説明

孔版印刷方法、孔版印刷版の製版方法及び製版印刷装置

【課題】特にインクを保持する中間層の表裏両面に熱可塑性樹脂フィルムを設けた孔版印刷版を用いる孔版印刷方法において、原稿画像の印字率に対応した適正なインク転移量の制御を実現する。
【解決手段】製版印刷装置1は、孔版原紙2の表裏両面をそれぞれ製版する第1及び第2のサーマルヘッドA,Bを有する。第1のサーマルヘッドAで表側に画像を製版し、第2のサーマルヘッドBで裏側に対応する位置の画像の印字率に比例する密度でインク導入孔を形成する。ベタ領域の裏側には多くのインク導入孔が形成され、文字領域等の裏側には少なくインク導入孔が形成されるので、インク転移量が適正化し、印刷時のインク漏れや裏写り、白抜け等が生じにくくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを保持する中間層の表裏両面に熱可塑性樹脂フィルムを貼付してなる孔版印刷版を用いた孔版印刷方法と、同孔版印刷版の製版方法及び同孔版印刷版を用いた製版印刷装置に係り、特に原稿画像の印字率に対応した適正なインク転移量の制御を実現した孔版印刷方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
孔版印刷は、一般に多孔性の支持体に熱可塑性樹脂フィルムを貼着してなる孔版原紙を版として利用しており、この熱可塑性樹脂フィルムに原稿画像に対応した穿孔を形成して製版を行なう。印刷時には、製版された孔版原紙を巻装するとともに、内部の供給機構から周壁の外周面にインクを供給する回転駆動可能な版胴を利用することができる。すなわち、この版胴の周壁に製版された熱可塑性樹脂フィルムを表面側にして孔版原紙を巻装し、前記版胴を回転させながら孔版原紙に用紙を圧着させて送り出す。これによって、インクは版胴から孔版原紙の支持体を経て熱可塑性樹脂フィルムの穿孔を通過し、用紙に転移して画像を形成する。
【0003】
下記特許文献1乃至2には、版胴から孔版原紙が浮くことが無いように、版胴の外周面に接する孔版原紙の裏面側にも熱可塑性樹脂フィルムを貼着し、版胴との密着性を改善した孔版原紙の発明が開示されている。この孔版原紙では、表側のフィルムには製版画像が形成され、裏面側のフィルムには一定の間隔でインクを導入する穿孔が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−201040号公報
【特許文献2】特開2008−201039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、孔版印刷は、版胴の周壁から押し出したインクを孔版原紙の製版領域の穿孔を通過させて用紙に付着させる印刷方式であるため、孔版原紙には印字率の大小に関係なくインクが供給され、その結果として相対的に印字率の小さい領域(例えば余白の多い文字部分等)では相対的にインクが消費されにくく、より多くのインクが回ってしまい、印刷時には不必要に多量のインクが用紙に付着する傾向がある。これによって、他の用紙と重ねた場合に、重ねた用紙の裏に画像が転写される裏写りと呼ばれる不都合な現象が生じることがあった。また、相対的に印字率の大きい領域(例えばベタ部分や写真部分等)では相対的にインクが消費されやすく、インクが回りきらずに印刷時にはインクの付着量が少なくなり、ベタ印刷部が白く抜けて表れる白抜けと呼ばれる不都合が発生することがあった。
【0006】
このように、孔版印刷では原稿画像の印字率に対応してインク転移量を適正に制御することが難しく、印字率の大小に関わらず適正な印刷結果を得ることが困難であるという問題があった。
【0007】
また特許文献1乃至2に記載の発明に係る孔版原紙は、上述したようにインクを保持する支持体の表裏両面にフィルムを貼り付けた構成となっており、表面側のフィルムには原稿画像に対応した製版画像を形成し、裏面側のフィルムにはインクを導入する複数の孔を形成するようになっているが、特に製版画像の印字率に応じてインク転移量を適正に制御するための構成は備えておらず、上述した一般的な孔版印刷と同様の問題点を有しており、印字率の大小に関わらず適正な印刷結果を得ることが困難であった。
【0008】
本発明は、以上説明したような従来の孔版印刷における課題を解決することを目的としており、特にインクを保持する中間層の表裏両面に熱可塑性樹脂フィルムを設けてなる孔版印刷版を用いた孔版印刷方法において、原稿画像の印字率に対応した適正なインク転移量の制御を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載された孔版印刷方法は、
インクを保持する中間層と、前記中間層の表面側に設けられた第1の熱可塑性樹脂フィルムと、前記中間層の裏面側に設けられた第2の熱可塑性樹脂フィルムとを備えた孔版印刷版を用い、前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに製版画像を製版し、前記第2の熱可塑性樹脂フィルムにインクを導入するインク導入孔を穿孔し、インクを供給する版胴の周面に前記第2の熱可塑性樹脂フィルムが接するように前記孔版印刷版を前記版胴に巻装し、前記版胴を回転させながら前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに用紙を圧着させることにより前記用紙にインクを転移させて前記製版画像に対応する印刷画像を前記用紙に形成する孔版印刷方法において、
前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに製版された製版画像に対応して前記第2の熱可塑性樹脂フィルムに穿孔されるインク導入孔の密度及び/又は面積を、前記製版画像を構成する穿孔の密度に比例して設定して行なうことを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載された孔版印刷方法は、請求項1記載の孔版印刷方法において、
前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに穿孔された製版画像が、相対的に穿孔密度が大きい第1製版領域と、相対的に穿孔密度が小さい第2製版領域とを有しており、
