説明

多量体化低分子抗体

【課題】抗上皮増殖因子受容体(EGFR)に対する一本鎖抗体(scFv)のリンカーを改変することで、分子量の増大による体内動態を改善し、さらには多価効果による親和性及び抗腫瘍効果の増強を図り、安価な新規医薬分子を提供すること。
【解決手段】抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1抗体528のH鎖のヒト型化可変領域(h5H)及びL鎖のヒト型化可変領域(h5L)を含む一本鎖抗体(scFv)から構成される多量体化低分子抗体であって、上記のh5H及びh5Lが、一個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列であって当該可変領域と実質的に同等の抗原結合性を有するアミノ酸配列である前記多量体化低分子抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗上皮増殖因子受容体(EGFR)に対する一本鎖抗体(scFv)から構成される多量体である多量体化低分子抗体、その製造方法、及、該多量体化低分子抗体を有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
がん(悪性腫瘍) 及びリウマチ等に対する安全な治療法として、近年、免疫療法が用いられている。がんに対する免疫療法では、がんに対して特異的に細胞傷害活性を示す抗体が使用される。このような抗体から成る抗体医薬は、副作用の少ない、安心安全で治療効果の高いことが認められる一方、確立された動物細胞を用いて製造する必要があるためにコスト高が問題となっている。
【0003】
このため、ある抗体のVHとVLのドメインが一本のポリペプチド鎖中にある一本鎖抗体(scFv)のような低分子抗体の作製が世界的な潮流となっている。このような低分子抗体は安価な大腸菌でも製造可能であるが、分子量の低下によって体内半減期が低下し、薬効持続時間が減少することが懸念される。また、IgGの様な完全抗体は、標的抗原に対し多価で結合するのに対し、通常、低分子抗体は結合価が一価となるため、親和性の低下も問題となっている。更に、抗体医薬の主な作用機序はFc領域を介した抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)ともされているため、Fc領域を有さないscFvは効果の低さが懸念される。尚、scFvについては、非特許文献1を参照することができる。
【0004】
一方で、がん細胞表面上の抗原に多価で結合することで、その成長抑制効果を発揮する抗体も存在する。このような抗体の例として、近年上市された、細胞のがん化に伴い高発現が見られるがん関連抗原である上皮増殖因子受容体(EGFR)に対する抗体である「Panitumumab」を挙げることができる。「Panitumumab」はADCCをほとんど誘導しないタイプのFcを有しており、EGFRへの強い結合力に起因したがん細胞成長阻害効果を主な作用機序としている。更に、EGFRを治療標的分子とした抗EGFR抗体医薬として「Cetuximab」が既に米国で上市されている。
【0005】
本願明細書に記載されているヒト型化抗EGFR抗体の親抗体である抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1(Her1)抗体528は「Cetuximab」の親抗体225と同時期に樹立されたクローンで、ほぼ同等のがん細胞の成長阻害効果を有する。しかしながら、既に記載したように、EGFRへの結合価が一価の場合、その効果がほとんど見られないことが知られている。実際にヒト型化528のscFvにはがん細胞成長阻害効果が認められなかった。scFvが有するこのような欠点を克服するために、既にリンカーの改変によるscFvの多量体化が試みられてきた(非特許文献2)。近年では、リンパ腫にアポトーシスを誘導するscFv二量体なども報告されている(非特許文献3)。しかしながら、固形がんやEGFR陽性がん腫に対して、成長阻害効果を発揮するscFv多量体の例は報告されていない。
【特許文献1】国際公開第WO2007/108152号パンフレット
【特許文献2】特開2004−242638号公報
【非特許文献1】Rosenburg and Moore (Ed.), “The Pharmacology of Monoclonal Antibodies", Vol. 113, Springer-Verlag, New York, pp.269-315 (1994)
【非特許文献2】Biomol Eng. 2001 18(3):95-108
【非特許文献3】Biochem Biophys Res Commun. 2004 315(4):912-8
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の主な目的は、抗上皮増殖因子受容体(EGFR)に対する一本鎖抗体(scFv)のリンカーを改変することで、多量体化scFvを構築し、分子量の増大による体内動態を改善し、さらには多価効果による親和性及び抗腫瘍効果の増強を図り、安価な新規医薬分子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は以下に示す各態様に係るものである。
[態様1]抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1抗体528のH鎖のヒト型化可変領域(h5H)及びL鎖のヒト型化可変領域(h5L)を含む一本鎖抗体(scFv)から構成される多量体化低分子抗体であって、
上記のh5H及びh5Lが、夫々、配列番号2及び配列番号4に示されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列において一個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列であって当該可変領域と実質的に同等の抗原結合性を有するアミノ酸配列である前記多量体化低分子抗体。
[態様2]2〜4個の一本鎖抗体(scFv)が会合して成る、態様1記載の多量体化低分子抗体。
[態様3]H鎖の可変領域とL鎖の可変領域とを連結する1〜9個のアミノ酸から成るペプチドリンカーが各一本鎖抗体に含まれている、態様1又は2記載の多量体化低分子抗体。
[態様4]ペプチドリンカーが5個のアミノ酸から成るペプチドで構成される、態様3記載の多量体化低分子抗体。
[態様5]各一本鎖抗体(scFv)が配列番号6に示されるアミノ酸配列を有する、態様1ないし3のいずれか一項に記載の多量体化低分子抗体。
[態様6]各一本鎖抗体にペプチドリンカーが含まれていない、態様1又は2記載の多量体化低分子抗体。
[態様7]各一本鎖抗体においてN末端側にあるヒト型化可変領域のC末端の1ないし数個のアミノ酸、又は、C末端側にあるヒト型化可変領域のN末端の1ないし数個のアミノ酸が除去されている、態様6記載の多量体化低分子抗体。
[態様8]各一本鎖抗体において、H鎖のヒト型化可変領域(h5H)がN末端側にある、態様1ないし7のいずれか一項に記載の多量体化低分子抗体。
[態様9]態様1ないし8のいずれか一項に記載の多量体化低分子抗体を構成する一本鎖抗体のポリペプチドをコードする核酸分子。
