極の少なくとも一方を−電極とし、この−極と前記+極の隔膜に電解洗浄電圧を印加することで、隔膜に付着したカルシウム等の不純物を水中に溶出し、隔膜の洗浄をする方法が記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開昭61−259754号公報
【特許文献2】特開昭53−92981号公報
【特許文献3】特開平11−343106号公報
【特許文献4】特開平7−8954号公報
【非特許文献1】梅村ら、Reports Res. Lab. Ashahi Glass Co., Ltd., 55(2005)p.79-82
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記電解槽において、アノード室に導入する溶液が含んでいるカルシウムその他の微量成分が、隔膜に析出してスケールとなり、膜抵抗を上昇させて電圧の上昇を引き起こすという問題があった。この問題は、多硫化物の製造に要する電力の上昇をもたらすので、経済的に好ましくない。また、隔膜に付着したカルシウム等の不純物の除去は容易ではなく、強酸で洗浄するとアノードの溶解の問題が生じる可能性がある。
【0011】
本発明は、それらの問題点、課題を解決するもので、多孔性アノードを配するアノード室と、カソード室と、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有し、水溶液中の硫化物イオンから電解法により高濃度の多硫化硫黄を得ることを可能とする電解槽、特に、パルプ製造工程における白液または緑液から電解法により高濃度の多硫化硫黄を含む蒸解液を、チオ硫酸イオンの副生を極めて少なくして高選択率でかつ低電力で製造することを可能とする電解槽において、電解槽の性能を長期にわたり維持するのに重要な、電解槽の性能回復方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、それらの問題点、課題を、多孔性アノードを配するアノード室と、カソード室と、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有し、アノード室に硫化物イオンを含む溶液を導入し、カソード室に苛性ソーダを含む水溶液を導入して、電解酸化で多硫化硫黄を含む多硫化物を製造する電解槽において、該アノード室を無機酸、キレート剤、スケール洗浄剤の少なくとも一つを含有する水溶液で洗浄することにより解決するものである。
【0013】
本発明は、多孔性アノードを配するアノード室と、カソード室と、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有し、アノード室に硫化物イオンを含む溶液を導入し、カソード室に苛性ソーダを含む水溶液を導入して、電解酸化で多硫化硫黄を含む多硫化物を製造するための電解槽において、該アノード室を無機酸、キレート剤、スケール洗浄剤の少なくとも一つを含有する水溶液で洗浄することを特徴とする電解槽の性能回復方法である。
【0014】
また、本発明は、多孔性アノードを配するアノード室と、カソード室と、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有する電解槽のアノード室に硫化物イオンを含む溶液を導入し、該電解槽のカソード室に苛性ソーダを含む水溶液を導入して、電解酸化で多硫化硫黄を含む多硫化物を製造する方法において、電解酸化を停止した後、アノード室を無機酸、キレート剤、スケール洗浄剤の少なくとも一つを含有する水溶液で洗浄した後に、電解を再開することを特徴とする多硫化物の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、電解槽の運転に伴いカルシウムその他の微量成分が隔膜に析出して生成するスケールを除去することが十分に可能となり、その際にアノードが溶解することもない。従って、電解酸化に要する電圧が経時で上昇しても効果的に回復(低下)させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の性能回復方法及び電解槽の性能を回復して多硫化物を製造する方法の対象となる電解槽は、多孔性アノードを配するアノード室、カソード室、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有する電解槽であり、アノード室に硫化物イオンを含む水溶液を導入し、電解酸化で多硫化硫黄を含む多硫化物を得ることが可能であれば特に限定されない。
【0017】
多孔性アノードは、表面がニッケルまたはニッケルを50wt%以上含有するニッケル合金からなる物理的に連続な三次元の網目構造を有し、かつアノード室の単位体積当りのアノードの表面積が500〜20000m2/m3であるものが好ましい。アノードの表面積が500m2/m3より小さいと、アノード表面における電流密度が大きくなり、チオ硫酸イオンのような好ましくない副生物が生成し易くなるだけではなく、ニッケルがアノード溶解を起こし易くなる。アノードの表面積が20000m2/m3を超えると、液の圧力損失が大きくなるといった電解操作上の問題が生じる可能性があり好ましくない。また、アノードの網目の平均孔径は0.1〜5mmが好ましい。
