説明

太陽電池の製造方法

【課題】枯渇の虞の無い材料で太陽電池を製造する。
【解決手段】カソード電極35をp型不純物が添加されたグラファイト材料で構成し、真空槽11内部に水素ガス雰囲気を形成し、アノード電極31とカソード電極35の間に電圧を印加しておき、トリガ電極37とカソード電極35との間に電圧を印加してトリガ放電を発生し、カソード電極35とアノード電極31の間にアーク放電を発生させ、カーボン蒸気を水素ガス雰囲気内で基板21の表面上に到達させ、p型層を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の結晶系Siを光吸収層(p型、n型層)に用いた太陽電池には、
(1)結晶Siは間接遷移型半導体であるために吸収係数が小さく、光吸収層に数百μmの厚さが必要であり、現在のSi不足を招いている、
(2)Siウェハの製造には大きな投入エネルギーが必要なため、製造のための全投入エネルギーは製造した太陽電池が発現するトータルと比較して大差ない、
などの課題がある。
【0003】
次世代太陽電池とされるアモルファス系Si太陽電池も、
(3)製造のための投入エネルギーは結晶シリコンに比べて1/2程度しか低減できないこと、
(4)シランガスを用いた製造方法であり、環境への影響がある、
などの短所がある。
【0004】
そこで、太陽電池の半導体層として、超微結晶ナノダイヤモンド(ウルトラナノクリスタルダイヤモンド:以下UNCDと略す)が提案されている。UNCDは10nm以下、典型的には3〜10nm程度(ナノメータオーダー)の結晶粒系の単結晶ダイヤモンドである。
【0005】
UNCDはヘテロ成長することができ、かつ平面の凹凸は小さい等、単結晶ダイヤモンドと多結晶ダイヤモンドの両方の長所を併せもっている。
現在、UNCDはレーザーアブレーション等で成膜されているが、その成膜エリアは狭く、また分布に偏りが生じる。
【0006】
これはレーザーアブレーションで発生するプルーン(プラズマ)に密度の濃淡があるため、成膜エリアも小さく、UNCDの密度の濃淡が発生するためと考えられる。
【0007】
分布の偏りをなくすためには、高価なレーザー装置を用いなければならないこと、また、レーザーの光路を確保するために、大面積に成膜する場合は成膜装置の構造が極めて複雑となる。
【0008】
また、UNCDはプラズマCVD等でも成膜可能であるが、残留水素が多いため、光吸収係数の小さなUNCDしか報告されておらず、また、生産のためには多量な投入電力を要する。
【特許文献1】特開平8−111537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ランニングコストが安く、大面積に成膜でき、かつ、資源的に枯渇の問題の少ない材料を使用可能な太陽電池の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、p型層とn型層のpn接合、又はp型層と金属のショットキー接合を有する太陽電池を製造する太陽電池の製造方法であって、真空槽内に配置された筒状のアノード電極内にp型不純物を含有するグラファイトから成るカソード電極を配置し、前記真空槽内を真空排気した後、前記真空槽内に水素ガスを導入し、前記アノード電極と前記カソード電極の間に電圧を印加しておき、前記カソード電極と離間するトリガ電極と前記カソード電極の間に電圧を印加してトリガ放電を発生させ、前記トリガ放電によって前記カソード電極と前記アノード電極の間にアーク放電を誘起させ、前記アーク放電によって発生したカーボン蒸気を前記アノード電極の開口から前記真空槽内に放出させ、前記真空槽内に配置された基板表面に水素ガス雰囲気内で前記カーボン蒸気を到達させ、前記p型不純物を含有するウルトラナノクリスタルダイヤモンド膜から成る前記p型層を形成する太陽電池の製造方法である。
本発明は太陽電池の製造方法であって、前記n型層として、n型の微結晶FeSi2薄膜を形成し、pn接合を有する太陽電池を製造する太陽電池の製造方法である。
本発明は太陽電池の製造方法であって、前記ウルトラナノクリスタルダイヤモンド薄膜と、前記n型層の間にp型シリコン層を配置し、pn接合を有する太陽電池を製造する太陽電池の製造方法である。
本発明は太陽電池の製造方法であって、前記金属として、アルミニウム又はステンレスを用い、ショットキー接合を有する太陽電池を製造する太陽電池の製造方法である。
【0011】
本発明は太陽電池のp型層としてUNCD薄膜を成膜する。ここでは、UNCD薄膜とは、5nm前後のダイヤモンド微結晶の間をアモルファスカーボンが取り囲んだ構造をとる。
【0012】
ダイヤモンド微結晶とアモルファスカーボンの界面に起因すると考えられる光電気特性は特徴的で、2.3eV付近に直接遷移型光学バンドキャップを有する。UNCD薄膜の光吸収係数はきわめて大きく、薄膜太陽電池のp型層として理想的である。
UNCD薄膜にBのようなP型不純物を添加することで、キャリア濃度が急激に増加して、UNCD薄膜がp型化する。
【発明の効果】
【0013】
生産に要するエネルギーを削減でき、かつ、太陽電池の発電効率を15%以上確保できる。p型層に材料として枯渇の虞の無いカーボンを用いるから、材料の供給安定性が高く、安価に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1の符号1は、本発明で用いることができる成膜装置を示している。
