説明

定着装置、及び画像形成装置

【課題】各種サイズの記録媒体を用いても、非通紙部の過剰な昇温を抑制可能な定着装置を提供すること。また、当該定着装置を備えた画像形成装置を提供すること。
【解決手段】発熱層を有する定着ベルト38を介して磁界発生装置42と対向して配置して、キューリー点を持つ感温磁性金属材料を含んで構成される発熱制御部材46を設ける。この発熱制御部材46を構成する感温磁性金属材料のキューリー点を境とする磁性・非磁性化を利用し、発熱層の発熱を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置の定着装置として、電磁誘導加熱方式を採用した定着装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。この電磁誘導加熱方式は、導電性層を有する回転体に誘導コイルによって発生させた磁界を作用させ、導電性層に発生する渦電流により回転体を直接発熱させるものである。
【特許文献1】特開2001−176648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、各種サイズの記録媒体を用いても、非通紙部の過剰な昇温を抑制可能な定着装置を提供することである。また、本発明の課題は、当該定着装置を備えた画像形成装置を提供することである。
【0004】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、
磁界の作用により発熱する発熱層を有する円筒形状の第1回転体と、
前記第1回転体に接する第2回転体と、
前記第1回転体の内周面又は外周面に対し所定の間隙を持って配置され、前記磁界を発生させる磁界発生手段と、
前記第1回転体を介して前記磁界発生手段と対向して配置され、キューリー点を持つ感温磁性材料を含んで構成され、前記発熱層の発熱を制御する発熱制御部材と、
を備えることを特徴とする定着装置である。
ここで、キューリー点とは、キュリー点、キューリー温度、キュリー温度とも称され、この温度以上になると磁性が消失し、非磁性体(常磁性体)になる温度を示す。感温磁性材料とは、磁性材料の温度変化に対して、その磁気特性を変化させる磁性材料のことを指す。
【0005】
請求項2に係る発明は、
前記キューリー点が、前記第1回転体の設定温度以上、前記第1回転体の耐熱温度以下の範囲である請求項1に記載の定着装置である。
ここで、第1回転体の設定温度とは、定着を開始するときの第1回転体の表面温度のことを意味する。また、耐熱温度とは、連続して使用したときに、第1回転体の構成材料が劣化して機能を損ない、変形が発生する温度である。
【0006】
請求項3に係る発明は、
前記第1回転体内部に当該第1回転体及び前記発熱制御部材を介し、且つ前記発熱制御部材と非接触で前記磁界発生手段に対向して配置され、非磁性金属材料を含んで構成される非磁性金属部材を備える請求項1に記載の定着装置である。
【0007】
請求項4に係る発明は、
前記第1回転体内部に当該第1回転体及び前記発熱制御部材を介し、該第1回転体と前記発熱制御部材が接触して配置され、且つ前記発熱制御部材と接触で前記磁界発生手段に対向して配置され、非磁性金属材料を含んで構成される非磁性金属部材を備える請求項1に記載の定着装置である。
【0008】
請求項5に係る発明は、
前記発熱層が非磁性金属で構成されている請求項1に記載の定着装置である。
【0009】
請求項6に係る発明は、
前記磁界発生手段からの電磁誘導作用により前記発熱制御部材に発生する渦電流を遮断する遮断手段が設けられている請求項1に記載の定着装置である。
【0010】
請求項7に係る発明は、
前記遮断手段が、前記発熱制御部材に設けられたスリット又は切り欠きである請求項6に記載の定着装置である。
【0011】
請求項8に係る発明は、
前記第1回転体の軸方向両端の少なくとも一方に設けられ、前記第1回転体へ回転駆動を伝達する駆動伝達部材を備える請求項1に記載の定着装置である。
【0012】
請求項9に係る発明は、前記発熱制御部材が前記第1回転体に接している請求項1に記載の定着装置である。
【0013】
請求項10に係る発明は、前記発熱制御部材が非押圧で前記第1回転体に接している請求項1に記載の定着装置である。
ここで、「非押圧で接触」とは大きな圧力をかけずに、接触面を有して接触している状態を示し、0.1〜200Nで発熱制御部材が第1回転体に接していることを意味する。
【0014】
請求項11に係る発明は、前記発熱制御部材が前記第1回転体に接していない請求項1に記載の定着装置である。
