説明

多量性新規化合物及びその製造方法

【課題】芳香族基を有するらせん型分子(多量体)及び該化合物をより簡単な手順で製造することができる方法の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で示される構造を有する芳香族4置換化合物からなる構成単位をカップリング反応させ、得られる好ましくは3量体以上の多量性化合物。


[式中、Xは水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基であり、Yはそれぞれ独立して炭素数1〜50のアルキル基、炭素数1〜50のアルコキシ基である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族4置換化合物のカップリング反応により得られる多量性新規化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
らせん型化合物は、光学異性体が存在するため、様々な分野への応用が期待されている。例えば、分子認識能を有する試薬や、医薬品等へ使用することが検討されている(特許文献1参照)。
例えば、特許文献1にはベンゼン環を主鎖としたポリマー(多量体化合物)からなる細胞代謝調整薬が開示されている。
【特許文献1】特表2001−506234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示されているポリマーが形成すると考えられているらせん構造は、立体障害がないため構造的に不安定で壊れやすく、合成することは困難である。そのため、らせん型分子の合成方法に関する検討はそれほどなされていない。
以上の課題に鑑み本発明では、芳香族基を有するらせん型分子(多量体)をより簡単な手順で製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、芳香族4置換体のカップリング反応により得られたキラルビフェニル化合物を高い光学純度で分割し、このビフェニル化合物を出発原料として得られた多量体が、らせん型以外の構造を有し、それぞれに固有の性質を有することを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は以下の通りである。
【0005】
本発明の第一の態様は、芳香族4置換化合物からなる構成単位をカップリング反応させることにより得られる多量性新規化合物であって、前記構成単位は、下記一般式(1)で示される構造を有する多量性新規化合物である。
【化1】

[式中、Xは水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基であり、Yはそれぞれ独立して炭素数1〜50のアルキル基、炭素数1〜50のアルコキシ基である。]
【0006】
また本発明の第二の態様は、下記の一般式(2)で示される芳香族4置換化合物を2量化させる第一カップリング反応工程と、
【化2】

[式中、Xは水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基であり、Yはそれぞれ独立して炭素数1〜50のアルキル基、炭素数1〜50のアルコキシ基である。]
この第一カップリング反応工程により得られる2量体化合物の混合物を、酵素により分割する酵素分割工程と、
この酵素分割工程により分割された2量体化合物をカップリング反応させる第二カップリング反応工程と、を有する多量性新規化合物の製造方法である。
【0007】
本発明において、「らせん型化合物」とは、分子中の不斉の軸が全て「R」又は「S」を形成する化合物をいい、「ターン型化合物(クレフト型化合物)」とは、分子中の不斉の軸の真ん中の軸のみが反転した化合物をいう。
例えば、8量体の化合物においては、図1に示すように、7つの不斉の軸の全てが「R」又は「S」の場合が「らせん型」である。また、図2に示すように、7つの不斉の軸のうち真ん中の軸のみが他6つとは逆の場合が「ターン型化合物」である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、芳香族基を有するらせん型分子(多量体)を、より簡単な手順で製造することができることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略するが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0010】
[多量性新規化合物]
本発明に係る多量性新規化合物は、芳香族4置換化合物からなる構成単位をカップリング反応させることにより得られ、前記構成単位は、下記一般式(1)で示される構造を有する。
【化3】