【0018】
アノード室に導入する硫化物イオンを含む水溶液としては、特に限定するものではないが、化学パルプ製造工程における白液や緑液が適している。
【0019】
白液の組成は、例えば、現在通常行われているクラフトパルプ蒸解に用いられている白液の場合、通常、アルカリ金属イオンとして2〜6mol/Lを含有し、そのうちの90wt%以上はナトリウムイオンであり、残りはほぼカリウムイオンである。
また、アニオンとしては、水酸化物イオン、硫化物イオン、炭酸イオンを主成分とし、他に硫酸イオン、チオ硫酸イオン、塩素イオン、亜硫酸イオンを含有する。さらにカルシウム、ケイ素、アルミニウム、リン、マグネシウム、銅、マンガン、鉄のような微量成分を含有する。すなわち、硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムを主成分とする。
【0020】
一方、緑液の組成は、白液の主成分が硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムであるのに対して、硫化ナトリウムと炭酸ナトリウムが主成分である。緑液中のその他のアニオンや微量成分については白液と同様である。このような白液または緑液を本発明によるアノード室に供給して電解酸化を行った場合、硫化物イオンが酸化されて多硫化物イオンが生成する。また、それに伴いアルカリ金属イオンが隔膜を通してカソード室に移動する。
【0021】
カソード室の反応は、種々選択することができるが、水から水素ガスが生成する反応を利用するのが好適である。その結果生成する水酸化物イオンとアノード室から移動してき
たアルカリ金属イオンから、水酸化アルカリが生成する。カソード室に導入される溶液は、実質的にアルカリ金属水酸化物の水溶液が好ましく、特にナトリウムの水酸化物又はカリウムの水酸化物の水溶液であるものが好ましい。アルカリ金属水酸化物の濃度は限定しないが、例えば1〜15mol/L、好ましくは2〜5mol/Lである。
【0022】
アノード室に導入する溶液が含んでいるカルシウムその他の微量成分は、隔膜に析出してスケールとなり、膜抵抗を上昇させて電圧の上昇を引き起こすという問題がある。この問題は、多硫化物の製造に要する電力の上昇につながるので、経済的に好ましくない。また電圧の上昇が大きくなっていくと、経済的な問題だけでなく、チオ硫酸、硫酸、酸素などの副生物の増加、ひいてはアノード溶解といった問題を起こす恐れがある。
【0023】
このような、スケールの生成により電解酸化に要する電圧が経時上昇するという問題への対策として、アノード室を洗浄することが本発明の大きな特徴である。
【0024】
アノード室を洗浄するのに用いることのできる水溶液としては、無機酸、キレート剤、スケール洗浄剤の少なくとも一つを含有する水溶液で、カルシウムスケールを除去するものであれば特に限定されないが、アノードそのものの溶解性が低いものが好ましい。アノードの溶解性が高い水溶液でアノード室を洗浄すると、アノードの表面積が小さくなり、アノード表面における電流密度が大きくなる。洗浄回数が増えるとこの傾向が大きくなると、チオ硫酸、硫酸、酸素などの副生物の増加、ひいてはアノード溶解といった問題を起こす恐れがあるので好ましくない。
【0025】
アノード室を洗浄するのに用いることのできる無機酸としては、塩酸、スルファミン酸が好ましい。塩酸を使用する場合は、濃度0.3〜1.0wt%が好ましく、さらに好ましくは0.5〜0.7wt%である。スルファミン酸を使用する場合は、濃度0.2〜1.0wt%が好ましく、さらに好ましくは0.3〜0.5wt%である。
そのような濃度の無機酸水溶液はいずれも本発明に用いる電解槽に発生するカルシウムスケール洗浄能は十分であり、かつアノードそのものの溶解性が低い。濃度が低すぎるとカルシウムスケールを除去することが十分にはできないので好ましくなく、濃度が高すぎるとアノードの溶解性が高くなるので好ましくない。
【0026】
また、アノード室を洗浄するのにキレート剤を使用する場合は、濃度0.5〜4wt%が好ましく、さらに好ましくは1〜3wt%である。このようなキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸塩やヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸塩などを含有するものが使用でき、具体的には、クレワットOH35〔ナガセケムテックス(株)製〕などがあるが、特に限定されるものではない。
【0027】
そのような濃度のキレート剤水溶液は本発明に用いる電解槽に発生するカルシウムスケール洗浄能は十分であり、かつアノードそのものの溶解性が低い。濃度が低すぎるとカルシウムスケールを除去することが十分にはできないので好ましくなく、濃度が高すぎるとアノードの溶解性が高くなるので好ましくない。
【0028】
また、アノード室を洗浄するのに、0.005〜0.1wt%、好ましくは0.01〜0.02wt%の、スケール洗浄剤を用いることもできる。このようなスケール洗浄剤としては、マレイン酸系ポリマーやホスホン酸などを含有するものが使用でき、具体的には、クオリライト20〔栗田工業(株)〕などが挙げられるが、化学パルプの製造工程または漂白工程において、白液、緑液、あるいは洗浄水が通る工程に発生するスケールの洗浄に用いられるものであれば特に限定されない。
