説明

安定化酵素組成物

【課題】幅広い血栓溶解特性を有する埋め込み型医療機器を提供する。
【解決手段】医療機器は、固定化された線維素溶解酵素及び硫酸デキストランを有する基材を含む。硫酸デキストランは40キロダルトン(kDA)未満の分子量を有する。医療機器は少なくとも1つの基材から形成される。基材上には線維素溶解酵素が固定化される。この線維素溶解酵素が、40(kDa)未満の分子量を有する硫酸デキストランで安定化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に酵素組成物に関する。より具体的には、本発明は、安定化された酵素組成物、安定化された酵素組成物を有する医療機器、及びこれらの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
総合医学においては、トンネルカテーテルなどの埋め込み型医療機器が大きな役割を果たす。挿入から数日以内にほとんど全ての中心静脈カテーテルがフィブリン鞘で覆われ、30日以内に大部分のカテーテル関連血栓が生じる(C Harter,HJ Salwender,A Bach,G Egerer,H Goldschmidt及びAD Ho(2002)の、化学療法を受けた血液腫瘍患者における内頸静脈のカテーテル関連感染及び血栓:銀コーティング及び非コーティングカテーテルの将来的比較 Cancer第94巻:245〜251頁参照)。これらのカテーテル関連血栓は、カテーテルの機能を低下させるだけでなく、15%〜30%のケースで静脈炎後症候群を引き起こし、11%のケースで肺塞栓症を引き起こす恐れがある(DJ Kuter(2004)の「癌患者における中心静脈カテーテルの血栓性合併症 The Oncologist第9巻:207〜216頁参照)。
【0003】
血栓のリスクを最低限に抑えるために、トンネルカテーテルなどの埋め込み型医療機器の表面上における「ウロキナーゼ」(uPA)などの線維素溶解酵素の固定化についての説明がされてきた。固定化線維素溶解酵素の例が、米国特許第4,305,926号、米国特許第4,273,873号、米国特許第4,378,435号、及び米国特許第5,380,299号に開示されている。残念ながら、ユニチカ社(ブラッドアクセスUKカテーテル、ユニチカ社)から入手できるウロキナーゼコーティングした血液透析カテーテルなどのこのような機器から生じる線維素溶解活性は2週間未満しか保たれない。この持続期間は、長期にわたる、すなわち常用の機器には不十分である。溶液中の線維素溶解酵素を安定化するために、従来より様々な薬剤が利用されてきた。溶液中の線維素溶解酵素を安定化するために利用される薬剤の例が、日本特許第61238732A2号、欧州特許第0200966B1号、カナダ特許第2579458AA号、欧州特許第0391400A2号、及び日本特許第55034082A2号に開示されている。しかしながら今日まで、これらの薬剤は、埋め込み型医療機器においてうまく利用されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,305,926号
【特許文献2】米国特許第4,273,873号
【特許文献3】米国特許第4,378,435号
【特許文献4】米国特許第5,380,299号
【特許文献5】日本特許第61238732A2号
【特許文献6】欧州特許第0200966B1号
【特許文献7】カナダ特許第2579458AA号
【特許文献8】欧州特許第0391400A2号
【特許文献9】日本特許第55034082A2号
【特許文献10】米国特許第4,764,466号
【特許文献11】米国特許第5,688,516号
【特許文献12】米国特許第6,273,875号
【特許文献13】米国特許第6,528,107号
【特許文献14】米国特許第6,706,024号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C Harter,HJ Salwender,A Bach,G Egerer,H Goldschmidt及びAD Ho(2002)の、化学療法を受けた血液腫瘍患者における内頸静脈のカテーテル関連感染及び血栓:銀コーティング及び非コーティングカテーテルの将来的比較 Cancer第94巻:245〜251頁
【非特許文献2】DJ Kuter(2004)の「癌患者における中心静脈カテーテルの血栓性合併症 The Oncologist第9巻:207〜216頁
