説明

太陽電池モジュール用基材及びその製造方法

【課題】ガスバリア性、耐侯性、柔軟性を同時に満足することのできる太陽電池モジュール用基材を提供する。
【解決手段】太陽電池用裏面保護シートは、少なくとも1層からなる基材フィルム1と、基材フィルム1の片面又は両面に形成された少なくとも1層からなるコート層2とを有してなる太陽電池モジュール用基材であって、コート層2が、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとからなるアクリル系樹脂成分Aと、前記金属アルコキシドの反応性官能基(Y)と結合するカルボキシル基を有するエチレン系樹脂成分Bとを含む液状体の塗膜を硬化してなる共重合体層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受光側透明基材及び裏面保護基材の2種の基材の間に封止剤を介して太陽電池素子を封止した構成の太陽電池モジュールに用いて好適な太陽電池モジュール用基材及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、優れた耐侯性を有するとともに、優れた耐水性および蒸気バリア性を備え、太陽電池モジュールを製造する時の熱プレス成型や真空圧空成型の組み付け成型時に多少の屈曲力が加わっても水蒸気ガスバリア性が損なわれることのない柔軟性を有し、かつ前記封止剤としてポリエチレン系の封止剤が用いられる場合であっても、封止剤との密着性が損なわれることのない太陽電池モジュール用基材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールは、太陽電池素子と、太陽電池素子を支持する裏面保護シート(裏面保護基材)と、太陽電池素子の受光側に設けられる透明な基材(透明ガラス板、透明樹脂シートなど)とを、基本要素として有している。太陽電池モジュールにおいては外部環境から太陽電池素子を保護するために、太陽電池素子を前記裏面保護シートと受光側透明基材との間に密封している。この密封構造は、前記受光側透明基材と太陽電池素子との間および前記裏面保護基材と太陽電池素子との間に、それぞれEVA(エチレン酢酸ビニル樹脂)製の封止剤シートを介在させて積層体とし、この積層体を加熱しながら真空圧空成形することによって、実現されている。
【0003】
従来、太陽電池モジュールを構成する裏面保護シートとして、いくつかの構成が提案されている。これらのシートでは、シートに水蒸気、酸素ガス等のガスバリア性を付与する工夫として、特性の異なるフィルムをそれぞれ接着剤で貼り合せ多層化した構造が採用されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ガスバリア性を確保するためにアルミニウム箔を使用した構成が開示されている。また、特許文献2には、ガスバリア性を確保するために酸化物蒸着膜を表面に付加させたフィルムを接着剤で貼り合せた構成が開示されている。さらに、特許文献3には、酸化物蒸着膜と、金属アルコキシドの加水分解生成物と水溶性高分子の複合物によるコート層とを組み合わせた多層構成が開示されている。
【0005】
上記特許文献1に開示のシートは、アルミニウム箔を用いているために、ガスバリア性に極めて優れている。しかし、該シートでは、太陽電池モジュールを製造する時にシートに加えられる150℃程度の熱プレスの熱によりシートを構成している樹脂フィルムが軟化するが、樹脂フィルム層の軟化に伴って該樹脂フィルム層を太陽電池素子電極部の突起物が貫通する場合がある。その場合には、電極部がアルミ箔に接触短絡し、電池性能に悪影響を及ぼす。
【0006】
上記特許文献2に開示のような無機酸化物蒸着膜を用いたシートは、無機酸化物蒸着膜がガラス質の膜構造を有している。したがって、該シートは、耐屈曲性に劣り、機械的ストレスにより膜にクラック等が発生し、シートのガスバリア性が著しく劣化するという問題がある。また、かかるシートでは、ある程度の屈曲性を持たせるために蒸着膜の膜厚を薄くすることが考えられるが、膜厚を薄くすると、膜中に欠陥が生じ、そのためにガスバリア性が低下するという問題が発生する。
【0007】
上記特許文献3に開示のようなシートでは、ポリビニルアルコール(PVA)など水溶性高分子と1種類以上の金属アルコキシド及び/又はその加水分解物からなる複合物によるコート層を無機酸化物蒸着膜の上に設けることで、ガスバリア性を確保している。しかし、かかるシートでは、PVAなどの高分子は水蒸気ガスバリア性が十分ではないことと、紫外線により主鎖であるC−C結合が切れ易い為、劣化は避けられず、酸化物蒸着膜との組み合わせ構成なしには、単体でのガスバリア性及びその耐侯性の長期信頼性において問題が生じる。また、かかるシートでは、該シートの基材フィルム表面に酸化物蒸着膜を形成するために、大掛かりな真空系の設備が必要になり、さらに、酸化物蒸着膜形成後に水溶性高分子と金属アルコキシド及び/又はその加水分解物からなる複合物のコーティングを行うという工程が必要になるために製造工程が多くなる。これらにより、係るシートでは、製造コストが高くなるという問題が生じる。
【0008】
また、上記いずれのシートにおいても、耐侯性を付与するために、耐侯性を有する樹脂フィルム、例えばフッ素系樹脂又はオレフィン系樹脂などを上述のガスバリア層(基材フィルム)の片面又は両面へ接着剤などを用いて貼り合わせている。これらの樹脂フィルムは、いずれも紫外線により樹脂成分の主鎖となるC−C結合が切られ易いため、樹脂フィルムの劣化が避けられず、紫外線による耐侯性樹脂フィルムの劣化と共にそのガスバリア性も劣化する。そして、かかるガスバリア性の劣化に伴って、外部より裏面保護シート内部へ水蒸気が侵入して、該保護シートの基材フィルムと接着している接着層の接着剤が加水分解して劣化するため、基材フィルムと耐侯性樹脂フィルムの剥離等が発生するという問題がある。
【0009】
上述のように、従来の裏面保護シートは、耐候性を高めるために、該保護シートの基材フィルムに耐候性の樹脂フィルムを積層しているが、その積層界面において経時的に剥離が生じやすくなるという問題点がある。かかる裏面保護シートの積層間の剥離問題に加えて、太陽電池素子を封止するために受光側透明基材と裏面保護シートの間に設けられる封止剤層と裏面保護シートとの界面においても、剥離が生じやすくなる場合があることが判明した。かかる問題点を以下に説明する。
【0010】
従来の太陽電池モジュールには、上述のように、太陽電池素子を密封するための封止剤シートとしてEVA系樹脂組成物から成形されたシートが用いられていた。しかし、EVA系樹脂は、基本的に長期に渡って使用された場合、黄変、亀裂、発泡などの劣化、変質が生じやすい。封止剤の劣化、変質が生じると、それに伴って太陽電池素子の腐食が誘発される。太陽電池素子の腐食が始まると、太陽電池モジュールの発電能力は急激に低下することになる。また、かかる劣化、変質現象は、使用環境条件がより厳しい方向に変化すると、発生しやすくなる。使用環境への耐性が不十分であることが、従来の太陽電池の用途が限定される原因ともなっている。
【0011】
EVA系樹脂シートが経時的に劣化、変質を引き起こすのは、材料であるEVA系樹脂組成物の組成および樹脂成分の分子構造上の問題が起因していると推測されている。すなわち、加水分解性の高いエステル構造や熱架橋の為に添加される有機過酸化物や多官能ビニル化合物などの架橋剤、架橋剤残渣、反応生成物、EVA架橋点の高級炭素や反応末端などが活性点となり、この活性点が、徐々に樹脂シートの劣化、変質を引き起こすものと推測されている。
【0012】
かかる問題点を解決するものとして、封止剤として、EVA系樹脂と同等の優れた封止性能を持ち、かつ樹脂シートの劣化、変質問題が生じにくいエチレン系樹脂からなる接着性シートを用いることが提案されている(例えば、特許文献4)。この封止剤シートは、裏面保護シート(バックシート)と受光側透明基材であるガラス板や透明樹脂シートとの間に、太陽電池素子を挟むようにして介装される。封止剤シートの介装により得られた積層体を、加熱しながら真空圧空成形する(以下、加熱真空圧空成形すると記す場合もある)ことにより、太陽電池素子を密封している。
【0013】
先に述べたように、従来の裏面保護シートは、耐侯性を付与するために、耐侯性を有するフッ素系樹脂又は耐候性PET(ポリエチレンテレフタレート)を基材の片面又は両面へ接着剤などを用いて貼り合わせた構成となっている。したがって、封止剤として、上述のポリエチレン系樹脂からなる封止剤を用いる場合、ポリエチレン系樹脂層は、裏面保護シートの表面層であるフッ素系樹脂層又は耐候性PET層と密着することになる。EVA系樹脂に比べると、ポリエチレン系樹脂は極性が小さいため、ポリエチレン系樹脂からなる封止剤層のフッ素系樹脂層又は耐候性PET層への接着性は、EVA系樹脂からなる封止剤層のフッ素系樹脂層又は耐候性PET層への接着性に比べて、低いものとなる。本願発明者らの研究によれば、ポリエチレン系樹脂からなる封止剤層のフッ素系樹脂層又は耐候性PET層への接着性は、太陽電池モジュールの封止性を実用レベルに維持するには、不十分であり、経時的に剥離が生じる場合があることが判明した。
【0014】
