説明

大腸菌におけるグリコシル化マクロライドの産生

【課題】 デオキシ糖による種々のアグリコンの修飾を可能とするシステムを提供すること。
【解決手段】 少なくとも1つのヌクレオチド二リン酸6−デオキシ−糖を産生するための発現システムを有する組換え大腸菌宿主細胞。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、米国特許法119条(e)に基づき、2002年7月31日に出願された米国仮特許出願第60/400,122号に基づく優先権の利益を主張する。この仮出願の開示内容は全て引用を以って本書に繰り込みここに記載されているものとみなす。
【技術分野】
【0002】
本発明は、ヌクレオチド二リン酸6-デオキシ−糖を産生するための発現システムを含む組換え大腸菌(E.coli)宿主細胞に関する方法及び物質に関する。該宿主細胞は、6−デオキシグリコシルトランスフェラーゼを産生するための発現システム、及びグリコシル化ポリケチドを産生するための発現システムも含み得る。とりわけ、本発明は、エリスロマイシン又はその中間体を産生するための1又は2以上の発現システムを含む大腸菌宿主細胞に関する。
【連邦政府助成研究発明に対する権利の主張】
【0003】
本発明は、国立衛生研究所(NIH−R01 CA66736)から合衆国政府の助成を受けたものである。従って、合衆国政府は、本発明に対し一定の権利を留保する。
【背景技術】
【0004】
ポリケチド(PK)は、医学・農学分野で多くの有用性を有する天然産物のクラスに属する。近年、PKのコア炭素骨格(アグリコン)の多様化が、合理的かつコンビナトリアルなタンパク工学技術によりPKの生物学的及び化学的性質の範囲の拡大を試みるなかで達成された。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PKの非アグリコン部分もまた、PKの性質を決定する上で重要な役割を有する場合がある。例えば、広く使用されている抗生物質エリスロマイシンA(1)は、その完全な抗菌能を示すために2つのデオキシ糖、即ちL−クラジノース及びD−デソサミンの存在を必要とする;対応するアグリコン、即ち6−デオキシエリスロノリドB(6−dEB3)は、抗菌活性を示さない。従って、デオキシ糖による種々のアグリコンの修飾を可能とする簡便な技術は、天然及び合成PKの新規な生物学的活性の探索に非常に有用であろう。大腸菌のような工業的に利用しやすい生物中でこれら修飾ポリケチドを産生する能力もまた非常に有用であろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ヌクレオチド二リン酸6−デオキシ−糖を産生するための発現システムを有する組換え大腸菌宿主細胞に関する。好ましい一実施形態では、糖は、デソサミン(desosamine)、クラジノース(cladinose)、ミカミノース(mycamonose)、オレアンドロース(oleandrose)、フォロサミン(forosamine)、ダウノサミン(daunosamine)、ミカロース(mycarose)、アスカリロース(ascarylose)、ラムノース、及びミコサミン(mycosamine)からなる群から選択され、最も好ましくは、糖は、D−デソサミン又はミカロースであるが、その両者であると一層好ましい。これらの糖は、ストレプトミセス・ベネズエラエ、サッカロポリスポラ・エリトラエア、ストレプトミセス・ナルボネンシス、ストレプトミセス・アンチビオチクス、ストレプトミセス・フラジアエ、エルシニア・プソイドツベルクロシス、サルモネラ・エンテリカ、ストレプトミセス・ノウルセイ又はストレプトミセス・ノドススのような生物に由来する生合成遺伝子を用いて産生され得る。好ましい一実施形態では、デソサミンは、ストレプトミセス・ベネズエラエ、サッカロポリスポラ・エリトラエア、ストレプトミセス・アンチビオチクス、又はストレプトミセス・ナルボネンシスのような生物に由来する生合成遺伝子を用いて産生することができるが、最も好ましくは、デソサミン生合成遺伝子は、ストレプトミセス・ベネズエラエ又はストレプトミセス・ナルボネンシスに由来する。好ましい一実施形態では、デソサミン生合成遺伝子は、ストレプトミセス・ベネズエラエに由来するdesI−desVI及びdesVIII遺伝子を含む。
【0007】
発現システムは、更に、デソサミニルトランスフェラーゼ又はミカロシルトランスフェラーゼのような6−デオキシグリコシルトランスフェラーゼを発現するための遺伝子を含み得る。好ましい一実施形態では、6−デオキシグリコシルトランスフェラーゼ発現システムは、ストレプトミセス・ベネズエラエに由来するdesVII遺伝子のようなデソサミニルトランスフェラーゼ遺伝子を含む。
【0008】
発現システムは、更に、6−デオキシエリスロノリドBシンターゼ、6−デオキシエリスロノリドB6−ヒドロキシラーゼ、エリスロマイシンD12−ヒドロキシラーゼ及び/又はエリスロマイシンC3”−O−メチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を含み得るポリケチドの合成及び修飾のための発現システムも含み得るが、これを培養することにより6−デオキシエリスロノリドBの産生が可能である。本発明のある実施形態では、宿主細胞は、マクロライド系抗生物質に対する耐性を付与する発現システムの導入によって修飾される。一実施形態では、宿主細胞は、ermリボソームメチルトランスフェラーゼをコードする1又は2以上の遺伝子を含む発現システムの導入によって修飾される。
【0009】
また、本発明は、ヌクレオチド二リン酸6−デオキシ−糖が産生される条件下において宿主細胞の培地にポリケチドを供給すること、を含むグリコシル化ポリケチドを産生するための方法も対象とするが、該条件は、更に、6−デオキシグリコシルトランスフェラーゼを発現することを含むことがあり、ポリケチドは、好ましくは、6−デオキシエリスロノリドB(そのアナログも含む。)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、ヌクレオチド二リン酸6−デオキシ−糖を産生するための発現システムを含む組換え大腸菌宿主細胞に関する。ヌクレオチド二リン酸糖は当業者には既知であり、例えば、チミジン−、シトシン−又はウラシル−二リン酸6−デオキシ糖、例えばTDP−ミカロース又はTDP−デソサミンを含み得る。
