説明

定流量弁

【課題】高圧下での著しい流量低下を抑制するとともに、定流量弁における流体の圧力損失を小さくすることを可能とする。
【解決手段】ハウジング蓋218と可動弁体22とにより形成される第1室213と、ハウジング本体217と可動弁体22とにより形成される第2室214と、第1室213と第2室214とを連通し、流体が通過することで第1室213と第2室214との間に圧力差を生じさせる第1孔223と、可動弁体22に備えられた弁部222に対応して設けられる弁座212aと、弁部222と弁座212aとが開弁する方向に可動弁体22を付勢する弾性部材23とを備えた定流量弁2において、弁座212aに対応した弁部222が可動弁体22に設けられ、弁部222には、弁部222と弁座212aとの間隙212bを介さずに第2室214あるいは第1室213から流出口212に直接流体を流すことのできる第2孔224が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管路を流れる流体の流量を調節する定流量弁に関し、特に高圧下での著しい流量低下を抑制することのできる定流量弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、管路を流れる流体の単位時間当たりの流量は、流体の用途に応じた適切な調節を必要とすることがあり、この流量の調節のために定流量弁が用いられることがある。
【0003】
一般に、管路を流れる流体の流量は、その用途に応じた適切な調節が必要となることが多い。例えば、管路を流れる流体が水である場合、水道管等の管路を通じて給水栓や洗浄便座のノズル、あるいは給湯機器やミスト発生装置等に水を供給するとき、流量が過大であると水道としての使い心地が低下するだけでなく、給水栓や洗浄便座等の給水器具等に過大な負荷をかけることになる。
【0004】
管路を流れる水の流量を調節する方法として、管路に水を流す前に水の圧力を調節する方法か、管路に水を流した後に水の圧力を低下させて調節する方法がある。ここで、管路に水を流す前に圧力を調節する方法によると、この管路を通じて水の供給を受けるすべての給水器具等に対して一律に流量が低下することとなる。このとき、給湯器等の比較的大きな流量を要する給水器具に対しても一律に流量が低下することになり、これらの給水器具等に必要な流量を供給できなくなるおそれがある。このため、管路に水を流した後に圧力を低下させて、各別の給水器具等に適切な流量を供給する方法がとられてきた。なお、管路を流れる流体の流量を調節することが必要な分野は、水道に限られず、様々な分野で必要とされるものである。
【0005】
管路に流体を流した後に圧力を低下させて流量を調節するための器具として、特許文献1に開示される定流量弁が提案されている。定流量弁には、高い圧力が負荷されることによってOリング等の弾性部材が押しつぶされて流体の通過面積が絞られる面積制御タイプと、弁体の上流側と下流側との差圧によって弁体が動かされて流体の通過面積が絞られる差圧制御タイプがあり、この特許文献1に開示される定流量弁は差圧制御タイプに分類される。面積制御タイプは、差圧制御タイプと比較して構成が単純であり圧力損失が小さいが、面積制御部にゴミがつまると流量が低下し、また、Oリングが劣化し易い等、長時間の連続使用や長期間の耐久性に劣るという欠点がある。これに対して、差圧制御タイプは、差圧制御部にゴミが詰まってもバルブ開度を自己調整して流量低下を回避でき、面積制御タイプと比較して長時間の連続使用や長期間の耐久性に優れるが、構造が複雑であるため大型化し、また、圧力損失が大きくなり易いという欠点がある。
【0006】
特許文献1に開示される定流量弁2aは、本発明と比較するための実施例として、図2の断面図(a)、平面図(b)のように示される。図2(a)及びこの定流量弁2aにおける制御流量を説明するための断面図(c)に示されるように、第1室813の流体圧をP1、第2室814の流体圧をP2、下流側流体通路12の流体圧をP3、可動弁体822の有効受圧径面積をAd、コイルスプリングのバネ荷重をFS、第1孔823の流体通過断面積をAo、流出口812(弁座812a)の流体通過面積をAs、弁部822と弁座812aの間隙812bの流体通過有効面積をAvとすると、係数αによって以下の関係式(1)〜(4)が成り立つことが一般に知られている。
【0007】
上流側流体通路11における流体圧の増大によるP1の増大に伴って、可動弁体822が下流側流体通路12の方向に押動されてAvが減少することとなる。一方で、可動弁体822の位置が初期の位置から移動しない程度の流体圧である場合にAvが最大となり、このときのP1の圧力領域(以下、「圧損特性域」という。)における下流側流体通路12での流量Q21は、

