説明

太陽電池の製造方法および太陽電池

【課題】簡便かつ安定的に所望の形状のエミッタ層を有する太陽電池を製造する太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】エミッタ層が形成された半導体基板と、エミッタ層に接触する電極とを有する太陽電池の製造方法であって、半導体基板の少なくとも一方の表面から内部に向けての領域の少なくとも一部に、エミッタ層を形成する工程と、エミッタ層上の少なくとも一部に保護マスクを形成する工程と、保護マスクが形成された状態で、エミッタ層を水および酸溶液のそれぞれに接触させてエッチングする工程と、エッチング後に、エミッタ層から保護マスクを除去する工程と、エミッタ層のうちの保護マスクが除去された部分に電極を形成する工程と、を含む太陽電池の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の製造方法および太陽電池に関し、特に、簡便かつ安定的に所望のエミッタ層を有する太陽電池を製造する太陽電池の製造方法およびその製造方法により製造される太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー資源の枯渇の問題や大気中のCO2の増加のような地球環境問題などからクリーンなエネルギーの開発が望まれており、太陽エネルギーから電気エネルギーを生成する太陽電池が新しいエネルギー源として開発、実用化され、発展の道を歩んでいる。太陽電池は、環境と調和し易く、寿命が長いという長所を有している。
【0003】
太陽電池としては、たとえば、単結晶または多結晶のシリコン基板の受光面としての表面にシリコン基板の導電型と反対の導電型となる不純物を拡散することによってpn接合を形成し、シリコン基板の受光面および受光面の反対側の裏面にそれぞれ表電極および裏電極を形成して製造された両面電極型太陽電池がある。
【0004】
上述のような両面電極型太陽電池において、シリコン基板のうちの不純物が拡散されたエミッタ層と表電極との接触抵抗を低減させるためには、シリコン基板に拡散する不純物の濃度を高くする必要がある。一方、太陽電池の表面で発生する電子と正孔の再結合を低減させるためには、シリコン基板に拡散する不純物の濃度を低くする必要があるが、濃度の低下が過剰であると、シリコン基板と表電極との接触抵抗の増加を招いてしまい、濃度の低下が不十分であると、上述の電子と正孔の再結合を低減させるという効果が薄れてしまう。
【0005】
以上のことを考慮すると、エミッタ層において、表電極の下部分には不純物が高濃度に拡散され、それ以外の部分には不純物が低濃度に拡散されている状態にすることが望ましい。このような状態のエミッタ層を形成する方法としては、たとえば、フォトリソグラフィを用いる方法などがある。しかし、フォトリソグラフィは工程が複雑であり、太陽電池を量産するための方法としては適切ではない。
【0006】
そこで、上述のような状態のエミッタ層を形成するための方法として、非特許文献1には、エミッタ層の一部をエッチングすることにより、上述のような状態のエミッタ層を有する太陽電池を製造する方法が開示されている。この方法を図4に示す。
【0007】
図4について、まず、ステップS41において、p型結晶シリコン基板のテクスチャ処理された表面にPOCl3ガスを用いて不純物としてのリンをドーピングすることによって、p型シリコン基板の受光面側にエミッタ層を形成する。次に、ステップS42において、受光面のうちの電極を配置予定の部分上に、スクリーン印刷によって耐酸マスクを形成する。次に、ステップS43において、フッ酸と硝酸との混合溶液にp型シリコン基板の受光面側を浸漬して、エミッタ層をエッチングする。
【0008】
ステップS43のフッ酸硝酸溶液浸漬工程により、露出したエミッタ層の表面が薄くエッチングされる。エミッタ層は表面から内部にいくにつれて、不純物の濃度が低くなっているため、エミッタ層の表面が薄くエッチングされることにより、エミッタ層のうちの不純物が高濃度に存在する領域が除去され、不純物が低濃度に存在する領域が残存することになる。一方、耐酸マスクで保護された部分は不純物が高濃度に存在する領域も残存している。
【0009】
