説明

太陽電池用導電膜付ガラス基板

【課題】薄型の太陽電池に用いた場合に発電のバラツキが発生しにくく、封止材による封止性に優れた導電膜付ガラス基板を提供する。
【解決手段】厚さ2mm以下のガラス基板上に導電膜が成膜されてなる太陽電池用導電膜付ガラス基板であって、下記式で表されるガラス基板の反り変形量Wが0.5μm/cm以下であることを特徴とする太陽電池用導電膜付ガラス基板。
W=D/L
(D:ガラス基板の最大反り(μm)、L:ガラス基板の対角長さ(cm))

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用導電膜付ガラス基板に関する。具体的には、太陽電池に使用される電極基板として好適な導電膜付ガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池またはアモルファスシリコン太陽電池を始めとする太陽電池に対する需要がますます高まっている。これらの太陽電池は、主に家庭用発電、商業用発電などに利用されている。また、その他の太陽電池として、CIS太陽電池、CdTe太陽電池、色素増感型太陽電池、有機薄膜太陽電池などが開発されており、これらも実用化されようとしている。
【0003】
太陽電池には、電極基板として導電膜付ガラス基板が用いられる。ここで、ガラス基板としては、製造コストや汎用性の面で有利なことから、一般にソーダライムガラスが用いられている。また導電膜としては、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)などの透明導電膜が用いられる。中でもFTOは、ITOに比べ抵抗率では劣るものの、化学的および熱的に安定であり、さらに膜表面の凹凸形状による光の封じ込めや表面積の増大化による導電性向上などの効果が期待できるため、色素増感型太陽電池やアモルファスシリコン太陽電池用の電極基板として汎用されている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。
【0004】
一般に、FTO膜の作製には、成膜性が良好であり、かつ低コストであることから熱化学気相成長(熱CVD)法が用いられる。具体的には、スズおよびフッ素を含む化合物の混合ガスを、約400℃以上に熱したガラス基板上で熱分解反応させることにより成膜される。なお、熱CVD法には、板ガラス製造ラインでその熱を利用して成膜するオンラインCVD法と、一旦冷却されたガラスを所定の寸法に切断し、再加熱して成膜するオフラインCVD法がある。
【0005】
ところで、近年の携帯電子機器の普及に伴い、その電源として、従来のバッテリーに加え、太陽電池も使用されるようになってきている。太陽電池が携帯電子機器に用いられる場合、従来の屋外設置の家庭用や商業用発電に用いられる太陽電池よりも、薄型化および軽量化が求められている。特に、色素増感型太陽電池は室内光でのエネルギー変換効率が結晶シリコン太陽電池に比べ高いことから、その需要が高まっている。
【0006】
色素増感型太陽電池は、導電膜付ガラス基板と、導電膜付ガラス基板に形成された多孔質酸化物半導体層(主に酸化チタン層)からなる多孔質酸化物半導体電極と、その多孔質酸化物半導体電極に吸着されたRu色素等の色素と、ヨウ素を含むヨウ素電解液と、触媒膜と導電膜が成膜された対極基板等で構成される。ここで、導電膜付ガラス基板と対極基板の間に充填されたヨウ素電解液の漏れを防止するために、導電膜付ガラス基板と対極基板の外周縁が樹脂、鉛ガラスやビスマスホウ酸ガラスなどの低融点ガラス等の封止材で封止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−260448号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】透明導電膜の技術(改訂2版)、オーム社、153〜165頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
導電膜付ガラス基板の厚みを小さくして太陽電池の薄型化を図ろうとすると、従来の太陽電池と異なって、発電のバラツキが発生しやすく太陽電池パネル上で均一な発電状態が得られにくい。また、封止材による封止性に劣り、例えば、色素増感型太陽電池においてはヨウ素電解液の漏れ等の不具合が発生しやすいといった問題がある。
【0010】