上記エチレン系樹脂からなる封止剤と裏面保護シートとの剥離問題は、受光側透明基材として透明樹脂シートを用いる場合においても、同様に発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】実公平2−44995号公報
【特許文献2】特開2002−134771号公報
【特許文献3】特開2006−253264号公報
【特許文献4】特開2002−235048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、その課題は、優れた耐侯性を有するとともに、優れた耐水性および蒸気バリア性を備え、太陽電池モジュールを製造する時の熱プレス成型や真空圧空成型の組み付け成型時に多少の屈曲力が加わっても水蒸気ガスバリア性が損なわれることのない柔軟性を有し、かつ前記封止剤としてポリエチレン系の封止剤が用いられる場合であっても、封止剤との密着性が損なわれることのない太陽電池モジュール用基材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明は、下記構成を採用した太陽電池モジュール用基材及びその製造方法を提供する。
【0018】
[1]少なくとも1層からなる基材フィルムと、該基材フィルムの片面又は両面に形成された少なくとも1層からなるコート層とを有してなる太陽電池モジュール用基材であって、
前記コート層が、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとからなるアクリル系樹脂成分Aと、前記金属アルコキシドの反応性官能基(Y)と結合するカルボキシル基を有するエチレン系樹脂成分Bとを含む液状体の塗膜を硬化してなる共重合体層である太陽電池モジュール用基材。
[2]前記金属アルコキシドは、一般式:YM(OR)、YRM(OR)、YRM(OR)(式中、Mは金属、Rはアルキル基、Yはウレイド基またはイソシアネート基である)で表される化合物であることを特徴とする、上記[1]に記載の太陽電池モジュール用基材。
[3]前記アクリル系樹脂成分A100重量部に対するエチレン系樹脂成分Bの配合量が1〜99重量部であることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載の太陽電池モジュール用基材。
[4]前記基材フィルムがフィルムを2層以上にシラン系の接着剤で貼り合わせた積層フィルムであることを特徴とする、上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の太陽電池モジュール用基材。
[5]前記基材フィルムが1層からなり、該1層が無機酸化物蒸着膜付きフィルムであることを特徴とする、上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の太陽電池モジュール用基材。
[6]前記基材フィルムが2層以上からなり、その少なくとも1層が無機酸化物蒸着膜付きフィルムであることを特徴とする、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の太陽電池モジュール用基材。
[7]前記基材フィルムの材質が、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリアクリロニトリル樹脂から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、上記[1]〜[6]のいずれか1つに記載の太陽電池モジュール用基材。
[8]前記コート層が1層構成である場合はその1層に、多層構成である場合はその少なくとも1層に、紫外線散乱剤又は/及び紫外線吸収剤が混合されていることを特徴とする、上記[1]〜[7]のいずれか1つに記載の太陽電池モジュール用基材。
[9]少なくとも1層からなる基材フィルムを用意する工程と、
反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとからなるアクリル系樹脂成分Aと、前記金属アルコキシドの反応性官能基(Y)と結合するカルボキシル基を有するエチレン系樹脂成分Bとを含む液状体を用意する工程と、
前記基材フィルムの片面又は両面に、前記液状体を塗布することにより少なくとも1層の塗膜を形成する工程と、
前記少なくとも1層の塗膜を硬化させて少なくとも1層の共重合体層からなるコート層を形成する工程と、
を有する太陽電池モジュール用基材の製造方法。
[10]前記金属アルコキシドは、一般式:YM(OR)、YRM(OR)、YRM(OR)(式中、Mは金属、Rはアルキル基、Yはウレイド基またはイソシアネート基である)で表される化合物であることを特徴とする、上記[9]に記載の太陽電池モジュール用基材の製造方法。
[11]前記アクリル系樹脂成分A100重量部に対するエチレン系樹脂成分Bの配合量を1〜99重量部とすることを特徴とする、上記[9]または[10]に記載の太陽電池モジュール用基材の製造方法。
[12]前記液状体を用意する工程において、前記共重合体層が1層構成である場合はその1層を構成するための液状体に、前記共重合体層が多層構成である場合はその少なくとも1層を構成するための液状体に、紫外線散乱剤又は/及び紫外線吸収剤を混合することを特徴とする、上記[9]〜[11]のいずれか1つに記載の太陽電池モジュール用基材の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る太陽電池モジュール用基材は、耐侯性、耐水性および蒸気バリア性、柔軟性を有し、かつ前記封止剤としてポリエチレン系の封止剤が用いられる場合であっても、封止剤との密着性が損なわれることのない、実用性に優れた太陽電池モジュール用基材である。また、本発明に係る太陽電池モジュール用基材の製造方法によれば、耐侯性、耐水性および蒸気バリア性、柔軟性を有し、かつ前記封止剤としてポリエチレン系の封止剤が用いられる場合であっても、封止剤との密着性が損なわれることのない、実用性に優れた太陽電池モジュール用基材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明に係る太陽電池モジュール用基材の一例を示す断面構成図である。
【図2】図2は、本発明に係る太陽電池モジュール用基材のコート層を構成する共重合体の特性を説明するための模式図である。
【図3】図3は、従来の太陽電池モジュール用基材の複合系コート層を構成する重合体の特性を説明するための模式図である。
【図4】図4は、本発明に係る太陽電池モジュール用基材のコート層を構成する共重合体の自己修復特性を説明するための模式図である。
【図5】図5は、本発明の実施例において液状体の樹脂成分の内のアクリル系樹脂成分Aとして使用した市販品エマルション主剤の乾燥塗膜の赤外線全反射吸収スペクトルを示す図である。
【図6】図6は、実施例1で作成した共重合体層の赤外線全反射吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る太陽電池モジュール用基材は、少なくとも1層からなる基材フィルムと、該基材フィルムの片面又は両面に形成された少なくとも1層からなるコート層とを有してなる太陽電池モジュール用基材であって、前記コート層が、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとからなるアクリル系樹脂成分Aと、前記金属アルコキシドの反応性官能基(Y)と結合するカルボキシル基を有するエチレン系樹脂成分Bとを含む液状体の塗膜を硬化してなる共重合体層であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る太陽電池モジュール用基材の製造方法は、少なくとも1層からなる基材フィルムを用意する工程と、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとからなるアクリル系樹脂成分Aと、前記金属アルコキシドの反応性官能基(Y)と結合するカルボキシル基を有するエチレン系樹脂成分Bを含む液状体を用意する工程と、前記基材フィルムの片面又は両面に、前記液状体を塗布することにより少なくとも1層の塗膜を形成する工程と、前記少なくとも1層の塗膜を硬化させて少なくとも1層の共重合体層からなるコート層を形成する工程と、を有する。
【0023】
上記の「反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとからなるアクリル系樹脂成分Aと、前記金属アルコキシドの反応性官能基(Y)と結合するカルボキシル基を有するエチレン系樹脂成分Bとを有する液状体」とは、前記アクリル系樹脂成分Aとエチレン系樹脂成分Bとからなる樹脂成分を所定の濃度(好ましくは、最終的に濃度50重量%)で含む水系エマルション、及び前記アクリル系樹脂成分Aとエチレン系樹脂成分Bとからなる樹脂成分を非水系の溶媒に溶解した樹脂溶液を意味する。
【0024】
上記基材フィルムは、1層構成でもよく、2層以上の多層構成でもよい。かかる1層又は2層以上の多層構成の基材フィルムの片面もしくは両面にコート層を形成する。基材フィルムの片面又は両面に形成するコート層は、前記液状体の塗膜を重合、硬化させた共重合体層である。前記塗膜は1層に形成してもよいし、多層に形成してもよい。
