説明

完全処方油の低温粘度特性と相関する基材中残留ワックス汚染試験の適用

基材油中の低温残留ワックス汚染を迅速に決定することにより、基材油品質と、前記基材油を用いて製造した完全処方油の低温粘度特性のリアルタイム相関のための基礎が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、完全処方潤滑油の低温粘度特性を、そのような油の製造に用いた基材のワックス含有量の分析に基づいて予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油基材の製造に用いる脱ロウプロセスにおいては、適切な基材製造の範囲内にあるとして許容可能な量を超えるワックス量を有する基材の存在に起因する、プロセスの故障または非効率が生じることがある。そのような汚染ワックスまたは過度のワックスは、溶剤脱ロウプロセスで用いるワックスの濾布における裂け目(rips or tears)を通じてのワックス漏洩、溶剤脱ロウプロセスへの過負荷、接触脱ロウプロセスで用いる触媒床を通じての基材のチャネリング、または接触脱ロウプロセスへの過負荷によるワックス漏洩の結果として、或いは、触媒の活性または選択性が不十分であることや、不適切な脱ロウ条件に起因して、プロセスへの原油または原料材が、実質的に予想とは異なることによって生じうる。
【0003】
脱ロウプロセスに欠点がなく、また無効でもない場合に油中に存在するワックス(本明細書では「許容可能」として認められる)に比して、残留ワックス汚染は、残留ワックスを含むそのような基材油から製造されるあらゆる処方油を、低温で適切に機能しなくしうる。即ち、不十分な低温粘度特性を有するものとしうる。
【0004】
しかし、そのような残留ワックス汚染の存在は、流動点またはくもり点の決定などの標準的なワックス同定技術によって、容易に決定または検知できない可能性がある。即ち、標準的な流動点および/またはくもり点決定技術を用いて試験した場合、十分な残留ワックスを含む基材であって、その基材を用いて製造される処方油が、不十分な低温粘度特性を有する原因となる基材が、依然として規格に合格する可能性がある。
【0005】
残留ワックス汚染は、十分に高い場合には、基材におけるワックス結晶の成長をもたらしうる。ワックス結晶は、完全処方油中で、低温粘性度における過度な非ニュートニアンの増大をもたらしうる。これは、低温における高い粘性および/または低いポンプ輸送性をもたらす。ワックス結晶はまた、基材から製造された仕上げ完全処方油におけるろ過性の減少または減損をもたらしうる。低温粘度またはろ過性が臨界的である油(エンジン油、油圧油、トランスミッション流体など)においては、低温粘度の増大、もしくはろ過性の減少または減損は、油を適切に機能しなくしうる。残留ワックスに関する他の潜在的な課題は、ワックス結晶が、静置中の油中にヘーズを形成しうることである。これは、顧客の視点から望ましくない。
【0006】
残留ワックス汚染のワックス結晶の成長は、典型的には、緩やかな過程である。そのような結晶は、数日間または数週間が経過して初めて、人間の目に見えてくる場合がある。その結果、同定されない残留ワックス汚染を含むそのような基油を用いて、完全処方油が製造されることがありうる。これは、生成物のバッチ全体を、粘度規格不合格にする結果をもたらす。
【0007】
殆どのワックス結晶決定技術は、目視評価、または基材粘度の粗(gross)変化による。従って、くもり点、終夜くもり点およびワックスヘーズ外観は、目視に依存する試験の例である。基油が逆さにしたビーカーから流れ出ない能力による本来の手動流動点法を用いるか、ISL流動点、Phase Technology流動点、ヘルツォーク回転流動点法などの自動化法を用いるかのいずれにせよ、流動点法は、基材粘度の粗変化による技術の例である。これら全ての方法は、基油のワックス含有量が許容可能か否かを推定するのに適した粗ワックス同定法である。それらは、残留ワックス汚染の同定、定量または確証に良好または十分に適切するものではない。殆どのこれらの試験はまた主観的であり、このことは、それらの試験の信頼性がなくなることや、正確性・厳密性の範囲が広がることに通じる。
【0008】
ヘーズまたはワックス結晶の形成の開始およびその程度を、光の透過率、もしくは反射光の程度または強度の変化によって測定する電子分析装置を代用することにより、人的要素が、ワックス結晶形成の決定から排除される。現在、くもり点、凝固点および流動点を決定するのにそのような装置を利用可能である。分析装置は、小さな試料セル(約0.15ml)を通って散乱する光を用い、固体ワックス粒子(光が反射される)の存在を検知する。反射光は、連続的に、光センサーによって検知される。或いは、干渉性のワックス結晶による、試料セルを通る光の透過率の漸下も、ワックスの存在を検知するための手段である。しかし、既に示したように、くもり点、終夜くもり点および流動点は、処方潤滑油の最終的な低温粘度特性を、残留ワックス汚染に関して予測するための基準として用いるのに、十分に敏感なものではない。完全処方潤滑油が、くもり点および/または流動点に関して、同油に確立された規格に合格しているにも係わらず、同油の基本的な低温粘度特性(例えば、コールドクランキングシミュレーター(CCS)粘度またはミニ−ロータリー粘度計(MRV))において、しばしば不合格となることが見出されている。
【0009】
基油の残留ワックス汚染と、仕上げ油の低温粘度特性を、リアルタイムで相関させることは、最終生成物の低温粘度を満足する処方油の製造を可能にする。
【0010】
【非特許文献1】Harald MartensおよびTormod Naes著「多変量較正」(John Wiley and Sons、1989年)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、生成物の低温粘度特性を満足する完全処方油の製造において、基材として用いる基材油の適合性を、リアルタイムで決定する方法に関する。第一の実施形態においては、前記方法は、
(a)完全処方油について、少なくとも一種の低温粘度特性を選択する工程;
(b)次の工程(1)〜(10)によってトレーニングセットを作製する工程:
(1)完全処方油の製造に用いる適切な候補脱ロウ基材油試料を確定する工程
(2)前記基材油試料中の全ワックスを融解するのに(好ましくは、前記試料中に存在する水分を除去するのにも)十分な時間および温度まで、前記試料を加熱する工程
(3)加熱された前記試料を撹拌して、均一性を確実にする工程
(4)加熱および冷却手段を具備し、光源によって発生した光の反射、または光の透過率を測定するように装備された試料セル中で、前記油を、基油の規格流動点の20℃上〜基油の規格流動点の5℃下に冷却する工程
(4a)温度変化後の装置の安定性および信号のサイズに応じて、前記試料および前記試験セルが安定するのを待つ工程
(5)前記試料からの散乱/反射光、または前記試料を通る透過光の信号を、安定化期間後に前記工程(4)の温度で測定して、第一の強度の読みを確定する工程
(6)前記試料を、前記工程(4)の温度で1分〜3時間(好ましくは約30分〜90分)保持する工程
(7)前記工程(6)の保持時間の最後に、前記散乱/反射光または透過光の信号を測定して、第二の強度の読みを確定し、前記第一および第二の信号の読みの間の信号強度の変化(デルタ信号強度)を測定する工程
(8)前記基材を用いて油生成物を処方し、前記工程(a)の、生成物品質と関連する前記選択した低温粘度特性を測定する工程
(9)前記工程(4)および工程(6)の温度における前記デルタ信号強度と、処方油の前記選択した粘度特性の間に関係が観測されるまで、必要に応じて、規格流動点の20℃上〜5℃下の異なる温度を用いて、前記工程(1)〜(8)を繰り返す工程
