多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器及びその製造方法
【課題】 シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる能力を有し、かつ、離型性に優れるとともに、結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することができる、低コストの多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を提供する。
【解決手段】 少なくとも多孔質シリカ基体からなる角形シリカ容器であり、多孔質シリカ基体は、かさ密度1.80〜2.10g/cm3、Al濃度5〜500wt.ppm、OH基濃度5〜500wt.ppmであり、内表面部分の少なくとも一部に離型促進剤が含有されているものであり、角形シリカ容器の底部の内表面部分には、側面の一部が鉛直方向に対して15〜60°の角度をなす斜面で形成されている溝又は穴を複数有している多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【解決手段】 少なくとも多孔質シリカ基体からなる角形シリカ容器であり、多孔質シリカ基体は、かさ密度1.80〜2.10g/cm3、Al濃度5〜500wt.ppm、OH基濃度5〜500wt.ppmであり、内表面部分の少なくとも一部に離型促進剤が含有されているものであり、角形シリカ容器の底部の内表面部分には、側面の一部が鉛直方向に対して15〜60°の角度をなす斜面で形成されている溝又は穴を複数有している多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン融液を収容した後凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形(角槽型)シリカ容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池(ソーラー発電デバイス)は近年、急速に需要が増加しており、より低コストで高い変換効率を有する太陽電池が求められている。
【0003】
太陽電池の光起電部を構成する材料の一つとして多結晶シリコンがある。多結晶シリコンは、シリコン融液を冷却して凝固させることにより、多結晶シリコンのインゴット(塊)として製造されることが多い。シリコン融液を収容し、凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための容器として、シリカ(二酸化珪素)製容器や黒鉛製容器が用いられている。
【0004】
容器内で凝固させて多結晶シリコンインゴットを製造するための容器においては、シリコン融液が凝固した際に多結晶シリコンインゴットが該容器と融着(付着)することを防止するため、その内表面に予め離型層を形成することが知られている。離型層を形成するための離型剤としては、様々な材料が使用されている。例えば、特許文献1には、石英ガラスからなるシリコン溶融用容器の内層に、Si、Si3N4、Si3N4+SiO2又はSi+Si3N4+SiO2を含む離型剤スラリーから、離型層を形成するとすることが記載されている。また、特許文献2には、内面に窒化珪素を含有する離型材層を形成した、二酸化珪素よりなるシリコン鋳造用鋳型が記載されている。
【0005】
また、多結晶シリコンインゴットを製造する際に、できるだけ結晶方向性が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することが求められている。例えば、特許文献3には、ルツボ内の底面に、3C−SiC等の種結晶を配置するための複数の溝又は円錐若しくは角錐の窪み部が形成されている多結晶半導体製造用ルツボが記載されている。特許文献3にはさらに、その溝の側面と垂直な面とのなす角、あるいは円錐若しくは角錐の窪み部の側面と中心線とのなす角を50〜70°に形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−271058号公報
【特許文献2】特開2005−125380号公報
【特許文献3】特開2006−219336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、容器内で凝固させて多結晶シリコンインゴットを製造するための容器には、その内表面に予め離型層を形成することが一般的である。しかしながら、離型剤として、多結晶シリコンインゴットに不純物となるような材料を用いた場合には、離型層が剥離してシリコン融液に取り込まれる等の理由により、多結晶シリコンインゴットへの不純物混入が不可避であるという問題があった。
【0008】
その一方で、離型剤を使用しないとすると、シリコン融液が凝固した際に多結晶シリコンインゴットが該容器と融着し、冷却時、取り外し時等に多結晶シリコンインゴットの表面部分が破損するという問題があった。この結果として、例えば、多結晶シリコンインゴットから太陽電池を製造するような場合には、製造する太陽電池の品質の劣化や、歩留まりの低下により、製造する太陽電池のコスト高につながってしまう。
【0009】
また、特許文献3のように、底面に溝や窪みが形成されたルツボ内でシリコン融液を凝固させた場合、離型性が悪いことがあった。
【0010】
本発明はこれらのような問題に鑑みてなされたもので、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる能力を有し、かつ、離型性に優れるとともに、できるだけ結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することができる、低コストの多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を提供すること、及び、そのような多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、シリコン融液を収容した後凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形シリカ容器であって、該角形シリカ容器は、少なくとも多孔質シリカ基体からなるものであり、前記多孔質シリカ基体は、かさ密度が1.80〜2.10g/cm3であり、Al濃度が5〜500wt.ppmであり、OH基濃度が5〜500wt.ppmであり、前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、前記多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤が含有されているものであり、前記角形シリカ容器の底部の内表面部分には、溝又は穴を所定間隔で複数有しており、前記溝又は穴の側面の少なくとも一部が、鉛直方向に対して15〜60°の角度をなす斜面で形成されていることを特徴とする多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を提供する。
【0012】
このようなシリカ容器であれば、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる能力を有し、かつ、離型性に優れるとともに、結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することができる、低コストの多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器とすることができる。すなわち、角形シリカ容器において、かさ密度を1.80〜2.10g/cm3のようにして、気泡量を比較的多くするとともに、内表面部分に離型促進剤を含有させることにより、シリコン融液が凝固した際の多結晶シリコンインゴットの角形シリカ容器との融着を抑制することができる。また、角形シリカ容器のAl、OH基の含有量を上記のようにすることにより、安価な原料を用いた場合でも、収容したシリコン(シリコン融液及び多結晶シリコンインゴット)への不純物の拡散を十分に防止することができる。また、容器底部の溝又は穴の存在により、シリコン融液から凝固する際に、多結晶シリコンインゴットの各結晶粒の大きさを適度に整わせ、また各結晶粒の結晶軸方位を一定方向に整わせることができる。
【0013】
この場合、前記溝又は穴の形状が、溝の場合はV形であり、穴の場合は円錐形又は角錐形であることが好ましい。また、前記溝又は穴の側面には、一部鉛直方向に沿う垂直壁が存在することが好ましい。
【0014】
このように、シリカ容器の底部に形成する溝又は穴の形状を、溝の場合はV形とし、穴の場合は円錐形又は角錐形としたり、溝又は穴の側面に一部鉛直方向に沿う垂直壁が存在するものとしたりすれば、製造する多結晶シリコンインゴットの結晶粒の大きさ及び結晶軸方位をより整わせやすいものとなる。
【0015】
また、前記溝又は穴の開口部の寸法が、溝の場合は幅が5〜20mmであり、穴の場合は最小長さが5〜20mmであることが好ましい。
【0016】
このように、溝又は穴の開口部の寸法が、溝の場合は幅が5〜20mmであり、穴の場合は最小長さが5〜20mmであれば、製造する多結晶シリコンインゴットの結晶粒の大きさ及び結晶軸方位をより整わせやすいものとなる。ここで、穴の開口部の最小長さとは、開口部の形状に接する最小幅の平行線の間隔のことである。
【0017】
また、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器では、前記底部の内表面部分の溝又は穴は、底部に配置された板材の表面に形成された溝又は穴とすることができる。
【0018】
このように、本発明では、容器底部に配置された板材の表面に形成された溝又は穴によっても、その作用を得ることができる。
【0019】
また、前記角形シリカ容器内の底面より高い位置に、丸形又は角形の貫通孔が所定間隔で複数形成されている板材が配置されていることが好ましい。
【0020】
このように、角形シリカ容器内の底面より高い位置に、丸形又は角形の貫通孔が所定間隔で複数形成されている板材が配置されていれば、製造する多結晶シリコンインゴットの結晶粒の大きさ及び結晶軸方位をより整わせやすいものとなる。
【0021】
また、前記離型促進剤としてCa、Sr、Baのいずれか1以上が、前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、該内表面から深さ2mmまでにおいて、各元素の合計値として50〜5000wt.ppmの濃度で添加されているものであることが好ましい。
【0022】
このような濃度で離型促進剤としてのCa、Sr、Baが多孔質シリカ基体の内表面部分に添加されている多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器であれば、より効果的に離型性を高くすることができるとともに、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる。
【0023】
また、前記離型促進剤としてCa、Sr、Baのいずれか1以上が、前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、各元素の合計値として50〜5000μg/cm2の濃度で塗布されているものであることも好ましい。
【0024】
このような濃度で離型促進剤としてのCa、Sr、Baが多孔質シリカ基体の内表面部分に塗布されている多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器とすることによっても、より効果的に離型性を高くすることができるとともに、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる。
【0025】
また、前記多孔質シリカ基体に含有されているLi、Na、Kの各々の濃度が5wt.ppm以下であり、前記多孔質シリカ基体に含有されているTi、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度が0.1wt.ppm以下であることが好ましい。
【0026】
多孔質シリカ基体に含有されているLi、Na、K、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度をこのようにすれば、より効果的にシリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を防止できる多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器とすることができる。
【0027】
また、本発明は、シリコン融液を収容した後凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形シリカ容器を製造する方法であって、少なくとも、第一の原料粉として、粒径0.03〜3.0mmのシリカ粉を作製する工程と、第二の原料粉として粒径0.1〜10μmのシリカ粉を作製する工程と、前記第一の原料粉と、前記第二の原料粉と、水とを含む混合スラリーを作製する工程と、前記混合スラリーを、型枠内で脱水及び乾燥し、底部の内表面部分に溝又は穴を所定間隔で複数有する多孔質シリカ基体の仮成形体を作製する仮成形工程と、前記多孔質シリカ基体の仮成形体を、不活性ガスを主成分とし、O2ガスを含有する雰囲気にて、1200〜1500℃の温度で焼成し、多孔質シリカ基体からなる角形シリカ容器とする焼成工程とを含み、前記第一の原料粉、前記第二の原料粉、及び前記混合スラリーの少なくとも一つにAl元素を添加することにより、前記多孔質シリカ基体にAl元素を含有させ、前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、前記多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤を含有させることを特徴とする多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法を提供する。
【0028】
このような多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法であれば、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる能力を有し、かつ、離型性に優れるとともに、結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することができる、多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を安価に製造することができる。
【0029】
また、本発明は、シリコン融液を収容した後凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形シリカ容器を製造する方法であって、第一の原料粉として、粒径0.03〜3.0mmのシリカ粉を作製する工程と、第二の原料粉として粒径0.1〜10μmのシリカ粉を作製する工程と、前記第一の原料粉と前記第二の原料粉と有機バインダーとを混合させ、混合粉を作製する工程と、前記混合粉を型枠内に導入し、50〜200℃に加熱して前記有機バインダーを溶融することにより、底部の内表面部分に溝又は穴を所定間隔で複数有する多孔質シリカ基体の仮成形体を作製する仮成形工程と、前記多孔質シリカ基体の仮成形体を、不活性ガスを主成分とし、O2ガスを含有する雰囲気にて、1200〜1500℃の温度で焼成し、多孔質シリカ基体からなる角形シリカ容器とする焼成工程とを含み、前記第一の原料粉、前記第二の原料粉、及び前記混合粉の少なくとも一つにAl元素を添加することにより、前記多孔質シリカ基体にAl元素を含有させ、前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、前記多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤を含有させることを特徴とする多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法を提供する。
【0030】
このような多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法とすることによっても、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる能力を有し、かつ、離型性に優れるとともに、結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することができる、多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を安価に製造することができる。
【0031】
また、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法では、前記離型促進剤の含有を、前記仮成形工程の後に、前記仮成形体の内表面の少なくとも一部に塗布し、乾燥させて、前記仮成形体の内表面部分の少なくとも一部に前記離型促進剤を添加することにより、及び/又は、前記焼成工程の後に、前記離型促進剤を前記多孔質シリカ基体の内表面の少なくとも一部に塗布することにより、行うことが好ましい。
【0032】
このように、離型促進剤の含有を、仮成形工程の後に、仮成形体の内表面の少なくとも一部に塗布し、乾燥させて、仮成形体の内表面部分の少なくとも一部に離型促進剤を添加することによって行ったり、焼成工程の後に、離型促進剤を多孔質シリカ基体の内表面の少なくとも一部に塗布することにより行ったりすることにより、より効率的に多孔質シリカ基体の内表面部分へ離型促進剤を含有させることができる。
【0033】
また、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法では、前記離型促進剤をCa、Sr、Baのいずれか1以上とすることが好ましい。
【0034】
このように、離型促進剤をCa、Sr、Baのいずれか1以上とすれば、より効果的に離型性を高くすることができるとともに、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる。
【0035】
また、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法では、前記混合スラリー又は前記混合粉を作製する前に、前記第二の原料粉から、前記第二の原料粉が集合してなる粒径5〜500μmの顆粒体を作製し、該第二の原料粉の顆粒体を用いて前記混合スラリー又は前記混合粉を作製することが好ましい。
【0036】
このように、第二の原料粉を顆粒体としてから混合スラリー又は混合粉を作製すれば、粒径が細かい第二の原料粉の取り扱いを簡便にすることができる。
【0037】
また、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法では、前記焼成工程において、前記不活性ガスを、N2ガス、Heガス、Arガスの少なくとも一種以上とし、O2ガスの含有量を1〜30vol.%とすることが好ましい。
【0038】
焼成工程における不活性ガスの組成をこのようにすれば、より低コストで多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を製造することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器であれば、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる能力を有し、かつ、離型性に優れるとともに、結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することができる、低コストの多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器とすることができる。このような多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を用いることにより、不純物汚染が十分に防止された多結晶シリコンインゴットを製造することができ、多結晶シリコンインゴットを製造する際の総コストを低減することができる。
【0040】
また、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法であれば、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる能力を有し、かつ、離型性に優れるとともに、結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することができる、多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を安価に製造することができる。
【0041】
こうして、本発明により、高品質で低コストの角形の多結晶シリコンインゴットを提供することができ、これは特に太陽電池用としてきわめて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る角形シリカ容器の底部の形状の一例を示す概略図であり、(a)は容器底部の上面図、(b)は容器底部の断面図である。
【図2】本発明に係る角形シリカ容器の底部の形状の一例を示す概略図であり、(a)は容器底部の上面図、(b)は容器底部の断面図である。
【図3】本発明に係る角形シリカ容器の底部の形状の一例を示す概略図であり、(a)は容器底部の上面図、(b)は容器底部の断面図である。
【図4】本発明に係る角形シリカ容器の底部の形状の一例を示す概略図であり、(a)は容器底部の上面図、(b)は容器底部の断面図である。
【図5】本発明に係る角形シリカ容器の底部に形成する溝又は穴の断面形状の一例を示す概略断面図である。
【図6】本発明に係る角形シリカ容器の底部に形成する溝又は穴の断面形状の一例を示す概略断面図である。
【図7】本発明に係る角形シリカ容器の底部に形成する溝又は穴の断面形状の一例を示す概略断面図である。
【図8】本発明に係る角形シリカ容器の底部に形成する溝又は穴の断面形状の一例を示す概略断面図である。
【図9】本発明に係る角形シリカ容器の一例を示す概略図であり、(a)は概略上面図であり、(b)は概略断面図である。
【図10】本発明に係る角形シリカ容器の一例を示す概略図であり、(a)は概略上面図であり、(b)は概略断面図である。
【図11】本発明に係る角形シリカ容器の一例を示す概略断面図である。
【図12】本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法の一例の概略を示すフローチャートである。
【図13】本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法の別の一例の概略を示すフローチャートである。
【図14】本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器に具備することができる板材の貫通孔の形状を示す概略図である。
【図15】容器底部に形成された溝又は穴からの結晶成長の様子を模式的に示した説明図である。
【図16】本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器により多結晶シリコンインゴットを成長させた様子を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
