説明

多芯ケーブル長測定装置

【課題】多芯ケーブルのケーブル長を測定でき、測定不可のときにはその原因を短時間で判別する。
【解決手段】LANケーブル1の一の絶縁線2の近端にパルス信号S1(信号S1)を注入するパルス信号生成部13と、一の絶縁線2の近端での信号S1およびその反射信号Sr(信号Sr)を検出する信号検出部17と、信号S1の検出から信号Srの検出までの経過時間に基づいてLANケーブル1の長さを測定する処理部20と、一の絶縁線2の近端にステップ信号S3(信号S3)を注入するステップ信号生成部14と、遠端で抵抗32を介して一の絶縁線2と接続された他の絶縁線2の近端に伝達する信号S3の電圧を測定する電圧測定部19とを備え、処理部20は、信号S3の注入から第1、第2の時間を経過した時点での信号S3の各電圧の電圧差が基準電圧未満のときにLANケーブル1が下限値未満の長さであると判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の絶縁線を有する多芯ケーブルのケーブル長を測定する多芯ケーブル長測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の多芯ケーブル長測定装置として、出願人は特開2003−106804号公報に開示された平衡ケーブル長試験器(以下、「ケーブル長測定装置」ともいう)を提案している。このケーブル長測定装置は、検査用パルスを生成するパルス生成部と、この検査用パルスを検査対象の信号ラインの一端(近端)側に注入すると共にこの一端側に発生する反射波信号を検出して出力する送受信部と、検査用パルスの注入から反射波信号の検出までの時間を計測する計測部と、計測部で計測された時間に基づいて信号ライン長を算出する制御部とを備え、パルス生成部は検査用パルスのパルス幅を伸縮可能に構成されている。
【0003】
このケーブル長測定装置では、パルス生成部によって生成される検査用パルスのパルス幅を伸縮可能に構成したことにより、例えば平衡ケーブル(つまり信号ライン)が長く、注入した検査用パルスおよび発生した反射波信号の減衰が大きいことに起因して、送受信部によって反射波信号が検出できないときであっても、検査用パルスのパルス幅を順次伸長させることによって、検査用パルスの波形をしきい値電圧よりも高い電圧に維持することが可能となり、送受信部による反射波信号の検出が可能となる。一方、例えば信号ラインが短いために検査用パルスの注入から反射波信号が一端(入力端)に到達するまでの時間が短く、検査用パルスと反射波信号とが重なり合って送受信部によって反射波信号を検出できないときには、このケーブル長測定装置では、検査用パルスのパルス幅を順次縮長させて、送受信部による反射波信号の検出を可能とすることができる。このため、従来のケーブル長測定装置では、測定不能な短い平衡ケーブルに対してもそのケーブル長を確実に測定することができる。
【特許文献1】特開2003−106804号公報(第1,3,7頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、発明者らがこのケーブル長測定装置を検討した結果、以下のような改善すべき点を発見した。すなわち、このケーブル長測定装置では、パルス生成部によって生成される検査用パルスのパルス幅を伸縮することにより、ケーブル長の測定範囲を拡げている。しかしながら、上記のケーブル長測定装置には、検査用パルスのパルス幅を順次縮長または伸張させる構成に起因して、縮長または伸張の回数によっては、信号ラインの長さ測定の完了までに長い時間を要するという課題が存在している。