次に、ステップS44において、p型基板上から耐酸マスクを除去し、ステップS45において、受光面上に反射防止膜としての窒化シリコン膜を形成する。さらに、ステップS46において、不純物が高濃度に存在する領域が残存している領域の反射防止膜上に表電極材料を印刷して焼成することにより、表電極を形成する。さらに、裏電極を形成することにより、上述のような状態の、所望のエミッタ層を有する太陽電池が製造される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A. Dastgheib-Shirazi他、SELECTIVE EMITTER FOR INDUSTRIAL SOLAR CELL PRODUCTION: A WET CHEMICAL APPROACH USING A SINGLE SIDE DIFFUSION PROCESS、23rd European Photovoltaic Solar Energy Conference、2008年9月1〜5日、p1197-1199
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、本発明者は、上述した方法では、1μm以下であるpn接合深さのうちの高濃度エミッタ層のみをエッチングするように制御することは、実際には困難であることが分かった。このため、従来の方法では、安定的に、所望のエミッタ層を形成することができないという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、少ない工程で、安定的に、所望のエミッタ層を有する太陽電池を製造する太陽電池の製造方法およびその製造方法によって製造された太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討を重ね、フッ酸と硝酸との混合溶液を用いてエミッタ層をエッチングする場合、該混合溶液とシリコンとの反応速度が速いために、反応時の温度管理、混合溶液の濃度管理および反応時間管理などを厳密に行う必要があり、この制御が困難であるために、結果として安定的に所望のエミッタ層を形成することができないことを突き止めた。特に、上記混合溶液とシリコンの反応は発熱反応であるために、温度管理は極めて困難となる。
【0014】
そこで、本発明者らはさらに鋭意検討を重ねたところ、酸溶液のみでエッチングするのではなく、酸溶液と水とをそれぞれ用いてエミッタ層をエッチングすることによって、エミッタ層のエッチングを定量的かつ安定的に行うことができ、結果として、安定的に所望のエミッタ層を形成することができることを知見した。
【0015】
すなわち、本発明は、エミッタ層が形成された半導体基板と、エミッタ層に接触する電極とを有する太陽電池の製造方法であって、半導体基板の少なくとも一方の表面から内部に向けての領域の少なくとも一部に、エミッタ層を形成する工程と、エミッタ層上の少なくとも一部に保護マスクを形成する工程と、保護マスクが形成された状態で、エミッタ層を水および酸溶液のそれぞれに接触させてエッチングする工程と、エッチング後に、エミッタ層から保護マスクを除去する工程と、エミッタ層のうちの保護マスクが除去された部分に電極を形成する工程と、を含む太陽電池の製造方法である。
【0016】
上記太陽電池の製造方法において、エミッタ層は、水および酸溶液に交互に浸漬されることによってエッチングされることが好ましい。
【0017】
上記太陽電池の製造方法において、酸溶液は、フッ化水素およびフッ化アンモニウムを含有する緩衝液であることが好ましい。
【0018】
上記太陽電池の製造方法において、水が加温されていることが好ましい。
上記太陽電池の製造方法において、酸溶液が加温されていることが好ましい。
【0019】
上記太陽電池の製造方法において、エミッタ層と酸溶液とを接触させる際に、酸溶液を超音波振動させることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、エミッタ層が形成された半導体基板と、エミッタ層に接触する電極とを有する太陽電池であって、半導体基板の少なくとも一方の表面から内部に向けての領域の少なくとも一部に、エミッタ層を形成する工程と、エミッタ層上の少なくとも一部に保護マスクを形成する工程と、保護マスクが形成された状態で、エミッタ層を水および酸溶液のそれぞれに接触させてエッチングする工程と、エッチング後に、保護マスクを除去する工程と、エミッタ層のうちの保護マスクが除去された部分に電極を形成する工程と、を含む製造方法によって製造された太陽電池である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡便かつ安定的に所望のエミッタ層を有する太陽電池を製造することができる。具体的には、表電極の下部分には不純物が高濃度に拡散され、それ以外の部分には不純物が低濃度に拡散されたエミッタ層を有する太陽電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施の形態に係る太陽電池の製造方法のフローチャートである。
