説明

多結晶シリコンウェーハ及びその製造方法

【課題】高効率な発電パネル用の多結晶シリコンウェーハを提供する。
【解決手段】一辺が118mm以上の四角形である多結晶シリコンウェーハであって、第1乃至第4の外周領域a1〜a4と、いずれも外周領域にも属さない中央領域bとを含み、第1の外周領域a1におけるライフタイムは、中央領域bにおけるライフタイムよりも短く、第2及び第3の外周領域a2,a3におけるライフタイムは、中央領域bにおけるライフタイムと実質的に等しく、中央領域bにおけるライフタイムは、30μs以上である。本発明によれば、多結晶シリコンインゴットの断面をマトリクス状に4分割又は6分割することによって切り出すことができるとともに、ライフタイムが30μs以上である領域を全体の1/3以上とすることができる。これにより、16%以上の変換効率を確保することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンウェーハ及びその製造方法に関し、特に、太陽光発電パネル用として好適な四角形の多結晶シリコンウェーハ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の枯渇や地球環境の悪化などを背景に、自然エネルギーを利用した発電が注目されている。中でも、太陽光発電装置(太陽電池とも呼ばれる)は、機械的動作を伴わず、しかも、小規模なタイプから大規模なタイプまで幅広い製品展開が可能であることから、今後ますます需要が増大するものと期待されている。
【0003】
広く知られているように、太陽光発電装置の発電パネルにはシリコンウェーハが用いられる。しかしながら、太陽光発電装置には低コスト化が強く求められることから、ICデバイスに用いられる単結晶シリコンウェーハではなく、より安価な多結晶シリコンウェーハが用いられることが一般的である。また、受光面積を十分に確保すべく、多結晶シリコンウェーハの主面は、単結晶シリコンウェーハのような円形ではなく、四角形であることが望ましい。
【0004】
四角形の多結晶シリコンウェーハを製造する方法としては、溶融シリコンを鋳型で凝固させる鋳造法(「キャスト法」ともいう)や、電磁誘導による連続鋳造法(「電磁鋳造法」ともいう)が知られている(特許文献1、2参照)。なかでも、電磁鋳造法は、高品位な大型の多結晶シリコンインゴットを製造できることから、変換効率の高い太陽光発電パネルを比較的安価に製造することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−156166号公報
【特許文献2】特開2009−99734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
太陽光発電パネルの変換効率を低下させる主要因は、多結晶シリコンインゴットへの汚染物質の混入である。代表的な汚染物質は鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、クロム(Cr)などの重金属であり、その混入経路としては、シリコン融液からの汚染と、固化した多結晶シリコンインゴットの表面(いわゆる鋳肌)からの汚染が挙げられる。シリコン融液からの汚染は、インゴットの断面にほぼ均一に現れる一方、鋳肌からの汚染は、インゴットの表層部分にのみ現れる。したがって、インゴット断面の中央領域に現れる汚染はシリコン融液に起因するものである。一方、インゴットの表層部分に現れる汚染は、シリコン融液に起因するものと鋳肌からの汚染に起因するものが混在している。
【0007】
シリコン融液からの汚染を低減するためには、純度の高い多結晶シリコン塊を使用することが最も有効である。しかしながら、本発明者らの研究によれば、純度の高い多結晶シリコン塊を使用しても、インゴット断面の中央領域に現れる汚染を十分に低減することはできず、電磁鋳造装置自体に改良を加える必要があることを見いだした。
【0008】
これに対し、鋳肌からの汚染を十分に低減することは困難である。鋳肌からの汚染を低減させる方法としては、チャンバー内のガスの流れを制御するなどの方法が挙げられるが、これらの対策を十分に施しても、インゴットの表層部分に現れる汚染は容易に低減しない。したがって、純度の高い多結晶シリコン塊を使用し、且つ、電磁鋳造装置に改良を加えると、インゴット断面の中央領域においては相対的に汚染が少なくなり、インゴットの表層部分においては相対的に汚染が多くなる。
【0009】
