説明

多管フィルタ

【課題】触媒物質の使用量を抑制しつつ効率的にパティキュレートを浄化することができる多管フィルタの提供。
【解決手段】ガス流路に沿って管軸が配置され、ガス流の下流である出口部35側が閉塞する複数の流入セル36と、ガス流路に沿って管軸が配置され、ガス流の上流である入口部33側が閉塞する複数の流出セル34と、流入セル36と流出セル34とを区画し、ガス40を通過させて微粒子を捕集する細孔を有する隔壁38とを有し、隔壁38の流入セル36側の層である流入層42において、入口部33から出口部35に向かうに従い担持量が減少するように担持される触媒物質を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンなどの排ガス中に含まれるパティキュレート(固体状炭素微粒子、液体あるいは固体状の高分子量炭化水素微粒子)を捕集、燃焼して排ガスを浄化するフィルタに関するものであり、特に、フィルタの触媒担持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出される排ガスに含まれるパティキュレート(以下、「PM」と記す)は、その粒子径がほぼ1μm以下である。このようなPMは、大気中に浮遊しやすく、呼吸時に人体に取り込まれやすい。また、PMは発ガン性物質も含んでいることから、ディーゼルエンジンから排出されるPMに対する規制が強化されつつある。
【0003】
排ガス中のPMを除去する排ガス浄化フィルタとして、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF」と記す)が知られている。
【0004】
従来のDPFの触媒担体構造としては、次のようなものがあった。以下、図8、図9及び図10に基づき従来のDPFの触媒担体構造を説明する。
【0005】
DPF10は、ディーゼルエンジンの排ガス通路に配置されるフィルタであり、排ガス通路に沿う方向(図中Y軸方向)に管軸がそろう管状のセルを多数備えている。多数のセルの内、半数の流出セル14は、排ガスの入口部13がプラグ12により閉塞され出口部15では開放されており、他の半数の流入セル16は、排ガスの出口部15がプラグ12により閉塞され入口部13では開放されている。そして、流出セル14と流入セル16とは交互に束ねられた状態で配置されている。セルを形成する隔壁18は、排ガス20は通過可能であるがPMは捕集することができる細孔が設けられたものである。つまりこの場合、DPF10は、ウォールフロー型の多孔質多管構造を有するものである。
【0006】
ここで、隔壁18の排ガスが流入する側の層(流入セル16側の層)を流入層22とし、隔壁18の排ガスが流出する側の層(流出セル14側の層)を流出層28とする。PMを多く含む排ガス20は、DPF10の流入セル16に流入し、多孔質材料の隔壁18を流入層22から流出層28に向かって通過し、PMが捕集される。捕集されたPMは、予めDPF10の隔壁18に担持された触媒の作用により浄化される。これにより、エンジンから排出されたPMを連続的に捕集・浄化することが可能になる。
【0007】
従来の排ガス用フィルタとしては、DPF10の隔壁18の全体に均一に触媒が担持されている、そのため、PMがどの場所に捕集されても同様のPM浄化能力を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−106922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、DPF10の入口部13において、DPF10の流入セル16に流入した排ガス20は、一部が入口部13の隔壁18を通過して流出セル14に流入し、大部分は流入セル16内を出口部15に向かって流れる。この流入セル16内を出口部に向かって流れる排ガスは、流入セル16の内壁である流入層22に接触しながら流れる。
【0010】
以上の結果、PMは、入口部13の流入層22に特に捕集されやすい。また、この捕集されたPMが隔壁18の細孔に付着して孔を狭めることにより、隔壁18を通過する排ガス20の量は時間の経過と共に減少する。そのため、PMは入口部13の流出層28には捕集されにくい。
【0011】
