説明

太陽電池用封止シート

【課題】本発明は、高温高湿条件下にて長期間に亘って使用した場合にあっても、腐食による太陽電池素子の劣化がなく、太陽電池素子の発電性能の低下の生じない太陽電池用封止シートを提供する。
【解決手段】 本発明の太陽電池用封止シートは、酢酸ビニル成分の含有量が20〜50重量%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体50〜90重量%とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー10〜50重量%とを含有するエチレン系共重合体及び有機過酸化物を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用封止シートに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンやセレンの半導体ウエハーからなる太陽電池モジュールは、太陽電池素子の両面にエチレン系共重合体などの接着性シートを積層し、接着性シートの上面に上部保護材を、下面に下部保護材を重ね合わせて真空中で脱気すると共に加熱することにより太陽電池素子を接着性シートで封止すると共に、接着性シートを介して太陽電池素子と上下保護材とを接着一体化したものが用いられている。
【0003】
上記接着性シートは、透明性、耐候性及び接着性などが要求され、 エチレン系共重合体と有機過酸化物とからなる接着性シートが提案されている。この接着性シートは、加熱溶融されて太陽電池素子と上下保護材とを接着一体化し、更に、有機過酸化物の分解によって接着性シートが架橋されて耐熱性及び耐候性の高い太陽電池モジュールが得られる。
【0004】
特許文献1には、エチレン−酢酸ビニル共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物あるいは光増感剤を混加した電子材料を封止する封止用組成物が提案されている。
【0005】
しかしながら、エチレン−酢酸ビニル共重合体からなる太陽電池封止材膜は、高温高湿下で酢酸残基が加水分解し、酢酸を発生し、この酢酸が原因となって太陽電池素子が腐食するといった問題点があった。特に、薄膜太陽電池素子や透明電極は、薄膜であるために発電性能の低下を起こし易かった。
【0006】
このような腐食の問題を解決するために、種々の太陽電池封止材が提案されている。特許文献2には、光起電力素子の少なくとも光入射側表面が一層以上の透明な有機高分子樹脂層で封止されている太陽電池モジュールにおいて、前記有機高分子樹脂層のうち少なくとも一層が、エチレン−不飽和脂肪酸エステル共重合樹脂から構成されてなる太陽電池モジュールが提案されており、遊離酢酸の発生を防止している。
【0007】
しかしながら、エチレン−不飽和脂肪酸エステル共重合体も、エチレン−酢酸ビニル共重合体と同様に耐熱性や接着性を向上させるために架橋することが好ましい。しかしながら、エチレン−不飽和脂肪酸エステル共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体よりも融点が高いために、Tダイなどを用いて溶融成形する際の樹脂温も高い。
【0008】
そのために、エチレン−不飽和脂肪酸エステル共重合体に有機過酸化物を配合すると、有機過酸化物が成形機内において分解し、エチレン−不飽和脂肪酸エステル共重合体が架橋してゲルが生成するために、シートを成膜することが困難になるといった問題点を有していた。
【0009】
又、特許文献3には、1以上のバイパスダイオードが接続された光起電力素子が、1種類以上の封止材で封止されてなる光起電力素子モジュールにおいて、少なくとも前記バイパスダイオードに接触して設けられた封止材が、加水分解もしくは熱分解により酸を発生するような構成成分の含有量を20%以下とした樹脂からなることを特徴とする光起電力素子モジュールが提案されているものの、この封止材においても酢酸は発生し、太陽電池素子の腐食を防ぐには不十分であった。
【0010】
更に、特許文献4には、エチレン/酢酸ビニル共重合体、及び該共重合体中に分散された受酸剤粒子を含む透明フィルムであって、受酸剤粒子の含有量が共重合体に対して0.5質量%以下であり、且つ受酸剤粒子の平均粒径が5μm以下である透明フィルムが提案されている。
【0011】
しかしながら、無機物質が樹脂に対して0.5質量%以下の添加量では、酸を吸収し或いは中和する効果は十分ではない。又、大量の受酸剤粒子を配合すると、太陽電池に必要とされる透明性が損なわれるといった問題点があった。
【0012】
又、特許文献5には、不飽和カルボン酸含量が4重量%以上であって、融点が85℃以上のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマーであることを特徴とする太陽電池モジュールにおける太陽電池素子封止材料が提案されている。
【0013】
しかしながら、太陽電池素子封止材料は、有機過酸化物などを用いないことを特徴としており、架橋されておらず、耐熱性が不十分であるといった問題点があった。太陽電池は、光の当たらない部分(影や汚れ)に、ホットスポットと呼ばれる高温部が発生することがあり、このホットスポットは、発電しない部分が抵抗体となって発熱する現象で、160℃以上に達する場合もある。
【0014】
このような高温部分において、架橋していない封止材は溶融してしまい、各部材の剥離や配線のズレによる断線が発生する虞れがあった。又、融点85℃以上の樹脂は、Tダイなどを用いて溶融成形する際の樹脂温も高く、そのために有機過酸化物を配合すると、有機過酸化物が成形機内で分解し、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマーの架橋反応が生じてゲルが生成するためにシートを成膜することが困難になるといった問題点があった。
