説明

安定な抗嘔吐経口噴霧製剤および方法

経口粘膜による吸収に対する経口噴霧投与用の選択性5−ヒドロキシトリプタミン受容体拮抗薬の安定な製剤と、その関連する製造および投薬方法とを提供する。好ましい実施態様は、約5.1〜約5.2%w/w濃度のオンダンセトロンと、約60.1〜約60.3%w/wの濃度のプロピレングリコールと、約5.3〜約5.4%w/wの濃度の水と、約27.1〜約27.3%w/wの濃度のエタノールとを含む。他の好ましい実施態様は、防腐剤なし、および/または非水溶性もしくは主として非水溶性である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、2006年12月22日に出願された米国暫定特許出願番号60/876484の優先権を主張し、その開示をすべてここに参照して援用する。
【0002】
本発明は、抗嘔吐経口噴霧医薬品製剤と、かかる製剤の製造方法と、ヒトおよび非ヒト哺乳類における吐き気および他の症状の治療および予防への使用に関するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の好ましい実施態様は、経口投与に適した塩酸オンダンセトロンおよびその薬学的に許容し得る塩の安定な製剤と、塩酸オンダンセトロン製剤の製造および投与方法とを提供する。本発明は、口腔粘膜を介した全身性の循環器系への吸収による有効成分の速やかな発現に関する簡単簡潔な形式の安定な経口噴霧製剤を提供する。一実施態様において、塩酸オンダンセトロンを約0.1〜7%w/w、好ましくは1〜6%w/w、最も好ましくは5%w/wの濃度で非水溶性若しくは主として非水溶性の経口で推進剤のない噴霧製剤に処方する。主として非水溶性の塩酸オンダンセトロン製剤は、例えば、(1)塩酸オンダンセトロン(例えば、0.1〜7%w/w)、アセサルフェームカリウム塩(例えば、0〜0.5%w/w)、プロピレングリコール(例えば、30〜70%w/w)、グリチルリチン酸(例えば、0〜15%w/w)、苦味マスク(例えば、0〜10%w/w)、ハッカ油(例えば、0〜1%w/w)、無水エタノール(例えば、15〜50%w/w)および精製水(例えば、0〜10%w/w);若しくは(2)塩酸オンダンセトロン、アセサルフェームカリウム塩、ネオターム(例えば、0〜1%w/w)、プロピレングリコール、グリチルリチン酸、苦味マスク、ハッカ油、無水エタノールおよび精製水;または(3)塩酸オンダンセトロン、スクラロース(例えば、0〜2%w/w)、プロピレングリコール、グリチルリチン酸、苦味マスク、ハッカ油、イチゴ香味料(例えば、0〜1%w/w)、精製水および無水エタノールを備えるのが好ましい。
【0004】
一実施態様において、オンダンセトロン経口噴霧製剤は、プロピレングリコール、エタノールおよび水を含有する。この実施態様において、塩酸オンダンセトロンは約4〜6%、好ましくは4.5〜5.5%、最も好ましくは5.1〜5.2%w/wで存在し、プロピレングリコールは約55〜65%、好ましくは57〜62%、最も好ましくは60.1〜60.3%w/wで存在し、エタノールは約25〜30%、好ましくは26〜29%、最も好ましくは27.1〜27.3%w/wで存在し、水は約4〜6%、好ましくは4.5〜5.8%、最も好ましくは5.3〜5.4%w/wで存在する。
【0005】
本発明の他の実施態様において、薬学的に有効な量の塩酸オンダンセトロンは、製剤の口腔粘膜表面への投与に適した噴霧器の作動により該製剤の約10〜500μlの単位投与容量を噴霧して哺乳類の全身性の循環器系へ送達され、この場合噴霧が、約30μm〜150μmの平均粒径および約2.0未満の楕円率を有するのが好ましい。本発明のさらに他の実施態様において、無糖の塩酸オンダンセトロン噴霧製剤を提供する。本発明のさらなる実施態様は、防腐剤のない、非水溶性または主として非水溶性の塩酸オンダンセトロン製剤およびその製造方法を提供する。
【0006】
本発明のさらなる特徴および利点は、以下に続く説明において記述し、また、その説明から明らかであるか、または本発明を実施することにより理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】2つの安定性試験条件(40℃/75%RHおよび25℃/60%RH)下での本発明の好ましい製剤における時間に対する不純物Dの濃度変化を示す。
【図2】不純物C(5.569)および不純物D(6.886)のピークを描く306nmでのオンダンセトロン(18.526)および不純物A(15.985)の分離溶液のHPLCクロマトグラムである。
