説明

孔版印刷用水性インキおよび孔版印刷方法

【課題】 被印刷体へのインキ転移量を制御することができ、繊細な画像を印刷することができる孔版印刷用インキを提供する。
【解決手段】 分子量が5万以上のポリアルキレンオキサイドを含み、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおけるインキ粘度が500mPa・s以下である孔版印刷用水性インキとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔版印刷用水性インキおよびそのインキを用いた孔版印刷方法に関する。特に、孔版原紙(マスター)が装着されたドラムに印刷媒体を押圧しつつ搬送して、孔版原紙の穿孔より滲み出るインキを印刷媒体に転移させる孔版印刷装置に好ましく用いられる孔版印刷用水性インキに関する。
【背景技術】
【0002】
孔版印刷方式は、オフセット印刷、グラビア印刷、凸版印刷のような印刷方式に比べて、使用後に洗浄等の煩雑な作業を行う必要がない、専門のオペレーターを必要としない等の操作性の良さ、簡便性を備えている。サーマルヘッドをデバイスとして用いる感熱製版方式を用いて以来、孔版印刷方式において画像処理のデジタル化が図られるようになり、高品位の印刷物を短時間で簡便に得られるようになったため、情報処理端末としてもますますその利便性が認められている。
孔版原紙(マスター)の製版・着版・排版動作、インキの供給動作や印刷動作等が自動制御された輪転式孔版印刷機は、デジタル孔版印刷機等の名称でオフィスや学校などで広く利用されている。
【0003】
孔版印刷用インキとしては、従来から一般に油中水(W/O)型エマルションインキが使用されている。W/O型エマルションインキは、印刷機を非使用状態に放置したときに、印刷機内部のインキが大気と接触していても、インキの成分構成や物性の変化を抑制する機能を有している。すなわち、エマルションインキの内相成分である水は、外相成分である油によって覆われているため、その蒸発が抑制されている。
【0004】
W/O型エマルションインキにより印刷された印刷物におけるインキの乾燥は、インキが被印刷体(印刷媒体)である印刷用紙の紙繊維の間へ浸透することと、紙繊維との接触によりエマルションが油相と水相に徐々に分離して、インキの主成分である水が大気と接触して蒸発することとにより進行すると考えられている。しかし、被印刷体に転移したインキ中の水は、印刷後の短時間のうちには大気と接触することができないため、印刷直後の乾燥性は浸透乾燥に頼ったものとなるところ、W/O型エマルションインキの粘度はある程度高く設計されているため浸透速度は速くなく、印刷直後のインキ乾燥性は充分とはいえなかった。
印刷物の乾燥を速めることは、孔版印刷にとって極めて重要な課題である。印刷物が乾燥しないと作業者はその印刷物を取り扱うことができず、孔版印刷の「短時間で高品質の印刷物を得る」利点が充分に活かされないからである。
【0005】
そこで、印刷物の乾燥性を高めるために様々な改良がなされており、たとえば、紫外線照射により定着乾燥する孔版印刷用紫外線硬化型インキが知られている(特許文献1)。また、環境保全性、安全性の観点から孔版印刷用の水性インキが開発されており、印刷直後の印刷面に塩基を加えて水性インキの紙への浸透性を高める孔版印刷方法が知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2002−30238号公報
【特許文献2】特開2001−302955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、化学反応による乾燥方式を利用した場合、硬化エネルギーの照射装置や反応液の塗布装置、そのためのエネルギー等が必要とされ、また高価な原材料をインキ中に含有させる必要もあった。
また、孔版印刷においては、孔版原紙と印刷用紙とが押し当てられた時の印刷圧力により、インキは孔版原紙の穿孔部を通過して印刷用紙表面へと転移するので、仮に印刷用紙へのインキの浸透速度を速めるためにインキの粘度を低くすると、インキは穿孔部を通過しやすくなってインキ転移量が過剰となり、細字や細線などが滲んで繊細な画像が得られないとともに乾燥性が悪い、という問題があった。
そこで、本発明は、インキの粘度が低くても、被印刷体へのインキ転移量を制御することができ、それにより繊細な画像を印刷することができるとともに、熱、光、反応性物質の付与等の特殊な手段、装置、エネルギー等を使用しなくても印刷物の乾燥性を改善することのできる孔版印刷用インキ、および、それを用いた孔版印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、分子量が5万以上のポリアルキレンオキサイドを含み、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおけるインキ粘度が500mPa・s以下である孔版印刷用水性インキに関する。
【0008】
別の本発明は、回転自在でその外周壁の表面に孔版原紙が装着されるドラムと、このドラムの前記外周壁の最大印刷エリアより印刷上流側からインキを供給するインキ供給手段と、給紙された印刷媒体を前記外周壁に押圧するプレスロールとを備えた孔版印刷装置を用い、製版済みの孔版原紙を装着したドラムを回転させながらプレスロールで押圧することによって、製版済みの孔版原紙の穿孔部からインキを通過させて印刷媒体に転移させる孔版印刷方法であって、前記インキとして、上記本発明に係る孔版印刷用水性インキを使用する孔版印刷方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る孔版印刷用水性インキは、分子量が5万以上のポリアルキレンオキサイドを含んでいるので、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおけるインキ粘度が500mPa・s以下という、従来の孔版印刷用水性インキに比べて非常に低粘度であっても、その転移量が制御される。その結果、細字や細線などを繊細に表現して、鮮明な画像を印刷することができ、かつ、低粘度であるので乾燥性に優れた画像を得ることができる。