前述のように、本発明では、例えば太陽電池用として好適な角形の多結晶シリコンインゴットを得ることができる、多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器について、以下のようなことを課題とした。
【0044】
第一に、優れた離型性を有する角形シリカ容器とすることである(離型性の向上)。これはすなわち、角形シリカ容器内に収容したシリコン融液の凝固により多結晶シリコンインゴットを製造した際に、多結晶シリコンインゴットの角形シリカ容器への融着(付着)を抑制し、特に、多結晶シリコンインゴットを角形シリカ容器から取り外しやすいものとすることである。
【0045】
第二に、不純物汚染を防止できる角形シリカ容器とすることである。これはすなわち、角形シリカ容器に含有されている各種不純物金属元素が、多結晶シリコン製造時の高温度下においても、収容したシリコン(シリコン融液及び多結晶シリコンインゴット等)へ移動、拡散することを抑制することであり、その結果、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することである。
【0046】
第三に、できるだけ結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造する容器とすることである。すなわち、製造する多結晶シリコンインゴットの結晶品質を向上させることである。
【0047】
第四に、上記の優れた離型性、不純物汚染の防止、及び製造する多結晶シリコンインゴットの結晶品質の向上を低コストで実現することである。これはすなわち、角形シリカ容器の製造のために、安価なシリカ原料を使用することができるようにし、また、シリカ原料の溶融、焼結温度を比較的低温度下で行い、角形シリカ容器の製造の際のエネルギー消費を少なくすることである。
【0048】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
図9に本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の一例の概略を示した。図9(a)は、本発明に係る角形シリカ容器の概略上面図であり、図9(b)は、本発明に係る角形シリカ容器の概略断面図である。
【0050】
図9(a)及び図9(b)に図示したように、本発明に係るシリカ容器10の形状は角形(角槽型とも呼ばれる)である。角形シリカ容器10は、側壁部11と底部21とからなる。また、図9(b)に図示したように、本発明に係る角形シリカ容器10は、底部21の内表面部分に溝又は穴31を所定間隔で複数有する。図9(a)においては、見やすさのため、容器底部の溝又は穴を省略している。
【0051】
この本発明に係る角形シリカ容器10は、シリコン融液を収容した後凝固して角形の多結晶シリコンインゴットを製造するための容器である。製造される多結晶シリコンインゴットが角形であれば、これをスライスして角形の多結晶シリコンウエーハを得ることができ、円柱状の多結晶シリコンインゴットと比較して、スライスしたウエーハを太陽電池とする場合に受光面積の無駄がなく、きわめて好適である。
【0052】
本発明に係る角形シリカ容器10は、少なくとも、多孔質シリカ基体151からなる。この多孔質シリカ基体151は、かさ密度が1.80〜2.10g/cm3である。このかさ密度は、1.85〜1.93g/cm3の範囲とすることが好ましい。
【0053】
離型性向上のために、多孔質シリカ基体151のかさ密度を上記のような範囲とし、多孔質シリカ基体151に含まれる気泡量を多くする(すなわち、気孔率を増大させる)。このように気泡量を多くすることにより、シリコン融液が凝固した際の多結晶シリコンインゴットの角形シリカ容器10との融着(付着)を抑制し、角形シリカ容器10から、多結晶シリコンインゴットを破損することなく取り外しやすくなる。
【0054】
多孔質シリカ基体151のかさ密度が2.10g/cm3を超える値では、製造した多結晶シリコンインゴットと角形シリカ容器との融着が強くなり、また角形シリカ容器の強度が高くなるため離型性が低下してしまう。一方、かさ密度が1.80g/cm3よりも低い値では、離型性は向上するものの、角形シリカ容器自体の強度を低下させすぎてしまう。
【0055】
本発明では、多孔質シリカ基体151の内表面部分の少なくとも一部に、多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤が含有されている。
【0056】
本発明に係る角形シリカ容器10に用いる離型促進剤としては、以下の3種類のタイプが使用できる。
【0057】
第一に、再結晶タイプ、すなわち、多孔質シリカ基体151の表面を微細に再結晶させることにより、離型性を向上させるものである。本発明に特に好適なものとして、具体的には、アルカリ土類金属元素Ba、Ca、Srを挙げることができ、このうち、Baが最も好ましい。この他に、ムライト3Al2O3・2SiO2〜2Al2O3・SiO2、スピネルMgAl2O4等を挙げることができる。
【0058】
第二に、発泡タイプ、すなわち、例えば1400℃以上のような高温下で、シリカと反応してシリカが発泡することにより、離型性を向上させるものである。具体的には炭化珪素SiC、窒化珪素Si3N4等を挙げることができる。
【0059】
第三に、非反応タイプ、すなわち、例えば1400℃以上のような高温下で、シリカともシリコンとも反応しないことで離型性を向上させるものである。具体的には、炭素C、ジルコニアZrO2、ベリリアBeO、マグネシアMgO、カルシアCaO、トリアThO2、タングステンW等を挙げることができる。
【0060】
これら離型促進剤の3種類のタイプのうち、再結晶タイプを用いることが本発明において最も好ましい。この場合、Ca、Sr、Baのうち1以上が、多孔質シリカ基体151の内表面部分の少なくとも一部に、内表面から深さ2mmまでにおいて、各元素の合計値として50〜5000wt.ppmの濃度で添加されているものであることが好ましい。50wt.ppm以上であれば離型性の向上が認められ、5000wt.ppm以下であれば、十分な離型性が認められつつ、かつ多結晶シリコンインゴットを離型剤で汚染することもなくなるために好ましい。各元素の合計値が300〜3000wt.ppmの範囲がより好ましい。また、離型促進剤としてCa、Sr、Baのうち1以上が、多孔質シリカ基体151の内表面部分の少なくとも一部に、各元素の合計値として50〜5000μg/cm2の濃度で塗布されているものであることも好ましい。50μg/cm2以上であれば離型性の向上が認められ、5000μg/cm2以下であれば、十分な離型性が認められつつ、かつ多結晶シリコンインゴットを離型剤で汚染することもなくなるために好ましい。各元素の合計値が300〜3000μg/cm2の範囲がより好ましい。
【0061】
再結晶タイプ、特にCa、Sr、Baを、このように多孔質シリカ基体151の内表面部分に含有させることにより、シリコン融液を角形シリカ容器10に収容し、徐々に冷却して凝固させ、多結晶シリコンインゴットとする製造過程において、該角形シリカ容器10の内表面層がシリカガラスからクリストバライトやオパール等の微結晶相に転移し、マイクロクラックの生成を引き起こすことができる。その結果、冷却、凝固された多結晶シリコンインゴットと角形シリカ容器10の内表面との融着を少なくすることができるため、角形シリカ容器10から多結晶シリコンインゴットを取り外す際、多結晶シリコンインゴットを破損したり、多結晶シリコンインゴットの表面部分に凹凸の形成や進行性クラックを発生させたりすることなく取り外すことが可能となる。
【0062】
Li、Na、K等のアルカリ金属元素に比較して、アルカリ土類金属元素Ca、Sr、Baは、偏析係数との相関関係で、融液からの凝固により製造された多結晶シリコンインゴットへの取り込みが少なく、すなわち多結晶シリコンインゴットへの工程汚染を少なくすることができる。特にBaは多結晶シリコンインゴットへの拡散汚染が少ない点から離型促進剤として最も好ましい。
【0063】
多孔質シリカ基体151の内表面部分のうち、離型促進剤を含有させる範囲は、上記のように多孔質シリカ基体151の内表面部分の少なくとも一部であればよいが、多孔質シリカ基体151のうち、シリコン融液を収容及び凝固する高さまでの内表面部分全体とすることがより好ましく、多孔質シリカ基体151の内表面部分全体とすることがさらに好ましい。
【0064】
また、多孔質シリカ基体151は、そのAl濃度(Al元素濃度)が5〜500wt.ppmであり、OH基濃度が5〜500wt.ppmである。不純物汚染防止のため、多孔質シリカ基体151にAl元素と同時にOH基を含有させる。Al濃度は10〜100wt.ppmとすることが好ましく、OH基濃度は30〜300wt.ppmとすることが好ましい。
【0065】
これらAl、OH基が、多孔質シリカ基体151中の不純物金属元素、特に、光照射下における多結晶シリコンのキャリアライフタイムを低下させたり、多結晶シリコンインゴットを太陽電池材料とした場合に、変換効率を低下させると考えられるLi、Na、K等のアルカリ金属元素やTi、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Au等の遷移金属元素のシリカ中の移動、拡散を防止する。そのメカニズムの詳細は不明であるが、Al原子はSi原子と置換することにより、その配位数の違いから、不純物金属元素の陽イオン(カチオン)を取り込み、シリカガラスネットワーク中の電荷バランスを保つという作用から、吸着、拡散防止するものと推定される。また、OH基は、水素イオンと不純物金属イオンが置換することにより、これら不純物金属元素を吸着ないし拡散防止する効果が生ずるものと推定される。
【0066】
Alの濃度が5wt.ppm未満では、不純物汚染防止効果が認められず、500wt.ppm超では不純物汚染防止効果が認められるものの、AlやAl2O3自体が、製造する多結晶シリコンインゴットを汚染することになり好ましくない。
【0067】
また、OH基の濃度が5wt.ppm未満では、同様に、不純物汚染防止効果が認められず、500wt.ppm超では多孔質シリカ基体の高温度下での粘性度を低下させるため好ましくない。OH基は、SiとOのシリカガラス網目構造すなわちガラスネットワークの終端部(ネットワークターミネーター)となるものである。この理由により、OH基の高濃度の含有は、高温度下における多孔質シリカ基体の変形を引き起こしやすくするものと考えられる。
【0068】
上記AlとOH基の不純物汚染防止効果はAl又はOH基のいずれか1種でもある程度は認められるが、この2種の組み合わせによって大幅に効果が向上する。このことにより、多孔質シリカ基体151の原料となるシリカ粉の純度が、SiO299.9〜99.999wt.%と比較的低純度であっても、本発明の目的に合致する角形シリカ容器10を製造することが可能となる。より具体的には、例えばシリカ原料粉の純度(SiO2の純度)が99.99wt.%以上であり、Li、Na、Kの各々の濃度が5wt.ppm以下であり、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度が0.1wt.ppm以下である場合、AlとOH基を同時に適量含有させることにより、多結晶シリコンインゴットを工程汚染を十分に防止して製造することが可能となる。このように工程汚染が十分に防止された多結晶シリコンインゴットでは各々の結晶粒の大きさがより均一に整っている。このような多結晶シリコンインゴットからソーラー発電デバイス(太陽電池)を製造すれば、その光電変換効率を大幅に高めることが可能となる。
【0069】
前述のように、本発明に係る角形シリカ容器10の底部21の内表面部分は、溝又は穴を所定間隔で複数有している。また、この溝又は穴は、溝又は穴の側面の少なくとも一部が、鉛直方向に対して15〜60°の角度をなす斜面で形成されることが必要である。本発明に係る角形シリカ容器10の容器底部の溝又は穴について、図1から図8までを参照してより詳しく説明する。
【0070】
図1に本発明に係る角形シリカ容器の底部21の形状の一例として、容器底部21に溝が形成されている場合の概略を示した。図1(a)は容器底部21の上面図であり、図1(b)は容器底部21の断面図である。符号22は容器底部21の内表面を示している。図の見やすさのため、容器側壁部については省略している。図1(a)及び図1(b)には、容器底部21の内表面部分に、溝31aが形成されている場合を示した。この場合、溝31aの側面の少なくとも一部が、鉛直方向に対して15〜60°の角度をなす斜面で形成されていることが必要である。このような溝31aの存在により、本発明に係る角形シリカ容器を用いて、シリコン融液から凝固して多結晶シリコンインゴットを製造する際に、多結晶シリコンインゴットの各結晶粒の大きさを適度に整わせ、また各結晶粒の結晶軸方位を一定方向に整わせることができる。
【0071】
さらには、溝31aの形状がV形であること、すなわちV型溝であることが好ましい。
また、溝31aの側面には、一部鉛直方向に沿う垂直壁が存在することが好ましい。垂直壁の深さ(鉛直方向の長さ)は、3〜20mmとすることがより好ましい。また、溝31aの幅は、5〜20mmであることが好ましい。
このように溝31aを設計すると、多結晶シリコンインゴットの各結晶粒の大きさ及び各結晶粒の結晶軸方位をより確実に揃えることができる。
【0072】
図2〜図4にはそれぞれ、本発明に係る角形シリカ容器の底部21の形状の一例として、容器底部21に穴が形成されている場合の概略を示した。図2(a)、図3(a)、図4(a)はそれぞれ容器底部21の上面図であり、図2(b)、図3(b)、図4(b)はそれぞれ容器底部21の断面図である。符号22は容器底部21の内表面を示している。図の見やすさのため、容器側壁部については省略している。
【0073】
図2(a)及び図2(b)には、容器底部21の内表面部分に角錐形の穴31bが形成されている場合を示した。
図3(a)及び図3(b)には、容器底部21の内表面部分に円錐形の穴31cが形成されている場合を示した。
図4(a)及び図4(b)には、容器底部21の内表面部分に円錐形の穴31dが密集して形成されている場合を示した。
【0074】
容器底部21に形成する穴は、図2〜図4に図示したような角錐形又は円錐形にすることが好ましいが、これらに限られるものではない。ただし、穴の側面の少なくとも一部が、鉛直方向に対して15〜60°の角度をなす斜面で形成されていることが必要である。なお、穴の形状としての上記角錐形や円錐形も幾何学的に正確な形状には限定されず、開口部の形状が楕円である等、類似するものでも構わない。また、角錐形も図2に示した四角錐に限らず、任意の多角錐でもよい。
【0075】
穴の側面には、一部鉛直方向に沿う垂直壁が存在することが好ましい。垂直壁の深さ(鉛直方向の長さ)は、3〜20mmとすることがより好ましい。
穴の開口部の寸法は、最小長さが5〜20mmであることが好ましい。ここで、穴の開口部の最小長さとは、開口部の形状に接する最小幅の平行線の間隔のことである。例えば、図2で示したような四角錐形の穴31bの場合、開口部は正方形であり、開口部の最小長さは一辺の長さである。また、図3、図4で示したような円錐形の穴31c、31dの場合、開口部は円であり、開口部の最小長さは直径である。
【0076】
これらのような穴の存在により、本発明に係る角形シリカ容器を用いて、シリコン融液から凝固して多結晶シリコンインゴットを製造する際に、多結晶シリコンインゴットの各結晶粒の大きさを適度に整わせ、また各結晶粒の結晶軸方位を一定方向に整わせることができる。
【0077】
本発明に係る角形シリカ容器の底部に形成される溝又は穴は、所定間隔で形成される。ここでいう間隔とは、溝又は穴の最深部等、代表する位置の間隔のことである。例えば図4に示したように、隣り合う溝又は穴の開口部同士が接するように形成されていてもよい。
【0078】
図5から図8に、本発明に係る角形シリカ容器の底部に形成する溝又は穴の断面形状の概略断面図を示した。
前述のように、本発明に係る角形シリカ容器の底部21に形成される溝又は穴31は、溝又は穴の側面の少なくとも一部が、鉛直方向に対して15〜60°の角度をなす斜面32で形成されることが必要である。すなわち、斜面32は、鉛直方向となす角度(交差角度θ)が15〜60°である。ここで、斜面32の鉛直方向に対してなす角度とは、図5から図8に図示したように、斜面32の断面形状が鉛直方向に対してなす角度のことである。
なお、斜面32の鉛直方向に対する角度は、30°以上50°未満であることがより好ましい。
また、前述のように、溝又は穴31には垂直壁33が存在することが好ましい(図6及び図8参照)。また、図7及び図8に示したように、平底34が存在していてもよい。
【0079】
本発明に係る角形シリカ容器の別の実施形態を図10に示す。図10(a)は概略上面図であり、図10(b)は概略断面図である。
図10に示したように、本発明に係る角形シリカ容器10では、容器底部21の内表面部分の溝又は穴31は、容器底部21に配置された板材23の表面に形成された溝又は穴とすることができる。この場合、容器底部の内表面22は、板材23の表面となる。この場合、多孔質シリカ基体151には溝又は穴は必要ない。ただし、多孔質シリカ基体151はかさ密度1.80〜2.10g/cm3、Al濃度5〜500wt.ppm、OH基濃度5〜500wt.ppmの条件を満たす必要があり、内表面部分の少なくとも一部に離型促進剤が含有されている必要がある。
このような板材23は、冷却開始時に結晶成長の種となる種結晶を溝又は穴31に形成することができるという意味で、シーディングプレートと呼ぶことができる。
【0080】
本発明に係る角形シリカ容器のさらに別の実施形態の概略断面図を図11に示す。
この実施形態では、角形シリカ容器10内の底面より高い位置に、丸形又は角形の貫通孔42が所定間隔で複数形成されている板材41が配置されている。
【0081】
このような板材41の上面図を図14に示した。
貫通孔42は、図14(a)に示したように長方形とすることができる。この場合、貫通溝ということもできる。また、図14(b)のように配置することもできる。
また、貫通孔42は、図14(c)に示したように円形、図14(d)に示したように正方形とすることもできる。
これらの貫通孔42の側壁は垂直壁が好ましく、テーパー角度は付けない方が良い。
【0082】
このような板材41の材質は耐熱性セラミックスも使用できるが、シリカガラス材が好ましい。ただしこの場合、必ずしも多孔質シリカ基体からなるものに限定されず、例えば透明〜半透明なシリカガラス材も使用できる。
【0083】
なお、角形シリカ容器10内の底面より高い位置に、板材41を配置するには、スペーサー51等を用いることができる。
また、図11に図示したように、溝又は穴を有する板材23を容器底部21に配置し、これと丸形又は角形の貫通孔42が所定間隔で複数形成されている板材41を併用することもできる。
【0084】
このような板材41により、より結晶軸方位や結晶粒の大きさが揃った多結晶シリコンインゴットを製造することが可能となる。
板材41を具備した角形シリカ容器10を用いて多結晶シリコンインゴットの製造を行う際の結晶成長の様子を図16に模式的に示した。見やすさのために、図16には容器底部21の溝又は穴や板材41の貫通孔については図示していない。板材41により、角形シリカ容器10の底部21から成長する多結晶について、結晶成長方向を絞り込むことができるので、より結晶軸方位や結晶粒の大きさが揃った多結晶シリコンインゴットを製造することが可能となる。
このような板材41は、結晶成長方向を絞り込むという意味で、ネッキングプレートと呼ぶことができる。
【0085】
以下では、上記のような角形シリカ容器10を製造することができる、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を製造する方法を、具体的に説明する。
【0086】
(I)第1の態様
本発明に係る角形シリカ容器10の製造方法の一例(第1の態様、湿式法)の概略を図12に示した。
【0087】
まず、図12の(a−1)に示したように、原料粉を作製する。具体的には、第一の原料粉として、粒径0.03〜3.0mmのシリカ粉と、第二の原料粉として粒径0.1〜10μmのシリカ粉を作製する。第一の原料粉と第二の原料粉はそれぞれ、後述する混合スラリーの作製前に作製すればよい。
【0088】
このうち、第一の原料粉は、本発明に係る角形シリカ容器10(図1参照)の多孔質シリカ基体151の主な構成材料となるものである。第一の原料粉としては、低コスト化のため、従来のような高純度シリカ原料粉(高純度水晶粉、高純度石英粉、超高純度合成シリカガラス粉)を使用せず、シリカ純度SiO299.9〜99.999wt.%の比較的低純度のシリカ粉原料を使用することが好ましい。この第一の原料粉は例えば以下のようにして珪石塊を粉砕、整粒することにより作製することができるが、これに限定されない。
【0089】
まず、直径10〜100mm程度の天然珪石塊(天然に産出する水晶、石英、珪石、珪質岩石、オパール石等)を大気雰囲気下、600〜1000℃の温度域にて1〜10時間程度加熱する。次いで該天然珪石塊を水中に投入し、急冷却後取出し、乾燥させる。この処理により、次のクラッシャー等による粉砕、整粒の処理を行いやすくできるが、この加熱急冷処理は行わずに粉砕処理へ進んでもよい。
【0090】
次いで、該天然珪石塊をクラッシャー等により粉砕、整粒し、粒径を0.03〜3mm、好ましくは0.1〜1mmに調整して天然珪石粉を得る。
【0091】
次いで、この天然珪石粉を、傾斜角度を有するシリカガラス製チューブから成るロータリーキルンの中に投入し、キルン内部を塩化水素(HCl)又は、塩素(Cl2)ガス含有雰囲気とし、700〜1100℃にて1〜100時間程度加熱することにより高純度化処理を行う。ただし高純度を必要としない多結晶シリコンインゴット製造用途では、この高純度化処理を行わずに次処理へ進んでもよい。
【0092】
以上のような工程後に得られる第一の原料粉は結晶質のシリカ粉である。コストの点からも、このような天然結晶質シリカ粉を、第一の原料粉とすることが好ましい。
【0093】
第一の原料粉の粒径は、上記のように、0.03〜3mm、好ましくは0.1〜1mmとする。
第一の原料粉のシリカ純度は、99.9wt.%以上とすることが好ましく、99.99wt.%以上とすることがさらに好ましい。特に、Li、Na、Kの各々の濃度を5wt.ppm以下とし、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度を0.1wt.ppm以下とすることが好ましい。また、本発明に係る角形シリカ容器の製造方法であれば、第一の原料粉のシリカ純度を99.999wt.%以下と比較的低純度のものとしても、製造される角形シリカ容器は、シリコン融液や多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる。そのため、従来よりも低コストで多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を製造することができることになる。
【0094】
第一の原料粉としては、粒径が0.03〜3mmであればよく、非晶質溶融天然石英ガラス粉、合成シリカガラス粉等を上記の結晶質シリカ粉に代えて又は混合して使用してもよい。このようなガラス質のシリカ粉であれば、焼成温度を低下させることができる。
【0095】
