説明

多結晶シリコンの製造方法

【課題】クロロシランを効率良く金属で還元して高純度の多結晶シリコンを製造する方法を提供する。
【解決手段】工程(A)、(B)及び(C)を有することを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。
(A)温度T1で下式(1)
原料である、SiHnCl4-n (1)
(式中、nは0〜3の整数。)
で示されるクロロシランを金属で還元して、シリコン化合物を得る工程、
(B)該シリコン化合物を温度T2(T1>T2の関係にある。)の部分に移送する工程、
(C)該温度T2の部分に多結晶シリコンを析出させる工程、ここで
温度T1が、金属の融点(絶対温度)の1.29倍以上であり、
温度T2が、金属の塩化物の昇華点又は沸点より高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題がクローズアップされる中、太陽電池はクリーンなエネルギー源として注目を集め、わが国でも住宅用を中心に需要が急増している。シリコン系の太陽電池は、信頼性や変換効率に優れるため、太陽光発電の8割程度を占めるに到っているが、さらに需要を増加させ発電単価を減少させるためには、低価格のシリコン原料を確保することが望まれている。現在、高純度シリコンの製造は、ほとんどのメーカーがトリクロロシランを熱分解するジーメンス法を採用している。しかしながら、同方法では電力原単位に限界があり、これ以上のコストダウンは困難と言われている。
【0003】
熱分解に変わる方法としては、亜鉛やアルミニウムを用いてクロロシランを還元してシリコンを製造する方法が提案されている。例えば、微粒のアルミニウムと四塩化ケイ素ガスを反応させてシリコンを得る方法が知られている。
特許文献1は、式SiHn4-n(式中、Xはハロゲンであり、nは0〜3の値である。)で表される気体のシリコン化合物とアルミニウムを反応させるシリコンの製造方法であって、純アルミニウムまたはAl−Si合金の細かく分散された溶融表面を気体のシリコン化合物と接触させる方法を開示している。
特許文献2は、高濃度のシリコン合金、シリコン銅合金に高温で四塩化ケイ素ガスを通じて発生するガスを必要な冷却によりシリコンを部分量だけ分解析出させることにより、不純物をその析出部分に吸収させ、続いてこのガスを冷却させることにより純シリコンを得る精製方法を開示している。
また、特許文献3は、アルミニウムを高温で蒸発させて四塩化ケイ素を還元する方法を開示している。
【0004】
【特許文献1】特開平2−64006号公報
【特許文献2】特開昭60−103016号公報
【特許文献3】特公昭36−8416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、クロロシランを効率良く金属で還元して高純度の多結晶シリコンを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、多結晶シリコンの製造方法について鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、
〔1〕工程(A)、(B)及び(C)を有することを特徴とする多結晶シリコンの製造方法を提供する。
(A)温度T1で下式(1)
原料である、SiHnCl4-n (1)
(式中、nは0〜3の整数。)
で示されるクロロシランを金属で還元して、シリコン化合物を得る工程、
(B)該シリコン化合物を温度T2(T1>T2の関係にある。)の部分に移送する工程、
(C)該温度T2の部分に多結晶シリコンを析出させる工程、ここで
温度T1が、金属の融点(絶対温度)の1.29倍以上であり、
温度T2が、金属の塩化物の昇華点又は沸点より高い。
【0008】
また、本発明は、〔2〕さらに、工程(D)を有する〔1〕記載の多結晶シリコンの製造方法に係るものである。
(D)工程(C)で得られた多結晶シリコンを精製する工程。
【0009】
さらに、本発明は、〔3〕原料が、クロロシラン単独、またはクロロシランと不活性ガスとの混合ガスである〔1〕または〔2〕記載の方法、
