説明

太陽電池用ガラス基板

【課題】ガラスの耐失透性と高い透過率を維持しながらも、ソラリゼーションが抑制され、且つ高い耐熱性を有する太陽電池用ガラス基板を得ること。
【解決手段】本発明の太陽電池用ガラス基板は、質量%で、ガラス組成として、SiO2 50〜80%、Al23 5〜20%、B23 5〜20%、MgO 0〜20%、CaO 0〜20%、SrO 0〜20%、BaO 0〜20%、SnO2 0.001〜2%を含有し、且つ質量比SnO2/(Fe23+SnO2)が0.9以上であり、紫外線照射前後で波長400nmにおける透過率差が2%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用ガラス基板に関し、特に、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、薄膜太陽電池、薄膜化合物太陽電池等に好適な太陽電池用ガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、光起電力効果を利用し、光エネルギーを直接電力に変換するデバイスである。現在、シリコン太陽電池の他、種々の化合物半導体等を素材にした太陽電池が実用化されている。
【0003】
Si結晶シリコン太陽電池は、エチレンビニルアセテート(EVA)等の樹脂を介して、太陽電池セルをインターコネクターで接続したものをガラス基板で挟み込む構造を有している。薄膜太陽電池は、ガラス基板上に透明電極、p、i、n型半導体、電極等が形成される。薄膜化合物太陽電池は、ガラス基板上に電極層、光電変換層、バッファ層等が形成された構造を有している。これらの太陽電池は、ガラス基板を介して、太陽電池セルや光電変換層に光を取り込む構造を有している。また、ガラス基板は、カバーガラス、或いは構造支持体(基材)として用いられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
太陽電池が長期にわたって使用された場合、紫外線によってガラス基板が変色(以下、ソラリゼーションという)することで、太陽電池素子に照射される太陽光の強度が低下し、所望の光電変換効率が得られなくなるといった問題がある。
【0005】
ガラスのソラリゼーションを抑制する方法として、ガラス組成中にTiO2を添加する方法が知られているが、TiO2は多量に含有させると、ガラスの耐失透性が悪化する上に、ガラスが着色し、所望の光電変換効率が得られなくなり、結局のところ、上記問題を解決することができない。
【0006】
また、薄膜化合物太陽電池では、薄膜形成時にガラス基板が高温で熱処理されるため、これらのガラス基板には高い耐熱性が必要とされる。
【0007】
そこで、本発明は、ガラスの耐失透性と高い透過率を維持しながらも、ソラリゼーションが抑制され、且つ高い耐熱性を有する太陽電池用ガラス基板を得ることを技術的課題とする。ここで、「太陽電池用ガラス基板」には、太陽電池用カバーガラスと太陽電池用構造支持体の双方が含まれる。
【特許文献1】特開平11−298030号公報
【特許文献2】特開2000−91601号公報
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、種々の検討を行った結果、ガラス組成中にSnO2を一定量含有させた上で、質量比でSnO2/(SnO2+Fe23)の値を0.9以上に規制することで、ガラスのソラリゼーションが抑制されることを見出すとともに、SiO2、Al23およびB23を適正量含有させることで、ガラスの耐熱性と耐失透性を両立できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0009】
すなわち、本発明の太陽電池用ガラス基板は、質量%でガラス組成をSiO2 50〜80%、Al23 5〜20%、B23 5〜20%、MgO 0〜20%、CaO 0〜20%、SrO 0〜20%、BaO 0〜20%、SnO2 0.001〜2%に規制するとともに、質量比SnO2/(Fe23+SnO2)の値を0.9以上とし、さらに紫外線照射前後で波長400nmにおける透過率差を2%以下とすることにより、上記技術的課題を解決するに至った。ここで、「透過率」は、板厚0.7mmのガラス基板を用いて、分光光度計で測定した値を指す。また、「紫外線照射前後で波長400nmにおける透過率差」とは、波長185nm(2.7mW/cm2)および波長254nm(13mW/cm2)の紫外線を12時間照射した場合に、波長400nmにおける透過率が変化した量を指す。
【0010】