したがって、本発明は、薄型の太陽電池に用いた場合に発電のバラツキが発生しにくく、封止材による封止性に優れた導電膜付ガラス基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は鋭意検討を行った結果、太陽電池を薄型化した際に発生する発電のバラツキは、導電膜付ガラス基板の反り変形に原因があることを突き止めた。そこで、導電膜付ガラス基板の反り変形を一定範囲に制限することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0012】
すなわち、本発明は、厚さ2mm以下のガラス基板上に導電膜が成膜されてなる太陽電池用導電膜付ガラス基板であって、下記式で表されるガラス基板の反り変形量Wが0.5μm/cm以下であることを特徴とする太陽電池用導電膜付ガラス基板に関する。
W=D/L
(D:ガラス基板の最大反り(μm)、L:ガラス基板の対角長さ(cm))
【0013】
本発明において、反り変形量Wは、導電膜付ガラス基板を定盤上に導電膜面を上面として載置した際に、定盤面を基準とした高さの最大値と最小値の差(ガラス基板の最大反り)を、ガラス基板の対角長さの2乗で除した値をいう。ガラス基板の反りは、高さ測定を行うことができる真直度測定器やレーザーを利用した反り測定器などにより測定することができる。
【0014】
ガラス基板に導電膜を成膜すると、ガラス基板と導電膜の熱膨張係数の差が原因となって、ガラス基板内部に歪みが発生し、反り変形が生じやすくなる。従来の太陽電池に用いられていた厚みが大きい導電膜付ガラス基板は、機械的強度が大きいため反り変形の問題は比較的少ないが、導電膜付ガラス基板の厚みが薄い場合、特に厚みが2mm以下となると反り変形が大きくなる。反り変形が大きくなると、太陽電池のセル作製時における成膜や印刷、封止、組み立てなどの工程に支障をきたす。
【0015】
例えば、色素増感型太陽電池は一般に2枚の導電膜付ガラス基板を一定のセルギャップを保った状態で貼り合せる構造をとるが、基板に大きな反り変形が生じていると貼り合わせが困難になり、セルギャップが一定でなくなるため、太陽電池パネル上で発電にバラツキが生じる。
【0016】
また、色素増感型太陽電池の作製工程において、その発電層となる酸化チタンペーストはスクリーン印刷法を用いて導電膜付ガラス基板に塗布されるため、導電膜付ガラス基板に大きな反り変形が発生していると塗りムラが生じやすくなる。酸化チタンペーストの塗りムラも発電バラツキの原因となる。
【0017】
また、樹脂や低融点ガラスなどの封止材はスクリーン印刷法を用い導電膜付ガラス基板に塗布される。そのため、導電膜付ガラス基板に大きな反りが発生していると、塗りムラが生じて封止性に劣る。例えば、色素増感型太陽電池においてはヨウ素電解液の漏れ等の不具合が発生しやすくなる。
【0018】
本発明の太陽電池用導電膜付ガラス基板は、ガラス基板の反り変形量Wを上記範囲に制限したことにより、以上の問題を解消し、太陽電池パネル上の発電バラツキを極力抑制し、均一な発電状態を実現するとともに、封止材による封止性に優れた導電膜付ガラス基板を提供することが可能となった。
【0019】
第二に、本発明の太陽電池用導電膜付ガラス基板は、導電膜がフッ素ドープ酸化スズからなる導電膜であることが好ましい。
【0020】
既述のように、フッ素ドープ酸化スズからなる導電膜(FTO膜)は、化学的および熱的に安定であり、さらに膜表面の凹凸形状による光の封じ込めや表面積の増大化による導電性向上などの効果が期待できるため、特に色素増感型太陽電池やアモルファスシリコン太陽電池用の電極基板として好適である。
【0021】
第三に、本発明の太陽電池用導電膜付ガラス基板は、ガラス基板の熱膨張係数が60〜85×10−7/℃であることが好ましい。
【0022】
ガラス基板の熱膨張係数を上記範囲に制限することにより、酸化チタンや集電電極、封止用低融点ガラスなどの他の部材と熱膨張係数が整合しやすくなる。その結果、熱膨張係数の不一致が原因で起こる剥がれやクラックの問題が発生しにくくなる。また、導電膜とガラス基板との間に生じる膜応力を低減し、ガラス基板の反り変形を抑制することが可能となる。
【0023】
なお、本発明においてガラス基板の熱膨張係数は、JIS R3103に準じて測定された30〜380℃の範囲における熱膨張係数をいう。
【0024】
