説明

嫌気性微生物による有機性廃棄物の処理方法及び装置

【解決課題】有機性廃棄物や廃水等を嫌気性処理、すなわちメタン発酵処理プロセスにて処理する際に、特に熟練したオペレーターの操作によらなくても適切な処理を行うことができ、メタン生成が悪化することが少ない嫌気性処理方法を提供すること。
【解決手段】(1)有機性廃棄物及び/又は廃水中に含まれる各基質および中間代謝物の分解反応に寄与する特定の微生物(群)を特異的に検出・定量する工程、(2)該微生物(群)に固有の基質及び中間代謝物を定量する工程、(3)工程(1)からの各微生物(群)の定量データ及び工程(2)からの各基質及び各中間代謝物の定量データを用いて、少なくとも各微生物(群)による各基質及び各中間代謝物の菌体あたり最大取り込み速度及び/又は各微生物(群)の各基質及び各中間代謝物に対する半飽和定数を決定する工程、を含み、嫌気性処理プロセスでの生物学的反応を化学量論的及び/又は反応速度論的に解析して決定した処理条件を適用する有機性廃棄物及び/又は廃水の嫌気性処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応シミュレーションモデルを利用して嫌気性微生物処理を制御する有機性廃棄物及び/又は廃水の嫌気性処理方法及び該嫌気性処理方法を適切に行うことができる嫌気性処理装置並びに嫌気性処理プロセスの制御方法、診断方法および設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生ごみ、紙ごみ、し尿・浄化槽汚泥などは、我々が日常生活を営む過程で大量に発生する代表的な有機性廃棄物であるが、水分を多く含むため、従来の焼却処分では大量の化石燃料を消費すると共に、二酸化炭素・NOx・SOx等を生成し、またダイオキシン等の有害物質の発生源ともなっている。また、焼却灰を含めた廃棄物の埋め立て処分地の確保も困難になりつつある。このような背景から、高濃度の有機性廃棄物や廃水等を含有する排水や有機性汚泥の処理には、嫌気性処理方式(メタン発酵)が多用されている。微生物分解を利用した各種有機性廃棄物の処理・減容化方法は、曝気動力が不要なのでエネルギー消費量が節約できること、余剰汚泥の発生量が少ないので処理費用が廉価であること、かつエネルギーとして有用なメタンガスを回収できることなどの利点がある。
【0003】
メタン発酵は、(1)高分子の有機物を可溶化する過程、(2)可溶化された有機物を酸発酵させる過程、(3)酸発酵生成物をメタンに転化するメタン生成過程、と大きく3つのステップに分けられる、様々な微生物が関与する複雑な生物反応系である。
【0004】
固体性有機性廃棄物のメタン発酵においては、(1)高分子の有機物を可溶化する過程が律速になって、メタン発酵が十分に進まない場合が多い。すなわち、高分子有機物の低分子化に係る微生物(酸生成細菌)の活性または濃度も、メタン生成に係る微生物の活性と共に、最終的なメタン発生速度・量を決定する重要な因子となる。さらに酸生成細菌の多くは、自らの産生物(メタン発酵処理においては「中間代謝物」ともいう)により、酸生成活性や増殖が阻害される。よって、有機物負荷が高くなると、メタン生成細菌による有機酸の消費が律速となり、メタン発酵汚泥中に有機酸の蓄積が生じ、メタンガス生成の安定性が失われる。このように、メタン発酵においては、メタン生成に係る微生物(メタン生成細菌)の活性または濃度が最終的なメタン発生速度・量を決定する重要な因子である。したがって、高効率且つ安定なメタン発酵プロセスを開発するためには、酸生成細菌とメタン生成細菌の菌数と活性を適正に維持することが必要である。
【0005】
菌数の測定には、昔から培養を基本とする最確数法(Most Probably Number, MPN法)などが用いられるが、嫌気性微生物、特にメタン生成細菌は生育が遅いため、計数までに1ヶ月を要する。しかも、寒天培地で生育可能な細菌の割合は、汚泥等環境試料の場合、存在している全菌の1%以下にすぎないと言われており、培養できない細菌については、存在していても検出することができない。このため、メタン発酵の微生物の共生システムにおける微生物の種類、役割、相互の影響、数量的関係、消長などの知見は極めて乏しい。
【0006】
また、生物反応系環境試料中のメタン生成活性を定量するために、メタン生成細菌が持つ自家蛍光を持つ補酵素F420の蛍光強度を測定することも試みられている。しかし、F420を持つメタン生成細菌の種類が限られていて、必ずしも総括的なメタン生成活性を表すことができない、また夾雑物の影響を受けやすいなどの問題がある。
【0007】
近年、分子生物学的な手法の発達により、細菌遺伝子を標的とした検出定量方法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR法」と記述する)、in situ(生体内原位置)ハイブリダイゼーション法(以下「FISH法」とも記述する)等を利用する技術が開発されてきている(非特許文献2)。メタン発酵系微生物(群)として、反応槽温度が50〜60℃の高温メタン発酵系においてセルロース分解に主要な役割を果たしている微生物(群)(特許文献1)や、タンパク質分解に主要な役割を果たしている微生物(群)が特定され、それらの特異的検出方法も開発されている(特許文献2、特許文献3)。
【0008】
有機性廃棄物の嫌気性処理リアクタ中における主なメタン生成細菌は基質利用性により大きく以下の2種類に分類され、この2種類の菌群を網羅的に定量評価する方法も提案されている(特許文献4)。
(1)水素またはギ酸を資化するMethanobacteriales目菌(Methanobacterium科、Methanobrevibacter科等)、Methanomicrobiales目菌(Methanomicrobiaceae科、Methanocorpusculaceae科、Methanospirillaceae科等)
(2)酢酸やメチル化合物等を資化するMethanosarcinales目菌(Methanosarcinaceae科、Methanosaetaceae科等)
以上のように、メタン発酵に関わる個別の微生物(群)についてはモニタリングが可能になってきたため、最適の菌数を維持するための方法も提案されている(特許文献5)。しかしながら、前述のようにメタン発酵は、様々な微生物が関与する複雑な生物反応系であり、一つの微生物(群)の菌数あるいは活性の増加・減少が他の微生物(群)、ひいては嫌気性反応槽での有機物処理性能やメタンガス生成能に与える影響を予測することは困難であった。
【0009】
一方、様々な微生物が関与する複雑な微生物反応プロセスでの生物学的反応を化学量論的および/または反応速度論的に解析するための方法として、国際水環境学会(IWA)の提唱する活性汚泥モデル(非特許文献3)などが知られている。IWA活性汚泥モデルでは有機物収支は重クロム酸カリウム消費量から求めたCOD(化学的酸素要求量)で表現される。また微生物反応の基礎となる菌体量については、溶解性有機物が主体の廃水においては、反応槽中に存在する活性汚泥中の揮発性固形物(Volatile Solid、VS)の大部分が微生物菌体と考えることができる。しかし、活性汚泥中には有機物分解だけでなく、窒素の除去やリンの除去など特定の役割を果たす微生物(群)が存在するが、従来はそれぞれの微生物(群)を個別に定量することができなかったため、硝化速度やリンの蓄積量といった測定可能な数値から菌体量を推定せざるを得なかった。また、固形物を多く含む廃棄物を対象にした場合、VS中の未分解の原水と菌体とを区別することができないという問題があった。
【0010】
嫌気性処理プロセスでの生物学的反応を記述するモデルであるIWA嫌気性消化モデル(非特許文献4)においても、上記の活性汚泥モデルと同様に、各基質および各中間代謝物を分解する微生物(群)を個別に定量することができなかったため、活性汚泥モデルと同様の課題がある。さらに前述のようにメタン発酵は様々な微生物が関与する複雑な生物反応系であり、ある微生物(群)の生産物が別の微生物(群)の基質となる場合(中間代謝物)、ある微生物(群)の生産物がそれ自身や別の微生物(群)の活性を阻害する場合、あるいはある微生物(群)が基質を取り込むことにより、別の微生物(群)の増殖を促進する場合などの様々な現象が同時に進行するため、これらを記述するモデルの開発は極めて困難であった。
【特許文献1】特開2004-113067号公報
【特許文献2】特開2004-261125号公報
【特許文献3】特開2005-253429号公報
【特許文献4】特願2005-127325号明細書
【特許文献5】特開2005-254168号公報
【非特許文献1】Wiegant,W.M., Cleassen , J.A., and Lettinga,G., Thermophilic anaerobic digestion of high strength wastewaters., 27: 1374-1381, 1985
【非特許文献2】Amann, R., Ludwig, W., Schleifer, K., 1995, Phylogenetic identification and in situ detection of individual microbial cells without cultivation, Microbiological reviews, vol.59, No.1, p143-169
【非特許文献3】Henze, M., Grady, C.P.L., Gujer, W., Marais, G.v.R. and Matsuo, T., Activated Sludge Model No.1, IAWPRC Scientific and Technology Report, No.1, 1986
【非特許文献4】Batstone, D.J., Keller, J., Angelidaki, I., Kalyuzhnyi, S.V., Pavlostathis, S.G., Rozzi, A., Sanders, W.T.M., Siegrist, H., and Vavillin, V.A., The IWA Anaerobic Digestion Model No 1 (ADM), Water Science and Technology, 45 (10) 65-73, 2002
【非特許文献5】Sawayama et al, Effect of Ammonium Addition on Methanogenic Community in a Fluidized Bed Anaerobic Digestion, J. Bioscience and Bioengineering, 97(1), 65-70, 2004
【非特許文献6】中山広樹、細胞工学別冊バイオ実験イラストレイテッド3、秀潤社、1996
【非特許文献7】磯野一宏、臨床病理、45、p218、1997
【非特許文献8】Rittman, B. and McCarty, P. L., 2001, Environmental Biotechnology: Principles and Applications, McGraw-Hill, p169-171
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上に述べたように、現在までのところ、複雑な微生物系であるメタン発酵の運転管理は、熟練したオペレーターの経験に頼っており、一旦、メタン生成が悪化すると原因の特定が難しく、回復するまでに長期間を要するという問題があった。