この成膜装置1は、真空槽11を有している。真空槽11の内部には、一乃至複数台の同軸型アーク蒸着源3が配置されている。
ここでは二台の同軸型アーク蒸着源3が配置されている。
各同軸型アーク蒸着源3の構造は同一であり、同じ部材には同じ符号を付し、図2を用いて説明する。
【0015】
同軸型アーク蒸着源3は、筒状のアノード電極31と棒状のカソード電極35を有している。ここでは各同軸型アーク蒸着源3のカソード電極35は同じ材料で構成されており、各カソード電極35はグラファイトを主成分とし、p型不純物(例えばB)が添加されている。
【0016】
カソード電極35は、一端をアノード電極31内部に配置された電極台座32に固定され、他端をアノード電極31の開口に向けた状態で、アノード電極31の内部に配置されている。電極台座32はアノード電極31とは絶縁されている。
【0017】
カソード電極35の外周には、絶縁リング36が装着されており、絶縁リング36の外周には、リング状のトリガ電極37が、カソード電極35やアノード電極31とは非接触に配置されている。
アノード電極31は接地電位に接続されており、カソード電極35とトリガ電極37は、電源装置5に接続されている。
【0018】
真空槽11の内部には、基板ホルダ17が配置されており、基板ホルダ17に基板21を保持させ、真空槽11の内部を真空排気系19によって真空排気した後、ガス導入系18から真空槽11内に水素ガスを導入し、所定圧力の水素ガス雰囲気を形成する。
【0019】
不図示の加熱装置により、基板21を所定の加熱温度(例えば500℃)に、その加熱温度に維持する。真空槽11内が所定圧力で安定した後、基板21を加熱温度に維持したまま、電源装置5により、カソード電極35に負電圧を印加した状態で、トリガ電極37に、カソード電極35に対して正電圧であって接地電位に対して負電圧のトリガ電圧を印加すると、トリガ電極37とカソード電極35の間にトリガ放電が発生し、カソード電極35とアノード電極31の間にアーク放電が誘起され、カソード電極35にアーク電流が流れる。
【0020】
アーク電流は電源装置5内のコンデンサを放電すると停止する。コンデンサが充電されるとパルスによって放電可能であり、所定の周期で複数回アーク電流を放電させる。コンデンサの充電時間は例えば1秒間であり、アーク電流が放電される時間は充電時間に比べて無視できる程小さいから、1秒間に1回の周期で放電されることになる。
【0021】
アノード放電によってカソード電極35に流れるアーク電流は大電流であり、カソード電極35表面が溶融し、カーボン蒸気(p型不純物を含む)のプラズマが発生する。
プラズマ中の電子は、アーク電流によってローレンツ力を受け、アノード電極31の開口から真空槽11内に放出される。
【0022】
カーボン蒸気中の正電荷を有するイオン(例えばカーボンイオン、不純物イオン)のうち、電荷質量比(電荷/質量)が大きな微小荷電粒子は、クーロン力によって電子に引き付けられ、アノード電極31の開口から真空槽11内に放出される。
【0023】
基板ホルダ17上には、一乃至複数枚の基板21が保持されており、基板21が、各同軸型アーク蒸着源3のアノード電極31の開口と対向する位置を通過するように、回転している。
【0024】
電源装置5の動作は、基板ホルダ17の回転と同期しており、基板21がアノード電極31の開口と対向する位置に到達したときにトリガ放電が発生し、アノード電極31の開口から放出されたカーボン蒸気が基板21に到達する。
【0025】
基板21の表面には予めn型層22が形成されているか(図3(a))、n型層が形成されず、基板21表面が露出しており、カーボン蒸気はn型層22の表面、又は基板21の表面に付着する。
【0026】
基板21はp型のシリコン基板、Al板、ステンレス板等であり、n型層22はn型の鉄シリサイド層(例えば膜厚350nmのn型ナノ微結晶FeSi2層)等である。
【0027】
シリコンと、Alと、ステンレスと、鉄シリサイドは、純鉄のような金属と異なり、カーボンと反応しない。従って、カーボンは基板21やn型層22に溶け込まない。
【0028】
基板21がシリコン基板の場合、結晶性である(例えば[111]配向)。結晶性シリコンや、Alや、ステンレスにカーボン蒸気が接触した場合、非結晶シリコンに接触した場合に比べて、ダイヤモンドの種結晶が成長しやすい。
【0029】
しかも、上述したように、真空槽11内部には水素ガスが供給され、水素ガス雰囲気(還元性雰囲気)が形成されており、カーボン蒸気が還元性雰囲気で基板21表面又はn型層22表面に付着すると、UNCD(超微結晶ナノダイヤモンド)薄膜が成長する。
カーボン蒸気はp型の不純物蒸気を含むから、UNCD薄膜はp型不純物を含み、UNCD薄膜は導電型がp型となる(p型層)。
p型層が所定膜厚(例えば、100nm)に成長したところで、成膜装置1から取り出す。
【0030】
図3(b)の符号30はn型層22の表面にp型層25が形成された状態の第一例の太陽電池(p型UNCD/n型ナノ微結晶FeSi2ヘテロ接合太陽電池)を示している。第一例の太陽電池30の基板21は、例えばAl板である。