このため、汚染の少ない高品位な多結晶シリコンインゴットを鋳造するためには、インゴットの径(一辺の長さ)を大型化することによって、インゴット断面の中央領域の面積を稼ぐことが有効であると考えられる。しかしながら、インゴットの径をあまりに大型化することは現実的でないため、現実的な径に押さえつつ、インゴットから切り出された多結晶シリコンウェーハの汚染をより低減することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、このような観点から鋭意研究を進めた結果、多結晶シリコンインゴットの断面を四角形とし、その断面をマトリクス状に4分割又は6分割することによって多結晶シリコンウェーハを取り出せば、1枚のウェーハに含まれるインゴットの表層領域は、最大でもウェーハの2辺となり、全体として汚染レベルを抑えられることを見いだした。また、鋳肌からの汚染は、インゴットの表面から50mm以内に留まること、さらに、キャリアのライフタイムが30μs以上である領域が全体の1/3以上であれば、一般に高効率と呼ばれる16%以上の変換効率を確保できることも明らかとなった。本発明は、このような技術的知見に基づきなされたものである。
【0011】
本発明による多結晶シリコンウェーハは、主面の一辺が118mm以上の四角形である多結晶シリコンウェーハであって、第1の辺から50mmの範囲に属する第1の外周領域と、前記第1の辺と平行な第2の辺から50mmの範囲に属する第2の外周領域と、前記第1の辺と垂直な第3の辺から50mmの範囲に属する第3の外周領域と、前記第3の辺と平行な第4の辺から50mmの範囲に属する第4の外周領域と、前記第1乃至第4の外周領域のいずれにも属さない中央領域と、を含み、前記第1の外周領域におけるキャリアのライフタイムは、前記中央領域におけるキャリアのライフタイムよりも短く、前記第2及び第3の外周領域のうち、前記第1又は第4の外周領域と重複しない部分におけるキャリアのライフタイムは、前記中央領域におけるキャリアのライフタイムと実質的に等しく、前記中央領域におけるキャリアのライフタイムは、表面パッシベーション後のライフタイム値で30μs以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、断面が四角形である多結晶シリコンインゴットの断面をマトリクス状に4分割又は6分割することによって多結晶シリコンウェーハを取り出すことができるとともに、キャリアのライフタイムが30μs以上である領域を全体の1/3以上とすることができる。これにより、16%以上の変換効率を確保することが可能となる。
【0013】
本発明において、前記第4の外周領域のうち、前記第1の外周領域と重複しない部分におけるキャリアのライフタイムは、前記中央領域におけるキャリアのライフタイムよりも短くてもかまわないし、前記中央領域におけるキャリアのライフタイムと実質的に等しくても構わない。前者の多結晶シリコンウェーハは、多結晶シリコンインゴットの断面を4分割した場合、あるいは、6分割した場合の四隅の位置から取り出すことができる。一方、後者の多結晶シリコンウェーハは、多結晶シリコンインゴットの断面を6分割した場合の四隅以外の位置から取り出すことができる。
【0014】
本発明において、前記主面の一辺が223mm以下であることが好ましい。これによれば、多結晶シリコンインゴットの断面積を200000mm以下に抑えることができることから、電磁鋳造装置の著しい大型化を防止することが可能となる。
【0015】
本発明による多結晶シリコンウェーハの製造方法は、電磁鋳造法によって断面が四角形の多結晶シリコンインゴットを連続的に鋳造する工程と、前記多結晶シリコンインゴットを成長方向に分割するとともに、前記断面をマトリクス状に4分割又は6分割することによって多結晶シリコンブロックを取り出す工程と、前記多結晶シリコンブロックを成長方向に対して垂直にスライスすることによって、主面の一辺が118mm以上の四角形である多結晶シリコンウェーハを取り出す工程と、を備え、前記多結晶シリコンインゴットを鋳造する工程においては、原料の投入口となる上方開口部と前記多結晶シリコンインゴットの取り出し口となる下方開口部を有する無底ルツボと、前記無底ルツボの上方開口部に設けられ、原料を投入するための原料投入配管とを用い、前記原料投入配管は、金属からなる本体部と、前記本体部と投入される原料との接触を防止するための被覆部とを備え、これにより、前記多結晶シリコンウェーハの各辺から50mm以上離れた中央領域におけるキャリアのライフタイムを表面パッシベーション後のライフタイム値で30μs以上とすることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、原料投入配管に被覆部を設けていることから、原料投入配管の本体部を構成する金属と原料との接触が防止される。これにより、シリコン融液の汚染が低減されることから、16%以上の変換効率を有する多結晶シリコンウェーハを製造することが可能となる。
