説明

多糸条からなる極細合成繊維の製造方法およびその製造装置

【課題】極細合成繊維を溶融紡糸にて製造するに際して、1口金での多糸条取りが可能で、かつ糸条間での品質バラツキが小さく、操業性、操作性の面からも安定した多糸条からなる極細合成繊維の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を溶融し、紡糸口金から環状に吐出された総糸条数が3糸条以上の糸条Y群を、環状冷却装置を用いて該吐出糸条群の外周側から中心側に向け環状冷却する製造方法。下記(A)〜(D)の条件を満足する。(A)吐出孔2は1列で環状もしくは複数列で同心円上に配列されていること。(B)上記配列は分割帯により分割されていること。(C)上記分割された配列内の吐出孔を含む領域(紡糸エリア)内の任意の点から鉛直下流線上にて、該吐出孔から吐出される糸条Yが各々油剤付与されること。(D)上記糸条は、前記鉛直下流線上に対して、直交あるいは略直交でかつ同方向に向かって油剤付与されること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多糸条からなる極細合成繊維の製造方法およびその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、柔軟性に富み優れた風合いを有することから、合成皮革、高密度織物、高級衣料等の高付加価値製品の素材として用いるために、例えば、単糸繊度が1.2デシテックス以下などという極細繊維からなる合成繊維の製造方法が要請されている。しかし合成繊維の極細化(単糸細繊度化)が進むにつれて、繊度斑や断面斑(以下、これらを総称して「ウースター斑」と称す)、強伸度(以下、これらを称して「タフネス」と称す)バラツキに起因して、例えば薄地織物等の高次商品に対して、品質面の悪化や品質差が生じてしまう傾向があり、極めて重要な問題である。
【0003】
また一方では、生産性向上のために引取速度アップといった高速化や、1口金あたりにおける複数本の糸条取り(多糸条化)による高効率化は、コストダウンの観点からも重要な検討課題である。
【0004】
つまりは極細合成繊維の製造に関して、品質面ではウースター斑やタフネスバラツキの小さい、そして生産、操業性の面からは、1口金での多糸条取りが可能で操業性が良く(糸切れの少ない)、かつ作業性の良い(簡易に作業できる)製造方法および製造装置の開発が必要不可欠なのである。
【0005】
上記の状況を鑑みて鋭意検討を進めた結果、1つの紡糸口金から吐出される多糸条群を環状冷却する際に、糸条群が多く多糸条化が進む程、また糸条単糸数が少ない程、各糸条群でのウースター斑およびタフネスバラツキが顕在化し易いことが判った。これは環状冷却装置による気流吹付けの影響と走行糸条による随伴流の影響が合い重なって、糸揺れや各糸条群間での紡糸張力差に起因し易いからである。
【0006】
そのため本発明者は、上記対策として、各々の糸条群と環状冷却装置内部の冷却風吹き出し筒間との距離を、該冷却風吹出し筒の下流方向側に沿って均一間距離を有する糸道規制、つまりは給油ノズルの配列を検討する必要があるとの結論に達したのである。
【0007】
一般に給油ノズルの配列は、特許文献1に例示されているよう、また図11(a)、(b)、(c)に例示のように、各糸条数に対応させて給油ノズルを設け、該ノズルは走行糸条に交差するよう並列に設けられている。
【0008】
しかしながら、例えば特許文献2などの細繊度単糸の紡糸に必要な環状冷却装置、そして上述の並列に設けられた給油ノズルの配列(例えば図11)を用いて、多糸条化紡糸を実施した際に、例えば図9(a)に示すように各糸条群と該冷却装置の冷却風吹き出し筒との距離(P1、P2)、また各糸条群と各給油ノズルとの入射角度(θ1、θ2)が異なってしまうために、各糸条群間での冷却効率やポリマー配向性、また原糸物性差にバラツキが生じてしまう。
【0009】
一方、上述した内容に鑑みて、環状冷却風吹出し筒の下流方向側に沿う糸道規制に着目すると、特許文献3では、ポリエステルの多錘取り溶融紡糸方法に関して、1つの紡糸口金に対して、4群(糸条)以上に分割した糸条を環状吹き付け装置によって冷却し、3000〜8000m/分の範囲で高速で引き取るに際し、紡出糸条の環状方向からの冷却性向上、糸条間同士の融着や糸揺れ抑制、さらには糸質の均一性(バラツキ)を解決すべく、冷却固化後の各糸条群の環状分割集束径を特定範囲に設定し、据広がりに冷却風を外部に効率よく排出することが提案されている。
【0010】
本提案では確かに冷却効率が向上し、かつ環状からの吹付け風および糸条の随伴気流が排除され易くなり糸揺れは抑制されるが、本文献においては、給油に関して全く言及がなく、給油まで含めた紡糸に関する配慮がなされていない。すなわち各糸条が裾広がりの冷却風を排出させるように集束するということは、走行糸条を給油する前に前記分割集束ガイドに接糸させることになるため、糸条の毛羽やタルミ、単糸切れ等の悪影響を起こし易くさせるだけでなく、経時的なガイド摩耗による糸切れの多発や定期的もしくは頻繁にガイドを交換する必要があり生産性また操業性の面からも好ましくない。
【0011】
特許文献4では、紡糸口金内の各紡糸孔群のほぼ中心点から下流方向に拡大縮小投影した位置に給油ノズル、糸道規制ガイド、交絡処理装置を配して、複数の紡糸糸条群を環状冷却装置で冷却固化した各糸条群を群間分割して溶融紡糸する方法が提案されている。
【0012】