【0012】
したがって、本発明の目的は、有機性廃棄物や廃水等を嫌気性処理、すなわちメタン発酵処理プロセスにて処理する際に、特に熟練したオペレーターの操作によらなくても適切な処理を行うことができ、メタン生成が悪化しない処理条件を与えることができる嫌気性処理方法を提供することにある。
【0013】
また、本発明の目的は、上記有機性廃棄物や廃水等の嫌気性処理方法を適切に行うことができる有機性廃棄物や廃水等の嫌気性処理装置を提供することにある。
【0014】
さらに、本発明の目的は、有機性廃棄物や廃水等の嫌気性処理プロセスの制御方法、診断方法および設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、嫌気性処理、特に高温メタン発酵処理プロセスでの複雑な生物学的反応を化学量論的および/または反応速度論的に解析するために最適な反応シミュレーションモデルを用いて処理条件を決定すれば、上記目的を達成しうることを知見した。そして更に検討した結果、有機性廃棄物や廃水等の嫌気性処理、すなわちメタン発酵処理プロセスでの反応を、典型的ないくつかの微生物反応に分割し、反応に寄与する微生物(群)の濃度と反応基質濃度とを定量することにより、有機性廃棄物や廃水等のメタン発酵処理プロセスでの生物学的反応を化学量論的および/または反応速度論的に解析するための反応シミュレーションモデルを構築できることを見出し、本発明に至った。
【0016】
本発明によれば、
(1)有機性廃棄物及び/又は廃水中に含まれる各基質および中間代謝物の分解反応に寄与する特定の微生物(群)を特異的に検出・定量する工程、
(2)該微生物(群)に固有の基質及び中間代謝物を定量する工程、
(3)工程(1)からの各微生物(群)の定量データ及び工程(2)からの各基質及び各中間代謝物の定量データを用いて、少なくとも各微生物(群)による各基質及び各中間代謝物の菌体あたり最大取り込み速度及び/又は各微生物(群)の各基質及び各中間代謝物に対する半飽和定数を決定する工程、
を含み、嫌気性処理プロセスでの生物学的反応を化学量論的及び/又は反応速度論的に解析して決定した処理条件を適用する有機性廃棄物及び/又は廃水の嫌気性処理方法が提供される。
【0017】
本発明において用いる反応シミュレーションモデルは、分子生物学的な手法により定量検出した有機性廃棄物及び/又は廃水に含まれる各基質および中間代謝物の分解反応に寄与する各微生物(群)の濃度実測値と、定量した該微生物(群)に固有の基質および中間代謝物の濃度実測値とを用いて、少なくとも各分解微生物(群)による各反応基質の菌体あたり最大取り込み速度及び/又は各微生物(群)の各基質及び各中間代謝物に対する半飽和定数を数学的手法によって決定することを特徴とする。
【0018】
本発明において定量検出することができる生物学的反応に寄与する微生物(群)としては、下記(A)〜(G)に記載の少なくとも一種類を挙げることができる。
(A)セルロースを基質として糖類、酢酸、プロピオン酸、酢酸あるいはプロピオン酸以外の揮発性有機酸、アルコール類、水素のいずれか一種類以上を生産する微生物(群)。好ましくは、配列番号1〜4の塩基配列もしくはこれらに対して少なくとも90%の相同性、好ましくは93%以上の相同性、より好ましくは95%以上の相同性、特に好ましくは実質的に100%の相同性を持つ16S rRNA遺伝子を有する1又は2以上のセルロース分解酸生成細菌、特に好ましくはClostridium sp. JC3 株(GenBank Accession No. AB093546(配列番号1)の16S rRNA遺伝子を有する)とその近縁株Clostridium sp. Clone 6-2-K(GenBank Accession No. AB198871(配列番号2)の16S rRNA遺伝子を有する)、Clone 5-1-N(GenBank Accession No. AB197849(配列番号3)の16S rRNA遺伝子を有する)、Clostridium sp. JC94 clone(GenBank Accession No. AB231801(配列番号4)の16S rRNA遺伝子を有する)を含む微生物(群)。
(B)タンパク質を基質として酢酸、プロピオン酸、酢酸あるいはプロピオン酸以外の揮発性有機酸、アルコール類、水素のいずれか一種類以上を生産する微生物(群)。好ましくは、配列番号5〜8の塩基配列もしくはこれらに対して少なくとも90%の相同性、好ましくは93%以上の相同性、より好ましくは95%以上の相同性、特に好ましくは実質的に100%の相同性を持つ16S rRNA遺伝子を有する1又は2以上のタンパク質分解酸生成細菌、特に好ましくはCoprothermobacter proteolyticus P1株(GenBank Accession No. AB162803(配列番号5)の16S rRNA遺伝子を有する)、Coprothermobacter proteolyticus P2株(配列番号6の16S rRNA遺伝子を有する)、Coprothermobacter proteolyticus P3株(配列番号7の16S rRNA遺伝子を有する)、Coprothermobacter proteolyticus P4株(配列番号8の16S rRNA遺伝子を有する)を含む微生物(群)。
(C)セルロース以外の糖類を基質として酢酸、プロピオン酸、酢酸あるいはプロピオン酸以外の揮発性有機酸、アルコール類、水素のいずれか一種類以上を生産する微生物(群)。好ましくは、配列番号9または10の塩基配列もしくはこれらに対して少なくとも90%の相同性、好ましくは93%以上の相同性、より好ましくは95%以上の相同性、特に好ましくは実質的に100%の相同性を持つ16S rRNA遺伝子を有する1又は2以上の糖(セルロースを除く)分解菌、特に好ましくはPetrotoga mobils SJ95 DSM 10674株の16S rDNA V3領域(GenBank Accession No. Y15478)に対して93%の相同性を有する16S rRNA遺伝子(GenBank Accession No. AB239188)を有するS1株、Unidentified bacterium anoxSCC-22株の16S rDNA V3領域(GenBank Accession No. AJ387880)に対して100%の相同性を有する16S rRNA遺伝子(GenBank Accession No. AB239189)を有するS2株を含む微生物(群)。
(D)脂質を基質として酢酸、プロピオン酸、酢酸あるいはプロピオン酸以外の揮発性有機酸、アルコール類、水素のいずれか一種類以上を生産する微生物(群)。
(E)酢酸を基質としてメタンを生成する微生物(群)。好ましくは酢酸を基質とするメタン生成細菌Methanosaetaceae科菌群を含む微生物(群)。
(F)酢酸および/または水素を基質としてメタンを生成する微生物(群)。酢酸及び/又は水素を基質とするメタン生成細菌Methanosarcina属菌群を含む微生物(群)。
(G)水素を基質としてメタンを生成する微生物(群)。水素を基質とするメタン生成細菌Methanomicrobiaceae科のMethanoculleus属とMethanogenium属を含む微生物(群)。
【0019】
これらの微生物(群)の定量検出は、下記(a)〜(j)に記載の一組のオリゴヌクレオチドを含むプライマーセットを用いる定量PCR法により、DNAまたはRNAを属または科レベルで分別的に定量検出することができる。
(a)セルロース分解酸生成細菌Clostridium sp. JC3株(GenBank Accession No. AB093546(配列番号1)の16S rRNA遺伝子を有する)とその近縁株Clostridium sp. Clone 6-2-K(GenBank Accession No. AB198871(配列番号2)の16S rRNA遺伝子を有する)、Clone 5-1-N(GenBank Accession No. AB197849(配列番号3)の16S rRNA遺伝子を有する)をターゲットとしたプライマーセット:
配列番号11の塩基配列(JC3-76F:5’CGTTGGAGATGTAACCAGC 3’)又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号12の塩基配列(JC3-687R:5’ACATCTGACTTGCTTCCC 3’)又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対。
(b)セルロース分解酸生成細菌Clostridium sp. JC94 clone(GenBank Accession No. AB231801(配列番号4)の16S rRNA遺伝子を有する)をターゲットとしたプライマーセット:
配列番号13の塩基配列(JC94-304F:5’CATAACGAGGTGGCATCACTTTG 3’)又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号12の塩基配列(JC3-687R:5’ACATCTGACTTGCTTCCC 3’)又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対;
(c)タンパク質分解菌 Coprothermobacter proteolyticus P1株((GenBank Accession No. AB162803(配列番号5)の16S rRNA遺伝子を有する)、Coprothermobacter proteolyticus P2株(配列番号6の16S rRNA遺伝子を有する)、Coprothermobacter proteolyticus P3株(配列番号7の16S rRNA遺伝子を有する)、Coprothermobacter proteolyticus P4株(配列番号8の16S rRNA遺伝子を有する)をターゲットとしたプライマーセット:
配列番号14の塩基配列(P-F6:5' AAGAAAGAGTTACCTTAGTG 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号15の塩基配列(P-B8:5' CCCAACACCTAGCACC 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対;
配列番号16の塩基配列(P8-F1:5' AAGAAAGAGTTACCTTAAAG 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号15の塩基配列(P-B8:5' CCCAACACCTAGCACC 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対;
配列番号17の塩基配列(P-F7:5' CCTAGCCGTAAACGATGGG 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号18の塩基配列(P-B7:5' TTCTGACCCTTTTATCTGC 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対。
(d)セルロース以外の糖類分解に関わるPetrotoga mobils SJ95 DSM 10674株の16S rDNA V3領域(GenBank Accession No. Y15478)に対して93%の相同性を有する16S rRNA遺伝子(GenBank Accession No. AB239188)を有するS1株をターゲットとしたプライマーセット:
配列番号19の塩基配列(S1-F7:5' AAGGCGAGGACTCTAATCGGAC 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号20の塩基配列(S1-B12:5' CGTATTCACCGCAGTTTGGC 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対。
(e)セルロース以外の糖類分解に関わるUnidentified bacterium anoxSCC-22株の16S rDNA V3領域(GenBank Accession No. AJ387880)に対して100%の相同性を有する16S rRNA遺伝子(GenBank Accession No. AB239189)を有するS2株をターゲットとしたプライマーセット:
配列番号21の塩基配列(S2-F6:5' GAGATTAGGAAGAACACCAGTGGC 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号22の塩基配列(S2-B9:5' GGACGAGTTTTTGAGTTTGGCTC 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対。
(f)酢酸及び/又は水素を基質とするメタン生成細菌Methanosarcina属菌群をターゲットとしたプライマーセット:
配列番号23の塩基配列(Msar276F:5' GAAACCGTGATAAGGGGACAC 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号24の塩基配列(Msar459R:5' CCGGAGGACTGACCAAA 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対。
(g)酢酸を基質とするメタン生成細菌Methanosaetaceae科菌群をターゲットとしたプライマーセット:
配列番号25の塩基配列(Msaeta377F:5' CGAGTGCCAGGTTACAAA 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号26の塩基配列(Msaeta 642R:5' GGATTACAAGATTTCACCCCTAC 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対。
(h)水素を基質とするメタン生成細菌Methanomicrobiaceae科のMethanoculleus属とMethanogenium属をターゲットとしたプライマーセット:
配列番号27の塩基配列(Mcul 485F:5' GGGATACTGGCAATCTTGGAACC 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号28の塩基配列(Mcul 863R:5' CGGCAATCATTCTGCTGTCTTAT 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対。
(i)水素を基質とするメタン生成細菌Methanomicrobiales目のMethanospirillaceae科菌群をターゲットとしたプライマーセット:
配列番号29の塩基配列(Msp203F:5' CGGAGATGGATTCTGAGACACG 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号30の塩基配列(Msp496B:5' ATACAGTTTCCCCTGAACGCCCRC 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対。
(j)水素を基質とするメタン生成細菌Methanobacteriaceae科菌群をターゲットとしたプライマーセット:
配列番号31の塩基配列(Mtb674F:5' GATGTGGACTTGGTGTTGGGAT 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号32の塩基配列(Mtb944R:5' AGGGTTCCGCTGGTAACTAAGG 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対。
【0020】
これらの微生物(群)の定量検出は、定量PCR法により行うことが好ましい。本発明で用いるメタン発酵に関連する微生物(群)の定量PCR法として有用な技術は、競合PCR法(中山広樹、細胞工学別冊バイオ実験イラストレイテッド3、秀潤社、1996参照)、定量PCR法(磯野一宏、臨床病理、45、p218、1997参照)等を挙げることができる。操作が簡単であり迅速的に多量の検体を定量検出でき菌群濃度または活性のモニタリングに好適なリアルタイム定量PCR法が特に好ましい。
【0021】
定量PCR法の一般的手順は、次の通りである。メタン発酵汚泥に由来する核酸試料を鋳型としてプライマーを接触させ、一連のポリメラーゼ連鎖反応条件下で断続的な増幅反応を繰り返す。このときの増幅反応条件は、当該技術分野において技術常識ないし経験則に従って適宜設定するとよい。その結果、使用した3’側プライマーと5’側プライマーとの間の、特定の断片長の核酸領域が特異的に増幅される。増幅された核酸は、例えば、その断片長を電気泳動法によって確認したり、その断片に特異的なプローブ等を用いるなどして、目的核酸であることを確認できる。増幅される核酸の量は、被検試料中の菌数(微生物群数)とほぼ相関しているので、その増幅核酸の定量値に基づいて菌数(微生物群数)を求めることができる。定量PCR法によれば、既知量の核酸の増幅度を指標にして目的核酸の量を知ることができる。
【0022】
また、定量PCR法によって得られた菌群濃度値は、ターゲット菌群の単位試料当たり外部標準検量用微生物16S rRNA遺伝子PCR増幅産物のコピー数で表される。原核生物の1菌体当たりの16S rRNA遺伝子コピー数については菌種によって異なり、1コピーを持つ菌種もあるし、15コピーまで持つ菌種もある。既知の微生物が持つ16S rRNA遺伝子のコピー数は当業者に知られており、例えば、The Ribosomal RNA Operon Copy Number Database (http://rrnd.cme.msu.edu)で検索できる。既知の原核生物の濃度は16S rRNA遺伝子コピー数を用いて補正できる。
【0023】
メタン発酵微生物系からの核酸試料のサンプリングは、公知の核酸抽出方法に従う。微生物DNAは安定性が高く、取り扱い易いため、冷凍保存した試料からの抽出も容易である。DNAの抽出方法としては一般的なフェノール/クロロホルム−エタノール沈殿法を利用でき、市販のDNA抽出用キットやDNA抽出装置を使用してもよい。微生物RNAは分解され易いため、新鮮試料採取後(24時間以内)からの抽出が望ましいが、市販のRNA安定剤を添加して、冷凍保存した試料からの抽出も可能である。
【0024】
本発明においては定量PCR法で計測した核酸の量を、それぞれの微生物(群)に特定の係数(実施例参照)を用いて微生物(群)濃度をCOD換算値として表すことができる。
【0025】
さらに、タンパク質分解細菌を定量的に検出・測定する方法としては、FISH法が挙げられる。典型的なFISH法では、P株に特異的な蛍光FISHプローブを使用し、これを環境試料と混合し、細胞内の標的核酸とFISHプローブの結合が行われる条件下でハイブリダイゼーション(結合)を行い、蛍光顕微鏡観察下でハイブリダイズした遺伝子プローブからの蛍光シグナルが得られるかどうかによって、検出対象菌の細胞を同定し、菌数計測を行うことができる。FISHプローブの設計においても、特異性が高く、好適に使用できる遺伝子としては、16S rRNA遺伝子が挙げられる。16S rRNA遺伝子を基にして設計された好適なFISHプローブの例は、配列番号14〜18のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプローブが挙げられる
FISH法による具体的な検出・定量の一態様は、次の通りである。P株の16S rRNA遺伝子に特異的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを調製し、このDNAを蛍光色素あるいは放射性同位元素、またはジゴキシゲニン(DIG)等の化学発光物質で標識する。その標識プローブを、P株を検出および定量したい被検試料と混合し、適切な温度、塩濃度条件下でのハイブリダイゼーション処置を行い、標識プローブと標的核酸とのハイブリッドを形成させる。次いで、ハイブリッドを形成しなかった標識プローブ等を除去し、ハイブリッドを形成している標識プローブのみからのシグナルを検出する。ハイブリッド形成プローブの具体的な検出・定量方法としては、標識シグナルを蛍光顕微鏡で検出する方法や、フローサイトメトリーを用いる方法等が挙げられる。このとき、例えば、標識の化学発光等を可視的に捕らえて試料中の標的核酸の分布を見て菌数を計測できるし、定量的に評価可能なシグナルであれば、そのシグナルレベルを比較して標的核酸の量、つまり菌数を定量することができる。このように上記FISHプローブは、一般的には微生物細胞を含むin situ試料と混合されるが(in situハイブリダイゼーション)、これに限らず、微生物試料から抽出した精製DNA試料と混合してもよい(Dot blotハイブリダイゼーション)。
【0026】
微生物(群)に固有の基質及び中間代謝物を定量する方法としては、当該分野で一般的な定量方法を用いることができる。
【0027】
メタン発酵の場合、基質としてはタンパク質、セルロース、糖(セルロースを除く)、脂質を挙げることができ、中間代謝物としては酢酸およびプロピオン酸以外の揮発性有機酸、酢酸、プロピオン酸、アルコール(主としてエタノール)を挙げることができ、最終代謝物はメタンである。
【0028】
タンパク質の定量方法としては、ケルダール窒素法(下水試験方法)で求めた全窒素から中和滴定法(下水試験方法)で求めたアンモニア性窒素を差しい引いて求めた有機態窒素に6.25を乗じて算出する方法を好ましく用いることができる。
【0029】
セルロースの定量方法としては、実施例1に記載の方法を好ましく用いることができ、全糖の定量方法としては、フェノール硫酸法を好ましく用いることができ、脂質の定量方法としては、ヘキサン抽出法物(下水試験方法)を好ましく用いることができ、酢酸、プロピオン酸、および酢酸およびプロピオン酸以外の揮発性有機酸の定量方法としては、HPLCを好ましく用いることができ、アルコールの定量方法としては、食品分析酵素試薬(J. K. インターナショナル、F−キット-エタノール)を用いる実施例1に記載の方法を好ましく用いることができ、メタンの定量方法としては、GCを好ましく用いることができる。
【0030】
本発明では、以上のようにして定量した微生物(群)濃度、各基質および各中間代謝物の濃度を反応速度論式に適用して反応シミュレーションモデルを実行して適切な処理条件を求めることができる。以下、代表的なIWA嫌気性消化モデルを利用するシミュレーションモデルについて説明する。
【0031】
ある生物プロセスが進行する速度を与える速度式としてMonod型の速度式が用いられる。最も基本的な菌体増殖速度を表す式として、下記式(1)が挙げられる。
【0032】
【数1】