【0025】
上記基材フィルムを多層構成とする場合は、各基材フィルム間にシラン系接着剤層を介装することが好ましい。
また、上記少なくとも1層からなる基材フィルムの少なくとも1層は無機酸化物蒸着膜付きフィルムとすることが好ましい。すなわち、基材フィルムが1層からなる場合は、その1層のフィルムが無機酸化物蒸着膜付きフィルムであることが好ましい。そして、基材フィルムを多層構成とする場合は、その内の少なくとも1層を無機酸化物蒸着膜付きフィルムとすることが好ましく、その場合は各層間にシラン系接着剤を介装して各層を接着する。
【0026】
図1は、本発明の太陽電池モジュール用基材の一実施形態を示す断面構造である。図1では、基材フィルム1は1層構成であり、この基材フィルム1の両面に1層構成のコート層2を形成した積層構造の場合が示されている。以下、図面を参照しつつ、各構成要素について説明する。
【0027】
(基材フィルムを用意する工程)
基材フィルム1としては、太陽電池モジュールを形成する際の熱プレスにおいて、加温されるため所定の加熱時間内で適宜調整しながら溶融軟化しない範囲内で成形加工可能な樹脂フィルムを用いることができる。かかる基材フィルムの材質としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリアクリロニトリル樹脂から選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。換言すれは、基材フィルム1の種類としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル系フィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリイミドフィルム等のエンプラフィルムが用いられる。
基材フィルム1の厚さは3〜300μmの範囲とする。
【0028】
上記フィルムは、その表面が酸素プラズマやコロナ放電による照射処理や火炎処理などで表面が酸化処理されているものが、好ましい。表面が酸化処理されることにより表面に多くの官能基が存在するようになる。表面の官能基が豊富なフィルムほど、シラン系接着剤との接着性が良好になる傾向がある。したがって、基材フィルム1には、適宜に表面処理を施したフィルムを用いることが好ましい。
【0029】
また、上記基材フィルム1は1層構成である場合の例示であるが、この1層構成の基材フィルム1として用いるフィルムは無機酸化物がその表面に蒸着されたものであってもよい。本発明において、基材フィルムを多層構成とする場合は、その内の少なくとも1層を無機酸化物蒸着膜付きフィルムとし、必要とされるガスバリア性の度合いに応じて蒸着膜付きフィルムの層数を設定することができる。また蒸着膜付きフィルムを貼り合わせる場合は、一方のフィルムの蒸着面を、他方のフィルムの蒸着膜の付いてない表面面に貼り合わせることが好ましい。
【0030】
蒸着用の無機酸化物としては、酸化珪素や酸化アルミニウム、酸化亜鉛などを用いることができ、その蒸着厚さは1nm〜100nmとすることが好ましい。
【0031】
フィルム同士を貼り合わせる際に用いる接着剤としては、従来からウレタン系、アクリル系、エポキシ系、シリコン系の各々の接着剤を用いられてきたが、高温高湿下において、加水分解による接着性能の劣化が問題となっていた。これに対して、本発明では、多層構成の基材フィルム1を構成するフィルム同士の接着には、高温高湿下でも接着性能の優れたシラン系接着剤を用いる。
【0032】
ここでいうシラン系の接着剤とは、慣用のシランカップリング剤や、本発明においてコート層を形成するために用いるアクリル系樹脂成分A(三元モノマー)に含まれる金属アルコキシド系化合物の一種であるアルコキシシランを含んだ混合物を用いることができる。
【0033】
シラン系の接着剤は、アルコキシシランのアルコキシ基が加水分解してシラノール基(Si−OH)が生成し、このシラノール基が、フィルム表面にある酸素プラズマやコロナ放電によって酸化されたカルボキシル基や水酸基と反応して結合するため、フィルム同士の接着性がよい。また高温高湿下においても加水分解が起こらないため、接着特性が良好であることと、シラノール結合がUVエネルギーに対して強いことから、優れた耐候性を有している。
【0034】
基材フィルム1をシラン系の接着剤で貼り合わせた2層以上のフィルムから構成する場合、その組み合わせ構成としては、上記フィルムの中で、同じ種類のフィルム同士間、異なった種類のフィルム同士、また同じフィルム間同士でも一方に無機酸化物が蒸着されたもの、また異なるフィルム間でも一方に無機酸化物が蒸着されたもののいずれかの組合せでもよい。
【0035】
(液状体を用意する工程)
基材フィルム1の片面又は両面(図1では両面)に、厚さ5〜300μmの範囲で、コート層2を形成するが、該コート層2は、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシド、反応性官能基(X)を有するアクリル系モノマー、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーからなるアクリル系樹脂成分Aと、前記金属アルコキシドの反応性官能基(Y)と結合するカルボキシル基を有するエチレン系樹脂成分Bとからなる樹脂成分を含む液状体の塗膜を硬化させた共重合体層である。ここでいう液状体とは、前記アクリル系樹脂成分Aとエチレン系樹脂成分Bからなる樹脂成分を所定の濃度(好ましくは、最終的に濃度50重量%)で含む水系エマルションであるか、前記3種のモノマーのみからなる樹脂成分を非水系の溶媒に溶解した樹脂溶液である。
【0036】
(アクリル系樹脂成分A)
上述のように、本発明で用いるアクリル系樹脂成分Aとは、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとからなる樹脂成分である。
【0037】
上記反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドとは、一般式:YM(OR)、YRM(OR)、YRM(OR)(式中、Mは金属、Rはアルキル基、Yはウレイド基またはイソシアネート基を示す)で表される化合物である。
【0038】
かかる反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドとしては、特にシランを含んだα,β−エチレン性不飽和モノマー、例えば、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジアリルジメチルシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタイノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトシキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトシキシラン、3−イソシアンネートプロピルトリメトシキシシランなどのα,β−エチレン性不飽和モノマーなどから選ばれる1種又は混合物を挙げることができる。
【0039】
なお、上記の反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドに加えて、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシアルミニウム、テトラアルコキシチタンなどを添加してもよい。
【0040】
なお、上記金属アルコキシドの反応性官能基(Y)にイソシアネート基を有する場合、水との直接反応を抑制し、反応性官能基(X)との反応を有効に進める事を目的に、反応性官能基(Y)に対してキャッピング剤(ブロック剤、又は保護剤とも呼ばれている)を用いる。キャッピング剤としては、任意の適切な脂肪族、脂環式、又は芳香族のアルキルモノアルコール又はフェノール性化合物が使用され得る。
【0041】
上記脂肪族、脂環式、又は芳香族のアルキルモノアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、及びn−ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、2-メチル-1-プロパノールのような低級脂肪族アルコール;シクロヘキサノールのような脂環式アルコール;フェニルカルビノール及びメチルフェニルカルビノールのような芳香族-アルキルアルコールを挙げることができる。
【0042】
上記フェノール性化合物としては、フェノール自身及びクレゾール及びニトロフェノールのような置換フェノール(該置換基はコーティング操作に影響しない)のようなフェノール性化合物が包含される。
【0043】
キャッピング材としては、その他に、グリコールエーテルも使用され得る。適切なグリコールエーテルとしては、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル及びプロピレングリコールメチルエーテルが挙げられる。グリコールエーテルの中でもジエチレングリコールブチルエーテルが好ましい。
【0044】