[態様10]態様9記載の核酸分子を含有する複製可能なクローニングベクター又は発現ベクター。
[態様11]プラスミドベクターである、態様10記載のベクター。
[態様12]態様10又は11記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
[態様13]原核細胞である態様12記載の宿主細胞。
[態様14]態様12又は13記載の宿主細胞を培養し、態様1ないし8のいずれか一項に記載の多量体化低分子抗体を構成する一本鎖抗体のポリペプチドを発現させ、該ポリペプチドを回収・精製し、該一本鎖抗体を会合させることから成る、態様1ないし8のいずれか一項に記載の多量体化低分子抗体の製造方法。
[態様15]原核細胞が大腸菌であり、多量体化低分子抗体を大腸菌の培養培地上清、ペリズマ画分、菌体内可溶性画分、又は、菌体内不溶性画分から回収する、態様14記載の多量体化低分子抗体の製造方法。
[態様16] 態様1ないし8のいずれか一項に記載の多量体化低分子抗体を有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物。
[態様17]腫瘍細胞を排除する、殺傷する、傷害する及び/又は減少せしめるためのものであることを特徴とする態様16記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明では抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1抗体528由来のscFvのリンカーを改変することでscFvの2量体から4量体を調製することに成功した。これら多量体化低分子抗体は何れも、単独でCetuximabと同等、あるいはそれ以上のがん細胞成長阻害効果を示した。更にある条件ではPanitumumabを凌駕する効果も示している。このような優れた効果はscFv単量体には見られないものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
抗EGFR抗体産生マウスB細胞ハイブリドーマ528(ID:TKG0555)を東北大学加齢医学研究所付属医用細胞資源センターより分譲して頂き、ISOGEN(ニッポンジーン社)を用いmRNAを抽出、First-Strand cDNA Synthesis Kit(Amersham Biosciences社)によりcDNAを調製した。このcDNAを参考論文(Krebber, A. et al. Reliable cloning of functional antibody variable domains from hybridomas and spleen cell repertoires employing a reengineered phage display system. J Immunol Methods 201, 35-55. (1997))に基づき合成したクローニングプライマーを用いPCRを行い528可変領域VH(以下5H)、VL(以下5L)の配列を明らかにした。尚、528抗体を産生するハイブリドーマはアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)においてATCC No.HB-8509 として保管されており、かかる寄託機関からも容易に入手可能である。
【0010】
「ヒト型化」とは、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)の可変領域における相補性決定領域 (complementarity-determining region; CDR)の残基の少なくとも一部において、マウス、ラット、またはウサギといったような非ヒト動物(ドナー抗体)であり且つ所望の特異性、親和性、および能力を有するCDR に由来する残基によって置換されている抗体を意味する。いくつかの場合において、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク(FR)残基が対応する非ヒト残基によって置換される場合もある。さらに、ヒト型化抗体は、レシピエント抗体および導入されたCDR またはフレームワーク配列のいずれにおいても見出されない残基を含み得る。これらの改変は、抗体の性能をさらに優れたものあるいは最適なものとするために行われる。更に詳しくは、Jones et al., Nature 321, 522-525 (1986); Reichmann et al., Nature 332, 323-329 (1988);EP-B-239400; Presta, Curr. Op. Struct. Biol. 2, 593-596(1992); およびEP-B-451216 を参照することができる。
【0011】
このような抗体の可変領域のヒト型化は当業者に公知の方法に従って実施することが出来る。例えば、レシピエント抗体及びドナー抗体の3次元イムノグロブリンモデルを使用し、種々の概念的ヒト型化生成物を分析する工程により、ヒト型化抗体が調製される。3次元イムノグロブリンモデルは、当業者にはよく知られている。更に詳細については、WO92/22653を参照することができる。
【0012】
従って、ヒト型化された可変領域の例として、可変領域における相補性決定領域(CDR)がマウス抗体由来であり、その他の部分がヒト抗体由来である抗体を挙げることができる。
【0013】
本発明では更に、ヒト型化によって抗体自身の機能低下等が生起する場合があるので、一本鎖ポリペプチド中の適当な部位、例えば、CDR構造に影響を与える可能性があるフレームワーク(FR)中の部位、例えば、canonical 配列又はvernier 配列において部位特異的変異を起こさせることによってヒト型化抗体の機能の改善をすることが出来る。
【0014】
具体的には、528可変領域のヒト型化はCDR grafting法により行った。まずVH、VLそれぞれ相同性検索を行い、各CDR(complementarity determining region)の長さ等を考慮した上でもっとも相同性の高いFR(frame work)をもつヒト抗体配列を選択する。選択したヒト抗体のCDRを528のCDRと入れ換えたアミノ酸配列を設計し、対応するコドンについては先と同様に大腸菌至適コドンを用いることが好ましく、オーバーラップPCR法により遺伝子の全合成を行うことが出来る。
【0015】
本発明の多量体化低分子抗体の構成要素である一本鎖抗体に含まれるヒト型化可変領域(h5H)及びL鎖のヒト型化可変領域(h5L)の具体的なアミノ酸配列及びその塩基配列の一例を夫々、配列番号2及び配列番号1、並びに、配列番号4及び配列番号3に示す。
【0016】
本発明の多量体化低分子抗体を構成する一本鎖抗体の数に特に制限はないが、例えば、2〜4個の一本鎖抗体が会合して成るものである。
【0017】
本明細書中、「ペプチドリンカー」とは、H鎖の可変領域(VH)とL鎖の可変領域(VL)とを結合して一本鎖ポリペプチドを与える働きをするオリゴペプチド又はポリペプチドを指している。該ペプチドリンカーは、一本鎖抗体の分子内での相互作用を困難にし、複数の一本鎖抗体による多量体の形成を可能ならしめ、その結果、互いに別の一本鎖抗体に由来するVHとVLが適切に会合することによって、オリジナルのタンパク質(当該ポリペプチドは該オリジナルのタンパク質に由来するものあるいは該オリジナルのタンパク質から誘導されたものである)の機能、例えば生物活性などの一部あるいはその全てを模擬又は促進する構造をとることができるようなものであれば特に限定されず、例えば当該分野で広く知られたものあるいは該公知のリンカーを改変したものの中から選択して使用することが可能である。