本発明に係る孔版印刷方法は、本発明に係るインキを用いているので、鮮明かつ乾燥性に優れた印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る孔版印刷用水性インキ(以下、単に「インキ」ともいう。)は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおけるインキ粘度が500mPa・s以下であって、分子量が5万以上のポリアルキレンオキサイドを含んでいることを特徴とする。
【0011】
インキの粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおけるインキ粘度として、500mPa・s以下である。このインキ粘度は、300mPa・s以下であることが好ましく、100mPa・s以下であることが特に好ましい。また、同様に測定したインキ粘度は、1.5mPa・s以上であることが好ましく、3.0mPa・s以上であることがより好ましく、5.0mPa・s以上であることが一層好ましい。
このようにインキの粘度を低くすることにより、被印刷体へのインキの浸透速度を向上させることができ、容易に印刷物の乾燥性を高めることができる。
【0012】
ポリアルキレンオキサイドは、直鎖構造をとる高分子であり、水に溶解させると、その分子構造がもたらす分子内結合角の自由度の高さ、直鎖高分子という構造がもたらす立体的な絡み合い、酸素原子の極性がもたらす水分子との親和性、などから水中で特異的な挙動を示す。
本発明においては、インキが増粘しない程度にこれを添加することにより、低粘度であるにもかかわらず、インキが容易に分裂しない、すなわち分れにくいという性質をインキにもたらすことが考えられる。印刷用紙にインキが転移するには、その前段階として、インキは孔版原紙の各穿孔部に分かれて通過しなくてはならないので、このような分れにくいインキは、孔版原紙の穿孔部から押し出されにくいと考えられる。あるいは、インキが印刷用紙と接触しても、インキは容易に分裂しないために、印刷用紙に転移しにくいとも考えられる。これらまたはその他の理由により、低粘度インキの転移量を抑制することができると考えられる。
【0013】
ポリアルキレンオキサイドのアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが好ましく用いられる。単一のアルキレン基を含むものでも、複数種のアルキレン基を含むものであってもよい。具体的には、ポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体を好ましく用いることができ、特に、ポリエチレンオキサイドを用いることが好ましい。エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体の場合は、エチレンオキサイドの重合比率(モル比)が0.5以上であることが好ましく、0.8以上であることが一層好ましい。
【0014】
ポリアルキレンオキサイドの分子量(重量平均分子量)は、低粘度インキの転移量を制御するとの効果を得るために5万以上のものが選ばれ、30万以上であることが好ましく、100万以上であることが一層好ましい。一方、分子量の上限値は、特に制限はないが、1000万以下であることが好ましく、配合量の調整のしやすさの観点からは、800万以下程度であることが好ましい。
【0015】
ポリアルキレンオキサイドの配合量は、その種類によって異なるが、インキ全量に対し、通常は0.01〜5重量%であることが好ましく、0.03〜2重量%であることがより好ましく、0.03〜0.5重量%であることがさらに好ましく、0.05〜0.2重量%であることが一層好ましい。
ポリアルキレンオキサイドの配合量が多すぎると、インキが高粘度化しやすく、印刷物の乾燥性が悪くなる場合がある。
【0016】
さらに、被印刷体へのインキの転移量を制御する観点から、インキは曳糸性の大きなインキであることが好ましく、具体的には、23℃においてインキから直径15mmのクロム鋼球を150mm/sで引き上げたときのインキ曳糸長が30mm以上であることが好ましい。このインキ曳糸長は、40mm以上であることがさらに好ましく、50mm以上であることが一層好ましい。
【0017】
曳糸長の測定は、具体的には、図8に示したような測定機器を用いて行うことができる。この測定機器は、インキの入った容器201、直径15mmのクロム鋼球202、ステッピングモータ203、ベルト204を備えている。クロム鋼球202は、ステッピングモータ203により回転するベルト204に固定されており、一定速度で上下するようになっている。測定環境を23℃とし、容器201内のインキにクロム鋼球202全体を、その球の上部がちょうどインキ液面のラインと一致するように浸漬し、毎秒150mmの速度で垂直に引き上げたときの様子を、測定機器の正面に設置された撮影機(図示せず)を用いて撮影・録画し、インキ液面と鋼球との間に形成されたインキ曳糸がちぎれる直前のインキ曳糸の最大長(インキ液面と鋼球下部との距離)を、録画した画像から読みとるようにする。
【0018】
この曳糸長の上限については特に限定はされないが、500mm以下であることが好ましく、250mm以下であることがより好ましく、200mm以下であることが一層好ましい。曳糸長が500mmを越えると、インキ転移量が抑制されすぎて、細字・細線などが一部欠損する恐れがあり、また、250mmを超えると、画像にベタ部分がある場合にベタ部分にムラが発生する恐れがある。この理由は定かではないが、孔版原紙と印刷用紙とが剥離したときに、孔版原紙の穿孔部から印刷用紙に転移したインキと転移していないインキとが互いに引き合ってしまい、形成される画像にムラが発生してしまうものと考えられる。
【0019】
インキの曳糸長は、主にポリアルキレンオキサイドの種類や含有量によって調整することができるが、同種同量のポリアルキレンオキサイドをインキ中に配合しても、他のインキ成分による影響で曳糸長が増減することがあるので、その他の成分との兼ね合いで適宜調整することが好ましい。
【0020】
なお、従来の市販の孔版印刷用エマルションインキの曳糸長および粘度を、それぞれ上記と同様に測定してみたところ、理想科学工業株式会社製「RISO SOYインク RP(黒)」は粘度が1000Pa・s(100万mPs・s)以上、曳糸長が25mmであり、株式会社リコー製「インキ タイプ400(黒)」では粘度が1000Pa・s以上、曳糸長が20mmであった。これらのインキは、インキの粘度を高くしてインキが版の穿孔部を通過する際の流動抵抗を上げることによりインキ転移量を抑制するものであり、本発明に係るインキが、いかに従来のインキとは異なる物性を有する新規なインキであるかが明らかである。
