説明

官能基含有オレフィン重合体

【課題】 新規な末端官能基含有重合体を提供すること。
【解決手段】 片末端に酸素含有基、イオウ含有基、金属含有基またはハロゲン含有基を有する、オレフィン重合体であって、
[1] 下記一般式(1)


(1)
(一般式(1)中、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜18のアルキル基を表し、Aは炭素数2〜20のオレフィンからなる重合体を表す。)で表される片末端に二重結合を有するエチレン系共重合体(P)の、ビニル基、ビニレン基またはビニリデン基を、酸化剤、スルホン化剤、無水マレイン酸、ヒドロホウ素化剤、ヒドロアルミニウム化剤及びハロゲン化剤から選ばれる少なくとも1種の化合物で処理することによって製造され、
(ii)前記エチレン系重合体(P)が炭素数2〜20のオレフィンを重合することによって得られ、融点を示す結晶性重合体であることを特徴とする、結晶性オレフィン重合体。
[2] [1]記載の重合体を含む接着性材料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端にオレフィン性二重結合を有する重合体を変性して官能基を導入することにより得られる官能基含有重合体とその製造方法、および該重合体を含む接着性材料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン系重合体は、分子構造が非極性であり他物質との親和性に乏しいため、従来から該重合体に各種の官能基を導入することが試みられている。官能基の中でもエポキシ基、マレイン酸基、スルホン酸基、ホウ素およびアルミニウムなどの有機金属含有基、ハロゲン基等の官能基は、それらを基点として派生する種々の誘導体に変換でき、非常に有用である。これらの官能基との反応性を利用してポリオレフィンと他物質との接着性や、印刷性、ポリマーブレンドでの相溶性等に優れた効果を示すことができる。そのため、その原料となる末端に二重結合を有するエチレン・α―オレフィン共重合体の製造法、ならびにその二重結合の変性方法は種々報告されてきた。
【0003】
これまでにこれらの官能基をエチレン系重合体に導入した報告例としては特許文献1の液状エポキシ化変性エチレン系ランダム共重合体がある。しかし、成形品としての実用的な機械的強度を有しておらず、使用領域が限られている。
【0004】
一方、機械的強度を有するエチレン系重合体の酸素変性体が特許文献2において例示されているもが、その変性方法については限定されている。
【0005】
また、特許文献3においては、(1)エチレンに由来する構造単位が81〜100モル%、α−オレフィンに由来する構造単位が0〜19モル%の範囲にあり、(2)GPCで測定した重量平均分子量(Mw)が7000以下であり、(3)分子量分布(Mw/Mn)が1.1≦Mw/Mn≦2.5であり、(4)ビニルまたはビニリデン基を重合体主鎖末端に持ち、1H-NMRで測定したこれらの基の含有量が全片末端の90%以上であることを特徴とするエチレン系重合体のエポキシ化剤による酸素変性体について提案がなされているが、重量平均分子量(Mw)7000以上の官能基含有エチレン系重合体については開示されていない。
【特許文献1】特公平7−91338号公報
【特許文献2】特開2001−2731号公報
【特許文献3】特開2003−73412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、接着性材料、非相溶性樹脂間のバインダー、特にポリオレフィン系樹脂と官能基を持つ樹脂との接着に適した、新規な末端官能基含有エチレン系重合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は
[1] 片末端に酸素含有基、イオウ含有基、金属含有基またはハロゲン含有基を有する、オレフィン重合体であって、
(i) 下記一般式(1)
【0009】
【化1】

(1)
(一般式(1)中、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜18のアルキル基を表し、Aは炭素数2〜20のオレフィンからなる重合体を表す。)で表される片末端に二重結合を有するエチレン系共重合体(P)の、ビニル基、ビニレン基またはビニリデン基を、酸化剤、スルホン化剤、無水マレイン酸、ヒドロホウ素化剤、ヒドロアルミニウム化剤及びハロゲン化剤から選ばれる少なくとも1種の化合物で処理することによって製造され、