(10)前記工程(4)および工程(6)の温度における前記デルタ信号強度を、前記選択した低温粘度特性と相関させる工程
(c)前記基油を、前記工程(1)〜(8)に付す工程;および
(d)前記基油の、前記工程(c)のデルタ信号強度を、相関データベースと比較して、前記選択した低温粘度特性を有する処方油を、前記基油を用いて製造可能か否かを予測する工程
を含む。
【0012】
任意に、また好ましくは、同じまたは異なる脱ロウ基材油の一種以上の更なる試料を、独立に前記工程(b)(1)〜(9)に付して、複数の基油試料についての、デルタ信号強度/選択した処方油低温粘度特性のデータベースを作成する、工程(9a)を実施しうる。
【0013】
第二の実施形態においては、本発明は、生成物の低温粘度特性を満足する完全処方油生成物の製造において基材として用いるための基材油の適合性を、リアルタイムで決定する方法であって、
(a)完全処方油について、少なくとも一種の低温粘度特性を選択する工程;
(b)次の工程(1)〜(6)によってトレーニングセットを作製する工程;
(1)完全処方油の製造に用いる適切な候補脱ロウ基材油の試料を確定する工程
(2)前記試料中の全ワックスを融解し、かつ前記試料中に存在する水分を除去するのに十分な時間および温度まで、前記基材を加熱する工程
(3)前記試料を撹拌して、均一性を確実にする工程
(4)加熱および冷却手段を具備し、光源によって発生した光の反射、または光の透過率を測定するように適合された試料セル中で、前記試料を、油の流動点規格の約20℃上から、流動点規格の約5℃下、好ましくは、油の流動点規格の約10℃上から、流動点規格の約2℃下まで緩やかに冷却し、反射/散乱または透過の信号を測定し、信号強度の経時変化(デルタ信号強度)を測定する工程
(5)前記基材油を用いて製造した油を処方し、前記工程(a)の、生成物品質と関連する前記選択した低温粘度特性を測定する工程
(5a)任意に、同じまたは異なる脱ロウ基材油の一種以上の更なる試料について、前記工程(1)〜(5)を繰り返し、複数の基油試料についての、デルタ信号強度/選択した低温粘度特性のデータベースを作成する工程
(6)前記デルタ信号強度を、前記選択した低温粘度特性と相関させる工程
(c)前記基油を、前記工程(1)〜(4)に付す工程;および
(d)前記基油についての、前記工程(c)のデルタ信号強度を、相関データベースと比較して、前記選択した低温粘度特性を有する処方油を、前記基油を用いて製造可能か否かを予測する工程
を含む方法である。
【0014】
次いで、任意に、工程(e)として、全ての未知試料について得られた、工程(c)のデルタ信号強度と、選択した低温粘度特性の間の関係の情報自体を、データベースに含めることができる。
【0015】
実施形態1の工程(4)および(6)、または実施形態2の工程(4)においては、適切な確固とした相関を得るために、実施形態1における両工程の温度および工程(6)の期間、または実施形態2における工程(4)の温度を変化させてもよい。実施形態2の工程(4)におけるように、限定数の試料についての実施形態2の温度傾斜を用いて、実施形態1の工程(4)で用いるための適切な目標温度を選択する、または適切な温度傾斜を選択することにより、この手順を加速し、完全データベースおよび相関を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
完全処方油の低温粘度特性には、限定されることなく、ミニロータリー粘度計(MRV)の粘度および降伏応力、ブルックフィールド粘度、走査ブルックフィールド粘度、コールドクランキングシミュレ−ション(CCS)および流動点が含まれる。
【0017】
選択した低温粘度特性とDIの間に有効な(workable)相関を構成するものは実施者に委ねられ、特定の基材油、仕上げ処方油生成物および選択した低温粘度特性に対して決定される。しかし一般に、選択された低温粘度特性は、信号強度が増大し始める温度(即ち信号強度の初めの初期変化が始まる温度)、即ちDIの開始温度と相関させる。この相関は、温度傾斜を用いる場合に決定される。或いは、および等しく有効な、選択した低温粘度特性を、信号の所定のデルタ強度に到達する温度と相関させる。更にまた、選択した低温粘度特性を、所定の温度で測定されるデルタ信号強度と相関させる。信号の所定のデルタ強度、所定の温度またはDI開始温度は、トレーニングセットを作成することから決定されるものであり、仕上げ処方生成物に処方した油により、選択された低温粘度特性に合格することと協調するものである。従って、デルタ信号強度、所定の温度またはDI開始温度と、選択した低温粘度特性の間の関係は、基油の特定の温度における最大DI値や、特定のDI値における温度またはDIの開始が生じる温度(それらを超えると、基油から製造した処方油が予め選択した低温粘度特性に不合格となる)を同定する。
【0018】
従って相関は、DIまたはDIの開始を、処方油生成物(異なる油を用いて製造され、予め選択した低温粘度特性を有する)による合格または不合格と関連付ける。トレーニングセット作成のために試験した各油(および市販の処方目的のための全てのその後の基油)は、特定のDIをもたらすか、温度傾斜において、特定の温度でDIの開始を示す。
【0019】
実施形態1においては、実施者は、特定の処方生成物の選択した低温粘度特性を、合格または不合格について検討し、不合格の油について、不合格の基油のDIを、合格した基油のDIおよびこれが観察された温度と比較して決定する。次いで、特定の処方油生成物を製造する際に用いることを考慮して、その温度を、全ての未知の基油についてDIを測定する所定の温度とする。
【0020】
実施形態2においては、実施者は同様に、特定の処方生成物の選択した低温粘度特性を、合格または不合格に対して検討し、不合格の油についての、信号強度の変化の開始が観察される温度傾斜の温度(DI開始温度)、または不合格の生成物を製造した基油についての特定のDIを決定する。次いで、処方する基油の不適合性を示す特定の処方生成物を製造する際に用いることを考慮して、その温度を、温度傾斜における、未知油についてのデルタ強度の開始または特定DI達成の観察の温度とする。
【0021】
本発明の実施に際し、試料中のワックスを溶解し、試料中に存在する水分を除去するのに十分な時間および温度の試料の加熱は、典型的には、約50℃〜150℃、好ましくは約60℃〜120℃、より好ましくは約100℃の温度で、約3時間まで、好ましくは約2時間まで、より好ましくは約10秒〜1時間までである。ワックスを溶解し、水分を除去する所望の温度への加熱速度は重要ではない。しかし、実際には約20℃/分〜60℃/分、好ましくは約40℃/分〜60℃/分、より好ましくは約40℃/分である。
【0022】
次いで試料を、試料の均一性を確実にするのに十分な条件に付す。そのような条件には、激しい振とうまたは撹拌が含まれうる。試料が十分な大きさを有し、試験セルが十分な大きさおよび耐久性を有する場合、この加熱および撹拌は、試験セル中で達成されうる。十分に大きなセルにおいては、磁気撹拌装置を用いうる。しかし一般には、振とうで十分である。或いは、試料を別のガラス瓶または容器内で加熱および撹拌し、次いで試験セルに移すことができる。
【0023】
任意に、実施形態1または実施形態2のいずれかにおいて、次いで、加熱/撹拌された試料を、一貫した冷却速度で周囲条件に冷却する工程(3)(a)を実施しうる。評価する所定の試料に対して実施者が必要または望ましいと考えるならば、ワックスを溶解し、水分を除去する加熱および周囲条件への冷却は、何度繰り返してもよい。またこれを、試験セル内で行うこともでき、別の容器で行う(このとき油は、周囲温度に冷却してから試験セルに移す)こともできる。
