説明

多重チャネルデジタル処理を有する高周波受信機

高周波ブロードバンド受信機を提供する。アナログ/デジタル変換器は、帯域幅サンプリングに対応する選択されたレートで低ノイズ増幅器の出力に対して働く。処理ステージは、M個のサンプルから成るブロックにおいて選択されたレートで更新される連続デジタルサンプルを収容するように構成された入力メモリと、入力メモリ上で作用してフィルタリング済みデジタルサンプルを供給する選択された遮断周波数を有する複合デジタルローパスフィルタリング機能と、フィルタリング済みかつ加算済みデジタルサンプルを供給するフィルタリング済みデジタルサンプルに対する周期加算機能と、これらのフィルタリング済みかつ加算済みデジタルサンプルに対して作用するM’M離散フーリエ変換ステージとを有するカスタム回路を含み、フーリエ変換の出力に対するデジタル信号は、ローパスフィルタの遮断周波数によって定められる幅を有するM個の別々のチャネルを表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波ブロードバンド受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
各分野に用いられるこの種の受信機において、受信サブシステムは、一般的に、多くの場合にアンテナフィルタを通じてアンテナに結合された低ノイズのフロントエンド増幅器で開始する。次に、処理し易いより低い周波数の有用な信号に達するまで1回又はそれよりも多くの周波数変更が行われる。この有用な信号をその後の処理に向けてデジタル化することが一般的である。
アナログからデジタルへの変換を受信サブシステム内のできる限り上流に配置することが現在の傾向である。様々な公開文献がこの傾向を報告している。
【0003】
この傾向は、特にソフトウエア無線の分野に用いられている。J.Mitolaによる論文「ソフトウエア無線概論、批判的評価、及び将来的方向性」、IEEE国内遠隔システム会議、ワシントンDC、1992年5月19〜20日は、ソフトウエア無線の一般的な原理を説明している。
B.Denby他による論文「ソフトウエア無線有効ブロードキャスト媒体ナビゲータに向けて」、映像/画像処理及びマルチメディア通信に関する第4回EURASIP会議、2003年7月2日〜5日、ザグレブ、クロアチアが公知である。この論文は、コンピュータ制御された特殊なカードを用いてAM帯域の信号をデジタル化し、音楽成分と音声成分を区別するために復調信号を取り出す試みを提案している。
これは、選択された変調周波数を中心とする帯域通過フィルタを用い、かつ得られる信号を破棄することによって行われる。得られる結果は、単一の局が確実には復号されず、これを実施するのにPCを用いる必要があり、これが設定の自立性を制限するので、部分的に満足されるのみである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Mitolaによる論文「ソフトウエア無線概論、批判的評価、及び将来的方向性」、IEEE国内遠隔システム会議、ワシントンDC、1992年5月19〜20日
【非特許文献2】B.Denby他による論文「ソフトウエア無線有効ブロードキャスト媒体ナビゲータに向けて」、映像/画像処理及びマルチメディア通信に関する第4回EURASIP会議、2003年7月2日〜5日、ザグレブ、クロアチア
【非特許文献3】Howland他による論文「FM無線ベースのバイスタティックレーダ」、IEE会報、オンライン第20045077号、IEE2005
【非特許文献4】http://klickitat.ee.washington.ed/Projects/Manastash/、ワシントン大学のManastash計画
【非特許文献5】Y.Zhao他による論文「ソフトウエア定義レーダ用途のための適応的ベースバンドアーキテクチャ」、「IEEE CCECE 2003」会報、モントリオール、2003年5月
【非特許文献6】R.Walke他による論文「ソフトレーダのためのFPGAベースのデジタルレーダ」、「信号、システム、及びコンピュータ2000、第34回アシロマ会議の会議記録」、2000年10月29日〜11月1日、第1巻73〜77ページ
【非特許文献7】JJ.Julie及びR.Sapienza著「レーダ信号のデジタル処理」、「Editions Hermes」、2004年
【非特許文献8】Schuster、J.他著「レーダ信号のデジタル処理の詳細」、「Joint Publications Research Service」、東欧報告(JPRS−EER−860010)、129〜141ページ(N86−20665 11〜32を参照)、1986年