第二に、本発明の太陽電池用ガラス基板は、質量%で、ガラス組成として、SiO2 50〜80%、Al23 5〜20%、B23 5〜20%、MgO 0〜20%、CaO 0〜20%、SrO 0〜20%、BaO 0〜20%、SnO2 0.001〜2%、As23 0〜1%を含有し、且つ質量比SnO2/(Fe23+SnO2)が0.9以上であり、紫外線照射前後で波長400nmにおける透過率差が2%以下であることに特徴付けられる。
【0011】
第三に、本発明の太陽電池用ガラス基板は、質量%で、ガラス組成として、Li2O+Na2O+K2Oの合量が0〜20%であることに特徴付けられる。
【0012】
第四に、本発明の太陽電池用ガラス基板は、ガラス組成として、Fe23の含有量が500ppm以下であることに特徴付けられる。
【0013】
第五に、本発明の太陽電池用ガラス基板は、実質的にAs23を含有しないことに特徴付けられる。ここで、「実質的にAs23を含有しない」とは、ガラス組成中のAs23の含有量が0.1%以下である場合を指す。
【0014】
第六に、本発明の太陽電池用ガラス基板は、板厚0.7mmにおいて、波長400nm〜1000nmにおける透過率が90%以上であることに特徴付けられる。
【0015】
第七に、本発明の太陽電池用ガラス基板は、密度が2.8g/cm3以下であることに特徴付けられる。ここで、「密度」は、周知のアルキメデス法によって測定した値を指す。
【0016】
第八に、本発明の太陽電池用ガラス基板は、30〜380℃における熱膨張係数が25〜100×10-7/℃であることに特徴付けられる。ここで、「30〜380℃における熱膨張係数」は、ディラトメーターを用いて、30〜380℃における平均熱膨張係数を測定したものである。
【0017】
第九に、本発明の太陽電池用ガラス基板は、歪点が500℃以上であることに特徴付けられる。ここで、「歪点」は、ASTM C336の方法に基づいて測定した値を指す。
【0018】
第十に、本発明の太陽電池用ガラス基板は、液相粘度が104.0dPa・s以上であることに特徴付けられる。ここで、「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。「液相温度」は、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値を指す。なお、ガラスの液相温度が低く、液相粘度が高い程、ガラスの耐失透性に優れるとともに、ガラス基板の成形性に優れている。
【0019】
第十一に、本発明の太陽電池用ガラス基板は、ヤング率が68GPa以上であることに特徴付けられる。ここで、「ヤング率」は、共振法により測定した値を指す。
【0020】
第十二に、本発明の太陽電池用ガラス基板は、オーバーフローダウンドロー法にて成形されてなることに特徴付けられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の太陽電池用ガラス基板において、ガラス組成を上記範囲に限定した理由を以下に説明する。なお、以下の%表示は、特に断りがある場合を除き、質量%を指す。
【0022】
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は50〜80%、好ましくは55〜75%、より好ましくは55〜70%、更に好ましくは55〜65%である。SiO2の含有量が多くなると、ガラスの高温粘性が高くなり、溶融性が悪化するととともに、クリストバライトの失透ブツが析出しやすくなる。一方、SiO2の含有量が少なくなると、ガラスの耐候性が悪化したり、ガラス化しにくくなったりする。
【0023】
Al23は、ガラスの歪点やヤング率を上昇させたり、クリストバライトの失透ブツの析出を抑える成分であり、その含有量は5〜20%、好ましくは7〜19%、より好ましくは9〜18%、更に好ましくは11〜17%、最も好ましくは13〜17%である。Al23の含有量が多くなると、ガラスの液相温度が上昇して、ガラス基板に成形しにくくなる。また、Al23の含有量が少なくなると、ガラスの歪点やヤング率が低下したり、高温粘性が高くなり、溶融性が悪化する傾向にある。
【0024】
23は、融剤として作用し、ガラスの粘性を下げ、溶融性を改善する成分であり、その含有量は5〜20%、好ましくは7〜15%、より好ましくは8〜13%、更に好ましくは8〜12%、最も好ましくは8〜11%である。B23の含有量が多くなると、ガラスの歪点やヤング率が低下したり、耐候性が悪化する傾向にある。また、B23の含有量が少なくなると、液相温度が高くなって、ガラス基板に成形しにくくなることに加えて、高温粘性が高くなり、溶融性が悪化する傾向にある。
【0025】