【非特許文献3】J Hu他(2003)の、無水マレイン酸のパルスプラズマ蒸着によるポリ(エチレンテレフタレート)膜の官能化 Advanced Functional Materials第13巻:692〜697頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本明細書で説明した不都合を少なくともある程度克服できる幅広い血栓溶解特性を有する埋め込み型医療機器を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの観点では線維素溶解酵素を医療機器上で安定化する組成物及び方法を提供し、別の観点では幅広い血栓溶解特性を有する埋め込み型医療機器を提供するという本発明により、上述の必要性は大いに満たされる。
【0008】
本発明の実施形態は医療機器に関する。この医療機器は、固定化線維素溶解酵素及び硫酸デキストランを有する基材を含む。硫酸デキストランは40キロダルトン(kDa)未満の分子量を有する。
【0009】
本発明の別の実施形態は医療機器に関する。この医療機器は、ポリウレタン基材、線維素溶解酵素、低分子量硫酸デキストラン、及びクロルヘキシジンベースの及び/又はこの薬学的に容認できる塩を含む。線維素溶解酵素の量は、患者内の血餅の形成を減少させるのに十分である。線維素溶解酵素は基材内で固定化される。低分子量硫酸デキストランは線維素溶解酵素を安定化する。低分子量硫酸デキストランは40キロダルトン未満の分子量を有する。クロルヘキシジンベースの及び/又はこの薬学的に容認できる塩は、微生物増殖を低減させるのに十分な量でポリウレタン基材内に処理される。
【0010】
本発明のさらに別の実施形態は医療機器に関する。この医療機器は、ポリウレタン基材、ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA)、低分子量硫酸デキストラン、及びクロルヘキシジンベースの及び/又はこの薬学的に容認できる塩を含む。uPAの量は、患者内の血餅の形成を減少させるのに十分である。uPAは、基材内において共有結合で固定化される。低分子量硫酸デキストランは線維素溶解酵素を安定化する。低分子量硫酸デキストランは40キロダルトン(kDa)未満の分子量を有する。クロルヘキシジンベースの及び/又はこの薬学的に容認できる塩は、微生物増殖を低減させるのに十分な量でポリウレタン基材内に処理される。
【0011】
本発明のさらに別の実施形態は、医療機器を作製する方法に関する。この方法では、医療機器が少なくとも1つの基材から形成される。基材上で線維素溶解酵素が固定化される。線維素溶解酵素は、40キロダルトン(kDa)未満の分子量を有する硫酸デキストランで固定化される。
【0012】
従って、本発明のいくつかの実施形態の詳細な説明を本明細書でよりよく理解できるように、及び本発明による当業への寄与をよりよく評価できるように、本発明のいくつかの実施形態についてかなり幅広く概説している。言うまでもなく、以下で説明する本発明の追加の実施形態が存在し、これらは本明細書に添付する特許請求の範囲の対象を形成する。
【0013】
この点に関しては、本発明の少なくとも1つの実施形態について詳細に説明する前に、本発明がその用途において、以下の説明に記載する又は図面に示す構成の詳細及び構成要素の配置に限定されないことを理解されたい。本発明は、説明する実施形態以外の形でも具体化できるとともに、様々な方法で実施及び実行することができる。また、本明細書で使用する表現及び専門用語は、要約書と同様に説明を目的としたものであると理解すべきであり、限定的なものであると見なすべきではない。
【0014】
従って、当業者であれば、本開示の基礎を成す概念を、本発明のいくつかの目的を達成するための他の構造、方法及びシステムを設計するための基礎として容易に利用できることを理解するであろう。従って、本発明の思想及び範囲から逸脱しない限りにおいて、特許請求の範囲はこのような同等の構成を含むと見なすことが重要である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】0〜28日にわたる培養時間後の、ポリウレタンカテーテルセグメント上で固定化されたウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA)の線維素溶解活性を示すグラフである。
【図2】0〜14日の培養時間後の、外植されたカテーテルセグメントのウロキナーゼ活性を示すグラフである。
【図3】0〜28日にわたる培養時間後の、ポリウレタンカテーテルセグメント上で固定化され、低分子量硫酸デキストラン、ヒト血清アルブミン、及びアミノ酸アルギニンで安定化されたuPAの線維素溶解活性を示すグラフである。
【図4】0〜28日にわたる培養時間後の、クロルヘキシジンコーティングしたポリウレタンカテーテルセグメント上で固定化され、低分子量硫酸デキストラン、ヒト血清アルブミン、及びアミノ酸アルギニンで安定化されたuPAの線維素溶解活性を示すグラフである。