【非特許文献9】M.I.Skolnik著「レーダハンドブック」、第2版、「McGraw−Hill Professional Publishing」、1990年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
デジタル処理を有する無線周波数受信機のこれらの設計は、どの事例においても満足のいくものではない。これは、特に、異なる搬送波から引き出されるいくつかのトラック又はチャネルを同時に受信すべきであるときに当てはまる。本発明は、この状況を改善することを目指すものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のために、低ノイズ増幅器、及びそれに続くアナログ/デジタル変換による処理ステージを含む受信サブシステムを有する種類の高周波受信機を提案する。
アナログ/デジタル変換器は、帯域通過サンプリングに対応する選択されたレート(F_e)で低ノイズ増幅器からの出力に対して作業し、処理ステージは、以下のものを有するカスタム回路を含む。
・M個のサンプルから成るブロックにおいて、選択されたレートで更新されるN個の連続デジタルサンプルを収容するように構成された入力メモリ、
・入力メモリ上で作用してN個のフィルタリング済みデジタルサンプルを供給する、選択された遮断周波数を有する複合デジタルローパスフィルタリング機能、
・M個のフィルタリング済みかつ加算済みデジタルサンプルを供給するN個のフィルタリング済みデジタルサンプルに対するM周期加算機能、及び
・これらM個のフィルタリング済みかつ加算済みデジタルサンプルに対して作用するM×M離散フーリエ変換ステージ。
フーリエ変換のM個の出力に対するデジタル信号は、M個の別々のチャネルを表し、その幅は、上述のローパスフィルタの遮断周波数によって定められる。
本発明はまた、上述の受信機を含むレーダ装置に関する。
本発明の更に別の特徴及び利点は、以下の詳細説明及び添付図面を吟味することで明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】レーダの非常に一般的な計画を示す図である。
【図2】レーダ受信機の一般的なオペレーション図である。
【図3】受信サブシステムが周波数変更の後にデジタル化される図2によるレーダ受信機のオペレーション図である。
【図4】提案する受信機の一実施形態の一般的なオペレーション図である。
【図5】図4の受信機の一部のより詳細な図である。
【図6】デジタル信号の二成分性(I及びQ)を考慮に入れた図4の受信機の別の部分のより詳細な図である。
【図7】図4の受信機において実施される処理の一部の流れ図である。
【図8】1個のトラックに対する出力処理を示す図X−Yを有する図である。
【図9】M個のトラックに対する出力処理を示す図X−Yを有する図である。
【図10】M個の出力トラック上の成分I及びQの復調の一般的なオペレーション図である。
【図11】図4の受信機からの出力信号に適用することができる受動レーダ処理のオペレーティング図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に続く図面及び説明は、基本的に、明確な性質を有する要素を含む。これらの要素は、本発明をより理解し易いものにするための補助的に機能することができるだけでなく、一部の場合には、本発明の限定性に寄与することができる。
図1のレーダシステムでは、送信機1は、理論的に変調された無線周波信号をアンテナ10に供給し、アンテナ10は、ターゲット2を照射する。ターゲット2によって後方散乱される放射線は、受信機3のアンテナ30によって拾われ、同様に受信機3は、発信信号19、又は発信信号を少なくともその時間特性において十分に定める発信信号の電子表現19を受信する。
【0009】
アンテナ30によって拾われた信号又は「エコー」から及び信号19から、受信機は、ターゲット2からの速度及び/又は距離を予測することを可能にする処理を実施する。原理的に、距離の処理は、伝播時間に関連し、速度の処理は、ドップラー効果周波数シフトに関連する。
レーダ受信機の一般的な構成を図2に示す。アンテナ30及びその任意的な無線周波数帯域通過フィルタの後には、一般的に低ノイズ高周波増幅器33があり、増幅器33の後には、少なくとも1つの周波数変更段35(又は「中間周波数」に対するIF)が続く。受信サブシステムの残りの部分は、復調機能37を含み、復調機能37の後には、上記に示すように、ターゲット2からの速度及び/又は距離を判断することを可能にする処理を提供するレーダ処理ステージ8が続く。