【図3】不純物Aのピークを描く328nmでのオンダンセトロンおよび不純物CおよびDの分離溶液のHPLCクロマトグラムである。
【図4】306nmでのオンダンセトロンの分析用Sunett(登録商標)製剤Cのサンプル溶液のHPLCクロマトグラムである。
【図5】328nmでのオンダンセトロンの分析用Sunett(登録商標)製剤Cのサンプル溶液のHPLCクロマトグラムである。
【図6】種々の投与容量での口腔内における典型的な製剤の滞留時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本発明の現在好ましい実施態様の詳細について説明し、これは、以下の実施例を一緒に、本発明の趣旨を説明するものとする。本発明の教示の特定の問題および環境への適用は、当業者は理解することができる。本発明の製品の具体的な実施態様と、これらの製造および使用プロセスを、以下の実施例において示す。
【0009】
本発明の好ましい実施態様は、治療に有効な量の塩酸オンダンセトロンを有する主として非水溶性溶液である安定な防腐剤のない医薬組成物を提供する。一実施態様において、好ましい組成物は防腐剤を使用することがないが、代わりにアルコール、好ましくは少なくとも約20%w/wエタノールを製剤に含めることによって微生物成長の抑制を達成する。
【0010】
オンダンセトロンは、遊離塩基または塩酸塩として、高用量シスプラチンを含む初期および繰り返し行う催吐性の癌の化学療法に付随した吐き気及び嘔吐を防ぎ、また術後の吐き気および/または嘔吐を防ぐことが示された。
【0011】
オンダンセトロンは、嘔吐反射を開始する5−HT受容体のセロトニン刺激を阻害する選択性5−HT受容体拮抗薬である。
【0012】
オンダンセトロンは、塩酸塩として、また遊離塩基として本発明に係る製剤で供給し用いることができる。塩酸塩は、例えば、注射液(2mg/mL)、経口錠剤(4,8および24mg)および経口液(0.8mg/mL)で使用される。遊離塩基は、例えば、経口崩壊錠剤(4および8mg)で使用される。塩酸塩は、化学的には(±)1,2,3,9−テトラヒドロ−9−メチル−3−[(2−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)メチル]−4H−カルバゾール−4−オン,一塩酸塩、二水和物として表わされる。塩酸塩の実験式は、C1819O・HCl・2HOであり、分子量365.9である。遊離塩基は、(±)1,2,3,9−テトラヒドロ−9−メチル−3−[(2−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)メチル]−4H−カルバゾール−4−オンとして表わされる。遊離塩基の実験式は、C1819Oであり、分子量293.4である。遊離塩基も塩酸塩も共に白色からオフホワイト色の粉末で、感光性である。ここで用いる用語「オンダンセトロン」は、特記しない限り、遊離塩基およびすべての薬学的に許容し得る塩の両方を表す。
【0013】
本発明に係る製剤はまた、例えば他のセロトニン拮抗薬(例えば、ドラセトロン(登録商標Anzemet)、グラニセトロン(登録商標Kytril)およびパロノセトロン(登録商標Aloxi))、ドーパミン拮抗薬(例えば、クロルプロマジン(登録商標Thorazine)、ドロペリドール(登録商標Inapsine)、メトクロプラミド(登録商標Reglan)、プロクロルペラジン(登録商標Compazine)、プロメタジン(登録商標Phenergan)、トリメトベンズアミド(登録商標Tigan)、スコポラミン(登録商標Transderm Scop)のような抗コリン剤、および抗ヒスタミン剤(例えば、バクリジン(登録商標Bucladin−S)、シクリジン(登録商標Marezine)、ジメンヒドリナート(登録商標Benadryl)およびメクリジン(登録商標Antivert))と、その塩を含むような追加の活性薬学成分を含有することができる。併用療法に適した他の薬品には、ドロペリドール、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン(登録商標Medrol)およびメトクロプラミドと、その塩がある。
【0014】
安定性の解析下、本発明の貯蔵安定な組成物は、塩酸オンダンセトロンの初期濃度の顕著な維持と、不純物レベルの縮小を示す。例えば、本発明の好ましい製剤は、25℃、60%RHで15ヶ月にわたりオンダンセトロン含有量を3.9mg/噴霧器作動〜4.2mg/噴霧器作動の濃度で維持する一方、平均的な不純物濃度は15ヶ月間0.1%未満であった。
【0015】
