孔拡張部の形成方法及び孔拡張部切削装置
【課題】
木材等の建築用構成部材を接合するための表面に露出しない接合構造を構成する孔の内部の所要箇所に孔拡張部を設ける作業において、特に熟練していない作業者でも、容易かつ迅速に孔拡張部を所要の形状に均一につくることができる装置を提供する。
【解決手段】
孔拡張部切削装置C1は、孔90に本質的に隙間なく挿入できる挿入体1と、挿入体1に収められ、回転力を付与することができる回転軸2と、回転軸2に、挿入体1の外周面より外側へ張り出し可能及び内側へ収容可能に設けられた切削具3とを備えており、孔90に挿入体1を挿入した状態で回転軸2に回転力を付与し、切削具3を遠心力で挿入体1の外周面より外側へ張り出させ、孔より径大の孔拡張部91を形成することができるものである。
木材等の建築用構成部材を接合するための表面に露出しない接合構造を構成する孔の内部の所要箇所に孔拡張部を設ける作業において、特に熟練していない作業者でも、容易かつ迅速に孔拡張部を所要の形状に均一につくることができる装置を提供する。
【解決手段】
孔拡張部切削装置C1は、孔90に本質的に隙間なく挿入できる挿入体1と、挿入体1に収められ、回転力を付与することができる回転軸2と、回転軸2に、挿入体1の外周面より外側へ張り出し可能及び内側へ収容可能に設けられた切削具3とを備えており、孔90に挿入体1を挿入した状態で回転軸2に回転力を付与し、切削具3を遠心力で挿入体1の外周面より外側へ張り出させ、孔より径大の孔拡張部91を形成することができるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔拡張部の形成方法及び孔拡張部切削装置に関するものである。更に詳しくは、孔の内部の所要箇所に孔拡張部を設ける作業において、特に熟練していない作業者でも、容易かつ迅速に孔拡張部を所要の形状に均一につくることができるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
現代建築においては、天井板を張らずに、木材を使用した梁等の骨組を下から見えるように意図的に露出させ、そのままデザインとして活かした建築物が増えてきている。このような建築物において、木材の接合に接合金具を用いると、金属が表面に露出してしまい、美観が損なわれてしまう。また、このように露出している金属には結露が生じやすく、木材の腐食が進みやすいばかりでなく、金属部分に熱が直接的に伝わりやすいため耐火性能も低いという問題もある。更には、梁や桁等の木材に経年により「木やせ」が生じたときに、木材と接合金具の間に隙間が生じる可能性が高く、この場合は接合金具が緩んで木造建築物の耐久性が低下してしまう。
【0003】
本願発明者はかつて、このような課題を解決するために、特許文献1において、木材等の建築用構成部材の接合部が表面に露出しない状態で建築用構成部材同士の接合を強固に維持できる構造を提案した。
この構造は、接合される各建築用構成部材の接合部に設けられた孔に、孔の外径を拡げるように孔拡張部を所要数設け、各孔に渡るようにして接合部材を収め、更に各孔に接合部材を孔内に固着する接着剤を充填して固化させ、孔拡張部で固化した接着剤が各孔から接合部材が抜けないようにするストッパーとして機能するようにしたものである。
【0004】
上記構造においては、孔の内部の所要箇所に孔拡張部を形成する作業が必要となる。この作業は、特許文献1に記載されているように次のように行われている。なお、図12にその説明図を示す。
孔拡張部は、先端にドリル71を備えた電気ドリル7を用いて形成する。なお、図12では奥側の孔拡張部91の形成方法について説明しているが、中間部の孔拡張部についても同じようにして形成することができる。
ドリル71は、例えば長尺なシャンク711の先端に丸孔切削用のルータービット712を固着したものを用いる。ルータービット712は、その外径が孔の内径よりも小さいので、ドリル71は支障なく孔90の中に挿入することができる。
【0005】
まず、図12(a)の状態からドリル71を孔90の中に差し入れ、ルータービット712が所要の深さまで達したら電気ドリル7を作動させる。そして、図12(b)に示すように、電気ドリル7を傾け、ドリル71を孔90の軸芯方向に対してやや傾斜させる。
これにより、孔90の内壁部にルータービット712によって孔拡張部91の一部が切削される。更に、図12(c)に示すように、電気ドリル7を操作し、ルータービット712を内壁部に沿うように孔90の周方向に移動させて切削し、孔拡張部91の全体を形成する。上記した要領で、孔拡張部91を例えば孔内部の底部寄りと中間部の二箇所に形成する。
【特許文献1】特開2004−92058
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている上記方法には次のような課題がある。
すなわち、電気ドリルは作業者が手で持って、手の感覚を頼りに力の加減をしながら操作をするため、特に熟練していない作業者では作業に相当な時間がかかっている。
また、電気ドリルの手持ちによる操作では、シャンク711の傾きやルータービット712の高さ、周方向への動きが安定せず、孔拡張部の張り出し深さが浅かったり、いびつな形状になりやすく、所要の形状に正確かつ均一には形成しにくい。このように、仮に孔拡張部が正確に形成できない場合、孔拡張部の内部で固化した接着剤がストッパーとして十分に機能せず、建築用構成部材の規定の接合力が得られないおそれがある。
【0007】
(本発明の目的)
本発明の目的は、孔の内部の所要箇所に孔拡張部を設ける作業において、特に熟練していない作業者でも、容易かつ迅速に孔拡張部を所要の形状に均一につくることができ、例えば建築用構成部材の規定の接合力が安定的に得られるようにした孔拡張部の形成方法及び孔拡張部切削装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
【0009】
第1の発明にあっては、
孔に孔拡張部を形成する方法であって、
孔の内部に、切削手段を有する回転体を収容し、回転体を回転させて切削手段を外方へ動かし、孔より径大の孔拡張部を形成することを特徴とする、
孔拡張部の形成方法である。
【0010】
第2の発明にあっては、
孔に孔拡張部を形成する方法であって、
孔の内部に回転体を収容し、切削手段を回転体を回転させて、切削手段を遠心力で外方へ動かし、孔より径大の孔拡張部を形成することを特徴とする、
孔拡張部の形成方法である。
【0011】
第3の発明にあっては、
孔に孔拡張部を形成するための孔拡張部切削装置であって、
孔に挿入できる挿入体と、
挿入体の内部に収められ、回転力を付与することができる回転軸と、
回転軸の回転により、挿入体の外周面より外側へ張り出し可能に設けられた切削手段と、
を備えており、
孔に挿入体を挿入した状態で回転軸に回転力を付与し、切削手段を遠心力で挿入体の外周面より外側へ張り出させ、孔より径大の孔拡張部を形成することができるよう構成されていることを特徴とする、
孔拡張部切削装置である。
【0012】
第4の発明にあっては、
孔に孔拡張部を形成する方法であって、
孔の内部に、切削手段を有する回転体を収容し、回転体を回転させて、その回転力で切削手段を外方へ押し動かし、孔より径大の孔拡張部を形成することを特徴とする、
孔拡張部の形成方法である。
【0013】
第5の発明にあっては、
孔に孔拡張部を形成するための孔拡張部切削装置であって、
孔に軸周方向へ回転可能に挿入でき、回転力を付与することができる挿入体と、
挿入体に、挿入体の外周面より外側へ張り出し可能に設けられた切削手段と、
挿入体の回転により、切削手段(8)を軸周方向へ押して張り出し方向へ動かす押拡げ手段と、
を備えており、
孔に挿入体を挿入した状態で回転力を付与し、押拡げ手段で切削手段を押して挿入体の外周面より外側へ張り出させ、孔より径大の孔拡張部を形成することができるよう構成されていることを特徴とする、
孔拡張部切削装置である。
【0014】
第6の発明にあっては、
切削手段は、切削回転の中心と偏心した位置に設けられている偏心軸を中心として張り出し収容方向へ回動するよう構成されていることを特徴とする、
第3または第5の発明に係る孔拡張部切削装置である。
【0015】
第7の発明にあっては、
挿入体の外周面より外側へ張り出した切削手段を内側へ収容する戻し手段を備えていることを特徴とする、
第3、第5または第6の発明に係る孔拡張部切削装置である。
【0016】
第8の発明にあっては、
孔内における切削手段の深さ位置を調節する深さ調節手段を備えていることを特徴とする、
第3、第5、第6または第7の発明に係る孔拡張部切削装置である。
【0017】
第9の発明にあっては、
切削手段により切削された切削屑を孔の外へ排出する排出手段を備えていることを特徴とする、
第3、第5、第6、第7または第8の発明に係る孔拡張部切削装置である。
【0018】
孔拡張部切削装置を使用し加工する対象となるものは、特に限定するものではないが、例えば木材の他、石材、金属材、合成樹脂材等である。
回転軸に付与される回転力は、人力(手動)によるものでもよいし、モータ等の機械によるものでもよい。