【0021】
本発明に係るインキは、水と着色剤と分子量5万以上のポリアルキレンオキサイドを含んでいる。
水は、印刷物の乾燥性を高めるとともに、インキの曳糸長や粘度を制御する観点から、インキ中に50重量%以上含まれていることが好ましく、65重量%以上含まれていることがより好ましい。一方、水の配合量の上限は、特に限定はなく、他の配合成分とのバランスから適宜設定すればよく、たとえば80重量%以下程度であることが好ましい。
【0022】
インキの着色剤としては、顔料または染料を用いることができ、2種以上を併用してもよい。
顔料としては、たとえば、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、ニトロ系、ニトロソ系等の有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等);コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物および硫化物、ならびに黄土、群青、紺青等の無機顔料、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類を用いることができる。
【0023】
染料としては、たとえば、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料等のうち水溶性の染料および還元等により水溶性になった水溶性染料を用いることができる。顔料、染料のいずれかもしくは両方を着色剤として用いてもよいが、顔料を用いることにより画像の滲みや裏抜けが少なく、耐候性にも優れたインキとすることができるため好ましい。
【0024】
インキ中の着色剤の含有量は、通常1〜20重量%であり、3〜15重量%であることが好ましい。印刷物の印刷濃度をより高めるために、5重量%以上含有させることがさらに好ましい。
【0025】
インキには、さらに、印刷中の孔版原紙の穿孔部における乾燥を防止する等の観点から、水溶性有機溶剤を配合することが好ましい。
水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解可能な有機化合物が用いられる。たとえば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、2−メチル−2−プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン;アセチン類(モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン);トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコール類の誘導体;トリエタノールアミン、1−メチル−2−ピロリドン、β−チオジグリコール、スルホランを用いることができる。平均分子量200、300、400、600等の平均分子量が190〜630の範囲にあるポリエチレングリコール、平均分子量400等の平均分子量が200〜600の範囲にあるジオール型ポリプロピレングリコール、平均分子量300、700等の平均分子量が250〜800の範囲にあるトリオール型ポリプロピレングリコール、等の低分子量ポリアルキレングリコールを用いることもできる。これらの水溶性有機溶剤は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
水溶性有機溶剤のインキ中の含有量は、2種以上が用いられる場合はその合計含有量として、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましい。その含有量の上限に関しては、特に限定はされないが、画像の裏抜けを少なくするため、45重量%以下程度であることが好ましく、35重量%以下程度であることがより好ましい。水よりも高沸点の、より好ましくは沸点が150℃以上の水溶性有機溶剤をインキ中に5重量%以上含有させることにより、印刷中の孔版原紙穿孔部の乾燥を有効に防止でき好ましい。
【0027】
インキには、粘度調整剤として、任意の増粘剤を配合することができ、たとえば、水溶性高分子系増粘剤や粘土鉱物系増粘剤の1種以上を使用することができる。
水溶性高分子系増粘剤としては、天然高分子、半合成高分子、合成高分子を用いることができる。
【0028】
天然高分子としては、たとえば、アラビアガム、カラギーナン、グアガム、ローカストビーンガム、ペクチン、トラガントガム、コーンスターチ、コンニャクマンナン、寒天等の植物系天然高分子;プルラン、キサンタンガム、デキストリン等の微生物系天然高分子;ゼラチン、カゼイン、にかわ等の動物系天然高分子、を用いることができる。
【0029】
半合成高分子としては、たとえば、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系半合成高分子;ヒドロキシエチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、シクロデキストリン等のデンプン系半合成高分子;アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール等のアルギン酸系半合成高分子;ヒアルロン酸ナトリウム、を用いることができる。
【0030】
合成高分子としては、たとえば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリクロトン酸、ポリイタコン酸、ポリマレイン酸、ポリフマル酸、アクリル酸−メタクリル酸共重合体、アクリル酸−イタコン酸共重合体、アクリル酸−マレイン酸共重合体、アクリル酸−アクリルアミド共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−スルホン酸系モノマー共重合体、アクリル酸−ビニルピロリドン共重合体、無水マレイン酸−アルキルビニルエーテル共重合体等の不飽和カルボン酸系合成高分子;ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリN−ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド等のビニル系合成高分子;ポリエチレンイミン、ポリウレタンを用いることができる。