【0010】
より詳細には、以下の通りである。
−アンテナ30は、レーダ信号が存在する周波数帯域を選択するために、その帯域通過フィルタ31のように使用帯域に適応される。
−低ノイズ増幅器33は、受信信号のレベルをこの信号をノイズで汚染することなく補正する。
−周波数変更段35は、周波数変換器である。これは、受信信号(一般的に高周波アンテナから到来する)のより低いか又はゼロでさえある、いわゆる中間周波数(IF)への転換を実施する。このステージ35は、ローカル発振器(示していない)の存在を必要とし、これは、一般的に、ローカル発振器と送信機の発振器との間の周波数及び位相の偏差が既知又は特定可能でなければならないという意味において送信機と同期化すべきである。
−発信信号のベースバンドの取り出しのための復調器。
−ターゲットの速度及び距離に関するデータを判断するための処理ブロック。
【0011】
最新のレーダ受信機は、例えば、図3に例示しているようにデジタル化される。中間周波数(IF)におけるステージ35の後には、複素数方式で2つの成分を有することから「複合」と呼ぶアナログ/デジタル変換39がある。殆どの場合、成分I(同位相)と成分Q(直交)が区別される。これらの2つの成分は、正弦曲線信号の振幅及び位相を正確に反映することを可能にする。
デジタル化されたレーダ受信機では、復調機能は、もはやそれほど明確ではない。これが、アナログ/デジタル変換39を処理8の一部と見なす傾向が存在する理由である。次に、これらのデジタル信号に対して実際の処理工程81が実施される。更に、これらは、例えば、デジタル信号プロセッサ型(「デジタル信号プロセッサ」を略して「DSP」、又は「フィールドプログラマブルゲートアレイ」に対する「FPGA」)のものとすることができるプログラマブル回路において少なくとも部分的に実施することができる。
【0012】
レーダの送信機と受信機が互いに近い時には(典型的には同じアンテナを用いる)、これをモノスタティックレーダと呼ぶ。発信場所と受信場所が別々の場合には、バイスタティックレーダという用語を用いる。
別の観点から、自己発信を行う従来のレーダを「能動的」であるという。「受動的」又は待機的レーダという用語は、例えば、以下のもののような他の目的で既に存在する発信を用いるものを指す。
−アナログのラジオ及びテレビ放送信号、FM及びTV、
−デジタルのラジオ及びテレビ放送信号、DAB、DVB−S、及びDVB−T、及び
−GSM信号。
その一方、衛星信号は、利用ためには電力が低すぎるので、現在は用いることができない。
受動レーダは、同時にいくつかの発信を受信するように意図した状況の例である。従って、いくつかの受信サブシステム用いる必要がある。本発明は、より有効な手法を提案することを目指している。
【0013】
図4は、本明細書に提案している受信機の一般的な概略図である。
ここでもまた、使用帯域に適応された(図示していない帯域通過フィルタにより)アンテナ30、次に低ノイズ増幅器33がある。アナログ/デジタル変換器40は、周波数のいかなる事前変更もなしに、低ノイズ増幅器の出力に対して作用する。処理の残りの部分は、以下に説明するように、プログラマブル回路5において実施することができる。出力は、後処理に向けて、通信インタフェース61、更にマイクロコンピュータ63に向けて進めることができる。
【0014】
ここで説明する例では、アンテナ30及び低ノイズ増幅器33は、ONEFORALL−SV9510アンテナ内に統合される。アナログ/デジタル変換器40は、「Analog Devices」によって製造された回路AD9433であり、プログラマブル回路5は、Alteraによって製造され、上述の機能を実施するコンピュータコードを含むように適切にプログラムされた「Stratix EP2S180 FPGA」回路である。FPGAの代わりにASIC型の別の特殊回路を用いることができると考えられる。当業者は認識する他の要素及び回路を用いることもできる。
【0015】
ここで、理解に役立てるために、プログラマブル回路5によって実施される処理を実施例を参照して以下に説明する。この例は、約88から108MHzの範囲にわたるFM帯域として公知である周波数変調無線帯域のものである。送信機は、約200から400kHzで離間している。更に、各々は、約100kHzに制限された変調幅(帯域幅200kHz)で送信を行う。
この例では、アナログ/デジタル変換器40は、43.9MHzのサンプリングレートF_eを有し、14ビットにわたって作用させることができる。従って、サンプリング周期Teは、23ナノ秒よりも若干短い。
更に、処理は、図7を参照して以下に説明する4つのステップS1からS4を含む。