〔4〕原料が、クロロシラン濃度10体積%以上である〔3〕記載の方法、
〔5〕クロロシランが、四塩化ケイ素、トリクロロシラン、ジクロロシランおよびモノクロロシランから選ばれる少なくとも1つである〔1〕または〔2〕記載の方法、
〔6〕金属が、カリウム、セシウム、ルビジウム、ストロンチウム、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛およびマンガンから選ばれる少なくとも1つである〔1〕または〔2〕記載の方法、
〔7〕金属が、アルミニウムである〔6〕記載の方法、
〔8〕アルミニウムが下式で示される純度99.9重量%以上である〔7〕記載の方法、
純度(重量%)=100-(Fe+Cu+Ga+Ti+Ni+Na+Mg+Zn)
〔式中、Fe、Cu、Ga、Ti、Ni、Na、Mg、Znは、それぞれ、鉄、銅、ガリウム、チタン、ニッケル、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛の含有量(重量%)を表す。〕
〔9〕温度T2の部分におけるガス流速が、0.62m/分以上1000m/分未満である〔1〕または〔2〕記載の方法、
〔10〕〔1〕または〔2〕記載の方法により得られた多結晶シリコンを有する太陽電池を提供する。
また本発明は、(1)〜(7)を有する装置を提供する。
(1)クロロシランを金属で還元する反応容器、
(2)容器内のガスを加熱するための加熱器
(3)容器に原料としてクロロシランを導入する供給器、
(4)多結晶シリコンを析出させる析出容器、
(5)容器内で発生するガスを析出部へ導入する移送器、
(6)析出部へ移送されるガスの流速を調整しガスを冷却する冷却器、及び
(7)容器内のガスの温度T1を金属の融点(絶対温度)の1.29倍以上とし、移送中のガスを保温し、かつ析出部のガスの温度T2を金属の塩化物の昇華点又は沸点より高くするための温度調節器。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、クロロシランとアルミニウムの反応性が高く、一旦反応してできたシリコンをシリコン化合物としてガス化して、その後析出させるため、高純度の多結晶シリコンが高い収率で得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
工程(A):還元
本発明の多結晶シリコンの製造方法は、前記工程(A)を有する。
工程(A)に用いる原料は、前記式(1)で示されるクロロシランであり、四塩化ケイ素、トリクロロシラン、ジクロロシラン、モノクロロシランである。これらは単独、または組合わせて用いればよい。これらのうち、水素を含有するもの(トリクロロシラン、ジクロロシラン、モノクロロシラン)は、還元反応によって塩化水素を発生するために反応炉材や配管の腐食を誘発させることがある。腐食を防止する観点では、クロロシランは四塩化ケイ素であることが好ましい。クロロシランの純度は、還元して得られるシリコン中に不純物が蓄積する確率が高いため、B、Pが1ppm未満であり、99.99%以上であることが好ましい。原料は、前記のクロロシラン単独であってもよく、またクロロシランと不活性ガスの混合物であってもよい。不活性ガスは、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス、好ましくはアルゴンである。原料がクロロシランと不活性ガスの混合ガスである場合、混合ガス中のクロロシラン濃度は、反応効率が高く、短時間でシリコンの収率を高める観点から、10体積%以上が好ましい。
【0012】
金属は、クロロシランを還元し得るものであればよく、後述する温度T1において、金属の塩化物の生成自由エネルギーがシリコンのそれよい低い。また、金属は、融点がシリコンより低いことが好ましい。このような金属は、例えば、カリウム、セシウム、ルビジウム、ストロンチウム、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、マンガンであり、好ましくはアルミニウムである。これらは単独または組合せて用いてもよい。アルミニウムは、生成したシリコンやその表面に残存しても、酸やアルカリによる溶解除去や偏析法での除去が容易であり、反応炉の構造部材を腐食させない。アルミニウムの純度は99.9重量%以上が好ましい。なお、本明細書においてアルミニウムの純度は下式により算出する。