【0031】
これらの増粘剤のなかでも、側鎖に多数の解離基をもった電解質型増粘剤である不飽和カルボン酸系水溶性高分子増粘剤は、少量でも所望の増粘効果が得られることなどから好ましく用いられる。ここで、不飽和カルボン酸系合成高分子としては、上記例示のように、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸およびイタコン酸からなる群から選ばれる1種以上の不飽和カルボン酸を主鎖に含む水溶性高分子が挙げられ、上記の未中和タイプだけでなく、これらの中和塩もその範疇に含まれる。中和塩としては、たとえば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン塩が挙げられ、具体的には、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸トリエタノールアミン、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸アンモニウム、ポリイタコン酸ナトリウム、ポリマレイン酸ナトリウム、アクリル酸−メタクリル酸共重合体ナトリウム、アクリル酸−マレイン酸共重合体ナトリウム、アクリル酸−アクリルアミド共重合体ナトリウム等を好ましく用いることができる。
【0032】
粘土鉱物系の増粘剤としては、たとえば、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト等のスメクタイト系粘土鉱物を用いることができる。
なお、増粘剤として例示した上記水溶性高分子は、その種類と量によっては、インキの増粘剤以外にも、印刷用紙への着色剤の定着剤等として用いることができる。また、着色剤として顔料を用いる場合においては、顔料の分散剤として用いることもできる。
【0033】
インキには、上記の成分に加え、任意に、顔料分散剤、定着剤、消泡剤、表面張力低下剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等を適宜含有させることができる。
インキ中にアルカリ可溶性樹脂を含有させて、印刷用紙等の被印刷体への着色剤の定着剤等として用いることができる。着色剤として顔料を用いる場合は、顔料の分散剤としてアルカリ可溶性樹脂を用いることもできる。アルカリ可溶性樹脂とは、水には不溶性であるが、アルカリの存在下では水可溶性になる高分子のことを意味する。したがって、たとえばアクリル酸-アクリル酸エステル共重合体のように、化合物名が同じであっても、本発明においては、その溶解性により水溶性高分子またはアルカリ可溶性樹脂に分類される。
【0034】
アルカリ可溶性樹脂としては、たとえば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−(メタ)アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体を用いることができる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。これらのアルカリ可溶性樹脂は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、アンモニア水、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等の任意のアルカリで中和して、水可溶性にして用いることができる。
アルカリ可溶性樹脂は、多量に含有させると印刷機の非使用後の印刷性能に支障をきたす恐れがあるため、インキ中に固形分換算で5重量%以下の範囲で含有させることが好ましく、より好ましくは3重量%以下である。
【0035】
インキに水中油(O/W)型樹脂エマルションを含有させて、印刷用紙等の被印刷体への着色剤の定着剤等として用いることができる。着色剤として顔料を用いる場合においては、この樹脂エマルションを顔料の分散剤として用いることもできる。
水中油(O/W)型樹脂エマルションとしては、たとえば、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリスチレン、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリル酸エステル共重合体、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン等の樹脂エマルションを用いることができる。これらの2種以上を併用してもよい。
樹脂エマルションは、多量に含有させると印刷機の非使用後の印刷性能に支障をきたす恐れがあるため、インキ中に固形分換算で5重量%以下の範囲で含有させることが好ましく、より好ましくは2重量%以下である。
【0036】
印刷物の画質を向上させるために、インキ中に体質顔料を含有させることができる。
体質顔料としては、たとえば、白土、タルク、クレー、珪藻土、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、アルミナホワイト、シリカ、カオリン、マイカ、水酸化アルミニウムを用いることができ、これらの2種以上を併用してもよい。
体質顔料は、多量に含有させると被印刷体への着色剤の定着を阻害したり、印刷機の非使用後の印刷性能に支障をきたす恐れがあるため、5重量%以下の範囲で含有させることが好ましく、より好ましくは2重量%以下である。
【0037】
さらに、顔料分散剤、消泡剤、表面張力低下剤等として、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、または高分子系、シリコーン系、フッ素系の界面活性剤をインキに含有させることができる。
【0038】
インキの粘度やpHを調整するために、インキに電解質を配合することもできる。電解質としては、たとえば、硫酸ナトリウム、リン酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸カリウム、ホウ酸ナトリウムが挙げられ、2種以上を併用してもよい。硫酸、硝酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、トリエタノールアミン等も、インキの増粘助剤やpH調整剤として用いることができる。
【0039】