【0011】
好ましい糖は、グリコシル化ポリケチドに見出される糖である。好ましい一実施形態では、糖は、デソサミン、クラジノース、ミカミノース、オレアンドロース、フォロサミン、ダウノサミン、ミカロース、アスカリロース、ラムノース、及びミコサミンからなる群の少なくとも1つの分子から選択され得るが、最も好ましくは、糖は、D−デソサミン及び/又はミカロースである。
【0012】
種々のポリケチド及び生物に関するデソサミン生合成及び転移遺伝子は、例えば、サッカロポリスポラ・エリトラエア由来のエリスロマイシンに関する遺伝子(eryC)についてはPCT刊行物WO97/23630に、ストレプトミセス・ベネズエラエ由来のピクロマイシンに関する遺伝子(pikC)については米国特許第6,509,455号に、ストレプトミセス・アンチビオチクス由来のオレアンドマイシンに関する遺伝子(oleG1)についてはアギレスバラガ(Aguirrezbalaga)(後掲)に、及びストレプトミセス・ナルボネンシス由来のナルボマイシンに関する遺伝子については米国特許第6,303,767号に記載されている。ストレプトミセス・フラジアエ由来のチロシンに関するミカミノース生合成及び転移遺伝子は、tylA、tylB、tylM1、tylM2、及びtylM3を含む。サッカロポリスポラ・エリトラエア由来のエリスロマイシンに関するミカロース生合成及び転移遺伝子(eryB)は、PCT刊行物WO97/23630に記載されている。ストレプトミセス・アンチビオチクスのオレアンドマイシンに関するオレアンドロース及びオリボース生合成及び転移遺伝子は、アギレスバラガ(後掲)に記載されている。
【0013】
デソサミンは、ストレプトミセス・ベネズエラエ、サッカロポリスポラ・エリトラエア、ストレプトミセス・アンチビオチクス又はストレプトミセス・ナルボネンシスに由来するもののような生合成遺伝子から産生され得るが、最も好ましくは、デソサミン生合成遺伝子は、ストレプトミセス・ベネズエラエに由来する。とりわけ好ましい一実施形態では、デソサミン生合成遺伝子は、本来的にピクロマイシン産生するストレプトミセス・ベネズエラエ由来のdesI−desVI及びdesVIII遺伝子を含む。このデソサミン発現システムの遺伝子配列は、米国特許第6,117,659号に開示されている。この米国特許の開示内容は全て引用を以って本書に繰り込みここに記載されているものとみなす。デソサミンを産生するための生合成及び転移遺伝子を含むコスミドpKOS023-26は、ブダペスト条約に基づき1998年8月20日にアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託され、受託番号ATCC203141により現在分譲可能となっている。
【0014】
S.ナルボネンシスは、本来的に、デソサミンを産生し、例えばナルボマイシンを生成する。ナルボマイシン遺伝子クラスターは、米国特許第6,303,767号に記載されている。S.ベネズラエ由来の遺伝子の場合と同様に、S.ナルボネンシスにおけるデソサミン生合成に伴う遺伝子は、desI−desVI及びdesVIIIであり、他方、desVII遺伝子は、デソサミニルトランスフェラーゼである。これらの遺伝子は、S.ベネズラエに見出されるものと相同性が大きい。
【0015】
S.ベネズラエ及びストレプトミセス・ナルボネンシスの他にも、本来的にデソサミンを産生する生物も存在する。例えば、サッカロポリスポラ・エリトラエアは、S.ベネズラエ由来のデソサミン遺伝子に相同な遺伝子を有し、そのため大腸菌中で同様に発現されることが予想される。同様に、ストレプトミセス・アンチビオチクス由来のデソサミン生合成遺伝子は、以下に詳細に説明するように、同じく相同性がある。
【0016】
とりわけ、eryCIIは、desVIIIとしても知られているpicCII遺伝子のホモログであり、4−ケト−6−デオキシグルコースイソメラーゼをコードしていると考えられている。
【0017】
eryCVIは、desVIとしても知られているpicCVI遺伝子のホモログであり、3−アミノジメチルトランスフェラーゼをコードしている。
【0018】
eryCIは、desVとしても知られているpicCI遺伝子のホモログである。ストレプトミセス・アンチビオチクス・オレアンドマイシン遺伝子クラスターから産生されるOleN2タンパク質とEryCIとがホモログであることも報告されている。アギレスバラガ, I., et al., 44 Antimicrobial Agents and Chemotherapy, No.5, 1266-75 (2000) を参照されたい。
【0019】
eryCVは、desIIとしても知られているpicCV遺伝子のホモログであり、デソサミン生合成に必要とされる。アギレスバラガは、ストレプトミセス・アンチビオチクス・オレアンドマイシン遺伝子クラスター由来のoleTがメチマイシン及びピクロマイシン経路からのDesIIとeryCVとに相同なタンパク質(このタンパク質は3,4−レダクターゼであり得る)をコードしているということも報告している。更に、バトラー(Butler), A. et al., Nature Biotechnology, 20, 713-16 (2002) は、S.ナルボネンシスのナルボマイシン-生合成遺伝子クラスターから発現されるNbmJとeryCVとの間の相同性について報告している。
【0020】
eryCIVは、desIとしても知られているpicCIV遺伝子のホモログであり、3,4−デヒドラターゼであると考えられている。アギレスバラガは、ストレプトミセス・アンチビオチクス・オレアンドマイシン遺伝子クラスター由来の、OleNIタンパク質をコードするoleNI遺伝子とeryCIVタンパク質とが相同であることも報告している。更に、上掲バトラー, et al. は、S.ナルボネンシスのナルボマイシン−生合成遺伝子クラスターから発現されるNbmKとeryCIVとの間の相同性について報告している。
【0021】