【0015】
請求項12に係る発明は、前記発熱制御部材は非発熱体である請求項1に記載の定着装置である。
ここで「非発熱体」とは、電磁誘導作用による渦電流損の発熱が十分に小さいものである。発熱を抑制するために非発熱体を発熱し難くした構造にしてもよく、0.038W/mm以下になるような部材である。
【0016】
請求項13に係る発明は、
前記感温磁性材料が金属材料である請求項1に記載の定着装置である。
【0017】
請求項14に係る発明は、
前記期第1回転体は前記第2回転体との接触時に接触部が内周面側に弾性変形することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の定着装置である。
【0018】
請求項15に係る発明は、
潜像保持体と、
潜像保持体表面に潜像を形成する潜像形成手段と、
電子写真用現像剤を用いて前記潜像を画像に現像する現像手段と、
現像された前記画像を被転写媒体に転写する転写手段と、
前記被転写媒体上の前記画像を定着する定着手段と、
を備え、
前記定着手段が請求項1〜14のいずれか1項に記載の定着装置であることを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、各種サイズの記録媒体を用いても、第1回転体における非通紙部の昇温を抑制できる、といった効果を奏する。
【0020】
請求項2に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、定着不良を防止すると共に第1回転体の劣化を防止しつつ定着時の過加熱が防止される、といった効果を奏する。
【0021】
請求項3に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、発熱制御部材の磁束(磁界)を貫通した領域での第1回転体の昇温をより低減させる、といった効果を奏する。
【0022】
請求項4に係る発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、軸方向の単位時間あたりの熱移動量が多くなるため定着ベルト自体の非通紙部昇温を軸方向に分散することで昇温抑制効果が得られる、といった効果を奏する。
【0023】
請求項5に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べて、薄くしても十分な発熱が得られるため、熱容量が小さい発熱層を得ることが可能となる、といった効果を奏する。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、発熱制御部材の自己発熱を抑制することができる、といった効果を奏する。
【0025】
請求項7に記載の発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、発熱制御部材の自己発熱を抑制することができる上に、発熱制御部材の軸方向の温度移動を抑制することが可能となる、といった効果を奏する。
【0026】
請求項8に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、第1回転体の摺動抵抗の影響による回転速度の変動を抑制し、紙しわや定着ムラを抑制できる、といった効果を奏する。
【0027】
請求項9に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、発熱制御部材による発熱層の電磁誘導発熱を感度良く制御可能となる、といった効果を奏する。
【0028】
請求項10に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、第1回転体の摺動抵抗を抑えることができるため、磨耗による寿命低下を引き起こしにくくなる、といった効果を奏する。
【0029】
請求項11に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、直接第1回転体に接触しないため、定着装置の立ち上がり時に温度上昇速度が低下しないので、より迅速に定着可能状態に到達できる、といった効果を奏する。
【0030】
請求項12に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、発熱制御部材の自己発熱が抑えられるため、第1回転体の温度変化により感度良く反応した温度制御ができる、といった効果を奏する。
【0031】