(ii)前記エチレン系重合体(P)が、融点を示す結晶性重合体であることを特徴とする、結晶性オレフィン重合体、並びに
[2] [1]記載の重合体を含む接着性材料組成物
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ポリオレフィンセグメントを保有する様々な新規重合体及び接着性材料等の用途を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
本発明は、片末端に酸素含有基、イオウ含有基、金属含有基またはハロゲン含有基を有するオレフィン重合体であって、
(i)片末端に二重結合を有するエチレン系共重合体(P)の、ビニル基、ビニレン基またはビニリデン基を、酸化剤、スルホン化剤、無水マレイン酸、ヒドロホウ素化剤及びハロゲン化剤から選ばれる少なくとも1種の化合物で処理することによって製造され、
(ii)前記エチレン系共重合体(P)が、融点を示す結晶性重合体であることを特徴とする結晶性のオレフィン重合体である。
【0013】
本発明のオレフィン重合体において、重合体鎖の片末端が酸素含有基のものとは、下記一般式(2)
【0014】
【化2】

(2)
(一般式(2)中、A、R1、R2は一般式(1)で定義した通り。)で示されるエポキシ含有重合体、または、下記一般式(3)
【0015】
【化3】

(3)
(一般式(3)中、A´はAで表される重合体よりも骨格を形成する炭素数が2少ない炭素数2〜20のオレフィン系重合体であり、R1およびR2は一般式(1)で定義した通りであり、RおよびRはどちらか一方がRであり、もう一方がRである。)で表される無水マレイン酸基含有重合体等が挙げられる。
【0016】
次に、本発明のオレフィン重合体において、重合体鎖の片末端に硫黄が含有基を有するオレフィン重合体は、下記一般式(4)
【0017】
【化4】

(4)
(一般式(4)中、A、R1およびR2は一般式(1)で定義した通りで、XとYはどちらか一方が水素原子またはヒドロキシル基でもう一方がスルホキシル基を示す。)で表されるスルホキシル基含有オレフィン重合体などが挙げられる。
【0018】
また、本発明のオレフィン重合体において、重合体鎖の片末端にハロゲン基を有するオレフィン重合体は、下記一般式(5)
【0019】
【化5】

(5)
(一般式(5)中、A、R1およびR2は一般式(1)で定義した通り、XおよびYはどちらか一方が水素原子、もう一方がハロゲン原子、またはどちらもハロゲン原子を表す。)で表されるハロゲン含有オレフィン重合体等が挙げられる。
【0020】
一般式(1)中、Aを構成する2〜20のオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテンなどのα−オレフィンが挙げられ、重合体としては、これらオレフィンの単独あるいは相互の重合体あるいは、特性を損なわない範囲で、他の重合性の不飽和化合物と共重合したものであっても良い。この中でも特にエチレン、プロピレン、1−ブテンが好ましい。
【0021】
一般式(1)〜(5)中、R1、R2としては、Aを構成するオレフィンの二重結合に結合した置換基である水素または炭素数1〜18のアルキル基であり、水素、メチル基、エチル基、プロピル基などである。
【0022】
一般式(1)で表されるエチレン系共重合体(P)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略す)により測定した重量平均分子量(Mw)は、400〜500000であり、好ましくは800〜200000であり、さらに好ましくは1000〜100000である。ここで、Mwとは、ポリスチレン換算値である。
【0023】
一般式(1)で表されるエチレン系共重合体(P)のGPCにより測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比、すなわち分子量分布(Mw/Mn)は、1.1〜3.0であり、好ましくは1.1〜2.5である。
一般式(1)で表されるエチレン系共重合体(P)の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、例えば、ミリポア社製GPC−150を用い以下の条件の下で測定できる。
【0024】
分離カラム:TSK GNH HT(カラムサイズ:直径7.5mm,長さ:300mm)
カラム温度:140℃
移動相:オルトジクロルベンゼン(和光純薬社製)
酸化防止剤:ブチルヒドロキシトルエン(武田薬品工業社製)0.025質量%
移動速度:1.0ml/分
試料濃度:0.1質量%