前記第1の熱可塑性樹脂フィルムの前記第1製版領域の反対側である前記第2の熱可塑性樹脂フィルムには相対的に大きい穿孔密度及び/又は大きい穿孔面積で前記インク導入孔が形成された第1穿孔領域を形成し、前記第1の熱可塑性樹脂フィルムの前記第2製版領域の反対側である前記第2の熱可塑性樹脂フィルムには相対的に小さい穿孔密度及び/又は小さい穿孔面積で前記インク導入孔が形成された第2穿孔領域を形成して行なうことを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載された孔版印刷方法は、請求項2記載の孔版印刷方法において、
相対的に印字率が高い第1原稿領域と相対的に印字率が低い第2原稿領域を有する原稿から得た画像データを用いて前記孔版印刷版を製版する際に、印刷時の前記版胴の回転方向について下流側となる前記孔版印刷版の終端側に前記第1原稿領域に対応する前記第1製版領域を形成し、印刷時の前記版胴の回転方向について上流側となる前記孔版印刷版の先端側に前記第2原稿領域に対応する前記第2製版領域を形成し、前記孔版印刷版の前記第2製版領域よりも印刷時の前記版胴の回転方向についてさらに上流側には、前記第2の熱可塑性樹脂フィルムに前記第1穿孔領域と同等の穿孔密度及び/又は同等の穿孔面積で前記インク導入孔を形成して行うことを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載された孔版印刷版の製版方法は、
インクを保持する中間層の表面側と裏面側に第1及び第2の熱可塑性樹脂フィルムをそれぞれ設けてなる孔版印刷版を、インクを供給する版胴の周面に前記第2の熱可塑性樹脂フィルムが接するように前記版胴に巻装し、前記版胴を回転させながら前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに用紙を圧着させて前記用紙に印刷画像を印刷するために、前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに製版画像を製版するとともに、前記第2の熱可塑性樹脂フィルムにインクを導入するインク導入孔を穿孔する孔版印刷版の製版方法において、
前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに製版画像を製版するとともに、前記第2の熱可塑性樹脂フィルムに、前記製版画像に対応した位置に、前記製版画像を構成する穿孔の密度に比例して設定された密度及び/又は面積でインク導入孔を穿孔することを特徴としている。
【0013】
請求項5に記載された製版印刷装置は、
インクを保持する中間層と、前記中間層の表面側に設けられた第1の熱可塑性樹脂フィルムと、前記中間層の裏面側に設けられた第2の熱可塑性樹脂フィルムとを備えた孔版印刷版を用い、前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに製版画像を製版し、前記第2の熱可塑性樹脂フィルムにインクを導入するインク導入孔を穿孔し、インクを供給する版胴の周面に前記第2の熱可塑性樹脂フィルムが接するように前記孔版印刷版を前記版胴に巻装し、前記版胴を回転させながら前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに用紙を圧着させることにより前記用紙にインクを転移させて前記製版画像に対応する印刷画像を前記用紙に形成する製版印刷装置において、
原稿の画像を読み取って画像データを出力する読取手段と、
前記読取手段から取得した画像データを用い、前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに製版画像を形成するための第1穿孔パターンデータを生成するとともに、前記第2の熱可塑性樹脂フィルムの前記製版画像と対応する領域に前記製版画像を構成する穿孔の密度に比例した密度及び/又は面積で前記インク導入孔を穿孔するための第2穿孔パターンデータを生成する制御手段と、
前記制御手段からの前記第1穿孔パターンデータによって前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに製版画像を形成する第1の製版手段と、
前記制御手段からの前記第2穿孔パターンデータによって前記第2の熱可塑性樹脂フィルムにインク導入孔を形成する第2の製版手段と、
を具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載された孔版印刷方法、請求項4に記載された孔版印刷版の製版方法、そして請求項5に記載された製版印刷装置によれば、インクを保持する中間層を表裏両面から熱可塑性樹脂フィルムで挟んだ構成の孔版印刷版を用いた孔版印刷において、表面側の第1の熱可塑性樹脂フィルムに製版された製版画像に対応して裏面側の第2の熱可塑性樹脂フィルムに穿孔されるインク導入孔の密度及び/又は面積を、第1の熱可塑性樹脂フィルムの製版画像における穿孔の密度に比例して設定した。このため、製版画像において相対的に印字率の小さい領域(例えば余白の多い文字部分等)では、裏側の第2の熱可塑性樹脂フィルムに形成されるインク導入孔の形成密度及び/又は形成面積も小さく設定されるので、この部分に供給されるインクの量は相対的に少なくなり、印刷時には不必要に多量のインクが用紙に付着することがなくなり、他の用紙と重ねた場合に裏写りが生じる不都合は発生しにくくなる。また、相対的に印字率の大きい領域(例えばベタ部分や写真部分等)では、裏側の第2の熱可塑性樹脂フィルムに形成されるインク導入孔の形成密度及び/又は形成面積も大きく設定されるので、この部分に供給されるインクの量は相対的に多くなり、印刷時にはインクの付着量が多くなり、ベタ印刷部には適正な量のインクがまわり、白抜けが発生するような不都合は発生しにくくなる。このように、原稿画像の印字率に対応した適正なインク転移量の制御が実現され、孔版印刷の印刷品位が向上する。
【0015】