請求項13に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、発熱制御部材の熱容量が小さくなるため、第1回転体の温度変化に対する発熱制御部材の温度追従性が増してより感度良く反応した温度制御ができる、といった効果を奏する。
【0032】
請求項14に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、定着後に第1回転体からの用紙の剥離が容易となる、といった効果を奏する。
【0033】
請求項15に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べ、長期に渡り安定して良質な定着画像が得られる、といった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、実質的に同一の機能を有する部材には、全図面を通して同じ符合を付与し、重複する説明は省略することがある。
【0035】
図1は、実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。図2は、実施形態に係る定着装置を示す概略断面図である。図3は、実施形態に係る定着装置を示す概略構成図である。なお、図2は、定着装置の軸方向から見た概略断面図である。図3は、図2のA−A概略断面図であり、定着装置の軸方向と直交方向から見た概略断面図である。
【0036】
本実施形態に係る画像形成装置100は、図1に示すように、一方向へ(図1において矢印A方向)に回転する円筒状の感光体ドラム10を備えている。この感光体ドラム10の周囲には、感光体ドラム10の回転方向上流側から順に、感光体ドラム10の表面を帯電させる帯電装置12と、感光体ドラム10に像光Lを照射して表面に潜像を形成する露光装置14と、感光体ドラム10表面の潜像にトナーを選択的に転移させてトナー画像を形成する現像器16A〜16Dで構成される現像装置16と、感光体ドラム10と対向し、周面が周回可能に支持される無端ベルト状の中間転写体18と、トナー画像の転写後に感光体ドラム10に残留するトナーを除去する清掃装置20と、感光体ドラム10の表面を除電する除電露光装置22とが設けられている。
【0037】
また、中間転写体18の内側には、感光体ドラム10表面に形成されたトナー画像を中間転写体18に一次転写する転写装置24と、2つの支持ロール26A、26Bと、二次転写を行うための転写対向ロール28とが配置されており、これらによって中間転写体18が一方向(図1において矢印B方向)へ周回可能に張架されている。転写対向ロール28と対向する位置には、中間転写体18を介して、中間転写体18の外周面に一次転写されたトナー画像を記録紙(記録媒体)Pに二次転写する転写ロール30が設けられており、転写対向ロール28と転写ロール30との圧接部に、記録紙Pが矢印C方向へ送り込まれるようになっている。そして、当該圧接部において表面にトナー画像が二次転写された記録紙Pは、そのまま矢印C方向に搬送される。
【0038】
記録紙Pの搬送方向(矢印C方向)下流側には、記録紙P表面のトナー画像を加熱溶融して記録紙Pに定着する定着装置32が配されており、記録紙Pが用紙案内部材36を経由して送り込まれる。また、中間転写体18の回転方向(矢印B方向)下流に沿った位置には、中間転写体18表面に残留するトナーを除去する清掃装置34が設けられている。
【0039】
次に、本実施形態に係る定着装置について説明する。
【0040】
本実施形態に係る定着装置32は、図2及び図3に示すように、一方向(矢印D方向)へ回転する無端状の定着ベルト38(第1回転体)と、定着ベルト38の周面に圧接され、一方向(矢印E方向)へ回転する加圧ロール40(第2回転体)と、定着ベルト38の加圧ロール40との圧接面とは反対の外周面に対向すると共に離間して配置される磁界発生装置42(磁界発生手段)と、を備えている。
【0041】
定着ベルト38の内周側には、加圧ロール40とで接触部を形成する固定部材44と、磁界発生装置42に定着ベルト38を介して対向すると共に定着ベルト38の内周面に接触して配置される発熱制御部材46と、固定部材44を支持する支持部材48と、を備えている。発熱制御部材46は、支持部材48により支持されている。そして、定着ベルト38の両端部には、定着ベルト38を回転駆動するために、その回転動力を伝達するための駆動伝達部材50が設けられている。
【0042】