試料注入量:500マイクロリットル
検出器:示差屈折計として、後述の一方の末端に不飽和基を有するポリオレフィンの分子量を測定し末端の分子量相当を除することで測定できる。
【0025】
本発明の一般式(1)で表される片末端に二重結合を有するエチレン系重合体(P)を製造する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
(1)特許文献2〜3および特開2000−239312号公報に示されているようなサリチルアルドイミン配位子を有する遷移金属化合物を重合触媒として用いる重合方法。
(2)チタン化合物と有機アルミニウム化合物とからなるチタン系触媒を用いる重合方法。
(3)バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなるバナジウム系触媒を用いる重合方法。
(4)ジルコノセンなどのメタロセン化合物と有機アルミニウムオキシ化合物(アルミノキサン)とからなるチーグラー型触媒を用いる重合方法。
【0026】
これらの方法のうち、後述する末端ビニル基含有率および末端不飽和率を満足するには(1)の方法がより好ましい。
【0027】
<NMR測定方法>
本発明で用いられる一般式(1)で表される片末端に二重結合を有するエチレン系共重合体(P)の、1H-NMRで測定されたビニル、ビニレンおよびビニリデン型の二重結合のピークは、ビニル基に基づく3プロトン分のピークのうち2プロトン分のピーク(H1)が4.9〜5.0ppm付近、残りの1プロトン分が5.7〜5.9ppm付近に観測される。またビニレン基に由来する2プロトン分のピーク(H2)が5.0ppm付近に観測される。さらにビニリデン基に由来する2プロトン分のピーク(H3)が4.7ppm付近に観測される。これらの積分値と、全プロトンの積分値(Ha)から計算される、末端ビニル基含有率は(L)は下式(I)で定義される。
【0028】
L(mol%)= (H1/Ho)×100 (Ho=H1+H2+H3) (I)
この末端ビニル基含有率(L)は、50mol%以上が好ましく、より好ましくは60mol%以上、さらに好ましくは70mol%以上である。
【0029】
さらにこれらと、片末端に二重結合を有するエチレン系共重合体(P)のH−NMRで測定された全プロトン分のピークの積分値(Ha)およびGPCにより得られたMnから計算される片末端不飽和率(M)は、下式(II)で定義される。
【0030】
M(mol%)=[{Ho/Ha}/{2/(Mn/7)}]×100
={(Ho×Mn)/(Ha×14)}×100 (II)
(ここで、Mn/7は、片末端に二重結合を有する重合体(P)の分子式をC2nとし、分子量12×n+1×2n=14n=Mnとした時の全水素数2nである。)
【0031】
この片末端不飽和率(M)は全片末端の70mol%以上であり、より好ましくは75mol%以上、さらに好ましくは80mol%以上である。
1H-NMRについては、測定サンプル管中で重合体を、ロック溶媒と溶媒を兼ねた重水素化-1,1,2,2-テトラクロロエタンに完全に溶解させた後、120℃において測定した。ケミカルシフトは、重水素化-1,1,2,2-テトラクロロエタンのピークを5.92ppmとして、他のピークのケミカルシフト値を決定した。
【0032】
<エポキシ化方法>
一般式(1)で表される片末端に二重結合を有するエチレン系共重合体(P)の二重結合のエポキシ化方法は特に限定されないが、例として
(1)過ギ酸、過酢酸、過安息香酸などの過酸による酸化、
(2)チタノシリケートおよび過酸化水素による酸化、
(3)メチルトリオキソレニウム等のレニウム酸化物触媒と過酸化水素による酸化、
(4)マンガンポルフィリンまたは鉄ポルフィリン等のポルフィリン錯体触媒と過酸化水素または次亜塩素酸塩による酸化、
(5)マンガンSalen等のSalen錯体と過酸化水素または次亜塩素酸塩による酸化、
(6)マンガン-トリアザシクロノナン(TACN)錯体等のTACN錯体と過酸化水素による酸化、
(7)タングステン化合物などのVI属遷移金属触媒と相間移動触媒存在下、過酸化水素による酸化
を挙げることができる。
【0033】
これらエポキシ化方法の中では、活性面で(1)および(7)の方法によるエポキシ化が好ましい。特に、高融点の重合体のエポキシ化において、反応温度が過酸の分解温度以上になるときは、熱による過酸の分解反応が促進される場合があるため(7)の方法が好ましい。ここで高融点の重合体とは、融点が100℃以上の重合体、好ましくは融点が110℃以上の重合体のことである。