酸化防止剤を配合することにより、インキ成分の酸化を防止し、インキの保存安定性を向上させることができる。酸化防止剤としては、たとえば、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、イソアスコルビン酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムを用いることができる。
【0040】
防腐剤を配合することにより、インキの腐敗を防止して保存安定性を向上させることができる。防腐剤としては、たとえば、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾロン系防腐剤;ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−s−トリアジン等のトリアジン系防腐剤;2−ピリジンチオールナトリウム−1−オキシド、8−オキシキノリン等のピリジン・キノリン系防腐剤;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム等のジチオカルバメート系防腐剤;2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン等の有機臭素系防腐剤;p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、サリチル酸を用いることができる。
【0041】
インキは、水と着色剤と分子量5万以上のポリアルキレンオキサイドと、必要に応じて適宜配合される上記の成分とを混合させて製造することができ、その詳細は特に限定されることはない。たとえば、一部の水と顔料と顔料分散剤とを混合し、ボールミル、ビーズミル等の分散手段を用いて顔料を分散させ、一方で、残りの水とポリアルキレンオキサイドと水溶性有機溶剤とを混合し、そして、両者を混ぜ合わせるようにしてもよい。
【0042】
上記インキを用いた孔版印刷には、操作性に優れる点から、デジタル孔版印刷機を用いることが好ましく、なかでも本発明者らの発明による、印刷機を非使用状態に放置してもインキの成分構成や物性が変化することがない新規な孔版印刷装置(特開2004−122712号公報、特開2005−53209号公報)を用いることが好ましい。
この孔版印刷装置は、回転自在でその外周壁の表面に孔版原紙が装着されるドラムと、このドラムの外周壁の最大印刷エリアより印刷上流側からインキを供給するインキ供給手段と、給紙された印刷媒体を外周壁に押圧するプレスロールとを備えた装置(以下、これを「RK装置」ともいう。)である。
【0043】
本発明に係る孔版印刷方法は、上記本発明に係るインキと、このRK装置とを用いて行われ、製版済みの孔版原紙を装着したドラムを回転させながらプレスロールで押圧することによって、製版済みの孔版原紙の穿孔部からインキを通過させて印刷媒体に転移させるようにする。
【0044】
このRK装置では、ドラムの外周壁が回転され、かつ、この外周壁の表面にインキ供給部からインキが供給された状態にあって印刷媒体が給紙されると、この印刷媒体がプレスロールによって孔版原紙およびドラムの外周壁に押圧されつつ搬送される一方、プレスロールの押圧力によってドラムの外周壁と孔版原紙の間のインキがしごかれながら印刷方向の下流に拡散されると共に、この拡散されたインキが孔版原紙の穿孔よりにじみ出て印刷媒体側に転移され、印刷媒体にインキ画像が印刷される。つまり、インキは、ドラム表面と孔版原紙との間を、プレスロールによりしごかれることで供給される。ドラムに供給されたインキはドラムの外周壁と孔版原紙の間の略密閉空間に保持され、大気との接触が最低限に抑えられる。したがって、RK装置内におけるインキ中の水分の蒸発やインキの変質が防止され、その結果、乾燥性に優れ、印刷直後に取り扱っても画像が擦れることのない高品質な印刷物を提供することができる。また、印刷機を非使用状態で長期間放置した後も、洗浄等の作業を必要とせずに印刷を再開することができ、非使用後の印刷初期の印刷物から、放置前の印刷物と同等の印刷性能を得ることができる。
【0045】
そこで、たとえばインキとして高含水の水性インキを用いる場合でも、このRK装置では、印刷機内部のインキは密閉されていて水分が大気中へ蒸発することが防止されるので、上記と同じ効果を得ることができる。
さらにこの装置では、従来のように、印刷機からのインキ漏れを防止する等の印刷機とのマッチング性のためにインキの粘度をある程度高く設定する必要がない。
したがって、仮にインキの粘度が高い場合は、プレスロールによる押圧力を高く設定する必要が生じ、これが高すぎるとインキ転移量が多くなったり孔版原紙の伸びによる画像伸縮が発生したりする恐れがあるが、低粘度のインキを用いる場合は、このような問題が生じることもなく、RK装置におけるインキの供給が最適なものとなり、印刷面端部における画像欠けがなく、かつ、印刷媒体へのインキの浸透速度を向上させることができ、容易に印刷物の乾燥性を高めることができる。
【0046】
以下に、このRK装置の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は孔版印刷装置の概略構成図、図2はドラムの斜視図、図3は図2中A1−A1線に沿う断面図、図4は図2中B1−B1線に沿う断面図、図5はインキ供給部を示すドラムの平面図、図6は図5中C1−C1線に沿う断面図、図7はインキの拡散メカニズムを説明する部分断面図である。
この実施形態に示す孔版印刷装置は、回転自在で、且つ、インキ不透過性部材で形成された外周壁を有し、この外周壁の表面に孔版原紙が装着されるドラムと、このドラムの前記外周壁の最大印刷エリアより印刷上流位置にインキ供給部を有し、このインキ供給部より前記外周壁の表面にインキを供給するインキ供給手段と、給紙された印刷媒体を前記外周壁に押圧するプレスロールとを備えている。
【0047】
図1に示すように、孔版印刷装置は、原稿読み取り部1と、製版部2と、印刷部3と、給紙部4と、排紙部5および排版部6とから主に構成されている。
原稿読み取り部1は、印刷すべき原稿が載置される原稿セット台10と、原稿セット台10上の原稿の有無を検出する反射型の原稿センサ11,12と、原稿セット台10の原稿を搬送する原稿搬送ロール13,14と、原稿搬送ロール13,14を回転駆動させるステッピングモータ15と、原稿搬送ロール13,14によって搬送される原稿の画像データを光学的に読み取り、これを電気信号に変換する密着型のイメージセンサ16と、原稿セット台10より排出される原稿を載置する原稿排出トレー17とを有する。そして、原稿セット台10に載置された原稿が原稿搬送ロール13,14によって搬送され、この搬送される原稿の画像データをイメージセンサ16が読み取る。