しかしながら、前記従来の構成では、PMが捕集されやすく高い触媒作用が求められる入口部13の流入層22やPMが極めて捕集されにくく触媒作用が求められない出口部15の流出層28にも均一に触媒が担持されておりPMの浄化効率に限界があるという課題を有している。
【0012】
また、DPF10の出口部15において、流入セル16を流れる排ガスは、大部分が隔壁18を通過し流出セル14に流入する。この部分の隔壁18を通過する排ガス20は、入口部13から出口部15にかけ、隔壁18の内部に接触し流れる。それに伴い、排ガスに含まれるPMの量は入口部13側から出口部15側に向け減衰していくため、PMは入口部13側と比べ出口部15側の隔壁18に捕集されやすい。さらに、この捕集されたPMが入口部13側の隔壁18の細孔に付着して孔を狭めることにより、PMの大部分が入口部13側で捕集され、出口部15側でほとんど捕集されなくなる。
【0013】
このように、PMが流入層22に捕集され、流出層28に捕集されなくなると、PMが触媒に接触する表面積が減少する。
【0014】
このような従来の構成では、DPFの全体に渡り触媒が均一に担持されているため、流入側や流出側の隔壁の細孔径も同じ大きさで、PMは流出側に浸透しにくいため、PMの浄化効率に限界があるという課題を有している。
【0015】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、PMが多く捕集される箇所に触媒を効率的に分散し、かつ、PMをより隔壁全体に捕集させることで、PMと触媒が接触する表面積を広げ、触媒によるPMの浄化作用を向上させ、さらに触媒の担持量を減らすことのできる多管フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明にかかる多管フィルタは、ガス流路に沿って管軸が配置され、ガス流の下流である出口部側が閉塞する複数の流入セルと、ガス流路に沿って管軸が配置され、ガス流の上流である入口部側が閉塞する複数の流出セルと、前記流入セルと前記流出セルとを区画し、ガスを通過させて微粒子を捕集する細孔を有する隔壁とを有する多管フィルタであって、前記隔壁の前記流入セル側の層である流入層において、入口部から出口部に向かうに従い担持量が減少するように担持される触媒物質を備えることを特徴とする。
【0017】
かかる構成により、PMが多く捕集される場所に多くの触媒物質が配置されるため、PMの浄化効率を向上させることができる。
【0018】
さらに、前記隔壁の前記流出セル側の層である流出層において、入口部から出口部に向かうに従い担持量が増加するように担持される前記触媒物質を備えてもよい。
【0019】
かかる構成により、流入層で多くのPMが捕集され細孔を塞ぐためPMが捕集されにくい入口部の流出層では触媒物質を減らし、PMが隔壁内部まで捕集され易くなる出口部の流出層ではより多くの触媒物質を担持する。これにより全体として少ない触媒物質でもPM浄化効率を向上させることができる。
【0020】
また、入口部において、前記流入層に担持される前記触媒物質の担持量は、前記流出層に担持される前記触媒物質の担持量よりも多いことが好ましい。
【0021】
かかる構成により、PMが捕集される場所に触媒物質を担持し、かつPMが捕集されない場所の触媒物質を減らすことで、多管フィルタ全体として少ない触媒物質でもPM浄化効率を向上させることができる。
【0022】
また、出口部において、前記流入層に担持される前記触媒物質の担持量は、前記流出層に担持される前記触媒物質の担持量よりも少ないことが好ましい。
【0023】
かかる構成により、流入層に比べ流出層でより大きくなることにより、PMは隔壁の流入層を通過し流出層で十分に捕集される。このため、前記隔壁の流入側でPMが捕集され前記隔壁の細孔を塞ぐことにより起こるPMと触媒物質との接触確率の低下を防ぐことができるため、PM浄化効率が向上する。
【0024】
ここで、流入層の平均細孔径は10〜20μm、流出層の平均細孔径は5〜15μmであることが好ましい。
【0025】
また、入口部において、前記流入層の前記触媒物質の担持量をA、前記流出層の前記触媒物質の担持量をBとし、入口部と出口部との中間部において、前記流入層の前記触媒物質の担持量をC、前記流出層の前記触媒物質の担持量をDとするとき、下記の式1を満足するものとしてもよい。