【0034】
以下、(1)および(7)の方法によるエポキシ化について説明する。
(1)の方法において、有機過酸化物の添加量は、片末端に二重結合を有するエチレン系共重合体(P)の二重結合1モルに対し1〜10モル、好ましくは1〜5モルの範囲である。また、反応の温度は0〜150℃、好ましくは10〜100℃であるが、使用する過酸の分解温度以下に設定する必要がある。また、過酸の種類によっては爆発性を示すため温度設定には注意を要する。反応に要する時間は0.1〜10時間、好ましくは0.5〜5時間の範囲である。さらに、ポリマー濃度としては、5〜400g/L、好ましくは10〜300g/Lの範囲である。反応溶媒としては、酸化反応に影響を受けない溶媒ならばどのようなものでも良いが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒を挙げることができる。
【0035】
また、硫酸などの酸性触媒および硫酸ナトリウムなどの塩類存在下、酢酸などのカルボン酸および過酸化水素を用いて、反応系内で過酸を発生させながらエポキシ化を行っても良い。
【0036】
次に、(7)の方法について詳細に説明する。
【0037】
VI族の遷移金属触媒としては、タングステン酸、タングステン酸塩またはタングステン錯体であり、例えば、タングステン酸、タングステン酸アルカリ、タングステン酸アンモニウム、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、等を挙げることができる。特に好適なタングステン酸塩は酸化状態がII、IVおよびVIのタングステン酸塩であり、NaWOまたはタングステン酸アンモニウムの使用が最も好適である。タングステン酸類は単独で使用しても、2種以上を混合使用してもよい。
【0038】
相間移動触媒としては、第4級アンモニウム塩類、窒素環含有第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩、大環状ポリエーテル類等が挙げられるが、第4級アンモニウム塩類または窒素環含有第4級アンモニウム塩類が好ましい。第4級アンモニウム塩類の具体例として、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、トリオクチルエチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。また、これらのブロマイド、ヨーダイド、亜硫酸塩または硫酸塩でもよい。
【0039】
また、窒素環含有第4級アンモニウム塩類としては、窒素環がピリジン環、ピコリン環、キノリン環、イミダゾリン環またはモルホリン環などからなる第4級アンモニウム塩類が挙げられるが、ピリジン環からなる第4級アンモニウム化合物が好ましく、具体例として下記のものが挙げられる。アルキル(炭素数8〜20の直鎖または分岐のアルキル、以下同様)ピリジニウム塩(例えば、N−ラウリルピリジニウムクロライド、N−セチルピリジニウムクロライドなど)、アルキルピコリウム塩(例えばN−ラウリルピコリニウムクロライドなど)、アルキルキノリウムクロライド、アルキルイソキノリウムクロライド、アルキルヒドロキシエチルイミダゾリンクロライド、アルキルヒドロキシモルホリンクロライドなどであり、これらのブロマイド、ヨーダイドまたは硫酸塩でもよい。相間移動触媒は単独で使用しても、2種以上を混合使用してもよい。
【0040】
本発明の方法で使用する過酸化水素の濃度は3質量%〜90質量%、好ましくは5質量%〜70質量%、更に好ましくは10質量%〜50質量%である。過酸化水素の使用量は原料の片末端に二重結合を有するエチレン系共重合体(P)1モルに対し0.5モル〜10モル、好ましくは0.8モル〜8モル、更に好ましくは1.0モル〜5モルである。
本反応において、反応を促進する目的で、リン酸化合物を添加しても良い。リン酸化合物としては、リン酸、α-アミノメチルホスホン酸類を挙げることができる。α−アミノメチルホスホン酸類のアミノ基はアルキル基、アリール基等で置換されていてもよいが、α−アミノメチルホスホン酸類の中でも特に窒素上に少なくとも1つの水素原子を残しているα−アミノメチルホスホン酸類が有用である。α−アミノメチルホスホン酸類の具体例としては、アミノメチルホスホン酸、α−アミノエチルホスホン酸、α−アミノプロピルホスホン酸などが挙げられる。これらのα−アミノメチルホスホン酸およびリン酸は単独で使用しても、2種以上を混合使用してもよい。
【0041】