【0013】
純度(重量%)=100-(Fe+Cu+Ga+Ti+Ni+Na+Mg+Zn)
式中、Fe、Cu、Ga、Ti、Ni、Na、Mg、Znは、それぞれ、鉄、銅、ガリウム、チタン、ニッケル、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛の含有量(重量%)を表す。また、アルミニウムはホウ素含有量が5ppm以下、リン含有量が0.5ppm以下であることが好ましい。
【0014】
還元は、次の温度T1、圧力の条件で行えばよい。
T1は金属の融点の1.29倍以上であり、好ましくは1.33倍以上、さらに好ましくは1.41倍以上であり、好ましくは2.33倍未満、さらに好ましくは2.11倍未満、特に好ましくは1.90倍未満である。T1が融点の1.29倍未満の場合、反応に時間を要する。2.33倍以上の場合、高温に耐える装置がなく、連続して還元反応を行うことが困難である。金属がアルミニウムの場合、T1は1204K以上2173K未満が好ましく、さらに好ましくは1241K以上1973K未満、特に好ましくは1316K以上1773K未満である。本明細書では温度T1は容器中の金属の絶対温度を表す。
【0015】
圧力は、0.5bar以上5.0bar未満である。圧力が0.5bar未満では反応効率が低下する傾向にある。一方、5.0bar以上では容器内の圧力を保持するために装置構造が大型化し、また複雑になる。
【0016】
還元は、例えば、溶融した金属中に気化したクロロシランを吹き込む方法、金属の融点以上で且つシリコンの融点以下の温度に保持したクロロシラン雰囲気に金属の溶融した微粉末(例えば、平均粒径200μm以下の粉末)を噴射する方法、流動床に金属微粉末を投入し、次いでクロロシランを流通させなら金属の融点以上の温度に加熱する方法により行えばよい。
還元は、装置構成が簡単であり低コストでシリコンを得ることができることから、溶融した金属中に気化したクロロシランを吹き込む方法で行うことが好ましい。
【0017】
工程(A)では、クロロシラン(例えば、SiCl4)を金属により還元してサブハライド(例えば、SiCl3またはSiCl2)を生成させてもよい。
還元を高温で行うほど、シリコンのサブハライド化が優先的に起きるので、高純度シリコンを得る観点から、還元を高温で行うことが好ましい。得られたサブハライドは、後述する析出部のような低温部で、シリコンとSiCl4になる。得られたSiCl4は原料として再利用可能である。
【0018】
工程(B):移送
本発明の多結晶シリコンの製造方法は、前記工程(B)を有する。
工程(B)では、工程(A)で得られる反応ガスを移送する。
移送は、工程(A)の還元を行う容器と、後述の工程(C)の析出部に圧力差を発生させることにより行えばよく、例えば、容器に原料であるクロロシランを連続的に供給して、反応ガスを容器から析出部へ送ってもよい。
また、移送は、容器と析出部の間にガス移相を行うための装置を設置して行ってもよい。
【0019】
工程(C):析出
さらに、本発明の多結晶シリコンの製造方法は、前記工程(C)を有する。
工程(C)では、移送される反応ガスからシリコンを析出させる。
析出は、次の温度T2、ガス流速の条件で行えばよい。
T2は、T1より低く、また金属の塩化物の昇華点又は沸点より高いことが好ましく、さらに好ましくは絶対温度で表した金属塩化物の昇華点又は沸点の1.5倍以上、特に好ましくは2倍以上である。T2が金属の塩化物の昇華点又は沸点より高ければ、塩化物とシリコンが同時に析出することが少ないので、これらを分離する工程が必ずしも必要ではなくなる。例えば、金属がアルミニウムの場合、T2はT1より低く、また453Kより高いことが好ましく、さらに好ましくは680K以上、特に好ましくは906K以上である。
【0020】