請求項2に記載された孔版印刷方法によれば、請求項1記載の孔版印刷方法における効果において、一枚の原稿中にベタ画像や写真のような印字率の大きい領域と、余白の多い文字等を主体とした相対的に印字率の小さい領域があっても、孔版原紙を製版する際には、裏側の第2の熱可塑性樹脂フィルムのうち、表側の第1の熱可塑性樹脂フィルムの印字率の大きい領域に対応する部分には、相対的に大きい穿孔密度及び/又は大きい穿孔面積でインク導入孔を形成することにより、供給されるインク量が相対的に多くなるようにしている。また、裏側の第2の熱可塑性樹脂フィルムのうち、表側の第1の熱可塑性樹脂フィルムの印字率の小さい領域に対応する部分には、相対的に小さい穿孔密度及び/又は小さい穿孔面積でインク導入孔を形成することにより、供給されるインク量が相対的に少なくなるようにしている。その結果、一枚の印刷画像中に印字率が異なる領域が混在している場合であっても、各印字率の差異に対応して各部分には適切な量のインクが供給されるので、原稿画像の各領域の印字率に対応した適正なインク転移量の制御が実現され、印刷品位が向上するという効果が得られる。
【0016】
請求項3に記載された孔版印刷方法によれば、請求項2記載の孔版印刷方法における効果において、相対的な印字率が高い部分と低い部分を有する原稿画像読み込む際には、原稿画像の読み込み方向について相対的に上流側が印字率が高く、相対的に下流側が印字率が低かったとしても、孔版印刷版を製版し印刷に供する際には、版胴の回転方向について、相対的に上流側に印字率が低い第2製版領域とインク導入孔の穿孔密度及び/又は穿孔面積が小さい第2穿孔領域を形成・配置し、相対的に下流側に印字率が高い第1製版領域とインク導入孔の穿孔密度及び/又は穿孔面積が大きい第1穿孔領域を形成・配置し、さらに、第2製版領域の上流側に、第2の熱可塑性樹脂フィルムに第1穿孔領域と同等の穿孔密度及び/又は穿孔面積でインク導入孔を形成することとした。即ち、印刷時には、インクが過剰になりがちな印字率の低い領域が、版胴の回転による印刷動作において孔版原紙の先端側に配置され、インクをより多く消費する印字率の高い領域が孔版原紙の終端側に配置されるので、孔版原紙の終端部でインクが漏れ出す不都合を未然に防止することができる。また、孔版原紙の先端側に配置した印字率の低い領域のさらに上流側には、印字率の高い領域並みの高密度及び/又は大面積で第2の熱可塑性樹脂フィルムにインク導入孔を形成したので、上流側に配置した印字率の低い領域でインクが不足することはなく、同領域でインク枯れによるボソツキが生じることもない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る孔版式の製版印刷装置の全体構成図である。
【図2】第1実施形態で使用される孔版原紙の断面図である。
【図3】第1実施形態に係る製版印刷装置の構成を示すブロック図である。
【図4】第1実施形態で使用される原稿乃至その印刷例を示す図である。
【図5】第1実施形態で使用される孔版原紙において表面側の印字率が高い領域に対応する裏面側の穿孔状態を模式的に示す図である。
【図6】第1実施形態で使用される孔版原紙において表面側の印字率が低い領域に対応する裏面側の穿孔状態を模式的に示す図である。
【図7】第1実施形態の製版印刷装置における制御手順を示す流れ図である。
【図8】第2実施形態で使用される原稿乃至この原稿を用いて行う孔版原紙の製版例と、製版された孔版原紙を用いて行う印刷例を示す図である。
【図9】第2実施形態の製版印刷装置における印刷部の版胴の構成とこれを用いた印刷工程を示す模式的側断面図である。
【図10】第2実施形態の製版印刷装置における制御手順を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.第1実施形態(図1〜図7)
図1は本実施形態の製版印刷装置1の構造の概略を示す図である。本実施形態の製版印刷装置1を用いた製版及び印刷は、いずれも図2に示す孔版印刷版としての孔版原紙2を用いて行なう。
なお、詳細は後述するが、図2に示す孔版原紙2は、製版画像が形成される表面側の第1の熱可塑性樹脂フィルム3と、インク導入孔50が形成される裏面側の第2の熱可塑性樹脂フィルム4と、第1の熱可塑性樹脂フィルム3と第2の熱可塑性樹脂フィルム4との間にある中間層5を有する3層構造となっており、これら各層は互いに積層して一体となった一枚のシート状となっている。
【0019】
まず、図1を参照して前記孔版原紙2を用いる孔版式の製版印刷装置1を説明する。
この製版印刷装置1は、印刷部6、製版部7、給紙部8、排版部9、排紙部10、読取部11等を有しているとともに、操作パネル12と、制御部13を有している。
【0020】
図1に示すように、印刷部6は、製版印刷装置1のほぼ中央に配置されており、版胴15と押圧手段としてのプレスローラ16を有している。版胴15はインキ通過性の周壁を備えており、装置本体に着脱自在かつ回転自在に支持されて図示しない駆動手段によって回転駆動される。また、図示はしないが、版胴15の内部にはインク供給手段が設けられており、版胴15の内周面にインクを供給することができる。
【0021】
版胴15はその外周面に対して開閉自在な板状の部材であるクランプ手段17を有している。印刷時には、版胴15の外周面に、製版部7で製版された製版済みの孔版原紙2の先端をクランプ手段17により挟持して孔版原紙2を巻き付け、巻装する。
【0022】
プレスローラ16が版胴15の下方に配設されている。プレスローラ16は、フッ素樹脂等の撥水性を有する弾性体からなる。プレスローラ16は、図示しない揺動機構によって揺動自在に支持されており、版胴15とプレスローラ16の間に供給される用紙Pの供給タイミングに合せて、揺動機構の作動により周面が版胴15上の孔版原紙2に圧接する図1に示す圧接位置と、その周面が版胴15より離間する離間位置とを選択的に占めるように移動することができる。
【0023】
給紙部8は、版胴15の一側方(図1において右側)、版胴15の回転方向について上流側の位置に配設されている。給紙部8は、用紙Pを積載する給紙トレイ18、給紙トレイ18上に積載された最上の用紙Pを送り出す給紙ローラ19、給紙ローラ19によって送り出されてきた用紙Pを一枚に分離して送り出す分離ローラ20及び分離パッド21、分離ローラ20及び分離パッド21によって一枚に分離して送り出されてきた用紙Pを印刷部6に向けて送り出すレジストローラ対22等を有している。
【0024】
排紙部10は、版胴15の他側方(図1において左側)、版胴15の回転方向について下流側の位置に配設されている。排紙部10は、版胴15上に巻装された孔版原紙2から用紙Pを剥離する揺動自在な剥離爪23、剥離爪23によって剥離された用紙Pを吸着して搬送するベルト吸引搬送部24等を有している。