desIVは、既知のery遺伝子ホモログを持たないが、NDPグルコース4,6−デヒドラターゼをコードしている。エリスロマイシン生合成遺伝子クラスターの外部に存在するSac.エリトラエア中のgdh遺伝子によって代表されると考えられている。NDP-グルコース4,6−デヒドラターゼは、多くの種類のNDP−6−デオキシ糖の産生において一般的に使用され、そのようなものとして1つの遺伝子が多くの生合成経路で作用し得る。
【0022】
desIIIは、既知のery遺伝子ホモログを持たないが、NDPグルコースシンターゼをコードしている。Sac.エリトラエア中の当該遺伝子のホモログがエリスロマイシン生合成遺伝子クラスターの外部に存在すると考えられている。NDP-グルコースシンターゼは、糖生合成における遍在性の中間体であり、そのようなものとして1つの遺伝子が多くの生合成経路で作用し得る。
【0023】
デソサミン生合成に関与するストレプトミセス・アンチビオチクス・オレアンドマイシン遺伝子クラスター由来のOleS及びOleE遺伝子についても報告されているが、これらはデソサミン及びオレアンドロースの両方の生合成に関与する。上掲アギレスバラガ, J.を参照されたい。oleSに関しては、ストレプトミセス科の放線菌由来のdTDP-D-グルコースシンターゼ間における類似性が報告されている。例えば、ストレプトミセス・アルギラセウスのミトラマイシン経路からのMtmD、S.グリセウスのストレプトマイシン経路からのStrD、及びS.ペウセチウスのダウノルビシン経路からのDnmL(間における類似性)である。ミトラマイシンは、糖D-ミカロース及びD-オリボースを含むのに対し、ダウノルビシンは、アミノ糖L-ダウノサミンを含む。
【0024】
ストレプトミセス・フラジアエ(tylAl)からも産生され得る(メルソン−デビアス・アンド・カンドリフ(Merson-Davies & Cundliffe)(1994))TDP-グルコースシンターゼの他にも、異なる複数の糖生合成経路に共通の機能を有する遺伝子も幾つか存在するが、細胞内の多くの経路でしばしば作用するように同様に必ずしも他の生合成遺伝子と関係するわけではない。例えば、TDP-グルコースデヒドラターゼは、ストレプトミセス・フラジアエ(tylA2)(メルソン−デビアス・アンド・カンドリフ(1994))又はサッカロポリスポラ・エリトラエア(gdh)(リントン(Linton)et al., Gene 1995 Feb 3; 153 (1): 33-40)において本来的に産生される。更に、TDP−4−ケト−6−デオキシグルコース3,5−エピメラーゼは、サッカロポリスポラ・エリトラエア(kde)において本来的に産生される(リントン et al., Gene, 1995 Feb 3; 153(1): 33-40)。更に、C5-エピメラーゼは、サッカロポリスポラ・エリトラエア(eryB7)(WO97/23630)において本来的に産生されるが、L型糖の産生のみに使用される。
【0025】
そのような相同性及び機能の共通性に基づき、類似するデソサミン生合成経路遺伝子(異なる経路に共通の機能を有する遺伝子を含む。)は、同様に大腸菌において発現及び使用されると期待されている。とりわけ、ポリケチド天然産物中に共通に見出されるNDP−6−デオキシ糖の生合成は、多くの共通の機能を共有する。標識した前駆体を供給した実験から、全てのものが究極的に共通の一次代謝産物D-グルコース−1−リン酸に由来することが知られている。初期の段階の幾つかは、同様に既知の複数の経路に共通である。例えば、グルコース−1−リン酸は、まず、酵素NDP−D−グルコースシンターゼによってNDP-グルコースに変換され、次いで、酵素NDP−D−グルコース4,6−デヒドラターゼによってC-4及びC-6において脱水される。生成した中間体、即ちNDP−4−ケト−6−デオキシ−D−グルコースは、既知のNDP−6−デオキシ糖に対する共通の前駆体として作用する。
【0026】
D−デソサミン及びD−ミカミノースのようなアミノ糖については、NDP−4−ケト−6−デオキシ−D−グルコースは、まず、NDP−4−ケト−6−デオキシ−D−グルコースイソメラーゼの作用によって3−ケト糖に変換され、3−ケト糖は、3−アミノトランスフェラーゼによってNDP−3−アミノ−6−デオキシ−D−グルコースに変換される。NDP−D−ミカミノースの合成については、残りの全てが、3−N−メチルトランスフェラーゼによってN,N−ジメチル化を受ける。NDP−D−デソサミンの合成については、4位がN,N−ジメチル化ステップの前に3,4−デヒドラターゼ及び3,4−レダクターゼによって脱酸素化される。
【0027】
L-ミカロース、L−オレアンドロース及びL−クラジノースのようなL型の2,6−ジデオキシ糖については、NDP−4−ケト−6−デオキシ−D−グルコースは、3,5−エピメラーゼの作用によってL型糖に変換される。次いで、2−ヒドロキシルが、上述したD−デソサミンの生合成における4−ヒドロキシルの脱離と同様に、2,3−デヒドラターゼ及び2,3−レダクターゼの作用によって脱離される。
【0028】
前駆体及び中間体のこの共通性及び酵素変換における類似性は、特定の異種宿主における特定のNDP−6−デオキシ糖の生合成に対して成功することが示された遺伝子学的方法は、当該同じ宿主における他のNDP−6−デオキシ糖の生合成に拡張することができることを示唆している。
【0029】
そのようなものとして、宿主細胞は、ストレプトミセス・フラジアエ、エルシニア・プソイドツベルクロシス、サルモネラ・エンテリカ、ストレプトミセス・ノウルセイ又はストレプトミセス・ノドススのような種々の生物に由来する6−デオキシ−糖生合成遺伝子を用いて(デソサミン以外の)6−デオキシ−糖を産生することが期待されている。一例では、上掲アギレスバラガは、タイロシン生合成経路からのTylbタンパク質及びストレプトミセス・ペウセチウスのダウノルビシン生合成経路からのDnrJ、並びにストレプトミセス・リンコルネンシスのリンコマイシン生合成経路からのLmbSは、eryCIVのホモログであることを報告している。S.フラジアエのミカロース生合成遺伝子は、ベイト(Bate), N. et al., Microbiology, 146,139-46 (2000)に記載されているようにタイロシンを産生する。
【0030】
