説明

太陽電池素子封止用材及びその製造方法

【課題】優れた透明性を有し、且つ適度な硬度を有し、加熱処理後の接着強度の低下が抑制された太陽電池素子封止用材を提供する。
【解決手段】本発明の太陽電池素子封止用材は、プロピレン系熱可塑性エラストマー、変性プロピレン系熱可塑性樹脂、水添テルペン樹脂及び核剤を含有する太陽電池素子封止用材であって、前記変性プロピレン系熱可塑性樹脂は、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂をシランカップリング剤によりグラフト変性させてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池素子封止用材及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、優れた透明性、並びに、適度な硬度を有すると共に、接着強度に優れる太陽電池素子封止用材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球環境の観点で、太陽光の活用が注目され、太陽光発電について開発が進められている。この太陽光発電では、太陽電池モジュールの発電効率が大きく向上するとともに、コストの低減も著しく、国及び地方自治体が太陽光発電システムの導入を促進していることもあって、近年、一般住宅等にも普及しつつある。しかし、より普及させるためには、更なる低コスト化とともに、発電効率がより高く、且つ長期に亘って安定した発電性能が維持される太陽電池モジュールの開発が必要とされている。
【0003】
太陽光発電では、シリコン、ガリウム−砒素、銅−インジウム−セレン等の半導体を用いてなる発電素子により、光エネルギーが電気エネルギーに変換されるが、半導体は外気と直接接触すると機能が低下するため、発電素子を封止する必要がある。この封止用材は、太陽電池の発電性能を安定化するため、十分な透明性を有するとともに、発電素子における電流のリークを十分に抑えることができる優れた電気絶縁性等を備えている必要がある。更に、太陽電池の使用時には相当な温度上昇が避けられないため、封止用材は使用時に剥離することなく、加熱後においても接着強度を維持している必要がある。
【0004】
現在、太陽電池素子の封止用材としては、透明性に優れ、且つ柔軟であるという観点で、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、「EVA」と略記する。)を主成分とする製品が用いられている(例えば、特許文献1参照。)。また、特定の物性を有する非晶性又は低結晶性のα−オレフィン系共重合体を用いた封止用材も知られている(例えば、特許文献2参照。)。更に、特定の融点を有するプロピレン系重合体と、特定の硬度等を有するオレフィン系共重合体とを含有する太陽電池封止用材が知られており、重合体には、シランカップリング剤及び水添テルペン樹脂等を配合することもできると記載されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−183385号公報
【特許文献2】特開2006−210906号公報
【特許文献3】再公表WO2007/061030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されたEVAは耐熱性が低いことから、架橋する必要があり、封止工程と並行して段階的に架橋させるため、封止に長時間を必要とし、長時間の加熱による樹脂の熱劣化が生じる場合がある。更に、EVAには吸湿性があり、封止用材に水分が含有されると起電力が低下することがある。また、特許文献2に記載された特定の物性を有する非晶性又は低結晶性のα−オレフィン系共重合体は、耐熱性に劣るという問題がある。
【0007】
更に、特許文献3に記載された太陽電池封止用材では、樹脂組成物に、シランカップリング剤及び水添テルペン樹脂等を配合することもできるという記載はあるものの、それらの種類、配合量、作用等については何ら詳述されていない。
【0008】
本発明は上記の従来の状況に鑑みてなされたものであり、優れた透明性を有し、且つ適度な硬度を有するため、成形時に冷却ロール等から剥離し易く、シボ加工等が容易であるとともに、接着強度に優れ、更に、加熱後又は温水処理後の接着強度の低下が抑制された太陽電池素子封止用材(以下、「封止用材」ということもある。)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下のとおりである。
1.プロピレン系熱可塑性エラストマー、変性プロピレン系熱可塑性樹脂、水添テルペン樹脂及び核剤を含有する太陽電池素子封止用材であって、
前記変性プロピレン系熱可塑性樹脂は、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂をシランカップリング剤によりグラフト変性させてなることを特徴とする太陽電池素子封止用材。
2.前記プロピレン系熱可塑性エラストマー、前記未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、前記水添テルペン樹脂、前記シランカップリング剤、前記核剤及び有機過酸化物から得られ、
前記シランカップリング剤の配合量は、前記プロピレン系熱可塑性エラストマー、前記未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂及び前記水添テルペン樹脂との合計を100質量部とした場合に、0.01〜10質量部であり、
前記有機過酸化物の配合量は、前記シランカップリング剤の配合量を1質量部とした場合に、0.02〜3質量部である前記1.に記載の太陽電池素子封止用材。
3.前記水添テルペン樹脂の含有量は、前記プロピレン系熱可塑性エラストマー、前記変性プロピレン系熱可塑性樹脂及び前記水添テルペン樹脂の合計を100質量%とした場合に、5〜60質量%である前記1.又は前記2.に記載の太陽電池素子封止用材。
4.前記核剤の含有量は、前記プロピレン系熱可塑性エラストマー、前記変性プロピレン系熱可塑性樹脂及び前記水添テルペン樹脂の合計を100質量部とした場合に、0.05〜0.7質量部である前記1.乃至3.のうちのいずれか1項に記載の太陽電池素子封止用材。
5.JIS K 7361−1により測定した全光線透過率が90%以上である前記1.乃至4.のうちのいずれか1項に記載の太陽電池素子封止用材。
6.前記1.乃至前記5.のいずれかに記載の太陽電池素子封止用材の製造方法であって、
プロピレン系熱可塑性エラストマー、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、水添テルペン樹脂、シランカップリング剤、有機過酸化物及び核剤を含む原料を混練する混練工程を備えることを特徴とする太陽電池素子封止用材の製造方法。
7.前記1.乃至前記5.のいずれかに記載の太陽電池素子封止用材の製造方法であって、
未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、シランカップリング剤及び有機過酸化物を混合して、変性プロピレン系熱可塑性樹脂を含む第1混合物を得る工程と、