また、定着ベルト38と加圧ロール40との接触部の記録紙Pの搬送方向(矢印F方向)下流側には、剥離部材52が設けられている。剥離部材52は、一端が固定支持された支持部52Aと、これに支持されている剥離シート52Bとからなり、剥離シート52Bの先端が定着ベルト38に近接又は接触するように配置されている。
【0043】
まず、定着ベルト38について説明する。定着ベルト38は、例えば、基材と、その外周面上に発熱層と表面離型層を形成したベルトが適用され得る。
【0044】
基材としては、薄い発熱層を支持する強度を有し、耐熱性があり、磁界(磁束)を貫通しつつ、磁界の作用により発熱しないか、又は発熱しにくい材料を適宜選ぶことができる。例えば、厚みが30〜200μm(望ましくは50〜150μm、より望ましくは100〜150μm)の金属ベルト(非磁性金属として例えば非磁性ステンレススチールや、軟質磁性材料及び硬質磁性材料として(例えば、Fe,Ni,Co,又はこれらの合金Fe−Ni−CoやFe−Cr−Co合金等からなる金属材料で構成されたベルト)や、例えば厚みが60〜200μmの樹脂ベルト(例えばポリイミドベルト)等が挙げられ
る。
【0045】
発熱層としては、磁界(磁束)を容易に貫通しつつ、磁界の作用により発熱しやすい材料であり、熱容量ができるだけ小さいことがよい。
周波数20kHz〜100kHzの汎用電源(汎用電源用いると安価に製造できる)を使用し、発熱層50μm以下に薄くしていくと、磁性金属より低固有抵抗の非磁性金属の方が電磁誘導加熱しやすくなる。逆に厚さ50μm以上であれば磁性金属が発熱しやすい。一般に磁性金属は固有抵抗が高く、比透磁率が数十から数千であるため、表皮深さにおける渦電流が流れ難くなってしまう。例えば、磁性金属の鉄は9.71、ニッケルは6.84(それぞれ×10−8Ωm)である。これに対して低固有抵抗の非磁性金属の銀は1.59、銅は1.67、アルミニウムは2.7(それぞれ×10−8Ωm)と固有抵抗が小さく、比透磁率はおおよそ1であるため、薄くすると発熱しやすくなる。特に上記非磁性金属は20μm以下にすると発熱し易くなる。逆に上記非磁性金属はこれより厚くしていくと発熱しにくくなり、渦電流は流れるものの固有抵抗が小さいために渦電流損による発熱量が少なくなる。
発熱層として具体的には、例えば、厚み2μm〜20μm(望ましくは5〜15μm、発熱領域の総熱容量例えば3J/K以下)である、非磁性金属材料を含む発熱層が挙げられる。非磁性金属材料としては、先に示した通り銅、アルミ、銀が望ましい。
【0046】
表面離型層としては、例えば、厚さが1μm〜30μmのフッ素樹脂層(例えば、PFA層:PFA:テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体の層)等が挙げられる。
【0047】
また、定着ベルト38は、上記構成に限られず、2つの基材に発熱層を挟んだベルト、具体的には例えば2つのステンレスチール基材に発熱層(例えば銅)を挟んだベルトも適用し得る。また、基材と発熱層、又は発熱層と表面離型層との間には、シリコーンゴム、フッ素ゴム、フルオロシリコーンゴム等を含む弾性層を設けてもよい。
【0048】
また、定着ベルト38は、例えば、厚みを薄くしたり、構成材料を選択して、熱容量の小さい構成(例えば熱容量5J/K〜60J/K、望ましくは30J/K以下)とすることがよい。
【0049】
定着ベルト38の直径は、例えば20〜50mmのものが適用され得る。また、定着ベルト38の内周面には、フッ素樹脂が被覆された摺動に対して耐久性のあるフィルムを設けたり(例えば固定部材44のみに摺動に対して耐久性のあるフィルムを設置)、フッ素樹脂等をコーティングしたり、潤滑剤(例えばシリコーンオイル等)を塗布したりしてもよい。
【0050】
次に、加圧ロール40について説明する。本実施形態では、以下に加圧ロール40が定着ベルト38と離間している例を示すが、定着ベルト38と加圧ロール40は常に接触していてもよい。加圧ロール40は、両端部がバネ部材(不図示)によって定着ベルト38を介して固定部材44に例えば総荷重294N(30kgf)で押圧して配置されている。一方、予備加熱(定着可能状態になるまでの加熱)のときには、定着ベルト38と離間するように移動される(図4参照)。
【0051】
加圧ロール40は、例えば、金属製の円筒状の芯材40Aと、該芯材40Aの表面に設けられた弾性層40B(例えばシリコーンゴム層や、フッ素ゴム層等)と、を備えたロールが適用し得る。また、加圧ロール40には、必要に応じて最表面に表面離型層(フッ素樹脂層)を備えてもよい。
【0052】