発現システムは、更に、6−デオキシグリコシルトランスフェラーゼを発現するための遺伝子を含み得る。グリコシルトランスフェラーゼ間における大きな構造類似性を示すグリコシルトランスフェラーゼの特定の折りたたみ(folds)に対応する保存モチーフを例証する配列アラインメントが報告されており、従って、広範囲のグリコシルトランスフェラーゼ本発明に応じて使用可能であることが期待されている。例えば、フー(Hu), Y., et al., Chez. and Biol, 9: 1287-96 (2002)参照。6−デオキシグリコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の例としては、S.フラジアエ由来のミカミノシルトランスフェラーゼ遺伝子(tylM2)、S.エリトラエア由来のミカロシルトランスフェラーゼ(eryB5)、及びストレプトミセス・アンチビオチクスのオリボシルトランスフェラーゼ(oleG2)がある。好ましい一実施形態では、デソサミニルトランスフェラーゼ遺伝子及び遺伝子産物は、本書に記載されたピクロマイシン遺伝子クラスター(des VII)に由来し得るし、異なる遺伝子クラスターにも由来し得る。例えば、デソサミニルトランスフェラーゼ遺伝子及び遺伝子産物は、WO97/23630、上掲アギレスバラガ、米国特許第6,303,767号に記載されたようなエリスロマイシン(例えばeryC3)、オレアンドマイシン(例えばoleGl)、ナルボマイシン(例えばdes VI1)遺伝子クラスターに由来し得る。しかしながら、6−デオキシグリコシルトランスフェラーゼは、M.メガロミセア由来の遺伝子から産生されないことが好ましい。
【0031】
宿主細胞は、更に、ポリケチド、好ましくは6−デオキシエリスロノリドB(6−dEB)の合成のための発現システムも含み得る。ポリケチド発現システムは、M.メガロミシア由来でないことが好ましい。“6−デオキシエリスロノリドB”は、6−デオキシ-エリスロノリドBシンターゼ又は変異体又はそれらの突然変異体によって産生されるポリケチドを意味する。そのような変異体又は突然変異体は、例えば米国特許第6,403,775号;同第6,399,789号;同第6,391,594号;及び同第6,558,942号、及びPCT刊行物WO03/014312に記載されているようなアルキル置換のパターンが変化された及び/又は酸化度が変化された6−デオキシエリスロノリドBのアナログを産生し得る。これらは、米国特許第6,066,721号;同第6,500,960号;及び同第6,492,562号、及びPCT刊行物WO01/31049に記載されたような13−エチル基の代わりに異なる置換基を有する6−デオキシエリスロノリドBのアナログを産生し得る。例えば、6-デオキシエリスロノリドBは、13−メチル−6−デオキシエリスロノリドB(13−メチル−d−dEB)、ll−デオキシ−6−デオキシエリスロノリドB、8−デスメチル(desmethyl)−6−デオキシエリスロノリドB、15−フルオロ−6−デオキシエリスロノリドB、13−プロピル−6−デオキシエリスロノリドB(13−プロピル−6−dEB)、及び類似の化合物のようなアナログを含み得る。
【0032】
従って、宿主細胞は、6−デオキシエリスロノリドBの合成及び修飾に関与する酵素、例えば6−デオキシエリスロノリドBシンターゼ、6−デオキシエリスロノリドB6−ヒドロキシラーゼ、エリスロマイシンD12ヒドロキシラーゼ、エリスロマイシンC3”−O−メチルトランスフェラーゼをコードする1又は2以上の遺伝子を全て含み得るが、好ましくはそのよう酵素をコードする遺伝子を全て含み得る。
【0033】
エリスロマイシンを生成するための生合成経路は、ポリケチドシンターゼ(6−デオキシエリスロノリドBシンターゼ、DEBS)によるポリケチド、とりわけ6−デオキシエリスロノリドB(6−dEB)の産生から開始する。エリスロマイシン産生生物サッカロポリスポラ・エリトラエアにおいては、DEBSは、eryA遺伝子によってコードされている。eryA遺伝子のホモログは、例えばストレプトミセス・ベネズエラエ及びS.ナルボネンシスに見出される。次のステップでは、Sac.エリトラエアのeryF遺伝子及び他の生物におけるそのホモログによってコードされたC−6ヒドロキシラーゼの作用によって、6−dEBがC−6においてヒドロキシル化されてエリスロノリドBが産生される。このステップは、不活性eryF遺伝子を有する菌株における6−デオキシエリスロマイシンの産生によって示されたように、任意的である。次いで、残余のeryB遺伝子又は他の生物由来のそのホモログによってコードされた酵素によって調製されるヌクレオチド糖TDP−L−ミカロースを用い、eryBV遺伝子又は他の生物由来のそのホモログの作用により、L−ミカロースが3−ヒドロキシル基に付着する。第2の糖、即ちD−デソサミンは、eryCIIIデソサミニルトランスフェラーゼ及び他の生物由来のそのホモログの作用によって産生されるような3−O−α−ミカロシル−エリスロノリドBに付着し、エリスロマイシンDが産生される。エリスロマイシンDは、eryK又は他の生物由来のそのホモログによってコードされたC-12ヒドロキシラーゼの作用によってC-12においてヒドロキシル化され、エリスロマイシンCが産生される。最後のステップでは、eryG又は他の生物由来のそのホモログによってコードされた3”−O−メチルトランスフェラーゼがメチル基をミカロシル単位に付加してクラジノースに変換し、かくしてエリスロマイシンAができる。十分なC−12ヒドロキシラーゼ活性がない場合、3”−O−メチル-トランスフェラーゼの産物は、12−デオキシ化合物、即ちエリスロマイシンBである。
【0034】
エリスロマイシンは原核生物のリボソームを標的とし、タンパク質翻訳を妨害し、究極的には細胞死に至らしめるので、エリスロマイシン産生生物は、当該生物自身が産生するエリスロマイシンに対する適切な抵抗機構を有しなければならない。典型的には、臨界(クリティカル)アデノシン残基(大腸菌のA2058)のN6−メチル化は、当該産生細胞の保護を供するのに十分であるが、流出(efflux)及びエステラーゼのような他の機構も利用することができる。従って、エリスロマイシンを産生する本発明の宿主細胞は、A2058のメチル化が可能な従って宿主細胞のための保護を提供可能なリボソームメチルトランスフェラーゼを産生するための発現システムを有する。一実施形態では、リボソームメチルトランスフェラーゼは、耐性遺伝子のermファミリーの恒常的に発現されるメンバー、例えばサッカロポリスポラ・エリトラエアのerm遺伝子又はストレプトミセス・フラジアエのermSF遺伝子である。
