説明

好気性病原体の安定化した感受性試験

本発明は、ATCC品質管理生物に関する感受性試験の決定のための培地組成物であって、栄養培地、抗生物質およびアジュバントを、感受性試験を安定化させかつ増強させるのに十分な量で含有する、培地組成物を提供する。また、上記アジュバントが、システイン、チオグリコレート、アスコルビン酸、ピルベート、およびカタラーゼの群より選択される培地組成物も提供される。また、上記アジュバントが、微生物の細胞膜に由来する、培地組成物も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、微生物学の分野に関し、特に、好気性病原体の抗生物質に対する感受性を決定するための組成物および方法に関する。本発明の組成物および方法は、感受性試験(抗生物質のテトラサイクリンファミリーの感受性試験、特に、7−置換テトラサイクリンおよび9−置換テトラサイクリンならびに最も特別にはチゲサイクリン(TGC)に関する感受性試験が挙げられる)のために特に有用である。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
抗生物質の開発の間、感受性試験(非特許文献1、非特許文献2)のための品質管理(QC)範囲が確立されていなければならず、この範囲は、患者の試験結果が有効であるか否かを決定するために、その後、臨床微生物学研究室により利用される。これらのQC範囲は決定され、次いで、米国臨床検査標準化委員会(National Committee for Clinical Laboratory Standards(NCCLS))によって推奨される選択された生物群を使用して各抗生物質に対して規定される。
【0003】
QC範囲は、M23研究と呼ばれるプロセスを通して確立され、この研究は、複数の研究室によって、異なるロットおよび異なる製造業者の培地を使用して、複数の日に試験する工程を包含する(非特許文献3)。
【0004】
チゲサイクリンは、現在臨床開発中であるグリシルサイクリン抗生物質であり、感受性の生物および多剤耐性生物に対して等しく活性を有する広域スペクトル抗生物質である(非特許文献4)。広域スペクトル抗菌剤としてのチゲサイクリンは、多くのグラム陽性およびグラム陰性の臨床的に関連する病原体(例えば、MRSA、VRE、PRSPおよびESBLを産生する腸内細菌科のような耐性病原体が挙げられる)に対して強力な活性を有する(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7および非特許文献8)。チゲサイクリンに対して試験される場合、American Type Culture Collection (ATCC)品質管理生物に関する一貫した品質管理範囲を得るための研究の間、相反するMIC(最小阻止濃度)値が得られた。
【非特許文献1】National Committee for Clinical Laboratory Standards、「Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically;Approved Standards:M7−A6」、2003年、第6版、第23巻、National Committee for Clinical Laboratory Standards、Wayne、PA.
【非特許文献2】National Committee for Clinical Laboratory Standards、「Methods for Dilution Antimicrobial Disk Susceptibility Tests;Approved Standards:M2−A8」、2003年、第8版、第20巻、National Committee for Clinical Laboratory Standards、Wayne、PA.
【非特許文献3】National Committee for Clinical Laboratory Standards、「Development of In Vitro Susceptibility Testing Criteria and Quality Control Parameters;Approved Guideline:M23−A2」、2003年、第2版、第18巻、National Committee for Clinical Laboratory Standards、Wayne、PA.
【非特許文献4】Sum,P.E.およびP.Petersen、「Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters」、1999年、第9巻、p.1459−1462
【非特許文献5】Biedenbach D.J.、M.L.Beach、およびR.N.Jones、「Diagnostic Microbiology and Infectious Disease」、2001年、第40巻、p.173−177
【非特許文献6】Cercenado,E.、S.Cercenado、J.A.Gomez、およびE.Bouza、「J.Antimicrob.Chemother.」、2003年、第52巻、p.138−139
【非特許文献7】Milatovic,D.、F.−J.Schmitz、J.VerhoefおよびA.C.Fluit、「Antimicrob.Agents Chemother.」、2003年、第47巻、p.400−404
【非特許文献8】Petersen,P.J.、N.V.Jacobus、W.J.Weiss、P.E.SumおよびR.T.Testa、「Antimicrob.Agents Chemother.」、1999年、第43巻、p.738−744
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ATCC品質管理生物に関する、安定し、一貫した感受性試験値を提供するための新規の方法および組成物の概略を述べる。
【0006】
本発明のこれらおよび他の実施形態および特徴は、以下の要旨および発明の記述および特許請求の範囲から明らかになる。
【0007】
(発明の要旨)
チゲサイクリンの開発の間、最小阻止濃度(MIC)試験のために使用されるべきQC範囲を確立するために、いくつかの研究が着手された。最初の研究において、前臨床開発に関与する年月の間、推奨されたQC生物のそれぞれに対する予備的なQC範囲が確立された。チゲサイクリンが、第2相臨床研究に対して開発されていたときに、良好に制御されたNCCLS M23研究が行なわれた。この二番目の研究(最初のM23研究)の結果は、過去5年間の前臨床実験の間に確立された範囲よりも希釈度1〜希釈度2低いQC範囲を示した。最初のM23研究後、確立されたQC範囲は、認められた。しかし、研究室の実験と臨床試験のために微生物学試験を行なう臨床微生物学研究室の実験との両方が、QCについて変動を有し、チゲサイクリンは、MICが高すぎるので、範囲外であることが多かった。その後、二番目のM23研究が行なわれた。この二番目のM23研究の結果を、研究室および臨床研究室の実験で確立されたQC限界に対して比較した。これらのQC限界は、チゲサイクリンを用いて研究する研究者にとって認められた値になった。QC生物に対して試験した場合、チゲサイクリンのMICは、なお変動し、範囲外の低い値を生じたことが、特定の研究室によってさらに示された。これらの値は、最初のM23研究によって確立された、より低い範囲と一致した。
【0008】
新鮮なミュラーヒントンブロス(MHB)中で決定されたチゲサイクリンのMICと熟成したMHB中で決定されたMICとの不一致が存在することがさらに示された。マイクロブロス希釈MIC試験を、新鮮な(1週間未満)ミュラーヒントンブロス(MHB)中で行なった場合、MICの結果は、記載された最初のM23研究で見出された低い範囲と一致した。ブロス微量希釈試験においてチゲサイクリンを試験する場合、その培地は、新たに調製され、調製されてから12時間以下であり、タイタープレートが作られるときにアジュバントが存在しないことが、本発明の好ましい実施形態である。しかし、MHBが熟成した(1週間より古い)場合、MICの結果は、記載された二番目のM23研究のより高い結果と相関した。予め調製した培地(常に1週間未満)を使用する場合、変動は見られず、二番目のM23研究と類似していた。
【0009】
従って、チゲサイクリンに対して試験した場合に、ATCC品質管理生物に関する標準化した感受性試験の結果を提供する有効な手段についての必要性が、当該分野において存在する。