さらに、他のキャッピング剤としては、メチルエチルケトオキシム、アセトンオキシム及びシクロヘキサノンオキシムのようなオキシム、ε−カプロラクタムのようなラクタム、及びジブチルアミンのようなアミンが挙げられる。
【0045】
適切なキャッピング用いるに当たっては、塗膜の乾燥、反応温度に適したものを選択し用いることができる。
【0046】
上述のアクリル系樹脂成分Aの重合反応は、イソシアネート基に修飾したキャッピング剤が、エマルション中において、塗工された後、加熱乾燥で水分とともに揮発(共沸)されるか、加熱で分解されることで、反応性官能基(イソシアネート基)から外れ、それとともに重合が始まる。キャッピング剤の脱離反応は80℃以上に加熱することにより生じるが、120℃を超えて加熱すると、モノマーの重合が急速に進行するので、キャッピング剤の脱離を目的とする加熱は、80℃〜120℃の範囲内の温度にて行うことが好ましい。このキャッピング剤の脱離反応は、通常塗膜の乾燥工程において同時に実現される。
【0047】
また、上記反応性官能基(X)とは、エステル基、エポキシ基、ケトン基、アミノ基、水酸基、ウレイド基、イソシアネート基などの、前記金属アルコキシドの反応性官能基(Y)と互いに反応して結合する特性を有する官能基である。
【0048】
かかる反応性官能基(X)を有するアクリルモノマーとしては、α,β−エチレン性不飽和モノマー、例えば(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタクリルアルコール、4ヒドロキシブチルアクリレートグリシジル(エポキシ)エーテル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε−カプロラクトンとの付加物などの水酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーなどが挙げられる。
【0049】
また、「反応性の官能基(X)を有さない」とは、上記反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと反応する官能基を有さないことを意味する。
かかる反応性官能基(X)を有さないアクリルモノマーしては、α,β−エチレン性不飽和モノマーとして、(メタ)アクリル酸エステル[例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニル等]、重合性芳香族化合物(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルケトン、t−ブチルスチレン、パラクロロスチレン及びビニルナフタレン等)、重合性ニトリル(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、α−オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレン等)、重合性芳香族化合物、重合性ニトリル、α−オレフィン、ビニルエステル、及びジエンなどが挙げられる。
【0050】
(エチレン系樹脂成分B)
本発明で用いる「金属アルコキシドの反応性官能基(Y)と結合するカルボキシル基を有するエチレン系樹脂成分B」とは、エチレンモノマーb1と、酢酸ビニルモノマーb2と、酢酸ビニル以外のカルボン酸ビニルエステル類のモノマーb3とからなる樹脂成分である。
【0051】
上記モノマーb1とはエチレンである。また、上記モノマーb2とは酢酸ビニルである。
【0052】
上記モノマーb3とは、酢酸ビニル以外のカルボン酸ビニルエステルである。かかるカルボン酸ビニルエステルとしては、例えば、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、カプロン酸ビニル、ヘプタン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル、ペラルゴン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、n−ウンデカン酸ビニル及びラウリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル等を挙げることができる。なお、モノマーb3としては、前記カルボン酸ビニルエステルに他のモノマーを共重合させたものも使用可能である。かかる他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル類(例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、及びアクリル酸−2−エチルヘキシル等)、アクリルアミド、アクリルアミド誘導体(例えば、アルコキシメチルアクリルアミド及びN−メチロールアクリルアミド等)、及びメタクリル酸エステル類(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル等)を挙げることができる。これら第3のコモノマーb3は、エチレン(モノマーb1)100重量部に対して10重量部以下であることが好ましい。
【0053】
上述のエチレン系樹脂成分Bの重合反応は、エマルション中において、ラジカル重合開始剤を添加されることで、開始される。この重合反応の温度条件としては、先に説明したアクリル系樹脂Aの重合の好適な範囲と同様でよい。すなわち、エチレン系樹脂成分Bの重合反応を生じさせる温度範囲は、80℃〜120℃の範囲が選択される。
【0054】
(アクリル系樹脂成分Aとエチレン系樹脂成分Bの配合比)
本発明において、液状体中の樹脂成分は、アクリル系樹脂成分Aとエチレン系樹脂成分Bとから構成される。アクリル系樹脂成分A100重量部に対するエチレン系樹脂成分Bの配合量は、1重量部以上99重量部未満であり、好ましくは5重量部以上80重量部未満である。
【0055】
アクリル系樹脂成分Aとエチレン系樹脂成分Bとの混合は、同一の分散液に同時に分散させることも可能であるが、アクリル系樹脂成分Aのエマルションと、エチレン系樹脂成分Bのエマルションを別々に調製し、調製後の2種類のエマルションを混合することにより実現することが、好ましい。
【0056】
後者の別々のエマルションを調製後に両者を混合する場合、例えば、まず、アクリル系樹脂成分Aおよびエチレン系樹脂成分BのそれぞれのエマルションAおよびエマルションBをそれぞれの樹脂成分AおよびBの濃度が40〜60重量%となるように調製する。次に得られたエマルションA100重量部に対して、エマルションBを1〜99重量部配合し、混合することで、液状体を得ることができる。
【0057】
上記配合比で調製した液状体の塗膜を所定の重合条件下において塗膜中の樹脂成分を重合させると、得られる共重合体層のミクロ構造は、アクリル系共重合体が海相を構成するとともにエチレン系共重合体が島相を構成する海島構造となる。かかる海島構造において、海相(マトリックス)を構成するアクリル系共重合体に対して、エチレン系共重合体が粒子状となり散在しており、アクリル系共重合体とエチレン系共重合体とは、エチレン系共重合体粒子上に存在するカルボキシル基がアクリル系共重合体中の金属アルコキシの反応性官能基(Y)と結合することで、結びついている。
【0058】
アクリル系樹脂成分A100重量部に対するエチレン系樹脂成分Bの配合量が1重量部未満となると、エチレン系共重合体の形成が不十分となる場合が生じる。また、アクリル系樹脂成分A100重量部に対するエチレン系樹脂成分Bの配合量が99重量部以上となると、上記海島構造が構築されない場合が生じる。
【0059】
アクリル系樹脂成分とエチレン系樹脂成分とからなる樹脂成分を共重合して得られる共重合体は、最終的に共重合体層として基材フィルムの上で前記液状体を塗工して得られるが、各々のモノマーの混合、塗工、重合のタイミングは、混合→重合(半重合)→塗工(残りのモノマーがある場合は、追加混合した後)→重合(乾燥)、または混合→塗工→重合(乾燥)の各々の組み合わせで、得ることができる。
【0060】
(水系溶媒によるエマルションの調製方法)
樹脂成分をエマルションとするための水系溶媒としては、イオン交換水などを用いる。必要に応じてアルコールなどのような有機溶剤を含む水性媒体中に、慣用の分散剤を加えて分散性を向上させることもできる。その後、前記水系溶媒に対して、慣用のホモジナイザー(例えば、マイクロテック・ニチオン社製、商品名「NR-300」)を用いて、均一に分散させ、加熱撹拌下、上述組み合わせで3種、または予め2種の組み合わせでモノマーおよび重合開始剤を滴下することにより重合を行うことができる。樹脂成分の濃度としては、30〜60重量%とすることが好ましい。
【0061】
上記方法により、エマルションを構成する樹脂成分の所望の粒子径からのバラツキが少なくなり、好ましい粒径範囲の樹脂成分粒子を得ることができる。
【0062】