【0035】
本発明のより好ましい一実施形態では、宿主細胞は、上記の酵素、並びにTDPミカロース及びミカロシルトランスフェラーゼを産生する酵素をコードする遺伝子を含み、一層好ましくは、TDP−デソサミン及びデソサミニルトランスフェラーゼを産生するための発現システムも含む。
【0036】
本発明は、エリスロマイシンのアナログを産生するための方法であって、当該エリスロマイシンアナログが産生される条件下において糖及びポリケチドの両方を産生するための発現システムを含む宿主細胞を培養することを含む方法も対象とする。そのような条件の例は、以下の実施例に示した。
【0037】
以下の実施例は、上記の本発明の実施の態様をより完全に説明するためのものであり、本発明の種々の側面を実施のために企図されたベストモードを開示するためのものである。以下の実施例は如何なる意味においても本発明の範囲を限定するものではなく、単に説明のためのものに過ぎないと理解されるべきである。本書で引用した文献は全て引用を以って本書に繰り込みその開示内容がここに記載されているものとみなす。
【実施例1】
【0038】
大腸菌中における可溶性desI〜desVIIIの個別発現
【0039】
デソサミンは、エリスロマイシンA(1)(後掲構造参照)の生物活性に対して本質的であることが示されており、従ってデソサミニル化経路が標的として選択された。大腸菌(E.coli)は、バイオエンジニアリングにおいてそのコスト及び利便性の観点から選択される宿主生物なので、大腸菌内におけるストレプトミセス・ベネズエラエ(S.ベネズエラエ)由来のデソサミン生合成経路の再構成が試みられた。
【0040】
既に、8つの遺伝子が、TDP-デソサミンの生合成及び当該デオキシ糖のアグリコンへの転移に関与するものとして同定されている(シュエ(Xue), et al., PNAS 95, 12111, 1998;2001年2月22日出願の米国特許出願第09/793,708号(代理人整理番号(Docket)第30062-20021.00号)これらの文献は引用を以って本種に繰り込みここに記載されているものとみなす。)。S.ベネズエラエ由来のこれらの8つの遺伝子を含むクローンは、コーサン・バイオサイエンシーズ社から入手した。8つのdes遺伝子の各々、即ちdesI、desII、desIII、desIV、desV、desVI、desVII又はdesVIIIは、まず、pET28ac(ノヴァジェン社、マディソン、ウィスコンシン州)にサブクローニングし、これらのタンパク質が大腸菌株BL21の可溶性タンパク質として発現可能か否かを検査した。培養物は、アンピシリン50μg/mlを含む標準ルリア-ベルターニ(LB)培地において37℃、230rpmでOD600が0.6となるまで増殖させた。個々の標的遺伝子の発現は、培養物に、イソプロピルチオガラクトシド(IPTG)を終濃度100μMとなるまで添加することにより誘導した。DesI、II、IV及びVIを産生するために、培養物は、30℃で更に6時間インキュベートしたのち細胞を遠心分離で収集した。DesIV、VII及びVIIIに対しては、培養物は15℃で20時間インキュベートした。細胞ライセートは、氷冷下超音波処理により調製し、不溶性物質は遠心分離で除去した。標的酵素の各々にはヘキサヒスタグが存在したので、ニッケル−ニトリロトリ酢酸(Ni−NTA)金属アフィニティクロマトグラフィ(キアゲン社、ヴァレンシア、カリフォルニア州)を用いたこれら酵素の濃縮は容易に行うことができた。精製は、推奨プロトコールに従った。全ての遺伝子産物は可溶形態で発現したが、その発現レベルは酵素毎に相違が見られた(図1)。タンパク質は全て予想分子量に泳動した。この結果は、S.ベネズエラエdes遺伝子は大腸菌中で可溶形態で発現可能であったことを示した。
【実施例2】
【0041】
大腸菌中における8つのすべてのdes遺伝子の同時発現
【0042】
上記の結果をえて、8つのすべてのdes遺伝子からただ1つのpET28構築物(pKH26)を構築した。この構築物では、全ての遺伝子がただ1つのlacプロモータの制御下にあり、個々の遺伝子には、それらの5’末端においてヘキサヒスタグと共にリボソーム結合部位が隣接していた。培養物を誘導後15℃で20時間インキュベートしたこと以外は同じ培養条件を用いて、このマルチシストロン構築物からのdes遺伝子発現を行った。ライセートの調製及びタンパク質の濃縮は、上述のように行った。8つのDesタンパク質は互いに分子量が類似していたので、8つのすべての遺伝子が発現しているのか否かを確定的に決定することは困難であった。しかしながら、Ni-NTAカラム溶出液のSDS-PAGEにより、遺伝子は全て可溶形態で発現された可能性があることが示された(図2)。
【実施例3】
【0043】
13−メチル−、13−エチル−及び13−プロピル−6−dEBのデソサミニル化産物への生物変換
【0044】
8つのすべてのdes遺伝子が単に発現されるだけではなく代謝的に活性であることを検証するために、インビボ摂食(feeding)実験を行った。この実験では、pKH26で形質転換した大腸菌BL21は、1)種々の6-デオキシエリスロノリドBアグリコンを培養物に与えたこと及び2)誘導された培養物を18℃で24時間増殖させたこと以外は上記タンパク質産生実験と同じ条件下で増殖させた。培養物の上清を3(倍)体積の酢酸エチル/トリエチルアミン(99:1)で抽出した。抽出物を蒸発乾固し、デソサミニル化アグリコンの存在を確かめるための液体クロマトグラフィ/質量分析法(LC/MS)による分析のために少量のメタノールに溶解した。産物抽出スキームの有効性を確認するための対照として、エリスロマイシンA(1)(シグマ社、セントルイス、ミズーリ州)の標準品を与えた培養物からの抽出物のLC/MS分析を行った。1の質量ピークに対応する質量ピークは明確に同定された(表1)。次に、13−メチル(2)−、13−エチル(3)−及び13−プロピル−6−dEB(4)の混合物を含む培養物からの抽出物を分析した。化合物2及び3は当所(研究室)で生産したが、化合物4はコーサン・バイオサイエンシーズ社から提供を受けた。何れの場合も、対応するアグリコンの予想5−デソサミニル化産物の分子量に対応する質量ピーク(複数)が存在した。これに対し、4のみが供給された培養物からの抽出物は、5−デソサミニル−13−プロピル−6−dEBに対応する質量ピークのみを示した。これは、観察されたピーク(複数)はデソサミニル化アグリコンに対応するピークであることを一層強く支持している。アグリコンが供給されなかった培養物からは、デソサミニル化アグリコンのピークは1つも観察されなかった。
