説明

太陽光の反射及び断熱構造体

【課題】太陽光による照射熱の反射及び断熱効果を向上する必要のある建築物等の部位に用いる反射及び断熱構造体であって、メンテナンスが殆ど不要で、ランニングコストも掛らず、耐久性に富む太陽光の反射及び断熱構造体を提供する。太陽光の反射及び断熱構造を実現できることから空調に要される電力量を削減でき、Co削減に資するものである。また、現在、日本国内で発生し、膨大な手間とコストを費やし産業廃棄物として処理されている貝殻の有効な活用を図ることが出来るものである。
【解決手段】照射熱を受ける部位に、真珠層2aを有する貝殻2を、その真珠層2aを太陽光による照射熱の反射面となるように、かつ層構造状に敷設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光による照射熱の反射及び断熱効果を向上する必要のある建築物等の部位に用いる反射及び断熱構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に都市部では、コンクリート建築物が多く、また、道路などの路面はコンクリートやアスファルトで覆われている。これらのコンクリート面は、太陽熱によって温度が上昇し、夏期には例えば建築物の屋根で65〜70℃にも達することから、都市のヒートアイランド現象を引き起こす要因のひとつとなっている。
【0003】
特に、コンクリート造の建物では、内部の温度も上昇するため、室内環境が悪化するうえ、冷房などの電力エネルギーの消費増加が問題となっている。
【0004】
このような建物の温度上昇問題の対策としては、様々な対策が提案され、反射率の高い塗料で塗装することにより、太陽熱を反射させる方法、水の気化熱で建築物を冷却する方法などである。このうち、塗料による方法では、熱線の入射量を減らす効果はあるが太陽熱により温まった物体を冷ます効果はない。
【0005】
また、水の気化熱で建築物を冷却する方法には、打ち水をする方法、保水性のある材料を設ける方法、あるいは緑化する方法などがある。
【0006】
このうち、打ち水をする方法は効果が高いとして試みられているが、与えた水が流れ去るため、多量の水を必要とする上効果が持続しない。
【0007】
緑化する方法では、屋上緑化の施工に際しては、屋上のモルタル面にコンクリートによる植裁基盤を設け、躯体面から植裁基盤を完全に分離して、土壌を敷き詰めることが行われている。コンクリートには、ポルトランドセメントと単粒度の粗骨材で形成される連続空隙を備えたポーラス・コンクリートを用いることが一般的であり、植裁基盤とすべき法面打設後、保水性充填材として空隙部表面側にピートモス等の天然有機系材料を土とともに充填する。
【0008】
保水性のある材料を設ける方法も種々提案されているが、下記特許文献1は、屋上を緑化した場合と同様な冷却・断熱効果を奏する透水性、保水性が優れた軽量なコンクリート舗装方法および保水性・透水性コンクリート・ブロックであり、強度を補う添加剤を添加することなく、粒度3〜20mmの軽石11、50〜62重量%とポルトランドセメント50〜38重量%との配合物に、水40〜50重量%を散布した混練した状態の保水性・透水性コンクリートからなる生コンクリートを敷き詰める。
【特許文献1】特開2005−97884号公報
【0009】
特許文献1では、保水性・透水性コンクリートを打設する際に、多数の小穴をあけた合成樹脂製のパイプを埋設しておき、乾燥したときに、このパイプに水を注入することにより、保水性・透水性コンクリートに水を含浸させる。使用する水として、貯水槽に貯えた雨水などを使用すればよいとされる。
【0010】
下記特許文献2は、特に屋上保冷に好適であり、軽量でかつ遮光性と保冷性などを有した素材により形成され、コストの低減化やメンテナンスフリー化に優れた屋上保冷に最適な保水・保冷・断熱用パネルとして提案されたものである。
【特許文献2】特開2009−57811号公報
【0011】