【0029】
そのような濃度のスケール洗浄剤水溶液は、本発明に用いる電解槽に発生するカルシウムスケール洗浄能として十分であり、かつアノードそのものの溶解性が低い。濃度が低すぎるとカルシウムスケールを除去することが十分にはできないので好ましくなく、濃度が高すぎるとアノードの溶解性が高くなるので好ましくない。
【0030】
また、アノード室を洗浄するのに上述の水溶液に防食剤を添加することもできる。本発明では、防食剤とは金属表面に保護皮膜を生成することによって金属と腐食性イオンとの接触を妨げ、金属の腐食を防止する薬品を指す。本発明で上述の、アノード室の洗浄に用いる水溶液はいずれもアノードそのものの溶解性は低いが、防食剤を添加することによりアノードの溶解性が更に低下するという効果が得られる。
【0031】
なお、本発明で用いることのできる防食剤としては有機酸類、界面活性剤、消泡剤などを含有するものが使用できる。具体的には、レスコールA−825〔東栄化成(株)〕などがあるが、化学パルプ製造または漂白工程において、白液や緑液、また洗浄水が通る工程に用いられるものであれば特に限定されない。防食剤の濃度は0.05〜3.0wt%が好ましい。
【0032】
防食剤を添加することによりアノードの溶解性を低下させることができるので、これまでに述べた無機酸、キレート剤、スケール洗浄剤の濃度を単独で使用する場合より高くし、さらに防食剤を添加することにより、高いカルシウムスケールの除去効果と、低いアノード溶解性を両立することができ、より好ましい洗浄が可能となる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例における洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度は下記の方法にて測定した。
【0034】
〈カルシウム濃度、ニッケル濃度の測定〉
洗浄液のサンプルを1/500〜1/50程度に希釈し、ICP発光分光分析装置〔Vista−MPX、セイコーインスツルメンツ(株)製〕を用いてカルシウムイオン濃度およびニッケルイオン濃度を定量した。得られた結果にサンプルの希釈倍率を乗じて洗浄液サンプルのカルシウム濃度およびニッケル濃度とした。
【0035】
〈電解槽〉
実施例及び比較例で使用した電解槽、アノード室洗浄装置について、その概略を、配管等を含めて図1に示している。図1中、1は電解槽で、その縦断面を示している。2はアノード、3はアノード室、4はカソード、5はカソード室、6は隔膜である。アノード室3には弁V1を備えるアノード液供給管7と弁V2を備えるアノード液排出管8が配置されている。カソード室5には弁V3を備えるカソード液供給管9と弁V4を備えるカソード液排出管10が配置されている。11は洗浄液タンク、12は洗浄液ポンプ、13は洗浄液供給管、14は洗浄液排出管である。電解槽1の横断面は矩形状で、アノード2を中心に左右対称になっている。
【0036】
それら管にはそれぞれ開閉弁V1〜V6が配置され、これらの弁操作により電解酸化、停止、ポリサルファイド液の排出、除去、洗浄液の供給、循環、洗浄、排出除去、電解酸化の再開の各操作を行うようになっている。なお、15は洗浄液タンク11の洗浄液補充用兼使用済み洗浄液排出用の管であり、開閉弁V7が配置されている。
【0037】
〈実施例1〉
下記の組成をもつ白液を電解酸化により酸化した。電解条件は以下のとおりとした。アノードとしてニッケル多孔体(アノード室体積当りのアノード表面積:5600m2/m3、網目の平均孔径:0.51mm、隔膜面積に対する表面積:28m2/m2)、カソードとして鉄のエクスパンジョンメタル、隔膜としてフッ素樹脂系カチオン交換膜とからなる2室型の電解槽を組み立てた。この電解槽に下記の組成を持つ白液を導入し、電解温度:85℃、隔膜での電流密度:6kA/m2の条件下で電解を行い、電流効率95%でポリサルファイドサルファ濃度が9g/Lのポリサルファイド液を得た。また、カソード側では電流効率80%でNaOHが生成し、添加水量を調整して10wt%濃度のNaOH水溶液を得た。
〔白液組成〕
NaOH濃度;10.0wt%、Na2S濃度;3.9wt%、Na2CO3濃度;3.8wt%。
【0038】
上記の電解条件で60日間電解酸化を行った。電解酸化開始時の電圧は1.498Vで、60日間で電圧は経時的に上昇して1.821Vとなった。電解酸化を停止し、アノード室のポリサルファイド液を排出、除去した後に、洗浄液として0.7wt%の塩酸30Lを用いてアノード室を流量460L/hで循環洗浄した。60分で循環洗浄を終了とし、洗浄液を排出、除去後、電解酸化を再開し、10日間運転した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度〔ppm(=wt ppm=質量ppm)、以下同じ〕、ニッケル濃度(ppm)、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0039】
〈比較例1〉
洗浄液として0.2wt%の塩酸を用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0040】
〈比較例2〉