【0025】
読取部11は、装置本体の上部に配設されている。読取部11は、詳細は図示してはいないが、原稿を載置するコンタクトガラス、コンタクトガラスに対して接離自在に設けられた圧板、原稿画像を走査して読み取る反射ミラー及び蛍光灯、走査された画像を集束するレンズ、集束された画像を処理する画像センサ、自動原稿送り装置等を有している。
【0026】
排版部9は、図1における印刷部6の左上方、すなわち排紙部10の上方に配設されている。排版部9は、詳細な図示しないが、使用済みの孔版原紙2を版胴15から剥ぎ取って容器内に収容することができる。
【0027】
製版部7は、図1における印刷部6の右上方、すなわち給紙部8の上方に配設されている。製版部7には、孔版原紙2をロール状に巻成した孔版原紙ロール2aが図示しない孔版原紙保持部材を介して孔版原紙2を繰り出す方向に回転可能となるように保持されている。この孔版原紙ロール2aでは、第1の熱可塑性樹脂フィルム3が内側に位置し、第2の熱可塑性樹脂フィルム4が外側に位置するように巻成されている。すなわち、孔版原紙ロール2aは、前述した図2に示す3層構造の孔版原紙2を、製版画像が形成されて版胴15上では表面側となる第1の熱可塑性樹脂フィルム3が内側となり、インク導入孔50が形成されて版胴15上では裏面となる第2の熱可塑性樹脂フィルム4が外側となるような筒状に巻装したものである。
【0028】
図1に示すように、製版部7は、製版手段としての第1のサーマルヘッドA及び第1のプラテンローラ25と、製版手段としての第2のサーマルヘッドB及び第2のプラテンローラ26を有している。第1のサーマルヘッドAは上向きに、第2のサーマルヘッドBは下向きにそれぞれ配置され、それぞれ孔版原紙2の下面及び上面に対向するように配設されており、また孔版原紙2の搬送方向に沿って上流から下流に向けてこの順で配設されている。従って、第1のサーマルヘッドA及び第1のプラテンローラ25は、孔版原紙ロール2aから繰り出された状態では下側となる第1の熱可塑性樹脂フィルム3を製版する。この第1の熱可塑性樹脂フィルム3は、孔版原紙2を版胴15に巻いた状態では表側となる。第2のサーマルヘッドB及び第2のプラテンローラ26は、孔版原紙ロール2aから繰り出された状態では上側となる第2の熱可塑性樹脂フィルム4を製版する。この第2の熱可塑性樹脂フィルム4は、孔版原紙2を版胴15に巻いた状態では裏側となる。
【0029】
図1に示すように、製版部7は、第2のサーマルヘッドBの下流側に、孔版原紙の切断手段27と、孔版原紙の搬送ローラ28を有しており、製版された孔版原紙2を1版分の適宜長さに切断し、製版画像が形成された第1の熱可塑性樹脂フィルム3が表面側となるように版胴15に送り出すことができる。
【0030】
制御部13は、以上説明した孔版式の製版及び印刷に必要な各部の制御を統合して行なう。すなわち、製版時には、まず読取部11で原稿の画像を読み取って画像データを取得し、又は外部のPC等から画像データを取得し、次に後述するように画像データを基に第1のサーマルヘッドAと、第2のサーマルヘッドBを駆動して孔版原紙2の表裏にそれぞれ穿孔を行ない、製版された孔版原紙2を版胴15の周面に巻装して印刷の準備を行なう。また、印刷時には、製版された孔版原紙2を巻装した版胴15を回転駆動するとともに、給紙部8によって印刷用紙Pを版胴15とプレスローラ16の間に供給し、これにタイミングを合せてプレスローラ16を上昇させ、回動する版胴15とプレスローラ16の間で印刷用紙Pを挟んで搬送させることにより、印刷用紙Pに孔版印刷を施す。印刷された印刷用紙Pは排紙部10によって排出させる。印刷終了後には、排版部9を制御し、使用済みの孔版原紙2を版胴15から剥ぎ取って容器内に収容する。
【0031】
次に、図2を参照して本実施形態の孔版原紙2の構造をさらに詳細に説明する。
前述したように、第1の熱可塑性樹脂フィルム3は、製版時には原稿画像に対応した製版画像がサーマルヘッドAによって形成され、印刷時には製版印刷装置1のドラム状の版胴15に巻かれて用紙Pに接する表面側となる。また第2の熱可塑性樹脂フィルム4は、製版時には版胴15から供給されるインクを内部の中間層5に取り入れるためのインク導入孔50がサーマルヘッドBによって形成され、印刷時には前記版胴15の周面に密着する裏面側となる。中間層5は、インクを保持する和紙等の多孔性支持体から構成されており、印刷時に版胴15の周面から第2の熱可塑性樹脂フィルム4のインク導入孔50を経て導入されたインクを一時的に保持し、このインクを第1の熱可塑性樹脂フィルム3の製版画像の穿孔から用紙Pに向けて供給する。
【0032】
本実施形態では、この孔版原紙2は、筒状に幾重にも巻装された孔版原紙ロール2aとして製版印刷装置1に実装されるが、この孔版原紙ロール2aでは、第1の熱可塑性樹脂フィルム3が内側に位置し、第2の熱可塑性樹脂フィルム4が外側に位置するように巻成されている。
【0033】
第1の熱可塑性樹脂フィルム3と第2の熱可塑性樹脂フィルム4は、それぞれ厚さが例えば1.8μmとされており、後述するように図1に示す製版印刷装置1が有する2つのサーマルヘッドA,Bの発熱によってそれぞれ穿孔が行なわれ、それぞれ製版領域及びインク導入孔50が形成されるようになっている。
【0034】
第1の熱可塑性樹脂フィルム3は、印刷すべき画像に対応した領域に対して穿孔が行われ製版されるので、穿孔の感度という観点から、その厚さは3.0μmより小さくされることが望ましい。この厚さを3.0μm以上とすると、穿孔不良を生じる可能性があるためである。これに対し、第2の熱可塑性樹脂フィルム4は、所望の密度及び/又は所望の面積でインク導入孔50が形成できれば穿孔の感度は特に限定しないが、その厚さは例えば第1の熱可塑性樹脂フィルム3の厚さ程度としても良い。
【0035】
次に、本実施形態における製版の制御に関する構成について、図3を参照して説明する。
図3は、上述した制御部13のうち、特に製版に関与する制御手段である製版処理部30の構成をブロック図で表したものである。図3に示すように、製版処理部30は、第1の熱可塑性樹脂フィルム3に製版画像を製版する第1のサーマルヘッドAを駆動する第1制御手段31と、第2の熱可塑性樹脂フィルム4にインク導入孔50を製版する第2のサーマルヘッドBを駆動する第2制御手段32を有している。なお、第1及び第2のサーマルヘッドA,Bはサーマルヘッド電源33に接続されて電気を供給されるようになっている。