【0024】
第一の実施形態においては、試料を周囲温度に、次いで油の規格流動点の約20℃上〜その5℃下の目標温度に冷却するが、各段階の冷却速度もまた、同じタイプの異なる試験装置を用いる場合でも、試料間で一貫したままとすべきである。
【0025】
実施形態1または2における周囲条件への冷却速度は、それが試料間で一貫している限り、いかなる速度でもよい。周囲条件への好ましい冷却速度は、約5〜100℃/分、好ましくは30〜50℃/分でありうる。
【0026】
実施形態1の、規格流動点の約20℃上〜その約5℃下、好ましくはその約10℃上〜その約2℃下への冷却速度は、約20℃/分〜60℃/分、好ましくは約40℃/分でありうる。
【0027】
実施形態1においては、試料を一旦基油の規格流動点の約20℃上〜その5℃下、好ましくはその約10℃上〜その約2℃下の選択された温度に冷却し、必要に応じて、試料を、試料および試験セルを安定させるのに十分な待機期間(典型的には、0〜500秒、好ましくは0〜350秒、より好ましくは0〜100秒)に付す。
【0028】
第二の実施形態においては、基油の規格流動点の約20℃上〜その約5℃下、好ましくはその約10℃上〜その約2℃下の温度範囲に亘る試料の冷却段階中に、信号を読み取るが、この冷却もまた、試料および装置間で一貫した速度にある。約0.1〜1℃/分、好ましくは0.2〜0.75℃/分、より好ましくは約0.25〜0.50℃/分である。
【0029】
用いる油は、所望の生成物を製造するのに用いられ、溶剤脱ロウまたは接触脱ロウを実施して製造される実際の油の試料でありうる。本文および添付の請求項で用いられる用語「適切な候補脱ロウ基材油」とは、少なくとも、基油の目標流動点および/またはくもり点を満足し、典型的には、相関が作成されつつあるタイプの処方生成物を製造するのに用いられる油を意味する。これは好ましいものの、本発明を実施するのに必須ではない。例えば、典型的な基油が通常、−4℃以下の目標流動点を有する場合、トレーニングセットを作成するのに用いられる油も同様に、流動点約−4℃を有する。即ち、0℃、+2℃等の流動点を有する基油は適切でない。しかし、例えば−2、−4、−8、−10℃等の流動点を有する基油は適切である。或いは、残留ワックスの汚染がないと知られ、所望の処方油生成物を製造するのに典型的に用いられる油の目標流動点またはくもり点を満足する実際の油の試料を、既知の特性を有する種々の既知量のワックスでスパイクすることができる。スパイクした試料が依然として目標流動点またはくもり点を満足する場合には、次いでそれを用いて、デルタ信号の組を作成し、処方油を作成してそのような処方油に対し当該の粘度特性が満足されるか否かを確立し、また、デルタ信号を選択した低温粘度特性と相関させるデータベースを作成することができる。
【0030】
残留ワックス汚染の、測定/選択された低温粘度特性に対する最も信頼性ある確固とした相関は、データベースにおいて予期される、最も幅広い範囲の残留ワックスタイプおよび予測される濃度を示すことによって得られる。これは、残留ワックスのタイプおよび濃度が、光散乱効率および低温粘度特性の両方に影響を及ぼしうるためである。全範囲の残留ワックスタイプおよび濃度を有する試料をデータベースから省略すること、および得られる相関を偏らせ、または歪めうる特別の残留ワックスタイプおよび/または濃度を有する試料をデータベースに包含することの両方によって、相関の信頼性は減少されうる。
【0031】
当業者ならわかるように、データの再現性および信頼性を確実にするためには、変化を受けやすいそれらのパラメーター、測定および工程(最終的な仕上げ生成物の処方を含む)に関して一貫性があることが重要である。基油自体に関しては、基油は、溶剤脱ロウまたは触媒脱ロウプロセスのいずれかによって脱ロウされる。実施例1に示されるように必要ではないが、所定の処方生成物製造のための潜在的に適切な基材としての用途を評価する、または評価すべき基油を、同じ方法で脱ロウすることが望ましく、また好ましい。即ち、接触脱ロウ材は、接触脱ロウ材と比較・グループ化し(好ましくは同じ接触プロセスを用いて製造する)、溶剤脱ロウ材は、溶剤脱ロウ材と比較・グループ化(好ましくは同じ溶剤脱ロウプロセスを用いて製造する)すべきである。本発明において作成される相関は、考慮される、異なる各処方に対して特異的である。
【0032】
従って、デルタ信号強度と、選択した処方油低温粘度特性の間の関係は、同じ組み合わせの添加剤を用いて製造された処方生成物に対しては有効である。例えば、粘度指数向上剤、流動点降下剤などの添加剤の変化は、たとえ名目上、同じ最終生成物の試験の結果をもたらすとしても、異なる処方を生じる。そのような添加剤の相違は、異なる結果をもたらしうる。ある一つの添加剤パッケージを用いて合格結果を示す油は、ここで、異なる添加剤パッケージを用いると、異なる結果を示すか、不合格結果をもたらす。
【0033】
処方油生成物の特定の低温粘度特性に関し、ある一つの油または油の組について得られた相関を、明らかに異なる生成物(たとえ同じ特性としても)について、その特定の低温粘度特性に関し、それらの油の合格または不合格を予測するための基準として用いるべきではない。例えばエンジン油生成物のための油に関する相関を、例えばオートマティックトランスミッション流体に関する予測のための基準として用いるべきではない。
【0034】
同様に、一旦冷却プロフィルを選択したら、データベースを作成するのに用いる全ての基油試料、および特定の仕上げ処方油生成物を製造するために評価する全ての未知基油に関して、同じ冷却プロフィルを用いることが重要である。試験セルの寸法、試験セルの構成物質、光源、測定装置等は、試料間でできる限り均一かつ一貫して保持し、基油試料の残留ワックス汚染以外のいかなる変動をも排除しなければならない。基油の加熱温度、時間、並びに均一性を確実にする撹拌方法および周囲条件への冷却方法さえも、不測の変動を引き起こし得るいかなる源をも除去するように、試料間で同じに保つべきである。
【0035】
本発明を実施するための種々の装置が存在する、またはそれを容易に製作できる。光分散測定をするのに適切な装置には、Phase Technologies(カナダ、ブリティッシュコロンビア州、リッチモンド)のPV 70分析計、およびHach 2100 AN濁度計(Hach Inc.コロラド州)が含まれる。光透過測定をするのに適切な他の装置は、任意の、紫外〜可視、近赤外分光光計(例えば、Perkin Elmer(コネティカット州、ノーウォーク)である。
【0036】
スペクトルの紫外、可視および/または赤外の波長範囲内の広い、または狭い帯域光を、光源として用いうる。ただし、光源および波長を一旦選択したら、データベース作成のために評価する全ての基油、および何らかの特定の仕上げ処方油生成物のために試験する全ての未知の油試料に対して、その選択を一定に保つ。
【0037】
特定の処方油生成物製造に用いるための未知基油を評価する際に、データベースに含まれる情報を信頼して用いることを可能にするのは、そのような均一性のみである。
【0038】
近赤外(約700〜約1000nm、好ましくは約820nm〜約900nmの波長を有するものなど)は、最も幅広い種類の試料に適用するのに有用であって、いくつかの試料(特に暗色のもの)による、散乱に替わる吸収による干渉が防止される。
【0039】