【図2】図1の各工程における半導体基板の概略的な断面図である。
【図3】本実施の形態におけるエッチング工程のフローチャートである。
【図4】従来の太陽電池の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一または対応する部分について同一の符号を付し、その説明は繰り返さないことにする。
【0024】
<太陽電池の製造方法>
図1は、本実施の形態に係る太陽電池の製造方法のフローチャートであり、図2(a)〜(f)は、図1の各工程における半導体基板の概略的な断面図である。以下、図1および図2に基づいて、本実施の形態に係る太陽電池の製造方法について説明する。
【0025】
≪エミッタ層形成工程≫
本実施の形態において、まず、ステップS11のエミッタ層形成工程として、図2(a)に示すように、シリコンからなる半導体基板100の少なくとも一方の表面101から内部に向けての領域の少なくとも一部に、エミッタ層103を形成する。
【0026】
エミッタ層103は、半導体基板100の表面101および裏面102のうち、受光面としてテクスチャ処理された表面101上に、半導体基板100の導電型と反対の導電型である不純物がドーピングされることによって形成される。ドーピングにより、エミッタ層103は、表面101から内部にむけて不純物濃度が低くなる構成となる。なお、半導体基板100の内部にドーピングされずに、半導体基板100の表面に残った不純物は、たとえば、フッ化水素水溶液に浸漬することによって除去することができる。
【0027】
本明細書において、説明を容易にするために、不純物が高濃度に存在する、表面101から内部にむけて浅い領域のエミッタ層103を便宜的に高濃度エミッタ層104とし、不純物が低濃度に存在する、高濃度エミッタ層104よりも内部にむかう深い領域のエミッタ層103を便宜的に低濃度エミッタ層105と定義して説明する。高濃度エミッタ層104と低濃度エミッタ層105との境は任意に決定することができる。
【0028】
≪保護マスク形成工程≫
次に、ステップS12の保護マスク形成工程として、図2(b)に示すように、半導体基板100の受光面101側、すなわち、エミッタ層103上の少なくとも一部に保護マスク106を形成する。
【0029】
保護マスク106は、後述する酸溶液への耐性を有している必要がある。また、保護マスク106は、受光面101のうち、後述する電極108を配置予定の領域に形成されるが、その形成方法としては、フォトリソグラフィを用いた方法、印刷方法などがある。特に、後にエミッタ層103上から除去されることを考慮すると、剥離し易いように、インクジェット印刷方法などを用いて、薄く形成することが好ましい。
【0030】
ここで、保護マスク106と表電極108を配置予定の位置とが完全に一致する必要はなく、太陽電池全体で見た場合に、そのずれによる抵抗値が問題とならない範囲であれば、多少のずれが生じていても良い。ただし、保護マスク106の下の部分は高濃度エミッタ層104が残存する領域となるため、この領域と表電極108の領域とが大きくずれると、太陽電池の発電効率が低下する原因となる。
【0031】
≪エッチング工程≫
次に、ステップS13のエッチング工程として、図2(c)に示すように、半導体基板100上に保護マスク106が形成された状態で、エミッタ層103を水および酸溶液のそれぞれに接触させてエッチングする。本工程において、エミッタ層103のうち、高濃度エミッタ層104がエッチングされるが、その詳細について図3を用いて以下に説明する。
【0032】
図3は、本実施の形態におけるエッチング工程のフローチャートであり、図1のエッチング工程を詳細に示すものである。まず、ステップS31において、半導体基板100のエミッタ層103を水に浸漬する。そして、エミッタ層103を水から引き上げた後、ステップS32において、エミッタ層103を酸溶液に浸漬する。なお、エミッタ層103と水および酸溶液との接触方法は浸漬に限られず、エミッタ層103の表層と水および酸溶液とが接触する状態を維持することができれば足りる。