【0036】
図3に示すように、第1制御手段31は、外部のPC34等から画像データを取得し、又は読取部11の読取手段であるスキャナ11aが原稿から読み取った画像データを取得する。PC34からの画像データは画像処理部40で処理され、スキャナ11aからの画像データはスキャナ補正部41で補正されてから画像処理部40で処理される。画像処理部40で処理された画像データは、フレームメモリ42で保存され、第1制御手段31による制御と、後述する第2制御手段32による制御に使用される。
【0037】
図3に示すように、第1制御手段31においては、フレームメモリ42の画像データは、一方では穿孔パターンデータ生成部43に送られ、ここで原稿画像を印刷するために必要な製版画像を構成する穿孔パターンデータを生成する。またフレームメモリ42の画像データは、他方では第1のサーマルヘッド駆動回路44に送られ、ここで駆動信号が生成される。
【0038】
そして、第1のサーマルヘッドAは、穿孔パターンデータ生成部43から与えられる穿孔パターンデータに従い、そして第1のサーマルヘッド駆動回路44から与えられる駆動信号によって制御され、孔版原紙2の第1の熱可塑性樹脂フィルム3に原稿画像に対応した製版画像を形成する。
【0039】
第1制御手段31によって制御された第1のサーマルヘッドAで孔版原紙2の第1の熱可塑性樹脂フィルム3を製版し、この孔版原紙2を用いて印刷した印刷画像を図4に示す。本実施形態では、例えば所定サイズの用紙Pにおいて、縦長の上半分は印字率が高いベタ状の印字部a、下半分は印字率が比較的低い文字の印字部bとなっている。
【0040】
図3に示すように、第2制御手段32においては、フレームメモリ42の画像データは、まず画像領域判定回路45に与えられる。画像領域判定回路45では、原稿画像中に印字率が互いに異なる領域が存在するか否かが画像データを用いて判定される。画像領域判定回路45は、印字率を適当な2以上の段階に分類するデータを判定のために有しており、与えられた画像データを印字率ごとに分割して認識し、その結果から画像データ中にある各領域の位置と印字率を判定する。
【0041】
画像領域判定回路45の判定結果はパターン選択信号生成部46に与えられる。このパターン選択信号生成部46は、前記判定結果で得られた画像データ中にある各領域の印字率に対応する穿孔パターンを選択するためのパターン選択信号を生成する。パターン選択信号生成部46からパターン選択信号を取得した穿孔パターンデータ生成部47は、パターン選択信号が指定するインク導入孔用の穿孔パターンデータを生成する。
【0042】
そして、画像領域データ生成部48では、前述した画像領域判定回路45から、画像データ中にある各領域の位置と印字率についての判定データを取得し、また穿孔パターンデータ生成部47から、画像データにおける各領域の各印字率に対応する穿孔パターンデータを取得し、これらのデータから画像領域データを生成する。従って、この画像領域データは、原稿画像の印字率が異なる各領域の位置データと、各領域ごとに選択された穿孔データとによって構成されている。ここで、各領域ごとに選択された穿孔データとは、これら各領域の印字率に比例した密度及び/又は面積により一定の均一な分布で当該領域にインク導入孔50を形成するためのデータである。
【0043】
そして、画像領域データ生成部48からの画像領域データが第2のサーマルヘッド駆動回路49に与えられ、サーマルヘッド駆動回路49は駆動信号によって第2のサーマルヘッドBを制御し、孔版原紙2の第2の熱可塑性樹脂フィルム4に、表側の第2の熱可塑性樹脂フィルム4に形成された製版画像の印字率に見合った穿孔状態のインク導入孔50を形成する。
【0044】
第2制御手段32によって制御された第2のサーマルヘッドBで孔版原紙2の第2の熱可塑性樹脂フィルム4を製版した場合の穿孔状態を、図5及び図6に拡大して示す。図5は、図4に示す印刷例において上半分の印字率が高いベタ状の印字部aに相当する部分であり、図6は、図4に示す印刷例において下半分にある印字率が比較的低い文字の印字部bに相当する部分である。すなわち、第2の熱可塑性樹脂シート4の穿孔状態は、表側の第1の熱可塑性樹脂シート3の製版状態に対応しており、製版画像の印字率が高ければより多くのインクが必要であることから裏側のインク導入孔50も穿孔の密度を高くし、製版画像の印字率が低ければより少ないインクで済むことから裏側のインク導入孔50も穿孔の密度を低くするものである。
なお、図5及び図6で示した例では、印字部の印字率に応じて、インク導入孔50の密度を変える例を示したが、インク導入孔の面積を変えることによって同様の効果を得ることもできる。すなわち、第2の熱可塑性樹脂フィルムのうち、印字率が高い領域に対応する部分ではインク導入孔の面積を大きくし、印字率が小さい領域に対応する部分ではインク導入孔の面積を小さくすればよい。
【0045】
次に、本実施形態における製版の制御に関する作用について、図3及び図7を参照して説明する。図7は、第1実施形態の製版印刷装置1における製版に関する制御手順を示す流れ図である。
【0046】
図7に示すように、外部のPC34や読取部11のスキャナ11a等から原稿データが送信されると(S1)、必要に応じて行なうスキャナ補正及び画像処理後、フレームメモリ42が画像データを取得し、格納する(S2)。第2制御手段32の画像領域判定回路45は、フレームメモリ42から画像データを取得し、画像の印字部分を分割した判断領域がベタか否かを判定する(S3)。ベタであると判定した場合には(S3、YES)、その判断結果を受けたパターン選択信号生成部46がベタ穿孔パターン選択信号を生成し、これによって穿孔パターンデータ生成部43からベタ穿孔パターンデータを呼び出す(S4)。この穿孔パターンデータ生成部43からのベタ穿孔パターンデータと、画像領域判定回路45からの判定データは、画像領域データ生成部48に与えられ、画像領域データ生成部48が画像領域データを生成する。これによって、第2のサーマルヘッド駆動回路49によって第2のサーマルヘッドBを駆動し、孔版原紙2の裏面(第2の熱可塑性樹脂シート4)の所定領域に図5に示すような密なパターンでインク導入孔50を形成するための準備が完了する(S5)。