上記重合開始剤としては、アゾ系の油性化合物[例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)および2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)など];水性化合物[例えば、アニオン系の4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2−アゾビス(N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン)およびカチオン系の2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)];レドックス系の油性過酸化物(例えば、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドおよびt−ブチルパーベンゾエートなど);および水性過酸化物(例えば、過硫酸カリおよび過硫酸アンモニウムなど)が挙げられる。
【0063】
なお、先の分散剤以外に、当業者に通常使用されているものや乳化剤、例えば、アントックス(Antox)MS−60(商品名:日本乳化剤社製)、エレミノールJS−2(商品名:三洋化成工業社製)、アデカリアソープNE−20(商品名:旭電化社製)およびアクアロンHS−10(商品名:第一工業製薬社製)などを併用してもよい。
【0064】
上記慣用の分散剤と樹脂成分との配合比率は、エマルションを調製する場合の慣用の比率に調整すればよい。例えば、固形分質量比で5/95〜20/80の範囲に調整すればよい。5/95未満だと分散粒子が凝集して塊が発生して塗膜の平滑性が損なわれる傾向となり、20/80を超えると、膜厚の制御が難しくなる傾向となる。
【0065】
また、分子量を調節するために、ラウリルメルカプタンのようなメルカプタンおよびα−メチルスチレンダイマーなどのような連鎖移動剤を必要に応じて用いてもよい。
【0066】
混合モノマーの重合反応温度は開始剤により決定され、例えば、アゾ系開始剤を用いた場合では60〜90℃であり、レドックス系開始剤を用いた場合では30〜70℃で行うことが好ましい。開始剤を用いる場合の配合量は、エマルションの総量に対して、一般に0.1〜5質量%であり、好ましくは0.2〜2質量%である。
【0067】
アクリル系モノマーの重合プロセスとしては、「反応性官能基(X)を有するアクリルモノマー」と「反応性の官能基(X)を有さないアクリルモノマー」の2種のモノマーを混合又は重合を部分的に進め半重合した後、残る「反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシド)」を混合し、重合するプロセスを採用することが、好ましい。
【0068】
予め2種のモノマーを反応させる場合の重合は、1〜8時間で行なわれる。
【0069】
上述の、「反応性官能基(X)を有するアクリルモノマー」と「反応性の官能基(X)を有さないアクリルモノマー」の2種のモノマーを部分的に重合(半重合)して得られた2成分半重合樹脂粒子の平均粒子径としては、0.05〜0.30μmの範囲であることが好ましい。粒子径が0.05μm未満であると、作業性の改善の効果が小さく、0.30μmを上回ると、得られる塗膜の外観が悪化する恐れがある。この粒子径の調節は、例えば、上記2種のモノマー混合物の組成や乳化重合条件を調整することにより可能である。
【0070】
また、上記2成分半重合樹脂粒子の質量平均分子量は6000〜12000であることが好ましい。6000未満だと 膜厚みの制御が難しくなる傾向となり、12000を超えると塗膜の平滑性が低下する傾向となる。
【0071】
上述の組成からなるエマルションにおいては、樹脂固形分量が3〜20質量%であることが好ましい。樹脂固形分量が3質量%未満だと、膜厚の制御が難しくなる傾向となり、20質量%を超えると、塗膜の平滑性が低下する傾向となる。
【0072】
上記アクリル系樹脂成分Aを含むエマルションと、エチレン系樹脂成分Bを含むエマルションとの混合は、例えば、アクリル系樹脂成分Aを含むエマルションにおいて、上記2種のモノマーとの重合を部分的に進めて半重合した後、残るモノマーを混合してアクリル系樹脂成分エマルションとし、このアクリル系樹脂エマルションにエチレン系樹脂成分エマルションを加えるというプロセスにより行われる。
【0073】
エチレン系樹脂成分エマルションにおいても、3種のモノマーを一度に重合させずに、2種のモノマーを半重合させ、その後、残りのモノマーを配合してエマルションとすることが好ましい。アクリル系樹脂エマルションと、エチレン系樹脂成分エマルションとを混合する前に、それぞれの構成モノマーを部分的に重合させておき、その後、2種のエマルションを混合し、共重合させるというプロセスを採用し、そのプロセス中の部分重合の程度などを適宜に制御することにより、アクリル系共重合体を海相とし、エチレン系共重合体を島相とすることが容易となる。
【0074】
(非水系溶媒を用いた樹脂溶液の調製方法)
非水系溶媒としては、トルエンや酢酸エチルなどの有機溶剤が用いられる。非水系溶媒としては、その他に、キシレン、N−メチルピロリドン、ブチルアセテート、比較的高沸点の脂肪族及び/もしくは芳香族、ブチルジグリコールアセテート、アセトン等などを適宜用いることもできる。
【0075】
また、重合開始剤としては、熱でラジカルを発生する開始剤(アゾ系、過酸化物系)が用いられる。
【0076】
前記非水系溶媒に対して、上述の各樹脂成分、および重合開始剤を溶解させて、重合又は部分重合(半重合)の2種の樹脂溶液を得る。その後、2種の樹脂溶液を混合し、液状体とする。各樹脂溶液中の樹脂成分の濃度としては、30〜60重量%とすることが好ましく、さらに好ましくは50重量%である。
【0077】
上記液状体には、樹脂成分と溶媒に、さらに、必要に応じて、紫外線散乱剤又は/及び紫外線吸収剤を混合してもよい。紫外線散乱剤としては、酸化亜鉛、酸化チタンなどの微粉末が挙げられる。紫外線吸収剤としては、紫外線吸収能を有する色素や、高濃度ベンゾトリアゾール基を導入したアクリルポリマーなどを挙げることができる。かかる紫外線散乱剤又は/及び紫外線吸収剤を少量添加することで、コート層の耐侯性をさらに向上することができる。コート層が多層構成である場合は、その少なくとも1層に上記紫外線散乱剤又は/及び紫外線吸収剤を混入することが好ましく、2層以上もしくは全ての層に上記紫外線散乱剤又は/及び紫外線吸収剤を混入してもよい。
【0078】
上記アクリル系樹脂成分を含むエマルションとしては、市販品があるので、それらを使用することも可能である。市販品としては、例えば、東亞合成株式会社製の「シーラス(商品名)」や日本ペイント株式会社の「シェラスターMK(商品名)」などが挙げられる。
【0079】
(液状体の塗膜を形成する工程)
基材フィルム1の片面又は両面(図1では両面)に、乾燥後の膜厚が6〜350μmとなるように、前記液状体の塗膜を形成する。液状体の塗布方法としては、一般に用いられるディッピング法、ロールコーティング法、スクリーン印刷法、スプレー法などの従来公知の手段を用いることができる。また、厚さを均一にコントロールするために、薄いコーティング層を多重に積層して所定の膜厚としてもよい。多重に積層する場合は、先に塗布した層を乾燥させた後に次の層を塗布し、その層を乾燥させて、さらに次の層を塗布することを繰り返す。
【0080】
(アクリル系樹脂成分Aおよびエチレン系樹脂成分Bの共重合体層からなるコート層を形成する工程)
この工程には、塗膜を乾燥させる塗膜乾燥工程と、乾燥後、最終的にアクリル系およびエチレン系の共重合体から構成される硬化膜(共重合体コート層)にする乾燥塗膜硬化工程とが、含まれる。
【0081】
(塗膜乾燥工程)
この塗膜乾燥工程では、上記液状体の塗膜から溶媒を気化させて、塗膜の形状を安定化させる。乾燥の温度は80℃〜120℃が好ましい。80℃未満では溶媒の気化が不十分になり、100℃を超えると、塗膜中の未反応モノマーの重合反応が開始される。乾燥時間は、乾燥温度に依存するが、例えば、好ましくは、100℃で、10分〜15分である。
【0082】
(乾燥塗膜硬化工程)
乾燥により形状が安定化した塗膜を、塗膜中の未反応モノマーを重合させることにより、硬化させる。未反応モノマーの重合温度は、80℃〜120℃が好ましい。80℃未満では、重合が不十分となり、120℃を超えると、PET上に膜形成させる上で、PETの収縮が始まり、塗膜も密着性等に悪影響を与えるという不都合が生じる。重合時間は、重合温度に依存するが、例えば、好ましくは、100℃で、10分〜15分である。
【0083】
(共重合体層の特性及び共重合体層をコート層として有するシートの特性)
上記共重合体層は、先に述べたように、そのミクロ構造が、アクリル系共重合体が海相(マトリックス)を構成するとともにエチレン系共重合体が島相を構成する海島構造となる。かかる海島構造においては、海相を構成するアクリル系共重合体に対して、エチレン系共重合体が粒子状となり散在しており、アクリル系共重合体とエチレン系共重合体とは、エチレン系共重合体粒子上に存在するカルボン酸がアクリル系共重合体中の金属アルコキシの反応性官能基(Y)と結合することで、結びついている。
【0084】
コート層2のマトリックスとなっているアクリル系共重合体は柔軟性を保ちながらガスバリア性及び耐侯性を有しているので、得られるシートは、太陽電池モジュール用基材として、長期信頼性に優れたものとなる。
【0085】