ガス流速は、ガス温度をT1に換算して、0.62m/分以上1000m/分未満であり、好ましくは0.62m/分以上100m/分未満、さらに好ましくは1.0m/分以上20m/分未満である。ガス流速が0.62m/分未満ではシリコンの析出量が低下する傾向にある。また、1000m/分以上では、シリコンの析出域が大きくなり大容積の析出容器が必要となる。
【0021】
析出はシリコンの種結晶存在下で行ってもよい。種結晶存在下で析出するとシリコンの析出域が小さくなし析出容器を小型化できる。また、析出は連続式、バッチ式いずれで行ってもよい。例えば、析出は、結晶上にシリコンを析出させる流動床方式や、析出容器を2塔用意して一方で析出を行い、他方で析出したシリコンを取り出す操作を交互に行えばよい。
【0022】
本発明の製造方法では、通常、金属と反応し副生成物として生成する金属塩化物と、未反応のクロロシランガスは個別に回収される。クロロシランガスは原料として再利用してもよい。
【0023】
工程(D):精製
本発明の多結晶シリコンの製造方法は、さらに、工程(D)を有していてもよい。
(D)前記工程(C)で得られた多結晶シリコンを精製する工程。
精製は、例えば、酸やアルカリによる処理、方向凝固等の偏析、高真空化での溶解、好ましくは、方向凝固により行えばよい。これらは単独また組み合わせて行っても良い。このような精製により、多結晶シリコンに含まれる不純物元素はさらに低減される。
【0024】
こうして得られた多結晶シリコンは高純度であり、太陽電池用シリコンの原料として好適に用いられる。以下、多結晶シリコンを用いる太陽電池の製造方法を説明する。
多結晶シリコンからキャスト法または電磁鋳造法によってインゴットが得られる。インゴットは、通常、内周刃切断等によりスライシングされ、遊離砥粒を用いて両面がラッピングされる。得られた円板は、ダメージ層を除去するためにエッチング液(例えば、弗酸)に浸漬され、多結晶基板が得られる。また、多結晶基板は、表面の光反射損出を低減するため、ダイシングマシンを用いて機械的にV溝を形成したり、反応性イオンエッチングや、酸を用いた等方性エチングによりテクスチャー構造を形成してもよい。基板の導電型は一般的にp型であるので、例えば、ホウ素の添加や、アルミニウムを残存させることによってp型ドーパントを導入すればよい。受光面にn型ドーパント(例えば、リン、砒素)の拡散層を形成することにより、p−n接合部を得る。基板の表面に酸化膜層(例えば、TiO2)を形成し、各面に電極を形成すればよい。さらに、反射による光エネルギーの損失を減らすための反射防止膜(例えば、MgF2)を形成して太陽電池セルを作製すればよい。
【0025】
多結晶シリコンの製造装置
本発明の装置は、反応容器1、加熱器2、供給器3、析出容器4、移送器5、冷却器6、及び温度調節器7を有する。
反応容器1は、前記式(1)で示されるクロロシランを、カリウム、セシウム、ルビジウム、ストロンチウム、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、マンガンのような金属で還元する反応を行えるものであればよい。反応容器1は、温度T1において金属と実質的に反応しない材質からなり、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、マグネシア、酸化スズのような酸化物;窒化珪素、窒化アルミニウムのような窒化物;炭化ケイ素のような炭化物からなる。これらは、構成元素の一部が他元素で部分置換されていてもよく、例えば、シリコンとアルミニウムと酸素と窒素からなるサイアロンや黒鉛で表面を300μm以下の厚さの炭化ケイ素や窒化珪素でコートした材料であってもよい。
【0026】
反応容器1は、その内部に金属を保持する多孔板を有するものであってもよい。多孔板の孔径は、高温で溶融した金属が、その表面張力によって多孔板から漏れない大きさであればよい。
【0027】
加熱器2は、反応容器1内の金属、ガスを加熱するものであればよく、反応容器1内のガスの温度を金属の融点(絶対温度)の1.29倍以上に保持する。加熱器2は、反応容器1内の金属、ガスを加熱するものであっても、原料として供給されるクロロシランのみを加熱することにより、反応容器1内を加熱するものであってもよい。