【0018】
複数の一本鎖抗体が会合して本発明の多量体化低分子抗体を形成し易くするために、各一本鎖抗体においてH鎖のヒト型化可変領域とL鎖のヒト型化可変領域とを連結するペプチドリンカーは1〜9個、より好ましくは1〜7個のアミノ酸の長さであることが好ましい。5個のアミノ酸から成るペプチドリンカーを含む本発明の多量体化低分子抗体を構成する一本鎖抗体の一具体例(実施例1)のアミノ酸配列及びその塩基配列の一例を配列番号6及び配列番号5に示す。
【0019】
各一本鎖抗体は、H鎖のヒト型化可変領域(h5H)がN末端側にある構造(VH−VL型)又はL鎖のヒト型化可変領域(h5L)がN末端側にある構造(VL−VH型)のいずれであっても良い。
【0020】
更に、各一本鎖抗体は上記のペプチドリンカーを含まずに、二つの可変領域が直接結合していても良い。このような場合には、各一本鎖抗体の三次元的自由度を高めて多量体化を促進させるために、各一本鎖抗体においてN末端側にあるヒト型化可変領域のC末端の1ないし数個のアミノ酸、又は、C末端側にあるヒト型化可変領域のN末端の1ないし数個のアミノ酸が除去されていることが好ましい。このような型の一本鎖抗体の一例として、VHのVH−VL型においてVHのC末端のアミノ酸が1つ又は2つ除去された一本鎖抗体を挙げることができる。このような一本鎖抗体は会合して三量体及び四量体を形成することが可能である。
【0021】
更に、上記の各配列番号で示される各アミノ酸配列において、一個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列であって、元のアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能・活性、例えば、可変領域の抗原特異性と実質的に保持しているアミノ酸配列も本発明の多量体化低分子抗体を構成する一本鎖抗体のポリペプチドとして使用することが出来る。欠失、置換、挿入若しくは付加されるアミノ酸は、好ましくは、同族アミノ酸(極性・非極性アミノ酸、疎水性・親水性アミノ酸、陽性・陰性荷電アミノ酸、芳香族アミノ酸など)同士が置換されるか、又は、アミノ酸の欠失若しくは付加によって、蛋白質の三次元構造及び/又は局所的電荷状態に大きな変化が生じない、又は、実質的にそれらが影響を受けないようなものが好ましい。このような欠失、置換又は付加されるアミノ酸を有するポリペプチドは、例えば、部位特異的変異導入法(点突然変異導入及びカセット式変異導入等)、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法、及びPCR法等の当業者に周知の方法を適宜組み合わせて、容易に作製することが可能である。尚、これらの一個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列は、元のアミノ酸配列全長に対して、90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上の配列相同性を示すものということもできる。
【0022】
本発明の各一本鎖抗体に含まれる各領域又は配列をコードする核酸分子(オリゴヌクレオチド)の代表例は、上記の各配列番号に示された塩基配列を有するものである。その他に、各配列番号に記載の塩基配列の全長と90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上の配列相同性を示すような塩基配列から成る核酸分子は、上記の各領域又は配列と実質的に同等の活性又は機能を有するポリペプチドをコードしていると考えられるので、これらの核酸分子も上記の本発明の核酸に含まれる。
【0023】
2つのアミノ酸配列又は塩基配列における配列相同性を決定するために、配列は比較に最適な状態に前処理される。例えば、一方の配列にギャップを入れることにより、他方の配列とのアラインメントの最適化を行なう。その後、各部位におけるアミノ酸残基又は塩基が比較される。第一の配列におけるある部位に、第二の配列の相当する部位と同じアミノ酸残基又は塩基が存在する場合、それらの配列は、その部位において同一である。2つの配列における配列相同性は、配列間での同一である部位数の全部位(全アミノ酸又は全塩基)数に対する百分率で示される。
【0024】
ここで、「相同性」とは、ポリペプチド配列(あるいはアミノ酸配列)又はポリヌクレオチド配列(あるいは塩基配列)における2本の鎖の間で該鎖を構成している各アミノ酸残基同志又は各塩基同志の互いの適合関係において同一であると決定できるようなものの量(数)を意味し、二つのポリペプチド配列又は二つのポリヌクレオチド配列の間の配列相関性の程度を意味するものである。相同性は容易に算出できる。二つのポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列間の相同性を測定する方法は数多く知られており、「相同性」(「同一性」とも言われる)なる用語は、当業者には周知である (例えば、Lesk, A. M. (Ed.), Computational Molecular Biology, Oxford University Press, New York, (1988);Smith, D. W. (Ed.), Biocomputing: Informatics and Genome Projects, Academic Press, New York, (1993); Grifin, A. M. & Grifin, H. G. (Ed.), Computer Analysis of Sequence Data: Part I, Human Press, New Jersey, (1994);von Heinje, G., Sequence Analysis in Molecular Biology, Academic Press,New York, (1987); Gribskov, M. & Devereux, J. (Ed.), Sequence Analysis Primer, M-Stockton Press, New York, (1991) 等) 。二つの配列の相同性を測定するのに用いる一般的な方法には、Martin, J. Bishop (Ed.), Guide to Huge Computers, Academic Press, San Diego, (1994); Carillo, H. & Lipman, D., SIAM J. Applied Math., 48: 1073 (1988) 等に開示されているものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。相同性を測定するための好ましい方法としては、試験する二つの配列間の最も大きな適合関係部分を得るように設計したものが挙げられる。このような方法は、コンピュータープログラムとして組み立てられているものが挙げられる。二つの配列間の相同性を測定するための好ましいコンピュータープログラム法としては、GCG プログラムパッケージ (Devereux, J. et al., Nucleic Acids Research, 12(1): 387 (1984)) 、BLASTP、BLASTN、FASTA (Atschul, S. F. et al., J. Molec. Biol., 215: 403 (1990)) 等が挙げられるが、これらに限定されるものでなく、当該分野で公知の方法を使用することができる。