MgOは、ガラスの歪点を低下させずに高温粘性のみを低下させて、ガラスの溶融性を改善する成分であり、その含有量は0〜20%、好ましくは0〜7%、より好ましくは0〜5%、更に好ましくは0〜3%、最も好ましくは0〜2%である。MgOの含有量が多くなると、ガラスの液相温度が高くなって、ガラス基板に成形しにくくなったり、熱膨張係数が高くなって、周辺部材の熱膨張係数と整合しにくくなったり、密度が高くなりやすい。また、MgOの含有量が少なくなると、ガラスの歪点やヤング率が低下したり、高温粘性が高くなって溶融しにくくなる。
【0026】
CaOは、ガラスの歪点を低下させずに高温粘性のみを低下させて、ガラスの溶融性を改善する成分であり、その含有量は0〜20%、好ましくは0〜12%、より好ましくは3〜10%、更に好ましくは3〜9%である。CaOの含有量が多くなると、ガラスの液相温度が高くなって、ガラス基板に成形しにくくなったり、熱膨張係数が高くなって、周辺部材の熱膨張係数と整合しにくくなったり、密度が高くなったりする。また、CaOの含有量が少なくなると、ガラスの歪点やヤング率が低下したり、高温粘性が高くなって溶融しにくくなる。
【0027】
SrOは、ガラスの歪点を低下させずに高温粘性のみを低下させて、ガラスの溶融性を改善する成分であり、その含有量は0〜20%、好ましくは0〜9%、より好ましくは0.5〜8%、更に好ましくは0.5〜7%である。SrOの含有量が多くなると、ガラスの液相温度が高くなって、ガラス基板に成形しにくくなったり、熱膨張係数が高くなって、周辺部材の熱膨張係数と整合しにくくなったり、密度が高くなったりする。また、SrOの含有量が少なくなると、ガラスの歪点やヤング率が低下したり、高温粘性が高くなって溶融しにくくなる。
【0028】
BaOは、ガラスの歪点を低下させずに高温粘性のみを低下させて、ガラスの溶融性を改善する成分であり、その含有量は0〜20%、好ましくは0〜8%、より好ましくは0〜5%、更に好ましくは0〜3%である。BaOの含有量が多くなると、ガラスの液相温度が高くなって、ガラス基板に成形しにくくなったり、熱膨張係数が高くなって、周辺部材の熱膨張係数と整合しにくくなったり、密度が高くなったりする。また、BaOの含有量が少なくなると、ガラスの歪点やヤング率が低下したり、高温粘性が高くなって溶融しにくくなる。
【0029】
MgO、CaO、SrO、BaOのアルカリ土類金属酸化物は、混合して含有させることで、ガラスの溶融性と耐失透性を向上させることができるが、これらの成分が多くなると、ガラスの密度が上昇する傾向にあり、ガラス基板の軽量化が困難となる。また熱膨張係数が高くなりすぎる場合がある。よって、アルカリ土類金属酸化物は、合量で0〜30%、好ましくは0〜20%、より好ましくは0〜15%、更に好ましくは0〜10%にすることが望ましい。
【0030】
SnO2は、ガラスの清澄剤として作用するととともに、ガラスのソラリゼーションを抑制する効果があり、その含有量は0.001〜2%、好ましくは0.005〜1.5%、より好ましくは0.01〜1%、更に好ましくは0.05〜0.5%、最も好ましくは0.05〜0.3%である。SnO2の含有量が多くなると、ガラスの耐失透性が悪化する。また、SnO2の含有量が少なくなると、ガラスのソラリゼーションを抑制する効果が乏しくなったり、清澄効果が低減する。なお、SnO2導入源としてSnO2を主成分とする原料を用いても良いが、他の原料に含まれる微量成分、或いは電極等の溶出により含有させても差し支えない。
【0031】
ガラスのソラリゼーション抑制効果をより効果的に発現させるためには、質量比SnO2/(Fe23+SnO2)の値を0.9以上、好ましくは0.92以上、0.94以上、0.96以上に規制すればよい。質量比SnO2/(Fe23+SnO2)の値が0.9未満であると、所望のソラリゼーション抑制効果が得られにくくなり、太陽電池の光電変換効率が経時的に劣化しやすくなる。
【0032】
Fe23は、ガラスの透過率に影響を及ぼす成分であり、その含有量は0〜0.05%、好ましくは1ppm〜0.03%、更に好ましくは0.005〜0.02%、最も好ましくは0.005〜0.015%である。Fe23の含有量が多くなると、ガラスの可視域の透過率が低下しすぎて、太陽電池素子に照射される太陽光の量が低減する上に、ソラリゼーションが起こりやすくなり、その結果、太陽電池の光電変換効率が低下しやすくなる。また、Fe23の含有量が少なくなると、高純度のガラス原料を使用しなければならず、ガラス基板の製造コストの高騰を招く。また、Fe23の含有量が少なくなると、紫外域の透過率が高くなり過ぎることで、ガラス基板上に存在する樹脂の劣化を招き、太陽電池の寿命が短くなるおそれもある。
【0033】
また、上記成分以外にも、必要に応じて他の成分を合量で10%まで含有させることができる。
【0034】
