説明

天井走行式X線管懸垂器

【課題】ワイヤー断線が発生した場合に、操作者がワイヤー断線の発生を的確に知らされると同時に、X線管装置の上下動のロックが円滑になされ、また、ワイヤー断線発生後もX線管装置の可能な操作を必要なデータを確認しながら行い、撮影を継続して行えるようにする。
【解決手段】X線管装置6の手動操作の間にワイヤー断線が生じた場合、表示器において撮影に必要なデータの表示が警告表示に切り替えられるが、当該操作が上下動に関係するときは、操作が完了するまでX線管装置の上下動はロックされない。一方、ワイヤー断線が生じた場合に、当該操作が上下動に無関係であるときは、警告表示と同時に上下動がロックされる。ワイヤー断線の発生後も、X線管装置の上下動以外の動作のみで撮影が可能な場合には、手動操作によるX線管装置の動作の間は、表示器において警告の表示が撮影に必要なデータの表示に切り替えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井走行式X線管懸垂器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の天井走行式X線管懸垂器は、図1に示すように、天井に固定された長手方向(X方向、図1の矢印a方向)移動用の固定レール1と、固定レール1にスライド運動可能に取付けられた短手方向(Y方向、図1の矢印b方向)移動用の移動レール2と、移動レール2にスライド運動可能に取付けられ、水平面内においてX−Y方向に移動可能とされたキャリッジ部3を備えている。
【0003】
また、キャリッジ部3の下部には上下方向に伸縮可能な支柱4が備えられ、支柱4の下端に取付ブロック5が取付けられる。取付ブロック5は、キャリッジ部3から、支柱4内に収容された複数本のワイヤーによって懸垂されて上下方向(図1の矢印c方向)に移動可能となっており、また、取付ブロック5には、X線管装置6が水平軸のまわり(図1の矢印e方向)及び垂直軸のまわり(図1の矢印d方向)に回転可能に取り付けられている。さらに、図示はされないが、キャリッジ部3には、複数本のワイヤーの上端側が接続され、ワイヤーによって懸垂された重量との釣り合いをとるバランス機構と、常時はバランス機構の動作を制止することによってX線管装置6の上下方向の移動をロックするブレーキ機構(通常は電磁ブレーキからなる)とが設けられている。
【0004】
X線管装置6の天井水平面におけるX−Y方向の移動、水平軸及び垂直軸のまわりの回転についても、上述の上下方向の移動の場合と同様、それぞれにその動作に関係する駆動機構に対するブレーキ機構(通常は電磁ブレーキからなる)が設けられていて、常時は、それらの動作がロックされるようになっている。
【0005】
取付ブロック5には、また、X線管装置6の水平面内でのX−Y方向の移動、又は上下方向の移動、又は水平軸まわりの回転又は垂直軸まわりの回転、又はそれらの動作の2以上の組合せからなる複合動作を手動操作により行うための操作ハンドル7と、操作スイッチ及び表示器を備えた操作盤8とが設けられている。
図2に示すように、操作盤8には、キャリッジ部3の長手方向の移動及び短手方向の移動のロック解除スイッチ12、並びにX線管装置6の上下方向の移動のロック解除スイッチ11、及びX線管装置1の水平軸まわりの回転のロック解除スイッチ9及び垂直軸まわりの回転のロック解除スイッチ10等の操作スイッチと、X線管装置6の管球水平回転角度、長手及び短手方向のSID(Source-Image Distance)値等のX線管装置6による撮影に必要なデータを表示する表示器13が設けられている。
【0006】
そして、操作者が操作ハンドル7を握り、操作盤8に設けられた操作スイッチを選択的に操作することでロックを解除し、X線管装置6を、手動操作により、天井水平面内においてX−Y方向に移動させ、上下方向に移動させ、水平軸及び垂直軸のまわりに回転させた後、所望の撮影位置に所望の角度で固定し、被検者の撮影部位のX線撮影をすることができるようになっている(特許文献1、2参照)。
【0007】