また、この種のケーブル長測定装置に対しては、ケーブル長の測定範囲を拡げて欲しいという要望がある一方で、ケーブル長が短いため、または逆に長いためにその測定が不可のときには、時間をかけてパルス幅を伸縮してケーブル長を測定するのではなく、測定不可となった原因(ケーブル長が短すぎるのか、または長すぎるのか)が短時間で分かればよいという要望もある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、複数の絶縁線を有する多芯ケーブルのケーブル長を測定でき、しかも測定できないときにはその原因を短時間で判別し得る多芯ケーブル長測定装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく請求項1記載の多芯ケーブル長測定装置は、複数の絶縁線を有する多芯ケーブルの一端側が、当該多芯ケーブルの他端側において前記複数の絶縁線の内の少なくとも2本の絶縁線の遠端同士が抵抗を介して接続された状態で接続可能に構成され、パルス信号を生成して前記2本の絶縁線の内の一の絶縁線の近端に注入するパルス信号生成部と、前記注入される前記パルス信号および前記近端に発生する前記パルス信号の反射波信号を検出する信号検出部と、前記信号検出部による前記パルス信号の検出時点から前記反射信号の検出時点までの経過時間を算出すると共に当該経過時間に基づいて前記一の絶縁線の長さを算出して前記多芯ケーブルの長さを測定する処理部とを備えた多芯ケーブル長測定装置であって、ステップ信号を生成して前記一の絶縁線の前記近端に注入するステップ信号生成部と、前記2本の絶縁線の内の他の絶縁線の近端に伝達する前記ステップ信号の電圧を測定して出力する電圧測定部とを備え、前記処理部は、前記ステップ信号の注入時点から第1の時間を経過した時点、および当該第1の時間よりも長い第2の時間を経過した時点での前記ステップ信号の各電圧を前記電圧測定部に対して測定させると共に当該各電圧の電圧差を算出して、当該電圧差が予め設定された基準電圧未満のときに前記多芯ケーブルが予め設定された下限値未満の長さであると判別する。
【0007】
請求項2記載の多芯ケーブル長測定装置は、請求項1記載の多芯ケーブル長測定装置において、前記処理部は、前記電圧差が前記基準電圧以上のときに前記多芯ケーブルが予め設定された上限値を超える長さであると判別する。
【0008】
また、請求項3記載の多芯ケーブル長測定装置は、複数の絶縁線を有する多芯ケーブルの一端側が、当該多芯ケーブルの他端側において前記複数の絶縁線の内の少なくとも2本の絶縁線の遠端同士が抵抗を介して接続された状態で接続可能に構成され、パルス信号を生成して前記2本の絶縁線の内の一の絶縁線の近端に注入するパルス信号生成部と、前記注入される前記パルス信号および前記近端に発生する前記パルス信号の反射波信号を検出する信号検出部と、前記信号検出部による前記パルス信号の検出時点から前記反射信号の検出時点までの経過時間を算出すると共に当該経過時間に基づいて前記一の絶縁線の長さを算出して前記多芯ケーブルの長さを測定する処理部とを備えた多芯ケーブル長測定装置であって、ステップ信号を生成して前記一の絶縁線の前記近端に注入するステップ信号生成部と、前記2本の絶縁線の内の他の絶縁線の近端に伝達する前記ステップ信号の電圧を測定して出力する電圧測定部とを備え、前記処理部は、前記ステップ信号の注入時点から第1の時間を経過した時点、および当該第1の時間よりも長い第2の時間を経過した時点での前記ステップ信号の各電圧を前記電圧測定部に対して測定させると共に当該各電圧の電圧差を算出して、当該電圧差が予め設定された基準電圧以上のときに前記多芯ケーブルが予め設定された上限値を超える長さであると判別する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の多芯ケーブル長測定装置によれば、多芯ケーブルが短すぎるためにパルス信号に反射信号が重畳することに起因して、また逆に多芯ケーブルが長すぎるために反射信号の減衰が大きいことに起因して、多芯ケーブルの長さの測定が不能となるときに、処理部が、ステップ信号生成部を制御して多芯ケーブルの1本の絶縁線の近端にステップ信号を注入させると共に、抵抗によって遠端でこの1本の絶縁線に接続された他の1本の絶縁線の近端に伝搬するステップ信号の電圧を、ステップ信号の注入時点から第1の時間および第2の時間を経過した各時点で測定すると共に、測定した各電圧の電圧差を算出して、電圧差が予め設定された基準電圧未満のときに多芯ケーブルが測定範囲の下限値未満の長さであると判別することにより、多芯ケーブルの長さの測定が不能のときに、ステップ信号を一回注入するだけで、多芯ケーブルが短かすぎることが測定不能の原因であるか否かを短時間でしかも確実に判別することができる。