となる。
【0008】
また、P1の増大に伴って可動弁体822の位置が初期の位置から下流側流体通路12の方向に押動され、圧損特性域において最大であったAvが徐々に減少するP1の圧力領域(以下、「流量制御域」という。)において、図2(c)に示される定流量弁2aについての関係式は、

となり、P3=0とすると、

となる。
【0009】
さらに、流量制御域における下流側流体通路12での流量Q22は、

となる。
【0010】
ここで、AsがAd−Ao−Asに比べて十分に小さい場合、減少項は無視することができる。更に、Fsが微小変位の場合、Fs/(Ad−Ao−As)=constと言える。
よって、ΔP=P1−P2=constとなる。
従って、流量Q22=αAo(ΔP)1/2=const α:比例定数
を得て、下流側流体通路12での流量Q22は定流量(const)になることがわかる。
【0011】
しかしながら、定流量弁の設計において、式(2)〜(4)の減少項を無視できるほど小さくするためにAsを非常に小さくすると、Asに比例するAvは、Asとともに非常に小さくなってしまい、Q21が低下して使用圧力の狭小化あるいは低圧での制御流量精度の悪化という問題がおきる。他方で、Q21の低下を抑制するためにAsを大きくすると減少項が大きくなり、高圧での流量低下が著しくなるという問題がおきる。また、Aoを大きくすることでQ21の著しい低下を抑制すると、Q22が変動して所定の流量に制御することができず、圧力損失の抑制と高圧での流量低下の抑制とは背反関係にある。Adを大きくして減少項を小さくする手段も考えられるが、定流量弁2aが全体的に大型化することとなりコストの増大やレイアウトの制約、耐圧設計の面等で大きな問題がある。即ち、特許文献1に開示される定流量弁2aは、圧力損失の抑制と高圧での流量低下の抑制と定流量弁2aの大型化回避とが両立できないとうジレンマが存在していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4586099号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、特に高い圧力で管路を流体が流れる場合に、流量の著しい低下を抑制することを可能とする定流量弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願請求項1に記載の定流量弁は、上流側流体通路から流体が流入される流入口を有する第1ハウジングと、ダイヤフラムと、該ダイヤフラムに一体的に取付けられた可動弁体とにより形成される第1室と、下流側流体通路に連通する流出口を有する第2ハウジングと、前記ダイヤフラムと、前記可動弁体とにより形成される第2室と、前記第1室と前記第2室とを連通し、流体が通過することで前記第1室と前記第2室との間に圧力差を生じさせる第1孔と、前記第2室と前記流出口とを連通する通路に臨んで設けられ、前記可動弁体に備えられた弁部に対応して設けられる弁座と、前記可動弁体を、前記弁部と前記弁座とが開弁する方向に所定の弾性力で付勢する付勢手段と、を備えた下流側流体通路を流れる流体の流量を所定流量に制御する定流量弁において、前記弁部は、前記弁座との当接が可能な形状であるとともに、前記第2室から前記流出口へ流体を流す第2孔が形成されることを特徴とする。
【0015】
本願請求項2に記載の定流量弁は、請求項1に記載の定流量弁において、前記第2孔は、前記第1孔と流体の流れ方向に対して互いに略同一直線上に形成されることを特徴とする。
【0016】
本願請求項3に記載の定流量弁は、請求項1に記載の定流量弁において、前記第2孔は、前記第1孔と流体の流れ方向に対して互いに偏芯して形成されることを特徴とする。
【0017】
本願請求項4に記載の定流量弁は、請求項1〜3の何れか1項に記載の定流量弁において、前記可動弁体は、前記第1孔と前記第2孔との間で、かつ流体の流れ方向に対する略同一直線上に設けられた障壁を有することを特徴とする。
【0018】
本願請求項5に記載の定流量弁は、上流側流体通路から流体が流入される流入口を有する第1ハウジングと、ダイヤフラムと、該ダイヤフラムに一体的に取付けられた可動弁体とにより形成される第1室と、下流側流体通路に連通する流出口を有する第2ハウジングと、前記ダイヤフラムと、前記可動弁体とにより形成される第2室と、前記第1室と前記第2室とを連通し、流体が通過することで前記第1室と前記第2室との間に圧力差を生じさせる第1孔と、前記第2室と前記流出口とを連通する通路に臨んで設けられ、前記可動弁体に備えられた弁部に対応して設けられる弁座と、前記可動弁体を、前記弁部と前記弁座とが開弁する方向に所定の弾性力で付勢する付勢手段と、を備えた下流側流体通路を流れる流体の流量を所定流量に制御する定流量弁において、前記弁部は、前記弁座との当接が可能な形状であるとともに、前記第1室から前記流出口へ流体を流す第2孔が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の定流量弁は、いわゆる差圧制御タイプに分類される定流量弁であり、弁座に対応した弁部が可動弁体に設けられ、その弁部には、弁部と弁座との間隙を介さずに第2室あるいは第1室から流出口に直接流体を流すことのできる第2孔が形成されていることにより、高圧下での著しい流量低下を抑制することができるとともに、定流量弁そのものをコンパクトにすることができ、さらに定流量弁における流体の圧力損失を小さくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用した定流量弁が設けられた給水システムを表す全体図である。
