説明

天然脂肪酸をベースとしたアクリレート複合ポリマーおよびその製造方法

本発明は、アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマー、およびその製造法に関する。本発明はまた、特に水性塗料、接着剤および複合材料における結合剤としての、ならびに環境にやさしい木材注入含浸剤としての、修飾天然脂肪酸ベースの複合ポリマーの使用に関する。アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーは、アクリレートセグメントおよび脂肪酸セグメントから形成されたブロックポリマーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性モノマー特にアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマー、およびその製造法に関する。本発明はまた、特に水性塗料、接着剤および複合材料における結合剤としての、ならびにまた環境にやさしい木材注入含浸剤としての、修飾天然脂肪酸ベースの複合ポリマーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
水性塗料および特にラテックスベースの塗料の使用は、ラテックスベースの製品の肯定的な環境への影響および塗布に用いられた器具の水による洗浄が容易であることを理由として、継続して増加してきた。溶媒ベースのアルキドペンキの人気は、主にそれらが含んでいる揮発性有機成分(VOC)のために衰えてきた。いずれにしても、アルキドペンキは、ラテックスペンキと比較して、例えば、特に木材ならびに例えば熱処理された木材および含浸木材の製品などの改質木材材料との混合可能性、および良好な表面光沢および硬度などの、いくつかの顕著な利点を有している。
【0003】
再生可能な原料または生体材料から製造される、バイオ複合材料などの生成物の使用は、継続的に増加している。これは、これら生成物のより多くの良好な特性のためであって、その特性は、特に生成物の生分解性、リサイクル可能性および低毒性である。その容積において現在のバイオ複合材料のうち最も重要なものは、亜麻糸、麻および木材繊維ベースの複合材料である。バイオ複合材料中の天然材料由来の原料の割合を可能な限り高くするために、製造に使用される添加剤もまた生物由来であることが、一般的に望ましい。
【0004】
乳化重合は、塗装材および結合剤(バインダー)として機能する、例えばスチレンブタジエンコポリマー、アクリルポリマーおよびポリ酢酸ビニルなどの合成ラテックスを製造するための公知な方法である。乳化重合においては、典型的には、水、モノマーまたはモノマー混合物、表面活性剤または界面活性剤および重合開始剤が用いられる。当該分野においてはまた、追加で例えば共力活性剤(co-surfactant)が使用されるような乳化重合様のミニ乳化重合法も公知である。
【0005】
米国特許第6,369,135号明細書から、ミニ乳化重合法は、塗料用途に適したラテックスの製造として公知であって、その方法では、反応生成物または例えばエチレングリコールもしくはグリセロールなどの二価アルコールもしくは多価アルコールと例えばフタル酸無水物などの一または多塩基酸とのアルキド樹脂ならびに麻の種油または大豆油で修飾されている樹脂が、例えばビニルまたはアクリルモノマーなどのエチレン性不飽和モノマー中に溶解される。混合物は、水および界面活性剤の存在下、好ましくは追加に共力活性剤を用いて、ミニ乳化重合される。結果として、アルキドがアクリレートポリマー骨格にグラフトされた、または逆にアクリレートがアルキドポリマー骨格にグラフトされたラテックスを含むポリマー粒子が得られる。生成物として、典型的には、比較的高い分子量を有する、大きなサイズのポリマーが得られる。
【0006】
当該技術分野において公知の乳化重合法では、典型的には大きなサイズの分子が反応されるので、例えば架橋およびゲル化などの望ましくない副反応が起きる。加えて、大きなサイズのポリマーから製造された塗料組成物中に、沈殿物が形成され、その沈殿物がこれらの製品の貯蔵寿命を短くする。
【0007】
上記に基づき、新規の修飾天然脂肪酸ベースの複合ポリマーを提供することおよびそれらの簡便な製造方法を開発することの必要性があることがみてとれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーを提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーの製造方法である。
【0010】
本発明のさらなる目的は、アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーからの乳剤製造方法である。
【0011】
本発明のさらなる目的は、水性塗料、接着剤、ペンキ、組み合わせ生成物および複合材料中での結合剤としてならびに木材注入含浸剤としての、アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーの使用である。