上記第1混合物、プロピレン系熱可塑性エラストマー、水添テルペン樹脂及び核剤を混練する工程と、を備えることを特徴とする太陽電池素子封止用材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の太陽電池素子封止用材は、プロピレン系熱可塑性エラストマー、変性プロピレン系熱可塑性樹脂、水添テルペン樹脂及び核剤を含有し、変性プロピレン系熱可塑性樹脂が未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂をシランカップリング剤によりグラフト変性させてなることから、透明性に優れ、且つ適度な硬度を有し、並びに、接着強度に優れると共に、加熱処理後又は温水処理後(以下、単に「加熱処理」ともいう)の接着強度の低下抑制にも優れる。また、粘着付与剤として配合されているテルペン樹脂が水添されているため、経時による黄変等の変色も抑えられる。
また、本発明の太陽電池封止用材が、プロピレン系熱可塑性エラストマー、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、水添テルペン樹脂、シランカップリング剤、核剤及び有機過酸化物から得られた太陽電池封止用材であり、且つ、シランカップリング剤の配合量が、プロピレン系熱可塑性エラストマー、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂及び水添テルペン樹脂との合計を100質量部とした場合に、0.01〜10質量部であり、有機過酸化物の配合量が、シランカップリング剤の配合量を1質量部とした場合に、0.02〜3質量部である場合には、透明性及び接着強度に優れ、且つ適度な硬度を有し、並びに、加熱処理後の接着強度等の低下抑制にもより優れる太陽電池封止用材とすることができる。
また、JIS K 7361−1により測定した全光線透過率が90%以上である場合は、太陽電池素子の封止用材に要求される優れた透明性、光透過性を有し、実用面で好ましい封止用材とすることができる。
また、本発明の太陽電池素子封止用材の製造方法によれば、プロピレン系熱可塑性エラストマー、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、水添テルペン樹脂、シランカップリング剤、有機過酸化物及び核剤を含む原料を混練する混練工程を備えることから、透明性に優れ、且つ適度な硬度を有し、並びに、接着強度に優れると共に、加熱後の接着強度の低下抑制にも優れる太陽電池素子封止用材を効率的に製造することができる。
更に、本発明の太陽電池素子封止用材の製造方法が、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、シランカップリング剤及び有機過酸化物を混合して、変性プロピレン系熱可塑性樹脂を含む第1混合物を得る工程と、上記第1混合物、プロピレン系熱可塑性エラストマー、水添テルペン樹脂及び核剤を混練する工程とを備える場合には、シランカップリング剤由来のアルコキシシリル基を有する変性プロピレン系熱可塑性樹脂を太陽電池素子封止用材に均一に分散させることができ、透明性に優れ、且つ適度な硬度を有し、並びに、接着強度に優れると共に、加熱後の接着強度の低下抑制にも優れる太陽電池素子封止用材を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。
[1]太陽電池素子封止用材
本発明の太陽電池素子封止用材(以下、単に「封止用材」ともいう)は、プロピレン系熱可塑性エラストマー、変性プロピレン系熱可塑性樹脂、水添テルペン樹脂及び核剤を含有する太陽電池素子封止用材であって、
上記変性プロピレン系熱可塑性樹脂は、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂をシランカップリング剤によりグラフト変性させてなることを特徴とする。
尚、本明細書において、プロピレン系熱可塑性エラストマー、変性プロピレン系熱可塑性樹脂及び未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂を総称して「プロピレン系熱可塑性重合体」ともいう。また、「変性プロピレン系熱可塑性樹脂」及び「未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂」を総称して「プロピレン系樹脂」ともいう。
【0012】
上記プロピレン系熱可塑性エラストマー及び未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂は、全単量体を100モル%とした場合に、80モル%以上、特に90モル%以上のプロピレンを用いて重合、又は共重合されてなる重合体、又は共重合体である。即ち、重合体の全単量体単位を100モル%とした場合に、80モル%以上、特に90モル%以上のプロピレン単位を有する重合体、又は共重合体である。
【0013】
上記プロピレン系熱可塑性エラストマーは、プロピレンを主体として、これに他のα−オレフィン等を共重合させてなるエラストマーを用いることができる。プロピレンを除く他のα−オレフィンとしては、エチレンの他、ブテン−1、ペンテン−1、3−メチル−1−ブテン、ヘキセン−1、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、オクテン−1、デセン−1、ウンデセン−1等の炭素数4〜12のα−オレフィンが挙げられる。他のα−オレフィンとしては、エチレン及び/又はブテン−1が好ましい。他のα−オレフィンは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
プロピレン系熱可塑性エラストマーには、非共役ジエンが共重合されていてもよい。非共役ジエンとしては、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン、3,6−ジメチル−1,7−オクタジエン、4,5−ジメチル−1,7−オクタジエン、5−メチル−1,8−ノナジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、2,5−ノルボルナジエン等が挙げられる。非共役ジエンとしては、ジシクロペンタジエン及び/又は5−エチリデン−2−ノルボルネンが好ましい。非共役ジエンは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
プロピレン系熱可塑性エラストマーの製造方法は特に限定されないが、例えば、高活性チタン触媒又はメタロセン触媒等の遷移金属化合物、有機アルミニウム化合物の他、必要に応じて、電子供与体、担体等を含有する高立体規則性ポリオレフィンの製造に用いられる触媒の存在下に、プロピレンと他のα−オレフィンとを共重合させることによって製造することができる。
また、プロピレン系熱可塑性エラストマーの示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した結晶化度としては、好ましくは10%未満であり、より好ましくは5%以下である。
上記プロピレン系熱可塑性エラストマーの市販品としては、結晶性のプロピレン系重合体のナノオーダーのラメラネットワークに、非晶性のプロピレン系重合体が絡み合った構造である三井化学社製の商品名「NOTIO(ノティオ)」等が挙げられる。
【0016】
本発明の封止用材において、プロピレン系熱可塑性エラストマーの含有量は、プロピレン系熱可塑性重合体と水添テルペン樹脂との合計を100質量%としたときに、好ましくは30〜95質量%であり、より好ましくは50〜90質量%であり、更に好ましくは60〜80質量%である。プロピレン系熱可塑性エラストマーの含有量が上記範囲内であると、透明性および接着性能に優れる封止用材とすることができる。