【0016】
S1−フィルタリング
このステップは、アナログ/デジタル変換器40から到来するN個の連続デジタルサンプル(図7の参照番号700)が、N個のステージを有するFIFOメモリ510を連続して埋める(図7のオペレーション702)ユニット51によって実施される。メモリ510を「メモリM1」と呼ぶ。この例では、このメモリM1のサイズは、N×14ビットである。以下に理解されることになる理由から、N=K*Mが存在する。
【0017】
更に、N個の係数が、アナログ/デジタル変換器40から得られたサンプルと同じ精度で511に記憶されている。これらN個の係数は、ローパスButterworth帯域通過フィルタFlpの係数に対応する。このフィルタは、好ましくは有限インパルス応答型(FIR)のものであるが、安定性が重要でない少なくとも一部の場合には、他のフィルタを用いることができる。
この例では、係数の各々の精度は、14ビットであり、遮断周波数Flpは、100kHz、すなわち、FM送信機の変調帯域幅である。
【0018】
メモリ510が一杯である時には、それが収容するN個の取得サンプルは、511に記憶されたそれぞれのN個の係数によって重み付けされる(オペレーション704)。言い換えれば、各フィルタ係数は、逓倍器512を用いて取得サンプルを重み付けされる。
サンプルのフィルタ係数との積の結果は、サイズNのメモリ515内に記録される。信号成分I及びQを反映させるために、フィルタ係数は、本質的に複素数である。その結果、メモリ515の積は、2つの成分I及びQを有する要素として見なければならない。実数フィルタ係数を用いると、当然ながら実数だけの非複素数フィルタリングを実施することが可能になる。
【0019】
S2−加算及び折り返し
処理の次の部分は、メモリ515が一杯である時に発生し、ユニット53によって実施される。更に、メモリ515は、各々M個の要素から成るK個のブロック内へのサンプリングの順序で再分割されると考えられる。
これらK個のブロックは、加算器531によって互いに加算されて、M個の値から成る最終の単一ブロック533を生成する(オペレーション706)。最終ブロックの最初の要素は、K個のブロックの全ての最初の要素の加算に対応する。最終ブロックの第2の要素は、K個のブロックの全ての第2の要素の加算に対応し、以降同様に続く。最終ブロックの最後の要素は、K個のブロックの全ての最後の要素の加算に対応する。
【0020】
S3−離散フーリエ変換
加算及び折り返しステップが完了すると、M個の値のブロックは、M個の点にわたる離散デジタルフーリエ変換(FTD)ブロック55の入力へと送られる(オペレーション708)。
このブロックの出力y(j)は、2つのチャネルI及びQにわたる入力信号の周波数分解に対応する。Iは、信号の周波数分解の実数部分に対応し、Qは虚数部分に対応する。このブロックの出力559は、M個の値を有する2つの信号I及びQに対応する。I及びQの最初の値I0及びQ0は、入力信号のゼロヘルツ成分に対応する。第2の値I1及びQ1は、入力信号のFf/Mヘルツ成分に対応する。第3の値I2及びQ2は、入力信号の2*f/Mヘルツ成分に対応し、以降同様に続く。最後の値IM−1及びQM−1は、入力信号の(M−1)*f/Mヘルツ成分に対応する。
【0021】
S4−チャネリング(MC)
FTDの処理が完了すると、チャネリング(MC)ブロック57が、時間的に結果の逆多重化を実施する(オペレーション710)。図6に示しているように、同じ周波数に対応する値I及びQは、時間にわたって群にまとめられる。このブロックの出力は、I0、Q0、I1、Q1、…、IM−1、及びQM−1(t)に対応する。
チャネリング操作が完了すると、M個のチャネルにわたる結果が、復調のための次のステージへと送られる。この回路は、入力においてM個の新しいサンプルを取得することを可能にする(オペレーション702に戻る)。次にメモリM1は、これらM個の新しいサンプルで埋められ、次に(K−1)*M個の直前のサンプルが続き、その一方で、最初に入力されたM個の前のサンプルは消滅する。この後、ステップS1からS4が繰り返される。
【0022】
上記に解説した510、511、及び515のようなメモリブロックは、処理を説明するのに有用である。明らかではあるが、実際には、これらのブロックは区別する必要はなく、同じメモリの一部とすることができる。同様に、説明した処理は、少なくとも部分的に順次的又は連続的に実施することができる。
機能的には、上述の処理は、下記の場合に上述の非限定的な例を参照して以下の通り説明することができる。
N=8192
K=16