次に、発熱制御部材46について説明する。発熱制御部材46は、定着ベルト38の内周面に倣った形状に構成され、定着ベルト38内周面に接すると共に磁界発生装置42に定着ベルト38を介して対向して配置されている。
【0053】
また、発熱制御部材46は、支持部材48のバネ部材48Bにより、支持部材本体48Aとは非接触で定着ベルト38を円筒形状に維持させつつ、非押圧で定着ベルト38の内周面に接して配置されている。本実施形態においては、1Nで発熱制御部材46が定着ベルト38内周面に接触している。ベルトに張力を作用させないので、接触させてもベルト形状は極端に変化はしない。大きな張力を与えて接触させると、摺動抵抗が高くなるため、磨耗による寿命低下を引き起こすことがある。また摺動抵抗が高くなるためベルトの駆動トルクが増大してベルトに繰り返しのねじり力がかかり、ベルトの発熱層にクラックが入る、座屈するなどの問題を引き起こすこともある。
【0054】
そして、発熱制御部材46は、キューリー点を持つ感温磁性金属材料を含んで構成されている。このキューリー点は、定着ベルト38の設定温度以上、定着ベルト38の耐熱温度以下の範囲であることがよく、具体的には、例えば140℃〜240℃であることが望ましく、より望ましくは150℃〜230℃である。
【0055】
また、発熱制御部材46自体は、磁界の作用によって発熱させないようにした「非発熱体」であることが好ましい。もし非発熱体が十分に発熱してしまうと発熱層への電磁誘導作用により定着ベルトを加熱する時に、同時に「非発熱体」にも同様に電磁誘導による磁束が作用するので、渦電流損やヒステリシス損による自己発熱が大きいと温度が上昇して意図せずキューリー温度まで到達してしまい、必要のない時に温度抑制効果が発現してしまうことがある。「非発熱体」は定着ベルトの温度を抑制するために必要な部材であるので、自己発熱による意図しない温度上昇はできる限り小さくする必要がある。本実施形態の「非発熱体」は、発熱層の発熱に対して十分に自己発熱が小さい部材であり、自己発熱により機能の発現に問題が生じる場合には、渦電流損が発生し難くするためのスリットや切り欠きを入れた構造にしてもよい。このスリットや切り欠きは、磁界発生装置42からの電磁誘導作用により発熱制御部材46に発生する渦電流を遮断する遮断手段として機能する。
【0056】
具体的には、例えば、図8、図9に示すように渦電流が流れる経路を遮断するように、発熱制御部材46の表面にスリット46Aが設けられる。このスリット46Aは、発熱制御部材46の幅方向(定着ベルト38の周方向)に沿って表面に溝を設けることで、形成される。そして、スリット46Aは、発熱制御部材46の軸方向(定着ベルト38の回転軸方向)に所定間隔で設けられる。このスリット46Aは、発熱制御部材46の幅方向(定着ベルト38の周方向)に沿って設けてもよいが、当該幅方向に対して傾斜して設けてもよい。発熱制御部材46の表面にスリット46Aを入れることによって発熱制御部材46の軸方向(定着ベルト38の回転軸方向)への熱移動(熱伝導)を抑制できるため、小サイズ連続通紙による定着ベルト38の非通紙部が昇温時し始めると、定着ベルトの非通紙部昇温領域から対向する発熱制御部材46に伝熱し、温度上昇に伴う発熱制御部材における飽和磁束密度の低下により、非通紙部領域の定着ベルトの発熱層での発熱が抑制され始め、さらにキューリー点付近まで温度上昇すると発熱制御部材が磁性から非磁性に変化して発熱層での発熱がさらに抑制される。このとき、発熱制御部材46における非通紙部領域の高温部の熱が軸方向における低温部に移動してしまうと、その非通紙部領域での温度が低下するため、発熱層での発熱を抑制できなくなるため、結果として定着ベルトの非通紙部領域の温度上昇の抑制効果は低下する。スリット46Aはこの軸方向の熱移動も防止できる点で望ましい。
ここで、図8は、他の本実施形態に係る定着装置の発熱制御部材周辺を示す概略平面図である。図9は、他の本実施形態に係る定着装置の発熱制御部材周辺を示す概略側面図である。
【0057】
また、感温磁性材料は金属材料と酸化物材料とに大別されるが、酸化物材料(例えば、フェライトなど)は、薄厚化(300μm以下)することが困難であり、割れやすく扱いにくい、また、熱容量は大きくなり、熱伝導率が低いため、定着ベルトの温度変化に感度よく追従せず、狙いの発熱制御ができないといった問題が起こることもある。これらの問題を解決するため、安価で容易に薄肉化成型可能で良加工性、しなやかさを有し、かつ、熱伝導率が高い、金属材料である非結晶合金の整磁鋼、非晶質合金などを用いる。つまり、Fe,Ni,Si、B,Nb,Cu,Zr,Co、Cr、V、Mn、Moなどからなる金属合金材料で、例えば、Fe−Niの二元系整磁鋼やFe−Ni−Crの三元系整磁鋼を用いることが望ましい。