【図5】0〜9日にわたる培養時間後の、クロルヘキシジンコーティングしたTecothane(登録商標)カテーテルセグメント上で固定化され、高分子量硫酸デキストラン及び低分子量硫酸デキストランで安定化されたuPAの線維素溶解活性を示すグラフである。
【図6】0〜28日にわたる培養時間後の、クロルヘキシジンコーティングしたポリウレタンカテーテルセグメント上で固定化され、低分子量硫酸デキストラン、ヒト血清アルブミン、及びアミノ酸アルギニンで安定化されたuPAの線維素溶解活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態は、幅広い血栓溶解特性を有する埋め込み型医療機器を提供する。様々な実施形態において、硫酸デキストランの存在下で「ウロキナーゼ」(uPA)などの線維素溶解酵素を埋め込み型医療機器の表面上で固定化することにより、これらの幅広い血栓溶解特性を実現することができる。硫酸デキストランの2つの分子量範囲は区別するに値する。第1の分子量範囲は、一般的には高分子量硫酸デキストラン(「HMW−DexS」)と呼ばれ、40,000ダルトン(Da)を越えるものから約500,000Da又はそれ以上の分子量を有する。HMW−DexSは、埋め込み物の周囲の炎症性細胞浸潤を抑制することがこれまでに報告されている。第2の分子量範囲は、一般的には低分子量硫酸デキストラン(「LMW−DexS」)と呼ばれ、約40,000Da未満から約500Daの分子量を有する。LMW−DexSの埋め込み物に対する有益な使用はこれまでに報告されていない。従って、LMW−DexSが、血液と接する医療機器の表面上で固定化された線維素溶解酵素及び/又は放出可能な(単複の)抗菌剤の生物活性の持続時間を安定化して増加させることは驚くべきであるとともに予想外である。本明細書で説明するように、約8,000Daの分子量を有するLMW−DexSで特定例が作られる。しかしながら、約1,000、2,000、4,000、10,000及び20,000Daの分子量を有するLMW−DexSも本発明の実施形態の範囲内にあることを理解されたい。本発明の様々な実施形態の利点として、1)共有結合で固定化された線維素溶解酵素の生体耐久性の改善、2)LMW−DexS/線維素溶解酵素組成物の最適化、3)固定化された線維素溶解酵素構造の安定化、4)安定化及び固定化された線維素溶解酵素の、クロルヘキシジン(CHX)、ゲンチアナバイオレット(GV)、及び/又はブリリアントグリーンなどの抗菌剤との親和性を含む。
【0017】
また、バルク材に他の好適な薬剤を組み入れることができることは、本発明のこの及びその他の実施形態の範囲内である。好適な薬剤の例として、他の抗菌剤、抗生物質、消毒薬、化学療法薬、抗菌ペプチド、模倣薬、抗血栓薬、繊維素溶解薬、抗凝固薬、抗炎症薬、鎮痛薬、制吐薬、血管拡張薬、抗増殖薬、抗線維症薬、成長因子、サイトカイン、抗体、ペプチド及びペプチド模倣薬、核酸、及び/又は同様のものが挙げられる。
【0018】
本発明の様々な実施形態との使用に適した医療機器として、カテーテル、管、縫合糸、不織、メッシュ、ドレーン、シャント、ステント、発泡体などを挙げることができる。本発明の実施形態との使用に適した他の機器として、血液、血液製剤、及び/又はフィブリン生成液、組織、及び/又は生成物と接することができる機器が挙げられる。様々な実施形態において、医療機器の全て又は一部の中又は上に線維素溶解酵素及び/又は硫酸デキストランを組み入れることができる。特定の例では、血管カテーテルの先端領域に線維素溶解酵素及び8kDaのLMW−DexSを加えることができる。このようにして、血管カテーテルの効果に悪影響を及ぼすことなく比較的高価な酵素の量を減少させることができる。本発明の1又はそれ以上の実施形態の利益として、血液と接する医療機器の表面上で固定化した線維素溶解酵素及び/又は放出可能な(単複の)薬剤の生物活性の持続時間の安定化及び増加が挙げられる。
【0019】
本発明の実施形態との使用に適したクロルヘキシジンの形として、例えば、二酢酸塩、ラウレート(ドデカノエート)、パルミテート(ヘキサデカノエート)、ミリステート(テトラデカノエート)、ステアレート(オクタデカノエート)及び/又は同様のものなどのクロルヘキシジンベースの薬学的に容認できるクロルヘキシジン塩が挙げられる。また、特定例は、クロルヘキシジンベースの二酢酸クロルヘキシジン及びクロルヘキシジンドデカノエートで作られるが、本発明の実施形態はいずれかの1つ形に限定されるものではない。それよりもむしろ、本明細書で使用する場合、「クロルヘキシジン」という用語は、例えば、二酢酸塩、ドデカノエート、パルミテート、ミリステート、ステアレート及び/又は同様のものなどのクロルヘキシジンベースの薬学的に容認できるクロルヘキシジン塩のいずれか1つ又はこれらの混合物を意味する。例えば、他の好適なクロルヘキシジン塩が、2004年3月16日に発行された「トリクロサン含有医療機器」という名称の米国特許第6,706,024号に見出され、該特許の開示はその全体が本明細書に組み入れられる。一般に、クロルヘキシジンの好適な濃度として、約0.1%の重量対重量(wt/wt)から約30%のwt/wtの範囲が挙げられる。より詳細には、好適なクロルヘキシジン範囲として、約3%のwt/wtから約20%のwt/wtまでが挙げられる。