第四に、本発明の太陽電池用導電膜付ガラス基板は、500℃、30分間の加熱処理後のガラス基板の反り変形量Wが0.5μm/cm以下であることが好ましい。
【0025】
導電膜付ガラス基板は太陽電池の作製工程において加熱処理に供される場合がある。例えば、色素増感型太陽電池の作製工程においては、酸化チタンペースト等の焼成が行われる。加熱処理後の導電膜付ガラス基板の反り変形は、加熱処理前のものより顕著になる傾向がある。本発明によれば、500℃、30分間の加熱処理後であっても、ガラス基板の反り変形量Wが上記範囲を満たすため、太陽電池パネル上の発電状態の均一性や封止材による封止性に非常に優れる。
【0026】
第五に、本発明の太陽電池用導電膜付ガラス基板は、550℃、30分間の加熱処理後のガラス基板の反り変形量Wが0.5μm/cm以下であることを特徴とする。
【0027】
第六に、本発明の太陽電池用導電膜付ガラス基板は、ガラス基板の歪点が525℃以上であることが好ましい。
【0028】
ガラス基板の歪点を上記範囲に制限することにより、ガラス基板内部に応力が発生した場合であっても、加熱処理による構造緩和が原因となって生じる反り変形を抑制することが可能となる。
【0029】
なお、本発明においてガラス基板の歪点はJIS R3103に準じて測定された値をいう。
【0030】
第七に、本発明の太陽電池用導電膜付ガラス基板は、太陽電池が色素増感型太陽電池であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】導電膜付ガラス基板が、膜応力による影響により反り変形する機構を説明するための模式図である。
【図2】ガラス基板が、徐冷後に生じる残留応力による影響により反り変形する機構を説明するための模式図である。
【図3】導電膜付ガラス基板が、加熱処理した際に発生する構造緩和による影響により反り変形する機構を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明において、ガラス基板の反り変形量Wは0.5μm/cm以下であり、0.4μm/cm以下、特に0.3μm/cm以下が好ましい。ガラス基板の反り変形量Wが0.5μm/cmを超えると、2枚の導電膜付ガラス基板を対向させて貼り合わす際にセルギャップを一定に保つのが困難となったり、酸化チタンペーストの塗りムラが生じやすくなったりして、発電バラツキの原因となる。また、同じくガラス基板上に塗布される樹脂や低融点ガラスなどの封止材についても塗りムラが生じやすくなり、封止欠陥につながるおそれがある。
【0033】
なお、例えば色素増感型太陽電池作製時において、2枚の導電膜付ガラス基板の貼り合わせは、酸化チタンペースト層の焼成工程後に行われる。したがって、本発明の導電膜付ガラス基板は当該焼成工程後の反り変形量Wが上記範囲を満たすことが好ましい。具体的には、本発明の導電膜付ガラス基板は、500℃で30分間加熱した後のガラス基板の反り変形量Wが0.5μm/cm以下であり、0.4μm/cm以下、特に0.3μm/cm以下が好ましい。
【0034】
以下、導電膜付ガラス基板の反り変形のメカニズムについて説明する。
【0035】
導電膜付ガラス基板の反り変形は、主に、(a)成膜時における導電膜とガラス基板の熱膨張差による膜応力による影響、(b)徐冷後のガラス基板中に生じる残留応力による影響、さらに(c)太陽電池作製時において、ガラス基板を加熱処理した際に発生する構造緩和による影響が関係する。
【0036】
(a)膜応力による影響
一般に、ガラス基板上に導電膜を成膜した際の膜応力は下記式(1)によって表される。
【0037】
σ=E×(α−α)×(T−T) ・・・(1)
σ:膜応力、E:導電膜のヤング率、α:ガラス基板の熱膨張係数
α:導電膜の熱膨張係数、T:成膜温度、T:室温
【0038】
ここで、導電膜のヤング率と熱膨張係数は、それぞれ成膜する導電膜に固有の値をとるため、膜応力は基板の熱膨張係数と成膜温度に依存することがわかる。例えば、FTO膜の熱膨張係数は35×10−7/℃であることが知られている(Solar Energy Materials and Cells 49 (1997) 107-112)。一方、色素増感型太陽電池に使用されるガラス基板は、一般に熱膨張係数が60〜85×10−7/℃の範囲のものが使用されるため、当該ガラス基板のほうがFTO膜より熱膨張係数が大きくなっている。そのため、FTO膜とガラス基板の界面において、FTO膜側には圧縮応力、ガラス基板側には引張応力が生じ、FTO膜を上面にしてガラス基板は凸に反り変形する(図1参照)。なお、ガラス基板の厚みが十分に厚い場合は、膜応力に対して基板の弾性が勝るため反り変形は生じない。