ところで、天井走行式X線管懸垂器のような医療用撮影装置は、自動性の強い他の医療機器とは異なり、手動操作を行うことを意図して設計されており、また、このような撮影装置については、多種多様な撮影を日々効率的にこなしていかねばならないという事情がある。このため、撮影に支障をきたすような重大なトラブルが発生しない限り、手動操作を可能としておくことが原則とされている。
【0008】
そして、従来の天井走行式X線管懸垂器においては、安全性を考慮して複数本のワイヤーによってX線管装置を懸垂し、万一ワイヤーの断線が生じても、断線を免れたワイヤーによってX線管装置の落下事故を防止できるようにしているが、ワイヤーの断線状態を長時間放置しておくと、残りのワイヤーに悪影響を及ぼすおそれもあって問題であり、迅速にワイヤーを交換する必要がある。それ故、従来の天井走行式X線管懸垂器では、手動操作の間にワイヤーの断線が生じた場合には、操作盤8の表示器13に警告表示をして操作者に警告するとともに、X線管装置の上下方向の移動がロックされるようになっている。
【0009】
しかしながら、この従来のやり方では、ワイヤー断線が発生したとき、それを操作者に強調的に知らせるべく、警告表示が、操作盤8の表示器13のほぼ全面にわたって持続的になされるので、ワイヤー断線の発生後も手動操作によりX線管装置を動作させようとした場合に(上下方向の移動以外の動作はロックされない)、撮影に必要なデータが表示器に表示されず、撮影が殆ど不可能な状態となってしまうという問題を生じていた。また、手動操作によってX線管装置の上下方向の移動のみ、又はX線管装置の上下方向の移動を含む複合動作(例えば、長手方向の移動、短手方向の移動及び上下方向の移動の組み合わせ)がなされている間は、一般に、X線管装置が比較的高速で動かされており、X線管装置及び取付ブロックはかなり重いので大きな慣性をもつが、従来のやり方では、この間にワイヤー断線が発生すると、急ブレーキがかかることになり、ブレーキ機構から不快な大きな音が発生したり、操作者が転倒して事故につながるおそれがあった。
【0010】
【特許文献1】特開2005−65942号公報
【特許文献2】特開2005−270145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の課題は、X線管装置の手動操作の間にワイヤー断線が発生した場合に、操作者がワイヤー断線の発生を的確に知らされると同時に、X線管装置の上下方向の移動のロックを円滑に行うことができ、また、ワイヤー断線発生後もX線管装置の可能な操作を必要なデータを確認しながら行って、撮影を継続して行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、第1発明は、天井に設けられたレールと、前記レールに取り付けられて水平面内で移動可能とされたキャリッジ部と、前記キャリッジ部に複数本のワイヤーによって懸垂されて上下方向に移動可能とされた取付ブロックと、前記取付ブロックに水平軸及び鉛直軸のまわりに回転可能に取付けられたX線管装置と、前記取付ブロックに取り付けられ、前記X線管装置の水平面内での移動、又は上下方向の移動、又は水平軸まわりの回転又は垂直軸まわりの回転、又はそれらの動作の2以上の組合せからなる複合動作を手動操作により行うための操作ハンドルと、前記キャリッジ部に配置されるとともに、前記複数本のワイヤーの上端側が接続され、前記ワイヤーによって懸垂された重量との釣り合いをとるバランス機構と、前記キャリッジ部に配置され、常時は、前記バランス機構の動作を制止することによって前記X線管装置の上下方向の移動をロックするように作動するブレーキ機構と、前記取付ブロックに備えられ、前記手動操作によって前記X線管装置を上下方向に移動させる間に前記ブレーキ機構によるロックを解除するための操作スイッチと、ワイヤー断線発生時に操作者に対して警告する警告手段と、前記ワイヤーの断線を検出するセンサーと、前記取付ブロックに設けられ、前記警告手段及び前記操作スイッチの動作を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記操作スイッチの入力がなされて手動操作によって前記X線管装置の前記上下方向の移動のみ又は前記上下方向の移動を含む複合動作がなされる間に前記センサーから断線検出信号を受けたとき、前記警告手段を作動させ、当該上下方向の移動のみの完了後または当該複合動作の完了後に前記ブレーキ機構に作動命令を与えることを特徴とする天井走行式X線管懸垂器を構成したものである。