或る時に装置を用いて行った測定を、他の時に行ったものと比較しうること、また或る装置で行った測定を、他の装置で行ったものと比較しうることを確実にするためには、装置を較正しなければならない。光散乱装置は、既知の濁度の標準に対する信号強度を測定することによって較正しうる。そのような標準の供給業者には、HachおよびGFS Chemicalsが含まれる。装置の信号は、既知の値と通常一次関数で相関される。相関関数は、試験試料について測定された信号強度に適用される。
【0040】
いくつかの装置では、粒子サイズに対する信号の依存性が、時間と共に、または装置間で変動することがある。その場合には、この結果もまた較正すべきである。これは、既知の(好ましくは均質の)粒子サイズを有するビーズの懸濁物からの信号強度を測定することによって、当該の粒子サイズ範囲(典型的には約0.1〜10μm)に亘って行うことができる。粒子サイズによる信号の変動が、時間と共に、または装置間で一貫するまで、装置を調整する。
【0041】
同じ装置からの一貫した読み取り、および同じタイプの異なる装置間の信頼性のある読み取り能力を確実にするための装置の較正は、化学分析および一般的な分析技術の従業者には周知の技術であり、また従業者には重要と認められる。
【0042】
処方する者が、基油を用いて処方仕上げ生成物を実際に製造する前に、処方油が低温粘度特性の目標を満足するという自信を持って、仕上げ生成物の処方に用いるあらゆる基油バッチの適合性をリアルタイムに決定することを可能にするものは、短期間における低温でのデルタ信号強度によって示される、この残留ワックス含有量の測定である。これはまた、精製業者が、脱ロウおよび他の運転を調整して、仕上げ生成物の処方に用いるのに適切な基材を製造することを可能にする。それは、精製業者が、進行中に調製することを可能にし、そのため製造された基材は、低温粘度特性の規格を満足する処方仕上げ生成物を製造する。
【実施例】
【0043】
実施例1
殆どの製油所で製造される基材グレードの一つは、ブライトストックである。このグレードは、接触プロセス(キャットDW)または溶剤脱ロウ(SDW)プロセス(液体プロパン、メチルエチルケトン(MEK)−トルエン混合物などの溶剤を脱ロウ溶剤として使用)のいずれかを用いて製造される。
【0044】
用いる処理条件および処理装置の機械的状態によって、残留ワックスによる汚染が生じうる。前に示したように、ワックス汚染は、SDWプロセスで用いる脱ロウ濾布の裂け目を通じて、またはキャットDWプロセスにおけるバイパスの形成、チャネリング、または不十分な触媒選択性によって生じる恐れがある。
【0045】
種々の製油所素材からのブライトストック(SDWまたはキャットDWプロセスを用いて製造される)について、数種の試料を、検討で評価して、残留ワックス汚染が存在する程度を決定し、また同試料を用いて処方したエンジン油のミニロータリー粘度計(MRV)低温粘度特性に関して、試料間の差を定量した。残留ワックス汚染を検知するのに用いる先行技術の例として、くもり点(ASTM D2500)を、各ブライトストック試料について決定した。
【0046】
本発明を具体的に説明するために、可視赤色光分散を用いるPhase Technology分析計を用いて同じ試料を分析した。試料をオーブン中100℃約1時間加熱し、実験台上で30分間静置冷却し、次いで試験セルに装入し、分析計で分析した。試料の一部0.15mlを、ピペットで装置の浅い筒形試料カップに取った。これは直径約1cmであり、底部に反射表面を有する。カップの頂部は、試料室に開き、室のカバー内の光検知器に面する。赤色LED光源からの光は、斜め角度で、試料カップの反射底部の中央方向に送られる。試料中に粒子が全く存在しないと、光は鏡から、検知器から離れて反射する。粒子が存在すると、それらは、光のいくらかを検知器方向に散乱し、そこで信号強度の増大として記録される。カップの温度は、ペルティエ装置によって制御される。シールされた試料室は、温度プログラム中乾燥ガスでパージされる。次の温度プロフィルを分析で用いた。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
先ず各試料を60℃に加熱し、その温度で10秒間保持し、次いで20℃に冷却した。これに続いて、試料を直ちに60℃に再度加熱し、そこで10秒間保持した。初期の加熱段階の目的は、試料の熱履歴効果を破壊することであった。これは、ワックス結晶化速度および分析結果に悪影響を及ぼすことがある。加熱段に続いて、試料を0℃または8℃(それぞれ、プロフィルBおよびD(段階D)を参照されたい)のいずれかに冷却した。各試料が目標温度(0℃または8℃)に達した後、60〜72秒の安定化期間に続いて、試料から散乱された光強度の初期測定を、分析計によって記録した。30秒の均熱期間の終りにおける散乱光の最終強度も記録した。初期強度と最終強度の差を、デルタ強度(DI)パラメーターとして記録した。これは、Phase Technology分析計を用いる分析の主たる結果である。
【0050】
分析に選択する適切な温度プロフィルは、試料のタイプおよびそれを製造するのに用いるプロセスに依存する。最終均熱温度は、汚染残留ワックスの結晶成長を、妥当な均熱時間(例えば30分)内に、分析計によって高い信頼性で検知されうる程度に促進するのに十分に低くなければならない。しかし、正常に存在する許容可能な(即ち、汚染ワックスではない)ワックスからの結晶の成長が促進され、試料に対して決定されるDI値を増大し/それと干渉する程低くてもならない。この実施例においては、プロフィルB(0℃/30分)は、SDWプロセスによって製造された特定のブライトストック試料に対して適切であると見出され、プロフィルD(8℃/30分)は、キャットDWプロセスによって製造されたブライトストック試料に対して適切であることが見出された。この検討に含まれるブライトストックの種々の試料の分析には、両プロフィルを用いた。即ち、他の基材に対しては、その粘度グレード、およびそれらを製造するのに用いられる脱ロウプロセスに応じた他のプロフィルが適切である。
【0051】
ブライトストックの同じ種々の試料を用い、20W50エンジン油の個々の混合物を、各成分の固定標準百分率を用いて調製した。この一連の混合物を調製するに際しては、ブライトストック成分(素材)のみを変化させた。即ち、残留ワックス含有量を試験したものと同じ物理的試料からくる油の各容積と、他の成分のそれぞれの固定標準百分率を、各混合物を調製する際に用いた。エンジン油混合物の特性と、混合物に用いた各ブライトストック試料のDI/くもり点決定を、表3にまとめる。20W50混合物のミニロータリー粘度計(MRV)の結果を、個々のブライトストック成分のくもり点の関数として図1にプロットする。このグラフは、基材中のワックス汚染を検知するのに用いる先行技術を示す。これらの結果は、ブライトストック成分のくもり点が、対応するエンジン油のMRVの信頼できない指標であることを示す。この検討で観察されたくもり点の全範囲に亘って、許容しがたいほど高い(不合格の)MRVの結果が生じうることや、それを超えると不合格のMRV結果を生じるような明確なくもり点を、確信をもって確立することはできないことが明らかである。
【0052】
20W50混合物のMRV結果を、個々のブライトストック成分に対して決定されたデルタ強度(DI)値の関数として、図2にプロットする。ここに、DI値は、MRVの結果に対し、図1のくもり点の結果より向上された相関を示す。図2の結果に基づいて、対応するエンジン油のMRVが最大限界を超えないことを確実にするには、基材の最大DI値約4.0が必要とされることが判る。図1と比較した図2の結果は、本発明により達成可能な、先行技術を超える向上を示す。
【0053】
【表3−a】