【0017】
上記変性プロピレン系熱可塑性樹脂は、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂をシランカップリング剤によりグラフト変性させてなる樹脂である。この変性プロピレン系熱可塑性樹脂は、シランカップリング剤由来のアルコキシシリル基を有するプロピレン系熱可塑性樹脂であり、プロピレン系熱可塑性樹脂(プロピレン系(共)重合体)を幹部として、シランカップリング剤由来のアルコキシシリル基を有する構造を枝部とするグラフト共重合体(樹脂)である。
尚、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂をシランカップリング剤によりグラフト変性して得られる反応生成物には、通常、変性プロピレン系熱可塑性樹脂と共に、変性プロピレン系熱可塑性樹脂及びシランカップリング剤による副生物が含まれるが、本発明においては、発明の趣旨を損なわない限り、これらを含めて変性プロピレン系熱可塑性樹脂という。
【0018】
上記未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂としては、プロピレンを単独で重合させてなる樹脂でもよく、プロピレンと、プロピレンを除く他のα−オレフィンとの共重合樹脂であってもよい。プロピレンを除く他のα−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン等が挙げられ、エチレンが用いられることが多い。共重合樹脂である場合、用いる単量体の全量を100モル%とした場合に、80モル%以上、特に90モル%以上(100モル%であってもよい。)がプロピレンであることが好ましい。プロピレン系熱可塑性樹脂の物性も特に限定されないが、差動走査熱量計(DSC)により測定した融点が130℃を超える耐熱性の高い樹脂であることが好ましい。
【0019】
また、上記未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂が共重合樹脂である場合、この共重合樹脂はランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれであってもよい。但し、結晶化度が高く、且つ所定の融点(好ましくは130℃以上)を有する共重合体とするためには、ランダム共重合体であるときは、用いる単量体の全量を100モル%とした場合に、プロピレンを除く他のα−オレフィンは、15モル%以下、特に10モル%以下であることが好ましい。ランダム共重合体は、例えば、上記のエラストマーの場合と同様の方法によって製造することができる。また、ブロック共重合体は、例えば、チーグラー・ナッタ触媒を用いたリビング重合法により製造することができる。更に、ランダム共重合体(共重合樹脂)としては、メタロセン触媒によるポリプロピレン等を用いることができる。
また、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂の示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した結晶化度としては、好ましくは10%以上であり、より好ましくは30%以上である。
上記未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂の市販品としては、日本ポリプロピレン社製の商品名「ウィンテック(WINTEC)」及び「ウェルネックス(WELNEX)」等が挙げられる。
【0020】
上記シランカップリング剤は、上記未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂のグラフト化に用いられる。このシランカップリング剤は特に限定されず、各種のシランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤としては、例えば、アルコキシシリル基とアルコキシシリル基以外の反応性官能基とを有する有機ケイ素化合物が挙げられる。上記反応性官能基としては、(メタ)アクリロキシ基、ビニル基、グリシジル基(エポキシ基)及びアミノ基等が挙げられる。尚、「(メタ)アクリロキシ」とは、アクリロキシ又はメタクリロキシを意味する。
具体的には、(メタ)アクリロキシ基を有するシランカップリング剤としては、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアクリル系シランカップリング剤が挙げられる。
ビニル基を有するシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤が挙げられる。
グリシジル基を有するシランカップリング剤としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ系シランカップリング剤が挙げられる。
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、(4)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミン系シランカップリング剤などが挙げられる。
これらのシランカップリング剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
上記のシランカップリング剤のうち、アクリル系シランカップリング剤及びビニル系シランカップリング剤のうちの少なくとも一方を用いることが好ましく、アクリル系シランカップリング剤がより好ましい。更に、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン及び3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアクリロキシ基を有するアクリル系シランカップリング剤が特に好ましい。アクリロキシ基を有するアクリル系シランカップリング剤は、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂との反応性に優れ、得られる太陽電池素子封止用材の接着性を向上させることができる。
【0022】
未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂にシリコンカップリング剤によりグラフト変性させる場合、有機過酸化物を用いることができる。有機過酸化物を用いることにより、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂とシランカップリング剤とからグラフト化された変性プロピレン系熱可塑性樹脂を効率的に得ることができる。
【0023】
上記「有機過酸化物」としては、ジクミルパーオキサイド(例えば、日本油脂株式会社製、商品名「パークミルD」)、2,5−ジメチル−2,5−ビス−tert−ブチルパーオキシへキサン、1,3−ビス−tert−ブチルパーオキシ−イソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−tert−ブチルパーオキシヘキサン(例えば、日本油脂株式会社製、商品名「パーヘキサ25B」)、n−ブチル−4,4−ビス−tert−ブチルパーオキシバレレート(例えば、日本油脂株式会社製、商品名「パーヘキサV」)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