第二の原料粉は、本発明に係る角形シリカ容器10の多孔質シリカ基体151を第一の原料粉とともに構成する材料となるものである。
【0096】
第二の原料粉として、粒径0.1〜10μm、好ましくは0.2〜5μmのシリカガラス粉、好ましくは球状シリカガラスを作製する。球状シリカガラスの製法には湿式法のゾルゲル法(アルコキシド法)と乾式法の溶融法(溶射法)がある。又は、代わりの材料として四塩化珪素(SiCl4)等のケイ素化合物原料の火炎加水分解法によるシリカガラス微粉体、いわゆるスート粉を作製する。この場合のスート粉の粒径は、上記と同様に0.1〜10μm、好ましくは0.2〜5μmとする。
【0097】
第一の原料粉と同様に、第二の原料粉も高純度であることが好ましい。第二の原料粉のシリカ純度も、99.9wt.%以上とすることが好ましく、99.99wt.%以上とすることがさらに好ましい。特に、Li、Na、Kの各々の濃度を5wt.ppm以下とし、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度を0.1wt.ppm以下とすることが好ましい。上記のゾルゲル法、溶射法により製造したシリカガラス粉や、スート粉であれば、高純度のものを得やすいので好ましい。
【0098】
第二の原料粉を作製した後、後述する混合スラリーを作製する前に、第二の原料粉から、第二の原料粉が集合してなる粒径5〜500μmの顆粒体を作製することができる。このように第二の原料粉を顆粒体とすることで、第二の原料粉の取り扱いが簡便になるので好ましい。
第二の原料粉を顆粒体とするには、例えば以下のような手順により行うことができる。
【0099】
まず、第二の原料粉に、融点200℃以下の有機バインダー、例えばパラフィン系バインダー(融点40〜70℃)又はステアリン酸系バインダー(融点70〜150℃)を重量比率1〜10wt.%好ましくは2〜5wt.%混合し、1〜10/secのせん断速度における粘性値10〜100mPa・Sとなるように純水を加え(水分率として10〜40%程度)、その後20〜30μmに設定されたメッシュフィルターにより異物を除去して顆粒体作製用のスラリー(懸濁液)を作製する。
【0100】
この顆粒体作製用混合スラリーを乾燥させることにより、バインダーコーティングされた顆粒体を作製する。混合スラリーの乾燥方法は特に限定されないが、例えば、噴霧乾燥機(スプレードライヤー)に投入してバインダーが表面にコーティングされている第二の原料粉の顆粒体を作製することができる。このスプレードライヤーは円柱状のホッパー型チャンバーと該チャンバーの上部に設置された顆粒体作製用混合スラリーを噴霧する装置(アトマイザー)と、該チャンバーの横に設置された熱風給気ダクトと該チャンバー下部に設置された顆粒体捕集口からなる。熱風給気ダクトから流出する空気温度は使用するバインダーの融点より高く設定する必要があり、100〜250℃の範囲に設定する。これにより作製される顆粒体は、バインダーが表面にコーティングされた第二の原料粉の集合体であり、粒径5〜500μmの範囲で所定の平均粒径に設定することが可能である。
【0101】
以上のようにして第一の原料粉、第二の原料粉をそれぞれ作製する。本発明では、第一の原料粉、第二の原料粉、及び後述する、第一の原料粉と第二の原料粉と水とを混合した混合スラリーの少なくとも一つにAl元素を添加(ドーピング)する。このことにより、多孔質シリカ基体151にAl元素を含有させることができる。これにより、上記したように、Li、Na、K等のアルカリ金属元素やTi、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Au等の遷移金属元素の多孔質シリカ基体151中の移動、拡散を防止することができ、また、角形シリカ容器10の耐熱変形性を向上させることができる。
【0102】
第一の原料粉及び第二の原料粉の少なくともいずれか一方にAl元素を添加するには、水やアルコールに可溶性のAl化合物溶液に原料粉を浸漬して含浸させ、次いで一定速度で引き上げて乾燥するなどの方法を用いることができる。添加するAlの量は、製造後の角形シリカ容器10の多孔質シリカ基体151中のAl濃度が5〜500wt.ppmとなるようにし、10〜100wt.ppmとなるようにすることが好ましい。
【0103】
次に、図12の(a−2)に示したように、第一の原料粉と、第二の原料粉と、水とを含む混合スラリー131を作製する。第二の原料粉は、上記のように顆粒体の状態で混合させて混合スラリー131とすることもできる。
【0104】
この混合スラリー131の作製は、具体的には下記のように、(1)第一の原料粉と第二の原料粉の混合、(2)混合スラリーの作製、(3)スラリーの均質混合、(4)スラリーの真空脱ガス、等の各サブステップを経て行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0105】
(1)第一の原料粉と第二の原料粉の混合
まず、第一の原料粉を主原料とし、第二の原料粉を、好ましくは5wt.%〜50wt.%、より好ましくは10〜30wt.%の範囲で均一に混合する。ここでの原料粉の混合比率により、混合スラリー131を作製する際の第一の原料粉と第二の原料粉との配合比が決まる。製造コストを低減させる目的からは、なるべく第一の原料粉の第二の原料粉に対する比率を高くする必要がある。第二の原料粉の混合比率が5wt.%以上であれば、成形、焼成後の多孔質シリカ基体151の空隙が少なくなり、密度が十分に高く、その結果多孔質シリカ基体151の寸法精度や耐熱性を向上させることができる。また、第二の原料粉の混合比率が50wt.%以下であれば、成形、焼成後の多孔質シリカ基体151の空隙を十分確保でき、離型性をより高めることができる。混合手法としては、比較的量が少ない場合、V型ミキサーを用いることもできるが、この手法に限定されるわけではない。
【0106】
(2)スラリー(混合水溶液)の作製
上記で作製した第一の原料粉と第二の原料粉との混合粉を、主原料として95〜80wt.%、純水を5〜20wt.%として混合スラリー131とする。角形シリカ容器10作製中の不純物汚染には注意が必要であり、多孔質シリカ基体151中のLi、Na、Kの各濃度が5wt.ppm以下となるように混合スラリー131を作製することが好ましく、1wt.ppm以下とすることがさらに好ましい。
【0107】
本発明では、上記のように第一の原料粉、第二の原料粉、及び混合スラリー131の少なくとも一つにAl元素を添加する。混合スラリー131にAl元素を含有させるためには、水やアルコールに可溶性のAl化合物、例えば、微量の硝酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、塩化アルミニウムのいずれかを、純水やアルコールに溶解混合することなどによって行うことができる。添加するAlの量は、製造後の角形シリカ容器10の多孔質シリカ基体151中のAl濃度が5〜500wt.ppmとなるようにし、10〜100wt.ppmとなるようにすることが好ましい。
【0108】
なお、混合スラリーとした状態でAl元素を添加する代わりに、混合スラリー131を作製する前に、混合する前の水にAl元素を添加することにより、混合スラリー131にAl元素を添加してもよい。
【0109】
また、この混合スラリー131には、さらに必要に応じて分散剤(例えばポリアクリル酸塩)、消泡剤(例えばポリエチレングリコール)、潤滑剤(例えばステアリン酸、ワックス)、結合剤(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリステレンアクリル系レジン、パラフィン系ワックス、エポキシレジン、メチルセルロース、エチルセルロース)等を適量混合することができる。
【0110】
(3)スラリーの均質混合
円筒状シリカガラス容器及びシリカガラスボールから成るボールミルの中に混合スラリー131を投入し1〜2時間混合する。作製された混合スラリー131の密度(比重)は1.6〜2.1g/cm3好ましくは1.7〜2.0g/cm3とし、粘性度は1〜10/secのせん断速度において300〜3000mPa・secとすることが好ましい。
【0111】
(4)スラリーの真空脱ガス
シリカガラスチャンバー内に混合スラリー131を設置し、室温下にて104Pa以下の真空度で5〜30分間真空脱ガス処理を行う。ただし、この処理は製造された角形シリカ容器の用途によっては行わない場合もある。
【0112】
このようにして混合スラリー131を作製した後、図12の(a−3)に示したように、混合スラリー131を角形形状とする角形型枠内に導入する。
【0113】
次に、図12の(a−4)に示したように、混合スラリーを角形型枠内で脱水及び乾燥し、多孔質シリカ基体の仮成形体141を作製する(仮成形工程)。具体的には、角形型枠内に入った混合スラリー131をクリーンオーブン内に入れ、室温から5〜20℃/時で昇温後、50〜200℃にて10〜100時間保持して、水分を蒸発させ乾燥させる(鋳込み成形)。このときの型としては、石膏等の多孔質セラミック製型や多孔質プラスチック製型を用いることができる。
【0114】
このとき、仮成形体141の底部の内表面部分に溝又は穴を所定間隔で複数有するように形成する。この溝又は穴の形成は、例えば、型の形状自体を溝又は穴を形成するように構成することによって行うことができる。また、いったん仮成形体141を作製してから、その後、溝又は穴を形成してもよい。
【0115】
このようにして多孔質シリカ基体の仮成形体141を作製した後、焼成して多孔質シリカ基体151とする(焼成工程)のであるが、本発明では、多孔質シリカ基体151の内表面部分の少なくとも一部に、多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤を含有させる。この離型促進剤の含有は、仮成形工程の後に、離型促進剤を仮成形体141の内表面の少なくとも一部に塗布し、乾燥させて、仮成形体141の内表面部分の少なくとも一部に離型促進剤を添加することにより行うこともできるし、後述するように、焼成工程の後に、離型促進剤を多孔質シリカ基体151の内表面の少なくとも一部に塗布することにより行うこともできる。離型促進剤の含有の具体的な方法は後述する。
【0116】
仮成形工程の後、図12の(a−5)に示したように、多孔質シリカ基体の仮成形体141を、焼成して多孔質シリカ基体151とする(焼成工程)。この焼成工程の焼成条件は、不活性ガスを主成分とし、O2ガスを含有する雰囲気にて、1200〜1500℃の温度で行う。
【0117】
具体的には、角形型枠から取り外した仮成形体141を、例えば高純度アルミナボードを保温材とし、二珪化モリブデンをヒーターとする電気抵抗加熱炉内に設置する。次いで、N2(窒素)ガス、He(ヘリウム)ガス、Ar(アルゴン)ガス等の不活性ガスを主成分とするO2(酸素)ガス含有雰囲気にて、室温から1000℃に至るまで50℃/時〜500℃/時にて昇温し、仮成形体141に含まれているバインダー等の有機物質を酸化、燃焼、除去する。次いで1000℃から1200〜1500℃に至るまでに、20℃/時〜200℃/時にて昇温し、引き続き1200〜1500℃好ましくは1250〜1350℃の範囲の所定温度にて、1〜10時間保持し、仮成形体141中の第一の原料粉と、第二の原料粉を焼結させる。コストの点ではN2ガスを不活性ガスとするのが最も好ましい。
【0118】
焼成工程におけるO2ガス含有量は、各種有機バインダーを酸化除去する目的から1〜30vol.%が好ましい。O2ガス含有量が1vol.%以上であれば、有機バインダーの除去をより効果的に行うことができる。また、O2ガス含有量が30vol.%以下であれば、有機バインダー除去に十分であり、ヒーター材の消耗を低減したり、焼成のためのガスのコストも抑制することができ、工業上好ましい。
【0119】
以上のようにして、多孔質シリカ基体151を製造するのであるが、上記のように、本発明では、多孔質シリカ基体151の内表面部分の少なくとも一部に、多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤を含有させる。
【0120】
離型促進剤を含有させる具体的な方法として、まず、仮成形工程の後に、仮成形体141の内表面の少なくとも一部に塗布し、乾燥させて、仮成形体141の内表面部分の少なくとも一部に離型促進剤を添加することにより離型促進剤を含有させる具体的な方法を例示して説明する。
【0121】
例えば再結晶タイプのCa、Sr、Ba等のアルカリ土類金属元素の場合、水又はアルコールに溶解するこれら元素化合物である塩化物、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩等を選出し、仮成形体141の内表面からスプレー方式、エアーブラシ方式、ローラー方式、又は刷毛塗り方式等により、塗布、乾燥させることにより添加処理を行う。離型促進剤が添加処理された仮成形体141は、焼成工程にて、不活性ガスを主成分とするO2ガス含有雰囲気にて、1200〜1500℃で焼成されることになる。焼成工程によりこれら離型促進剤は容器内表面の少なくとも2mm厚に含有されることになる。含有濃度としてはCa、Sr、Baのアルカリ土類金属元素の合計値として50〜5000wt.ppmとすることが好ましく、100〜1000wt.ppmとすることがさらに好ましい。
【0122】
離型促進剤を含有させる具体的な別の方法として、焼成工程の後に、離型促進剤を多孔質シリカ基体151の内表面の少なくとも一部に塗布することにより行う方法を説明する。
【0123】
上記の仮成形工程後の塗布による離型促進剤の添加の方法の代わりに、又はそれに加えて、焼成工程の後に、離型促進剤を多孔質シリカ基体151の内表面の少なくとも一部に塗布(コーティング)することにより離型促進剤を含有させることができる。Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属元素の少なくとも1種以上の化合物混合溶液を焼成後の多孔質シリカ基体151の内表面上にスプレー方式、エアーブラシ方式等により塗布、乾燥させることにより、塗布処理を行う。塗布濃度としては、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属元素合計値として50〜5000μg/cm2とすることが好ましく、100〜1000μg/cm2とすることがさらに好ましい。
【0124】
OH基濃度の調整は、第一の原料粉の種類の選定、乾燥工程や焼結工程の雰囲気、温度、時間条件を変化させることによって行い、多孔質シリカ基体151に5〜500wt.ppmになるようにする。さらに、30〜300wt.ppmの範囲が好ましい。
【0125】
(II)第2の態様
本発明に係る角形シリカ容器10の製造方法の別の一例(第2の態様、乾式法)の概略を図13に示した。
【0126】
まず、図13の(b−1)に示したように、原料粉を作製する。具体的には、第一の原料粉として、粒径0.03〜3.0mmのシリカ粉と、第二の原料粉として粒径0.1〜10μmのシリカ粉を作製する。これらの原料粉は、第1の態様の際と同様にして作製することができる。
【0127】
第二の原料粉を作製した後、後述する混合粉を作製する前に、第二の原料粉から、第二の原料粉が集合してなる粒径5〜500μmの顆粒体を作製することができることも、第1の態様と同様である。このように第二の原料粉を顆粒体とすることで、第二の原料粉の取り扱いが簡便になるので好ましい。
【0128】
この実施態様(第2の態様)においては、第一の原料粉、第二の原料粉、及び後述する、第一の原料粉と第二の原料粉と有機バインダーとを混合した混合粉231の少なくとも一つにAl元素を添加(ドーピング)する。このことにより、多孔質シリカ基体151にAl元素を含有させることができる。これにより、上記したように、Li、Na、K等のアルカリ金属元素やTi、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Au等の遷移金属元素の多孔質シリカ基体151中の移動、拡散を防止することができ、また、角形シリカ容器10の耐熱変形性を向上させることができる。
【0129】
第一の原料粉及び第二の原料粉の少なくともいずれか一方にAl元素を添加するには、水やアルコールに可溶性のAl化合物溶液に原料粉を浸漬して含浸させ、次いで一定速度で引き上げて乾燥するなどの方法を用いることができる。添加するAlの量は、製造後の角形シリカ容器10の多孔質シリカ基体151中のAl濃度が5〜500wt.ppmとなるようにし、10〜100wt.ppmとなるようにすることが好ましい。
【0130】
次に、図13の(b−2)に示したように、第一の原料粉と、第二の原料粉と、有機バインダーとを混合させ、混合粉231を作製する。第二の原料粉は、上記のように顆粒体の状態で混合させて混合粉231とすることもできる。
【0131】
この混合は、有機バインダーを除いた比率として、第一の原料粉を主原料とし、第二の原料粉を、好ましくは5wt.%〜50wt.%、より好ましくは10〜30wt.%の範囲で均一に混合する。混合粉231中の有機バインダーの比率は重量比率1〜10wt.%とすることが好ましい。
【0132】
製造コストを低減させる目的からは、なるべく第一の原料粉の第二の原料粉に対する比率を高くする必要がある。第二の原料粉の混合比率が5wt.%以上であれば、成形、焼成後の多孔質シリカ基体151の空隙が少なくなり、密度が十分に高く、その結果多孔質シリカ基体151の寸法精度や耐熱性を向上させることができる。また、第二の原料粉の混合比率が50wt.%以下であれば、成形、焼成後の多孔質シリカ基体151の空隙を十分確保でき、離型性をより高めることができる。混合手法としては、比較的量が少ない場合、V型ミキサーを用いることもできるが、この手法に限定されるわけではない。
【0133】
上記のように、第一の原料粉及び第二の原料粉の少なくともいずれかにAl元素を添加する代わりに、又はそれに加えて、混合粉231に対してAl元素を添加してもよい。この場合、水やアルコールに可溶性のAl化合物溶液に混合粉231を浸漬して含浸させ、次いで一定速度で引き上げて乾燥するなどの方法を用いることができる。添加するAlの量は、製造後の角形シリカ容器10の多孔質シリカ基体151中のAl濃度が5〜500wt.ppmとなるようにし、10〜100wt.ppmとなるようにすることが好ましい。
【0134】
次に、図13の(b−3)、(b−4)に示したように、混合粉231を角形型枠内に導入し、50〜200℃に加熱して有機バインダーを溶融することにより、多孔質シリカ基体の仮成形体241を作製する。
【0135】
具体的には、まず、混合粉231を角形型枠内へ導入し、内壁部の形状に合わせて所定の形状に形成する。次いで、角形型枠内の混合粉231を加圧(プレス)し、0.1〜1MPaの所定の圧力に調整しつつ、混合粉231の温度が50〜200℃の所定の温度に達するまで昇温し、ある程度圧密してバインダーが溶着するまで保持する。次いで室温まで放冷し原料の多孔質シリカ基体の仮成形体241を得る。
【0136】
このとき、仮成形体241の底部の内表面部分に溝又は穴を所定間隔で複数有するように形成する。この溝又は穴の形成は、例えば、型の形状自体を溝又は穴を形成するように構成することによって行うことができる。また、いったん仮成形体241を作製してから、その後、溝又は穴を形成してもよい。
【0137】
このようにして多孔質シリカ基体の仮成形体241を作製した後、焼成して多孔質シリカ基体151とする(焼成工程)のであるが、本発明では、多孔質シリカ基体151の内表面部分の少なくとも一部に、多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤を含有させる。この離型促進剤の含有は、この実施態様においても上記の第1の態様と同様に、仮成形工程の後に、仮成形体241の内表面の少なくとも一部に塗布し、乾燥させて、仮成形体241の内表面部分の少なくとも一部に離型促進剤を添加することにより行うこともできるし、後述するように、焼成工程の後に、離型促進剤を多孔質シリカ基体151の内表面の少なくとも一部に塗布することにより行うこともできる。
【0138】
次に、図13の(b−5)に示したように、多孔質シリカ基体の仮成形体を、不活性ガスを主成分とし、O2ガスを含有する雰囲気にて、1200〜1500℃の温度で焼成し、多孔質シリカ基体とする(焼成工程)。
この工程は、上記した第1の態様の焼成工程と同様にして行うことができる。
【0139】
以上のようにして、多孔質シリカ基体151を製造するのであるが、第1の態様と同様に、離型促進剤の含有を、焼成工程の後に、離型促進剤を多孔質シリカ基体151の内表面の少なくとも一部に塗布することにより行うこともできる。
【0140】
このように構成された、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を用いて多結晶シリコンインゴットの製造を行う方法の一例を説明する。
まず、本発明に係る角形シリカ容器に原料である溶融シリコンを投入する。次に、溶融シリコンを加熱保温し所定温度の融液とする。
【0141】
次に、角形シリカ容器の底部から冷却を進め、シリコンの結晶を成長させる。このときの容器底部における結晶成長の様子を、図15を参照して説明する。
【0142】
図15(a)には、本発明に係る角形シリカ容器の溝又は穴のように、その斜面が鉛直方向に対してなす角度(交差角度θ)が15〜60°の範囲である場合を模式的に図示した。この場合、容器底部からの冷却初期には、溝又は穴の最深部が、溝又は穴の形状から最も冷却されやすくなっている。そのため、まず、この溝又は穴の最深部に、固体である種結晶301が形成される。図15(a)のように交差角度θが15〜60°の範囲である場合には、種結晶301から複数の結晶が成長しても、成長過程で単結晶化(多結晶シリコンインゴット全体では多結晶となる)しやすい。この現象は、溝又は穴に垂直壁も存在する場合にはより顕著である。
【0143】
一方、図15(b)に模式的に図示したように、交差角度θが15°より小さい場合、種結晶301から複数の結晶が成長し、そのまま拡大して結晶粒の小さい多結晶体となってしまう。
【0144】
シリコンを凝固して多結晶シリコンインゴットを製造した後、角形シリカ容器から多結晶シリコンインゴットを取り出す。本発明では、かさ密度の制御及び離型促進剤の含有により、多結晶シリコンインゴットの角形シリカ容器との融着を抑制することができるので、多結晶シリコンインゴットを取り出し易く、また、破損を防止することができる。
その後、取り出した多結晶シリコンインゴットを所定の厚さにスライスして、多結晶シリコン基板とする。
【実施例】
【0145】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
図12に示した本発明に係る角形シリカ容器の製造方法(第1の態様)に従い、角形シリカ容器を以下のように製造した。
【0146】
まず、第一の原料粉を以下のように作製した。
天然珪石を50kg準備し、大気雰囲気下で、1000℃、10時間の条件で加熱後、純水の入った水槽へ投入し、急冷却した。これを乾燥後、クラッシャーを用いて粉砕し、粒径0.03〜3.0mm、シリカ(SiO2)純度99.99wt.%、総重量40kgのシリカ粉(天然珪石粉)とした。
【0147】
また、以下のように、第二の原料粉を作製し、これを顆粒体の状態とした。
【0148】
第二の原料粉として、溶融法によって球状非晶質シリカ粉を作製した。粒径0.2〜5μm、重量10kgとした。
【0149】