この特許文献2は、太陽光を反射させる素材を主成分として形成される遮光層と、保水性と保冷性と断熱性とを兼ね備えた素材を主成分とすると共に、保水性・保冷性・断熱性・強度性を兼ね備えた補強助剤を混入して低蓄熱性固化で固化した保水冷却断熱層とよりなり、かつ吸水性・通気性・放湿性を備える対流促進機能を有する積層体と、また、有孔あるいは穿孔された木質板あるいは吸放湿性のある竹メッシュなどである底板とを備える積層体、また、景観性、強度補強性、遮光性、放湿冷却性、芳香性のある人工植物を備える積層体である。
【0012】
なお、貝殻で、真珠の養殖に使ったアコヤ貝、ホタテやカキなどの中身を収穫した残りの貝殻は、有効な再利用手段が極めて限られ、その大部分は産業廃棄物として処理コストを費やし処分されているのが実情である。
【0013】
下記特許文献3には、このような貝殻の有効利用を図るものとして、アスファルトコンクリート舗装及びセメント舗装において、蠣等の貝殻を適度な大きさに粉砕し、高温処理を施して砂利、砕石、砂等の骨材の代わりとして用いるものが提案されている。
【特許文献3】特開昭47−24139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記従来の屋上の高温化防止方法では、遮熱・反射系塗料などの塗装による方法を除けば、屋上緑化のように保水を前提とした根保持基盤、また、ポーラス状の吸水・保水する材料を屋上や屋根に設置し、保水層による遮熱効果を利用して高温化防止する仕組みが一般的になっている。
【0015】
これらの保水層は、水分保持のために一定の厚さが必要で、また、水分保持の必要上、重量が自ずと増加する傾向がある。ところが一般に建築物の天井部・屋上部に過重な重量物を設置することは好ましくなく、かといって重量を制限しようとすると水分保持量が減り、遮熱効果が低下するという問題が生ずる。そして最大の問題は、水分はいずれ蒸発して遮熱効果が低下する為、水の供給が常時必要で、その装置の設置、維持管理が必要となり経費もかかる。
【0016】
さらに保水を行う問題点は、晴天が継続すると、保水層に残った水分が熱蓄積を起こし、保水層全体が高温化し、その高温が屋上床面に伝導してしまい、かえって遮熱効果が低下することである。
【0017】
これに加えて、ポーラス状の吸水・保水する材料としては、ポーラス・コンクリートが一般であるが、ポーラス・コンクリートは、セメントと砕石などの天然骨材を使用しているので重量が重く材料の運搬、取り扱い、施工が不便である。
【0018】
前記特許文献1のポルトランドセメントは、強アルカリ性で植物の種子の発芽を妨げたり、充填した植物繊維や種子などが雨水で流失しやすい。
【0019】
また、屋上の緑化に際しては屋上に対する荷重や排水を特に考慮する必要があるが、現実問題として既存のビルの屋上緑化においては、建築基準法等の規制により屋上に設置できる重量に一定の制限が課せられ、過度の積載は不可能である。また、ビル等の屋上部は、空調設備やビル外壁清掃用のレール等により十分なスペースが無く、排水等の設備設置には不都合であることが多い。
【0020】
そのために、このような場所を緑化する際には、可能な限り荷重を制限し、排水等の設備も最小限に抑える必要がある。
【0021】
また、植裁のためには土壌の水分の排出経路を確保する必要があり、植裁を囲む壁の下部に、適宜排水口を設け、土壌の流出を防ぐために網で排水口を覆うなどの手段を設けている。
【0022】
しかし、このような方法では排水効率が悪く、排水口を網で覆っているとはいえ土壌からの塵埃をすべて遮断することは不可能であり、屋上に設けたドレインの詰まりを頻発させるという問題があった。
【0023】
水の供給設備を必要とする場合、水貯留による屋上への静荷重増加が問題となることもあり、散水装置を有しない雨水貯留タイプは、雨水供給が途絶し半乾燥状態となると、粒状物による層内の水蒸気により、熱蓄積が発生し、かえって冷却作用が阻害される欠点もある。
【0024】
なお、特許文献3の貝殻を利用した舗装道路構築法は、貝殻を骨材として使用することで有効利用を図ろうとするものであり、冷却・断熱効果を期待するものとは全く無関係である。
