説明

安定なポリラクチドの製造法

【課題】本発明は、安定なポリラクチドを製造する方法を提供する。
【解決手段】ラクチドを重合触媒と一緒にする工程、得られた混合物を重合条件に付して液体状態のポリラクチドを形成する工程、有機過酸化物を添加する工程、上記液体のポリラクチドを揮発性物質除去工程に付す工程、および上記ポリラクチドを固化させる工程を含むポリラクチドの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定なポリラクチドの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸としても示されるポリラクチドは、例えば包装材料のためのバイオポリマーの分野における有望な物質である。また、その高い生体適合性および再吸収性故に、生物医学的分野における魅力的な物質である。それが再生可能な資源から誘導され得るという事実は、それを、石油から誘導されるポリマーに対する継続維持できる(sustainable)代替として特に魅力的にする。ポリラクチドは、縮合反応による乳酸の重合によって得られ得る。しかし、Doroughは、米国特許第1,995,970号において、得られるポリラクチドは、重縮合が、必要とされる高い分子量ポリエステルを生じないので、価値が限られていることを認めそして開示した。
【0003】
したがって、ポリラクチドの製造法に関するほとんどの公知文献は、乳酸を重合してプレポリマーを形成し、それが次いで触媒によって解重合されて粗ラクチドを形成する(すなわち閉環反応)ところの第一工程、および上記粗ラクチドが精製後に第二工程、すなわち開環重合によるポリラクチドの製造、における出発物質として使用されることを開示している。この記載の目的のために、ポリラクチドとポリ乳酸の用語は相互交換可能に使用される。
【0004】
高温ポリマー処理においてしばしば遭遇する一般的な問題は、生成物の解重合に対する不十分な安定性である。適切な注意が払われなければ、ポリラクチドは、温度よび圧力条件に応じて、ラクチド形成故の変色および分子量低下を受けやすい。
【0005】
米国特許第5,338,822号は、溶融安定なラクチドポリマーを記載している。上記ポリマーは、好ましくは約10000から約300000g/モルの数平均分子量を有する、複数のポリラクチドポリマー鎖、約2重量%未満の濃度のラクチド、約1000ppm未満の濃度の水および安定剤を含む。安定剤は、酸化防止剤または水スカベンジャーを包含し得る。好ましい酸化防止剤は、ホスファイト含有化合物、ヒンダードフェノール系化合物、または他のフェノール系化合物である。上記公知文献は、触媒濃度を低く保持して生成物の安定性を高めることが好ましいことを示している。しかしこれは、低下された重合速度をもたらす。生成物の安定性はまた、追加の処理工程を要するところの、触媒を溶媒の使用によりポリマーから除去することによって、または触媒不活性化剤を添加することによって高められ得る。適する触媒不活性化剤は、ヒンダードアルキル、アリールおよびフェノール系ヒドラジド、脂肪族および芳香族のモノカルボン酸およびジカルボン酸、環式アミド、脂肪族および芳香族アルデヒドのヒドラゾンおよびビスヒドラゾン、脂肪族および芳香族のモノカルボン酸およびジカルボン酸のヒドラジド、ビスアシル化ヒドラジン誘導体、ヘテロ環式化合物およびそれらの混合物であることが言及されている。しかし、これらの化合物は、ポリラクチドの安定化においていつも有効であるとは限らないように見える。
【0006】
米国特許第6,353,086号は、乳酸残基を含むポリマー組成物を、ホスファイト酸化防止剤および多官能性カルボン酸から選択される不活性化剤を使用して安定化する方法を記載している。ここでも、これらの化合物は、ポリラクチドの安定化においていつも有効であるとは限らないように見える。
【0007】
国際公開WO99/50345号は、平均して1分子につき2より多いカルボン酸基を有する触媒不活性化剤を0.01〜2重量%含む、低含量の乳酸を有するPLAの製造方法を記載している。例えば、不活性化剤は、ポリアクリル酸である。
【0008】
米国特許第6,153,306号は、ポリラクチドでコーティングされた紙または板製品を記載している。
【0009】