【0047】
画像領域判定回路45が、画像の印字部分を分割した判断領域がベタでないと判断した場合には(S3、NO)、さらに同領域が文字・線部であるか否かが判定され(S6)、文字・線部であると判定した場合には(S6、YES)、その判断結果を受けたパターン選択信号生成部46が文字・線部穿孔パターン選択信号を生成し、これによって穿孔パターンデータ生成部43から文字・線部穿孔パターンデータを呼び出す(S7)。この穿孔パターンデータ生成部43からの文字・線部穿孔パターンデータと、画像領域判定回路45からの判定データは、画像領域データ生成部48に与えられ、画像領域データ生成部48が画像領域データを生成する。これによって、第2のサーマルヘッド駆動回路49によって第2のサーマルヘッドBを駆動し、孔版原紙2の裏面(第2の熱可塑性樹脂シート4)の他の所定領域に図6に示すような疎なパターンでインク導入孔50を形成するための準備が完了する(S8)。
【0048】
第1制御手段31において、第1のサーマルヘッド駆動回路44はフレームメモリ42から画像データを取得する。さらに、穿孔パターンデータ生成部43はフレームメモリ42から取得した画像データに基づいて穿孔パターンデータを生成し、これを第1のサーマルヘッド駆動回路44に提供する。これによって、第1のサーマルヘッド駆動回路44は、第1のサーマルヘッドAを駆動し、孔版原紙2の表面(第1の熱可塑性樹脂シート3)の所定領域に、図4に示すようなベタ印刷の印字部aを印刷するための製版と、疎な文字・線部である印字部bを印刷するための製版を行なう準備が完了する(S9)。
【0049】
第1及び第2の各サーマルヘッドA,Bによる製版準備が完了すると、製版が実行され(S10)、制御は終了する(S12)。孔版原紙2の表面にはベタ部(原稿の印字部aに対応)と文字・線部(原稿の印字部bに対応)の両方が製版され、裏面にはベタ部に対応する部分には密な分布でインク導入孔50が形成され、文字・線部に対応する部分には疎な分布でインク導入孔50が形成される。
【0050】
画像領域判定回路45が、画像の印字部分の判断領域をベタでもなく、文字・線部でもないと判定した場合(S3、S6で共にNO)には、両面製版は行なわず(S11)、制御は終了する(S12)。
【0051】
なお、以上説明した本実施形態では、第1の熱可塑性樹脂フィルム3に形成する製版画像の印字率の段階はベタ部と文字・線部の2段階に判定し、これに対応する第2の熱可塑性樹脂フィルム4に形成するインク導入孔50の穿孔密度の段階も2段階に設定したが、このような2段階ではなく、3段階以上で原稿画像の印字率を判定し、またインク導入孔50の穿孔密度の段階を設定してもよい。また、前述したように、インク導入孔50の穿孔密度を変えるのでなく、インク導入孔の面積を変えるようにしてもよい。
【0052】
以上説明した本実施形態によれば、インク保持用の中間層5を表裏両面から熱可塑性樹脂フィルム3,4で挟んだ孔版原紙2を用いる孔版印刷において、表面側の第1の熱可塑性樹脂フィルム3に製版された製版画像に対応して裏面側の第2の熱可塑性樹脂フィルム4に形成するインク導入孔50の密度及び/又は面積を、製版画像における穿孔の密度に比例して設定した。このため、製版画像の相対的に印字率の小さい領域(例えば余白の多い文字部分等)では、裏側の第2の熱可塑性樹脂フィルム4に形成されるインク導入孔50の形成密度及び/又は形成面積も小さく設定されるので、この部分に供給されるインクの量は相対的に少なくなる。このため、印刷時には不必要に多量のインクが用紙Pに付着せず、他の用紙Pと重ねた場合に裏写りが生じる不都合は発生しにくい。
【0053】
また、相対的に印字率の大きい領域(例えばベタ部分や写真部分等)では、裏側の第2の熱可塑性樹脂フィルム4に形成されるインク導入孔50の形成密度及び/又は形成面積も大きく設定されるので、この部分に供給されるインクの量は相対的に多くなり、印刷時にはインクの付着量が多くなる。このため、ベタ印刷部には適正な量のインクがまわり、白抜けが発生するような不都合は発生しにくい。
このように、原稿画像の印字率に対応した適正なインク転移量の制御が実現され、孔版印刷の印刷品位が向上する。
【0054】
なお、本実施形態における製版の制御においては、製版経路に沿って上流側から表用のサーマルヘッドA、裏用のサーマルヘッドBの順に並んでいるため、裏面側の製版準備が完了し、次に表側の製版準備が完了した後に、製版を開始したが、具体的なサーマルヘッドの配置や、各サーマルヘッド用の製版データの準備の順序はこれに限らない。本例において、表側の製版準備から始めて順次表側を製版し、続けて裏側の製版に間に合うように裏側の製版データを用意して順次裏側を製版してもよい。表用のサーマルヘッドAと裏用のサーマルヘッドBの配置を逆にしてもよい。
【0055】
2.第2実施形態(図8〜図10)
本実施形態の製版印刷装置1aは、第1実施形態と機構的には同一であり、使用する孔版原紙2も同一であり、表側に製版した画像の印字率に対応した密度及び/又は面積で、対応する裏側の部分にインク導入孔50を穿孔する点においても同一である。
【0056】
しかしながら、本実施形態は、制御部13の構成乃至制御の内容に関して第1実施例と差異がある。すなわち、本実施形態では、例えば図8に読み込み方向を示す下向きの矢印で示唆するように、相対的に印字率が高いベタ部(第1原稿領域、印字部a)が上部にあり、相対的に印字率が低い文字・線部(第2原稿領域、印字部b)が下部にあるような原稿を、上部のベタ部から読み取っていく場合に適用されるものである。
【0057】
このような読み取りデータを用いて孔版原紙2に通常の製版を行なえば、孔版原紙2の上部にはベタ部(印字部a)に対応する穿孔密度の高い製版領域ができ、孔版原紙2の下部には文字・線部(印字部b)に対応する穿孔密度の低い製版領域ができる。このような製版済みの孔版原紙2を、図9に示すように先端部をクランプ手段17で保持して版胴15に巻装すれば、ベタ部のある孔版原紙2の上部は版胴15の印刷方向(回転方向)について上流側に配置され、文字・線部のある孔版原紙2の下部は版胴15の印刷方向(回転方向)について下流側の終端部に配置されることとなる。ここで孔版原紙2の終端部とは、孔版原紙2のクランプ手段17で保持された先端部から最も離れた部分であり、孔版原紙2はインクの粘性だけで版胴15に密着しており、クランプ手段17のような部材で保持されているわけではない。