【0025】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、太陽光による照射熱の反射及び断熱効果を向上する必要のある建築物等の部位に用いる反射及び断熱構造体であって、メンテナンスが殆ど不要で、ランニングコストも掛らず、耐久性に富む太陽光の反射及び断熱構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
請求項1および2記載の本発明は前記目的を達成するため、太陽光による照射熱の反射及び断熱効果を向上する必要のある建築物等の部位に用いる反射及び断熱構造体であって、照射熱を受ける部位に、真珠層を有する貝殻を、その真珠層を太陽光による照射熱の反射面となるように、かつ層構造状に敷設したこと、太陽光による照射熱の反射及び断熱効果を向上する必要のある建築物等の部位が、建築物の屋上・表面、室外空調機の表面もしくは周辺のいずれかであることを要旨とするものである。
【0027】
請求項1および2記載の本発明によれば、
(1)貝殻の比重が比較的軽い(概ね1.5〜2程度)ため、照射熱を受ける建築物等の部位(例えば屋上、屋根)等に敷設しても重量増加が軽微であり、構造物に与える構造的負荷は事実上無視し得る範囲に留まる。
(2)概ね白色を基調とする色調を有する貝殻の真珠層が照射熱を高い効率で反射することで反射・断熱効果が向上する。
(3)層構造状に敷設する貝殻相互の接触が点接触状態となり、層構造の上層・下層間の貝殻を媒体とする熱伝導が妨げられ、貝殻が覆う部位の温度上昇を抑制できる。また、下層の貝殻と建築物等の部位が直に接する状態も点接触となり、水分の滞留が生じにくく、腐食等の建築物等へのダメージが防止できる。
(4)貝殻の層構造間の空気層が、以下の理由から、夏期には屋上、屋根等に対する冷却層として、冬期には保温層として作用する。夏期には、貝殻層の表層側が照射熱で温められ、貝殻層の下層側(屋上、屋根等の側)から上層側に向かう上昇気流が発生する。この上昇気流は、下層側に新鮮な外気(酷暑季でも概ね35℃以下)を常に送り込むことにより空冷作用を生じ、貝殻層の下層側に接する構造物表面の温度上昇を抑制できる。
一方、冬期には、貝殻の層構造間の空気層が断熱層として作用すると共に、冷気が屋上、屋根等に直接接触して生ずる冷却作用を阻害することで、構造物表面からの熱放散が抑止され、温度低下が生じにくいという効果を生ずる。
【0028】
請求項3記載の本発明は、真珠層を有する貝殻は、その断面形状が略板状または凹状であることを要旨とするものである。
【0029】
請求項3記載の本発明によれば、断面が略板状または凹状の形状を有する貝殻を用いることにより、建築物等の部位に対する効率的な被覆が可能となり、照射熱に対する反射効果が向上する。
【0030】
請求項4記載の本発明は、貝殻が形成する層構造は、排水・通風手段を有する保持体で、該層構造を維持するように囲まれることを要旨とするものである。
【0031】
請求項4記載の本発明によれば、排水・通風手段を有する保持体で、貝の層構造を保持することにより、風圧や雨水流下の外力、カラス等の鳥類による貝の持ち去り等による、層構造の破壊が防止できる。
【0032】
請求項5記載の本発明は、貝殻は、その表面から裏面に貫通する孔部が設けられることを要旨とするものである。
【0033】
請求項5記載の本発明によれば、貝殻に表面から裏面に貫通する孔部が設けることにより、貝殻の凹部に滞留する水分の排水が促され反射機能の低下が防止できると共に、孔部に気流が通過することで貝殻の層構造に気流通過が生じる。これにより、夏期における屋上・屋根等の建築物からの部位からの水分蒸発がもたらす潜熱を効果的に発散できることから、潜熱滞留による屋上、屋根等の温度上昇を防止できる。
【0034】
請求項6記載の本発明は、層構造を維持する保持体と連続する線材が、貝殻の表面から裏面に貫通する孔部に挿通されることを要旨とするものである。
【0035】