【0013】
上記課題を解決するため、また、第2発明は、天井に設けられたレールと、前記レールに取り付けられて水平面内で移動可能とされたキャリッジ部と、前記キャリッジ部に複数本のワイヤーによって懸垂されて上下方向に移動可能とされた取付ブロックと、前記取付ブロックに水平軸及び鉛直軸のまわりに回転可能に取付けられたX線管装置と、前記取付ブロックに取り付けられ、前記X線管装置の水平面内での移動、又は上下方向の移動、又は水平軸まわりの回転又は垂直軸まわりの回転、又はそれらの動作の2以上の組合せからなる複合動作を手動操作により行うための操作ハンドルと、前記キャリッジ部に配置されるとともに、前記複数本のワイヤーの上端側が接続され、前記ワイヤーによって懸垂された重量との釣り合いをとるバランス機構と、前記キャリッジ部に配置され、常時は、前記バランス機構の動作を制止することによって前記X線管装置の上下方向の移動をロックするように作動するブレーキ機構と、前記取付ブロックに備えられ、前記手動操作によって前記X線管装置を上下方向に移動させる間に前記ブレーキ機構によるロックを解除するための操作スイッチと、ワイヤー断線発生時に操作者に対して警告する警告手段と、前記ワイヤーの断線を検出するセンサーと、前記取付ブロックに設けられ、前記警告手段及び前記操作スイッチの動作を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記操作スイッチの入力がなされて手動操作によってX線管装置の前記上下方向の移動のみ又は前記上下方向の移動を含む複合動作がなされる間に前記センサーから断線検出信号を受けたとき、前記警告手段を作動させ、当該上下方向の移動のみの完了後または当該複合動作の完了後に前記ブレーキ機構に作動命令を与えるが、前記操作スイッチの入力がなされて手動操作によって前記X線管装置の前記上下方向の移動以外の動作のみ又は前記上下方向の移動を含まない複合動作がなされる間に前記センサーから前記断線検出信号を受けたときは、前記警告手段を作動させ、同時に、前記ブレーキ機構に作動命令を与えることを特徴とする天井走行式X線管懸垂器を構成したものである。
【0014】
第1及び第2発明の構成において、前記警告手段は、前記取付ブロックに設けられ、前記X線管装置による撮影に必要なデータを表示する表示器からなり、その警告動作が、前記ワイヤー断線発生時に撮影に必要なデータの表示を警告の表示に切り替えるが、前記ワイヤー断線発生後も手動操作によって前記X線管装置の動作がなされる場合には、当該動作の間は前記警告の表示を撮影に必要なデータの表示に切り替えることによってなされることが好ましい。
また、前記制御部は、前記ワイヤー断線発生時に前記ブレーキ機構に作動命令を与えた後は、前記操作スイッチの入力を無効化するようになっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、X線管装置の手動操作の間にワイヤー断線が生じた場合、操作者に対してワイヤー断線発生の警告が発せられるが、当該手動操作が上下方向の移動に関係しているときには、その操作が完了するまではX線管装置の上下方向の移動がロックされないので、操作中に急ブレーキがかかることはなく、ブレーキ機構から不快な大きな音が発生したり、操作者が転倒するおそれはない。一方、当該手動操作が上下方向の移動に無関係であるときは、ワイヤー断線発生の警告と同時に上下方向の移動がロックされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施例について説明する。図1は、本発明の1実施例による天井走行式X線管懸垂器の外観形状を示す斜視図である。