TiO2は、ガラスのソラリゼーションを抑制する効果があり、0〜10%(好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3%、更に好ましくは0.001〜1%、最も好ましくは0.005〜0.1%)含有させることができる。既述の通り、TiO2の含有量が多くなると、ガラスの耐失透性が悪化したり、ガラスが着色したりする。
【0035】
ZnOは、ガラスのヤング率を高めたり、溶融性を改善する成分であり、0〜10%(好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3%、更に好ましくは0〜1%、最も好ましくは0〜0.5%)含有させることができる。ZnOの含有量が多くなると、ガラスの密度や熱膨張係数が高くなったりする。また、ZnOの含有量が多くなると、ガラスの耐失透性や歪点が低下する傾向にある。
【0036】
ZrO2は、ガラスの耐候性を改善する成分であり、0〜2%(好ましくは0〜1%、より好ましくは0〜0.5%、更に好ましくは0〜0.2%、最も好ましくは0〜0.1%)含有させることができる。ZrO2の含有量が多くなると、ジルコンの失透ブツが析出しやすくなる。
【0037】
As23は、ガラスの清澄剤として作用するが、ガラス組成中に多量に含有させると、ガラスがソラリゼーションしやすくなり、太陽電池の光電変換効率が経時的に劣化しやすくなるため、その含有量は0〜1%、好ましくは0〜0.8%、より好ましくは0〜0.5%、更に好ましくは0〜0.3%であり、実質的に含有しないことが最も好ましい。また、実質的にAs23を含有しないガラス組成にすれば、近年の環境的要請を満たすことができる。
【0038】
Sb23は、ガラスの清澄剤として働く成分であり、0〜2%(好ましくは0〜1.5%、より好ましくは0〜1%、更に好ましくは0〜0.5%、最も好ましくは0〜0.1%)含有させることができる。Sb23の含有量が多くなると、ガラスの密度が高くなりやすい。
【0039】
ClやF等のハロゲン化物は、ガラスの清澄剤として働く成分であり、0〜1%(好ましくは0〜0.5%、より好ましくは0〜0.1%、更に好ましくは0〜0.01%、最も好ましくは0〜0.001%)含有させることができる。Clの含有量が多くなると、ガラス融液からの成分揮発が多くなり、ガラスに脈理が発生しやすくなったり、太陽電池素子の特性を劣化させるおそれがある。
【0040】
Li2O、Na2O、K2Oは、熱膨張係数を調整したり、高温粘性を低下させる成分であり、0〜20%(好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜1%、最も好ましくは0〜0.1%)含有させることができる。これらの成分の含有量が多くなると、歪点が低下し、耐熱性が悪化する。また、これらの成分の含有量が多くなると、熱膨張係数が大きくなりすぎて、金属、有機系接着剤等の熱膨張係数と整合しにくくなる。さらに、これらの成分の含有量が多くなると、これらの成分がガラス基板に形成された膜に拡散した場合、所望の膜特性が得られないおそれがある。
【0041】
Nb25やLa23等の希土類酸化物は、ガラスのヤング率を高める成分である。しかし、希土類酸化物は、原料自体のコストが高く、また多量に含有させると耐失透性が悪化する。それ故、希土類酸化物の含有量は、3%以下、2%以下、1%以下、特に0.5%以下に制限することが望ましい。
【0042】
本発明の太陽電池用ガラス基板は、下記の特性を満足することが好ましい。
【0043】
本発明の太陽電池用ガラス基板において、紫外線照射前後で波長400nmにおける透過率差は2%以内、好ましくは1.5%以内、より好ましくは1%以内、更に好ましくは0.5%以内である。この透過率差が小さい程、ガラスのソラリゼーションを抑制することができ、長期にわたって太陽電池の光電変換効率を維持できる。
【0044】
本発明の太陽電池用ガラス基板において、波長400nm〜1000nmでの透過率が90%以上であることが好ましい。波長400nm〜1000nmでの透過率が90%未満であると、太陽電池の光電変換効率が低下しやすくなる。
【0045】
本発明の太陽電池用ガラス基板において、ガラスの密度は、2.8g/cm3以下、2.7g/cm3以下、2.6g/cm3以下、2.55g/cm3以下、2.5g/cm3以下、2.45g/cm3以下、特に2.4g/cm3以下が好ましい。ガラスの密度が小さい程、ガラス基板を軽量化することができる。
【0046】
本発明の太陽電池用ガラス基板において、30〜380℃におけるガラスの熱膨張係数は、25〜100×10-7/℃であることが好ましく、25〜80×10-7/℃であることがより好ましく、25〜70×10-7/℃であることが更に好ましく、28〜60×10-7/℃であることが更に好ましく、28〜50×10-7/℃であることが特に好ましく、30〜40×10-7/℃であることが最も好ましい。ガラスの熱膨張係数を上記範囲とすれば、金属、有機系接着剤等の部材と熱膨張係数が整合しやすくなり、金属、有機系接着剤等の部材の剥離を防止することができる。