切削手段を外方へ動かす手段としては、遠心力や回転力を利用したものの他、例えばバネやゴム、その他の弾性体等の付勢手段を利用することもできる。
【0019】
切削手段は、全体または一部に切削用の刃やヤスリ等を有するものであり、その構造は、挿入体の外周面より外側へ張り出し可能に設けられたものであれば、特に限定しない。
また、切削手段の数も限定するものではなく、適宜設定される。なお、遠心力の作用で拡がるものは、比較的重く形成して、その重さを利用できるようにするのが好ましい。
【0020】
戻し手段としては、切削手段を収容方向へ付勢するバネやゴム、その他の弾性体等の付勢手段、あるいは回転軸や挿入体を切削方向とは逆方向に回転させることにより、係合部を切削手段に係合させる等して収容方向へ動かすもの等であるが、これらに限定はされない。
【0021】
深さ調節手段としては、例えば挿入体と切削手段の軸線方向の位置関係が固定であれば、挿入体の挿入深さを調節して切削手段の深さ位置の調節を行う構造があげられる。また、挿入体と切削手段の軸線方向の位置が相互に動く関係であれば、例えば切削手段を有する回転軸の位置を調節して行う構造があげられるが、これらに限定するものではない。
【0022】
(作用)
本発明に係る孔拡張部切削装置の作用を説明する。なお、ここでは、本発明の各構成要件のそれぞれに、後述する実施の形態において各部に付与した符号を対応させて付与し説明するが、この符号の付与は、あくまで説明の理解を助けるためであって各構成要件の上記各部への限定を意味するものではない。
【0023】
孔拡張部切削装置は、例えば木材等の建築用構成部材を接合するための表面に露出しない接合構造を構成する孔(90)の内部の所要箇所に孔拡張部(91)を設ける作業を行うものである。その作業は、次のように行う。
【0024】
A.第3の発明に係る孔拡張部切削装置の場合
【0025】
(1)回転軸(2)にモータの駆動軸をつなぐ等して回転力を付与できるようにする。また、切削手段(3)を挿入体(1)の外周面より内側へ収容しておき、孔(90)に挿入する際の邪魔にならないようにしておく。
(2)建築用構成部材(9)に設けられた孔(90)に挿入体(1)を挿入する。切削手段(3)は孔(90)内壁に接触せず邪魔にならないので、円滑な挿入が可能である。また、このとき、例えば深さ調節手段(4)等で孔(90)内における切削手段(3)の深さ位置を所要深さに調節する。
【0026】
(3)回転軸(2)を例えば高速で回転させると、切削手段(3)は遠心力で拡がる方向へ動き、挿入体(1)の外周面より外側へ張り出す。これにより、孔(90)の内壁は切削され、切削された部分の内径は次第に拡がり、例えば切削手段(3)が最大に拡がった最大径まで切削される。これにより、孔(90)の内壁に孔(90)より径大の孔拡張部(91)が形成される。
【0027】
(4)切削手段(3)によって切削された切削屑は、例えば排出手段(12,13)を備えているものは、切削作業中に切削屑を孔の外へ排出する。また、切削屑を挿入体(1)の内部空間部へ誘導することもできる。切削屑の一部は孔拡張部の内部に残ることもある。また、例えば切削手段の刃等が回転軌跡の外周面が先端へ向け窄まるよう形成されていると、孔拡張部(91)と孔(90)の内周が交わる部分(境界部分)の角が鈍角になる。これによると、孔(90)に孔拡張部(91)を形成した後でボルト等の接合部材を差し込むときに、その先端が角に接触しても孔拡張部(91)の斜面で孔(90)中央方向へ誘導されやすく、引っ掛かりにくい。
これにより、接合部材の差し込み作業が円滑にできる。
【0028】
更に、切削手段の刃等が上記のような形状を有することにより、例えばルータビット等と比較して軸線方向の厚みが大きくなり、切削される面も孔拡張部(91)の空間も大きくなるので、熱が発散しやすく切削面に焦げが生じにくい。
また、孔拡張部の内径をルータビットを使用した場合と比較してより径大に形成できる。つまり、ルータビットを使用した場合は図12に示すように最大でそのほぼ半径分(孔径の半分)しか切り込めないが、本発明の場合は最大で挿入体の直径分(孔径分)まで切り込むことができる。
【0029】
(5)一箇所の孔拡張部(91)を形成したら、例えば戻し手段によって切削手段(3)が挿入体(1)の外径に収まるようにする。そして、孔(90)から挿入体(1)を抜き取り、孔(90)内に空気を吹き付ける等して、残った切削屑を排出する。また、例えば挿入体(1)の内部空間部に詰まっている切削屑を取り除くようにする。
(6)切削手段(3)の深さ位置を上記位置と違えて、上記(1)〜(5)の作業を必要なだけ繰り返し行う。
【0030】
B.第5の発明に係る孔拡張部切削装置の場合
【0031】
(1)挿入体(5)にモータの駆動軸をつなぐ等して回転力を付与できるようにする。また、切削手段(8)を挿入体(5)の外周面より内側へ収容しておき、孔(90)に挿入する際の邪魔にならないようにしておく。
(2)建築用構成部材(9)に設けられた孔(90)に挿入体(5)を挿入する。切削手段(8)は孔(90)内壁に接触せず邪魔にならないので、円滑な挿入が可能である。また、深さ調節手段(4)等で孔(90)内における切削手段(8)の深さ位置を所要深さに調節することもできる。
【0032】
(3)挿入体(5)を例えば低速で回転させると、切削手段(8)は押拡げ手段(51,52)で押されて拡がる方向へ動き、挿入体(5)の外周面より外側へ張り出す。これにより、孔(90)の内壁は切削され、切削された部分の内径は次第に拡がり、例えば切削手段(8)が最大に拡がった最大径まで切削される。これにより、孔(90)の内壁に孔(90)より径大の孔拡張部(91)が形成される。
【0033】
(4)切削手段(8)によって切削された切削屑は、例えば排出手段(12,13)を備えているものは、切削作業中に切削屑を孔の外へ排出する。また、切削屑を挿入体(1)の内部空間部へ誘導することもできる。切削屑の一部は孔拡張部(91)の内部に残ることもある。なお、例えば切削手段(8)の刃等が回転軌跡の外周面が先端へ向け窄まるよう形成されていることによる作用及び孔拡張部(91)の内径をルータビットを使用した場合と比較してより径大に形成できる点等は上記と同様である。
【0034】
(5)一箇所の孔拡張部(91)を形成したら、例えば戻し手段(51,52)によって切削手段(8)を挿入体(5)の外径に収まるようにする。そして、孔(90)から挿入体(5)を抜き取り、孔(90)内に空気を吹き付ける等して、残った切削屑を排出する。また、例えば挿入体(5)の内部空間部に詰まっている切削屑を取り除くようにする。
(6)切削手段(8)の深さ位置を上記位置と違えて、上記(1)〜(5)の作業を必要なだけ繰り返し行う。
【発明の効果】
【0035】
(a)本発明によれば、挿入体の外周面より外側へ張り出し可能に設けられた切削手段を、例えば回転時の遠心力や押拡げる力等を利用して張り出し方向へ動かし、孔の所要深さの位置に孔径より径大の孔拡張部を形成することができる。このように、本発明によれば、特に熟練していない作業者でも容易かつ迅速に所要の形状に均一につくることができ、建築用構成部材の規定の接合力が安定的に得られる。
【0036】
(b)挿入体の外周面より外側へ張り出した切削手段を内側へ収容する戻し手段を備えているものは、切削手段を挿入体の外周面より径小にすることができるので、孔拡張作業後に挿入体を孔から確実に抜き取ることができる。
【0037】
(c)孔内における切削手段の深さ位置を調節できる深さ調節手段を備えているものは、孔内の予め決められた深さ位置に孔拡張部を形成することが簡単にできる。
【0038】
(d)切削手段により切削された切削屑を孔の外へ排出する排出手段を備えているものは、切削作業中に切削屑を排出するようにすれば、孔内で切削屑が邪魔にならず、切削抵抗が増して孔内が焦げてしまうようなことはなく、円滑に作業できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明を図に示した実施例に基づき詳細に説明する。
図1は本発明に係る孔拡張部切削装置の第1の実施の形態を示す中間部を一部省略した斜視説明図、
図2は図1におけるA矢視図、
図3は孔拡張部切削装置の中間部を一部省略した縦断面説明図である。
【0040】
孔拡張部切削装置C1は、挿入体1と、挿入体1の内部に通してあり先端部に切削具3を有する回転軸2と、孔内における切削具3の深さ位置を調節できる深さ調節具4を備えている。以下、上記それぞれについて詳細に説明する。
【0041】
(挿入体1)
挿入体1は、金属製の円管で形成され、空間部19、19aを有している。後述する軸受具10、11間が空間部19、軸受具11より外側が空間部19aである。空間部19aの先端側は開口されている。
【0042】
挿入体1(円管)の外径は、加工対象となる孔に挿入したとき、その内壁と本質的に隙間のないように形成してある。なお、作業に支障のない限度であれば多少の隙間があってもよい。また、挿入体1の長さに関しては、項の深さに対応させて複数種類を設定してもよいし、長尺に形成しておけば短い(浅い)孔の加工は可能であるので、長尺のもの一種類の設定でもよい。