米国特許第5,998,552号は、特定の特性を有するPLAを製造する方法を記載している。種々の安定剤の使用が開示されている。
【0010】
米国特許第6,559,244号は、溶融処理中に過酸化物をPLAに添加することを記載している。
【0011】
欧州特許公開EP882751は、生物分解性ポリエステル、例えばPLA、を共触媒としてのグリセロールまたはブチロラクトンを使用して製造する方法を記載している。
【0012】
米国特許第5,844,066号は、乳酸ベースのポリエステルに有機キレート剤を添加してエステル化触媒を不活性化することを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第1,995,970号明細書
【特許文献1】米国特許第5,338,822号明細書
【特許文献1】米国特許第6,353,086号明細書
【特許文献1】国際公開第99/50345号パンフレット
【特許文献1】米国特許第6,153,306号明細書
【特許文献1】米国特許第5,998,552号明細書
【特許文献1】米国特許第6,559,244号明細書
【特許文献1】欧州特許出願公開第882751号明細書
【特許文献1】米国特許第5,844,066号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ポリラクチドを製造する技術において、多くの異なる、しばしば矛盾した、要件の間にバランスを見出す新しい方法のための継続する要求がある。いくつか挙げると、高い重合速度が望ましい特徴である。別の望ましい特徴は、得られる生成物の高い安定性、特に溶融物の高い安定性である。さらに、例えば反応速度を高めるための共触媒の添加を控えることにより、または追加の安定剤の添加を控えることにより、組成物をできるだけ単純に保つことが望ましい場合があり得る。さらなる望ましい特徴は良好な色であり、より明るい透明な生成物は、より黄色がかった生成物よりも魅力的である。さらに、処理装置に沈着し得るラクチド蒸気の形成を低下させるまたは防ぐことが望ましい。ポリマー中の実質的な量のラクチドの存在も、ポリマーの機械的特性および加工性に悪影響を及ぼし得る。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、この要求は、ラクチドを重合触媒と一緒にする工程、得られた混合物を重合条件に付して液体状態のポリラクチドを形成する工程、有機過酸化物を添加する工程、上記液体のポリラクチドを揮発性物質除去(devolatilisation)工程に付す工程、および上記ポリラクチドを固化させる工程を含むポリラクチドの製造法の提供によって処理される。
【0016】
なお、国際公開WO95/18169は、処理可能なポリ(ヒドロキシ酸)、例えばポリラクチド、を記載している。これは、溶融処理中に、ポリマーに、その減成が1以上の酸ラジカルを生じるところのパーオキシ化合物を0.05〜3重量%添加することによって安定化されている。上記生成物は、良好な溶融強度および弾性を有する。この文献では、パーオキシ化合物がポリマーの溶融処理中に添加されるが、それは、本発明において要求されるところの、重合と揮発性物質除去との間ではない。本発明に従って上記製造法におけるこの特定の時点で有機過酸化物を添加することは、高められたポリマー収率、およびポリマー解重合における減少をもたらす。
【発明の効果】
【0017】
本発明に従う方法では、高い重合速度が、生成物の高い安定性、特に溶融物での高い安定性、と組み合わせられ得ることが見出された。さらに、一実施態様では、共触媒の添加なしで済まされ得る。さらに、得られる生成物は良好な色、良好な安定性および低いラクチド含量を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上述したように、本発明に従う方法での第一工程は、ラクチドを重合触媒と一緒にすることである。
【0019】