このようにして作製した第二の原料粉を、以下のようにしてバインダーコーティングされた顆粒体とした。第二の原料粉の10kgに対して、パラフィン系バインダー(融点55℃)50g、ステアリン酸系バインダー(融点100℃)50g、純水2.5kgを混合して、顆粒体形成用混合スラリーを作製した。この混合スラリーを、スプレードライヤーにより乾燥させ、バインダーコーティングされた顆粒体を作製した。このバインダーコーティングされた第二の原料粉の顆粒体の、顆粒径は10〜100μmであり、平均は50μmであった。
【0150】
次に、V型混合器を使用し、第一の原料粉80wt.%に対して顆粒体状の第二の原料粉を20wt.%を均一に乾式混合した。
【0151】
この第一の原料粉と顆粒体状の第二の原料粉の混合粉90重量部に対して純水10重量部、そして塩化アルミニウムAlCl3、分散剤(ポリアクリル酸アンモニウム)を少量混合してスラリー状とした。次に、円筒型シリカガラス製容器、及びシリカガラスボールから成るボールミルにて1時間、このスラリーを均一混合した。この均一混合したスラリーに、密度が1.8〜1.9g/cm3、1〜10/secのせん断速度にて粘度が約500〜1000mPa・secになるように、純水を適量加えて調整した。次に、このスラリーを容器に入れ、シリカガラスチャンバー内に設置し、室温にて104Paの真空にて3分間真空脱ガス処理を行った。このようにして混合スラリー131とした。
【0152】
次に、鋳込み成形後の基体の仮成形体の底部の内表面部分に複数のV形溝を形成可能な石膏製の型の中に混合スラリー131を導入して鋳込み成形を行った。
ここで形成したV型溝の寸法は幅10mm×長さ350mm、側面と鉛直方向との角度は45°、間隔は20mmとした(図1と類似の配置)。
【0153】
次に、角形型枠内へ導入した混合スラリー131をクリーンオーブン中にて100℃で10時間保持し、その後室温まで冷却し、多孔質シリカ基体の仮成形体141を作製した。
【0154】
次に、多孔質シリカ基体の仮成形体141の内表面部全体に塩化バリウム溶液をスプレー方式により塗布した。
【0155】
次に、二珪化モリブデンヒータを具備する、炉内寸法1m×1m×1mの高純度アルミナボードの耐熱材からなる電気抵抗加熱炉内に多孔質シリカ基体の仮成形体141を設置した。そして、酸素20vol.%、窒素80vol.%の雰囲気下にて、室温から1000℃まで200℃/時間の昇温速度で約5時間かけて昇温、1350℃まで100℃/時間の昇温速度で昇温した後、1350℃にて1時間保持した。このようにして、多孔質シリカ基体の仮成形体141を焼成して多孔質シリカ基体151とし、角形シリカ容器10を製造した。
【0156】
なお、多孔質シリカ基体151の寸法は、内寸が幅400mm×奥行き400mm×高さ400mmとなるようにし、底部の厚さは溝を形成していない箇所の厚さ20mm、側壁部の厚さ15mmとなるようにした。
【0157】
(実施例2)
実施例1と同様に角形シリカ容器の製造を行った。ただし、鋳込み成形後の基体の仮成形体の底部の内表面部分に複数の円錐形の穴を形成可能な石膏製の型の中に混合スラリー131を導入して鋳込み成形を行った。ここで形成した円錐形の穴の寸法は直径15mm、側面と鉛直方向との角度は45°、間隔は20mmとした(図3と類似の配置)。また、実施例1と比べて、多孔質シリカ基体151に含有させるAl元素濃度を5倍程度とするとともに、多孔質シリカ基体の仮成形体141の内表面部全体に塗布する塩化バリウムの濃度を10倍程度とした。
【0158】
(実施例3)
図13に示した本発明に係る角形シリカ容器の製造方法(第2の態様)に従い、角形シリカ容器を以下のように製造した。
【0159】
まず、第一の原料粉及び第二の原料粉を、実施例1の際と同様にして作製した。また、第二の原料粉を実施例1の際と同様にして顆粒体とした。
【0160】
次に、V型混合器を使用し、第一の原料粉80wt.%に対して顆粒体状の第二の原料粉を20wt.%を均一に乾式混合した。
【0161】
この第一の原料粉と顆粒体状の第二の原料粉の混合粉の中に塩化アルミニウムAlCl3、有機バインダーを少量混合して混合粉231とした。
【0162】
次に、基体の仮成形体の底部の内表面部分に複数のV形溝を形成可能な角形型枠内へ混合粉231を導入した。ここで形成したV型溝の寸法、間隔は、実施例1と同様に幅10mm×長さ350mm、角度45°、そして20mm間隔とした。
【0163】
次に、角形型枠内へ導入した混合粉231をクリーンオーブン中にて100℃で10時間保持し、その後室温まで冷却し、多孔質シリカ基体の仮成形体241を作製した。
【0164】
次に、多孔質シリカ基体の仮成形体241の内表面部全体に塩化バリウム溶液をスプレー方式により塗布した。
【0165】
次に、二珪化モリブデンヒータを具備する、炉内寸法1m×1m×1mの高純度アルミナボードの耐熱材からなる電気抵抗加熱炉内に多孔質シリカ基体の仮成形体241を設置した。そして、酸素20vol.%、窒素80vol.%の雰囲気下にて、室温から1000℃まで200℃/時間の昇温速度で約5時間かけて昇温、1350℃まで100℃/時間の昇温速度で昇温した後、1350℃にて1時間保持した。このようにして、多孔質シリカ基体の仮成形体241を焼成して多孔質シリカ基体151とし、角形シリカ容器10を製造した。
【0166】
なお、多孔質シリカ基体151の寸法は、内寸が幅400mm×奥行き400mm×高さ400mmとなるようにし、底部の厚さは溝を形成していない箇所の厚さ20mm、側壁部の厚さ15mmとなるようにした。
【0167】
(実施例4)
実施例3と同様に角形シリカ容器の製造を行った。ただし、基体の仮成形体の底部の内表面部分に複数の円錐形の穴を形成可能な角形型枠を用いて、基体の仮成形を行った。ここで形成した円錐形の穴の寸法、間隔は、実施例2と同様に直径15mm、角度45°、そして20mm間隔とした。また、実施例3と比べて、多孔質シリカ基体151に含有させるAl元素濃度を5倍程度とするとともに、多孔質シリカ基体の仮成形体241の内表面部全体に塗布する塩化バリウムの濃度を10倍程度とした。
【0168】
(実施例5)
第一の原料粉と第二の原料粉の混合比を85:15とし、溝を形成しない形状の石膏製の型を用いて鋳込み成形を行った他は、実施例1と同様の工程を経て、多孔質シリカ基体151を得た。このとき、実施例1と比べて、多孔質シリカ基体151に含有させるAl元素濃度を半分程度とするとともに、多孔質シリカ基体の仮成形体141の内表面部全体に塗布する塩化バリウムの濃度を3倍を超える程度とした。
さらに、図10に示したような溝又は穴が表面に形成された板材23を用意し、多孔質シリカ基体151の底部に配置して角形シリカ容器10とした。
【0169】
(実施例6)
第一の原料粉と第二の原料粉の混合比を85:15とした他は、実施例1と同様の工程を経て、多孔質シリカ基体151を得た。ただし、実施例1と比べて、多孔質シリカ基体151に含有させるAl元素濃度を5倍程度とするとともに、多孔質シリカ基体の仮成形体141の内表面部全体に塗布する塩化バリウムの濃度を3倍を超える程度とした。さらに、図11に示したような丸形又は角形の貫通孔42が所定間隔で複数形成されている板材41を用意し、多孔質シリカ基体151内の底面より高い位置に配置して角形シリカ容器10とした。
【0170】
(比較例1)
実施例1と同様に、ただし、第一の原料粉をシリカ純度99.9999wt.%の高純度天然水晶粉とし、Al添加をせず、多孔質シリカ基体の内表面部分に離型促進剤を含有させず、また、底部に溝を形成することなく、角形シリカ容器を製造した。
【0171】
(比較例2)
実施例3と同様に、ただし、第一の原料粉をシリカ純度99.9999wt.%の高純度天然水晶粉とし、Al添加をせず、多孔質シリカ基体の内表面部分に離型促進剤を含有させず、また、底部に溝を形成することなく、角形シリカ容器を製造した。
【0172】
(比較例3)
基本的には実施例1と同様に角形シリカ容器を製造したが、以下の点を変更した。まず、第一の原料粉と第二の原料粉の混合比を60:40とした。また、Al添加をせず、また、底部に溝を形成しなかった。また、多孔質シリカ基体の仮成形体の焼成温度(保持する最高温度)を1400℃とした。
【0173】
(比較例4)
基本的には実施例3と同様に角形シリカ容器を製造したが、以下の点を変更した。まず、第一の原料粉と第二の原料粉の混合比を60:40とした。また、Al添加をせず、また、底部に溝を形成しなかった。また、多孔質シリカ基体の仮成形体の焼成温度(保持する最高温度)を1400℃とした。
【0174】
[実施例及び比較例における評価方法]
各実施例及び比較例において用いた原料粉及び製造した角形シリカ容器の物性、特性評価を以下のようにして行った。
かさ密度の測定方法:
角形シリカ容器側壁から50mm×50mm×15mmの板状サンプルを切り出し、該サンプルの重量(g)を測定した。
次いで、純水の入った水槽中に該サンプルを浸漬させて、該サンプルの重量減を測定することにより、該サンプルの体積(cm3)を求めた。これらの2つの数値からかさ密度(g/cm3)を計算した。
【0175】
各原料粉の粒径測定方法:
光学顕微鏡又は電子顕微鏡で各原料粉の二次元的形状観察及び面積測定を行った。次いで、粒子の形状を真円と仮定し、その面積値から直径を計算して求めた。この手法を統計的に繰り返し行い、粒径の範囲の値とした(この範囲の中に99wt.%以上の原料粉が含まれる)。
【0176】
金属元素濃度分析:
所定の位置からシリカサンプル片を切り出し、フッ化水素酸水溶液で溶解させるサンプル調整を行った。特に離型促進剤の濃度分析においては、角形シリカ容器の内表層部分から20mm×20mm×2mmのサンプルを複数枚切り出し、分析用シリカサンプル片とした。含有金属元素濃度が比較的低い場合は、プラズマ発光分析法(ICP−AES、Inductively Coupled Plasma − Atomic Emission Spectroscopy)又はプラズマ質量分析法(ICP−MS、Inductively Coupled Plasma − Mass Spectroscopy)で行い、含有金属元素濃度が比較的高い場合は、原子吸光光度法(AAS、Atomic Absorption Spectroscopy)で行った。
【0177】
OH基濃度測定:
多孔質シリカ基体から粒径10〜100μmの粉状サンプルを作製し、赤外線拡散反射分光光度法で行った。OH基濃度への換算は、以下文献に従う。
Dodd,D.M. and Fraser,D.B.(1966) Optical determination of OH in fused silica. Journal of Applied Physics, vol.37, P.3911.
【0178】
角形シリカ容器から多結晶シリコンインゴットへの不純物拡散防止効果:
角形シリカ容器の中へSi純度99.9999999wt.%の高純度シリコン溶融体を投入し、室温まで冷却して寸法400mm×400mm×300mmの多結晶シリコンインゴットを作製した。次いで、該インゴットの表面から5mm深さの位置でシリコン片のサンプリングを行い、これを酸性溶液処理することにより溶液状サンプルとした後、ICP−AESにて、Na濃度分析を行った。Na濃度値によって、角形シリカ容器から多結晶シリコンインゴットへの不純物拡散防止効果を評価した。
不純物拡散防止効果大 ○(Naの濃度が10wt.ppb未満)
不純物拡散防止効果中 △(Naの濃度が10wt.ppb以上100wt.ppb未満)
不純物拡散防止効果小 ×(Naの濃度が100wt.ppb以上)
【0179】
離型性評価:
前記同様に多結晶シリコンインゴットを作製し、次いで角形シリカ容器の4カ所の側壁角部及び4カ所の側壁と底部の角部をカッターにて切断し、該インゴットから角形シリカ容器の4つの側壁及び底板を剥がし取った。該インゴット表面に残存する凹凸やクラック等が、角形シリカ容器の内表面と接触した位置から内部方向にどのくらいの深さまであるのかをスケールにより測定することで離型性の評価を行った。
離型性良好 ○(深さ2mm未満)
離型性中程度 △(深さ2mm以上5mm未満)
離型性悪い ×(深さ5mm以上)
【0180】
多結晶シリコンインゴットの品質評価:
前記作製した多結晶シリコンインゴットをスライスし、断面を観察した。
結晶粒の大きさ、結晶成長方向の均一性の観点から、従来と比較して(比較例1が基準)、評価した。
品質良好 ○(結晶粒寸法5〜50mmが全体の70%以上を占め、成長結晶の結晶方位が一定方向に整っている)
品質中程度 △(結晶粒寸法5〜50mmが全体の30〜70%程度であり、成長結晶の結晶方位の整いが中間レベルである)
品質悪い ×(従来と同程度)
【0181】
製造コスト(相対的)評価:
角形シリカ容器の製造コストを調べた。
基準を比較例1とし、特にシリカ原料粉コスト、粉体成形コスト、成形体の焼成コスト等の合計値を相対的に評価した。
コストが低い ○(50%以下)
コストが中程度 △(50〜90%程度)
コストが大きい ×(比較例1を100%とする)
【0182】
実施例1〜6、比較例1〜4で製造したそれぞれの角形シリカ容器の製造条件と、測定した物性値、評価結果をまとめ、下記の表1〜6に示す。表6は各実施例、比較例の多孔質シリカ基体の不純物遷移金属元素濃度を示したものである。
【0183】
【表1】
【0184】
【表2】
【0185】
【表3】
【0186】
【表4】
【0187】
【表5】
【0188】
【表6】
【0189】
表1〜6からわかるように、本発明に係るシリカ容器の製造方法に従った実施例1〜6では、離型性に優れた多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を、低コストで製造することができた。また、実施例1〜6では、結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することができた。
【0190】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0191】
10…本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器、
11…角形シリカ容器の側壁部、
21…角形シリカ容器の底部、 22…角形シリカ容器の底部の内表面、
23…溝又は穴が形成された板材、
31…溝又は穴、 31a…溝、 31b…角錐形の穴、
31c、31d…円錐形の穴、 32…斜面、 33…垂直壁、 34…平底、
41…貫通孔の形成された板材、 42…貫通孔、 51…スペーサー、
131…混合スラリー、 141…仮成形体、 151…多孔質シリカ基体、
231…混合粉、 241…仮成形体、
301…種結晶。
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン融液を収容した後凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形(角槽型)シリカ容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池(ソーラー発電デバイス)は近年、急速に需要が増加しており、より低コストで高い変換効率を有する太陽電池が求められている。
【0003】
太陽電池の光起電部を構成する材料の一つとして多結晶シリコンがある。多結晶シリコンは、シリコン融液を冷却して凝固させることにより、多結晶シリコンのインゴット(塊)として製造されることが多い。シリコン融液を収容し、凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための容器として、シリカ(二酸化珪素)製容器や黒鉛製容器が用いられている。
【0004】
容器内で凝固させて多結晶シリコンインゴットを製造するための容器においては、シリコン融液が凝固した際に多結晶シリコンインゴットが該容器と融着(付着)することを防止するため、その内表面に予め離型層を形成することが知られている。離型層を形成するための離型剤としては、様々な材料が使用されている。例えば、特許文献1には、石英ガラスからなるシリコン溶融用容器の内層に、Si、Si3N4、Si3N4+SiO2又はSi+Si3N4+SiO2を含む離型剤スラリーから、離型層を形成するとすることが記載されている。また、特許文献2には、内面に窒化珪素を含有する離型材層を形成した、二酸化珪素よりなるシリコン鋳造用鋳型が記載されている。
【0005】
また、多結晶シリコンインゴットを製造する際に、できるだけ結晶方向性が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することが求められている。例えば、特許文献3には、ルツボ内の底面に、3C−SiC等の種結晶を配置するための複数の溝又は円錐若しくは角錐の窪み部が形成されている多結晶半導体製造用ルツボが記載されている。特許文献3にはさらに、その溝の側面と垂直な面とのなす角、あるいは円錐若しくは角錐の窪み部の側面と中心線とのなす角を50〜70°に形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−271058号公報
【特許文献2】特開2005−125380号公報
【特許文献3】特開2006−219336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、容器内で凝固させて多結晶シリコンインゴットを製造するための容器には、その内表面に予め離型層を形成することが一般的である。しかしながら、離型剤として、多結晶シリコンインゴットに不純物となるような材料を用いた場合には、離型層が剥離してシリコン融液に取り込まれる等の理由により、多結晶シリコンインゴットへの不純物混入が不可避であるという問題があった。
【0008】
その一方で、離型剤を使用しないとすると、シリコン融液が凝固した際に多結晶シリコンインゴットが該容器と融着し、冷却時、取り外し時等に多結晶シリコンインゴットの表面部分が破損するという問題があった。この結果として、例えば、多結晶シリコンインゴットから太陽電池を製造するような場合には、製造する太陽電池の品質の劣化や、歩留まりの低下により、製造する太陽電池のコスト高につながってしまう。
【0009】
また、特許文献3のように、底面に溝や窪みが形成されたルツボ内でシリコン融液を凝固させた場合、離型性が悪いことがあった。
【0010】
本発明はこれらのような問題に鑑みてなされたもので、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる能力を有し、かつ、離型性に優れるとともに、できるだけ結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することができる、低コストの多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を提供すること、及び、そのような多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、シリコン融液を収容した後凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形シリカ容器であって、該角形シリカ容器は、少なくとも多孔質シリカ基体からなるものであり、前記多孔質シリカ基体は、かさ密度が1.80〜2.10g/cm3であり、Al濃度が5〜500wt.ppmであり、OH基濃度が5〜500wt.ppmであり、前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、前記多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤が含有されているものであり、前記角形シリカ容器の底部の内表面部分には、溝又は穴を所定間隔で複数有しており、前記溝又は穴の側面の少なくとも一部が、鉛直方向に対して15〜60°の角度をなす斜面で形成されていることを特徴とする多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を提供する。
【0012】
このようなシリカ容器であれば、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる能力を有し、かつ、離型性に優れるとともに、結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することができる、低コストの多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器とすることができる。すなわち、角形シリカ容器において、かさ密度を1.80〜2.10g/cm3のようにして、気泡量を比較的多くするとともに、内表面部分に離型促進剤を含有させることにより、シリコン融液が凝固した際の多結晶シリコンインゴットの角形シリカ容器との融着を抑制することができる。また、角形シリカ容器のAl、OH基の含有量を上記のようにすることにより、安価な原料を用いた場合でも、収容したシリコン(シリコン融液及び多結晶シリコンインゴット)への不純物の拡散を十分に防止することができる。また、容器底部の溝又は穴の存在により、シリコン融液から凝固する際に、多結晶シリコンインゴットの各結晶粒の大きさを適度に整わせ、また各結晶粒の結晶軸方位を一定方向に整わせることができる。
【0013】
この場合、前記溝又は穴の形状が、溝の場合はV形であり、穴の場合は円錐形又は角錐形であることが好ましい。また、前記溝又は穴の側面には、一部鉛直方向に沿う垂直壁が存在することが好ましい。
【0014】
このように、シリカ容器の底部に形成する溝又は穴の形状を、溝の場合はV形とし、穴の場合は円錐形又は角錐形としたり、溝又は穴の側面に一部鉛直方向に沿う垂直壁が存在するものとしたりすれば、製造する多結晶シリコンインゴットの結晶粒の大きさ及び結晶軸方位をより整わせやすいものとなる。
【0015】
また、前記溝又は穴の開口部の寸法が、溝の場合は幅が5〜20mmであり、穴の場合は最小長さが5〜20mmであることが好ましい。
【0016】
このように、溝又は穴の開口部の寸法が、溝の場合は幅が5〜20mmであり、穴の場合は最小長さが5〜20mmであれば、製造する多結晶シリコンインゴットの結晶粒の大きさ及び結晶軸方位をより整わせやすいものとなる。ここで、穴の開口部の最小長さとは、開口部の形状に接する最小幅の平行線の間隔のことである。
【0017】
また、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器では、前記底部の内表面部分の溝又は穴は、底部に配置された板材の表面に形成された溝又は穴とすることができる。
【0018】
このように、本発明では、容器底部に配置された板材の表面に形成された溝又は穴によっても、その作用を得ることができる。
【0019】
また、前記角形シリカ容器内の底面より高い位置に、丸形又は角形の貫通孔が所定間隔で複数形成されている板材が配置されていることが好ましい。
【0020】
このように、角形シリカ容器内の底面より高い位置に、丸形又は角形の貫通孔が所定間隔で複数形成されている板材が配置されていれば、製造する多結晶シリコンインゴットの結晶粒の大きさ及び結晶軸方位をより整わせやすいものとなる。
【0021】
また、前記離型促進剤としてCa、Sr、Baのいずれか1以上が、前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、該内表面から深さ2mmまでにおいて、各元素の合計値として50〜5000wt.ppmの濃度で添加されているものであることが好ましい。
【0022】
