説明

媒体インジェクタ

本発明は、特に流動状態の媒体を処理室内へ輸送するための媒体インジェクタであって、有利には1つの供給装置及び媒体のための輸送開口部としての少なくとも1つの間隙を備えており、この場合に間隙は少なくとも2つの間隙画成面を有しており、該間隙画成面は該間隙画成面間に配置された間隙スペースを形成している形式のものにおいて、少なくとも1つの間隙画成面は、第1の管状部材の少なくとも1つの端面の少なくとも一部分によって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の形式の媒体インジェクタ並びに、請求項27若しくは35の上位概念に記載のプラズマ源及びスパッタリング装置に関する。
【0002】
前記形式の媒体インジェクタは流動状の媒体、有利にはガス、液体、蒸気若しくは溶液、懸濁液、エマルジョン、コロイド、ペースト、煙等を処理室内へ輸送若しくは搬送するために用いられるものであり、種々に公知であり、媒体は例えばプラズマを用いて処理される。ドイツ連邦共和国特許出願公開第3935189A1号明細書にはガス噴出器を開示してあり、該ガス噴出器(ガスシャワー)を用いて処理用混合気は複数の開口部から構成部材のイオンエッチングによる処理のための装置の反応室内へ送り込まれるようになっている。さらにドイツ連邦共和国特許出願公告第4301189C2号明細書により公知の基板の被覆のためのスパッタリング装置は、2つの電極及び該電極のための遮蔽装置を備えている。基板支持体は両方の電極の表面に対して平行に運動させられるようになっている。暗部遮蔽装置内でかつ一方の電極の平面の下側にガス管路を配置してあり、該ガス管路を介してプロセスガス(処理用ガス)はスパッタリング装置のプラズマ室内に導入される。プラズマの伝播及び寄生プラズマの発生を避けるために、電極と暗部遮蔽装置との間の間隔は暗部距離よりも小さくなっている。米国特許第6171461B1号明細書にはマグネトロンスパッタリングを記載してあり、マグネトロンスパッタリングは陽極及び陰極遮蔽装置を備えており、陰極遮蔽装置は陽極遮蔽装置によって取り囲まれている。陽極遮蔽装置と陰極遮蔽装置との間の領域にガス入口からプロセスガスを送り込むようになっており、プロセスガスはスパッタリングターゲットの表面に沿って流れるようになっている。
【0003】
国際公開第96/26533号パンフレットには、マグネトロン原理に基づき基板の被覆のための装置を記載してあり、該装置のターゲットは互いに電気的に分離された2つの部分ターゲットから成っている。部分ターゲットは互いに同心的に配置されていて、1つの2リング形エネルギー源を形成している。内側の部分ターゲットの中央部及び両方の部分ターゲット間にリング状の中間部材を同心的に配置してある。中間部材内に通路を形成してあり、該通路内に管路を介して反応ガスを送り込むようになっている。反応ガスは、周囲に分配されたノズルから流出して部分ターゲット上に噴出される。ドイツ連邦共和国特許出願公開第11944039A1号明細書には薄膜成形装置の薄膜成形室を記載してあり、この場合にはスパッタリングガス及び反応ガスを含む混合ガスはガス入口開口部を通して薄膜成形室に供給される。ヨーロッパ特許第0269921B1号明細書には、同心的に形成されたガス供給部を備えたマイクロ波形プラズマ発生器を記載してある。ヨーロッパ特許第0463230B1号明細書には基板のための被覆装置を記載してあり、この場合にはプラズマ発生のための装置は、電子放出器及び該電子放出器の下流側に接続された管状の陽極を有している。陽極はプロセスガスのための入口を備えており、該入口はガスシャワー(ガス噴出器)として形成されている。ヨーロッパ特許第0709486B1号明細書には、基板の表面の処理のための反応器を記載してあり、該反応器はシャワーヘッドを備えており、シャワーヘッドは短い間隔で平らな平面内に配置された複数の開口部を有しており、該開口部を通してガスはウエハの析出被覆のための反応器の処理室内へ噴出される。米国特許第2002/0096258A1号明細書にも、基板の等方性エッチングのためのプラズマ反応器を記載してあり、該プラズマ反応器はできるだけ一様なプラズマ電位を達成するために中央に配置された1つのガス入口を有している。
【0004】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第2149606号明細書及び米国特許第2002/0108571A1号明細書は、遮蔽装置の内部のガス入口を開示している。
さらに米国特許第4574733号明細書に記載の半導体被覆のためのグロー放電装置は、陰極及び陰極遮蔽装置を備えている。プロセスガスはガスノズルを介して陰極の領域に送り込まれる。プラズマ反応器内へガスを供給するために、米国特許第5811022号明細書には、複数の孔を備えたガス管路を記載してあり、該ガス管路は処理すべき半導体ウエハを取り囲んでいる。供給量の大きいガス入口を備えたスパッタリング反応器を形成するために、米国特許第6296747B1号明細書にはパーフォレーションされた、つまり多孔形の遮蔽部を開示ししてあり、遮蔽部の多数の細孔を通ってプロセスガスは流れるようになっている。誘導的に形成されたプラズマの分布を改善するために、国際公開第02/19364号パンフレットに記載の遮蔽部は、処理室内へのガス流入及びガス分配のための複数のスリット及び孔を備えている。
【0005】
国際公開第96/62052号パンフレットには、処理室内でのガス濃度を均一にするための装置を開示してあり、該装置は多孔質のセラミック管を備えている。
反応室内へ一種類若しくは複数種類の処理ガスを注入するために、ヨーロッパ特許第0823491B1号明細書には開示されたガス注入装置は、床面及び側壁の一部分に単数若しくは複数のスリット及び孔を備えている。
【0006】
本発明の課題は、処理室内へ特に流動性の媒体を輸送するための媒体インジェクタを提供し、該媒体インジェクタは簡単かつ形状安定的な構造を有していてかつ経済的に製作されるようにすることである。別の課題は、プラズマ及び/又はイオン装置、例えばプラズマ源、イオン源若しくはスパッタリング源を提供し、該プラズマ及び/又はイオン装置は媒体インジェクタとして形成された媒体入口装置を備えており、該媒体入口装置は簡単かつ形状安定的な構造を有していてかつ経済的に製作されるようにすることである。
【0007】
前記課題は本発明に基づき独立請求項の特徴部分に記載の構成によって解決される。実施態様を従属請求項に記載してある。
【0008】
特に流動性の媒体を処理室内へ輸送するための本発明に基づく媒体インジェクタは、有利には少なくとも1つの供給装置及び媒体のための輸送開口部としての少なくとも1つの間隙を備えている。間隙は少なくとも2つの間隙画成面を有しており、該間隙画成面は該間隙画成面間に配置された間隙スペース(間隙室)を形成しており、この場合に少なくとも1つの間隙画成面は、第1の管状部材の少なくとも1つの端面の少なくとも一部分によって形成されている。
【0009】
