説明

妨害電波キャンセラ装置

【課題】 妨害電波の方向に関わらず妨害電波の影響を除去する妨害電波キャンセラ装置を得る。
【解決手段】 レーダ送信電波6と同じ偏波特性を有する主アンテナ4と、主アンテナ4の偏波特性に対して直交する交差偏波特性を有する補助アンテナ8と、主アンテナ4により受信された電波から補助アンテナ8により受信された電波を除き、妨害電波9の影響を除去した目標信号17を得る妨害波除去回路14とを備えた。この場合、補助アンテナ8には、妨害装置3からの交差偏波成分だけしか受信されないので、妨害電波9の方向に関わらず探知目標2に関する電波を劣化させることなく、妨害電波9の影響を除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダ装置に対して照射される妨害電波の影響を除去し、目標の探知を良好に行う妨害電波キャンセラ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の妨害電波キャンセラ装置としては、探知目標方向に主ビームを有するアンテナパターンからなる主アンテナと、その主アンテナの主ビーム方向から電波を受信することなく、主ビーム以外の方向から電波を受信するアンテナパターンからなる補助アンテナとを備えたものがある。
動作としては、主アンテナにより探知目標からの目標信号に妨害装置からの妨害電波が重畳されて受信されるが、補助アンテナにより別途妨害電波を受信し、主アンテナにより受信された電波(目標信号+妨害電波)から補助アンテナにより受信された電波(妨害電波)を除くことにより、その妨害電波の影響を除去するものである。
【0003】
この妨害電波除去方式の場合、補助アンテナにより受信される電波に目標信号が混入していると、補助アンテナの電波を除いた後の電波については、妨害電波は除去できるが、同時に目標信号も劣化させてしまう。このため、補助アンテナにおいては、妨害電波をできるだけ純粋に(目標信号とは分離して)受信する必要があり、そのために、主アンテナとはアンテナパターンが大きく異なる補助アンテナを備え、主アンテナの主ビームから外れた方向に関して純粋に妨害電波のみを受信し、その影響を排除するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−138205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の妨害電波キャンセラ装置は以上のように構成されているので、主アンテナの主ビームから外れた方向から行われる妨害に対しては効果を持つが、主アンテナの主ビーム方向から行われる妨害については、補助アンテナは妨害電波を純粋に受信することはできないため、妨害電波の除去を行うことはできないなどの課題があった。
【0006】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、妨害電波の方向に関わらず妨害電波の影響を除去する妨害電波キャンセラ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る妨害電波キャンセラ装置は、レーダ送信電波と同じ偏波特性を有する主アンテナと、主アンテナの偏波特性に対して直交する交差偏波特性を有する補助アンテナと、主アンテナにより受信された電波から補助アンテナにより受信された電波を除き、妨害電波の影響を除去する妨害波除去回路とを備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、レーダ送信電波と同じ偏波成分を正偏波成分とし、その正偏波成分に直交する偏波成分を交差偏波成分とした場合、主アンテナには、探知目標からの正偏波成分に妨害装置からの正偏波成分が重畳された電波が受信され、補助アンテナには、妨害装置からの交差偏波成分のみが受信される。妨害装置からの送信電波には、正偏波成分と交差偏波成分とが共に含まれることを利用し、主アンテナにより受信された電波から補助アンテナにより受信された電波を除けば、妨害電波の影響を除去することができる。この妨害電波除去方式の場合、補助アンテナには、妨害装置からの交差偏波成分だけしか受信されないので、妨害電波の方向に関わらず受信対象となる電波を劣化させることなく、妨害電波の影響を除去することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による妨害電波キャンセラ装置を示す構成図であり、図において、妨害電波キャンセラ装置1は、レーダ装置の一部として使用され、妨害電波の影響を除去するものである。探知目標2は、レーダ装置が探知しようとする対象物であり、妨害装置3は、レーダ装置に対して妨害電波を発生するものである。