上記シランカップリング剤の使用量は、プロピレン系熱可塑性エラストマー、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂及び水添テルペン樹脂との合計を100質量部とした場合に、好ましくは0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.05〜5質量部であり、更に好ましくは0.1〜1質量部である。シランカップリング剤の使用が上記範囲内であると、変性プロピレン系熱可塑性樹脂を効率的に得ることができる。
【0025】
上記有機過酸化物の使用量は、シランカップリング剤の使用量1質量部に対して、好ましくは0.02〜3質量部であり、より好ましくは0.025〜2質量部であり、更に好ましくは0.035〜1.5質量部である。有機過酸化物の使用が上記範囲内であると、変性加熱処理後の接着強度を十分に有する封止用材とすることができる。
【0026】
本発明の封止用材において、変性プロピレン系熱可塑性樹脂の含有量は、プロピレン系熱可塑性重合体と水添テルペン樹脂との合計を100質量%としたときに、好ましくは1〜50質量%であり、より好ましくは3〜30質量%であり、更に好ましくは5〜25質量%である。変性プロピレン系熱可塑性樹脂の含有量が上記範囲内であると、透明性に優れ、且つ適度な硬度を有し、並びに、接着強度に優れると共に、加熱後の接着強度の低下抑制にも優れる太陽電池素子封止用材とすることができる。
【0027】
尚、本発明の封止用材は、変性プロピレン系熱可塑性樹脂に加えて、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂を含有することもできる。未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂を含有する場合、その含有量は、プロピレン系熱可塑性重合体と水添テルペン樹脂との合計を100質量%としたときに、プロピレン系樹脂の全量として、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは12質量%以上とすることができる。また、上限値としては、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、更に好ましくは25質量%以下である。
【0028】
封止用材において、一般的に、プロピレン系樹脂を含有させることにより封止用材の硬度を大きくすることができる。しかしながら、プロピレン系樹脂のうち、未変性のプロピレン系樹脂のみを含有させると、封止用材に白濁が生じる場合があり、更に、封止用材の接着強度及びヘイズも低下する場合がある。
本発明においては、含有するプロピレン系樹脂が、グラフト変性されたプロピレン系熱可塑性樹脂を含むことから、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂を含むプロピレン系樹脂の総量を増加させた場合であっても、接着強度及びヘイズに優れる封止用材とすることができる。
【0029】
上記「水添テルペン樹脂」は、所謂、粘着付与剤であり、含有させることにより、封止用材とガラス等の保護材との接着性を向上させることができる。このテルペン樹脂は、水添されているため、経時による黄変等の変色が抑えられる封止用材とすることができる。水添テルペン樹脂の水添の程度は特に限定されないが、水添の程度が高いテルペン樹脂が好ましい。この水添の程度は、JIS K 2605により測定される臭素価を指標として表すことができ、水添の程度が高いと、経時による黄変等の変色がより十分に抑えられ、優れた発電性能が長期に亘って維持されるため、水添テルペン樹脂としては、完全水添型が好ましく、臭素価が30g/100g以下、特に10g/100g以下の水添テルペン樹脂を用いることが好ましい。
【0030】
水添テルペン樹脂としては、「変性されていない水添テルペン樹脂」と、「芳香族変性水添テルペン樹脂」とが挙げられる。本発明においては、水添テルペン樹脂は、少なくとも変性されていない水添テルペン樹脂を含有することが好ましく、水添テルペン樹脂としては、変性されていない水添テルペン樹脂を全量としてもよく、一部に含んでいてもよい。
【0031】
上記の変性されていない水添テルペン樹脂としては、単量体としてテルペン化合物のみを用いてなる樹脂が好ましい。
また、上記の芳香族変性水添テルペン樹脂としては、テルペン化合物と芳香族化合物とをフリーデルクラフツ触媒の存在下にカチオン重合してなる重合体であり、テルペン化合物としては、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、リモネン等が用いられ、芳香族化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン、2−フェニル−2−ブテン等が使用される。芳香族変性水添テルペン樹脂の変性度は特に限定されず、テルペン化合物と芳香族化合物との合計を100モル%とした場合に、芳香族化合物の割合が50モル%未満である市販の変性品を用いることができる。
【0032】
水添テルペン樹脂が、変性されていない水添テルペン樹脂と芳香族変性水添テルペン樹脂との混合物である場合、芳香族変性水添テルペン樹脂の含有量は、変性されていない水添テルペン樹脂と芳香族変性水添テルペン樹脂との合計を100質量%とした場合に、好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下であり、更に好ましくは50質量%以下である。この芳香族変性水添テルペン樹脂の含有量が上記範囲内であると、よりヘイズが小さく透明性に優れ、且つ加熱後の接着強度の低下がより抑制された封止用材とすることができる。
【0033】
また、水添テルペン樹脂には、芳香族変性水添テルペン樹脂を除く他の変性品が含有されていてもよいが、水添テルペン樹脂の全量を100質量%とした場合に、変性されていない水添テルペン樹脂と芳香族変性水添テルペン樹脂との合計が90質量%以上(100質量%であってもよい。)であることが好ましい。
【0034】
尚、太陽電池素子封止用材はシート状に成形して用いられるが、このシートを素子に圧着させるときに十分に脱気され、気泡が残らないようにするため、一面にシボ加工をすることができる。この成形の際に粘着付与剤としてより柔軟な水添石油樹脂等を用いた場合には、成形ロール等から剥離し難く、冷風によって急冷すれば成形可能ではあるが、シボ転写ができないことがある。そのため、粘着付与剤として、柔軟性は少し低いものの、成形し易い水添テルペン樹脂を用いるが、シボ加工をより容易にするためには、より硬い樹脂を用いることが好ましい。具体的には、JIS K 2207により測定した水添テルペン樹脂の軟化点としては、好ましくは80℃以上であり、より好ましくは100℃以上であり、通常、160℃以下である。
軟化点が高い水添テルペン樹脂を用いることによって、成形性に優れる封止用材とすることができる。
【0035】
水添テルペン樹脂の含有量としては、プロピレン系熱可塑性重合体と水添テルペン樹脂との合計を100質量%とした場合に、好ましくは5〜60質量%であり、より好ましくは10〜50質量%であり、更に好ましくは15〜40質量%である。水添テルペン樹脂の含有量が上記範囲であると、よりヘイズが小さく透明性に優れ、加熱後の接着強度の低下が抑制された封止用材とすることができる。
【0036】
上記「核剤」としては、有機化合物からなる核剤及び有機基を有する核剤のうちの少なくとも一方が用いられる。この核剤は、プロピレン系熱可塑性重合体の結晶化を促進するために用いられるが、重合体との相溶性を向上させ、封止用材の白濁を抑えるため、有機化合物からなる核剤及び/又は有機基を有する核剤が使用される。有機化合物からなる核剤としては、ソルビトール系化合物からなる核剤が多用され、例えば、ジベンジリデンソルビトール、ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール等が挙げられる。また、有機基を有する核剤としては、有機リン酸金属塩、安息香酸金属塩、ロジン酸金属塩等を用いることができ、例えば、リン酸ビス(4−t−ブチル−フェニル)ナトリウム、メチレンビス(2,4−ジ−t−ブチル−フェニル)ホスフェートナトリウム塩、ヒドロキシ−ジ(t−ブチル安息香酸)アルミニウム、ロジン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。
【0037】
核剤としては、白濁が十分に抑えられ、且つ優れた温水浸漬後接着強度を有する封止用材とすることができる有機化合物からなるソルビトール系の核剤が好ましい。更に、核剤の含有量は、プロピレン系熱可塑性重合体と水添テルペン樹脂との合計を100質量部とした場合に、好ましくは0.05〜0.7質量部であり、透明性の観点では、0.05〜0.65質量部であることがより好ましく、加熱後の接着強度の低下抑制の観点では、0.1〜0.7質量部であることが更に好ましい。また、核剤の含有量が上記範囲内であると、透明性、加熱後の接着強度の低下が抑制された封止用材とすることができる。
【0038】
また、本発明の太陽電池素子封止用材には、上記の必須成分であるプロピレン系熱可塑性重合体、水添テルペン樹脂、シランカップリング剤及び核剤の他に、必要に応じて各種の添加剤等を含有させることができる。例えば、ヒンダードフェノール系及びホスファイト系等の酸化防止剤、ベンゾエート系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系及びサリチル酸エステル系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系等の光安定剤、光拡散剤、有機又は無機難燃剤及び変色防止剤などを含有させることができる。
尚、封止用材を100質量%とした場合に、上記の必須成分は95質量%以上、特に97質量%以上であることが好ましい。
【0039】
本発明の太陽電池素子封止用材は、透明性及びガラス等の保護材との接着性、加熱処理(特に温水浸漬)後の接着性等に優れることを特徴としている。更に、透明性にも優れており、JIS K 7361−1により測定した全光線透過率が90%以上、更に91%以上とすることができる。また、JIS K 7136により測定したヘイズ(HAZE)は、15%以下、更に13%以下、特に8%以下とすることができる。また、硬度も特に限定されないが、JIS K6253に従って測定したA硬度としては、70以上、更に75以上、特に80以上とすることができる。また、接着性も特に限定されないが、加熱後接着強度が50〜300N、特に100〜300Nであり、温水処理(温水浸漬)後の接着強度が35〜250N、特に50〜250N、更に100〜250Nであって優れている(加熱後接着強度及び温水浸漬後接着強度の各々の測定方法は、実施例において記載したとおりである。)。これにより、優れた発電特性が長期に亘って維持される太陽電池素子モジュールとすることができる。
【0040】
また、本発明の太陽電池素子封止用材を用いて、太陽電池素子を封止し、且つ保護材の間に介装させることにより太陽電池モジュールを製造することができる。このような太陽電池モジュールとしては、種々の形態がある。例えば、(1)太陽光が入射する側の透明な保護材/封止用材/太陽電池素子/封止用材/他方の保護材のように、太陽電池素子を封止用材で挟持し、密封する形態、(2)他方の保護材の内面に形成した太陽電池素子の表面に封止用材を密着させ、その表面に透明な保護材を配置した形態、及び(3)透明な保護材の一面に形成した太陽電池素子、例えばフッ素樹脂系の透明な保護材の一面にスパッタリング等により形成したアモルファス太陽電池素子、の表面に封止用材を密着させ、その表面に他方の保護材を配置した形態などが挙げられる。
【0041】
太陽電池素子としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン及びアモルファスシリコン等のシリコン系、並びにガリウム−砒素、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル等のIII−V族及びII−VI族元素の化合物からなる半導体などの各種の素子を特に限定されることなく、用いることができる。
【0042】
太陽電池モジュールを構成する透明な保護材としては、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素含有樹脂等を用いてなる保護材を使用することができる。また、他方の保護材としては、金属等の無機材料及び各種の熱可塑性樹脂フィルム等の単層又は多層のシートなどが挙げられ、例えば、錫、アルミニウム及びステンレス鋼等の金属、ガラス等の金属以外の無機材料、ポリエステル樹脂、無機物を蒸着したポリエステル樹脂、ポリビニリデンフルオライド樹脂等のフッ素含有樹脂などを用いた1層又は多層の保護材を用いることができる。これらの保護材には、封止用材との接着性をより高めるために、プライマー処理が施されていてもよい。
【0043】
本発明の太陽電池素子封止用材は、通常、0.1〜1mm、特に0.15〜0.75mm程度の厚さのシートの形態で用いられる。このシートは、T−ダイ成形法、カレンダー成形法等の一般的な樹脂の成形方法によって製造することができる。例えば、水添テルペン樹脂、シランカップリング剤及び核剤が配合された樹脂成分に、必要に応じて配合される酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を予めドライブレンドし、その後、成形機のホッパーから供給し、シート状に成形することができる。
【0044】
[2]太陽電池素子封止用材の製造方法
本発明の太陽電池素子封止用材の製造方法は、プロピレン系熱可塑性エラストマー、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、水添テルペン樹脂、シランカップリング剤、有機過酸化物及び核剤を含む原料を混練する混練工程を備えることを特徴とする。
【0045】
上記混練工程は、上記原料を混練して、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、シランカップリング剤及び有機過酸化物から変性プロピレン系熱可塑性樹脂を形成させて、変性プロピレン系熱可塑性樹脂と、プロピレン系熱可塑性エラストマーと、水添テルペン樹脂と、核剤とを含有する太陽電池素子封止用材を得る工程である。