【0043】
挿入体1の基端の開口部には、後で説明する回転軸2を回転可能に挿通し軸支するための軸孔100を中心に有する軸受具10が内嵌めして固着されている。
また、挿入体1の先端寄りには、軸受具10と共に回転軸2を軸支する軸受具11が固着されている。軸受具11の中心には、軸孔110を有している。なお、各軸孔100、110に玉軸受等を設けることもできる。
【0044】
先端側の軸受具11から挿入体1の基端にかけて、軸受具11の一部を貫通して吸引路12が設けてある。挿入体1の基端には、吸引路12につながる吸引管13が突出して設けてある。吸引管13には、外部の吸引装置が接続される。また、上記軸受具10、11には、それぞれ空気導入孔101、111が設けてある。
【0045】
(回転軸2)
挿入体1の空間部19には、先端部に切削具3が取り付けられた回転軸2が収められている。回転軸2は、先部側を上記軸受具11の軸孔110に挿通し、後部側を上記軸受具10の軸孔100に挿通して、回転可能に軸支されている。符号21、22は、軸受具10に接触して回転軸2の進退を制限するストッパー盤である。
【0046】
(切削具3)
回転軸2の先端側には、副軸23、24が設けてある。副軸23、24は丸棒状に形成されており、回転軸2と軸線方向を平行にして回転軸2の直径線上に相対向する位置に固着されている。副軸23、24の先部側には、それぞれ切削具3が設けられている。切削具3は、円柱状で外周面にヤスリと同様の多数の凹凸が設けられている切削体30と、切削体30に固着してあり切削体30を副軸23、24に回動(回転)可能に取り付けるための管体31と、それらをつなぐアーム32で構成されている。
【0047】
切削体30は、回転軸2が回転したときに遠心力の影響を受けやすいように比較的重く形成されている。また、各切削体30は、図2に示すように副軸23、24を中心として外側へ回動し拡がったときには、挿入体1の外径より張り出し、内側へ回動したときには、挿入体1の外径より内側へ収まるようにしてある。なお、各切削体30は、バネ(図示省略)により内回動方向に付勢されている。
【0048】
(深さ調節具4)
挿入体1には、深さ調節具4が設けられている。深さ調節具4は、挿入体1に移動可能に外嵌めされた円管状の調節具本体40と、その周壁を貫通して螺合された固定螺子41で構成されている。符号42はハンドルである。調節具本体40のうち、切削側の端面が孔の縁に当接する当接面43となる。深さ調節具4は、固定螺子41によって挿入体1に対する固定及び固定解除ができる。なお、挿入体1の外周面に目盛り(図示省略)を設けて、この目盛りに深さ調節具4の当接面43側を合わせ、孔内における切削具3の深さ位置を設定する際の目安とすることもできる。
【0049】
(作用)
図4は孔拡張部切削装置の使用方法を示す横断面説明図、
図5は孔拡張部切削装置の使用方法を示す縦断面説明図である。
図1ないし図5を参照して、本実施の形態に係る孔拡張部切削装置の作用を説明する。
【0050】
孔拡張部切削装置C1は、例えば木材等の建築用構成部材9を接合するための、表面に露出しない接合構造(上記段落〔0003〕参照)を構成する孔90の内部の所要箇所に、内径がより大きい孔拡張部91を形成するものである。
【0051】
(1)まず、建築用構成部材9に、円形の孔90を所要深さに形成する(図4(a)、図5(a)参照)。
(2)孔拡張部切削装置C1の回転軸2にモータ(図示省略)の駆動軸をつなぐ等して回転力を付与できるようにする。また、切削具3の切削体30を挿入体1の外周面より内側へ収容しておき、孔に挿入する際の邪魔にならないようにしておく。また、吸引管13に吸引装置を接続する。
(3)建築用構成部材9に設けられた孔90に挿入体1を挿入する。切削具3は挿入体1内部に収まっており、孔90内壁に接触せず邪魔にならないので、円滑な挿入が可能である。また、深さ調節具4によって孔90内における切削具3の深さ位置を所要深さに調節する(図4(b)、図5(b)参照)。
【0052】
(4)モータを作動させ、回転軸2を高速で回転させる。また、吸引装置を作動させる。
切削具3においては、切削体30が付勢力に抗するように遠心力によって拡がる方向へ回動し、各切削体30は挿入体1の外周面より外側へ張り出す。これにより、孔90の内壁は切削され、切削された部分の内径は次第に拡がり、切削具3が最大に拡がった最大径まで切削される。これにより、孔90の内壁に孔90より径大の孔拡張部91が形成される(図4(c)、図5(c)、(d)参照)。
【0053】
(5)切削具3によって切削された切削屑は、切削体30がヤスリ状であるため粉体になり、挿入体1の空間部19aから吸引路12、吸引管13を通り、外部へ吸引される。なお、例えば切削体30が回転軌跡の外周面が先端へ向け窄まるよう形成されていると、孔拡張部91と孔90の内周が交わる部分(境界部分)の角が鈍角になる(図4(d)点線部参照)。これによると、孔90に孔拡張部91を形成した後でボルト等の接合部材を差し込むときに、その先端が角に接触しても孔拡張部91の斜面で孔90中央方向へ誘導されやすく、引っ掛かりにくい。これにより、接合部材の差し込み作業が円滑にできる。
【0054】
更に、切削手段の刃等が上記のような形状を有することにより、例えばルータビット等と比較して軸線方向の厚みが大きくなり、切削される面も孔拡張部91の空間も大きくなるので、熱が発散しやすく切削面に焦げが生じにくい。
また、孔拡張部91の内径をルータビットを使用した場合と比較してより径大に形成できる。つまり、ルータビットを使用した場合は図12に示すように最大でそのほぼ半径分(孔径の半分)しか切り込めないが、孔拡張部切削装置C1では、最大で挿入体の直径分(孔径分)まで切り込むことができる。
【0055】
(6)一箇所の孔拡張部91を形成したら、回転軸2からモータの駆動軸を取り外す。また、各切削具3の切削体30はバネの付勢力により内方向へ回動し、挿入体1の外径内に自動的に収まる。そして、挿入体1に抜き取り方向へ力を作用させれば、容易かつ確実に抜き取りができる(図4(d)、図5(e)、(f)参照)。このようにして、孔90から挿入体1を抜き取り、孔90内に空気を吹き付ける等して、残った切削屑を孔90、孔拡張部91の外部へ排出する。
(7)切削具3の深さ位置を上記位置と違えて、上記(2)〜(6)の作業を必要なだけ繰り返し行う。このようにして、孔90に所要数の孔拡張部91を形成することができる。
【0056】
そして、接合する二つの建築用構成部材9のうち一方の建築用構成部材9の孔90内に接合部材(例えばボルト)を差し込み、接合部材の1/2を孔90から突出させるようにし、更に他方の建築用構成部材9を突出した接合部材に孔90を嵌めて孔90同士が通じる位置で合わせる。この状態で、相互に通じている各孔90(孔拡張部91含む)内に別に設けた充填孔から接着剤を注入充填し、接合部材を孔90内で包むようにして固化させる。
【0057】
本実施の形態に係る孔拡張部切削装置C1によれば、孔90の所要深さの位置に孔径より径大の孔拡張部91を、特に熟練していない作業者でも容易かつ迅速に所要の形状に均一につくることができる。このように形成した孔90、孔拡張部91を含む上記接合構造により、建築用構成部材9同士を強固に接合することができ、建築用構成部材9の規定の接合力が安定的に得られる。
【0058】
図6は本発明に係る孔拡張部切削装置の第2の実施の形態を示す中間部を一部省略した斜視説明図、
図7は図6におけるB矢視図、
図8は孔拡張部切削装置の中間部を一部省略した縦断面説明図である。
【0059】
孔拡張部切削装置C2は、挿入体1と、挿入体5の基端に固着してある回転軸6と、挿入体5の先端に設けてある切削具8を備えている。以下、上記それぞれについて詳細に説明する。
【0060】
(挿入体5と回転軸6)
挿入体5は、金属製の円管で形成され、空間部59を有している。挿入体5(円管)の外径は、孔に挿入したとき、その内壁と本質的に隙間のないように形成してある。また、挿入体1の長さに関しては、項の深さに対応させて複数種類を設定してもよいし、長尺に形成しておけば短い(浅い)孔の加工は可能であるので、長尺のもの一種類の設定でもよい。
【0061】
挿入体5の基端の開口部には、内嵌めされた栓体50を介して回転軸6が挿入体5の軸心となる位置に固着してある。
挿入体5の先端には、直径線上に相対向させて押拡げ部材51、52が、円筒体の集方向の他の部分を除去することにより設けてある。また、挿入体5の先部側(押拡げ部材51、52より基部側)には、軸取着具53が開口部を塞ぐように、かつ軸周方向へ回転可能に取り付けてある。軸取着具53は、外周部に設けられた溝54を挿入体5の壁部を貫通し螺合されている係合螺子55に摺動可能に嵌め入れてある。
【0062】
(切削具8)
軸取着具53には、丸棒状の副軸56、57が回転中心から同じ距離で直径線方向に配して設けてある。副軸56、57の軸線方向は、挿入体5の軸線方向と平行である。