本発明は、管状若しくは環状の構成部分が高い安定性を有していて、例えば穿孔によって高い精度でかつ経済的に製造できるという認識に基づいている。本発明に基づく媒体インジェクタは、輸送開口部としての寸法精度の高い間隙の形成を可能にし、かつ例えば孔、穴若しくはノズルによる均一なガス分配を可能にしている。本発明で用いる処理室は、後続の物理的若しくは化学的な処理に左右されることなく、間隙を通して媒体を輸送若しくは搬送できる空間領域を意味する。
【0010】
冒頭に述べた形式の媒体インジェクタにおいては、構造的な構成のほかに、別のパラメータ、例えば処理室内での媒体の分配若しくは分布、処理室内でのインジェクタの位置、並びに媒体に対するインジェクタの機械的、熱的及び化学的な安定性も重要である。媒体インジェクタは、化学的若しくは物理的な反応を生ぜしめない場合でも、層状の流れ分布を得るために用いられる。媒体インジェクタをプラズマ技術の領域に用いる場合には、例えばイオン流のようなパラメータ、活性種、アーク及び暗部の形成、並びにプラズマ内の圧力及び電位分布に媒体インジェクタの適切な構成によって影響を及ぼすようにしなければならない。プラズマ内での使用に際しては、プラズマに対する十分な耐性を媒体インジェクタに与えると、媒体インジェクタの長い耐用年数にとって有利である。
【0011】
媒体インジェクタは、ガス状の媒体に用いられる場合にはガスシャワー(ガス噴出器)として形成されていると有利である。供給装置は有利には供給管路として形成される。別の実施態様では、内側の処理室は媒体の貯蔵スペース内に配置されており、媒体は媒体インジェクタを通って処理室内へ流れる。
【0012】
媒体インジェクタは次のように形成され、つまり第1の間隙画成面に相対して位置する第2の間隙画成面は、第2の管状部材の端面の少なくとも一部分によって形成されていると、第1及び第2の管状部材の端面の簡単な位置決めに基づき、間隙スペースは高い精度で経済的に成形される。
【0013】
本発明の別の実施態様では、第1の間隙画成面に相対して位置する第2の間隙画成面は、非管状の構成部材若しくは構成部品の表面によって形成されており、これによって間隙画成面と、すべての機能を備える既存の構成部材との組合せが可能である。
【0014】
媒体インジェクタの別の実施態様では、間隙は電極装置の一部分を成しており、これによって媒体流入は、処理室内の電場及び/又は磁場の作用する領域の近傍で可能になっている。
【0015】
有利には構成部材、若しくは構成部分及び/又は構成部品のための材料として、導体、有利には金属、特に鋼、特殊鋼、チタン、アルミニウム、銅、タンタル、タングステン、モリブデン、黒鉛、半導体、及び/又は絶縁体、有利にはセラミック若しくはプラスチックを用いてある。この場合に各構成部材はそれぞれ異なる材料で形成されていてよい。
【0016】
プラズマ装置のプラズマ室内へ媒体を供給するために本発明に基づく媒体インジェクタを用いると、媒体の処理に適した安定的な供給を達成できる。間隙に対応してプラズマのファラデー暗部を配置してあると、該間隙は媒体の導入のための領域として有利に用いられる。ファラデー暗部は、隣接する構成部材間の活性の絶縁体として見なされるものではなく、少なくとも一時的に異なる電位を有する2つの構成部材間で寄生プラズマを発生させないために必要とされるものであり、寄生プラズマは導電結合部を生ぜしめてしまうことになる。
【0017】
本発明に基づくプラズマ及び/又はイオン装置は本発明に基づく媒体インジェクタを有している。有利にはプラズマ源は、プラズマ発生のためのイオン化可能なガスのための少なくとも1つのガス入口装置及びガスのイオン化のための電子の発生のための陰極、並びに該陰極に対応して配置された陽極を備えている。少なくとも1つのガス入口装置は、本発明に基づく媒体インジェクタとして形成されている。媒体インジェクタは、電子を発生しないプラズマ源にも、電子放出器なしの単数若しくは複数の電極を備えるプラズマ源(例えば誘導式のプラズマ源)にも用いられるものである。これによって、プラズマ源は経済的で製作されて高い安定性をもって作動可能なガス入口装置を有している。
【0018】
基板の被覆のための本発明に基づくスパッタリング装置は、少なくとも1つのガス入口装置及びスパッタリング陰極を含んでおり、スパッタリング陰極は少なくとも1つのスパッタリングターゲットを有している。少なくとも1つのガス入口装置は、本発明に基づく媒体インジェクタとして形成されている。
【0019】
本発明に基づくプラズマ源及びスパッタリング装置においては、運転及び処理パラメータは本発明に基づく媒体インジェクタを介して経済的にかつ正確に調節されるようになっている。
【0020】
本発明の有利な実施態様及び構成を従属請求項並びに以下の説明で示してある。本発明は図示の実施例に限定されるものではない。図面において、
図1は、公知技術のリング形噴出器(リング形ガスシャワー)を示す図であり、
図2は、媒体インジェクタの斜視図であり、
図3は、媒体インジェクタの間隙構成を示す図であり、
図4は、予備室若しくは前供給室を備えた媒体インジェクタの断面図であり、
図5は、溢流部若しくはオーバーフロー部を備えた媒体インジェクタの断面図であり、
図6は、構成部材で満たされた間隙スペース(間隙室)の構成を示す断面図であり、
図7は、2つの電極間に配置されたガス噴出器(ガスシャワー)を備える媒体インジェクタの断面図であり、
図8は、プラズマ源にとって有利な媒体インジェクタの断面図であり、
図9は、図8の媒体インジェクタの変化例の断面図であり、
図10は、プラズマ源にとって有利な別の実施例の媒体インジェクタの断面図であり、
図11は、ほぼ回転対称的な構造の媒体インジェクタの水平断面図であり、
図12は、方形構造の媒体インジェクタの水平断面図であり、
図13は、媒体インジェクタを備えた回転対称的な構造のプラズマ源の斜視図であり、
図14乃至17は、媒体インジェクタを備える各スパッタリング装置の垂直断面図である。
【0021】
図1には、閉じられた空間領域内でのガス供給のためのリング形ガス噴出器として形成された公知技術の媒体インジェクタを示してあり、該媒体インジェクタはほぼリング状のガス管路3から成っており、ガス管路はガス供給装置1及び孔若しくは類似のものとしての複数の出口開口部2を有しており、該出口開口部を通ってガスはガス管路から流出する。このようなリング形ガス噴出器は、例えばプラズマの出口の上側の円形領域内への酸素供給のためのプラズマ源内に用いられる。プラズマ源内への酸素の直接的な供給は、該公知のリング形ガス噴出器では不可能である。孔2を介した供給では、供給されたガスの三次元のガス分布は不均一であり、このことはプラズマ源の種々の運転パラメータ、例えばイオン流密度若しくはアーク発生率に不都合に作用することになる。
【0022】
図2は本発明に基づく媒体インジェクタの構成部分を示しており、該媒インジェクタは
ガス供給管路1及び媒体の輸送開口部としての間隙4を備えている。間隙4は2つの間隙画成面5,6を有しており、両方の間隙画成面は該間隙画成面間に位置する間隙スペース7を画成しており、間隙スペースは処理室8に空間的に接続されている。
【0023】
図3の断面図に詳細に示してあるように、間隙画成面5,6はそれぞれ、管状(筒状)の2つの構成部材(管状部材)9,10の端面の一部分によって形成されている。端面若しくは間隙画成面5,6は管状の構成部材の軸線に対して任意の角度を成していてよいものである。ガス供給は図3に示す例では外側から間隙スペース7内へ行われる。図3の媒体インジェクタMIは直線状に形成されていてよく、若しくは湾曲された構成要素として形成されていてよいものである。処理室8内に、ノズル若しくは孔によって導入されるガス流に比べて均一なガス分配若しくはガス分布を達成することができる。
図2の実施例では、間隙は処理室8を正確に一周にわたって取り囲んでいる。本発明の要旨は間隙の次のような構成も含み、つまり、処理室は間隙によって部分的に、若しくは複数回取り囲まれていてもよいものであり、すなわち間隙は処理室の周囲を一部分にわたって延びていて、若しくは複数周にわたって延びていてもよいものである。
【0024】
スリットの切られた管に比べて、本発明に基づく媒体ノズルは高い安定性、特に長時間安定性及び処理安定性を有しており、それというのは外部の機械的な力若しくは熱膨張力に起因する間隙画成面間の間隔変化を減少させてあるからである。間隙画成面間の間隔は簡単なスペーサによって正確に規定されて外部の影響に対して安定している。
【0025】
新規な媒体インジェクタMIは、図4に示してあるように、孔やノズルやスリットなどのような出口開口を備えた慣用のガス噴出器と組み合わされて、ガスの調整された若しくは均一な分配を達成するようになっていてよい。ガス供給管路1を通って流れるガスは、慣用のガス噴出器のガス通路11及びガス流出のための孔2を流過して、別のガス通路12を経て間隙スペース7内に達する。ガス通路11,12はここでは有利に、間隙スペース7と同じく管状部材9,10によって形成される。ガス通路12は間隙4のための予備室を形成しており、該予備室によってガスの圧力変動は減衰される。本発明に基づく媒体インジェクタMIの間隙4と慣用のガス噴出器のスリット若しくは孔とを組み合わせることによって、処理室8内でのガス分布の三次元の調整若しくは均一性を達成してある。さらにスリット若しくは孔と間隙配列とを組み合わせることによって、製作誤差の大きな間隙においても、所定のガス分布(ガス分配)を保証してある。
【0026】
本発明の別の実施態様では、管状部材間に複数の間隙セグメントを形成してある。本発明に基づく媒体インジェクタは、第1の間隙画成面に相対する第2の間隙画成面を管状でない部材若しくはワークの表面で形成することによって実施される。部材若しくはワークの表面は有利には平らである。図5に示す実施例においては、図4と同様に、慣用のガス噴出器の孔2及びガス通路11によって予備室12内へのガスの輸送を可能にしており、前記予備室は間隙スペース7に接続されている。ガス通路11はここでは管状部材9によって形成されている。間隙スペース7は、管状部材として形成されたガス噴出器リング13の端面と管状でない任意の部材14との間に設けられている。間隙スペース7をガス噴出器リング13の上方の端部領域に配置してあることによって、媒体インジェクタはここではオーバーフローとして形成されている。ガス噴出器リング13自体は、管状でない2つの部材14,15間に配置されている。図5に示す二部構造の実施例の代わりに、図4に示してあるように一体構造の実施例を選ぶことも可能である。
【0027】
本発明に含まれる別の実施態様では、所定のパターンの間隙スペースの形成のために複数の管状部材の複数の端面を用い、及び/又は1つの間隙内に複数の間隙セグメント(間隙円弧区分)を設けることも可能である。管状部材は、一貫した1つの間隙の形成のために、周囲の閉じられた横断面を有し、つまり、管状部材の周壁は全周にわたって切れ目なく延びている。管状部材は有利には、円形、楕円形、多角形若しくは長方形の横断面を有している。管状部材の横断面は、半径の異なる互いにつながった複数の円弧区分によって規定されていてもよい。
【0028】
本発明に基づく媒体インジェクタは、任意の装置の処理室内へ有利には流動状の媒体を輸送するために用いられると有利である。任意の装置は、例えばガス洗浄器、発酵器、若しくは混合兼反応器などである。プラズマを形成する若しくはプラズマを用いる装置への使用も有利である。媒体インジェクタは、間隙が電極装置の一部分を成すように形成されると有利である。これによって、媒体の供給を、媒体が有効に作用するために適した条件の領域で行うことができる。さらに必要に応じて、間隙を形成するための既存の構成要素若しくは構成部材を用いることもできる。本発明の別の実施態様では間隙画成面の少なくとも一部分には、少なくとも一時的に異なる電位を作用させるようになっている。
【0029】
本発明に基づく媒体インジェクタは、少なくとも一時的に互いに異なる電位に規定されている2つの電極間の放電若しくはアークの発生を防止するために有利に用いられる。互いに異なる電位の2つの電極間のアークは、周知のように両方の電極間の空間若しくは隙間を狭くすることによって、若しくは両方の電極間の空間若しくは隙間内のプラズマ圧力を低くすることによって防止される。電極間に一方の電極の背部よりも高い圧力が生じている場合には、電極間の該圧力はポンプ作用によって、若しくは前記一方の電極に孔を設けることによって低下させられるようになっている。前記電極に設けられる穴は、電極の機能を損なわない程度の大きさに規定されている。これによって電極による例えば遮蔽の機能は、穴の存在している場合にも保証されるようになっている。電極の孔は有利には、アークに対する影響が小さい領域、若しくは両方の電極間の空間若しくは隙間とは逆の側の圧力が十分に小さい領域に配置されている。さらに両方の電極間のアーク発生を防止するために、両方の電極間の空間若しくは隙間を適切な材料で満たしておくことも可能である。
【0030】
図6では、2つの電極16,17は間隙を形成(画成)しており、該間隙は該間隙内に配置された部材18,19,20を備えている。電極16,17及び部材18,19,20は、必要に応じて導体、半導体若しくは絶縁体から成っていて、若しくは種々の物質から組成されていてよい。例えば部材(構成部材又は構成部分)18,19,20は、金属から成形され、かつセラミック若しくはプラスチックで被覆されていて、良好な絶縁機能と良好な熱伝導性を達成するようになっていてよい。電極16,17間の空間は、1つ若しくは複数の構成部材若しくは構成部分によって少なくとも部分的に満たされていてよく、該構成部材少なくも部分的に電極16,17に接触している。電極間の領域は、構成部材18によって完全に満たされていてよい。電極間の領域を満たす部材18,19,20は、互いに異なる電位に接続されていてよい。部材18,19,20は、一方の電極と同じ電位、若しくは外部から生ぜしめられる固有の電位を有し、若しくはアース電位を有していてよい。さらに、電極間に配置された構成部材は絶縁されていてよく、構成部材の電位値は調節して変動させられるようになっていてもよい。
【0031】
インジェクタの機能は殊に媒体インジェクタをプラズマ発生領域で使用する場合に所定の構成寸法に依存するので、インジェクタの正確な位置決め、並びにインジェクタの構成部分の正確な位置決めは重要である。したがって媒体インジェクタの少なくとも1つの構成要素、構成部材若しくは構成部分を、形状結合(形状による束縛)に基づく固定によって位置決めすることは有利である。殊に回転対称的な構成部分は、該構成部分にセンタリング部(中心位置決め部)を設けることによって互いに簡単に形状結合される。間隙4は、互いに離間して重ね合わされた2つの円形リングによって形成されてよく、該円形リングは有利にはセンタリング部を備えている。特に有利な実施態様では、両方の円形リングは互いに内外に位置して、つまり互いに入れ子式に係合して自動的にセンタリングされるように成形されている。
【0032】
センタリングは電極16,17間に配置された1つ若しくは複数の構成部材若しくは構成部分によって行われてよく、該構成部材若しくは構成部分は電極間の空間を少なくとも部分的に満たすようになっている。電極間に装着される1つ若しくは複数の構成部材は、複数の機能を生ぜしめるように形成されていてもよい。両方の電極を1つ若しくは複数の構成部材によって互いに絶縁し、かつ付加的に電極間で良好な熱輸送を保証するようになっていると有利である。構成部材は絶縁性の材料から成っていてよい。別の実施態様では、複数の材料を組み合わせてある。さらに別の実施態様では、熱伝導率の高い導電性の材料、例えば金属、銀、銅若しくはアルミニウムを、絶縁体から成る単数若しくは複数の層と組み合わせることも可能であり、該層は熱伝導率の低い場合には薄く形成されていると有利である。有利な構成では一方の電極は能動的に若しくは強制的に冷却され、或いは受動的に冷却されるようになっており、特に熱を他方の電極に奪われるようになっている。
【0033】
本発明の有利な実施態様では、間隙に対応してプラズマのファラデー暗部を配置してある。媒体の搬送に基づき間隙スペース内には、公知技術で所望されている圧力低下とは逆にアーク放電の防止のために、圧力の高い領域が生じている。本発明に基づく媒体インジェクタにおいては、2つの電極間の間隙スペース内へのガス供給は、アークの発生なしに行われる。この場合に電極には任意の電位を生ぜしめてよい。一方の電極はアース電位であってもよい。
【0034】
本発明に基づく媒体インジェクタをプラズマ源に用いてある場合には、イオン流密度は極めて高く、アーク発生率は低くなっている。さらに、イオン流密度の最適な分布及び活性化された反応性の種、例えば活性酸素の最適な分布を可能にしている。
【0035】
本発明に基づく媒体インジェクタは、有利にはヨーロッパ特許出願公開第0463203A1号明細書により公知のプラズマ源に用いられるものである。したがって該明細書の記載内容は、本発明の実施のために利用され得るものである。プラズマ源は電子放出器を有し、かつプラズマの発生のためのプロセスガス用の入口を備えており、前記電子放出器は下流側で管状若しくはチューブ状の陽極に接続されている。さらにプラズマ源は、プラズマを陽極管に向けかつ該陽極管から処理室若しくはプロセス室内へ導くためにマグネットを備えている。処置室内には、材料の原子、分子若しくはクラスターを形成して基板若しくはサブストレート上に層を形成するための装置を配置してある。このような装置は有利には電子ビーム蒸着器、熱式蒸着器若しくはスパッタリング陰極である。プラズマ源はさらに遮蔽暗部を備えており、遮蔽暗部は不都合なプラズマを遮断するようになっている。基板の被覆のための公知の装置、若しくは該装置に用いられるプラズマ源においては、ガスは入口接続管片を通して不均一な分布状態で供給室内へ送られる。ヨーロッパ特許出願公開第1154459A2号明細書により公知の同種のプラズマ源においては、反応ガスの供給はプラズマ源の上側のガスリングを通して行われる。本発明ではプラズマ源におけるガスの供給は、少なくとも本発明に基づく媒体インジェクタを通して行われる。
【0036】
図7には、プラズマ源のための、2つの電極16,17間に配置されたガス噴出器21を備えた本発明に基づく媒体インジェクタMIを示してある。1つの間隙を有するガス噴出器21においては、本発明に基づく2つの媒体インジェクタを互いに内外に位置した、即ち入れ子式に配置した構成をとることになる。ガス噴出器21は、孔やスリット若しくはノズルを備えた慣用のガス噴出器として形成され、或いは孔とノズルとを組み合わせたガス噴出器として形成されていてよい。ガス噴出器21と電極16,17との間の間隙22は、部材若しくは物質で部分的に若しくは完全に満たされていてよい。別の実施態様では、ガス噴出器21は一方の電極16,17内に組み込まれ若しくは統合されていてよい。この場合に電極16,17間の中間スペースは同じく物質若しくは部材、例えば絶縁体で完全に若しくは部分的に満たされていてよい。図7に示す構成は、鏡面対称的に形成された第2の構成によって補完されてよく、有利には円形の横断面を有し、若しくは少なくとも部分的に閉じた横断面形状を有している。
【0037】
本発明の図8の実施例は、プラズマ源として特に有利な構成を示しており、該構成においては、電極16,17の前の領域にプラズマを形成するようになっている。電極16,17は必ずしもプラズマの作動形の電極(陰極、陽極、HF-電極等)でなくてもよい。電極は有利には横断面円形のインジェクタの構成部分である。電極16,17間の中間室若しくは間隙スペースは、複数の構成部材若しくは充填部材13,18,19,21で満たされている。ガス噴出器21の前にガス噴出リング13を配置してあり、構成要素を管状部材(チューブラエレメント[tubular element])として成形してある場合に、ガス噴出リング(ガスシャワーリング)の端面13aは第1の間隙画成面(間隙画定面又は間隙制限面)を形成しているのに対して、第2の間隙画成面は電極16の端面16aによって形成されている。ガス噴出リング13及びガス噴出器21と電極17との間の空間若しくはスペースは、少なくとも部分的に構成部材若しくは構成部品18によって満たされていてよい。ガス噴出器21と電極16との間には構成部材若しくは構成部品19を設け、若しくは充填してあってよい。媒体インジェクタMIの領域内の電場に影響を及ぼすために、別の電極23を設けてあり、該電極は電極16,17と同じ電位若しくは異なる電位を生ぜしめられるようになっていてよい。電極16によってプラズマ源の出口開口部を規定してある場合には、電極16は有利にはアース電位にあり、外側の部分に対する遮蔽部を形成している。構成部品19のために用いられる材料に依存して、ガス噴出器21は電極16と同じ若しくは異なる電位にある。構成部品18を絶縁体として形成してある場合には、ガス噴出リング13に変動電位を生ぜしめてよい。間隙スペース7は有利にはファラデー暗部を成しており、ガス通路11から到来するガスは前記ファラデー暗部を通して、発生しているプラズマ内に注入される。電極23は孔24を有していてよく、該孔は、閉じられた中空室の排気のために用いられる。さらに構成部材若しくは構成部品20を設けてあってよく、該構成部品は電極23を電極17及び/又はガス噴出器21に対して絶縁している。図8に示してある構成要素、特に構成部品18,19,20及び/又は孔24を省略することもできる。さらに、複数の電極を備えたプラズマ源において電極16にアース電位と異なる電位を作用させると有利である。本発明に基づく媒体インジェクタの構成要素7,13,16は、傾斜した1つの面を形成しており、これによってプラズマのための凹状の出口開口が成形されている。
【0038】
本発明に基づく媒体インジェクタの図8に示す実施例は、個別の構成部分を有利には幾何学形状によって互いに堅く固定するように形成されており、この場合に構成部分は互いに内周と外周とを適合されていて、形状係合的に及び/又はほかの固定手段によって機械要素、例えばブッシュ、スリーブ、ねじ、若しくはピン等を用いて固定されてよい。このような機械要素は非導電性の材料、例えばセラミック若しくはプラスチックから成形されていてよい。各構成要素は冷却媒体、熱伝導体若しくは放熱手段を用いて強く若しくは軽く冷却されるようになっていてよい。各構成要素は所定の部材から成っていて、かつ少なくとも部分的に異なる少なくとも1つの部材で被覆されていてよい。構成部材若しくは構成部品18は有利にはセラミック若しくは銅から成っており、銅はセラミックで被覆されていてよく、必要に応じて熱伝導率の高い部材を電極17に設けて、該電極を強く若しくは軽く冷却するようになっていてよい。別の実施態様では構成部品18は磁気性のヨークリングとして形成されていてよい。ガス噴出リング13は有利にはプラズマに対して安定した材料、例えばチタン、タンタル、タングステン、モリブデン、炭素、ニオブ、若しくはセラミックから成っている。電極17は有利には、別の構成要素、例えば電極16若しくはガス噴出器21で発生した熱を導き出すために熱伝導率の高い材料から成っている。熱を排出するために、電極17と熱の発生する構成要素とは良好に熱接触されている。電極17を冷却するために、電極17は熱伝導率の高い材料、例えば銀、銅若しくはアルミニウムから成っており、適切な被覆を施されていると有利である。熱放射率の高い材料若しくは電気絶縁作用のある材料も有利である。電極23は別の構成部分と同じく例えば黒く被覆され、特に陽極酸化されていてよい。
【0039】
図8の有利な実施態様では、電極16,23間の堅い結合は確実な電気接続並びに機械的な高い安定性を保証している。このような安定的な構成は電極16,23と別の電極、例えば電極17若しくは構成部品との間の短絡を防止している。複雑な装置の機械的な形状安定性は、互いに結合されるすべての構成部分を位置決め付加部(センタリング付加部)によって形状係合的に、つまり形状による束縛に基づき互いに結合固定し、及び/又はねじ結合し、若しくはピン止め或いはリベット止めすることによって達成される。
【0040】
図9に図8の実施例の変化例(別の構成)を示してあり、この場合に図面を見やすくするために図8の構成部分と同一の構成部分の図示を省略してあり、該構成部分は該変化例に用いられ得るものである。電極16は図9では少なくとも部分的に付加的なプラズマシールド25を備えている。プラズマシールドは有利には、プラズマに対して安定した材料、例えばタンタル、チタン、ニオブ、モリブデン、タングステン、炭素、若しくはセラミック(例えばアルミナ、窒化ホウ素等)から成っていて、電極16に取り外し可能に取り付けられていてよい。冷却のために冷却部材26をガス噴出器21に取り付けてあり、ガス噴出器は積極的に、つまり強く冷却されるようになっている。構成部材若しくはガス噴出器は表面を冷却面として形成されていてよい。冷却面に対応して冷却媒体回路を配置してあってよく、冷却面は凹凸若しくは冷却ひれとして形成され、若しくは冷却面は熱排出手段を用いて冷却されるようになっていてよい。冷却部材を単数若しくは複数の冷却媒体によって冷却する場合には、冷却媒体用の管路は少なくとも部分的にフレキシブルに形成されていると有利である。すべての電極及び/又はガス噴出器の冷却装置を設けてあると有利である。冷却は冷却面によって、例えばねじ結合されていて水が貫流する部分によって行われてよい。
【0041】
図10には本発明の別の実施例を示してあり、該実施例ではガス供給通路若しくはガス供給管路1は電極17を貫通してガス噴出器21へ導かれている。電極17とガス噴出器21とに異なる電位を生ぜしめる場合には、ガス供給管路1は電極17に対して絶縁してあり、若しくは互いに異なる電位を有する構成部分間に絶縁体若しくは半導体を設けてある。
【0042】
ガス供給管路1内での寄生プラズマを遮断するために、メッシュ若しくはグリッド27或いは多孔性の部材を装着してあり、グリッド若しくは多孔性の部材は金属、絶縁体若しくは半導体から成っていてよい。さらに図10にはガス噴出リングの代わりにディフューザ28を配置してあり、ディフューザは有利にはプラズマに対して安定した多孔性、織物状若しくはスポンジ状の材料から成っている。
【0043】
本発明に基づく媒体インジェクタは、種々の形状の構成を有している。プラズマ源と関連して、図11及び図12に有利な構成の実施例を示してある。本発明は、プラズマ源と一緒に用いることに限定されるものではない。
【0044】
図11は、回転対称的な媒体インジェクタの横断面を示しており、該媒体インジェクタは両側にガス供給管路1を備えている。ガス噴出器21内ではガス通路11を用いてガスを分配している。ガスはガス出口のための開口部2を通って、ガス噴出器21とガス噴出リング13との間の空間内へ流れるようになっている。次いでガスは、有利には溢流部若しくはオーバーフロー部を備えた通路として形成されたガス噴出リング13を経て内側へ処理室8内に流入するようになっている。図12には、方形構造の媒体インジェクタMIを示してあり、この場合に残りの部分は図11の実施例と同じ構造である。
【0045】
プラズマ源の有利な実施態様では、陽極は筒状の形状を有していて、かつすでに公知技術で知られているように、陰極に対して軸線方向にずらして配置されている。媒体は有利には間隙を通して、陽極に対して軸線方向にずらされて処理室の、陰極と相対する側に配置された領域内へ、若しくは陽極と陰極との間に配置された領域内へ供給される。若しくは媒体は、処理室の、陰極の側に配置された領域内へ陰極に対して軸線方向にずらして供給されるようになっていてよい。さらに有利には、媒体は間隙を通して、処理室の陽極及び/又は陰極の領域内に供給されるようになっている。陰極と陽極との間での軸線方向のずれはプラズマ源の機能にとって重要ではない。
【0046】
図13は、シリンダー状若しくは筒状のプラズマ源にとって有利な媒体インジェクタMIの斜視図である。ガス供給管路1は電極23を通してガス噴出リングへ導かれている。プラズマ源は、電極16によって形成された平らな端面及び/又は傾斜された端面を有している。別の実施態様では端面は、規定された曲線に沿って形成されていてよく、例えばラバル管のように形成されていてよいものである。電極16の下側にガス噴出リング13を配置してあり、これによって間隙スペース7は電極16の下面とガス噴出リング13との間に形成されている。ガス噴出リング13は構成部品18上に装着されており、該構成部品自体は電極17上に装着されている。図2乃至図11の実施例で述べた構成要素及び材料は、図13の実施例でも有利に用いられるものである。さらに、電極17内に挿入されて該電極を汚れから保護する保護管を設けることも可能である。発生した汚れを保護管上に保持して、汚れが再びプラズマ内に達するのを防止するために、保護管はプラズマに向いた内周面を粗く形成され、若しくはローレットで刻み目を付けられている。保護管は抜き取られてクリーニングされるようになっている。
【0047】
プラズマ源は図示省略の構成要素、例えば電子放出器並びにプラズマの所定方向への案内のための最適なマグネットを有していて、プラズマ源の外側へ延びるプラズマビームを形成するようになっている。筒状の電極装置16,17,23の内部の間隙スペース7の位置決めは、例えばプラズマ源の外側に生ぜしめられる被覆材料の原子、分子若しくはクラスタによる間隙画成面への直接的な蒸着を減少させる、若しくは完全に防止するのに役立っている。したがって、少なくともガスの供給のための輸送開口部のパラメータを変えないでいるかぎりにおいて、高い運転安定性を達成している。本発明に基づき形成されたプラズマ源によって生ぜしめられるプラズマビームは、例えばヨーロッパ特許出願公開第0463203A1号明細書若しくはヨーロッパ特許出願公開第1154459A2号明細書に記載の従来のプラズマ源によって達成されるものよりも幅広くなっている。これによって、被覆すべき基板若しくはサブストレート上への均質な層分布を達成することができる。特にプラズマ源の対称軸線からの半径方向の距離の大きな領域での高い均一性を達成できるようになっている。さらにプラズマ源の対称軸線を基準とした中央の領域で、前記公知の装置に対してほぼ25%高いイオン流密度を達成できるようになっている。プラズマ源の対称軸線を中心とした周辺領域でのイオン流密度の増大はほぼ50%である。
【0048】
本発明に基づく媒体インジェクタは、基板若しくはサブストレートの被覆のためのスパッタリング装置に用いられると有利である。この種のスパッタリング装置は、処理室内にスパッタリングガス及び/又は反応ガスのための少なくとも1つのガス入口装置及びスパッタリング陰極を有しており、スパッタリング陰極は少なくとも1つのスパッタリングターゲットを含んでいる。少なくとも1つのガス入口装置は、本発明に基づく媒体インジェクタとして形成されている。スパッタリング装置の運転時にはスパッタリング陰極を介してプラズマを形成し、若しくはスパッタリング陰極と高エネルギーの粒子との衝突を生ぜしめるようになっている。図14の断面図に示してあるように、ガス噴出器21はスパッタリング陰極の近傍に配置されている。ガスはガス供給管路1を通して、管状部材によって形成されたガス噴出器21内に供給され、かつ通路11を経て、ガス流出のための複数の開口部2若しくは1つの間隙スペース7によって分配される。
【0049】
図14に示す構成は、スパッタリング陰極29の近傍へのガスの供給を可能にするものである。ガスのこのような供給は、ほかの箇所でガスを処理室内へ送り込む方法に比べてガスの必要な量を減少させている。ガスの部分圧はガス入口の箇所で最大であるので、比較的低い圧力で処理を行うことになる。反応ガスによってスパッタリング処理を改善する場合には、スパッタリング電極の近傍で反応ガスを送り込むと有利である。
【0050】
図14に示してあるスパッタリング装置は、さらに遮蔽部材31を有しており、遮蔽部材は少なくとも部分的にスパッタリング陰極29と異なる電位に設定されている。多くの場合、装置アースの電位に設定された遮蔽を選ぶようになっている。この場合にガス供給はスパッタリング電極のファラデー暗部で行われ、ガス噴出器21に生じる間隔は相応に小さく設定されている。
【0051】
スパッタリング陰極29及び遮蔽部材31に対するガス噴出器21の組み付け及び/又は調節及び/又は電気的絶縁のために取り付け部材32,33を設けてある。少なくとも一時的に異なる電位をガス噴出器21、スパッタリング陰極29及び遮蔽部材31に生ぜしめるようになっている場合には、これらの構成要素は互いに電気的に絶縁されている。適切な形状付与によって、ガスは確実にスパッタリング陰極29のプラズマに向かって流れるようになっている。
【0052】
図5にはスパッタリング装置の別の実施例を示してあり、該スパッタリング装置の間隙スペース7は、スパッタリング陰極29と管状部材から成るガス噴出器21との間に形成されていて、スパッタリング陰極29に沿ったガス供給を可能にしている。
【0053】
図16に示してあるスパッタリング装置はガス噴出リングを備えており、該ガス噴出リングは2つの構成要素13,14によって形成されている。ガス噴出器21とガス噴出リング13,14とは互いに自動的に中心位置決め、つまりセンタリングされるように形成されている。ガス噴出リング14は絶縁体から製造されていてよく、ガス噴出リング13は変動電位を生ぜしめられるようになっていてよい。別の実施態様ではガス噴出器21は別の構成要素に対して完全に絶縁して形成されている。
【0054】
ガス噴出器21及びガス噴出リング13,14はドイツ連邦共和国特許出願公開第2149606号明細書に記載の遮蔽部材に類似して形成されていてよい。該明細書の記載内容は本発明にも当てはまる。ドイツ連邦共和国特許出願公開第2149606号明細書に記載されている中間遮蔽部29,22で、スパッタリング陰極29の近傍に、本発明に基づく媒体インジェクタとして形成されたガス流入装置を組み込んである。
【0055】
スパッタリング陰極29及びガス噴出器21並びにガス噴出リング13,14の組み付け及び/又は調節及び/又は電気的な絶縁のために、図16に示してあるようにさらに構成部材若しくは構成部品32,34を設けてあってよく、該構成部品は陰になる部分の形成のための突起部35を有している。別の実施態様では、相応の突起部35は別の構成部材、例えばガス噴出器21内に組み込まれている。例えば間隙7若しくは22の領域に達する物質は、突起部35の領域で層として沈積される。このようにして、不都合に分離された層により構成部材間の導電性の結合を生ぜしめてしまうようなことは避けられる。絶縁性の構成部品32,34は、構成部分21によって結合されて1つの構成部品として形成されていてよい。
【0056】
図17には別のスパッタリング装置を示してあり、該スパッタリング装置はスパッタリングガス及び/又は反応ガスのためのガス入口装置として本発明に基づく媒体インジェクタを備えており、この場合に間隙スペース7はスパッタリング陰極29のスパッタリング表面30の上側の領域に対応して配置されている。これにより、ガスは外側から直接にスパッタリング表面30の上側の空間内のスパッタリングプラズマに供給されるようになっている。間隙スペース7は有利には全周にわたって配置されている。ガスの供給はガス供給管路1を通してガス噴出器21内へ行われ、かつガスは通路11によって分配される。通路11からのガスの流出は出口開口部2を介して行われる。間隙スペース7は一方で遮蔽部材31によって、かつ他方でガス噴出リング13によって画成されている。遮蔽部材31及び/又はガス噴出リング13は本発明に基づき管状部材として形成されている。必要に応じて間隙画成面は、遮蔽部材31の端面31aによって形成されている。
【0057】
スパッタリング陰極及びガス噴出リング13は、図示の実施例では電気絶縁性の構成部材32によって保持されており、該構成部材はガス噴出リング13に対するガス噴出器21の位置決めに役立ち、かつスパッタリング陰極29に対するガス噴出器21及びガス噴出リング13の位置決めに役立っている。遮蔽部材31とガス噴出器21との間に電気絶縁性の別の構成部品34を配置してあり、該構成部品はガス噴出器21に対する遮蔽部材31の位置決めに用いられている。構成部品32は、電気的な短絡を生ぜしめてしまうことになる連続した層の形成を阻止するために突起部35を有している。構成部品34も、構成部品32と同じように、突起部35を有するように形成されていてよい。互いに結合される各構成部材の使用された材料に関連して、構成部品32,34の電気絶縁性の機能は省略されてよい。このことは、同じ電位(例えばアース電位)に規定されている隣接の構成部材、例えばガス噴出器21及び遮蔽部材31にも当てはまる。
【0058】
本発明に基づくスパッタリング装置の別の実施態様では、1つのスパッタリング陰極の領域に複数のガス噴出器を設けて、スパッタリング表面若しくは被覆すべき基板に対して異なる距離からガスを供給するようにしてある。これによって、処理の行われる箇所でガスの粒子密度を高くすることができる。さらに、スパッタリングターゲットの表面への酸化物の付着によりスパッタリング効果が減少することを考慮することができる。酸化物は基板に施されるものである。酸素を基板に近づけかつスパッタリングガスをスパッタリングターゲットに近づけると有利である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】公知技術のリング形噴出器を示す図
【図2】媒体インジェクタの斜視図
【図3】媒体インジェクタの間隙構成を示す図
【図4】予備室を備えた媒体インジェクタの断面図
【図5】溢流部を備えた媒体インジェクタの断面図
【図6】構成部材で満たされた間隙スペースの構成を示す断面図
【図7】2つの電極間に配置されたガス噴出器を備える媒体インジェクタの断面図
【図8】プラズマ源にとって有利な媒体インジェクタの断面図
【図9】図8の媒体インジェクタの変化例の断面図
【図10】プラズマ源にとって有利な別の実施例の媒体インジェクタの断面図
【図11】回転対称的な構造の媒体インジェクタの水平断面図
【図12】方形構造の媒体インジェクタの水平断面図
【図13】媒体インジェクタを備えた回転対称的な構造のプラズマ源の斜視図
【図14】媒体インジェクタを備えるスパッタリング装置の垂直断面図
【図15】媒体インジェクタを備える別の実施例のスパッタリング装置の垂直断面図
【図16】媒体インジェクタを備える更に別の実施例のスパッタリング装置の垂直断面図
【図17】媒体インジェクタを備える更に別の実施例のスパッタリング装置の垂直断面図
【符号の説明】
【0060】
1 ガス供給管路、 2 出口開口部、 3 ガス管路、 4 間隙、5,6 間隙画成面、 7 間隙スペース、 8 処理室、 9,10 構成部材、 11,12 ガス通路、 13 ガス噴出リング、 13a 端面、 14,15 構成部材、 16 電極、 16a 端面、 17 電極、 18,19,20 構成部材、 21 ガス噴出器、 22 間隙、 23 電極、 24 孔、 25 プラズマシールド、 26 冷却部材、 28 ディフューザ、 29 スパッタリング陰極、 30 スパッタリング表面、 31 遮蔽部材、 32,33,34 取り付け部材、35 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体、特に流動状の媒体を処理室内へ輸送するための媒体インジェクタであって、有利には1つの供給装置及び媒体のための輸送開口部としての少なくとも1つの間隙を備えており、この場合に間隙は少なくとも2つの間隙画成面を有しており、該間隙画成面は該間隙画成面間に配置された間隙スペースを形成している形式のものにおいて、少なくとも1つの間隙画成面は、第1の管状部材の少なくとも1つの端面の少なくとも一部分によって形成されていることを特徴とする媒体を処理室内へ輸送するための媒体インジェクタ。
【請求項2】
第1の間隙画成面に相対して位置する第2の間隙画成面は、第2の管状部材の端面の少なくとも一部分によって形成されている請求項1に記載の媒体インジェクタ。
【請求項3】
第1の間隙画成面に相対して位置する第2の間隙画成面は、非管状の部材の有利には平らな表面によって形成されている先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項4】
所定のパターンの間隙スペースの形成のための複数の端面を設けてある先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項5】
間隙は少なくとも2つの円弧状間隙によって形成されている先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項6】
管状部材は、一貫した1つの間隙の形成のために、周囲の閉じられた横断面を有している先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項7】
管状部材は円形、楕円形、多角形若しくは正方形或いは長方形の横断面を有している先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項8】
管状部材は中実材料から穿孔によって成形されており、若しくは溶接結合成形された管、或いは引き抜き成形された管、若しくは継ぎ目なし管から成っている先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項9】
少なくとも1つの構成部材、若しくは構成部分及び/又は構成部品の位置決めは、形状係合の結合固定部によって行われている先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項10】
間隙は、互いに上下に重ね合わされかつ互いに離間された2つの円形リングによって画成されている先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項11】
円形リングは相互の中心位置決めのために、若しくは相互の自動的な中心位置決めのために互いに内外に位置するように形成されている先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項12】
媒体流体に影響を及ぼすために、特に媒体流体の均一性を高めるために、間隙の上流側に少なくとも1つの予備室若しくは前室を設けてあり、該予備室若しくは前室は有利には孔状及び/又は間隙状の開口部を介して処理室に接続されている先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項13】
間隙スペース内に、若しくは間隙スペースと接続されたスペース領域内に、流れのよどみの区域の形成のための突起部を設けてある先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項14】
間隙スペースの少なくとも一部分に、少なくとも1つの充填部材を配置してある先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項15】
少なくとも1つの充填部材は、間隙スペース内への媒体の輸送のための予備室を有している請求項14に記載の媒体インジェクタ。
【請求項16】
少なくとも1つの充填部材は、少なくとも1つの管状部材によって成形されている請求項14又は15に記載の媒体インジェクタ。
【請求項17】
少なくとも1つの管状部材内に少なくとも1つの供給通路若しくは供給管路を組み込んである先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項18】
少なくとも1つの構成部材、若しくは構成部分及び/又は構成部品は冷却部材を備えている先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項19】
構成部材、若しくは構成部分及び/又は構成部品のための材料として、導体、有利には金属、特に鋼、特殊鋼、チタン、アルミニウム、銅、タンタル、タングステン、モリブデン、黒鉛、半導体、及び/又は絶縁体、有利にはセラミック若しくはプラスチックを用いてある先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項20】
少なくとも1つの構成部材、若しくは構成部分及び/又は構成部品の表面の少なくとも一部分は、別の材料、特に保護作用の被覆材料によって被覆されている先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項21】
間隙は電極装置の一部分を成している先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項22】
間隙画成面の少なくとも一部分に、少なくとも一時的に種々の電位を生ぜしめるようになっている先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項23】
間隙は処理室を少なくとも部分的に取り囲んでいる先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項24】
媒体インジェクタはプラズマ装置のプラズマ室内への媒体の供給のために用いられており、プラズマ室内に有利には表面の被覆若しくは処理のためにプラズマを形成するようになっている先行の請求項のいずれか1項に記載の媒体インジェクタ。
【請求項25】
プラズマは、磁場を用いることなしに若しくは磁場を用いて、或いは電子源若しくはイオン源を用いて自動的なガス放電若しくは非自動的なガス放電によって形成されるようになっている請求項24に記載の媒体インジェクタ。
【請求項26】
間隙はプラズマのファラデー暗部に対応して配置されている請求項24又は25に記載の媒体インジェクタ。
【請求項27】
少なくとも1つの媒体インジェクタを備えたプラズマ及び/又はイオン装置において、媒体インジェクタは請求項1から26のいずれか1項に記載の構成で形成されていることを特徴とする、媒体インジェクタを備えたプラズマ及び/又はイオン装置。
【請求項28】
装置は、ガスのイオン化用の電子の形成のための少なくとも1つの陰極及び該陰極に対応して配置された少なくとも1つの陽極を備えた電子源として形成されている請求項27に記載のプラズマ及び/又はイオン装置。
【請求項29】
陰極及び陽極は処置室内に配置されている請求項28に記載のプラズマ源。
【請求項30】
陽極は筒状若しくはシリンダー状の形状を有していて、陰極に対して軸線方向にずらして配置されている請求項28又は29に記載のプラズマ源。
【請求項31】
媒体は間隙を通して、処理室の、陽極に対して軸線方向にずらして陰極と逆の側に配置された領域内へ供給されるようになっている請求項28から30のいずれか1項に記載のプラズマ源。
【請求項32】
媒体は間隙を通して、処理室の、陽極と陰極と間に配置された領域内へ供給されるようになっている請求項28から31のいずれか1項に記載のプラズマ源。
【請求項33】
媒体は処理室の、陰極の側に配置された領域内へ、かつ陽極に対して軸線方向にずらして供給されるようになっている請求項28から32のいずれか1項に記載のプラズマ源。
【請求項34】
媒体は間隙を通して、陽極及び/又は陰極の領域内へ供給されるようになっている請求項28から33いずれか1項に記載のプラズマ源。
【請求項35】
基板を被覆するためのスパッタリング装置であって、スパッタリングガス及び/又は反応ガスのための少なくとも1つのガス入口装置若しくはガス入口部及びスパッタリング陰極を含んでおり、スパッタリング陰極は少なくとも1つのスパッタリングターゲットを有している形式のものにおいて、少なくとも1つのガス入口装置は請求項1から26のいずれか1項に記載の媒体インジェクタとして形成されていることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項36】
媒体インジェクタの間隙は、スパッタリングターゲットのスパッタリング表面の上側の領域内に配置されている請求項35に記載のスパッタリング装置。
【請求項37】
少なくとも1つの間隙画成面は、遮蔽構成要素として、若しくは遮蔽構成要素の一部分として形成されている請求項35から36のいずれか1項に記載のスパッタリング装置。
【請求項38】
互いに同じガス若しくは異なるガスの供給のために、少なくとも2つの、有利には互いに軸線方向及び/又は半径方向で互いにずらされた間隙を設けてある請求項35から37のいずれか1項に記載のスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2008−503036(P2008−503036A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515815(P2007−515815)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【国際出願番号】PCT/EP2005/005949
【国際公開番号】WO2005/124819
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(502239900)ライボルト オプティクス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (22)
【氏名又は名称原語表記】Leybold Optics GmbH
【住所又は居所原語表記】Siemensstrasse 88, D−63755 Alzenau, Germany
【Fターム(参考)】