【0015】
【特許文献1】特公平6−35575号公報
【特許文献2】特開平7−302926号公報
【特許文献3】特開2000−216422号公報
【特許文献4】特開2005−29588号公報
【特許文献5】特開2000−186114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、高温高湿下にて長期間に亘って使用した場合にあっても、腐食による太陽電池素子の劣化がなく、太陽電池素子の発電性能の低下の生じない太陽電池用封止シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の太陽電池用封止シートは、酢酸ビニル成分の含有量が20〜50重量%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体50〜90重量%とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー10〜50重量%とを含有するエチレン系共重合体及び有機過酸化物を含有することを特徴とする。
【0018】
エチレン系共重合体を構成しているエチレン−酢酸ビニル共重合体中における酢酸ビニル成分の含有量は、少ないと、エチレン系共重合体の融点が高くなり、太陽電池用封止シートの製膜時に有機過酸化物が分解してエチレン系共重合体に架橋を生じてゲルが発生し、太陽電池用封止シートの製膜性が低下し、多いと、酢酸の発生量が増加し、太陽電池素子の腐食を生じるので、20〜50重量%に限定され、25〜35重量%が好ましい。
【0019】
又、エチレン系共重合体を構成しているエチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーは、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の側鎖のカルボキシル基をナトリウム、カリウム、銀、銅、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、亜鉛、鉄などの金属陽イオンで中和、架橋したものであり、金属陽イオンとしては亜鉛陽イオンが好ましい。
【0020】
そして、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーの金属陽イオンが、太陽電池用封止シートを構成しているエチレン−酢酸ビニル共重合体から生じた酢酸と分子間結合することによって捕捉し太陽電池素子が酢酸によって腐食されるのを防止している。
【0021】
更に、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーの金属陽イオンは、エチレン系共重合体中に均一に分散していることから、エチレン系共重合体中に発生した酢酸と効率良く且つ確実に分子間結合することによって捕捉し太陽電池素子の腐食を効果的に防止することができる。
【0022】
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー中の不飽和カルボン酸成分としては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸などが挙げられる。
【0023】
そして、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体中における不飽和カルボン酸成分の含有量は、少ないと、アイオノマーを構成する金属陽イオン量も少なくなり、太陽電池素子の腐食を防止する効果が不十分となり、多いと、エチレン−酢酸ビニル共重合体との相溶性が悪くなり、太陽電池用封止シートの透明性が低下するので、10〜50重量%が好ましく、15〜35重量%がより好ましい。
【0024】
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の中和度は、低いと、太陽電池用封止シートを構成しているエチレン−酢酸ビニル共重合体から生じた酢酸を分子間結合によって捕捉することができず、太陽電池素子が酢酸によって腐食されることがあるので、20%以上が好ましく、40〜90%がより好ましい。なお、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の中和度は下記によって定義されたものをいう。
中和度(%)=100×〔エチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー中
の金属イオン濃度(モル/kg)×金属イオンの価数/陰イオン濃
度(モル/kg)〕
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー中の金属イオン濃度(モル/kg)は、JIS K0116に準拠してIPC発光分光分析により測定する。
陰イオン濃度(モル/kg)=エチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー
中のカルボキシル基含有量
【0025】
そして、エチレン系共重合体中におけるエチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量は、少ないと、エチレン系共重合体の融点が高くなり、太陽電池用封止シートの製膜時に有機過酸化物が分解してエチレン系共重合体に架橋を生じてゲルが発生し、太陽電池用封止シートの製膜性が低下し、多いと、太陽電池用封止シート中に発生した酢酸をエチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーの金属陽イオンによって捕捉することができず、太陽電池素子の腐食を防止することができないので、50〜90重量%に限定され、50〜80重量%が好ましい。又、エチレン系共重合体中におけるエチレン−不飽和カルボン酸共重合体の含有量は、同様の理由で10〜50重量%に限定され、20〜50重量%が好ましい。
