説明

媒体送り装置、記録装置

【課題】被送り媒体の剛性が異なる場合における重送問題および不送り問題を考慮した媒体送り装置を提供すること。
【解決手段】媒体送り装置(2)は、載置部11と、送り手段(3)と、傾斜した面(13)を有する分離手段12と、を備え、前記送り手段は、送り方向Yへ変位可能な送りローラー(3)を有しており、駆動する前記送りローラー(3)が被送り媒体(P)に対して作用する被送り媒体を送り方向下流側へ送る力(F)に対する反作用力として、送り方向上流側へ該送りローラーを変位させようとする力(R)が被送り媒体(P)から前記送りローラー(3)に作用し、前記反作用力(R)の大きさが所定の力(P2の場合のR1+R2)の大きさより大となったとき、前記送りローラー(3)は前記反作用力によって送り方向上流側へ変位するように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被送り媒体が載置される載置部と、該載置部に載置された被送り媒体の積層方向最上位の被送り媒体と接触し被送り媒体を送り方向下流側へ送る送り手段と、該送り手段より下流側に設けられ、前記載置部に載置された被送り媒体の側視した姿勢に対して傾斜した面を有し、前記送り手段によって送られる被送り媒体の送り方向下流端である先端が前記面と当接することにより前記送り手段に対して最上位の被送り媒体と次位以降の被送り媒体とを分離する分離手段と、を備えた媒体送り装置および該媒体送り装置を備えた記録装置に関する。
本願において、記録装置には、インクジェットプリンター、ワイヤドットプリンター、レーザープリンター、ラインプリンター、複写機、ファクシミリ等の種類が含まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
従来では、特許文献1に示す如く、媒体送り装置としての給紙装置は、用紙が載置される用紙カセットと、該用紙カセットを収容する本体部と、該本体部に設けられた給紙ローラーと、を備えていた。そして、前記本体部側または前記用紙カセット側のいずれかに、前記本体部に対する前記用紙カセットの位置を切り換える位置調整手段が設けられていた。そして、ユーザーが用紙の剛性に応じて、前記位置調整手段を切り換えるように設けられていた。従って、剛性の異なる薄紙および厚紙の両方を送ることが可能だった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−48640号公報
【特許文献2】特開2003−146455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、ユーザーが手動で切り換え操作する必要、手動でドライバー上の設定を行う必要、または、手動でプリンター上の用紙の設定を行う必要があり、操作を誤る虞があった。また、自動化すると、駆動機構が必要となり構成が複雑となる。また、コストアップの虞もある。
そこで、従来では、特許文献2に示す如く、媒体送り装置としてのシート給送装置は、送り方向において給送ローラーを二つ有する構成があった。
【0005】
しかしながら、前記給送ローラーを複数設けると、コストアップの虞がある。また、前記給送ローラーを選択するための操作をユーザーが誤る虞がある。また、自動化すると、検出手段、切り換え機構や駆動機構が必要となり構成が複雑となる。また、さらにコストアップの虞もある。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑み成されたものであり、その課題は、被送り媒体の剛性が異なる場合における重送問題および不送り問題を考慮した媒体送り装置および該媒体送り装置を備えた記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様の媒体送り装置は、被送り媒体が載置される載置部と、該載置部に載置された被送り媒体の積層方向最上位の被送り媒体と接触し被送り媒体を送り方向下流側へ送る送り手段と、該送り手段より下流側に設けられ、前記載置部に載置された被送り媒体の側視した姿勢に対して傾斜した面を有し、前記送り手段によって送られる被送り媒体の送り方向下流端である先端が前記面と当接することにより前記送り手段に対して最上位の被送り媒体と次位以降の被送り媒体とを分離する分離手段と、を備え、前記送り手段は、駆動するように設けられ、前記載置部に載置された被送り媒体と接触し、送り方向へ変位可能な送りローラーを有しており、駆動する前記送りローラーが被送り媒体に対して作用する被送り媒体を送り方向下流側へ送る力に対する反作用力として、送り方向上流側へ該送りローラーを変位させようとする力が被送り媒体から前記送りローラーに作用し、前記反作用力の大きさが所定の力の大きさより大となったとき、前記送りローラーは前記反作用力によって送り方向上流側へ変位するように構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、前記送りローラーを被送り媒体のコシの強さに応じて変位させることができる。そして、被送り媒体のコシの強さに応じて前記分離手段の前記面から前記送りローラーと被送り媒体との接触箇所までの距離を長くすることができる。これにより、被送り媒体を容易に撓ませることができる。これにより、例えば、被送り媒体の先端が前記面に突き当たった際の該先端と前記面との間で生じる摩擦抵抗を撓ませない場合と比較して小さくすることができる。その結果、被送り媒体の先端が前記分離手段を通過するために必要な搬送負荷を小さくすることができる。
即ち、ユーザーが操作することなく、異なる剛性の被送り媒体に対応することができる。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記送り手段は、一端側である下流側に前記送りローラーを回動可能に保持し、前記送りローラーより上流側である他端側を中心に揺動するアーム機構を有し、該アーム機構は、揺動中心から前記送りローラーまでの距離が変化する構成であり、前記距離が、前記送りローラーが前記反作用力によって前記変位する前の初期位置の状態の距離より短くなった際、該アーム機構の前記距離を長くし前記送りローラーを前記初期位置に戻すように力を作用させる手段をさらに備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、第1の態様と同様の作用効果に加え、前記送りローラーが上流側へ変位する際に、前記アーム機構の先端が最上位の被送り媒体との間にくい込もうとするように揺動する。この際、くい込もうとすることにより前記送りローラーの被送り媒体に対する押圧力を増大させることができる。即ち、前記送りローラーと最上位の被送り媒体との間における垂直抗力を増大させることができる。