【0033】
式中、
k:最大基質取り込み速度、
S:基質濃度、
K:基質に対する半飽和定数、
X:微生物(群)の濃度、
Y:微生物(群)の収率、
b:菌の死滅定数である。
【0034】
嫌気性反応プロセスにおいては、菌体の増殖が例えば水素分圧によって阻害されることがしばしば起こる。このような阻害要因を式(1)に加えると、式(2)のように表すことができる。
【0035】
【数2】

【0036】
式中、
Ki:基質代謝阻害定数、
SH2:水素濃度である。
【0037】
また、微生物がある基質を利用して代謝物を生産する場合、その生合成速度を表す式として、下記式(3)が挙げられる。
【0038】
【数3】

【0039】
式中、F:中間代謝物への分配係数である。
【0040】
中間代謝物への分配係数は例えば水素分圧によって変動するので、阻害要因である水素分圧を式(3)に加えると、式(4)のように表すことができる。
【0041】
【数4】

【0042】
式中、
Kiasyn:中間代謝物a(糖、各種有機酸、アルコール類または水素)の生合成阻害定数、
Fa:中間代謝物aへの分配係数である。
【0043】
本発明では、各分解微生物(群)の濃度と、各基質および各中間代謝物の濃度を直接測定値として上記の式群に適用し、数学的パラメータ・フィッティングの手法を利用して各々の基質(中間代謝物)/分解微生物(群)の組み合わせにおける最大取り込み速度k及び基質に対する半飽和定数Kを決定することができる。例えば、一般にデータ・フィッティングの手法として知られる最小自乗法の手法を用いてk及びKを決定できる。また、同様に基質(中間代謝物)の減少量と微生物(群)の増減との関係からYおよびbを決定することもできる。これらのパラメータを決定するためのより簡便な方法としては、市販のシミュレーションソフトを使用して、そのパラメータ・フィッティング機能を用いることができる。例えば、EAWAG(スイス連邦水科学技術研究所)より市販されているAQUASIMソフトを用いれば、パラメータ・エスティメーション機能をアクティブに設定することによって上記の各種パラメータを決定することができる。
【0044】
従来は、基質濃度Sは重クロム酸カリウム消費量から求めたCOD(化学的酸素要求量)で表現され、微生物(群)濃度Xは汚泥中の揮発性固形物(Volatile Solid、VS)で代用するか、または基質取り込み速度から推定して用いられてきたため、kやKは推定値に基づいたデータ・フィッティングによってしか与えられず、メタン発酵のような複雑な微生物系であって、原水の組成によってkやKが大きく変わる反応系を正確に記述することができなかった。本発明は、微生物(群)濃度、基質及び中間代謝物濃度を実測することによって、嫌気性処理条件をより正確に知ることができる。
【0045】
したがって、本発明は、上述の工程を含む嫌気性処理プロセスの制御方法、診断方法及び設計方法をも提供する。
【0046】
また、本発明によれば、原水貯留槽と、嫌気性反応槽と、嫌気性反応槽の状態量に基づいて反応シミュレーションモデルを実行する演算部と、演算結果に基づいて決定された処理条件となるように嫌気性処理プロセスを制御する制御部と、を備え、該反応シミュレーションモデルは、
(1)分子生物学的手法により特異的に検出・定量された嫌気性反応槽内の有機性廃棄物及び/又は廃水中に含まれる各基質および各中間代謝物の分解反応に寄与する特定の微生物(群)の濃度、および
(2)定量された嫌気性反応槽内の該微生物(群)に固有の基質及び中間代謝物の濃度、
を入力値として、少なくとも各微生物(群)による各基質及び中間代謝物の菌体あたり最大取り込み速度及び/又は各微生物(群)の各基質及び中間代謝物に対する半飽和定数を数学的手法を用いて決定する工程を含むことを特徴とする有機性廃棄物及び/又は廃水の嫌気性処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0047】
以上述べたように、本発明の嫌気性処理方法によれば、有機性廃棄物や廃水等を嫌気性処理、すなわちメタン発酵処理プロセスにて処理する際に、特に熟練したオペレーターの操作によらなくても適切な処理条件を決定することができ、メタン生成が悪化することが少ない。特に、微生物(群)濃度、基質濃度および中間代謝物濃度の実測値を用いて複雑な生物学的反応を化学量論的及び/又は反応速度論的に解析することにより、適切なメタン発酵処理条件を決定することができるので、メタン発酵処理の現場での実用性が極めて高い。
【発明の実施の形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0049】
まず、本発明の嫌気性処理方法を実施するのに好適な本発明の嫌気性処理装置について説明する。
【0050】
本発明の有機性廃棄物及び/又は廃水の嫌気性処理装置は、原水貯留槽と、嫌気性反応槽と、嫌気性反応槽の状態量に基づいて反応シミュレーションモデルを実行する演算部と、演算結果に基づいて決定された処理条件となるように嫌気性処理プロセスを制御する制御部と、を備え、該反応シミュレーションモデルは、
(1)分子生物学的手法により特異的に定量検出された嫌気性反応槽内の有機性廃棄物及び/又は廃水中に含まれる各基質および各中間代謝物の分解反応に寄与する特定の微生物(群)の濃度、および
(2)定量された嫌気性反応槽内の該微生物(群)に固有の基質及び中間代謝物の濃度、
を入力値として、少なくとも各微生物(群)による各基質及び中間代謝物の菌体あたり最大取り込み速度及び/又は各微生物(群)の各基質及び中間代謝物に対する半飽和定数を数学的手法を用いて決定する工程を含むことを特徴とする。
【0051】
図面を参照して本発明の嫌気性処理装置について説明する。
【0052】
ここで、図1は、本発明の嫌気性処置装置の一実施形態を示す概略説明図である。図2は、図1に示す嫌気性処置装置における演算部及び制御部を示す概略説明図である。
【0053】
図1に示す本実施形態の嫌気性処置装置は、原水1を混合する原水混合槽3、混合された原水を細粒化する破砕装置4、細粒化された原水を一旦貯留する原水貯留槽5、原水貯留槽から移送された原水を嫌気性処理する嫌気性反応槽としてのメタン発酵槽6、メタン発酵槽6から排出された汚泥を濃縮する固液分離装置8、メタン発酵槽6で発生したメタンを含むバイオガス13を貯留するガスホルダー14を具備する。熱交換器や発電機等のバイオガス利用機器15を具備していてもよい。これらは、それぞれ配管により連結されており、原水や汚泥の移送に際してはポンプ12を用いて配管を介して行うようになされている。固液分離装置8では、余剰汚泥10と処理水9とが分離され、余剰汚泥10はメタン発酵槽6に返送されるように構成されている。
【0054】
本発明の装置の演算部20及び制御部21は、図2に示すように、原水混合槽3、破砕装置4、原水貯留槽5及びメタン発酵槽6に連関して配されている。演算部20には、メタン発酵槽6からの各微生物(群)濃度X、各基質濃度Scellu、Sproなど、各中間代謝物濃度Sace、SH2など、最終代謝物濃度SCH4が実測値として入力される。演算部20では、入力値に基づいて各微生物(群)について各基質に対する最大取り込み速度k及び/又は半飽和定数Kが決定され、基質除去速度、メタン生成速度、有機酸蓄積速度などが演算処理によって求められ、これらの前データとの対比によりメタン発酵槽6内の処理条件を把握し、たとえば原水貯留槽5への原水投入量の増減制御信号、原水希釈用温水投入量の増減制御信号、メタン発酵槽6への汚泥返送量の増減制御信号などの各種制御信号を制御部21へ送る。制御部21は、各種制御信号に基づいて、たとえばポンプを調節するなどの制御を行う。なお、オンライン分析装置を電気的に接続させて、各種濃度の実測および入力を自動化してもよい。
【0055】
図1及び2に示す装置及び図3に示す演算部でのフローチャートを参照しながら、本発明の嫌気性処理方法を行う形態について説明する。
【0056】
有機性廃棄物又は廃水である原水1は原水混合槽3において混合された後、破砕装置4で細粒化され、その後、原水貯留槽5に一旦貯留される。原水貯留槽5では、制御部21からの制御信号52及び53に基づいてpH調整や温水17による原水希釈などによる基質濃度調整が行われる。調整された原水はメタン発酵槽6に送られ、各種微生物(群)による基質代謝反応(嫌気性処理)が行われる。メタン発酵槽6内で処理されている原水は適宜分析され、微生物(群)濃度、基質濃度、中間代謝物濃度、メタン濃度などの各種分析データは演算部20に入力される。演算部20では入力値に基づいて演算処理が行われ、最適な処理条件となるように制御部21に制御信号を送り、原水投入量、希釈水投入量、汚泥返送量の増減が制御される。たとえば、式(2)により求められる基質除去速度が、前回の基質除去速度と比較して小さくなっている場合には、基質濃度を低下させるべく希釈用温水投入量を増量する。式(3)により求められるメタンガス生成速度が、前回のメタンガス生成速度と比較して小さくなっている場合には、メタン発酵槽6への余剰汚泥返送量を増量する。基質除去速度及びメタンガス生成速度が共に前回の各速度よりも大きくなっている場合には、中間代謝物分配係数を加味した式(4)により求められる有機酸生成速度と式(3)により求められるメタンガス生成速度とを比較して、式(4)の速度が大きい場合(有機酸生成が優勢)には原水投入量を減量させ、式(4)の速度が小さい場合(メタンガス生成が優勢)には原水投入量を増量させる。
【0057】
嫌気性処理後、メタン発酵槽6から排出された処理物は、固液分離装置8で余剰汚泥と処理水とに分離される。制御部21からの制御信号に基づいて、ポンプ12が調節され、余剰汚泥はメタン発酵槽6に返送される。発生したメタンを含むバイオガス13は、ガスホルダー14に貯留され、発電機等のバイオガス利用機器15で適宜利用される。
【0058】
次に、本発明において用いられる反応シミュレーションモデルについてセルロースの場合を例にして説明する。
【0059】
セルロース分解酸生成細菌群の定量PCR用のプライマーセットとして、セルロース分解酸生成細菌Clostridium sp. JC3 株(GenBank Accession No. AB093546(配列番号1)の16S rRNA遺伝子を有する)(以下、JC3株)をターゲットとした配列番号11の塩基配列(JC3-76F:5’CGTTGGAGATGTAACCAGC 3’)又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号12の塩基配列(JC3-687R:5’ACATCTGACTTGCTTCCC 3’)又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドのプライマーセットを用いて、セルロース分解酸生成細菌群を定量する。JC3株は、セルロースを基質として、糖、エタノール、乳酸、酢酸、水素を代謝産物として生成するため、基質としてのセルロースおよびこれら各代謝物を通常の分析手法に従って定量する。また、増殖や代謝活性は水素分圧の影響を受けるので水素分圧による阻害要因を加味して、増殖速度を表す式(1)を下記式(5)のように変形する。
【0060】
【数5】