供給器3は、反応容器1に原料としてクロロシランを導入するものであればよく、例えば、配管である。供給器3は反応容器1の側面に設けられていてもよく、反応容器1内の原料である金属上にクロロシランを供給するものであってもよい。供給器3は、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、マグネシア、酸化スズのような酸化物; 窒化珪素、窒化アルミニウムのような窒化物; 炭化ケイ素のような炭化物からなる。これらは、構成元素の一部が他元素で部分置換されていてもよく、例えば、シリコンとアルミニウムと酸素と窒素からなるサイアロンや黒鉛で表面を300μm以下の厚さの炭化ケイ素や窒化珪素でコートした材料であってもよい。
【0028】
析出容器4は、多結晶シリコンを析出させるためのものである。析出容器4は、温度T2においてシリコンと実質的反応しない材質からなり、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、マグネシア、酸化スズのような酸化物;窒化珪素、窒化アルミニウムのような窒化物;炭化ケイ素のような炭化物からなる。これらは、構成元素の一部が他元素で部分置換されていてもよく、例えば、シリコンとアルミニウムと酸素と窒素からなるサイアロンや黒鉛で表面を300μm以下の厚さの炭化ケイ素や窒化珪素でコートした材料であってもよい。
【0029】
移送器5は、反応容器1内で発生するガスを析出容器4へ移送できるものであればよい。移送器5は、例えば、反応容器1と析出容器4を接続する配管、反応容器1の内空間と析出容器4の内空間に圧力差を発生させる装置、または、反応容器1と析出容器4の間(例えば、配管)に設置した圧力調整弁、ガス流速を調整するために配管径を変更するためのレデューサーである。これらは単独または組合わせて用いればよい。
【0030】
冷却器6は、析出容器4内のガス流速を調整し、ガスを冷却してシリコンを析出させるものであればよい。例えば、セラミックスフィルターである。
【0031】
温度調節器7は、反応容器1内のガスの温度T1を金属の融点(絶対温度)の1.29倍以上、好ましくは1.33倍以上、さらに好ましくは1.41倍以上であり、好ましくは2.33倍未満、さらに好ましくは2.11倍未満、特に好ましくは1.90倍未満とし、移送中のガスを保温し、かつ析出容器4の温度T2を金属の塩化物の昇華点又は沸点より高くするためのものである。
この装置によれば、例えば、前述の多結晶シリコンの製造方法の工程(A)、(B)及び(C)を簡便に行うことができる。
【0032】
次に、装置の実施態様を図1により説明する。
図1に示す装置では、反応容器1と析出容器4は移送器5を介して接続されている。反応容器1には供給器3が接続され、容器1、4と移送器5の外部に加熱器2が設けられている。析出容器4の内部に冷却器6が設けられている。加熱器2は、各部ごとに温度調節器により制御される。図1では、反応容器1から析出容器4へ反応ガスを移送する移送器5のうち、反応容器1の内空間と析出容器4の内空間の圧力差を発生させる装置(例えば、ブロワー)は省略されている。
【0033】
図1に示す装置を用いて、多結晶シリコンを製造する場合、反応容器1内に金属が入れられ、クロロシランが供給器3から反応容器1に導入される。反応容器1内で金属とクロロシランは温度T1で反応し、生成した反応ガスが移送器5を経由して析出容器4に導入される。反応ガスが冷却器6で温度T2に冷却され、析出容器4内で反応ガスからシリコンが析出する。
【0034】
図2に示す装置は、供給器3が反応容器3の上面から内部に挿入されていること以外、図1に示す装置と同じ構造を有する。クロロシランは供給器3の上方から下方へ移送され、加熱器2により加熱された金属と接触する。クロロシランは金属で還元され、反応ガスが生成する。クロロシランガスは加熱された供給器3を通過することにより、加熱される。
【0035】
図3に示す装置は、縦型構造を有し、反応容器1の上側に析出容器4があり、これらは移送器5を介して接続されている。図1に示す装置と同様に、反応容器1には供給器3が接続され、容器1、4と移送器5の外部に加熱器2が設けられている。析出容器4の内部には冷却器6が設けられている。加熱器2、移送器5、冷却器6は、それぞれ、温度調節器7により、金属、クロロシランの種類に応じて所定のガス温度及び析出温度に調節される。