【0047】
本発明の太陽電池用ガラス基板において、ガラスの耐熱性の指標となる歪点が500℃以上(より好ましくは550℃以上、更に好ましくは600℃以上、特に好ましくは630℃以上)であることが好ましい。歪点が高い程、ガラスの耐熱性が高くなり、薄膜化合物太陽電池等の成膜工程でガラス基板に熱変形や熱収縮等が生じにくくなる。
【0048】
本発明の太陽電池用ガラス基板において、ガラスの高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、1700℃以下が好ましく、1650℃以下がより好ましく、1600℃以下が更に好ましく、1550℃以下が特に好ましい。ガラスの高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低い程、溶融窯等のガラスの製造設備への負担が小さくなるとともに、ガラス基板の泡品位を向上させることができる。つまり、ガラスの高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低い程、ガラス基板を安価に製造することができる。なお、ガラスの高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、ガラスの溶融温度に相当しており、ガラスの高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低い程、低温でガラスを溶融することができる。
【0049】
本発明の太陽電池用ガラス基板において、ガラスの液相温度は、1200℃以下、1150℃以下、1120℃以下、1100℃以下、1090℃以下、特に1070℃以下が好ましい。ガラスの液相温度が低い程、オーバーフローダウンドロー法等による成形中にガラスが失透しにくくなる。
【0050】
本発明の太陽電池用ガラス基板において、ガラスの液相粘度は、104.0dPa・s以上、104.5dPa・s以上、105.0dPa・s以上、105.3dPa・s以上、105.5dPa・s以上、特に105.7dPa・s以上が好ましい。ガラスの液相粘度が高い程、オーバーフローダウンドロー法等による成形中にガラスが失透しにくくなる。
【0051】
本発明の太陽電池用ガラス基板において、ガラスのヤング率は、68GPa以上が好ましく、69GPa以上がより好ましく、70GPa以上が更に好ましい。ガラスのヤング率が高い程、ガラス基板がたわみにくくなる。
【0052】
本発明の太陽電池用ガラス基板において、ガラスの比ヤング率は、27GPa/(g/cm3)以上が好ましく、28GPa/(g/cm3)以上がより好ましく、29GPa/(g/cm3)以上が更に好ましく、30GPa/(g/cm3)以上が特に好ましい。ガラスの比ヤング率が高い程、自重によるガラス基板のたわみが低減される。その結果、ガラス基板をカセット等に収納する際、ガラス基板同士のクリアランスを狭くして収納することが可能になるため、太陽電池の生産性が向上する。
【0053】
本発明の太陽電池用ガラス基板は、板厚が3.0mm以下、2.0mm以下、1.5mm以下、0.7mm以下、0.5mm以下、特に0.05〜0.3mm、0.1〜0.3mmであることが好ましい。ガラス基板の板厚が薄い程、ガラス基板を軽量化することができる。なお、ガラス基板の板厚が0.05mmより薄いと、ガラス基板の製造効率が低下する。
【0054】
本発明の太陽電池用ガラス基板は、未研磨の表面を有することが好ましい。ガラスの理論強度は本来非常に高いのであるが、理論強度よりも遥かに低い応力でも破壊に至ることが多い。これは、ガラス基板の表面にグリフィスフローと呼ばれる小さな欠陥がガラスの成形後の工程、例えば研磨工程等で生じるからである。よって、ガラス基板の表面を未研磨とすれば、本来のガラス基板の機械的強度を損ないにくくなり、ガラス基板が破壊しにくくなる。また、ガラス基板の表面を未研磨とすれば、ガラス基板の製造工程で研磨工程を省略できるため、ガラス基板の製造コストを下げることができる。本発明の太陽電池用ガラス基板において、ガラス基板の両面全体を未研磨とすれば、ガラス基板が更に破壊しにくくなる。また、本発明の太陽電池用ガラス基板において、ガラス基板の切断面から破壊に至る事態を防止するため、ガラス基板の切断面に面取り加工等を施してもよい。特に、太陽電池用カバーガラスは、太陽に対向するように設置されるため、耐衝撃性等の特性を向上させるべく、未研磨の表面を有することが好ましい。
【0055】
本発明の太陽電池用ガラス基板は、所望のガラス組成となるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造することができる。
