説明

姿勢可変型直接教示モジュール

【課題】一つの直接教示モジュールと複数の産業用ロボットとで直接教示システムを構築し、一つの直接教示モジュールで各産業用ロボットごとに教示可能とする。
【解決手段】複数の産業用ロボットには、各産業用ロボットのアーム先端部分に取り付け部2を設け、取り付け部2に固定されたアーチ状で矩形断面のレール1と、アーチ状のレール1に沿ってレール1上をスライドしてロール角を調整するスライダ4と、スライダ4の外円周上をスライドしてピッチ角を調整するスライダ3と、所望の姿勢角になったときスライダ3及びスライダ4の位置を拘束する固定用操作レバー7と、スライダ3に設けられ、教示ハンドル部の連結用板6の被係合部に着脱自在に係合する爪式ロック機構8とからなる姿勢調整機構部を設け、前記一つの直接教示モジュールには、力センサ10及び姿勢角センサ9を有する教示ハンドル部と教示情報生成部とを備えた直接教示システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、IT機器、家電などの製造技術分野において用いられている産業用ロボットに関するものであり、特に、産業用ロボットの直接教示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1〜3に記載されているように、産業用ロボットのアーム先端部分に教示ハンドルと力センサとを取り付け、オペレータが教示ハンドルを直接操作して、その際の力の方向と大きさとを力センサで検出して直接教示を行うようにした産業用ロボットの直接教示装置は知られている。図4は、特許文献2の例を示したものであって、ロボットのアームの先端部に力検出器及び教示用ハンドルが取り付けられている。
また、教示が終了した際には、教示ハンドル部分を取り外し可能とすることも、特許文献2、3に記載されており、さらに、オペレータの操作性を良くするため教示ハンドルのハンドル部分の向きを変更可能とすること(特許文献4参照)も知られていた。
【0003】
しかし、通常、直接教示は各産業用ロボット1台ごとに行う必要があるため、従来、教示ハンドル、力センサ、力センサの出力に基づいて教示情報を生成する教示情報生成部などを備えた直接教示装置は、各産業用ロボット1台ごとに設けられていた。したがって、例えば、製造ラインに複数の産業用ロボットを設置する場合には、各産業用ロボットごとに直接教示装置が必要となり、初期設備費や維持費などが増大し問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−71086号公報
【特許文献2】特開平9−150382号公報
【特許文献3】特開平9−76183号公報
【特許文献4】特開平8−276387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする問題点は、複数の産業用ロボットに対して、一つの直接教示装置で複数の産業用ロボットごとに教示できるようにして、初期設備費や維持費などを削減しようとするものである。さらに、教示ハンドルは着脱式として通常運転時に教示ハンドルが作業の邪魔にならないようにするものであり、また、教示ハンドル装着時の教示ハンドルの向きを調節可能としてオペレータの操作性を向上し、安全性を改善しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、一つの直接教示モジュールと複数の産業用ロボットとで直接教示システムを構築し、前記複数の産業用ロボットには、アーム先端部分に、教示ハンドル部を任意の方向から着脱自在に装着できる姿勢調整機構部を設け、前記一つの直接教示モジュールは教示ハンドル部と教示情報生成部とからなり、教示ハンドル部には、前記姿勢調整機構部に着脱自在に係合する連結用板と力検出手段及び姿勢角検出手段とが設けられ、教示情報生成部には、両検出手段の出力から教示情報を生成する内部計算機と、内部計算機で生成した教示情報をリアルタイムで産業用ロボットのいずれか一つへ通信するリアルタイム通信手段とを設けることにより、一つの直接教示モジュールで複数の産業用ロボットの直接教示を実現したものである。