本発明において出発物質として使用されるラクチドは、L−ラクチド(2分子のL−乳酸から誘導される)、D−ラクチド(2分子のD−乳酸から誘導される)、メソラクチド(1分子のL−乳酸と1分子のD−乳酸から誘導される)、または上記の2以上の混合物であり得る。約126℃の融点を有する、L−ラクチドとD−ラクチドとの50/50混合物は、文献ではしばしば、D,L-ラクチドと言う。本発明に従う方法は、高い融点を有するラクチドが使用されるときに特に魅力的である。したがって、本発明の1実施態様では、出発物質として使用されるラクチドが、50%までの他のラクチドを有するL−ラクチドである。例えば、出発物質として使用されるラクチドが、50〜10%のD−ラクチドを含有するL−ラクチドであり得る。他の実施態様では、ラクチドが実質的に純粋なL−ラクチドであり、ここで実質的に純粋とは、それが10重量%までの、例えば5重量%までのまたは2重量%までの、他のラクチドを含み得ることを意味する。更なる実施態様では、ラクチドが実質的に純粋なD−ラクチドであり、ここで実質的に純粋とは、それが10重量%までの、例えば5重量%までのまたは2重量%までの、他のラクチドを含み得ることを意味する。
【0020】
本発明における使用に適する触媒は、ラクチド重合のための技術において公知のものである。1実施態様では、本発明で使用される触媒が下記式の触媒である。
(M)(X1、X2 . . . Xm)n
ここで、Mは元素周期律表の2、4、8、9、10、12、13、14および15族の金属から選択され、(X1、X2 . . . Xm)は、互いに独立して、アルキル、アリール、オキシド、カルボキシレート、ハライド、アルコキシドおよびアルキルエステルの群から選択され、mは1〜6の範囲の整数であり、nは0〜6の範囲の整数であり、mおよびnの値は、金属イオンの酸化状態に依存する。
【0021】
2族の中では、Mgの使用が好ましい。4族の中では、TiおよびZrの使用が好ましい。8族の中では、Feの使用が好ましい。12族の中では、Znの使用が好ましい。13族の中では、Al、Ga、InおよびTlの使用が挙げられ得る。14族の中では、SnおよびPbの使用が好ましい。15族の中では、SbおよびBiの使用が好ましい。一般に、4、14および15族の金属の使用が好ましい。MがSn、Pb、Sb、BiおよびTiから選択されるのが好ましい。Snに基づく触媒が特に好ましい。
【0022】
ハライドのために、スズハライド、例えばSnCl、SnBr、SnClおよびSnBr、が挙げられ得る。オキシドのために、SnOおよびPbOが挙げられ得る。アルキルカルボキシレートの群の中では、オクトエート(=2−エチルヘキサノエート)、ステアレートおよびアセテートが挙げられ得、例えば、Sn−オクトエート(Sn(II)ビス2−エチルヘキサノエートとしても知られる)、Sn−ステアレート、ジブチルスズジアセテート、ブチルスズトリス(2−エチルヘキサノエート)、Sb(2−エチルヘキサノエート)、Bi(2−エチルヘキサノエート)、Sbトリアセテート、Na(2−エチルヘキサノエート)、Caステアレート、MgステアレートおよびZnステアレートの形態であり得る。他の適する化合物は、テトラフェニルスズ、Sbトリス(エチレングリコキシド)、アルミニウムアルコキシドおよび亜鉛アルコキシドを包含する。
【0023】
1実施態様では、上記式におけるMが、その最も低い酸化状態にある金属イオンである。ここで、上記金属イオンは、より高い酸化状態をも有する。この群の中における好ましい金属イオンは、Sn(II)、Pb(II)、Sb(III)、Bi(III)およびTi(II)を包含する。この特定の型の触媒と過酸化物との組み合わせが、安定性の高いポリラクチド組成物をもたらすと考えられる。この実施態様の中では、Sn(II)触媒の使用が特に好ましくあり得る。この実施態様での適する触媒の更なる明細については、上記で述べたことが参照される。
【0024】
スズオクトエートとしても示されるSn(II)−ビス(2−エチルヘキサノエート)の使用が好ましくあり得る。この物質は市販されており、液体ラクチド中で可溶であるからである。さらに、上記化合物は、FDA承認を得ている。
【0025】
使用される触媒の量は、重合速度および最終生成物の安定性に影響を及ぼす。より多くの触媒が使用されると、重合速度が増加する。他方、従来の方法では、より多くの触媒の存在が、生成物の溶融安定性に悪影響を及ぼすことが知られている。本発明では、過酸化物の後重合添加が安定性の問題をなくし、したがって、当該分野で従来使用されていたよりも高い触媒濃度を使用することが可能である。