この混練工程における混練方法は特に限定されない。上記混練工程に用いる装置等としては、例えば、押出機(一軸スクリュー押出機及び二軸混練押出機等)、ニーダー及びミキサー(高速流動式ミキサー、バドルミキサー、リボンミキサー等)等の混練装置を用いて混練を行うことができる。これらの装置は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、2種以上を用いる場合には連続的に運転してもよく、回分的に(バッチ式で)運転してもよい。更に、上記原料は一括して混練してもよく、いずれか一方を複数回に分けて添加投入して分割混練してもよい。また、上記混練工程では、上記原料は一括して混練してもよく、いずれか一方を複数回に分けて添加投入して分割混練してもよい。
【0046】
混練工程における混練条件は特に限定されず、プロピレン系熱可塑性重合体の種類により適宜の条件とすればよいが、例えば、混練開始温度は、150℃以上(より好ましくは180〜230℃、通常250℃以下)とすることが好ましい。また、混練時間としては、シランカップリング剤及び有機過酸化物から、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂がシランカップリング剤によりグラフト変性させてなる変性プロピレン系熱可塑性樹脂が形成され、且つ、各成分が均一に分散される時間であればよく、原料成分及び混練条件により適宜選択させる。具体的には、好ましくは1分以上であり、より好ましくは3〜20分である。
【0047】
また、上記混練工程に代えて、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、シランカップリング剤及び有機過酸化物を混合して、予めマスターバッチ(第1混合物)を調製し、得られたマスターバッチと、プロピレン系熱可塑性エラストマー、水添テルペン樹脂及び核剤を含む原料とを混練する工程とすることができる。即ち、本発明の太陽電池素子封止用材の製造方法としては、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、シランカップリング剤及び有機過酸化物を混合して、変性プロピレン系熱可塑性樹脂を含む第1混合物を得る工程(以下、「第1工程」ともいう。)と、上記第1混合物、プロピレン系熱可塑性エラストマー、水添テルペン樹脂及び核剤を混練する工程(以下、「第2工程」ともいう。)と、を備える工程とすることができる。
【0048】
上記第1工程は、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、シランカップリング剤及び有機過酸化物から、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂がシランカップリング剤によりグラフト変性させてなる変性プロピレン系熱可塑性樹脂を含む第1混合物(マスターバッチ)を得る工程である。
この第1工程における混合方法は特に限定されない。例えば、ニーダー及びミキサー(高速流動式ミキサー、バドルミキサー、リボンミキサー等)等の混合装置を用いて混合を行うことができる。
【0049】
第1工程における混合条件は特に限定されず、未変性のプロピレン系熱可塑性重合体、シランカップリング剤及び有機過酸化物の種類等により適宜の条件とすればよい。例えば、常温(15〜30℃)において上記材料をドライブレンドした後、加熱して上記混合装置を用いて混合される。混合温度としては、150〜250℃とすることができ、より好ましくは160℃〜240℃である。
また、混合時間としては、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、シランカップリング剤及び有機過酸化物から、グラフト化された変性プロピレン系熱可塑性樹脂が形成できる時間であればよく、好ましくは1〜15分であり、より好ましくは3〜10分である。
【0050】
上記第2工程は、上記の第1工程で得られた第1混合物と、プロピレン系熱可塑性エラストマー、水添テルペン樹脂及び核剤を含む原料と、を混練して太陽電池素子封止用材を得る工程である。この第2工程における混練装置及び混練条件等は、上記混練工程で用いる装置及び混練条件等と同様である。
【0051】
本発明の太陽電池素子封止用材の製造方法においては、上記の第1工程と第2工程とを備える製造方法が好ましい。第1工程と第2工程とを備える製造方法である場合、第1工程で変性プロピレン系熱可塑性樹脂が効率よく得られることから、シランカップリング剤及び有機過酸化物の使用量を少なくすることができる。更に、予め変性プロピレン系熱可塑性樹脂を形成させることで、グラフト変性された変性プロピレン系熱可塑性樹脂(アルコキシシリル基を有するシランカップリング剤由来の構造を備えるプロピレン系熱可塑性樹脂)が全体に均一に分散されることにより、適度な硬度を有すると共に、ヘイズ値及び加熱後の加熱後の接着強度に優れる封止用材を得ることができる。
【0052】
また、本発明の製造方法において、第1工程と第2工程とを備える場合、第2工程では、第1混合物、プロピレン系熱可塑性エラストマー、水添テルペン樹脂及び核剤に加えて、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂も用いることができる。
本発明の封止用材においては、含有される全てのプロピレン系樹脂を第1工程で、グラフト変性させる必要はない。グラフト変性された変性プロピレン系熱可塑性樹脂を第2工程で混合させることにより、変性プロピレン系熱可塑性樹脂を全体に均一に分散させる。それにより、プロピレン系樹脂の含有量を増加させることができる一方で、ヘイズ値及び加熱後の加熱後の接着強度に優れる封止用材を得ることができる。
【0053】
また、上記混練工程及び第2工程において、原料成分及びその他の添加剤を、押出成形機及びバンバリーミキサ等の各種の混練装置などを用いて混練して混合し、次いで、その混合物を成形機のホッパーから供給し、又は混合物をペレット化し、このペレットを成形機のホッパーから供給し、シート状に成形することもできる。更に、上記のように、保護材に圧着させるときに十分に脱気されるように、シートの一面にはシボ加工をすることができるが、このシボ加工は、シート成形時に、シートをシボ加工面を有する成形ロールに圧着させて行ってもよく、成形後、紙管等に捲回し、保管しておいたシートを再加熱し、シボ加工面を有する成形ロールに圧着させて行ってもよい。
【0054】
本発明の太陽電池素子封止用材を用いて太陽電池モジュールを製造する場合、予めシート状に成形された封止用材を、溶融可能な温度域で太陽電池素子に圧着し、密着させるという通常の方法によって、上記の構成を備えるモジュールを製造することができる。また、この封止用材では、有機過酸化物等の架橋剤による架橋工程を必要としないため、封止用材を高温で容易に成形することができ、且つモジュールの製造も貼合と架橋との2段階の工程を必要とせず、高温域において短時間で製造することができる。更に、樹脂成分等を、太陽電池素子及び/又は保護材の表面に直接押出コーティングして封止用材を形成することもでき、この場合、予めシート状に成形した封止用材を準備する必要もなく、工程をより簡略化することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。ここで、「部」及び「%」は、特記しない限り質量基準である。
【0056】
1.太陽電池素子封止用材の作製