【0048】
製版部2は、ロールされた長尺状の孔版原紙18を収容する原紙収容部19と、この原紙収容部19の搬送下流に配置されたサーマルヘッド20と、このサーマルヘッド20の対向位置に配置されたプラテンロール21と、このプラテンロール21およびサーマルヘッド20の搬送下流に配置された一対の原紙送りロール22,22と、プラテンロール21および原紙送りロール22を回転駆動させるライトパルスモータ23と、一対の原紙送りロール22,22の搬送下流に配置された原紙カッタ24とを有する。
そして、プラテンロール21と原紙送りロール22の回転により長尺状の孔版原紙18を搬送し、イメージセンサ16で読み取った画像データに基づきサーマルヘッド20の各点状発熱体が選択的に発熱動作することにより孔版原紙18に感熱穿孔して製版し、この製版された孔版原紙18を原紙カッタ24で切断して所定長さの孔版原紙18を作製する。
【0049】
印刷部3は、メインモータ25の駆動力によって図1の矢印A方向に回転するドラム26と、このドラム26の外周面に設けられ、孔版原紙18の先端をクランプする原紙クランプ部27と、ドラム26の外周面に孔版原紙18が巻き付け装着されているか否かを検出する原紙確認センサ28と、ドラム26の基準位置を検出する基準位置検出センサ30と、メインモータ25の回転を検出するロータリエンコーダ31とを有する。基準位置検出センサ30の検出出力を基にロータリエンコーダ31の出力パルスを検出することによってドラム26の回転位置を検出することができるようになっている。
【0050】
また、印刷部3は、ドラム26の下方位置に配置されたプレスロール35を有し、このプレスロール35はソレノイド装置36の駆動力によってドラム26の外周面に押圧する押圧位置と、ドラム26の外周面から離間する待機位置との間で変移可能に構成されている。プレスロール35は、印刷モードの期間(試し刷りを含む)にあっては押圧位置に常時位置され、印刷モード以外の期間にあっては待機位置に位置されるようになっている。
そして、製版部2から搬送される孔版原紙18の先端を原紙クランプ部27でクランプし、このクランプした状態でドラム26が回転されて孔版原紙18がドラム26の外周面に巻き付け装着され、ドラム26の回転に同期して給紙部4より給紙される印刷用紙(印刷媒体)37をプレスロール35でドラム26に巻装された孔版原紙18に押圧することによって印刷用紙37に孔版原紙18の穿孔からインキ56が転移されて画像が印刷されるようになっている。
【0051】
給紙部4は、印刷用紙37が積層される給紙台38と、この給紙台38から最上位置の印刷用紙37のみを搬送させる1次給紙ロール39,40と、この1次給紙ロール39,40によって搬送された印刷用紙37をドラム26の回転に同期してドラム26とプレスロール35間に搬送する一対の2次給紙ロール41,41と、この一対の2次給紙ロール41,41間に印刷用紙37が搬送されたか否かを検出する給紙センサ42とを有する。1次給紙ロール39,40には給紙クラッチ43を介してメインモータ25の回転が選択的に伝達されるように構成されている。
排紙部5は、印刷処理された印刷用紙37をドラム26から分離する用紙分離爪44と、この用紙分離爪44によりドラム26から離間された印刷用紙37が搬送される搬送通路45と、この搬送通路45より排紙される印刷用紙37が載置される排紙台46とを有する。
【0052】
排版部6は、ドラム26の外周面よりクランプ解除された孔版原紙18の先端を導き、この導いた使用済みの孔版原紙18をドラム26より引き剥がしながら搬送する排版搬送手段47と、この排版搬送手段47により搬送されて来る孔版原紙18を収納する排版ボックス48と、排版搬送手段47により排版ボックス48内に搬送されて来た孔版原紙18を排版ボックス48の奥に押し込む排版圧縮部材49とを有する。
【0053】
図2〜図4に示すように、ドラム26は、装置本体H(図1に示す)に固定された支軸50と、この支軸50に各軸受51を介して回転自在に支持された一対の側円板52,52と、この一対の側円板52,52間に固定された円筒状の外周壁53とを備えている。この外周壁53は一対の側円板52,52と一体となってメインモータ25の回転力により回転駆動されるようになっている。また、外周壁53は、剛性を有し、かつ、インキ56を通過させないインキ不透過性部材にて形成されている。インキ不透過性部材の種類によっては、外周壁53の外周面を凹凸のない円筒面に形成する等の目的で、テフロン(登録商標)加工のようなフッ素樹脂加工、ニッケルメッキ、ニッケルクロムメッキ、溶融亜鉛メッキ、陽極酸化処理など、各種公知の表面加工処理を外周壁53に施してもよい。
【0054】
原紙クランプ部27は、外周壁53の支軸50の軸方向に沿って形成されたクランプ用凹部53aを利用して設けられている。原紙クランプ部27はその一端側が外周壁53に回転自在に支持され、図4にて仮想線で示すクランプ解除状態では外周壁53より突出するが、図4にて実線で示すクランプ状態では外周壁53より突出しないように設けられている。したがって、原紙クランプ部27は、外周壁53上に突出することなく孔版原紙18をクランプすることができるようになっている。
【0055】
この外周壁53は、図2,図4の矢印A方向に回転され、原紙クランプ部27より少し回転した位置が印刷開始ポイントとされている。したがって、回転方向Aが印刷方向Mとなり、印刷開始ポイントより下方のエリアが印刷エリアとされる。この実施形態では最大印刷エリアはA3サイズの印刷が可能な領域に設定されている。そして、外周壁53の最大印刷エリアより印刷方向Mの上流位置にはインキ供給手段54のインキ供給部55Aが設けられている。
【0056】
インキ供給手段54は、図2〜図6に示すように、インキ56が溜められたインキ容器57と、このインキ容器57内のインキ56を吸引するインキポンプ58と、このインキポンプ58によって吸引されたインキ56を供給する第1パイプ59と、この第1パイプ59の他端が接続され、内部にインキ通路60が形成され、かつ、180度対向位置に孔61が形成された支軸50と、この支軸50の外周側に回転自在に支持され、孔61に連通可能な連通孔62が形成されたロータリジョイント63と、このロータリジョイント63に一端が接続され、他端が外周壁53に導かれた第2パイプ64と、この第2パイプ64の他端側が開口されたインキ供給部55Aとから構成されている。