しかしながら、例えば5糸条群からなる紡糸口金(図3(a))から吐出された糸条群を環状冷却装置にて冷却後、給油する際に同文献4提案の給油装置(図12)を使用した場合、給油ノズルが5等配で環状に放射状方向に配列されているため、糸掛け動作時において、正面側(図12の1側)と反正面側(図12の2側)では、作業者にとって給油ノズルならびに糸道規制ガイドが見えにくいため、糸掛けが困難であり操作性に支障をきたしてしまう。加えて紡糸時に走行糸条の給油付与のチェックに関しても、観察しにくく糸条が給油されているか否かは判断しにくいという問題があった。
【0013】
また特許文献5では、紡糸錘数に対応して、紡糸孔が全孔群の幾何学的中心から放射状に3群以上の紡糸孔群に分割穿孔された紡糸口金に関して、該口金の吐出孔配置について規制した提案がなされている。
【0014】
しかしながら本文献において給油の位置について言及はなく、特別な配慮はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2003−13323号公報
【特許文献2】特開2004−300614号公報
【特許文献3】特開平1−246414号公報
【特許文献4】特開平6−93509号公報
【特許文献5】特開平1−207414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述したような点に鑑み、単糸繊度が1.2デシテックス以下のポリアミドやポリエステル等の極細合成繊維を溶融紡糸にて製造するに際して、1口金での多糸条取りが可能で、かつ糸条間でのウースター斑およびタフネスのバラツキが小さい、品質、操業性、操作性の面からも良好な多糸条からなる極細合成繊維の製造方法および製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した目的を達成する本発明の多糸条からなる極細合成繊維の製造方法は、以下の(1)の構成を有する。
(1)熱可塑性樹脂を溶融し、紡糸口金から環状に吐出された総糸条数が3糸条以上の糸条群を、該紡糸口金の直下に設けられた環状冷却装置を用いて該吐出糸条群の外周側から該吐出糸条群の中心側に向けて吹き出す冷却風により環状冷却する製造方法であって、下記(A)〜(D)の条件を満足することを特徴とする合成繊維の製造方法。
(A)紡糸口金が複数の吐出孔を有し、該吐出孔は1列で環状もしくは複数列で同心円上に配列されていること。
(B)上記配列は、糸条毎に区切るための分割帯により分割されていること。
(C)上記分割された配列内の吐出孔を含む領域(紡糸エリア)内の任意の点から鉛直下流線上にて、該吐出孔から吐出される糸条が各々油剤付与されること。
(D)上記糸条は、前記鉛直下流線上に対して、直交あるいは略直交でかつ同方向に向かって油剤付与されること。
【0018】
かかる本発明の多糸条からなる極細合成繊維の製造方法において、より具体的に好ましくは、以下の(2)〜(4)のいずれかの構成になるものである。
(2)熱可塑性樹脂を溶融し、紡糸口金から環状に吐出された総糸条数が3糸条以上の糸条群を、該紡糸口金の直下に設けられた環状冷却装置を用いて該吐出糸条群の外周側から
該吐出糸条群の中心側に向けて吹き出す冷却風により環状冷却する製造方法であって、下記(A)を満足することを特徴とする上記(1)に記載の合成繊維の製造方法。
(A)紡糸口金が複数列に同心円上に配列された複数の吐出孔を有する紡糸口金である場合において、各吐出孔の配置位置は、その吐出孔の中心と紡糸口金の中心を結ぶ線上に他の吐出孔の中心が存在しないように配置されていること。
(3)熱可塑性樹脂を溶融し、紡糸口金から環状に吐出された糸条の単糸繊度が1.2デシテックス以下であることを特徴とする上記(1)、(2)のいずれか記載の合成繊維の製造方法。
(4)熱可塑性樹脂を溶融し、紡糸口金から環状に吐出された糸条の単糸数が36フィラメント以下であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載の合成繊維の製造方法。
(5)紡糸口金から吐出された糸条群を環状冷却し、給油、交絡付与した後に、最初の引取ローラーで引取るに際し、引取り速度2500m/分以上として引取りを行うことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の合成繊維の製造方法。
【0019】
また、上述した目的を達成する本発明の多糸条からなる極細合成繊維の製造装置は、以下の(6)の構成を有する。
(6)下記(A)〜(D)の条件を満足する溶融紡糸装置および油剤付与装置と、冷却風を前記環状にある吐出糸条群の外周側から該吐出糸条群の中心側に向けて冷却風を吹き出す環状冷却装置とを有し、前記環状冷却装置は該紡糸口金の直下に設けられていることを特徴とする合成繊維の製造装置。
(A)紡糸口金が複数の吐出孔を有し、該吐出孔は1列で環状もしくは複数列で同心円上に配列されていること。
(B)上記配列は、糸条毎に区切るための分割帯により分割されていること。
(C)上記分割された配列内の吐出孔を含む領域(紡糸エリア)内の任意の点から鉛直下流線上にて、油剤付与装置の接糸油部が各々存在すること。
(D)上記接糸油部は、前記鉛直下流線上に対して、直交あるいは略直交でかつ同方向に向かって位置すること。
【0020】
また、かかる本発明の多糸条からなる極細合成繊維の製造方法は、より具体的に好ましくは、以下の(7)〜(8)のいずれかの構成からなるものである。