【0056】
本発明の太陽電池用ガラス基板の成形方法として、種々の方法を採用することができる。例えば、オーバーフローダウンドロー法、フロート法、スロットダウン法、リドロー法、ロールアウト法、プレス法等の様々な成形方法を採用することができる。
【0057】
本発明の太陽電池用ガラス基板は、オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形すれば、未研磨で表面品位が良好なガラス基板を製造することができる。その理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラス基板の表面となるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されることにより、無研磨で表面品位が良好なガラス基板を成形できるからである。ここで、オーバーフローダウンドロー法は、溶融状態のガラスを耐熱性の樋状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス基板を製造する方法である。樋状構造物の構造や材質は、ガラス基板の寸法や表面精度を所望の状態とし、ガラス基板に使用できる品位を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行うためにガラス基板に対してどのような方法で力を印加するものであってもよい。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールをガラス基板に接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールをガラス基板の端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。本発明に係るガラスは、耐失透性に優れるとともに、成形に適した粘度特性を有しているため、オーバーフローダウンドロー法による成形を精度よく実行することができる。なお、液相温度が1200℃以下、液相粘度が104.0dPa・s以上であれば、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を製造することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0059】
表1、2は、本発明の実施例(試料No.1〜6)および本発明の比較例(試料No.7〜13)を示している。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
各試料は次のようにして作製した。まず、表1、2のガラス組成となるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1600℃で24時間溶融した。その後、溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して板状に成形した。得られたガラス基板について、種々の特性を評価した。
【0063】
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した。
【0064】
熱膨張係数は、ディラトメーターを用いて、30〜380℃における平均熱膨張係数を測定したものである。
【0065】
歪点Ps、徐冷点Taは、ASTM C336の方法に基づいて測定した。
【0066】
軟化点Tsは ASTM C338の方法に基づいて測定した。
【0067】
ガラスの粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した。
【0068】
液相温度は、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定したものである。
【0069】
液相粘度は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定したものである。
【0070】
ヤング率は、共振法により測定した。
【0071】
比ヤング率は、ヤング率を密度で除することにより算出した。
【0072】
透過率および透過率差は、次のようにして測定した。0.7mm厚のガラスを作製した後、波長400nm、550nm、1000nmにおける透過率(それぞれT400、T550、T1000とする)を島津製作所製分光光度計UV−3100PCで測定する。次に、低圧水銀灯を用いて、波長185nm(2.7mW/cm2)および波長254nm(13mW/cm2)の紫外線を試料に12時間照射する。紫外線照射後、波長400nm、550nm、1000nmにおける透過率(それぞれt400、t550、t1000とする)を島津製作所製分光光度計UV−3100PCで測定する。最後に、透過率差T400−t400を求める。