【0011】
その結果、前記送りローラーが被送り媒体を送り方向下流側へ送る力である送り力を増大させることができる。
尚、前記アーム機構の前記距離が変化する構成は、前記アーム機構の揺動中心と前記送りローラーとの間が屈曲する構成でもよいし、複数の部材が相対的にスライドして伸縮する構成でもよい。
【0012】
本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記アーム機構は、前記他端側を中心に揺動する第1アーム部と、該第1アーム部の送り方向下流側に設けられ、上流側が該第1アーム部の下流側と連結されており、下流側に前記送りローラーを回動可能に保持する第2アーム部と、を有し、前記第1アーム部と前記第2アーム部とが連結された箇所の屈曲量が大きくなることにより、前記送りローラーが送り方向上流側へ変位する構成であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第3の態様によれば、第2の態様と同様の作用効果に加え、前記反作用力によって前記第1アーム部と前記第2アーム部との間における前記アーム機構の屈曲量を大きくすることができる。
尚、前記反作用力によって前記送りローラーが変位する前の状態では、前記アーム機構は屈曲してもよいし、屈曲していなくてもよい。いずれの場合も同様の作用効果を得ることができるからである。即ち、前記送りローラーが送り方向上流側へ変位する際に屈曲量が大きくなればよく、変位する前の状態において屈曲の有無はどちらでもよい。
【0014】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記送りローラーを前記初期位置に戻すように力を作用させる手段として、前記第1アーム部と前記第2アーム部との屈曲量が大きくなった際、上流側の前記第1アーム部を前記屈曲量が小さいときの姿勢に戻す方向へ力を作用させる第1のばねをさらに備えていることを特徴とする。
本発明の第4の態様によれば、第3の態様と同様の作用効果に加え、前記屈曲量が大きくなった際、前記第1のばねの付勢力によって前記送りローラーが最上位の被送り媒体を押圧する力を増大させることができる。これは、前記距離が短くなるとともに、前記第1のばねの弾性変形量が大きくなるからである。従って、前記送り力を増大させることができる。その結果、より確実にコシのある被送り媒体を送ることができる。
また、送った後にアーム機構をもとの姿勢に戻ることが可能である。
【0015】
本発明の第5の態様は、第3または第4の態様において、前記送りローラーを前記初期位置に戻すように力を作用させる手段として、前記第1アーム部と前記第2アーム部との屈曲量が大きくなった際、前記第1アーム部および前記第2アーム部を相対的に屈曲量が小さいときの姿勢に戻す方向へ力を作用させる第2のばねをさらに備えていることを特徴とする。
本発明の第5の態様によれば、第3または第4の態様と同様の作用効果に加え、前記第2のばねの付勢力の大きさを適度に設定することによって被送り媒体の剛性に応じて前記送りローラーの位置を変位させることができる。即ち、被送り媒体の剛性の高低に応じて前記分離手段の前記面から前記送りローラーと被送り媒体との接触箇所までの距離を所望の距離とすることができる。
【0016】
本発明の第6の態様は、第3から第5のいずれか一の態様において、前記送り手段は、前記第1アーム部側から第2アーム部側の前記送りローラーへ動力を伝達する歯車輪列をさらに有しており、前記送りローラーの軸の歯車を含める数え方で該軸側から偶数番目の歯車を中心として前記第1アーム部と前記第2アーム部とが屈曲する構成であることを特徴とする。
【0017】
本発明の第6の態様によれば、第3から第5のいずれか一の態様と同様の作用効果に加え、動力伝達によって前記第1アーム部を基準として前記第2アーム部に対して前記送りローラーが被送り媒体に接近する方向への力を作用させることができる。従って、屈曲する角度(屈曲量)が大きくなるに従って前記送りローラーが被送り媒体を押圧する力を大きくすることができる。
【0018】
本発明の第7の態様は、第6の態様において、被送り媒体として第1の媒体と、該第1の媒体より剛性の高い第2の媒体とを送ることができるように構成されており、前記送りローラーが被送り媒体から受ける前記反作用力によるモーメントをM1、前記第1アーム部と前記第2アーム部とが屈曲する箇所の歯車が前記第1アーム部に作用する力によるモーメントをM2、前記第1アーム部と前記第2アーム部との屈曲量を小さくするように作用する力によるモーメントをM3、とすると、被送り媒体が前記第1の媒体である場合、M3≧M1+M2の関係が成立し、被送り媒体が前記第2の媒体である場合、M3<M1+M2の関係が成立する構成であることを特徴とする。
本発明の第7の態様によれば、第6の態様と同様の作用効果に加え、上記の関係が成立するので、より確実に前記第1の媒体および前記第2の媒体に対応することができる。即ち、いずれの被送り媒体をも確実に送ることができる。
【0019】
本発明の第8の態様の記録装置は、被記録媒体を送り方向へ送る媒体送り手段と、該媒体送り手段によって送られた被記録媒体に対して記録ヘッドにより記録する記録部と、を備えた記録装置であって、前記媒体送り手段は、上記第1から第7のいずれか一の態様の前記媒体送り装置を備え、前記被記録媒体は、前記被送り媒体であることを特徴とする。
本発明の第8の態様によれば、前記媒体送り手段は、上記第1から第7のいずれか一の態様の前記媒体送り装置を備えている。従って、前記記録装置において、上記第1から第7のいずれか一の態様と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るプリンターの概略を示す側面図。
【図2】本発明に係る媒体送り手段の概略を示す要部拡大斜視図。
【図3】(A)(B)は薄紙を給送する際の媒体送り手段の状態を示す概略側面図。
【図4】(A)(B)は厚紙を給送する際の媒体送り手段の状態を示す概略側面図。
【図5】(A)(B)は他の実施形態に係る媒体送り手段の概略を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すのは、本発明に係る記録装置の一例であるプリンターの概略を示す側面図である。
図1に示す如く、本発明に係るプリンター1は、媒体送り手段2と、送り経路と、記録部16と、排出部20と、を備えている。
【0022】
このうち、媒体送り手段2は、被送り媒体の一例である用紙Pを送り方向Yに送ることができるように設けられている。また、送り経路は、媒体送り手段等によって送られる用紙Pを案内する媒体案内部によって構成されており、用紙Pが送られる経路を示す。
また、記録部16は、媒体送り手段2によって送られた用紙Pに対して記録を実行することができるように構成されている。またさらに、排出部20は、記録された用紙Pを排出し、排出トレイ上(図示せず)に載置することができるように設けられている。
【0023】
具体的に、媒体送り手段2は、載置部11と、ピックアップローラー3と、アーム機構4と、分離手段12と、第1ローラー対14と、第2ローラー対15と、を備えている。このうち、載置部11は、用紙Pが載置されるように設けられている。また、ピックアップローラー3は、モーターの動力によって駆動することができ、載置部11に積層された用紙Pのうち、積層方向最上位に用紙Pと接触することができるように設けられている。尚、Z軸の矢印が示す方向は積層方向上方である。
【0024】
またさらに、アーム機構4は、送り方向上流側である一端側の揺動軸5を中心に揺動可能に設けられている。そして、送り方向下流側である他端側にピックアップローラー3を回動可能に保持するように構成されている。また、アーム機構4は、詳しくは後述するように第1アーム部6と、第2アーム部7とを有し、連結箇所である屈曲点Kにおいて屈曲可能に設けられている。
【0025】
尚、モーターは、アーム機構4とは別のプリンター1の基体部側の箇所に設けてもよいし、アーム機構上に設けてもよい。前者の場合、揺動軸5を介してギア輪列等の動力伝達手段によってピックアップローラー3まで動力を伝達するように構成する。一方、後者の場合、揺動軸5を介さずにギア輪列等の動力伝達手段によってピックアップローラー3まで動力を伝達するように構成する。
【0026】
また、分離手段12は、載置部11における用紙Pがセットされる箇所より送り方向下流側に設けられている。具体的には、ピックアップローラー3によって送られる用紙Pの側視した姿勢に対して傾斜した傾斜面13と有している。そして、用紙Pが重送された場合、ピックアップローラー3に対して最上位の用紙Pと次位以降の用紙Pとを分離することができるように設けられている。所謂、土手分離機構である。
ここで、「土手分離機構」とは、所定の角度で用紙Pが進入するように面を設け用紙Pの先端に負荷を与えることにより分離する機構をいう。
【0027】
またさらに、第1ローラー対14および第2ローラー対15は、分離手段12を通過した用紙Pを記録部16へ送ることができるように設けられている。このうち、第1ローラー対14は、第1駆動ローラー14aと、第1従動ローラー14bとを有している。
尚、第1従動ローラー14bに代えて回動に所定の負荷を伴う所謂、リタードローラーでもよい。係る場合、土手分離機構での分離が十分でない場合に、重送された用紙Pを確実に分離することができる。即ち、第1駆動ローラー14aと直接的に接触する用紙を、該用紙よりリタードローラー側の用紙から分離することができる。
【0028】
また、第2ローラー対15は、送り経路において第1ローラー対14より下流側に設けられている。具体的には、第2ローラー対15は、第2駆動ローラー15aと第2従動ローラー15bとを有している。そして、例えば、ステッピングモーターによって精度よく用紙Pを記録部16へ送ることができるように設けられている。
尚、用紙Pの先端が第2ローラー対15に到達した際、送り方向Yに対する用紙Pの姿勢を正す所謂、スキュー取りが実行されるように構成されているのは言うまでもない。
【0029】
また、記録部16は、キャリッジ17と、記録ヘッド18と、媒体支持部19と、を備えている。このうち、キャリッジ17は、用紙Pの幅方向Xへ延設されたガイド軸(図示せず)に案内されながら移動手段(図示せず)の動力によって幅方向Xへ移動するように構成されている。また、記録ヘッド18は、キャリッジ17に設けられており、インクを用紙Pに対して吐出することができるように設けられている。所謂、インクジェット式の記録である。
【0030】
またさらに、媒体支持部19は、記録ヘッド18と対向する位置に設けられ、用紙Pを支持し、用紙Pと記録ヘッド18との間の距離を所定の間隔にすることができるように構成されている。
尚、本実施形態では、インクを吐出するインクジェット式の記録部16を採用したが他の構成でもよい。例えば、トナーを用紙Pに付着させ、熱と圧力をかけて用紙Pに記録する所謂、レーザープリンターの構成でもよい。
【0031】
また、排出部20は、第3ローラー対21と、図示しない排出トレイを備えている。第3ローラー対21は、送り経路において記録部16より下流側に設けられ、記録された用紙Pを排出トレイへ送ることができるように設けられている。
尚、媒体送り手段2の載置部11は、プリンター本体に対して着脱可能な所謂、カセットタイプの構成でもよいし、プリンター本体と一体に形成されている構成でもよい。
続いて、本発明の要部である媒体送り手段2についてさらに詳しく説明する。
【0032】
図2に示すのは、本発明に係る媒体送り手段の概略を示す要部拡大斜視図である。
図2に示す如く、アーム機構4は、前述したように第1アーム部6と、第2アーム部7と、付勢手段8と、ギア輪列22と、を有している。このうち、第1アーム部6は、揺動軸5を中心に揺動可能に設けられている。また、第2アーム部7の上流側は第1アーム部6の下流側と連結されており、屈曲点Kにおいて第1アーム部6と第2アーム部7とが相対的に屈曲可能に設けられている。またさらに、第2アーム部7の下流側には、ピックアップローラー3が回転可能に保持されている。
【0033】
また、付勢手段8として、第1ばね9と、第2ばね10とが設けられている。このうち、第1ばね9は、第1アーム部6の下流側を用紙Pに接近させる方向へ第1アーム部6を押圧している。具体的には、第1ばね9は押圧ばねであり、一端側はプリンター1の基体部23と係合している。そして、他端側は第1アーム部6と係合している。従って、屈曲点Kが用紙Pから離間する方向へ第1アーム部6が揺動した際、屈曲点Kが用紙Pへ接近する方向への付勢力を作用させることができる。即ち、第1アーム部6が揺動する前の元の姿勢となるように付勢力を作用させる。
【0034】
一方、第2ばね10は、第1アーム部6と第2アーム部7とが相対的に屈曲していない状態となるようにばね力を作用させている。具体的には、第2ばね10は引っ張りばねであり、一端側は第1アーム部6と係合している。そして、他端側は第2アーム部7と係合している。
ここで、第1アーム部6と第2アーム部7とが屈曲していない状態では、第1アーム部側に形成された図示しない第1規制部が第2アーム部側に形成された図示しない第2規制部と当接する。
【0035】
これにより、第1アーム部6と第2アーム部7とが一の方向へ屈曲しないように構成されているものとする。そして、第2ばね10のばね力に抗して第1アーム部6と第2アーム部7とが他の方向へ屈曲可能に設けられているものとする。
従って、第1アーム部6と第2アーム部7とが屈曲点Kにおいて前記他の方向へ屈曲した際、第1アーム部6と第2アーム部7とが屈曲していない状態となるようにばね力を作用させることができる。または屈曲量が小さくなるようにばね力を作用させる。即ち、屈曲する前の元の姿勢となるようにばね力を作用させる。本実施例では、屈曲した際に、屈曲点Kを用紙Pに接近させる方向へばね力を作用させるように構成されている。
【0036】
また、ギア輪列22は、基体部側に設けられたモーターの動力をピックアップローラー3へ伝達することができるように設けられている。具体的には、第1ギア22a〜第7ギア22gを有している。このうち、第1ギア22aは、ピックアップローラー3の軸上に一体に設けられ、第2ギア22bと噛み合う。一方、第7ギア22gは、基体部側に設けられており、第1アーム部6の揺動軸上に設けられた第6ギア22fと噛み合う。
【0037】
ここで、用紙Pを送り方向下流側へ送る際において、ピックアップローラー3を駆動させるときの第7ギア22gの回転方向は、ピックアップローラー3の回転方向と同じである。これは、第1アーム部6の下流側を用紙Pに接近させるように第1アーム部6に対して力を作用させるためである。
また、第5ギア22eは、第6ギア22fおよび第4ギア22dと噛み合い、第4ギア22dへ動力を伝達する。またさらに、第3ギア22cは、第4ギア22dおよび第2ギア22bと噛み合い、第2ギア22bへ動力を伝達する。
【0038】
ここで、ギア輪列22のうち、ピックアップローラー3の軸上に設けられた第1ギア22aを含む数え方で、ピックアップローラー3の軸上から偶数番目のギアが屈曲点上に位置するように構成されている。これは、第7ギア22gの第1アーム部6に対する作用と同様に、第5ギア22eが第2アーム部7の下流側を用紙Pに接近させるように第2アーム部7に対して力を作用させるためである。そして、詳しくは後述するように、屈曲する角度が大きくなるに従ってピックアップローラー3が用紙Pを押圧する力を大きくすることができる。
続いて、本発明に係るアーム機構4の動作についてより詳しく説明する。
【0039】
[薄紙(第1の媒体)を送る場合]
図3(A)(B)に示すのは、薄紙を給送する際の媒体送り手段の状態を示す概略側面図である。このうち、図3(A)は薄紙の先端が傾斜面と当接した状態である。一方、図3(B)は図3(A)の状態からさらに送られた状態である。
ここで、「薄紙」とは、用紙の種類で厚みが比較的薄く、コシが比較的弱いものをいう。所謂、一般的な普通紙である。コシが比較的弱い媒体である「第1の媒体」の下位概念である。
【0040】
図3(A)に示す如く、ピックアップローラー3が図中における時計方向へ回動することにより、最上位の薄紙P1を送り方向下流側へ送ることができる。ここで、用紙Pを送り方向下流側送るための負荷である搬送負荷をR、ピックアップローラー3が用紙Pに対して作用する送り力をFとする。
尚、送り力Fは、ピックアップローラー3と用紙Pとの間の摩擦係数μ1およびピックアップローラー3が用紙Pを押圧する押圧力Nによって求められる。
また、搬送負荷Rのうち、用紙Pが傾斜面13から受ける反力をR1、最上位の用紙Pと次位の用紙Pとの間の摩擦力(摩擦抵抗)をR2とする。摩擦力R2は、用紙Pと用紙Pとの間の摩擦係数μ2および押圧力Nによって求められる。
【0041】
このとき、用紙Pの先端が分離手段12の傾斜面13に衝突する前の段階では、最上位の用紙と次位の用紙との間の摩擦力R2が作用するが該摩擦力R2は小さい。言い換えると後述する用紙Pの先端が分離手段12の傾斜面13に衝突した際の負荷R1と比較して非常に小さい。従って、前記衝突する間の段階では、搬送負荷Rは小さい。
そして、薄紙P1が傾斜面13に対して進入角度θで接近し傾斜面13と衝突する。
【0042】
この際、衝突により反力R1が生じるため搬送負荷Rは増大する。ここで、最上位の薄紙P1については、
搬送負荷R < 送り力F
即ち、
反力R1 + 摩擦力R2 < 送り力F
の関係が成立するように摩擦係数μ1、μ2や傾斜面等が構成されている。
【0043】
一方、次位以降の薄紙P1については、
搬送負荷R > 送り力F
【0044】
の関係が成立するように構成されている。従って、次位以降の薄紙P1が最上位の薄紙P1と一緒に送り方向下流側へ送られたとしても、次位以降の薄紙P1の先端を傾斜面13で停止させることができる。即ち、最上位の薄紙P1から分離することができる。
【0045】
また、薄紙P1の先端が傾斜面13と衝突した際の搬送負荷Rの発生に伴い、ピックアップローラー3には反作用力として送り方向上流側への力が大きく作用する。ここで、アーム機構4は、ピックアップローラー3より上流側であって最上位の薄紙P1より積層方向上方の揺動軸5を中心に揺動する構成である。従って、ピックアップローラー3が設けられたアーム機構4の自由端側である第2アーム部7の下流側が薄紙P1に接近する方向へ、第1アーム部6および第2アーム部7を一体に揺動させる力が作用する。
【0046】
ところが、薄紙P1の場合では、用紙のコシが弱いため、後述する第2の媒体(P2)の場合と比較してピックアップローラー3に作用する反作用力としての送り方向上流側への力は小さい。従って、後述する第2の媒体(P2)の場合と比較して前記揺動させる力の大きさは小さい。
ここで、第1アーム部6および第2アーム部7は前述したように屈曲点Kにおいて屈曲可能に構成されている。そして、薄紙P1の場合では、前記反作用力としての送り方向上流側への力は小さいため、屈曲点Kにおいて屈曲しないように構成されている。
【0047】
即ち、前記反作用力としての送り方向上流側への力が所定の力の大きさより大となったとき、第1アーム部6および第2アーム部7が屈曲点Kにおいて屈曲するように構成されている。より具体的には、本実施例において、送りローラーが用紙Pから受ける反作用力によるモーメントをM1、屈曲点上のギアにかかる反力によるモーメントをM2、M1およびM2を打ち消す方向(屈曲を伸ばす方向)へ作用する第2ばね10のばね力や第1アーム部6および第2アーム部7の自重等によるモーメントをM3とする。
【0048】
そして、薄紙P1の場合では、
打ち消す方向モーメントM3 ≧ 反作用力によるモーメントM1 + 屈曲点上の反力によるモーメントM2
が成立するように第2ばね10のばね力等が構成されている。
従って、薄紙P1(第1の媒体)の場合、第1アーム部6および第2アーム部7は屈曲点Kにおいて屈曲しない。そして、ピックアップローラー3は送り方向Yに変位しない。即ち、ピックアップローラー3から揺動軸5までの距離L1は変化しない。また、傾斜面13からピックアップローラー3と用紙Pとの接触箇所までの距離L2は変化しない。
【0049】
そして、図3(B)に示す如く、用紙のコシが弱いため、薄紙P1の先端は撓んで傾斜面13を上って行く。そして、
搬送負荷R < 送り力F
の関係が成立するため、薄紙P1をさらに送り方向下流側へ送ることができる。
【0050】
[厚紙(第2の媒体)を送る場合]
図4(A)(B)に示すのは、厚紙を給送する際の媒体送り手段の状態を示す概略側面図である。このうち、図4(A)は厚紙の先端が傾斜面と当接した状態である。一方、図4(B)は図4(A)の状態から僅かにピックアップローラーが駆動した状態である。
ここで、「厚紙」とは、用紙の種類で厚みが薄紙と比較して厚く、コシが薄紙と比較して強いものをいう。コシが「第1の媒体」と比較して強い媒体である「第2の媒体」の下位概念である。
【0051】
図4(A)に示す如く、ピックアップローラー3が図中における時計方向へ回動することにより、最上位の厚紙P2を送り方向下流側へ送ることができる。そして、前述した薄紙P1の場合と同様に、厚紙P2の先端を傾斜面13に衝突させることができる。厚紙P2が傾斜面13と衝突するときの進入角度は、前述した薄紙P1の場合と同様、θである。
ここで、前述した薄紙P1の場合と異なる点は、厚紙P2の場合の用紙のコシの強さが薄紙P1の場合と比較して強いことである。
【0052】
従って、厚紙P2の先端が傾斜面13と衝突した際に反力R1が発生するが、前述した薄紙P1の場合と比較して顕著に大きい。これは、厚紙P2は薄紙P1よりコシが強く、撓むために大きな力を要するからである。言い換えると、衝突してから撓むまでの間に送り力が増大するが、薄紙P1の場合と比較して増大量が大きい。厚紙P2を送るためには、薄紙P1の場合と同様、
搬送負荷R < 送り力F
言い換えると、
反力R1 + 摩擦力R2 < 送り力F
の関係が成立する必要がある。ここで、薄紙P1の場合と比較して、顕著に反力R1が大きい。そのため、薄紙P1の場合の送り力より大きな送り力を必要とする。
【0053】
そして、ピックアップローラー3には反作用力として送り方向上流側への力が大きく作用する。該反作用力として力(M1)の大きさは、前述した薄紙P1の場合と比較して顕著に大きい。ここで、厚紙P2の場合では、
打ち消す方向モーメントM3 < 反作用力によるモーメントM1 + 屈曲点上の反力によるモーメントM2
が成立するように第2ばね10のばね力等が構成されている。
【0054】
従って、図4(B)に示す如く、第1ばね9のばね力、第2ばね10のばね力、第1アーム部6および第2アーム部7の自重等に抗して、第1アーム部6および第2アーム部7が屈曲点Kにおいて屈曲する。即ち、反力R1が第1の所定の大きさより大となったとき、屈曲量が増加する。
この際、傾斜面13からピックアップローラー3と用紙Pとの接触箇所までの距離L2が長くなる。
【0055】
これにより、厚紙P2の先端からピックアップローラー3と用紙Pとの接触箇所までの間において、前記距離L2が変化しない場合と比較して、厚紙P2を容易に撓ませることができる。
その結果、第1の作用効果として、前記距離L2が変化しない場合と比較して、反力R1を小さくすることができる。即ち、搬送負荷Rを小さくして、厚紙P2の先端が傾斜面13を上りやすくすることができる。
【0056】
また同時に、揺動軸5からピックアップローラー3までの距離L1が短くなる。この際、第1ばね9の弾性変形量が大きくなり、第1ばね9のばね力が増大する。これらに加え、前述したように第7ギア22gが第6ギア22fを介して、第1アーム部6の下流側を用紙Pに接近させるように第1アーム部6に対して力を作用させている。これらにより、ピックアップローラー3が用紙Pを押圧する押圧力Nは顕著に増大する。
【0057】
尚、屈曲点Kにおける屈曲量が所定量に達したとき、第1アーム部側に形成された第3規制部と第2アーム部側に形成された第4規制部とが当接することにより、それ以上屈曲しないように構成されている。即ち、反力R1が第2の所定の大きさに達したとき、それ以上屈曲しないように構成されている。この際、第1アーム部6および第2アーム部7は一体に剛体として作用する。
第2ばね10のばね力によって釣り合った状態においても第1アーム部6および第2アーム部7を一体に作用する剛体と考えることも可能である。
【0058】
係る場合、反作用力としてピックアップローラー3を送り方向上流側へ変位させようとする力が作用する。そして、ピックアップローラー3が設けられたアーム機構4の自由端側である第2アーム部7の下流側が薄紙P1に接近する方向へ、第1アーム部6および第2アーム部7を一体に揺動させる力が作用する。
そして、ピックアップローラー3が上流側へ変位した状態、即ち、ピックアップローラー3から揺動軸5までの距離L1が短くなった状態では、ピックアップローラー3が厚紙P2と接触する箇所における用紙Pの送り方向Yに対するアーム機構4の傾きが大きくなる。
【0059】
そのため、ピックアップローラー3をくい込ませようとするようにアーム機構4に対して作用する力、即ち、アーム機構4がくい込もうとする力が顕著に大きく作用する。従って、ピックアップローラー3が用紙Pを押圧する押圧力を屈曲前の大きさからより顕著に大きい値であるN’にすることができる。
ここで、前記「くい込もうとする力」について説明する。例えば、アーム機構4の傾きが異なる場合で、ピックアップローラー3が駆動していない状態における押圧力Nが同じである場合を考えるとする。
【0060】
係る場合、ピックアップローラー3が厚紙P2と接触する箇所における用紙Pの送り方向Yに対するアーム機構4の揺動軸5とピックアップローラー3とを結ぶ線の傾き姿勢が垂直になるまでの範囲における傾きが大きい程、駆動した際の送り力Fが大きくなる。アーム機構4が所謂、くさびとして作用するからである。
その結果、第2の作用効果として、ピックアップローラー3が厚紙P2に対して作用する送り力を屈曲前の大きさFからより顕著に大きい値であるF’にすることができる。即ち、送り力を顕著に大きくすることにより、厚紙P2の先端が傾斜面13を上りやすくすることができる。
【0061】
以上、説明したように、自動的にピックアップローラー3が送り方向Yへ変位する構成としたことにより、薄紙P1(第1の媒体)および厚紙P2(第2の媒体)の両方について確実に最上位の用紙Pを、分離手段12を介して記録部16まで送ることができる。即ち、薄紙P1(第1の媒体)および厚紙P2(第2の媒体)の一方において最上位の用紙Pが分離手段12を通過できないといった所謂、不送り(ノンフィード)が生じる虞がない。また、分離手段12の傾斜面13を特殊な構成にする必要がない。またさらに、重送された場合でも分離手段12の傾斜面13で分離を実行することができる。
【0062】
言い換えると、用紙Pの剛性に応じてピックアップローラー3が自動的に変位するので、ユーザーが設定を切り換える必要がない。また、切り換えの煩わしさもない。従って、ユーザーの操作ミスを解消することができる。
またさらに、用紙の種類を検出するセンサーが不要であるため、コスト面で有効である。また、前記センサーによる検出結果に基づいて、ピックアップローラー3を移動させる移動手段を設ける必要がない。またさらに、ピックアップローラー3に対して、相対的にカセット部を移動させ、用紙の位置を移動させる必要もない。従って、装置が大型化する虞がない。
【0063】
また、上記実施例において、薄紙P1および厚紙P2の剛性が異なる二種類の用紙を例に説明したが二種類に限られるものではない。技術的思想としては、用紙の剛性に応じてピックアップローラー3の上流側への変位量が異なればよく、剛性が異なる三種類以上の用紙に対応することも可能である。具体的には、厚紙P2より剛性の高い媒体である場合、ピックアップローラー3の上流側への変位量は、厚紙P2の場合の変位量と比較して大となればよい。即ち、媒体の剛性の高さに応じて、ピックアップローラー3の変位量が大きくなれば、それぞれ剛性が異なる媒体に対応することができる。そして、最も剛性の低い媒体のときにピックアップローラー3は変位せず、二番目に剛性の低い媒体のときに変位する構成であればよい。
【0064】
尚、ピックアップローラー3が上流側へ変位して最上位の厚紙P2を送った場合、厚紙P2の先端が第1ローラー対14へ到達し、第1ローラー対14によって送られる状態となったとき、ピックアップローラー3が下流側へ変位する。大きかった反力R1が減少または消滅するからである。そして、次位の厚紙P2を送る際、再度、前述したようにピックアップローラー3が上流側へ変位する。
本実施例では、載置部11に載置された残りの用紙の枚数に応じてピックアップローラー3が積層方向Zへ変位する構成としたが、ピックアップローラー3が積層方向Zへ変位せず、載置部11がピックアップローラー3に対して変位する構成でもよい。係る場合もピックアップローラー3を送り方向Yへ変位させることができ、同様の作用効果を得ることができるからである。
【0065】
また、本実施例では、薄紙P1の場合、アーム機構4が屈曲していない状態であり、厚紙P2の場合、アーム機構4が屈曲するように構成したが、これに限られない。技術的思想としては、厚紙P2の場合において、薄紙P1の場合と比較して距離L1が短くなる一方、距離L2が長くなればよい。従って、薄紙P1の場合においてアーム機構が屈曲している状態でもよい。厚紙P2の場合において、屈曲量が増加すればよいからである。
またさらに、本実施形態では、用紙の残り枚数が少なくなるに従って、ピックアップローラーが積層方向下方に下がる構成としたがこれに限られない。ピックアップローラーが積層方向に変位せず、載置部が上方へ変位する構成でもよい。係る場合も同様の作用効果を得ることができるからである。
【0066】
本実施形態の媒体送り装置としての媒体送り手段2は、被送り媒体の一例である用紙Pが載置される載置部11と、載置部11に載置された用紙Pの積層方向最上位の用紙Pと接触し用紙Pを送り方向下流側へ送る送り手段と、該送り手段より下流側に設けられ、載置部11に載置された用紙Pの側視した姿勢に対して傾斜した面である傾斜面13を有し、前記送り手段によって送られる用紙Pの送り方向下流端である先端が傾斜面13と当接することにより前記送り手段に対して最上位の用紙と次位以降の用紙とを分離する分離手段12と、を備え、前記送り手段は、駆動するように設けられ、載置部11に載置された用紙Pと接触し、送り方向Yへ変位可能な送りローラーであるピックアップローラー3を有しており、駆動するピックアップローラー3が用紙Pに対して作用する用紙Pを送り方向下流側へ送る力に対する反作用力として、送り方向上流側へピックアップローラー3を変位させようとする力(R)が用紙Pからピックアップローラー3に作用し、前記反作用力(R)の大きさが所定の力(P2の場合のR1+R2)の大きさより大となったとき、ピックアップローラー3は前記反作用力によって送り方向上流側へ変位するように構成されていることを特徴とする。
【0067】
また、本実施形態において、前記送り手段は、一端側である下流側にピックアップローラー3を回動可能に保持し、ピックアップローラー3より上流側である他端側の揺動軸5を中心に揺動するアーム機構4を有し、アーム機構4は、揺動中心である揺動軸5からピックアップローラー3までの距離L1が変化する構成であり、前記距離L1が、ピックアップローラー3が前記反作用力によって前記変位する前の初期位置の状態の距離より短くなった際、アーム機構4の前記距離L1を長くしピックアップローラー3を前記初期位置に戻すように力を作用させる手段としての付勢手段8をさらに備えていることを特徴とする。
【0068】
またさらに、本実施形態において、アーム機構4は、前記他端側である揺動軸5を中心に揺動する第1アーム部6と、第1アーム部6の送り方向下流側に設けられ、上流側が第1アーム部6の下流側と連結されており、下流側にピックアップローラー3を回動可能に保持する第2アーム部7と、を有し、第1アーム部6と第2アーム部7とが連結された箇所の屈曲量が大きくなることにより、ピックアップローラー3が送り方向上流側へ変位する構成であることを特徴とする。
【0069】
また、本実施形態において、ピックアップローラー3を前記初期位置に戻すように力を作用させる付勢手段8として、第1アーム部6と第2アーム部7との屈曲量が大きくなった際、上流側の第1アーム部6を前記屈曲量が小さいときの姿勢に戻す方向へ力を作用させる第1のばねである第1ばね9をさらに備えていることを特徴とする。
またさらに、本実施形態において、ピックアップローラー3を前記初期位置に戻すように力を作用させる付勢手段8として、第1アーム部6と第2アーム部7との屈曲量が大きくなった際、第1アーム部6および第2アーム部7を相対的に屈曲量が小さいときの姿勢に戻す方向へ力を作用させる第2のばねである第2ばね10をさらに備えていることを特徴とする。
【0070】
また、本実施形態において、前記送り手段は、第1アーム部側から第2アーム部側のピックアップローラー3へ動力を伝達する歯車輪列であるギア輪列22をさらに有しており、ピックアップローラー3の軸の歯車を含める数え方で該軸側から偶数番目の歯車である第4ギア22dの中心である屈曲点Kを中心として第1アーム部6と第2アーム部7とが屈曲する構成であることを特徴とする。
【0071】
またさらに、本実施形態において、用紙Pとして第1の媒体の一例である薄紙P1と、薄紙P1より剛性の高い第2の媒体の一例である厚紙P2とを送ることができるように構成されており、ピックアップローラー3が用紙Pから受ける前記反作用力によるモーメントをM1、第1アーム部6と第2アーム部7とが屈曲する箇所の歯車が第1アーム部6に作用する力によるモーメントをM2、第1アーム部6と第2アーム部7との屈曲量を小さくするように作用する力によるモーメントをM3、とすると、用紙が薄紙P1である場合、
M3 ≧ M1 + M2
の関係が成立し、用紙が厚紙P2である場合、
M3 < M1 + M2
の関係が成立する構成であることを特徴とする。
【0072】
本実施形態の記録装置の一例であるプリンター1は、被記録媒体の一例である用紙Pを送り方向Yへ送る媒体送り手段2と、媒体送り手段2によって送られた用紙Pに対して記録ヘッド18により記録する記録部16と、を備えていることを特徴とする。
【0073】
[他の実施形態]
図5(A)(B)に示すのは、他の実施形態に係る媒体送り手段の概略を示す側面図である。このうち、図5(A)は厚紙の先端が傾斜面と当接した状態である。一方、図5(B)は図5(A)の状態から僅かにピックアップローラーが駆動した状態である。
図5(A)(B)に示す如く、他の実施形態のアーム機構30は、第1腕部31と、第2腕部32と、第3ばね33と、を有している。
尚、その他の部材については、前述した実施形態と同様であるので、同じ符号を用いることとし、その説明は省略する。
【0074】
第1腕部31は、揺動軸5を中心に揺動可能に設けられている。また、第2腕部32は、第1腕部31に対して摺動可能に設けられている。即ち、第1腕部31および第2腕部32によってアーム機構30が所謂、スライド式に伸縮可能に設けられている。そして、第2腕部32の下流側には、ピックアップローラー3が設けられている。またさらに、第3ばね33は、アーム機構30を伸展する方向へ付勢するように設けられている。
尚、アーム機構30は所定の範囲内で伸縮するように構成されているものとする。
【0075】
従って、反力R1の大きさが所定の大きさより大となったとき、前述した実施形態と同様、ピックアップローラー3を送り方向上流側へ変位させることができる。
即ち、前述した実施形態のアーム機構4(図2〜図4参照)は屈曲式の構成だったが、他の実施形態のアーム機構30のようにスライド式の構成でもよい。係る場合も、厚紙P2の場合において、揺動軸5からピックアップローラー3までの距離L1を短くすることができ、傾斜面13からピックアップローラー3と用紙Pとの接触箇所までの距離L2を長くすることができる。その結果、同様の作用効果を得ることができる。
【0076】
尚、ピックアップローラー3までの動力伝達については、第2腕部32にモーターを設けてピックアップローラー3まで動力を伝達するように構成してもよい。また、所謂、プロペラシャフトと傘歯車とを用いて、基体部側に設けたモーターからピックアップローラー3へ動力を伝達するように構成することも可能である。係る場合、第1腕部31および第2腕部32のスライド伸縮に合わせて、プロペラシャフトも二つの部材を組み合わせて伸縮するように構成するのは言うまでもない。
また、本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0077】
1 プリンター、2 媒体送り手段、3 ピックアップローラー、4 アーム機構、
5 揺動軸、6 第1アーム部、7 第2アーム部、8 付勢手段、9 第1ばね、
10 第2ばね、11 載置部、12 分離手段、13 傾斜面、
14 第1ローラー対、14a 第1駆動ローラー、
14b 第1従動ローラー(リタードローラー)、15 第2ローラー対、
15a 第2駆動ローラー、15b 第2従動ローラー、16 記録部、
17 キャリッジ、18 記録ヘッド、19 媒体支持部、20 排出部、
21 第3ローラー対、22 ギア輪列、22a 第1ギア、22b 第2ギア、
22c 第3ギア、22d 第4ギア、22e 第5ギア、22f 第6ギア、
22g 第7ギア、23 基体部、30 (他の実施形態の)アーム機構、
31 第1腕部、32 第2腕部、33 第3ばね、F 送り力、F’ 送り力、
K 屈曲点、L1 (揺動軸からピックアップローラーまでの)距離、
L2 (ピックアップローラーと用紙との接触箇所から傾斜面までの)距離、
N’ 押圧力、P 用紙、P1 薄紙(第1の媒体)、P2 厚紙(第2の媒体)、
R 搬送負荷、R1 反力、R2 摩擦力、X 幅方向、Y 送り方向、
Z 積層方向(鉛直方向)、θ 進入角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被送り媒体が載置される載置部と、
該載置部に載置された被送り媒体の積層方向最上位の被送り媒体と接触し被送り媒体を送り方向下流側へ送る送り手段と、
該送り手段より下流側に設けられ、前記載置部に載置された被送り媒体の側視した姿勢に対して傾斜した面を有し、前記送り手段によって送られる被送り媒体の送り方向下流端である先端が前記面と当接することにより前記送り手段に対して最上位の被送り媒体と次位以降の被送り媒体とを分離する分離手段と、を備え、
前記送り手段は、駆動するように設けられ、前記載置部に載置された被送り媒体と接触し、送り方向へ変位可能な送りローラーを有しており、
駆動する前記送りローラーが被送り媒体に対して作用する被送り媒体を送り方向下流側へ送る力に対する反作用力として、送り方向上流側へ該送りローラーを変位させようとする力が被送り媒体から前記送りローラーに作用し、
前記反作用力の大きさが所定の力の大きさより大となったとき、前記送りローラーは前記反作用力によって送り方向上流側へ変位するように構成されている媒体送り装置。
【請求項2】
請求項1に記載の媒体送り装置において、前記送り手段は、一端側である下流側に前記送りローラーを回動可能に保持し、前記送りローラーより上流側である他端側を中心に揺動するアーム機構を有し、
該アーム機構は、揺動中心から前記送りローラーまでの距離が変化する構成であり、
前記距離が、前記送りローラーが前記反作用力によって前記変位する前の初期位置の状態の距離より短くなった際、
該アーム機構の前記距離を長くし前記送りローラーを前記初期位置に戻すように力を作用させる手段をさらに備えている媒体送り装置。
【請求項3】
請求項2に記載の媒体送り装置において、前記アーム機構は、
前記他端側を中心に揺動する第1アーム部と、
該第1アーム部の送り方向下流側に設けられ、上流側が該第1アーム部の下流側と連結されており、下流側に前記送りローラーを回動可能に保持する第2アーム部と、を有し、
前記第1アーム部と前記第2アーム部とが連結された箇所の屈曲量が大きくなることにより、前記送りローラーが送り方向上流側へ変位する構成である媒体送り装置。
【請求項4】
請求項3に記載の媒体送り装置において、前記送りローラーを前記初期位置に戻すように力を作用させる手段として、前記第1アーム部と前記第2アーム部との屈曲量が大きくなった際、上流側の前記第1アーム部を前記屈曲量が小さいときの姿勢に戻す方向へ力を作用させる第1のばねをさらに備えている媒体送り装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の媒体送り装置において、前記送りローラーを前記初期位置に戻すように力を作用させる手段として、前記第1アーム部と前記第2アーム部との屈曲量が大きくなった際、前記第1アーム部および前記第2アーム部を相対的に屈曲量が小さいときの姿勢に戻す方向へ力を作用させる第2のばねをさらに備えている媒体送り装置。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか1項に記載の媒体送り装置において、前記送り手段は、前記第1アーム部側から第2アーム部側の前記送りローラーへ動力を伝達する歯車輪列をさらに有しており、
前記送りローラーの軸の歯車を含める数え方で該軸側から偶数番目の歯車を中心として前記第1アーム部と前記第2アーム部とが屈曲する構成である媒体送り装置。
【請求項7】
請求項6に記載の媒体送り装置において、被送り媒体として第1の媒体と、該第1の媒体より剛性の高い第2の媒体とを送ることができるように構成されており、
前記送りローラーが被送り媒体から受ける前記反作用力によるモーメントをM1、前記第1アーム部と前記第2アーム部とが屈曲する箇所の歯車が前記第1アーム部に作用する力によるモーメントをM2、前記第1アーム部と前記第2アーム部との屈曲量を小さくするように作用する力によるモーメントをM3、とすると、
被送り媒体が前記第1の媒体である場合、
M3 ≧ M1 + M2
の関係が成立し、
被送り媒体が前記第2の媒体である場合、
M3 < M1 + M2
の関係が成立する構成である媒体送り装置。
【請求項8】
被記録媒体を送り方向へ送る媒体送り手段と、
該媒体送り手段によって送られた被記録媒体に対して記録ヘッドにより記録する記録部と、を備えた記録装置であって、
前記媒体送り手段は、請求項1から7のいずれか1項に記載された前記媒体送り装置を備え、前記被記録媒体は、前記被送り媒体である記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−190002(P2011−190002A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55471(P2010−55471)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】