このような濃度で離型促進剤としてのCa、Sr、Baが多孔質シリカ基体の内表面部分に添加されている多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器であれば、より効果的に離型性を高くすることができるとともに、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる。
【0023】
また、前記離型促進剤としてCa、Sr、Baのいずれか1以上が、前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、各元素の合計値として50〜5000μg/cm2の濃度で塗布されているものであることも好ましい。
【0024】
このような濃度で離型促進剤としてのCa、Sr、Baが多孔質シリカ基体の内表面部分に塗布されている多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器とすることによっても、より効果的に離型性を高くすることができるとともに、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる。
【0025】
また、前記多孔質シリカ基体に含有されているLi、Na、Kの各々の濃度が5wt.ppm以下であり、前記多孔質シリカ基体に含有されているTi、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度が0.1wt.ppm以下であることが好ましい。
【0026】
多孔質シリカ基体に含有されているLi、Na、K、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度をこのようにすれば、より効果的にシリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を防止できる多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器とすることができる。
【0027】
また、本発明は、シリコン融液を収容した後凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形シリカ容器を製造する方法であって、少なくとも、第一の原料粉として、粒径0.03〜3.0mmのシリカ粉を作製する工程と、第二の原料粉として粒径0.1〜10μmのシリカ粉を作製する工程と、前記第一の原料粉と、前記第二の原料粉と、水とを含む混合スラリーを作製する工程と、前記混合スラリーを、型枠内で脱水及び乾燥し、底部の内表面部分に溝又は穴を所定間隔で複数有する多孔質シリカ基体の仮成形体を作製する仮成形工程と、前記多孔質シリカ基体の仮成形体を、不活性ガスを主成分とし、O2ガスを含有する雰囲気にて、1200〜1500℃の温度で焼成し、多孔質シリカ基体からなる角形シリカ容器とする焼成工程とを含み、前記第一の原料粉、前記第二の原料粉、及び前記混合スラリーの少なくとも一つにAl元素を添加することにより、前記多孔質シリカ基体にAl元素を含有させ、前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、前記多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤を含有させることを特徴とする多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法を提供する。
【0028】
このような多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法であれば、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる能力を有し、かつ、離型性に優れるとともに、結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することができる、多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を安価に製造することができる。
【0029】
また、本発明は、シリコン融液を収容した後凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形シリカ容器を製造する方法であって、第一の原料粉として、粒径0.03〜3.0mmのシリカ粉を作製する工程と、第二の原料粉として粒径0.1〜10μmのシリカ粉を作製する工程と、前記第一の原料粉と前記第二の原料粉と有機バインダーとを混合させ、混合粉を作製する工程と、前記混合粉を型枠内に導入し、50〜200℃に加熱して前記有機バインダーを溶融することにより、底部の内表面部分に溝又は穴を所定間隔で複数有する多孔質シリカ基体の仮成形体を作製する仮成形工程と、前記多孔質シリカ基体の仮成形体を、不活性ガスを主成分とし、O2ガスを含有する雰囲気にて、1200〜1500℃の温度で焼成し、多孔質シリカ基体からなる角形シリカ容器とする焼成工程とを含み、前記第一の原料粉、前記第二の原料粉、及び前記混合粉の少なくとも一つにAl元素を添加することにより、前記多孔質シリカ基体にAl元素を含有させ、前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、前記多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤を含有させることを特徴とする多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法を提供する。
【0030】
このような多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法とすることによっても、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる能力を有し、かつ、離型性に優れるとともに、結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することができる、多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を安価に製造することができる。
【0031】
また、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法では、前記離型促進剤の含有を、前記仮成形工程の後に、前記仮成形体の内表面の少なくとも一部に塗布し、乾燥させて、前記仮成形体の内表面部分の少なくとも一部に前記離型促進剤を添加することにより、及び/又は、前記焼成工程の後に、前記離型促進剤を前記多孔質シリカ基体の内表面の少なくとも一部に塗布することにより、行うことが好ましい。
【0032】
このように、離型促進剤の含有を、仮成形工程の後に、仮成形体の内表面の少なくとも一部に塗布し、乾燥させて、仮成形体の内表面部分の少なくとも一部に離型促進剤を添加することによって行ったり、焼成工程の後に、離型促進剤を多孔質シリカ基体の内表面の少なくとも一部に塗布することにより行ったりすることにより、より効率的に多孔質シリカ基体の内表面部分へ離型促進剤を含有させることができる。
【0033】
また、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法では、前記離型促進剤をCa、Sr、Baのいずれか1以上とすることが好ましい。
【0034】
このように、離型促進剤をCa、Sr、Baのいずれか1以上とすれば、より効果的に離型性を高くすることができるとともに、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる。
【0035】
また、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法では、前記混合スラリー又は前記混合粉を作製する前に、前記第二の原料粉から、前記第二の原料粉が集合してなる粒径5〜500μmの顆粒体を作製し、該第二の原料粉の顆粒体を用いて前記混合スラリー又は前記混合粉を作製することが好ましい。
【0036】
このように、第二の原料粉を顆粒体としてから混合スラリー又は混合粉を作製すれば、粒径が細かい第二の原料粉の取り扱いを簡便にすることができる。
【0037】
また、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法では、前記焼成工程において、前記不活性ガスを、N2ガス、Heガス、Arガスの少なくとも一種以上とし、O2ガスの含有量を1〜30vol.%とすることが好ましい。
【0038】
焼成工程における不活性ガスの組成をこのようにすれば、より低コストで多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を製造することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器であれば、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる能力を有し、かつ、離型性に優れるとともに、結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することができる、低コストの多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器とすることができる。このような多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を用いることにより、不純物汚染が十分に防止された多結晶シリコンインゴットを製造することができ、多結晶シリコンインゴットを製造する際の総コストを低減することができる。
【0040】
また、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法であれば、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる能力を有し、かつ、離型性に優れるとともに、結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することができる、多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を安価に製造することができる。
【0041】
こうして、本発明により、高品質で低コストの角形の多結晶シリコンインゴットを提供することができ、これは特に太陽電池用としてきわめて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る角形シリカ容器の底部の形状の一例を示す概略図であり、(a)は容器底部の上面図、(b)は容器底部の断面図である。
【図2】本発明に係る角形シリカ容器の底部の形状の一例を示す概略図であり、(a)は容器底部の上面図、(b)は容器底部の断面図である。
【図3】本発明に係る角形シリカ容器の底部の形状の一例を示す概略図であり、(a)は容器底部の上面図、(b)は容器底部の断面図である。
【図4】本発明に係る角形シリカ容器の底部の形状の一例を示す概略図であり、(a)は容器底部の上面図、(b)は容器底部の断面図である。
【図5】本発明に係る角形シリカ容器の底部に形成する溝又は穴の断面形状の一例を示す概略断面図である。
【図6】本発明に係る角形シリカ容器の底部に形成する溝又は穴の断面形状の一例を示す概略断面図である。
【図7】本発明に係る角形シリカ容器の底部に形成する溝又は穴の断面形状の一例を示す概略断面図である。
【図8】本発明に係る角形シリカ容器の底部に形成する溝又は穴の断面形状の一例を示す概略断面図である。
【図9】本発明に係る角形シリカ容器の一例を示す概略図であり、(a)は概略上面図であり、(b)は概略断面図である。
【図10】本発明に係る角形シリカ容器の一例を示す概略図であり、(a)は概略上面図であり、(b)は概略断面図である。
【図11】本発明に係る角形シリカ容器の一例を示す概略断面図である。
【図12】本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法の一例の概略を示すフローチャートである。
【図13】本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法の別の一例の概略を示すフローチャートである。
【図14】本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器に具備することができる板材の貫通孔の形状を示す概略図である。
【図15】容器底部に形成された溝又は穴からの結晶成長の様子を模式的に示した説明図である。
【図16】本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器により多結晶シリコンインゴットを成長させた様子を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
前述のように、本発明では、例えば太陽電池用として好適な角形の多結晶シリコンインゴットを得ることができる、多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器について、以下のようなことを課題とした。
【0044】
第一に、優れた離型性を有する角形シリカ容器とすることである(離型性の向上)。これはすなわち、角形シリカ容器内に収容したシリコン融液の凝固により多結晶シリコンインゴットを製造した際に、多結晶シリコンインゴットの角形シリカ容器への融着(付着)を抑制し、特に、多結晶シリコンインゴットを角形シリカ容器から取り外しやすいものとすることである。
【0045】
第二に、不純物汚染を防止できる角形シリカ容器とすることである。これはすなわち、角形シリカ容器に含有されている各種不純物金属元素が、多結晶シリコン製造時の高温度下においても、収容したシリコン(シリコン融液及び多結晶シリコンインゴット等)へ移動、拡散することを抑制することであり、その結果、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することである。
【0046】
第三に、できるだけ結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造する容器とすることである。すなわち、製造する多結晶シリコンインゴットの結晶品質を向上させることである。
【0047】
第四に、上記の優れた離型性、不純物汚染の防止、及び製造する多結晶シリコンインゴットの結晶品質の向上を低コストで実現することである。これはすなわち、角形シリカ容器の製造のために、安価なシリカ原料を使用することができるようにし、また、シリカ原料の溶融、焼結温度を比較的低温度下で行い、角形シリカ容器の製造の際のエネルギー消費を少なくすることである。
【0048】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
図9に本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の一例の概略を示した。図9(a)は、本発明に係る角形シリカ容器の概略上面図であり、図9(b)は、本発明に係る角形シリカ容器の概略断面図である。
【0050】
図9(a)及び図9(b)に図示したように、本発明に係るシリカ容器10の形状は角形(角槽型とも呼ばれる)である。角形シリカ容器10は、側壁部11と底部21とからなる。また、図9(b)に図示したように、本発明に係る角形シリカ容器10は、底部21の内表面部分に溝又は穴31を所定間隔で複数有する。図9(a)においては、見やすさのため、容器底部の溝又は穴を省略している。
【0051】
この本発明に係る角形シリカ容器10は、シリコン融液を収容した後凝固して角形の多結晶シリコンインゴットを製造するための容器である。製造される多結晶シリコンインゴットが角形であれば、これをスライスして角形の多結晶シリコンウエーハを得ることができ、円柱状の多結晶シリコンインゴットと比較して、スライスしたウエーハを太陽電池とする場合に受光面積の無駄がなく、きわめて好適である。
【0052】
本発明に係る角形シリカ容器10は、少なくとも、多孔質シリカ基体151からなる。この多孔質シリカ基体151は、かさ密度が1.80〜2.10g/cm3である。このかさ密度は、1.85〜1.93g/cm3の範囲とすることが好ましい。
【0053】
離型性向上のために、多孔質シリカ基体151のかさ密度を上記のような範囲とし、多孔質シリカ基体151に含まれる気泡量を多くする(すなわち、気孔率を増大させる)。このように気泡量を多くすることにより、シリコン融液が凝固した際の多結晶シリコンインゴットの角形シリカ容器10との融着(付着)を抑制し、角形シリカ容器10から、多結晶シリコンインゴットを破損することなく取り外しやすくなる。
【0054】
多孔質シリカ基体151のかさ密度が2.10g/cm3を超える値では、製造した多結晶シリコンインゴットと角形シリカ容器との融着が強くなり、また角形シリカ容器の強度が高くなるため離型性が低下してしまう。一方、かさ密度が1.80g/cm3よりも低い値では、離型性は向上するものの、角形シリカ容器自体の強度を低下させすぎてしまう。
【0055】
本発明では、多孔質シリカ基体151の内表面部分の少なくとも一部に、多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤が含有されている。
【0056】
本発明に係る角形シリカ容器10に用いる離型促進剤としては、以下の3種類のタイプが使用できる。
【0057】
第一に、再結晶タイプ、すなわち、多孔質シリカ基体151の表面を微細に再結晶させることにより、離型性を向上させるものである。本発明に特に好適なものとして、具体的には、アルカリ土類金属元素Ba、Ca、Srを挙げることができ、このうち、Baが最も好ましい。この他に、ムライト3Al2O3・2SiO2〜2Al2O3・SiO2、スピネルMgAl2O4等を挙げることができる。
【0058】
第二に、発泡タイプ、すなわち、例えば1400℃以上のような高温下で、シリカと反応してシリカが発泡することにより、離型性を向上させるものである。具体的には炭化珪素SiC、窒化珪素Si3N4等を挙げることができる。
【0059】
第三に、非反応タイプ、すなわち、例えば1400℃以上のような高温下で、シリカともシリコンとも反応しないことで離型性を向上させるものである。具体的には、炭素C、ジルコニアZrO2、ベリリアBeO、マグネシアMgO、カルシアCaO、トリアThO2、タングステンW等を挙げることができる。
【0060】
これら離型促進剤の3種類のタイプのうち、再結晶タイプを用いることが本発明において最も好ましい。この場合、Ca、Sr、Baのうち1以上が、多孔質シリカ基体151の内表面部分の少なくとも一部に、内表面から深さ2mmまでにおいて、各元素の合計値として50〜5000wt.ppmの濃度で添加されているものであることが好ましい。50wt.ppm以上であれば離型性の向上が認められ、5000wt.ppm以下であれば、十分な離型性が認められつつ、かつ多結晶シリコンインゴットを離型剤で汚染することもなくなるために好ましい。各元素の合計値が300〜3000wt.ppmの範囲がより好ましい。また、離型促進剤としてCa、Sr、Baのうち1以上が、多孔質シリカ基体151の内表面部分の少なくとも一部に、各元素の合計値として50〜5000μg/cm2の濃度で塗布されているものであることも好ましい。50μg/cm2以上であれば離型性の向上が認められ、5000μg/cm2以下であれば、十分な離型性が認められつつ、かつ多結晶シリコンインゴットを離型剤で汚染することもなくなるために好ましい。各元素の合計値が300〜3000μg/cm2の範囲がより好ましい。
【0061】
再結晶タイプ、特にCa、Sr、Baを、このように多孔質シリカ基体151の内表面部分に含有させることにより、シリコン融液を角形シリカ容器10に収容し、徐々に冷却して凝固させ、多結晶シリコンインゴットとする製造過程において、該角形シリカ容器10の内表面層がシリカガラスからクリストバライトやオパール等の微結晶相に転移し、マイクロクラックの生成を引き起こすことができる。その結果、冷却、凝固された多結晶シリコンインゴットと角形シリカ容器10の内表面との融着を少なくすることができるため、角形シリカ容器10から多結晶シリコンインゴットを取り外す際、多結晶シリコンインゴットを破損したり、多結晶シリコンインゴットの表面部分に凹凸の形成や進行性クラックを発生させたりすることなく取り外すことが可能となる。
【0062】
Li、Na、K等のアルカリ金属元素に比較して、アルカリ土類金属元素Ca、Sr、Baは、偏析係数との相関関係で、融液からの凝固により製造された多結晶シリコンインゴットへの取り込みが少なく、すなわち多結晶シリコンインゴットへの工程汚染を少なくすることができる。特にBaは多結晶シリコンインゴットへの拡散汚染が少ない点から離型促進剤として最も好ましい。
【0063】
多孔質シリカ基体151の内表面部分のうち、離型促進剤を含有させる範囲は、上記のように多孔質シリカ基体151の内表面部分の少なくとも一部であればよいが、多孔質シリカ基体151のうち、シリコン融液を収容及び凝固する高さまでの内表面部分全体とすることがより好ましく、多孔質シリカ基体151の内表面部分全体とすることがさらに好ましい。
【0064】
また、多孔質シリカ基体151は、そのAl濃度(Al元素濃度)が5〜500wt.ppmであり、OH基濃度が5〜500wt.ppmである。不純物汚染防止のため、多孔質シリカ基体151にAl元素と同時にOH基を含有させる。Al濃度は10〜100wt.ppmとすることが好ましく、OH基濃度は30〜300wt.ppmとすることが好ましい。
【0065】
これらAl、OH基が、多孔質シリカ基体151中の不純物金属元素、特に、光照射下における多結晶シリコンのキャリアライフタイムを低下させたり、多結晶シリコンインゴットを太陽電池材料とした場合に、変換効率を低下させると考えられるLi、Na、K等のアルカリ金属元素やTi、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Au等の遷移金属元素のシリカ中の移動、拡散を防止する。そのメカニズムの詳細は不明であるが、Al原子はSi原子と置換することにより、その配位数の違いから、不純物金属元素の陽イオン(カチオン)を取り込み、シリカガラスネットワーク中の電荷バランスを保つという作用から、吸着、拡散防止するものと推定される。また、OH基は、水素イオンと不純物金属イオンが置換することにより、これら不純物金属元素を吸着ないし拡散防止する効果が生ずるものと推定される。
【0066】
Alの濃度が5wt.ppm未満では、不純物汚染防止効果が認められず、500wt.ppm超では不純物汚染防止効果が認められるものの、AlやAl2O3自体が、製造する多結晶シリコンインゴットを汚染することになり好ましくない。
【0067】
また、OH基の濃度が5wt.ppm未満では、同様に、不純物汚染防止効果が認められず、500wt.ppm超では多孔質シリカ基体の高温度下での粘性度を低下させるため好ましくない。OH基は、SiとOのシリカガラス網目構造すなわちガラスネットワークの終端部(ネットワークターミネーター)となるものである。この理由により、OH基の高濃度の含有は、高温度下における多孔質シリカ基体の変形を引き起こしやすくするものと考えられる。
【0068】