[式中、Xは水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基であり、Yはそれぞれ独立して炭素数1〜50のアルキル基、炭素数1〜50のアルコキシ基である。]
このような構造にすることによって、らせん型化合物だけではなく、ターン型(クレフト型)化合物も容易に製造することが可能となる。また極性基は、酵素活性部位の疎水場の中で、触媒作用を奏する。そのため、反応を効率的に進行させることが可能となる。また、疎水親水バランスの比は同じでも、4つの置換基のうち少なくとも一つを極性基にすることにより、各異性体の分子全体の極性バランスをコントロールすることが可能となる。
【0011】
ここで、炭素数1〜20のアルコキシ基としては、直鎖状であっても、分岐状であっても、環状であってもよい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。このうち立体障害が小さいメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、であることが好ましい。
【0012】
また、炭素数1〜50のアルキル基としては、直鎖状であっても、分岐状であっても、環状であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等が挙げられる。このうち立体障害が小さいメチル基、エチル基、プロピル基であることが好ましい。
【0013】
上記構成単位において、Xは水酸基であることが好ましく、Yはメチル基であることが好ましい。具体的には下記の構造(1A)〜(1C)を有する構成単位であることが好ましい。このような構造の構成単位とすることによって、後にカップリング反応をさせて得られる化合物の極性バランスを、コントロールすることが可能となる。
【化4】

【0014】
即ち、構成単位(1A)を使用してカップリング反応を行えば、下記構造式(2A−1)で示すように、極性基が交互に配置されたらせん型の化合物を製造することが可能となる。また同時に、極性基が二次元で見た場合において全てアーク(円弧)の外側を向いたターン型の化合物も生成される。
一方、構成単位(1B)を使用してカップリング反応を行えば、下記構造式(2B−1)で示すように、極性基が均一かつ交互に配置されたらせん型の化合物等や、下記構造式(2B−2)で示すように極性基が全てアークの外側を向いてはいるものの、極性基の密度が場所によって異なるターン型の化合物や、これらの複合体等数多くの異性体を製造することもできる。
このように、用途に応じて構成単位の構造を選択することによって、分子中の極性基の配置を制御し、分子極性(疎水親水バランス)が異なる化合物を得ることが可能となる。これによって、従来にはない広い範囲で使用することが可能な中性分子や金属のリガンドとして用いることができる。
【化5】

【0015】
本発明に係る多量性新規化合物は、一般式(1)で示される構成単位を有し、下記の一般式(3)で示されるものである。

【化6】

[式中、Xは水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基であり、Yはそれぞれ独立して炭素数1〜50のアルキル基、炭素数1〜50のアルコキシ基であり、nは3〜100である。]
【0016】
上記多量性新規化合物は、3量体以上の化合物であり、4量体、8量体、12量体等が好ましい。また、50量体以下であることが好ましい。3量体以上の化合物にすることによって、らせん型化合物とターン化合物又はこれらの複合体化合物を得ることが可能となる。
【0017】
本発明に係る多量性新規化合物は、具体的には下記の構造を有することが好ましい。
【化7】

【化8】

【0018】
本発明に係る多量性新規化合物の用途としては、液晶材料、不斉試薬、光学分割試薬、医薬品、ナノテク材料、カラム充填剤等が挙げられる。特に、ターン型の新規化合物に関しては、出発物質の構成単位を選択することによって、極性基を内側又は外側に配置することが可能となるため、分子ピンセットとして使用することが可能となる。
【0019】
[多量性新規化合物の製造方法]
本発明に係る多量性新規化合物は、下記の一般式(2)で示される芳香族4置換化合物を2量化させる第一カップリング反応工程と、
【化9】

[式中、Xは水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基であり、Yはそれぞれ独立して炭素数1〜50のアルキル基、炭素数1〜50のアルコキシ基である。]
この第一カップリング反応工程により得られる2量体化合物の混合物を、酵素により分割する酵素分割工程と、
この酵素分割工程により分割された2量体をカップリング反応させる第二カップリング反応工程と、を有する多量性新規化合物の製造方法。
【0020】
<第一カップリング反応工程>
第一カップリング反応工程は、一般式(2)で示される芳香族4置換化合物を出発原料とし、これをカップリング反応させる工程である。カップリング反応は、通常のカップリング反応を用いて行われる。触媒としては、カップリング反応に通常用いる触媒、例えば、塩化鉄、CuCl(OH)TMDA(N,N,N’N’−テトラメチルエチレンジアミン)錯体)、過酸化水素、酵素(例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、ラッカーゼ等)又はこれらの混合物が挙げられる。このうち、常温で短時間の反応が可能であること、高収率であることから、酵素又は塩化鉄を触媒に用いることが好ましい。中でも塩化鉄を用いることが、コストの観点からもより好ましい。
【0021】
カップリング反応により得られる2量体化合物は、一般式(4)で示されるようなビフェニル化合物である。
【化10】