[実施例1]
(1)マスターバッチ(アルコキシシリル基を有するプロピレン系熱可塑性樹脂)の調製
未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂5部、アクリル系のシランカップリング剤0.1部、及び、有機過酸化物としてパーオキサイド0.075部を室温(20℃〜25℃)で、ドライブレンドしてプレ混合物を得た。得られたプレ混合物を押出成形機により200℃で5分間混練した後、押し出して、変性プロピレン系熱可塑性樹脂を含む第1混合物(マスターバッチ)5.175部を得た。
【0057】
(2)太陽電池素子封止用材の作製
上記により得られた第1混合物5.175部、プロピレン系熱可塑性エラストマー65部、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂15部、水添テルペン樹脂として非変性水添テルペン樹脂15部及び核剤0.4部を、コーンブレンダーにより室温(20℃〜25℃)でドライブレンドした。その後、得られた混合物を押出成形機により混練し、200℃で押し出して厚さ0.7mmのシート状に成形し、太陽電池素子封止用材を作製した。
尚、第1混合物及び太陽電池素子封止用材の作製において、プロピレン系熱可塑性エラストマー、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂及び水添テルペン樹脂の合計を100%とした。また、シランカップリング剤及び核剤は、プロピレン系熱可塑性エラストマー、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂及び水添テルペン樹脂の合計を100部としたときの配合量である。この配合量に関して、以下の実施例及び比較例においても同様である。
【0058】
[実施例2〜10]
未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、アクリル系のシランカップリング剤及びパーオキサイドを、表1の括弧()内に記載の配合量となるようにして、実施例1と同様に変性プロピレン系熱可塑性樹脂を含む第1混合物を調製した。
そして、得られた第1混合物、プロピレン系熱可塑性エラストマー、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、水添テルペン樹脂として非変性水添テルペン樹脂及び核剤を、表1に記載された配合量となるようにして、実施例1と同様に厚さ0.7mmのシート状の太陽電池素子封止用材を作製した。
【0059】
[実施例11及び12]
未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、アクリル系のシランカップリング剤及びパーオキサイドを、表1の括弧()内に記載の配合量となるようにして、実施例1と同様に変性プロピレン系熱可塑性樹脂を含む第1混合物を調製した。尚、実施例11及び12では、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂の全てを用いて第1混合物を調製した。
そして、得られた第1混合物、プロピレン系熱可塑性エラストマー、水添テルペン樹脂として非変性水添テルペン樹脂及び核剤を、表2に記載された配合量となるようにして、実施例1と同様に厚さ0.7mmのシート状の太陽電池素子封止用材を作製した。
【0060】
[実施例13〜25及び比較例1〜3]
プロピレン系熱可塑性エラストマー、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、水添テルペン樹脂、シランカップリング剤及び核剤を、表2及び表3に記載の配合量となるように、コーンブレンダーにより室温(20〜25℃)でドライブレンドした。その後、混合物を押出成形機により混練し、200℃で押し出して厚さ0.7mmのシート状に成形し、太陽電池素子封止用材を作製した。
【0061】
2.実施例及び比較例で使用した原料の各々の成分の詳細は下記のとおりである。
(1)プロピレン系重合体(表1〜3では「PP系重合体」と表記する。)
(a)プロピレン系熱可塑性エラストマー:三井化学社製、商品名「NOTIO PN−0040」(表1〜3では「PP系エラストマー」と表記する。)、メルトフローレート;4g/10分、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した測定された結晶化度;1.9%。
(b)未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂:日本ポリプロピレン社製、商品名「ウィンテック WEG7T」(表1〜3では「PP系樹脂」と表記する。)、プロピレンを単独で重合させてなる樹脂、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定された結晶化度;37.0%、DSCにより測定した融点;153℃。
【0062】
(2)水添テルペン樹脂
(a)非変性水添テルペン樹脂:ヤスハラケミカル社製、商品名「クリアロン P150」(表1〜3では「非変性品」と表記する。)、臭素化;10g/100g、JIS K 2207により測定した水添テルペン樹脂の軟化点;150℃。
(b)芳香族変性水添テルペン樹脂:ヤスハラケミカル社製、商品名「クリアロン M115」(表1〜5では「芳香族変性品」と表記する。)、臭素化;10g/100g、JIS K 2207により測定した水添テルペン樹脂の軟化点:115℃。
【0063】
(3)シランカップリング剤
(a)アクリル系シランカップリング剤:信越化学社製、商品名「KBM5103」(表1〜3では「アクリル系」と表記する。)、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン。
(b)ビニル系シランカップリング剤:信越化学社製、商品名「KBM1003」(表1〜3では「ビニル系」と表記する。)、ビニルトリメトキシシラン。
(c)エポキシ系シランカップリング剤:信越化学社製、商品名「KBM303」(表1〜3では「エポキシ系」と表記する。)、β−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン。
【0064】
(4)パーオキサイド:日本油脂社製、商品名「パーヘキサ25B−40」、2,5−ジメチル−2,5−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン。
(5)核剤:新日本理化社製、商品名「ゲルオールD」、ジベンジリデンソルビトール。
(6)尚、上記の他、全ての実施例、比較例において、光安定剤(ヒンダートアミン系、ADEKA社製、商品名「アデカスタブ LA-502」)を0.1部、及び紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、BASF社製、商品名「CHIMASSOR-81」)を0.1部配合した。また、表1〜3において、第1混合物からなるマスターバッチを「MB」と表記する。
【0065】
3.物性の測定方法及び評価方法
各種物性の測定方法及び各種評価項目の評価方法を以下に示す。また、その結果を表1〜3に併記する。