M=512
【0023】
サンプリングは、Fc=43.9MHz、すなわち、約44MHzで実施される。このサンプリングは、以下の表によって表される約88から108MHzのFM帯域上でスペクトルの折り返しを生成する。
【0024】
(表)

【0025】
100kHzにおいて遮断を有するローパスフィルタリングは、上記全てを低周波数の変化に関連付ける。サンプリングレートが43.9MHzであることから、相当量のオーバーサンプリングがある。
従って、サンプルを平均することが可能である。これらの平均は、各平均が構成される時に同じ周期が守られる場合には、互いに比較可能になる。例として提供する公式の式1は、この条件に従っている。

すなわち、FM帯域上に含まれる情報は、低周波数へと凝縮されており、FM搬送波周波数を表すには不十分なサンプリングであるが、これらの周波数の変調を得るにはほぼ十分である。
【0026】
2つの連続する平均は、サンプリング周期Teだけ互いに対して時間においてオフセットされていると見なすことができる。その結果、離散フーリエ変換のオペレーション周波数はFfであり、この例ではFf=51.2MHzである。
M個の点にわたって実施されるフーリエ変換は、M個のチャネルにわたって時間と共に段階的に望ましい変調を解析する。この例では、Ff=51.2MHz及びM=512を用いて、100kHzの512個のチャネルが出力において得られる。
上述のことを鑑みると明らかになるが、FTDのサンプリング周波数とオペレーション周波数とは若干異なる。変形では、この周波数差を考慮に入れるために、メモリ510のサンプルは、ステップS2の前又はステップ中に内挿することができる。
当業者は、これはナイキストサンプリングではなく、搬送波の振幅及び位相を正確に反映することを意図した帯域幅サンプリングであることに気付くであろう。
【0027】
当業者は、WOLAアルゴリズムがFlpに対するFeのオーバーサンプリングに基づいて機能することを理解するであろう。メモリ510のFIFO性を考慮に入れると、方程式(式1)は、サンプリング周波数Fe/Mを用いるローパスフィルタh(j)による各サンプルx(j)の巡回畳み込みとして見ることができる。
その結果、FTDの入力では、M個のサンプルの組が存在し、この組はレートFe/Mで更新される。その一方、これらのサンプルの「周波数感度」又は固有周波数は、初期サンプリングレート、すなわち、Feに関連付けられたままに残る。
従って、全てのr(j)にわたるFTDは、サンプリング周波数Feに対してK個のスペクトル折り返しを識別する。得られる重ね合わせは、各サイクルS1からS4においてK*M個からM個の新しいサンプルだけが更新されることから(K−1)/Kである。それによって良好な時間的結合を維持することが可能になる。
【0028】
この後、信号は、以上に定められた各チャネル上の信号を取り出すために処理される。図8及び図9に示しているように、このブロックは、特定のチャネル上の(図8)又は全てのチャネルにわたる(図9)信号を復調することを可能にする。
復調は、コンピュータ処理によって実施することができ、送信中に用いられる変調の種類に基づいている。
従って、周波数変調(図8)では、データを再現するために接弧型処理が実施される。振幅変調(図9)では、ローパスフィルタを含む包絡線検出器が用いられる。
【0029】
復調手段の実施形態を図10に例示的に示す。復調ユニット59は、各々がブロック57からの出力においてチャネルと関連付けられた一連の対応表LUT(i)を含む。一般的に、表LUT(i)は、512個の別々の表、又は全てのこれらの表を各表に対する識別子を用いて組み合わせる1つの全体表の形態で実施することができる。代替的に、この表を対応する数式で置換することもできる。
各表LUT(i)からの出力において、信号の各対(I(i);Q(i))は、角度を表すデジタル値に対応する。この後、得られる信号は、LUT(i)からの出力における信号周波数及び各チャネル上の復調信号を得ることを可能にするバイパスに送られる。
【0030】
以上の説明は、所定の一連のサンプルの処理に関連して反復する形態のものである。しかし、受信機は、例えば、折り返し及び加算ブロックによって既に処理済みであるサンプルから発する信号をチャネリングして復調すると同時に、その後のサンプルをこの同じブロックによって処理することにより、少なくとも部分的に並列にオペレーションすることができる。
本出願人は、プログラマブル回路5からの出力において得られる信号対雑音比(S/N)が、復調信号に対してレーダ処理を実施することを可能にするレベルにあることを確立した。例えば、実施した実験において60dBのS/Nレベルを達成し、本発明による受信機をFM帯域に適用された受動レーダに適用する価値を確認した。