副軸56、57の先部側には、それぞれ切削具8が設けられている。切削具8は、直板状で先端部に片刃の刃部を有する切削刃80と、切削刃80を副軸56、57に回動(回転)可能に取り付けるための管体81で構成されている。
【0063】
各切削刃80は、上記押拡げ部材51、52の間に位置させてある。各切削刃80は、後述する図10に示すように、副軸56、57を中心として外側へ回動し拡がったときには、刃部が挿入体5の外径より張り出し、内側へ回動したときには、挿入体5の外径より内側へ収まるようにしてある。押拡げ部材51、52は、正逆どちらの方向に回転しても、各切削刃80のいずれかの面に当接するようにしてある。なお、各切削刃80をバネ等で内回動方向へ付勢して、切削後は挿入体5の外周面より内側に自動的に収まるようにしてもよい。
【0064】
図9は孔拡張部切削装置の使用方法を示す横断面説明図、
図10は孔拡張部切削装置の使用方法を示す縦断面説明図である。
【0065】
(1)まず、建築用構成部材9に、円形の孔90を所要深さに形成する(図9(a)、図10(a)参照)。
(2)孔拡張部切削装置C2の回転軸6にモータ(図示省略)の駆動軸をつないで挿入体5に回転力を付与できるようにする。また、切削具8を挿入体5の外周面より内側へ収容しておき、孔90に挿入する際の邪魔にならないようにしておく。
(3)建築用構成部材9に設けられた孔90に挿入体5を挿入する。切削具8は孔90内壁に接触せず邪魔にならないので、円滑な挿入が可能である。また、孔90内における切削具8の深さ位置を所要深さに調節する(図9(b)、図10(b)参照)。
【0066】
(4)挿入体5を低速で回転させると、各切削具8の切削刃80は挿入体5の押拡げ部材51、52によって押されて拡がる方向へ回動する。それと同時に、切削刃80には切削抵抗が働き、切削抵抗が押し拡げ力に勝って切削刃80は拡がる方向へ回動し、挿入体5の外周面より外側へ張り出して最大径まで拡がる。これにより、孔90の内壁に孔90より径大の孔拡張部91が形成される(図9(c)、図10(c)参照)。
【0067】
(5)切削具8によって切削された切削屑は、孔拡張部91内に溜まる。一箇所の孔拡張部91を形成したら、挿入体5を逆回転させて、押拡げ部材51、52で各切削刃80を上記と逆の面側から押して内方へ押し倒すように回動させ、挿入体5の外径に収まるようにする(図10(d)、(e)参照)。そして、孔90から挿入体5を抜き取り(図9(d)、図10(f)参照)、孔90内に空気を吹き付ける等して、残った切削屑を排出する。
(6)切削具8の深さ位置を上記位置と違えて、上記(2)〜(5)の作業を必要なだけ繰り返し行う。
【0068】
そして、上記孔拡張部切削装置C1の場合と同様に、接合する二つの建築用構成部材9のうち一方の建築用構成部材9の孔90内に接合部材(例えばボルト)を差し込み、接合部材の1/2を孔90から突出させるようにし、更に他方の建築用構成部材9を突出した接合部材に孔90を嵌めて孔90同士が通じる位置で合わせる。この状態で、相互に通じている各孔90(孔拡張部91含む)内に接着剤を充填し、接合部材を孔90内で包むようにして固化させる。
【0069】
本実施の形態に係る孔拡張部切削装置C2によれば、孔90の所要深さの位置に孔径より径大の孔拡張部91を、特に熟練していない作業者でも容易かつ迅速に所要の形状に均一につくることができる。このように形成した孔90、孔拡張部91を含む上記接合構造により、建築用構成部材9同士を強固に接合することができ、建築用構成部材9の規定の接合力が安定的に得られる。
【0070】
図11は孔拡張部の径を調節する方法の説明図である。
図に示すように、孔拡張部の径を大きくしたい場合は、副軸23、24の位置を直径方向の外側へずらすことにより対応できる。逆に、孔拡張部の径を小さくしたい場合には、各副軸を直径方向の内側へずらすことにより対応できる。
また、図11では、孔拡張部切削装置C1を例にとり説明しているが、孔拡張部切削装置C2の場合も同様に、副軸56、57の位置を直径方向の内外側へずらすことにより、孔拡張部の径を調節することが可能である。
【0071】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまで説明上のものであって限定的なものではなく、上記用語、表現と等価の用語、表現を除外するものではない。また、本発明は図示されている実施の形態に限定されるものではなく、技術思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る孔拡張部切削装置の第1の実施の形態を示す中間部を一部省略した斜視説明図。
【図2】図1におけるA矢視図。
【図3】孔拡張部切削装置の中間部を一部省略した縦断面説明図。
【図4】孔拡張部切削装置の使用方法を示す横断面説明図。
【図5】孔拡張部切削装置の使用方法を示す縦断面説明図。
【図6】本発明に係る孔拡張部切削装置の第2の実施の形態を示す中間部を一部省略した斜視説明図。
【図7】図6におけるB矢視図。
【図8】孔拡張部切削装置の中間部を一部省略した縦断面説明図。
【図9】孔拡張部切削装置の使用方法を示す横断面説明図。
【図10】孔拡張部切削装置の使用方法を示す縦断面説明図。
【図11】孔拡張部の径を調節する方法の説明図。
【図12】従来の孔拡張部の施工方法を示す説明図。
【符号の説明】
【0073】
C1 孔拡張部切削装置
1 挿入体
10 軸受具
100 軸孔
101 空気導入孔
11 軸受具
110 軸孔
111 軸孔
12 吸引路
13 吸引管
19 空間部
19a 空間部
2 回転軸
21、22 ストッパー盤
23、24 副軸
3 切削具
30 切削体
31 管体
32 アーム
4 深さ調節具
40 調節具本体
41 固定螺子
42 ハンドル
43 当接面
C2 孔拡張部切削装置
5 挿入体
50 栓体
51、52 押拡げ部材
53 軸取着具
54 溝
55 係合螺子
56、57 副軸
59 空間部
6 回転軸
8 切削具
80 切削刃
81 管体
9 建築用構成部材
90 孔
91 孔拡張部
7 電気ドリル
71 ドリル
711 シャンク
712 ルータービット
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔拡張部の形成方法及び孔拡張部切削装置に関するものである。更に詳しくは、孔の内部の所要箇所に孔拡張部を設ける作業において、特に熟練していない作業者でも、容易かつ迅速に孔拡張部を所要の形状に均一につくることができるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
現代建築においては、天井板を張らずに、木材を使用した梁等の骨組を下から見えるように意図的に露出させ、そのままデザインとして活かした建築物が増えてきている。このような建築物において、木材の接合に接合金具を用いると、金属が表面に露出してしまい、美観が損なわれてしまう。また、このように露出している金属には結露が生じやすく、木材の腐食が進みやすいばかりでなく、金属部分に熱が直接的に伝わりやすいため耐火性能も低いという問題もある。更には、梁や桁等の木材に経年により「木やせ」が生じたときに、木材と接合金具の間に隙間が生じる可能性が高く、この場合は接合金具が緩んで木造建築物の耐久性が低下してしまう。
【0003】
本願発明者はかつて、このような課題を解決するために、特許文献1において、木材等の建築用構成部材の接合部が表面に露出しない状態で建築用構成部材同士の接合を強固に維持できる構造を提案した。
この構造は、接合される各建築用構成部材の接合部に設けられた孔に、孔の外径を拡げるように孔拡張部を所要数設け、各孔に渡るようにして接合部材を収め、更に各孔に接合部材を孔内に固着する接着剤を充填して固化させ、孔拡張部で固化した接着剤が各孔から接合部材が抜けないようにするストッパーとして機能するようにしたものである。
【0004】
上記構造においては、孔の内部の所要箇所に孔拡張部を形成する作業が必要となる。この作業は、特許文献1に記載されているように次のように行われている。なお、図12にその説明図を示す。
孔拡張部は、先端にドリル71を備えた電気ドリル7を用いて形成する。なお、図12では奥側の孔拡張部91の形成方法について説明しているが、中間部の孔拡張部についても同じようにして形成することができる。
ドリル71は、例えば長尺なシャンク711の先端に丸孔切削用のルータービット712を固着したものを用いる。ルータービット712は、その外径が孔の内径よりも小さいので、ドリル71は支障なく孔90の中に挿入することができる。
【0005】
まず、図12(a)の状態からドリル71を孔90の中に差し入れ、ルータービット712が所要の深さまで達したら電気ドリル7を作動させる。そして、図12(b)に示すように、電気ドリル7を傾け、ドリル71を孔90の軸芯方向に対してやや傾斜させる。
これにより、孔90の内壁部にルータービット712によって孔拡張部91の一部が切削される。更に、図12(c)に示すように、電気ドリル7を操作し、ルータービット712を内壁部に沿うように孔90の周方向に移動させて切削し、孔拡張部91の全体を形成する。上記した要領で、孔拡張部91を例えば孔内部の底部寄りと中間部の二箇所に形成する。