【0012】
本発明によるアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマー、それらの製造方法およびそれらの使用の特徴的な性質が、本発明の特許請求の範囲に提示されている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーとは、本明細書中では、分子量800〜6000000を有するアクリレートセグメントおよび脂肪酸セグメントで形成されたポリマーを指し、ならびに200〜20000の間の範囲の分子量を有する脂肪酸セグメントが、脂肪酸または脂肪酸のモノ−および/またはオリゴエステルを含んでいても良い。ポリマーは主にブロックポリマー型である。
【0014】
本発明は、アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマー、それらの製造方法および塗料、接着剤、ペイントおよび複合材料中の結合剤としてならびにまた木材注入含浸剤中の成分としてのそれらの使用に関する。
【0015】
本発明の方法において、アクリレートモノマーは、共役または非共役の二重結合を含む天然脂肪酸または天然脂肪酸エステルと反応して、アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーが製造される。
【0016】
本発明のアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーは、乳化重合法によって製造される。アクリレートモノマーまたは複数のアクリレートモノマーが、1または複数の界面活性剤および任意には1または複数の共力活性剤の存在下で、乳剤に分散され、そしてその後、アクリレートモノマーまたは複数のアクリレートモノマーが、フリーラジカル開始剤および反応性二重結合を含む脂肪酸出発材料の存在下で重合される。
【0017】
乳剤生成物またはアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーは、ポリマー粒子を含み、例えば脂肪酸側鎖にアクリレートポリマーセグメントが付加されるように、出発材料の脂肪酸の二重結合に、アクリレートポリマー鎖がグラフト化されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
驚くべきことに、アクリレートモノマーを天然脂肪酸または天然脂肪酸エステルの二重結合と反応させることにより、例えば共役または非共役の二重結合を含む天然油またはトール油脂肪酸混合物と反応させることにより、安定な乳剤を得られることが見出された。アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーは、さらに、アルキド樹脂と分散/乳化することができ、安定な乳剤が製造される。
【0019】
本発明のアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーは、例えば天然油から得られる脂肪酸の混合物、植物脂肪酸の混合物、脂肪酸エステルを含む天然油、および天然油ベースのオリゴエステルなどの天然脂肪酸または天然脂肪酸エステルを含み、該脂肪酸または脂肪酸エステルは、アクリレートモノマーで修飾されている。
【0020】
反応性の二重結合を含む脂肪酸の出発材料とは、本明細書中では、天然脂肪酸および天然脂肪酸エステルを指しており、特に、二重結合を含む脂肪酸または対応するエステルを含む天然脂肪酸の混合物および天然脂肪酸エステルの混合物を指し、それらは、植物、木材および特に天然油、トール油脂肪酸混合物中にならびにスベリンおよびクチンの脂肪酸の混合物中に存在し、そして二重結合は、共役または非共役であり得る。天然油とは、本明細書中では、例えば植物油、好ましくは、麻の種油、大豆油、菜種油、西洋アブラナ油、ひまわり油、オリーブ油などの共役または非共役の二重結合を含む天然油を意味する。
【0021】
トール油脂肪酸混合物とは、特に、木材処理工業のトール油副産物から分離される脂肪酸の混合物を指し、そのうちの典型的な脂肪酸の組成は、以下のように示される。トール油脂肪酸混合物は、重量パーセントとして計算して、約50%(45〜55%)のリノール酸および共役酸を含む他の2未置換C18脂肪酸、約35%(30〜45%)のオレイン酸、約7%(2〜10%)のポリ不飽和脂肪酸、約2%(0.5〜3%)の飽和脂肪酸および多くても3%(0.5〜3%)のロジン酸を含む。
【0022】
いくつかの天然油の考えられる脂肪酸組成は、次の表1に示される。
【0023】
【表1】

【0024】
アクリレートモノマーとは、本明細書中では、例えばブチル、エチル、メチル、2−エチルヘキシルアクリレートおよびブチル、エチル、メチル、2−エチルヘキシルメタクリレートなどのアクリレートおよびメタクリレートのモノマー、アクリルおよびメタクリル酸、複数のアクリレートモノマーの混合物ならびにアクリレートまたはメタクリレートのスチレンまたはビニルアルコールまたは酢酸ビニルとの混合物を指す。