【図2】(a)は、特許文献1の開示技術をモデル化した定流量弁における管路の流れ方向の断面図である。(b)は、この定流量弁における管路の上流側流体通路からの平面図である。(c)は、この定流量弁における制御流量を説明するための断面図である。
【図3】(a)は、本発明を適用した定流量弁における管路の流れ方向の断面図である。(b)は、この定流量弁における管路の上流側流体通路からの平面図である。(c)は、この定流量弁における制御流量を説明するための断面図である。
【図4】(a)は、本発明を適用した定流量弁における管路の流れ方向の断面図である。(b)は、この定流量弁における管路の上流側流体通路からの平面図である。(c)は、この定流量弁における制御流量を説明するための断面図である。
【図5】図2に示される定流量弁並びに図3及び図4に示される定流量弁における圧力と流量との関係を表した圧力流量図である。
【図6】(a)は、本発明を適用した定流量弁における管路の流れ方向の断面図である。(b)は、この定流量弁における制御流量を説明するための断面図である。
【図7】図2に示される定流量弁及び図6に示される定流量弁における圧力と流量との関係を表した圧力流量図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を適用した定流量弁について、図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明を適用した定流量弁2が設けられた給水システム3を表す全体図である。図1に示されるように、管路1の上流から所定の圧力により水が供給され、給水器具4に内蔵されるか、又は管路1の途中に設けられた定流量弁2を介して給水器具4から水が吐出される。
【0023】
図3(a)は、本発明を適用した定流量弁2における管路1の流れ方向Sの断面図である。図3(b)は、図3(a)における本発明を適用した定流量弁2の上流側流体通路11からの平面図である。図3(a)に示されるように、本発明を適用した定流量弁2は、ハウジング21と可動弁体22と弾性部材23とダイヤフラム24とを備える。
【0024】
ハウジング21は、ハウジング本体217とハウジング蓋218とを有し、ハウジング蓋218に上流側流体通路11から水を流入させる流入口211が形成され、ハウジング本体217の下流側流体通路12側に弁座212aが設けられ、水を流出させる流出口212が形成される。ハウジング21は、可動弁体22及びダイヤフラム24によって、第1室213と第2室214とに隔てられた弁室215とを有する。図3(a)において、ハウジング21は、ハウジング本体217とハウジング蓋218とで形成されたハウジング溝21aを有する。ハウジング21は、ハウジング本体217とハウジング蓋218とを有するものに限らず、一つの部材によって一体的に形成されるものであってもよい。ハウジング本体217には、流体を第2室214から下流側流体通路12へ直接流すために、第2室214と下流側流体通路12とを連通させる図示しない補助的な孔を併設することも可能である。
【0025】
図3(b)において、流入口211は、ハウジング蓋218の一部を開口させて設けられる。また、図3(a)において、流入口211と流出口212とは、管路1の流れ方向Sに対して、互いに略同一直線上に配置されるように設けられるが、これに限らず、管路1の流れ方向Sに対して、互いに偏芯して配置されるように設けられてもよい。
【0026】
可動弁体22は、第1室213側の弁体上面221aと第2室214側の弁体下面221bとを有する弁体本体部221と、弁座212aに遊嵌された弁部222と、第2室214において開放された弁体中空部226とを有する。可動弁体22は、弾性部材23及びダイヤフラム24により、弁室215において移動可能に支持される。弁部222は、弁座212aに遊嵌されるものに限らず、図4(a)に示されるように、弁座212aに当接可能な形状であってもよい。また、可動弁体22は、いかなる形状であってもよくニードル型、球体型、平板型、棒型、ラッパ型等のポペット弁であってもよい。
【0027】
弁体本体部221は、第1室213と第2室214とに連通される第1孔223を有する。弁体本体部221は、第1室213側の弁体上面221aから、第2室214側の弁体下面221bへと連続する弁体本体部221の弁体側面221cに弁体本体部溝221dを有する。弁部222は、第2室214から流出口212に向けて連通される第2孔224を有する。図3(a)において、第1孔223と第2孔224とは、管路1の流れ方向Sに対して、互いに略同一直線上に配置されるように形成される。間隙212bは、この弁部222と弁座212aとによって形成される。弁体中空部226においては、図3(a)に示されるように、第1孔223と第2孔224との間に障壁225が設けられてもよい。弁体本体部221と弁部222と弁体中空部226とは、一つの部材によって一体的に形成されるものであるが、これに限らず、複数の部材の組み合わせであってもよい。