【0017】
前記多結晶シリコンインゴットを鋳造する工程においては、前記無底ルツボの上方開口部に設けられ、原料を加熱するための加熱手段をさらに用い、前記加熱手段の表面には金属材料の露出を防止する被覆部が設けられていることが好ましい。これによれば、シリコン融液の汚染がより低減されることから、より高い変換効率を有する多結晶シリコンウェーハを製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明によれば、非常に大型の電磁鋳造装置を用いることなく、16%以上の変換効率を有する多結晶シリコンウェーハを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】多結晶シリコンウェーハの製造工程を概略的に示すフローチャートである。
【図2】多結晶シリコンウェーハの製造に用いる電磁鋳造装置10の模式図である。
【図3】無底ルツボ14の構造を示す略斜視図である。
【図4】多結晶シリコンインゴットからシリコンウェーハを切り出す切断工程を説明するための模式図である。
【図5】多結晶シリコンブロックの断面をマトリクス状に6分割する例を示す図である。
【図6】多結晶シリコンブロックの断面をマトリクス状に4分割する例を示す図である。
【図7】多結晶シリコンブロックの断面を図5及び図6とは異なる方法で分割する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、多結晶シリコンウェーハの製造工程を概略的に示すフローチャートである。
【0022】
図1に示すように、まず電磁鋳造法によって角柱状の多結晶シリコンインゴットを製造する(ステップS101)。次に、多結晶シリコンインゴットから複数のシリコンブロックを切り出した後(ステップS102)、このシリコンブロックを所定の厚さにスライスし(ステップS103)、さらに表裏面を研磨してその厚さと平坦度を調整することにより(ステップS104)、多結晶シリコンウェーハが完成する。
【0023】
図2は、本実施形態による多結晶シリコンウェーハの製造に用いる電磁鋳造装置10の模式図である。
【0024】
図2に示す電磁鋳造装置10は、内部の発熱を遮断する二重壁構造の水冷容器からなるチャンバー11を有する。チャンバー11は、上部に設けられた遮蔽手段12を介して原料投入装置5に連結されており、これにより原料投入装置5から原料である粒状又は塊状のシリコン材料Sが連続的に供給される。原料投入装置5から供給されるシリコン材料Sは、原料投入配管13を介して、無底ルツボ14に投入される。無底ルツボ14は、シリコン材料Sの投入口となる上方開口部14aと、多結晶シリコンインゴット1の取り出し口となる下方開口部14bを有している。無底ルツボ14の下方開口部14bから取り出された多結晶シリコンインゴット1は、チャンバー11の底部に設けられた引出し口15から引き出される。また、チャンバー11の上部側壁には不活性ガス導入口16が設けられ、チャンバー11の下部側壁には真空吸引口18が設けられている。
【0025】
無底ルツボ14は、図3に示すように銅製の水冷角筒体であり、部分的な縦方向のスリット14cにより周方向に複数分割されている。無底ルツボ14の周囲には、誘導コイル14dが設けられている。誘導コイル14dは、無底ルツボ14のスリット14cを設けた位置の外周側に同芯に周設され、図示されていない同軸ケーブルにて電源に接続される。これにより、誘導コイル14dに電流を流すと、無底ルツボ14内のシリコン材料Sが誘導加熱され、シリコン融液S0となる。また、無底ルツボ14の真上には加熱手段19が昇降可能に設けられ、下降した状態で無底ルツボ14内に装入されるようになっている。但し、本発明において加熱手段19を用いることは必須でない。
【0026】
チャンバー11内にはアフターヒーター20が設けられている。アフターヒーター20は、無底ルツボ14の下方開口部14bに同芯に連設され、無底ルツボ14から引き下げられるインゴット1を加熱して、その軸方向に所定の温度勾配を与える。
【0027】
アフターヒーター20の下方には、ガスシール部21が設けられるとともに、インゴット1を支えながら下方へ引き出す引き抜き装置22が設けられている。
【0028】
