説明

好酸球浸潤抑制剤

【課題】 好酸球の浸潤またはその細胞数の増加に関連する疾患の予防又は治療に有効な新規な組成物の提供。
【解決手段】 ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)を含んで成る、好酸球の浸潤またはその細胞数の増加に関連する疾患の予防又は治療に有効な組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚疾患、呼吸器系疾患、消化器系疾患等、好酸球の浸潤や細胞数の増加と関連性の深い各種疾患に対して予防または治療効果を有する食品成分またはそれを含有する食品組成物あるいは医薬組成物に関し、特に好酸球浸潤抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アトピー性皮膚炎、湿疹、乾癬等の皮膚疾患、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、過敏性肺臓炎、好酸球性肺炎等の呼吸器系疾患、好酸球性胃腸炎、潰瘍性大腸炎等の消化器系疾患等の各種疾患において、それらの炎症局所への好酸球の浸潤が起こっていることが明らかとなり、これらの病態形成や進展に好酸球の関与が強いものと推察されている。以上の事を背景に、好酸球の病巣部組織への浸潤過程、具体的には好酸球の活性化、血管内皮への接着、血管外への遊走、走化性因子による病巣部への移行、というステップを抑制することでこれら疾患を予防、治療しようとする試みがなされるようになった(American Journal of Clinical Dermatology, Chari S, 2001, 2, p.1〜, Paediatric Respiratory Reviews, McMillan RM, 2001, 2, p.238〜, Agents Actions, Rask-Madsen J, 1992, C37〜, 特開平8-3036)。
【0003】
例えば、皮膚疾患治療に対して臨床上の有用性が確認されているステロイド外用剤や免疫抑制外用剤は、アトピー性皮膚炎様モデル動物NC/Ngaマウスにおいて、皮膚症状の増悪化を明らかに軽減すると共に、皮膚病巣部への浸潤好酸球数を有意に抑制し得ることが判明している(Japanese Journal of Pharmacology, Hiroi J, 1998, 76, p. 175〜)。また、好酸球の走化性因子であり、病巣部へ好酸球を集積させる性質を持つ生体物質にロイコトリエンB4が挙げられるが、本物質は5-リポキシゲナーゼによって合成されることが判明している。
【0004】
それに対し、5-リポキシゲナーゼ阻害剤は本酵素活性を阻害することでロイコトリエンB4の産生を抑制するが、それだけでなく、その後に続く生体イベントである好酸球の浸潤も抑制する。その結果としてロイコトリエン類や好酸球の関与が大きい夜間性喘息の呼吸障害を軽減し得ることも判明しており、呼吸器系疾患への本化合物の有用性が示されている(American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine, Wenzel SE, 1995, 152, p. 897〜)。このように、これら医薬品が好酸球の異常な状態を抑制することで各種疾患の予防、治療に有用であることが示されている一方、安全性や使用方法の面で問題を抱えていることも事実である。
【0005】
ステロイド外用剤であれば、使用時の紅潮や皮膚の萎縮、投与中断によって皮膚炎がかえって増悪化するリバウンド現象等の副作用が、免疫抑制外用剤であれば皮膚腫瘍の発生時期が早まる可能性や、塗布部位および皮膚のバリア機能の状態に薬効が大きく影響を受けること(日本皮膚科学会雑誌, 古江益隆, 2004, 114, p.135〜)、5-リポキシゲナーゼ阻害剤では1日4回も経口摂取しなければならないことや長期摂取による消化不良も認められている(ZYFLO TM FILMTAB(商標)添付文書, Abbott laboratories, 1998)。
このような背景から、医学的に有用であり、誰に対しても安全に使用出来て、かつ好酸球の機能を効果的に抑制するような素材が求められた。
【0006】
上記の観点から医学的に、また栄養学的に有用な食品成分を考えた場合、図1で示すようなn-3系の多価不飽和脂肪酸(PUFA)であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)がその候補素材の一つとして挙げることができる。これら成分は海産動物脂、特にマグロ、イワシ等の魚油に比較的多く含まれており、これらは我々人類が長い年月、恒常的に摂取してきたもので、極めて安全性の高い素材であることは言うまでも無い。また、その生理機能に関しては数多くの検討がなされており、前者であれば血栓抑制効果、後者であれば学習機能の向上等の有用性が示されている(機能性脂質の新展開, 鈴木修, 2001)。
【0007】