【0025】
更に、上記の各核酸分子は、各配列番号で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上記配列番号で示された各ポリペプチドの機能・活性と実質的に同じものを有するポリペプチドをコードするDNAを含むものである。
【0026】
ここで、ハイブリダイゼーションは、Molecular cloning third.ed.(Cold Spring Harbor Lab.Press,2001)に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
【0027】
ハイブリダイゼーションは、例えば、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987))に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
【0028】
本明細書において、DNAのハイブリダイズにおける「ストリンジェント(stringent)な条件」は、塩濃度、有機溶媒(例えば、ホルムアミド)、温度、及びその他公知の条件の適当な組み合わせによって定義される。すなわち、塩濃度を減じるか、有機溶媒濃度を増加させるか、またはハイブリダイゼーション温度を上昇させるかによってストリンジェンシー(stringency)は増加する。更に、ハイブリダイゼーション後の洗浄の条件もストリンジェンシーに影響する。この洗浄条件もまた、塩濃度と温度によって定義され、塩濃度の減少と温度の上昇によって洗浄のストリンジェンシーは増加する。
【0029】
従って、「ストリンジェントな条件」とは、各塩基配列間の相同性の程度が、例えば、全体の平均で約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上であるような、高い相同性を有する塩基配列間のみで、特異的にハイブリッドが形成されるような条件を意味する。具体的には、例えば、温度60℃〜68℃において、ナトリウム濃度150〜900mM、好ましくは600〜900mM、pH 6〜8であるような条件を挙げることが出来る。ストリンジェントな条件の一具体例としては、5 x SSC (750 mM NaCl、75 mM クエン酸三ナトリウム)、1% SDS、5 x デンハルト溶液50% ホルムアルデヒド、及び42℃の条件でハイブリダイゼーションを行い、0.1 x SSC (15 mM NaCl、1.5 mM クエン酸三ナトリウム)、0.1% SDS、及び55℃の条件で洗浄を行うものである。
【0030】
更に、各一本鎖抗体ポリペプチドにおけるヒト型化された可変領域をコードする核酸を作製する場合には、予め設計されたアミノ酸配列に基づきオーバーラップPCR法により全合成することができる。尚、「核酸」とは、一本鎖ポリペプチドをコードする分子であれば、その化学構造及び取得経路に特に制限はなく、例えば、gDNA、cDNA、化学合成DNA及びmRNA等を含むものものである。
【0031】
具体的には、cDNAライブラリーから、文献記載の配列に基づいてハイブリダイゼーションにより、あるいはポリメラーゼチェインリアクション(PCR) 技術により単離されうる。一旦単離されれば、DNA は発現ベクター中に配置され、次いでこれを、大腸菌(E. coli )細胞、COS 細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞) 、またはイムノグロブリンを産生しないミエローマ細胞等の宿主細胞にトランスフェクションさせ、該組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体を合成させることができる。PCR 反応は、当該分野で公知の方法あるいはそれと実質的に同様な方法や改変法により行うことができるが、例えば R. Saiki, et al., Science, 230: 1350, 1985; R. Saiki, et al., Science, 239: 487, 1988 ; H. A. Erlich ed., PCR Technology, Stockton Press, 1989 ; D. M. Glover et al. ed., “DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) ; M. A. Innis et al. ed., “PCR Protocols: a guide to methods and applications", Academic Press, New York (1990)); M. J. McPherson, P. Quirke and G. R. Taylor (Ed.), PCR: a practical approach, IRL Press, Oxford (1991); M. A. Frohman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 8998-9002 (1988)などに記載された方法あるいはそれを修飾したり、改変した方法に従って行うことができる。また、PCR 法は、それに適した市販のキットを用いて行うことができ、キット製造業者あるいはキット販売業者により明らかにされているプロトコルに従って実施することもできる。
【0032】
DNA など核酸の配列決定は、例えばSanger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463-5467 (1977)などを参考にすることができる。また一般的な組換えDNA 技術は、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (ed.), “Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition)", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989)及び D. M. Glover et al. (ed.), “DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) などを参考にできる。
【0033】
こうして取得された本発明の多量体化低分子抗体を構成する一本鎖抗体又はそれに含まれる各領域をコードする核酸は、目的に応じて、当業者に公知の手段により適宜所望のペプチド又はアミノ酸をコードするように改変することができる。この様にDNA を遺伝子的に改変又は修飾する技術は、Mutagenesis: a Practical Approach, M.J.Mcpherson (Ed.), (IRL Press, Oxford, UK(1991) における総説において示されており、例えば、位置指定変異導入法(部位特異的変異導入法)、カセット変異誘発法及びポリメラーゼチェインリアクション(PCR) 変異生成法を挙げることができる。
【0034】
ここで、核酸の「改変」とは、得られたオリジナルの核酸において、アミノ酸残基をコードする少なくとも一つのコドンにおける、塩基の挿入、欠失または置換を意味する。例えば、オリジナルのアミノ酸残基をコードするコドンを、別のアミノ酸残基をコードするコドンにより置換することにより一本鎖抗体ポリペプチドを構成するアミノ酸配列自体を改変する方法がある。
【0035】
又は、本明細書の実施例に記載されているように、アミノ酸自体は変更せずに、大腸菌等の宿主細胞にあったコドン(至適コドン)を使用するように、一本鎖ポリペプチドをコードする核酸を改変することも出来る。このように至適コドンに改変することによって、宿主細胞内における一本鎖抗体の発現効率等の向上を図ることが出来る。

【0036】
本発明の多量体化低分子抗体は、当業者に公知の方法、例えば、遺伝子工学的手法又は化学合成等の各種手段を用いて製造することが出来る。遺伝子工学的手法としては、例えば、多量体化低分子抗体を構成する一本鎖抗体のポリペプチドをコードする核酸を含有する複製可能なクローニングベクター又は発現ベクターを作製し、このベクターで宿主細胞を形質転換せしめ、該形質転換された宿主細胞を培養して宿主細胞中で一本鎖抗体のポリペプチドを発現させ、該ポリペプチドを回収・精製し、該一本鎖抗体を会合させることによって製造することが出来る。
【0037】
ここで、「複製可能な発現ベクター(replicable expression vector)」および「発現ベクター(expression vector) 」は、DNA(通常は二本鎖である)の断片(piece) をいい、該DNAは、その中に外来のDNAの断片を挿入せしめることができる。外来のDNAは、異種DNA (heterologous DNA)として定義され、このものは、対象宿主細胞においては天然では見出されないDNA である。ベクターは、外来DNAまたは異種DNA を適切な宿主細胞に運ぶために使用される。一旦、宿主細胞中に入ると、ベクターは、宿主染色体DNA とは独立に複製することが可能であり、そしてベクターおよびその挿入された(外来)DNA のいくつかのコピーが生成され得る。さらに、ベクターは外来DNAのポリペプチドへの翻訳を可能にするのに不可欠なエレメントを含む。従って、外来DNAによってコードされるポリペプチドの多くの分子が迅速に合成されることができる。
【0038】
このようなベクターは、適切な宿主中で DNA配列を発現するように、適切な制御配列(control sequence)とそれが機能するように(operably)(即ち、外来DNAが発現できるように)連結せしめられたDNA配列を含有する DNA構築物(DNA construct) を意味している。そうした制御配列としては、転写(transcription) させるためのプロモーター、そうした転写を制御するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードしている配列、エンハンサー、リアデニル化配列、及び転写や翻訳(translation) の終了を制御する配列等が挙げられる。更にベクターは、、当業者に公知の各種の配列、例えば、制限酵素切断部位、薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子(選択遺伝子)、シグナル配列、リーダー配列等を必要に応じて適宜含むことが出来る。これらの各種配列又は要素は、外来DNAの種類、使用する宿主細胞、培養培地等の条件に応じて、当業者が適宜選択して使用することが出来る。更に、製造した一本鎖ポリペプチドの検出及び精製等を容易にする目的のために、当業者に公知の各種のペプチドタグ(例えば、c−mycタグ及びHis−tag)をコードする配列を一本鎖抗体のポリペプチドに対応する配列の末端等に含ませることが出来る。
【0039】
該ベクターは、プラスミド、ファージ粒子、あるいは単純にゲノムの挿入体(genomic insert)等の任意の形態が可能である。一旦、適切な宿主の中に形質転換で導入せしめられると、該ベクターは宿住のゲノムとは独立して複製したり機能するものであり得る。又は、該ベクターはゲノムの中に組み込まれるものであってもよい。
【0040】
宿主細胞としては当業者に公知の任意の細胞を使用することができるが、例えば、代表的な宿主細胞としては、大腸菌(E. coli) 等の原核細胞、及び、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞) 、ヒト由来細胞などの哺乳動物細胞、酵母、昆虫細胞等の真核細胞が挙げることができる。
【0041】
このような宿主細胞における発現等により得られた一本鎖ポリペプチドは一般に分泌されたポリペプチドとして培養培地から回収されるが、それが分泌シグナルを持たずに直接に産生された場合には宿主細胞溶解物から回収することが出来る。一本鎖ポリペプチドが膜結合性である場合には、適当な洗浄剤(例えば、トライトン-X100) を使用して膜から遊離せしめることができる。
【0042】
精製操作は当業者に公知の任の方法を適宜組み合わせて行うことが出来る。例えば、遠心分離、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、イオン交換カラム上での分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンセファロースでのクロマトグラフィー、陰イオンまたは陽イオン樹脂クロマトグラフィー(ポリアスパラギン酸カラム等)、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、硫酸アンモニウム沈殿、及びアフィニティクロマトグラフィーによって好適に精製される。アフィニティクロマトグラフィーは、一本鎖ポリペプチドが有するぺプチドタグとの親和力を利用した効率が高い好ましい精製技術の一つである。
【0043】
尚、回収された一本鎖ポリペプチドは不溶性画分に含まれていることも多いために、精製操作は、一本鎖ポリペプチドを可溶化し変性状態にした上で行うことが好ましい。この可溶化処理は、エタノールなどのアルコール類、グアニジン塩酸塩、尿素などの解離剤として当業者に公知の任意の薬剤を使用して行うことが出来る。更に、こうして精製された2種類の一本鎖ポリペプチドを会合(巻き戻し)せしめ、形成された抗体分子を分離して回収することによって、本発明の多量体化低分子抗体を製造することが出来る。
【0044】
会合処理は、単独の一本鎖ポリペプチドを適切な空間的配置に戻すことによって、所望の生物活性を有する状態に戻すことを意味する。従って、会合処理は、ポリペプチド同志あるいはドメイン同志を会合した状態に戻すという意味も有しているので「再会合」ともいうことができるし、所望の生物活性を有するものにするという意味で、再構成ということもでき、或いは、リフォールディング (refolding)とも呼ぶことが出来る。会合処理は当業者に公知の任意の方法で行うことが出来るが、例えば、透析操作により、一本鎖ポリペプチドを含むバッファ溶液中の変性剤(例えば、塩酸グアニジン)の濃度を段階的に下げる方法が好ましい。この過程で、凝集抑制剤、及び酸化剤を反応系に適宜添加することによって、酸化反応の促進を図ることも可能である。形成された多量体化低分子抗体の分離及び回収も当業者に公知の任意の方法で行うことが出来る。
【0045】
以上に示したように、本発明の多量体化低分子抗体は、例えば、大腸菌など培養宿主細胞の培養培地上清、ペリズマ画分、菌体内可溶性画分、又は、菌体内不溶性画分から調製することが可能である。
【0046】
本発明の医薬組成物は、本発明の多量体化低分子抗体、一本鎖ポリペプチド、核酸、ベクター、及び形質転換された宿主細胞から成る群から選ばれたものを有効成分として含有することを特徴とする。かかる有効成分は、以下の実施例に示されているように、インビトロ及びインビボで上皮細胞成長因子受容体を発現する(陽性)腫瘍細胞を有意に排除・殺傷・傷害する作用を有しているので、本発明の医薬組成物はこのような腫瘍細胞に対する抗腫瘍剤として使用することが出来る。
【0047】
本発明の有効成分の有効量は、例えば治療目的、腫瘍の種類、部位及び大きさ等の投与対象における病状、患者の諸条件、及び投与経路等によって当業者が適宜決めることが出来る。典型的な1回の投与量又は日用量は、上記の条件に応じ、可能ならば、例えば当分野で既知の腫瘍細胞の生存又は生長についての検定法を使用して、まずインビトロで、そして次に、人間の患者のための用量範囲を外挿し得る適切な動物モデルで、適当な用量範囲を決定することもできる。
【0048】
本発明の医薬組成物には、有効成分の種類、薬剤形態、投与方法・目的、投与対象の病態等の各種条件に応じて、有効成分に加えて当業者に周知の薬学上許容し得る各種成分(例えば、担体、賦形剤、緩衝剤、安定化剤、等)を適宜添加することが出来る。
【0049】
本発明の医薬組成物は、上記各種条件に応じて、錠剤、液剤、粉末、ゲル、及び、噴霧剤、或いは、マイクロカプセル、コロイド状分配系(リポソーム、マイクロエマルジョン等)、及びマクロエマルジョン等の種々薬剤形態をとり得る。
【0050】
投与方法としては、静脈内、腹腔内、脳内、脊髄内、筋肉内、眼内、動脈内、特には胆管内、又は病変内経路による注入又は注射、及び持続放出型システム製剤による方法が挙げられる。本発明の活性物質は、輸液により連続的に、または大量注射により投与されることができる。尚、本発明の医薬組成物を投与する場合には、食作用又は細胞傷害活性を有する細胞と共に投与することが好ましい。或いは、投与前に本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体のような有効成分と上記細胞とを混合することによって、投与前に該抗体を予め該細胞に結合させておくことが好ましい。
【0051】
持続放出製剤は、一般的には、そこから本発明の活性物質をある程度の時間放出することのできる形態のものであり、持続放出調製物の好適な例は、蛋白質を含む固体疎水性ポリマーの半透過性担体を含み、該担体は、例えばフィルムまたはマイクロカプセル等の成型物の形態のものである。
【0052】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法、例えば日本薬局方解説書編集委員会編、第十三改正 日本薬局方解説書、平成8年7月10日発行、株式会社廣川書店などの記載を参考にしてそれらのうちから必要に応じて適宜選択して製造することができる。
【0053】
なお、明細書及び図面において、用語は、IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるか、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。
【0054】
以下に参考例及び実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、これらは単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
【0055】
全ての参考例及び実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。尚、以下の実施例において、特に指摘が無い場合には、具体的な操作並びに処理条件などは、DNA クローニングでは J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, “Molecular Cloning", 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor, N. Y. (1989) 及び D. M. Glover et al. ed., “DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) ; 特にPCR 法では、H. A. Erlich ed., PCR Technology, Stockton Press, 1989 ; D. M. Glover et al. ed.,“DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) 及び M. A. Innis et al. ed.,“PCR Protocols", Academic Press, New York (1990)に記載の方法に準じて行っているし、また市販の試薬あるいはキットを用いている場合はそれらに添付の指示書(protocols) や添付の薬品等を使用している。
【実施例1】
【0056】
多量体化低分子抗体(528scFv多量体)の作製(1)
本発明の多量体化低分子抗体を以下の概要で調製した。
発現ベクターはすでに当該講座で構築されているEGFR及びCD3を標的としたヒト型化diabody発現ベクター(pRA-h5HhOL、pRA-hOHh5L:特許第380790号明細書(特許文献2))を基に作製した。即ち、それぞれのベクターを制限酵素NcoIとEagIで消化後、h5H部位とhOH部位を入れ換えることで、5アミノ酸リンカー(GGGGS)を有するヒト型化528scFv発現ベクターpRA-h5Hh5L(G1)を作製した。C末端側には検出のためのc-mycペプチドタグ、並びに精製のためのHis-tag (Hisx6:ヒスチジン6量体tag)が並列に導入されている。
大腸菌培養培地上清及び大腸菌菌体内不溶性画分から調製した結果を図1に示す。
【実施例2】
【0057】
多量体化低分子抗体の結合性の評価
実施例1で作製した本発明の多量体化低分子である528scFv二量体及び単量体について、以下に示す条件で表面プラズモン共鳴を用いて結合性を評価した(図2)。
【0058】
センサーチップ : CM5
Running Buffer : PBS
流速 : 20 ml/min
アナライト添加時間 : 2 min (添加量40 ml)
Flow cell 2 : Blocking
Flow cell 3 : EGFR (固定加量3550 RU)
【0059】
その結果、表1に示されるように、二量体では単量体に比べて解離速度が遅延しており、多量体化による結合性の増強が示された。
【0060】
【表1】

【実施例3】
【0061】
多量体化低分子抗体の細胞増殖阻害試験
実施例1で作製した本発明の多量体化低分子である528scFv二量体(VH−VL型)及び単量体について、以下の概要で細胞増殖阻害試験(MTS アッセイ)を実施した。
【0062】
MTS assay により、ヒト扁平上皮がん細胞株であるA431細胞(ATCC No.CRL-1555)の増殖が528scFv二量体によりどれほど阻害されたかを、528scFv単量体、Cetuximab 及び528IgGと比較した。セルカウントを行い、RPMI(0.5 % FBS)100μLあたり細胞2×103個になるよう調整し、96穴プレートに100μLずつ分注、37℃で一晩静置した。目的蛋白質を目的濃度になるようにRPMIで希釈、前日準備したプレートに蛋白質を200μLずつ分注し、37℃で96時間培養。プレートの培養液を取り除き、PBS により洗浄、MTS、PMS、RPMIを加え、37℃で30〜60分インキュベートした後、プレートリーダーで490nm の吸光度を測定した。その結果は、528scFvの二量体により単量体では見られなかった細胞傷害活性が発揮され、それは市販のCetuximab 及び528IgGに勝るものであった(図3)。
(注) MTS 試薬 (CellTiter 96 AQueous Non-Radioactive Cell Proliferation Assay, Promega社製) 、PMS(CellTiter 96 AQueous Non-Radioactive Cell Proliferation Assay,Promega 社製)
【実施例4】
【0063】
多量体化低分子抗体(528scFv多量体)の作製(2)
実施例1で作製した528scFv二量体の構成要素である一本鎖ペプチドに含まれているペプチドリンカーが除去された一本鎖抗体から成る多量体化低分子抗体を以下の概要で調製した。
【0064】
A-Bプライマーを用いPCR法によりヒト型化5H(h5H)を、C-Dプライマーを用いヒト型化5L(h5L)をそれぞれ増幅後、得られたPCR産物を混合し、さらにA-Dプライマーを用いてPCR増幅を行った。得られたPCR産物を制限酵素NcoIとSacIIで消化し、pRAベクターに挿入することで、リンカーを含まないVH-VL型ヒト型化528scFv発現ベクターpRA-h5Hh5L(HLG0)を作製した。
一方、E-Fプライマーを用いPCR法によりh5Lを、G-Hプライマーを用いh5Hをそれぞれ増幅後、得られたPCR産物を混合し、さらにE-Hプライマーを用いてPCR増幅を行った。得られたPCR産物を制限酵素NcoIとSacIIで消化し、pRAベクターに挿入することで、リンカーを含まないVL-VH型ヒト型化528scFv発現ベクターpRA-h5Hh5L(LHG0)を作製した。
それぞれ、C末端側には検出のためのc-mycペプチドタグ、並びに精製のためのHis-tagが並列に導入されている。
【0065】
A:NcoI-5H: 5'-NNNCCATGGCCCAGGTGCAACTGGTTCA-3'〔配列番号:7〕
B:5H-5L-inverse:5'-GGGCTCTGGGTCATCACGATATCCGAGCTCACGGTAACCAGCG-3'〔配列番号8〕
C:5H-5L: 5'-GATATCGTGATGACCCAGAGCCC-3'〔配列番号:9〕
D:5L-SacII: 5'-NNNCCGCGGCGCGTTTAATTTCCACTTT-3'〔配列番号:10〕
E:NcoI-5L: 5'-NNNCCATGGATATTGTGATGACCCAGAG-3'〔配列番号:11〕
F:5L-5H-inverse:5'-CGCTCTGAACCAGTTGCACCTGTTTAATTTCCACTTTGGTGCCCTGGCC-3'〔配列番号:12〕
G:5L-5H: 5'-CAGGTGCAACTGGTTCAGAGCG-3'〔配列番号:13〕
H:5H-SacII: 5'-NNNCCGCGGAGCTCACGGTAACCAGCGT-3'〔配列番号:14〕
【0066】
その結果、VH−VL型では各画分に発現され、VL−VH型は不溶性画分のみに発現された(図4)。これをゲルろ過した結果、培地上清から調製された多量体化低分子抗体は一本鎖抗体の三量体であることが確認された(図5)。
【実施例5】
【0067】
528scFv三量体の結合性の評価
実施例4で作製した本発明の多量体化低分子である528scFv三量体の結合性と二量体及び単量体の結合性の比較を、以下に示す条件で表面プラズモン共鳴を用いて実施した(図6)。
【0068】
センサーチップ : CM5
Running Buffer : PBS
流速 : 20 ml/min
アナライト添加時間 : 2 min (添加量40 ml)
Flow cell 1 : EGFR (固定加量4066 RU)
Flow cell 2 : Blocking
【0069】
その結果、表2に示されるように二量体及び三量体では単量体に比べて解離速度が遅延して解離平衡定数が減少しており、多量体化による結合性の増強が示された。
【0070】
【表2】

【実施例6】
【0071】
多量体化低分子抗体の細胞増殖阻害試験
実施例4で作製した本発明の多量体化低分子である528scFv三量体及び二量体(VH−VL型)について、実施例3と同様に細胞増殖阻害試験(MTS アッセイ)を実施した。その結果は、528scFvの三量体により二量体に比べて更に細胞傷害活性が向上したことが確認された(図7)。
【実施例7】
【0072】
多量体化低分子抗体(528scFv多量体)の作製(3)
実施例4で作製した、528scFv二量体の構成要素である一本鎖ペプチドに含まれているペプチドリンカーが除去された一本鎖抗体(VH−VL型)から、更に、VHのC末端の1個または2個のアミノ酸を除去された多量体化低分子抗体を以下の概要で調製した。
【0073】
A-Iプライマーを用いPCR法によりh5Hを増幅後、得られたPCR産物とpRA-hOHh5LをそれぞれNcoIとEcoRVで消化後、hOH部位を入れ換えることで、h5HのC末端のアミノ酸を1つ欠失させたヒト型化528scFv発現ベクターpRA-h5Hh5L(Δ1)を作製した。
一方、A-Jプライマーを用いPCR法によりh5Hを増幅後、得られたPCR産物とpRA-hOHh5LをそれぞれNcoIとEcoRVで消化後、hOH部位を入れ換えることで、h5HのC末端のアミノ酸を2つ欠失させたヒト型化528scFv発現ベクターpRA-h5Hh5L(Δ2)を作製した。
それぞれ、C末端側には検出のためのc-mycペプチドタグ、並びに精製のためのHis-tagが並列に導入されている。
【0074】
I:5HΔ1-EcoRV: 5'-NNNGATATCGCTCACGGTAACCAGCGTACCCT-3'〔配列番号:15〕
J:5HΔ2-EcoRV: 5'-NNNGATATCCACGGTAACCAGCGTACCCTGG-3'〔配列番号:16〕
【0075】
これをゲルろ過した結果、菌体内可溶性画分から調製されたVHのC末端の1個が除去された一本鎖抗体(528scFv (Δ1))は三量体を形成し、VHのC末端の2個が除去された一本鎖抗体(528scFv (Δ2))は三量体を形成し多量体化低分子抗体は一本鎖抗体の二及び四量体を生成していることが確認された(図8、図9)。
【実施例8】
【0076】
多量体化低分子抗体の細胞増殖阻害試験