(7)下記(A)の条件を満足する溶融紡糸装置および油剤付与装置と、冷却風を前記環状にある吐出糸条群の外周側から該吐出 糸条群の中心側に向けて冷却風を吹き出す環状冷却装置とを有し、前記環状冷却装置は該紡糸口金の直下に設けられていることを特徴とする上記(6)に記載の合成繊維の製造装置。
(A)上記接糸油部は、紡糸口金面とそれぞれ同じ距離を有するよう各々配置されていること。
(8)下記(A)の条件を満足する溶融紡糸装置および油剤付与装置と、冷却風を前記環状にある吐出糸条群の外周側から該吐出 糸条群の中心側に向けて冷却風を吹き出す環状冷却装置とを有し、前記環状冷却装置は該紡糸口金の直下に設けられていることを特徴とする上記(7)に記載の合成繊維の製造装置。
(A)紡糸口金が複数列に同心円上に配列された複数の吐出孔を有する紡糸口金である場合において、各吐出孔の配置位置は、その吐出孔の中心と紡糸口金の中心を結ぶ線上に他の吐出孔の中心が存在しないように配置されていること。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、単糸繊度が1.2デシテックス以下のポリアミドやポリエステル等の極細合成繊維を、多糸条取りによって生産効率を向上させ、かつ糸条間でのウースター斑やタフネスのバラツキが小さい安定した品質を有する製造方法およびその製造装置を提供することができ、また糸切れが少なく操業性に優れ、かつ操作性にも優れた該製造方法およびその製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の多糸条からなる極細合成繊維の製造方法および製造装置の一実施態様を示すものであり、特には給油部を示す概略モデル図である。図1(a)は該給油部の上面モデル図であり、図1(b)は該給油部の正面モデル図、図1(c)は該給油部の側面モデル図である。
【図2】図2(a)は本発明の多糸条からなる極細合成繊維の製造方法および製造装置の一実施態様を示す概略工程図である。図2(b)および図2(c)は、紡糸口金と環状冷却装置部を示す概略モデル図である。
【図3】図3は、本発明の多糸条からなる極細合成繊維の製造方法および製造装置で用いる紡糸口金の一実施態様(5糸条、環状2列)を示す概略モデル図であり、図3(a)は該紡糸口金の正面モデル図、図3(b)は側面モデル図である。
【図4】図4は、本発明の多糸条からなる極細合成繊維の製造方法および製造装置の紡糸口金の一実施態様(5糸条、環状1列)を示す概略モデル図である。
【図5】図5は、本発明の多糸条からなる極細合成繊維の製造方法および製造装置の紡糸口金の一実施態様(5糸条、環状3列)を示す概略モデル図である。
【図6】図6は、従来の紡糸口金の吐出孔配列であり、加えて紡糸時の冷却風の流れを示した概略モデル図である。
【図7】図7は、本発明の紡糸口金の1糸条分の紡糸エリアを示すものであり、図7(a)〜(d)は、前記同様に1糸条分の紡糸エリアを示すものであり、かつ吐出孔の配列を示す一実施態様を示す概略モデル図である。
【図8】図8(a)、図8(b)ともに、本発明の紡糸口金における分割帯幅Wおよび紡糸エリアXの一実施態様を示した概略モデル図である。
【図9】図9は、本発明で用いる各パラメータを説明する概略モデル図である。
【図10】図10(a)は、本発明で用いる紡糸口金の一実施態様(6(糸条/紡糸口金))を示した概略モデル図であり、図10(b)、(c)は、それぞれ該紡糸口金に対応する給油部の上面および正面の概略モデル図である。
【図11】図11は、従来の一般的な給油部の一実施態様を示す概略モデルであり、図11(a)は該給油部の正面モデル図であり、図11(b)は該給油部の側面モデル図、図11(c)は該給油部の上面モデル図である。
【図12】図12は、従来の給油部の一実施態様を示す上面の概略モデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、更に詳しく本発明の多糸条からなる極細合成繊維の製造方法およびその製造装置について説明する。
【0024】
本発明の製造方法は、下記(A)〜(D)の条件を満足する溶融紡糸装置および油剤付与装置と、冷却風を前記環状にある吐出糸条群の外周側から該吐出糸条群の中心側に向けて冷却風を吹き出す環状冷却装置とを有し、前記環状冷却装置は該紡糸口金の直下に設けられていることを特徴とする合成繊維の製造装置を用い、総糸条数が3糸条以上の糸条群を溶融紡糸し、製造するものである。
(A)紡糸口金が複数の吐出孔を有し、該吐出孔は1列で環状もしくは複数列で同心円上に配列されていること。
(B)上記配列は、糸条毎に区切るための分割帯により分割されていること。
(C)上記分割された配列内の吐出孔を含む領域(紡糸エリア)内の任意の点から鉛直下流線上にて、油剤付与装置の接糸油部が各々存在すること。
(D)上記接糸油部は、前記鉛直下流線上に対して、直交あるいは略直交でかつ同方向に向かって位置すること。
【0025】
本発明で用いる溶融紡糸装置および油剤付与装置は、上記(A)〜(D)の特徴を有するものであるが、以下にそれについて説明する。図3(a)は本発明の合成繊維の製造装置の紡糸口金の一実施態様(5糸条/紡糸口金)を示した概略モデル断面図であり、図3(b)は図3(a)の側面の断面図を示す概略モデル側面図であり、紡糸口金3に設けられた吐出孔2は溶融された熱可塑性樹脂を最終的に押出吐出する孔である。
【0026】
複数の吐出孔2を有した時の配列に関して、1列の場合は環状にすなわち図4に示すがごとく円周上に配置され(本図は5(糸条/紡糸口金)の場合を示す)、複数列の場合は、例えば、図3(a)に示すがごとく(本図は5(糸条/紡糸口金)の場合を示す)、同心の各円周上に吐出孔2が配置されるものである。その中で好ましくは、複数列である。なぜなら配列に関しては、吐出孔が環状1列に配列されるよりも、複数列に配列されている方が、多フィラメント化すなわち糸条あたりのフィラメント数が多くできるからである。