【0010】
本発明は、ミュラーヒントンIIブロス(MHB)培地を使用する場合のチゲサイクリンに対する標準化したMIC値を提供するための新規な方法および組成物を、当該分野に提供する。
【0011】
チゲサイクリンは、グリシルサイクリンであり、テトラサイクリンファミリー由来であり、7位および9位に置換を有する。チゲサイクリンはさらに、GAR−936と呼ばれる。
【0012】
本明細書中に記載される発明は、抗生物質に対する細菌の感受性が特徴付けられ得る新規な方法および組成物の概略を述べる。これらの方法および組成物は、抗生物質、特にテトラサイクリン抗生物質の有効性を増強する。
【0013】
抗生物質のMIC値における変動性を制御する試みにおいて、本発明者らは、驚くべきことに、そして予想外に、培地へのアジュバントの添加が、決定されたMICの標準化を可能にすることを見出した。本発明者らは、さらに、驚くべきことに、そして予想外に、培地へのアジュバントの添加が、初期のピークの形成を抑制し、決定されたMICの標準化を可能にすることを見出した。
【0014】
特に、MIC値における変動性を制御するために、本発明者らはさらに、Escherichia coli(E.coli)のような微生物の細胞膜由来のアジュバント(これは、酸素除去剤または還元剤として作用する)の添加が、決定されたMICの標準化を可能にすることを発見した。
【0015】
ATCC品質管理生物に関する感受性試験結果についての標準化された一貫した値を提供する、培地組成物を提供することが、本発明の実施形態である。
【0016】
本発明のさらなる実施形態は、テトラサイクリンに対して試験された場合に、ATCC品質管理生物に関する感受性試験結果についての標準化された一貫した値を提供する、培地組成物を提供することである。
【0017】
本発明のさらなる実施形態は、7−置換テトラサイクリンおよび9−置換テトラサイクリンに対して試験された場合に、ATCC品質管理生物に関する感受性試験結果についての標準化された一貫した値を提供する培地組成物を提供することである。
【0018】
本発明のさらなる実施形態は、チゲサイクリンに対して試験された場合に、ATCC品質管理生物に関する感受性試験結果についての標準化された一貫した値を提供する培地組成物を提供することである。
【0019】
本発明の方法および関連する組成物は、広範な局面において、テトラサイクリンに関する感受性試験結果の標準化を提供し、特に、7位に置換を有するテトラサイクリンおよび9位に置換を有するテトラサイクリン、および特にチゲサイクリンに関する感受性試験結果の標準化を提供する。
【0020】
新規なチゲサイクリン(TGC)含有組成物が発見された。本発明の組成物は、試験された場合に、ATCC品質管理生物に関する標準化された感受性試験結果を提供する。
【0021】
成分としてチゲサイクリン、培地およびアジュバントを含有する組成物が、提供される。本発明の組成物は、試験された場合にATCC品質管理生物に関する標準化された感受性試験結果を提供する。
【0022】
本発明は、微生物の感受性を決定するためのキットをさらに包含し、このキットは、培地およびアジュバントに閉じ込めて、または培地およびアジュバントに近接して、一種以上の抗生物質を備える。
【0023】
TGCに関するMICは、NCCLS手順を使用するブロス微量希釈により、種々の条件下で決定された。MHBは、2℃、室温で嫌気的に貯蔵され、Oxyrase(登録商標)を添加して種々の条件の効果を決定した。熟成した培地および新鮮な培地に対するブロス微量希釈の結果を伴なって観察されるMICの差を確認するために、タイムキルカイネティクス(Time Kill kinetics)が使用された。
【0024】
新たに調製した培地中で試験した場合、TGCは、粉末から調製した熟成した(7日間)市販の培地と比較して、参照株に対して希釈度2〜希釈度3活性であった(MICは、それぞれ0.03〜0.12μg/mlおよび0.12〜0.25μg/mlであった)。試験前に、嫌気性条件下で保存した熟成した培地は、新鮮な培地と同様に機能した(MIC 0.03〜0.12μg/ml)。Oxyrase(登録商標)の添加は、新鮮な培地と同様のMICを生じた(MIC 0.06〜0.25μg/ml)。タイムキルカイネティクスは、熟成した培地に対して新鮮な培地においてTGCを試験した場合に、生存可能な増殖において、有意な差(3log10より大きい)を実証した(図1)。
【0025】
これらおよび他の実施形態は、本明細書中で開示され、そして特許請求される発明によって提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(発明の詳細な説明)
以下の記述において、薬学分野およびインビトロ感受性試験において使用される多数の用語が使用される。本明細書および特許請求の範囲の明確かつ一貫した理解を提供するために、このような用語に与えられるべき範囲を含む、以下の定義が提供される。
【0027】
アジュバントは、医療処置の有効性を増強する物質を意味し、さらに、それ自体は抗菌活性を有しても有さなくてもよいが、十分な量で抗生物質と組み合わせられる場合には、感受性試験を安定化させかつ増強させるように作用する物質を意味する。アジュバントとしては、システイン、チオグリコレート、アスコルビン酸、ピルベートおよびカタラーゼの群より選択されるアジュバントが挙げられる。本明細書中に記載される方法および組成物はまた、安定化剤として作用する、E.coliのような微生物の細胞膜に由来するアジュバントの使用を包含する。OXYRASE(登録商標)は、Oxyrase、Mansfield、OH44901により市販されるE.coliのような微生物の細胞膜に対する商標でありさらに、本明細書中では、Oxyrase(登録商標)またはOxyrase(登録商標)酵素システムとしても知られる。Osyrase(登録商標)はまた、生体触媒酸素還元剤として公知である。さらに、酸素還元剤であり、かつ、酸素を除去する膜フラグメントを含む、E.coliのような微生物の細胞膜由来であるアジュバントは、単独で、または他のアジュバントと組合せて使用され得る。
【0028】
アジュバントの効果は、アジュバントの存在下での選択された抗生物質の効果の増加を意味する。この効果は、微生物(例えば、有効なレベルの一種以上の抗生物質の存在下でインビトロで増殖し得る、感染性因子または臨床単離株、またはそれらの存在可能な抽出物)を、アジュバントと一緒にか、またはアジュバントなしで培養することにより、示される。アジュバントの存在は、抗生物質、特に抗生物質のテトラサイクリンファミリー、特に、7置換テトラサイクリンおよび9置換テトラサイクリン、特に、チゲサイクリンの有効性を増加させる。細菌増殖は、定性的な用語または定量的な用語のいずれかで記載され得る。定性的な結果の例は、単に、肉眼で見て決定され得る増殖の有無を示す。定量的な結果の例は、当該分野で理解されるとおり、増殖の指標に対して培養の日数を比較する。増殖の指標の例としては、単純な段階的な記号(例えば、「−、+−、1+、2+、3+および4+」)ならびにBACTEC 12B培養系(Becton Dickinson、Cockeysville、Md.USA)によって作成されるような実数の指標(例えば、0〜999)が挙げられる。アジュバント効果の重要な面は、微生物の増殖特性において変化が観察されたことであり、このような変化は、本発明の感受性試験の文脈においてアジュバント効果自体を明らかにする。
【0029】
アジュバント感受性試験は、微生物の抗生物質感受性の型を確立する目的のための、インビトロアッセイにおける、テトラサイクリン抗生物質と組み合わせたアジュバントの使用を意味する。アジュバント感受性試験において、微生物(例えば、微生物の同種の集団または微生物の型/改変体/単離体などの混合物)を含むサンプルが、抗生物質、アジュバントおよび培地を含有する組成物に曝露され、この抗生物質に対するサンプル中の微生物の感受性が、そのサンプル中の微生物の生存能力に基づいて決定される。このアジュバント感受性試験は、本発明の方法の一実施形態である。このような感受性試験は、標準的な固体培地またはブロス培地において達成され得、このような培地としては、当該分野で公知のミュラーヒントン寒天もしくはミュラーヒントンブロス、または他の同等の培地が挙げられる。このような培地フォーマットは、必ず適切な抗生物質およびアジュバントを、適切に組み合わせて、本明細書中で考察される適切な濃度で補充される。感受性試験の目的は、テトラサイクリン、特に7置換テトラサイクリンおよび9置換テトラサイクリン、さらに具体的にはチゲサイクリンに対する、抗菌感受性を決定することである。