光(例えば太陽光)はp型層25に入射し、入射した光のうち紫外光はp型層25に吸収され、p型層25を通過したn型層22に吸収される。
【0031】
本発明により製造可能な太陽電池は特に限定されない。
図4の符号40は、本発明により製造可能な第二例の太陽電池(p型UNCD/p型Si/n型β−FeSi2)を示している。
【0032】
第二例の太陽電池40を製造する工程を説明すると、基板21はp型のシリコン層であり(例えば膜厚100μmの[111]配向のp型Si)、その基板21の表面にp型層25を形成した後、スパッタリング装置内でFeSi2ターゲットをスパッタリングして、基板21のp型層25とは反対側の面に、所定膜厚(例えば500nm)のn型層32(例えばn型β−FeSi2層)をエピタキシャル成長させる。
【0033】
次いで、n型層32を形成した装置と、同一、又は異なるスパッタリング装置内部で、Auターゲットをスパッタリングして、p型層25の表面に所定形状(例えば櫛型)の第一の電極38を形成し、同一又は異なるスパッタリング装置内部で、Alターゲットをスパッタリングし、n型層32表面にAl薄膜からなる第二の電極39を形成する。
【0034】
第二例の太陽電池40では、第一の電極38の間にp型層25が露出しており、光はp型層25に入射し、入射した光のうち、紫外光はp型層25に吸収され、p型層25を透過した可視光はp型シリコン層である基板21に吸収され、基板21を透過した近赤外光はn型層32に吸収される。
【0035】
ここで、n型層32を構成する鉄シリサイドは、結晶β−FeSi2に限定されず、アモルファス系のナノ微結晶(NC)FeSi2であってもよく、共に、0.85eV〜0.9eV付近に直接遷移型光学ハンドキャップを有する。鉄シリサイドは、1.5eVで少なくともSiの100倍以上の吸収係数を有し、材料を大幅に節減できるメリットがある。
【0036】
図5の符号50は、本発明により製造可能な第三例の太陽電池(Al/p型UNCDショットキー型太陽電池)を示している。
第三例の太陽電池50は基板21の表面にp型層25を成膜した後、p型層25の表面に第二例の太陽電池40と同様の方法で、第一の電極38を形成して製造される。
【0037】
ここでは、基板21はAl板又はステンレス板のような金属製の板であり、約1.1eVのショットキー障壁が基板21とp型層25との間に発生するため、太陽光を吸収するには理想に近い。この障壁から、最大20%の効率が見込める。極めて、単純な構造で安価な太陽電池を実現できる。
【0038】
第一例〜第三例の太陽電池30、40、50は、紫外光から近赤外光まで幅広い波長域にわたって光を吸収できるため、発電効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に用いる成膜装置の一例を説明する断面図
【図2】同軸型アーク蒸着源の断面図
【図3】(a)、(b):第一例の太陽電池の製造工程を説明するための断面図
【図4】第二例の太陽電池を説明する断面図
【図5】第三例の太陽電池を説明する断面図
【符号の説明】
【0040】
1……成膜装置 5……電源装置 11……真空槽 21……基板 31……アノード電極 35……カソード電極 37……トリガ電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型層とn型層のpn接合、又はp型層と金属のショットキー接合を有する太陽電池を製造する太陽電池の製造方法であって、
真空槽内に配置された筒状のアノード電極内にp型不純物を含有するグラファイトから成るカソード電極を配置し、
前記真空槽内を真空排気した後、前記真空槽内に水素ガスを導入し、
前記アノード電極と前記カソード電極の間に電圧を印加しておき、前記カソード電極と離間するトリガ電極と前記カソード電極の間に電圧を印加してトリガ放電を発生させ、
前記トリガ放電によって前記カソード電極と前記アノード電極の間にアーク放電を誘起させ、前記アーク放電によって発生したカーボン蒸気を前記アノード電極の開口から前記真空槽内に放出させ、前記真空槽内に配置された基板表面に水素ガス雰囲気内で前記カーボン蒸気を到達させ、前記p型不純物を含有するウルトラナノクリスタルダイヤモンド膜から成る前記p型層を形成する太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記n型層として、n型の微結晶FeSi2薄膜を形成し、pn接合を有する太陽電池を製造する請求項1記載の太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記ウルトラナノクリスタルダイヤモンド薄膜と、前記n型層の間にp型シリコン層を配置し、pn接合を有する太陽電池を製造する請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記金属として、アルミニウム又はステンレスを用い、ショットキー接合を有する太陽電池を製造する請求項1記載の太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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