【0025】
本発明のアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーは、天然脂肪酸または天然脂肪酸エステルなどの反応性の二重結合を含む脂肪酸出発材料をアクリレートモノマーと、水溶液中、ラジカル触媒(フリーラジカル開始剤)の存在下で30〜100℃、好ましくは50〜90℃で乳化重合することにより製造され、それにより安定な乳剤が形成される。典型的な重合時間は、1〜6時間の間の範囲である。
【0026】
製造法において、アクリレートモノマーまたは複数のアクリレートモノマーおよび水は、1または複数の界面活性剤および任意には1または複数の共力活性剤の存在下で乳剤に分散され、その後アクリレートモノマーまたは複数のアクリレートモノマーは、フリーラジカル開始剤および反応性の二重結合を含む脂肪酸出発材料の存在下で重合される。
【0027】
任意には、アクリレートモノマー、天然脂肪酸の混合物または天然脂肪酸エステルの混合物、および1または複数の界面活性剤、水および任意には1または複数の共力活性剤(疎水性物質)がともに混合され、もし必要であるならば典型的には20〜80℃/1〜120分、好ましくは25〜65℃/1〜30分間の加熱を用い、その後溶液のpHを、塩基でpH6〜9の間に調整する。pH調整のための適切な塩基は、例えば、NaHCO3、KOH、NH3などの水溶液である。反応混合物はその後、任意に1または複数の界面活性剤を含む水溶液中に乳化される。乳化は、有機層を水層中に添加することによってまたはその逆によって、同時に典型的には1〜180分、好ましくは5〜60分間激しく撹拌することによって行われる。混合はまた、高い効率の混合方法を用いて行なわれることも可能であり、または最初に形成された乳剤が、乳剤の液滴を形成するために高せん断力ブレンダーを用いて処理される。典型的には、超音波処理が1〜60分、好ましくは5〜30分行われてもよく、または200〜50000rpm、好ましくは1000〜25000rpmの回転速度を用いて0.5〜10分好ましくは1〜5分間高せん断力ブレンダーが使用されてもよい。適切な高効率ブレンダーは、例えばウルトラチュラックスホモゲナイザーである。乳剤は重合用反応器に移され、そして反応は30〜90℃好ましくは55〜75℃の温度まで加熱される。反応器の内容物が、45〜85℃の温度に達したときに、重合開始剤が先にすでに添加されていないならば、重合開始剤の水溶液が添加される。重合は、30〜100℃、好ましくは55〜80℃で行われ、かつ重合時間は、1〜6時間好ましくは2〜4時間であり、混合速度は、100〜2000rpm、好ましくは300〜500rpmである。反応時間の経過後、反応混合物が室温まで冷却され、もし必要であるならばpHが7〜9の範囲に調整され、例えば殺生剤などの添加物が加えられる。乳剤の乾燥物含有量は、典型的には8〜85%、好ましくは35〜60%であり、そしてモノマー転化率は、50〜100%である。
【0028】
乳化重合方法における天然脂肪酸または天然脂肪酸エステルのアクリレートモノマーに対する比は、典型的には、30〜70:70〜30重量/重量の間である。
【0029】
界面活性剤または表面活性剤は、例えばドデシル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩、例えばラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのエトキシル化されたアルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、脂肪酸塩、エトキシル化された脂肪酸、例えばポリオキシエチレントリデシルエーテルおよびポリオキシエチレン−10−ステアリルエーテルなどのポリオキシエチレンエーテル、またはデカエチレングリコールオクタデシルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールメチルエーテル、ポリエチレングリコールメタクリレートならびにその他の従来の非イオン性およびイオン性の界面活性剤からなる群から選択される。界面活性剤の量は、モノマーモノマーから計算され、典型的には0.5〜15重量%、好ましくは1〜10重量%である。
【0030】
共力活性剤は、例えばヘキサデカンなどの長鎖炭化水素、例えばセチルアルコールなどの一級アルコール、例えばポリメチルメタクリル酸などのアクリレートモノマー中に可溶なポリマーからなる群から選択される。該共力活性剤は、典型的には、モノマー量の0〜8重量%で使用される。
【0031】