【0010】
また、請求項2記載の多芯ケーブル長測定装置によれば、処理部が、上記電圧差が基準電圧以上のときに多芯ケーブルが予め設定された上限値を超える長さであると判別することにより、多芯ケーブルの長さの測定が不能のときに、ステップ信号を一回注入するだけで、多芯ケーブルが短かすぎることが測定不能の原因なのか、逆に多芯ケーブルが長すぎることが測定不能の原因なのかを短時間でしかも確実に判別することができる。
【0011】
また、請求項3記載の多芯ケーブル長測定装置によれば、多芯ケーブルが短すぎるため、また逆に長すぎるために、多芯ケーブルの長さの測定が不能となるときに、処理部が、ステップ信号生成部を制御して多芯ケーブルの1本の絶縁線の近端にステップ信号を注入させると共に、抵抗によって遠端でこの1本の絶縁線に接続された他の1本の絶縁線の近端に伝搬するステップ信号の電圧を、ステップ信号の注入時点から第1の時間および第2の時間を経過した各時点で測定すると共に、測定した各電圧の電圧差を算出して、電圧差が予め設定された基準電圧以上のときに多芯ケーブルが測定範囲の上限値を超える長さであると判別することにより、多芯ケーブルの長さの測定が不能のときに、ステップ信号を一回注入するだけで、多芯ケーブルが長すぎることが測定不能の原因であるか否かを短時間でしかも確実に判別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る多芯ケーブル長測定装置の最良の形態について説明する。なお、測定対象の多芯ケーブルとしてLANケーブル1を一例に挙げて説明する。
【0013】
最初に、測定対象のLANケーブル1の構成について、図1を参照して説明する。LANケーブル1は、2本ずつ撚り合わされて4対のツイストペア(同図では一例として2対のみを表示している)に形成された8本の絶縁線(導線が絶縁樹脂で被覆されたもの)2,2・・・を備えて構成されている。また、LANケーブル1は、その両端に第1コネクタ3と第2コネクタ4とが配置され、各コネクタ3,4の各ピンに予め規定した対応関係で各絶縁線2,2・・・の両端部がそれぞれ接続されている。具体的には、8本の絶縁線2,2・・・は、各コネクタ3,4の同一ピン番号のピン間に一対一の接続状態で接続されている。また、各コネクタ3,4の1番ピンと2番ピンに接続される一対の絶縁線2,2がツイストペアに形成されている。また、同様にして、各コネクタ3,4の3番ピンと6番ピン、4番ピンと5番ピン、および7番ピンと8番ピンに接続される一対の各絶縁線2,2がそれぞれツイストペアに形成されている。
【0014】
次に、多芯ケーブル長測定装置(以下、「測定装置」ともいう)11の構成について、図1を参照して説明する。
【0015】
測定装置11は、図1に示すように、検査用コネクタ12、パルス信号生成部13、ステップ信号生成部14、信号切替部15、信号選択部16、信号検出部17、検出抵抗18、電圧測定部19、処理部20および表示部21を備え、LANケーブル1の長さを検査可能に構成されている。この場合、検査用コネクタ12は、LANケーブル1における各コネクタ3,4のいずれにも(同図では第1コネクタ3に接続されている)が接続可能(装着可能)に構成されている。
【0016】
パルス信号生成部13は、図2に示すように、処理部20の制御下でパルス信号(同図では正極性のパルス信号)S1を生成する。具体的には、パルス信号生成部13は、処理部20から出力される制御信号S2に同期して、一定のパルス幅(例えば10ns)であって、かつパルス信号S1(ピークの電圧V1)を生成して出力する。ステップ信号生成部14は、図3に示すように、処理部20の制御下でステップ信号(同図では正極性のステップ信号)S3を生成する。具体的には、ステップ信号生成部14は、処理部20から制御信号S4を入力すると同時に、ステップ信号S3(電圧V2)を生成して出力する。また、ステップ信号生成部14は、処理部20が制御信号S4の出力を停止したときには、ステップ信号S3の生成を停止する。
【0017】