【0061】
式中、
kcellu,JC3:JC3株のセルロース最大取り込み速度、
Scellu:セルロース濃度、
Kcellu,JC3:セルロースの半飽和定数、
X JC3: JC3株の菌体濃度、
Y JC3:JC3株の菌体収率、
JC3:JC3株の死滅定数、
Kicellu:水素によるセルロース取り込み阻害定数、
SH2:水素濃度である。
【0062】
JC3株による各代謝物の生合成速度はそれぞれ式(6)〜(11)で表すことができる。
【0063】
【数6】

【0064】
式中、
Fsug,cellu:セルロースから糖への分配係数、
Feth,cellu:セルロースからアルコール類への分配係数、
Face,cellu:セルロースから酢酸への分配係数、
Fpro,cellu:セルロースからプロピオン酸への分配係数、
FVFA,cellu:セルロースから酢酸、プロピオン酸以外の揮発性有機酸(VFA)への分配係数、
FH2,cellu:セルロースから水素への分配係数である。
なお、ここではVFAを酢酸とプロピオン酸以外の揮発性有機酸と定義しているため、JC3株の代謝物の一つである乳酸はVFAとして表される。
【0065】
一方、メタン生成微生物(群)として例えば、酢酸及び/又は水素を基質としてメタンを生成する微生物(群)を選定すると、定量PCR用のプライマーとして、Methanosarcina属菌群をターゲットとした配列番号23の塩基配列(Msar276F:5' GAAACCGTGATAAGGGGACAC 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号24の塩基配列(Msar459R:5' CCGGAGGACTGACCAAA 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドのプライマーセットを用いて、微生物(群)濃度を定量することができる。Methanosarcina属菌群は酢酸あるいは水素と炭酸ガスを基質としてメタンを生成し、増殖や代謝活性は水素や酢酸濃度の影響を受けるので、増殖を表す式(1)は式(12)および(13)のように変形することができる。
【0066】
【数7】

【0067】
式中、
kH2,sar:Methanosarcina属菌群の最大水素取り込み速度、
kace,sar:Methanosarcina属菌群の最大酢酸取り込み速度、
Sace:酢酸濃度、
SH2:水素濃度、
Kace,Sar:酢酸の半飽和定数、
K H2,Sar:水素の半飽和定数、
Xsar:Methanosarcina属菌群の菌体濃度、
Ysar:Methanosarcina属菌群の菌体収率、
sar:Methanosarcina属菌群の死滅定数である。
【0068】
また、Methanosarcina属菌群によるメタンガスの生成速度は、それぞれ式(14)および(15)で表すことができる。
【0069】
【数8】