以上の各実施例で作製した本発明の多量体化低分子である528scFv二量体、三量体及び四量体(VH−VL型)について、実施例3と同様に細胞増殖阻害試験(MTS アッセイ)を実施した。その結果、528 scFv 単量体、二量体及び3量体については上記と同様の結果が得られた。更に、三量体528scFv (Δ1)はscFv 二量体とほぼ同等の活性が得られ、二量体528scFv (Δ2)及び四量体528scFv (Δ2)については狭雑が多く濃度が正確ではないが、活性は確認できた(図10)。
【産業上の利用可能性】
【0077】
IgG抗体は分子量が約15万であるの対し、scFvは3万弱である。体内半減期が非常に短いscFvに比べ、IgGは数日と長いものの、分子サイズが大きいために腫瘍組織への浸透性が低く、結果として両者とも腫瘍/血中比はあまり高くない。これに対して、中間的なサイズである本発明の多量体化scFvは至適な体内半減期と浸透性を有する分子としても期待される。更に、本発明の多量体化scFvを用いることにより、活性化リンパ球(T-LAK)を共投与することなく、単独で至適な体内動態を有し、十分な効果を発揮することが出来る抗体医薬の安価な製造の開発が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】528scFv二量体を大腸菌培養培地上清及び大腸菌菌体内不溶性画分から調製した結果を示す。
【図2】528scFv二量体及び単量体についての表面プラズモン共鳴を用いた結合性評価の結果を示す。
【図3】528scFv二量体及び単量体等についての細胞増殖阻害試験の結果を示す。尚、scFvは一分子として濃度を計算した。
【図4】ペプチドリンカーを含まない多量体化低分子抗体の発現の結果を示す。
【図5】ペプチドリンカーを含まない多量体化低分子抗体をゲルろ過した結果を示す。
【図6】528scFv三量体、二量体及び単量体についての表面プラズモン共鳴を用いた結合性評価の結果を示す。
【図7】528scFv三量体及び単量体等についての細胞増殖阻害試験の結果を示す。尚、scFvは一分子として濃度を計算した。
【図8】ペプチドリンカーを含まず、さらに、VHのC末端のアミノ酸が1又は2個除去された多量体化低分子抗体の発現の結果を示す。
【図9】ペプチドリンカーを含まず、さらに、VHのC末端のアミノ酸が1又は2個除去された多量体化低分子抗体をゲルろ過した結果を示す。
【図10】さまざまな種類の多量体化低分子抗体についての細胞増殖阻害試験の結果を示す。尚、scFvは一分子として濃度を計算した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1抗体528のH鎖のヒト型化可変領域(h5H)及びL鎖のヒト型化可変領域(h5L)を含む一本鎖抗体(scFv)から構成される多量体化低分子抗体であって、
上記のh5H及びh5Lが、夫々、配列番号2及び配列番号4に示されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列において一個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列であって当該可変領域と実質的に同等の抗原結合性を有するアミノ酸配列である前記多量体化低分子抗体。
【請求項2】
2〜4個の一本鎖抗体(scFv)が会合して成る、請求項1記載の多量体化低分子抗体。
【請求項3】
H鎖の可変領域とL鎖の可変領域とを連結する1〜9個のアミノ酸から成るペプチドリンカーが各一本鎖抗体に含まれている、請求項1又は2記載の多量体化低分子抗体。
【請求項4】
ペプチドリンカーが5個のアミノ酸から成るペプチドで構成される、請求項3記載の多量体化低分子抗体。
【請求項5】
各一本鎖抗体(scFv)が配列番号6に示されるアミノ酸配列を有する、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の多量体化低分子抗体。
【請求項6】
各一本鎖抗体にペプチドリンカーが含まれていない、請求項1又は2記載の多量体化低分子抗体。
【請求項7】
各一本鎖抗体においてN末端側にあるヒト型化可変領域のC末端の1ないし数個のアミノ酸、又は、C末端側にあるヒト型化可変領域のN末端の1ないし数個のアミノ酸が除去されている、請求項6記載の多量体化低分子抗体。
【請求項8】
各一本鎖抗体において、H鎖のヒト型化可変領域(h5H)がN末端側にある、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の多量体化低分子抗体。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の多量体化低分子抗体を構成する一本鎖抗体のポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項10】
請求項9記載の核酸分子を含有する複製可能なクローニングベクター又は発現ベクター。
【請求項11】
プラスミドベクターである、請求項10記載のベクター。
【請求項12】
請求項10又は11記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項13】
原核細胞である請求項12記載の宿主細胞。
【請求項14】
請求項12又は13記載の宿主細胞を培養し、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の多量体化低分子抗体を構成する一本鎖抗体のポリペプチドを発現させ、該ポリペプチドを回収・精製し、該一本鎖抗体を会合させることから成る、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の多量体化低分子抗体の製造方法。
【請求項15】
原核細胞が大腸菌であり、多量体化低分子抗体を大腸菌の培養培地上清、ペリズマ画分、菌体内可溶性画分、又は、菌体内不溶性画分から回収する、請求項14記載の多量体化低分子抗体の製造方法。
【請求項16】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の多量体化低分子抗体を有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項17】
腫瘍細胞を排除する、殺傷する、傷害する及び/又は減少せしめるためのものであることを特徴とする請求項16記載の医薬組成物。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図1】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−119303(P2010−119303A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292894(P2008−292894)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人医薬基盤研究所基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用をうけるもの)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】