【0026】
(A/B)/(C/D)=α (1.5≦α≦5.5)・・・式1
【0027】
また、出口部において、前記流入層の前記触媒物質の担持量をE、前記流出層の前記触媒物質の担持量をFとし、入口部と出口部との中間部において、前記流入層の前記触媒物質の担持量をC、前記流出層の前記触媒物質の担持量をDとするとき、下記の式2を満足するものとしてもよい。
【0028】
(C/D)/(E/F)=β (1.5≦β≦5.5)・・・式2
【0029】
かかる構成により、少ない触媒量でPMの浄化効率を向上することができる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明の多管フィルタによれば、PMの捕集状態にあわせ触媒を効率的に隔壁に担持させ、かつ、効果的にPMを捕集することができる部分を隔壁のガス流出側にまで広げることでPMと触媒物質との接触確率を高め、触媒物質の量を低く抑えつつ極めて高効率なPMの浄化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明のDPFの構造を示す側面断面図である。
【図2a】図2aは、図1に示したDPFにおけるi−i方向から見た流入層の触媒物質の分布状態を示す概念図である。
【図2b】図2bは、図1に示したDPFにおけるi−i方向から見た流入層の触媒物質の担持量の変化を示すグラフである。
【図3a】図3aは、図1に示したDPFにおけるii−ii方向から見た流出層の触媒物質の分布状態を示す概念図である。
【図3b】図3bは、図1に示したDPFにおけるii−ii方向から見た流出層の触媒物質の担持量の変化を示すグラフである。
【図4a】図4aは、図1に示したDPFにおけるiii−iii部分の入口部の隔壁内部における触媒物質の分布状態を示す概念図である。
【図4b】図4bは、図1に示したDPFにおけるiii−iii部分の入口部の隔壁内部における触媒物質の担持量の変化を示すグラフである。
【図5a】図5aは、図1に示したDPFにおけるiv−iv部分の出口部の隔壁内部における触媒物質の分布状態を示す概念図である。
【図5b】図5bは、図1に示したDPFにおけるiv−iv部分の出口部の隔壁内部における触媒物質の担持量の変化を示すグラフである。
【図6】図6は、図1に示したDPFにおける隔壁の内部における触媒物質の分布状態を示す概念図である。
【図7】図7は、DPFにおける触媒担持と浄化特性との相関を示したグラフである。
【図8】図8は、従来のDPFの構造を示す正面図である。
【図9】図9は、従来のDPFの構造を示す側面断面図である。
【図10】図10は、従来のDPFの隔壁内部における触媒物質の分布状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。これらの図において共通する要素には、同一の符号を付している。但し、以下の実施形態は一例に過ぎず、本発明はこの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0033】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る多管フィルタについて以下に説明する。なお、以下の説明、および、特許請求の範囲において、言葉を以下のように定義する。
【0034】
「入口部33」とは、DPF30の内部の排ガスの流れの上流側であって、DPF30の入口から出口までのプラグ32を除いた部分の距離をLとしたときに、入口からL/12〜L/4の部分である。
【0035】
「出口部35」とは、DPF30の内部の排ガスの下流側であって、入口から3L/4〜11L/12の部分である。
【0036】
「流入層42」とは、DPF30の隔壁38において排ガスが流入する側の層であって、隔壁38の表面から深さが50〜150μm程度までの隔壁38の層である。
【0037】
「流出層48」とは、DPF30の隔壁38において排ガスが流出する側の層であって、隔壁38の表面から深さが50〜150μm程度までの隔壁38の層である。
【0038】
図1は本発明のDPFの構造を示す側面断面図である。
【0039】