また、その他の有用な生理活性の一つとして抗アレルギー効果が挙げられ(The European Respiratory Journal, Nagatsuka T, 2000, 16, p. 861〜, The Journal of Infectious Diseases, McMurray DN, 2000, 182, p. 861〜)、その分子メカニズムの一つとして免疫担当細胞への機能に何らかの影響を与えるためと推察される。このことを裏付ける試験の一つとして、矢澤らが特開平10-1434で示しているように、EPAおよびDHAの好酸球の遊走に対する影響が検討されており、この中でEPAエチルエステル100mgあるいはDHAエチルエステルの50mg腹腔内投与がモルモットの遅延型アレルギーにおける好酸球遊走を抑制し得ることが明らかとなっている。
【0008】
ただし、本実験はEPAおよびDHAを腹腔内に投与した際の生体反応を確認したものであり、このことは食品形態として実際に口から摂取した時の状況を模したものとは言い難い。腹腔内投与と経口投与とでは前者が好酸球が浸潤してくる組織である腹腔においてEPAおよびDHAの濃度が圧倒的に高い状況にあることは容易に推察出来、つまりは生理活性が検出し易い状況にある。よって、経口摂取によって実際にこのような効果を有するか否かは不明である。
【0009】
また、EPAやDHAの構造学的特徴に起因するとされる易酸化性と悪臭の発生が問題となっている。EPAやDHAはその分子内に不飽和結合部分、つまり酸化反応を受けやすい部分を有しており、EPAであれば5箇所、DHAでは6箇所それぞれ所有している。これらは酸化を受けることで顕著な品質低下を来し、先に示した有用な生理機能を損なうばかりか、生成した酸化分解物が生体に対して悪影響を及ぼす可能性も否定出来ない。さらに、これらPUFAの酸化分解物は著しい悪臭を放つことが知られており、経時的に酸化が加速されることでその悪臭の度合いは高まる。
【0010】
これらEPAやDHAの易酸化性に対する防止策として、酸化防止剤、抑臭剤、マスキング剤等が考案されているものの、酸化防止の効力やその持続性がまだまだ満足なレベルにないことや、添加剤によっては外観が濁る等の諸問題から、いずれも防止策として有効であるとは言い難い(特開平2-55785, 特開平3-100093, 特開2004-137420)。つまり、EPAやDHAはその生理活性が有用であるにも関わらず、種々の策を講じても品質を安定に保つことが非常に難しく、このことが食品への利用範囲を妨げている理由の一つともなっている。
以上のことから、医学的に有用であり、安全性や品質安定性に優れた食品素材が望まれている。
【0011】
【特許文献1】特開平8-3036号公報
【特許文献2】特開平2-55785号公報
【特許文献3】特開平3-100093号公報
【特許文献4】特開2004-137420号公報
【0012】
【非特許文献1】American Journal of Clinical Dermatology, Chari S, 2001, 2, p.1〜
【非特許文献2】Paediatric Respiratory Reviews, McMillan RM, 2001, 2, p.238〜
【非特許文献3】Agents Actions, Rask-Madsen J, 1992, C37〜, 特開平8-3036)。
【非特許文献4】Japanese Journal of Pharmacology, Hiroi J, 1998, 76, p. 175〜
【非特許文献5】American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine, Wenzel SE, 1995, 152, p. 897〜
【非特許文献6】日本皮膚科学会雑誌, 古江益隆, 2004, 114, p.135〜
【非特許文献7】ZYFLO TM FILMTAB添付文書, Abbott laboratories, 1998
【非特許文献8】The European Respiratory Journal, Nagatsuka T, 2000, 16, p. 861〜
【0013】
【非特許文献9】The Journal of Infectious Diseases, McMurray DN, 2000, 182, p. 861〜
【非特許文献10】British Medical Journal, Kernoff PBA, 1977, 2, p.1441〜
【非特許文献11】Lipids, Taki H, 1993, 28, p.873〜
【非特許文献12】Lipids, Cedric H, 1984, 19, p.699〜
【非特許文献13】Immunology, Maaike MBWD, 2003, 110, p.348〜
【非特許文献14】The Journal of Immunology, Deniela S, 1989, 143, p.1303〜