[式中、Xはそれぞれ独立して水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基であり、Yはそれぞれ独立して炭素数1〜50のアルキル基、炭素数1〜50のアルコキシ基である。]
【0022】
このビフェニル化合物は、具体的には下記に示すような構造を有することが好ましい。また本工程において、これらは光学活性体とラセミ体が混在している混合物として生成される。
【化11】

【0023】
また、出発原料の芳香族4置換化合物極性基の位置によっては、光学異性体に加え、構造異性体も多数生成する。例えば、構成単位(1B)で示される1,4,5−トリメチルフェノールを出発原料として用いた場合、以下の光学活性体が生成することになる。
【化12】

【0024】
<酵素分割工程>
酵素分割工程は、得られた2量体化合物の混合物を、酵素により分割する工程である。第一カップリング反応により得られる2量体は、R体やS体等の光学活性体、又はラセミ体が混在しており、これらを全て分割する必要がある。分割は、酵素を用いて分割することが好ましい。酵素を用いることにより、高い選択率で簡単に光学活性体又はラセミ体を分割することが可能となる。
酵素としては、PPL(porcine pancreatic lipase)CHE−BPL(cholesterol esterase−bovine pancreas)等が挙げられる。このうち、高い収率が得られるということからPPLを用いることが好ましい。
【0025】
また、酵素を用いて分割を行う前に、2量体化合物の極性基を、予め保護基で保護しておくことが好ましい。保護基としては炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキルエステル基が挙げられる。アルキルエステル基としては、メチルエステル基、エチルエステル基、ブチルエステル基、ペンチルエステル基、ヘキシルエステル基、オクチルエステル基等が挙げられる。中でも高い収率が得られるということから、炭素数1〜5の低級アルキル基で保護することが好ましい。具体的には、第一カップリング反応工程で得られる2量体化合物の混合物に、BuCOCl(ペンタン酸クロライド)を添加し、エステル化させる。
【0026】
保護基で保護した後、酵素を用いて2量体化合物の混合物の分割を行う。分割は、例えば以下のような手順で行うことが好ましい。
まず、リン酸緩衝溶液と酵素を混合し、そこにエタノールに溶解した2量体化合物を滴下させて所定時間反応させる。次いでヘキサン及び酢酸エチル等の有機溶媒で抽出する。次いでヘキサンで一方の光学活性体を再結晶させ、濾液を濃縮しヘキサン/酢酸エチル混合溶媒等の溶媒を溶離液としてシリカゲルクロマトグラフィーを用いて他方の光学活性体を精製する。なお、R体、S体とも上記の方法を用いて分割することが可能である。
【0027】
<第二カップリング反応工程>
第二カップリング反応工程は、上記酵素分割工程により分割された2量体化合物をカップリング反応させる工程である。この工程により、本発明に係る多量性新規化合物が生成する。
カップリング反応としては、触媒に鉄を用いたカップリング反応や、触媒に銅を用いたウルマン反応や、触媒にパラジウムを用いた鈴木・宮浦カップリング反応や根岸カップリング反応、触媒にニッケルを用いた熊田・玉尾カップリング反応等が挙げられる。このうち、収率がよく、全体の工程が簡便であるという点から、触媒に鉄を用いたカップリング反応を用いることが好ましい。
【0028】
また、本工程により生成する多量性新規化合物の形状は、使用する2量体化合物の構造に依存する。即ち、前記構成単位(1A)から得られる2量体化合物(2A)を用いてカップリング反応を行えば、下記構造式(2A−2)で示すように、極性基が全てアーク(円弧)の外側を向いたターン型の化合物が多くできる。また、下記構造式(2A−1)で示すように、極性基が交互に配置されたらせん型の化合物を製造することもできる。
【化13】