図1において、DPF30は、ディーゼルエンジンの排ガス40通路に配置されるフィルタであり、排ガス40の流通方向に沿って管軸がそろって配置される多数の管状のセルで構成されている。DPF30は、ガス流路(図1中Y軸方向)に沿ってセルの管軸が配置され、Y軸方向から端部を見ると図8に示すように、矩形環状のセルがXZ平面においてマトリクス状に束ねられた構造となっている。なお、管状のセルの断面形状は矩形ばかりでなく6角形などでもかまわない。セルの断面形状が6角形の場合、DPF30はハニカム構造となる。
【0040】
これらのセルの内、入口部33が閉塞され、かつ、出口部35が開放されているセルは、流出セル34である。逆に入口部33で開放され、かつ、出口部35が閉塞されているセルは、流入セル36である。流入セル36と流出セル34とは、互いに隣り合うように配置されている。流入セル36と流出セル34とを区画する隔壁38は、排ガス40は通過しPMは捕集することができる細孔が多数設けられた多孔質材料で形成されている。DPF30は、ウォールフロー型の多孔質多管構造を有するものである。
【0041】
このDPF30に排ガス40が入口部33から流入すると、流入セル36に流入した排ガス40は多孔質材料の隔壁38を必ず通過するため、この隔壁38でPMが捕集される。捕集されたPMは、予めDPF30の隔壁38に担持された触媒物質の作用により浄化される。これにより、DPF30は、エンジンから排出されたPMを連続的に捕集・浄化することが可能になる。
【0042】
ここで、入口部33の流入層42を領域LA、入口部33の流出層48を領域LB、出口部35の流入層42を領域LE、出口部35の流出層48を領域LFとし、領域LAの触媒物質の担持量をA、領域LBの触媒物質の担持量をB、領域LEの触媒物質の担持量をE、領域LFの触媒物質の担持量をFとする。
【0043】
ここで担持量とは、隔壁38の単位体積あたりに担持される触媒物質の量である。また、触媒物質の量とは、触媒物質の粒の数、総重量、総体積、総表面積のいずれかである。
【0044】
このDPF30の多孔質多管構造の材料は、金属またはセラミックが好ましい。特に、隔壁38が金属性の場合、鉄、銅、ニッケル、クロム、チタン等の比較的安価で高融点の単体金属、あるいはこれらの合金等を材料として用いることができ好適である。なお、隔壁38の材料は、これらに限定されるものではない。また隔壁38がセラミック多孔体の場合、ムライト、コージェライト、チタン酸アルミニウム、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、炭化珪素、窒化珪素等を用いることができる。なお、隔壁38の材料は、これらに限定されるものではない。
【0045】
DPF30の形状や大きさに特に制限はないが、直径1〜30cm、高さ2〜30cmの円管形としておくことが好ましい。
【0046】
このDPFの隔壁38に担持される触媒物質は、金属酸化物、白金などの貴金属、アルカリ金属、アルカリ土類、希土類から選ばれた少なくとも一つを用いることができる。触媒物質に含まれる貴金属としては、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金が挙げられる。触媒物質に含まれる金属酸化物としては、銅を含んだもの、バナジウムあるいはモリブデンを含んだもの、銅とバナジウムの両方を含んだもの、銅とモリブデンの両方を含んだものが挙げられる。触媒物質に含まれるアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムが挙げられる。触媒物質に含まれるアルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。希土類としてランタン、イットリウムが挙げられる。
【0047】
図2aは、本発明の実施の形態1に係る図1に示したDPF30におけるi−i方向から見た流入層42の触媒物質の分布状態を示す概念図である。
【0048】
図2bは、本発明の実施の形態1に係る図1に示したDPF30におけるi−i方向から見た流入層42の触媒物質の担持量の変化を示すグラフである。
【0049】
図3aは、本発明の実施の形態1に係る図1に示したDPF30におけるii−ii方向から見た流出層48の触媒物質の分布状態を示す概念図である。
【0050】