【0045】
実施例で検討される化合物の化学構造

【0046】
表1
デソサミニル化アグリコンの予想分子量と、(a)13−メチル−、13−エチル−及び13−プロピル−6−dEBの混合物及び(b)13−プロピル−6−dEBのみが供給された大腸菌培養物からの抽出物のLC/MS分析で観察された分子量との比較

【0047】
上記の実験により、大腸菌はTDP−デソサミンを良好に合成可能であり、かつ適切なアグリコン基質のグリコシル化も可能であることが示された。我々の研究室での以前の研究(プァイファ(Pfeifer), et .al. Science 291, 1790, 2001)により、大腸菌BL21の改変誘導体もアグリコンを産生できること、及びポリケチド産生のための至適温度はTDP−デソサミン生合成及び転移のための上述の至適温度とほぼ同等であることが実証されている。従って、2つの技術を併用することにより、実施例4で説明するように大腸菌において生理活性エリスロマイシンを産生できるであろう。同様のアプローチを用いることにより、ヌクレオチド二リン酸糖が産生されかつ6−デオキシグリコシルトランスフェラーゼが発現される条件下におけるクラジノース、ミカミノース、オレアンドロース、フォロサミン、ダウノサミン、ミカロース、アスカリロース、ラムノース又はミコサミンの生合成を含む、大腸菌へのデオキシ糖生合成及び/又は転移経路を改変することができるであろう。そのような糖は、それ自体有用な代謝産物である。更に、タイロシン(tylosin)、ミデカマイシン、アヴェルメクチン(avermectin)及びカンジシジンのような商業的に重要な他の幾つかの抗生物質もまたグリコシル化を必要とするので、我々の研究は、大腸菌における種々のPKの産生及び生合成的改変に広く応用され得るであろう。更に、宿主としての大腸菌の使用は、ポリケチド及びデオキシ糖経路の改変を一層容易にするであろう。例えば、高スループットの菌株改善プログラムは、(化学構造に対する分析的アッセイに対して)生物学的機能に対する抗菌性アッセイを用いて、遺伝子的に改変されたPKSに対して設定することができるであろう。或いは、アグリコン経路を大腸菌の1つの菌株に導入しかつデオキシ糖経路を大腸菌の別の菌株に導入することにより、転換体(converter)菌株の殺菌が可能な新規なPKを産生する変異型分泌体(secretor)菌株の選択を容易にする、ペトリ皿における分泌体−転換体実験を実施することも可能であろう。更に、臨床的に関連する抗生物質耐性機構を転換体宿主へ導入する場合、そのような定方向進化(directed evolution)実験は、耐性病原体に対し活性な新規な抗生物質の発見に使用することもできるであろう。
【実施例4】
【0048】
大腸菌中における3−O−α−ミカロシル-エリスロノリドBの産生
【0049】
ミカロースの生合成に関与する遺伝子をミカロース産生生物の染色体DNA由来のディープ・ヴェント(Deep Vent)DNAポリメラーゼ(NEB)を用いたPCRによって個別に増幅する。ミカロース生合成遺伝子源としては、例えば、(N.ベイト et al., ''The mycarose-biosynthetic genes of Streptomyces fradiae, producer of tylosin,'' Microbiology (2000) 146, 139-146に記載された)tylAI及びtylAII遺伝子と共にストレプトミセス・フラジアエのtylC遺伝子(tylCII-tylCVII)がある。適切なミカロシルトランスフェラーゼ遺伝子は、例えば、サッカロポリスポラ・エリトラエア(eryCV)又は他の生物から取得可能である。
【0050】
PCRプライマーの各ペアを設計して、増幅した遺伝子の5’末端にNdeI部位を導入し、3’末端にSpeI部位を導入する。PCR産物をpCR-Blunt II-TOPOベクターにクローン化し、得られたプラスミドを使用して大腸菌DH5αを形質転換する。プラスミドを酵素NdeI及びSpeIで消化し、各遺伝子に対応するフラグメントを、当該同じ酵素で予め消化した修飾pET-24b(マルチクローニングカセット内のXbaI部位とEcoRI部位との間の領域を配列5’-TCTAGAAGGAGATATACATATGTGAACTAGTGAATTC-3’で置換された修飾体)にクローン化する。
【0051】
以下のようにして個々の複数のミカロース生合成遺伝子から1つの合成オペロンを構築する。合成オペロンの1つの遺伝子を含むベクターを酵素XbaI及びSpeIで消化し、得られたミカロース遺伝子含有フラグメントを、酵素SpeIで消化した第2の遺伝子を含むベクターに結合する。(制限酵素マッピングによって決定されるような)同一の配向性を有する2つの遺伝子を含むプラスミドを選択してSpeIで消化し、酵素XbaI及びSpeIで消化した第3のミカロース遺伝子含有ベクターからのミカロース遺伝子含有フラグメントに結合する。(制限酵素マッピングによって決定されるような)同一の配向性を有する3つの遺伝子を含むプラスミドを選択する。必要な全てのミカロース生合成遺伝子から(1つの)(目的の)合成オペロンが構築されるまでこのようなサイクルを繰り返す。ミカロシルトランスフェラーゼのための遺伝子(tylCV)及び6−デオキシエリスロノリドB6−ヒドロキシラーゼのための遺伝子(eryF)を同様にして加える。
【0052】
得られたベクターを用いて大腸菌株BL21コドン・プラス(Codon Plus)(ストラタジーン社)を形質転換する。個々の形質転換体を、50μg/mlカナマイシン及び0.5μg/mlの6−デオキシエリスロノリドBを含む15mlLB培地に接種し、37℃でA600 0.5〜0.8になるまで増殖したのち、IPTGを終濃度0.5mMになるまで添加する。次に、培養物を25℃で40時間増殖して遠心分離する。上清を等量の酢酸エチルで抽出し、有機物層をNaSOで乾燥し、蒸発乾固し、エタノールで再溶解する。ミカロシル−EBの存在は、LC/MS([M+H]+m/z 547)で確認する。