【化14】

【0029】
一方、前記構成単位(1B)から得られる2量体化合物(2B)、(2B’)、(2B’’)、を用いてカップリング反応を行えば、下記構造式(2B−1)で示すように、極性基が均一かつ交互に配置されたらせん型の化合物や、下記構造式(2B−2)で示すように、極性基が全てアークの外側を向いてはいるものの、極性基の密度が場所によって異なるターン型の化合物を製造することもできる。また、ターン型とらせん型が交互に結合した複合体も生成する。
【化15】

【化16】

【0030】
らせん型化合物とターン型の化合物を分離する方法としては、カラムクロマトグラフィーによる分離が挙げられる。
【実施例】
【0031】
[実施例1]
出発原料に、3,4,5トリメチルフェノールを用い、(±)−2,2’−ビヒドロキシ−4,4’5,5’6,6’−ヘキサメチルビフェノール(2量体化合物)を経てこの2量体化合物の4量体を合成した。2量体から4量体への合成スキームは、下記の通りである。
【化17】

【0032】
<2量体化合物の合成>
722mlのイオン交換水に、3,4,5トリメチルフェノール30g(220.2mmol)を入れ、そこに塩化鉄6水和物67.4g(249.3mmol)をイオン交換水144mlに溶かしたものを滴下した。その後加熱還流を行い熱ろ過により白色結晶を得た。これにn−吉草酸クロリド70.0ml又はアジピン酸クロリド50.0mlを滴下しエステル化を行った。
次いで、酵素としてCHE−BPを、基質としてpH8.0の0.1Mリン酸緩衝液を用い、基質:酵素=1:2の条件光学分割を行った。
得られた2量体化合物の収率は37.8%であり、純度は98.5%であり、光学純度は99.9%であった。この2量体化合物のCDスペクトル(円二色性スペクトル)を図3に示す。また、H−NMR(500MHz,CDClδ=ppm)、13C−NMR(500MHz,CDClTMSδ=ppm)、赤外吸収スペクトル、マススペクトルは以下の通りである。
【0033】
H−NMR(500MHz,CDClδ=ppm)δ:1.92(s,6H),2.16(s,6H),2.31(s,6H),4.51(s,2H),6.77(s,2H);
13C−NMR(500MHz,CDCl3,TMS,δ=ppm)δ:15.4,6.9,20.9(Ar−CH)114.3,117.9,127.7,136.8,138.4,151.2(C);
IR(KBr):3590,3420cm−1(O−H)2960,2910cm−1(Ar−H,Ar−CH,C−H);
Mass(APCI)m/z[MH]:271(100);Mass(EI)m/e(real intensity):270(97,M+ due toC1822+);Anal. Calcd for C1822 C,79.96;H,8.20.Found:C,79.88;H,8.22.
旋光度・・・[α]=−26.9°(C=0.35,MeOH),−47.0°(C=0.22,CHCl
また、この一連の反応は下記スキームで示す通りである。なお、2量体はスキーム中の(S)−(−)−2以外にも(R)−(+)−3も生成した。
【化18】