【0057】
インキ供給部55Aは、第2パイプ64からのインキ56を印刷直交方向Nに拡散するインキ拡散溝65と、このインキ拡散溝65の印刷直交方向Nに間隔を置いて開口された複数の連通孔66と、この複数の連通孔66に連通し、外周壁53の表面に開口されたインキ拡散供給部としてのインキ供給口55aとから構成されている。
図5および図6に示すように、インキ拡散溝65と複数の連通孔66およびインキ供給口55aは、外周壁53の印刷方向Mの直交方向(即ち、印刷直交方向N)に沿って形成されたインキ供給用凹部67と、この内部に配置されたインキ分配部材68とによって形成されている。インキ供給口55aは、印刷直交方向Nに沿って形成され、外周壁53の印刷直交方向Nにほぼ均等にインキ56を供給するようになっている。
【0058】
次に、前記構成の孔版印刷装置の動作を簡単に説明する。
まず、製版モードが選択されると、製版部2では、プラテンロール21と原紙送りロール22の回転により孔版原紙18を搬送し、原稿読み取り部1で読取った画像データに基づきサーマルヘッド20の多数の発熱体が選択的に発熱動作することにより孔版原紙18に感熱穿孔して製版し、この製版した孔版原紙18の所定箇所を原紙カッタ24で切断して所望寸法の孔版原紙18を作る。
【0059】
印刷部3では、製版部2で製版された孔版原紙18の先端をドラム26の原紙クランプ部27でクランプし、このクランプした状態でドラム26が回転されて孔版原紙18をドラム26の外周面に巻き付け着版する。
次に、印刷モードが選択されると、印刷部3ではドラム26が回転駆動されると共に、インキ供給手段54の駆動が開始される。すると、インキ56がインキ供給口55aより外周壁53に供給され、この供給されたインキ56が外周壁53と孔版原紙18の間に保持されると共に、プレスロール35が待機位置から押圧位置に変位される。
【0060】
このドラム26の回転に同期して給紙部4では印刷用紙37をドラム26とプレスロール35との間に給紙する。給紙された印刷用紙37は、プレスロール35によってドラム26の外周壁53に押圧されると共に、ドラム26の外周壁53の回転によって搬送される。つまり、印刷用紙37は孔版原紙18に密着されつつ搬送される。
【0061】
また、この印刷用紙37の搬送と並行して、図7に示すように、ドラム26の外周壁53と孔版原紙18の間に保持されたインキ56は、プレスロール35の押圧力によってしごかれながら印刷方向Mの下流に拡散されると共に、この拡散されたインキ56が孔版原紙18の穿孔よりにじみ出て印刷用紙37側に転移される。以上により、印刷用紙37にはドラム26の外周壁53とプレスロール35の間を通過する過程でインキ画像が印刷される。ドラム26の外周壁53とプレスロール35の間を抜けた印刷用紙37は、その先端側が用紙分離爪44でドラム26より剥ぎ取られ、ドラム26より離間された印刷用紙37は搬送通路45を介して排紙台46に排紙され、ここに積載される。
【0062】
設定印刷枚数の印刷が完了すると、ドラム26の外周壁53の回転が停止されると共に、インキ供給手段54の駆動が停止される。これにより、外周壁53へのインキ56の供給が停止される。また、プレスロール35が押圧位置から待機位置に戻され、待機モードに入る。
新たな製版を開始する等によって排版モードが選択されると、ドラム26の原紙クランプ部27がクランプ解除位置に変位され、クランプ解除された孔版原紙18の先端側がドラム26の回転に伴って排版搬送手段47で導びかれ、排版ボックス48に収納される。
【0063】
以上、この孔版印刷装置では、ドラム26の外周壁53にインキ56が供給され、このインキ56がプレスロール35の押圧力でしごかれることによって外周壁53上に拡散されると共に、この拡散されたインキ56がプレスロール35の押圧力によって孔版原紙18の穿孔より印刷用紙37に転移される。したがって、印刷モードが終了されると、ドラム26に供給されたインキ56は、ドラム26の外周壁53と孔版原紙18の間の略密閉空間に保持され、大気との接触が最低限に抑えられる。これにより、印刷を長時間行わなくてもインキ56が変質することがなく、インキ56の変質を確実に防止することができる。また、ドラム26の内部には従来例のようにインキ供給のための各種ロールを配置する必要がない。これにより、ドラム26をより一段と小型・軽量化することができる。
【0064】
また、ドラム26の外周壁53をインキ不透過性部材で形成すれば良いので、材料選択のバリエーションが広がると共に、シンプルな構造で良いため、低コストで製造することができる。さらに、ドラム26の強度アップが容易にできるため、印圧の変動等による画像ムラを防止することができる。
さらに、インキ56は、基本的に大気との接触が最低限に抑えられるため、ほとんど劣化しない最良の状態で印刷に供される。また、インキ56の劣化防止管理が必要ないため、インキ56の選択自由度を広げることができる。
【0065】
別の孔版印刷装置として、たとえば、回転自在で、かつ、表面に孔版原紙が装着される外周壁を有し、この外周壁がインキを通過しないベース壁と該ベース壁の少なくとも最大印刷エリアの表面に配置された多孔質シート部材とを有し、この多孔質部材と前記ベース壁の間に少なくとも最大印刷エリアの全域に亘ってインキ通過路が設けられたドラムと、前記インキ通過路にインキを供給するインキ供給手段と、前記インキ通過路内のインキを回収するインキ回収手段と、給紙された印刷媒体を前記外周壁に押圧するプレスロールとを備えた孔版印刷装置を用いることもできる。
【実施例】
【0066】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、「重量%」を単に「%」と記す。
【0067】
(実施例1)
着色剤として水溶性染料(ダイワ化成(株)製直接染料「Daiwa IJ−Blue 319H」)5.0%を蒸留水45.0%に溶解させ、染料水溶液を得た。別に蒸留水19.95%をゆっくり撹拌させながら、ここにポリアルキレンオキサイドとしてポリエチレンオキサイド(1)(住友精化(株)製「PEO−27」、平均分子量600万〜800万)0.05%を添加して溶解させた。