【0053】
上記の実験により、大腸菌はTDP−デソサミンを良好に合成可能であり、かつ適切なアグリコン基質のグリコシル化も可能であることが示された。我々の研究室での以前の研究(プァイファ, et .al. Science 291, 1790, 2001)により、大腸菌BL21の改変誘導体もアグリコンを産生できること、及びポリケチド産生のための至適温度はTDP-デソサミン生合成及び転移のための上述の至適温度とほぼ同等であることが実証されている。従って、2つの技術を併用することにより、実施例4で説明するように大腸菌において生理活性エリスロマイシンを産生できるであろう。同様のアプローチを用いることにより、ヌクレオチド二リン酸糖が産生されかつ6-デオキシグリコシルトランスフェラーゼが発現される条件下におけるクラジノース、ミカミノース、オレアンドロース、フォロサミン、ダウノサミン、ミカロース、アスカリロース、ラムノース又はミコサミンの生合成を含む、大腸菌へのデオキシ糖生合成及び/又は転移経路を改変することができるであろう。そのような糖は、それ自体有用な代謝産物である。更に、タイロシン、ミデカマイシン、アヴェルメクチン及びカンジシジンのような商業的に重要な他の幾つかの抗生物質もまたグリコシル化を必要とするので、我々の研究は、大腸菌における種々のPKの産生及び生合成的改変に広く応用され得るであろう。更に、宿主としての大腸菌の使用は、ポリケチド及びデオキシ糖経路の改変を一層容易にするであろう。例えば、高スループットの菌株改善プログラムは、(化学構造に対する分析的アッセイに対して)生物学的機能に対する抗菌性アッセイを用いて、遺伝子的に改変されたPKSに対して設定することができるであろう。或いは、アグリコン経路を大腸菌の1つの菌株に導入しかつデオキシ糖経路を大腸菌の別の菌株に導入することにより、転換体菌株の殺菌が可能な新規なPKを産生する変異型分泌体菌株の選択を容易にする、ペトリ皿における分泌体−転換体実験を実施することも可能であろう。更に、臨床的に関連する抗生物質耐性機構を転換体宿主へ導入する場合、そのような定方向進化実験は、耐性病原体に対し活性な新規な抗生物質の発見に使用することもできるであろう。
【実施例5】
【0054】
大腸菌中におけるエリスロマイシンの調製
【0055】
エリスロマイシンを産生する大腸菌株は、以下のようにして構築する。好適な宿主細胞は、例えば、ブリッソン−ノエル(Brisson-Noel)et al., ''Evidence for natural gene transfer from gram-positive cocci to Escherichia coli,'' J. Bacteriology (1988) 170(4): 1739-45に記載されたようなermBCを発現する大腸菌株BM2570のような、エリスロマイシン耐性を付与する1又は2以上の遺伝子を発現する大腸菌細胞を含む。最終菌株は、L−ミカロース及びD−デソサミンの生合成及び転移をコードする遺伝子、C−6及びC−12ヒドロキシラーゼ及び3”−O−メチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子と共に、6−デオキシエリスロノリドBポリケチドシンターゼ又はその変異体のための遺伝子を含むであろう。また、最終菌株は、PCT刊行物WO01/27306及びWO01/31049(これら刊行物の記載内容は引用を以って本書に繰り込みここに記載されているものとみなす。)に記載されたような適切なスターターユニット(starter unit)及び必要なメチルマロニル−CoAエキステンダーユニット(extender units)の生合成ための遺伝子も含むであろう。L−ミカロース及びD−デソサミンの生合成及び転移のための遺伝子を導入するための技術は、上記実施例に記載されている。ポリケチドシンターゼ遺伝子を導入するための技術は、PCT刊行物WO01/31035(この刊行物の記載内容は引用を以って本書に繰り込みここに記載されているものとみなす。)に記載されている。例えばアシルトランスフェラーゼ又はβ−ケト−修飾ドメインの選択性を変化するためのドメイン交換によるような、ポリケチドシンターゼの変異型を産生するための技術は、米国特許第6,391,594号;同第6,403,775号;及び同第6,399,789号(これら公報の記載内容は引用を以って本書に繰り込みここに記載されているものとみなす。)に記載されている。C−6及びC−12ヒドロキシラーゼのための遺伝子を導入するための技術は、上記実施例に記載されている。3”−O−メチルトランスフェラーゼのための遺伝子を発現するための技術は、パウルス(Paulus)et al., ''Mutation and cloning of eryG, the structural gene for erythromycin O-methyltransferase from Saccharopolyspora erythraea, and expression of eryG in Escherichia coli,'' J. Bacteriology (1990) 172(5): 2541-6に記載されている。好適に修飾されたエリスロマイシン誘導体は、産生性宿主中の遺伝子の適切な選択によって得ることができる。例えば、6−デオキシエリスロマイシンは、6−ヒドロキシラーゼ遺伝子の排除によって産生することができる。導入された生合成遺伝子は、一般的には、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)の付加によって誘導されるlacプロモータのような誘導性プロモータの制御下に置かれる。
【0056】