本発明の製造方法においては、一般的には、タングステン酸類、相間移動触媒およびリン酸類のそれぞれの使用量は片末端に二重結合を有するエチレン系共重合体(P)に対して、0.01〜10モル%、より好ましくは0.1〜5モル%、最も好ましくは0.5〜2モル%使用される。
【0042】
反応溶媒としては、片末端に二重結合を有するエチレン系共重合体(P)、過酸化水素および生成した末端エポキシ基含有重合体に対して不活性なものが使用でき、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン等のケトン類、クロロホルム、ジクロルエタン、トリクロルエタン、パークロルエタン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられる。工業的には、原料の片末端二重結合を含有エチレン系共重合体(P)がその溶媒に対して不溶でない限り、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が好ましい。
【0043】
本発明の一般的な実施態様は、反応器に、タングステン酸類、相間移動触媒、リン酸類、片末端に二重結合を有するエチレン系共重合体(P)を入れて混合し、均一に溶解するまで昇温する。反応温度にした後、過酸化水素水をゆっくり滴下する。反応温度は用いる片末端に二重結合を有するエチレン系共重合体(P)が溶融する温度が好ましいが、25℃から150℃、好ましくは50℃〜110℃、更に好ましくは80〜100℃である。100℃以上で反応する場合、過酸化水素の滴下により突沸する恐れがあるため、オートクレーブ等適切な反応装置を選択する。過酸化水素の滴下速度は、反応速度と反応熱の除去速度にあわせて、徐々に滴下する。本発明の方法では、反応混合物のpHを調製して反応を行ってもよい。pHは、1.0〜4.0の間、好ましくはpH1.5〜2.5の間、特に好ましくはpH2.0程度が好ましい。反応混合物のpHは硫酸、燐酸等の酸の水溶液を添加することにより調整できる。
【0044】
反応時間は使用する触媒の量、反応温度、オレフィン類の反応性等の反応条件により変わるが、通常数分から50時間である。本発明の製造方法では、副生物の生成が少なく、反応後は晶析操作、洗浄等の簡単な操作により、過剰の過酸化水素、触媒、水、反応溶媒を除いて目的とするオレフィン類のエポキシ化合物を得ることができる。
【0045】
また、エポキシ化の反応の確認は、H−NMRおよびIRなどで確認することができる。たとえば、H−NMRの場合、ビニル基を変性したエポキシ基のピークが2.83ppm付近、2.65ppm付近、2.38ppm付近にそれぞれ1プロトンずつ計3プロトン分確認される。また、ビニレン基を変性したエポキシ基のピークが、2.95ppm付近に2プロトン分、ビニリデンを変性したエポキシ基のピークが2.5ppm付近に観測される。反応が充分進行していない場合には、前述した二重結合由来のピークが見られる。
【0046】
<マレイン化>
一般式(3)で表される無水マレイン酸基含有重合体は、一般式(1)で表される二重結合含有オレフィン重合体を、酸性条件下、無水マレイン酸と反応させることにより、目的とする無水マレイン酸基含有オレフィン重合体を得ることができる。
【0047】
<スルホン化>
一般式(4)で表されるスルホン酸基含有オレフィン重合体は、硫酸-無水酢酸、発煙硫酸などを反応剤として一般式(1)で表される二重結合含有オレフィン重合体に反応させることにより得られる。
【0048】
<ホウ素化、アルミ化>
金属含有基含有重合体のうち、ホウ素含有オレフィン重合体は、一般式(1)で表される二重結合含有オレフィン重合体に、ボラン、ジボラン、トリメチルボラン、9−ボランビシクロ[3.3.1]ノナン等と反応させることにより、得ることができる。また、アルミニウム含有オレフィン重合体は、一般式(1)で表される二重結合含有オレフィン重合体に、リチウムアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどを反応させることによって得ることができる。
【0049】
<ハロゲン化>
一般式(5)で表されるハロゲン含有オレフィン重合体は、一般式(1)で表される二重結合含有オレフィン重合体に、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素などを反応させることにより得ることができる。
【0050】
以上に挙げた反応剤による具体的変性条件(温度、時間、触媒種、触媒量等の詳細条件)については、例えばDie Makromolecular Chemie Makromolecular Symposia 48/49, 317-332, 1991に記載された条件に準拠することが可能である。