信号切替部15は、一例として2入力1出力型の切替スイッチで構成されて、パルス信号生成部13から出力されたパルス信号S1、およびステップ信号生成部14から出力されたステップ信号S3を入力すると共に、処理部20の制御下で、これらの信号S1,S3のうちのいずれか一方を選択して、試験用信号Sinとして出力端子(図示せず)から信号選択部16に出力する。具体的には、信号切替部15は、常時はパルス信号S1を選択する状態にあって、処理部20から制御信号S5を入力しているときにのみ、ステップ信号S3を選択して出力する状態に移行する。
【0018】
信号選択部16は、一例として、試験用信号Sinを入力して検査用コネクタ12の任意のピンに出力する1入力8出力型のセレクタと、検査用コネクタ12の各ピンから入力した信号の1つを測定用信号Soutとして出力する8入力1出力型のセレクタ(いずれも図示せず)とを備え、処理部20から出力される制御信号S6に基づいて、各セレクタを作動可能に構成されている。これにより、信号選択部16は、処理部20の制御下で、LANケーブル1を構成する任意の1本の絶縁線2の一端(図1における左端。本発明における近端)に信号切替部15の出力端を電気的に接続し、かつLANケーブル1を構成するすべての絶縁線2のうちの任意の1本の絶縁線2の一端を検出抵抗18および電圧測定部19に電気的に接続可能に構成されている。
【0019】
信号検出部17は、一例として、信号切替部15の出力端子に接続されて、この出力端子(信号選択部16および検査用コネクタ12を介してこの出力端子と電気的に接続された1つの絶縁線2の一端)に発生する電圧と予め設定されたしきい値Vth(≦V1)とを比較するコンパレータ(図示せず)を備えて構成されている。この構成により、信号検出部17は、信号切替部15から出力された試験用信号Sinと、試験用信号Sinの出力に起因して絶縁線2の一端(入力端)に発生する反射信号Srとを検出して、図2に示すように、試験用信号Sinに同期するスタート信号Ss1と、反射信号Srに同期するストップ信号Ss2とを生成して処理部20に出力する。
【0020】
検出抵抗18は、信号選択部16における測定用信号Soutの出力端子(本例では、8入力1出力型のセレクタの出力端子)とグランドとの間に接続されている。電圧測定部19は、A/D変換器(図示せず)を備えて構成されて、検出抵抗18の両端間に発生する測定用信号Soutの電圧を所定のサンプリング周期で測定する。また、電圧測定部19は、測定した電圧を示す電圧データDvを処理部20に出力する。
【0021】
処理部20は、CPUおよびメモリ(いずれも図示せず)を備えて構成されて、LANケーブル1に対する長さ測定処理および長さ判別処理とを実行する。この場合、メモリには、絶縁線2内での電気信号の伝搬速度データと、長さ判別処理において使用する第1の時間T1および第1の時間T1よりも長い第2の時間T2を示す時間データと、基準電圧Vrefの値とが予め記憶されている。また、処理部20は、長さ測定処理において測定したLANケーブル1の長さや、長さ判別処理における判別結果を表示部21に表示させる表示処理も実行する。表示部21は、例えばLCDで構成されている。
【0022】
次いで、測定装置11の動作について説明する。
【0023】
まず、測定に先立ち、第1コネクタ3を検査用コネクタ12に接続することにより、LANケーブル1を測定装置11に接続する。また、LANケーブル1の第2コネクタ4にターミネータ31を接続する。この場合、ターミネータ31は、少なくともツイストペアに形成された各絶縁線2,2について、その他端(図1における右端。本発明における遠端)同士を抵抗32を介して接続するように構成されている。また、各抵抗32は、その抵抗値が各絶縁線2の特性インピーダンスと不整合となるように予め設定されている。
【0024】
この状態において、測定装置11の電源が投入されると、処理部20は、まず、制御信号S6を信号選択部16に出力することにより、長さ測定の対象とする1本の絶縁線2の一端側を信号切替部15に接続し、かつこの絶縁線2とツイストペアを構成する他方の絶縁線2の一端側を検出抵抗18および電圧測定部19に接続する。また、信号検出部17は、長さ測定の対象となる絶縁線2の一端側に発生する試験用信号Sinおよびこの試験用信号Sinについての反射信号Srの検出動作を開始する。また、電圧測定部19は、検出抵抗18の両端間に発生する電圧、すなわち信号選択部16を介して電圧測定部19等に接続された他方の絶縁線2の一端側に発生する電圧の測定動作を開始する。