【0028】
弾性部材23には、コイルスプリング等が用いられる。弾性部材23は、ハウジング本体217と可動弁体22との間に設けられ、その一端が弁体本体部221の弁体下面221bに当接され、上流側流体通路11に向けて可動弁体22を付勢している。ダイヤフラム24は、ハウジング溝21aと弁体本体部溝221dとに挟持されて配設される。
【0029】
図4(a)は、本発明を適用した定流量弁2の一の実施形態におけるに管路1の流れ方向Sの断面図である。図4(b)は、この定流量弁2における上流側流体通路11からの平面図である。図4(a)において、第1孔223と第2孔224とは、管路1の流れ方向Sに対して、互いに偏芯して配置されるように形成される。なお、障壁225は、第1孔223と第2孔224とのこれらの配置にかかわらず設けることができる。
【0030】
管路1に流される流体は、定流量弁2を通過することにより、その流量が調節される。具体的には、図3(a)において、流体は、まず、上流側流体通路11から流入口211を介して第1室213に流入し、その後、弁体本体部221の第1孔223と弁体中空部226とを介して第2室214に流入する。さらに、第2室214に流入した流体は、第2孔224又は間隙212bを介して下流側流体通路12に流出される。
【0031】
管路1に流される流体は、流入口211を介して第1室213に流入する際に、流入口211において縮流による圧力損失aを発生させる。この縮流による圧力損失aによって低下した圧力P1により、弁体本体部221の弁体上面221aが押圧される。
【0032】
管路1に流される流体は、第1孔223と弁体中空部226とを介して第2室214に流入する際に、第1室213から第1孔223、第1孔223から弁体中空部226及び弁体中空部226から第2室214にかけて縮流による圧力損失bを発生させる。また、図3(a)に示されるように、弁体中空部226に障壁225が設けられたり、図4(a)に示されるように、第1孔223と第2孔224とが互いに偏芯して配置されることで、流体の流れる方向が複雑化するため、これによっても、流体は縮流による圧力損失cを発生させる。さらに、コイルスプリング等の弾性部材23が第2室214に配設されること等によっても、同様に流体は縮流による圧力損失dを発生させる。弁体本体部221の弁体下面221bは、これらの縮流による圧力損失b〜dによって低下した圧力P2によって押圧されるとともに、コイルスプリング等の弾性部材23の付勢力Fsにより付勢される。なお、本実施形態において、第1孔223における流体の通過面積は流体の圧力に関わらず一定であるが、本発明はこれに限られない。
【0033】
可動弁体22は、樹脂やゴム等を材質としたダイヤフラム24によって、流れ方向Sに対して移動可能に支持される。可動弁体22は、圧力P1による弁体上面221aの押圧によって、第2室214側に押動される。この押動によって可動弁体22は第2室214側へと移動し、この移動量の増大に伴って、コイルスプリング等の付勢力Fsは増大する。これにより、圧力P2及び付勢力Fsと、圧力P1とが釣り合う位置まで可動弁体22は第2室214側に移動する。この可動弁体22の第2室214側への移動により、弁部222が弁座212aに接近し、間隙212bが狭められるため、圧力P1が大きければ大きいほど、間隙212bは狭くなる。
【0034】
本発明を適用した定流量弁2は、弁部222に第2孔224が形成され、この第2孔224が常時第2室214から流出口212に向けて連通されるため、高圧下で間隙212bが著しく狭小化した場合であっても、第2孔224を介して、定流量弁2に近接する下流側流体通路12において所定の流量を確保することができる。
【0035】
可動弁体22は、第2室214における流体の圧力P2を、弁体本体部221の弁体下面221bで直接受けることができる。第2室214における流体の流速は、第1孔223又は第2孔224における流体の流速よりも遅いため、流体の粘性の影響を受けて過度に圧力P2が低下することを回避することができる。また、弁体中空部226に障壁225が設けられたり、第1孔223と第2孔224とが互いに偏芯して配置されることで、流体の流れる方向が複雑化する。これによっても、第2室214における流体の流速は低下し、流体の粘性の影響を受けて過度に圧力P2が低下することを回避することができる。これらにより、本発明を適用した定流量弁2は、間隙212bの制御を高い精度で行なうことができる。
【0036】
図3(a)、(c)に示されるように、第1室213の流体圧をP1、第2室214の流体圧をP2、弁座212aを通過した流体圧をP3、可動弁体22の有効受圧径面積をAD、コイルスプリングのバネ荷重をFS、第1孔223の流体通過断面積をAO、第2孔224の流体通過断面積をAB、流出口212(弁座212a)の流体通過面積をAS、弁部222と弁座212aの間隙212bの流体通過有効面積をAvとすると、係数αによって以下の関係式(5)〜(8)が成り立つ。
【0037】
図3及び図4に示される定流量弁2の圧損特性域における下流側流体通路12での流量Q31は、