この回路の出力は、デジタルであり、この出力に適正なタイトルを与えるために、レーダ処理に向けてインタフェース61によってコンピュータ63に接続される。
【0031】
受動レーダは、レーダ受信が、他の理由から地上に存在する1つ又はそれよりも多くの送信機からの発信のターゲットによる後方散乱の結果として発生することからバイスタティックである。レーダ受信は、これらの送信機を待機的に用い、本明細書ではこれらの送信機を「非自発的[レーダ]送信機」と呼ぶことにする。
一般的に、レーダ受信機及び非自発的送信機は同じ場所にはない。更に、レーダ受信機は、非自発的送信機の時間基準を直接持たず、発信信号を受信する時のみを把握し、更に受信機自体の位置及び送信機の位置、及び従って送信機からの受信機の距離、及び従ってこれら2つの間の波の伝達時間を把握する。
【0032】
一方でターゲットによって後方散乱され、レーダアンテナが受信する信号と、他方で非自発的送信機からの直接伝播によって受信機が同様に受信する信号との間の所定の時間差DTを考える。DTによってパラメータ化され、非自発的送信機及びレーダ受信機である焦点を有する楕円上にターゲットが位置することは公知である。この楕円上のターゲットの位置は、受信機が受信する信号の受信方向、すなわち、アンテナ軸に基づいて判断することができる。
【0033】
ターゲットの動きは、パラメータDTを変化させる効果を有する。更に、この動きは、後方散乱信号に対する効果も有し、この効果は、当業者にはドップラー効果として公知である。従って、互いに対して移動している送信機が受信機に発信する信号は、送信機と受信機との相対速度に比例する周波数シフトを受けることは公知である。より正確には、この位相シフトは、送信機−受信機軸上へのこの速度のアフィン投影に基づいている。
【0034】
バイスタティックレーダの場合には、ターゲットは、非自発的送信機及び受信機の両方に対して移動するので、信号は、一方で半径方向の非自発的送信機−ターゲット軸、及び他方でターゲット−受信機軸上へのターゲットの速度ベクトルのアフィン投影から成る2つの成分を有するバイスタティック効果として公知のドップラー効果を受ける。
実際、パラメータDTは、非自発的送信機によって直接発信される信号と、ターゲットによって後方散乱される信号とを相関させることによって特定される。実際、非自発的送信機によって発信される信号の性質に起因して、これらの信号は、これらの信号自体によって相関することしかできない。その結果、パラメータDTを判断するためには、ターゲットによって後方散乱される信号は、バイスタティックドップラー位相シフトを考慮に入れるように修正され、かつ従って非自発的送信機によって発信される信号との相関を可能にすべきである。
【0035】
これらのパラメータを試行錯誤によって判断する1つの方法は、Howland他による論文「FM無線ベースのバイスタティックレーダ」、IEE会報、オンライン第20045077号、IEE2005に説明されている。
要約すると、この論文は、非自発的送信機の使用に起因して幾分特殊な用途におけるバイスタティックレーダの処理を説明している。受動レーダは、異なる公開文献において説明されている。
【0036】
これは、第一に、ワシントン大学のManastash計画が当て嵌まり、その説明は、以下のリンクを用いてアクセス可能である。
http://klickitat.ee.washington.ed/Projects/Manastash/
この計画では、ワシントン大学の電気工学科のJohn Sahr教授は、電離層における変動をモニタするための環境用途専用受動レーダを開発している。
[Y.Zhao他による論文「ソフトウエア定義レーダ用途のための適応的ベースバンドアーキテクチャ」、「IEEE CCECE 2003」会報、モントリオール、2003年5月もそれに当てはまる。この論文は、レーダ信号を受信するためのアナログ無線周波ステージ、アナログ/デジタル変換器、及びデジタル/アナログ変換器、信号(DSP)を処理するように設計されたプロセッサ、並びにコンピュータインタフェースを含む構造を有するレーダ受信機に関して報告している。この構成は、基本的に、様々な種類のFSK、BPSK、PSK、及びCHIRPコーディングをサポートするレーダ信号を受信するために開発されたものである。発信信号の特性は、DSP上にコンピュータプログラムされる。同じ設定が、レーダ信号を送信するのに用いられる。]
【0037】