【0010】
また、妨害電波キャンセラ装置1の内部において、主アンテナ4は、送信信号5の入力に応じてレーダ送信電波(正偏波)6を送信すると共に、そのレーダ送信電波6と同じ正偏波特性を有し、探知目標2を反射した目標信号(正偏波)7や、例えば、妨害装置3から発生された妨害電波(正偏波+交差偏波)9のうちの正偏波を受信するものである。補助アンテナ8は、主アンテナ4の正偏波特性に対して直交する交差偏波特性を有し、例えば、妨害装置3から発生された妨害電波(正偏波+交差偏波)9のうちの交差偏波を受信するものである。
なお、補助アンテナ8は、主アンテナ4の主ビーム方向から入射する妨害電波をも除去するために、主アンテナ4の主ビーム方向にも利得を持つものとする。
受信回路10は、主アンテナ4による受信電波(目標信号(正偏波)+妨害電波(正偏波))11を、増幅、周波数変換および周波数選択するものであり、受信回路12は、補助アンテナ8による受信電波(妨害電波(交差偏波))13を、同様に増幅、周波数変換および周波数選択するものである。
【0011】
妨害波除去回路14は、例えば、適用フィルタにより構成され、受信回路12の出力を振幅補償および位相補償する振幅位相補償回路15と、受信回路10の出力および振幅位相補償回路15の出力を足し合わせ、主アンテナ4により受信された電波から補助アンテナ8により受信された電波を除き、妨害電波の影響を除去した目標信号17を得る合成回路16からなるものである。なお、合成回路16から得られる目標信号17が振幅位相補償回路15に帰還されるが、振幅位相補償回路15では、その目標信号17の振幅が最小になるように受信回路12の出力を振幅補償および位相補償することで、主アンテナ4により受信された電波から妨害波による影響を完全に除去するものである。
また、図1における妨害電波キャンセラ装置1は、レーダ装置に対して目標信号17を出力し、そのレーダ装置において探知目標2を解析したり、そのレーダ装置からの送信信号5を主アンテナ4に入力し、主アンテナ4からレーダ送信電波6を送信したりするが、送信信号5の入力によるレーダ送信電波6の送信に関しては、図1に示したように、主アンテナ4から送信する場合の他、主アンテナ4以外のアンテナから送信しても良く、この発明に関係無く、適宜決定することができる。
【0012】
次に動作について説明する。
一般に、レーダ装置については、その用途や使用環境に応じてレーダ送信電波の偏波を決定し、探知目標からのその偏波に対応した反射電波を受信する。これに対し、妨害装置としては、1つの機器で多様なレーダ装置に対する妨害を実施することを想定する必要がある。そのため、通常は、水平偏波および垂直偏波のレーダ装置に対して斜め45度の偏波を使用する等、レーダ装置の使用する偏波に対し、約50%は合致するが、約50%は無駄になるような偏波を使用し、電力の損失と引き換えに、多様なレーダ装置に対応できるような送信を行う場合が多いと言われている。このため、探知目標からの反射波は、そのほとんどが所要の偏波成分のみであるのに対し、妨害電波は、正偏波成分と交差偏波成分とを共に有することになる。このことを利用すると、補助アンテナに交差偏波を使用すると、妨害電波のみを純粋に受信することになり、その受信した妨害電波を主アンテナによる受信電波から除くことにより、妨害電波の影響を除去することができる。この実施の形態1は、この原理に基づくものである。
【0013】
図1において、レーダ装置が探知目標2を探知するために、送信信号5を主アンテナ4に出力し、主アンテナ4からレーダ送信電波(正偏波)6を送信すると、探知目標2によって反射される目標信号7の偏波の大部分は、レーダ送信電波6の偏波に従ったものとなる。そのため、探知目標2によって反射された目標信号(正偏波)7は、レーダ送信電波(正偏波)6と同じ正偏波特性を有する主アンテナ4により受信することができる。
それに対し、妨害装置3から発生される妨害電波9については、一般に、目標信号7と同じ偏波(正偏波)と目標信号7に直交する偏波(交差偏波)との両方の成分を持つため、その妨害電波9の正偏波成分を同じ主アンテナ4により受信してしまう。
このため、主アンテナ4により受信される電波は、目標信号(正偏波)7に妨害電波(正偏波)9を重畳したものとなる。
【0014】