(1)全光線透過率;加熱プレスを用いて、上記実施例及び上記比較例で作製したシート状物(以下、単に「上記のシート」という)を、温度180℃、圧力30MPaで5分加熱、加圧して、100mm角、厚さ0.5mmのシートを成形し、このシートを試験片として、150mmφの大型積分球を備える分光光度計(日本分光社製、型式「V−650」)により、JIS K 7361−1:1997に従って測定した。
(2)ヘイズ(HAZE);上記のシートを試験片とし、上記の分光光度計により、JIS K 7136:2000に従って測定した。
(3)A硬度;上記のシートを試験片として、JIS K6253に従って測定した。
【0066】
(4)接着強度
(a)加熱後接着強度
上記のシートを、予め脱脂したガラス板上に配置して、弾性ゴム状シート(ダイヤフラム)で上下2相に分割された金属製容器の下相に収容し、真空ポンプによる減圧下(−100kPa)で、上下2相の空気を抜きながら、180℃で8分間加熱した。その後、180℃で加熱したまま、上相のみを開放して大気圧に戻し、弾性ゴム状シートで、上記シート全面をガラス板に8分間圧着させて、試験体を作製した。次いで、試験体を容器から取り出し、室温(20〜25℃)にまで降温させ、シート部(圧着された上記シート)を長さ100mm、幅25mmにカットし、引張試験機(島津製作所製、型式「オートグラフ AGS−500B」)により、ガラス板を固定した状態で、試験片を100mm/分の剥離速度で180°剥離させ、最大接着強度を求めた。
(b)温水浸漬後接着強度
上記のようにして作製した試験体を、容器中の80℃の温水に3時間浸漬し、その後、試験体を容器から取り出し、室温(20〜25℃)にまで降温させ、シート部(圧着された上記シート)を長さ100mm、幅25mmにカットし、上記(a)に記載の引張試験機により、ガラス板を固定した状態で、試験片を100mm/分の剥離速度で180°剥離させ、最大接着強度を求めた。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
表1〜表3の結果から、変性プロピレン系熱可塑性樹脂を含有する実施例1〜25では、光学特性、硬度及び接着強度のバランスに優れることが分かる。また、表1によれば、マスターバッチを作製した後、混練されて得られた実施例1〜12では、ヘイズ値、硬度及び加熱後の接着強度のいずれも優れていることが分かる。更に、実施例1〜4、6〜8、11、12では、ヘイズ値は6.7以下、硬度は83以上、加熱後の接着強度は228以上、並びに温水浸漬後の接着強度は141以上であり、優れた物性の封止用材であることが分かる。一方、実施例5では、カップリング剤と有機過酸化物の添加量が少なかったことから、若干、光学特性及び接着強度が低い値となった。
また、実施例1に対して水添テルペン樹脂の添加量を増加した実施例9では、ヘイズ値、加熱後並びに温水浸漬後の接着強度について優れているが、硬度が低下した。
また、実施例1に対して核剤の添加量を増加した実施例10では、硬度、加熱後並びに温水浸漬後の接着強度について優れているが、ヘイズ値が若干上昇した。
【0071】
また、表3における比較例1〜3によれば、実施例と同様にシランカップリング剤等は含有されるが、有機過酸化物を原料に用いないことから、変性されたプロピレン系熱可塑性樹脂を含まない封止用材であり、ヘイズ値及び加熱後の接着強度等が劣ることが分かる
一方、原料に有機過酸化物を用いて、一括混練されて得られた実施例13〜25では、比較例に比べて、光学特性に優れる共に、物性全体のバランスに優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の太陽電池素子封止用材は、粘着性の低下が抑えられ、接着強度、特に温水浸漬後の接着強度が大きく、且つ適度な硬度を有するため、シボ加工等の成形が容易であり、太陽電池素子の種類によらず、また、太陽電池モジュールの構造によらず、素子の封止用材として幅広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系熱可塑性エラストマー、変性プロピレン系熱可塑性樹脂、水添テルペン樹脂及び核剤を含有する太陽電池素子封止用材であって、
前記変性プロピレン系熱可塑性樹脂は、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂をシランカップリング剤によりグラフト変性させてなることを特徴とする太陽電池素子封止用材。
【請求項2】
前記プロピレン系熱可塑性エラストマー、前記未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、前記水添テルペン樹脂、前記シランカップリング剤、前記核剤及び有機過酸化物から得られ、
前記シランカップリング剤の配合量は、前記プロピレン系熱可塑性エラストマー、前記未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂及び前記水添テルペン樹脂との合計を100質量部とした場合に、0.01〜10質量部であり、
前記有機過酸化物の配合量は、前記シランカップリング剤の配合量を1質量部とした場合に、0.02〜3質量部である請求項1に記載の太陽電池素子封止用材。
【請求項3】
前記水添テルペン樹脂の含有量は、前記プロピレン系熱可塑性エラストマー、前記変性プロピレン系熱可塑性樹脂及び前記水添テルペン樹脂の合計を100質量%とした場合に、5〜60質量%である請求項1又は2に記載の太陽電池素子封止用材。
【請求項4】
前記核剤の含有量は、前記プロピレン系熱可塑性エラストマー、前記変性プロピレン系熱可塑性樹脂及び前記水添テルペン樹脂の合計を100質量部とした場合に、0.05〜0.7質量部である請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の太陽電池素子封止用材。
【請求項5】
JIS K 7361−1により測定した全光線透過率が90%以上である請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の太陽電池素子封止用材。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の太陽電池素子封止用材の製造方法であって、
プロピレン系熱可塑性エラストマー、未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、水添テルペン樹脂、シランカップリング剤、有機過酸化物及び核剤を含む原料を混練する混練工程を備えることを特徴とする太陽電池素子封止用材の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の太陽電池素子封止用材の製造方法であって、
未変性のプロピレン系熱可塑性樹脂、シランカップリング剤及び有機過酸化物を混合して、変性プロピレン系熱可塑性樹脂を含む第1混合物を得る工程と、
上記第1混合物、プロピレン系熱可塑性エラストマー、水添テルペン樹脂及び核剤を混練する工程と、を備えることを特徴とする太陽電池素子封止用材の製造方法。

【公開番号】特開2012−190942(P2012−190942A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52190(P2011−52190)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000127307)株式会社イノアック技術研究所 (73)
【Fターム(参考)】