また、R.Walke他による論文「ソフトレーダのためのFPGAベースのデジタルレーダ」、「信号、システム、及びコンピュータ2000、第34回アシロマ会議の会議記録」、2000年10月29日〜11月1日、第1巻73〜77ページがある。この論文は、計算によるビーム形成に対する専用レーダシステムの構成を説明している。このシステムは、アナログフィルタ、アナログ/デジタル変換器、及びデジタル受信機を装備したN個のアンテナから成る。デジタル受信機は、ローカル発振器及びローパスフィルタを用いてベースバンド変換を実施する。デジタル受信機の出力は、非復調ベースバンド信号である。
【0038】
本発明の範囲内で、図11に示しているように、非自発的送信機から直接受信するチャネリング信号(又は直接信号)、及びターゲットから受信する信号(又は後方散乱信号)は、コンピュータ63又はいずれか他の適切な処理手段によって処理され、各チャネル上の時間差ti及びドップラーシフトΦiが特定される。
差tiは、復調直接信号と復調後方散乱信号とをチャネル毎に相関させることによって得ることができる。ドップラーシフトは、変調直接信号のスペクトルと変調後方散乱信号のスペクトルとをチャネル毎に比較することによって判断することができる。
【0039】
理論的な観点からは、全てのtiは等しくなくてはならず、従って、単一の計算で済ませることができる。しかし、より高い精度を得るために、tiのうちの一部又は全てを特定し、次にこれらを平均することができる。この同じ平均を得るために、一方で復調直接信号を加算し、他方で復調後方散乱信号を加算し、これら2つの加算信号を相関させることができる。
全てのΦi/fi比(ここでfiは、チャネルiの変調周波数である)は理論的に等しいので、同じ平均原理をドップラーシフトに当てはめることができる。しかし、この場合には、単一の操作で平均を得ることができず、最初に全てのΦiを個々に計算する必要がある。
【0040】
復調信号に適用することができるレーダ処理の他の例は、JJ.Julie及びR.Sapienza著「レーダ信号のデジタル処理」、「Editions Hermes」、2004年、Schuster、J.他著「レーダ信号のデジタル処理の詳細」、「Joint Publications Research Service」、東欧報告(JPRS−EER−860010)、129〜141ページ(N86−20665 11〜32を参照)、1986年、又はM.I.Skolnik著「レーダハンドブック」、第2版、「McGraw−Hill Professional Publishing」、1990年という刊行文献に説明されている。他の後処理を用いることもでき、これに対して本明細書で説明する必要はない。
【0041】
上記に提供した説明は、レーダ用途に関連して説明したものである。しかし、当業者は、上述したものを波動伝播のほぼあらゆる「時間的」用途において実施することができることを認識するであろう。
従って、上記に解説した受信機は、空き周波数を得るのに、すなわち、レーダ発信に向けて解放されているチャネルを検索するのに用いることができる。他の用途は、艦船及びレジャー船を検出するためにHF/VHF/UHF領域内でオペレーションするブイ上に位置した受信機の形態にある沿岸レーダを含む。最後に、上記に解説した受信機は、OFDMレーダ及び他の特別な用途において用いることができる。
【0042】
当業者は、これらの用途の範囲内では時間に関して正確であることが極めて重要であることに気付くであろう。従って、いわゆる「複素数」形式、すなわち、(I)と呼ぶ位相成分、及び(Q)と呼ぶ直交成分で信号をデジタル化し、その後の複素数処理を適用することが必要である。
他の用途は、時間精度に関して要求が厳しくなく、直接の実数処理を可能にし、任意的に、この処理は、上述のような複素数処理によって補足することができる。
【0043】
これらの用途は、「オンデマンド無線」の概念、すなわち、単一の受信機を用いて異なる場所における別々のチャネルのブロードキャストを得るFM帯域全体の同時復調を含む。1つの用途は、自動車において各搭乗者が異なる局を単一の受信機から聴取する可能性がある場合に見出すことができる。当然ながら、この用途もRDSを用いることができる。
別の用途は、実際のブロードキャスト又は単純に検出に向けて利用可能な異なるラジオチャネルを試験することを目的とする「コグニティブ無線(cognitive radio)」という概念である。最後に、この受信機は、衝突を阻止するために157MHz〜162MHzの帯域内で88個の25kHzチャネルにわたってオペレーションするAIS受信機として用いることができる。
【0044】