重合開始剤(フリーラジカル開始剤)は、例えばナトリウム、カリウムおよびアンモニウムの過硫酸塩などの過硫酸塩、ベンゾイルパーオキサイド、2,2’−アゾイソブチロニトリルならびに他のラジカル開始剤からなる群から選択され、典型的には、モノマーの約0.5〜1.0重量%の濃度で使用される。重合開始剤は、典型的には水溶液として添加され、水溶液中の開始剤の量は、典型的には1〜5%、好ましくは2〜3.5重量%である。重合開始剤の水溶液は、典型的には10分〜2時間以内に添加される。
【0032】
アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーの粒子の平均流体力学的半径(Rh)は、70〜200nm、サイズ分布は、25〜400nm、平均分子量Mwは、8000〜6000000g/molである。3つのガラス転移温度が、複合生成物のDSC曲線において通常現れる。ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定法DSCによって測定され得る。
【0033】
アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーの乳剤は、修飾または非修飾のアルキド樹脂を用いて、激しい混合のもと、典型的には20〜80℃の温度で、さらに分散/乳化され得る。本発明の水性乳剤はこのように得られ、その乾燥物含有量は、10〜80重量%、好ましくは25〜50重量%である。
【0034】
非修飾の天然脂肪酸ベースのアルキド樹脂とは、本明細書中では、多価のアルコール/複数のアルコールと一、二および/または多塩基酸/塩基酸または酸無水物および天然脂肪酸または天然脂肪酸エステルとの縮合反応生成物を指す。天然脂肪酸または天然脂肪酸エステルは、トール油脂肪酸、スベリン脂肪酸、クチン脂肪酸、植物油およびそれらの混合物、好ましくは、トール油脂肪酸、スベリン脂肪酸、麻の種油、大豆油、菜種油、西洋アブラナ油、ひまわり油およびオリーブ油からなる群から選択される脂肪酸の混合物または脂肪酸エステルの混合物を含む。
【0035】
天然脂肪酸ベースのアルキド樹脂とは、本明細書中では、共役脂肪酸の割合が0〜70重量%であり得る20〜80重量%、好ましくは40〜75重量%の天然脂肪酸の出発材料またはそれらの混合物から、1〜45重量%、好ましくは5〜30重量%の1または複数の多価アルコールから、5〜45重量%、好ましくは、10〜39重量%の1または複数の多塩基酸および任意には0〜15重量%の1または複数の一塩基酸からの縮合によって製造されるアルキド樹脂を指す。脂肪酸出発材料は、トール油脂肪酸、スベリン脂肪酸、クチン脂肪酸、植物油およびそれらの混合物、好ましくは、トール油脂肪酸、スベリン脂肪酸、麻の種油、大豆油、菜種油、西洋アブラナ油、ひまわり油およびオリーブ油から選択される天然脂肪酸または天然脂肪酸エステルを含む。多価アルコールは、グリセロール、ペンタエリスルトール、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコールおよびそれらの混合物から選択される。多塩基酸は、二価および多価の酸およびそれらの酸無水物からなる群から選択され、該多塩基酸は、好ましくは、フタル酸無水物、イソフタル酸またはテレフタル酸である。一塩基酸は、例えば吉草酸(n−ペンタン酸)および安息香酸のような、芳香族の一価の酸および脂肪族のC4〜C20カルボン酸からなる群から選択される。
【0036】
アルキド樹脂は、多価のアルコール、一価、二価および/または多価の酸または酸無水物および遊離脂肪酸の出発材料を、不活性ガス雰囲気下、200〜270℃の温度、好ましくは220〜260℃で、共に縮合させることにより製造される。
【0037】
植物油などの脂肪酸エステルが使用される場合、アルコール分解と呼ばれるエステル交換反応において、脂肪酸エステルは初めに150〜240℃の温度、好ましくは180〜200℃で、過剰の多価アルコールと反応されて、平衡混合物中に、不活性ガス雰囲気下、200〜270℃の温度、好ましくは220〜260℃で、一価、二価および/または多価の酸または酸無水物とさらに反応することができる遊離の水酸基が得られる。通常使用されるアルコール分解触媒は、水酸化リチウム、酸化カルシウムおよび水酸化ナトリウムである。アルコール分解のため、多価アルコールは、典型的には、油の2倍のモル量使用される;油:多価アルコールのモル比は、典型的には、1.0:1.2〜1.0:3.0、好ましくは、1.0:1.5〜1.0:2.0である。アルキド樹脂の分子量は、典型的には、20000g/モルより小さく、好ましくは、2000〜10000g/モルであり、および酸価は、典型的には、25より小さく、好ましくは、15より小さい。
【0038】