図3bは、本発明の実施の形態1に係る図1に示したDPF30におけるii−ii方向から見た流出層48の触媒物質の担持量の変化を示すグラフである。
【0051】
図4aは、本発明の実施の形態1に係る図1に示したDPF30におけるiii−iii部分の入口部33の隔壁38内部における触媒物質の分布状態を示す概念図である。
【0052】
図4bは、本発明の実施の形態1に係る図1に示したDPF30におけるiii−iii部分の入口部33の隔壁38内部における触媒物質の担持量の変化を示すグラフである。
【0053】
図5aは、本発明の実施の形態1に係る図1に示したDPF30におけるiV−iV部分の出口部35の隔壁38内部における触媒物質の分布状態を示す概念図である。
【0054】
図5bは、本発明の実施の形態1に係る図1に示したDPF30におけるiV−iV部分の出口部35の隔壁38内部における触媒物質の担持量の変化を示すグラフである。
【0055】
これらの図に示すように、DPF30の流入セル36に流入した排ガス40は、入口部33において、大部分は流入セル36内を出口部33に向かって隔壁38と略平行に流れる排ガス401となり、一部が入口部33の隔壁38を通過し流出セル34に流入する排ガス402となる。排ガス401は、流入セル36の内壁である流入層42領域LAに接触し流れる。また、排ガス402は、流入層42の領域LAから流出層48の領域LBに向かって隔壁38の細孔の内面に接触し流れる。
【0056】
入口部33から出口部35の間において、排ガス401は隔壁38を通過していくため、流入セル36内を出口部35に向かって流れる排ガスは出口部35に近づくに従い、徐々に減少していく。
【0057】
出口部35において、出口部35の隔壁38を通過し流出セル34に流入する排ガス403は、流入層42の領域LEから流出層48領域LFに向かって隔壁38の細孔の内面に接触し流れる。
【0058】
排ガス401に含まれるPMは、粒子径がおよそ1μm以下と極微小で、不規則なブラウン運動を起こすため、排ガス401が流入セル36内を出口部35に向かって流れる際にも、一部が流入層42の領域LAに捕集される。
【0059】
入口部33から出口部35にかけて、流入セル36内を出口部33に向かって隔壁38と略平行に流れる排ガスは減少していき、それに伴い、流入層42へのPMの捕集率も入口部33の領域LAから出口部35領域LEにかけて減少していく。
【0060】
流入層42でPMが捕集されると隔壁38の細孔がにPMが付着して平均細孔径が小さくなり流出層48ではPMが捕集されにくくなる。そのため、流出層48へのPMの捕集率は入口部33の領域LBから出口部35領域LFにかけて増加していく。
【0061】
また、排ガス402に含まれるPMは、隔壁38の内部を通過する中で、流入層42の領域LAから流出層48領域LBにかけ徐々に減少するように捕集される。ここで、流入層42の領域LAでPMが捕集され細孔径が狭まると、さらに流入層42の領域LAにPMが捕集されやすくなるため、流出層48の領域LBにはPMが特に捕集されにくくなる。また、隔壁38を流れる排ガス402も少なくなる。
【0062】
また、排ガス403に含まれるPMは、隔壁38の内部を通過する中で、流入層42の領域LEから流出層48の領域LFにかけ徐々に減少するように捕集される。ここで、流入層42の領域LEでPMが捕集され細孔径が狭まると、さらに流入層42の領域LEにPMが捕集されやすくなるため、流出層48の領域LFにはPMがより捕集されにくくなる。このように、PMが流入層42で捕集され、流出層48で捕集されなくなると、PMと触媒が接触しPM浄化できる面積が減少する。
【0063】
流入層42における触媒物質の担持量であるA、Eは、図2aと図2bに示すように、DPF30の入口部33から出口部35にかけ減少するように分布している。
【0064】
また、流出層48の触媒物質の担持量であるB、Fは、図3aと図3bに示すように、DPF30の入口部33から出口部35にかけ増加するように分布している。
【0065】
また、入口部33の触媒物質の担持量A、Bは、図4aと図4bに示すように、流入層42より流出層48の方が少なくなっている。
【0066】
また、出口部35の触媒物質の担持量E、Fは、図5aと図5bに示すように、流入層42より流出層48の方が多くなっている。