請求項6記載の本発明によれば、貝殻の層構造を維持する保持体に連続する線材が、貝殻の表面から裏面に貫通する孔部に挿通されることにより、保持体による貝殻の層構造への拘束効果が高まり、層構造内での貝殻の偏り発生等の不具合を解消でき、層構造の一層確実な保持が実現できる。
【発明の効果】
【0036】
以上述べたように本発明の太陽光の反射及び断熱構造は、メンテナンスが殆ど不要で、ランニングコストも掛らず、耐久性に富むもので、太陽光の反射及び断熱構造を実現できることから空調に要される電力量を削減でき、Co削減に資するものである。
【0037】
また、現在、日本国内で発生し、膨大な手間とコストを費やし産業廃棄物として処理されている貝殻の有効な活用を図ることが出来るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の太陽光の反射及び断熱構造体の1実施形態を示す縦断側面図で、図中1は、太陽光による照射熱の反射及び断熱効果を向上する必要のある建築物等の部位としての屋上床で、これにはコンクリート面やシート防水等が多い。5は天井部、6は室内である。
【0039】
本発明は、真珠層2aを上面(太陽光の入射方向)に向けた貝殻敷設層、一例としてホタテの貝殻2を2層以上の層状にしたものを、照射熱を受ける部位である屋上床1上に敷設した。
【0040】
貝殻2は、貝殻内側に真珠層2aを持ち、比重1.5程度で、本発明では図2に示すように直径5〜20cmの平板・皿状物を使用する。
【0041】
真珠層2aは、別名真珠母(しんじゅぼ)とも称され、貝類の内側に付いており、貝殻の外套膜から分泌する炭酸カルシウムを主成分とする、無機質と有機質とからなる光沢物質である。
【0042】
本発明における真珠層2aを有する貝殻2は、二枚貝であれば特に限定されないが、建築物等の部位を覆うことから、ホタテ・カキ・ヒオウギ・アコヤ・イタヤ・ホッキ・アワビ、等の比較的広い平面形状を有する貝殻が好適である。
【0043】
さらに、この貝殻2の平板・皿状物の中央部分に排水・通風用の貫通孔3を形成し、排水・通風手段を有するものとした。
【0044】
該貫通孔3の形成は、貝殻2の断面形状が略板状の場合はその略中央部分、断面形状が凹状の場合はその底部部分が好ましい。
【0045】
また、層構造の貝殻2の上面は、貝殻の層構造維持と飛散防止のために飛散防止ネット4で覆う。この飛散防止ネット4としては、フェンス用等の合成樹脂製ネット(ポリエステル等)や漁網、カラス等の鳥避け網等が利用できる。
【0046】
図3に示すように、層構造の貝殻2を固定枠12内に収め、この固定枠12の上面開口を飛散防止ネット4で閉塞してもよい。固定枠12には脚12aをつけ、固定枠と屋上床等の間隔を保持して、排水と通気を行う。
【0047】
さらに、図4に示すように、貝殻2に施した孔13を用いて貝殻2を結束紐7で連結し一体物として、それを積層にし、固定することにより、前記飛散防止ネット4なしに、貝殻の層構造維持を図り、かつ、飛散防止を図ることもできる。結束紐7には針金、ワイヤー、布紐、耐久性に富む合成樹脂性(ポリエステル等)のロープ等が利用できる。
【0048】
また、他の実施形態として図5に示すように、貝殻2を積層した状態でネット袋8に収容し、そのネット袋8を敷設し、並べたネット袋8同士を結束具14で結束して連結し、全体を一体物とする。
【0049】
このようにして貝殻2による平板・皿状物の貝殻敷設層は、図1に示すように、上層αを遮熱層、中層βを熱伝導阻害層、そして積層空間をなす空気層γとして構成する。
【0050】
層状での各貝殻相互の接触面は点もしくは断続した線で構成され、各貝殻の外面70%以上が非接触面で空気に直接触れる構造となっている。
【0051】
次に使用方法および作用について説明する。貝殻敷設層を構成する各貝殻の接触点では、上層αである遮熱層において太陽の直射を受ける表面の熱(40〜45℃)は、その伝導が次層の中層βとの接触部位である点部分もしくは断続した線部分に集中するが、その面積が小さいため、伝導熱量が低減して温度が低下(35〜40℃)する。また貝殻2の孔を通じて空気中に熱が放出される。