【0020】
一般に、好適な基材としてエラストマ及び/又はポリマ材料が挙げられる。好適な基材の具体例として、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、例えばフッ素重合体などの熱可塑性物質、ビニルポリマ、ポリオレフィン、共重合体、及び/又は同様のものが挙げられる。
【0021】
以下の実験では、ポリウレタンカテーテルセグメント上で固定化されたウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA)に関して線維素溶解活性の持続時間を判定する。また、ポリウレタンカテーテルセグメント上で固定化された硫酸デキストラン安定化uPAに関して、線維素溶解活性の持続時間の予想外の改善が認められる。発明者らは、低分子量硫酸デキストランをuPA及びクロルヘキシジン及び/又はゲンチアナバイオレットなどの抗菌剤と組み合わせた時の、線維素溶解活性及び抗菌活性の持続時間の予想外の改善をさらに示す。
【0022】
方法
実験1:ポリウレタンカテーテルセグメント上で固定化されたウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA)に関する線維素溶解活性の持続時間の判定
【0023】
ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA)を固定化するために、1%ブタジエン無水マレイン酸(BMA1:1比)重合体(アセトン中の25%溶液、ペンシルベニア州ウォリントンのポリサイエンス社)及びアセトン中の1%ポリエチレングリコール400(PEG400、カリフォルニア州アリソビエホのハンプトンリサーチ社)でポリウレタンカテーテルセグメントを処理し、その後真空下において90〜100℃で3時間硬化した。次に、硬化したセグメントを、30単位/μlのuPAを含有する酢酸ナトリウム緩衝液中で18時間培養した。その後、セグメントをリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄し、最終的に脱イオン水で洗浄した。
【0024】
線維素溶解処理の耐久性を試験するために、カテーテルセグメントをクエン酸ヒト血漿中において37℃で異なる期間培養した。クエン酸ヒト血漿は7日経つごとに新鮮な試料と置き換えた。図1に示すように、カテーテルセグメントは28日以内に線維素溶解活性の大部分を失った。
【0025】
実験2:ウサギの上大静脈に埋め込んだ線維素溶解カテーテルのインビボ性能の判定
【0026】
線維素溶解カテーテルのインビボ性能を評価するために、シングルルーメンのサイズ6フレンチ(Fr)のカテーテルをウサギの上大静脈に14日間埋め込んだ。当業者には周知のような発色分析を通じて、外植したカテーテルの表面上でウロキナーゼ活性を測定した。図2に示すように、カテーテルは14日目に最初の活性の約20%を保っていた。インビボの結果は、ヒト血漿中における培養の14日後にインビトロで失われた活性の量(図1)とよく一致する。
【0027】
実験3:改善された線維素溶解カテーテルの性能に関する化合物の評価
【0028】
線維素溶解活性の改善された持続時間に関して様々な化合物を評価した。これらの化合物は、1)8キロダルトン(8kDa)の分子量を有する低分子量硫酸デキストラン(LMW−DexS)、2)ヒト血清アルブミン(HSA)、及び3)アルギニンを含んでいた。この試験では、uPAを30単位/μl含有する酢酸ナトリウム緩衝液に1ミリグラム/ミリリットル(mg/mL)のHSA又は1%重量/容量(w/v)のLMW−DexS(8kDA)のいずれかを添加した。上記溶液のいずれかを使用して、BMA/PEG処理カテーテルセグメントを培養した。また、BMA/PEG及びuPaで処理したセグメントを生理食塩水で洗浄し、その後、開示全体が本明細書に組み入れられる1988年8月16日に発行された「固定化線維素溶解酵素を安定化する方法」という名称の米国特許第4,764,466号に記載されるような0.01%アルギニンを含有する水溶液に浸漬した。
【0029】
図3に示すように、LMW−DexS(8kDA)で処理したセグメントが、37℃の水中における28日の培養後に他の処理に比べて最も高い酵素活性を保っていた。
【0030】
実験4:抗菌剤を含有する線維素溶解カテーテルの改善された性能に関する化合物の評価