【0033】
本発明者は、エッチング工程において、従来のように、酸溶液のみでエミッタ層103をエッチングするよりも、水と酸溶液のそれぞれにエミッタ層103を接触させることによって、安定的に均一に高濃度エミッタ層104をエッチングできることを知見した。この理由は明確ではないが、以下のことが考えられる。
【0034】
エミッタ層103が水と接触することによって、エミッタ層103の表層部、すなわち高濃度エミッタ層104の表層部が酸化シリコン膜へと変化する。次に、酸化シリコン膜が形成されたエミッタ層103が酸溶液と接触することによって、まず、表層部の酸化シリコン膜がエッチングされる。次に、酸化シリコン膜がエッチングされた後の高濃度エミッタ層104が徐々にエッチングされることになる。
【0035】
ここで、エミッタ層103と水とが接触する際に、高濃度エミッタ層104の表面における不純物濃度が高いほど速く、厚い酸化シリコン膜が形成される。このため、高濃度エミッタ層104の表面における不純物濃度が不均一であった場合、不純物濃度が高濃度なエミッタ層104の部分ほど酸化シリコン膜が厚く形成され、続く酸溶液との接触時に、他の部分よりも多くエッチングされて不純物濃度が低下することになる。一方、酸溶液が高濃度エミッタ層104をエッチングする速度は、シリコン酸化膜をエッチングする速度よりも小さいため、高濃度エミッタ層104のエッチングによる大きなむらというのが生じ難い。これらの要因が相互に関連することにより、エミッタ層103のエッチングが不均一となるのを防いでいると考えられる。
【0036】
ステップS31およびステップS32の一連の工程は複数回繰り返しても良い。繰り返し回数が増えるほど、エッチング量を増やすことができる。ただし、太陽電池の量産を考慮した場合、繰り返し回数が増加するほど薬液槽の数が増加することになり、薬液槽の増加に伴い、フットプリントが増大することになる。なお、シリコン基板100を同じ薬液槽に往復させて複数回浸漬させることも可能であるが、生産タクトの観点からは好ましくない。
【0037】
また、本発明者は、加温された水を用いることにより、エッチング効率が上昇し、浸漬時間の短縮が図れることを知見している。ところで、加温された水、例えば90℃の水と接触したシリコン基板100には、加温されてない常温、例えば25℃の水と接触した場合よりも、厚いシリコン酸化膜が形成される。シリコン酸化膜のエッチング速度は、高濃度エミッタ層103のエッチング速度に比べて非常に大きいため、シリコン酸化膜が厚く形成されるほど、全体的なエッチング速度が上昇するということが考えられる。したがって、ステップS31において、加温した水を用いることが好ましい。
【0038】
同様に、ステップS32においても、加温した酸溶液を用いることができる。酸溶液を加温することによって、酸溶液によるシリコン酸化膜およびエミッタ層103のエッチング速度が上昇する。ただし、酸溶液を過剰に加温すると、酸蒸気が発生して安全上の問題が生じるため、50℃以下に加温することが好ましい。
【0039】
本エッチング工程において、水としては純水が用いられ、酸溶液としては半導体基板100をエッチング可能な酸溶液、たとえば、フッ化水素、フッ化アンモニウム、またはフッ化水素とフッ化アンモニウムとからなる緩衝液(以下、バッファードフッ酸という。)が用られる。特に、エッチング速度が安定しているバッファードフッ酸が好ましい。バッファードフッ酸の組成は適宜調製することができ、たとえば、50質量%のフッ化水素水溶液と40質量%のフッ化アンモニウム水溶液との混合比を1:10〜1:50にすることができる。一方、過酸化水素水および硝酸などの酸化力の強い酸とフッ化水素とを混合した酸溶液はエッチング速度が速く、その制御が困難であるため、好ましくない。
【0040】
また、本エッチング工程において、エミッタ層103がどの深さまでエッチングされたかは、二次イオン質量分析法(SIMS)による不純物濃度の測定や、半導体基板100のシート抵抗を測定することによって知ることができる。特に、随時簡便にエッチングの程度を検知する方法としては、シート抵抗の測定が適している。
【0041】