【0054】
【表3−b】

【0055】
実施例2
2500SUS基材を用いる20W−50エンジン油における、温度傾斜を用いるMRVの制御
実施例1におけると同じ装置を用い、しかし一定温度の均熱期間よりむしろ実施形態2における温度傾斜を用いて、実施例1の試料をまた試験した。これらの基材に対する規格目標流動点は、−6℃である。試料を100℃で1時間保持し、次いで試料を激しく撹拌した後、試料を試験セルに入れ、この温度プログラムに付した。
【0056】
【表4】

【0057】
段階Aの開始温度は、試験セルの温度をいう。試料温度は、試験セルに入れる直前にはほぼ100℃である。
【0058】
段階BおよびCの温度サイクルシーケンスは、必須の段階でなく、水含有量を更に低減し、試料中の急速にヘーズ状に変わるワックスを溶解するのに有用である。段階Eの後の分離安定化期間は、この場合には用いなかった。何故なら、結晶化が生じる温度より十分に高い温度から温度傾斜が開始されるからである。
【0059】
この実験(実施形態2)においては、温度は14℃から−2℃へ傾斜されるが、種々のパラメーターが、MRVに相関させるのに利用可能である。これには、開始閾値、即ち小さな一定信号の増大に達する温度、より大きなデルタ信号に達する温度、これらの組み合わせおよびこれに関する変形が含まれる。従って、選択した低温粘度特性を、デルタ信号強度に到達する温度と、所定の温度におけるデルタ強度のいかなる組み合わせにも相関させることができる。この目的のために、多重線形回帰、主成分回帰、部分最少2乗分析などの周知の統計技法を用いることができる。非特許文献1を参照されたい。この温度傾斜における4種の試料からの信号を、図3に示す。
【0060】
(10℃、6℃および−2℃の信号)/(傾斜の開始時における14℃の信号)の差を表に示す。これらの温度のうち、6℃の信号は、MRVに対して良好な相関を示す。低いMRV粘度および降伏応力は、処方油に望ましい。次いで、この温度傾斜、短縮された温度傾斜(例えば14℃から6℃)、もしくは均熱による6℃またはその近傍における一定温度(実施形態1における)を用いて、完全なデータベースを展開しうる。実施例1に記載される8℃における一定温度バージョンを用いるデルタ信号は、MRVに良好に相関する。標準的な統計技術を用い、最適光散乱または透過パラメーター、もしくはパラメーターの組み合わせを選択してもよい。
【0061】
この実施例において、用いる最適温度が目標流動点よりはるかに高いこと(+6℃:−6℃の流動点)は、驚くべきことである。温度傾斜は、適切な温度または温度範囲を迅速に同定し、相関を展開するのに用いる際に有用である。
【0062】
【表5】