【0058】
印刷時には、回転する版胴15とプレスローラ16によって用紙Pを挟み込み、用紙Pを版胴15の孔版原紙2に密着させながら搬送し、孔版原紙2の穿孔部分から押し出したインクを用紙Pに転移させて印刷を行なうが、この状態では版胴15と孔版原紙2の間にあるインクは版胴15の回転に伴い、版胴15の回転方向について下流側に押し出されていくこととなる。従って、孔版原紙2の下流にインクの消費が少ない文字・線部があると、インクが消費しきれずに孔版原紙2の終端部から外に漏れだしてしまう場合がある。
【0059】
本実施形態は、このような課題を解決する手段を提供するものであり、前述のような原稿を読み取って製版する際には、上下を反転させて行なうこととしたものである。すなわち、図8に示すように、印刷方向を示す上向きの矢印で示唆するように、印刷時の版胴15の回転方向について下流側となる孔版印刷版の終端側に、ベタ部(印字部a、第1原稿領域)に対応するベタ状の第1製版領域を形成し、印刷時の版胴15の回転方向について上流側となる孔版印刷版の先端側に、文字・線部(印字部b、第2原稿領域)に対応する穿孔の疎らな第2製版領域を形成する。そして、印刷も、上向きの矢印で示すようにベタ状の第1製版領域が下流側となり、文字・線の第2製版領域が上流側となるように孔版原紙2を版胴15に巻装して行なう。
【0060】
しかしながら、これのみでは、上流側にある文字・線の第2製版領域に充分なインクが回りきらないおそれがある。印字率の低い文字・線の第2製版領域では、裏側の第2の熱溶融性樹脂フィルムに形成したインク導入孔50の穿孔密度及び/又は穿孔面積も小さいので、供給されるインクが少なく、また最も上流にあることから、さらに上流からインクが押し出されて余分に供給されることもないためである。
【0061】
そこで、本実施形態では、図8に示すように、上向きの矢印で示す印刷方向に関し、孔版原紙の上流側に形成した第2製版領域よりもさらに上流側(図8では孔版原紙2の最も下の位置)にあたる位置、横長帯状のインク導入領域cを設けた。このインク導入領域cは、裏側の第2の熱可塑性樹脂フィルム4に充分な密度及び/又は面積でインク導入孔50を形成した領域である。インク導入領域cにおけるインク導入孔50の密度及び/又は面積は、第1実施形態で説明した第1穿孔領域(原稿のベタ部に対応する製版領域)の反対側に形成したインク導入孔50の領域と同程度とする。
【0062】
このようにインク導入領域cがあれば、図8中に上向きの矢印で示す方向で印刷が行なわれた場合、まずインク導入領域cから適当な量のインクが孔版原紙2の内部に供給されるので、印刷方向について上流側にある穿孔密度の比較的小さい第2製版領域(文字・線部)では、適度な量のインクで適切な印刷が行なわれる。また、印刷方向についてこれより下流側にある穿孔密度の比較的大きい第1製版領域(ベタ部)では、その裏側に形成されたインク供給孔から充分な量のインクの供給を受け、適切な印刷が行なわれる。この孔版原紙2の終端部ではベタ部によって大量のインクが消費されるので、余ったインクが孔版原紙2の終端部から外に漏れだす恐れはない。
【0063】
図10は、第2実施形態の製版印刷装置1における製版を行なうための制御手順を示す流れ図である。図10に示すように、外部のPC34や読取部11のスキャナ11a等から原稿データが送信されると(S11)、フレームメモリ42が原稿情報を取得し、格納する(S12)。制御部13は、原稿の前後で印字率に差があるか否かを判断する(S13)。差があると判断した場合には(S13、YES)、続けて原稿の前後のどちらが印字率が大きいか判断し(S14)、原稿の後方の印字率が大きいと判断した場合には(S14、YES)、前述したように反転製版を行ない、インク導入領域cも形成する。原稿の後方の印字率が大きいと判断できない場合(S14、NO)と、原稿の前後で印字率に差がないと判断した場合には(S13、NO)、通常の製版を行なう(S16)。
【0064】
なお、以上説明した第2実施形態では、相対的に印字率が高いベタ部が上流にあり、相対的に印字率が低い文字・線部が下流にあるような原稿の場合は、上下を反転させて製版・印刷していたが、原稿によっては、単純に読み込み方向について上下方向で印字率が異なるとはいえないが、例えば左右方向では印字率が異なると考えられる場合がある。このような場合には、前後を反転させるのではなく、読み込みや製版の情報処理において、読み込み方向に平行な原稿の中心線について原稿を90度回転させ、下流側の印字率が高くなるような操作を行なうこととすればよい。なお、このような場合には、必要な用紙サイズが変更される可能性があるため、上記製版時のデータ操作に伴う用紙の変更情報を給紙部8や排紙部9に送り、必要なサイズの用紙が給紙部8から供給され、また変更されたサイズの用紙を排紙部9が受け入れられるようにする必要がある。
【0065】
以上説明した第2実施形態の孔版印刷装置乃至方法によれば、相対的な印字率が高い部分と低い部分を有する原稿画像読み込む際には、原稿画像の読み込み方向について相対的に上流側が印字率が高く、相対的に下流側が印字率が低かったとしても、孔版原紙2を製版し印刷に供する際には、版胴15の回転方向について、相対的に上流側に印字率が低い領域を形成・配置し、相対的に下流側に印字率が高い領域を形成・配置し、加えて上流の印字率が低い領域のさらに上流側にインク導入孔50を形成することとした。即ち、印刷時には、インクが過剰になりがちな印字率の低い領域が、版胴15の回転による印刷動作において孔版原紙2の先端側に配置され、インクをより多く消費する印字率の高い領域が孔版原紙2の終端側に配置されるので、孔版原紙2の終端部でインクが漏れ出す不都合を未然に防止できる。また、孔版原紙2の先端側に配置した印字率の低い領域のさらに上流側にはインク導入孔50があるので、上流側に配置した印字率の低い領域でインクが不足することはなく、同領域でインク枯れによるボソツキが生じることもない。
【符号の説明】
【0066】
1…製版印刷装置
2…孔版印刷版としての孔版原紙
3…第1の熱可塑性樹脂フィルム
4…第2の熱可塑性樹脂フィルム
5…中間層
6…印刷部
7…製版部
11a…読取手段としてのスキャナ
