説明

安定化赤色系着色材料及びその製造方法

【課題】長期間にわたって変色することのない安定した金ナノ粒子からなる赤色系着色材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 ハロゲンイオン処理した金ナノ粒子からなる安定化赤色系着色材料であって、金ヒドロゾルを用いて固体表面に金ナノ粒子を形成させたのち、これをハロゲンイオン発生物質含有溶液で処理することにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料用の繊維製品、各種無機質固体製品などの着色剤として有用な安定化金ナノ粒子着色材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金ナノ粒子は、プラズマ振動現象により波長520〜530nmの光を吸収して美しい赤色を示すため、古くよりガラスや陶器の着色剤として用いられており、最近では絹の染色(特許文献1、2参照)や、化粧料(特許文献3参照)、プラスチックの着色剤(非特許文献1参照)、塗料(非特許文献2参照)、真珠の着色剤(特許文献4参照)などへの応用が試みられている。
【0003】
ところで、この金ナノ粒子は、粒径が5〜20nmでは吸収ピークが520〜530nmにあって鮮やかな赤色を示すが、これ以上の粒径になると吸収ピークが長波長に移動するため赤紫色から暗紫色になる。そして、例えば繊維のような固体の表面では、金ナノ粒子はたがいに凝集する傾向があり、長期間放置すると、次第に暗紫色から遂には灰紫色に変色し、審美的に劣化する欠点がある。
【0004】
【特許文献1】特公昭63−46193号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特公平5−55635号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開2003−277236号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献4】特開平3−159602号公報(特許請求の範囲その他)
【非特許文献1】「高分子」、1994年、第43巻、p.852
【非特許文献2】「色材」、2002年、第75巻、p.66
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の金ナノ粒子がもつ欠点を克服し、長期間にわたって変色することのない安定した金ナノ粒子からなる赤色系着色材料及びその製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、金ナノ粒子の凝集に起因する変色を防止することについて、種々研究を重ねた結果、固体表面上に形成された金ナノ粒子をハロゲンイオン含有溶液で処理すれば、長期間にわたり放置しても変色しないことを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、ハロゲンイオン処理した金ナノ粒子からなる安定化赤色系着色材料、及び金ヒドロゾルを用いて固体表面に金ナノ粒子を形成させたのち、これをハロゲンイオン発生物質含有溶液で処理することを特徴とする安定化赤色着色材料の製造方法を提供するものである。
【0008】
本発明の安定化赤色系着色材料は、固体物質に金ヒドロゾルすなわち金ナノ粒子を液体中に分散させたものと接触させて、固体物質表面に金ナノ粒子を固定化する。この固定物質が絹、綿のような繊維の場合は、正電荷をもつ陽イオン性界面活性剤を含む金ヒドロゾルが用いられるし、またカチオン化処理又は媒染剤処理した絹又は綿や、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムのような無機粉体の場合は、負電荷をもつクエン酸ナトリウム還元により得られる金ヒドロゾルや陰イオン性又は非イオン性界面活性剤を含む金ヒドロゾルが用いられる。
【0009】
このように、本発明において固体表面に金ナノ粒子を形成させるための金ヒドロゾルとしては、陽イオン性、陰イオン性又は非イオン性界面活性剤により安定化された金ヒドロゾル、クエン酸塩還元により得られる金ヒドロゾルなど、これまで知られている金ヒドロゾルの中から任意に選んで用いることができる。
【0010】
また、このようにして形成された金ナノ粒子を固定するための固体物質としては、例えば糸状又は布状の絹や綿、紙、寒天、ゼラチン、デンプンなどの天然高分子物質、部分加水分解ポリ酢酸ビニル、ポリアミン繊維、ポリアミノ酸、レーヨンなどの合成高分子物質、毛髪、つめのようなケラチンタンパク質、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸塩のような無機質粉体などが用いられる。
【0011】
次に、本発明において、上記のようにして形成された金ナノ粒子を安定化するためのハロゲンイオンは、ハロゲン例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素のイオンであり、特に塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンが好ましい。このハロゲンイオンは、ハロゲンイオン発生物質から供給されるが、このハロゲンイオン発生物質は、水溶液中でハロゲンイオンを遊離するものであれば、何でもよい。
【0012】
このようなものの例としては、ハロゲンイオンを陰イオンとする水溶性塩を挙げることができ、この塩の陽イオン部分は、アルカリ金属、アルカリ土類金属のイオン、有機第四アンモニウムイオンなどの中から選ばれる。このアルカリ金属イオンの例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどがあるし、アルカリ土類金属イオンとしては、マグネシウムイオン、カルシウムイオンなどがある。また、有機第四アンモニウムイオンとしては、トリメチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、ブチルトリメチルアンモニウムイオン、オレイルトリメチルアンモニウムイオン、トリオクチルメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、パルミチルトリメチルアンモニウムイオンなどがある。
【0013】
そして、ハロゲンイオン発生物質として特に好ましいのは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、テトラメチルアンモニウムヨージド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリドなどである。
【0014】
これらのハロゲンイオン発生物質は、無機塩化物の場合は0.5Mから飽和までの濃度の水溶液、無機臭化物、無機ヨウ化物の場合は0.1〜10mM濃度の水溶液、有機第四アンモニウム塩の場合は0.2〜5%濃度の水溶液として用いるのが有利である。
【0015】
この溶媒としては、普通水単独が用いられるが、所望ならば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリン、アセトン、ジメチルホルムアミドなどの水混和性有機溶剤を混合することもできる。
【0016】
本発明の安定化赤色系着色材料は、前記したようにして金ナノ粒子を固定化した固体物質を、ハロゲンイオン発生物質溶液中に浸漬し、5〜60秒後引き上げ、そのままで、又は所望に応じ水洗して乾燥する。この乾燥は室温下で自然乾燥してもよいし、また200℃以下の温度で加熱して乾燥してもよい。
【0017】
このようにして安定化処理した赤色系着色材料は、大気中に放置してもほぼ恒久的に変色することはなく、また多少変色しても100℃以上に加熱することにより容易に復色する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡単な処理により金ナノ粒子又はこれにより着色した固体表面を安定化することができ、長期間使用しても何ら変色しない着色材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
イオン交換水91.5mlに、撹拌下、20mM−塩化金(III)酸水溶液2.5ml、1%−塩化ステアリルトリメチルアンモニウム水溶液1ml及び40mM−水素化ホウ素ナトリウム水溶液5mlをこの順に加え、赤色透明な金ヒドロゾル100mlを調製した。
絹布片(日本規格協会、8cm×12cm)を20質量倍の上記金ヒドロゾル中で5分間浸し、揺動して金ナノ粒子を絹繊維に移した後、1%−塩化ステアリルトリメチルアンモニウム水溶液中に5分間浸漬し、取り出して風乾後、50℃で4時間加熱した。この絹布は淡赤色を呈し、6か月間放置しても変色することはなかった。
【実施例2】
【0021】
綿布片(日本規格協会、8cm×12cm)を20質量倍の実施例1と同じ金ヒドロゾル中で1時間揺動して金ナノ粒子を綿繊維に移した後、10mM−ヨウ化ナトリウム水溶液中に10秒間浸漬し、取り出して乾燥後、室温(20−25℃)で10日間放置した。この絹布は淡赤色を呈し、その後6か月間放置しても変色することはなかった。
【実施例3】
【0022】
沸騰したイオン交換水92.5mlに、20mM−塩化金(III)酸水溶液2.5ml及び40mM−クエン酸ナトリウム水溶液5mlをこの順に加え、さらに2時間沸騰を続けて赤色透明な金ヒドロゾル100mlを調製した。この金ヒドロゾル中に粉末状の炭酸カルシウム1gを加えて室温で30分間撹拌して金ナノ粒子を炭酸カルシウムに移した後、濾過し1夜風乾して灰色の粉体を得た。これを1M−塩化ナトリウム水溶液中に5分間浸漬し、濾過後、アイロンを用いて180℃で1分間加熱して淡赤紫色の粉末を得た。
このものは6か月放置しても変色しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の着色材料は、各種固体物質、特に絹製品、綿製品を赤色に着色するのに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲンイオン処理した金ナノ粒子からなる安定化赤色系着色材料。
【請求項2】
金ナノ粒子が固体表面に固定化されている請求項1記載の安定化赤色系着色材料。
【請求項3】
ハロゲンイオン発生物質がハロゲン化アルカリ金属塩である請求項1又は2記載の安定化赤色系着色材料。
【請求項4】
ハロゲン化アルカリ金属塩が、ナトリウム及びカリウムの塩化物、臭化物及びヨウ化物の中から選ばれた少なくとも1種である請求項3記載の安定化赤色系着色材料。
【請求項5】
ハロゲン化アルカリ金属塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化ナトリウム又はヨウ化カリウムである請求項4記載の安定化赤色系着色材料。
【請求項6】
ハロゲンイオン発生物質がハロゲン化アルカリ土類金属である請求項1又は2記載の安定化赤色系着色材料。
【請求項7】
ハロゲン化アルカリ土類金属が塩化カルシウム又は塩化マグネシウムである請求項6記載の安定化赤色着色材料。
【請求項8】
ハロゲンイオン発生物質が有機第四アンモニウムハロゲン化物である請求項1又は2記載の安定化赤色系着色材料。
【請求項9】
有機第四アンモニウムハロゲン化物が、高級アルキル基をもつ第四アンモニウムのハロゲン化物である請求項8記載の安定化赤色系着色材料。
【請求項10】
金ヒドロゾルを用いて固体表面に金ナノ粒子を形成させたのち、これをハロゲンイオン発生物質含有溶液で処理することを特徴とする安定化赤色系着色材料の製造方法。
【請求項11】
ハロゲンイオン発生物質が濃度0.1mM以上のハロゲン化アルカリ金属塩水溶液である請求項10記載の安定化赤色系着色材料の製造方法。
【請求項12】
ハロゲンイオン発生物質溶液が濃度0.2%以上の有機第四アンモニウムハロゲン化物溶液である請求項10記載の安定化赤色系着色材料の製造方法。

【公開番号】特開2007−126737(P2007−126737A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322579(P2005−322579)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】