【0031】
米国特許第5,688,516号、米国特許第6,273,875号、及び米国特許第6,528,107号に開示されるように、医療機器を抗凝固薬と共に抗菌剤で処理して二重の利益を提供することができる。しかしながら今日まで、LMW−DexS(8kDA)の使用法を分析して、埋め込み型医療機器の生体耐久性を抗凝固薬と共に抗菌剤で改善するための公知の研究は行われていない。LMW−DexS(8kDA)が、抗菌剤の存在下で固定化されたウロキナーゼに対して同様の安定化効果を有するかどうかを試験するために、二酢酸クロルヘキシジン(CHA)又はクロルヘキシジンドデカノエート(CHDD)のいずれかを含有する高分子溶液中でポリウレタンカテーテルを浸漬コーティングし、室温で一晩乾燥させた。次に、CHA又はCHDDコーティングしたカテーテルをBMA/PEG溶液に30秒間浸漬し、その後真空下において90〜100℃で3時間硬化した。その後、前の実験と同様に、硬化したセグメントを、HSA、LMW−DexS(8kDA)又はアルギニンを含有するウロキナーゼ溶液中で培養した。
【0032】
図4に示すように、28日の水中培養後に、試験した3つの薬剤のうちLMW−DexS(8kDA)で処理したセグメントが最も高いウロキナーゼ活性を維持した。
【0033】
実験5:ウロキナーゼをカテーテルに付着させるための無水マレイン酸の使用の評価
【0034】
無水マレイン酸のパルスプラズマ重合により、無水物基に富んだ薄膜を作成することができる(J Hu他(2003)の、無水マレイン酸のパルスプラズマ蒸着によるポリ(エチレンテレフタレート)膜の官能化 Advanced Functional Materials第13巻:692〜697頁参照)。酵素付着のための無水物基をCHA/ポリウレタン表面上に導入する方法として、無水マレイン酸のプラズマを利用した。一般に、この酵素付着法は当業者に公知であるため、説明を簡略にするために、本明細書ではごく手短にしか説明しない。ポリウレタンカテーテルをCHA含有高分子溶液中で浸漬コーティングし、室温で一晩乾燥させ、プラズマ室(ペンシルベニア州のリーディングのディーナーエレクトロニクス社)のアルゴン雰囲気下で発生した無水マレイン酸(ミズーリ州セントルイスのシグマアルドリッチ社)プラズマで処理した。15パスカル(Pa)の圧力、90ワット(W)のピーク電力で5分間又は12秒の10サイクルの各々についてプラズマ蒸着反応を行った。その後、30単位/μlのuPAを含有するpH5の酢酸ナトリウム緩衝液内において、1%LMW−DexS(8kDA)を含む場合と含まない場合とでカテーテルセグメントを18時間培養した。耐久性試験のためのクエン酸ヒト血漿中における培養前に、カテーテルセグメントをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、その後脱イオン水で洗浄した。28日のヒト血漿中での培養後に、カテーテルセグメントの線維素溶解活性を血餅溶解法により評価した。9%フィブリノゲン及び1.7単位/mLのプラスミノゲンを、0.9%(w/v)塩化ナトリウム及び0.5%(w/v)ゼラチンを含有するpH7.5の197ミリモル(mM)ホウ酸塩/ホウ砂緩衝液内において37℃で5分間培養するという方法で血餅を作り出した。その後、100単位/mLの血栓を加えてフィブリン重合及び血餅形成を開始した。
【0035】
血餅溶解試験を行うために、0.5cm長のカテーテルセグメントを血餅上に37℃で6時間置き、溶解した血餅の量を記録した。この手順は、図5に示す各試料に関して行った。図5に示すように、1%LMW−DexS(8kDA)を酵素安定化剤として含んだ場合、高分子量硫酸デキストラン又はヒト血漿中に9日浸した後の硫酸デキストランの消失と比較して、約8倍高い血餅溶解が達成された。
【0036】
実験6:二酢酸クロルヘキシジンを含有する、低分子量硫酸デキストランで安定化したカテーテルセグメントに関する線維素溶解活性の持続時間の評価
【0037】
1%LMW−DexS(8kDA)で処理したカテーテルセグメントの耐久性を評価するために、カテーテルセグメントをクエン酸ヒト血漿中において37℃で異なる期間培養した。クエン酸ヒト血漿は7日経つごとに新鮮な試料と置き換えた。図6に示すように、1%LMW−DexS(8kDA)で処理したカテーテルセグメントは、28日後に線維素溶解活性のほぼ80%を保っていた。すなわち、1%LMW−DexS(8kDA)で安定化及び固定化したウロキナーゼ酵素は、対照と比較して活性を実質的に全く失うことなくヒト血漿中で28日間活性化したままであった。これらの結果は、安定化していないウロキナーゼに関して図1及び図6に示す活性の約90+%の喪失を考慮すると特に予想外であった。
【0038】