【0026】
触媒濃度は一般に、金属重量として計算して少なくとも5pp、特に少なくとも10ppmである。従来よりも多い量が使用される場合には、触媒濃度が少なくとも30ppm、特に少なくとも50ppmである。触媒濃度は一般に、高々1300ppm、特に高々500ppmである。
【0027】
所望ならば、重合工程が、共触媒、即ち重合速度をさらに高める化合物、の存在下で行われ得る。適する共触媒は公知である。例えば、米国特許第6,166,169号が参照される。この文献は、下記式の共触媒を記載している。
(Y)(R1、R2 . . . Rq)p
ここで、Yは周期律表の15または16族から選択される元素であり、(R1、R2 . . . Rq)は、アルキル、アリール、オキシド、ハロゲニド、オキシアルキル、アミノアルキル、チオアルキル、フェノキシド、アミノアリールおよびチオアリールの化合物群の1から選択される置換基であり、qは1〜6の範囲の整数であり、pは0〜6の範囲の整数である。共触媒は一般に、触媒の量と同じオーダーの量で、例えば触媒と共触媒のモル比が50:1〜1:50である量で使用される。米国特許第6,166,169号は、共触媒が好ましくは、リン化合物、特にP(R1、R2、R3)3(ここでR1、R2、R3は互いに独立して、アリールおよびアルキル基から選択される)を包含する。P(Ph)3が特に好ましいことが示されている。適する共触媒の選択は、当業者の範囲内である。
【0028】
しかし、本発明に従う1実施態様では、上記方法が、添加されるリン含有化合物の実質的に不存在下で行われる。なぜならば、上記化合物は、過酸化物の安定化活性を妨げ得ると推測されるからである。用語「添加されるリン含有化合物の実質的に不存在下で」は、リン含有化合物が、ポリマーの重合速度に有意な影響を及ぼすであろう量では系に添加されないことを意味する。
【0029】
本発明の1実施態様では、重合が、添加される共触媒の実質的に不存在下で行われる。この実施態様は、ポリマー系における異なる成分の数を制限することが望ましい場合に魅力的であり得る。用語「添加される共触媒の実質的に不存在下で」は、共触媒が、ポリマーの重合速度に有意な影響を及ぼすであろう量では系に添加されないことを意味する。この実施態様の中では、上述したように、高められた触媒濃度を使用することが好ましくあり得る。
【0030】
混合物は重合条件に付されてポリラクチドを形成する。重合は、バッチ法、半連続法または連続法で行うことができる。重合を連続法で行うことが好ましいと考えられる。重合は好ましくは、不活性条件下で行われる。最終生成物の数平均分子量(Mn)(g/モル)は一般に、少なくとも10000、特に少なくとも30000、より特に少なくとも50000である。分子量の上限は、本発明に従う方法には重要でなく、依存するであろう。一般には500000未満、特に300000未満である。
【0031】
重合は一般に、少なくとも100℃、特に少なくとも160℃の温度で行われる。重合温度は一般に、高々240℃、特に高々220℃である。
【0032】
重合反応は、出発ラクチドに対して計算して少なくとも80%の転化率が得られるまで行われる。特に、重合は、少なくとも87%、特に少なくとも95%の転化率が得られるまで行われ得る。最大の理論的転化率はもちろん100%であるが、熱力学的理由のために、これは得られないであろう。得られる転化率は一般に、高々99%であろう。転化率は、重合後直ちに決定されるべきである。
【0033】
本発明に従う方法における次の工程は、有機過酸化物のポリマーへの添加である。これは一般に、ポリラクチドが溶融状態にあるところの温度で行われるであろう。特に、これは、上記重合温度のために与えられた範囲内の温度で行われるであろう。
【0034】
過酸化物の添加は、重合反応が完了したとき、すなわち、最終転化率が得られたときに開始され得る。
【0035】