本発明の天井走行式X線管懸垂器は、従来例と同様の外観形状を有しており、図1に示されるように、天井に固定された長手方向(X方向、図1の矢印a方向)移動用の固定レール1と、固定レール1にスライド運動可能に取付けられた短手方向(Y方向、図1の矢印b方向)移動用の移動レール2と、移動レール2にスライド運動可能に取付けられ、水平面内においてX−Y方向に移動可能とされたキャリッジ部3を備えている。移動レール2の固定レール1に沿ったX方向へのスライド運動は、常時は、X方向移動ブレーキ機構(図示されない)によりロックされており、また、キャリッジ部3の移動レール2に沿ったY方向へのスライド運動は、常時は、Y方向移動ブレーキ機構(図示されない)によりロックされている。これらのブレーキ機構は、後述するX線管装置の上下方向の移動をロックするブレーキ機構と同様、電磁ブレーキからなっている。
【0017】
キャリッジ部3の下部には上下方向に伸縮可能な支柱4が備えられ、支柱4の下端に取付ブロック5が取付けられる。取付ブロック5は、キャリッジ部3から、支柱4内に収容された複数本、この実施例では2本のワイヤーによって懸垂されて上下方向(図1の矢印c方向)に移動可能となっており、取付ブロック5には、X線管装置6が水平軸のまわり(図1の矢印e方向)及び垂直軸のまわり(図1の矢印d方向)に回転可能に取り付けられている。この場合、X線管装置6の水平軸及び垂直軸のまわりの回転もまた、それぞれ、図示されないブレーキ機構によって、常時は、ロックされている。このブレーキ機構もまた、後述するX線管装置の上下方向の移動をロックするブレーキ機構と同様、電磁ブレーキからなっている。
【0018】
キャリッジ部3には、2本のワイヤーの上端側に接続され、ワイヤーによって懸垂された重量との釣り合いをとるバランス機構と、常時はバランス機構の動作を制止することによってX線管装置6の上下方向の移動をロックするように動作するブレーキ機構とが設けられている。
【0019】
図3は、バランス機構及びブレーキ機構の構成、並びにワイヤー断線発生時の制御系統を示したものである。この実施例では、2本のワイヤーが使用され、ワイヤーのそれぞれに対して独立に、同一構造のバランス機構及びブレーキ機構が備えられる。よって、図3において、一方のワイヤーに対するバランス機構の構成の一部及びブレーキ機構を省略してある。
【0020】
図3を参照して、バランス機構は、それぞれ、軸まわりに回転可能に支持された一対の水平な回転シャフト25、26を備えている。回転シャフト25、26には、それぞれ、軸方向に間隔をあけて4つのプーリ17a〜17d、18a〜18dが固定されている。回転シャフト25は、回転シャフト26に対して平行に、これに対して近づきまたは遠ざかるように移動可能となっていて、図示されないバネによって、回転シャフト26から遠ざかる向きに付勢されている。そして、ワイヤー20が、一端をワイヤー支持部材15aに支持され、さらに、プーリ16a、17a、18a、17bを介して、プーリ18bに巻回された後、取付ブロック5のフック19に掛けられ、プーリ18cに巻回された後、プーリ17c、18d、17d、16bを介し、他端をワイヤー支持部材15bに支持されており、このワイヤー20によって取付ブロック5が懸垂支持される。
この場合、バネは、ワイヤー20によって懸垂された重量と釣り合うような付勢力を生じるようになっており、それによって、取付ブロック5及びX線管装置6は無重力状態に懸垂支持され得る。
【0021】
ブレーキ機構は、回転シャフト26の一端部に取付けられ、それと一体となって回転し得る回転ドラム22を備えている。そして、回転ドラム22には、ブレーキ部材21が対向配置され、ソレノイド23の動作の切り替えによって、回転ドラム22に押圧されてその回転を制止させる制動位置と、回転ドラム22から離れる非制動位置の2つの位置をとり得るようになっている。この場合、ソレノイド23が「ON」状態にあるとき、ブレーキ部材21が非制動位置をとり、ブレーキ解除状態となり、「OFF」状態にあるとき、ブレーキ部材21は制動位置をとり、ブレーキ作動状態となる。
【0022】