【0034】
<多量性新規化合物の合成>
500mlの二口丸底フラスコにDi−μ−ヒドロキソ−ビス[(N,N,N’,N’−テトラエチレンジアミン)銅(II)]クロリド4.29mg(0.740mmol)とメタノール40mlを入れ、室温撹拌した。そこにメタノール242mlに溶かした上記二量体((S)−2,2’−ジヒドロキシ−4,4’,5,5’6,6’−ヘキサメチルビフェニル:(S)−(−)−2)l2.00g(7.40mmol)を加え、2時間後に反応を終了させ、ジクロロメタンで抽出した。有機層を濃縮し、黄色固体状のものを得た。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、目的物である白色結晶が得られた。MS、NMRにより存在と構造を確認した。
生成した4量体化合物のCDスペクトル(円二色性スペクトル)を図4に示す。図中、291.4nmのピークはターン型特有のピークであることが示唆された。
また、H−NMR(500MHz,CDClδ=ppm)、13C−NMR(500MHz,CDClTMSδ=ppm)、旋光度は以下の通りである。
【0035】
H−NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ=ppm):δ1.89(s,6H),1.99(s,6H),2.04(s,6H),2.14(s,6H),2.24(s,6H),2.29(s,6H),4.49(s,2H,Ar−OH),4.53(s,2H,Ar−OH),6.73(s,2H,Ar−H)
13C−NMR(500MHz,CDCl3,TMS,δ=ppm):δ15.4,16.2,16.9,17.0,17.3,20.9(CH)114.0,118.7,119.6,120.0,127.9,128.8,136.3,137.1,137.2,137.7,148.5,150.6(C
Mass(APCI)m/z:539[M+1
旋光度・・・[α]=+22.6°(C=0.35,MeOH),+36.5°(C=0.22,CHCl
【0036】
[実施例2,3]
<2量体化合物の合成>
実施例1と同様の方法で2量体化合物を得た。この2量体化合物2.00g(7.40mmol)に、アセトン20mlとジクロロメタン20mlを加えた。そこへ水酸化カリウム2.0gとヨードメタン3.75mlを、滴下ロートを用いて滴下し、49℃で加熱還流を行った。次いで、クロロホルムで中和、抽出し、更に水で洗浄した。有機層を乾燥、濃縮し、得られた白色固体を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製し、目的物である白色結晶を得た(これを実施例2における2量体化合物(S)−(−)−6とする)。
【0037】
次いで、実施例2の化合物1.20g(4.02mmol)とアセトニトリル160mlを入れ、氷浴中で激しく撹拌した。そこにアセトニトリル40mlに溶解させたN−ブロモスクシンイミド)0.358g(2.01mmol)を30分かけて滴下した。反応終了を確認後テトラクロロメタンにより吸引ろ過を行った。次いで濾液を濃縮し、得られた黄白色固体を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製し、目的物である白色結晶を得た(これを実施例3における2量体化合物(S)−(−)−7とする)。
なお、この一連の反応は以下の通りである。
【化19】

【0038】
<多量性新規化合物の合成>
アルゴンガス雰囲気下、200mlの細口三口丸底フラスコに先程の2量体(S)−(−)−6を4.00g(10.6mmol)と、テトラヒドロフラン57.5mlを入れ撹拌し、−60℃に冷却した。1.58Mのn−ブチルリチウムヘキサン溶液8.10ml(12.8mmol,1.2eq)を15分かけて滴下した。
3時間後、白色沈殿が生成した後、0.76Mのイソプロピルマグネシウムボロマイド20.9ml(15.9mmol,1.5eq)を15分かけて滴下した。1時間撹拌した後に、−40℃に冷却し、塩化鉄0.517g(3.19mmol,30mol%)、1,2−ジクロロメタン8.25ml(95.7mmol,9eq)及びテトラヒドロフラン3.15mlを加えた。40分かけて室温に戻し撹拌した後、60℃で5時間加熱還流した。その後2Nの塩酸2mlを加え、クロロホルムで抽出し、茶色油状4.55gを得た。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、目的物の白色結晶(S)−10及び(S)−11をそれぞれ0.85g、0.14g得た。
【0039】
次いで(S)−10及び(S)−11をそれぞれ、アルゴンガス雰囲気の下、5ml細口ナス型フラスコに0.025g(0.042mmol)とジクロロメタン1.4mlを入れ撹拌した。氷浴中で三臭化ホウ素0.11ml(0.11mmol)を加え、4時間撹拌した。TLCにて反応終了を確認し、炭酸水素ナトリウム0.30mlを加えジクロロメタンで抽出し、目的物である4量体化合物S−4及びS−5をそれぞれ0.017g得た。
なお、この一連の反応は以下の通りである。
【化20】