【0027】
加えて複数列に同心円周上に配列された複数の吐出孔2を有する紡糸口金の場合、より内側の環状列を成す吐出孔2の配置位置は、その環状列の一つ外側にある環状列を成す吐出孔の配置位置との関係において、各吐出孔の配置位置は、その吐出孔の中心と紡糸口金の中心を結ぶ線上に他の吐出孔が存在しないように配置されていることが好ましい。
【0028】
例えば、図5に示すがごとく3列以上の吐出孔2が配列されている場合(本図は4(糸条/紡糸口金)の場合を示す)、該吐出孔2の配置位置は、ある1つの吐出孔の中心と紡糸口金の中心を結ぶ線上に、他の吐出孔の中心が存在しないことがさらに好ましい。これは図6に示すがごとく、吐出孔2の中心が上記線上に配置されると、環状冷却装置からの冷却風Aがこれら吐出孔2から紡出される各単糸に均一に吹き付けられず、外周に配列された糸条と該配列の内側の糸条間で整流効果に差を生じやすくなり、かつ糸条の糸揺れによる接触、融着が発生しやすくなり、その場合にはウースター斑の悪化、またバラツキが大きくなりやすくなる傾向にあるからである。すなわち吐出孔の配置は、前述した通り、図3(a)、図5および図7(a)〜(d)に示すがごとく、各吐出孔の中心と紡糸口金の中心とを線上に他の吐出孔の中心が存在しないことが好ましく、さらには図7(c)、(d)に示すがごとく、上記線上に他の吐出孔の外周が接している程度である方がより好ましく、また他の吐出孔が上記線上に重複していてもよいが、図7(b)に示すがごとく、上記線上に他の吐出孔が存在しないのが最も好ましい。
【0029】
本発明で用いる紡糸口金においては、さらに上記吐出孔配列は、糸条毎に区切るための分割帯により分割されている。ここで分割帯は、例えば図3(a)、図4、図8(a)、(b)の2点鎖線で示したごとく、紡糸口金の中心点に向かって横断的に幅(W)を有した分割帯(Z)である。そして分割帯幅Wは、図8(a)、(b)に示すがごとく、隣接する二つの紡糸エリアXにおいて、分割帯Zを挟んで最も近接し合う2つの吐出孔の中心を通り、かつ中心線が紡糸口金の中心を通る二本の平行線を想定した時のその平行線の幅である。分割帯幅W(mm)は、5≦W≦15(mm)が好ましい。なぜなら分割帯は、紡糸エリアを区切って多糸条対応化を図るだけでなく、該紡糸エリアから吐出される各々の糸条群を区別する、例えば給油ノズル71に糸掛けする場合に、各糸条群を障害無くスムーズに短時間で区分けするためにも好適であるからである。
【0030】
また上記分割帯Zによって仕切られた各紡糸エリアXの数は、紡糸口金における糸条数と同数であり、1つの紡糸口金から溶融紡糸する際、各紡糸エリアXから紡出される糸条が各々1つの糸条を形成するように操作される。例えば、図8に示すがごとく、分割帯Zが3つあるとすると、紡糸口金において分割帯Zで分割された配列内の吐出孔を含む領域(紡糸エリアX、枠内)は3つに区切られ、3糸条(/紡糸口金)となる。加えて本発明において多糸条とは、1つの紡糸口金あたり3糸条以上をいうものとする。
【0031】
ここで前記紡糸エリアとは、図8(b)に示すがごとく、紡糸口金の吐出孔が同心円上に1列もしくは複数列で配列されている場合において、最外周側に配列された分離帯Zに最も近い吐出孔と最内周側に配列された同分離帯Zに最も近い吐出孔の外周側を包囲し、かつ吐出孔の外周側を包囲した部位である。
【0032】
そして該紡糸エリアXから吐出した各糸条群は紡糸エリアXの任意の点から鉛直方向に紡出され、環状冷却後、給油付与される。本発明においては、各糸条群間でのウースター斑およびタフネスバラツキを抑制するために、各紡糸エリアX内の任意の点から鉛直下流線上に給油ノズルの給油吐出孔が存在し、各糸条群が給油付与されることが必要である。これは先に述べたように、紡出した糸条を鉛直に紡出することにより、各々の糸条群と環状冷却装置内部の冷却風吹出し筒間との水平方向の距離(P)が、該冷却風吹出し筒の下流方向側に沿って均一の距離とすることで、各糸条の走行方向の冷却を均一にすることができるだけでなく、各糸条間で紡糸口金から給油ノズルの給油吐出孔間までの距離が同じとなるため、糸条の配向結晶進行度合いも均一化されてタフネスバラツキも抑制可能となるからである。さらには、各糸条は給油吐出孔まで鉛直下流方向に紡出されるので、集束ガイドを設置しなくても無理なく給油ノズルを通過することがで、糸条の毛羽やたるみ、単糸切れ等の悪影響がない。所望により集束ガイドを設置することも可能であるが、上記悪影響が発現しない範囲とするのがよい。
【0033】
ここで紡糸口金から紡出された紡出糸は、上記のとおり紡糸エリアXの任意の点から鉛直下流線上で給油される。これにより前記紡糸エリアX内にある吐出孔から紡出された紡出糸条が給油部(給油ノズルの接糸油部)に達するまでに描く軌道が口金面に対して鉛直方向となる。なかでも給油部の位置が紡糸エリア内から吐出される各単糸が給油部に達するまでの走行距離の分布が小さくなるように選択されること、具体的には、紡糸エリア内の吐出孔群の中心部の真下、すなわち紡糸エリアの中心部の点から鉛直下流線上にあることが好ましい。また、上記糸条内の各単糸の走行距離の分布が、各糸条間で同様となるような位置に給油部を設けることが糸条間での品質のバラツキが極小化できる点で好ましい。具体的には、各糸条の給油部と対応する紡糸エリアの位置関係が同じか、対掌の位置関係にあることが好ましい。最も好ましいのは各給油部が対応する紡糸エリアの中心部の鉛直下流線上に位置していることである。