実験7:抗菌剤を含有する、低分子量硫酸デキストランで安定化したカテーテルセグメントに関する抗菌活性の評価
【0039】
線維素溶解活性に加え、1%LMW−DexS(8kDA)で処理したカテーテルの抗菌活性を評価した。この試験では、ゲンチアナバイオレット(0.6%)及びクロルヘキシジンドデカノエートなどの抗菌剤と共に1%LMW−DexS(8kDA)で安定化した固定化ウロキナーゼを有するカテーテルセグメント上へのグラム陽性菌の黄色ブドウ球菌ATCC33591の付着を、同様に処理したものであるがLMW−DexS(8kDA)安定化酵素を含まないカテーテルセグメントと比較した。両方のカテーテルタイプ、すなわちLMW−DexS(8kDA)の有無にかかわらず、細菌の付着において5log減少が観察された。従って、LMW−DexS(8kDA)で安定化したウロキナーゼの付着により、試験した有機体に対するゲンチアナバイオレット及びクロルヘキシジンドデカノエートの抗菌活性は損なわれなかった。
【0040】
本発明の多くの特徴及び利点が詳細な明細書から明らかであり、従って添付の特許請求の範囲は、本発明の真の思想及び範囲内に入る本発明の全てのこのような特徴及び利点を対象とすることが意図される。さらに、当業者には数多くの修正及び変更が容易に想到されると思われるため、図示し説明した正確な構成及び操作に本発明を限定することは望ましくなく、従って全ての好適な修正及び同等物を本発明の範囲内に入れることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定化された線維素溶解酵素を含む基材と、40キロダルトン(kDa)未満の分子量を有する硫酸デキストランと、
を含むことを特徴とする医療機器。
【請求項2】
前記線維素溶解酵素が前記基材に共有結合する、
ことを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
前記線維素溶解酵素がウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA)を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項4】
前記基材に含浸させる2又はそれ以上の抗菌剤の組み合わせをさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項5】
前記2又はそれ以上の抗菌剤の組み合わせが、クロルヘキシジンベースの及びこの薬学的に容認できる塩を含む、
ことを特徴とする請求項4に記載の医療機器。
【請求項6】
前記基材に含浸させる抗菌剤をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項7】
前記抗菌剤が、クロルヘキシジンベースの又はこの薬学的に容認できる塩を含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の医療機器。
【請求項8】
前記抗菌剤が二酢酸クロルヘキシジンを含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の医療機器。
【請求項9】
前記抗菌剤がクロルヘキシジンドデカノエートを含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の医療機器。
【請求項10】
前記抗菌剤がゲンチアナバイオレットを含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の医療機器。
【請求項11】
前記硫酸デキストランが約8kDaの分子量を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項12】
前記基材を含む管状構造をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項13】
前記基材が重合体である、
ことを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項14】
前記基材がポリウレタンである、
ことを特徴とする請求項13に記載の医療機器。
【請求項15】
ポリウレタン基材と、
患者内の血餅の形成を減少させるのに十分な、前記基材内で固定化された線維素溶解酵素の量と、
40キロダルトン未満の分子量を有する、前記線維素溶解酵素を安定化するための低分子量硫酸デキストランと、
前記ポリウレタン基材内に微生物増殖を低減させるのに十分な量で処理された、クロルヘキシジンベースの及び/又はこの薬学的に容認できる塩と、
を含むことを特徴とする医療機器。
【請求項16】
ポリウレタン基材と、
患者内の血餅の形成を減少させるのに十分な、前記基材に共有結合で固定化されたウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA)の量と、
40キロダルトン(kDa)未満の分子量を有する、前記線維素溶解酵素を安定化させるための低分子量硫酸デキストランと、
前記ポリウレタン基材内に微生物増殖を低減させるのに十分な量で処理された、クロルヘキシジンベースの及び/又はこの薬学的に容認できる塩と、
を含むことを特徴とする医療機器。
【請求項17】
医療機器を作製する方法であって、
少なくとも1つの基材から前記医療機器を形成するステップと、
前記基材上に線維素溶解酵素を固定化するステップと、
前記線維素溶解酵素を40キロダルトン(kDa)未満の分子量を有する硫酸デキストランで安定化するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
前記基材を、前記線維素溶解酵素及び硫酸デキストランからなる線維素溶解溶液中で培養するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
マイクロリットル当たり約30単位の前記線維素溶解酵素を酢酸ナトリウム緩衝液中に溶解させることにより前記線維素溶解溶液を調製するステップをさらに含み、前記線維素溶解酵素がウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA)を含む、
ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項20】
約1%の前記硫酸デキストランを前記線維素溶解溶液に添加するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項21】
約8kDaの分子量を有する約1%の前記硫酸デキストランを前記線維素溶解溶液に添加するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記線維素溶解酵素を前記基材に共有結合させるための結合部位を生成するように前記基材を処理するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記基材に2又はそれ以上の抗菌剤の組み合わせを含浸させるステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記基材に、クロルヘキシジンベースの及びこの薬学的に容認できる塩の組み合わせを含浸させるステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記基材に抗菌剤を含浸させるステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項26】
前記基材に、クロルヘキシジンベースの又はこの薬学的に容認できる塩を含浸させるステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記基材に二酢酸クロルヘキシジンを含浸させるステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記基材にクロルヘキシジンドデカノエートを含浸させるステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記基材にゲンチアナバイオレットを含浸させるステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記基材にブリリアントグリーンを含浸するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記基材から管状構造を形成するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項32】
前記基材が重合体を含む、
ことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項33】
前記重合体がポリウレタンを含む、
ことを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記線維素溶解酵素を前記医療機器の先端上で固定化するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−195792(P2010−195792A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−59874(P2010−59874)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(500552489)テレフレックス・メディカル・インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】