【0063】
【表6】

【0064】
実施例3
主として600SUS基材を用いる20W−50エンジン油のMRVの制御
生成物の認定には、エンジン油のMRV粘度および降伏応力が特定値より小さいことが求められる。一つのそのような処方は、600SUS(100゜Fで名目600セイボルトユニバーサル秒)の従来の基材67wt%を含む。これらの基材の目標流動点は、−6℃である。同じ性能添加剤成分を用い、但し異なる600SUS試料を用いて、処方油を混合した。それらの試料は同じ流動点を有した。しかし、処方油のMRV降伏応力および粘度は、異なった。試料を、実施例1および2で用いたと同じ装置を用いて試験した。油を加熱し、100℃で約1時間保持した。加熱は、試料をガラス瓶に入れ、オーブン中で行った。加熱および撹拌に続いて、試料を試験セルに入れた。下記表8は、実施形態1の、下記表7の温度プログラムにおける最終の3600秒の均熱段階E(試料が−4℃に達した後、安定化時間約74秒を経た後)において、一定温度−4℃を用いたときの、MRVに対するDIの良好な相関を示す。この場合、最終均熱段階において、安定化時間60秒と共に、温度0℃および時間1800秒を用いると、性能が識別されない。
【0065】
【表7】

【0066】
【表8】

【0067】
従って、当該試験条件下におけるこの処方のためのこれらの油については、−4℃におけるDI約20以下は、低温MRV特性の目標規格(−20℃において、最大粘度60,000cPおよび最大降伏応力<35Pa)に合格するのに最良に相関する。
【0068】
実施例4
主として600SUS基材を用いる20W−50エンジン油(処方1)に関する、温度傾斜を用いるMRVの制御
上記実施例(実施例3)の試料を、実施例1、2および3で用いたと同じ装置を用い、一定均熱温度よりむしろ実施形態2の温度傾斜で試験した。試験セルに入れる前に、油試料を、ガラス瓶中で温度100℃に加熱し、そこで約1時間保持した。
【0069】
【表9】

【0070】
MRVを制御するのに、種々のパラメーターを利用可能である。これには、開始閾値、所定の信号増大に達する温度および所定の温度における信号増大が含まれる。ここで用いる開始閾値は、DIが0.5に達する温度である。図5には、MRVに相関する数値が測定されるDIレベルおよび温度に、破線が示されている。これら全てのパラメーターにより、この場合の異なる挙動が識別されうる。この場合の好ましいパラメーターは、−5℃におけるDIの増大である。図5は、温度が0から−8℃に傾斜させて試験した三種の油についてのDI/温度のプロットを示す。この場合、DI値は、0℃における測定強度を、その後のより低温における測定強度から減じることによって決定された。即ち、0℃における強度は、ゼロ強度の基線を定めた。
【0071】
三種の油に関し、処方油の低温粘度特性を次に示す。これは、各油に対して、−5℃におけるDI増大と相関した。
【0072】
【表10】

【0073】
従って、当該試験条件下におけるこの処方のためのこれらの油に対しては、DI(−5℃)9.2まで(ただし84.2未満)が、当該のMRV低温特性に合格することと最良に相関する。実施例3を実施例4(何れも同じ油試料を用いた)と比較すると、意味ある相関およびDI値のためには、各油試料に対して同じ方法で試験を行わなければならない(試験条件は、試料間で一貫しなければならない)ことが判る。従って、実施形態1を用いて得られたデータは、実施形態2を用いて得られたデータベ−スには適用できない。その逆も同じである。得られるデータが所望のいかなるデータベースにも適用しうることを確実にするためには、試料を処理・試験する際の一貫性が必要である。試料に適用される処理および試験は、データベースを得るのに用いるものと同じである。即ち、実施形態1を用いて得られるデータベースの情報が、未知の試料に対し、有用でありかつ意味ある情報を提供するのは、データベースを得るのに用いた実施形態1の手順に従って、未知の試料を処理・試験する場合のみである。同じことは、実施形態2を用いてデータベースを得た場合にも事実であり、その後未知の試料を、データベースを得るのに用いた実施形態2の手順に従って処理・試験しなければならない。
【0074】
実施例5
主として600SUS基材を用いる20W−50エンジン油(処方2)について、温度傾斜を用いるMRVの制御
実施例3および4からの試料1および3をまた、主として600SUS基材を用いる第二の20W−50エンジン油(二種の更なる試料4および5)で試験した。ただしこの場合、処方油は、処方1とは異なる流動点降下剤を用いた。試料を、実施例1、2および3で用いたと同じ装置を用い、実施例4と同じ温度傾斜で試験した。試料をまた、ガラス瓶中で温度100℃へ加熱し、実施例4におけるように、試験セルに入れる前に、そこに約1時間保持した。
【0075】
この実施例においては、試料1は、20W50エンジン油に混合された際、MRV試験に僅かに不合格である。何故なら、その降伏応力は、要求が<35Paであるのに対し、>35Pa(ただし<70Pa)だったからである。試料3は、この要求に合格する。試料4は、この試験に不十分な不合格である。何故なら、その降伏応力は<280(ただし>245Pa)であったからである。それは、粘度要求≦60,000cPにも不合格であった。試料5は限界線上にあり、一回目の試験には合格し、再試験には不合格である。
【0076】
この実施例においては、開始温度は、MRVと良好に相関しない。何故なら、不十分に不合格の試料4は、僅かに不合格の試料1より低い開始温度を有するからである。図6を参照されたい。当該試験条件下におけるこの処方のためのこれらの油については、DI(−5℃)0.2まで(ただし約1.7未満)が、当該のMRV低温特性に合格することと相関する。この実施例を実施例4と比較すると、当該の選択した低温粘度特性に関する、処方油の合格/不合格と相関するDI限界値を、低温特性を測定する処方に対する変化に応じて変化させることが必要となる場合があることが明らかになる。本方法は、実施形態1の工程(b)(10)または実施形態2の工程(b)(6)において生じるDIに対する相関に適合させることによって、正確な予測を提供する。
【0077】
【表11】