【0030】
微生物が感受性であるということは、このような臨床単離株または感染性因子が、当該分野で理解されるように不適格、非感染性または生育不能にされるような様式で、微生物が抗生物質により有害に影響を受けるということを意味する(Murray,P.R.ら編、Manual of Clinical Microbiology、ASM Press、Washington,D.C.(2003)中のYao,J.D.C.ら、pp.1039−1073)。
【0031】
「感受性がある」とは、本明細書中で使用される場合、感受性と同義語である。微生物(例えば、臨床単離株または感染性因子)が、所定の抗生物質に対して感受性であると決定される場合、その抗生物質は、このような単離体または感染性因子に対して活性を有するか、またはこれらに対して活性であるといわれる。
【0032】
感受性試験をすること、または感受性試験は、当該分野で理解されるように、一連の抗菌性化合物(特に、7置換テトラサイクリンおよび9置換テトラサイクリンを含むテトラサイクリン、特にチゲサイクリン)に対する微生物(例えば、臨床単離株または感染性因子)の感受性が決定される、インビトロアッセイを意味する(Murray,P.Rら編、Manual of Clinical Microbiology、ASM Press、Washington,D.C.(2003)中のJorgensen,J.H.ら、pp.1102−1107;Murray,P.Rら編、Manual of Clinical Microbiology、ASM Press、Washington,D.C.(2003)中のJorgensen,J.H.ら、pp.1108−1127)。(National Committee for Clinical Laboratory Standards、2003、Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically;Approved Standards:M7−A6、第6版、第23巻、National Committee for Clinical Laboratory Standards、Wayne、PA.、National Committee for Clinical Laboratory Standards、2003、Methods for Dilution Antimicrobial Disk Susceptibility Tests;Approved Standards:M2−A8、第8版、第20巻、National Committee for Clinical Laboratory Standards、Wayne、PA.)。本明細書中に記載される感受性試験の目的は、テトラサイクリン抗生物質(7置換テトラサイクリンおよび9置換テトラサイクリンおよび具体的にはチゲサイクリン)に対する抗菌感受性試験結果をより正確に決定することである。
【0033】
抗生物質とは、当該分野で理解されるように、感染性因子の生存能力、完全性、感染性または受容能に対する有害な効果を有する、当該分野で公知である任意の化合物を意味する(Murray,P.R.ら編、Manual of Clinical Microbiology、ASM Press、Washington,D.C.(2003)中のYaoら、pp.1039−1073およびMurray,P.R.ら編、Manual of Clinical Microbiology、ASM Press、Washington,D.C.(2003)中のInderlied,C.B.ら、pp.1149−1177、Kucers,A.ら、The Use of Antibiotics 第4補遺版、J.B.Lippincott Co.Philadelphia,Pa.(1987);およびLorian,V.編、Antibiotics in Laboratory Medicine 第2補遺版、Williams & Wilkins、Baltimore、Md.)。特に、重要な種類の抗生物質は、テトラサイクリン(7置換テトラサイクリンおよび9置換テトラサイクリンおよび特にチゲサイクリンを含む)である。用語「抗生物質」は、本明細書中で使用される抗菌、治療、または薬物と同義語である。全ての抗生物質は、薬物または治療剤であるが、全ての薬物もしくは治療剤が、抗生物質であるわけではない。
【0034】
抗生物質のテトラサイクリン、または、特に、テトラサイクリンファミリーは、本明細書中で使用される場合、核として、当該分野で理解されるとおりのヒドロナフタセン構造を有する抗生物質(Murray,P.R.ら編、Manual of Clinical Microbiology、ASM.Press、Washington,D.C.(2003)中のYao,J.D.C.ら、pp.1051−1052;Kucer,Aら、The Use of Antibiotics 第4補遺版、J.B.Lippincott Co.Philadelphia,Pa(1987)、pp.979−1044)、特に7置換テトラサイクリンおよび9置換テトラサイクリンならびにグリシルサイクリンを意味する。本発明の方法において有用であるテトラサイクリンの例としては、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、ジメチルクロルテトラサイクリン、デメクロサイクリン、メタサイクリン、リメサイクリン、クロモサイクリン、ドキシサイクリンおよびミノサイクリンが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の方法において有用であるグリシルサイクリンの例としては、N,N−ジメチルグリシルアミド 9−アミノミノサイクリン(DMG−ミノ)、N,N−ジメチルグリシルアミド 9−アミノ−6−デメチル−6−デオキシテトラサイクリン(DMG−DMDOT)およびチゲサイクリンが挙げられるが、これらに限定されない。上記の指定されたテトラサイクリン化合物またはグリシルサイクリン化合物のいずれかに対して相同な化学構造を有するテトラサイクリンおよびグリシルサイクリンもまた、本発明の方法において有用であることが、当然予想される。
【0035】
臨床単離株は、感染を引き起こす細菌因子の精製された株を意味し、このような臨床単離株は、このような感染性因子に感染した患者に由来する。一種以上の臨床単離株は、同一の患者に由来してもよく、または同一の単離体が、病院内での発生の間に見られるように、異なる患者に由来してもよい(Pittet,D.ら、Archives of Internal Medicine 155:1177−1184(1995))。このような臨床単離株は、代表的に、試料の処理と培養方法との組合せにより精製される。これらの臨床単離株は、生存可能であるので、感受性試験のようなインビトロアッセイにおける抗生物質に対する感受性に関してさらなる分析および試験に利用可能である。これらの臨床単離株を精製するための手順としては、当該分野で公知の方法および手順が挙げられ、特に、ミコバクテリウム属の単離のためのKent,P.T.ら、「Public Health Mycobacteriology:A Guide for the Level III Laboratory」、U.S.Department of Health and Human Service、Centers for Disease Control、Atlanta、Ga(1985)、pp31−70によって記載される方法および手順またはNocardia spp.の単離のためのMurray,P.R.ら編、Manual of Clinical Microbiology、ASM Press、Washington,D.C.(2003)中のPfyffer,G.E.ら、pp.532−559、およびMurray,P.R.ら編、Manual of Clinical Microbiology、ASM Press、Washington,D.C.(2003)中のBrown,J.M.ら、p.502−531に概略される方法および手順、コリネ型グラム陽性桿菌の単離のためのMurray,P.R.ら編、Manual of Clinical Microbiology、ASM Press、Washington,D.C.(2003)中のFunke,G.ら、pp.472−501に概略される方法および手順が挙げられる。