【0067】
かかる構成により、PMが捕集されやすい箇所に触媒物質を多く担持し、PMが捕集されにくい箇所の触媒物質を減らすことで、DPF30全体の触媒物質の量は従来のDPFと同じでも、従来のDPFより1.1〜1.2倍程度のPM浄化効率を得ることができる。すなわち、少ない触媒物質でもより効率的にPM浄化効率を向上させることができる。
【0068】
また、出口部35の流出層48に比べ流入層42の方が隔壁38の平均細孔径が大きくなるため、PMをより流出層48へと浸透させることができる。すなわち、より広範囲で触媒物質とPMを接触させることができるため、PM浄化効率を向上させることができる。
【0069】
なお、入口部33の触媒物質の担持量は、流出層48に比べ流入層42では1.5〜5.5倍が好ましい。1.5より小さいとPM浄化能力が弱く、流入層42に捕集されやすいPMを効率よく除去できない。また、5.5より大きいと隔壁の細孔径が狭まり、PMが流入層42の細孔を塞ぎやすく、PMが流出層48へ浸透するのを妨げるため、PMと触媒物質との接触面積が低下し、PM浄化効率が低下する。
【0070】
また、出口部35の触媒物質は、流入層42に比べ流出層48では1.5〜5.5倍が好ましい。1.5より小さいとPMが流入層42の細孔を塞ぎ、捕集されやすく、PMが流出層48へ浸透するのを妨げるため、PMと触媒が接触する表面積が低下し、PM浄化効率が低下する。5.5より大きいと、流入層42のPM浄化作用が低下し、流入層42でPMが捕集されやすく、PM浄化効率が低下すると考えられる。
【0071】
また、セルのサイズは一辺が0.5〜2mmの矩形が好ましい。
【0072】
また、出口部35の流入層42の領域LEの平均細孔径は7〜15μm、出口部の流出層48の領域LFの隔壁の平均細孔径は5〜13μmであることが好ましい。この平均細孔径は特に限定されるものではない。
【0073】
(実施の形態2)
図6は、本発明の実施の形態2に係る図1に示したDPFにおける隔壁38の内部における触媒物質の分布状態を示す概念図である。
【0074】
ここで、中央部50の流入層42を領域LC、中央部50の流出層48を領域LD、領域LCの触媒物質の担持量をC、領域LDの触媒物質の担持量をD、とする。
【0075】
ここで、「中央部50」とは、DPF30の内部の排ガスの上流側であって、DPFの入口から出口までのプラグ32を除いた部分の距離をLとしたときに、入口から5/12〜7/12の部分である。
【0076】
DPF30の流入セル36に流入した排ガス40は、中央部50において、大部分は流入セル36内を出口部33に向かって隔壁38と略平行に流れる排ガス401と、中央部50の隔壁38を通過し流出セル34に流入する排ガス406とになる。排ガス401は、流入セル36の内壁である流入層42の領域LCに接触し流れる。また、排ガス406は、流入層42の領域LCから流出層48の領域LDに向かって隔壁38の内部に接触し流れる。
【0077】
排ガス401に含まれるPMは、粒子径がおよそ1μm以下と極微小で、不規則なブラウン運動を起こすため、排ガス401が流入セル36内を出口部35に向かって流れる際にも、一部が流入層42の領域LCに捕集される。
【0078】
また、排ガス406に含まれるPMは、隔壁38の内部を通過する中で、流入層42の領域LCから流出層48の領域LDにかけ徐々に減少するように捕集される。ここで、流入層42の領域LCでPMが捕集され細孔が狭まると、さらに流入層42領域LCにPMが捕集されやすくなるため、流出層48の領域LDにはPMがより捕集されにくくなる。このように、PMが流入層42で捕集され、流出層48で捕集されなくなると、PMと触媒が接触しPM浄化できる面積が減少する。
【0079】
DPFの隔壁38の触媒物質の担持量A〜Fは、図6に示すごとくである。つまり、入口部33の流入層42の領域LAでは、Aは他の領域より特に多い。入口部33の流出層48の領域LBでは、Bは他の領域より特に少ない。中央部50の流入層42の領域LCでは、Cは、平均的な量である。中央部50の流出層48の領域LDでは、Dは、平均的な量である。出口部35の流入層42の領域LEでは、Eは他の領域より少ない。出口部35の流出層48の領域LFでは、Fは他の領域より多い。
【0080】