これに対し、主アンテナ4の偏波特性に対して直交する交差偏波特性を有する補助アンテナ8により受信する場合、目標信号(正偏波)7は、偏波が直交するために受信することができず、妨害電波9の交差偏波成分のみ受信することになる。このため、主アンテナ4による受信電波11は、目標信号(正偏波)7に妨害電波(正偏波)9を重畳したものであり、補助アンテナ8による受信電波13は、妨害電波(交差偏波)9となる。
受信回路10,12は、それぞれの受信電波11,13を、増幅、周波数変換および周波数選択する。また、妨害波除去回路14における振幅位相補償回路15では、受信回路12の出力を振幅補償および位相補償し、合成回路16では、受信回路10の出力と振幅位相補償回路15の出力とを足し合わせ、主アンテナ4による受信電波(目標信号(正偏波)+妨害電波(正偏波))11から補助アンテナ8による受信電波(妨害電波(交差偏波))13を除く。
このようにして、妨害波除去回路14からは妨害電波の影響を除去した目標信号(正偏波)7に応じた目標信号17を得ることができる。
【0015】
以上のように、この実施の形態1によれば、主アンテナ4には、探知目標2からの目標信号(正偏波)7に妨害電波(正偏波)9が重畳された電波が受信され、補助アンテナ8には、妨害装置3からの妨害電波(交差偏波)9のみが受信される。妨害装置3からの妨害電波9には正偏波成分と交差偏波成分とが共に含まれることを利用し、主アンテナ4により受信された電波から補助アンテナにより受信された電波を除けば、妨害電波3の影響を除去することができる。この妨害電波除去方式の場合、補助アンテナ8には、妨害装置3からの妨害電波(交差偏波)9だけしか受信されないので、主アンテナ4の主ビーム方向の妨害電波に関しても問題なく除去することができ、妨害電波の方向に関わらず目標信号17を劣化させることなく、妨害電波9の影響を除去することができる。
【0016】
実施の形態2.
図2はこの発明の実施の形態2による妨害電波キャンセラ装置を示す構成図であり、図において、偏波共用アンテナ21は、上記実施の形態1による主アンテナ4および補助アンテナ8の両機能を兼ね備えたものである。この偏波共用アンテナ21は、レーダ送信電波6と同じ正偏波特性を有し、探知目標2を反射した目標信号(正偏波)7や、例えば、妨害装置3から発生された妨害電波(正偏波+交差偏波)9のうちの正偏波を受信する主チャネル、および主アンテナ4の正偏波特性に対して直交する交差偏波特性を有し、例えば、妨害装置3から発生された妨害電波(正偏波+交差偏波)9のうちの交差偏波を受信する補助チャネルを有し、主チャネル(正偏波)および補助チャネル(交差偏波)を同時に受信することを可能にしたものである。さらに、送信信号5の入力に応じてレーダ送信電波(正偏波)6を送信する機能についても上記実施の形態1と同等である。
【0017】
なお、受信回路10は、偏波共用アンテナ21の主チャネルによる受信電波(目標信号(正偏波)+妨害電波(正偏波))11を、増幅、周波数変換および周波数選択するものであり、受信回路12は、偏波共用アンテナ21の補助チャネルによる受信電波(妨害電波(交差偏波))13を、同様に増幅、周波数変換および周波数選択するものである。
その他の構成については、上記実施の形態1と同等である。
【0018】
次に動作について説明する。
上記実施形態1では、主アンテナ4および補助アンテナ8を互いに独立したもので構成したが、図2に示したように、偏波共用アンテナ21を使用し、1つのアンテナで主アンテナおよび補助アンテナを兼用するようにしても良い。
図2に示した構成では、送信信号5の入力に応じて偏波共用アンテナ21からレーダ送信電波(正偏波)6を送信し、次に、主チャネルにより、探知目標2を反射した目標信号(正偏波)7や、妨害装置3から発生された妨害電波(正偏波+交差偏波)9のうちの正偏波を受信し、同時に補助チャネルにより、妨害装置3から発生された妨害電波(正偏波+交差偏波)9のうちの交差偏波を受信する。
その後、それぞれの受信電波11,13は、受信回路10,12を経て妨害波除去回路14により妨害電波を除くことになるが、その動作は上記実施形態1と同様である。
【0019】
以上のように、この実施の形態2によれば、上記実施の形態1による主アンテナ4および補助アンテナ8の両機能を兼ね備えた偏波共用アンテナ21を適用したことにより、主アンテナ4に加えて補助アンテナ8を使用することによる装置規模の増大を防ぐことができる。
【0020】
実施の形態3.