【0036】
感染性因子とは、当該分野で理解される感染性の微生物(特に、感染性の細菌)を意味する。本発明の方法に従う特に対象となる感染性因子としては、疾患を引き起こす因子が挙げられる(Murray,P.R.ら編、Manual of Clinical Microbiology、ASM Press、Washington,D.C.1995中のIsenberg,H.D.ら、pp5−18)。このような感染性因子によって引き起こされた疾患を有するヒト患者または動物患者は、このような因子によって引き起こされた感染を有すると言われるか、またはこのような因子に感染していると言われる。疾患を引き起こす感染性因子は、病原性であると言われる。代表的に病原性ではない細菌および患者の正常な細菌叢の一部は、共生生物であるといわれる。いくつかの環境の下、例えば、患者が免疫無防備状態である場合または免疫抑制されている場合(例えば、HIVに感染しているか、AIDS複合体を有しているか、または、器官移植を受けたあと)、このような共生微生物は、感染を引き起こし得る。患者は、一種以上の感染性因子で感染され得る。
【0037】
最小阻止濃度(MIC)とは、肉眼により検出する場合、マイクロタイターウェル中の生物の増殖を完全に阻害する抗菌因子の最低濃度である(National Committee for Clinical Laboratory Standards、2003、Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically;Approved Standards:M7−A6、第6版、第23巻、National Committee for Clinical Laboratory Standards、Wayne、PA)。
【0038】
微生物を含むサンプルを本発明の組成物に曝露することにより、微生物および組成物を混合するか、またはさもなければ微生物と組成物との間の接触を提供することが意図される。
【0039】
従って、その最も広い実施形態において、本発明は、抗菌化合物に対する微生物の感受性を特徴付けるための方法に関する。さらなる実施形態において、試験される微生物は、感染性因子または臨床単離株である。さらなる実施形態において、試験されるべき微生物は、望ましくない細菌に感染していることが疑われるか、感染の危険性があるか、または感染していると同定されている患者から取り出したサンプルから得られる。本発明の感受性試験は、本明細書中では、アジュバント感受性試験と呼ばれる。このような感受性試験の結果は、サンプル(例えば、臨床単離株または感染性因子)中に存在する研究中の微生物を、本明細書中に記載されるアジュバント効果に関して特徴づけする。すなわち、本発明のアジュバント感受性試験は、サンプル中に存在する微生物が、試験される抗生物質に対して感受性であるか否かを同定する。好ましくは、本発明のアジュバント感受性試験の結果として、抗生物質テトラサイクリン(特に7置換テトラサイクリンおよび9置換テトラサイクリン、特にチゲサイクリンを含む)に対して、サンプル中に存在する微生物が感受性であると同定される。しかし、本発明の感受性試験の結果として、アジュバントと合わせられた抗生物質(特にテトラサイクリン)に対して、サンプル中に存在する微生物は感受性ではないと同定されることも重要である。
【0040】
本発明はさらに、ATCC品質管理生物に関する感受性試験結果の安定化のための液体または固体の培地組成物に関する。培地への微生物(例えば、E.coli)の細胞膜由来のアジュバントの添加が、ATCC品質管理生物に関する感受性試験結果を安定化させるということが発見された。理論に束縛されないが、アジュバントとしての酸素還元剤を使用することは、培地の酸素含量を減少させ、特に、ATCC品質管理生物に関する感受性試験結果を安定化させる。特に、アジュバントとしての酸素還元剤の添加は、HPLCにより決定される初期ピークの形成を抑制する。
【0041】
この培地組成物は、栄養培地、アジュバントおよび選択した抗生物質を含有する。必要に応じて、このアジュバントは、酸素還元剤(Oxyrase(登録商標)が挙げられる)であり得る。さらなるアジュバントは、システイン、チオグリコレート、アスコルビン酸、ピルベートおよびカタラーゼの群より選択され、その量は、約0.0005%〜約5.0%(培地組成物の重量/体積(以下では、重量/体積という))の範囲であり、好ましくは、約0.005%(重量/体積)〜約0.5%(重量/体積)の範囲であり、最も好ましくは、約0.05%(重量/体積)である。
【0042】
酸素還元剤(特にE.coliのような微生物の細胞膜に由来する酸素還元剤)としてアジュバントを含有することは、特に7置換テトラサイクリンおよび9置換テトラサイクリンに対して試験した場合に、ATCC品質管理生物に対して決定された感受性試験結果の特徴づけを可能にすることが見出された。上記アジュバントがE.coliのような微生物の細胞膜に由来する場合、特にOxyrase(登録商標)は、約0.5%〜約10.0%(培地組成物の体積/体積(以下では、体積/体積という))の範囲であり、好ましくは、約1.0%(体積/体積)〜約4.0%(体積/体積)であり、最も好ましくは、約2.0%(体積/体積)である。
【0043】
感受性試験培地を調製するためのプロセスは、以下の工程:
a.22gの粉末化培地を1.0Lの蒸留水に添加することにより、ミュラーヒントンブロスII培地を調製する工程;
b.上記培地をオートクレーブ(121℃、15psi、15分間)し、冷却する工程;
c.約10%の最終容積までOxyrase(登録商標)を添加し、インキュベーター内で、35〜37℃で30分間維持する工程;
d.96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに約50μL添加する工程;
e.薬物を秤量し、ブロスを薬物に添加して約(標準128μg/ml)に合わせる工程;
f.50μLの上記薬物を、上記タイタープレートの第1の列に添加する工程;
g.上記プレートを横切ってまたは下方向に、2倍ずつの連続希釈により希釈する工程;
h.PromptTM接種物を10CFU/mlで調製する工程;
i.9.9mlのブロス中に10μLの接種物(1:100)にて、接種物をブロス中に1:100で希釈する工程が、10コロニー形成単位(CFU)であり、調節された接種物を形成する工程;
j.50μLの上記調節された接種物を、上記マイクロタイタープレートの上記ウェルに添加する工程;
k.上記プレートを、35〜37℃で、18〜22時間インキュベートする工程;および
l.肉眼でMICを読み取る工程
である。
【0044】
本発明に利用される栄養培地は、感受性試験に適した任意の液体調製物または固体調製物である。
【0045】
好ましくは、本明細書中に記載される栄養培地は、感受性試験(抗体のテトラサイクリンファミリーの感受性試験、特に、7置換テトラサイクリンおよび9置換テトラサイクリンおよび最も特別にはチゲサイクリンに関する感受性試験が挙げられる)に特に有用である。
【0046】
固体培地は通常、寒天またはゼラチンのような物質で凝固した(すなわち、「ゲル化した」液体培地からなる。本発明におけるATCC品質管理生物のブレイクポイントの安定化のための使用に適している一般に利用可能な培地の例としては、脳心臓輸液、ブルセラ属、CDC嫌気性菌、栄養分、Schaedler、チオグリコレート、HTM(ヘモフィルス属試験培地)またはトリプチケースソイ(Difco Manual、第11版、1998、Difco Laboratories.Division of Becton Dickinson Company Sparks、Maryland)が挙げられるが、これらに限定されない。これらは、ブロス形態または寒天形態であり、さらなる栄養分を必要とする培養条件の面倒な生物の増殖のために、血液を補充され得る。
【0047】
この培地は、Mansfield,OhioのOxyrase,Inc.から入手可能であるOxyrase(登録商標)酵素系の使用をとおして嫌気性になされ得る。この点について、「寒天用のOxyrase(登録商標)」は、多様な細菌学の寒天培地において嫌気性状態を生ずるために使用される濾過された酵素添加物である。同様に、「ブロス用のOxyrase(登録商標)」は、細菌学のブロス培地において嫌気性環境を生ずるために使用される酵素添加物である。これらの培地は両方とも滅菌(EC)形態および非滅菌(EC/NS)形態で市販されている。