【0039】
(b)徐冷後のガラス基板中に生じる残留応力による影響
板ガラスの製造工程において、溶融ガラスはフロート法などにより板状に成形された後、徐冷炉にて徐冷される。通常、ガラス基板の表面部は冷却速度が速く、中心部は冷却速度が遅いため、徐冷後であっても、この冷却速度差が原因となって残留応力が僅かながら発生する傾向がある。このとき、ガラス基板の表面部には圧縮応力が働き、中心部には引張応力が働く。これらの応力は、ガラスの厚みが大きいほど、また冷却速度が大きいほど大きくなる。これは、ガラス基板の厚み方向に温度分布が生じやすいからである。
【0040】
また、成膜工程において、オンラインCVD法ではガラス基板の歪点以上の温度で成膜され、オフラインCVD法ではガラス基板を歪点近くの温度まで加熱した状態で成膜される。そのため、成膜後に十分に徐冷されなければ、既述のように、ガラス基板の表面部と中心部との間に冷却速度の違いによる残留応力が発生する。
【0041】
このように、ガラス基板の製造工程や導電膜の成膜工程には、加熱状態からの冷却工程を含む。例えば、ガラスの表裏で冷却速度が異なる場合など、応力バランスが崩れると、そり変形を助長する原因となる(図2参照)。
【0042】
また、ガラス基板に残留応力が存在する状態で、ガラス厚みを薄くするために導電膜と反対側のガラス面を研磨すると、導電膜と反対側のガラス表面の圧縮応力発生部が除去されるため、ガラス基板の厚み方向の残留応力分布に偏りが生じ、大きな反り変形が発生する。そのため、ガラス基板に導電膜を成膜した後の研磨量は、研磨前の厚みの1/2以下、好ましくは1/4以下であり、研磨を行わないことがより好ましい。
【0043】
(c)ガラス基板を加熱処理した際に発生する構造緩和による影響
既述のように、導電膜成膜後のガラス基板中には、通常、膜応力に起因する残留応力が存在する。残留応力が存在する導電膜付ガラス基板を、太陽電池の作製工程における加熱処理に供すると、ガラスの構造緩和が起こって残留応力に変化が生じる。このとき、ガラス基板は、導電膜との界面においては、既述の膜応力により引張応力が生じているため構造緩和による収縮を起こしにくくなっている。一方、導電膜と反対側の面では、膜応力の影響が殆どないため構造緩和による収縮が進みやすい。よって、ガラス基板の導電膜側に圧縮応力、反対側に引張応力が発生し、特に導電膜がFTO膜の場合、反り変形が助長されやすくなる(図3参照)。
【0044】
なお、加熱処理による構造緩和はガラスの粘度が低いほど生じやすい。ここで、ガラスの粘度は歪点に依存し、歪点が大きいほど粘度が高くなって構造緩和が生じにくくなり、結果として反り変形が発生しにくくなる。このような観点から、ガラス基板の歪点は525℃以上、特に550℃以上であることが好ましい。
【0045】
本発明において、ガラス基板の厚みは2mm以下、1.8mm以下、1.5mm以下、特に1.2mm以下が好ましい。ガラス基板の厚みが2mmよりも大きい場合、太陽電池の薄型軽量化を達成しにくい。一方、ガラス基板の厚みが小さすぎると、柔軟性(可撓性)に優れるものの、強度が低下し破損しやすくなる。したがって、ガラス基板の厚みの下限は0.05mm以上、0.1mm以上、特に0.2mm以上が好ましい。
【0046】
導電膜としては、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)などが挙げられる。
【0047】
導電膜の膜厚は0.4〜1.5μmの範囲で調整することが好ましい。導電膜の膜厚が0.4μm未満であると、十分な導電性が得られにくい。一方、導電膜の膜厚が1.5μmを超えると、膜応力が大きくなって反り変形が増大する傾向がある。また、太陽光スペクトルに対する透過率が低下し、太陽電池の発電効率が低下しやすくなる。
【0048】
導電膜の抵抗値は、好ましくは25Ω/□以下、より好ましくは15Ω/□以下である。抵抗値が25Ω/□を超えると、膜の導電性が低下し、太陽電池としての性能に劣る傾向がある。
【0049】
導電膜の平均表面粗さ(Ra)は、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上である。膜の平均表面粗さを当該範囲とすることにより、光の封じ込め効果が発揮されるとともに、膜の表面積が増大し、導電性を向上させることができる。
【0050】
例えば熱CVD法などの成膜方法によるFTO膜の原料としては、スズ源としてSnCl、CSnCl、(CHSnCl、フッ素源としてHF、CFCOOH、CHF、CCl、などを用いることができる。
【0051】
本発明において、導電膜の成膜温度は400〜650℃、400〜600℃、特に420〜570℃であることが好ましい。成膜温度が400℃未満であると、成膜速度が遅くなりすぎ、生産性に著しく劣るため現実的ではない。成膜温度が650℃を超えると、上記式(1)により膜応力が大きくなりすぎ、特にガラス基板が2mm以下と薄くなると反り変形を生じやすくなる。
【0052】
なお、ガラス基板がアルカリ金属酸化物を含むガラスからなる場合、導電膜とガラス基板の間にSiOなどのアンダーコート層を設けてもよい。このようなアンダーコート層を設けることにより、ガラスから溶出するアルカリイオンによるFTO膜の導電性低下を防止することができる。
【0053】
本発明において、ガラス基板の熱膨張係数は60〜85×10−7/℃、70〜85×10−7/℃、特に75〜85×10−7/℃であることが好ましい。ガラス基板の熱膨張係数が60×10−7/℃未満であると、酸化チタンや集電電極、封止用低融点ガラスなどの他の部材との熱膨張係数の不一致が原因となって、これらの部材の剥がれやクラックが発生しやすくなる。一方、ガラス基板の熱膨張係数が85×10−7/℃を超えると、上記式(1)により膜応力が大きくなりすぎ、特にガラス基板が2mm以下と薄くなると反り変形が生じやすくなる。
【0054】
なお、本発明の導電膜付ガラス基板を色素増感型太陽電池に適用した場合、当該色素増感型太陽電池の作製工程においては、酸化チタンペーストや集電電極の焼成、封止用低融点ガラスによる封止工程等、いずれも500〜550℃前後の加熱処理工程が存在する。例えば、酸化チタンペーストの焼成は電子伝導性の向上を目的とするものであり、酸化チタン粒子同士が互いに融着する480〜580℃で行われる。焼成温度が480℃未満では酸化チタン粒子の融着(ネッキング)が不十分となりやすい。一方、焼成温度が高くなると、酸化チタン粒子同士の融着面積が増えるため、導電パスが大きくなるが、焼成温度が580℃を超えると、酸化チタン粒子の融着が過度に進んで酸化チタン粒子の比表面積が低下したり、酸化チタン粒子がアナターゼ型からルチル型に転移する傾向があるため、エネルギー変換効率が低下しやすくなる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1〜5)
表1に記載の特性、厚みを有するガラス基板(250×250mm)上に、熱CVD法によりFTO膜を成膜した。具体的には、原料として(CHSnCl、CFCOOHを用い、これらを一旦ガス化した後、表1記載の成膜温度に加熱されたガラス基板上に吹き付けることにより成膜を行い、導電膜付ガラス基板を得た。FTO膜の膜厚は約1μmとなるよう、2〜5分の範囲で成膜時間を調整した。成膜後は20℃/分で徐冷を行った。
【0057】
得られた導電膜付ガラス基板を150×200mmに切断し、反り変形量を測定した。実施例2については、所定の厚みとなるまで導電膜形成面とは反対側の面を研磨した後、反り変形量を測定した。
【0058】
反り変形量は、徐冷後の導電膜付ガラス基板を定盤上に載置して真直度測定器(株式会社藤田製作所製)により最大反り変形量を測定し、当該最大反り変形量をガラス基板の対角長さの2乗で除することにより算出した。
【0059】
次に、導電膜付ガラス基板に対し、500℃、30分間の加熱処理を施し、徐冷後の反り変形量を測定した。このときの加熱処理のプロファイルは、10℃/分で昇温、2℃/分で降温とした。また、実施例5については、550℃、30分間の加熱処理を施したものについても測定を行った。
【0060】
また、FTO膜付きガラス基板を150×200mmに切断し、これに酸化チタンペースト(SOLARONIX社、Ti−Nanoxide D/SP)を200メッシュのスクリーンを用い、幅5mm長さ180mmでスクリーン印刷した。スクリーン印刷後の酸化チタン層を目視で確認し、ガラス基板全面に均一に印刷されているものを「○」、印刷されていない箇所あるいは明らかな塗りムラが確認された場合を「×」として評した。結果を表1に示す。
【0061】