本発明の方法はまた、無水マレイン酸または無水マレイン酸のC1〜C20アルキル/アルケニル誘導体または無水マレイン酸のジエステルおよび半エステルで修飾されている天然脂肪酸ベースのアルキド樹脂も使用され得る。修飾を行うために、脂肪酸ベースのアルキド樹脂が、100〜200℃の温度、好ましくは150〜180℃に温められ、無水マレイン酸またはその誘導体(アルキドに対し、5〜35モル%、好ましくは、10〜20モル%の脂肪酸含有量)が、その後0.5〜2時間の間に少量ずつ添加され、その後反応混合物は、150〜220℃、好ましくは180〜200℃に温められ、そしてさらに1〜5時間撹拌される。最終生成物として、アルキド樹脂出発材料としてより高い酸性の官能基を有する修飾アルキド樹脂が得られる。
【0039】
本発明のアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベース複合ポリマーおよびアルキド樹脂を用いたそれらの乳剤は、塗料および接着性の組成物のための、感圧接着剤中の粘着性組成物のための結合剤として、ならびにまたバイオ複合材料の製造のためのおよび木材注入含浸剤の組成物のための結合剤および親和性付与剤としてもよく適している。
【0040】
結合剤に加えて、塗料および接着性の組成物において使用される典型的な成分は、例えば0.2〜1.2%の防かび剤、0.2〜0.5%の殺菌剤などの殺生剤、0.1〜2%の界面活性剤、10〜30%の顔料および増量剤(内部充填剤)、0.2〜2%の増粘剤および水である。本発明のアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーはまた、それ自体でまたは、所望により、公知の賦形剤を用いて、感圧接着剤中の成分としても使用され得る。自己接着性接着剤または感圧接着剤は、室温で乾燥形態では、強力で持続性のある接着剤である。それらは、高い圧力なしで様々な材料に接着する。
【0041】
本発明のアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーは、1〜30%、好ましくは、5〜15%の生成物をトール油脂肪酸混合物または麻の種油、大豆油または菜種油などの植物油と混合することにより、または、もし必要ならば公知の添加剤とともに、木材および木材由来の生成物の含浸のために水性乳剤を用いることにより、木材注入含浸用途に使用され得る。
【0042】
加えて、本発明のアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーは、例えばセルロース、木材、木材繊維、亜麻糸、麻、澱粉および他の天然繊維またはそれらの組み合わせなどの天然材料からの複合材などの組み合わせ生成物の製造における結合剤および親和性付与剤として、もし必要ならば公知の添加剤とともに使用され得る。
【0043】
アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーを含む本発明による複合材料は、1〜50重量%、好ましくは、5〜30重量%(乾燥物から計算された)のアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーをそれ自体かまたは水性乳剤で、および99〜50重量%好ましくは、95〜70重量%のセルロース、木材、木材繊維、亜麻糸、麻、澱粉または他の天然繊維またはそれらの組み合わせを含む。本発明の複合材料は、1〜50重量%、好ましくは5〜30重量%のアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーおよび99〜50重量%、好ましくは95〜70重量%のセルロース、木材、木材繊維、亜麻糸、麻、澱粉または他の天然繊維またはそれらの組み合わせを混合することにより、例えば100〜250℃、好ましくは、120〜200℃での所望のタイプの複合材生成物への押し出し加工または加熱加圧成型法によるなどの、熱による生成物の成形および硬化によって製造され得る。
【0044】
本発明のアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーは、いくつかの利点を有する。例えばペンキなどの塗装用途において、塗料の乾燥物含有量は、それらの助けにより、40〜60重量%までにも増加でき、それは、アルキド樹脂から直接の乳化により製造される生成物とともに通常使用される乾燥物含有量よりも顕著に高いものである。加えて、ペンキの特性を損なう乳化剤および界面活性剤の量が、塗料組成中で顕著に減少され得る。これらの界面活性剤は、通常ペンキ膜の表面に移動して、可塑剤のように作用し、その結果、ペンキ膜は、より柔らかくかつ粘着性となり、さらに、耐水性および耐薬品性が損なわれる。
【0045】
本発明による複合ポリマーの塗料中での使用は、他の溶剤および賦形剤を使用する必要性が従来のアルキド樹脂と比べて実質的に減少されるため、当該生成物からの揮発性有機物質の放出を実質的に低下させる。
【0046】
複合ポリマーの成分は、二重結合を含む天然脂肪酸または天然脂肪酸エステルに由来しているため、複合ポリマーを含む組成物は、迅速に乾燥しそして共役が乾燥を促進する。塗料は、優れた光沢および硬度を有し、そして塗料はまた、複合ポリマーが例えば木材自身の成分などの天然材料と適合するため、例えば熱処理された木材などの改質木材の処理においても非常によく適している。