従来、水溶性の高分子材料として特許文献3などには、ポリビニルアルコール(PVA)が用いられている。PVAは、その水蒸気透過度が1100g/m・24hr(測定条件:25℃、90%RH、厚さ25μm)であり、水蒸気バリア性は悪いが、柔軟性に優れている。従来の太陽電池モジュール用基材においては、ガスバリア層とする無機酸化物蒸着膜のみでは屈曲したときのクラックが防止できないため、PVAのような柔軟性のある高分子膜を積層することにより、対屈曲性を保持しながら、ガスバリア性を確保している。そのため、無機酸化物蒸着膜なしではガスバリア性が不十分であった。すなわち、積層数が多くなり、シートの総計厚みの制御が難しくなっていた。
【0086】
本発明では、ガスバリア性を確保するコート層のマトリックスを構成する共重合体材料に、金属アルコキシドと共重合できる単量体(モノマー)としてアクリル系を用いている。一般にその重合体のアクリル系樹脂であるポリメチルメタクリレート(PMMA)は、その水蒸気透過度が41g/m・24hr(測定条件:25℃、90%RH、厚さ25μm)であり、PVAよりガスバリア性が優れていることが知られている。
【0087】
なお、上記ポリビニールアルコール及びポリメチルメタクリレートの水蒸気透過度の測定値は、『「プラスチック材料の各動物性の試験法と評価結果〈5〉」、安田武夫、p.119、vol.51, No.6、プラスチックス』を出典としたものである。
【0088】
本発明では、コート層のマトリックスを構成するアクリル系共重合体のモノマー材料は、反応性官能基(X)を有するアクリル系モノマー、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマー、および前記反応性官能基(X)と反応する反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドの3種のモノマーからなる。そして、この3種のモノマーからなる樹脂成分Aと、エチレン系樹脂成分Bとを樹脂成分として有する液状体を形成し、この液状体を成膜化した共重合体層をコート層とする。
【0089】
上述のアクリル系樹脂成分Aおよびエチレン系樹脂成分Bからなる液状体の塗膜を重合硬化して得られた共重合体層(コート層)においては、図2に示すように、樹脂成分Aが重合したアクリル系共重合体がマトリックスとなっている。このアクリル系共重合体においては、2種のアクリル系モノマーが鎖状に結合し、形成されたアクリル系高分子の鎖により柔軟性が保たれる。そして、鎖状のアクリル系高分子中には、一方の反応性官能基(X)を有するアクリル系モノマー由来の複数の官能基(X)が間隔を開けて点在しており、その官能基(X)と金属アルコキシド中の官能基(Y)とが反応して結合する。また、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシド同士の加水分解によってM−O結合が形成され、マトリックス共重合体は網目構造を獲得する。この網目構造により柔軟性と高い水蒸気ガスバリア性及び耐侯性が実現できる。したがって、本発明のシートは、屈曲してもクラックが生じてガスバリア性が著しく劣化することがない。
【0090】
また、従来品は、耐侯性を有する樹脂フィルムとして、前述のガスバリア層の上にフッ素系樹脂などを接着して用いているが、下記(表1)に示すように、C−F結合エネルギーは116kcalであり、紫外線エネルギーの96kcalに対して、非常に強いが、主鎖となるC−C結合エネルギーは85kcalと紫外線に対して弱い。そのため紫外線による樹脂の劣化が起こる。さらに、ガスバリア層の金属アルコキシドと高分子の複合体は、図3に示すように、金属アルコキシドの加水分解生成物とは化学結合を伴わない単なる高分子との複合体であるため紫外線により高分子の主鎖となるC−C結合が切れてしまうと(図3の×印部分)、高分子部分が紫外線により劣化してしまい、著しく水蒸気ガスバリア性が劣化してしまうという問題がある。
【0091】
【表1】

【0092】
これに対し、本発明にかかる太陽電池モジュール用基材のコート層のマトリックスを構成しているアクリル系共重合体では、図4に示すように、紫外線によりアクリル系高分子部分のC−C結合(85kcal)が切れても(図4の×印部分)、金属アルコキシドによるM−O結合(106〜145kcal)は切れない。また、空気中または高分子中の湿気により金属アルコキシドの加水分解が進み、紫外線によりアクリル系高分子のC−C結合が切れても、M−O結合の増大により自己修復できるため、全体として紫外線による劣化はほとんどない。
【0093】
また、金属アルコシドは、水分により加水分解してM−O結合が網目状に形成され、アクリル系高分子の−CH−CHR−は、一般にほとんど加水分解しないと言われている。それ故、従来のように耐侯性フィルムとガスバリア性を付与した基材フィルムとを接着剤によって接着した構造のシートの欠点、すなわち、長期間使用時における樹脂フィルムの劣化により外部から水分が進入して接着剤が加水分解により劣化し、フィルム同士が剥離するような問題は、本発明のシートでは起こらない。
【0094】
一方、コート層において、エチレン系共重合体は、図2および図4に示すように、粒子状となり、マトリックス(アクリル系共重合体)上に、散在している。そして、粒子状のエチレン系共重合体は、その粒子上に存在するカルボキシル基がアクリル系共重合体中の金属アルコキシの反応性官能基(Y)と結合することで、マトリックスに結びついている。
【0095】
より具体的には、上記金属アルコキシドがイソシアネート基を有する場合は、金属アルコキシドのイソシアネートが水と反応してできたアミンに、エチレン系共重合体粒子の表面に存在するカルボン酸(カルボキシル基)が反応してアミド結合を形成する。あるいは、上記金属アルコキシドがエポキシ基を有する場合は、該エポキシ基に、エチレン系共重合体粒子の表面に存在するカルボン酸(カルボキシル基)が反応してエステル結合を形成する。
【0096】
上述のように、コート層中に、エチレン系共重合体が粒子状となって散在し、柔軟性に優れたマトリックス(アクリル系共重合体)に結合している。したがって、コート層は、エチレン系共重合体の粒子を介してPETなどの樹脂とも化学結合を伴って接着するため、接着性は非常に優れており、基材フィルムと共重合体層(コート層)間での剥離の心配はない。また、同様の理由により、封止剤にエチレン系材料を使用した場合においても、コート層は、基材フィルムにも、封止剤にも強く接着するので、基材と封止剤との間で剥離が生じる心配もない。
【0097】
以上のことから、本発明に係る太陽電池モジュール用基材は、耐侯性、耐水性および蒸気バリア性、柔軟性を有し、かつ前記封止剤としてポリエチレン系の封止剤が用いられる場合であっても、封止剤との密着性が損なわれることのない、実用性に優れた太陽電池モジュール用基材として提供できる。
【実施例】
【0098】
以下の実施例では、アクリル系樹脂成分Aに関して、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとの3種のモノマーのうちの、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドとして、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(実施例1〜3に共通)又は3−イソシアネートプロピルトリエトシキシラン(実施例4)を用いた。また、残りの前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーについては、これらモノマーの混合物である市販の製品(日本ペイント株式会社の「シェラスターMK」の主剤)を用いた(実施例1〜4に共通)。
【0099】
前記市販の製品が、前記反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーの混合物である点については、該製品の乾燥塗膜表面の赤外線全反射吸収スペクトルにより確認することができる。この赤外線全反射吸収スペクトルを図5に示した。
【0100】
図5に見るように、波数(wavenumber)3650〜3200(cm−1)、1760〜1715 (cm−1)、1150〜1025 (cm−1)に代表的なピークが現れており、これらは、それぞれ、反応性官能基(X)を有するアクリル系モノマーのカルボン酸(COOH基)や水酸基(OH)を含むユニット部のOH基に由来する吸収、反応性官能基(X)を有しないアクリル系モノマーのエステル(COOR)を含むユニット部のC=Oに由来する吸収、反応性官能基(X)を有しないアクリル系モノマーのエステル(COOR)やエーテル(COC)を含むユニット部のC−O−Cに由来する吸収である。
【0101】
また、以下の実施例において、エチレン系樹脂成分Bとして、中央理化工業(株)製の「アクアテック909(商品名)」を用いた。
【0102】
(実施例1)
本発明の実施例1では、アクリル系樹脂成分Aとして、シャラスターMKの主剤15重量部に対して、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(1重量部)を配合してなる水系エマルションA:100重量部に対して、エチレン系樹脂成分Bとして、エチレン系樹脂成分「アクアテック909」(45重量%)を配合してなる水系エマルションBを35重量部配合した液状体を用意した。