図3はこの発明の実施の形態3による妨害電波キャンセラ装置を示す構成図であり、図において、妨害波判定回路31は、主アンテナ4により受信され、受信回路10により信号処理された受信レベルと、補助アンテナ8により受信され、受信回路12により信号処理された受信レベルとの比較に応じて妨害電波の除去の要否を判定し、妨害電波の除去が必要な場合に切替回路32を妨害波除去回路14側に切り替え、妨害電波の除去が不要な場合に切替回路32を受信回路10側に切り替えるものである。
その他の構成については、上記実施の形態1と同等である。
【0021】
次に動作について説明する。
上記実施の形態1および上記実施の形態2において、妨害電波9が存在しない場合、補助アンテナ8では、ノイズおよび目標信号7の微小な交差偏波成分のみが受信される。これらにより、妨害波除去回路14により妨害電波の除去を行うと、目標信号17の劣化を招くことがある。
図3に示した構成では、妨害波判定回路31において、主アンテナ4により受信され、受信回路10により信号処理された受信レベルAと、補助アンテナ8により受信され、受信回路12により信号処理された受信レベルBとを比較し、例えば、B/Aが所定閾値以上の場合に、妨害電波の除去が必要であると判定し、切替回路32を妨害波除去回路14側に切り替え、妨害波除去回路14により妨害電波を除去した目標信号17を出力する。また、B/Aが所定閾値未満の場合に、妨害電波の除去が不要であると判定し、切替回路32を受信回路10側に切り替え、妨害波除去回路14の処理を省略し、妨害波除去回路14の処理による劣化が生じない目標信号17を出力する。
【0022】
以上のように、この実施の形態3によれば、主アンテナ4により受信され、受信回路10により信号処理された受信レベルと、補助アンテナ8により受信され、受信回路12により信号処理された受信レベルとの比較に応じて妨害電波の除去の要否を判定し、妨害電波の除去が必要な場合に切替回路32を妨害波除去回路14側に切り替え、妨害電波の除去が不要な場合に切替回路32を受信回路10側に切り替える妨害波判定回路31を設けたので、妨害電波9が存在する場合には、妨害波除去回路14の処理により妨害電波9が存在することによる目標信号17の劣化を抑え、妨害電波9が存在しない場合には、妨害波除去回路14の処理を省略し、妨害波除去回路14の処理による目標信号17の劣化を抑えことができる。
【0023】
なお、上記実施の形態3では、上記実施の形態1に示した構成に、妨害波判定回路31および切替回路32を適用したものについて示したが、上記実施の形態2に示した構成に、妨害波判定回路31および切替回路32を適用しても良く、同様な効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施の形態1による妨害電波キャンセラ装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2による妨害電波キャンセラ装置を示す構成図である。
【図3】この発明の実施の形態3による妨害電波キャンセラ装置を示す構成図である。
【符号の説明】
【0025】
1 妨害電波キャンセラ装置、2 探知目標、3 妨害装置、4 主アンテナ、5 送信信号、6 レーダ送信電波、7 目標信号、8 補助アンテナ、9 妨害電波、10,12 受信回路、11,13 受信電波、14 妨害波除去回路、15 振幅位相補償回路、16 合成回路、17 目標信号、21 偏波共用アンテナ、31 妨害波判定回路、32 切替回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ送信電波と同じ偏波特性を有する主アンテナと、
上記主アンテナの偏波特性に対して直交する交差偏波特性を有する補助アンテナと、
上記主アンテナにより受信された電波から上記補助アンテナにより受信された電波を除き、妨害電波の影響を除去する妨害波除去回路とを備えた妨害電波キャンセラ装置。
【請求項2】
レーダ送信電波と同じ偏波を受信する主チャネル、およびその主チャネルの偏波に対して直交する交差偏波を受信する補助チャネルを有する偏波共用アンテナと、
上記偏波共用アンテナの上記主チャネルにより受信された電波から上記補助チャネルにより受信された電波を除き、妨害電波の影響を除去する妨害波除去回路とを備えた妨害電波キャンセラ装置。
【請求項3】
主アンテナにより受信された電波のレベルと補助アンテナにより受信された電波のレベルとの比較に応じて妨害電波の除去の要否を判定し、必要な場合にのみ妨害波除去回路に妨害電波の除去を行わせる妨害波判定回路を備えた請求項1記載の妨害電波キャンセラ装置。
【請求項4】
主チャネルにより受信された電波のレベルと補助チャネルにより受信された電波のレベルとの比較に応じて妨害電波の除去の要否を判定し、必要な場合にのみ妨害波除去回路に妨害電波の除去を行わせる妨害波判定回路を備えた請求項2記載の妨害電波キャンセラ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate