説明

安定な経口固形医薬組成物及びその製造方法

【課題】
非晶質ドネペジル塩酸塩を含有する安定な経口固形医薬組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
ドネペジル塩酸塩、糖類及び水溶性高分子を含有する溶液を、核とする糖類に噴霧することにより得られる固体分散体を含有する経口固形医薬組成物が提供される。この固形医薬組成物は該固体分散体を賦形剤、崩壊剤、結合剤などの添加物と混合した後に圧縮成形するか、または固体分散体を薬物を含まない顆粒および慣用添加物と混合した後圧縮成形して製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドネペジル塩酸塩の非晶質構造が維持されることを特徴とする、経口固形医薬組成物及びその簡便な製造方法に関する。また、本発明により得られる経口固形医薬組成物は類縁物質の増加が抑制されることを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
非晶質又は固体分散体を製造する一般的な方法としては、凍結乾燥法、スプレードライ法、ロータリーエバポレーション法などの溶媒法、二軸エクストルーダー法などの溶融法、混合粉砕法、及び超音波成形機などを用いる超音波法などがある。特許文献1ではフェノフィブラートをポリエチレングリコールとともに融解混合した後、固化させることによって固体分散体を調製している。しかし工程が煩雑であるために作業性が悪く、特殊な製造機器を必要とする問題点があった。また、製造した非晶質が必ずしも物理的に安定であるとは限らず、一般的に非晶質は熱などの何らかの要因により経時的に結晶形に転移してしまい、不都合を生じ得ることが知られている。そのため、例えば特許文献2では安定剤及び結晶成長抑制剤の存在下で微粒子化することで不定形形態を有する高度溶解性医薬が得られることが開示されている。しかしながら、噴霧乾燥により微粒子化する必要があるため、作業性の面から必ずしも推奨される方法ではなく、物理的に安定な非晶質を簡便な方法により製造することが求められていた。
【0003】
ドネペジル塩酸塩には多形結晶I、II、III、IV、V型及び非晶質が存在することが知られており、非晶質は多形結晶と比較して熱安定性及び吸湿安定性が劣ることが実験により明らかにされている(特許文献3)。特許文献4では高分子担体を結晶化阻害剤として使用することで非晶質の状態が維持されたドネペジル塩酸塩を含む医薬組成物が得られること、及び40℃、75%RHの条件下において高純度状態が保たれることが開示されている。しかし、ドネペジル遊離塩基から塩酸塩を調製する工程が必要であり、手間を要する点で改善の余地があった。特許文献5においては高分子担体の使用によりドネペジル又はその塩が非晶質の状態で維持される医薬組成物が開示されているが、類縁物質については何ら検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−161588号公報
【特許文献2】特開昭58−183615号公報
【特許文献3】特開平10−53576号公報
【特許文献4】国際公開2004/000317号パンフレット
【特許文献5】国際公開2005/065645号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って先行技術、特に特許文献3の記載に鑑み、非晶質ドネペジル塩酸塩を含有する安定な経口固形医薬組成物及びその製造方法の提供が強く要望される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般的に、非晶質は熱などの要因により物理的に安定な結晶形へと転移してしまうことが知られている。本発明者らは種々検討の結果、ドネペジル塩酸塩及び水溶性高分子を含有する溶液を、流動層造粒機を用いて核となる糖類に噴霧して得られた固体分散体は、苛酷条件下においてもドネペジル塩酸塩の非晶質構造が維持されることを見出した。
【0007】
更に、ドネペジル塩酸塩と水溶性高分子の噴霧溶液に糖類を添加することで、非晶質構造が維持されるだけでなく、類縁物質の増加が抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の実施には、例えば特許文献3に記載のいずれかの多形結晶及びそれに引用されている特開昭64−79151号公報の実施例4に記載された方法で得た塩酸ドネペジルの結晶を用いることができ、特に限定されることはない。
【0009】
経口固形医薬組成物の製造方法は、ドネペジル塩酸塩と水溶性高分子の溶液を核となる糖類に噴霧することにより得た、非晶質構造が維持された固体分散体を賦形剤、崩壊剤、結合剤等の薬学的に許容される添加物と混合した後に直接圧縮して錠剤としてもよいし、湿式造粒法、乾式造粒法などの公知の方法により製造した他の顆粒、及び適宜選択される添加物との混合、打錠により錠剤としてもよい。
【0010】
本発明によれば、噴霧乾燥により微粒子化する工程が不要であり、核となる糖類への直接噴霧により目的とする固体分散体を得ることができるため、作業性の向上が期待できる。
【0011】
噴霧溶液に添加する糖類又は核となる糖類としては乳糖、スクロース、D−マンニトール、ソルビトール、トレハロース、キシリトール、エリスリトール等から適宜選択することができ、各々が同一であってもよい。
【0012】
本発明に用いられる水溶性高分子は、通常用いられるものであれば特に限定はされないが、メチルセルロース、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。好ましくはメチルセルロース又はヒプロメロースである。
【0013】
ドネペジル塩酸塩に対して水溶性高分子の添加量が過少である場合は、本発明の効果が十分に得られないことが検討により見出されており、水溶性高分子の種類により必要な添加量が異なる。ドネペジル塩酸塩1重量部に対して、例えばメチルセルロース及びヒプロメロースでは1重量部以上、ポリビニルピロリドンでは2重量部以上、ヒドロキシプロピルセルロースでは3重量部以上の添加が必要である。
【0014】
水溶性高分子を溶解させる溶媒としては特に限定はされないが、水、低級アルコール系溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノールなどのC1−4アルキルアルコールである)及びこれらの混合溶媒が挙げられ、好ましくは水、含水アルコール系溶媒である。人体への安全性の面からは、水又は水とエタノールの混合溶媒が好ましく、溶媒の使用量はドネペジル塩酸塩や添加物の溶解度を考慮して適宜調節することができる。含水アルコール系溶媒においては水とアルコールの配合比率を自由に決定することが可能である。
【0015】
噴霧溶液に添加する糖類の配合量は、水溶性高分子1重量部に対し0.1重量部乃至10重量部、好ましくは0.2重量部乃至5重量部、特に好ましくは0.5重量部乃至2重量部である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ドネペジル塩酸塩及び水溶性高分子を含有する溶液を、流動層造粒機を用いて核となる糖類に噴霧することで、苛酷条件下においても非晶質構造が維持されたドネペジル塩酸塩を含む固体分散体の製造が可能である。更に、本発明による固体分散体を含有する経口固形医薬組成物は、ドネペジル塩酸塩の非晶質構造の維持に加えて類縁物質の増加が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図面は、実施例および比較例の非晶質顆粒を密閉条件で70℃で9日間保存した後に測定した粉末X線回折パターンである。
【図1】実施例1
【図2】実施例2
【図3】実施例3
【図4】実施例4
【図5】比較例1
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例及び比較例により、内容を詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0019】
水溶性高分子の添加による非晶質構造の維持
【0020】
実施例1
表1の処方に従って、ヒプロメロース及びドネペジル塩酸塩を水に添加し、撹拌器を用いて十分に溶解させる。得られた混合溶液を流動層造粒機中(MP−01、(株)パウレック)でD-マンニトールに噴霧し、乾燥させた後に30Mの篩を用いて整粒を行い非晶質顆粒とした。
【0021】
実施例2
表1の処方に従って、実施例1と同様にして非晶質顆粒を製造した。
【0022】
実施例3
D−マンニトールを乳糖に変更して表1の処方に従い、実施例1と同様にして非晶質顆粒を製造した。
【0023】
実施例4
ヒプロメロースをメチルセルロースに変更して表1の処方に従い、実施例3と同様にして非晶質顆粒を製造した。
【0024】
比較例1
表1の処方に従って、ドネペジル塩酸塩を水に添加し、撹拌器を用いて十分に溶解させる。得られた混合溶液を流動層造粒機中(MP−01、(株)パウレック)で結晶セルロースに噴霧し、乾燥させた後に30Mの篩を用いて整粒を行い非晶質顆粒とした。
【0025】
70℃の密閉条件で苛酷試験を行い、試験開始より9日後に粉末X線回折測定により結晶化の測定を行った。その結果を図1から図5に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
図1から図4より、本発明による固体分散体顆粒を70℃の密閉条件下で9日間保存を行ってもドネペジル塩酸塩の非晶質構造が維持されることが確認された。
【0028】
噴霧溶液への糖類の添加による類縁物質の増加抑制
【0029】
非晶質顆粒を製した後は適当な添加物を使用して、常法により経口固体組成物を製造することができる。例えば、特開2005−60309号公報の実施例1に記載のB粒子と非晶質顆粒を混合して口腔内崩壊錠を製造することができる。
【0030】
実施例5
表2の処方に従って、メチルセルロース、ドネペジル塩酸塩及び乳糖を水に添加し、撹拌器を用いて十分に溶解させる。得られた混合溶液を流動層造粒機中(MP−01、(株)パウレック)で乳糖に噴霧し、乾燥させた後に30Mの篩を用いて整粒を行い非晶質顆粒とした。更に適当な添加物を加え,常法により、錠剤を製造した。
【0031】
実施例6
表2の処方に従って、実施例5と同様に錠剤を製造した。
【0032】
比較例2
表2の処方に従って、ドネペジル塩酸塩を水に添加し、撹拌器を用いて十分に溶解させる。得られた混合溶液を流動層造粒機中(MP−01、(株)パウレック)で結晶セルロースに噴霧し、乾燥させた後に30Mの篩を用いて整粒を行い非晶質顆粒とした。更に適当な添加物を加え,常法により、錠剤を製造した。
【0033】
比較例3
表2の処方に従って、メチルセルロース及びドネペジル塩酸塩を水に添加し、撹拌器を用いて十分に溶解させる。実施例5と同様にして、得られた混合溶液を乳糖に噴霧する工程を経て錠剤を製造した。
【0034】
実施例1から4及び比較例1と同様にして苛酷試験を行った後に類縁物質の含量を測定し、結果を表3に示した。
【0035】
類縁物質含量の測定方法
ドネペジル塩酸塩5mgに対応する量をとり、水0.2mLを加えて崩壊させた後、アセトニトリル1mLを加え、振り混ぜる。更に、水8.8mLを加え、振り混ぜる。この液を孔径0.5μm以下のメンブランフィルタ−でろ過する。初めのろ液1mLを除き、次のろ液を試料溶液とする。試料溶液5μLにつき、次の測定条件で液体クロマトグラフィ−により試験を行い、各々のピ−ク面積を自動積分法により測定し、面積百分率法により類縁物質の量を求める。
【0036】
測定条件
使用機器:UPLC(Acquity UPLC)
測定波長:286nm
使用カラム:Acquity 2.1×100mm,1.7μm(ODS)
カラム温度:50℃
移動相A:1%リン酸のTEA緩衝液pH6.5(1000mLの水に1mLのリン酸を加え,トリエチルアミンを用いてpHを6.5に調製する.)


【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
表3より、ドネペジル塩酸塩、乳糖及びメチルセルロースを含有する溶液を核となる乳糖に噴霧して得られた固体分散体を含む錠剤は、類縁物質の急激な増加が抑制されることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドネペジル塩酸塩、糖類及び水溶性高分子を含有する溶液を、核となる糖類に噴霧することで得られる固体分散体を含有することを特徴とする経口固形医薬組成物。
【請求項2】
水溶性高分子がメチルセルロース、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンから選択される請求項1記載の経口固形医薬組成物。
【請求項3】
糖類が乳糖、スクロース、D−マンニトール、ソルビトール、トレハロース、キシリトール、エリスリトールから選択される請求項1乃至2記載の経口固形医薬組成物。
【請求項4】
ドネペジル塩酸塩、糖類及び水溶性高分子を含有する溶液を、核となる糖類に噴霧することにより固定分散体を製造し、この固体分散体に慣用の添加物を混合して圧縮成形するか、または薬物を含まない顆粒および慣用の添加物と混合して圧縮成形することを特徴とする経口固形医薬組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−36099(P2012−36099A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174947(P2010−174947)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(591040753)東和薬品株式会社 (23)
【Fターム(参考)】