得られた染料水溶液50.0%、ポリアルキレンオキサイド水溶液20.0%、水溶性有機溶剤としてポリエチレングリコール(和光純薬工業(株)製「ポリエチレングリコール200」)15.0%、および蒸留水の残部(15.0%)を混合して、実施例1のインキを得た。
【0068】
(実施例2〜6、比較例1〜3)
表1および表2に示す配合とした他は、実施例1と同様にして、各実施例および各比較例のインキを得た。実施例3〜6および比較例2〜3では、実施例1の染料水溶液に代えて、自己分散性カーボンブラック分散液(キャボット社製「CAB−O−JET 200」、顔料分20%;表1の配合量は顔料分換算値である。)を使用した。
(実施例7)
着色剤としてカーボンブラック(三菱化学(株)製「#40」)5.0%、顔料分散剤としてポリビニルピロリドン(第一工業製薬(株)製「K17」)1.0%、および蒸留水14.0%を混合し、ビーズミルで充分に分散させて顔料分散液を調製した。
以降は実施例1と同様にして、インキを得た。
(比較例4〜5)
表2に示す配合とした他は、実施例7と同様にして、各比較例のインキを得た。
【0069】
表中、ポリエチレンオキサイド(2)は明成化学工業(株)製「アルコックスE−160」(平均分子量350万〜400万)、ポリエチレンオキサイド(3)は明成化学工業(株)製「アルコックスE−30」(平均分子量30万〜50万)、ポリエチレンオキサイド(4)は明成化学工業(株)製「アルコックスR−150」(平均分子量10万〜17万)、ポリエチレンオキサイド(5)は三洋化成工業(株)製「マクロゴール20000」(平均分子量約2万)、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体は明成化学工業(株)製「アルコックスEP−10X」(平均分子量約100万)、カルボキシメチルセルロースナトリウムは関東化学(株)製、架橋構造型ポリアクリル酸共重合体はBFグッドリッチ社製「カーボポール940」である。
【0070】
得られたインキの粘度を、ハーケ社製応力制御式レオメータRS75(コーン角度1°、直径60mm)を用いて測定した。
インキの曳糸長は、図8にその概略を模式的に示したような測定器を用いて測定した。すなわち、23℃の環境温度下で、容器201内にインキを満たし、この中にクロム鋼球202(直径15mm)の全体を、その球の上部がちょうどインキ液面のラインと一致するように浸漬し、その後このクロム鋼球を毎秒150mmの速度で垂直に引き上げたときの様子を、撮影機(ソニー株式会社製3CCDカラービデオカメラモジュールXC−003)(図示せず)を用いて正面から撮影し、インキ液面と鋼球との間に形成されたインキ曳糸がちぎれる直前のインキ曳糸の最大長(インキ液面と鋼球下部との距離)を、録画した画像から読みとった。
【0071】
上記実施例および比較例で作製したインキを用いて、上記図1〜7に示した孔版印刷装置(理想科学工業株式会社製試作品)にて印刷用紙(理想科学工業株式会社製「理想用紙薄口」)に印刷を行い、得られた印刷物の細字の鮮鋭性および乾燥性を評価した。細字の鮮鋭性の評価は目視で行い、細字(6ポイント)の判読が充分に可能であったものをA、判読が困難だったものをB、判読が不可能だったものをCで表した。印刷物の乾燥性は、画像に触れたときの指の汚れで評価し、印刷した3秒後に触れても指が汚れなかったものをA、5秒後であれば汚れなかったものをB、5秒後でも汚れたものをCで表した。
結果を表1および表2に併せて示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
上記表に示されているように、実施例ではいずれも、比較例に比べて、細字の鮮鋭性および印刷物の乾燥性の良好な印刷物を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】好適な孔版印刷装置の一実施形態を示し、その概略構成図である。
【図2】好適な孔版印刷装置の一実施形態を示し、ドラムの斜視図である。
【図3】好適な孔版印刷装置の一実施形態を示し、図2中A1−A1線に沿う断面図である。
【図4】好適な孔版印刷装置の一実施形態を示し、図2中B1−B1線に沿う断面図である。
【図5】好適な孔版印刷装置の一実施形態を示し、インキ供給部を示すドラムの平面図である。
【図6】好適な孔版印刷装置の一実施形態を示し、図5中C1−C1線に沿う断面図である。
【図7】好適な孔版印刷装置の一実施形態を示し、インキの拡散メカニズムを説明する部分断面図である。
【図8】曳糸長の測定に用いられる機器を模式的に示した概略構成図である。
【符号の説明】
【0076】
18 孔版原紙
26 ドラム
35 プレスロール
37 印刷用紙(印刷媒体)
53 外周壁
54 インキ供給手段
55A,55B,55C,55D インキ供給部
55d インキ供給口
56 インキ
M 印刷方向
N 印刷直交方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が5万以上のポリアルキレンオキサイドを含み、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおけるインキ粘度が500mPa・s以下である孔版印刷用水性インキ。
【請求項2】
23℃においてインキから直径15mmのクロム鋼球を150mm/sで引き上げたときのインキ曳糸長が30mm以上である請求項1記載の孔版印刷用水性インキ。
【請求項3】
回転自在でその外周壁の表面に孔版原紙が装着されるドラムと、このドラムの前記外周壁の最大印刷エリアより印刷上流側からインキを供給するインキ供給手段と、給紙された印刷媒体を前記外周壁に押圧するプレスロールとを備えた孔版印刷装置を用い、製版済みの孔版原紙を装着したドラムを回転させながらプレスロールで押圧することによって、製版済みの孔版原紙の穿孔部からインキを通過させて印刷媒体に転移させる孔版印刷方法であって、前記インキとして、請求項1または2記載の孔版印刷用水性インキを使用する孔版印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−84586(P2007−84586A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−271161(P2005−271161)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】