これらの宿主細胞を用いてエリスロマイシンを産生するために、細胞の培養物は、適切な培地、例えばLBブロスにおいて、温度30〜40℃、好ましくは37℃で、細胞が生合成遺伝子の発現の誘導に好適な密度に達するまで増殖させる。典型的には、この細胞密度は、600nmの光散乱で測定した場合で凡そ1.0光学密度単位である。この時点で、培養物を20℃に冷却し、誘導剤、例えばIPTGを添加する。この比較的低い温度で培養物を増殖させ、定期的にアリコートを採取し、エリスロマイシン産生のためのアッセイにかける。好適なアッセイには、例えばエリスロマイシン標準(erythromycin standards)及び蒸発光散乱法(evaporative light scattering)又は質量分析法による検出を用いるHPLC系アッセイ、又は適切な試験菌株、例えばミクロコッカス・ルテウスに対する抗菌活性のような生物学的アッセイが含まれる。エリスロマイシンの産生速度が一定水準に達したことが観察されたら、培養物を遠心分離で収集する。上清をpH9に調節し、ジクロロメタン又は酢酸エチルのような有機溶媒で抽出する。有機層の抽出物を、例えば硫酸ナトリウムによって乾燥し、濾過し、蒸発して粗製エリスロマイシンを得る。精製エリスロマイシンは、既知の方法、例えばクロマトグラフィ又は晶出を用いて得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】各別に発現されたDes酵素のNi−NTAカラムフラクションの4〜20%SDS−PAGE。左側の数値は、マーカータンパク質の分子量(単位kDa)を示す。Mは分子量マーカー;Pはフロー・スルー;Wはカラム・ウォッシュ;Eは溶出液である。個々の酵素に対して予想される分子量は、DesIは44kDa;DesIIは53kDa;DesIIIは30kDa;DesIVは36kDa;DesVは41kDa;DesVIは26kDa;DesVIIは46kDa;DesVIIIは42kDaである。
【図2】同時に発現された8つのDes酵素のNi−NTAカラムフラクションの4〜20%SDS−PAGE。Mは分子量マーカー;1は清澄化細胞ライセート;2はフロー・スルー;3はカラム・ウォッシュ;4は溶出液である。左側の数値は、マーカータンパク質の分子量(単位kDa)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのヌクレオチド二リン酸6−デオキシ−糖を産生するための発現システムを有する組換え大腸菌宿主細胞。
【請求項2】
6−デオキシグリコシルトランスフェラーゼを発現するための発現システムを更に含む請求項1の宿主細胞。
【請求項3】
ポリケチドの合成のための発現システムを更に含む請求項2の宿主細胞。
【請求項4】
前記糖は、前記ヌクレオチド二リン酸糖が産生されかつ前記6−デオキシグリコシルトランスフェラーゼが発現される条件下においてデソサミン、クラジノース、ミカミノース、オレアンドロース、フォロサミン、ダウノサミン、ミカロース、アスカリロース、ラムノース、及びミコサミンからなる群から選択される請求項1の宿主細胞。
【請求項5】
前記糖は、D−デソサミンである請求項4の宿主細胞。
【請求項6】
前記発現システムは、ストレプトミセス・ベネズエラエ、サッカロポリスポラ・エリトラエア、ストレプトミセス・ナルボネシス、又はストレプトミセス・アンチビオチクスに由来するデソサミン生合成遺伝子を含む請求項1の宿主細胞。
【請求項7】
前記デソサミン生合成遺伝子は、ストレプトミセス・ベネズエラエに由来する請求項6の宿主細胞。
【請求項8】
前記デソサミン生合成遺伝子は、desI-desVI及びdesVIII遺伝子を含む請求項7の宿主細胞。
【請求項9】
デソサミニルトランスフェラーゼを発現するための発現システムを更に含む請求項8の宿主細胞。
【請求項10】
前記ポリケチドの合成のための発現システムは、6−デオキシエリスロノリドBシンターゼをコードする遺伝子を含む請求項3の宿主細胞。
【請求項11】
6−エリスロノリドB6−ヒドロキシラーゼのための発現システムを更に含む請求項10の宿主細胞。
【請求項12】
前記少なくとも1つのヌクレオチド二リン酸6−デオキシ−糖を産生するための発現システムは、TDP−ミカロースを産生する酵素をコードする遺伝子を含み、及び前記6−デオキシグリコシルトランスフェラーゼを発現するための発現システムは、ミカロシルトランスフェラーゼを発現する請求項11の宿主細胞。
【請求項13】
ermリボソームメチルトランスフェラーゼのための発現システムによって更に修飾される請求項11の宿主細胞。
【請求項14】
TDP−デソサミン及びデソサミニルトランスフェラーゼを産生するための発現システムを更に含む請求項13の宿主細胞。
【請求項15】
エリスロマイシンD12−ヒドロキシラーゼための発現システムを更に含む請求項14の宿主細胞。
【請求項16】
エリスロマイシンC3”−O−メチルトランスフェラーゼのための発現システムを更に含む請求項15の宿主細胞。
【請求項17】
前記ヌクレオチド二リン酸6−デオキシ−糖が産生されかつ前記6−デオキシグリコシルトランスフェラーゼが発現される条件下において請求項2の宿主細胞の培地にポリケチドを供給すること、を含むグリコシル化ポリケチドを産生するための方法。
【請求項18】
前記ポリケチドは、6−デオキシエリスロノリドBである、請求項17の方法。
【請求項19】
請求項16の宿主細胞を、各発現システム中の遺伝子が発現されて機能性酵素が産生される条件下において培養すること、を含むエリスロマイシンアナログを産生するための方法。
【請求項20】
前記ヌクレオチド二リン酸6−デオキシ−糖を産生するための発現システムは、ミクロモノスポラ・メガロミセアに由来する生合成遺伝子を含まない請求項1の宿主細胞。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−500928(P2006−500928A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−535995(P2004−535995)
【出願日】平成15年7月31日(2003.7.31)
【国際出願番号】PCT/US2003/024109
【国際公開番号】WO2004/024744
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(501243030)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー (17)
【出願人】(500017830)コーサン バイオサイエンシーズ, インコーポレイテッド (12)
【Fターム(参考)】