ここで用いる「貯蔵安定な」とは、オンダンセトロンを有効成分として含む液体薬学製剤を意味し、ここで有効成分の濃度が貯蔵安定性試験の間実質的に維持され、またかかる製剤の貯蔵安定性試験で通常観察される分解生成物および/または不純物が貯蔵安定性試験中見られないか、または著しく低減されている。一実施態様において、貯蔵安定性を約5℃〜約80℃、約20℃〜約70℃、または約25℃〜約60℃の温度範囲で求める。他の実施態様において、貯蔵安定性を約30%RH〜約90%RH、約50%RH〜約65%RH、または約65%RH〜約75%RHの相対湿度(RH)範囲で求める。貯蔵安定性の測定に好ましい時間隔は、例えば約1週間〜5年間、約2週間〜約4ヶ月の範囲であるか、または2週間、4週間、8週間、12週間、16週間、7ヶ月および12ヶ月の間隔である。
【0016】
ここで用いる用語「主として非水溶性」は、オンダンセトロンを含み、水のないまたは水が実質的にない噴霧製剤を表す。主として非水溶性の製剤は、水性溶媒を最小量含むことができる。例えば、本発明の好ましい主として非水溶性製剤において、水がアセサルフェ−ムカリウム塩を溶解するのに必要な程度だけ存在する。アセサルフェームカリウム塩を含まないもののような他の好ましい製剤、例えばスクラロース含有製剤は、完全に水がない、すなわち非水溶性とすることができる。
【0017】
本発明の好ましい製剤は、エタノールおよび/またはプロピレングリコールを含む。理論に制限されることなく、プロピレングリコールおよびエタノールの包含が製剤中の微生物成長を阻止し、製剤の安定性を増加させる。ベンジルアルコール、パラベン類(例えば、ブチルパラベン、メチルパラベン)、グリセロール、プロピレングリコール、クロロブタノール、フェノール、フェノキシエタノールおよびフェニルエチルアルコールのような他のアルコールを、この間的のためにエタノールの代わりに適切な濃度で用いることができる。したがって、本発明の一実施態様によると、病原性のかび、酵母菌もしくは細菌の増殖なしに安全な貯蔵を確実にする抗菌性成分または抗菌剤を含める必要がない。本発明の好ましい製剤は、高濃度の活性成分(例えばオンダンセトロン)を含むことができる主として非水溶性のものである。本発明の好ましい製剤の非水溶性質がその自己貯蔵性に寄与すると考えられる。
【0018】
本発明の他の実施態様において、食物および他の摂取可能な物質に用いるのに適した様々な抗菌剤を本発明において用いることができる。例示すると、パラベン類(ブチルパラベン、メチルパラベンおよびプロピルパラベン)、プロピル−p−ヒドロキシベンゾエート、安息香酸ナトリウムおよびソルビン酸と、その塩がある。好ましい抗菌剤は、安息香酸またはその塩、例えば安息香酸ナトリウムである。
【0019】
本発明の好ましい実施態様は、口腔粘膜を介した全身性の循環器系への吸収による有効成分の速やかな発現に関する口腔噴霧製剤にある。したがって、本発明の好ましい噴霧製剤は、全身性の循環器系への吸収を最大にし、他の体組織(例えば、肺、消化系)による吸収を最小または回避する。噴霧粒子の大きさは、該粒子が口腔粘膜/循環器系(例えば、肺)以外の体組織に吸収されるかどうかに寄与する。例えば、より小さいサイズの粒子は吸入しやすい。ここで“口腔”は、口および口腔を意味するか、または限定することはないが、舌、頬、歯茎の口腔粘膜面および/または舌下腺表面も意味する。
【0020】
一実施態様において、噴霧製剤(例えば噴霧器の作動後)の直径10ミクロン未満の粒子(液滴)の割合は、約2%未満、より好ましくは約1.5%未満である。他の実施態様において、噴霧粒子の平均直径は、約30ミクロン〜約150ミクロン、より好ましくは約60ミクロン〜約120ミクロン(例えば、表1)である。
【0021】
噴霧パターンの楕円率は、噴霧が対称であるかどうかを示す。楕円率は、DmaxおよびDminの比として定義される。Dmaxは、噴霧パターン内に描き得る基本単位におけるCOMw(すなわち、噴霧パターンの質量中心)を通るmm単位の最長弦として定義される。Dminは、噴霧パターン内に描き得る基本単位におけるCOMwを通るmm単位の最短弦として定義される。COMwは、検出した噴霧パターンの質量中心として定義され、各ピクセル強度を考慮する。噴霧パターンの楕円率は、噴霧が対称であるかどうかを示す。噴霧粒子のパターンの楕円形がより対称であればあるほど、粒子が口腔粘膜をより均一に覆うと考えられる。本発明の好ましい実施態様によれば、パターンの楕円率が約2.0未満、より好ましくは約1.5未満である(表1)。他の実施態様においては、製剤の粘度が増すと、噴霧パターンの楕円率が減少する。
【0022】
【表1】