本発明は、一つの直接教示モジュールと複数の産業用ロボットからなる直接教示システムであって、前記複数の産業用ロボットには、各産業用ロボットのアーム先端部分に、教示ハンドル部を任意の方向から着脱自在に装着できる姿勢調整機構部を設け、前記一つの直接教示モジュールは教示ハンドル部と教示情報生成部とからなり、教示ハンドル部には、前記姿勢調整機構部に対して着脱自在に係合する被係合部を有する連結用板と力検出手段及び姿勢角検出手段とが設けられ、教示情報生成部には、両検出手段の出力から教示情報を生成する内部計算機と、内部計算機で生成した教示情報をリアルタイムで産業用ロボットのいずれか一つへ通信するリアルタイム通信手段とを設け、さらに、複数の産業用ロボットには、前記リアルタイム通信手段からの情報を受信する受信手段を設け、直接教示すべき1台の産業ロボットのアーム先端部分の姿勢調整機構部に教示ハンドル部を装着し、力検出手段及び姿勢角検出手段の出力から教示情報生成部で生成した教示情報をリアルタイム通信手段により、前記直接教示すべき1台の産業用ロボットに通信することにより1台ごとに教示を行えるようにしたことを特徴とする。
また、本発明は、上記姿勢調整機構部は、アーチ状のレール(1)と、レール(1)に沿ってスライドしてロール角を調整するスライダ(4)と、スライダ(4)の外円周上を円周に沿ってスライドしてピッチ角を調整するスライダ(3)と、スライダ(3)に設けられ教示ハンドル部の連結用板の被係合部に着脱自在に係合する係合部とからなることを特徴とする。
また、本発明は、上記姿勢調整機構部は、アーチ状のレール(1)と、レール(1)に沿ってスライドしてロール角を調整するスライダ(4)と、スライダ(4)の外周部の円周周りにピッチ角調整用の複数のスプリング式ロック機構(5)とからなり、スプリング式ロック機構(5)は、教示ハンドル部の連結用板の被係合部に着脱自在に係合することを特徴とする。
また、本発明は、上記教示ハンドル部には、教示許可信号スイッチ12が設けられ、教示許可信号スイッチ12は、直接教示すべき1台の産業用ロボットに教示制御を許可するための教示許可信号を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の効果は、教示ハンドル部がワンタッチで着脱可能で、教示情報を生成するすべての機能要素が一つのモジュールになっているので、複数の産業用ロボットを1台の直接教示モジュールで各産業用ロボットごとに教示することが可能になり、直接教示システムの導入費用及び維持費用の低減が期待できる。
また、本発明では、必要な時にアクセスしやすい方向から着脱が可能なので作業者の安全性が向上する。
また、本発明では、大きな姿勢変化を伴う教示作業においても、ハンドルの姿勢を自由に調整可能なので長時間の教示作業においてもオペレータの疲労感が軽減でき、作業効率の向上が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の一実施例を示す図面である。
【図2】図2は、本発明の他の実施例を示す図面である。
【図3】図3は、本発明のシステム全体を示すブロック図。
【図4】図4は、従来技術を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
複数の産業用ロボットのアーム先端部分に、教示ハンドル部を着脱自在に装着できる姿勢調整機構部を設け、力センサ及び姿勢角センサを設けた教示ハンドル部と、両センサからの検出信号を処理し教示情報を生成するとともに生成した教示情報をリアルタイムで複数の産業用ロボットのいずれか一つへ通信するリアルタイム通信部を有する教示情報生成部とからなる一つの直接教示モジュールで複数の産業用ロボットの直接教示を実現可能とした。
【実施例】
【0010】
図1に、本発明の一実施例を示す。図において、本システムを構成する複数の産業用ロボットのアーム先端部分の取り付け部2には、姿勢調整機構部が取り付けられている。姿勢調整機構部は、取り付け部2に固定されたアーチ状で矩形断面のレール1と、アーチ状のレール1に沿ってレール1上をスライドしてロール角を調整するスライダ4と、スライダ4の外円周上を円周に沿ってスライドしてピッチ角を調整するスライダ3と、所望の姿勢角になったときスライダ3及びスライダ4の位置を拘束する固定用操作レバー7と、スライダ3に設けられ教示ハンドル部の連結用板6に着脱自在に係合する係合部としての爪式ロック機構8とを具備している。教示ハンドル部は、上記姿勢調整機構部のロック爪に係合する被係合部としての係合穴を有する連結用板6と、力検出手段である力センサ10と、姿勢角検出手段である姿勢角センサ9と、把持部11と、教示許可信号スイッチ12とを具備している。
教示ハンドル部をロボットのアーム先端部分に取り付けるときは、連結用板6を姿勢調整機構部の爪式ロック機構8に押し付けることで両方はロックされ、取り外すときは、爪式ロック機構8の下部を押すことでロックは解放され、教示ハンドル部は姿勢調節機構部から取り外される。
