説明

多重ゆらぎ解析方法および装置

【課題】心電信号のようなランダムノイズを含む多重ゆらぎ信号から独立なゆらぎ信号を導くとき、非定常性の信号を連続な周波数成分に分解するDFTやWavelet変換法では時間局所性に優れたゆらぎ解析は困難であった。
【解決手段】心電信号のような概周期信号には、フーリエ級数項がR=極値数/2で与えられる規格化信号が存在するため、極値・特異点の検出時刻情報による周期化のスケール変換と規格化のスケール変換とによってゆらぎ信号を特定する手段と、ランダムノイズやスケール変換による変調されエイリアスされる信号を偏りなく保存し、局所形態を再生するSFT法を用いる手段とによるゆらぎ解析法を達成し、多導出の心電信号の生成される時間内に解析する装置の構成と、ゆらぎ信号を規格化信号とゆらぎ情報に高能率に圧縮する手段によって、実用的なリアルタイム性と多機能性の情報と高能率な記録・再生のゆらぎ解析を達成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的なゆらぎ信号の解析の方法および心電信号の多重ゆらぎ解析によってゆらぎ信号と時間ゆらぎ、強度ゆらぎを導く方法・装置およびゆらぎ信号の高能率符号化の方法の信号処理に関する。
【背景技術】
【0002】
信号のフーリエ成分を三角波に減少させる
【特許文献1】の手段を改良して、極値数/2項のフーリエ級数の規格化信号に変換するスケール変換とその高能率符号化法と、実時間フーリエ変換法
【特許文献2】による多重尺度計測を組み合わせたゆらぎ解析法を提供することを目的とする。
【特許文献1】特願2002−141603
【特許文献2】特開63−282881
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ゆらぎ信号の形態が規格化信号の時刻や強度の変数変換によって表現されるとき、m種類の固有な規格化信号が独立にゆらぐ心電信号のような多重ゆらぎ信号が存在するが、逆に、多重ゆらぎ信号からm種類の独立なゆらぎ信号を導くことができないという問題があった。そこで本発明は、多重ゆらぎ信号を2種類の独立なゆらぎ信号に分解する方法の提供と、分解した信号にこの方法を反復適用することで、m種類の独立なゆらぎ信号を導く方法とその装置の提供を目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0004】
ゆらぎ信号に標準信号と、極値・特異点情報を基に、多重ゆらぎ信号を標準信号に変換するスケール変換と、その形態を特徴づける2r個の極値と数十個の特異点とを定義し、標準信号の2r個の極値と同じ極値を取るr項のフーリエ級数の規格化信号に導くスケール変換との2種類のスケール変換の組み合わせることで、多重ゆらぎに含まれる特定のゆらぎ成分を規格化信号に周期化し、r項のフーリエ成分を強調すると同時に他のゆらぎのフーリエ成分を広帯域に分配させるスケール変換による手段と、さらに規格化信号を観測する窓幅を拡大することで、分散効果を増強させる手段とにより、特定のゆらぎ成分に他のゆらぎの成分の干渉を減じ、フーリエ解析との組み合わせによって2つのゆらぎ成分に分解する手段により課題を解決する。

【発明の効果】
【0005】
上述の手段によってS/N比(信号:雑音比)の高いゆらぎ信号の分解を達成できるために、この手段により分離した低域ゆらぎ信号を連結した連続信号にこの手段を反復適応することで、高域から低域周波数のゆらぎへと次々にゆらぎ信号を導く効果がある。また、多種類のゆらぎ信号の極値・特異点情報からm種類の時刻ゆらぎ情報を導く方法、多導出に適用してm種類のゆらぎ信号の導出分布が導く方法、さらに、ゆらぎ信号の極値・特異点情報と規格化信号の振幅・位相のフーリエ成分とが高能率な信号の符号化法として、高能率にm種類のゆらぎ信号を再生することを達成する効果がある。

【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
心電信号は心筋の興奮、換気、肺気量、血液還流と関連する多種類の信号が含まれ、それらは生体調節によって相互に独立した固有のゆらぎを持つ多重ゆらぎ信号であることが知られているために、心電信号に特化したゆらぎ信号解析の方法と装置を示す。心電信号の多重ゆらぎ解析を実施する装置の構成を図1にその解析フローチャートを図2に、その装置を図3〜図6に、心電図と基線動揺とのゆらぎ解析例を図7に、強度スケール変換を加えて基線動揺から換気信号と換気残渣とを導いた例を図8、また、3導出の換気・換気残渣のゆらぎ信号を図9に、心電図の極値・特異点から導かれるゆらぎ情報との解析例を図10に示す。
ゆらぎ解析装置は図3のUSB出力の心電計(Imput Box EE−30フクダ電子K.K開発)、図4のUSBデータレコーダ基板(IMU−USB−PCI)および図5のSFT解析基板(MEIMU−PCI)3枚(アドテックシステムサイエンスK.K.試作)および図6の基板PC(NUPRO850)からなる。基板PCは32BITのダブルコアCPUで上述のPCI基板を制御する方法により、最適ゆらぎ信号解析の環境を整えた。即ち、解析演算と多導出の信号入力の並列処理、および、複数のSFT基板による並列演算による多導出信号の同時演算処理を達成して、図2に示したゆらぎ解析アルゴリズムによる長時間の連続計測を実現した。先ず、心電信号を心電図と基線動揺とに分解するプロセスは、k個の心拍窓で行われる。図2のi<kのループは、iは心拍番号を表わし、極値・特異点の検出 (Peak Detects)と適応・固有スケール変換τ=o(a(t))をk回行ってk個の心拍の変換信号を導く過程である。図7に、心電信号(a)から検出した極値・特異点によって、心電図成分が標準信号に周期化され、(b)規格化される(c)と同時に、基線動揺のフーリエ成分が広帯域に分散される状況である。さらに逆スケール変換によって心電図(f)と基線動揺(g)とが再生され、これらの信号の和は源信号に復元する。
個を超えたs<sのループでは、SFT解析によって、変換された心電図(d)と基線動揺(e)に分解され、逆固有・逆適応スケール変換(Inv. Trans)によりゆらぎ心電図(f)と基線動揺(g)とを導く過程であるのだが、同時に基線動揺をs回連結して0.5Hzの移動平均によって低域の基線動揺(図4(i))を導く過程(Moving Ave)である。ここに、変数sは反復回数でsを超えると基線動揺に含まれる換気も極値・特異点が検出され心電図と同様にτJ+1=oJ+1(aJ+1(t))の換気の適応・固有スケール変換(図4(a)(b))によって規格化されるが、図8に示す強度スケール変換u(τJ+1)によって一換気ごとの信号強度を均一化させ換気成分を規格化の余弦波に変換し(図8(c))SFTによって変換信号の換気(図8(d))と換気残渣に分解し、逆強度・逆固有・逆適応のスケール変換(Inv. Trans)(図8(e)(f)(g))によって換気と換気残渣(図8(h))を導く過程である。r<nのループは換気残渣を連結してより低域ゆらぎを観測するためのループである。
図9は、V1,V4,V6導出の基線動揺(図9(a))だが、スパイロメータによる実測の換気(図9(d))と較べると導出方向と換気の相互関連が導かれる。また、スパイロメータの実測の換気曲線(図9(d))と換気波形が類似し、換気、換気残渣共に導出方向の空間的な換気分布と関連した情報が導かれる。極値検出アドレスから導かれる心電図および換気の時間ゆらぎを図10に、速く浅い換気(図10(a))と遅く深い換気(図10(b))について示した。多導出において、時刻ゆらぎが同一形態になるが、これは心臓や換気の時間ゆらぎを極値・特異点で表現できることを表す。また、心電図のゆらぎは、1心拍の各波から、換気、換気残渣に関連する広帯域のゆらぎが導かれ、換気ゆらぎでは、吸息と呼息に関連するゆらぎなど、換気に固有なゆらぎが導かれると同時に、心電図と換気の低域ゆらぎ(図10(a),(b))のように換気様式によって同じ変化を観測できるなど、ゆらぎの相互関連が導かれる。このように本発明は多機能なゆらぎ情報をリアルタイムに提供する効果があり、さらに、図8に示した換気信号の再生のように、ゆらぎ信号は心電図、換気の特異点の情報およびSFTによる振幅・位相のフーリエ成分によって高能率に符号化される。
(解析原理に統計的フーリエ変換を選択する数学的な根拠)
一般に、ランダム信号のフーリエ成分は帯域に一様に分布し、ガウスの標本化定理から、分布N(m,σ)のランダム信号n個の標本平均の分散はσ/nで与えられることは周知である。
一方、最大解析項数nでのランダム信号の統計的フーリエ変換(SFT)による1〜n項までの瞬時フーリエ成分はランダム軌跡であり、そのエネルギ分配は、σ/i(i=1,…,n)に分配され、そのn項のフーリエ成分の和はもとのランダム信号に復帰するアルゴリズムである。このSFTの項分配則が高域のエイリアス信号による効果であることを証明する。
さて、ランダム信号が充分に大きなN項(N>>n)の連続なフーリエ級数で表現されるときi項の整数倍の、n 項より大きい高域のフーリエ成分は(N−n)/i項だけ存在する。したがって、それらのフーリエ成分はi番目の多重尺度のエイリアス成分となる。一方、ランダム信号の連続なフーリエ成分がN項に一様に分配されるとき、i項目に分配される成分はσ/Nである、したがって、i項のSFT成分は、i項に一様に分配された連続なσ/Nとi項にエイリアスされた(σ/N)×(N−n)/i個の成分からなるために、充分大きいNであればσ(1/N +(1−n/N)/i) ≈ σ/iとなる。即ち、SFTで観測されるランダム軌跡のi項のフーリエ成分がσ/iとなるのは、帯域Nのランダム信号の連続なフーリエ成分は帯域に一様に分布するが、多重尺度にエイリアス成分が分配されることでSFTのフーリエ成分がσ/iになる。一方i=nを考えると、これはガウスの標本化定理にしたがって、多重尺度の標本平均の分散がσ/nになることと対応する。以上から、SFTのフーリエ項分配則が高域のエイリアス信号による効果であることがわかる。以上からSFTはランダム信号の高域成分を保存し、窓の境界の基線動揺の低域成分による不連続性が高域フーリエ成分で表現されていても、時間軌跡の信号連結によって低域のフーリエ成分に変換され、連結基線動揺が多重ゆらぎ信号の低域成分を保存する。

【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】PCIディバイスによる装置の構成図
【図2】同装置の解析方法の手順を表すフローチャート
【図3】USB出力心電計基板(Input Box EE−30)
【図4】USBデータレコーダ基板(IMU−USB−PCI)
【図5】SFT解析基板(MEIMU−USB−PCI)
【図6】PC制御、解析ソフトウエア用PC基板とPCIディバイス
【図7】心電図と基線動揺とのゆらぎ解析の例
【図8】基線動揺から換気信号と換気残渣とを導く処理例
【図9】3導出の換気・換気残渣のゆらぎ信号(強度スケール変換あり)
【図10】換気パターンの違いによる心電図および換気時間ゆらぎの例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心電信号のP波からU波までの極値・起点・終点、急峻点・変曲点などの特異点と、R項のフーリエ級数からなる標準的な形態の心電信号を定義し、観測信号の時間ゆらぎを標準信号の検出特異点のゆらぎとして表現するスケール変換と、R項の標準信号の形態を2r(R>2r)個の極値からなるr項に項数を減少させた規格化信号への時刻のスケール変換とを導き、連続する数十拍の心電信号を1拍ごとにこれら2種類の時間スケール変換と、信号強度を均一化する測定強度のスケール変換とによって、心電信号をr項の規格化フーリエ成分に集約させ、同時に基線動揺を広帯域の他のフーリエ成分に分散させる方法と統計的フーリエ変換法との組み合わせによって変換スケール上で心電図と基線動揺とを分離し、逆スケール変換によって心電図と基線動揺とに分離するゆらぎ解析の方法と装置。

【請求項2】
請求項1の方法において1拍ごとに均一化する測定強度のスケール変換を行なわずに心電図と基線動揺とを導く方法。

【請求項3】
請求項1の方法によって導かれる基線動揺を連結して数十回の換気信号を含む連続基線動揺を導き、数十回の換気窓幅を基本周期とする請求項1の方法を反復適用して換気と換気残渣とに分解する反復多重ゆらぎ解析の方法と装置。

【請求項4】
請求項1および請求項2において導かれる、極値・特異点の時刻情報と規格化信号の振幅・位相のフーリエ成分によって多重ゆらぎ信号を高能率に符号化する方法と装置。

【請求項5】
多重ゆらぎ解析をリアルタイムに実現する方法と装置。

【請求項6】
多重ゆらぎ解析から心電図、換気、換気残渣のゆらぎ信号、およびこれらの信号の時間ゆらぎを導く方法と装置。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−136778(P2010−136778A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313899(P2008−313899)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(708005219)
【Fターム(参考)】