上述のように、当業者は、これらの用途が同じ時間精度を必要とせず、より単純に実施することができることを認識するであろう。
本発明はまた、製品として、いずれかのコンピュータ可読「媒体」(支持体)上に供給された上述のソフトウエア要素も含む。「コンピュータ可読媒体」という用語は、データのための磁気、光学、及び/又は電子記憶支持体、並びにアナログ又はデジタル信号のような送信支持体又は搬送波を含む。
【符号の説明】
【0045】
5 カスタム回路
33 低ノイズ増幅器
40 アナログ/デジタル変換器
55 M’M離散フーリエ変換ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低ノイズ増幅器、及びそれに続くアナログ/デジタル変換を有する処理ステージを含む受信サブシステムを有する種類の高周波受信機であって、
アナログ/デジタル変換器(40)が、帯域通過サンプリングに対応する選択されたレート(Fe)で低ノイズ増幅器(33)からの出力に対して働き、かつ
処理ステージが、
・M個のサンプルのブロックにおいて前記選択されたレートで更新されるN個の連続デジタルサンプルを収容するように構成された入力メモリ(510)と、
・前記入力メモリ上で作用してN個のフィルタリング済みデジタルサンプルを供給する選択された遮断周波数を有する複合デジタルローパスフィルタリング機能(511、512)と、
・M個のフィルタリング済みかつ加算済みデジタルサンプル(533)を供給する前記N個のフィルタリング済みデジタルサンプルに対するM周期加算機能(531)と、
・これらのM個のフィルタリング済みかつ加算済みデジタルサンプルに対して作用するM×M離散フーリエ変換ステージ(55)と、
を備えたカスタム回路(5)を含み、
前記フーリエ変換の前記M個の出力に対する前記デジタル信号(559)が、前記ローパスフィルタの前記遮断周波数によって定められる幅を有するM個の別々のチャネルを表すように構成されていることを特徴とする受信機。
【請求項2】
前記デジタルサンプルは、少なくとも前記ローパスフィルタリング機能からの2つの成分(Ii、Qi)を有する複素デジタルサンプルであることを特徴とする特に時間依存受信のための請求項1に記載の受信機。
【請求項3】
前記フーリエ変換の前記M個の出力における前記デジタル信号(559)を時間にわたって集計するためのチャネリングステージ(57)を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の受信機。
【請求項4】
各チャネル上で元の信号を取り出すために前記集計されたチャネルを復調することができる復調ステージ(59)を更に含むことを特徴とする請求項3に記載の受信機。
【請求項5】
前記復調ステージは、接弧(tangent arc)型(LUT)の外挿を含むことを特徴とする請求項4に記載の受信機。
【請求項6】
前記接弧型外挿は、対応表(LUT)によって実施されることを特徴とする請求項5に記載の受信機。
【請求項7】
前記復調ステージは、バイパス(D/DT)を備えたローパスフィルタを含むことを特徴とする請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の受信機。
【請求項8】
前記カスタム回路は、ある一定の処理を少なくとも部分的に並列に実施するのに適していることを特徴とする請求項4〜請求項7のいずれか1項に記載の受信機。
【請求項9】
前記カスタム回路(5)は、FPGA又はASICであることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の受信機。
【請求項10】
各々が請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の受信機に接続され、かつ異なる方向に配向された2つのアンテナ、
を含むことを特徴とするレーダ機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−527169(P2010−527169A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502547(P2010−502547)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000499
【国際公開番号】WO2008/142278
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(509230768)ユニヴェルシテ ピエール エ マリー キュリー (パリ 6) (3)
【Fターム(参考)】