【0048】
上で同定されたOxyrase(登録商標)酵素系は、E.coliなどの微生物の細胞膜に由来する酵素系からなる。市販される因子は、0.2ミクロン以下の膜粒子の緩衝懸濁液からなる。この酵素系は、広いpH範囲および広い温度範囲にわたって活性である。培地中の酸素を減少させるために必要であるこの酵素系を含む膜の正確な量は、多数のパラメーターによって変動し、このパラメーターとしては、pH、温度、存在する基質の種類および量、容器の表面対深さ比およびヘッドスペースの体積が挙げられる。
【0049】
本発明においてアジュバントとして利用される好ましいOxyrase(登録商標)酵素系は、酸素除去膜断片から構成され、この断片は、水素供与体の存在下で、酸素を水に還元する電子輸送系を含む。これらの酸素除去膜断片は、細菌の細胞膜、および/または、多数の非細菌高等生物のミトコンドリア細胞小器官の膜に由来し得る。他の公知の生体触媒酸素還元剤(例えば、グルコースオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、カタラーゼなどがまた本発明において補充され得るか、または利用され得るが、それほど好ましくはない。
【0050】
本発明の使用に適した好ましいOxyrase(登録商標)酵素系は、栄養培地における水素供与体の存在下で酸素を水に還元する電子輸送系を含む膜を有する細菌に由来する滅菌膜画分の使用を含む。多数の細菌が、培地中に適切な水素供与体が存在する場合、酸素を水に有効に還元する電子輸送系を含む細胞膜を有することが公である。細菌の供給源は、Escherichia coli、Salmonella typhimurium、Gluconobacter oxydans、およびPseudomonas aeruginosaの群より選択される。これらの細菌の膜は、培地ならびに他の水性環境および半固体環境から酸素を取り除くのに非常に有効であった。
【0051】
本発明は、ATCC品質管理生物に関する感受性試験の結果の決定するため、さらに、臨床単離株を特徴づけしそして試験するため、または感染性微生物によって引き起こされる疾患を処置するために、特に有用である。
【0052】
本発明の方法は、微生物との抗生物質に対する感受性について試験する方法に関する。本発明の実施形態において、その微生物は、臨床単離株である。本発明の好ましい実施形態において、その微生物は、ATCC品質管理生物である。このような試験手順または治療レジメンは、任意の所望の微生物に対して有用であり、特に任意の所望の細菌に対して有用である。
【0053】
本発明の方法、特に感受性試験についての方法はまた、キットの形態でこのような方法に使用される上記因子を提供することにより好都合に実施される。このようなキットは好ましくは、適切な増殖培地(液体または固体)およびアジュバントならびにキットのコントロールとしての試験生物またはその組合せ、抗生物質またはその組合せ、および所望される場合、適切な純度の水を備える。この集合中のコントロール生物、アジュバント、培地および/または抗生物質は、特定の微生物に対して調整されていないものであってもよく、特定の微生物に対して特別的に調整されているものであってもよい。特定のキットは、所望の場合、特に、好ましくは標準として使用するための特定の生物を備え得る。このようなキットでは、細菌ではない構成要素が、そうあり得るように一緒にまだ混合されていない場合、このような構成要素は、別個の容器またはパッケージに閉じ込められていたとしても、一般的に互いに近接しており、そして、キット中で提供される任意の細菌サンプル(必要に応じて、ATCC品質管理生物であり得る)に近接している。
【0054】
本発明は、広範かつ等価な範囲の条件、パラメーターなどの範囲内で、本発明の精神にも範囲にも、そのいかなる実施形態にも影響を及ぼすことなく実施され得ることが、当業者に理解される。
【0055】
以下の非限定的な実施例は、本発明の特定の局面を例証する。
【実施例】
【0056】
(材料および方法)
(生物)
使用した細菌単離体は、感受性試験に関する品質管理のために、NCCLSによって推奨された細菌単離体である(National Committee for Clinical Laboratory Standards、2003.Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically;Approved Standards:M7−A6、第6版、第23巻、National Committee for Clinical Laboratory Standards Wayne、PA.、National Committee for Clinical Laboratory Standards 2003. Methods for Dilution Antimicrobial Disk Susceptibility Tests;Approved Standards:M2−A8、第8版、第20巻、National Committee for Clinical Laboratory Standards、Wayne、PA.)。標準としては、E.coli ATCC 25922、S.aureus ATCC 29213、E.faecalis ATCC 29212、S.pneumoniae ATCC 49247およびH.influenzae ATCC 49247が挙げられる。E.coliの臨床単離株、S.aureusの臨床単離株、E.faecalisの臨床単離株、S.pneumoniaeの臨床単離株、S.pyogenesの臨床単離株、M.catarrhalisの臨床単離株およびH.influenzaeの臨床単離株を、Wyeth General Culture Collectionから得た。特徴づけられたテトラサイクリン耐性決定基を発現するE.coliおよびS.aureusの株が、これまでに記載されている(Petersen,P.J.、N.V.Jacobus、W.J.Weiss、P.E.Sum、およびR.T.Testa、Antimicrob.Agents Chemother.43:738−744,1999)。
【0057】
(抗生物質および化学物質)
チゲサイクリンの標準粉末を、Wyeth Research、Pearl River、NYから得た。ミノサイクリン、テトラサイクリン、L−システイン、L−アスコルビン酸、ピルビン酸ナトリウム、カタラーゼおよびチオグリコール酸ナトリウムを、Sigma/Aldrich Chemical Company(St.Louis,Mo.)から購入した。Oxyrase(登録商標)を、Oxyrase Inc、Mansfield、OHから購入した。
【0058】
(感受性試験)
チゲグリセリンおよびコントロール抗生物質のインビトロ活性を、NCCLSによって推奨されるブロス微量希釈方法(National Committee for Clinical Laboratory Standards、2003.Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically;Approved Standards:M7−A6,第6版、第23巻、National Committee for Clinical Laboratory Standards Wayne、PA.)を標準手順として使用して決定した。5%の溶解したウマ血液を含むMBHを、S.pneumoniaeを試験するために使用し、ヘモフィルス属試験培地を、H.influenzaeを試験するために使用した。Oxyrase(登録商標)(Oxyrase Inc.Mansfield、OH)を、製造業者の指示書に従って、1mlのOxyrase(登録商標)を50mlの培地に添加することにより使用した。培地の熟成の研究を、複数のフラスコにMHBを調製し、次いで、種々の条件下でその培地を保存することにより行なった。MICは、通常、試験の各日に、二連で行なった。嫌気性条件下での保存を、嫌気性チャンバ(MACS MG 1000、Don Whitley Scientific LTD)内で行なった。培地のpHは、pHメーター(Corning 430)により決定した。臨床単離株に対するOxyrase(登録商標)を含む場合、および含まない場合の寒天希釈方法およびブロス希釈方法によるチゲサイクリンのインビトロ活性の比較を、表1に示す。
【0059】
【表1】