となる。
【0038】
また、流量制御域において、図3(c)及び図4(c)に示される定流量弁2についての関係式は、

となり、P3=0とすると、

となる。
【0039】
図3及び図4に示される定流量弁2の流量制御域における下流側流体通路12での流量Q32は、

となる。
【0040】
式(4)と比較すると、式(8)には増加項がある。増加項も減少項もP1に依存しているため、圧力P1が小さい時は小さな減少項に対し小さな増加項が生じ、圧力P1が大きい時は大きな減少項に対し大きな増加項が生じる。したがって、減少項の大きさに合わせて増加項が流量低下を抑制する方向に作用し、図3及び図4に示される本発明を適用した定流量弁2は、流量制御域における過剰な流量低下を抑制することができることがわかる。
【0041】
また、Q31の2乗からQ21の2乗を減ずる式は、式(1)及び式(5)より、式(9)のように示される。

【0042】
31の2乗からQ21の2乗を減じた値は、式(9)に示されるように正の値となることから、図3及び図4に示される本発明を適用した定流量弁2は、図2に示される定流量弁2aと比較して圧力損失が小さいことがわかる。したがって、図3及び図4に示される本発明を適用した定流量弁2は、ハウジング本体217を小さくしても所定の流量を得ることができ、定流量弁2そのものをコンパクト化することができる。
【0043】
間隙212bの著しい狭小化を回避するために、コイルスプリング等の弾性部材23の反発力を高く設定する方法も考えられる。しかしながら、弾性部材23の反発力を高く設定すると、低圧下で圧力P1が小さい場合には、可動弁体22を押動させることができず、流体の流量を十分に低減させることができないおそれがある。また、有効受圧径面積Adを大きく設定する方法も考えられるが、この方法によると定流量弁2aが全体的に大型化することとなり、コストの増大やレイアウトの制約等の問題が生じることとなる。本発明の定流量弁2は、第2孔224によって高圧下における所定の流量の確保ができるため、弾性部材23の反発力を高く設定する必要がなく、定流量弁2aの大型化を回避して、低圧下においても十分な流量の調節をすることができる。
【0044】
本発明を適用した定流量弁2は、図3(a)に示されるように、第2孔224を介した流体と間隙212bを介した流体とを併せて所定の流量を確保するため、流出口212を大きくしても、圧力の増加に伴って間隙212bからの流量が減少すると同時に、第2孔224からの流量が増加し、すなわち流量を精度良く制御することが可能になる。これにより式(8)の減少項の影響を小さくするために有効受圧径面積Adを大きくとるという必要性が無くなる。このため、有効受圧径面積Adを形成するハウジング本体217を小さくすることができ、定流量弁2そのものをコンパクト化することができる。また、本発明を適用した定流量弁2は、常時第2室214から流出口212に向けて第2孔224が連通されるため、間隙212bのみを介する定流量弁2aと比較して、流体の圧力損失を小さくすることができる。さらに、弁体本体部221と弁部222と弁体中空部226とが、一つの部材によって一体的に形成されることで、これらが複数の部材により形成される場合と比べて定流量弁2の部品点数を減少させることができ、低コストで壊れにくいコンパクトな定流量弁2を製造することができる。
【0045】
図5は、図2に示される定流量弁2aと図3及び図4に示される本発明を適用した定流量弁2とにおいて、流体の圧力を横軸、下流側流体通路12に流出される流体の流量を縦軸として圧力と流量との関係を表す圧力流量図である。図2に示される定流量弁2aは、図5に示されるように、圧力が0から増大してU´までは流量が増大する。しかしながら、U´を超えて圧力が増大すると可動弁体22が押動されて間隙212bが狭まるため流量は低下する一方となり、高圧下において所定の流量を確保することができず、著しい流量低下を抑制することができない。