半導体基板100のシート抵抗を測定する場合には、たとえば、4探針法(JIS K7194)を用いることができる。半導体基板100のシート抵抗を測定することによって、不純物濃度を知ることができるため、本エッチング工程において、随時シート抵抗を測定することによって、半導体基板100に対するエッチング深さが所望の深さになるように、エッチングに用いる溶液の温度、浸漬時間、浸漬の繰り返し回数などを適宜調整することができる。なお、本エッチング工程は、酸溶液のみを用いたエッチングと比較して浸漬時間のぶれに伴うエッチング量の変動が小さいため、その制御も容易である。
【0042】
≪保護マスク除去工程≫
図1に戻り、次に、ステップS14の保護マスク除去工程として、図2(d)に示すように、エッチング後に、エミッタ層103から保護マスク106を除去する。
【0043】
保護マスクを除去する方法は、従来公知の方法を用いることができ、たとえば、アセトンを用いて保護マスクを剥離する方法がある。保護マスク除去後に、半導体基板100の表面のエミッタ層103を清浄化するために、従来公知の洗浄処理、たとえば、RCA洗浄を行うことが好ましい。
【0044】
≪反射防止膜形成工程≫
次に、ステップS15の反射防止膜形成工程として、図2(e)に示すように、半導体基板100の表面に反射防止膜107を形成する工程を備えても良い。半導体基板100の受光面に絶縁性の反射防止膜107、たとえば窒化シリコン膜を形成することによって、太陽電池の発電効率を上昇させることができる。窒化シリコン膜の形成方法としては、従来公知の方法、たとえば、減圧CVD法、プラズマCVD法を用いることができる。
【0045】
≪電極形成工程≫
次に、ステップS16の電極形成工程として、図2(f)に示すように、半導体基板100の表面のエミッタ層103のうちの、保護マスク106が除去された部分に電極108を形成する。
【0046】
電極108の形成方法としては、従来公知の方法、たとえば、銀ペーストを所定のパターンで印刷した後に焼成する方法がある。銀などの金属ペーストを印刷した後に、900℃のような高温で金属ペーストを焼成することによって、金属からなる電極がエミッタ層103の高濃度エミッタ層104と接触した状態で形成される。また、図2(f)には表電極108のみを図示したが、裏面102には不図示の裏電極が形成される。その後、適宜、半導体基板100の4辺を切り落とし、最終的に太陽電池が製造される。
【0047】
本実施の形態によれば、エッチング工程において、半導体基板100を水および酸溶液のそれぞれに接触させることによって、半導体基板100のエミッタ層103のエッチングを安定的に均一に行うことができる。さらに、エッチング速度が過剰に速すぎないために、エッチングの深さの制御を的確に行うことができる。したがって、簡便かつ安定的に所望の形状のエミッタ層103を有する太陽電池を製造することができる。
【実施例】
【0048】
<実施例1>
156.5mm角で厚さ200μmのp型結晶シリコン基板を半導体基板として用いた。まず、POCl3ガスを用いてp型結晶シリコン基板のテクスチャ処理された表面から内部に向けてリンを熱拡散させてエミッタ層を形成し、p型結晶シリコン基板内にpn接合を形成させた。そして、このp型結晶シリコン基板の表面を5質量%のフッ化水素溶液に浸漬することにより、p型結晶シリコン基板の表面に付着したリンを除去した。
【0049】
このとき、p型結晶シリコン基板の表面の5箇所のシート抵抗を測定したところ、シート抵抗は約45Ω/□であった。p型結晶シリコン基板の表面の5箇所の測定位置としては、p型結晶シリコン基板を9分割したときの中央付近およびp型結晶シリコン基板の4角のそれぞれの中央付近を選択した。なお、当該5箇所の測定位置は、電極を配置する予定ではない箇所、すなわちエッチングされる箇所である。その後、保護マスクとして有機物を主成分とした耐酸性マスクを、スクリーン印刷法を用いて表電極を配置予定の領域に形成した。
【0050】
次に、エッチング工程として、エミッタ層を25℃の純水に5分間浸漬し、次いでエミッタ層を50℃のバッファードフッ酸に5分間浸漬した。そして、この一連の浸漬処理を2回繰り返した。このときのバッファードフッ酸は、50重量%のフッ化水素水溶液と40重量%のフッ化アンモニウム水溶液の混合重量比が1:10となるように混合したものを用いた。なお、エッチング工程においても、上記と同様の測定位置のシート抵抗を測定した。