【0073】
その結果、実施例に係るガラス基板No.1〜6は、波長400nmにおける透過率差T400−t400が1.5%以内であり、波長400〜1000nmの範囲において透過率は90%以上であった。また、歪点は640℃以上、熱膨張係数は37〜38×10-7/℃、密度は2.54g/cm3以下、ヤング率は69GPa以上、液相温度は1190℃以下、液相粘度は104.6dPa・s以上であった。
【0074】
一方、比較例に係るガラス基板No.7〜13は、SnO2/(SnO2+Fe23)比が0.90以下であるため、波長400nmの透過率差T400−t400が2.1%以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上に説明した通り、本発明の太陽電池用ガラス基板は、太陽電池用カバーガラス、太陽電池用構造支持体として好適である。また、本発明の太陽電池用ガラス基板は、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、薄膜太陽電池、薄膜化合物太陽電池等に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、ガラス組成として、SiO2 50〜80%、Al23 5〜20%、B23 5〜20%、MgO 0〜20%、CaO 0〜20%、SrO 0〜20%、BaO 0〜20%、SnO2 0.001〜2%を含有し、且つ質量比SnO2/(Fe23+SnO2)が0.9以上であり、紫外線照射前後で波長400nmにおける透過率差が2%以下であることを特徴とする太陽電池用ガラス基板。
【請求項2】
質量%で、ガラス組成として、SiO2 50〜80%、Al23 5〜20%、B23 5〜20%、MgO 0〜20%、CaO 0〜20%、SrO 0〜20%、BaO 0〜20%、SnO2 0.001〜2%、As23 0〜1%を含有し、且つ質量比SnO2/(Fe23+SnO2)が0.9以上であり、紫外線照射前後で波長400nmにおける透過率差が2%以下であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用ガラス基板。
【請求項3】
質量%で、ガラス組成として、Li2O+Na2O+K2Oの合量が0〜20%であることを特徴とする請求項1または2に記載の太陽電池用ガラス基板。
【請求項4】
ガラス組成として、Fe23の含有量が500ppm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池用ガラス基板。
【請求項5】
実質的にAs23を含有しないことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の太陽電池用ガラス基板。
【請求項6】
板厚0.7mmにおいて、波長400nm〜1000nmにおける透過率が90%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の太陽電池用ガラス基板。
【請求項7】
密度が2.8g/cm3以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の太陽電池用ガラス基板。
【請求項8】
30〜380℃における熱膨張係数が25〜100×10-7/℃であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の太陽電池用ガラス基板。
【請求項9】
歪点が500℃以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の太陽電池用ガラス基板。
【請求項10】
液相粘度が104.0dPa・s以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の太陽電池用ガラス基板。
【請求項11】
ヤング率が68GPa以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の太陽電池用ガラス基板。
【請求項12】
オーバーフローダウンドロー法にて成形されてなることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の太陽電池用ガラス基板。

【公開番号】特開2008−222542(P2008−222542A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5159(P2008−5159)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】