【0040】
生成した4量体化合物S−4及びS−5のH−NMR(500MHz,CDClδ=ppm)、13C−NMR(500MHz,CDClTMSδ=ppm)は以下の通りである。また、ターン型の4量体(S)−4のCDスペクトルを図5に示す。
【0041】
4量体化合物S−4について
H−NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ=ppm):δ1.95(s,6H,Ar−CH),1.98(s,6H,Ar−CH),2.03(s,6H,Ar−CH),2.15(s,6H,Ar−CH),2.24(s,6H,Ar−CH),2.28(s,6H,Ar−CH),4.59(s,2H,Ar−OH),4.72(s,2H,Ar−OH),6.69(s,2H,Ar−H)
13C−NMR(600MHz,CDCl,TMS,δ=ppm):δ15.58,16.46,17.03,17.25,17.29,21.11,31.11(CH),114.6,118.9,119.3,121.1,127.5,128.2,136.4,136.8,137.2,138.1,149.2,151.3(C
【0042】
4量体化合物S−5について
H−NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ=ppm):δ1.89(s,6H),1.99(s,6H),2.04(s,6H),2.14(s,6H),2.24(s,6H),2.29(s,6H),4.49(s,2H,Ar−OH),4.53(s,2H,Ar−OH),6.73(s,2H,Ar−H)
13C−NMR(500MHz,CDCl3,TMS,δ=ppm):δ15.4,16.2,16.9,17.0,17.3,20.9(CH)114.0,118.7,119.6,120.0,127.9,128.8,136.3,137.1,137.2,137.7,148.5,150.6(C
【0043】
[実施例4]
アルゴンガス雰囲気下、100mlの細口三口丸底フラスコに、実施例2,3に記載方法により生成した(S)−(−)−7又は、同様の方法で生成した2量体(±)−7を3.00g(8.70mmol)と、テトラヒドロフラン43.1mlを入れ撹拌し、−60℃に冷却した。1.58Mのn−ブチルリチウムヘキサン溶液6.06ml(9.58mmol,1.2eq)を15分かけて滴下した。
3時間後、白色沈殿が生成した後、0.76Mのイソプロピルマグネシウムボロマイド15.8ml(12.0mmol,1.5eq)を15分かけて滴下した。30分間撹拌した後に、−40℃に冷却し、塩化鉄0.388g(2.39mmol,30mol%)、1,2−ジクロロメタン6.19ml(71.8mmol,9eq)及びテトラヒドロフラン2.37mlを加えた。40分かけて室温に戻し撹拌した後、60℃で5時間加熱還流した。その後2Nの塩酸2mlを加え、クロロホルムで抽出し、茶色油状3.37gを得た。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、目的物の白色結晶(±)−10を0.281g、(±)−12を0.386g、(±)−13を0.119g得た。
【0044】
次いで(±)−10〜(±)−13をそれぞれ、アルゴンガス雰囲気の下、20ml細口ナス型フラスコに0.10g(0.17mmol)とジクロロメタン5.7mlを入れ撹拌した。氷浴中で三臭化ホウ素0.45ml(0.45mmol)を加え、3時間撹拌した。TLCにて反応終了を確認し、炭酸水素ナトリウム0.30mlを加えジクロロメタンで抽出し、目的物である4量体化合物(±)−4、(±)−5及び(±)−13をそれぞれ8.3mg得た。
なお、この一連の反応は以下の通りである。
【化21】