【0025】
続いて、処理部20は、長さ測定の対象とする1本の絶縁線2についての長さ測定処理を実行する。この長さ測定処理では、処理部20は、制御信号S2を出力することにより、パルス信号生成部13に対してパルス信号S1の生成および出力を開始させる。パルス信号生成部13から出力されたパルス信号S1は、信号切替部15から試験用信号Sinとして出力されて、信号選択部16および検査用コネクタ12を介して、測定対象の絶縁線2の一端側に注入される。この場合、上記したように抵抗32の抵抗値が絶縁線2のインピーダンスと不整合となる値に設定されているため、絶縁線2に注入された試験用信号Sin(パルス信号S1)は、絶縁線2を伝搬した後、絶縁線2の他端(詳細には抵抗32との接合部位)において反射して、一端側に伝搬する。したがって、LANケーブル1の長さが測定装置11の測定範囲内にあるときには、図2に示す期間Wの波形が示すように、絶縁線2の一端側には、試験用信号Sinに遅れて(試験用信号Sinと分離した状態で)、その反射信号Srが、そのピーク電圧がしきい値Vthを超えた状態で発生する。
【0026】
信号検出部17は、この一端側に発生する電圧としきい値Vthと比較することにより、絶縁線2の一端側に発生する試験用信号Sinおよび反射信号Srを検出すると共に、試験用信号Sinおよび反射信号Srにそれぞれ同期したスタート信号Ss1およびストップ信号Ss2を生成して処理部20に出力する。
【0027】
処理部20は、スタート信号Ss1の入力時点からストップ信号Ss2の入力時点までの経過時間Tp1を計測し、次いで、この経過時間Tp1の1/2の時間と、メモリに記憶されている絶縁線2内での電気信号の伝搬速度データとに基づいて、測定対象の絶縁線2の長さを算出する。これにより、1本の絶縁線2についての長さ測定処理が完了する。最後に、処理部20は、算出した絶縁線2の長さをLANケーブル1の長さとして、表示部21に表示させる。これにより、LANケーブル1の長さ測定が完了する。なお、上記した絶縁線2の長さ測定処理を、制御信号S6を出力して信号選択部16の接続状態を制御しつつ、複数(本例では、2本以上8本以下のいずれかの数)の絶縁線2について実行すると共に、測定した各絶縁線2の長さを平均してLANケーブル1の長さとすることもできる。
【0028】
一方、LANケーブル1の長さが測定装置11の測定範囲の下限値未満のときには、図2に示す期間Xの波形が示すように、絶縁線2の一端側には、試験用信号Sinに対する遅延時間が極めて短い状態で、試験用信号Sinの反射信号Srが発生する。このため、試験用信号Sinに反射信号Srが重畳した状態となる結果、信号検出部17から出力されるスタート信号Ss1およびストップ信号Ss2も重なり合う。この場合、処理部20は、互いに重なったスタート信号Ss1およびストップ信号Ss2を1つのスタート信号として経過時間Tp1の計測を開始するが、ストップ信号Ss2を検出できないため、絶縁線2の長さ、ひいてはLANケーブル1の長さの測定が不能となる。
【0029】
また、逆に、LANケーブル1の長さが測定装置11の測定範囲の上限値を超えているときには、絶縁線2中での試験用信号Sinおよび反射信号Srの減衰量が大きくなるため、図2に示す期間Yの波形が示すように、絶縁線2の一端側に発生する反射信号Srの電圧がしきい値Vthに達しない状態となる。この場合においても、信号検出部17からスタート信号Ss1は出力されるものの、ストップ信号Ss2が出力されない。このため、処理部20は、ストップ信号Ss2を検出できないため、絶縁線2の長さ、ひいてはLANケーブル1の長さの測定が不能となる。
【0030】
したがって、処理部20は、経過時間Tp1の計測開始から予め設定された時間(上限時間)を超えてもストップ信号Ss2が入力されずに、その結果として、経過時間Tp1の計測、ひいてはLANケーブル1の長さを測定できないときには、LANケーブル1の長さが測定装置11の測定範囲の下限値未満であることに起因して絶縁線2の長さの測定が不能なのか、または測定範囲の上限値を超えることに起因して測定が不能なのかを特定するための長さ判別処理を実行する。