【0052】
上層α自体は高温となることにより貝殻敷設層内に上昇気流が生じ、上層αより上空へ放熱され、その空気の流れによって熱伝導阻害層をなす中層β、積層空間をなす空気層γの低温空気(35℃以下)が貝殻敷設層内を下方から上方に向けて通過し、冷却効果が起きる。
【0053】
屋上床1、もしくは屋根面への貝殻の接触も、貝殻同士と同様、点もしくは不連続の線で構成され、屋上床面の70%以上が空気に直接触れる構造となっている。
【0054】
熱伝導阻害層をなす中層βは、遮熱層をなす上層αを支持するので上層αからの熱伝導を受けるが、接触面が小さいことで、屋上床1もしくは構造物表面への熱伝導を低減させ温度を低下(35℃以下)させる役目を持つ。
【0055】
中層βをなす熱伝道阻害層及び貝殻積層空間の下層にある空気層γには太陽光の直射がなく常時日陰状態となる。この層は低温(酷暑期でも概ね35℃以下)となり、その空気は高温となる上層αが発生する上昇気流により吸引され上層αの遮熱層へ達し放出される。これにより、新鮮で比較的低温の空気(35℃以下)の通過が貝殻敷設層内の下方から上方に向けて継続して発生する。
【0056】
このような敷設層による構造機能によって屋上床1または構造物表面に流入する空気の温度は、最高で40℃で貝殻積層構造内の日陰部分に入ると35℃以下となる。この35℃以下の空気温度によって屋上床1または構造物表面は、35℃以上にならず、それ以下の天井部5はより低温化が起こり、室内への熱伝導は小さくなる。
【0057】
図6および下記表1に各部位の温度の測定結果を示すが、●は屋上床1の温度、■は天井部5の温度、□は室内6の温度である(図1参照)
【表1】

【0058】
この様に、前記貝殻2による平板・皿状物の層がない場合には、各部位の最高温度は、屋上床1の表面温度は約60℃、天井部5の温度約42℃、室内6の温度は約40℃となる。
【0059】
これに対し、平板・皿状物の貝殻2による貝殻敷設層がある場合、遮熱層をなす上層αの温度は40〜45℃であり、熱伝導阻害層をなす中層βの温度は概ね35℃、下層をなす空気層γの温度は35℃からそれ以下で、屋上床1の内部温度は平均約35℃以下、天井部5の温度は約30℃以下、室内6の温度は約28℃以下となる。
【0060】
また、外気に一定の風速がある場合は、貝殻敷設層内の空隙に、通過風が進入し、熱伝導阻害層をなす中層β、低層部をなす空気層γの冷却作用が生ずる。
【0061】
この場合、風上部分の貝殻敷設層内部は気温に近い温度を呈するが、風下部分のそれは貝殻敷設層内を通過して熱を吸収した空気によって、風上部分より2〜3℃高熱となる。このため、貝殻敷設層を全体に敷き詰めることをせず、2〜4m程度間隔に貝殻敷設層から空気を逃がす隙間を設けてもよい。
【0062】
一方、冬期の低温時には、敷設層表面が断熱層として作用し下層部をなす空気層γの外気による温度低下が抑制でき、また建物内部での暖房熱の放射が妨げられることから、図7および下記表2に示すように貝殻敷設層がない部分の屋上床1に対し、貝殻敷設層を有する屋上床1は夜間から午前中の時間帯において+5℃の高温をつくる。
【表2】

【0063】
屋上床1もしくは構造物表面の保水を要しない本発明は、流入する雨水をそのまま排水することが出来るので、降雨時以外は略乾燥状態が保たれ、貝殻敷設層内に水蒸気による潜熱が蓄積されない。また貝殻の略中央に設けた貫通孔は雨水の排水、外気の通気用として有効である。
【0064】
図8は本発明の他の実施形態を示すもので、前記図5と同じく、平板・皿状物の貝殻2の積層構造を維持し、且つ貝殻敷設層の排水・通風手段を有する拘束体としてメッシュネットによるネット袋8を用いた。このメッシュネットによるネット袋8内で貝殻敷設層をつくり、かつ屋上や屋根等にフトン状にして敷き込み、これらのネット袋を相互に結束し一体的に固定すれば飛散防止ネットは必要ない。図中16は折半屋根を示すが、本実施例においては貝殻敷設層をフトン状にして敷き込むことができるので、接触する屋上床面等の構造物の形状に追従して、この様な凹凸部のある屋根部表面も効果的に被覆できる。