【0070】
同様に、例えば酢酸を基質としてメタンを生成する微生物(群)の定量PCR用のプライマーセットとしてMethanosaetaceae科菌群をターゲットとした配列番号25の塩基配列(Msaeta377F:5' CGAGTGCCAGGTTACAAA 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号26の塩基配列(Msaeta 642R:5' GGATTACAAGATTTCACCCCTAC 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドのプライマーセットを用いることができる。
【0071】
水素を基質としてメタンを生成する微生物(群)定量PCR用のプライマーセットとしてMethanomicrobiaceae科のMethanoculleus属とMethanogenium属をターゲットとした配列番号27の塩基配列(Mcul 485F:5' GGGATACTGGCAATCTTGGAACC 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号28の塩基配列(Mcul 863R:5' CGGCAATCATTCTGCTGTCTTAT 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドのプライマーセット;Methanomicrobiales目のMethanospirillaceae科菌群をターゲットとした配列番号29の塩基配列(Msp203F:5' CGGAGATGGATTCTGAGACACG 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号30の塩基配列(Msp496B:5' ATACAGTTTCCCCTGAACGCCCRC 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドのプライマーセット;あるいはMethanobacteriaceae科菌群をターゲットとした配列番号31の塩基配列(Mtb674F:5' GATGTGGACTTGGTGTTGGGAT 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号32の塩基配列(Mtb944R:5' AGGGTTCCGCTGGTAACTAAGG 3')又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドのプライマーセットを用いることができる。これらのメタン生成細菌群は、酢酸あるいは水素と炭酸ガスを基質としてメタンを生成する。また、増殖や代謝活性は水素や酢酸濃度の影響を受ける。また、Methanoculleus属の増殖や代謝活性はアルコール類の濃度の影響をも受ける。したがって、それぞれの増殖速度あるいはメタンガス生成速度を表す式は、式(12)〜(14)に準じて作成することができる。
【0072】
同様に、タンパク質分解菌群、セルロース以外の糖類分解菌についても反応速度式を作成することができる。たとえば、タンパク質分解菌 Coprothermobacter proteolyticus P1株(GenBankAccession No. AB162803(配列番号5)の16S rRNA遺伝子を有する)、Coprothermobacter proteolyticus P2株(配列番号6の16S rRNA遺伝子を有する)、Coprothermobacter proteolyticus P3株(配列番号7の16S rRNA遺伝子を有する)、Coprothermobacter proteolyticus P4株(配列番号8の16S rRNA遺伝子を有する)(以下、P株)をターゲットとする場合、P株はペプトンを基質として、酢酸、プロピオン酸、乳酸、i-吉草酸等の有機酸、および水素を生産するので、各代謝物としてこれらの物質を定量する。また、増殖や代謝活性は水素分圧の影響を受けるので、JC3株と同様に、増殖速度や代謝速度を式(6)〜(11)に準じて作成することができる。
【0073】
また、基質と代謝産物がほぼ解明されているが特異的定量法が開発されていない酸発酵微生物(群)やメタン生成微生物(群)に対しては、例えばSawayamaらの文献(非特許文献5)に記載されている真性細菌定量PCR用のプライマーセットを用いて微生物(群)濃度(菌群数)を決定することができる。
【0074】
上述のようにして作成した各種微生物(群)に対する増殖速度式、各代謝物の生合成速度式、メタンガス生成速度式に各種微生物(群)濃度の実測値および各種基質および各種代謝物の濃度実測値を適用して、各種微生物(群)の最大取り込み速度及び/又は各基質に対する半飽和定数を求め、メタン発酵処理中の原水状態を知り、原水投入量の増減、原水希釈水投入量の増減、汚泥返送量の増減などを行い、適時、適切な処理条件を与えることができる。
【0075】
なお、本発明は、上述の実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。例えば、提供される反応シミュレーションモデルにより演算された出力値に基づいて、前述のような有機性廃棄物、廃水の嫌気性処理プロセスの制御だけではなく、プロセスの設計あるいは診断も行うことができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
〔実施例1〕
[セルロース分解菌集積培養体]
セルロースパウダー(ろ紙粉末、ADVANTEC 40〜100mesh)を単一基質として、ビタミン類の供給の為、酵母エキスをCODcr比で5%(180mgCODcr/L)加えたものを投入基質として用いて、セルロース分解菌の集積培養体を作成した。
【0077】
投入基質のCODcr濃度は3600 mgCODcr/L、無機塩及びトレースエレメントの組成(最終濃度)は、以下に示す通りである。
NH4Cl 500mg/L;
KH2PO4 1361 mg/L;
K2HPO4 2613 mg/L(25 mM PO4buffer);
MgCl2・6H2O 400 mg/L;
CaCl2・2H2O 150 mg/L;
FeCl2・4H2O 2.0 mg/L;
CoCl2・6H2O 0.17 mg/L;
ZnCl2 0.07 mg/L;
H3BO3 0.06 mg/L;
MnCl2・2H2O 0.5 mg/L;
NiCl2・6H2O 0.04 mg/L;
CuCl2・2H2O 0.027 mg/L;
EDTA 5.0 mg/L;
Na2S・9 H2O 250 mg/L;
NaHCO3 1000 mg/L;
レサズリン0.5 mg/L
窒素気下での煮沸により、溶存酸素を除去した投入基質100 mlと生ゴミを処理する高温メタン発酵連続実験装置から採取した汚泥を(16.3 g/L VSS)100 mlを嫌気下で750 mlバイアル瓶に投入し、ブチルゴム栓とアルミシールで密封後、気相部を窒素置換した。pHは7.2(±0.2)に調整し、水槽式恒温槽(55℃)を用いて、130 rpmで水平振とう培養した。
【0078】
3日に1度、ガスパックで発生ガスを回収し、水上置換によりガス発生量を測定した。またメタン含率をTCDガスクロマトグラフ(ジーエルサイエンス、GC-323)で分析し、発生メタンガス量を計算した。投入基質の85〜100%がメタンガスに転換したことを確認した時点で、培養液の引き抜きと基質の投入を行った。培養液の引き抜き量は、約25日間で培養液の全量が入れ替わる量に調整し、引き抜き量と同量の基質を投入した。この条件で2ヶ月半培養した液を、遠心分離(9000 rpm、10分、4℃)で12倍に濃縮したものを、セルロース分解菌集積体として回分実験に用いた。
【0079】
古新聞を基質とした高温メタン発酵回分実験
回分実験は、125mL容量の加圧バイアル瓶(三伸工業株式会社)を用い、基質は古新聞をシュレッダー処理後、ブレンダーで粉砕処理し、65℃で乾燥させたものを用いた。セルロース分解菌集積体4.5 mL、基質(最終濃度2.5 g/L)に無機塩及びトレースエレメント(最終濃度は集積培養体と同じ)、酵母エキス(最終濃度0.28g/L)を添加し、1Mリン酸緩衝液を用いて液相部65 ml(pH 7.2〜7.5)とし、気相部には窒素を充填した。55℃で振とう(120 rpm)培養した。中間代謝物質の蓄積によりセルロース分解反応が抑制されることを回避するために、経時2日目、6日目および9日目に、水素資化性メタン生成細菌Methanothermobacter thermoaoutotrophicus DSM1053 及び酢酸資化性メタン生成細菌Methanothrix thermophlia DSM6194の培養液を各1.0ml添加した。
【0080】
経時的にガス生成量及び組成を測定した後、バイアル瓶から2 mL試料を採取し、菌数、溶解性CODcr(S−COD)、揮発性有機酸(Volatile Fatty acids、VFA)を測定した。実験終了後、バイアル瓶残液中のセルロース量を測定した。
【0081】
ガス生成量の測定は5mL、20mL、50mL、100mLのシリンジを用いて行った。ガス組成はTCDガスクロマトグラフ(ジーエルサイエンス、GC-323)で分析した。
【0082】
S-CODとVFA濃度の測定には、サンプルを10000rpmで10分間遠心分離した後、上澄みを0.8μmメンブレンフィルターで濾過したものを用いた。S-CODの測定にはHAC式吸光度法、(重クロム酸法COD分解試薬(HACH COMPANY)を用い、波長620nmにおける吸光度を吸光度測定器(HACH COMPANY、Odyssey DR / 2500))を用いて測定した。VFA濃度は高速液体クロマトグラフ(HPLC、エルマ光学)で測定した。
【0083】
エタノール濃度は、食品分析酵素試薬(J. K. インターナショナル、F−キット-エタノール)を用い、波長340nmにおける吸光度を分光吸光光度計(島津製作所、UV-120-02)を用いて測定した。
【0084】
実験終了後のバイアル瓶残液中のセルロースは次のように測定した。バイアル瓶残液をミニブレンダー(サンプル量が少ない時は薬さじ)で粉砕後、105℃で2時間乾燥し、30分以上放冷した試料1.0gを正確に円筒濾紙にとり、エタノール(特級 和光純薬)・ベンゼン(特級 和光純薬)混液(1:2)でソックスレー抽出(6時間)を行った。純水でサンプルを洗浄し、105℃で1 日乾燥した後、30分以上放冷した。その後、水酸化ナトリウム溶液(1.25%)で90℃、30分間煮沸した後、純水で2回洗浄した。さらに硫酸溶液(1.25%)で90℃、30分間煮沸した後、純粋で2回洗浄した。純水で適宜希釈後、フェノール硫酸法で全糖量を測定した。得られた全糖量を以下の式に適用し、算出された値を試料中のセルロースの割合とした。
[式]セルロースの割合=全糖量(mg/L)×全液量(L)×0.9 / サンプル重量(mg)
別途測定したバイアル瓶残液中の全固形物濃度(下水試験方法)に対するセルロースの割合から、セルロース量を算出した。
【0085】
菌数は、試料から抽出したDNAを鋳型とした定量PCRによって測定した。定量PCRはLight Cycler System(Roche Diagnostics)を使用し、Light Cycler-Fast Start DNA master SYBR Green1試薬を用いてPCRを行った後、専用解析ソフト(Roche Diagnostics Lightcycler ver.3.5)に従って解析した。
【0086】
定量PCRで用いたプライマーセットは、以下の通りである。
セルロース分解菌Clostridium sp. JC3 株をターゲットとしたプライマーセット(JC3):配列番号11(JC3-76F:5’CGTTGGAGATGTAACCAGC 3’)と配列番号12(JC3-687R:5’ACATCTGACTTGCTTCCC 3’);
セルロース分解菌Clostridium sp. JC94 clone(GenBank Accession No. AB231801(配列番号4)の16S rRNA遺伝子を有する)をターゲットとしたプライマーセット(JC94)配列番号13と配列番号12;
Methanosarcina属菌群をターゲットとしたプライマーセット(Msar):配列番号23と配列番号24;
Methanomicrobiaceae科のMethanoculleus属とMethanogenium属をターゲットとしたプライマーセット(Mcul)配列番号27と配列番号28;
Methanobacteriaceae科菌群をターゲットとしたプライマーセット(Mtb):配列番号31と配列番号32
各微生物(群)の16S rDNAのコピー数を、試料中の全DNA量で除した値を菌濃度とした。増幅産物同定のための溶解曲線作成条件は70℃から95℃で、温度上昇速度を0.1℃/secとした。菌数の変化を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
微生物(群)のDNAコピー数濃度(copies/L)から下記表2に示す換算係数を用いてCOD濃度(mgCOD/L)を求めることができる。
【0089】
【表2】

【0090】
反応ミュレーションモデルを用いた解析
この回分実験系の各種反応基質濃度及び各種微生物群の定量データを用い、各種パラメータのフィッティングおよびシミュレーション値と実測値との比較を行った結果を以下に示す。
【0091】
本実験系においては添加した基質が主にセルロースであるため、セルロースを単一の炭素源とし、図4に示すような代謝経路によってメタンが生成されるまでの代謝モデルを構築した。反応基質の取り込みによる菌体の増殖速度、および代謝物の生合成速度は上記数式(2)および(4)に準じ、特にセルロース分解菌であるJC3株の増殖速度、各代謝物の生合成速度については数式(5)〜(11)を使用した。また、Methanosarcina属菌群による酢酸と水素の取り込み速度については式(12)および(13)を使用した。
【0092】
上記の反応速度式を用い、半飽和定数Kおよび最大基質取り込み速度kの最適値をAQUASIM2.1シミュレーションソフトのパラメータ・エスティメーション機能により求めた結果を表3に示す。また、JC3株の単離菌を用いて本試験と同様の実験を行い、得られた各代謝産物の割り合いから求めた代謝物分配係数Fの値も併せて示す。
【0093】
これらの定数変数を用い、AQUASIM2.1上でシミュレーションソフトを走らせて各種基質の経日濃度変化をプロットし、実測値と比較した結果を図4に示す。本発明の方法に基づいてシミュレーションを行うことにより、実測値と高い整合性を持ったシミュレーション結果を得ることができた。
【0094】
【表3】

【0095】
セルロース高含有原水のメタン発酵実験
図1に示す連続処理可能な装置を用いて実施例を行った。この際用いた原水貯留槽5の有効容積は5リットルであり、メタン発酵槽6は完全混合型で有効容積は30リットルであった。また、生ごみ:水=1:4.5にトイレットペーパー25.75gを添加した疑似廃水を原水として供給した。原水の性状を表4に示す。原水貯留槽5の温度は室温に、またメタン発酵槽6の温度は55℃に制御した。
【0096】
メタン発酵槽6内の各基質分解酸生成細菌およびメタン生成細菌を上述の各プライマーセットを用いて定量PCR法により定量し、メタン発酵槽6内の各基質および各中間代謝物およびメタン生成量を上述の各分析法により定量し、これらの測定値を基に反応シミュレーションモデルを用いて各分解微生物(群)による各基質の菌体あたり最大取り込み速度を求め、原水の処理条件を調節した。
【0097】
培養開始当初はメタン発酵槽6の滞留時間(HRT)が約60日になるように原水投入量を設定し、次いでメタンガスの発生量、各微生物(群)による各基質の菌体あたり最大取り込み速度kが安定した状態で段階的に負荷を上げていった。実験開始48日目にHRTが14日になるように原水投入量を増量したところ、その後も順調にメタンガスの生成が認められた。メタンガス生成が安定した期間では、投入したセルロース分の90%以上がメタンガスに転換されていた。
【0098】
一方、各基質及び各微生物(群)の定量を行わなかった対照系では、10日目にHRTが40日となるように原水投入量を増量したところ順調にメタンガス発生が認められたため、38日目にHRTが25日となるように原水投入量を増量したが、メタンガス発生が次第に不安定になり、60日目には運転を停止せざるを得なかった。
【0099】
【表4】