【0047】
例えば亜麻糸、木材および麻複合材料などの天然繊維ベースの複合材料中での結合剤としての、本発明の複合ポリマーの使用は、生成物の天然の特性、生分解性および無毒性を促進するであろう。加えて、本発明の複合ポリマーは、強度、耐水性および耐溶媒性ならびにマトリックス材料への接着性およびさらには生成物中における分布などの複合材料の物理特性を改良する反応性結合剤である。
【0048】
本発明による反応性複合ポリマーが、木材の含浸用に、それ自体でまたは植物油と一緒のどちらかで使用される場合、木材からの注入含浸剤の漏出は減少し、かつ木材への接着は促進される。
【0049】
本発明による方法において、より小さな分子が出発材料であり、そこへ、アクリレートポリマーセグメントが重合される。この結果、通常使用される媒体への分散性および生成物の他の成分との適合性が改良される。
【0050】
本発明は、以下の実施例でより詳細に記載されるが、本発明がそれにより何らかの限定を受けることを意図するものではない。
【実施例】
【0051】
実施例1:アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーの麻の種油からの製造
150gの麻の種油中に、3gのドデシル硫酸ナトリウムおよび15.0gのBrij76(デカエチレングリコールオクタデシルエーテル)を混合した。混合物を60℃で撹拌することで、混合物を均質化した。混合物を15mlの1M重炭酸ナトリウムで中和した。170gのアクリル酸ブチルおよび12.1gのヘキサデカンを共に混合し、そして前者にゆっくりと添加した。450mlの水をモノマー混合物中に滴下して添加し、そして加熱を停止した。乳剤をさらに、磁気撹拌機を用いてそしてウルトラチュラックスホモゲナイザーを用いて、13500rpmで約5分間混合した。この後、乳剤をガラス反応器に添加しかつ窒素フローを反応器に接続した。浴を430rpmの回転速度で75℃まで加熱した。反応器の内部温度が、50℃になったとき、20ml/分で開始剤溶液(5.1gの過硫酸カリウムおよび150mlの水)を反応容器に添加した。4時間の重合後(内部温度は約69〜70℃)、温度を約30℃まで低下させ、そして生成物として得られた乳剤を、反応器から排出させた。乳剤の乾燥物含有量は、36重量%であった。
【0052】
実施例2:トール油ベースのアルキド樹脂の製造
アルキド樹脂を、トール油脂肪酸(1484.4g)、イソフタール酸(222.4g)およびトリメチロールプロパン(375.5g)から製造した。全ての出発材料を反応器に秤取し、反応混合物を撹拌しそして窒素フローの下、250〜260℃で加熱した。反応の進行はサンプルによって、サンプルからの酸価によって、そして反応混合物が透明になったときには粘度(R.E.L.回転円錐/プレート粘度計)によっても追跡された。反応を11時間沸騰させた。冷却された生成物(1875.2g)の酸価は、10.3mgKOH/gでありそして粘度は2.4ポイズ/50℃であった。
【0053】
実施例3:麻の種油ベースのアルキド樹脂の製造
アルキド樹脂を、麻の種油(865.7g)、トリメチロールプロパン(402.0g)、イソフタール酸(300.0g)および安息香酸(294.3g)から製造した。860gの麻の種油を、窒素雰囲気下で撹拌しながら150℃の温度まで加熱し、水酸化リチウム1水和物を添加し、5.7gの麻の種油に懸濁させた。加熱を200℃まで継続し、そしてトリメチロールプロパンを添加した。アルコール分解反応は溶解度試験によって追跡された。反応混合物が、メタノール中に完全に溶解したとき、イソフタール酸を反応用器中に添加し、そして混合後、安息香酸を添加した。反応混合物の加熱を、200〜250℃で継続し、そして反応の進行は酸価によって、そして反応混合物が透明になったときには粘度によっても追跡された。反応を、酸添加から3.5時間沸騰させた。冷却した生成物(1584g)から、酸価(14mgKOH/g)および粘度(5.4ポイズ/50℃、R.E.L.回転円錐/プレート粘度計)を測定した。
【0054】
実施例4:トール油脂肪酸ベースのアルキド樹脂の無水マレイン酸での修飾
出発物質である実施例2において製造されたアルキド(400g、酸価10.3mgKOH/g、粘度2.4ポイズ/50℃)を、反応容器に秤取し、そして反応混合物を、180℃まで加熱した。無水マレイン酸(8.0g、0.163モル、アルキドの脂肪酸含有量から計算して15モル%)を、少量ずつ1時間の間に添加し、その後反応混合物を200℃まで加熱し、そしてさらに3時間撹拌した。19.7mgKOH/gの酸価および4.7ポイズ/50℃の粘度を有する396.9gの最終生成物を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーであって、アクリレートセグメントおよび脂肪酸セグメントから形成される分子量800〜6000000を有するブロックポリマーであって、ならびに分子量200〜2000を有する脂肪酸セグメントが、脂肪酸または脂肪酸のモノ−および/またはオリゴエステルを含むことを特徴とする複合ポリマー。