【0026】
又、有機過酸化物としては、特に限定されないが、一時間半減期温度が110〜140℃である有機過酸化物が好ましい。これは、有機過酸化物の一時間半減期温度が低いと、有機過酸化物を分解させることなく太陽電池用封止シートを製膜することができないことがあり、高いと、太陽電池用封止シートを架橋させるための熱処理に長時間を要して太陽電池の生産性が低下するからである。
【0027】
一時間半減期温度が110〜140℃である有機過酸化物としては、例えば、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(111℃)、2,2−ジ(4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン(114℃)、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(115℃)、t−ブチルパーオキシラウレート(118℃)、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(118℃)、t−ブチルパーオキシマレイン酸(119℃)、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート(119℃)、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート(119℃)、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート(119℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン(119℃)、t−ブチルパーオキシアセテート(121℃)、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン(122℃)、t−ブチルパーオキシベンゾエート(125℃)、n−ブチル4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)バレレート(127℃)、ジクミルパーオキサイド(136℃)、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド(136℃)、t−ブチルクミルパーオキサイド(137℃)、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(138℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(138℃)等が挙げられ、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。なお、括弧内の温度は、有機過酸化物の一時間半減期温度である。
【0028】
太陽電池用封止シート中における有機過酸化物の含有量は、少ないと、太陽電池用封止シートを充分に架橋させることができず、太陽電池用封止シートの耐熱性及び耐候性が低下することがあり、多いと、太陽電池モジュールの製造時に有機過酸化物の分解時に発生するガスによって太陽電池素子と太陽電池用封止シートとの間に気泡溜まりが発生し、得られる太陽電池モジュールの発電性能が低下することがあるので、エチレン系共重合体100重量部に対して0.3〜1.5重量部が好ましい。
【0029】
又、太陽電池用封止シート中における有機過酸化物の含有量の目安として架橋後の太陽電池用封止シートのゲル分率が挙げられるが、架橋後の太陽電池用封止シートのゲル分率は、70重量%以上が好ましい。
【0030】
なお、架橋後の太陽電池用封止シートのゲル分率は下記の要領で測定されたものをいう。先ず、太陽電池用封止シートをAg秤量し、これを120℃のキシレン中に24時間浸漬して不溶解分を200メッシュの金網で濾過し、金網上の残渣を真空乾燥して乾燥残渣の重量を測定し(Bg)、下記式により算出することができる。
ゲル分率(重量%)=(B/A)×100
【0031】
又、太陽電池用封止シートには、カップリング剤が含有されていてもよい。このようにカップリング剤を含有させることによって、太陽電池用封止シートを介して太陽電池素子と上下保護材とを強固に一体化することができる。
【0032】
上記カップリング剤としては、アミノ基、グリシジル基、メタクリロキシ基及びメルカプト基からなる群より選ばれる一種又は二種以上の官能基を有するシランカップリング剤が好ましく、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。なお、カップリング剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0033】
なお、太陽電池用封止シートには、その物性を損なわない範囲内において、架橋助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが含有されていてもよい。
【0034】
次に、太陽電池用封止シートの製造方法について説明する。エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーを含有するエチレン系共重合体と有機過酸化物とを押出機に供給して有機過酸化物の一時間半減期温度よりも低い温度で溶融混練して押出機の先端に取り付けたTダイから押出して太陽電池用封止シートを製造する方法が挙げられる。なお、有機過酸化物が二種以上含有されている場合には、最も低い有機過酸化物の一時間半減期温度よりも低い温度にて溶融混練すればよい。
【0035】