【0046】
図5に示されるように、本発明を適用した定流量弁2は、圧力が0から増大し、弾性部材23が初期の位置からの移動を始めるUまで流量が増大する。次に、Uを超えて圧力が増大すると可動弁体22が押動されて間隙212bが狭まり、弁部222が弁座212aに接触して間隙212bがなくなるRまで流量は低下を始める。このU〜R間において、式(8)に示す増加項も作用するため、図2に示される従来技術の定流量弁2aと比較して、高圧でのQ32の低下量は抑制され、精度良く流量制御される。さらに、Rを超えて圧力が増大すると第2孔224を介して流体が流れるため流量が増加する。このRよりも圧力が高い場合においても、本発明を適用した定流量弁2は、第2孔224が形成されていることによって常に所定の流量を確保することができ、著しい流量低下を抑制することができる。また、同程度の流量調整機能を有する従来技術の定流量弁2aと比較して、本発明を適用した定流量弁2は口径が小さくコンパクトであることがわかる。
【0047】
本発明を適用した定流量弁2は、弁部222に第2孔224が一体的に設けられることによって、初めて圧力損失の抑制と高圧での流量低下の抑制と定流量弁2の大型化回避の課題を原理的に同時に解決した。さらに、本発明を適用した定流量弁2は、定流量弁2の大型化を回避して圧力損失の抑制と高圧での流量低下の抑制とを実現するという本来の目的の域を超え、更なる小型化をしつつ従来技術を凌ぐ性能改善を、部品点数を増やさずに同時に達成し、然るに低コスト化も実現するという予想を超える効果を得た。
【0048】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば、図6に示されるような、本発明を適用した定流量弁2の他の実施形態を適用してもよい。
【0049】
図6(a)に示される定流量弁2において、弁部222に形成される第2孔224が第1室213と流出口212とを連通している点が、図3及び図4に示される定流量弁2と異なっている。また、可動弁体22は、弁体中空部226に相当する部分が設けられていない。したがって、当該構成が異なる部分を詳細に説明し、図3及び図4に示される定流量弁2と同様の要素については、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0050】
図6(a)に示される定流量弁2は、弁部222に形成された第2孔224と流出口212とが、管路1の流れ方向Sの略同一直線上に設けられる。このため、図6に示される定流量弁2において、第1室213に流入した流体は、第1孔223を介して第2室214に流入し、さらに間隙212bを介して下流側流体通路12に流出されるとともに、第2孔224を介して下流側流体通路12に流出される。なお、図6に示される定流量弁2は、流出口212に遊嵌される弁部222が設けられた可動弁体22であってもよい。
【0051】
図6(a)及びこの定流量弁2における制御流量を説明するための断面図(b)に示されるように、第1室213の流体圧をP1、第2室214の流体圧をP2、弁座212aを通過した流体圧をP3、可動弁体22の有効受圧径面積をAD、コイルスプリングのバネ荷重をFS、第1孔223の流体通過断面積をAO、第2孔224の流体通過断面積をAB、流出口212(弁座212a)の流体通過面積をAS、弁部222と弁座212aの間隙212bの流体通過有効面積をAvとすると、係数αによって以下の関係式(10)〜(13)が成り立つ。
【0052】
図6に示される定流量弁2の圧損特性域における下流側流体通路12での流量Q61は、