しかし、高分子量ポリマーの製造の場合には、重合が実質的な程度に完了した後、例えば転化が50%より上、特に60%より上、より特に70%より上であるが、最終の転化率が得られる前、に過酸化物を組成物に添加することが魅力的であり得る。所望ならば、過酸化物が、異なる転化度のときに2回以上に分けて添加され得る。1実施態様では、過酸化物が、少なくとも2回に分けて添加され、ここで、過酸化物の一部は転化が50%より上であるが最終転化率が達成される前に添加され、他の部分は最終の転化率が達成された後に添加される。また、この実施態様では、過酸化物が、異なる転化度のときに2回以上に分けて添加され得る。
【0036】
適する過酸化物は、上述した温度でポリマーと一緒にされるときに過酸化物の少なくとも一部が分解するような半減期を示すものである。考慮すべきことは、過酸化物が溶融物に添加されるとき、過酸化物の安定性が、過酸化物が溶融物中に均一化される前に過酸化物が許容され得ない程度に分解しないようなものであるべきであるということである。これは、非常に粘性な物質を製造するときに特に重要であり得る。1実施態様では、過酸化物が、150〜220℃の温度で1〜60秒間に過酸化物の少なくとも80%が分解するところのものであるべきである。特に、150〜220℃の温度で10〜30秒間に過酸化物の少なくとも90%が分解する。
【0037】
一般に、上記要件を満たすならば、下記群の有機過酸化物が使用され得る。すなわち、式R−O−O−R’のジアルキルパーオキシド、式R−O−O−Hのヒドロパーオキシド、式R−(CO)−O−O−R’のパーオキシエステル、式R−(CO)−O−O−(CO)−R’のジアシルパーオキシド、式R−O−(CO)−O−O−R’のパーオキシカーボネート、式R−O−(CO)−O−O−(CO)−O−R’のパーオキシジカーボネート、および式C(O−O−R)2R’R”のパーオキシケタールである。上記の全てにおいて、R、R’およびR”は、1〜20の炭素原子を有する有機アルキルまたはアリール基であり、それらは、直鎖状または分岐状であり、置換または非置換であり、飽和または不飽和であり、ヘテロ原子を有していてもいなくてもよい。適する過酸化物は公知であり、上記に示した指針によって、適する物質を選択することは当業者の範囲内である。
【0038】
適する過酸化物は、ベンゾイルパーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−ジエチルアセテート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−イソブチレート、t−ブチルパーオキシ−アセテート、t−ブチルパーオキシ−ベンゾエートおよびジベンゾイルパーオキシドを包含する。
【0039】
過酸化物は一般に、少なくとも0.01重量%、特に少なくとも0.05重量%の量で添加される。添加される過酸化物の量は一般に、高々3重量%、特に高々2重量%である。
【0040】
どの理論にも縛られることを望まないが、ポリラクチドを全体的にまたは部分的に安定化するための過酸化物の効果を説明し得る理論の1つは、触媒に関する不活性化活性であると考えられる。
【0041】
本発明のいくつかの実施態様では、触媒中の金属が、(解)重合触媒としてもはや活性でないまたは活性がより小さいところのより高い酸化状態へ転化することによって、触媒が全体的にまたは部分的に不活性化されると考えられる。
【0042】
過酸化物は、重合された生成物中に慣用のやり方で混合される。
【0043】
過酸化物の添加の後、液体ポリラクチドが、揮発性物質除去工程に付される。揮発性物質除去工程は、揮発性物質、特に未反応モノマー、を除去するために行われる。揮発性物質除去工程から得られる生成物には、ラクチドモノマーが一般に、2重量%未満の量で、特に1重量%未満、より特に0.5重量%未満の量で存在する。揮発性物質除去プロセスは、ポリラクチド製造の技術において周知であり、更なる説明を要しない。
【0044】
揮発性物質除去工程の後、ポリラクチドが固化される。それは、従来公知のやり方で粒子に転化され得る。
【実施例】
【0045】
次に、本発明を下記実施例によって説明するが、本発明は、それらにまたはそれらによって限定されない。
【0046】
実施例1