洗浄液として1.1wt%の塩酸を用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0041】
〈実施例2〉
洗浄液として実施例1と同一の塩酸に防食剤としてレスコールA−825〔東栄化成(株)製〕を0.5wt%添加したものを用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0042】
〈実施例3〉
洗浄液として1.0wt%の塩酸に防食剤としてレスコールA−825〔東栄化成(株)製〕を0.5wt%添加したものを用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0043】
〈比較例3〉
洗浄液として、1.1wt%の塩酸に防食剤としてレスコールA−825〔東栄化成(株)製〕を0.03wt%添加したものを用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0044】
〈実施例4〉
洗浄液として0.4wt%のスルファミン酸を用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0045】
〈比較例4〉
洗浄液として0.1wt%のスルファミン酸を用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0046】
〈比較例5〉
洗浄液として1.1wt%のスルファミン酸を用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0047】
〈実施例5〉
洗浄液として実施例4と同一のスルファミン酸に防食剤としてレスコールA−825〔東栄化成(株)製〕を0.5wt%添加したものを用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0048】
〈実施例6〉
洗浄液として0.8wt%のスルファミン酸に防食剤としてレスコールA−825〔東栄化成(株)製〕を0.5wt%添加したものを用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0049】
〈比較例6〉
洗浄液として、1.1wt%のスルファミン酸に防食剤としてレスコールA−825〔東栄化成(株)製〕を0.03wt%添加したものを用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0050】
〈実施例7〉
洗浄液として2.0wt%のキレート剤であるクレワットOH35〔ナガセケムテックス(株)製〕を用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0051】
〈比較例7〉
洗浄液として0.3wt%のクレワットOH35〔ナガセケムテックス(株)製〕を用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0052】
〈比較例8〉
洗浄液として5.0wt%のクレワットOH35〔ナガセケムテックス(株)製〕を用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0053】
〈実施例8〉
洗浄液として実施例7と同一のクレワットOH35に防食剤としてレスコールA−825〔東栄化成(株)製〕を0.5wt%添加したものを用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0054】
〈実施例9〉
洗浄液として3.5wt%のクレワットOH35に防食剤としてレスコールA−825〔東栄化成(株)製〕を0.5wt%添加したものを用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0055】
〈比較例9〉
洗浄液として、5.0wt%のクレワットOH35〔ナガセケムテックス(株)製〕に防食剤としてレスコール825〔東栄化成(株)製〕を0.03wt%添加したものを用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0056】
〈実施例10〉
洗浄液として0.015wt%のスケール洗浄剤であるクオリライト20〔栗田工業(株)製〕を用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0057】
〈比較例10〉
洗浄液として0.003wt%のクオリライト20〔栗田工業(株)製〕を用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0058】
〈比較例11〉
洗浄液として0.12wt%のクオリライト20〔栗田工業(株)製〕を用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0059】
〈実施例11〉
洗浄液として実施例10で使用したクオリライト20〔栗田工業(株)製〕に防食剤としてレスコール825を0.5wt%添加したものを用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0060】
〈実施例12〉