となる。
【0053】
また、流量制御域において、図6に示される定流量弁2についての関係式は、

となり、P3=0とすると、

となる。
【0054】
図6に示される定流量弁2の流量制御域における下流側流体通路12での流量Q62は、

となる。
【0055】
式(4)と比較すると、式(13)には増加項がある。増加項も減少項もP1に依存しているため、圧力P1が小さい時は小さな減少項に対し小さな増加項が生じ、圧力P1が大きい時は大きな減少項に対し大きな増加項が生じる。したがって、減少項の大きさに合わせて増加項が流量低下を抑制する方向に作用し、図6に示される本発明を適用した定流量弁2は、流量制御域における過剰な流量低下を抑制することができることがわかる。
【0056】
また、Q61の2乗からQ21の2乗を減ずる式は、式(1)及び式(10)より、式(14)のようになる。

【0057】
61の2乗からQ21の2乗を減じた値は、式(14)に示されるように正の値となることから、図6に示される本発明を適用した定流量弁2は、図2に示される定流量弁2aと比較して圧力損失が小さいことがわかる。したがって、図6に示される本発明を適用した定流量弁2は、ハウジング本体217を小さくしても所定の流量を得ることができ、定流量弁2そのものをコンパクト化することができる。
【0058】
これにより、高圧下において可動弁体22が流出口212に接近し、間隙212bが著しく狭小化した場合であっても、第2孔224を介して流出口212から流体を流すことができ、定流量弁2に近接する下流側流体通路12において、所定の流量を確保することができる。また、第2孔224を介して流出口212から流体が流されることから、低圧下においても十分な流量を確保することができ、流出口212を大きくしても、圧力の増加に伴って間隙212bからの流量が減少すると同時に、第2孔224からの流量が増加し、すなわち流量を精度良く制御することが可能になる。これにより式(13)の減少項の影響を小さくするために有効受圧径面積Adを大きくとるという必要性が無くなる。このため、有効受圧径面積Adを形成するハウジング本体217を小さくすることができ、定流量弁2そのものをコンパクト化することができる。
【0059】
図7は、図2に示される定流量弁2aと、図6に示される本発明を適用した定流量弁2とにおいて、流体の圧力を横軸、下流側流体通路12に流出される流体の流量を縦軸として圧力と流量との関係を表す圧力流量図である。図2に示される定流量弁2aは、図7に示されるように、圧力が0から増大してU´までは流量が増大する。しかしながら、U´を超えて圧力が増大すると可動弁体22が押動されて間隙212bが狭まるため流量は低下する一方となり、所定の流量を確保することができず、著しい流量低下を抑制することができない。
【0060】
図7に示されるように、本発明を適用した定流量弁2は、圧力が0から増大し、弾性部材23が初期の位置からの移動を始めるUまで流量が増大する。次に、Uを超えて圧力が増大すると可動弁体22が押動されて間隙212bが狭まり、間隙212bがなくなるRまで流量は低下を始める。このU〜R間において、式(13)に示す増加項も作用するため、図2に示される従来技術の定流量弁2aと比較して、高圧でのQ62の低下量は抑制され、精度良く流量制御される。さらに、Rを超えて圧力が増大すると第2孔224を介して流体が流れるため流量が増加する。このRよりも圧力が高い場合においても、本発明を適用した定流量弁2は、第2孔224が形成されていることによって常に所定の流量を確保することができ、著しい流量低下を抑制することができる。また、同程度の流量調整機能を有する従来技術の定流量弁2aと比較して、本発明を適用した定流量弁2は口径が小さくコンパクトであることがわかる。
【符号の説明】
【0061】
1 管路
11 上流側流体通路
12 下流側流体通路
13 流れ方向