【0023】
本発明の製剤を製造するに際し、有効な塩酸オンダンセトロン成分を水溶液に入れることができる。エタノールおよび/またはプロピレングリコールを本発明の製剤に溶媒として用いるのが好ましい。一実施態様において、水は随意的で、例えば最少量で含ませて味覚マスク成分(例えば、FCCのアセサルフェームカリウム塩)用の溶媒として役立たせることができる。しかし、好ましい噴霧製剤の塩酸オンダンセトロンおよび/または他の成分を溶解するのに役立つ他の溶媒を用いることができる。これらには、例えば、脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、グリセリン、グリコフロールおよびポリエチレングリコールがある。
【0024】
当該製剤は、エアゾール噴霧としての送達用推進剤を含有し得るか、または推進剤がなく、定量弁付き噴霧ポンプによって送達され得る。適当な推進剤には、限定することはないが、炭化水素(ブタン、プロパン等)、クロロフルオロカーボン(CFC−11,CFC−12等)、ハイドロフルオロカーボン(HFA−134a,HFA−227ea等)およびエーテル(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等)がある。
【0025】
本発明の一実施態様においては、甘味料、味覚マスク剤または香料を含まな塩酸オンダンセトロン製剤を提供する。しかし、登録商標Splenda(スクラロース)、ソルビトール、スクロース、ネオターム、苦味マスク、ハッカ油、いちご味、グリシルリジン酸もしくは登録商標Sunett(アセサルファメートK)のような甘味料、味覚マスク剤または香料を所望に応じて添加することができる。
【0026】
様々な香味料または香料を含めて心地よい味を付与することができる。心地よい味は、製剤を子供または動物への投与を意図する際に特に重要である。製薬、食物、飴および飲料に通常用いる多くの香味料も、本発明での使用に適している。一例として、果物、ハッカ、甘草、バブルガムおよび他の香味料がある。
【0027】
本発明の製剤は、様々な方法で製造することができる。製剤Aの製造方法の一実施態様は、以下の通りである。好ましくは、登録商標Sunett(例えばFCCのアセサルフェ−ムカリウム塩)をアメリカ薬局方(USP)の精製水に溶解する。次いで、この「Sunett溶液」は、製造過程の後半において加える。次に、USPの塩酸オンダンセトロンをUSPのプロピレングリコールに溶解する。該オンダンセトロンは、他のあらゆる賦形剤を加える前に、USPのプロピレングリコールに完全に溶解されるのが好ましい。溶解後、下記の成分:登録商標Magnasweet(FCCのグリシルリジン酸)、苦味マスク、水、Sunett溶液、NFのハッカ油およびUSPの無水エタノールをこの順序で、一定の攪拌下かつ各添加間で十分混合しながら添加するのが好ましい。好ましくは、USPの無水エタノールを、最後にかつそれまでの成分の完全溶解、混合後に加える。最終溶液をよく混合するのが好ましい。
【0028】
製剤A:
成分 mg/g
1 Sunett(FCCのアセサルフェームカリウム塩) 2.6
2 USPの精製水 48.6
3 USPの塩酸オンダンセトロン 51.2
4 USPのプロピレングリコール 562.9
5 FCCのMagnasweet(グリシルリジン酸) 51.2
6 苦味マスク 25.6
7 NFのハッカ油 5.1
8 USPの無水エタノール 252.8
【0029】
その後、前記溶液を任意適当な容器に詰めることができる。好ましい容器は、容量1〜100mLの薬学的に許容し得るガラス、PETおよびHDPEボトルである。長期間の光安定性を確実にするため、琥珀ガラスを用いることができる。加えて、PETまたはHDPEを選択したら、ボトルは、長期間の光安定性を確実にするため不透明とすることができる。
【0030】
製剤は、10〜500mcLを送達可能な定量ポンプ装置を用いて投薬するのが好ましい。鼻内噴霧剤を投薬するのに通常用いるポンプが、当該製剤の使用に適している。一実施態様において、噴霧剤をボトルに対して水平に投薬するようにポンプおよび作動装置を変更することができる。これは、患者の口への投薬を容易にすることができる。作動装置は、所望に応じて、ヒトまたは動物の頬領域への送達を容易にするための延長部を備えることができる。
【0031】
本発明はまた、被験体の様々な状態の治療方法(例えば、吐き気および嘔吐、化学療法誘起の嘔吐、および手術後の吐き気および嘔吐の予防)を提供する。該方法は、本発明に係る貯蔵安定な医薬組成物を治療の必要な被検体へ投与することを備える。一実施態様において、被検体はヒトであり、他の実施態様において、被検体は非ヒト哺乳類であり、好ましくはイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジおよびブタからなる群から選択される。貯蔵安定な医薬組成物は、例えば、1日当たり0.1mg〜約260mg、好ましくは1日当たり1mg〜約64mg、より好ましくは1日当たり2〜48mgの投薬量で患者に投与することができる。
【0032】
本発明の教示を特定の問題または環境に適用することは、本明細書に含まれる教示に徴して当業者の能力内にあることが分かる。本発明を、以下の非限定的な実施例によってより詳細に説明する。
【実施例1】
【0033】
物理的安定性の研究を、5%API(例えば、塩酸オンダンセトロン)を含有する60/40のPG/HOおよびPG/EtOH溶液を5℃の冷蔵庫に置くことによって行った。PG/HO溶媒系を有する溶液は2日後に結晶化した。PG/EtOH溶媒系を有する溶液は、30日以上溶液のままであった。
【0034】
製剤BおよびC(表2および表3)に対する安定性の研究を、各製剤用の250mLのバッチを対応する偽薬と一緒に製造することによって行った。20%Sunett(w/v)水溶液を、より急速に混合できるように製造し、用いた。製剤中の全水分量を5%に制限するため、水の添加量をSunett溶液の添加量に従って減らした。
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
製剤Bは、高濃度の甘味料の濃度により製剤Cよりも好ましく、より良好な味覚プロファイルになる。表4および表5は、それぞれ製剤Bおよび製剤Cの安定性データを提供する。
【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
オンダンセトロン濃度をその噴霧量に基づいて正規化した。かかる正規化した値は、製剤の安定性のより正確な表示を示すことができる。一作動当たりのオンダンセトロン濃度および標示量(label claim)は、より広いデータ範囲のばらつきに寄与し得る一貫性のない噴霧量の変動性を内蔵する(例えば、表4、製剤Bの40℃/75%RHで12週間を参照)。オンダンセトロン濃度/作動は3.57mgで、標示量の89.2%であるが、濃度/100μl(理論噴霧容量)は3.95mgで、標示量の98.8%であることがわかる(図1)。
【0041】
不純物Dの形成に対する濃度と時間のプロットは、ゼロ次反応を示す。これは、化学劣化プロファイルで通常観察されるものではない。代表的なプロファイルは、一次速度論を示す。しかし、ウォターマンおよびアダムは、ある環境下での親分子の劣化、従って劣化生成物のその後の出現がゼロ次速度論を示すこと明らかであることを示した。ウォターマンおよびアダム著、“加速老化:製薬の化学安定性の予測”,Int J Pharm 23 (1-2):101-125(2005)。このデータは、現在の製剤が安定である、すなわち不純物Dが25℃/60%RHで243週間0.1以下で存在することを示す。これは、不純物Dの出現に基づいた2年間の貯蔵寿命に必要な104週間を超える。
【実施例2】
【0042】
循環研究を行った。一連の製剤Bおよび製剤C(それぞれ表4および5)のバルクサンプルおよびそれらの偽薬を透明なシンチレーションバイアルに貯蔵し、アルミホイルに包んで光から保護し、5℃冷蔵庫と40℃/75%RHの安定チャンバー間で毎日循環させた。29日後、小さい白色粒子が3個の製剤Bサンプルの1個で観察され、少量の白色沈殿物が偽薬を含む製剤Cサンプルの全てで観察された。この観察を16時間冷蔵直後に行った。40℃/75%RH安定チャンバーで8時間加温後、沈殿物はまだ存在した。偽薬における沈殿物の存在は、APIよりむしろ賦形剤に関連することを示唆する。
【0043】
沈殿の原因をさらに調査するため、6個の製剤を製造し、5℃の冷蔵庫と40℃/75%RH間で毎日循環させた。製剤は以下の通りである。
【0044】
【表6】