【特許文献1】特開2004−92058
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている上記方法には次のような課題がある。
すなわち、電気ドリルは作業者が手で持って、手の感覚を頼りに力の加減をしながら操作をするため、特に熟練していない作業者では作業に相当な時間がかかっている。
また、電気ドリルの手持ちによる操作では、シャンク711の傾きやルータービット712の高さ、周方向への動きが安定せず、孔拡張部の張り出し深さが浅かったり、いびつな形状になりやすく、所要の形状に正確かつ均一には形成しにくい。このように、仮に孔拡張部が正確に形成できない場合、孔拡張部の内部で固化した接着剤がストッパーとして十分に機能せず、建築用構成部材の規定の接合力が得られないおそれがある。
【0007】
(本発明の目的)
本発明の目的は、孔の内部の所要箇所に孔拡張部を設ける作業において、特に熟練していない作業者でも、容易かつ迅速に孔拡張部を所要の形状に均一につくることができ、例えば建築用構成部材の規定の接合力が安定的に得られるようにした孔拡張部の形成方法及び孔拡張部切削装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
【0009】
第1の発明にあっては、
孔に孔拡張部を形成する方法であって、
孔の内部に、切削手段を有する回転体を収容し、回転体を回転させて切削手段を外方へ動かし、孔より径大の孔拡張部を形成することを特徴とする、
孔拡張部の形成方法である。
【0010】
第2の発明にあっては、
孔に孔拡張部を形成する方法であって、
孔の内部に回転体を収容し、切削手段を回転体を回転させて、切削手段を遠心力で外方へ動かし、孔より径大の孔拡張部を形成することを特徴とする、
孔拡張部の形成方法である。
【0011】
第3の発明にあっては、
孔に孔拡張部を形成するための孔拡張部切削装置であって、
孔に挿入できる挿入体と、
挿入体の内部に収められ、回転力を付与することができる回転軸と、
回転軸の回転により、挿入体の外周面より外側へ張り出し可能に設けられた切削手段と、
を備えており、
孔に挿入体を挿入した状態で回転軸に回転力を付与し、切削手段を遠心力で挿入体の外周面より外側へ張り出させ、孔より径大の孔拡張部を形成することができるよう構成されていることを特徴とする、
孔拡張部切削装置である。
【0012】
第4の発明にあっては、
孔に孔拡張部を形成する方法であって、
孔の内部に、切削手段を有する回転体を収容し、回転体を回転させて、その回転力で切削手段を外方へ押し動かし、孔より径大の孔拡張部を形成することを特徴とする、
孔拡張部の形成方法である。
【0013】
第5の発明にあっては、
孔に孔拡張部を形成するための孔拡張部切削装置であって、
孔に軸周方向へ回転可能に挿入でき、回転力を付与することができる挿入体と、
挿入体に、挿入体の外周面より外側へ張り出し可能に設けられた切削手段と、
挿入体の回転により、切削手段(8)を軸周方向へ押して張り出し方向へ動かす押拡げ手段と、
を備えており、
孔に挿入体を挿入した状態で回転力を付与し、押拡げ手段で切削手段を押して挿入体の外周面より外側へ張り出させ、孔より径大の孔拡張部を形成することができるよう構成されていることを特徴とする、
孔拡張部切削装置である。
【0014】
第6の発明にあっては、
切削手段は、切削回転の中心と偏心した位置に設けられている偏心軸を中心として張り出し収容方向へ回動するよう構成されていることを特徴とする、
第3または第5の発明に係る孔拡張部切削装置である。
【0015】
第7の発明にあっては、
挿入体の外周面より外側へ張り出した切削手段を内側へ収容する戻し手段を備えていることを特徴とする、
第3、第5または第6の発明に係る孔拡張部切削装置である。
【0016】
第8の発明にあっては、
孔内における切削手段の深さ位置を調節する深さ調節手段を備えていることを特徴とする、
第3、第5、第6または第7の発明に係る孔拡張部切削装置である。
【0017】
第9の発明にあっては、
切削手段により切削された切削屑を孔の外へ排出する排出手段を備えていることを特徴とする、
第3、第5、第6、第7または第8の発明に係る孔拡張部切削装置である。
【0018】
孔拡張部切削装置を使用し加工する対象となるものは、特に限定するものではないが、例えば木材の他、石材、金属材、合成樹脂材等である。
回転軸に付与される回転力は、人力(手動)によるものでもよいし、モータ等の機械によるものでもよい。
切削手段を外方へ動かす手段としては、遠心力や回転力を利用したものの他、例えばバネやゴム、その他の弾性体等の付勢手段を利用することもできる。
【0019】
切削手段は、全体または一部に切削用の刃やヤスリ等を有するものであり、その構造は、挿入体の外周面より外側へ張り出し可能に設けられたものであれば、特に限定しない。
また、切削手段の数も限定するものではなく、適宜設定される。なお、遠心力の作用で拡がるものは、比較的重く形成して、その重さを利用できるようにするのが好ましい。
【0020】
戻し手段としては、切削手段を収容方向へ付勢するバネやゴム、その他の弾性体等の付勢手段、あるいは回転軸や挿入体を切削方向とは逆方向に回転させることにより、係合部を切削手段に係合させる等して収容方向へ動かすもの等であるが、これらに限定はされない。
【0021】
深さ調節手段としては、例えば挿入体と切削手段の軸線方向の位置関係が固定であれば、挿入体の挿入深さを調節して切削手段の深さ位置の調節を行う構造があげられる。また、挿入体と切削手段の軸線方向の位置が相互に動く関係であれば、例えば切削手段を有する回転軸の位置を調節して行う構造があげられるが、これらに限定するものではない。
【0022】
(作用)
本発明に係る孔拡張部切削装置の作用を説明する。なお、ここでは、本発明の各構成要件のそれぞれに、後述する実施の形態において各部に付与した符号を対応させて付与し説明するが、この符号の付与は、あくまで説明の理解を助けるためであって各構成要件の上記各部への限定を意味するものではない。
【0023】
孔拡張部切削装置は、例えば木材等の建築用構成部材を接合するための表面に露出しない接合構造を構成する孔(90)の内部の所要箇所に孔拡張部(91)を設ける作業を行うものである。その作業は、次のように行う。
【0024】
A.第3の発明に係る孔拡張部切削装置の場合
【0025】
(1)回転軸(2)にモータの駆動軸をつなぐ等して回転力を付与できるようにする。また、切削手段(3)を挿入体(1)の外周面より内側へ収容しておき、孔(90)に挿入する際の邪魔にならないようにしておく。
(2)建築用構成部材(9)に設けられた孔(90)に挿入体(1)を挿入する。切削手段(3)は孔(90)内壁に接触せず邪魔にならないので、円滑な挿入が可能である。また、このとき、例えば深さ調節手段(4)等で孔(90)内における切削手段(3)の深さ位置を所要深さに調節する。
【0026】
(3)回転軸(2)を例えば高速で回転させると、切削手段(3)は遠心力で拡がる方向へ動き、挿入体(1)の外周面より外側へ張り出す。これにより、孔(90)の内壁は切削され、切削された部分の内径は次第に拡がり、例えば切削手段(3)が最大に拡がった最大径まで切削される。これにより、孔(90)の内壁に孔(90)より径大の孔拡張部(91)が形成される。
【0027】
(4)切削手段(3)によって切削された切削屑は、例えば排出手段(12,13)を備えているものは、切削作業中に切削屑を孔の外へ排出する。また、切削屑を挿入体(1)の内部空間部へ誘導することもできる。切削屑の一部は孔拡張部の内部に残ることもある。また、例えば切削手段の刃等が回転軌跡の外周面が先端へ向け窄まるよう形成されていると、孔拡張部(91)と孔(90)の内周が交わる部分(境界部分)の角が鈍角になる。これによると、孔(90)に孔拡張部(91)を形成した後でボルト等の接合部材を差し込むときに、その先端が角に接触しても孔拡張部(91)の斜面で孔(90)中央方向へ誘導されやすく、引っ掛かりにくい。
これにより、接合部材の差し込み作業が円滑にできる。
【0028】
更に、切削手段の刃等が上記のような形状を有することにより、例えばルータビット等と比較して軸線方向の厚みが大きくなり、切削される面も孔拡張部(91)の空間も大きくなるので、熱が発散しやすく切削面に焦げが生じにくい。
また、孔拡張部の内径をルータビットを使用した場合と比較してより径大に形成できる。つまり、ルータビットを使用した場合は図12に示すように最大でそのほぼ半径分(孔径の半分)しか切り込めないが、本発明の場合は最大で挿入体の直径分(孔径分)まで切り込むことができる。
【0029】
(5)一箇所の孔拡張部(91)を形成したら、例えば戻し手段によって切削手段(3)が挿入体(1)の外径に収まるようにする。そして、孔(90)から挿入体(1)を抜き取り、孔(90)内に空気を吹き付ける等して、残った切削屑を排出する。また、例えば挿入体(1)の内部空間部に詰まっている切削屑を取り除くようにする。