【0051】
次に、アセトンを用いて保護マスクを剥離し、その後RCA洗浄を行った後、プラズマCVD法を用いてp型シリコン基板の表面に窒化シリコン膜を形成した。そして、耐酸性マスクが配置されていた位置に銀ペーストをスクリーン印刷した後に、900℃で焼成することによって、エミッタ層と接触した銀電極を形成した。さらに、裏面にアルミペーストをスクリーン印刷した後に焼成することによって裏面にアルミ電極を形成した後、p型シリコン基板の4辺を切り落として太陽電池を製造した。
【0052】
表1に、エッチング工程前後のp型結晶シリコン基板の各測定位置におけるシート抵抗値(Ω/□)、それらの平均値および標準偏差を算出した結果を示す。
【0053】
<実施例2>
エッチング工程における水を90℃に加温した以外は、実施例1と同様の方法に従って太陽電池を製造した。表1にエッチング工程前後のp型結晶シリコン基板の各測定位置におけるシート抵抗値(Ω/□)、それらの平均値および標準偏差を算出した結果を示す。
【0054】
<実施例3>
エッチング工程において、バッファードフッ酸を超音波振動させ、バッファードフッ酸への浸漬時間を2.5分にした以外は、実施例1と同様の方法に従って太陽電池を製造した。表1にエッチング工程前後のp型結晶シリコン基板の各測定位置におけるシート抵抗値(Ω/□)、それらの平均値および標準偏差を算出した結果を示す。
【0055】
<実施例4>
エッチング工程において、バッファードフッ酸の代わりに5質量%のフッ化水素水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法に従って太陽電池を製造した。表1にエッチング工程前後のp型結晶シリコン基板の各測定位置におけるシート抵抗値(Ω/□)、それらの平均値および標準偏差を算出した結果を示す。
【0056】
<比較例1>
エッチング工程において、水とバッファードフッ酸を用いる代わりに、50℃に加温したバッファードフッ酸のみを用い、該バッファードフッ酸にエミッタ層を25分間浸漬した以外は、実施例1と同様の方法に従って太陽電池を製造した。表1にエッチング工程前後のp型結晶シリコン基板の各測定位置におけるシート抵抗値(Ω/□)、それらの平均値および標準偏差を算出した結果を示す。
【0057】
<比較例2>
エッチング工程において、水とバッファードフッ酸を用いる代わりに、30℃のフッ酸硝酸溶液のみを用い、該フッ酸硝酸溶液にエミッタ層を90秒間浸漬した以外は、実施例1と同様の方法に従って太陽電池を製造した。フッ酸硝酸溶液には、フッ酸を0.1質量%、硝酸を60質量%含む水溶液を用いた。表1にエッチング工程前後のp型結晶シリコン基板の各測定位置におけるシート抵抗値(Ω/□)、それらの平均値および標準偏差を算出した結果を示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1より、比較例1のように、バッファードフッ酸のみを用いてエッチング工程を行った場合にはシート抵抗の標準偏差が高いことから、エミッタ層の均一なエッチングが行われていないことがわかった。これに対し、実施例1のように、純水とバッファードフッ酸とを用いてエッチング工程を行った場合には、標準偏差が低く、エミッタ層の均一なエッチングが行われたことがわかった。
【0060】
また、実施例1と実施例2とを比較すると、加温した純水を用いることにより、素早いエッチングが可能であることが分かった。実施例2は実施例1よりも標準偏差が高くなっているものの、その数値は10以下であり、太陽電池の量産に適用可能な範囲と考えられる。
【0061】
また、実施例2と実施例3とを比較すると、バッファードフッ酸に超音波振動を加えることによって、さらに素早いエッチングが可能であることが分かった。さらに実施例3は、実施例2よりも標準偏差の値が低い。以上のことから、バッファードフッ酸に超音波振動を与えながら浸漬してエッチングすることにより、エッチングレートが早くなるだけでなく、エッチングの均一性も向上することが分かった。
【0062】
また、実施例4のように、酸溶液としてバッファードフッ酸の代わりにフッ化水素溶液を用いた場合においても、均一性の高いエッチングが可能であることがわかった。しかし、実施例2と実施例4とを比較すると、フッ化水素溶液を用いた場合、バッファードフッ酸を用いた場合よりもシート抵抗値が低く、エッチングレートが遅いことが分かった。したがって、太陽電池の量産性を考慮すれば、バッファードフッ酸を用いることが好ましい。