上記AlとOH基の不純物汚染防止効果はAl又はOH基のいずれか1種でもある程度は認められるが、この2種の組み合わせによって大幅に効果が向上する。このことにより、多孔質シリカ基体151の原料となるシリカ粉の純度が、SiO299.9〜99.999wt.%と比較的低純度であっても、本発明の目的に合致する角形シリカ容器10を製造することが可能となる。より具体的には、例えばシリカ原料粉の純度(SiO2の純度)が99.99wt.%以上であり、Li、Na、Kの各々の濃度が5wt.ppm以下であり、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度が0.1wt.ppm以下である場合、AlとOH基を同時に適量含有させることにより、多結晶シリコンインゴットを工程汚染を十分に防止して製造することが可能となる。このように工程汚染が十分に防止された多結晶シリコンインゴットでは各々の結晶粒の大きさがより均一に整っている。このような多結晶シリコンインゴットからソーラー発電デバイス(太陽電池)を製造すれば、その光電変換効率を大幅に高めることが可能となる。
【0069】
前述のように、本発明に係る角形シリカ容器10の底部21の内表面部分は、溝又は穴を所定間隔で複数有している。また、この溝又は穴は、溝又は穴の側面の少なくとも一部が、鉛直方向に対して15〜60°の角度をなす斜面で形成されることが必要である。本発明に係る角形シリカ容器10の容器底部の溝又は穴について、図1から図8までを参照してより詳しく説明する。
【0070】
図1に本発明に係る角形シリカ容器の底部21の形状の一例として、容器底部21に溝が形成されている場合の概略を示した。図1(a)は容器底部21の上面図であり、図1(b)は容器底部21の断面図である。符号22は容器底部21の内表面を示している。図の見やすさのため、容器側壁部については省略している。図1(a)及び図1(b)には、容器底部21の内表面部分に、溝31aが形成されている場合を示した。この場合、溝31aの側面の少なくとも一部が、鉛直方向に対して15〜60°の角度をなす斜面で形成されていることが必要である。このような溝31aの存在により、本発明に係る角形シリカ容器を用いて、シリコン融液から凝固して多結晶シリコンインゴットを製造する際に、多結晶シリコンインゴットの各結晶粒の大きさを適度に整わせ、また各結晶粒の結晶軸方位を一定方向に整わせることができる。
【0071】
さらには、溝31aの形状がV形であること、すなわちV型溝であることが好ましい。
また、溝31aの側面には、一部鉛直方向に沿う垂直壁が存在することが好ましい。垂直壁の深さ(鉛直方向の長さ)は、3〜20mmとすることがより好ましい。また、溝31aの幅は、5〜20mmであることが好ましい。
このように溝31aを設計すると、多結晶シリコンインゴットの各結晶粒の大きさ及び各結晶粒の結晶軸方位をより確実に揃えることができる。
【0072】
図2〜図4にはそれぞれ、本発明に係る角形シリカ容器の底部21の形状の一例として、容器底部21に穴が形成されている場合の概略を示した。図2(a)、図3(a)、図4(a)はそれぞれ容器底部21の上面図であり、図2(b)、図3(b)、図4(b)はそれぞれ容器底部21の断面図である。符号22は容器底部21の内表面を示している。図の見やすさのため、容器側壁部については省略している。
【0073】
図2(a)及び図2(b)には、容器底部21の内表面部分に角錐形の穴31bが形成されている場合を示した。
図3(a)及び図3(b)には、容器底部21の内表面部分に円錐形の穴31cが形成されている場合を示した。
図4(a)及び図4(b)には、容器底部21の内表面部分に円錐形の穴31dが密集して形成されている場合を示した。
【0074】
容器底部21に形成する穴は、図2〜図4に図示したような角錐形又は円錐形にすることが好ましいが、これらに限られるものではない。ただし、穴の側面の少なくとも一部が、鉛直方向に対して15〜60°の角度をなす斜面で形成されていることが必要である。なお、穴の形状としての上記角錐形や円錐形も幾何学的に正確な形状には限定されず、開口部の形状が楕円である等、類似するものでも構わない。また、角錐形も図2に示した四角錐に限らず、任意の多角錐でもよい。
【0075】
穴の側面には、一部鉛直方向に沿う垂直壁が存在することが好ましい。垂直壁の深さ(鉛直方向の長さ)は、3〜20mmとすることがより好ましい。
穴の開口部の寸法は、最小長さが5〜20mmであることが好ましい。ここで、穴の開口部の最小長さとは、開口部の形状に接する最小幅の平行線の間隔のことである。例えば、図2で示したような四角錐形の穴31bの場合、開口部は正方形であり、開口部の最小長さは一辺の長さである。また、図3、図4で示したような円錐形の穴31c、31dの場合、開口部は円であり、開口部の最小長さは直径である。
【0076】
これらのような穴の存在により、本発明に係る角形シリカ容器を用いて、シリコン融液から凝固して多結晶シリコンインゴットを製造する際に、多結晶シリコンインゴットの各結晶粒の大きさを適度に整わせ、また各結晶粒の結晶軸方位を一定方向に整わせることができる。
【0077】
本発明に係る角形シリカ容器の底部に形成される溝又は穴は、所定間隔で形成される。ここでいう間隔とは、溝又は穴の最深部等、代表する位置の間隔のことである。例えば図4に示したように、隣り合う溝又は穴の開口部同士が接するように形成されていてもよい。
【0078】
図5から図8に、本発明に係る角形シリカ容器の底部に形成する溝又は穴の断面形状の概略断面図を示した。
前述のように、本発明に係る角形シリカ容器の底部21に形成される溝又は穴31は、溝又は穴の側面の少なくとも一部が、鉛直方向に対して15〜60°の角度をなす斜面32で形成されることが必要である。すなわち、斜面32は、鉛直方向となす角度(交差角度θ)が15〜60°である。ここで、斜面32の鉛直方向に対してなす角度とは、図5から図8に図示したように、斜面32の断面形状が鉛直方向に対してなす角度のことである。
なお、斜面32の鉛直方向に対する角度は、30°以上50°未満であることがより好ましい。
また、前述のように、溝又は穴31には垂直壁33が存在することが好ましい(図6及び図8参照)。また、図7及び図8に示したように、平底34が存在していてもよい。
【0079】
本発明に係る角形シリカ容器の別の実施形態を図10に示す。図10(a)は概略上面図であり、図10(b)は概略断面図である。
図10に示したように、本発明に係る角形シリカ容器10では、容器底部21の内表面部分の溝又は穴31は、容器底部21に配置された板材23の表面に形成された溝又は穴とすることができる。この場合、容器底部の内表面22は、板材23の表面となる。この場合、多孔質シリカ基体151には溝又は穴は必要ない。ただし、多孔質シリカ基体151はかさ密度1.80〜2.10g/cm3、Al濃度5〜500wt.ppm、OH基濃度5〜500wt.ppmの条件を満たす必要があり、内表面部分の少なくとも一部に離型促進剤が含有されている必要がある。
このような板材23は、冷却開始時に結晶成長の種となる種結晶を溝又は穴31に形成することができるという意味で、シーディングプレートと呼ぶことができる。
【0080】
本発明に係る角形シリカ容器のさらに別の実施形態の概略断面図を図11に示す。
この実施形態では、角形シリカ容器10内の底面より高い位置に、丸形又は角形の貫通孔42が所定間隔で複数形成されている板材41が配置されている。
【0081】
このような板材41の上面図を図14に示した。
貫通孔42は、図14(a)に示したように長方形とすることができる。この場合、貫通溝ということもできる。また、図14(b)のように配置することもできる。
また、貫通孔42は、図14(c)に示したように円形、図14(d)に示したように正方形とすることもできる。
これらの貫通孔42の側壁は垂直壁が好ましく、テーパー角度は付けない方が良い。
【0082】
このような板材41の材質は耐熱性セラミックスも使用できるが、シリカガラス材が好ましい。ただしこの場合、必ずしも多孔質シリカ基体からなるものに限定されず、例えば透明〜半透明なシリカガラス材も使用できる。
【0083】
なお、角形シリカ容器10内の底面より高い位置に、板材41を配置するには、スペーサー51等を用いることができる。
また、図11に図示したように、溝又は穴を有する板材23を容器底部21に配置し、これと丸形又は角形の貫通孔42が所定間隔で複数形成されている板材41を併用することもできる。
【0084】
このような板材41により、より結晶軸方位や結晶粒の大きさが揃った多結晶シリコンインゴットを製造することが可能となる。
板材41を具備した角形シリカ容器10を用いて多結晶シリコンインゴットの製造を行う際の結晶成長の様子を図16に模式的に示した。見やすさのために、図16には容器底部21の溝又は穴や板材41の貫通孔については図示していない。板材41により、角形シリカ容器10の底部21から成長する多結晶について、結晶成長方向を絞り込むことができるので、より結晶軸方位や結晶粒の大きさが揃った多結晶シリコンインゴットを製造することが可能となる。
このような板材41は、結晶成長方向を絞り込むという意味で、ネッキングプレートと呼ぶことができる。
【0085】
以下では、上記のような角形シリカ容器10を製造することができる、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を製造する方法を、具体的に説明する。
【0086】
(I)第1の態様
本発明に係る角形シリカ容器10の製造方法の一例(第1の態様、湿式法)の概略を図12に示した。
【0087】
まず、図12の(a−1)に示したように、原料粉を作製する。具体的には、第一の原料粉として、粒径0.03〜3.0mmのシリカ粉と、第二の原料粉として粒径0.1〜10μmのシリカ粉を作製する。第一の原料粉と第二の原料粉はそれぞれ、後述する混合スラリーの作製前に作製すればよい。
【0088】
このうち、第一の原料粉は、本発明に係る角形シリカ容器10(図1参照)の多孔質シリカ基体151の主な構成材料となるものである。第一の原料粉としては、低コスト化のため、従来のような高純度シリカ原料粉(高純度水晶粉、高純度石英粉、超高純度合成シリカガラス粉)を使用せず、シリカ純度SiO299.9〜99.999wt.%の比較的低純度のシリカ粉原料を使用することが好ましい。この第一の原料粉は例えば以下のようにして珪石塊を粉砕、整粒することにより作製することができるが、これに限定されない。
【0089】
まず、直径10〜100mm程度の天然珪石塊(天然に産出する水晶、石英、珪石、珪質岩石、オパール石等)を大気雰囲気下、600〜1000℃の温度域にて1〜10時間程度加熱する。次いで該天然珪石塊を水中に投入し、急冷却後取出し、乾燥させる。この処理により、次のクラッシャー等による粉砕、整粒の処理を行いやすくできるが、この加熱急冷処理は行わずに粉砕処理へ進んでもよい。
【0090】
次いで、該天然珪石塊をクラッシャー等により粉砕、整粒し、粒径を0.03〜3mm、好ましくは0.1〜1mmに調整して天然珪石粉を得る。
【0091】
次いで、この天然珪石粉を、傾斜角度を有するシリカガラス製チューブから成るロータリーキルンの中に投入し、キルン内部を塩化水素(HCl)又は、塩素(Cl2)ガス含有雰囲気とし、700〜1100℃にて1〜100時間程度加熱することにより高純度化処理を行う。ただし高純度を必要としない多結晶シリコンインゴット製造用途では、この高純度化処理を行わずに次処理へ進んでもよい。
【0092】
以上のような工程後に得られる第一の原料粉は結晶質のシリカ粉である。コストの点からも、このような天然結晶質シリカ粉を、第一の原料粉とすることが好ましい。
【0093】
第一の原料粉の粒径は、上記のように、0.03〜3mm、好ましくは0.1〜1mmとする。
第一の原料粉のシリカ純度は、99.9wt.%以上とすることが好ましく、99.99wt.%以上とすることがさらに好ましい。特に、Li、Na、Kの各々の濃度を5wt.ppm以下とし、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度を0.1wt.ppm以下とすることが好ましい。また、本発明に係る角形シリカ容器の製造方法であれば、第一の原料粉のシリカ純度を99.999wt.%以下と比較的低純度のものとしても、製造される角形シリカ容器は、シリコン融液や多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる。そのため、従来よりも低コストで多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を製造することができることになる。
【0094】
第一の原料粉としては、粒径が0.03〜3mmであればよく、非晶質溶融天然石英ガラス粉、合成シリカガラス粉等を上記の結晶質シリカ粉に代えて又は混合して使用してもよい。このようなガラス質のシリカ粉であれば、焼成温度を低下させることができる。
【0095】
第二の原料粉は、本発明に係る角形シリカ容器10の多孔質シリカ基体151を第一の原料粉とともに構成する材料となるものである。
【0096】
第二の原料粉として、粒径0.1〜10μm、好ましくは0.2〜5μmのシリカガラス粉、好ましくは球状シリカガラスを作製する。球状シリカガラスの製法には湿式法のゾルゲル法(アルコキシド法)と乾式法の溶融法(溶射法)がある。又は、代わりの材料として四塩化珪素(SiCl4)等のケイ素化合物原料の火炎加水分解法によるシリカガラス微粉体、いわゆるスート粉を作製する。この場合のスート粉の粒径は、上記と同様に0.1〜10μm、好ましくは0.2〜5μmとする。
【0097】
第一の原料粉と同様に、第二の原料粉も高純度であることが好ましい。第二の原料粉のシリカ純度も、99.9wt.%以上とすることが好ましく、99.99wt.%以上とすることがさらに好ましい。特に、Li、Na、Kの各々の濃度を5wt.ppm以下とし、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度を0.1wt.ppm以下とすることが好ましい。上記のゾルゲル法、溶射法により製造したシリカガラス粉や、スート粉であれば、高純度のものを得やすいので好ましい。
【0098】
第二の原料粉を作製した後、後述する混合スラリーを作製する前に、第二の原料粉から、第二の原料粉が集合してなる粒径5〜500μmの顆粒体を作製することができる。このように第二の原料粉を顆粒体とすることで、第二の原料粉の取り扱いが簡便になるので好ましい。
第二の原料粉を顆粒体とするには、例えば以下のような手順により行うことができる。
【0099】
まず、第二の原料粉に、融点200℃以下の有機バインダー、例えばパラフィン系バインダー(融点40〜70℃)又はステアリン酸系バインダー(融点70〜150℃)を重量比率1〜10wt.%好ましくは2〜5wt.%混合し、1〜10/secのせん断速度における粘性値10〜100mPa・Sとなるように純水を加え(水分率として10〜40%程度)、その後20〜30μmに設定されたメッシュフィルターにより異物を除去して顆粒体作製用のスラリー(懸濁液)を作製する。
【0100】
この顆粒体作製用混合スラリーを乾燥させることにより、バインダーコーティングされた顆粒体を作製する。混合スラリーの乾燥方法は特に限定されないが、例えば、噴霧乾燥機(スプレードライヤー)に投入してバインダーが表面にコーティングされている第二の原料粉の顆粒体を作製することができる。このスプレードライヤーは円柱状のホッパー型チャンバーと該チャンバーの上部に設置された顆粒体作製用混合スラリーを噴霧する装置(アトマイザー)と、該チャンバーの横に設置された熱風給気ダクトと該チャンバー下部に設置された顆粒体捕集口からなる。熱風給気ダクトから流出する空気温度は使用するバインダーの融点より高く設定する必要があり、100〜250℃の範囲に設定する。これにより作製される顆粒体は、バインダーが表面にコーティングされた第二の原料粉の集合体であり、粒径5〜500μmの範囲で所定の平均粒径に設定することが可能である。
【0101】
以上のようにして第一の原料粉、第二の原料粉をそれぞれ作製する。本発明では、第一の原料粉、第二の原料粉、及び後述する、第一の原料粉と第二の原料粉と水とを混合した混合スラリーの少なくとも一つにAl元素を添加(ドーピング)する。このことにより、多孔質シリカ基体151にAl元素を含有させることができる。これにより、上記したように、Li、Na、K等のアルカリ金属元素やTi、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Au等の遷移金属元素の多孔質シリカ基体151中の移動、拡散を防止することができ、また、角形シリカ容器10の耐熱変形性を向上させることができる。
【0102】
第一の原料粉及び第二の原料粉の少なくともいずれか一方にAl元素を添加するには、水やアルコールに可溶性のAl化合物溶液に原料粉を浸漬して含浸させ、次いで一定速度で引き上げて乾燥するなどの方法を用いることができる。添加するAlの量は、製造後の角形シリカ容器10の多孔質シリカ基体151中のAl濃度が5〜500wt.ppmとなるようにし、10〜100wt.ppmとなるようにすることが好ましい。
【0103】
次に、図12の(a−2)に示したように、第一の原料粉と、第二の原料粉と、水とを含む混合スラリー131を作製する。第二の原料粉は、上記のように顆粒体の状態で混合させて混合スラリー131とすることもできる。
【0104】
この混合スラリー131の作製は、具体的には下記のように、(1)第一の原料粉と第二の原料粉の混合、(2)混合スラリーの作製、(3)スラリーの均質混合、(4)スラリーの真空脱ガス、等の各サブステップを経て行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0105】
(1)第一の原料粉と第二の原料粉の混合
まず、第一の原料粉を主原料とし、第二の原料粉を、好ましくは5wt.%〜50wt.%、より好ましくは10〜30wt.%の範囲で均一に混合する。ここでの原料粉の混合比率により、混合スラリー131を作製する際の第一の原料粉と第二の原料粉との配合比が決まる。製造コストを低減させる目的からは、なるべく第一の原料粉の第二の原料粉に対する比率を高くする必要がある。第二の原料粉の混合比率が5wt.%以上であれば、成形、焼成後の多孔質シリカ基体151の空隙が少なくなり、密度が十分に高く、その結果多孔質シリカ基体151の寸法精度や耐熱性を向上させることができる。また、第二の原料粉の混合比率が50wt.%以下であれば、成形、焼成後の多孔質シリカ基体151の空隙を十分確保でき、離型性をより高めることができる。混合手法としては、比較的量が少ない場合、V型ミキサーを用いることもできるが、この手法に限定されるわけではない。
【0106】
(2)スラリー(混合水溶液)の作製
上記で作製した第一の原料粉と第二の原料粉との混合粉を、主原料として95〜80wt.%、純水を5〜20wt.%として混合スラリー131とする。角形シリカ容器10作製中の不純物汚染には注意が必要であり、多孔質シリカ基体151中のLi、Na、Kの各濃度が5wt.ppm以下となるように混合スラリー131を作製することが好ましく、1wt.ppm以下とすることがさらに好ましい。
【0107】
本発明では、上記のように第一の原料粉、第二の原料粉、及び混合スラリー131の少なくとも一つにAl元素を添加する。混合スラリー131にAl元素を含有させるためには、水やアルコールに可溶性のAl化合物、例えば、微量の硝酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、塩化アルミニウムのいずれかを、純水やアルコールに溶解混合することなどによって行うことができる。添加するAlの量は、製造後の角形シリカ容器10の多孔質シリカ基体151中のAl濃度が5〜500wt.ppmとなるようにし、10〜100wt.ppmとなるようにすることが好ましい。
【0108】
なお、混合スラリーとした状態でAl元素を添加する代わりに、混合スラリー131を作製する前に、混合する前の水にAl元素を添加することにより、混合スラリー131にAl元素を添加してもよい。
【0109】
また、この混合スラリー131には、さらに必要に応じて分散剤(例えばポリアクリル酸塩)、消泡剤(例えばポリエチレングリコール)、潤滑剤(例えばステアリン酸、ワックス)、結合剤(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリステレンアクリル系レジン、パラフィン系ワックス、エポキシレジン、メチルセルロース、エチルセルロース)等を適量混合することができる。
【0110】
(3)スラリーの均質混合
円筒状シリカガラス容器及びシリカガラスボールから成るボールミルの中に混合スラリー131を投入し1〜2時間混合する。作製された混合スラリー131の密度(比重)は1.6〜2.1g/cm3好ましくは1.7〜2.0g/cm3とし、粘性度は1〜10/secのせん断速度において300〜3000mPa・secとすることが好ましい。
【0111】
(4)スラリーの真空脱ガス
シリカガラスチャンバー内に混合スラリー131を設置し、室温下にて104Pa以下の真空度で5〜30分間真空脱ガス処理を行う。ただし、この処理は製造された角形シリカ容器の用途によっては行わない場合もある。
【0112】
このようにして混合スラリー131を作製した後、図12の(a−3)に示したように、混合スラリー131を角形形状とする角形型枠内に導入する。
【0113】
次に、図12の(a−4)に示したように、混合スラリーを角形型枠内で脱水及び乾燥し、多孔質シリカ基体の仮成形体141を作製する(仮成形工程)。具体的には、角形型枠内に入った混合スラリー131をクリーンオーブン内に入れ、室温から5〜20℃/時で昇温後、50〜200℃にて10〜100時間保持して、水分を蒸発させ乾燥させる(鋳込み成形)。このときの型としては、石膏等の多孔質セラミック製型や多孔質プラスチック製型を用いることができる。
【0114】
このとき、仮成形体141の底部の内表面部分に溝又は穴を所定間隔で複数有するように形成する。この溝又は穴の形成は、例えば、型の形状自体を溝又は穴を形成するように構成することによって行うことができる。また、いったん仮成形体141を作製してから、その後、溝又は穴を形成してもよい。
【0115】
このようにして多孔質シリカ基体の仮成形体141を作製した後、焼成して多孔質シリカ基体151とする(焼成工程)のであるが、本発明では、多孔質シリカ基体151の内表面部分の少なくとも一部に、多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤を含有させる。この離型促進剤の含有は、仮成形工程の後に、離型促進剤を仮成形体141の内表面の少なくとも一部に塗布し、乾燥させて、仮成形体141の内表面部分の少なくとも一部に離型促進剤を添加することにより行うこともできるし、後述するように、焼成工程の後に、離型促進剤を多孔質シリカ基体151の内表面の少なくとも一部に塗布することにより行うこともできる。離型促進剤の含有の具体的な方法は後述する。
【0116】
仮成形工程の後、図12の(a−5)に示したように、多孔質シリカ基体の仮成形体141を、焼成して多孔質シリカ基体151とする(焼成工程)。この焼成工程の焼成条件は、不活性ガスを主成分とし、O2ガスを含有する雰囲気にて、1200〜1500℃の温度で行う。
【0117】