【請求項2】
前記脂肪酸セグメントが、二重結合を含む脂肪酸出発材料、好ましくは天然脂肪酸または天然脂肪酸エステル由来であることを特徴とする請求項1記載のアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマー。
【請求項3】
前記脂肪酸出発材料が、天然油、トール油脂肪酸混合物ならびにスベリンおよびクチンの脂肪酸混合物から選択されることを特徴とする請求項2記載のアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマー。
【請求項4】
前記天然油が、麻の種油、大豆油、菜種油、西洋アブラナ油、ひまわり油およびオリーブ油から選択されることを特徴とする請求項3記載のアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマー。
【請求項5】
前記アクリレートセグメントが、ブチル、エチル、メチルおよび2−エチルヘキシルアクリレート、ならびにブチル、エチル、メチルおよび2−エチルヘキシルメタクリレート、アクリルおよびメタクリル酸ならびにそれらの混合物、アクリレートモノマーの混合物、ならびにアクリレートおよびメタクリレートモノマーのスチレンまたはビニルアルコールまたは酢酸ビニルとの混合物から選択されるアクリレート由来であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマー。
【請求項6】
アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーの製造方法であって、アクリレートモノマー、天然脂肪酸の混合物または天然脂肪酸エステルの混合物および1または複数の界面活性剤および任意には1または複数の共力活性剤が20〜80℃の温度で混合され、その後混合物のpHを、塩基でpH6〜9の間に調整し、その後反応混合物を、任意には1または複数の界面活性剤を含む水溶液に乳化し、そして撹拌し、乳剤をその後30〜90℃の温度まで加熱しそして重合を、30〜100℃で、重合開始剤の存在下、100〜2000rpmの混合速度で行うことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記天然脂肪酸または天然脂肪酸エステルが、天然油、トール油脂肪酸混合物ならびにスベリンおよびクチンの脂肪酸混合物から選択されることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記天然油が、麻の種油、大豆油、菜種油、西洋アブラナ油、ひまわり油およびオリーブ油から選択されることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記アクリレートが、ブチル、エチル、メチルおよび2−エチルヘキシルアクリレート、ブチル、エチル、メチルおよび2−エチルヘキシルメタクリレート、アクリルおよびメタクリル酸ならびにそれらの混合物、アクリレートモノマーの混合物、ならびにアクリレートおよびメタクリレートのスチレンまたはビニルアルコールまたは酢酸ビニルとの混合物から選択されることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
乳剤/分散液の製造方法であって、請求項1〜5のいずれかに記載の、または請求項6〜9のいずれかに記載の方法によって製造された、アクリレート修飾天然脂肪酸ベースの複合ポリマーが、アルキド樹脂に添加され、そして混合物のpHが、塩基でpH6〜9の間に調整され、そして混合物が、15〜80℃の温度で、任意には0〜30重量%の共溶媒を用いて、水中に分散/乳化されることを特徴とする方法。
【請求項11】
塗料、接着剤、ペンキ中の結合剤としてならびに感圧接着剤中の成分として、複合材中の結合剤および親和性付与剤としてならびに木材注入含浸剤として、請求項1〜5のいずれかに記載の、または請求項6〜9のいずれかに記載の方法により製造される、または請求項10記載の方法により製造される乳剤の、アクリレートで修飾された天然脂肪酸ベースの複合ポリマーの使用。

【公表番号】特表2009−529081(P2009−529081A)
【公表日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557779(P2008−557779)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【国際出願番号】PCT/FI2007/050114
【国際公開番号】WO2007/101909
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(506004506)
【Fターム(参考)】