天井走行式取付ブロック5には、また、X線管装置6の水平面内でのX−Y方向の移動、又は上下方向の移動、又は水平軸まわりの回転又は垂直軸まわりの回転、又はそれらの動作の2以上の組合せからなる複合動作を手動操作により行うための操作ハンドル7と、操作盤8が設けられている。
【0023】
図2は、操作ハンドル及び操作盤を示す平面図である。図2を参照して、操作盤8には、X線管装置6の長手方向の移動及び短手方向の移動のロック解除スイッチ12、並びにX線管装置6の上下方向の移動のロック解除スイッチ11、及びX線管装置1の水平軸まわりの回転のロック解除スイッチ9及び垂直軸まわりの回転のロック解除スイッチ10等の操作スイッチが備えられている。これらの操作スイッチ9〜12は、スイッチを押している間だけ「ON」状態が保持されるスイッチ(モーメンタリスイッチ)であり、常時は「OFF」状態にある。そして、各操作スイッチ9〜12が「ON」状態にあるとき、当該操作スイッチに対応するブレーキ機構のソレノイドが「ON]状態となってブレーキ解除状態となる。
【0024】
操作盤8には、また、X線管装置6の管球角度、長手及び短手方向のSID値等のX線管装置6による撮影に必要なデータを表示する表示器13が設けられている。この実施例では、表示器13は、4個の7セグメントLED表示器を配列したものからなっている。そして、例えば、操作スイッチ9、10が「ON」状態のときは、表示器13に回転角度が表示され、操作スイッチ11が「ON」状態のときは、SID値が表示される。
本発明によれば、また、ワイヤー断線発生時に操作者に対して警告する警告手段が備えられる。この実施例では、警告手段は表示器13からなっている。なお、表示器13の警告動作については後述する。
【0025】
本発明によれば、図3に示されるように、キャリッジ部3に、ワイヤー20の断線を検出するセンサー24が備えられ、また、取付ブロック5内に、センサー24からの断線検出信号に基づいて、ワイヤー断線発生の警告を発するとともに、操作スイッチの動作を制御する制御部14が備えられる。センサー24は、例えば、マイクロスイッチからなり、このマイクロスイッチを常時はワイヤー20に押しつけた状態(「ON」状態)に配置しておき、ワイヤー断線が発生したときに、張力が消失してマイクロスイッチが「OFF」状態となったことを検出することでワイヤー断線の発生が検出される。
【0026】
制御部14は、手動操作によりX線管装置6の上下方向の移動のみ又は上下方向の移動を含む複合動作がなされていて、少なくとも操作スイッチ11が「ON」状態にあることを検出している間に、センサー24から断線検出信号を受けたとき、表示器13を作動させて操作者にワイヤー断線発生の警告をし、当該上下方向の移動のみの完了後または当該複合動作の完了後であって、すべての操作スイッチ9〜12が「OFF」状態となったことを検出したとき、ブレーキ機構に作動命令を与えることによりX線管装置6の上下方向の移動をロックする。ブレーキ機構への作動命令の送出は、操作スイッチ(上下方向の移動のロック解除スイッチ)11の入力に優先して、独立になされる(操作スイッチ11の状態にかかわらずに強制的にソレノイド23を「OFF」状態にする)が、この場合、制御部14が、ブレーキ機構に対し作動命令を送出した後は、操作スイッチ11の入力を無効化するような構成としてもよい。
【0027】
表示器13の警告動作は、ワイヤー断線の発生時に、撮影に必要なデータの表示を警告の表示に切り替えることによってなされる。ところで、ワイヤー断線に起因してロックされるのは上下方向の移動のみであり、ワイヤー断線の発生後も、X線管装置6の上下方向の移動以外の動作のみでX線撮影が可能な場合がある。このような場合には、手動操作によってX線管装置6の動作がなされている間は、表示器13は、警告の表示を撮影に必要なデータの表示に切り替えるように動作する。
【0028】
この実施例では、警告手段を表示器13から構成したが、警告手段として、表示器13の代わりに、音声による警報器や警告ブザーを使用することもできる。この場合には、表示器13に撮影に必要なデータの表示を通常どおり行うことができる。