【0034】
各々の糸条群と環状冷却装置内部の冷却風吹出し筒間との距離(P)は、図9(b)に示すがごとく、冷却吹出し筒方向に沿って一定区間、均一の距離を有することが好ましい。つまりは、Pはほぼ一定値となることが重要である。その中で、5≦P≦20(mm)となることが好ましい。つまりは、上記Pは5≦P≦20(mm)の範囲内で一定値となることが好ましい。5(mm)未満の場合、糸分けや糸掛け時に、糸条が冷却吹出し筒に接触し操作性が煩雑になる。一方、20(mm)を超える場合は、糸条の冷却効率が悪くなるだけでなく、該効率を補うために冷却吹出し風速を向上させると各糸条の糸揺れが発生しやすくウースター斑値が極端に悪くなるからである。
【0035】
また給油ノズルの配列に関しては、図1(a)、(b)、(c)に示すがごとく、また上述したごとく、紡糸口金内に環状方向に同心円状に配列された各糸条群(紡糸エリアX)の任意の部位から鉛直下流線上に対して、直交あるいは略直交することが好ましく、かつ同方向に向かって該給油ノズルおよび給油吐出孔もしくは接糸油部が紡糸口金下面と水平面に平行して配列され、各糸条に油剤付与することが重要である。このような位置に給油ノズルおよび給油吐出孔もしくは接糸油部を同方向に並列、配列することにより、作業者が多糸条からなる各糸条群を区分して糸分けし、給油ノズルや押さえガイドに糸掛けするにあたり、短時間でスムーズに糸掛けが可能であり、長期運転生産時の走行糸条の油剤付与チェックに関しても容易に確認することができる。
【0036】
また図9(b)に示すがごとく、配列された給油ノズル(接糸油部)と紡糸口金間の距離Hoは、単糸繊度が小さくなる程、また単糸数が多くなる程、過大な紡糸張力の抑制や糸切れ回数の低減、また糸条の温度を考慮して、600≦Ho≦1200(mm)が好ましく、さらに好ましくは800≦Ho≦1000(mm)である。前記距離Hoが600(mm)未満時は、環状冷却装置の極直下に給油ノズルが配列され、糸分けおよび糸掛け性が格段に悪くなったり、また糸条温度が冷えきらないうちに糸条が給油付与されるため、タフネスに悪影響を及ぼしてしまう。また1200(mm)を越える場合は、前述した通り、過大な紡糸張力の発現に伴い糸切れ回数が増える傾向にあり、操業上好ましくない。
【0037】
一方、本発明においては、上記紡糸口金の直下に環状冷却装置を設ける。該環状冷却装置は、前記環状にある紡糸口金の吐出糸条群の外周側から該吐出糸条群の中心側に向けて冷却風を吹き出すものある。前記環状冷却装置から吹き出される冷却風は、特に規制はないが、好ましくは周(環状)方向で均一な風量を吐出糸条群に直交あるいは略直交、または下向きに吹き付けることが好ましい。
【0038】
加えて冷却風吹出し筒から吹き出される冷却風速に関しては、該冷却吹出し筒上端面から100(mm)の区間にて最大0.05〜1.0(m/秒)の範囲にあることが好ましい。該冷却風速が0.05(m/秒)未満の場合、各糸条の冷却が不十分となり、ウースター値およびタフネス値が悪化する可能性があり、1.0(m/秒)を超えると、紡糸口金から吐出された糸条が糸揺れし、ウースター値や製糸性が悪化する可能性がある。
【0039】
また図9(b)に示すがごとく、紡糸口金の吐出表面と冷却風吹出し部の上端部との垂直距離Hqは、10≦Hq≦100(mm)の範囲にあることが好ましい。垂直距離Hqが10(mm)未満の場合、各糸条が冷却風を紡糸口金の吐出表面に吹き上げるため、紡糸口金から吐出された繊維糸条が紡糸口金直下で糸揺れをし、ウースター値が悪化するとともに、該繊維糸条走行に伴う随伴気流の影響で紡糸張力が高くなり製糸性が悪化する可能性がある。逆に100(mm)を超えると、該糸条が固化してしまいウースター値が悪化する可能性がある。垂直距離Hqの更に好ましい範囲としては30≦Hq≦65(mm)である。
【0040】
加えて本発明においては、図2(b)に示すがごとく、さらに紡糸口金の直下でかつ環状冷却装置の上方に蒸気噴出装置5を設け、糸条を吐出している前記紡糸口金面に向けて蒸気Sを噴出することもできる。特に熱可塑性樹脂としてナイロンを用いる場合は、該紡糸口金面に向けて蒸気を噴出することにより、紡糸口金直下での酸素濃度が低減され、酸化物の発生を抑制でき、また紡糸口金下での雰囲気温度を長期間にわたり適正に維持することができるため、溶融紡糸時には、糸切れ減少、口金修正周期延長といった操業性が良好となり有効である。また紡糸口金面に向けて蒸気を噴出するに際しては、環状の噴射口より蒸気Sを噴出することが好ましい。これは円形状を有する紡糸口金に対し、該紡糸口金の円周方向から均一に蒸気を吹きつけるためである。
【0041】
一方、ポリエステルを用いる場合は、例えば図2(c)に示すがごとく、紡糸口金を保持するパック21と環状冷却装置を接圧着して紡糸することで同様に操業性よく紡糸することが可能である。
【0042】
かくして紡糸口金から吐出された糸条群は、環状冷却、給油付与後、交絡処理が施されて、引取ロールを介して巻き取られるのである。
【0043】