【0063】
また、比較例2において、酸溶液としてフッ酸硝酸溶液を用いて、酸溶液のみでのエッチングを行ったが、この場合、エッチング速度が高すぎ、90秒という短い浸漬時間であるにもかかわらず、98.3Ω/□という高いシート抵抗の太陽電池が製造された。また、このときの標準偏差は10を超えており、エッチングの均一性が低いことがわかった。エッチング速度が速すぎると、エッチングの制御が困難であり、安定的に所望のエミッタ層を有する太陽電池を製造することが困難となる。
【0064】
以上の結果より、酸溶液のみを用いてエッチング工程を行う方法は、太陽電池の量産には適しておらず、水と酸溶液とをそれぞれ用いてエッチング工程を行う方法が、エミッタ層を安定的に均一にエッチングすることができ、太陽電池の量産に適していることがわかった。特に、酸溶液としてバッファードフッ酸を用いた場合に均一性および製造タクトの観点から好ましく、純水および/またはバッファードフッ酸を加温することが好ましく、さらに、バッファードフッ酸に超音波振動を与えることが好ましいことがわかった。
【0065】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、太陽電池を量産する場合に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
100 半導体基板、101 表面、102 裏面、103 エミッタ層、104 高濃度エミッタ層、105 低濃度エミッタ層、106 保護マスク、107 反射防止膜、108 表電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エミッタ層が形成された半導体基板と、前記エミッタ層に接触する電極とを有する太陽電池の製造方法であって、
前記半導体基板の少なくとも一方の表面から内部に向けての領域の少なくとも一部に、前記エミッタ層を形成する工程と、
前記エミッタ層上の少なくとも一部に保護マスクを形成する工程と、
前記保護マスクが形成された状態で、前記エミッタ層を水および酸溶液のそれぞれに接触させてエッチングする工程と、
エッチング後に、前記エミッタ層から前記保護マスクを除去する工程と、
前記エミッタ層のうちの前記保護マスクが除去された部分に前記電極を形成する工程と、を含む太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記エミッタ層は、水および酸溶液に交互に浸漬されることによってエッチングされる請求項1に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記酸溶液は、フッ化水素およびフッ化アンモニウムを含有する緩衝液である請求項1または2に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記水が加温されている請求項1から3のいずれかに記載の太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記酸溶液が加温されている請求項1から4のいずれかに記載の太陽電池の製造方法。
【請求項6】
前記エミッタ層と前記酸溶液とを接触させる際に、前記酸溶液を超音波振動させる請求項1から5のいずれかに記載の太陽電池の製造方法。
【請求項7】
エミッタ層が形成された半導体基板と、前記エミッタ層に接触する電極とを有する太陽電池であって、
前記半導体基板の少なくとも一方の表面から内部に向けての領域の少なくとも一部に、前記エミッタ層を形成する工程と、
前記エミッタ層上の少なくとも一部に保護マスクを形成する工程と、
前記保護マスクが形成された状態で、前記エミッタ層を水および酸溶液のそれぞれに接触させてエッチングする工程と、
エッチング後に、保護マスクを除去する工程と、
前記エミッタ層のうちの前記保護マスクが除去された部分に前記電極を形成する工程と、を含む製造方法によって製造された太陽電池。.

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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