(6)切削手段(3)の深さ位置を上記位置と違えて、上記(1)〜(5)の作業を必要なだけ繰り返し行う。
【0030】
B.第5の発明に係る孔拡張部切削装置の場合
【0031】
(1)挿入体(5)にモータの駆動軸をつなぐ等して回転力を付与できるようにする。また、切削手段(8)を挿入体(5)の外周面より内側へ収容しておき、孔(90)に挿入する際の邪魔にならないようにしておく。
(2)建築用構成部材(9)に設けられた孔(90)に挿入体(5)を挿入する。切削手段(8)は孔(90)内壁に接触せず邪魔にならないので、円滑な挿入が可能である。また、深さ調節手段(4)等で孔(90)内における切削手段(8)の深さ位置を所要深さに調節することもできる。
【0032】
(3)挿入体(5)を例えば低速で回転させると、切削手段(8)は押拡げ手段(51,52)で押されて拡がる方向へ動き、挿入体(5)の外周面より外側へ張り出す。これにより、孔(90)の内壁は切削され、切削された部分の内径は次第に拡がり、例えば切削手段(8)が最大に拡がった最大径まで切削される。これにより、孔(90)の内壁に孔(90)より径大の孔拡張部(91)が形成される。
【0033】
(4)切削手段(8)によって切削された切削屑は、例えば排出手段(12,13)を備えているものは、切削作業中に切削屑を孔の外へ排出する。また、切削屑を挿入体(1)の内部空間部へ誘導することもできる。切削屑の一部は孔拡張部(91)の内部に残ることもある。なお、例えば切削手段(8)の刃等が回転軌跡の外周面が先端へ向け窄まるよう形成されていることによる作用及び孔拡張部(91)の内径をルータビットを使用した場合と比較してより径大に形成できる点等は上記と同様である。
【0034】
(5)一箇所の孔拡張部(91)を形成したら、例えば戻し手段(51,52)によって切削手段(8)を挿入体(5)の外径に収まるようにする。そして、孔(90)から挿入体(5)を抜き取り、孔(90)内に空気を吹き付ける等して、残った切削屑を排出する。また、例えば挿入体(5)の内部空間部に詰まっている切削屑を取り除くようにする。
(6)切削手段(8)の深さ位置を上記位置と違えて、上記(1)〜(5)の作業を必要なだけ繰り返し行う。
【発明の効果】
【0035】
(a)本発明によれば、挿入体の外周面より外側へ張り出し可能に設けられた切削手段を、例えば回転時の遠心力や押拡げる力等を利用して張り出し方向へ動かし、孔の所要深さの位置に孔径より径大の孔拡張部を形成することができる。このように、本発明によれば、特に熟練していない作業者でも容易かつ迅速に所要の形状に均一につくることができ、建築用構成部材の規定の接合力が安定的に得られる。
【0036】
(b)挿入体の外周面より外側へ張り出した切削手段を内側へ収容する戻し手段を備えているものは、切削手段を挿入体の外周面より径小にすることができるので、孔拡張作業後に挿入体を孔から確実に抜き取ることができる。
【0037】
(c)孔内における切削手段の深さ位置を調節できる深さ調節手段を備えているものは、孔内の予め決められた深さ位置に孔拡張部を形成することが簡単にできる。
【0038】
(d)切削手段により切削された切削屑を孔の外へ排出する排出手段を備えているものは、切削作業中に切削屑を排出するようにすれば、孔内で切削屑が邪魔にならず、切削抵抗が増して孔内が焦げてしまうようなことはなく、円滑に作業できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明を図に示した実施例に基づき詳細に説明する。
図1は本発明に係る孔拡張部切削装置の第1の実施の形態を示す中間部を一部省略した斜視説明図、
図2は図1におけるA矢視図、
図3は孔拡張部切削装置の中間部を一部省略した縦断面説明図である。
【0040】
孔拡張部切削装置C1は、挿入体1と、挿入体1の内部に通してあり先端部に切削具3を有する回転軸2と、孔内における切削具3の深さ位置を調節できる深さ調節具4を備えている。以下、上記それぞれについて詳細に説明する。
【0041】
(挿入体1)
挿入体1は、金属製の円管で形成され、空間部19、19aを有している。後述する軸受具10、11間が空間部19、軸受具11より外側が空間部19aである。空間部19aの先端側は開口されている。
【0042】
挿入体1(円管)の外径は、加工対象となる孔に挿入したとき、その内壁と本質的に隙間のないように形成してある。なお、作業に支障のない限度であれば多少の隙間があってもよい。また、挿入体1の長さに関しては、項の深さに対応させて複数種類を設定してもよいし、長尺に形成しておけば短い(浅い)孔の加工は可能であるので、長尺のもの一種類の設定でもよい。
【0043】
挿入体1の基端の開口部には、後で説明する回転軸2を回転可能に挿通し軸支するための軸孔100を中心に有する軸受具10が内嵌めして固着されている。
また、挿入体1の先端寄りには、軸受具10と共に回転軸2を軸支する軸受具11が固着されている。軸受具11の中心には、軸孔110を有している。なお、各軸孔100、110に玉軸受等を設けることもできる。
【0044】
先端側の軸受具11から挿入体1の基端にかけて、軸受具11の一部を貫通して吸引路12が設けてある。挿入体1の基端には、吸引路12につながる吸引管13が突出して設けてある。吸引管13には、外部の吸引装置が接続される。また、上記軸受具10、11には、それぞれ空気導入孔101、111が設けてある。
【0045】
(回転軸2)
挿入体1の空間部19には、先端部に切削具3が取り付けられた回転軸2が収められている。回転軸2は、先部側を上記軸受具11の軸孔110に挿通し、後部側を上記軸受具10の軸孔100に挿通して、回転可能に軸支されている。符号21、22は、軸受具10に接触して回転軸2の進退を制限するストッパー盤である。
【0046】
(切削具3)
回転軸2の先端側には、副軸23、24が設けてある。副軸23、24は丸棒状に形成されており、回転軸2と軸線方向を平行にして回転軸2の直径線上に相対向する位置に固着されている。副軸23、24の先部側には、それぞれ切削具3が設けられている。切削具3は、円柱状で外周面にヤスリと同様の多数の凹凸が設けられている切削体30と、切削体30に固着してあり切削体30を副軸23、24に回動(回転)可能に取り付けるための管体31と、それらをつなぐアーム32で構成されている。
【0047】
切削体30は、回転軸2が回転したときに遠心力の影響を受けやすいように比較的重く形成されている。また、各切削体30は、図2に示すように副軸23、24を中心として外側へ回動し拡がったときには、挿入体1の外径より張り出し、内側へ回動したときには、挿入体1の外径より内側へ収まるようにしてある。なお、各切削体30は、バネ(図示省略)により内回動方向に付勢されている。
【0048】
(深さ調節具4)
挿入体1には、深さ調節具4が設けられている。深さ調節具4は、挿入体1に移動可能に外嵌めされた円管状の調節具本体40と、その周壁を貫通して螺合された固定螺子41で構成されている。符号42はハンドルである。調節具本体40のうち、切削側の端面が孔の縁に当接する当接面43となる。深さ調節具4は、固定螺子41によって挿入体1に対する固定及び固定解除ができる。なお、挿入体1の外周面に目盛り(図示省略)を設けて、この目盛りに深さ調節具4の当接面43側を合わせ、孔内における切削具3の深さ位置を設定する際の目安とすることもできる。
【0049】
(作用)
図4は孔拡張部切削装置の使用方法を示す横断面説明図、
図5は孔拡張部切削装置の使用方法を示す縦断面説明図である。
図1ないし図5を参照して、本実施の形態に係る孔拡張部切削装置の作用を説明する。
【0050】
孔拡張部切削装置C1は、例えば木材等の建築用構成部材9を接合するための、表面に露出しない接合構造(上記段落〔0003〕参照)を構成する孔90の内部の所要箇所に、内径がより大きい孔拡張部91を形成するものである。
【0051】
(1)まず、建築用構成部材9に、円形の孔90を所要深さに形成する(図4(a)、図5(a)参照)。
(2)孔拡張部切削装置C1の回転軸2にモータ(図示省略)の駆動軸をつなぐ等して回転力を付与できるようにする。また、切削具3の切削体30を挿入体1の外周面より内側へ収容しておき、孔に挿入する際の邪魔にならないようにしておく。また、吸引管13に吸引装置を接続する。
(3)建築用構成部材9に設けられた孔90に挿入体1を挿入する。切削具3は挿入体1内部に収まっており、孔90内壁に接触せず邪魔にならないので、円滑な挿入が可能である。また、深さ調節具4によって孔90内における切削具3の深さ位置を所要深さに調節する(図4(b)、図5(b)参照)。
【0052】
(4)モータを作動させ、回転軸2を高速で回転させる。また、吸引装置を作動させる。
切削具3においては、切削体30が付勢力に抗するように遠心力によって拡がる方向へ回動し、各切削体30は挿入体1の外周面より外側へ張り出す。これにより、孔90の内壁は切削され、切削された部分の内径は次第に拡がり、切削具3が最大に拡がった最大径まで切削される。これにより、孔90の内壁に孔90より径大の孔拡張部91が形成される(図4(c)、図5(c)、(d)参照)。