【0045】
上表の製剤5および6は、冷蔵庫で一晩おいた後沈殿した。製剤3は、2日後に沈殿した。製剤1、2および4は、毎日の循環の35日間溶液のままであった。残留溶液は、全てMagnasweetを含んでいた。Magnasweet成分、おそらくグリセロール賦形剤が溶液系を維持するのに多分関与することがわかる。
【0046】
沈殿を防ぐ他の試みは、0.9%ベンジルアルコールの添加である。5%水を有する製剤Bのベンジルアルコールの有無の比較研究を、両製剤の3通りのサンプルを製造し、毎日循環させることにより行った。全てのサンプルは、40日で沈殿がなくなり、その後サンプルを5℃の冷蔵庫に入れた。これらは、6ヶ月間以上溶液のままであった。
【実施例3】
【0047】
低減した沈殿を有する製剤をさらに調査するため、2個の代替の系を調査した(表7および8)。ネオターム/Sunett代替製剤は、上述のSunett製剤BおよびCとほぼ同じ量の水を含む。しかし、Sunettの量を低減する。Splenda代替製剤は、あらゆる添加水を含まない。この両製剤をあらゆる沈殿なしに相当期間貯蔵した。物理的観察と化学的分析を、ネオターム/SunettおよびSplenda製剤に対して11ヶ月および15ヶ月後にそれぞれ行った(表9および10)。11ヶ月および15ヶ月の冷蔵後、どちらの製剤も沈殿を示さなかった。したがって、Sunettは、生成物の物理的安定性にある効果を有する。加えて、Splenda製剤におけるように、Sunettおよび水を完全に除去すると、同様の許容し得る物理的安定性になる。これら例示の製剤は、室温で2年間貯蔵後適度に安定となる。
【0048】
【表7】