【0103】
下記(表2)に示すように、基材フィルムとして厚さ125μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績株式会社製、商品名「エステルフィルム5000」)を用いた。
【0104】
上記基材フィルムの両面に、上記液状体を塗布し、その塗膜を80℃、10分間加熱して水系溶媒を気化させて乾燥させた。
得られた乾燥塗膜を100℃10分間加熱して、塗膜を構成する未反応モノマーを重合させて、アクリル系共重合体とエチレン系共重合体とからなる共重合体層(コート層)を得た。得られた膜の厚みは、20μmであった。
以上により、厚さ125μmの基材フィルムの両面に20μm厚のコート層(共重合体層)が積層されてなるシート(太陽電池モジュール用基材)を得た。
【0105】
上記共重合体層の赤外線全反射吸収スペクトルを図6に示した。図6に見るように、波数(wavenumber)3690〜3200(cm−1)、1760〜1715 (cm−1)、1150〜1025 (cm−1)、1100〜1000(cm−1)にアクリル系共重合体に代表的なピークが現れている。また、エチレン共重合体に関しては、2845〜265(cm−1)および2940〜2915(cm−1)にメチレン(−CH2−)、1650〜1725(cm−1)のC=Oおよび1280(cm−1)〜1320のC−Oおよび2500〜3600(cm−1)からなる未反応の残存カルボン酸(−COOH)に代表的なピークが現れている。
【0106】
また、アクリル系共重合体が海相を形成し、エチレン系共重合体が島相を形成していることは、走査型電子顕微鏡によって確認することができる。
【0107】
まず、3690〜3200(cm−1)は、反応性官能基(X)を有するアクリル系モノマーのカルボン酸(COOH基)や水酸基(OH)を含むユニット部とアルコキシシラン系モノマーのシラノール基(Si−OH)やエポキシ基の開環反応で生じる水酸基(OH)を含むユニット部のOHに由来する吸収である。また、1760〜1715 (cm−1)は、反応性官能基(X)を有さないアクリル系モノマーのエステル(COOR)を含むユニット部のC=Oに由来する吸収である。また、1150〜1025 (cm−1)は、反応性官能基(X)を有しないアクリル系モノマーのエステル(COOR)やエーテル(COC)を含むユニット部のC−O−Cに由来する吸収である。そして、1100〜1000(cm−1)は、アルコキシシラン系モノマーのシラノール基同士の脱水縮合反応で生じるシロキサン結合(Si−O)を含むユニット部のSi−O−Siに由来する吸収である。
【0108】
また、2845〜265(cm−1)および2940〜2915(cm−1)は、エチレン系樹脂成分Bを構成するメチレン(−CH2−)に由来する吸収であり、1650〜1725(cm−1)のC=Oおよび1280(cm−1)〜1320のC−Oおよび2500〜3600(cm−1)は、エチレン系樹脂成分Bを構成、存在する未反応の残存カルボン酸(−COOH)に由来する吸収である。
【0109】
(実施例2)
本発明の実施例2では、下記(表2)に示すように、基材フィルムとして、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと、酸化珪素や酸化アルミを数十nm蒸着された厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績株式会社製、商品名「エコシアールVE500」)とを、厚さ5μmのアルコキシシラン系接着(3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン)層を設けて接着した多層フィルムを用いた。また、液状体としては、実施例1で用いた液状体と同一の液状体を用意した。
【0110】
上記基材フィルムの両面に、上記液状体を塗布し、その塗膜を80℃、10分間加熱して水系溶媒を気化させて乾燥させた。
得られた乾燥塗膜を100℃、10分間加熱して、塗膜を構成する未反応モノマーを重合させて、共重合体層(コート層)を得た。得られた膜の厚みは、20μmであった。
以上により、厚さ92μmの基材フィルムの両面に20μm厚のコート層(共重合体層)が積層されてなるシート(太陽電池モジュール用基材)を得た。
【0111】
上記共重合体層の赤外線全反射吸収スペクトルをとったところ、図6に示したスペクトルと同一のスペクトルであった。
【0112】
(実施例3)
本発明の実施例3では、下記(表2)に示すように、基材フィルムとして、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムとを、厚さ5μmのアルコキシシラン系接着(3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン)層を介して接着した多層フィルムを用いた。また、液状体としては、実施例1で用いた液状体と同一の液状体を用意した。
【0113】
上記基材フィルムの両面に、上記液状体を塗布し、その塗膜を80℃、10分間加熱して水系溶媒を気化させて乾燥させた。
得られた乾燥塗膜を100℃、10分間加熱して、塗膜を構成する未反応モノマーを重合させて、共重合体層(コート層)を得た。得られた膜の厚みは、20μmであった。
以上により、厚さ130μmの基材フィルムの両面に20μm厚のコート層(共重合体層)が積層されてなるシート(太陽電池モジュール用基材)を得た。
【0114】
上記共重合体層の赤外線全反射吸収スペクトルをとったところ、図6に示したスペクトルと同一のスペクトルであった。
【0115】
(実施例4)
本発明の実施例4では、下記(表2)に示すように、基材フィルムとして厚さ125μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意した。
アクリル系樹脂成分Aとして、シャラスターMKの主剤15重量部に対して、3−イソシアネートプロピルトリエトシキシラン(1重量部)を配合してなる水系エマルションA:100重量部に対して、エチレン系樹脂成分Bとして、エチレン系樹脂成分「アクアテック909」(45重量%)を配合してなる水系エマルションBを35重量部配合した液状体を用意した。
【0116】
上記基材フィルムの両面に、上記液状体を塗布し、その塗膜を80℃10分間加熱して水系溶媒を気化させて乾燥させた。
得られた乾燥塗膜を100℃10分間加熱して、塗膜を構成する未反応モノマーを重合させて、共重合体層(コート層)を得た。得られた膜の厚みは、20μmであった。
以上により、厚さ125μmの基材フィルムの両面に20μm厚のコート層(共重合体層)が積層されてなるシート(太陽電池モジュール用基材)を得た。
【0117】
本実施例4においても、実施例1と同様のアクリル系樹脂成分Aとエチレン系樹脂成分Bを用いて液状体を調製しているので、得られた共重合体層の赤外線全反射吸収スペクトルは、図6に示したスペクトルとほぼ同一のスペクトルであった。
すなわち、得られた共重合体層の赤外線全反射吸収スペクトルにおいては、波数(wavenumber)3450〜3200(cm−1)、1760〜1690(cm−1)、1150〜1025 (cm−1)、1100〜1000(cm−1)に代表的なピークが現れていた。
【0118】
また、エチレン共重合体に関しては、2845〜265(cm−1)および2940〜2915(cm−1)にメチレン(−CH2−)、1650〜1725(cm−1)のC=Oおよび1280(cm−1)〜1320のC−Oおよび2500〜3600(cm−1)からなる未反応の残存カルボン酸(−COOH)に代表的なピークが現れていた。
【0119】
また、アクリル系共重合体が海相を形成し、エチレン系共重合体が島相を形成していることは、走査型電子顕微鏡によって確認することができる。
【0120】
まず、3450〜3200(cm−1)は、反応性官能基(Y)を有するアルコキシシラン系モノマーのイソシアネート基(NCO)と反応性官能基(X)を有するアクリル系モノマーの水酸基(OH)が反応して生じるウレタン結合を含むユニット部のNHに由来する吸収である。また、1760〜1690(cm−1)は、反応性官能基(X)を有さないアクリル系モノマーのエステル(COOR)を含むユニット部と、反応性官能基(Y)を有するアルコキシシラン系モノマーのイソシアネート基と反応性官能基(X)を有するアクリル系モノマーのOH基が反応して得られたウレタン結合を含むユニット部のC=Oに由来する吸収である。また、1150〜1025 (cm−1)は、反応性官能基(X)を有しないアクリル系モノマーのエステル(COOR)やエーテル(COC)を含むユニット部のC−O−Cに由来する吸収である。そして、1100〜1000(cm−1)は、アルコキシシラン系モノマーのシラノール基同士の脱水縮合反応で生じるシロキサン結合(Si−O)を含むユニット部のSi−O−Siに由来する吸収である。
【0121】
また、2845〜265(cm−1)および2940〜2915(cm−1)は、エチレン系樹脂成分Bを構成するメチレン(−CH2−)に由来する吸収であり、1650〜1725(cm−1)のC=Oおよび1280(cm−1)〜1320のC−Oおよび2500〜3600(cm−1)は、エチレン系樹脂成分Bを構成、存在する未反応残存のカルボン酸(−COOH)に由来する吸収である。