【0053】
(5)切削具3によって切削された切削屑は、切削体30がヤスリ状であるため粉体になり、挿入体1の空間部19aから吸引路12、吸引管13を通り、外部へ吸引される。なお、例えば切削体30が回転軌跡の外周面が先端へ向け窄まるよう形成されていると、孔拡張部91と孔90の内周が交わる部分(境界部分)の角が鈍角になる(図4(d)点線部参照)。これによると、孔90に孔拡張部91を形成した後でボルト等の接合部材を差し込むときに、その先端が角に接触しても孔拡張部91の斜面で孔90中央方向へ誘導されやすく、引っ掛かりにくい。これにより、接合部材の差し込み作業が円滑にできる。
【0054】
更に、切削手段の刃等が上記のような形状を有することにより、例えばルータビット等と比較して軸線方向の厚みが大きくなり、切削される面も孔拡張部91の空間も大きくなるので、熱が発散しやすく切削面に焦げが生じにくい。
また、孔拡張部91の内径をルータビットを使用した場合と比較してより径大に形成できる。つまり、ルータビットを使用した場合は図12に示すように最大でそのほぼ半径分(孔径の半分)しか切り込めないが、孔拡張部切削装置C1では、最大で挿入体の直径分(孔径分)まで切り込むことができる。
【0055】
(6)一箇所の孔拡張部91を形成したら、回転軸2からモータの駆動軸を取り外す。また、各切削具3の切削体30はバネの付勢力により内方向へ回動し、挿入体1の外径内に自動的に収まる。そして、挿入体1に抜き取り方向へ力を作用させれば、容易かつ確実に抜き取りができる(図4(d)、図5(e)、(f)参照)。このようにして、孔90から挿入体1を抜き取り、孔90内に空気を吹き付ける等して、残った切削屑を孔90、孔拡張部91の外部へ排出する。
(7)切削具3の深さ位置を上記位置と違えて、上記(2)〜(6)の作業を必要なだけ繰り返し行う。このようにして、孔90に所要数の孔拡張部91を形成することができる。
【0056】
そして、接合する二つの建築用構成部材9のうち一方の建築用構成部材9の孔90内に接合部材(例えばボルト)を差し込み、接合部材の1/2を孔90から突出させるようにし、更に他方の建築用構成部材9を突出した接合部材に孔90を嵌めて孔90同士が通じる位置で合わせる。この状態で、相互に通じている各孔90(孔拡張部91含む)内に別に設けた充填孔から接着剤を注入充填し、接合部材を孔90内で包むようにして固化させる。
【0057】
本実施の形態に係る孔拡張部切削装置C1によれば、孔90の所要深さの位置に孔径より径大の孔拡張部91を、特に熟練していない作業者でも容易かつ迅速に所要の形状に均一につくることができる。このように形成した孔90、孔拡張部91を含む上記接合構造により、建築用構成部材9同士を強固に接合することができ、建築用構成部材9の規定の接合力が安定的に得られる。
【0058】
図6は本発明に係る孔拡張部切削装置の第2の実施の形態を示す中間部を一部省略した斜視説明図、
図7は図6におけるB矢視図、
図8は孔拡張部切削装置の中間部を一部省略した縦断面説明図である。
【0059】
孔拡張部切削装置C2は、挿入体1と、挿入体5の基端に固着してある回転軸6と、挿入体5の先端に設けてある切削具8を備えている。以下、上記それぞれについて詳細に説明する。
【0060】
(挿入体5と回転軸6)
挿入体5は、金属製の円管で形成され、空間部59を有している。挿入体5(円管)の外径は、孔に挿入したとき、その内壁と本質的に隙間のないように形成してある。また、挿入体1の長さに関しては、項の深さに対応させて複数種類を設定してもよいし、長尺に形成しておけば短い(浅い)孔の加工は可能であるので、長尺のもの一種類の設定でもよい。
【0061】
挿入体5の基端の開口部には、内嵌めされた栓体50を介して回転軸6が挿入体5の軸心となる位置に固着してある。
挿入体5の先端には、直径線上に相対向させて押拡げ部材51、52が、円筒体の集方向の他の部分を除去することにより設けてある。また、挿入体5の先部側(押拡げ部材51、52より基部側)には、軸取着具53が開口部を塞ぐように、かつ軸周方向へ回転可能に取り付けてある。軸取着具53は、外周部に設けられた溝54を挿入体5の壁部を貫通し螺合されている係合螺子55に摺動可能に嵌め入れてある。
【0062】
(切削具8)
軸取着具53には、丸棒状の副軸56、57が回転中心から同じ距離で直径線方向に配して設けてある。副軸56、57の軸線方向は、挿入体5の軸線方向と平行である。
副軸56、57の先部側には、それぞれ切削具8が設けられている。切削具8は、直板状で先端部に片刃の刃部を有する切削刃80と、切削刃80を副軸56、57に回動(回転)可能に取り付けるための管体81で構成されている。
【0063】
各切削刃80は、上記押拡げ部材51、52の間に位置させてある。各切削刃80は、後述する図10に示すように、副軸56、57を中心として外側へ回動し拡がったときには、刃部が挿入体5の外径より張り出し、内側へ回動したときには、挿入体5の外径より内側へ収まるようにしてある。押拡げ部材51、52は、正逆どちらの方向に回転しても、各切削刃80のいずれかの面に当接するようにしてある。なお、各切削刃80をバネ等で内回動方向へ付勢して、切削後は挿入体5の外周面より内側に自動的に収まるようにしてもよい。
【0064】
図9は孔拡張部切削装置の使用方法を示す横断面説明図、
図10は孔拡張部切削装置の使用方法を示す縦断面説明図である。
【0065】
(1)まず、建築用構成部材9に、円形の孔90を所要深さに形成する(図9(a)、図10(a)参照)。
(2)孔拡張部切削装置C2の回転軸6にモータ(図示省略)の駆動軸をつないで挿入体5に回転力を付与できるようにする。また、切削具8を挿入体5の外周面より内側へ収容しておき、孔90に挿入する際の邪魔にならないようにしておく。
(3)建築用構成部材9に設けられた孔90に挿入体5を挿入する。切削具8は孔90内壁に接触せず邪魔にならないので、円滑な挿入が可能である。また、孔90内における切削具8の深さ位置を所要深さに調節する(図9(b)、図10(b)参照)。
【0066】
(4)挿入体5を低速で回転させると、各切削具8の切削刃80は挿入体5の押拡げ部材51、52によって押されて拡がる方向へ回動する。それと同時に、切削刃80には切削抵抗が働き、切削抵抗が押し拡げ力に勝って切削刃80は拡がる方向へ回動し、挿入体5の外周面より外側へ張り出して最大径まで拡がる。これにより、孔90の内壁に孔90より径大の孔拡張部91が形成される(図9(c)、図10(c)参照)。
【0067】
(5)切削具8によって切削された切削屑は、孔拡張部91内に溜まる。一箇所の孔拡張部91を形成したら、挿入体5を逆回転させて、押拡げ部材51、52で各切削刃80を上記と逆の面側から押して内方へ押し倒すように回動させ、挿入体5の外径に収まるようにする(図10(d)、(e)参照)。そして、孔90から挿入体5を抜き取り(図9(d)、図10(f)参照)、孔90内に空気を吹き付ける等して、残った切削屑を排出する。
(6)切削具8の深さ位置を上記位置と違えて、上記(2)〜(5)の作業を必要なだけ繰り返し行う。
【0068】
そして、上記孔拡張部切削装置C1の場合と同様に、接合する二つの建築用構成部材9のうち一方の建築用構成部材9の孔90内に接合部材(例えばボルト)を差し込み、接合部材の1/2を孔90から突出させるようにし、更に他方の建築用構成部材9を突出した接合部材に孔90を嵌めて孔90同士が通じる位置で合わせる。この状態で、相互に通じている各孔90(孔拡張部91含む)内に接着剤を充填し、接合部材を孔90内で包むようにして固化させる。
【0069】
本実施の形態に係る孔拡張部切削装置C2によれば、孔90の所要深さの位置に孔径より径大の孔拡張部91を、特に熟練していない作業者でも容易かつ迅速に所要の形状に均一につくることができる。このように形成した孔90、孔拡張部91を含む上記接合構造により、建築用構成部材9同士を強固に接合することができ、建築用構成部材9の規定の接合力が安定的に得られる。
【0070】
図11は孔拡張部の径を調節する方法の説明図である。
図に示すように、孔拡張部の径を大きくしたい場合は、副軸23、24の位置を直径方向の外側へずらすことにより対応できる。逆に、孔拡張部の径を小さくしたい場合には、各副軸を直径方向の内側へずらすことにより対応できる。
また、図11では、孔拡張部切削装置C1を例にとり説明しているが、孔拡張部切削装置C2の場合も同様に、副軸56、57の位置を直径方向の内外側へずらすことにより、孔拡張部の径を調節することが可能である。
【0071】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまで説明上のものであって限定的なものではなく、上記用語、表現と等価の用語、表現を除外するものではない。また、本発明は図示されている実施の形態に限定されるものではなく、技術思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る孔拡張部切削装置の第1の実施の形態を示す中間部を一部省略した斜視説明図。