具体的には、角形型枠から取り外した仮成形体141を、例えば高純度アルミナボードを保温材とし、二珪化モリブデンをヒーターとする電気抵抗加熱炉内に設置する。次いで、N2(窒素)ガス、He(ヘリウム)ガス、Ar(アルゴン)ガス等の不活性ガスを主成分とするO2(酸素)ガス含有雰囲気にて、室温から1000℃に至るまで50℃/時〜500℃/時にて昇温し、仮成形体141に含まれているバインダー等の有機物質を酸化、燃焼、除去する。次いで1000℃から1200〜1500℃に至るまでに、20℃/時〜200℃/時にて昇温し、引き続き1200〜1500℃好ましくは1250〜1350℃の範囲の所定温度にて、1〜10時間保持し、仮成形体141中の第一の原料粉と、第二の原料粉を焼結させる。コストの点ではN2ガスを不活性ガスとするのが最も好ましい。
【0118】
焼成工程におけるO2ガス含有量は、各種有機バインダーを酸化除去する目的から1〜30vol.%が好ましい。O2ガス含有量が1vol.%以上であれば、有機バインダーの除去をより効果的に行うことができる。また、O2ガス含有量が30vol.%以下であれば、有機バインダー除去に十分であり、ヒーター材の消耗を低減したり、焼成のためのガスのコストも抑制することができ、工業上好ましい。
【0119】
以上のようにして、多孔質シリカ基体151を製造するのであるが、上記のように、本発明では、多孔質シリカ基体151の内表面部分の少なくとも一部に、多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤を含有させる。
【0120】
離型促進剤を含有させる具体的な方法として、まず、仮成形工程の後に、仮成形体141の内表面の少なくとも一部に塗布し、乾燥させて、仮成形体141の内表面部分の少なくとも一部に離型促進剤を添加することにより離型促進剤を含有させる具体的な方法を例示して説明する。
【0121】
例えば再結晶タイプのCa、Sr、Ba等のアルカリ土類金属元素の場合、水又はアルコールに溶解するこれら元素化合物である塩化物、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩等を選出し、仮成形体141の内表面からスプレー方式、エアーブラシ方式、ローラー方式、又は刷毛塗り方式等により、塗布、乾燥させることにより添加処理を行う。離型促進剤が添加処理された仮成形体141は、焼成工程にて、不活性ガスを主成分とするO2ガス含有雰囲気にて、1200〜1500℃で焼成されることになる。焼成工程によりこれら離型促進剤は容器内表面の少なくとも2mm厚に含有されることになる。含有濃度としてはCa、Sr、Baのアルカリ土類金属元素の合計値として50〜5000wt.ppmとすることが好ましく、100〜1000wt.ppmとすることがさらに好ましい。
【0122】
離型促進剤を含有させる具体的な別の方法として、焼成工程の後に、離型促進剤を多孔質シリカ基体151の内表面の少なくとも一部に塗布することにより行う方法を説明する。
【0123】
上記の仮成形工程後の塗布による離型促進剤の添加の方法の代わりに、又はそれに加えて、焼成工程の後に、離型促進剤を多孔質シリカ基体151の内表面の少なくとも一部に塗布(コーティング)することにより離型促進剤を含有させることができる。Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属元素の少なくとも1種以上の化合物混合溶液を焼成後の多孔質シリカ基体151の内表面上にスプレー方式、エアーブラシ方式等により塗布、乾燥させることにより、塗布処理を行う。塗布濃度としては、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属元素合計値として50〜5000μg/cm2とすることが好ましく、100〜1000μg/cm2とすることがさらに好ましい。
【0124】
OH基濃度の調整は、第一の原料粉の種類の選定、乾燥工程や焼結工程の雰囲気、温度、時間条件を変化させることによって行い、多孔質シリカ基体151に5〜500wt.ppmになるようにする。さらに、30〜300wt.ppmの範囲が好ましい。
【0125】
(II)第2の態様
本発明に係る角形シリカ容器10の製造方法の別の一例(第2の態様、乾式法)の概略を図13に示した。
【0126】
まず、図13の(b−1)に示したように、原料粉を作製する。具体的には、第一の原料粉として、粒径0.03〜3.0mmのシリカ粉と、第二の原料粉として粒径0.1〜10μmのシリカ粉を作製する。これらの原料粉は、第1の態様の際と同様にして作製することができる。
【0127】
第二の原料粉を作製した後、後述する混合粉を作製する前に、第二の原料粉から、第二の原料粉が集合してなる粒径5〜500μmの顆粒体を作製することができることも、第1の態様と同様である。このように第二の原料粉を顆粒体とすることで、第二の原料粉の取り扱いが簡便になるので好ましい。
【0128】
この実施態様(第2の態様)においては、第一の原料粉、第二の原料粉、及び後述する、第一の原料粉と第二の原料粉と有機バインダーとを混合した混合粉231の少なくとも一つにAl元素を添加(ドーピング)する。このことにより、多孔質シリカ基体151にAl元素を含有させることができる。これにより、上記したように、Li、Na、K等のアルカリ金属元素やTi、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Au等の遷移金属元素の多孔質シリカ基体151中の移動、拡散を防止することができ、また、角形シリカ容器10の耐熱変形性を向上させることができる。
【0129】
第一の原料粉及び第二の原料粉の少なくともいずれか一方にAl元素を添加するには、水やアルコールに可溶性のAl化合物溶液に原料粉を浸漬して含浸させ、次いで一定速度で引き上げて乾燥するなどの方法を用いることができる。添加するAlの量は、製造後の角形シリカ容器10の多孔質シリカ基体151中のAl濃度が5〜500wt.ppmとなるようにし、10〜100wt.ppmとなるようにすることが好ましい。
【0130】
次に、図13の(b−2)に示したように、第一の原料粉と、第二の原料粉と、有機バインダーとを混合させ、混合粉231を作製する。第二の原料粉は、上記のように顆粒体の状態で混合させて混合粉231とすることもできる。
【0131】
この混合は、有機バインダーを除いた比率として、第一の原料粉を主原料とし、第二の原料粉を、好ましくは5wt.%〜50wt.%、より好ましくは10〜30wt.%の範囲で均一に混合する。混合粉231中の有機バインダーの比率は重量比率1〜10wt.%とすることが好ましい。
【0132】
製造コストを低減させる目的からは、なるべく第一の原料粉の第二の原料粉に対する比率を高くする必要がある。第二の原料粉の混合比率が5wt.%以上であれば、成形、焼成後の多孔質シリカ基体151の空隙が少なくなり、密度が十分に高く、その結果多孔質シリカ基体151の寸法精度や耐熱性を向上させることができる。また、第二の原料粉の混合比率が50wt.%以下であれば、成形、焼成後の多孔質シリカ基体151の空隙を十分確保でき、離型性をより高めることができる。混合手法としては、比較的量が少ない場合、V型ミキサーを用いることもできるが、この手法に限定されるわけではない。
【0133】
上記のように、第一の原料粉及び第二の原料粉の少なくともいずれかにAl元素を添加する代わりに、又はそれに加えて、混合粉231に対してAl元素を添加してもよい。この場合、水やアルコールに可溶性のAl化合物溶液に混合粉231を浸漬して含浸させ、次いで一定速度で引き上げて乾燥するなどの方法を用いることができる。添加するAlの量は、製造後の角形シリカ容器10の多孔質シリカ基体151中のAl濃度が5〜500wt.ppmとなるようにし、10〜100wt.ppmとなるようにすることが好ましい。
【0134】
次に、図13の(b−3)、(b−4)に示したように、混合粉231を角形型枠内に導入し、50〜200℃に加熱して有機バインダーを溶融することにより、多孔質シリカ基体の仮成形体241を作製する。
【0135】
具体的には、まず、混合粉231を角形型枠内へ導入し、内壁部の形状に合わせて所定の形状に形成する。次いで、角形型枠内の混合粉231を加圧(プレス)し、0.1〜1MPaの所定の圧力に調整しつつ、混合粉231の温度が50〜200℃の所定の温度に達するまで昇温し、ある程度圧密してバインダーが溶着するまで保持する。次いで室温まで放冷し原料の多孔質シリカ基体の仮成形体241を得る。
【0136】
このとき、仮成形体241の底部の内表面部分に溝又は穴を所定間隔で複数有するように形成する。この溝又は穴の形成は、例えば、型の形状自体を溝又は穴を形成するように構成することによって行うことができる。また、いったん仮成形体241を作製してから、その後、溝又は穴を形成してもよい。
【0137】
このようにして多孔質シリカ基体の仮成形体241を作製した後、焼成して多孔質シリカ基体151とする(焼成工程)のであるが、本発明では、多孔質シリカ基体151の内表面部分の少なくとも一部に、多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤を含有させる。この離型促進剤の含有は、この実施態様においても上記の第1の態様と同様に、仮成形工程の後に、仮成形体241の内表面の少なくとも一部に塗布し、乾燥させて、仮成形体241の内表面部分の少なくとも一部に離型促進剤を添加することにより行うこともできるし、後述するように、焼成工程の後に、離型促進剤を多孔質シリカ基体151の内表面の少なくとも一部に塗布することにより行うこともできる。
【0138】
次に、図13の(b−5)に示したように、多孔質シリカ基体の仮成形体を、不活性ガスを主成分とし、O2ガスを含有する雰囲気にて、1200〜1500℃の温度で焼成し、多孔質シリカ基体とする(焼成工程)。
この工程は、上記した第1の態様の焼成工程と同様にして行うことができる。
【0139】
以上のようにして、多孔質シリカ基体151を製造するのであるが、第1の態様と同様に、離型促進剤の含有を、焼成工程の後に、離型促進剤を多孔質シリカ基体151の内表面の少なくとも一部に塗布することにより行うこともできる。
【0140】
このように構成された、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を用いて多結晶シリコンインゴットの製造を行う方法の一例を説明する。
まず、本発明に係る角形シリカ容器に原料である溶融シリコンを投入する。次に、溶融シリコンを加熱保温し所定温度の融液とする。
【0141】
次に、角形シリカ容器の底部から冷却を進め、シリコンの結晶を成長させる。このときの容器底部における結晶成長の様子を、図15を参照して説明する。
【0142】
図15(a)には、本発明に係る角形シリカ容器の溝又は穴のように、その斜面が鉛直方向に対してなす角度(交差角度θ)が15〜60°の範囲である場合を模式的に図示した。この場合、容器底部からの冷却初期には、溝又は穴の最深部が、溝又は穴の形状から最も冷却されやすくなっている。そのため、まず、この溝又は穴の最深部に、固体である種結晶301が形成される。図15(a)のように交差角度θが15〜60°の範囲である場合には、種結晶301から複数の結晶が成長しても、成長過程で単結晶化(多結晶シリコンインゴット全体では多結晶となる)しやすい。この現象は、溝又は穴に垂直壁も存在する場合にはより顕著である。
【0143】
一方、図15(b)に模式的に図示したように、交差角度θが15°より小さい場合、種結晶301から複数の結晶が成長し、そのまま拡大して結晶粒の小さい多結晶体となってしまう。
【0144】
シリコンを凝固して多結晶シリコンインゴットを製造した後、角形シリカ容器から多結晶シリコンインゴットを取り出す。本発明では、かさ密度の制御及び離型促進剤の含有により、多結晶シリコンインゴットの角形シリカ容器との融着を抑制することができるので、多結晶シリコンインゴットを取り出し易く、また、破損を防止することができる。
その後、取り出した多結晶シリコンインゴットを所定の厚さにスライスして、多結晶シリコン基板とする。
【実施例】
【0145】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
図12に示した本発明に係る角形シリカ容器の製造方法(第1の態様)に従い、角形シリカ容器を以下のように製造した。
【0146】
まず、第一の原料粉を以下のように作製した。
天然珪石を50kg準備し、大気雰囲気下で、1000℃、10時間の条件で加熱後、純水の入った水槽へ投入し、急冷却した。これを乾燥後、クラッシャーを用いて粉砕し、粒径0.03〜3.0mm、シリカ(SiO2)純度99.99wt.%、総重量40kgのシリカ粉(天然珪石粉)とした。
【0147】
また、以下のように、第二の原料粉を作製し、これを顆粒体の状態とした。
【0148】
第二の原料粉として、溶融法によって球状非晶質シリカ粉を作製した。粒径0.2〜5μm、重量10kgとした。
【0149】
このようにして作製した第二の原料粉を、以下のようにしてバインダーコーティングされた顆粒体とした。第二の原料粉の10kgに対して、パラフィン系バインダー(融点55℃)50g、ステアリン酸系バインダー(融点100℃)50g、純水2.5kgを混合して、顆粒体形成用混合スラリーを作製した。この混合スラリーを、スプレードライヤーにより乾燥させ、バインダーコーティングされた顆粒体を作製した。このバインダーコーティングされた第二の原料粉の顆粒体の、顆粒径は10〜100μmであり、平均は50μmであった。
【0150】
次に、V型混合器を使用し、第一の原料粉80wt.%に対して顆粒体状の第二の原料粉を20wt.%を均一に乾式混合した。
【0151】
この第一の原料粉と顆粒体状の第二の原料粉の混合粉90重量部に対して純水10重量部、そして塩化アルミニウムAlCl3、分散剤(ポリアクリル酸アンモニウム)を少量混合してスラリー状とした。次に、円筒型シリカガラス製容器、及びシリカガラスボールから成るボールミルにて1時間、このスラリーを均一混合した。この均一混合したスラリーに、密度が1.8〜1.9g/cm3、1〜10/secのせん断速度にて粘度が約500〜1000mPa・secになるように、純水を適量加えて調整した。次に、このスラリーを容器に入れ、シリカガラスチャンバー内に設置し、室温にて104Paの真空にて3分間真空脱ガス処理を行った。このようにして混合スラリー131とした。
【0152】
次に、鋳込み成形後の基体の仮成形体の底部の内表面部分に複数のV形溝を形成可能な石膏製の型の中に混合スラリー131を導入して鋳込み成形を行った。
ここで形成したV型溝の寸法は幅10mm×長さ350mm、側面と鉛直方向との角度は45°、間隔は20mmとした(図1と類似の配置)。
【0153】
次に、角形型枠内へ導入した混合スラリー131をクリーンオーブン中にて100℃で10時間保持し、その後室温まで冷却し、多孔質シリカ基体の仮成形体141を作製した。
【0154】
次に、多孔質シリカ基体の仮成形体141の内表面部全体に塩化バリウム溶液をスプレー方式により塗布した。
【0155】
次に、二珪化モリブデンヒータを具備する、炉内寸法1m×1m×1mの高純度アルミナボードの耐熱材からなる電気抵抗加熱炉内に多孔質シリカ基体の仮成形体141を設置した。そして、酸素20vol.%、窒素80vol.%の雰囲気下にて、室温から1000℃まで200℃/時間の昇温速度で約5時間かけて昇温、1350℃まで100℃/時間の昇温速度で昇温した後、1350℃にて1時間保持した。このようにして、多孔質シリカ基体の仮成形体141を焼成して多孔質シリカ基体151とし、角形シリカ容器10を製造した。
【0156】
なお、多孔質シリカ基体151の寸法は、内寸が幅400mm×奥行き400mm×高さ400mmとなるようにし、底部の厚さは溝を形成していない箇所の厚さ20mm、側壁部の厚さ15mmとなるようにした。
【0157】
(実施例2)
実施例1と同様に角形シリカ容器の製造を行った。ただし、鋳込み成形後の基体の仮成形体の底部の内表面部分に複数の円錐形の穴を形成可能な石膏製の型の中に混合スラリー131を導入して鋳込み成形を行った。ここで形成した円錐形の穴の寸法は直径15mm、側面と鉛直方向との角度は45°、間隔は20mmとした(図3と類似の配置)。また、実施例1と比べて、多孔質シリカ基体151に含有させるAl元素濃度を5倍程度とするとともに、多孔質シリカ基体の仮成形体141の内表面部全体に塗布する塩化バリウムの濃度を10倍程度とした。
【0158】
(実施例3)
図13に示した本発明に係る角形シリカ容器の製造方法(第2の態様)に従い、角形シリカ容器を以下のように製造した。
【0159】
まず、第一の原料粉及び第二の原料粉を、実施例1の際と同様にして作製した。また、第二の原料粉を実施例1の際と同様にして顆粒体とした。
【0160】
次に、V型混合器を使用し、第一の原料粉80wt.%に対して顆粒体状の第二の原料粉を20wt.%を均一に乾式混合した。
【0161】
この第一の原料粉と顆粒体状の第二の原料粉の混合粉の中に塩化アルミニウムAlCl3、有機バインダーを少量混合して混合粉231とした。
【0162】
次に、基体の仮成形体の底部の内表面部分に複数のV形溝を形成可能な角形型枠内へ混合粉231を導入した。ここで形成したV型溝の寸法、間隔は、実施例1と同様に幅10mm×長さ350mm、角度45°、そして20mm間隔とした。
【0163】
次に、角形型枠内へ導入した混合粉231をクリーンオーブン中にて100℃で10時間保持し、その後室温まで冷却し、多孔質シリカ基体の仮成形体241を作製した。
【0164】
次に、多孔質シリカ基体の仮成形体241の内表面部全体に塩化バリウム溶液をスプレー方式により塗布した。
【0165】
次に、二珪化モリブデンヒータを具備する、炉内寸法1m×1m×1mの高純度アルミナボードの耐熱材からなる電気抵抗加熱炉内に多孔質シリカ基体の仮成形体241を設置した。そして、酸素20vol.%、窒素80vol.%の雰囲気下にて、室温から1000℃まで200℃/時間の昇温速度で約5時間かけて昇温、1350℃まで100℃/時間の昇温速度で昇温した後、1350℃にて1時間保持した。このようにして、多孔質シリカ基体の仮成形体241を焼成して多孔質シリカ基体151とし、角形シリカ容器10を製造した。
【0166】
なお、多孔質シリカ基体151の寸法は、内寸が幅400mm×奥行き400mm×高さ400mmとなるようにし、底部の厚さは溝を形成していない箇所の厚さ20mm、側壁部の厚さ15mmとなるようにした。
【0167】
(実施例4)
実施例3と同様に角形シリカ容器の製造を行った。ただし、基体の仮成形体の底部の内表面部分に複数の円錐形の穴を形成可能な角形型枠を用いて、基体の仮成形を行った。ここで形成した円錐形の穴の寸法、間隔は、実施例2と同様に直径15mm、角度45°、そして20mm間隔とした。また、実施例3と比べて、多孔質シリカ基体151に含有させるAl元素濃度を5倍程度とするとともに、多孔質シリカ基体の仮成形体241の内表面部全体に塗布する塩化バリウムの濃度を10倍程度とした。
【0168】
(実施例5)
第一の原料粉と第二の原料粉の混合比を85:15とし、溝を形成しない形状の石膏製の型を用いて鋳込み成形を行った他は、実施例1と同様の工程を経て、多孔質シリカ基体151を得た。このとき、実施例1と比べて、多孔質シリカ基体151に含有させるAl元素濃度を半分程度とするとともに、多孔質シリカ基体の仮成形体141の内表面部全体に塗布する塩化バリウムの濃度を3倍を超える程度とした。
さらに、図10に示したような溝又は穴が表面に形成された板材23を用意し、多孔質シリカ基体151の底部に配置して角形シリカ容器10とした。
【0169】
(実施例6)
第一の原料粉と第二の原料粉の混合比を85:15とした他は、実施例1と同様の工程を経て、多孔質シリカ基体151を得た。ただし、実施例1と比べて、多孔質シリカ基体151に含有させるAl元素濃度を5倍程度とするとともに、多孔質シリカ基体の仮成形体141の内表面部全体に塗布する塩化バリウムの濃度を3倍を超える程度とした。さらに、図11に示したような丸形又は角形の貫通孔42が所定間隔で複数形成されている板材41を用意し、多孔質シリカ基体151内の底面より高い位置に配置して角形シリカ容器10とした。
【0170】
(比較例1)
実施例1と同様に、ただし、第一の原料粉をシリカ純度99.9999wt.%の高純度天然水晶粉とし、Al添加をせず、多孔質シリカ基体の内表面部分に離型促進剤を含有させず、また、底部に溝を形成することなく、角形シリカ容器を製造した。
【0171】
(比較例2)
実施例3と同様に、ただし、第一の原料粉をシリカ純度99.9999wt.%の高純度天然水晶粉とし、Al添加をせず、多孔質シリカ基体の内表面部分に離型促進剤を含有させず、また、底部に溝を形成することなく、角形シリカ容器を製造した。
【0172】
(比較例3)
基本的には実施例1と同様に角形シリカ容器を製造したが、以下の点を変更した。まず、第一の原料粉と第二の原料粉の混合比を60:40とした。また、Al添加をせず、また、底部に溝を形成しなかった。また、多孔質シリカ基体の仮成形体の焼成温度(保持する最高温度)を1400℃とした。
【0173】
(比較例4)
基本的には実施例3と同様に角形シリカ容器を製造したが、以下の点を変更した。まず、第一の原料粉と第二の原料粉の混合比を60:40とした。また、Al添加をせず、また、底部に溝を形成しなかった。また、多孔質シリカ基体の仮成形体の焼成温度(保持する最高温度)を1400℃とした。
【0174】
[実施例及び比較例における評価方法]
各実施例及び比較例において用いた原料粉及び製造した角形シリカ容器の物性、特性評価を以下のようにして行った。
かさ密度の測定方法:
角形シリカ容器側壁から50mm×50mm×15mmの板状サンプルを切り出し、該サンプルの重量(g)を測定した。
次いで、純水の入った水槽中に該サンプルを浸漬させて、該サンプルの重量減を測定することにより、該サンプルの体積(cm3)を求めた。これらの2つの数値からかさ密度(g/cm3)を計算した。
【0175】
各原料粉の粒径測定方法:
光学顕微鏡又は電子顕微鏡で各原料粉の二次元的形状観察及び面積測定を行った。次いで、粒子の形状を真円と仮定し、その面積値から直径を計算して求めた。この手法を統計的に繰り返し行い、粒径の範囲の値とした(この範囲の中に99wt.%以上の原料粉が含まれる)。
【0176】
金属元素濃度分析:
所定の位置からシリカサンプル片を切り出し、フッ化水素酸水溶液で溶解させるサンプル調整を行った。特に離型促進剤の濃度分析においては、角形シリカ容器の内表層部分から20mm×20mm×2mmのサンプルを複数枚切り出し、分析用シリカサンプル片とした。含有金属元素濃度が比較的低い場合は、プラズマ発光分析法(ICP−AES、Inductively Coupled Plasma − Atomic Emission Spectroscopy)又はプラズマ質量分析法(ICP−MS、Inductively Coupled Plasma − Mass Spectroscopy)で行い、含有金属元素濃度が比較的高い場合は、原子吸光光度法(AAS、Atomic Absorption Spectroscopy)で行った。
【0177】
OH基濃度測定:
多孔質シリカ基体から粒径10〜100μmの粉状サンプルを作製し、赤外線拡散反射分光光度法で行った。OH基濃度への換算は、以下文献に従う。
Dodd,D.M. and Fraser,D.B.(1966) Optical determination of OH in fused silica. Journal of Applied Physics, vol.37, P.3911.