洗浄液として0.1wt%のクオリライト20〔栗田工業(株)製〕に防食剤としてレスコール825〔東栄化成(株)製〕を0.5wt%添加したものを用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0061】
〈比較例12〉
洗浄液として0.12wt%のクオリライト20〔栗田工業(株)製〕に防食剤としてレスコール825〔東栄化成(株)製〕を0.03wt%添加したものを用いた以外は、実施例1と同一の電解槽、白液、条件で電解酸化を行い、電解酸化を停止した後に洗浄し、電解酸化を再開した。洗浄終了時の洗浄液のカルシウム濃度、ニッケル濃度、および電解再開10日後の電解酸化に要した電圧を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示されるように、実施例と比較例を比べると、塩酸やスルファミン酸、キレート剤のクレワットOH35、スケール洗浄剤のクオリライト20(以下、これらを洗浄液と呼ぶ)を本発明の範囲の濃度で用いた場合(実施例1、4、7、10)には、洗浄終了後のカルシウム濃度が90ppm以上となり、カルシウムスケールが十分に溶解した一方で、洗浄終了後のニッケル濃度は220ppm以下となっており、アノードの溶解性は低いことが分かる。
【0064】
また、これらの洗浄液を適切な濃度で用い、防食剤レスコールA−825を0.5wt%添加した場合(実施例2、3、5、6、8、9、11、12)は、レスコールA−825を添加しなかった場合と洗浄終了後のカルシウム濃度は概ね同様でありながら、洗浄終了後のニッケル濃度は60ppm以下となっており、カルシウムスケールは十分に溶かしながらもアノードの溶解性が抑制されていることが分かる。
【0065】
一方、洗浄液の濃度が低すぎる場合(比較例1、4、7、10)や高すぎる場合(比較例2、5、8、11)、また添加するレスコールA−825の濃度が0.03wt%である場合(比較例3、6、9、12)には、洗浄終了後のカルシウム濃度が60ppm以下か、洗浄終了後のニッケル濃度が270ppm以上となり、いずれの場合でも洗浄方法として好ましくないことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例及び比較例で使用した電解槽、アノード室洗浄装置を示す図
【符号の説明】
【0067】
1 電解槽
2 アノード
3 アノード室
4 カソード
5 カソード室
6 隔膜
7 アノード液供給管
8 アノード液排出管
9 カソード液供給管
10 カソード液排出管
11 洗浄液タンク
12 洗浄液ポンプ
13 洗浄液供給管
14 洗浄液排出管
V1〜V7 開閉弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性アノードを配するアノード室と、カソード室と、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有し、アノード室に硫化物イオンを含む溶液を導入し、カソード室に苛性ソーダを含む水溶液を導入して、電解酸化で多硫化硫黄を含む多硫化物を製造するための電解槽において、該アノード室を無機酸、キレート剤、スケール洗浄剤の少なくとも一つを含有する水溶液で洗浄することを特徴とする電解槽の性能回復方法。
【請求項2】
前記アノード室の洗浄に使用する水溶液が、濃度0.3〜1.0wt%の塩酸を含むものであることを特徴とする請求項1記載の電解槽の性能回復方法。
【請求項3】
前記アノード室の洗浄に使用する水溶液が、濃度0.2〜1.0wt%のスルファミン酸を含むものであることを特徴とする請求項1記載の電解槽の性能回復方法。
【請求項4】
前記アノード室の洗浄に使用する水溶液が、濃度0.5〜4wt%のキレート剤を含むものであることを特徴とする請求項1記載の電解槽の性能回復方法。
【請求項5】
前記アノード室の洗浄に使用する水溶液が、濃度0.005〜0.1wt%のスケール洗浄剤を含むものであることを特徴とする請求項1記載の電解槽の性能回復方法。
【請求項6】
前記アノード室の洗浄に使用する水溶液が、濃度0.05〜3.0wt%の防食剤を含むものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電解槽の性能回復方法。
【請求項7】
多孔性アノードを配するアノード室と、カソード室と、アノード室とカソード室を区画する隔膜を有する電解槽のアノード室に硫化物イオンを含む溶液を導入し、該電解槽のカソード室に苛性ソーダを含む水溶液を導入して、電解酸化で多硫化硫黄を含む多硫化物を製造する方法において、電解酸化を停止した後、アノード室を無機酸、キレート剤、スケール洗浄剤の少なくとも一つを含有する水溶液で洗浄した後に、電解を再開することを特徴とする多硫化物の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2009−242897(P2009−242897A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92599(P2008−92599)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【出願人】(000105040)クロリンエンジニアズ株式会社 (48)
【Fターム(参考)】