以下に本発明で用いる製造装置の好ましい例について、説明する。本発明で好ましく用いられる多糸条からなる極細合成繊維の製造装置1は図2(a)で示すがごとくであり、図3、図4および図5の概略モデル断面図で示すがごとく同心円上に環状に1列もしくは複数列に配列した多数の吐出孔2を有する紡糸口金3、該紡糸口金3の直下に該紡糸口面に向けて蒸気Sを噴出する蒸気噴射口4を有する蒸気噴出装置5、該蒸気噴出装置5の下方に配されて、前記環状にある吐出糸条群Yの外周側から該吐出糸条群Yの中心側に向けて冷却風Aを吹き出す環状冷却装置6にて各糸条Yを冷却後、各々の糸条群Yと環状冷却装置内部の冷却風吹出し筒61間との距離(P)を、該冷却風吹出し筒61の下流方向側に沿って均一距離を有するように、図1に示すがごとく、給油ノズル71および給油吐出孔72、接糸油部73の油剤吐出方向を前記走行糸条に直交するようにせしめ、かつ同方向に並列に配置させた給油ノズルユニット(油剤付与装置)7を有してなるものである。その後、糸条は、給油ノズル71直下の糸道規制ガイド8を介して、交絡処理装置9により交絡処理が行われ、最初の引取ローラー10および第2の引取ローラー11を介して、ワインダー12にて巻き取られる。
【0044】
本発明の製造方法において、紡糸口金3から吐出された糸条群を、該吐出後、最初の引取ローラー10で引取るときに、単糸繊度が1.2デシテックス以下の繊維糸条になるようにして延伸と引取りを行う場合に本発明の効果がより顕著に発揮される。さらに好ましくは、単糸繊度が1.0デシテックス以下、より好ましくは0.5〜0.8デシテックスの極細合成繊維の場合である。また1糸条あたりの単糸数は36フィラメント以下が好ましく、さらに好ましくは12〜24フィラメントである。また紡糸口金あたりの総糸条数に関して、3糸条以上であるときに特に有効であるが、4糸条〜8糸条でさらに効力を発揮する。8糸条以上になると、紡糸口金の大きさや該口金内の吐出孔間ピッチの設計に関する制約、あるいは巻取機等の設備制約が生じる場合がある。
【0045】
このような構成にすることで、最も合理的なプロセスで実用的な機械的物性を有する合成繊維を製造することができる。また紡糸口金3から吐出された糸条群を、該吐出後、最初の引取ローラー10で引取るときに、引取り速度を2500(m/分)以上、好ましくは3000(m/分)以上、5000(m/分)以下として引取りを行うことが、多糸条化に加えてさらに高速化対応も可能となって、コスト面や安定生産の上で好ましい。
【0046】
また、本発明の合成繊維の製造方法においては、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維等に好ましく適用できる。特に、本発明の効果が顕著であることから、図2および図2(a)に示す製造装置を用いたポリアミド繊維において有効である。ポリアミド繊維としては、特に限定されるものではないが、ポリカプロラクタム(ナイロン6)繊維やポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)繊維が好ましい。また、これらの繊維に吸湿、抗菌、艶消しなどの機能を付与させる機能剤、さらには、製糸性向上などの添加剤を付与してもよい。
【0047】
これらの本発明の多糸条からなる極細合成繊維の製造方法および製造装置によれば、多糸条取りでの生産効率の向上、また糸条間でのウースター斑やタフネスのバラツキが小さい良好な品質を有する、また操作性の良い製造方法およびその製造装置を提供することができる。このことは通常の丸断面繊維からなる糸を製造する場合にはもちろんのこと、異形断面繊維からなる繊維糸条を製造する場合にも、同様の効果を得ることができる。ここで異形断面繊維とは、例えば、断面形状がY字型もしくはT字型、C型、扁平型などの非円形状の断面、中空断面を有するものである。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて、本発明の多糸条からなる極細合成繊維の製造方法およびその製造装置について、さらに具体的に説明する。尚、実施例および比較例中の各特性値は、各糸条間でのウースター斑とタフネス値のバラツキ、糸切れ回数に注目し、次の方法で判断した。また繊度測定については、JIS L 1013−1999 8.3.1繊度 正量繊度A法に準じて測定を行った。
【0049】
[バラツキ評価]
本発明の製造方法ならびに製造装置にて得られた糸条を、紡糸口金の糸条数に合わせて選択する。そして各々の糸条のウースター斑およびタフネス値を下記評価方法で同一糸条で5回測定し、その平均値(Rx)、標準偏差(Rstd)を算出した。尚、標準偏差は不偏分散から算出されるものとした。そして、Rcv=Rstd/Rx×100(%)の関係式からRcvを算出し、4段階でバラツキ評価を行った。△以上を合格とした。
◎:「非常に優れている」(Rcv= 〜2%未満)
○:「優れている」 (Rcv=2〜4%未満)
△:「良好」 (Rcv=4〜6%未満)
×:「劣っている」 (Rcv=6%〜)
【0050】
[ウースター斑]
zellweger uster社製のUSTER TESTER IIIを用いて試料長300(m)、測定糸速度100(m/分)で、設定を12.5%HIとして8個の試料について測定して繊維長方向の繊度斑の変動状態(UH%値)を求めた。本発明においては1%未満が望ましい。
【0051】
[タフネス(強伸度)]
JIS L1013(1999)の8.5項に準じて引張強さ(強度)及び伸び率(伸度)を測定した。尚、測定条件としては、定速緊張形試験機(オリエンテック(株)社製テンシロン)を用い、つかみ間隔50(cm)、引張速度50(cm/min)とした。
【0052】
強度および伸度を基に、以下の式でタフネスを算出した。
タフネス=強度(cN/dtex)×(伸度(%))1/2
【0053】
[糸切れ]
溶融紡糸するに際し、試作量3トンを採取し糸切れ回数(回/トン)を測定し、4段階で評価し、△以上を合格とした。