原料投入配管13は、金属からなる本体部と、本体部とシリコン材料Sとの接触を防止するための被覆部とを備えている。つまり、金属からなる本体部が被覆部によって覆われた構造を有している。これにより、原料投入配管13の本体部とシリコン材料Sとの接触によって生じ得る金属汚染が防止される。さらに、本実施形態では、加熱手段19の表面に、金属材料の露出を防止する被覆部も設けられている。これにより、加熱手段19を構成する金属材料からの汚染についても防止される。原料投入配管13の被覆部としてはシリコンゴムなどを用いることができ、加熱手段19の被覆部としてはシリコンなどを用いることができる。
【0029】
図4は、多結晶シリコンインゴットからシリコンウェーハを切り出す切断工程を説明するための模式図である。
【0030】
図4(a)に示すように、多結晶シリコンインゴット1は、全長Lを分割してn個の中インゴット2を得る。ここで、成長方向に分割とは、図4に示すXY平面で切断することを意味する。ラインC11は等分割の切断位置を示している。インゴットの分割数は特に限定されず、最終目標とするシリコンブロックの長さに応じて適宜決定すればよい。
【0031】
次に、中インゴット2の断面(XY平面)をマトリクス状に4分割又は6分割することによって、断面が略正方形の多結晶シリコンブロック3を得る。インゴットの断面サイズが例えば505×345mmの矩形である場合、中インゴット2を6分割して約156×156mmのシリコンブロックを得ることができる。すなわち、図4(b)に示すように、中インゴット2をラインC21、C22の位置で切断して鋳肌面を除去し、さらにラインC23の位置で切断してX軸方向に2分割する。さらに、図4(c)に示すように、2分割された小インゴット2aの各々をラインC31、C32の位置で切断して鋳肌面を除去し、さらにラインC33、C34の位置で切断してY軸方向に3分割する。以上により、図4(d)に示すように、中インゴット2が最終的に6分割された多結晶シリコンブロック3を得ることができる。
【0032】
このようにして得られた多結晶シリコンブロック3は、成長方向に対して垂直に、つまりXY平面に沿ってスライスされ、これによって図4(e)に示すように、ほぼ正方形の多結晶シリコンウェーハ4が取り出される。
【0033】
図5は、多結晶シリコンブロック3の同じ断面から取り出される6枚の多結晶シリコンウェーハ4を示す図である。
【0034】
図5に示すように、多結晶シリコンブロック3は、X方向のラインC23と、Y方向のラインC33,C34に沿って切断されるため、同じ断面からは6枚のウェーハ4が切り出される。このうち、四隅に位置する4枚の多結晶シリコンウェーハ4aは、直交する2辺が鋳肌側の辺であり、残りの2辺が中央部側の辺である。これに対し、四隅以外に位置する2枚の多結晶シリコンウェーハ4bは、1辺が鋳肌側の辺であり、残りの3辺が中央部側の辺である。鋳肌から導入された金属などの不純物は、インゴット1の中央に向かって拡散するが、その距離は最大で50mmである。したがって、鋳肌面の除去幅が小さい場合、鋳肌側の面から約50mmまでの外周領域については、鋳肌から導入された金属などが含まれている可能性がある。これに対し、それ以外の領域については、鋳肌から導入された金属などがほとんど含まれておらず、実質的にシリコン融液に起因する不純物のみが含まれる。
【0035】
より詳細に説明すると、第1の辺L1から50mmの範囲に属する領域を第1の外周領域a1とし、第1の辺L1と平行な第2の辺L2から50mmの範囲に属する領域を第2の外周領域a2とし、第1の辺L1と垂直な第3の辺から50mmの範囲に属する領域を第3の外周領域a3とし、第3の辺L3と平行な第4の辺L4から50mmの範囲に属する第4の外周領域a4とし、第1乃至第4の外周領域a1〜a4のいずれにも属さない領域を中央領域bとした場合、多結晶シリコンウェーハ4aにおいては、第1及び第4の外周領域a1,a4(図5において濃い網掛けをした部分)の金属濃度は中央領域bの金属濃度よりも多くなり、第2及び第3の外周領域a2,a3のうち、第1又は第4の外周領域a1,a4と重複しない部分(図5において薄い網掛けをした部分)の金属濃度は中央領域bの金属濃度と実質的に等しくなる。その結果、第1及び第4の外周領域a1,a4におけるライフタイムは、中央領域bにおけるライフタイムよりも短くなり、第2及び第3の外周領域a2,a3におけるライフタイムは、中央領域bにおけるライフタイムと実質的に等しくなる。
【0036】
一方、多結晶シリコンウェーハ4bにおいては、第1の外周領域a1(図5において濃い網掛けをした部分)の金属濃度は中央領域bの金属濃度よりも多くなり、第2乃至第4の外周領域a2〜a4の金属濃度のうち、前記第1の外周領域a1と重複しない部分(図5において薄い網掛けをした部分)は中央領域bの金属濃度と実質的に等しくなる。その結果、第1の外周領域a1におけるライフタイムは、中央領域bにおけるライフタイムよりも短くなり、第2乃至第4の外周領域a2〜a4におけるライフタイムは、中央領域bにおけるライフタイムと実質的に等しくなる。