【0078】
実施例6
グループII軽質ニュートラル基材を用いて処方されたエンジン油(5W−30)のMRVの制御
生成物の認定には、エンジン油のMRV粘度および降伏応力が特定値未満であることが求められる。一つのそのような処方は、120SUSのグループII基材82wt%を含む。これらの基材の目標流動点は、−18℃である。処方油は、同じ性能の添加剤成分と混合された。但し、異なる120SUS基材が用いられた。基材は、同じくもり点および流動点を有し、良好な性能を確実にするため共通の試験を用い、従って、低温試験において同じように機能することが期待された。しかし、これらの二種の基材を用いて混合する潤滑油のMRV挙動は、かなり異なる。
【0079】
先の実施例におけると同じ装置を用いた。
【0080】
次の表は、実施形態2の温度傾斜を用いるDIのMRVに対する良好な相関を示す。試験セルへ導入する前に、油試料を、ガラス瓶中で100℃に加熱し、その温度で約1時間保持した。
【0081】
【表12】

【0082】
種々のパラメーターが、MRVを制御するのに利用可能である。これには、開始閾値、所定の信号増大に到達する温度および所定の温度における信号増大が含まれる。これら全てのパラメーターにより、この場合の異なる挙動を識別できる。この場合の好ましいパラメーターは、−19℃におけるDIの増大である。図7は、二種のグループII軽質ニュートラル基油に対して、温度が−14℃から−22℃に傾斜された際の信号強度の変化(DI)/温度の相関を示す。図は、−15℃〜−21℃の変化を示す。
【0083】
【表13】

【0084】
実施例7
作動油のブルックフィールド粘度の制御
いくつかの用途で用いられる油圧油のブルックフィールド粘度は、最適性能に対して最小に保持されることが望ましい。油は、100SUS基材59wt%を含む。これらの基材の目標流動点は、−18℃である。油圧油は、同じ性能成分と混合された。但し、種々の量のワックスを添加して、精油所での製造における、基材中へのワックスの望ましくない漏洩を模倣した。全ての成分を100℃で1〜2時間混合して、ワックスの完全な溶解を確実にした。先の実施例におけると同じ装置を用いた。次の表は、実施例3に挙げられるのと同じ温度プログラムを用いる実施形態1を用いるDI測定の最終均熱段階で、一定温度−4℃を用いたときの、DI/ブルックフィールド粘度の良好な相関を示す。
【0085】
【表14】

【0086】
油生成物のブルックフィールド粘度(−30℃)の目標は、最大2800cPである。従って、DI値約45は、性能が限界近くであるが、45未満、好ましくは約5DI以下の値では、性能は良好であることを示す。
【0087】
実施例8
オートマティックトランスミッション油のブルックフィールド粘度の制御
オートマティックトランスミッション油のブルックフィールド粘度は、最適性能に対して最小に保持されることが望ましい。検討したATF油は、100SUS基材57wt%を含む。100SUS基材の目標流動点は、−18℃である。油を、同じ性能添加剤成分と混合した。但し、種々の量のワックスを故意に添加して、精油所での製造における、基材中へのワックスの望ましくない漏洩を模倣した。全ての成分を100℃で1〜2時間混合して、ワックスの完全な溶解を確実にした。先の実施例におけると同じ装置を用いた。次の表は、実施形態1(実施例3におけると同じ温度プログラム)を用いるDI測定の最終均熱段階で、一定温度−4℃を用いたときの、DI/ブルックフィールド粘度の良好な相関を示す。
【0088】
【表15】