◎:「非常に優れている」(〜2.0(回/トン)未満)
○:「優れている」(2.0〜3.0(回/トン)未満)
△:「良好」 (3.0〜5.0(回/トン)未満)
×:「劣っている」(5.0(回/トン)〜)
【0054】
[総合評価]
総合評価については、上記ウースター斑バラツキ(RcvU)およびタフネスバラツキ(RcvT)および糸切れ評価結果を基に、前記いずれかの結果にて評価の低い方を、総合評価の結果として採用した。
◎:「採用可能でかつ優れている」
○:「採用可能」
×:「劣っており、採用不可」
【0055】
(実施例1〜6、比較例1)
図1、図2(a)、(b)に示した装置態様にて、図3、図4、図5に示す環状1列または2列、3列の吐出孔が同心円状に配列され(環状2列および3列の場合には、各吐出孔の配置位置は、その吐出孔の中心と紡糸口金の中心を結ぶ線上に他の吐出孔の中心が存在しないように配置されている)、かつ紡糸エリア数を5分割しかつ分離帯幅Wを10(mm)として、5(糸条/紡糸口金)の紡糸口金を各々製作し、図9に示す従来の給油配列(以下、平面配列と称す)と本発明の上記任意の吐出孔から鉛直下流線状に対して直交し、かつ同方向に向かって該給油ノズルおよび給油吐出孔、接糸油部が紡糸口金下面と水平面上に平行して配列した給油配列(以下、段付配列と称す)を紡糸テストし、上項バラツキ評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0056】
テスト内容としては、ナイロン6(98%硫酸相対粘度2.8のチップ、溶融温度280℃)、ナイロン66(98%硫酸相対粘度2.8のチップ、溶融温度290℃)のポリマーを溶融し、紡糸口金3より吐出後、蒸気噴出装置5を用いて環状の噴射口により蒸気Sを均一に紡糸口金面に吹き付け、冷却開始距離(Hq)が30(mm)、平均冷却風速(冷却吹出し筒上端面から100(mm)の区間での平均風速)が0.35(m/s)、各糸条と環状冷却風吹出し筒間との距離(P)が7.5(mm)を有する環状冷却装置6により糸条を冷却し、紡糸口金3と距離(Ho)が800(mm)を有する本発明の給油装置(段付給油配列)を用いて、交絡処理装置9にて交絡処理を行い、最初の引取ローラー10での引取り速度2500(m/分)として、各品種毎のポリアミド繊維糸条を得た。尚、98%硫酸相対粘度および極限粘度は、以下の方法で測定した。
【0057】
[98%硫酸相対粘度]
(a)試料を秤量し、98重量%濃硫酸に試料濃度(C)が1g/100mlとなるように溶解する。
(b)(a)項の溶液をオストワルド粘度計にて25℃での落下秒数(T1)を測定する。
(c)試料を溶解していない98重量%濃硫酸の25℃での落下秒数(T2)を(2)項と同様に測定する。
(d)試料の98%硫酸相対粘度(ηr)を下式により算出する。測定温度は25℃とする。
(ηr)=(T1/T2)+{1.891×(1.000−C)}。
【0058】
[極限粘度]
オルソクロロフェノールに試料ポリマーを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて複数点の相対粘度ηrを求め、それを無限希釈度に外挿して求めた。
【0059】
【表1】

【0060】
表1から判るように、本発明の製造装置によれば、従来の平面給油配列を有する製造装置対比、ウースターおよびタフネスバラツキ抑制効果が顕著であり、また糸切れも少なく良好であった。
【0061】
(実施例7〜9)
図2(a)、図2(b)、図10に示した装置態様にて、環状2列の吐出孔が同心円状に配列され(各吐出孔の配置位置は、その吐出孔の中心と紡糸口金の中心を結ぶ線上に他の吐出孔の中心が存在しないように配置されている)、かつ紡糸エリア数を6分割しかつ分離帯幅Wを7.5(mm)として、6(糸条/紡糸口金)の紡糸口金を製作し、本発明の段付き給油配列を用いて、引取り速度を変更して上項バラツキ評価を実施した。尚、テスト内容としては、ナイロン6(98%硫酸相対粘度2.8のチップ、溶融温度280℃)ポリマーを溶融し、紡糸口金3より吐出後、蒸気噴出装置5を用いて環状の噴射口により蒸気Sを均一に紡糸口金面に吹き付け、冷却開始距離(Hq)が70(mm)、平均冷却風速(冷却吹出し筒上端面から100(mm)の区間での平均風速)が0.8(m/s)、各糸条と環状冷却風吹出し筒間との距離(P)が20(mm)を有する環状冷却装置6により糸条を冷却し、紡糸口金3と距離(Ho)が1200(mm)を有するものであり、24デシテックス22フィラメントとして紡糸した。
【0062】
【表2】

【0063】
(実施例10〜13)
さらに図2(a)、図2(c)、図10に示した装置態様にて、環状2列の吐出孔が同心円状に配列され(各吐出孔の配置位置は、その吐出孔の中心と紡糸口金の中心を結ぶ線上に他の吐出孔の中心が存在しないように配置されている)、かつ紡糸エリア数を6分割しかつ分離帯幅Wを10(mm)として、6(糸条/紡糸口金)の紡糸口金を製作し、本発明の段付き給油配列を用いて、配列された給油ノズルと紡糸口金間の距離Hoの影響によるバラツキ評価を実施した。
【0064】
尚、テスト内容としては、ポリエステル(IV=0.63(オルソクロロフェノール溶液での極限粘度、溶融温度290℃)ポリマーを溶融し、紡糸口金3より吐出後、冷却開始距離(Hq)が50(mm)、平均冷却風速(冷却吹出し筒上端面から100(mm)の区間での平均風速)が0.5(m/s)、各糸条と環状冷却風吹出し筒間との距離(P)が12.5(mm)を有する環状冷却装置6により糸条を冷却し、引き取り速度を3000(m/分)として、24デシテックス20フィラメントを紡糸した。