【0037】
そして、中央領域bについては、鋳肌から導入された金属などがほとんど含まれないことから、高純度のシリコン材料Sを使用する、さらには、原料投入配管13や加熱手段19を被覆部で覆うなどの対策を施すことにより、ライフタイムを30μs以上とすることができる。
【0038】
中央領域bにおけるキャリアのライフタイムが30μs以上であり、且つ、1辺又は2辺が鋳肌側となる多結晶シリコンウェーハ4においては、ライフタイムが30μs以上である領域が全体の1/3以上であれば、一般に高効率と呼ばれる16%以上の変換効率を確保することができる。上述の通り、鋳肌からの汚染は最大で50mm程度であることを考慮すると、多結晶シリコンウェーハ4の一辺の長さは、118mm以上である必要がある。換言すれば、一辺の長さが118mm未満であると、多結晶シリコンウェーハ4aのように2辺が鋳肌からの汚染を受けている場合、汚染を受けていない残りの領域が全体の1/3未満となってしまい、16%以上の変換効率を確保することが困難となる。一辺の長さが118mm未満であっても、多結晶シリコンウェーハ4bのように1辺のみが鋳肌からの汚染を受けている場合には、汚染を受けていない残りの領域を全体の1/3以上とすることが可能であるが、この場合、1本の多結晶シリコンインゴット1から取り出せる高品質な多結晶シリコンウェーハ4の枚数が非常に少なくなってしまうため、好ましくない。また、鋳肌面の除去幅を大きくすれば、汚染を受けていない残りの領域を全体の1/3以上とすることが可能であるが、この場合は生産効率が低下してしまう。
【0039】
多結晶シリコンウェーハ4の一辺の長さの上限については特に限定されず、一辺の長さが大きくなるほど中央領域bの占める割合が増大することから、変換効率も高くなる。しかしながら、多結晶シリコンウェーハ4が大きすぎると、多結晶シリコンインゴット1の径も大きくなり、電磁鋳造装置10が現実的でない大きさとなってしまう。具体的には、多結晶シリコンインゴットの断面積が200000mm以下であれば、電磁鋳造方式にて困難なく鋳造可能であることから、断面をマトリクス状に4分割した場合の多結晶シリコンウェーハ4の最大サイズは、一辺が223mmとなる。
【0040】
図6は、多結晶シリコンブロックの断面をマトリクス状に4分割する例を示す図である。図6に示すように、多結晶シリコンブロックをX方向のラインC41と、Y方向のラインC42に沿って切断すると、同じ断面からは4枚のウェーハ4aが切り出される。これらウェーハは、いずれも2辺が鋳肌側の辺である多結晶シリコンウェーハ4aである。
【0041】
ここで、多結晶シリコンブロックの断面を図5及び図6とは異なる方法で分割した場合について考察する。
【0042】
図7(a)は、多結晶シリコンインゴット1の断面を2分割することによって得られるウェーハの状態を示す図である。図7(a)に示すように、断面を2分割した場合、得られるウェーハ4cはいずれも3辺が鋳肌側となってしまい、高い変換効率を得ることが困難となる。3辺が鋳肌側であっても、ウェーハサイズを大きくすれば16%以上の変換効率を得ることは可能であるが、本発明のように、1辺又は2辺のみが鋳肌側であるウェーハよりは確実に変換効率が低下する。
【0043】
図7(b)は、多結晶シリコンインゴット1の断面を3分割することによって得られるウェーハの状態を示す図である。図7(b)に示すように、断面を3分割した場合、両端のウェーハ4cはいずれも3辺が鋳肌側となり、中央のウェーハ4dは2辺が鋳肌側となる。したがって、中央のウェーハ4dについてはある程度高い変換効率が得られるものと期待できるが、残り2個のウェーハ4cの変換効率が低いため、高品位なウェーハの生産効率が低下する。しかも、多結晶シリコンインゴット1の断面が細長い形状となるため、生産性も低くなる。断面が細長くなるという問題は、多結晶シリコンインゴット1の断面をマトリクス状ではなく一方向に4分割以上した場合にも同様に生じる。さらに、多結晶シリコンインゴット1の断面をマトリクス状に8以上に分割した場合にも生じる。
【0044】