2(2a) 定流量弁
21 ハウジング
21a ハウジング溝
211 流入口
212 流出口
212a 弁座
212b 間隙
213 第1室
214 第2室
215 弁室
217 ハウジング本体
218 ハウジング蓋
22 可動弁体
221 弁体本体部
221a 弁体上面
221b 弁体下面
221c 弁体側面
221d 弁体本体部溝
222 弁部
223 第1孔
224 第2孔
225 障壁
226 弁体中空部
23 弾性部材
24 ダイヤフラム
3 給水システム
4 給水器具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側流体通路から流体が流入される流入口を有する第1ハウジングと、ダイヤフラムと、該ダイヤフラムに一体的に取付けられた可動弁体とにより形成される第1室と、
下流側流体通路に連通する流出口を有する第2ハウジングと、前記ダイヤフラムと、前記可動弁体とにより形成される第2室と、
前記第1室と前記第2室とを連通し、流体が通過することで前記第1室と前記第2室との間に圧力差を生じさせる第1孔と、
前記第2室と前記流出口とを連通する通路に臨んで設けられ、前記可動弁体に備えられた弁部に対応して設けられる弁座と、
前記可動弁体を、前記弁部と前記弁座とが開弁する方向に所定の弾性力で付勢する付勢手段と、
を備えた下流側流体通路を流れる流体の流量を所定流量に制御する定流量弁において、
前記弁部は、前記弁座との当接が可能な形状であるとともに、前記第2室から前記流出口へ流体を流す第2孔が形成されること
を特徴とする定流量弁。
【請求項2】
前記第2孔は、前記第1孔と流体の流れ方向に対して互いに略同一直線上に形成されること
を特徴とする請求項1に記載の定流量弁。
【請求項3】
前記第2孔は、前記第1孔と流体の流れ方向に対して互いに偏芯して形成されること
を特徴とする請求項1に記載の定流量弁。
【請求項4】
前記可動弁体は、前記第1孔と前記第2孔との間で、かつ流体の流れ方向に対する略同一直線上に設けられた障壁を有すること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の定流量弁。
【請求項5】
上流側流体通路から流体が流入される流入口を有する第1ハウジングと、ダイヤフラムと、該ダイヤフラムに一体的に取付けられた可動弁体とにより形成される第1室と、
下流側流体通路に連通する流出口を有する第2ハウジングと、前記ダイヤフラムと、前記可動弁体とにより形成される第2室と、
前記第1室と前記第2室とを連通し、流体が通過することで前記第1室と前記第2室との間に圧力差を生じさせる第1孔と、
前記第2室と前記流出口とを連通する通路に臨んで設けられ、前記可動弁体に備えられた弁部に対応して設けられる弁座と、
前記可動弁体を、前記弁部と前記弁座とが開弁する方向に所定の弾性力で付勢する付勢手段と、
を備えた下流側流体通路を流れる流体の流量を所定流量に制御する定流量弁において、
前記弁部は、前記弁座との当接が可能な形状であるとともに、前記第1室から前記流出口へ流体を流す第2孔が形成されること
を特徴とする定流量弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−83278(P2013−83278A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221559(P2011−221559)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【特許番号】特許第5007370号(P5007370)
【特許公報発行日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【出願人】(391026287)富士精工株式会社 (25)
【Fターム(参考)】