【図2】図1におけるA矢視図。
【図3】孔拡張部切削装置の中間部を一部省略した縦断面説明図。
【図4】孔拡張部切削装置の使用方法を示す横断面説明図。
【図5】孔拡張部切削装置の使用方法を示す縦断面説明図。
【図6】本発明に係る孔拡張部切削装置の第2の実施の形態を示す中間部を一部省略した斜視説明図。
【図7】図6におけるB矢視図。
【図8】孔拡張部切削装置の中間部を一部省略した縦断面説明図。
【図9】孔拡張部切削装置の使用方法を示す横断面説明図。
【図10】孔拡張部切削装置の使用方法を示す縦断面説明図。
【図11】孔拡張部の径を調節する方法の説明図。
【図12】従来の孔拡張部の施工方法を示す説明図。
【符号の説明】
【0073】
C1 孔拡張部切削装置
1 挿入体
10 軸受具
100 軸孔
101 空気導入孔
11 軸受具
110 軸孔
111 軸孔
12 吸引路
13 吸引管
19 空間部
19a 空間部
2 回転軸
21、22 ストッパー盤
23、24 副軸
3 切削具
30 切削体
31 管体
32 アーム
4 深さ調節具
40 調節具本体
41 固定螺子
42 ハンドル
43 当接面
C2 孔拡張部切削装置
5 挿入体
50 栓体
51、52 押拡げ部材
53 軸取着具
54 溝
55 係合螺子
56、57 副軸
59 空間部
6 回転軸
8 切削具
80 切削刃
81 管体
9 建築用構成部材
90 孔
91 孔拡張部
7 電気ドリル
71 ドリル
711 シャンク
712 ルータービット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔に孔拡張部を形成する方法であって、
孔(90)の内部に、切削手段(3)を有する回転体(2)を収容し、回転体(2)を回転させて切削手段(3)を外方へ動かし、孔(90)より径大の孔拡張部(91)を形成することを特徴とする、
孔拡張部の形成方法。
【請求項2】
孔に孔拡張部を形成する方法であって、
孔(90)の内部に回転体(2)を収容し、切削手段(3)を回転体(2)を回転させて、切削手段(3)を遠心力で外方へ動かし、孔(90)より径大の孔拡張部(91)を形成することを特徴とする、
孔拡張部の形成方法。
【請求項3】
孔に孔拡張部を形成するための孔拡張部切削装置であって、
孔に挿入できる挿入体(1)と、
挿入体(1)の内部に収められ、回転力を付与することができる回転軸(2)と、
回転軸(2)の回転により、挿入体(1)の外周面より外側へ張り出し可能に設けられた切削手段(3)と、
を備えており、
孔に挿入体(1)を挿入した状態で回転軸(2)に回転力を付与し、切削手段(3)を遠心力で挿入体(1)の外周面より外側へ張り出させ、孔より径大の孔拡張部を形成することができるよう構成されていることを特徴とする、
孔拡張部切削装置。
【請求項4】
孔に孔拡張部を形成する方法であって、
孔(90)の内部に、切削手段(8)を有する回転体(5)を収容し、回転体(5)を回転させて、その回転力で切削手段(8)を外方へ押し動かし、孔(90)より径大の孔拡張部(91)を形成することを特徴とする、
孔拡張部の形成方法。
【請求項5】
孔に孔拡張部を形成するための孔拡張部切削装置であって、
孔に軸周方向へ回転可能に挿入でき、回転力を付与することができる挿入体(5)と、
挿入体(5)に、挿入体(5)の外周面より外側へ張り出し可能に設けられた切削手段(8)と、
挿入体(5)の回転により、切削手段(8)を軸周方向へ押して張り出し方向へ動かす押拡げ手段(51,52)と、
を備えており、
孔に挿入体(5)を挿入した状態で回転力を付与し、押拡げ手段(51,52)で切削手段(8)を押して挿入体(5)の外周面より外側へ張り出させ、孔(90)より径大の孔拡張部(91)を形成することができるよう構成されていることを特徴とする、
孔拡張部切削装置。
【請求項6】
切削手段(3)(8)は、切削回転の中心と偏心した位置に設けられている偏心軸(23,24)(56,57)を中心として張り出し収容方向へ回動するよう構成されていることを特徴とする、
請求項3または5記載の孔拡張部切削装置。
【請求項7】
挿入体(1)(5)の外周面より外側へ張り出した切削手段(3)(8)を内側へ収容する戻し手段(51,52)を備えていることを特徴とする、
請求項3、5または6記載の孔拡張部切削装置。
【請求項8】
孔内における切削手段(3)の深さ位置を調節する深さ調節手段(4)を備えていることを特徴とする、
請求項3、5、6または7記載の孔拡張部切削装置。
【請求項9】
切削手段(3)により切削された切削屑を孔(90)の外へ排出する排出手段(12,13)を備えていることを特徴とする、
請求項3、5、6、7または8記載の孔拡張部切削装置。
【請求項1】
孔に孔拡張部を形成する方法であって、
孔(90)の内部に、切削手段(3)を有する回転体(2)を収容し、回転体(2)を回転させて切削手段(3)を外方へ動かし、孔(90)より径大の孔拡張部(91)を形成することを特徴とする、
孔拡張部の形成方法。
【請求項2】
孔に孔拡張部を形成する方法であって、
孔(90)の内部に回転体(2)を収容し、切削手段(3)を回転体(2)を回転させて、切削手段(3)を遠心力で外方へ動かし、孔(90)より径大の孔拡張部(91)を形成することを特徴とする、
孔拡張部の形成方法。
【請求項3】
孔に孔拡張部を形成するための孔拡張部切削装置であって、
孔に挿入できる挿入体(1)と、
挿入体(1)の内部に収められ、回転力を付与することができる回転軸(2)と、
回転軸(2)の回転により、挿入体(1)の外周面より外側へ張り出し可能に設けられた切削手段(3)と、
を備えており、
孔に挿入体(1)を挿入した状態で回転軸(2)に回転力を付与し、切削手段(3)を遠心力で挿入体(1)の外周面より外側へ張り出させ、孔より径大の孔拡張部を形成することができるよう構成されていることを特徴とする、
孔拡張部切削装置。
【請求項4】
孔に孔拡張部を形成する方法であって、
孔(90)の内部に、切削手段(8)を有する回転体(5)を収容し、回転体(5)を回転させて、その回転力で切削手段(8)を外方へ押し動かし、孔(90)より径大の孔拡張部(91)を形成することを特徴とする、
孔拡張部の形成方法。
【請求項5】
孔に孔拡張部を形成するための孔拡張部切削装置であって、
孔に軸周方向へ回転可能に挿入でき、回転力を付与することができる挿入体(5)と、
挿入体(5)に、挿入体(5)の外周面より外側へ張り出し可能に設けられた切削手段(8)と、
挿入体(5)の回転により、切削手段(8)を軸周方向へ押して張り出し方向へ動かす押拡げ手段(51,52)と、
を備えており、
孔に挿入体(5)を挿入した状態で回転力を付与し、押拡げ手段(51,52)で切削手段(8)を押して挿入体(5)の外周面より外側へ張り出させ、孔(90)より径大の孔拡張部(91)を形成することができるよう構成されていることを特徴とする、
孔拡張部切削装置。
【請求項6】
切削手段(3)(8)は、切削回転の中心と偏心した位置に設けられている偏心軸(23,24)(56,57)を中心として張り出し収容方向へ回動するよう構成されていることを特徴とする、
請求項3または5記載の孔拡張部切削装置。
【請求項7】
挿入体(1)(5)の外周面より外側へ張り出した切削手段(3)(8)を内側へ収容する戻し手段(51,52)を備えていることを特徴とする、
請求項3、5または6記載の孔拡張部切削装置。
【請求項8】
孔内における切削手段(3)の深さ位置を調節する深さ調節手段(4)を備えていることを特徴とする、
請求項3、5、6または7記載の孔拡張部切削装置。
【請求項9】
切削手段(3)により切削された切削屑を孔(90)の外へ排出する排出手段(12,13)を備えていることを特徴とする、
請求項3、5、6、7または8記載の孔拡張部切削装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−55260(P2007−55260A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223599(P2006−223599)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【分割の表示】特願2004−344690(P2004−344690)の分割
【原出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(395006605)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【分割の表示】特願2004−344690(P2004−344690)の分割
【原出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(395006605)
【Fターム(参考)】
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