BEP280磁気結合(magnet coupling)、アンカースターラー(anchor stirrer)、温度計および加熱用外部油浴を備えた1リットルのBuchi Laboratoryオートクレーブ中で、Puralact L(PURAC製)(ポリマーグレードのL−ラクチド((3S−シス)−3,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン)を溶融重合することによりポリ(L−ラクチド)を製造した。最初に、ジャケット付ステンレス鋼反応器を、油温が160℃になるまで加熱した。次に、反応器を窒素でフラッシュし、495g(3.44モル)の固体L−ラクチドを入れた。反応器を閉じる前に、窒素で再度フラッシュした。反応器を閉じた後、油温を上げ、ラクチドを攪拌下で溶融した。溶融物の温度が130℃に達したとき、800ppmのヘキサノール開始剤(Acros製)および200ppmのスズオクトエート重合触媒(SnOct、Sigma Aldrichから受け取ったまま使用した)を添加した。再び反応器を窒素でパージし、溶融物の温度を180℃に上げた。開始剤および触媒が添加されたときから重合反応が開始した。それは、溶融粘度の増加によって観察することができた。90分後、ラクチド転化は96%であり、溶融されたポリマーが反応器から排出され、氷で冷却され、そして小片に切断され、小片は、Retch Ultra Centrifugal MillおよびSieve Shakerによって<200ミクロンの細粒に挽かれた。粒子は、それらを130℃で96時間保持することにより、平衡ラクチド濃度にされた。PS較正を用いるPLLAホモポリマーのGPC分析(溶離液:クロロホルム)および光散乱検出は、114kg/モルの重量平均分子量Mwを示した。
【0047】
こうして得られたPLLAは、溶融安定ではなく、加熱時に熱触媒解重合を被る。
【0048】
上記で得られたPLLAは、溶融安定性を改善するために、市販の液体ヒドロパーオキシドで処理された。20gのPLLA粒子およびメタノール5g中のヒドロパーオキシド0.4gの溶液を丸底フラスコに入れた。フラスコをBuchi RotaVap R-200に連結し、70℃の温度の油浴中に下ろした。連続回転下で、ヒドロパーオキシドがPLLA細粒上に均一にコーティングされ、メタノールが同時に70℃の温度で蒸発した。
【0049】
パーオキシドでコーティングされたPLLAの溶融粘度が、プレート−プレートジオメトリー(D=25mm、ギャップ幅1mm)を有するAnton-Paar Physica MCR 301レオメーターによって決定された。レオメーターのプレートおよびフードが190℃に加熱された。設定温度に達した後、サンプルがプレート間で15分間加熱された。余分な物質がプレートから除去され、上記物質の複素粘度(complex viscosity)が、190℃で10s−1の角周波数および10%歪みで650Pa.sであることが分かった。
【0050】
比較例1
20gのPLLA粒子および5gのメタノールが丸底フラスコに入れられた。実施例1の蒸発手順が繰り返されたが、過酸化物は存在しなかった。
【0051】
190℃で溶融後の熱可塑性物質のAnton-Paarプレート−プレートレオメーターでの複素粘度は115Pa.sであった。この結果は、実施例1に記載されたヒドロパーオキシドの存在が、レオメーターでの上記物質の溶融中の分解を効果的に消したことを示す。
【0052】
比較例2
ラクチドが実施例1に記載されたものと同一の重合条件に付されたが、0.10重量%のヒドロパーオキシドが重合開始時に重合触媒と一緒に添加された。90分後の転化率は96%の代わりに88%であり、Mwはほんの64kg/モルであることが分かった。
【0053】
実施例2
連続パイロットスケールの重合反応器中でL−ラクチド(Puralact L、Purac製)を溶融重合することにより、PLLAを製造した。反応器は、静的ミキサーの配列から成り、25kg/時の溶融ラクチド、200ppmのSnOct触媒および分子量制御のためのヘキサノールを連続的に供給された。反応器は、160〜200℃の温度範囲で操作された。1つの実験では、ヒドロパーオキシドが、最終の重合度に達したときに溶融ポリマーに添加された。
【0054】
全ての製造されたPLLAサンプルは、パーオキシドを含むものも含まないものも、反応器から排出した後に約7%の残留ラクチドを含んでおり、典型的には、GPCvsPS較正標準により決定される100kg/モルのMnを示した。
【0055】