続いて、以下のようにして封止性を評価した。
【0062】
FTO膜付きガラス基板を2等分して75×100mmの大きさに切断し、その片方のガラス基板周縁部のFTO膜面上に、ディスペンサーを用いてUV硬化樹脂を塗布した。このとき、UV硬化樹脂の吐出量を、封止後に線幅5mm、厚さ約100μmとなるように調整した。次に、このUV硬化樹脂を塗布した基板に、もう一方の基板をFTO膜面同士が向かい合うように対向させ、UV光を照射して両ガラス基板の接着を行った。目視にて接着部分を観察し、未接着の箇所がなく封止状態が良好なものを「○」、未接着の箇所が見受けられるなどの封止不良が生じているものを「×」とした。
【0063】
(比較例)
150×200×4mmの市販のFTO膜付ガラス基板(日本板硝子製)について、厚さ1.1mmになるまでFTO膜形成面とは反対側のガラス面を研磨した。研磨後のFTO膜付ガラス基板について反り変形量を測定した。
【0064】
続いて、研磨後のFTO膜付ガラス基板に対し、500℃、30分間の加熱処理を施し、徐冷後の反り変形量を測定した。このときの加熱処理のプロファイルは、10℃/分で昇温、2℃/分で降温とした。また、550℃、30分間の加熱処理を施したものについても同様に測定を行った。
【0065】
実施例と同様の方法で、FTO膜付ガラス基板上に酸化チタンペーストをスクリーン印刷し、印刷性を確認した。また、封止性についても同様に評価した。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1から明らかなように、実施例1〜5では、FTO膜付ガラス基板の反り変形量が小さく、酸化チタンペーストの印刷性および封止性ともに良好であることがわかる。一方、比較例では、ガラス基板の熱膨張係数が大きく、ガラスの歪点も低いため、加熱前の反り変形量は0.6μm/cmであり、500℃で加熱後の反り変形量は1.0μm/cm、550℃で加熱後の反り変形量は3.2μm/cmと大きかった。そのため、酸化チタンペーストの塗りムラや一部印刷されていない箇所もあり、印刷性に劣るものであった。また、封止性にも劣るものであった。
【符号の説明】
【0068】
1 ガラス基板
2 導電膜
C 圧縮応力
T 引張応力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ2mm以下のガラス基板上に導電膜が成膜されてなる太陽電池用導電膜付ガラス基板であって、下記式で表されるガラス基板の反り変形量Wが0.5μm/cm以下であることを特徴とする太陽電池用導電膜付ガラス基板。
W=D/L
(D:ガラス基板の最大反り(μm)、L:ガラス基板の対角長さ(cm))
【請求項2】
導電膜がフッ素ドープ酸化スズからなる導電膜であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用導電膜付ガラス基板。
【請求項3】
ガラス基板の熱膨張係数が60〜85×10−7/℃であることを特徴とする請求項1または2に記載の太陽電池用導電膜付ガラス基板。
【請求項4】
500℃、30分間の加熱処理後のガラス基板の反り変形量Wが0.5μm/cm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池用導電膜付ガラス基板。
【請求項5】
550℃、30分間の加熱処理後のガラス基板の反り変形量Wが0.5μm/cm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池用導電膜付ガラス基板。
【請求項6】
ガラス基板の歪点が525℃以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の太陽電池用導電膜付ガラス基板。
【請求項7】
太陽電池が色素増感型太陽電池であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の太陽電池用導電膜付ガラス基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−44426(P2011−44426A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157886(P2010−157886)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】