又、太陽電池モジュールの製造時において、太陽電池素子又は上下保護材と、太陽電池用封止シートとの間における脱気性を向上させるために、太陽電池用封止シートの表面にエンボス加工を施すことが好ましい。
【0036】
太陽電池用封止シートの表面にエンボス加工を施す方法としては、特に限定されず、Tダイから押出された直後の溶融シートを、表面にエンボス模様が施されたエンボスロールと、このエンボスロールに対峙して配設されたゴムロールとの間に供給し、エンボスロールを溶融シートに押圧させて、太陽電池用封止シートの表面にエンボス加工を施す方法が挙げられる。なお、一旦製造された太陽電池用封止シートを再度、加熱して溶融状態とした上で上述の要領でエンボス加工を施してもよい。
【0037】
そして、本発明の太陽電池用封止シートを用いた太陽電池モジュールの製造方法としては、太陽電池素子の上面に上側太陽電池用封止シートを介して上部透明保護材を、下面に下側太陽電池用封止シートを介して下部基板保護材を積層して積層体を製造し、この積層体を減圧下にて加熱することによって上下太陽電池用封止シートを架橋させながら太陽電池素子を上下太陽電池用封止シートによって上下から封止すると共に太陽電池素子の上下面に上下太陽電池用封止シートを介して保護材を積層一体化させる太陽電池モジュールの製造方法が挙げられる。なお、積層体を加熱する際の条件としては、有機過酸化物の一分間半減期温度にてその半減期の5〜10倍の時間に亘って加熱すればよい。例えば、有機過酸化物の一分間半減期温度が160℃であれば、160℃にて5〜10分間に亘って積層体を加熱すればよい。
【発明の効果】
【0038】
本発明の太陽電池用封止シートは、酢酸ビニル成分の含有量が20〜50重量%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体50〜90重量%とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー10〜50重量%とを含有するエチレン系共重合体及び有機過酸化物を含有することを特徴とするので、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーの金属陽イオンがエチレン−酢酸ビニル共重合体に起因して発生する酢酸と分子間結合することによって酢酸を捕捉し、太陽電池素子が酢酸によって腐食するようなことはなく、太陽電池素子は優れた発電性能を長期間に亘って維持することができる。
【0039】
そして、太陽電池用封止シートは、有機過酸化物を含有しており太陽電池モジュールの製造時に加えられる熱によって有機過酸化物が分解して架橋されて耐熱性及び耐候性に優れたものとなり、よって、太陽電池用封止シートを用いた太陽電池モジュールは長期間に亘って優れた発電性能を安定的に維持することができる。
【0040】
又、太陽電池用封止シートのエチレン系共重合体を構成しているエチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーは互いに相溶性に優れていることから、太陽電池用封止シートは優れた透明性を有しており、太陽電池用封止シートを透して太陽電池素子に充分な光を入射させることができ、太陽電池用封止シートを用いて得られた太陽電池モジュールは優れた発電性能を有する。
【0041】
更に、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーは上述のように相溶性に優れていることから、両者は均一に混合され、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーの金属陽イオンはエチレン系共重合体中に均一に分散した状態となっており、よって、エチレン−酢酸ビニル共重合体に起因して発生した酢酸を金属陽イオンが確実に捕捉することができ、太陽電池素子の酢酸に起因した腐食を確実に防止することができる。
【0042】
又、太陽電池用封止シートを構成しているエチレン系共重合体は、その融点が低く110℃以下の温度で有機過酸化物を分解させることなく太陽電池用封止シートを製膜することができるので、太陽電池用封止シートの製膜安定性に優れ、太陽電池用封止シートは厚み精度に優れており、よって、太陽電池用封止シートを透して太陽電池素子に入射する光を均一化することができ、太陽電池用封止シートを用いて得られる太陽電池モジュールの均質化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
(実施例1)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル社製 商品名「エバフレックス EV250」、酢酸ビニル含有量:28重量%、メルトフローレイト:15g/10分)80重量部、エチレン−メタクリル酸共重合体のアイオノマー(三井・デュポンポリケミカル社製 商品名「ハイミラン 1702」、金属陽イオン:Zn2+、メルトフローレイト:14g/10分)20重量部、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート0.5重量部、三官能モノマーとしてトリアリルイソシアヌレート0.3重量部、酸化防止剤として2, 6−ジ−t −ブチル−4−メチルフェノール0.1重量部及び紫外線吸収剤として2−ヒドロキシ4−メトキシベンゾフェノン0.3重量部よりなる樹脂組成物を押出機に供給して110℃にて溶融混練し、押出機の先端に取り付けたTダイから100℃で押出して厚さ0.6mm、幅1250mmの太陽電池用封止シートを得た。
【0044】
(実施例2)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル社製 商品名「エバフレックス EV45LX」、酢酸ビニル含有量:46重量%、メルトフローレイト:2.5g/10分)60重量部、エチレン−メタクリル酸共重合体のアイオノマー(三井・デュポンポリケミカル社製 商品名「ハイミラン 1705」、金属陽イオン:Zn2+、メルトフローレイト:5g/10分)40重量部、ジクミルパーオキサイド0.6重量部、三官能モノマーとしてトリアリルイソシアヌレート0.3重量部、酸化防止剤として2, 6−ジ−t −ブチル−4−メチルフェノール0.1重量部及び紫外線吸収剤として2−ヒドロキシ4−メトキシベンゾフェノン0.3重量部よりなる樹脂組成物を押出機に供給して110℃にて溶融混練し、押出機の先端に取り付けたTダイから100℃で押出して厚さ0.6mm、幅1250mmの太陽電池用封止シートを得た。
【0045】
(比較例1)
エチレン−酢酸ビニル共重合体を80重量部の代わりに45重量部とし、エチレン−メタクリル酸共重合体のアイオノマーを20重量部の代わりに55重量部としたこと以外は実施例1と同様にして太陽電池用封止シートを製造しようとしたが、押出温度110℃では溶融せず、押出温度130℃、金型温度120℃で押出したところ、ゲルが発生して太陽電池用封止シートを得ることはできなかった。
【0046】
(比較例2)
エチレン−酢酸ビニル共重合体を60重量部の代わりに95重量部とし、エチレン−メタクリル酸共重合体のアイオノマーを40重量部の代わりに5重量部としたこと以外は実施例2と同様にして太陽電池用封止シートを得た。
【0047】
(比較例3)
エチレン−酢酸ビニル共重合体を60重量部の代わりに80重量部とし、エチレン−メタクリル酸共重合体のアイオノマーを40重量部の代わりに20重量部としたこと、エチレン−酢酸ビニル共重合体として、三井・デュポンポリケミカル社から商品名「エバフレックス EV560」で市販されているエチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量:14重量%、メルトフローレイト:3.5g/10分)を用いたこと以外は実施例2と同様にして太陽電池用封止シートを製造しようとしたが、押出温度110℃では溶融せず、押出温度130℃、金型温度120℃で押出したところ、ゲルが発生して太陽電池用封止シートを得ることはできなかった。
【0048】
(比較例4)
エチレン−酢酸ビニル共重合体を80重量部の代わりに60重量部とし、エチレン−メタクリル酸共重合体のアイオノマーを20重量部の代わりに40重量部としたこと、エチレン−酢酸ビニル共重合体として、酢酸ビニル含有量が55重量%で且つメルトフローレイトが15g/10分であるエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いたこと以外は実施例1と同様にして太陽電池用封止シートを得た。
【0049】
得られた太陽電池用封止シートを用いて次の要領で太陽電池モジュールを作製した。先ず、太陽電池用封止シートを二枚用意した。そして、複数個の太陽電池用シリコン半導体ウエハーをインターコネクターを用いて直列状に電気的に接続して太陽電池素子を作製し、この太陽電池素子を二枚の太陽電池用封止シート間に配設した。
【0050】
次に、上記二枚の太陽電池用封止シートのうちの上側の太陽電池用封止シート上に透明平板ガラスを、下側の太陽電池用封止シートの下面にポリフッ化ビニル樹脂シートをそれぞれ重ね合わせて10mmHgまで減圧した後、150℃で20分間に亘って加熱して、太陽電池用封止シートを架橋させながら、太陽電池用封止シートで太陽電池素子を封止すると共に、太陽電池用封止シートを介して透明平板ガラス及びポリフッ化ビニル樹脂シートを太陽電池素子に積層一体化させて太陽電池モジュールを作製した。
【0051】
得られた太陽電池モジュールについて、1000W/m2の放射照度下で初期最大出力を測定した。しかる後、太陽電池モジュールを85℃、相対湿度85%の雰囲気下に5000時間に亘って放置して耐湿試験を行った後に、太陽電池モジュールの最大出力を1000W/m2の放射照度下で測定した。そして、下記式に基づいて出力保持率を算出し、その結果を表1に示した。なお、出力保持率が97%以上を「◎」、95%以上で且つ97%未満を「○」、95%未満を「×」とした。
出力保持率(%)=100×(耐湿試験後の最大出力)/(初期最大出力)
【0052】
又、耐湿試験後の太陽電池モジュールの外観を目視観察し、変色や気泡発生などの異常の有無を確認し、その結果を表1に示した。
【0053】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニル成分の含有量が20〜50重量%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体50〜90重量%とエチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー10〜50重量%とを含有するエチレン系共重合体及び有機過酸化物を含有することを特徴とする太陽電池用封止シート。
【請求項2】
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、カルボキシル基を亜鉛イオンで中和、架橋したものであることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用封止シート。
【請求項3】
エチレン系共重合体100重量部に対して有機過酸化物0.3〜1.5重量部を含有していることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用封止シート。

【公開番号】特開2010−59259(P2010−59259A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224292(P2008−224292)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】