13…制御部
15…版胴
30…製版処理部
31…第1制御手段
32…第2制御手段
50…インク導入孔
A…第1の製版手段としての第1のサーマルヘッド
B…第2の製版手段としての第2のサーマルヘッド
P…用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを保持する中間層と、前記中間層の表面側に設けられた第1の熱可塑性樹脂フィルムと、前記中間層の裏面側に設けられた第2の熱可塑性樹脂フィルムとを備えた孔版印刷版を用い、前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに製版画像を製版し、前記第2の熱可塑性樹脂フィルムにインクを導入するインク導入孔を穿孔し、インクを供給する版胴の周面に前記第2の熱可塑性樹脂フィルムが接するように前記孔版印刷版を前記版胴に巻装し、前記版胴を回転させながら前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに用紙を圧着させることにより前記用紙にインクを転移させて前記製版画像に対応する印刷画像を前記用紙に形成する孔版印刷方法において、
前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに製版された製版画像に対応して前記第2の熱可塑性樹脂フィルムに穿孔されるインク導入孔の密度及び/又は面積を、前記製版画像を構成する穿孔の密度に比例して設定して行なうことを特徴とする孔版印刷方法。
【請求項2】
前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに穿孔された製版画像が、相対的に穿孔密度が大きい第1製版領域と、相対的に穿孔密度が小さい第2製版領域とを有しており、
前記第1の熱可塑性樹脂フィルムの前記第1製版領域の反対側である前記第2の熱可塑性樹脂フィルムには相対的に大きい穿孔密度及び/又は大きい穿孔面積で前記インク導入孔が形成された第1穿孔領域を形成し、前記第1の熱可塑性樹脂フィルムの前記第2製版領域の反対側である前記第2の熱可塑性樹脂フィルムには相対的に小さい穿孔密度及び/又は小さい穿孔面積で前記インク導入孔が形成された第2穿孔領域を形成して行なうことを特徴とする請求項1記載の孔版印刷方法。
【請求項3】
相対的に印字率が高い第1原稿領域と相対的に印字率が低い第2原稿領域を有する原稿から得た画像データを用いて前記孔版印刷版を製版する際に、印刷時の前記版胴の回転方向について下流側となる前記孔版印刷版の終端側に前記第1原稿領域に対応する前記第1製版領域を形成し、印刷時の前記版胴の回転方向について上流側となる前記孔版印刷版の先端側に前記第2原稿領域に対応する前記第2製版領域を形成し、前記孔版印刷版の前記第2製版領域よりも印刷時の前記版胴の回転方向についてさらに上流側には、前記第2の熱可塑性樹脂フィルムに前記第1穿孔領域と同等の穿孔密度及び/又は同等の穿孔面積で前記インク導入孔を形成して行うことを特徴とする請求項2記載の孔版印刷方法。
【請求項4】
インクを保持する中間層の表面側と裏面側に第1及び第2の熱可塑性樹脂フィルムをそれぞれ設けてなる孔版印刷版を、インクを供給する版胴の周面に前記第2の熱可塑性樹脂フィルムが接するように前記版胴に巻装し、前記版胴を回転させながら前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに用紙を圧着させて前記用紙に印刷画像を印刷するために、前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに製版画像を製版するとともに、前記第2の熱可塑性樹脂フィルムにインクを導入するインク導入孔を穿孔する孔版印刷版の製版方法において、
前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに製版画像を製版するとともに、前記第2の熱可塑性樹脂フィルムに、前記製版画像に対応した位置に、前記製版画像を構成する穿孔の密度に比例して設定された密度及び/又は面積でインク導入孔を穿孔することを特徴とする孔版印刷版の製版方法。
【請求項5】
インクを保持する中間層と、前記中間層の表面側に設けられた第1の熱可塑性樹脂フィルムと、前記中間層の裏面側に設けられた第2の熱可塑性樹脂フィルムとを備えた孔版印刷版を用い、前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに製版画像を製版し、前記第2の熱可塑性樹脂フィルムにインクを導入するインク導入孔を穿孔し、インクを供給する版胴の周面に前記第2の熱可塑性樹脂フィルムが接するように前記孔版印刷版を前記版胴に巻装し、前記版胴を回転させながら前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに用紙を圧着させることにより前記用紙にインクを転移させて前記製版画像に対応する印刷画像を前記用紙に形成する製版印刷装置において、
原稿の画像を読み取って画像データを出力する読取手段と、
前記読取手段から取得した画像データを用い、前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに製版画像を形成するための第1穿孔パターンデータを生成するとともに、前記第2の熱可塑性樹脂フィルムの前記製版画像と対応する領域に前記製版画像を構成する穿孔の密度に比例した密度及び/又は面積で前記インク導入孔を穿孔するための第2穿孔パターンデータを生成する制御手段と、
前記制御手段からの前記第1穿孔パターンデータによって前記第1の熱可塑性樹脂フィルムに製版画像を形成する第1の製版手段と、
前記制御手段からの前記第2穿孔パターンデータによって前記第2の熱可塑性樹脂フィルムにインク導入孔を形成する第2の製版手段と、
を具備することを特徴とする製版印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−189628(P2011−189628A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57758(P2010−57758)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】