かかる構成により、PMを捕集しやすい領域LAには触媒物質を多く担持し、PMが捕集されにくい領域LBには触媒物質の担持量を減らすことで、少ない触媒物質でもより効率的にPM浄化効率を向上させることができる。
【0081】
さらに、出口部35の流出層48の領域LFに比べ流入層42の領域LEの方が触媒物質を少なく担持し、隔壁38の平均細孔径が大きくすることで、PMをより流出層48へと浸透することができる。すなわち、触媒物質とPMが接触する表面積を増加させることができるため、PM浄化効率を向上させることができる。
【0082】
中央部50では、PMの捕集されやすい領域に触媒を多く担持することと、PMと触媒が接触する表面積を増加し、PM浄化能力を向上させる作用の2つを同時に満たすため、中央部の領域LCと領域LDには触媒物質を平均的に担持し、PM浄化効率を向上させることができる。
【0083】
なお、DPF30の隔壁38は、材質としてSiCが採用されることが好ましく、DPF30の全体としての直径がφ2〜30cm、長さが5〜30cm、隔壁38の厚みが250〜400μm、空隙率が30〜50%が好ましい。
【0084】
また、本願発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本願発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本願発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本願発明に含まれる。
【0085】
例えば、多管フィルタの隔壁38内部の触媒物質が、多管フィルタの外周部に比べ、多管フィルタの中央部の方が多く担持されていてもよい。
【0086】
かかる構成により、排ガス量が多く、PM量が多く捕集されるDPF30の中心に触媒物質をより多く担持することで、PM浄化効率を向上することができる。
【0087】
図7は、本発明の実施の形態2に係るDPF30における触媒分散性とPM浄化能力との相関を示したグラフである。
【0088】
PM浄化能力は以下実験より求めた。
【0089】
まず、予め触媒物質を所定の触媒分散性となるよう担持したDPF30に、所定量のPMを捕集させる。次に、PMを捕集したDPF30に、所定温度で所定風量の熱風を所定時間にわたりDPF30の内部に供給する熱処理を行う。ここで、熱処理前と熱処理後の重量変化量をDPF30のPM浄化量とした。DPF30のPM浄化能力は、DPF30のPM浄化量を、隔壁38に略均一に触媒物質を担持した基準のDPF30の基準のPM浄化量で除した値とした。
【0090】
また、触媒分散性α及びβを示す。触媒分散性α及びβは、下記により定義する。
【0091】
α=(A÷B)÷(C÷D)、β=(C÷D)÷(E÷F)
【0092】
また、触媒物質の担持量A、B、C、D、E、Fは該当する領域における平均値としている。
【0093】
本件等で、触媒物質の担持量A〜Fを求めるにあたり、HORIBA製の蛍光X線分析装置(XRF)を用いた。他にも、走査型分析電子顕微鏡(EM−EDX)やICP発光分析により触媒物質を定量することができる。
【0094】
図7に示すように、触媒分散性の値が1.5≦α≦5.5かつ1.5≦β≦5.5の範囲にあるときに、高いPM浄化能力を有することが分かる。
【0095】
触媒分散性αの値が1.5未満では、従来までのDPFの全面に渡り触媒を均一分散させる場合と大差なく、DPF30の入口部33の流入層42に捕集されやすいPMを効率よく除去できない、本発明のPMが多く捕集される箇所に触媒物質を効率的に分散、かつ、PMをより隔壁38の内部まで浸透させることで、PMと触媒物質との接触面積を増し、PMの浄化効果を向上させる作用が得られなかったためであると考えられる。
【0096】
また触媒分散性βの値が1.5未満では、従来までのDPFの全面に渡り触媒物質を均一分散させる場合と大差なく、DPF30の出口部35の流入層42にPMが捕集され、排ガス40が流入層42の細孔を塞ぎ、PMと触媒物質との接触面積が低下したため、PMの浄化効果が低下したと考えられる。
【0097】