【0065】
【表3】

【符号の説明】
【0066】
1:多糸条からなる極細合成繊維の製造装置
2:吐出孔
21:パック
3:紡糸口金
4:蒸気噴射口
5:蒸気噴出装置
6:環状冷却装置
61:冷却風吹出し筒
7:給油ノズルユニット(油剤付与装置)
71:給油ノズル
72:給油吐出孔
73:接糸油部
8:糸道規制ガイド
9:交絡処理装置
10:最初の引取ローラー
11:第2の引取ローラー
12:ワインダー
Y:糸条
S:蒸気
A:冷却風
W:分割帯幅
X:紡糸エリア
Z:分離帯
P:糸条Yと冷却風吹出し筒との距離
θ:糸条Yと給油ノズルとの入射角度
Ho:給油ノズルと紡糸口金間の距離
Hq:紡糸口金の吐出表面と冷却風吹出し部の上端部との垂直距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を溶融し、紡糸口金から環状に吐出された総糸条数が3糸条以上の糸条群を、紡糸口金の直下に設けられた環状冷却装置を用いて該吐出糸条群の外周側から該吐出糸条群の中心側に向けて吹き出す冷却風により環状冷却する製造方法であって、下記(A)〜(D)の条件を満足することを特徴とする合成繊維の製造方法。
(A)紡糸口金が複数の吐出孔を有し、該吐出孔は1列で環状もしくは複数列で同心円上に配列されていること。
(B)上記配列は、糸条毎に区切るための分割帯により分割されていること。
(C)上記分割された配列内の吐出孔を含む領域(紡糸エリア)内の任意の点から鉛直下流線上にて、該吐出孔から吐出される糸条が各々油剤付与されること。
(D)上記糸条は、前記鉛直下流線上に対して、直交あるいは略直交でかつ同方向に向かって油剤付与されること。
【請求項2】
熱可塑性樹脂を溶融し、紡糸口金から環状に吐出された総糸条数が3糸条以上の糸条群を、該紡糸口金の直下に設けられた環状冷却装置を用いて該吐出糸条群の外周側から該吐出糸条群の中心側に向けて吹き出す冷却風により環状冷却する製造方法であって、下記(A)を満足することを特徴とする請求項1に記載の合成繊維の製造方法。
(A)紡糸口金が複数列に同心円上に配列された複数の吐出孔を有する紡糸口金である場合において、各吐出孔の配置位置は、その吐出孔の中心と紡糸口金の中心を結ぶ線上に他の吐出孔の中心が存在しないように配置されていること。
【請求項3】
熱可塑性樹脂を溶融し、紡糸口金から環状に吐出された糸条の単糸繊度が1.2デシテックス以下であることを特徴とする請求項1、2のいずれか記載の合成繊維の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂を溶融し、紡糸口金から環状に吐出された糸条の単糸数が36フィラメント以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の合成繊維の製造方法。
【請求項5】
紡糸口金から吐出された糸条群を環状冷却し、給油、交絡付与した後に、最初の引取ローラーで引取るに際し、引取り速度2500m/分以上として引取りを行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の合成繊維の製造方法。
【請求項6】
下記(A)〜(D)の条件を満足する溶融紡糸装置および油剤付与装置と、冷却風を前記環状にある吐出糸条群の外周側から該吐出糸条群の中心側に向けて冷却風を吹き出す環状冷却装置とを有し、前記環状冷却装置は該紡糸口金の直下に設けられていることを特徴とする合成繊維の製造装置。
(A)紡糸口金が複数の吐出孔を有し、該吐出孔は1列で環状もしくは複数列で同心円上に配列されていること。
(B)上記配列は、糸条毎に区切るための分割帯により分割されていること。
(C)上記分割された配列内の吐出孔を含む領域(紡糸エリア)内の任意の点から鉛直下流線上にて、油剤付与装置の接糸油部が各々存在すること。
(D)上記接糸油部は、前記鉛直下流線上に対して、直交あるいは略直交でかつ同方向に向かって位置すること。
【請求項7】
下記(A)の条件を満足する溶融紡糸装置および油剤付与装置と、冷却風を前記環状にある吐出糸条群の外周側から該吐出糸条群の中心側に向けて冷却風を吹き出す環状冷却装置とを有し、前記環状冷却装置は該紡糸口金の直下に設けられていることを特徴とする請求項6に記載の合成繊維の製造装置。
(A)上記接糸油部は、紡糸口金面とそれぞれ同じ距離を有するよう各々配置されていること。
【請求項8】
下記(A)の条件を満足する溶融紡糸装置および油剤付与装置と、冷却風を前記環状にある吐出糸条群の外周側から該吐出糸条群の中心側に向けて冷却風を吹き出す環状冷却装置とを有し、前記環状冷却装置は該紡糸口金の直下に設けられていることを特徴とする請求項6に記載の合成繊維の製造装置。
(A)紡糸口金が複数列に同心円上に配列された複数の吐出孔を有する紡糸口金である場合において、各吐出孔の配置位置は、その吐出孔の中心と紡糸口金の中心を結ぶ線上に他の吐出孔の中心が存在しないように配置されていること。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−196219(P2010−196219A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45428(P2009−45428)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】