また、この実施例では、表示器13は、4個の7セグメントLED表示器からなっているが、これに限定されず、例えば、表示器13を、より大きな表示領域を有する大型LCDとしてもよい。この場合には、LCD上に、撮影に必要なデータの表示と、操作者に強調するような警告の表示を同時に行うことができる。
【0029】
また、制御部14が、さらに、によりX線管装置6の上下方向の移動以外の動作のみ又は上下方向の移動を含まない複合動作がなされていて、操作スイッチ11を除く少なくとも1つの操作スイッチが「ON」状態にあることを検出している間にセンサー24から断線検出信号を受けたときは、警告手段を作動させて操作者にワイヤー断線発生の警告をし、同時に、ブレーキ機構に作動命令を与えてX線管装置6の上下方向の移動をロックするように構成してもよい。
【0030】
また、例えば、上述のバランス機構の代わりに、図4に示すようなバランス機構とすることもできる。この場合にも、上述の実施例と同様、2本のワイヤーのそれぞれに対して独立に、同一のバランス機構が配置される。図4の実施例では、バランス機構は、一端がキャリッジ部3に取付けられて軸30のまわりに回転可能とされた一対の回転アーム31と、回転アーム31の他端に取付けられた動滑車32と、キャリッジ部3に取付けられた各1対の第1定滑車33a、第2定滑車33b及び第3定滑車33cを備えている。また、バランスバネ34がバネ取付部材35に装着されるとともに、バランスバネ34の一端がバネ取付部材35の一端の固定部40に固定され、バネ取付部材35の他端はキャリッジ部3に取付けられて軸37のまわりに回転可能とされる。そして、バランスバネ34の作用端はリテーナ36およびバネ連結部38を介して回転アーム31に取付けられてバネ連結部38のまわりに回転可能とされる。
【0031】
ワイヤー39は、両端を回転アーム31の固定部に支持されるとともに、動滑車32及び第1〜第3の定滑車33a〜33cに掛けられ、さらにその中央を取付ブロック5の上端のフック19に接続される。こうして、取付ブロック5及びX線管装置の重量は、回転アーム31を、動滑車32が引き上げられる向きに回転させる一方、バランスバネ34の弾性力及び自重は、ともに、回転アーム31を、動滑車32が引き下げられる向きに回転させ、取付けブロック5及びX線管装置を引き上げるように作用する。このとき、バランスバネ34の弾性力が回転アーム31に作用する力の成分と、バランスバネ34及び回転アーム31の自重が回転アーム31に作用する力の成分とが互いにバランスするようになっている。そして、取付ブロック5及びX線管装置が下方に移動すると、回転アーム31の動滑車32が引き上げられる向きへの回転に連動して、バネ取付部材35が軸37のまわりに回転するとともに、バネ連結部38を介してリテーナ36がバランスバネ34を圧縮する方向に移動する。このとき、圧縮されたバランスバネ34は、回転アーム31を弾性付勢して、動滑車32が引き下げられる向き、よって取付ブロック5及びX線管装置が引き上げられる向きに回転させ、ワイヤー39に懸垂される取付ブロック5及びX線管装置の重量と釣り合せるように作用する。それによって、取付ブロック5及びX線管装置6は無重力状態に懸垂支持され得る。
【0032】
図示はされないが、この実施例では、回転アーム31の軸30の一端側に、図3の実施例と同様のブレーキ機構が備えられる。すなわち、軸30の一端部に回転ドラムが備えられ、回転ドラムにはブレーキ部材が対向配置され、ソレノイドの動作の切り替えによって、回転ドラムに押圧されてその回転を制止させる制動位置と、回転ドラムから離れる非制動位置の2つの位置をとり得るようになっている。そして、ソレノイドが「ON」状態にあるとき、ブレーキ部材が非制動位置をとり、ブレーキ解除状態となり、「OFF」状態にあるとき、ブレーキ部材は制動位置をとり、ブレーキ作動状態となる。
【0033】