【0051】
<接着性樹脂組成物>
本発明の末端官能基含有エチレン系重合体は、末端官能基の性質を利用して種々の用途への応用が可能であり、例えば、各種印刷インク、塗料、銅その他の金属との接着性材料、他樹脂との接着性材料、非相溶性樹脂間の接着性材料、特にポリオレフィン系樹脂と末端官能基との反応性を有する官能基を持つ樹脂との界面強度を向上させる接着性材料として使用できる。
【0052】
また、特に本発明の末端官能基含有重合体のうち、末端エポキシ基含有エチレン系重合体は、エポキシ基の反応性を利用して、例えば酸化防止性、紫外線吸収性、防曇性、感光性、発色性、キレート性等を有する各種化合物を導入することによって樹脂添加剤として用いることも可能である。さらに、本発明のエポキシ基含有エチレン系重合体により機械強度が改善された材料を提供できる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
なお、重量平均分子量Mw、およびMw/MnはGPCを用い、本文中に記載した方法で測定した。
【0055】
融点(Tm)は、SIMAZU社製、DSC−60を用いて測定した。測定条件は25〜300℃、10℃/分で測定して得られたピークトップ温度を採用した。ピークが複数見られる場合は、ピーク面積が一番大きいもののピークトップ値を採用した。
【0056】
5%減量温度はSIMAZU社製TGA−50で測定を行った。測定条件は25〜500℃、10℃/分で昇温させた時のサンプル重量変化を測定した。
【0057】
[合成例1]
[固体成分(A)の調製]
窒素流通下、150℃で5時間乾燥したシリカ(SiO)30gを466mLのトルエンに懸濁した後、メチルアルモキサンのトルエン溶液(Al原子換算で3.08mmol/mL)134.3mLを25℃で30分かけて滴下した。滴下終了後、30分かけて114℃まで昇温し、その温度で4時間反応させた。その後60℃まで降温し、上澄み液をデカンテーションにより除去した。このようにして得られた固体成分をトルエンで3回洗浄した後、トルエンを加え、固体成分(A)のトルエンスラリーを調製した。得られた固体成分(A)の一部を採取し、濃度を調べたところ、スラリー濃度:0.150g/mL、Al濃度:1.179mmol/mLであった。
【0058】
[固体触媒成分(B)の調製]
窒素置換した300mLのガラス製フラスコにトルエン150mLを入れ、攪拌下、上記で調製した固体成分(A)のトルエンスラリー(固体部換算で1.91g)を装入した。次に、下記化合物(1)のトルエン溶液(Zr原子換算で0.0012mmol/mL)50.0mLを15分かけて滴下し、室温で1時間反応させた。その後、上澄み液をデカンテーションにより除去し、ヘプタンで3回洗浄し、ヘプタン100mLを加えて固体触媒成分(B)のヘプタンスラリーを調製した。得られた固体触媒成分(B)のヘプタンスラリーの一部を採取して濃度を調べたところ、Zr濃度0.058mmol/mL、Al濃度14.8mmol/mLであった。
【0059】
【化6】

化合物(1)
【0060】
充分に窒素置換した内容積1000mlのステンレス製オートクレーブに、ヘプタン450mlを装入し、室温でエチレン100リットル/hrを15分間流通させ、液相及び気相を飽和させた。続いてプロピレンを20NL導入し、80℃に昇温した後、エチレンで8kg/cm2Gまで昇圧し、温度を維持した。トリイソブチルアルミニウムのデカン溶液(アルミニウム原子換算1.00mmol/ml)0.5ml(0.5mmol)を圧入し、ついで上記固体触媒成分(B)をZr原子に換算して0.0002mmolを圧入し、重合を開始した。エチレンガスを連続的に供給しながら圧力を保ち、80℃で60分間重合を行った後、5mlのメタノールを圧入することにより重合を停止し、降温後モノマーを脱圧した。得られたポリマースラリーをメタノール2Lと混合攪拌後濾過した。得られた生成物を80℃にて10時間減圧乾燥することにより共重合体65.2gを得た。生成物はMw=1890、Mw/Mn=1.68、融点が112℃、1H-NMRで測定した末端ビニル化率(L)は83.9mol%(ビニル基/ビニレン基/ビニリデン基=83.9/13.4/2.8)であり。片末端不飽和率(M)=78.7mol%であった。
【0061】
[合成例2]