【0049】
【表8】

【0050】
【表9】

【0051】
【表10】

【実施例4】
【0052】
HPLC分析は、以下に示すように、5個の不純物およびオンダンセトロンに対する相対保持時間および相対応答係数を示した。図2〜5は、それぞれ不純物CおよびDのピークを描く306nmでのオンダンセトロンおよび不純物Aの分離溶液のHPLCクロマトグラム、不純物Aのピークを描く328nmでのオンダンセトロンおよび不純物CおよびDの分離溶液のHPLCクロマトグラム、306nmでのオンダンセトロンの分析用Sunett製剤Cのサンプル溶液のHPLCクロマトグラム、および328nmでのオンダンセトロンの分析用Sunett製剤Cのサンプル溶液のHPLCクロマトグラムである。
【0053】
【表11】

【実施例5】
【0054】
安定性の研究を、サッカリンナトリウムを用いてサッカリンナトリウムおよび苦味マスクの薬液との長時間相溶性を求める製剤に対して行った。
【0055】
例示の製剤は、55%プロピレングリコール(PG)を用いる。サッカリンナトリウムは、可溶化を簡略化するために、2%水溶液として調製した。一次溶媒系における水の割合は、60%/40%のPG/HOまたはPG/エタノール(EtOH)であった。
【0056】
【表12】

【0057】
【表13】

【0058】
【表14】

【0059】
【表15】

【0060】
製剤2および4はエタノール(EtOH)でいっぱいにし、製剤4はさらに2%オレイン酸を含み、製剤3および5はHOいっぱいにし、製剤5はさらに0.1%の塩化ベンザルコニウムを含む。製剤4の調製する間、オレイン酸は、残りの溶液に溶解せず、この製剤は候補から削除した。製剤2,3および5は、3個の異なる貯蔵条件、すなわち5℃冷蔵庫と、25℃/60%RHと、40℃/75%RH安定チャンバーとに置いた。1日後、3個すべての製剤を、冷蔵庫および25℃/60%RH安定チャンバーに置いた。製剤2は、製剤3および5に比べて極めて少量の沈殿を示した(表12)。40℃/75%RH安定チャンバーに貯蔵した3個すべての製剤は、溶液のままであった。しかし、45日後、40℃/75%RH安定チャンバーに貯蔵した製剤2は、相当な沈殿を示さなかった。この製剤は、40℃/75%RH安定チャンバーでの45日間で、97.3%標示量の平均噴霧含有量と、0.02%の不純物Dを有した。
【0061】
冷蔵庫および室温での製剤2,3および5におけるオンダンセトロンの沈殿の原因を調査して、サッカリンの効果を評価した。製剤2を3通りの方法、すなわちAPIなし、サッカリン溶液なし(水に置き換え)、およびAPIとサッカリンなしで調製した。これらサンプルは、冷蔵庫で一晩培養した後も溶液のままであった。次に、該サンプルを引掻き、3日間冷蔵庫と40℃/75%RH安定チャンバーの間で循環させ、その後3ヶ月間冷蔵庫に貯蔵した。溶液は透明なままであった。オンダンセトロンの沈殿が、一つの溶液における塩酸オンダンセトロンおよびサッカリンの共存によって生起されると考えた。元の製剤に基づいた製剤2および3を調製し、サッカリン溶液を水に置き換えた同じ製剤を用いることによって研究を続けた。これら4個の製剤を3通り調製した。一夜冷蔵後、サッカリンナトリウムを含むサンプルにおけるオンダンセトロンが沈殿した。サッカリンナトリウムなしの製剤3の3個のサンプルのうち2個におけるオンダンセトロンも同様に沈殿した。しかし、サッカリンナトリウムなしの製剤2におけるオンダンセトロンは3ヶ月間溶液のまま残存した。
【0062】
【表16】