【0031】
この長さ判別処理では、処理部20は、まず、制御信号S5を信号切替部15に出力することにより、検査の対象となっている1本の絶縁線2の一端の接続先を、パルス信号生成部13からステップ信号生成部14に切り替える。
【0032】
次いで、処理部20は、制御信号S4を出力することにより、ステップ信号生成部14に対してステップ信号S3の生成および出力を開始させる。また、同時に、処理部20は、制御信号S4を出力した時点からの経過時間Tp2の計測を開始する。この場合、ステップ信号生成部14は、上記したように、制御信号S4の入力と同時にステップ信号S3の生成および出力を開始するため、処理部20で計測する経過時間Tp2は、ステップ信号S3の出力開始からの経過時間と等価となる。
【0033】
ステップ信号生成部14から出力されたステップ信号S3は、信号切替部15から試験用信号Sinとして出力されて、信号選択部16および検査用コネクタ12を介して、測定対象となっている絶縁線2の一端側に注入される。その後、ステップ信号S3は、この絶縁線2、ターミネータ31の抵抗32、この絶縁線2とツイストペアを構成している他方の絶縁線2、検査用コネクタ12および信号選択部16を経由して、信号選択部16から測定用信号Soutとして検出抵抗18に出力される。この場合、測定用信号Soutは、信号切替部15から信号選択部16、一方の絶縁線2、ターミネータ31および他方の絶縁線2までの経路全体の合成抵抗(主として2本の絶縁線2の抵抗の合計)と、検出抵抗18とでステップ信号S3の電圧V1を分圧した電圧となる。電圧測定部19は、この測定用信号Soutの電圧を測定して、電圧データDvを処理部20に出力する。
【0034】
続いて、この長さ判別処理において、処理部20は、計測している経過時間Tp2がメモリに記憶されている第1の時間T1に達したときの電圧データDvに基づいて、第1の時間T1のときの測定用信号Soutの電圧Vt1を算出してメモリに記憶する。また、処理部20は、第2の時間T2に達したときの電圧データDvに基づいて、第2の時間T2のときの測定用信号Soutの電圧Vt2を算出してメモリに記憶する。また、この際、処理部20は、さらに両電圧Vt1,Vt2の電圧差Vdifを算出して、メモリに記憶する。
【0035】
この場合、各絶縁線2には、直流抵抗成分と共にインダクタンス成分も含まれ、これらの各成分は絶縁線2が長くなるに従って大きくなる。このため、測定用信号Soutは、絶縁線2のインダクタンス成分が大きくなるに従って立ち上がる速さが遅くなり(立ち上がり時間が長くなり)、その結果、電圧が一定となるまでの時間が長くなる。
【0036】
したがって、例えば、測定装置11の測定範囲の下限値の長さのLANケーブル1についての測定用信号Soutの波形を予め実験で測定して求め、この波形に基づいて、例えば、第1の時間T1については、図3に示すように、測定用信号Sout(同図中の符号aで示す信号)の立ち上がりが完了する時間とほぼ同じ時間に設定する。また、第2の時間T2については、第1の時間T1よりも若干遅い時間として設定する。例えば、測定範囲の上限値の長さのLANケーブル1についての測定用信号Soutの波形を予め実験で測定して求め、この波形に基づいて、例えば、図3に示すように、測定用信号Sout(同図中の符号bで示す信号)の立ち上がりが完了する時間とほぼ同じ時間に第2の時間T2を設定する。
【0037】
これにより、測定範囲の下限値未満のLANケーブル1については、その測定用信号Sout(図3中の符号cで示す破線の信号)は波形aよりも早く立ち上がりが完了するため、第1の時間T1における波形cの電圧Vt1および第2の時間T2における波形cの電圧Vt2は共に電圧V3となり、電圧Vt1および電圧Vt2の電圧差Vdifはほぼゼロボルトとなる。一方、測定範囲の上限値を超えるLANケーブル1については、その測定用信号Sout(図3中の符号dで示す一点鎖線の信号)は波形aよりも緩やかに立ち上がるため、第1の時間T1においては立ち上がりが完了しない結果、第1の時間T1における電圧Vt1と、第2の時間T2における電圧Vt2との間には必ず電圧差Vdif(≠0ボルト)が発生する。したがって、メモリに記憶されている基準電圧Vrefを、ゼロボルトを若干超える値に設定しておくことにより、第1の時間T1における電圧Vt1と第2の時間T2における電圧Vt2との間の電圧差Vdifと基準電圧Vrefとを比較することで、LANケーブル1の長さが測定装置11の測定範囲の下限値未満であるか否かを判別することができる。