プロピレン導入量を23NL、固体触媒成分(B)をZr原子に換算して0.0001mmol加えた以外は合成例1と同様に重合を行ない、共重合体53.2gを得た。生成物はMw=1730、Mw/Mn=1.68、融点が108℃、1H-NMRで測定した末端ビニル化率(L)は78.4mol%(ビニル基/ビニレン基/ビニリデン基= 78.4/17.6/3.9)であり。片末端不飽和率(M)=83.2mol%であった。
【0062】
[合成例3]
プロピレン導入量を28NLに変えた以外は合成例1と同様に重合を行ない、共重合体41.4gを得た。生成物はMw=1310、Mw/Mn=1.66、融点が97.5℃、1H-NMRで測定した末端ビニル化率(L)は70.6mol%(ビニル基/ビニレン基/ビニリデン基=70.6/24.6/4.8)であり。片末端不飽和率(M)=77.2mol%であった。
【0063】
[合成例4]
充分に窒素置換した内容積1000mlのステンレス製オートクレーブに、ヘプタン450mlを装入し、室温でプロピレン100リットル/hrを15分間流通させ、液相及び気相を飽和させた。続いて80℃に昇温した後、プロピレンを4.0kg/cm2Gに昇圧し、温度を維持した。更にエチレンを8kg/cm2Gになるまで導入し、温度を維持した。MMAO(東ソーファインケム社製)のヘキサン溶液(アルミニウム原子換算1.00mmol/ml)0.25ml(0.25mmol)を圧入し、ついで化合物2のトルエン溶液(0.0005mmol/ml)2.0ml(0.001mmol)を圧入し、重合を開始した。エチレンガスを連続的に供給しながら圧力を保ち、80℃で20分間重合を行った後、5mlのメタノールを圧入することにより重合を停止した。得られたポリマースラリーより溶媒を留去することにより生成物を得た。80℃にて10時間減圧乾燥することにより共重合体39.49gを得た。生成物はMw=2940、Mw/Mn=2.17、1H-NMRで測定した末端ビニル化率(L)は84mol%(ビニル基/ビニレン基/ビニリデン基=84.0/14.5/1.5)であり。片末端不飽和率(M)=71.3mol%であった。
【0064】
【化7】

化合物(2)
【0065】
[実施例1]
温度計、窒素導入管、コンデンサーを備えた200mlセパラブルフラスコに、合成例1で得られた片末端不飽和エチレン/プロピレン共重合体(Mw1900、Mn1130、末端不飽和率(L)=78.7mol%)20.0g(二重結合換算で13.99mmol)、トルエン80g、NaWO・2HO 0.293g(0.89mmol)、85%リン酸44mg(0.44mmol)、CH(n−C17N・HSO 0.207g(0.44mmol)を加えて、攪拌しながら90℃まで昇温させて、ポリマーを溶解させた。ポリマー溶解後、90℃に保ったまま、30%過酸化水素水6.06g(53.3mmol)を1時間かけてゆっくり滴下し、さらに5時間攪拌した。IRにてオレフィンの消失を確認後、85℃まで冷却し、攪拌を止めて分液後、水層を除去、温水30gで2回攪拌洗浄、分液、操作を繰り返した後、85℃にて、20%NaSO 2.0gを添加して残存している過酸化水素を失活させた。反応液を80℃以下に冷却後、アセトニトリル80gをゆっくり加えて晶析させながら、室温まで冷却させた。得られたスラリー液より濾取した固体を減圧乾燥(60℃、10kPa以下)で8時間乾燥させて、エポキシ変性重合体の白色固体19.0g(オレフィン転化率100%、収率94%)を得た。
1H-NMR δ(C2D2Cl4) 0.80-0.88(m),0.9-1.7 (m), 2.37-2.40 (1H, dd, J = 2.64, 5.28 Hz) , 2.50(m), 2.66 (1H, dd, J = 3.96, 4.95 Hz) 2.80 - 2.86 (1H, m), 2.95(m)
Mw:2040 Mw/Mn:1.56(GPC)
融点(Tm)112.9℃(DSC)
溶融粘度(140℃)34(mPa・s)
軟化点 118.0℃
5%減量温度 346℃(TGA)
【0066】
[実施例2]
片末端不飽和エチレン/プロピレン共重合体を、合成例2で得られた片末端不飽和エチレン/プロピレン共重合体(Mw=1730、Mn=994、片末端不飽和率(L)=83.2mol%)に変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、エポキシ変性重合体の白色固体23.9g(オレフィン転化率100%、収率94%)を得た。
1H-NMR δ(C2D2Cl4) 0.80-0.88(m),0.9-1.6 (m), 2.37-2.40 (1H, dd, J = 2.64, 5.28 Hz), 2.50(m), 2.66 (1H, dd, J = 3.96, 5.28 Hz) 2.80 - 2.86 (1H, m), 2.94(m)