【0036】
図4に示す装置は、反応容器1、移送器5、析出容器4が同一断面を持ち、これらが一体化されている。図4に示す装置を用いて、多結晶シリコンを製造する場合、反応容器1内に金属が入れられ、クロロシランは供給器3の上方から下方へ移送され、加熱器2により加熱された金属と接触する。反応容器1内で金属とクロロシランは温度T1で反応し、生成した反応ガスが移送器5を経由して析出容器4に導入される。反応ガスは、例えば、供給器の外壁や移送器の内壁にて熱交換により冷却され、また、冷却器(図示せず)で外部から冷却されて析出容器4内で反応ガスからシリコンが温度T2で析出する。
【0037】
図5に示す装置は析出を流動床方式で行うものであり、供給器3、析出容器4、冷却器6以外、図1に示す装置と同じ構造を有する。図5に示す装置では、反応容器1からの反応ガスは移送器5内で温度調整され、析出容器4に導入される。冷却により、種結晶へシリコンの析出するように、反応ガスの温度が下げられる。反応容器1の上部に設けた供給器3は析出容器4内のクロロシラン濃度を調整するためのものである。析出容器4内では、種結晶が流動状態にあり、種結晶の上にシリコンが析出する。
【0038】
図6に示す装置は、図1に示す装置に加えて供給器3、析出容器4、冷却器6が追加されている。反応容器1の上部に設けた供給器3は析出容器4内のクロロシラン濃度を調整するためのものである。2つの析出容器4は移送器5に設けられたバルブにより、交互に運転できるようになっている。この装置を使用すれば一方で析出を行っているとき、他方で析出したシリコンを取り出すことができ、シリコンを連続して製造できる。
【実施例】
【0039】
本発明を実施例により説明する。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。なお、アルミニウム及びシリコンの組成分析は、グロー放電質量分析(GDMS)により行った。
実施例1
図7に示す装置を用いて行った。
アルミニウム(純度:99.999重量%、Fe 0.73ppm、Cu 1.9ppm、Ga 0.57ppm、Ti 0.03ppm、Ni 0.02ppm、Na 0.02ppm、Mg 0.45ppm、Zn 0.05ppm未満、B 0.05ppm、P 0.27ppm)10gを入れたアルミナ保護管14(ニッカトー製SSA−S、No.8 内径13mm)をアルミナ容器13中に保持し、縦型環状炉11中に保持した。1573K(アルミニウムの融点の1.68倍)で、四塩化ケイ素ガス(純度:99.9999重量%(6N)、Fe 5.2ppb、Al 0.8ppb、Cu 0.9ppb、Mg 0.8ppb、Na 2.4ppb、Ca 5.5ppb、P 1ppm未満、B 1ppm未満、トリケミカル研究所製)を溶融アルミニウム中に、4時間導入して反応させた。ガスバブリングを行うため、ガス導入管12(ニッカトー製、SSA−S、外径6mm、内径4mm)の先端とアルミナ保護管14底部の距離は10mmとした。
【0040】
四塩化ケイ素の移送は、キャリアガスとしてアルゴンガス(ジャパンエアガシズ製、純度:99.9995%)を0.1MPaで供給して行った。四塩化ケイ素ガスを充填したステンレス鋼製容器(図示せず)に、キャリアガスとして200SCCM(流量200mL/min.、0℃、101.3kPa)のアルゴンガスを流した。蒸発して得られたガスをキャリアガスと共にアルミナ保護管14へ導入した。1分間当りの四塩化ケイ素の供給量は0.476gであった。四塩化ケイ素の供給モル数はアルミニウムのモル数に対して0.8%であった。ステンレス鋼製容器は29℃の恒温槽に保持した。同温度における四塩化ケイ素の蒸気圧は264mmHgであることから、アルミナ保護管14へ導入された四塩化ケイ素ガスの濃度は34.7体積%であった。
【0041】