【非特許文献15】Archives of Dermatological Research, Iverson L, 1992, 284, p.222〜
【非特許文献16】Prostaglandine Leukotrienes and Essential Fatty Acids, Zurier RB, 1999, 60, p.371〜
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、好酸球の浸潤や細胞数の増加と関連性の深い各種疾患に対して安全かつより効果的な予防または治療のための食品又は医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)が好酸球の浸潤抑制に極めて有用で、かつ他のPUFAよりも効果的に抑制し得ることを初めて見出し、本発明を完成した。
【0016】
従って、本発明は、DGLAを含んで成り、好酸球の浸潤や細胞数の増加と関連性の深い各種疾患に対して予防または治療効果を有する組成物を提供する。
この組成物は、例えば食品組成物又は医薬品組成物である。
前記各種疾患は、例えばアトピー性皮膚炎、湿疹、乾癬等の皮膚疾患、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、過敏性肺臓炎、好酸球性肺炎等の呼吸器系疾患、好酸球性胃腸炎、潰瘍性大腸炎等の消化器系疾患等である。
【0017】
図1で示す通りEPAやDHAがn-3系PUFAと称されるのに対し、体内合成経路の関係からDGLAはn-6系PUFAに属するものである。DGLAも肉、卵、魚介類等に含まれる安全性の極めて高い食品成分であるが、その含有量は総じてEPAやDHA、あるいは同じn-6系PUFA のアラキドン酸よりも極めて少ないことが判明している。本発明者らはこれまでに特許第3354581号で示す通り、菌株によるDGLA油脂の発酵生産方法を発明することで、構成脂肪酸の約40%がDGLAから成るトリグリセライドSUNTGDを大量調製することを可能にした。構造学的にはDGLAは不飽和結合部分がEPAやDHAより少ない3箇所であり、このことから本成分は酸化に強く、故に臭いの発生も少なく、品質安定性に優れることも判った。
【0018】
本成分の生理機能に関しては、in vivoあるいはin vitroでその効果が一部確認されており、in vivoにおいては血小板凝集抑制(British Medical Journal, Kernoff PBA, 1977, 2, p.1441〜)、遅延型足蹠浮腫(Lipids, Taki H, 1993, 28, p.873〜)、血圧上昇抑制(Lipids, Cedric H, 1984, 19, p.699〜)等の作用が、in vitroにおいてはインターロイキンー2、10、腫瘍壊死因子(TNF―α)等のサイトカイン産生抑制作用(Immunology, Maaike MBWD, 2003, 110, p.348〜, The Journal of Immunology, Deniela S, 1989, 143, p.1303〜)、ロイコトリエン産生抑制作用(Archives of Dermatological Research, Iverson L, 1992, 284, p.222〜)、T cell増殖抑制作用(Prostaglandine Leukotrienes and Essential Fatty Acids, Zurier RB, 1999, 60, p.371〜)等が報告されている。
【0019】
しかしながら、好酸球に及ぼす影響に関して直接的な証明はなされていない。以上のように、DGLAは安全性や品質安定性に優れていることは容易に推察されるものの、生理機能面、特に好酸球に対する何らかの作用を有するか否か、さらにはそのような作用を有するのであればその強さは他のPUFAと比較してどうか等は全く分かっていなかった。
【0020】
DGLAは、例えば、グリセライド、リン脂質、糖脂質、アルキルエステル、又は遊離脂肪酸の形態で存在する。前記グリセライドは、例えば、トリグリセライド、ジグリセライド又はモノグリセライドである。好ましくは、前記グリセライドは、トリグリセライド及び/又はジグリセライドである。
組成物は、例えば、丸剤、錠剤又はカプセル剤の形態である。
本発明の組成物はまた、DGLAを含んで成り、好酸球の浸潤や細胞数の増加と関連性の深い各種疾患に対して予防又は治療効果を有することを表示した飲食物の形態をとることができる。例えば、DGLAを含有する、好酸球の浸潤や細胞数の増加と関連性の深い各種疾患に対して予防又は治療効果を有する旨の表示を付した飲食物であることが出来る。
【発明の効果】
【0021】
DGLAの経口摂取による好酸球の浸潤抑制作用は他のPUFAと比較してより効果的であることからも、DGLAが皮膚疾患、呼吸器系疾患、消化器系疾患等、好酸球の浸潤や細胞数の増加と関連性の深い各種疾患に対して、他のPUFAと比べてより有用性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0023】