【比較例1】
【0100】
[既存のシミュレーションモデルを用いた解析(対照系)]
実施例1と比較するため、菌濃度が未知である状態で、IWA嫌気性消化モデル(非特許文献4)に準拠した既存のシミュレーションモデル(ただし、不溶性基質を設定しなかった)を用いて実施例1に示す回分実験系の各種反応基質濃度データを用い、各種パラメータのフィッティングおよびシミュレーション値と実測値との比較を行った結果を以下に示す。
【0101】
既存のモデルにおいては、各種分解菌群の初期菌濃度を与えて、その後の増減は基質の減少速度と収率の推定値、および死滅定数の推定値を用いることにより算出する。しかしながら各種分解菌の初期菌濃度も不明であるため、最初に添加した集積培養体の不溶性CODが全て分解菌であり、さらにセルロース分解菌数が菌相の50%、水素資化性メタン菌数が0.5%、酢酸資化性メタン菌数が0.5%、酢酸、水素生成細菌数が49%であると仮定して、表5に示すような初期分解菌濃度を得た。
【0102】
【表5】

【0103】
表5に示すように、既存のモデルでは、セルロース分解細菌は単一の菌として扱われるため、JC3株とJC94株の相違及びMethanosarcina属菌群とMethanobacteriaceae科菌群が共に水素を資化する場合の競合関係は無視される。
【0104】
次いで、表5の初期菌濃度と基質濃度の実測値の減少から細菌濃度の増減を推定する。この作業は、実際のところ、大きな困難を伴うものであった。
【0105】
まずセルロースの減少から、収率を0.13、死滅定数を0.05であると仮定(非特許文献8に記載されている酸発酵菌の収率及び同文献p171に記載の低速増殖菌の死滅定数(嫌気性微生物は全て低速増殖菌と言ってよい)の値を引用)して菌濃度の推移を計算して表6の値を得た。
【0106】
【表6】

【0107】
表6より、既にこの時点でかなり実測値とかけ離れた値となっていることがわかる。
【0108】
次にVFA等のセルロース分解産物を代謝する酢酸、水素生成細菌群の増減を計算した。見かけのVFA減少量は、真のVFA減少量からセルロース分解による増加分を差し引いた値となるために、単にVFAの減少量に基づいて増殖を求めることができない。そのため、まず表6に示すセルロース分解細菌濃度推定値とセルロースの実測値からセルロースの飽和定数Kおよび最大取り込み速度kをフィッティングし、次いで、この代謝速度モデルを用いて、酢酸生成細菌群及び水素生成細菌群の菌濃度がゼロであると仮定した場合のVFAの増加量を計算し、これとVFA実測値との差から酢酸生成細菌群及び水素生成細菌群の増減を計算しなければならず、非常に複雑で誤差が大きい計算とならざるを得なかった。
【0109】
このような手順を踏んで各種分解細菌群濃度を推定し、これらの値と基質濃度の実測値からパラメータ・フィッティングを行って各種基質の経日濃度変化をプロットし、実測値と比較した結果を図6に示す。実測値とのフィッティングを行っているため、ある程度実測値と近いカーブが得られている。しかし、フィッティングに使用している菌濃度が正しくないために、フィッティングの過程で実際にはありえないような定数変数が与えられてしまっている。例えば、セルロースの半飽和定数として2428591mgCOD/Lが、最大取り込み速度として383.3d-1が与えられている。このように定数変数が異常であるため、このシミュレーションモデルを用いて将来の負荷変動などによる処理性能の変化を予測しようとする場合には、正しい予測を行うことができない弊害があると予想される。
【0110】
実施例1及び対照系のシミュレーショングラフと実測値との相関係数を求めた結果を下記表7に示す。なお、プロピオン酸濃度と水素濃度に関しては実測値モデル値ともにゼロに近かったため、相関係数による評価は行っていない。表7より、本発明にかかる実施例1により得られたシミュレーショングラフの方が、対照系よりも実測値に対して高い相関係数を持っていることがわかる。
【0111】
【表7】

【0112】
以上の結果より、本発明の方法に基づいてシミュレーションを行うことにより、既存の方法に比べて、実測値に対するより高い整合性を持ったシミュレーション結果を得ることができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1は、本発明の嫌気性処置装置の一実施形態を示す概略説明図である。
【図2】図2は、図1に示す嫌気性処置装置における演算部及び制御部を示す概略説明図である。
【図3】図3は、本発明の演算装置20における制御フローチャートの一例を示す。
【図4】図4は、実施例1で用いたセルロース基質からメタンが生成されるまでの代謝モデルを示す。
【図5】図5は、図4に示す代謝モデルについての各種基質および中間代謝物の実測値とシミュレーション値との比較を示すグラフである。
【図6】図6は、対照系を用いた場合の図4に示す代謝モデルについての各種基質および中間代謝物の実測値とシミュレーション値との比較を示すグラフである。
【符号の説明】
【0114】
1 原水
3 原水混合槽
4 破砕装置
5 原水貯留槽
6 メタン発酵槽
8 固液分離装置
12 ポンプ
13 バイオガス
14 ガスホルダー
15 バイオガス利用機器
20 演算部
21 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)有機性廃棄物及び/又は廃水中に含まれる各基質および中間代謝物の分解反応に寄与する特定の微生物(群)を特異的に検出・定量する工程、
(2)該微生物(群)に固有の基質及び中間代謝物を定量する工程、
(3)工程(1)からの各微生物(群)の定量データ及び工程(2)からの各基質及び各中間代謝物の定量データを用いて、少なくとも各微生物(群)による各基質及び各中間代謝物の菌体あたり最大取り込み速度及び/又は各微生物(群)の各基質及び各中間代謝物に対する半飽和定数を決定する工程、
を含み、嫌気性処理プロセスでの生物学的反応を化学量論的及び/又は反応速度論的に解析して決定した処理条件を適用する有機性廃棄物及び/又は廃水の嫌気性処理方法。
【請求項2】
前記工程(3)において、水素の存在により変動する各微生物(群)に取り込まれた基質に由来する中間代謝物への分配係数を適用して、少なくとも各微生物(群)による各基質及び各中間代謝物の菌体あたり最大取り込み速度及び/又は各微生物(群)の各基質及び各中間代謝物に対する半飽和定数を決定する、請求項1に記載の嫌気性処理方法。
【請求項3】
前記工程(3)における分配係数の適用は、工程(1)および(2)で決定した微生物(群)の濃度および基質又は中間代謝物の濃度を下記式:
【数1】