チゲサイクリン、他のグリシルサイクリンおよびミノサイクリンのインビトロ活性(MIC、μg/ml)に対するOxyrase(登録商標)の効果を、表2に示す。
【0060】
【表2】

(熟成した培地 対 新鮮な培地のタイムキル実験)
タイムキルアッセイを、NCCLSガイドライン(NCCLS.1999.Methods for Determining Bactericidal Activity of Antimicrobial Agents;Approved Guidelines:M26−A、第19巻、National Committee for Clinical Laboratory Standards、Wayne、PA.)に従ったブロス微量希釈方法により行なった。約10CFU/mlの開始接種物およびMICの4倍に等しい抗生物質の最終濃度を、これらのアッセイに使用した。適切な抗菌因子とともに50mlのMHB IIを含むフラスコに、50mlの対数増殖期の試験生物を接種した。試験フラスコ(250ml)を、振盪(150RPM)しながら、35℃の水浴中でインキュベートした。0時間、2時間、4時間、6時間および24時間での生存数の決定のために、アリコートを取り出した。0.85%滅菌塩化ナトリウム溶液中に連続希釈液を調製した。この希釈したサンプル(0.05ml)を、スパイラルプレーター(Don Whitley Scientific LTD)を用いて適切なトリプチケースソイ寒天(TSA)上に配置した。このプレートを、大気中で35℃で18〜22時間インキュベートし、コロニーの数を、ProtoCOLプレートリーダープレーター(Don Whitley Scientific LTD)で決定した。死滅曲線を、24時間にわたる時間に対するlog10CFU/mlをプロッティングすることにより作図し、細菌濃度における変化を決定した。データを、図1に、グラフにより示す。チゲサイクリンの活性に対する培地の古さ(新鮮な培地対熟成した培地)の効果、およびOxyrase(登録商標)の効果の、最小阻止濃度の結果を表3に示す。
【0061】
表3に示すように、Oxyrase(登録商標)を補充した熟成した培地で決定したチゲサイクリンのMICは、新鮮な培地で決定したチゲサイクリンのMICとほぼ等しかった。さらに、Oxyrase(登録商標)も補充した新鮮な培地で決定したチゲサイクリンのMICは、補充していない新鮮な培地で決定したMICと有意には違わなかった。
【0062】
【表3】