食品組成物としては、食餌サプリメント、ならびに(医薬)処方物および調製品、例えば、錠剤、丸剤およびカプセルが挙げられる。さらに、固形または液状食料品、例えば乳製品(マーガリン、バター、牛乳、ヨーグルト)、パン、ケーキ;ドリンク類、例えば飲料(お茶、コーヒー、ココア、チョコレートドリンク)、フルーツジュース、ソフトドリンク(例えば炭酸飲料);菓子;油性食品(スナック、サラダドレッシング、マヨネーズ)、スープ、ソース、炭水化物に富む食品(ご飯、麺類、パスタ)、魚入り食品、ベビーフード(例えば、乳幼児用フォーミュラ、液状または粉末として)、ペットフード、および調理済み食品または電子レンジで調理可能な食品が挙げられる。
【0024】
DGLAは任意の適当な起源に由来することが出来る。しかしながら、DGLA含量の高いことの知られている天然油脂源は殆ど無く、ごく微量であれば牛の肝臓、豚の腎臓、卵黄等から抽出することは可能ではある。近年、微生物発酵技術が進歩し、微生物、例えば、真菌類、細菌類または酵母に由来していてもよい。
適当な真菌類は、ムコラレス(Mucorales)目、例えば、モルティエレラ(Mortierella)、ピチウム(Pythium)またはエントモフトラ(Entomophyhora)に属するものである。DGLAの好ましい起源は、モルティエレラ(Mortierella)由来である。モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)由来であればより好ましい。DGLA含有油脂は特許第3354581号で示す通り発明者らはモルティエレラ(Mortierella)を用いた微生物発酵法により構成脂肪酸の約40%がDGLAから成るトリグリセライドを調製することが出来る。
【0025】
DGLAに加えて、1種またはそれ以上の付加的なPUFAを供給しても良い。これはDGLAに加えて別のn-6系PUFA(例えばリノール酸(LA)、γ−リノレン酸(GLA)、アラキドン酸(AA)など)であってもよいし、n-3系PUFA(例えばEPA、DHA)であってもよい。
本発明に用いるDGLAに変換可能なこの酸の生理的に許容される官能性誘導体としては、DGLAを含むトリグリセライド、ジグリセライド、モノグリセライドとして、あるいはリン脂質、糖脂質として、さらには遊離の脂肪酸、脂肪酸エステル(例えば、メチルまたはエチルエステル)、ステロールエステルとしての形態で有り得る。
【0026】
好ましくは、PUFAは油中に存在する。これは純粋な油、加工油(例えば、化学的および/または酵素的に処理した油)または濃縮油で有り得る。これら油は10〜100%のPUFAを含有しうるが、所望のPUFA、例えばDGLAの含量は、油が微生物由来であれば油中の5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは25%以上であれば良い。この油は1種またはそれ以上のPUFAをこれら百分率の濃度範囲内で含有し得る。この油は、単独の細胞または微生物に由来する単独油であってもよいし、または他の起源に由来する2種またはそれ以上の油の配合油または混合油であってもよい。この油は、例えば、1種またはそれ以上の添加物、例えば酸化防止剤(例えば、トコフェロール、ビタミンE、トコトリエノール、アスコルビン酸誘導体、パルミチン酸塩またはエステル、アスタキサンチン)やセサミン、CoQ10等を含有していてもよい。
【0027】
本発明は、正常な健康で十分に食事をした個体、つまりPUFAレベルが正常な値を示している個体に対してそのPUFAレベルを向上させ、疾病の予防、健康の保全や維持を目的に用いられる。
しかし、PUFAレベルが低いまたは不足している個体にも用いることが出来る。例えば血中におけるn-3系またはn-6系PUFAの異常または低いレベルに関連する疾患または状態の予防、防止、改善、治療にも用いることが出来る。それゆえ、本発明は、DGLAレベルの低い被験者、例えばLAからGLAおよびDGLAへの変換、GLAからDGLAへの変換が出来ないか、および/あるいは効果的に変換できない被験者への使用も提供する。それゆえ、適当な患者は、Δ6不飽和化酵素および/あるいは炭素鎖伸長化酵素が機能不全、不十分、または欠乏していてもよい。
【0028】
本発明は特に、皮膚疾患、呼吸器系疾患、消化器系疾患等、好酸球の浸潤や細胞数の増加と関連性の深い各種疾患にある被験者への使用を提供する。
皮膚疾患であればアトピー性皮膚炎、湿疹、乾癬等、呼吸器系疾患であれば気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、過敏性肺臓炎、好酸球性肺炎等、消化器系疾患であれば好酸球性胃腸炎、潰瘍性大腸炎等の各種疾患を指す。
【実施例】
【0029】
次に、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
実施例1.