四塩化ケイ素ガスを4時間流したところで、縦型環状炉11を冷却しアルミナ保護管14を取り出した。アルミナ保護管14の内壁のうち、加熱中、900℃以下の温度領域の部分にシリコンが析出していた。ガス導入管12の外壁に析出したシリコンの写真を図8に示す。
アルミナ保護管14の内壁に析出したシリコンの重量は3.5gであった。
【0042】
実施例2
アルミニウム11gを入れたアルミナ保護管14をアルミナ容器13中に保持し、縦型環状炉1中に保持して、1573Kで四塩化ケイ素ガスを溶融アルミニウム中に126分間導入して大気圧下で反応させた。
【0043】
四塩化ケイ素ガスを充填したステンレス鋼製容器に、キャリアガスとして50SCCM(流量50mL/min.、0℃、101.3kPa)のアルゴンガスを流した。蒸発して得られたガスをキャリアガスと共に反応炉へ導入した。1分間当りの四塩化ケイ素の供給量は、0.44gであった。四塩化ケイ素の供給モル数はアルミニウムのモル数に対して0.69%であった。アルミニウムと接触して同等の温度となったガス成分の析出部での流速は3.58m/min.であった。四塩化ケイ素を充填したステンレス鋼製容器は45℃の恒温槽に保持した。45℃における四塩化ケイ素の蒸気圧は500mmHgであり、四塩化ケイ素ガスの濃度は65.8体積%であった。それ以外は実施例1と同じ操作を行った。アルミナ保護管壁に析出したシリコンの重量は2.3gであった。
【0044】
実施例3
1473K(アルミニウムの融点の1.58倍)で四塩化ケイ素ガスを溶融アルミニウム中に126分間導入して反応させた。析出部でのガス流速は3.36m/min.であった。それ以外は実施例2と同じ操作を行った。アルミナ保護管壁に析出したシリコンの重量は1.2gであった。
【0045】
実施例4
アルミナ保護管14(ニッカトー製、SSA−S、No.9、内径16mm)の閉じた方から100mmにカットした部材14Aと同径のチューブで長さ30mmにカットした部材14Bを7個、アルミナ容器13A(ニッカトー製、SSA−S、チューブ、内径22mm)中に入れて、製造装置を作製した。還元試験後、析出部の温度を予め測定しておき、チューブの重量変化からシリコンの析出量を調査した。部材14Aに11gのアルミニウムを投入して、1573K(アルミニウムの融点の1.68倍)で四塩化ケイ素ガスを溶融アルミニウム中に、33分間導入して大気圧下で反応させた。ガスバブリングを行うため、ガス導入管12の先端とアルミナ保護管14A底部の距離は5mmとした。
【0046】
四塩化ケイ素ガス容器中に、キャリアガスとして94SCCMのアルゴンガスを流して、キャリアガスと共に反応炉へ導入した。1分間当りの四塩化ケイ素の供給量は0.82gであった。四塩化ケイ素の供給モル数はアルミニウムのモル数に対して1.2%であった。アルミニウムと接触して同等の温度となったガス成分の析出部での流速は6.74m/min.であった。
【0047】
四塩化ケイ素を充填したステンレス鋼製容器は45℃の恒温槽に保持した。45℃における四塩化ケイ素の蒸気圧は500mmHgであり、四塩化ケイ素ガス濃度は66体積%であった。アルミナ保護管壁およびガス導入管に析出したシリコンの重量は1.1gであった。シリコンは、Fe 1.3ppm、Cu 0.05ppm未満、Al 37ppm、P 0.01ppm未満、B 0.01ppm未満であった。
【0048】
実施例5
四塩化ケイ素ガス容器中に、キャリアガスとして179SCCMのアルゴンガスを33分間流して、キャリアガスと共に反応炉へ導入した。1分間当りの四塩化ケイ素の供給量は1.55gであった。析出部でのガス流速は12.78m/min.であった。それ以外は実施例4と同じ操作を行った。
アルミナ保護管壁およびガス導入管に析出したシリコンの重量は2.2gであった。
【0049】
比較例1
縦型環状炉11中の温度を1173K(アルミニウムの融点の1.26倍)に保持し、1173Kで四塩化ケイ素ガスを溶融アルミニウム中に導入した以外は実施例1と同じ操作を行った。
アルミナ保護管14の内壁にシリコンは析出しなかった。

実施例で得られたシリコンを一方向凝固することによりシリコン中に含まれる不純物元素をさらに低減することができる。このシリコンは太陽電池用の原料として好適と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の装置の第一の実施態様