溶融安定性が、Anton-Paarプレート−プレートレオメーターを使用するレオロジーによってここでも評価された。表1は、11s−1の角周波数および180または190℃の温度での複素粘度データを示す。第3欄は、溶融直後に決定されたPLLAの溶融粘度の絶対値を示す。続く欄は、5分間隔で行われた連続測定での粘度の低下を示し、毎回、その前の測定で得られた値と比較された。重合反応器の最終部分においてヒドロパーオキシドで処理されたPLLAサンプルは、より高い複素粘度およびレオメーターでの熱処理後の解重合による有意により少ない分解を示した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1から分かるように、パーオキシドの添加は、時間の経過による粘度の低下を有意に減少させる。パーオキシドを含有するサンプルの結果は、はるかに顕著である。なぜならば、より高い初期粘度を有するこれらのサンプルは、より低い初期粘度を有するサンプルよりも粘度のより高い減少を示すであろうと予期されたであろうからである。
【0058】
これらの実施例は、反応器グレードのポリラクチドの溶融安定性が、ラクチド重合の直後かつ揮発性物質除去の前に溶融物質をヒドロパーオキシドで処理すると非常に改善されることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクチドを重合触媒と一緒にする工程、得られた混合物を重合条件に付して液体状態のポリラクチドを形成する工程、有機過酸化物を添加する工程、上記液体のポリラクチドを揮発性物質除去工程に付す工程、および上記ポリラクチドを固化させる工程を含むポリラクチドの製造法。
【請求項2】
前記触媒が、下記式
(M)(X1、X2 . . . Xm)n (I)
[ここで、Mは元素周期律表の2、4、8、9、10、12、13、14および15族の金属から選択され、(X1、X2 . . . Xm)は、互いに独立して、アルキル、アリール、オキシド、カルボキシレート、ハライド、アルコキシドおよびアルキルエステルの群から選択され、mは1〜6の範囲の整数であり、nは0〜6の範囲の整数であり、mおよびnの値は上記金属イオンの酸化状態に依存する。]の触媒である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
Mがその最も低い酸化状態の金属イオンである、ここで上記金属イオンはより高い酸化状態をも有する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
Mが、Sn(II)、Pb(II)、Sb(III)、Bi(III)およびTi(II)から選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記触媒が、金属として計算して、少なくとも5ppmかつ高々1300ppmの量で使用される、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
添加されるリン含有化合物の実質的に不存在下で行われる、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記重合が、添加される共触媒の実質的に不存在下で行われる、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記過酸化物が、150〜220℃の温度で1〜60秒間に該過酸化物の少なくとも80%が分解するところのものである、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2011−516636(P2011−516636A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501246(P2011−501246)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/053730
【国際公開番号】WO2009/121830
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(306003419)ピュラック バイオケム ビー.ブイ. (40)
【Fターム(参考)】