(チゲサイクリンのMICに対する培地の古さの効果)
チゲサイクリンのインビトロ活性に対する培地の古さの効果を決定するために、MHBを調製し、室温または2℃で、28日間保存した。チゲサイクリンのブロス微量希釈MICトレイ、ミノサイクリンのブロス微量希釈MICトレイおよびテトラサイクリンのブロス微量希釈MICトレイを0日、7日、14日、21日および28日で調製した。表4に示すように、試験の各日に、6連でMICを決定した。さらに、表4に示されるように、4週間の試験の期間にわたって、チゲサイクリンのMICにおける再現可能な希釈度3〜4の増加が存在した。培地の熟成は、室温で保存した培地と比較して、4℃で保存した培地では、多少遅くなった。
【0063】
表4に示すように、0日〜28日の間の時間にわたる参照生物ATCC 25922、ATCC 29213およびATCC 29212に対しての、チゲサイクリンのインビトロ活性(MIC、μg/ml)に対する培地の熟成、調製および保存の効果が示される。
【0064】
【表4】

【0065】
【表6】

表5に示すように、新鮮な培地で決定したチゲサイクリンのMICは、熟成した培地で決定したMICより希釈度1〜希釈度3低かった。この効果をさらに確立するために、タイムキル実験を、0.12μg/mlおよび1μg/mlのチゲサイクリンで、新鮮な培地および熟成した培地でE.coli ATCC 25922を用いて行った。0.12μg/mlおよび1μg/mlのチゲサイクリンは、熟成した培地で決定したこの生物の1×MICおよび4×MICを意味する。図1に示すように、0.12μg/mlのチゲサイクリンも1μg/mlのチゲサイクリンも両方とも、新鮮な培地で試験した場合に、E.coli ATCC25922の増殖を抑制した。しかし、熟成した培地で試験を行なったときには、0.12μg/mlのチゲサイクリンに6時間曝露した後、その株の再増殖が存在した。さらに、表5を参照すると、熟成した培地の効果がQC生物に限定されるか否かを決定するために、MICを、新たに調製したブロス中で決定し、臨床単離株および種々のテトラサイクリン決定基を発現する株の両方を含む生物群を使用して、室温(RT)で2週間保存したブロス中で決定したMICと比較した。
【0066】
時間の経過による培地のpHの変化はなかったので、熟成した培地で決定したチゲサイクリンのMICと比較した新鮮な培地で決定したチゲサイクリンのMICにおける不一致は、これによっては説明がつかない。従って、理論に束縛されないが、新鮮な培地と熟成した培地との間の不一致の原因は、保存の間の時間の経過によって生じるブロス培地中の溶存酸素の量の増加によって生じる、酸化分解の加速および初期ピークの形成に起因し得ることが仮定される。ブロス培地中の溶存酸素の濃度が、チゲサイクリンのMICに影響を及ぼしたようであったので、嫌気性のチャンバ内で保存した培地に対する熟成の効果を評価するための研究を行なった。表6に示すように、市販される調製された培地および大気中で室温で2週間熟成した培地は、新たに調製された培地よりも希釈度1〜4高いチゲサイクリンMICを生じた。対照的に、嫌気条件下で保存した培地は、新鮮な培地で得られた結果とほぼ等しいチゲサイクリンのMICを生じた。
【0067】
この仮説を検証するために、チゲサイクリンの溶液を、水、新鮮なMHBおよび熟成したMHB中で調製した。この溶液を、室温で一晩保存し、次いで、チゲサイクリンの分解を検出するために、HPLC分析に供した。図2に示すように、HPLC分析は、約11.5分〜12.0分の保持時間で溶出した初期ピークを示した。図3に示すように、新鮮な培地における初期ピークの量は、水における量の約12倍であったのに対して、熟成した培地におけるその比は約35倍であった。このことにより、チゲサイクリンの初期ピークの形成は、熟成した培地において、加速されたことを確認した。
【0068】
(高速液体クロマトグラフィー(HPLC))
実験1において、3つの実験試験サンプルを、チゲサイクリンの初期ピーク形成について試験した。実験に2おいて、6つの実験試験サンプルを、24時間内に生じるチゲサイクリンの初期ピークを決定するために評価した。結果は、以下に列挙するとおりである:
【0069】
【化1】

上記のそれぞれのビヒクル中で、1mg/mLの濃度でチゲサイクリンを調製し、室温で、時間0および1日目にアッセイした。
【0070】
HPLCのパラメーターは、以下に列挙するとおりである:
HPLCカラム:Luna C18(2)、5μm、4.6×150mm
検出:UV 250nm
流量:1.5mL/分
注入量=30μL
移動相A:950mLの水中6.8gのKHPO、KOHでpH6.2に調整、50mLのアセトニトリルと混合
移動相B:500mLの水中6.8gのKH2PO4、KOHでpH6.2に調整、500mLのアセトニトリルと混合
勾配:
時間(分) A(%) B(%)
0 95 5 ベースライン
20 60 40 直線状
5 0 100 直線状
1 0 100 保持
0.1 95 5 ベースライン。
【0071】
初期のピークは、図4に示すような特徴的なプロトン核磁気共鳴スペクトルを有する以下の構造式Aを有すると考えられる。
【0072】
【化2】

構造式Aはまた、互変異性形態で存在し得、そして、互変異性体は、以下に示される。
【0073】
【化3】

【0074】
【表5】

ブロス培地中の溶存酸素の濃度が、その培地への還元剤の添加により制御されるか否かを決定するために、0.05%(重量/体積)のL−システイン、0.05%(重量/体積)のL−アスコルビン酸、0.05%(重量/体積)のピルビン酸ナトリウム、0.05%(重量/体積)のカタラーゼおよび0.05%(重量/体積)のチオグリコレートの存在下で、MICを決定した。使用したこれらは全て、細菌性の病原体のための増殖培地における還元剤としてこれまでに報告されている。チゲサイクリン、ミノサイクリンおよびテトラサイクリンのインビトロ活性に対する還元剤の効果を、表7に示す。
【0075】
表8および表9は、NCCLS品質管理株に対するOxyrase(登録商標)の効果(9人の研究者の多数の独立した実験を合わせたデータ)を要約する。
【0076】
【表7−1】