(式中、kは最大基質取り込み速度、Kは基質に対する半飽和定数、Sは基質濃度、Xは微生物(群)濃度、Yは微生物(群)による生成収率、SH2は水素濃度、Kiasynは中間代謝物a(糖、各種有機酸、アルコール類または水素)の生合成阻害定数、Faは中間代謝物aの分配係数を示す)
に適用して、パラメータフィッティングすることにより行うことを含む、請求項2に記載の嫌気性処理方法。
【請求項4】
前記工程(1)において検出・定量される特定の微生物(群)は、下記(A)〜(G)に記載の少なくとも一種類を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の嫌気性処理方法:
(A)セルロースを基質として、糖類、酢酸、プロピオン酸、酢酸もしくはプロピオン酸以外の揮発性有機酸、アルコール類、水素のいずれか一種類以上を生産する微生物(群)、
(B)タンパク質を基質として、酢酸、プロピオン酸、酢酸もしくはプロピオン酸以外の揮発性有機酸、アルコール類、水素のいずれか一種類以上を生産する微生物(群)、
(C)セルロース以外の糖類を基質として、酢酸、プロピオン酸、酢酸もしくはプロピオン酸以外の揮発性有機酸、アルコール類、水素のいずれか一種類以上を生産する微生物(群)、
(D)脂質を基質として、酢酸、プロピオン酸、酢酸もしくはプロピオン酸以外の揮発性有機酸、アルコール類、水素のいずれか一種類以上を生産する微生物(群)、
(E)酢酸を基質として、メタンを生成する微生物(群)、
(F)酢酸および/または水素を基質として、メタンを生成する微生物(群)、
(G)水素を基質として、メタンを生成する微生物(群)。
【請求項5】
前記微生物(群)(A)は、配列番号1〜4の塩基配列もしくはこれらに対して少なくとも90%の相同性を持つ16S rRNA遺伝子を有する1又は2以上のセルロース分解酸生成細菌を含み、
前記微生物(群)(B)は、配列番号5〜8の塩基配列もしくはこれらに対して少なくとも90%の相同性を持つ16S rRNA遺伝子を有する1又は2以上のタンパク質分解菌を含み、
前記微生物(群)(C)は、配列番号9または10の塩基配列もしくはこれらに対して少なくとも90%の相同性を持つ16S rRNA遺伝子を有する1又は2以上の糖(セルロースを除く)分解菌を含み、
前記微生物(群)(E)は、メタン生成細菌Methanosaetaceae科菌群を含み、
前記微生物(群)(F)は、メタン生成細菌Methanosarcina属菌群を含み、
前記微生物(群)(G)は、メタン生成細菌Methanomicrobiaceae科のMethanoculleus属とMethanogenium属、メタン生成細菌Methanomicrobiales目のMethanospirillaceae科菌群及びメタン生成細菌Methanobacteriaceae科菌群を含む
ことを特徴とする請求項4に記載の嫌気性処理方法。
【請求項6】
前記工程(1)において、特定の微生物(群)の検出・定量は、下記(a)〜(j)に記載のプライマーセットを用いて、DNAまたはRNAを属または科レベルで分別的に定量検出することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の嫌気性処理方法:
(a)配列番号11の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号12の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、セルロース分解酸生成細菌Clostridium sp. JC3株(配列番号1の16S rRNA遺伝子を有する)とその近縁株Clostridium sp. Clone 6-2-K(配列番号2の16S rRNA遺伝子を有する)、Clone 5-1-N(配列番号3の16S rRNA遺伝子を有する)をターゲットとしたプライマーセット;
(b)配列番号13の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号12の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、セルロース分解酸生成細菌Clostridium sp. JC94 clone(配列番号4の16S rRNA遺伝子を有する)をターゲットとしたプライマーセット、
(c)配列番号14の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号15の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対;配列番号16の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号15の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対;または配列番号17の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号18の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対からなる、タンパク質分解菌 Coprothermobacter proteolyticus P1株(配列番号5の16S rRNA遺伝子を有する)、Coprothermobacter proteolyticus P2株(配列番号6の16S rRNA遺伝子を有する)、Coprothermobacter proteolyticus P3株(配列番号7の16S rRNA遺伝子を有する)、Coprothermobacter proteolyticus P4株(配列番号8の16S rRNA遺伝子を有するをターゲットとしたプライマーセット;
(d)配列番号19の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号20の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、セルロース以外の糖類分解に関わる S1株(配列番号9の16S rRNA遺伝子を有する)をターゲットとしたプライマーセット;
(e)配列番号21の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号22の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、セルロース以外の糖類分解に関わる S2株(配列番号10の16S rRNA遺伝子を有する)をターゲットとしたプライマーセット;
(f)配列番号23の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号24の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、酢酸及び/又は水素を基質とするメタン生成細菌Methanosarcina属菌群をターゲットとしたプライマーセット;
(g)配列番号25の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号26の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、酢酸を基質とするメタン生成細菌Methanosaetaceae科菌群をターゲットとしたプライマーセット;
(h)配列番号27の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号28の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、水素を基質とするメタン生成細菌Methanomicrobiaceae科のMethanoculleus属とMethanogenium属をターゲットとしたプライマーセット;
(i)配列番号29の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号30の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、水素を基質とするメタン生成細菌Methanomicrobiales目のMethanospirillaceae科菌群をターゲットとしたプライマーセット;
(j)配列番号31の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号32の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、水素を基質とするメタン生成細菌Methanobacteriaceae科菌群をターゲットとしたプライマーセット。
【請求項7】
原水貯留槽と、嫌気性反応槽と、嫌気性反応槽の状態量に基づいて反応シミュレーションモデルを実行する演算部と、演算結果に基づいて決定された処理条件となるように嫌気性処理プロセスを制御する制御部と、を備え、該反応シミュレーションモデルは、
(1)分子生物学的手法により特異的に検出・定量された嫌気性反応槽内の有機性廃棄物及び/又は廃水中に含まれる各基質および各中間代謝物の分解反応に寄与する特定の微生物(群)の濃度、および
(2)定量された嫌気性反応槽内の該微生物(群)に固有の基質及び中間代謝物の濃度、
を入力値として、少なくとも各微生物(群)による各基質及び中間代謝物の菌体あたり最大取り込み速度及び/又は各微生物(群)の各基質及び中間代謝物に対する半飽和定数を数学的手法を用いて決定する工程を含むことを特徴とする有機性廃棄物及び/又は廃水の嫌気性処理装置。
【請求項8】
前記反応シミュレーションモデルは、水素の存在により変動する各微生物(群)に取り込まれた基質に由来する中間代謝物への分配係数を適用して、少なくとも各微生物(群)による各基質及び各中間代謝物の菌体あたり最大取り込み速度及び/又は各微生物(群)の各基質及び各中間代謝物に対する半飽和定数を決定する、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記分配係数の適用は、前記(1)微生物(群)の濃度および前記(2)基質又は中間代謝物の濃度を下記式:
【数2】

(式中、kは最大基質取り込み速度、Kは基質に対する半飽和定数、Sは基質濃度、Xは微生物(群)濃度、Yは微生物(群)による生成収率、SH2は水素濃度、Kiasynは中間代謝物a(糖、各種有機酸、アルコール類または水素)の生合成阻害定数、Faは中間代謝物aの分配係数を示す)
に適用して、パラメータフィッティングすることにより行うことを含む、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記特定の微生物(群)の濃度は、下記(a)〜(j)に記載のプライマーセットを用いて、DNAまたはRNAを属または科レベルで分別的に定量検出されたものであることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の装置:
(a)配列番号11の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号12の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、セルロース分解酸生成細菌Clostridium sp. JC3株(配列番号1の16S rRNA遺伝子を有する)とその近縁株Clostridium sp. Clone 6-2-K(配列番号2の16S rRNA遺伝子を有する)、Clone 5-1-N(配列番号3の16S rRNA遺伝子を有する)をターゲットとしたプライマーセット;
(b)配列番号13の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号12の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、セルロース分解酸生成細菌Clostridium sp. JC94 clone(配列番号4の16S rRNA遺伝子を有する)をターゲットとしたプライマーセット、
(c)配列番号14の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号15の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対;配列番号16の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号15の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対;または配列番号17の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号18の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの対からなる、タンパク質分解菌 Coprothermobacter proteolyticus P1株(配列番号5の16S rRNA遺伝子を有する)、Coprothermobacter proteolyticus P2株(配列番号6の16S rRNA遺伝子を有する)、Coprothermobacter proteolyticus P3株(配列番号7の16S rRNA遺伝子を有する)、Coprothermobacter proteolyticus P4株(配列番号8の16S rRNA遺伝子を有する)をターゲットとしたプライマーセット;
(d)配列番号19の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号20の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、セルロース以外の糖類分解に関わる S1株(配列番号9の16S rRNA遺伝子を有する)をターゲットとしたプライマーセット;
(e)配列番号21の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号22の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、セルロース以外の糖類分解に関わる S2株(配列番号10の16S rRNA遺伝子を有する)をターゲットとしたプライマーセット;
(f)配列番号23の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号24の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、酢酸及び/又は水素を基質とするメタン生成細菌Methanosarcina属菌群をターゲットとしたプライマーセット;
(g)配列番号25の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号26の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、酢酸を基質とするメタン生成細菌Methanosaetaceae科菌群をターゲットとしたプライマーセット;
(h)配列番号27の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号28の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、水素を基質とするメタン生成細菌Methanomicrobiaceae科のMethanoculleus属とMethanogenium属をターゲットとしたプライマーセット;
(i)配列番号29の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号30の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、水素を基質とするメタン生成細菌Methanomicrobiales目のMethanospirillaceae科菌群をターゲットとしたプライマーセット;
(j)配列番号31の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号32の塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとの対からなる、水素を基質とするメタン生成細菌Methanobacteriaceae科菌群をターゲットとしたプライマーセット。
【請求項11】
(1)有機性廃棄物及び/又は廃水中に含まれる各基質および中間代謝物の分解反応に寄与する特定の微生物(群)を特異的に検出・定量する工程、
(2)該微生物(群)に固有の基質及び中間代謝物を定量する工程、
(3)工程(1)からの各微生物(群)の定量データ及び工程(2)からの各基質及び各中間代謝物の定量データを用いて、少なくとも各微生物(群)による各基質及び各中間代謝物の菌体あたり最大取り込み速度及び/又は各微生物(群)の各基質及び各中間代謝物に対する半飽和定数を決定する工程、
を含み、嫌気性処理プロセスでの生物学的反応を化学量論的及び/又は反応速度論的に解析して決定した処理条件を適用する有機性廃棄物及び/又は廃水の嫌気性処理プロセスの制御方法。
【請求項12】
(1)有機性廃棄物及び/又は廃水中に含まれる各基質および中間代謝物の分解反応に寄与する特定の微生物(群)を特異的に検出・定量する工程、
(2)該微生物(群)に固有の基質及び中間代謝物を定量する工程、
(3)工程(1)からの各微生物(群)の定量データ及び工程(2)からの各基質及び各中間代謝物の定量データを用いて、少なくとも各微生物(群)による各基質及び各中間代謝物の菌体あたり最大取り込み速度及び/又は各微生物(群)の各基質及び各中間代謝物に対する半飽和定数を決定する工程、
を含み、嫌気性処理プロセスでの生物学的反応を化学量論的及び/又は反応速度論的に解析する有機性廃棄物及び/又は廃水の嫌気性処理プロセスの診断方法。
【請求項13】
(1)有機性廃棄物及び/又は廃水中に含まれる各基質および中間代謝物の分解反応に寄与する特定の微生物(群)を特異的に検出・定量する工程、
(2)該微生物(群)に固有の基質及び中間代謝物を定量する工程、
(3)工程(1)からの各微生物(群)の定量データ及び工程(2)からの各基質及び各中間代謝物の定量データを用いて、少なくとも各微生物(群)による各基質及び各中間代謝物の菌体あたり最大取り込み速度及び/又は各微生物(群)の各基質及び各中間代謝物に対する半飽和定数を決定する工程、
を含み、嫌気性処理プロセスでの生物学的反応を化学量論的及び/又は反応速度論的に解析する有機性廃棄物及び/又は廃水の嫌気性処理プロセスの設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−289914(P2007−289914A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215417(P2006−215417)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】