【0063】
サッカリンなしの製剤3における沈殿の原因を調査するため、5%、10%および15%EtOHを含む3個の追加サンプルを作った。5℃冷蔵庫における培養後、サンプルを分析した。5%EtOHを含むサンプルにおけるオンダンセトロンは1週間以上溶液中に残存し、10%EtOHを含むサンプルにおけるオンダンセトロンは1日で沈殿し、15%EtOHを含むサンプルにおけるオンダンセトロンは、1日以上1週間未満溶液中に残存した。これは、かかる賦形剤の組み合わせを用いるとき、最適なEtOH濃度が均一な溶液を維持するのに好ましいことを示した。製剤5の3個のサンプルが、2%サッカリンナトリウム溶液を水で置換し、17%の水(QS部)をEtOHで置換し、また、各サンプルに0.1%,0.15%および0.2%のサッカリンナトリウムを加えることにより調製した。これら3個の製剤におけるオンダンセトロンも同様に一晩で沈殿した。水が不安定性に寄与していると思われた。製剤2の3個のサンプルをサッカリンなし水なしで作成し、他の3個のサンプルをサッカリンなし5%だけ水を含むように作成した。これら6個のサンプルを5℃冷蔵庫に置いた。5%水を含む3個のサンプルのうち1個におけるオンダンセトロンが2.5週間後に沈殿し、他の2個のサンプルにおけるオンダンセトロンが6週間後に沈殿した。水を含まない3個のサンプルにおけるオンダンセトロンは、12週間溶液のままであった。これらの実験から、サッカリンナトリウムが製剤溶液に可溶でなく、また大量の水が製剤の物理的不安定性を引き起こすことがわかった。
【実施例6】
【0064】
口腔における滞留時間を求めるための研究を行った。つまり、偽薬製剤をテクネチウム99m-DTPAでラベル付けした。様々な容積のラベル付けした製剤を、必要なIRBクリアランスおよび同意を得た後の8人の被検者に送達した。所定の容積を送達した後、消化管全体(口腔から大腸まで)を介したガンマ線シンチグラフィーを用いて沈着を画像化した。口腔の画像化を最初の3分間は15秒おきに行い,その後は5,10,15,20,30,45,60,69,120,150,180,210および240分で画像化した。3分後に、下方の消化管の画像を上述の時間に撮った。このデータから、投薬量を最小化するのに有益であることを求めた(図6)。図6から、最低投薬量、つまり50mcLが口における標示量の最長滞留時間をもたらすことを観察した。5分後で、標示量の約20%がまだ口腔に残存していた。同じ時間に400mcLであると、口腔において約半分が存在した。さらに、100mcLと200mcLとの間では違いがほとんどなかったが、5分後の口に残っている割合は、50mcLのものよりも僅かに低く、400mcLの投薬後に観察されたものよりも多かった。口腔における滞留時間が長いと、口腔粘膜吸収を増加させる。この長い滞留時間が、口腔粘膜の化合物への露呈を有効に増加させ、粘膜を通した輸送を増加させる。
【実施例7】
【0065】
上述したように、子供または非ヒト動物への投与のためにおいしい味を与えるのは有利である。香味料を含む実施態様を表17および18に示すように製剤した。表17および18における範囲は、1個またはそれ以上の香味料成分と組合わせてMagnaSweetおよびスクラロースを用いた一実施態様の説明である。
【0066】
【表17】