さらに、この実施例では、図4(A)に示すように、キャリッジ部3における第1定滑車33a及び第2定滑車33bの間にセンサー24が備えられ、ワイヤー29の断線を検出するようになっている、また、取付ブロック5内に、センサー24からの断線検出信号に基づいて、ワイヤー断線発生の警告を発するとともに、操作スイッチの動作を制御する制御部が備えられる。センサー24及び制御部は、図1〜図3の実施例と同様の構成を有し、よって、図1〜図3の実施例におけるのと同様に機能する。
【0034】
本発明による天井走行式X線管懸垂器によれば、操作者は、操作ハンドル7を握り、X線管装置6を移動させたい方向の操作スイッチ9〜12を選択的に「ON」状態とし、X線管装置6を、手動操作により、天井水平面内においてX−Y方向に移動させ、上下方向に移動させ、水平軸及び垂直軸のまわりに回転させた後、所望の撮影位置に所望の角度で固定し、被検者の撮影部位のX線撮影をすることができる。
【0035】
そして、X線管装置6の手動操作の間にワイヤー断線が生じた場合、表示器13において、撮影に必要なデータの表示が警告の表示に切り替えられて操作者に対してワイヤー断線の発生が知らされるが、当該手動操作が上下方向の移動に関係しているときには、その操作が完了するまではX線管装置6の上下方向の移動がロックされないので、操作中に急ブレーキがかかることはなく、ブレーキ機構から不快な大きな音が発生したり、操作者が転倒するおそれはない。一方、ワイヤー断線が発生した場合に、当該手動操作が上下方向の移動に無関係であるときは、ワイヤー断線発生の警告の表示と同時に上下方向の移動がロックされる。
【0036】
また、ワイヤー断線の発生後も、X線管装置6の上下方向の移動以外の動作のみでX線撮影が可能な場合がある。このような場合には、手動操作によってX線管装置6の動作がなされている間は、表示器13において、警告の表示が撮影に必要なデータの表示に切り替えられる。こうして、日常的に撮影症例が多い病院において、万一ワイヤー断線が生じたとしても、ワイヤー交換作業がなされるまでの間、X線管装置6の可能な操作の組み合わせにより、実行可能なX線撮影を継続して行うことができ、未撮影状態のまま放置したり、X線撮影のために患者を他の施設に移送することを極力防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の1実施例による天井走行式X線管懸垂器の外観形状を示す斜視図である。
【図2】図1の天井走行式X線管懸垂器の操作ハンドル及び操作盤を示す平面図である。
【図3】図1の天井走行式X線管懸垂器のバランス機構及びブレーキ機構、並びにワイヤー断線発生時の制御系統を示す図である。
【図4】バランス機構の別の実施例を示す図であり、(A)は平面図であり、(B)は側面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 固定レール
2 移動レール
3 キャリッジ部
4 支柱
5 取付ブロック
6 X線管装置
7 操作ハンドル
8 操作盤
9〜12 操作スイッチ
13 表示器
14 制御部
24 センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井に設けられたレールと、
前記レールに取り付けられて水平面内で移動可能とされたキャリッジ部と、
前記キャリッジ部に複数本のワイヤーによって懸垂されて上下方向に移動可能とされた取付ブロックと、
前記取付ブロックに水平軸及び鉛直軸のまわりに回転可能に取付けられたX線管装置と、
前記取付ブロックに取り付けられ、前記X線管装置の水平面内での移動、又は上下方向の移動、又は水平軸まわりの回転又は垂直軸まわりの回転、又はそれらの動作の2以上の組合せからなる複合動作を手動操作により行うための操作ハンドルと、
前記キャリッジ部に配置されるとともに、前記複数本のワイヤーの上端側が接続され、前記ワイヤーによって懸垂された重量との釣り合いをとるバランス機構と、
前記キャリッジ部に配置され、常時は、前記バランス機構の動作を制止することによって前記X線管装置の上下方向の移動をロックするように作動するブレーキ機構と、
前記取付ブロックに備えられ、前記手動操作によって前記X線管装置を上下方向に移動させる間に前記ブレーキ機構によるロックを解除するための操作スイッチと、