DGLAの摂取が好酸球に対する何らかの作用を有するか否かを検討するために、DGLA油脂である特許第3354581号で示す方法で調製したDGLAを主構成脂肪酸とするトリグリセライドSUNTGDを用いて実験動物におけるその有用性を検討した。今回、好酸球の浸潤や細胞数の増加と関連性の深い疾患のモデル動物としてNC/Ngaマウスを用いた。本モデル動物は現在最も有用なアトピー性皮膚炎モデルの一つと認識されており、実際にアトピー治療の臨床現場で用いられているステロイド外用剤や免疫抑制外用剤等は本モデル動物においても有効性を示すことが証明されていることから、アトピー性皮膚炎治療薬のスクリーニングにも汎用されている。
【0030】
本動物はコンベンショナルな飼育環境下、生後約8週間前後で自然発症的に皮膚炎を発病後、その炎症像は経日的に増悪・慢性化し、肉眼的にも病理組織学的にもヒトのアトピー様皮膚炎症状を呈することで知られている。また、皮膚炎発症に伴った血清中IgEの上昇や病巣部における肥満細胞や好酸球、T cell等の免疫担当細胞の顕著な浸潤も本病態の特徴として挙げられる。
【0031】
この試験ではオスあるいはメスのNC/Ngaマウスを準備し、コンベンショナルな飼育環境下1群7匹で2種類の群を設定した。表1に示す以下の2種類の餌を調製し、離乳後の5週齢目以降、自由摂取にて試験終了となる12週齢目まで与え続けた。群は対照食群、DGLA食群とし、後者に対してはDGLAを主構成脂肪酸とするトリグリセライドSUNTGDを添加し、餌中約1.0%がDGLA(遊離脂肪酸量として算出)となるように設定した。マウス体重が平均20g、平均1日摂餌量が約2gであったことから、この実験におけるDGLA摂取量を算出するとDGLA食群は1日あたり約1000mg/kgであることが推察された。また、両群も餌中の総脂肪酸量は一律5%となるようにした。評価項目はブラインド下の皮膚炎症状の肉眼スコア、掻爬回数、血中IgEとした。
【0032】
また、動物は実験終了の12週例目に解剖し、皮膚炎病巣部である頚背部の皮膚を採取し、中性緩衝ホルマリン溶液で組織を固定後、パラフィン包埋、薄切切片作成の後、Luna染色を施し好酸球を同定した。これら組織標本の中から各群7標本中3標本を選抜、計6標本に対して好酸球数の浸潤の程度を相対評価した。標本の選抜方法は、各群の皮膚炎症状の肉眼スコア平均値に近い値を示す標本を3標本選抜するという方法を採択した。相対評価に関しては、評価実施者がどの標本を評価しているか分からないように、ブラインド下で実施した。好酸球数の浸潤の程度の評価クライテリアは、
++:好酸球浸潤が特に激しい箇所が数箇所確認され、全体的にも浸潤が激しい。
+−:好酸球浸潤が一部確認されるか、殆どない。
とした。
【0033】
検討の結果、体重推移(表2)や一般所見に関する異常をなんら見せることなく、表3に示すようにDGLA摂取群は対照食群と比較して、皮膚病巣部に浸潤してくる好酸球の数を抑制する傾向を示した。さらに、この時、皮膚炎症状の肉眼スコアの軽減(対照食群:9.1±1.0、DGLA食群:3.0±0.5)、掻爬回数の抑制(対照食群:51.7±9.1回、DGLA食群:35.0±7.1回)、血漿中IgEの産生量の抑制(対照食群:64.2±39.8μg/mL、DGLA食群:29.8±21.0μg/mL)も確認された。以上のことから、DGLAの摂取は好酸球の浸潤や細胞数の増加と関連性の深い各種疾患に非常に有用である可能性が示唆された。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
上記の通り、DGLAにより、好酸球の浸潤が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、n-6系およびn-3系高度不飽和脂肪酸の代謝経路を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)を含んで成る、好酸球の浸潤またはその細胞数の増加に関連する疾患の予防又は治療に有効な組成物。
【請求項2】
ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)を含んで成る、好酸球浸潤抑制組成物。
【請求項3】
前記組成物が食品又は医薬組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記食品が食餌サプリメントである請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記医薬組成物が経口投与剤である請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、液剤、丸剤、錠剤又はカプセル剤である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記好酸球の浸潤またはその細胞数の増加に関連する疾患が、皮膚疾患、呼吸器系疾患又は消化器系疾患である請求項1及び3〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記皮膚疾患が、アトピー性皮膚炎、湿疹又は乾癬である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記呼吸器系疾患が、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、過敏性肺臓炎又は好酸球性肺炎である、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記消化器系疾患が、好酸球性胃腸炎又は潰瘍性大腸炎である、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
前記ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)が、グリセライド、リン脂質、糖脂質、アルキルエステル又は遊離脂肪酸もしくはその塩の形態である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記グリセライドが、トリグリセライド、ジグリセライド又はモノグリセライドである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)が微生物に由来する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−306812(P2006−306812A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−133264(P2005−133264)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】