【0058】
感温磁性金属材料は強磁性体であり、キューリー点付近となると、材料が非磁性化される。比透磁率が少なくとも数百以上の強磁性体が非磁性化(常磁性化)されることにより比透磁率が1に近づき、磁束密度の変化(磁場の強弱)が生じるため、非磁性化により磁束密度を弱め、発熱しにくくさせる変化を与えることができる。
【0059】
また、金属からなる導体材料の表皮深さは式(1)で決まる。表皮深さを感温磁性金属層の厚さ以下にする場合には、材料を熱処理により高透磁率化するか、磁界発生装置41の周波数を高めるか、固有抵抗値が小さい材料を選択することで実現できる。本実施形態では、表皮深さが感温磁性金属層の厚さ以下であることが必須ではないが、感温磁性金属層の厚さ以下にした方が効果がより高まるため望ましい。この場合、感温磁性金属材料の比磁性率は、キューリー点未満の範囲であれば、少なくとも発熱制御部材46の厚みに応じて式(1)に従って選択され、例えば感温磁性金属材料がFe−Ni系の整磁合金であれば、発熱制御部材46の厚みが50μmの場合、少なくとも5000以上とする。
【0060】
【数1】

【0061】
なお、式(1)中、δ:表皮深さ(m)、ρ:固有抵抗値(Ωm)、f:周波数(Hz)、μ:比透磁率を示す。
【0062】
発熱制御部材46の形状は、厚みが(例えば、20〜300μm)で、例えば円筒の所定の中心角の範囲(例えば30°〜180°)に相当する部分を切り出した形状等が挙げられるが、これに制限はない。
【0063】
次に固定部材44について説明する。固定部材44は例えば定着ベルト38の軸方向(幅方向)に軸線を有する棒状部材で構成され、加圧ロール40から作用する押圧力に抵抗するものとなっている。定着ベルト38を介して加圧ロール40が固定部材44に押圧させることで、定着ベルト38はその内周面側に変形される。このように加圧ロール40と固定部材44の接触部の用紙搬送方向の下流側部で定着ベルト38曲率を与えることにより用紙が定着ベルトから剥離される。
【0064】
ここで、用紙の剥離性能を得るため、「定着ベルト38を介して加圧ロール40が固定パッド44に押圧させることで、定着ベルト38はその内周面側に弾性変形できるか」という観点で定着ベルト38を決定するが、本実施形態での定着ベルトには金属材料を用いているため、可撓性は、定着ベルト38の剛性を決める金属からなる層で決まり、感温磁性金属層の厚さで決まる。
【0065】
また、定着ベルト38が内部側に弾性変形領域内で撓むかどうかを、非磁性スレンレスの硬質材で調査した。少なくとも定着時に定着ベルトに掛かる荷重同等以上の押圧力を付与して撓み量を評価した結果、非磁性スレンレスの硬質材の厚さが250μmではほとんど撓まず、200μmで若干撓みが発生し始めた。非磁性スレンレスの硬質材の厚さが150μm,125μm、100、75μmでは十分な撓みが発生した。したがって、定着ベルト38の金属材料の層はで200μm以下が望ましい。
【0066】
固定部材44の材料としては、耐熱性樹脂や耐熱性ゴムが最適である。例えば、ガラス繊維入りPPS(ポリフェニレンサルファイド)、フェノール、ポリイミド、液晶ポリマー等の耐熱性樹脂等である。これ以外なら比熱が小さく熱伝導率が高い金属としてアルミが望ましい。
【0067】
次に支持部材48について説明する。支持部材48は、例えば、支持部材本体48Aと、発熱制御部材46を支持するためのバネ部材48Bと、支持部材本体48Aと当該本体48Aの長手方向両端に設けられるシャフト48Cとで構成されている。
【0068】
支持部材本体48Aやシャフト48Cは、加圧ロール40から押圧力を受けたときのたわみ量が許容されるレベル以下で、具体的には例えばたわみ量が0.5mm以下になる程度の材料であれば、特に制限はなく、例えば金属材料、樹脂材料等により構成することができる、また、支持部材本体48Aは、例えば非磁性金属材料(例えば、銅、アルミ、銀、非磁性ステンレス)で構成させている(非磁性金属部材)。シャフトにかかる荷重により撓みが大きくなり、シャフト剛性が問題になる場合には、例えば撓みが小さくなるようなヤング率を有する材質の部材と非磁性金属からなる構造体としてもよく、その場合非磁性金属の厚さは少なくとも式(1)の表皮深さ以上とすればよい。