ワイヤー断線発生時に操作者に対して警告する警告手段と、
前記ワイヤーの断線を検出するセンサーと、
前記取付ブロックに設けられ、前記警告手段及び前記操作スイッチの動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記操作スイッチの入力がなされて手動操作によって前記X線管装置の前記上下方向の移動のみ又は前記上下方向の移動を含む複合動作がなされる間に前記センサーから断線検出信号を受けたとき、前記警告手段を作動させ、当該上下方向の移動のみの完了後または当該複合動作の完了後に前記ブレーキ機構に作動命令を与えることを特徴とする天井走行式X線管懸垂器。
【請求項2】
天井に設けられたレールと、
前記レールに取り付けられて水平面内で移動可能とされたキャリッジ部と、
前記キャリッジ部に複数本のワイヤーによって懸垂されて上下方向に移動可能とされた取付ブロックと、
前記取付ブロックに水平軸及び鉛直軸のまわりに回転可能に取付けられたX線管装置と、
前記取付ブロックに取り付けられ、前記X線管装置の水平面内での移動、又は上下方向の移動、又は水平軸まわりの回転又は垂直軸まわりの回転、又はそれらの動作の2以上の組合せからなる複合動作を手動操作により行うための操作ハンドルと、
前記キャリッジ部に配置されるとともに、前記複数本のワイヤーの上端側が接続され、前記ワイヤーによって懸垂された重量との釣り合いをとるバランス機構と、
前記キャリッジ部に配置され、常時は、前記バランス機構の動作を制止することによって前記X線管装置の上下方向の移動をロックするように作動するブレーキ機構と、
前記取付ブロックに備えられ、前記手動操作によって前記X線管装置を上下方向に移動させる間に前記ブレーキ機構によるロックを解除するための操作スイッチと、
ワイヤー断線発生時に操作者に対して警告する警告手段と、
前記ワイヤーの断線を検出するセンサーと、
前記取付ブロックに設けられ、前記警告手段及び前記操作スイッチの動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記操作スイッチの入力がなされて手動操作によって前記X線管装置の前記上下方向の移動のみ又は前記上下方向の移動を含む複合動作がなされる間に前記センサーから断線検出信号を受けたとき、前記警告手段を作動させ、当該上下方向の移動のみの完了後または当該複合動作の完了後に前記ブレーキ機構に作動命令を与えるが、前記操作スイッチの入力がなされて手動操作によって前記X線管装置の前記上下方向の移動以外の動作のみ又は前記上下方向の移動を含まない複合動作がなされる間に前記センサーから前記断線検出信号を受けたときは、前記警告手段を作動させ、同時に、前記ブレーキ機構に作動命令を与えることを特徴とする天井走行式X線管懸垂器。
【請求項3】
前記警告手段は、前記取付ブロックに設けられ、前記X線管装置による撮影に必要なデータを表示する表示器からなり、その警告動作が、前記ワイヤー断線発生時に撮影に必要なデータの表示を警告の表示に切り替えるが、前記ワイヤー断線発生後も手動操作によって前記X線管装置の動作がなされる場合には、当該動作の間は前記警告の表示を撮影に必要なデータの表示に切り替えることによってなされることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の天井走行式X線管懸垂器。
【請求項4】
前記制御部は、前記ワイヤー断線発生時に前記ブレーキ機構に作動命令を与えた後は、前記操作スイッチの入力を無効化するようになっていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の天井走行式X線管懸垂器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−183109(P2008−183109A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17866(P2007−17866)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】