教示ハンドル部の取り付け方向を調整するときは、固定用操作レバーを緩めて拘束を解き、アーチ状のレール1に沿ってスライダ4をスライドさせることでロール角を調整し、ピッチ角はスライダ3をスライダ4の外円周上をスライドさせることで調整し、所望の姿勢角に調整後、固定用操作レバー7を締めて拘束する。
【0011】
図3は、姿勢可変着脱式の教示ハンドル部及び直接教示情報生成部を具備した一つの直接教示モジュールと、複数(図ではN台)の産業用ロボットとからなる本発明の直接教示システムの全体構成を示すブロック図である。図において、姿勢可変着脱式の教示ハンドル部の力センサ(6軸操作力)で検出された操作力検出信号1bと姿勢角センサ(3軸姿勢角)で検出された教示ハンドル部の姿勢角検出信号1cとは、直接教示情報生成部の力センサレシーバボード2aと姿勢角レシーバボード2bへ入力され、内部計算機2cにより操作力と初期姿勢角が計算される。内部計算機2cは、操作力と初期姿勢角及び直接教示許可信号1aをリアルタイム通信手段でロボットへ送信する。操作力と初期姿勢角とを受信した産業用ロボットでは、操作力座標変換部4aは、操作力と初期姿勢角情報を用いてロボットアームの姿勢を考慮した操作力情報を生成して直接教示コントローラ4bに入力し、直接教示コントローラ4bは入力された操作力情報を基に最終的にロボットの教示追従動作を行う。
なお、教示許可信号スイッチ12は、直接教示すべき産業用ロボットに教示制御を許可するための教示許可信号を生成する。つまり、教示許可信号により、ロボットは通常運用制御又は制御停止状態から教示制御状態に切り替わる。直接教示情報生成部は、教示許可信号に連動して教示情報(力情報及びハンドル姿勢角情報)をロボット側に伝送するか、教示許可信号に関係なく、常時教示情報を伝送する。
【0012】
このように構成された、一つの直接教示モジュールと複数の産業用ロボットからなる直接教示システムにおいては、教示すべき1台の産業用ロボットのアーム先端部分の姿勢調整機構部に教示ハンドル部をオペレータが操作しやすい所望の姿勢角で取り付け、直接教示を行う。教示が終了すれば、教示ハンドル部を取り外し、次の他の教示すべき産業用ロボットのところに直接教示モジュールを移動し、同様に当該他の教示すべき産業用ロボットのアーム先端部分の姿勢調整機構部に教示ハンドル部を所望の姿勢角で取り付けて直接教示を行う。このようにして、一つの直接教示モジュールを備えるだけで、システム内の複数のロボットの全てに対して直接教示が行える。
【0013】
図2は、本発明の他の実施例を示す。
図2の実施例において、上記図1で示した実施例と異なるところは、姿勢調整機構部のピッチ角及びロール角の調整手段と、教示ハンドル部の連結用板を姿勢調整機構部へ着脱自在に装着させるための係合手段とが異なるのみで他の部分は同じである。図において、本システムを構成する複数の産業用ロボットのアーム先端部分の取り付け部2には、姿勢調整機構部が取り付けられている。姿勢調整機構部は、取り付け部2に固定されたアーチ状で円形断面のレール1と、アーチ状のレール1に沿ってレール1上をスライドしてロール角を調整するスライダ4とを具備している。スライダ4は、アーチ状のレール1に沿って、所望のロール角になるようにスライドできるが、アーチ状のレール1に対してピッチ方向には回転できない構造となっている。アーチ状のレール1には、ロール角調整時の位置決め用の溝が複数設けられている。また、スライダ4には、スライダ4の外周部の円周周りにピッチ角調整用の複数のスプリング式ロック機構5が設けられている。教示ハンドル部は、上記姿勢調整機構部のスプリング式ロック機構5に係合する被係合部を有する連結用板6と、力検出手段である力センサ10と、姿勢角検出手段である姿勢角センサ9と、把持部11と、教示許可信号スイッチ12とを具備している。
教示ハンドル部の取り付け方向を調整するときは、所望のロール角になるようにアーチ状のレール1に沿ってスライダ4をスライドさせることで調整し、ピッチ角はスライダ4の外周部の円周周りに設けられたピッチ角調整用の複数のスプリング式ロック機構5のうちの所望のピッチ角に該当するスプリング式ロック機構5に対して、教示ハンドル部の連結用板6の被係合部を挿入することで、姿勢調整機構部に教示ハンドル部が拘束される。なお、スプリング式ロック機構5を開放することで、教示ハンドル部は姿勢調節機構部から取り外される。
【0014】