【0045】
生成した4量体化合物(±)−4、(±)−5及び(±)−13のH−NMR(500MHz,CDClδ=ppm)、13C−NMR(500MHz,CDClTMSδ=ppm)は以下の通りである。
【0046】
4量体化合物(±)−4について
H−NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ=ppm):δ1.95(s,6H,Ar−CH),1.98(s,6H,Ar−CH),2.03(s,6H,Ar−CH),2.15(s,6H,Ar−CH),2.24(s,6H,Ar−CH),2.28(s,6H,Ar−CH),4.59(s,2H,Ar−OH),4.72(s,2H,Ar−OH),6.69(s,2H,Ar−H)
13C−NMR(600MHz,CDCl,TMS,δ=ppm):δ15.58,16.46,17.03,17.25,17.29,21.11,31.11(CH),114.6,118.9,119.3,121.1,127.5,128.2,136.4,136.8,137.2,138.1,149.2,151.3(C
【0047】
4量体化合物(±)−5について
H−NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ=ppm):δ1.89(s,6H),1.99(s,6H),2.04(s,6H),2.14(s,6H),2.24(s,6H),2.29(s,6H),4.49(s,2H,Ar−OH),4.53(s,2H
13C−NMR(500MHz,CDCl3,TMS,δ=ppm):δ15.4,16.2,16.9,17.0,17.3,20.9(CH)114.0,118.7,119.6,120.0,127.9,128.8,136.3,137.1,137.2,137.7,148.5,150.6(C
【0048】
4量体化合物(±)−13について
H−NMR(600MHz,CDCl,TMS,δ=ppm):δ1.89,(s,3H,CH),1.96(s,3H,CH3),1.99(s,3H,CH),2.00(s,3H,CH),2.04(d,J=3.0Hz,6H,CH),2.13(s,3H,CH),2.15(s,3H,CH),2.25(s,6H,CH),2.29(d,J=3.0Hz,6H,CH),4.50(s,H,OH),4.52(s,H,OH),4.58(s,H,OH),4.70(s,H,OH),6.71(s,H,Ar−H)6.73(s,H,Ar−H)
13C−NMR(600MHz,CDCl,TMS,δ=ppm):δ15.73,16.59,16.61,17.24,17.33,17.38,17.43,17.46,17.65,21.26(CH)114.4,114.5,118.8,118.9,119.3,119.9,120.7,121.2,127.5,127.9,128.3,128.6,136.5,136.9,137.1,137.2,137.3,137.7,138.0,138.4,149.4,149.5,151.1,151.2(C
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る多量性新規化合物が8量体のらせん型化合物である場合におけるモデル図である。
【図2】本発明に係る多量性新規化合物が8量体のターン型化合物である場合におけるモデル図である。
【図3】実施例1に記載の2量体化合物のCDスペクトル及びを示す図である。
【図4】実施例1に記載の4量体化合物(らせん型)のCDスペクトルを示す図である。
【図5】実施例2に記載の4量体化合物(ターン型)のCDスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族4置換化合物からなる構成単位をカップリング反応させることにより得られる多量性新規化合物であって、
前記構成単位は、下記一般式(1)で示される構造を有する多量性新規化合物。
【化1】

[式中、Xは水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基であり、Yはそれぞれ独立して炭素数1〜50のアルキル基、炭素数1〜50のアルコキシ基である。]
【請求項2】
3量体以上の多量性化合物である請求項1に記載の多量性新規化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)で示される構成単位は、少なくとも下記のいずれかの構造を有する請求項1又は2に記載の多量性新規化合物。
【化2】

【請求項4】
下記の一般式(2)で示される芳香族4置換化合物を2量化させる第一カップリング反応工程と、
【化3】

[式中、Xは水酸基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基であり、Yはそれぞれ独立して炭素数1〜50のアルキル基、炭素数1〜50のアルコキシ基である。]
この第一カップリング反応工程により得られる2量体化合物の混合物を、酵素により分割する酵素分割工程と、
この酵素分割工程により分割された2量体化合物をカップリング反応させる第二カップリング反応工程と、を有する多量性新規化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−195640(P2008−195640A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31353(P2007−31353)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】