また、触媒分散性αの値が5.5を超える場合は、DPF30の入口部33で、PMが流入層42の細孔を塞ぎ、捕集されやすく、PMが流出層48へ浸透するのを妨げるため、PMと触媒物質との接触する表面積が低下し、PM浄化効率が低下する。また、隔壁38の流入層42と流出層48で極度に触媒の偏りができ、DPF30の入口部33において、隔壁38を流れる排ガス40が極端に減り、DPF30の中央部50から出口部35にかけてより多くの排ガスが流れたため、DPF30の中央部50から出口部35で、相対的により多くのPMを浄化することとなり、PM浄化効率が悪化したと考えられる。
【0098】
また、触媒分散性βの値が5.5を超える場合は、DPF30の出口部35で流入層42のPM浄化能力が低下するため、流入層42でPMが捕集されやすく、PMが流出層48へ浸透するのを妨げるため、PMと触媒物質との接触面積が低下し、PM浄化効率が低下したと考えられる。
【0099】
以上により、下記の式1、または、式2を満足することにより、少ない触媒量でPMの浄化効率の高いDPF30をえることが可能となる。
【0100】
(A/B)/(C/D)=α (1.5≦α≦5.5)・・・式1
(C/D)/(E/F)=β (1.5≦β≦5.5)・・・式2
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の多管フィルタは、少ない触媒物質の量で高効率にPMを浄化することのできる排ガス浄化フィルタとして利用することが可能である。
【符号の説明】
【0102】
10 DPF
12 プラグ
13 入口部
14 流出セル
15 出口部
16 流入セル
18 隔壁
20 排ガス
22 流入層
28 流出層
30 DPF
32 プラグ
33 入口部
34 流出セル
35 出口部
36 流入セル
38 隔壁
40 排ガス
42 流入層
48 流出層
50 中央部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流路に沿って管軸が配置され、ガス流の下流である出口部側が閉塞する複数の流入セルと、ガス流路に沿って管軸が配置され、ガス流の上流である入口部側が閉塞する複数の流出セルと、前記流入セルと前記流出セルとを区画し、ガスを通過させて微粒子を捕集する細孔を有する隔壁とを有する多管フィルタであって、
前記隔壁の前記流入セル側の層である流入層において、
入口部から出口部に向かうに従い担持量が減少するように担持される触媒物質
を備える多管フィルタ。
【請求項2】
さらに、
前記隔壁の前記流出セル側の層である流出層において、
入口部から出口部に向かうに従い担持量が増加するように担持される前記触媒物質
を備える請求項1に記載の多管フィルタ。
【請求項3】
入口部において、
前記流入層に担持される前記触媒物質の担持量は、前記流出層に担持される前記触媒物質の担持量よりも多い
請求項1または2に記載の多管フィルタ。
【請求項4】
出口部において、
前記流入層に担持される前記触媒物質の担持量は、前記流出層に担持される前記触媒物質の担持量よりも少ない
請求項1または2に記載の多管フィルタ。
【請求項5】
入口部において、
前記流入層の前記触媒物質の担持量をA、
前記流出層の前記触媒物質の担持量をBとし、
入口部と出口部との中間部において、
前記流入層の前記触媒物質の担持量をC、
前記流出層の前記触媒物質の担持量をDとするとき、
下記の式1を満足することを特徴とする請求項1に記載の多管フィルタ。
(A/B)/(C/D)=α (1.5≦α≦5.5)・・・式1
【請求項6】
出口部において、
前記流入層の前記触媒物質の担持量をE、
前記流出層の前記触媒物質の担持量をFとし、
入口部と出口部との中間部において、
前記流入層の前記触媒物質の担持量をC、
前記流出層の前記触媒物質の担持量をDとするとき、
下記の式2を満足することを特徴とする請求項1または5に記載の多管フィルタ。
(C/D)/(E/F)=β (1.5≦β≦5.5)・・・式2

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−240007(P2012−240007A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114204(P2011−114204)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】