【0122】
(比較例1)
また、比較例1として市販されている太陽電池裏面保護シートを用いた。比較例1のシートは、下記(表3)に示すように、厚さ125μmのPETフィルムの片面にガスバリア層として厚さ20nmのSiO蒸着膜が形成された積層フィルム(基材)の両面に接着剤を用いて厚さ25μmのフッ素樹脂フィルム(PVF)を貼り合わせた構成である。
【0123】
(評価)
実施例1〜4及び比較例1の各太陽電池モジュール用基材の性能評価として、サンシャインカーボンアーク灯式耐侯性試験機(スガ試験機株式会社製、商品名「WEL−300L」)による紫外線照射前後における水蒸気透過量、引っ張り強度保持率、絶縁耐電圧、およびポリエチレン系封止剤との剥離強度を測定した。さらに下記R曲げ(柔軟性)耐久試験後の水蒸気透過量、引っ張り強度保持率、絶縁耐電圧、およびポリエチレン系封止剤との剥離強度についても測定した。その結果を(表2、3)に併記した。
【0124】
(R曲げ(柔軟性)耐久試験)
上記方法で作成されたシート状サンプル(A4サイズ)から15cm角を切り取り、切り取ったシートの向かい合う両端部を持って両端部が着き合わさるところまで、シート中央部をR曲げる。この屈曲を100回繰り返す。
【0125】
上記水蒸気透過量の測定は、JISのZ0208に基づき、温度40℃、湿度90%RHの条件下、カップ法にて測定を行った。また、引っ張り強度の測定は、JIS K7127に基づき、株式会社島津製作所製の万能試験機(商品名「UH−500kNI」)を用いて行った。
【0126】
ポリエチレン系封止剤との剥離強度の測定は以下のようにして行った。すなわち、まず、ポリエチレン系封止剤として、三井化学(株)製の低蜜度ポリエチレン(「ウルトゼックス(商品名)」:1mm厚みシート)を用い、この封止剤シートに実施例1〜4及び比較例1の各太陽電池モジュール用基材サンプルを積層し、150℃で20分間、1kg/cmの圧力にて加圧して、接着した。それぞれのサンプルにおける封止剤シートとの剥離強度を、JISC2151に準拠し、インストロン社製のインストロン55R4204型試験機を用いて、上記紫外線照射前後およびR曲げ耐久試験前後において、測定した。
【0127】
【表2】

【0128】
【表3】

【0129】
実施例1、3、4の基材の初期水蒸気ガスバリア性は、酸化物蒸着膜を用いた比較例1のシートと比較して、ほぼ同等の性能を示し、実施例2のシートは、大変優れた初期水蒸気バリア性を示した。次に、1000hr紫外線照射後の破断強度において、比較例1のシートは、耐侯性に優れるとされるフッ素樹フィルムを用いているにもかかわらず、引張強度保持率において約35%の劣化が進んでいる。これに対して、実施例1〜4のシートでは、1000hr紫外線照射後でも引張強度保持率は、ほとんど変化していない。
【0130】
また、紫外線照射1000hr後において、比較例1のシートでは、水蒸気ガスバリア性は悪くなっているが、実施例2、4のシートは初期状態を維持しており、実施例1、3のシートでも良好な値を維持している。これは、実施例1〜4のシートでは、大気中の湿度、あるいは高分子中の水分を金属アルコキシドが吸収して加水分解し、M−O結合の網目構造の形成がさらに進んだため、紫外線1000hr照射後も破断強度を維持し、水蒸気ガスバリア性が維持されたものと考えられる。
【0131】
さらに、実施例1〜4の基材のポリエチレン系封止剤との剥離強度の初期値は、酸化物蒸着膜を用いた比較例1のシートと比較して、大変高い値を示している。これは、基材のコート層にミクロ構造的に粒子状のエチレン系共重合体が散在しており、このエチレン系共重合体粒子を介して基材のコート層とエチレン系封止剤とが強力に結合しているためと考えられる。実施例1〜4の基材のポリエチレン系封止剤との剥離強度は、紫外線照射後においてもR曲げ耐久試験後においても、ほぼ同程度の強度を維持している。
【産業上の利用可能性】
【0132】
以上のことから、本発明によれば、耐侯性、耐水性および蒸気バリア性、柔軟性を有し、かつ前記封止剤としてポリエチレン系の封止剤が用いられる場合であっても、封止剤との密着性が損なわれることのない、実用性に優れた太陽電池モジュール用基材を提供することができる。
【符号の説明】
【0133】
1 基材フィルム
2 コート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層からなる基材フィルムと、該基材フィルムの片面又は両面に形成された少なくとも1層からなるコート層とを有してなる太陽電池モジュール用基材であって、
前記コート層が、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとからなるアクリル系樹脂成分Aと、前記金属アルコキシドの反応性官能基(Y)と結合するカルボキシル基を有するエチレン系樹脂成分Bとを含む液状体の塗膜を硬化してなる共重合体層である太陽電池モジュール用基材。
【請求項2】
前記金属アルコキシドは、一般式:YM(OR)、YRM(OR)、YRM(OR)(式中、Mは金属、Rはアルキル基、Yはウレイド基またはイソシアネート基である)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池モジュール用基材。
【請求項3】
前記アクリル系樹脂成分A100重量部に対するエチレン系樹脂成分Bの配合量が1〜99重量部であることを特徴とする請求項1または2に記載の太陽電池モジュール用基材。
【請求項4】
前記基材フィルムがフィルムを2層以上にシラン系の接着剤で貼り合わせた積層フィルムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール用基材。
【請求項5】
前記基材フィルムが1層からなり、該1層が無機酸化物蒸着膜付きフィルムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール用基材。
【請求項6】
前記基材フィルムが2層以上からなり、その少なくとも1層が無機酸化物蒸着膜付きフィルムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール用基材。
【請求項7】
前記基材フィルムの材質が、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリアクリロニトリル樹脂から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール用基材。
【請求項8】
前記コート層が1層構成である場合はその1層に、多層構成である場合はその少なくとも1層に、紫外線散乱剤又は/及び紫外線吸収剤が混合されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール用基材。
【請求項9】
少なくとも1層からなる基材フィルムを用意する工程と、
反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとからなるアクリル系樹脂成分Aと、前記金属アルコキシドの反応性官能基(Y)と結合するカルボキシル基を有するエチレン系樹脂成分Bとを含む液状体を用意する工程と、
前記基材フィルムの片面又は両面に、前記液状体を塗布することにより少なくとも1層の塗膜を形成する工程と、
前記少なくとも1層の塗膜を硬化させて少なくとも1層の共重合体層からなるコート層を形成する工程と、
を有する太陽電池モジュール用基材の製造方法。
【請求項10】
前記金属アルコキシドは、一般式:YM(OR)、YRM(OR)、YRM(OR)(式中、Mは金属、Rはアルキル基、Yはウレイド基またはイソシアネート基である)で表される化合物であることを特徴とする請求項9に記載の太陽電池モジュール用基材の製造方法。
【請求項11】
前記アクリル系樹脂成分A100重量部に対するエチレン系樹脂成分Bの配合量を1〜99重量部とすることを特徴とする請求項9または10に記載の太陽電池モジュール用基材の製造方法。
【請求項12】
前記液状体を用意する工程において、前記共重合体層が1層構成である場合はその1層を構成するための液状体に、前記共重合体層が多層構成である場合はその少なくとも1層を構成するための液状体に、紫外線散乱剤又は/及び紫外線吸収剤を混合することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール用基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−60089(P2012−60089A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204840(P2010−204840)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【特許番号】特許第4734468号(P4734468)
【特許公報発行日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】