【0065】
図9は屋上床1もしくは構造物表面への本発明の貝殻2の平板・皿状物の層構造を敷設し、さらに、その上に空調室外機15を設置した場合である。貝殻2を設けない場合との比較を温度数値によって示した。
【0066】
なお、図示は省略するが本発明におけるビルなどの屋上部とは空調室外機の上を言い、空調室外機上もしくは周辺に本発明の貝殻の平板・皿状物の層構造を敷設することも出来る。
【0067】
このように本発明の太陽光の反射及び断熱構造体が適用する太陽光による照射熱の反射及び断熱効果を向上する必要のある建築物等の部位は、建築物の屋上・表面、屋根面、室外空調機の表面もしくは周辺のいずれかであればよく、それに準じた部位でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の太陽光の反射及び断熱構造体の第1実施形態を示す縦断側面図である。
【図2】本発明の太陽光の反射及び断熱構造体で使用する貝殻の説明図である。
【図3】本発明の太陽光の反射及び断熱構造体の1実施形態を示す斜視図である。
【図4】本発明の太陽光の反射及び断熱構造体で使用する貝殻の連結結束状況を示す説明図である。
【図5】本発明の太陽光の反射及び断熱構造体で使用するネット袋とその結束状況を示す斜視図である。
【図6】夏期温度測定結果を示すグラフである。
【図7】冬期温度測定結果を示すグラフである。
【図8】本発明の太陽光の反射及び断熱構造体の他の実施形態を示す斜視図である。
【図9】本発明の太陽光の反射及び断熱構造体の他の設置例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0069】
1 屋上床 2 貝殻
2a 真珠層
3 貫通孔 4 飛散防止ネット
5 天井部 6 室内
7 結束紐 8 ネット袋
11 軽石 12 固定枠
12a 脚 13 孔
14 結束具 15 空調室外機
16 折半屋根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光による照射熱の反射及び断熱効果を向上する必要のある建築物等の部位に用いる反射及び断熱構造体であって、照射熱を受ける部位に、真珠層を有する貝殻を、その真珠層を太陽光による照射熱の反射面となるように、かつ層構造状に敷設したことを特徴とする太陽光の反射及び断熱構造体。
【請求項2】
太陽光による照射熱の反射及び断熱効果を向上する必要のある建築物等の部位が、建築物の屋上・表面、室外空調機の表面もしくは周辺のいずれかである請求項1記載の太陽光の反射及び断熱構造体。
【請求項3】
真珠層を有する貝殻は、その断面形状が略板状または凹状である請求項1または請求項2記載の太陽光の反射及び断熱構造体。
【請求項4】
貝殻が形成する層構造は、排水・通風手段を有する保持体で、該層構造を維持するように囲まれる請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の太陽光の反射及び断熱構造体。
【請求項5】
貝殻は、その表面から裏面に貫通する孔部が設けられる請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の太陽光の反射及び断熱構造体。
【請求項6】
層構造を維持する保持体と連続する線材が、貝殻の表面から裏面に貫通する孔部に挿通される請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の太陽光の反射及び断熱構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−12769(P2012−12769A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147288(P2010−147288)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】