【0038】
次いで、処理部20は、電圧差Vdifをメモリに記憶した後に、制御信号S4の出力を停止することにより、ステップ信号生成部14に対してステップ信号S3の生成を停止させ、続いて、上記の判別手法に基づいて、電圧差Vdifと基準電圧Vrefとを比較することで、LANケーブル1の長さを判別する。具体的には、処理部20は、電圧差Vdifが基準電圧Vref未満のときには、LANケーブル1は測定装置11についての測定範囲の下限値未満の長さであると判別し、一方、電圧差Vdifが基準電圧Vref以上のときには、測定範囲の上限値を超える長さであると判別する。最後に、処理部20は、この判別結果を表示部21に表示させて、この長さ判別処理を終了する。
【0039】
このように、この測定装置11では、LANケーブル1が短すぎるために試験用信号Sin(パルス信号S1)に反射信号Srが重畳することに起因して、また逆にLANケーブル1が長すぎるために反射信号Srの減衰が大きいことに起因して、LANケーブル1の長さの測定が不能となるときに、処理部20が、ステップ信号生成部14を制御して、LANケーブル1を構成する複数の絶縁線2のうちの1本の絶縁線2の一端側にステップ信号S3を注入させると共に、ターミネータ31によって他端側でこの1本の絶縁線2に接続された他の1本の絶縁線2の一端に伝搬するステップ信号S3(測定用信号Sout)の電圧を、ステップ信号S3の注入時点から第1の時間T1を経過した時点、および第1の時間T1よりも長い第2の時間T2を経過した時点で測定すると共に、各電圧の電圧差Vdifを算出して、電圧差Vdifが予め設定された基準電圧Vref未満のときにLANケーブル1が測定範囲の下限値未満の長さであると判別する。したがって、この測定装置11によれば、LANケーブル1の長さの測定が不能のときに、ステップ信号S3を一回注入するだけで、LANケーブル1が短かすぎることが測定不能の原因であるか否かを短時間でしかも確実に判別することができる。
【0040】
また、この測定装置11では、処理部20が、上記の電圧差Vdifが基準電圧Vref以上のときにLANケーブル1が予め設定された上限値を超える長さであると判別する。したがって、この測定装置11によれば、LANケーブル1の長さの測定が不能のときに、ステップ信号S3を一回注入するだけで、LANケーブル1が短かすぎることが測定不能の原因なのか、逆にLANケーブル1が長すぎることが測定不能の原因なのかを短時間でしかも確実に判別することができる。
【0041】
なお、本発明は、上記した発明の実施の形態に限定されず、適宜変更が可能である。例えば、上述した実施の形態では、電圧差Vdifと基準電圧Vrefとに基づいて、LANケーブル1が測定範囲の下限値未満の長さであるのか、または上限値を超える長さであるのかの双方について判別する構成を採用しているが、いずれか一方のみについて判別する構成を採用することもできる。また、第1の時間T1に達したときの測定用信号Soutの電圧Vt1と、第2の時間T2に達したときの測定用信号Soutの電圧Vt2との電圧差Vdifに基づいて、LANケーブル1の長さを判別する構成を採用しているが、経過時間Tp2が第1の時間T1に達したときの測定用信号Soutの電圧Vt1にのみ基づいて、LANケーブル1の長さを判別する構成を採用することもできる。この構成では、第1の時間T1に達したときの測定用信号Soutの電圧Vt1が所定の基準電圧値よりも高いときにはLANケーブル1が短かすぎることが測定不能の原因と判別し、逆に第1の時間T1に達したときの測定用信号Soutの電圧Vt1が所定の基準電圧値よりも低いときにはLANケーブル1が長すぎることが測定不能の原因と判別する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ターミネータ31を含む測定装置11、およびLANケーブル1の構成を示すブロック図である。
【図2】処理部20による長さ測定処理を説明するための波形図である。
【図3】処理部20による長さ判別処理を説明するための波形図である。
【符号の説明】
【0043】
1 LANケーブル
2 絶縁線
13 パルス信号生成部
14 ステップ信号生成部
17 信号検出部
19 電圧測定部
20 処理部
32 抵抗
Vdif 電圧差
Vref 基準電圧
S1 パルス信号
S3 ステップ信号
Sr 反射信号
Tp 経過時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の絶縁線を有する多芯ケーブルの一端側が、当該多芯ケーブルの他端側において前記複数の絶縁線の内の少なくとも2本の絶縁線の遠端同士が抵抗を介して接続された状態で接続可能に構成され、
パルス信号を生成して前記2本の絶縁線の内の一の絶縁線の近端に注入するパルス信号生成部と、
前記注入される前記パルス信号および前記近端に発生する前記パルス信号の反射波信号を検出する信号検出部と、
前記信号検出部による前記パルス信号の検出時点から前記反射信号の検出時点までの経過時間を算出すると共に当該経過時間に基づいて前記一の絶縁線の長さを算出して前記多芯ケーブルの長さを測定する処理部とを備えた多芯ケーブル長測定装置であって、
ステップ信号を生成して前記一の絶縁線の前記近端に注入するステップ信号生成部と、
前記2本の絶縁線の内の他の絶縁線の近端に伝達する前記ステップ信号の電圧を測定して出力する電圧測定部とを備え、
前記処理部は、前記ステップ信号の注入時点から第1の時間を経過した時点、および当該第1の時間よりも長い第2の時間を経過した時点での前記ステップ信号の各電圧を前記電圧測定部に対して測定させると共に当該各電圧の電圧差を算出して、当該電圧差が予め設定された基準電圧未満のときに前記多芯ケーブルが予め設定された下限値未満の長さであると判別する多芯ケーブル長測定装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記電圧差が前記基準電圧以上のときに前記多芯ケーブルが予め設定された上限値を超える長さであると判別する請求項1記載の多芯ケーブル長測定装置。
【請求項3】
複数の絶縁線を有する多芯ケーブルの一端側が、当該多芯ケーブルの他端側において前記複数の絶縁線の内の少なくとも2本の絶縁線の遠端同士が抵抗を介して接続された状態で接続可能に構成され、
パルス信号を生成して前記2本の絶縁線の内の一の絶縁線の近端に注入するパルス信号生成部と、
前記注入される前記パルス信号および前記近端に発生する前記パルス信号の反射波信号を検出する信号検出部と、
前記信号検出部による前記パルス信号の検出時点から前記反射信号の検出時点までの経過時間を算出すると共に当該経過時間に基づいて前記一の絶縁線の長さを算出して前記多芯ケーブルの長さを測定する処理部とを備えた多芯ケーブル長測定装置であって、
ステップ信号を生成して前記一の絶縁線の前記近端に注入するステップ信号生成部と、
前記2本の絶縁線の内の他の絶縁線の近端に伝達する前記ステップ信号の電圧を測定して出力する電圧測定部とを備え、
前記処理部は、前記ステップ信号の注入時点から第1の時間を経過した時点、および当該第1の時間よりも長い第2の時間を経過した時点での前記ステップ信号の各電圧を前記電圧測定部に対して測定させると共に当該各電圧の電圧差を算出して、当該電圧差が予め設定された基準電圧以上のときに前記多芯ケーブルが予め設定された上限値を超える長さであると判別する多芯ケーブル長測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−96126(P2008−96126A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274556(P2006−274556)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】