なお、姿勢調整機構部の構成は、図1及び図2で示したものに限定されるものではなく、ロール角及びピッチ角が調整できるものであれば他の機構を採用してもよく、連結用板と姿勢調整機構部と連結機構についても、着脱自在に装着できるものであれば他の機構であっても採用できるものである。
また、上記実施例では、姿勢調整機構部は全ての産業用ロボットのアーム先端部分の取り付け部2に取り付けておくこととして説明したが、一つの姿勢調整機構部を、教示すべき産業用ロボットにその都度取り付け固定するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0015】
産業用ロボットとしては、溶接ロボット、塗装ロボット、組み立てロボットなど、教示作業を必要とする産業用ロボットであれば、本発明の直接教示システムを適用できる。また、産業用ロボット以外の、民生用ロボットなどであっても、教示作業を必要とするロボットであれば、本発明の直接教示システムを適用できるものである。
なお、力センサ及び姿勢角センサは、センサ装置そのものでなくてもよく、オペレータ等の操作力及び姿勢角が推定できる手段であればよい。
【符号の説明】
【0016】
1 アーチ状レール
2 取り付け部
3 スライダ
4 スライダ
5 スプリング式ロック機構
6 連結用板
7 固定用操作レバー
8 爪式ロック機構
9 姿勢角センサ
10 力センサ
11 把持部
12 教示許可信号スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの直接教示モジュールと複数の産業用ロボットからなる直接教示システムであって、
前記複数の産業用ロボットには、各産業用ロボットのアーム先端部分に、教示ハンドル部を任意の方向から着脱自在に装着できる姿勢調整機構部を設け、
前記一つの直接教示モジュールは教示ハンドル部と教示情報生成部とからなり、前記教示ハンドル部には、前記姿勢調整機構部に対して着脱自在に係合する被係合部を有する連結用板と力検出手段及び姿勢角検出手段とが設けられ、前記教示情報生成部には、両検出手段の出力から教示情報を生成する内部計算機と、内部計算機で生成した教示情報をリアルタイムで産業用ロボットのいずれか一つへ通信するリアルタイム通信手段とを設け、
さらに、複数の産業用ロボットには、前記リアルタイム通信手段からの情報を受信する受信手段を設け、
直接教示すべき1台の産業ロボットのアーム先端部分の姿勢調整機構部に教示ハンドル部を装着し、力検出手段及び姿勢角検出手段の出力から教示情報生成部で生成した教示情報をリアルタイム通信手段により、前記直接教示すべき1台の産業用ロボットに通信することにより1台ごとに教示を行えるようにしたことを特徴とする直接教示システム。
【請求項2】
前記姿勢調整機構部は、アーチ状のレール(1)と、レール(1)に沿ってスライドしてロール角を調整するスライダ(4)と、スライダ(4)の外円周上を円周に沿ってスライドしてピッチ角を調整するスライダ(3)と、スライダ(3)に設けられ教示ハンドル部の連結用板の被係合部に着脱自在に係合する係合部とからなることを特徴とする請求項1に記載の直接教示システム。
【請求項3】
前記姿勢調整機構部は、アーチ状のレール(1)と、レール(1)に沿ってスライドしてロール角を調整するスライダ(4)と、スライダ(4)の外周部の円周周りにピッチ角調整用の複数のスプリング式ロック機構(5)とからなり、スプリング式ロック機構(5)は、教示ハンドル部の連結用板の被係合部に着脱自在に係合することを特徴とする請求項1に記載の直接教示システム。
【請求項4】
前記教示ハンドル部には、教示許可信号スイッチ12が設けられ、教示許可信号スイッチ12は、直接教示すべき1台の産業用ロボットに教示制御を許可するための教示許可信号を生成することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の直接教示システム。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−264527(P2010−264527A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116141(P2009−116141)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト、人間・ロボット協調型セル生産組立システム(次世代産業用ロボット分野)、コンパクトハンドリングシステムを備えた安全な上体ヒューマノイド」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】