図7(c)は、多結晶シリコンインゴット1の断面をマトリクス状に9分割することによって得られるウェーハの状態を示す図である。図7(c)に示すように、断面を9分割した場合、四隅のウェーハ4aはいずれも2辺が鋳肌側となり、各辺の中央に位置するウェーハ4bはいずれも1辺が鋳肌側となり、中央のウェーハ4eは鋳肌側となる辺が存在しない。したがって、各ウェーハとも高い変換効率が得られるが、この場合、多結晶シリコンインゴット1の径が大きくなりすぎるという問題がある。この問題は、ウェーハサイズを小さくすれば解消するが、ウェーハサイズを小さくすると、四隅のウェーハ4aにおいては変換効率が低下する一方で、中央のウェーハ4eにおいては変換効率が変化しないことから、同じインゴットから取り出されるウェーハの品質の差が大きくなりすぎるという新たな問題が生じる。
【0045】
図7(d)は、多結晶シリコンインゴット1の断面を分割しない場合に得られるウェーハの状態を示す図である。この場合、得られるウェーハ4fの4辺が鋳肌側となるため、高い変換効率を得ることが困難となる。しかも、多結晶シリコンインゴット1を断面方向に分割しないため、生産効率も非常に低くなる。
【0046】
これらに対し、本発明のように、多結晶シリコンインゴット1の断面をマトリクス状に4分割又は6分割すれば、図7(a)〜(d)を用いて説明した各種の問題は生じず、変換効率の高いウェーハ4を効率よく生産することが可能となる。
【0047】
そして、多結晶シリコンインゴット1の断面をマトリクス状に4分割又は6分割することによって一辺の長さが118mm以上の多結晶シリコンウェーハ4を切り出し、その中央領域bにおけるキャリアのライフタイムを30μs以上とすれば、16%以上の高い変換効率を得ることが可能となる。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0049】
例えば、本発明による多結晶シリコンウェーハが正方形であることは必須でなく、四角形であれば例えば長方形であっても構わない。
【実施例1】
【0050】
図2に示した構造を有する電磁鋳造装置を用い、断面が505×345mm、長さが7000mmの多結晶シリコンインゴットA0を育成した。使用した電磁鋳造装置は、原料投入配管及び加熱手段の表面に被覆部が設けられており、これによってシリコン融液への金属汚染が防止されている。原料投入配管の被覆部にはシリコンゴムを用い、加熱手段の被覆部にはシリコンを用いた。また、炉内のガスの流れを制御することにより、鋳肌からの金属汚染を低減させた。
【0051】
次に、得られた多結晶シリコンインゴットA0を図4に示した方法でブロック化し、スライスすることによって156mm角の多結晶シリコンウェーハを切り出した。そして、結晶ボトムから2000mmの位置から切り出したウェーハA1に対し、キャリアのライフタイムの面内分布を測定した。ライフタイムは、ヨウ素をウェーハ表面に塗布する表面パッシベーション法を用いて測定した。ウェーハA1は、四隅の位置から取り出したウェーハであり、したがって2辺が鋳肌側である。
【0052】
一方、原料投入配管及び加熱手段の表面に被覆部が設けられていない電磁鋳造装置を用いて、上記と同じサイズの多結晶シリコンインゴットB0を育成し、上記と同一の方法で多結晶シリコンウェーハを切り出した。そして、結晶ボトムから2000mmの位置から切り出したウェーハB1に対し、キャリアのライフタイムの面内分布を測定した。ウェーハB1も四隅の位置から取り出したウェーハであり、したがって2辺が鋳肌側である。
【0053】
測定の結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、実施例によるウェーハA1においては、外周領域よりも中央領域のライフタイムが長く、且つ、中央領域のライフタイムが30μs以上であった。これに対し、比較例によるウェーハB1においては、外周領域と中央領域のライフタイムにほとんど差がなく、いずれもライフタイムが非常に短かった。
【実施例2】
【0056】
上述した多結晶シリコンインゴットA0の別の位置からウェーハA2を切り出し、キャリアのライフタイムの面内分布を測定した。ウェーハA2も、四隅の位置から取り出したウェーハであり、したがって2辺が鋳肌側である。さらに、当該ウェーハA2及び実施例1で用いたウェーハA1,B1の光電変換効率をライフタイムマップから算出した。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2に示すように、中央領域のライフタイムが30μs以上であるウェーハA1においては、変換効率が16%以上であったのに対し、中央領域のライフタイムが30μsに僅かに足りないウェーハA2においては、変換効率が16%に僅かに届かず、15.9%であった。また、比較例によるウェーハB1においては、変換効率が15.4%と低かった。これにより、サイズが156mm角であり、2辺が鋳肌側である多結晶シリコンウェーハにおいて、16%以上の変換効率を得るためには、中央領域のライフタイムが30μs以上必要であることが確認された。