Mw:1720 Mw/Mn:1.58(GPC)
融点(Tm)99.7℃(DSC)
硬度 2(10-1mm)
溶融粘度(140℃)32(mPa・s)
軟化点 114.5℃
5%減量温度 334℃(TGA)
【0067】
[実施例3]
片末端不飽和エチレン/プロピレン共重合体を、合成例3で得られた片末端不飽和エチレン/プロピレン共重合体(Mw=1310、Mn=790、片末端不飽和率(L)=77.2mol%)に変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、エポキシ変性重合体の白色固体9.53g(オレフィン転化率100%、収率94%)を得た。
1H-NMR δ(C2D2Cl4) 0.80-0.88(m), 0.9-1.6 (m), 2.37-2.40 (1H, dd, J = 2.97, 5.28 Hz), 2.50(m), 2.66 (1H, dd, J = 3.96, 5.28 Hz) 2.80 - 2.86 (1H, m), 2.95(m)
Mw:1470 Mw/Mn:1.54(GPC)
融点(Tm)73.6℃(DSC)
溶融粘度(140℃)19(mPa・s)
軟化点 101.5℃
5%減量温度 322℃(TGA)
【0068】
[実施例4]
片末端不飽和エチレン/プロピレン共重合体を、合成例4で得られた片末端不飽和エチレン/プロピレン共重合体(Mw2940、Mn1350、片末端不飽和率(L)=71.3mol%)に変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、エポキシ変性重合体の白色固体2.0g(オレフィン転化率100%、収率100%)を得た。
1H-NMR δ(C2D2Cl4) 0.80-0.88(m),0.9-1.6 (m), 2.37-2.40 (1H, dd, J = 2.64, 4.95 Hz), 2.50(m), 2.66 (1H, dd, J = 3.96, 5.28 Hz) 2.80 - 2.86 (1H, m), 2.95(m)
融点(Tm)120℃(DSC)
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の官能基含有重合体は、例えば、各種のインク、塗料、アルミニウムその他の金属に対する接着性材料、他樹脂とのポリマーブレンドにおける相溶化剤として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片末端に酸素含有基、イオウ含有基、金属含有基またはハロゲン含有基を有する、オレフィン重合体であって、
(i) 下記一般式(1)
【化1】

(1)
(一般式(1)中、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜18のアルキル基を表し、Aは炭素数2〜20のオレフィンからなる重合体を表す。)で表される片末端に二重結合を有するエチレン系共重合体(P)の、ビニル基、ビニレン基またはビニリデン基を、酸化剤、スルホン化剤、無水マレイン酸、ヒドロホウ素化剤、ヒドロアルミニウム化剤及びハロゲン化剤から選ばれる少なくとも1種の化合物で処理することによって製造され、
(ii)前記エチレン系重合体(P)が、融点を示す結晶性重合体であることを特徴とする、結晶性オレフィン重合体。
【請求項2】
(i) エチレン単位が80〜100mol%、炭素数3〜20のα−オレフィン単位が0〜20mol%の範囲にあり、
(ii)DSC測定によって融点(Tm)を示し、
(iii) ゲルパーミエーション(GPC)で測定した分子量分布が、1.1≦(Mw/Mn)≦3.0、分子量(Mw)が 400≦Mw≦500000であり、
(iv) H−NMRにより計算される末端ビニル基含有率(L)およびH−NMRとGPCにより計算される末端不飽和率(M)が
L> 50 mol%
M> 70 mol%
であることを特徴とする請求項1記載のオレフィン重合体。
【請求項3】
請求項1記載の重合体を含む接着性材料組成物。

【公開番号】特開2006−137873(P2006−137873A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329312(P2004−329312)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】