【0089】
この油生成物のブルックフィールド粘度(−40℃)の目標は、最大20,000cPである。従って、DI値約45は、油試料から処方された生成物の性能が限界近くであるが、DI値45未満、好ましくは約5DI以下(−4℃)では、他の試料に対して示されるように、性能は良好であることを示す。
【0090】
実施例7の油圧油と、実施例8のATFの合格性能に相関するDI値のレベルが同じであることは、単なる一致に過ぎない。一般に、添加剤、共基材および低温試験のタイプ、温度その他の条件は全て、正確なDIレベルの差や、異なるタイプの処方油生成物についての、粘度特性パラメーターの目標に確実に合格すると測定される温度に影響を及ぼし、それに反映される。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】20W50エンジン油混合物のMRV結果を示す。これは、混合物を製造するのに用いた各ブライトストック基油のくもり点(先行技術によって決定される)の関数としてプロットされる。
【図2】20W50エンジン油混合物のMRV結果を示す。これは、混合物を製造するのに用いた各ブライトストック基油についてのデルタ強度(DI)値(本発明の実施形態に従って決定される)の関数としてプロットされる。
【図3】4種のブライトストック基油の試料についての、14℃から−2℃への温度傾斜の一部におけるデルタ強度/温度のプロットを示す。これは、約+9〜+5℃で測定されたデルタ強度と、これらの基油を用いて混合された20W50エンジン油の低温MRVとの良好な相関を示す。
【図4−a】20W50エンジン油混合物を製造するのに用いた13種のブライトストック基油の試料についての、10℃におけるMRV/DIデータをプロットする。6℃で測定したDIデータが、当該の低温MRV粘度特性と最良に相関することを示している。
【図4−b】20W50エンジン油混合物を製造するのに用いた13種のブライトストック基油の試料についての、6℃におけるMRV/DIデータをプロットする。6℃で測定したDIデータが、当該の低温MRV粘度特性と最良に相関することを示している。
【図4−c】20W50エンジン油混合物を製造するのに用いた13種のブライトストック基油の試料についての、−2℃におけるMRV/DIデータをプロットする。6℃で測定されたDIデータが、当該の低温MRV粘度特性と最良に相関することを示している。
【図5】20W50エンジン油(処方1)を処方するために試験された3種の600SUS基油についての、DI/温度のプロットを示す。これは、温度が0から−8℃へ傾斜された際の各試料に対するDIを示す。
【図6】20W50エンジン油(処方2)を処方するために試験された4種の600SUS基油についての、DI/温度のプロットを示す。これは、温度が0から−8℃へ傾斜された際の各試料に対するDIを示す。
【図7】エンジン油を処方するために試験された2種のグループII軽質ニュートラル基材についての、DI/温度のプロットを示す。これは、温度が−15℃から−21℃へ傾斜された際の各試料に対するDIを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生成物の低温粘度特性を満足する完全処方油の製造において基材として用いるための基材油の適合性を、リアルタイムで決定する方法であって、
(a)完全処方油について、少なくとも一種の低温粘度特性を選択する工程;
(b)次の工程(1)〜(10)によってトレーニングセットを作製する工程:
(1)脱ロウ基材油試料を確定する工程
(2)前記基材油試料中の全ワックスを融解するのに十分な時間および温度まで、前記試料を加熱する工程
(3)加熱された前記試料を撹拌して、均一性を確実にする工程
(4)加熱および冷却手段を具備し、光源によって発生した光の反射、または光の透過率を測定するように装備された試料セル中で、前記油を、基油の規格流動点の20℃上〜基油の規格流動点の5℃下に冷却する工程
(4a)前記試料および前記試験セルが安定するのを待つ工程
(5)前記試料からの散乱/反射光、または前記試料を通る透過光の信号を、安定化期間後に前記工程(4)の温度で測定して、第一の強度の読みを確定する工程
(6)前記試料を、前記工程(4)の温度で1分〜3時間保持する工程
(7)前記工程(6)の保持時間の最後に、前記散乱/反射光または透過光の信号を測定して、第二の強度の読みを確定し、前記第一および第二の信号の読みの間の信号強度の変化(デルタ信号強度)を測定する工程
(8)前記基材を用いて油生成物を処方し、前記工程(a)の、生成物品質と関連する前記選択した低温粘度特性を測定する工程
(9)前記デルタ信号強度と、低温処方油の前記選択した粘度特性の間に関係が観測されるまで、必要に応じて、規格流動点の20℃上〜5℃下の異なる温度を用いて、前記工程(1)〜(8)を繰り返す工程
(10)前記デルタ信号強度を、前記選択した低温粘度特性と相関させる工程
(c)前記基油を、前記工程(1)〜(8)に付す工程;および
(d)前記基油の、前記工程(c)のデルタ信号強度を、相関データベースと比較して、前記選択した低温粘度特性を有する処方油を、前記基油を用いて製造可能か否かを予測する工程
を含むことを特徴とする基材油の適合性をリアルタイムで決定する方法。
【請求項2】
生成物の低温粘度特性を満足する完全処方油生成物の製造において基材として用いるための基材油の適合性を、リアルタイムで決定する方法であって、
(a)完全処方油について、少なくとも一種の低温粘度特性を選択する工程;
(b)次の工程(1)〜(6)によってトレーニングセットを作製する工程;
(1)完全処方油の製造に用いる脱ロウ基材油の試料を確定する工程
(2)前記試料中の全ワックスを融解するのに十分な時間および温度まで、前記基材を加熱する工程
(3)前記試料を撹拌して、均一性を確実にする工程
(4)加熱および冷却手段を具備し、光源によって発生した光の反射、または光の透過率を測定するように適合された試料セル中で、前記試料を、油の流動点規格の20℃上から、流動点規格の5℃下まで緩やかに冷却し、反射/散乱または透過の信号を測定し、前記冷却中の信号強度の経時変化(デルタ信号強度)を測定する工程
(5)前記基材油を用いて製造した油を処方し、前記工程(a)の、生成物品質と関連する前記選択した低温粘度特性を測定する工程
(6)前記デルタ信号強度を、前記選択した低温粘度特性と相関させる工程
(c)前記基油を、前記工程(1)〜(4)に付す工程;および
(d)前記基油についての、前記工程(c)のデルタ信号強度を、相関データベースと比較して、前記選択した低温粘度特性を有する処方油を、前記基油を用いて製造可能か否かを予測する工程
を含むことを特徴とする基材油の適合性をリアルタイムで決定する方法。
【請求項3】
前記工程(b)(2)の加熱は、前記試料中の全ワックスを融解し、前記試料中に存在する水分を除去するのに十分な時間および温度であることを特徴とする請求項1または2に記載の基材油の適合性をリアルタイムで決定する方法。
【請求項4】
冷却工程(3a)を実施して、試料を周囲温度に冷却し、周囲温度への冷却速度は、5℃/分〜100℃/分であることを特徴とする請求項1または2に記載の基材油の適合性をリアルタイムで決定する方法。
【請求項5】
基油規格流動点の20℃上〜5℃下への前記試料の冷却速度は、20℃/分〜60℃/分であることを特徴とする請求項1に記載の基材油の適合性をリアルタイムで決定する方法。
【請求項6】
前記工程(4a)の安定化期間は、0〜600秒であることを特徴とする請求項1に記載の基材油の適合性をリアルタイムで決定する方法。
【請求項7】
前記工程(b)(6)の保持期間は、30分〜90分であることを特徴とする請求項1に記載の基材油の適合性をリアルタイムで決定する方法。
【請求項8】
前記反射または透過光は、スペクトルの紫外線、可視光線または赤外線の波長範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の基材油の適合性をリアルタイムで決定する方法。
【請求項9】
同じまたは異なる脱ロウ基材油の一種以上の更なる試料を、独立に前記工程(b)(1)〜(9)に付して、複数の基油試料についての、デルタ信号強度/選択した処方油低温粘度特性のデータベースを作成することを特徴とする請求項1に記載の基材油の適合性をリアルタイムで決定する方法。
【請求項10】
同じまたは異なる脱ロウ基材油の一種以上の更なる試料を、独立に前記工程(b)(1)〜(5)に付して、複数の基油試料についての、デルタ信号強度/選択した処方油低温粘度特性のデータベースを作成することを特徴とする請求項2に記載の基材油の適合性をリアルタイムで決定する方法。
【請求項11】
基油の規格流動点の20℃上〜5℃下の温度範囲に亘る前記試料の冷却は、0.1℃〜1℃/分の速度であることを特徴とする請求項2に記載の基材油の適合性をリアルタイムで決定する方法。
【請求項12】
前記低温粘度特性は、ミニロータリー粘度計(MRV)粘度、降伏応力、ブルックフィールド粘度、コールドクランキングシミュレ−ション(CCS)および流動点よりなる群から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の基材油の適合性をリアルタイムで決定する方法。
【請求項13】
前記選択した低温粘度特性を、信号強度が増大し始める温度(開始温度)と相関させることを特徴とする請求項2に記載の基材油の適合性をリアルタイムで決定する方法。
【請求項14】
前記選択した低温粘度特性を、信号の所定のデルタ強度に到達する温度と相関させることを特徴とする請求項2に記載の基材油の適合性をリアルタイムで決定する方法。
【請求項15】
前記選択した低温粘度特性を、信号の所定のデルタ強度に到達する温度と、所定の温度におけるデルタ強度の何らかの組み合わせと相関させることを特徴とする請求項2に記載の基材油の適合性をリアルタイムで決定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−a】
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【図4−b】
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【図4−c】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−512537(P2007−512537A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541623(P2006−541623)
【出願日】平成16年11月23日(2004.11.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/039224
【国際公開番号】WO2005/054843
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】