【符号の説明】
【0059】
1 多結晶シリコンインゴット
2 中インゴット
2a 小インゴット
3 多結晶シリコンブロック
4,4a〜4f 多結晶シリコンウェーハ
5 原料投入装置
10 電磁鋳造装置
11 チャンバー
12 遮蔽手段
13 原料投入配管
14 無底ルツボ
14a 上方開口部
14b 下方開口部
14c スリット
14d 誘導コイル
15 引出し口
16 不活性ガス導入口
18 真空吸引口
19 加熱手段
20 アフターヒーター
21 ガスシール部
22 引き抜き装置
S シリコン材料
S0 シリコン融液
a1〜a4 外周領域
b 中央領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面の一辺が118mm以上の四角形である多結晶シリコンウェーハであって、
第1の辺から50mmの範囲に属する第1の外周領域と、
前記第1の辺と平行な第2の辺から50mmの範囲に属する第2の外周領域と、
前記第1の辺と垂直な第3の辺から50mmの範囲に属する第3の外周領域と、
前記第3の辺と平行な第4の辺から50mmの範囲に属する第4の外周領域と、
前記第1乃至第4の外周領域のいずれにも属さない中央領域と、を含み、
前記第1の外周領域におけるキャリアのライフタイムは、前記中央領域におけるキャリアのライフタイムよりも短く、
前記第2及び第3の外周領域のうち、前記第1又は第4の外周領域と重複しない部分におけるキャリアのライフタイムは、前記中央領域におけるキャリアのライフタイムと実質的に等しく、
前記中央領域におけるキャリアのライフタイムは、表面パッシベーション後のライフタイム値で30μs以上であることを特徴とする多結晶シリコンウェーハ。
【請求項2】
前記第4の外周領域におけるキャリアのライフタイムは、前記中央領域におけるキャリアのライフタイムよりも短いことを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコンウェーハ。
【請求項3】
前記第4の外周領域のうち、前記第1の外周領域と重複しない部分におけるキャリアのライフタイムは、前記中央領域におけるキャリアのライフタイムと実質的に等しいことを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコンウェーハ。
【請求項4】
前記主面の一辺が223mm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の多結晶シリコンウェーハ。
【請求項5】
電磁鋳造法によって断面が四角形の多結晶シリコンインゴットを連続的に鋳造する工程と、
前記多結晶シリコンインゴットを成長方向に分割するとともに、前記断面を4分割又は6分割することによって多結晶シリコンブロックを取り出す工程と、
前記多結晶シリコンブロックを成長方向に対して垂直にスライスすることによって、主面の一辺が118mm以上の四角形である多結晶シリコンウェーハを取り出す工程と、を備え、
前記多結晶シリコンインゴットを鋳造する工程においては、原料の投入口となる上方開口部と前記多結晶シリコンインゴットの取り出し口となる下方開口部を有する無底ルツボと、前記無底ルツボの上方開口部に設けられ、原料を投入するための原料投入配管とを用い、
前記原料投入配管は、金属からなる本体部と、前記本体部と投入される原料との接触を防止するための被覆部とを備え、
これにより、前記多結晶シリコンウェーハの各辺から50mm以上離れた中央領域におけるキャリアのライフタイムを表面パッシベーション後のライフタイム値で30μs以上とすることを特徴とする多結晶シリコンウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記多結晶シリコンインゴットを鋳造する工程においては、前記無底ルツボの上方開口部に設けられ、原料を加熱するための加熱手段をさらに用い、
前記加熱手段の表面には金属材料の露出を防止する被覆部が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の多結晶シリコンウェーハの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−62227(P2012−62227A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208472(P2010−208472)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】