【図2】本発明の装置の第二の実施態様
【図3】本発明の装置の第三の実施態様
【図4】本発明の装置の第四の実施態様
【図5】本発明の装置の第五の実施態様
【図6】本発明の装置の第六の実施態様
【図7】実施例1に用いた装置の概略図
【図8】シリコンの析出状態を示す写真
【符号の説明】
【0051】
1 反応容器
2 加熱器
3 供給器
4 析出容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(A)、(B)及び(C)を有することを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。
(A)温度T1で下式(1)
原料である、SiHnCl4-n (1)
(式中、nは0〜3の整数。)
で示されるクロロシランを金属で還元して、シリコン化合物を得る工程、
(B)該シリコン化合物を温度T2(T1>T2の関係にある。)の部分に移送する工程、
(C)該温度T2の部分に多結晶シリコンを析出させる工程、ここで、温度T1が、金属の融点(絶対温度)の1.29倍以上であり、温度T2が、金属の塩化物の昇華点又は沸点より高い。
【請求項2】
さらに、工程(D)を有する請求項1記載の多結晶シリコンの製造方法。
(D)工程(C)で得られた多結晶シリコンを精製する工程。
【請求項3】
原料が、クロロシラン単独、またはクロロシランと不活性ガスとの混合ガスである請求項1または2記載の方法
【請求項4】
原料が、クロロシラン濃度10体積%以上である請求項3記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項5】
クロロシランが、四塩化ケイ素、トリクロロシラン、ジクロロシランおよびモノクロロシランから選ばれる少なくとも1つである請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
金属が、カリウム、セシウム、ルビジウム、ストロンチウム、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛およびマンガンから選ばれる少なくとも1つである請求項1または2記載の方法。
【請求項7】
金属が、アルミニウムである請求項6記載の方法。
【請求項8】
アルミニウムが下式で示される純度99.9重量%以上である請求項7記載の方法。
純度(重量%)=100-(Fe+Cu+Ga+Ti+Ni+Na+Mg+Zn)
〔式中、Fe、Cu、Ga、Ti、Ni、Na、Mg、Znは、それぞれ、鉄、銅、ガリウム、チタン、ニッケル、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛の含有量(重量%)を表す。〕
【請求項9】
温度T2の部分におけるガス流速が、0.62m/分以上1000m/分未満である請求項1または2記載の方法。
【請求項10】
請求項1または2記載の方法により得られた多結晶シリコンを有する太陽電池。
【請求項11】
(1)〜(7)を有する装置。
(1)クロロシランを金属で還元する反応容器、
(2)容器内のガスを加熱するための加熱器
(3)容器に原料としてクロロシランを導入する供給器、
(4)多結晶シリコンを析出させる析出容器、
(5)容器内で発生するガスを析出部へ導入する移送器、
(6)析出部へ移送されるガスの流速を調整しガスを冷却する冷却器、及び
(7)容器内のガスの温度T1を金属の融点(絶対温度)の1.29倍以上とし、移送中のガスを保温し、かつ析出部のガスの温度T2を金属の塩化物の昇華点又は沸点より高くするための温度調節器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−7395(P2008−7395A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349248(P2006−349248)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】