【0067】
【表18】

【0068】
これら例示の製剤に用いる香味料には、イチゴ、ミント,フルーツポンチ、イチゴバナナおよびそれら組み合わせがある。
【0069】
上述の説明および実施例は、本発明の目的、特徴および利点を達成した好ましい実施態様を説明するためだけのもので、本発明を制限することはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴霧容器に選択性5−ヒドロキシトリプタミン受容体拮抗製剤を備えた医薬経口噴霧製品で、前記製剤が主として非水溶性で、該製剤の約10〜500μlの単位投与容量を噴霧する際に、噴霧が約30μm〜150μmの平均粒径および約2.0未満の楕円率を有することを特徴とする医薬経口噴霧製品。
【請求項2】
前記噴霧が約60μm〜約120μmの平均粒径を有する請求項1に記載の経口噴霧製品。
【請求項3】
前記噴霧が約1.5未満の楕円率を有する請求項1に記載の経口噴霧製品。
【請求項4】
前記製剤がさらに香味料成分を含む請求項1に記載の経口噴霧製品。
【請求項5】
前記香味料成分がスクラロースである請求項4に記載の経口噴霧製品。
【請求項6】
前記香味料成分をハッカ油、イチゴ香料、ネオターム、苦味マスク、グリシリジン酸、アセサルフェームカリウム、スクロースおよびソルビトールからなる群から選択する請求項4に記載の経口噴霧製品。
【請求項7】
前記製剤がさらに推進剤を含む請求項1に記載の経口噴霧製品。
【請求項8】
前記推進剤を炭化水素、クロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボンおよびエーテルからなる群から選択する請求項7に記載の経口噴霧製品。
【請求項9】
前記製剤がさらに溶媒を含む請求項1に記載の経口噴霧製品。
【請求項10】
前記溶媒がアルコールである請求項9に記載の経口噴霧製品。
【請求項11】
前記溶媒をHO、エタノール、プロピレングリコールからなる群から選択する請求項9に記載の経口噴霧製品。
【請求項12】
前記製剤が貯蔵安定である請求項1に記載の経口噴霧製品。
【請求項13】
前記選択性5−ヒドロキシトリプタミン受容体拮抗薬がオンダンセトロンである請求項1に記載の経口噴霧製品。
【請求項14】
前記オンダンセトロンが約0.1〜約7%w/wで存在する請求項13に記載の経口噴霧製品。
【請求項15】
前記オンダンセトロンが約5.0〜約5.2%w/vで存在する請求項14に記載の経口噴霧製品。
【請求項16】
前記製剤が約15〜約50%w/wエタノールを含む請求項13に記載の経口噴霧製品。
【請求項17】
前記エタノールが約20〜約29.2%w/vで存在する請求項16に記載の経口噴霧製品。
【請求項18】
前記製剤が非水溶性である請求項1に記載の経口噴霧製品。
【請求項19】
前記製剤が防腐剤なしである請求項1に記載の経口噴霧製品。
【請求項20】
前記製剤が非水溶性で、防腐剤なしである請求項1に記載の経口噴霧製品。
【請求項21】
約4〜約6%w/wの濃度のオンダンセトロンと、
約55〜約65%w/wの濃度のプロピレングリコールと、
約4〜約6%w/wの濃度の水と、
約25〜約30%w/wの濃度のエタノールとを備える経口噴霧組成物。
【請求項22】
約4.5〜約5.5%w/wの濃度のオンダンセトロンと、
約57〜約62%w/wの濃度のプロピレングリコールと、
約4.5〜約5.8%w/wの濃度の水と、
約26〜約29%w/wの濃度のエタノールとを備える請求項21に記載の経口噴霧組成物。
【請求項23】
約5.1〜約5.2%w/wの濃度のオンダンセトロンと、
約60.1〜約60.3%w/wの濃度のプロピレングリコールと、
約5.3〜約5.4%w/wの濃度の水と、
約27.1〜約27.3%w/wの濃度のエタノールとを備える請求項21に記載の経口噴霧組成物。
【請求項24】
さらに1個またはそれ以上の甘味料、味覚マスク剤または香味料を備える請求項21に記載の経口噴霧組成物。
【請求項25】
約10〜約500μLの医薬組成物の単位投与量をヒトまたは非ヒト動物の口腔粘膜に噴霧することを備えた前記動物の疾患を治療するに当たり、
前記組成物が主として非水溶性で、前記噴霧が約30〜150μmの平均粒径および約2.0未満の楕円率を有し、前記組成物がオンダンセトロンおよび溶媒を備え、また前記オンダンセトロンが口腔粘膜を通して吸収されて前記疾患を緩和することを特徴とする治療方法。
【請求項26】
前記オンダンセトロンが約0.1〜約7%w/wで前記組成物に存在する請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記オンダンセトロンが約5.0〜約5.2%w/wで前記組成物に存在する請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記オンダンセトロンを一日当たり約0.1mg〜約260mgの量で投与する請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記オンダンセトロンを一日当たり約1mg〜約64mgの量で投与する請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記オンダンセトロンを一日当たり約2mg〜約48mgの量で投与する請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記溶媒をエタノール、水、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、脂肪族アルコール、グリセリン、グリコフロールおよびポリエチレングリコールからなる群から選択する請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記疾患が吐き気および嘔吐からなる群から選択する請求項25に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−513525(P2010−513525A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542925(P2009−542925)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/026070
【国際公開番号】WO2008/079295
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(506105928)ノヴァデル ファーマ インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】