【0077】
【表7−2】

【0078】
【表8−1】

【0079】
【表8−2】

【0080】
【表9】

【図面の簡単な説明】
【0081】
以下は、本発明を制限する目的のためではなく、本発明を例証する目的で提示される図面の簡単な説明である。
【図1】図1は、E.coli ATCC25922に対する新鮮なミュラーヒントンブロスおよび熟成したミュラーヒントンブロス中でのチゲサイクリン(TGC)の抗菌活性を示す。
【図2】図2は、培地にOxyrase(登録商標)を添加したHPLC分析および初期ピーク形成の抑制を示す。
【図3】図3は、新鮮な培地および熟成した培地にOxyrase(登録商標)を添加したHPLC分析および初期ピーク形成の抑制を示す。
【図4】図4は、初期ピークのプロトン核磁気共鳴スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ATCC品質管理生物に関する感受性試験の決定のための培地組成物であって、栄養培地、抗生物質およびアジュバントを、感受性試験を安定化させかつ増強させるのに十分な量で含有する、培地組成物。
【請求項2】
前記アジュバントが、システイン、チオグリコレート、アスコルビン酸、ピルベート、およびカタラーゼの群より選択される、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項3】
前記アジュバントが、微生物の細胞膜に由来する、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項4】
前記アジュバントが、前記培地組成物の約0.0005%(重量/体積)〜約5.0%(重量/体積)の範囲で存在する、請求項2に記載の培地組成物。
【請求項5】
前記アジュバントが、約0.005%(重量/体積)〜約0.5%(重量/体積)の範囲で存在する、請求項4に記載の培地組成物。
【請求項6】
前記アジュバントが、約0.05%(重量/体積)で存在する、請求項4に記載の培地組成物。
【請求項7】
前記アジュバントが、前記培地組成物の約0.5%(体積/体積)〜約10.0%(体積/体積)の量で存在する、請求項3に記載の培地組成物。
【請求項8】
前記アジュバントが、約1.0%(体積/体積)〜約4.0%(体積/体積)の量で存在する、請求項3に記載の培地組成物。
【請求項9】
前記アジュバントが、約2.0%(体積/体積)で存在する、請求項3に記載の培地組成物。
【請求項10】
前記抗生物質が、テトラサイクリンである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の培地組成物。
【請求項11】
前記抗生物質が、7,9−置換テトラサイクリンである、請求項10に記載の培地組成物。
【請求項12】
前記テトラサイクリン抗生物質が、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、ジメチルクロルテトラサイクリン、デメクロサイクリン、メタサイクリン、リメサイクリン、クロモサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、N,N−ジメチルグリシルアミド 9−アミノミノサイクリン(DMG−ミノ)、N,N−ジメチルグリシルアミド 9−アミノ−6−デメチル−6−デオキシテトラサイクリン(DMG−DMDOT)およびチゲサイクリンの群より選択される、請求項9に記載の培地組成物。
【請求項13】
前記テトラサイクリン抗生物質が、チゲサイクリンである、請求項9に記載の培地組成物。
【請求項14】
前記微生物が、Escherichia coli、Salmonella typhimurium、Gluconobacter oxydans、およびPseudomonas aeruginosaの群より選択される、請求項3〜13のいずれか1項に記載の培地組成物。
【請求項15】
前記微生物が、Escherichia coliである、請求項14に記載の培地組成物。
【請求項16】
ATCC品質管理生物に関する最小阻止濃度(MIC)試験値を安定化させるための方法であって、該方法は、
a.培地に、感受性試験を安定化させかつ増強させるのに十分な量のアジュバントと、抗生物質とを添加して、試験用培地を形成する工程;
b.該試験用培地に試験生物を添加する工程;
c.該試験用培地をインキュベートする工程;
d.MIC値を読み取る工程;
を包含する、方法。
【請求項17】
ATCC品質管理生物に関する最小阻止濃度(MIC)試験値を安定化させるための方法であって、該方法は、
a.22gの粉末化培地を1.0Lの蒸留水に添加することにより、ミュラーヒントンブロスII培地を調製する工程;
b.該培地をオートクレーブ(121℃、15psi、15分間)し、冷却する工程;
c.約10%の最終容積までアジュバントを添加し、インキュベーター内で、35〜37℃で30分間維持する工程;
d.96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに約50μL添加する工程;
e.抗生物質を秤量し、ブロスを薬物に添加して約(標準128μg/ml)に合わせる工程;
f.50μLの該抗生物質を、該タイタープレートの第1の列に添加する工程;
g.該プレートを横切ってまたは下方向に、2倍ずつの連続希釈により希釈する工程;
h.接種物を10CFU/mlで調製する工程;
i.9.9mlのブロス中に10μLの接種物(1:100)にて、接種物をブロス中に1:100で希釈する工程が、10コロニー形成単位(CFU)であり、調節された接種物を形成する工程;
j.50μLの該調節された接種物を、該マイクロタイタープレートの該ウェルに添加する工程;
k.該プレートを、35〜37℃で、18〜22時間インキュベートする工程;および
l.肉眼でMICを読み取る工程
を包含する、方法。
【請求項18】
前記アジュバントが、微生物の細胞膜に由来する、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記アジュバントが、前記培地組成物の約0.5%(体積/体積)〜約10.0%(体積/体積)の量で存在する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記アジュバントが、培地中に、約1.0%(体積/体積)〜約4.0%(体積/体積)の量で存在する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記アジュバントが、約2.0%(体積/体積)で存在する、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記抗生物質が、テトラサイクリンである、請求項16〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記抗生物質が、7,9−置換テトラサイクリンである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記テトラサイクリン抗生物質が、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、ジメチルクロルテトラサイクリン、デメクロサイクリン、メタサイクリン、リメサイクリン、クロモサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、N,N−ジメチルグリシルアミド 9−アミノミノサイクリン(DMG−ミノ)、N,N−ジメチルグリシルアミド 9−アミノ−6−デメチル−6−デオキシテトラサイクリン(DMG−DMDOT)およびチゲサイクリンの群より選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記テトラサイクリン抗生物質が、チゲサイクリンである、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記微生物が、Escherichia coli、Salmonella typhimurium、Gluconobacter oxydans、およびPseudomonas aeruginosaの群より選択される、請求項18〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記微生物が、Escherichia coliである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
ATCC品質管理生物に関する感受性試験の決定のための培地組成物であって、該培地組成物は、栄養培地、アジュバントおよび抗生物質を含有し、該アジュバントは、高速液体クロマトグラフィーにより決定した場合に約11.5分〜約12分の保持時間を有する初期のピークの形成を抑制するために十分な量で存在する、培地組成物。
【請求項29】
前記アジュバントが、微生物の細胞膜に由来する、請求項28に記載の培地組成物。
【請求項30】
前記アジュバントが、培地中に、約0.5%〜約10.0%の量で存在する、請求項29に記載の培地組成物。
【請求項31】
前記アジュバントが、培地中に、約1.0%〜約4.0%の量で存在する、請求項29に記載の培地組成物。
【請求項32】
前記アジュバントが、約2.0%で存在する、請求項29に記載の培地組成物。
【請求項33】
前記抗生物質が、テトラサイクリンである、請求項28〜32のいずれか1項に記載の培地組成物。
【請求項34】
前記抗生物質が、7,9−置換テトラサイクリンである、請求項33に記載の培地組成物。
【請求項35】
前記テトラサイクリン抗生物質が、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、ジメチルクロルテトラサイクリン、デメクロサイクリン、メタサイクリン、リメサイクリン、クロモサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、N,N−ジメチルグリシルアミド 9−アミノミノサイクリン(DMG−ミノ)、N,N−ジメチルグリシルアミド 9−アミノ−6−デメチル−6−デオキシテトラサイクリン(DMG−DMDOT)およびチゲサイクリンの群より選択される、請求項33に記載の培地組成物。
【請求項36】
前記テトラサイクリン抗生物質が、チゲサイクリンである、請求項33に記載の培地組成物。
【請求項37】
前記微生物が、Escherichia coli、Salmonella typhimurium、Gluconobacter oxydans、およびPseudomonas aeruginosaの群より選択される、請求項33に記載の培地組成物。
【請求項38】
前記微生物が、Escherichia coliである、請求項33に記載の培地組成物。
【請求項39】
ATCC品質管理生物に関する感受性試験の決定のための培地組成物であって、該培地組成物は、栄養培地、アジュバントおよびテトラサイクリン抗生物質を含有し、該アジュバントは、高速液体クロマトグラフィーにより決定した場合の初期のピークの形成を抑制するために十分な量で存在する、培地組成物。
【請求項40】
ATCC品質管理生物に関する感受性試験の決定のための培地組成物であって、該培地組成物は、栄養培地、アジュバントおよび7,9−置換テトラサイクリン抗生物質を含有し、該アジュバントは、高速液体クロマトグラフィーにより決定した場合の初期のピークの形成を抑制するために十分な量で存在する、培地組成物。
【請求項41】
ATCC品質管理生物に関する感受性試験の決定のための培地組成物であって、該培地組成物は、栄養培地、アジュバントおよびチゲサイクリン抗生物質を含有し、該アジュバントは、高速液体クロマトグラフィーにより決定した場合、約11.5分〜12分の保持時間を有する初期のピークの形成を抑制するために十分な量で存在する、培地組成物。
【請求項42】
ATCC品質管理生物に関する感受性試験の決定のための培地組成物であって、感受性試験を安定化させかつ増強させるために、新鮮な栄養培地および抗生物質を含有する、培地組成物。
【請求項43】
前記新鮮な栄養培地が、12時間以下の新鮮さである、請求項42に記載の培地組成物。
【請求項44】
前記抗生物質が、チゲサイクリンである、請求項42に記載の培地組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−513630(P2007−513630A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−543973(P2006−543973)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2004/041231
【国際公開番号】WO2005/059164
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(506198159)ワイス ホールディングス コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】