【0178】
角形シリカ容器から多結晶シリコンインゴットへの不純物拡散防止効果:
角形シリカ容器の中へSi純度99.9999999wt.%の高純度シリコン溶融体を投入し、室温まで冷却して寸法400mm×400mm×300mmの多結晶シリコンインゴットを作製した。次いで、該インゴットの表面から5mm深さの位置でシリコン片のサンプリングを行い、これを酸性溶液処理することにより溶液状サンプルとした後、ICP−AESにて、Na濃度分析を行った。Na濃度値によって、角形シリカ容器から多結晶シリコンインゴットへの不純物拡散防止効果を評価した。
不純物拡散防止効果大 ○(Naの濃度が10wt.ppb未満)
不純物拡散防止効果中 △(Naの濃度が10wt.ppb以上100wt.ppb未満)
不純物拡散防止効果小 ×(Naの濃度が100wt.ppb以上)
【0179】
離型性評価:
前記同様に多結晶シリコンインゴットを作製し、次いで角形シリカ容器の4カ所の側壁角部及び4カ所の側壁と底部の角部をカッターにて切断し、該インゴットから角形シリカ容器の4つの側壁及び底板を剥がし取った。該インゴット表面に残存する凹凸やクラック等が、角形シリカ容器の内表面と接触した位置から内部方向にどのくらいの深さまであるのかをスケールにより測定することで離型性の評価を行った。
離型性良好 ○(深さ2mm未満)
離型性中程度 △(深さ2mm以上5mm未満)
離型性悪い ×(深さ5mm以上)
【0180】
多結晶シリコンインゴットの品質評価:
前記作製した多結晶シリコンインゴットをスライスし、断面を観察した。
結晶粒の大きさ、結晶成長方向の均一性の観点から、従来と比較して(比較例1が基準)、評価した。
品質良好 ○(結晶粒寸法5〜50mmが全体の70%以上を占め、成長結晶の結晶方位が一定方向に整っている)
品質中程度 △(結晶粒寸法5〜50mmが全体の30〜70%程度であり、成長結晶の結晶方位の整いが中間レベルである)
品質悪い ×(従来と同程度)
【0181】
製造コスト(相対的)評価:
角形シリカ容器の製造コストを調べた。
基準を比較例1とし、特にシリカ原料粉コスト、粉体成形コスト、成形体の焼成コスト等の合計値を相対的に評価した。
コストが低い ○(50%以下)
コストが中程度 △(50〜90%程度)
コストが大きい ×(比較例1を100%とする)
【0182】
実施例1〜6、比較例1〜4で製造したそれぞれの角形シリカ容器の製造条件と、測定した物性値、評価結果をまとめ、下記の表1〜6に示す。表6は各実施例、比較例の多孔質シリカ基体の不純物遷移金属元素濃度を示したものである。
【0183】
【表1】
【0184】
【表2】
【0185】
【表3】
【0186】
【表4】
【0187】
【表5】
【0188】
【表6】
【0189】
表1〜6からわかるように、本発明に係るシリカ容器の製造方法に従った実施例1〜6では、離型性に優れた多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を、低コストで製造することができた。また、実施例1〜6では、結晶粒の大きさ及び結晶軸方位が揃った多結晶シリコンインゴットを製造することができた。
【0190】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0191】
10…本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器、
11…角形シリカ容器の側壁部、
21…角形シリカ容器の底部、 22…角形シリカ容器の底部の内表面、
23…溝又は穴が形成された板材、
31…溝又は穴、 31a…溝、 31b…角錐形の穴、
31c、31d…円錐形の穴、 32…斜面、 33…垂直壁、 34…平底、
41…貫通孔の形成された板材、 42…貫通孔、 51…スペーサー、
131…混合スラリー、 141…仮成形体、 151…多孔質シリカ基体、
231…混合粉、 241…仮成形体、
301…種結晶。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン融液を収容した後凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形シリカ容器であって、
該角形シリカ容器は、少なくとも多孔質シリカ基体からなるものであり、
前記多孔質シリカ基体は、かさ密度が1.80〜2.10g/cm3であり、Al濃度が5〜500wt.ppmであり、OH基濃度が5〜500wt.ppmであり、
前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、前記多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤が含有されているものであり、
前記角形シリカ容器の底部の内表面部分には、溝又は穴を所定間隔で複数有しており、
前記溝又は穴の側面の少なくとも一部が、鉛直方向に対して15〜60°の角度をなす斜面で形成されていることを特徴とする多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項2】
前記溝又は穴の形状が、溝の場合はV形であり、穴の場合は円錐形又は角錐形であることを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項3】
前記溝又は穴の側面には、一部鉛直方向に沿う垂直壁が存在することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項4】
前記溝又は穴の開口部の寸法が、溝の場合は幅が5〜20mmであり、穴の場合は最小長さが5〜20mmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項5】
前記底部の内表面部分の溝又は穴は、底部に配置された板材の表面に形成された溝又は穴であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項6】
前記角形シリカ容器内の底面より高い位置に、丸形又は角形の貫通孔が所定間隔で複数形成されている板材が配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項7】
前記離型促進剤としてCa、Sr、Baのいずれか1以上が、前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、該内表面から深さ2mmまでにおいて、各元素の合計値として50〜5000wt.ppmの濃度で添加されているものであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項8】
前記離型促進剤としてCa、Sr、Baのいずれか1以上が、前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、各元素の合計値として50〜5000μg/cm2の濃度で塗布されているものであることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項9】
前記多孔質シリカ基体に含有されているLi、Na、Kの各々の濃度が5wt.ppm以下であり、前記多孔質シリカ基体に含有されているTi、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度が0.1wt.ppm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項10】
シリコン融液を収容した後凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形シリカ容器を製造する方法であって、少なくとも、
第一の原料粉として、粒径0.03〜3.0mmのシリカ粉を作製する工程と、
第二の原料粉として粒径0.1〜10μmのシリカ粉を作製する工程と、
前記第一の原料粉と、前記第二の原料粉と、水とを含む混合スラリーを作製する工程と、
前記混合スラリーを、型枠内で脱水及び乾燥し、底部の内表面部分に溝又は穴を所定間隔で複数有する多孔質シリカ基体の仮成形体を作製する仮成形工程と、
前記多孔質シリカ基体の仮成形体を、不活性ガスを主成分とし、O2ガスを含有する雰囲気にて、1200〜1500℃の温度で焼成し、多孔質シリカ基体からなる角形シリカ容器とする焼成工程と
を含み、
前記第一の原料粉、前記第二の原料粉、及び前記混合スラリーの少なくとも一つにAl元素を添加することにより、前記多孔質シリカ基体にAl元素を含有させ、
前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、前記多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤を含有させることを特徴とする多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法。
【請求項11】
シリコン融液を収容した後凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形シリカ容器を製造する方法であって、
第一の原料粉として、粒径0.03〜3.0mmのシリカ粉を作製する工程と、
第二の原料粉として粒径0.1〜10μmのシリカ粉を作製する工程と、
前記第一の原料粉と前記第二の原料粉と有機バインダーとを混合させ、混合粉を作製する工程と、
前記混合粉を型枠内に導入し、50〜200℃に加熱して前記有機バインダーを溶融することにより、底部の内表面部分に溝又は穴を所定間隔で複数有する多孔質シリカ基体の仮成形体を作製する仮成形工程と、
前記多孔質シリカ基体の仮成形体を、不活性ガスを主成分とし、O2ガスを含有する雰囲気にて、1200〜1500℃の温度で焼成し、多孔質シリカ基体からなる角形シリカ容器とする焼成工程と
を含み、
前記第一の原料粉、前記第二の原料粉、及び前記混合粉の少なくとも一つにAl元素を添加することにより、前記多孔質シリカ基体にAl元素を含有させ、
前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、前記多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤を含有させることを特徴とする多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法。
【請求項12】
前記離型促進剤の含有を、前記仮成形工程の後に、前記仮成形体の内表面の少なくとも一部に塗布し、乾燥させて、前記仮成形体の内表面部分の少なくとも一部に前記離型促進剤を添加することにより、及び/又は、前記焼成工程の後に、前記離型促進剤を前記多孔質シリカ基体の内表面の少なくとも一部に塗布することにより、行うことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法。
【請求項13】
前記離型促進剤をCa、Sr、Baのいずれか1以上とすることを特徴とする請求項10ないし請求項12のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法。
【請求項14】
前記混合スラリー又は前記混合粉を作製する前に、前記第二の原料粉から、前記第二の原料粉が集合してなる粒径5〜500μmの顆粒体を作製し、該第二の原料粉の顆粒体を用いて前記混合スラリー又は前記混合粉を作製することを特徴とする請求項10ないし請求項13のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法。
【請求項15】
前記焼成工程において、前記不活性ガスを、N2ガス、Heガス、Arガスの少なくとも一種以上とし、O2ガスの含有量を1〜30vol.%とすることを特徴とする請求項10ないし請求項14のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法。
【請求項1】
シリコン融液を収容した後凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形シリカ容器であって、
該角形シリカ容器は、少なくとも多孔質シリカ基体からなるものであり、
前記多孔質シリカ基体は、かさ密度が1.80〜2.10g/cm3であり、Al濃度が5〜500wt.ppmであり、OH基濃度が5〜500wt.ppmであり、
前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、前記多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤が含有されているものであり、
前記角形シリカ容器の底部の内表面部分には、溝又は穴を所定間隔で複数有しており、
前記溝又は穴の側面の少なくとも一部が、鉛直方向に対して15〜60°の角度をなす斜面で形成されていることを特徴とする多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項2】
前記溝又は穴の形状が、溝の場合はV形であり、穴の場合は円錐形又は角錐形であることを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項3】
前記溝又は穴の側面には、一部鉛直方向に沿う垂直壁が存在することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項4】
前記溝又は穴の開口部の寸法が、溝の場合は幅が5〜20mmであり、穴の場合は最小長さが5〜20mmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項5】
前記底部の内表面部分の溝又は穴は、底部に配置された板材の表面に形成された溝又は穴であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項6】
前記角形シリカ容器内の底面より高い位置に、丸形又は角形の貫通孔が所定間隔で複数形成されている板材が配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項7】
前記離型促進剤としてCa、Sr、Baのいずれか1以上が、前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、該内表面から深さ2mmまでにおいて、各元素の合計値として50〜5000wt.ppmの濃度で添加されているものであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項8】
前記離型促進剤としてCa、Sr、Baのいずれか1以上が、前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、各元素の合計値として50〜5000μg/cm2の濃度で塗布されているものであることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項9】
前記多孔質シリカ基体に含有されているLi、Na、Kの各々の濃度が5wt.ppm以下であり、前記多孔質シリカ基体に含有されているTi、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度が0.1wt.ppm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項10】
シリコン融液を収容した後凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形シリカ容器を製造する方法であって、少なくとも、
第一の原料粉として、粒径0.03〜3.0mmのシリカ粉を作製する工程と、
第二の原料粉として粒径0.1〜10μmのシリカ粉を作製する工程と、
前記第一の原料粉と、前記第二の原料粉と、水とを含む混合スラリーを作製する工程と、
前記混合スラリーを、型枠内で脱水及び乾燥し、底部の内表面部分に溝又は穴を所定間隔で複数有する多孔質シリカ基体の仮成形体を作製する仮成形工程と、
前記多孔質シリカ基体の仮成形体を、不活性ガスを主成分とし、O2ガスを含有する雰囲気にて、1200〜1500℃の温度で焼成し、多孔質シリカ基体からなる角形シリカ容器とする焼成工程と
を含み、
前記第一の原料粉、前記第二の原料粉、及び前記混合スラリーの少なくとも一つにAl元素を添加することにより、前記多孔質シリカ基体にAl元素を含有させ、
前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、前記多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤を含有させることを特徴とする多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法。
【請求項11】
シリコン融液を収容した後凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形シリカ容器を製造する方法であって、
第一の原料粉として、粒径0.03〜3.0mmのシリカ粉を作製する工程と、
第二の原料粉として粒径0.1〜10μmのシリカ粉を作製する工程と、
前記第一の原料粉と前記第二の原料粉と有機バインダーとを混合させ、混合粉を作製する工程と、
前記混合粉を型枠内に導入し、50〜200℃に加熱して前記有機バインダーを溶融することにより、底部の内表面部分に溝又は穴を所定間隔で複数有する多孔質シリカ基体の仮成形体を作製する仮成形工程と、
前記多孔質シリカ基体の仮成形体を、不活性ガスを主成分とし、O2ガスを含有する雰囲気にて、1200〜1500℃の温度で焼成し、多孔質シリカ基体からなる角形シリカ容器とする焼成工程と
を含み、
前記第一の原料粉、前記第二の原料粉、及び前記混合粉の少なくとも一つにAl元素を添加することにより、前記多孔質シリカ基体にAl元素を含有させ、
前記多孔質シリカ基体の内表面部分の少なくとも一部に、前記多結晶シリコンインゴットの離型を促進する離型促進剤を含有させることを特徴とする多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法。
【請求項12】
前記離型促進剤の含有を、前記仮成形工程の後に、前記仮成形体の内表面の少なくとも一部に塗布し、乾燥させて、前記仮成形体の内表面部分の少なくとも一部に前記離型促進剤を添加することにより、及び/又は、前記焼成工程の後に、前記離型促進剤を前記多孔質シリカ基体の内表面の少なくとも一部に塗布することにより、行うことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法。
【請求項13】
前記離型促進剤をCa、Sr、Baのいずれか1以上とすることを特徴とする請求項10ないし請求項12のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法。
【請求項14】
前記混合スラリー又は前記混合粉を作製する前に、前記第二の原料粉から、前記第二の原料粉が集合してなる粒径5〜500μmの顆粒体を作製し、該第二の原料粉の顆粒体を用いて前記混合スラリー又は前記混合粉を作製することを特徴とする請求項10ないし請求項13のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法。
【請求項15】
前記焼成工程において、前記不活性ガスを、N2ガス、Heガス、Arガスの少なくとも一種以上とし、O2ガスの含有量を1〜30vol.%とすることを特徴とする請求項10ないし請求項14のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−12256(P2012−12256A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150708(P2010−150708)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【Fターム(参考)】
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