また、磁性金属材料を使用する場合には、表皮深さ以上の低抵抗の非磁性金属(銅、アルミ、銀)で、磁界発生装置42側の面をシールドし、磁性金属材料に磁界発生装置41からの磁束が及ばないような構造にすればよい。磁性金属材料に磁束が及ぶと渦電流によるジュール発熱が増加するため無駄な損失が増えてしまう。
【0069】
一方、バネ部材48Bは、発熱制御部材46と支持部材本体48Aとの連結部材であり、発熱制御部材46を直接支持するものである。バネ部材48Bは、発熱制御部材46をその幅方向両端部にて連結されている。
【0070】
また、バネ部材48Bは、例えば湾曲した板バネ(例えば金属製、各種エラストマー等の板ばね)で構成される。このバネ部材48Bにより、発熱制御部材46は、支持されると共に、定着ベルト38が偏心して回転して、定着ベルト38が半径方向へ変位しても、その変位に対して追従し、定着ベルト38の内周面に接触状態が維持される。
また、バネ部材48Bを発熱制御部材46が兼ねてもよい。その場合にはバネ部材と発熱制御部材を一体形として形成すればよい。
【0071】
次に、駆動伝達部材50について説明する。駆動伝達部材50は、定着ベルト38を自己回転させるための駆動動力を伝達するための部材であり、例えば、定着ベルト38の端部内側に嵌め込まれるフランジ部50Aと、外周面に凹凸を有する円筒状のギア部50Bとで構成されている。駆動伝達部材50は、例えば、金属材料、樹脂材料等で構成され得る。
【0072】
駆動伝達部材50は、フランジ部50Aを定着ベルト38の端部内側に嵌めこませて定着ベルト38の端部に支持される。そして、図示しないモータ等により駆動伝達部材50のギア部50Bが回転駆動されると共に、その回転動力が定着ベルト38に伝達され定着ベルト38が自己回転される。
【0073】
なお、駆動伝達部材50は、定着ベルト38の軸方向両端に設けているが、これに限られず、定着ベルト38の軸方向一端のみに設けてもよい。また、駆動伝達部材50は、フランジ部50Aを定着ベルト38の端部内側に嵌めこませて定着ベルト38の端部に支持されているが、これに限られず、フランジ部50Aの内側に定着ベルト38の端部を嵌め込んで、駆動伝達部材50を定着ベルト38の端部に支持してもよい。
【0074】
次に、磁界発生装置42について説明する。磁界発生装置42は、定着ベルト38の外周面に倣った形状に構成され、発熱制御部材46と定着ベルト38を介して対向すると共に、定着ベルト38の外周面との間隙が例えば1〜3mmとなるように配置されている。
また、磁界発生装置42には、複数回巻き回されている励磁コイル(磁界発生手段)42Aが、定着ベルト38の軸方向へ沿って配置されている。
【0075】
この励磁コイル42Aには、励磁コイル42Aに交流電流を供給する励磁回路(不図示)が接続されている。また、この励磁コイル42Aの表面上には磁性体部材42Bが、長さ方向(定着ベルト38の軸方向)に沿って延在して配置されている。磁性体部材42Bは、磁性体である発熱制御部材46とで励磁コイル42Aと定着ベルト38を挿んでおり、磁路を形成して、漏洩磁界の抑制や磁気結合の向上、力率の向上できるようになっている。磁性体部材42Bは、強磁性体であることが望ましく、例えば、鉄やニッケル、クロム、マンガンなど代表される強磁性金属材料やそれらの合金、ならびにこれらの酸化物などを用いれば良く、渦電流損やヒステリシス損が小さくなるようにすればよい。渦電流損が大きい場合には渦電流が流れ難くするようにスリットや切り欠きを入れたり、珪素鋼板のように薄板状に積層して構成すればよい。
例えば渦電流損とヒステリシス損が小さい材料としては、ソフトフェライトや酸化物系の軟質磁性金属材料などがある。
【0076】
磁界発生装置42の出力は、例えば磁束(磁界)が定着ベルト38の発熱層を貫通しつつ発熱させ、キューリー点未満では磁束(磁界)が発熱制御部材46を貫通させ難く且つ発熱しない範囲で行われる。
【0077】
なお、磁界発生装置42は、定着ベルト38の内周面側に所定の間隙を持って設けてもよい。この場合、発熱制御部材46は定着ベルト38の外周面に接して設けられる。
【0078】
以下、本実施形態に係る画像形成装置100の動作について説明する。
【0079】
まず、感光体ドラム10の表面が帯電装置12により帯電され、次いで露光装置14から像光Lが照射されて感光体ドラム10表面に静電電位の差による潜像が形成される。そして、感光体ドラム10の矢印A方向への回転により、現像装置16の1つの現像器16Aと対向する位置に移動し、現像器16Aから1色目のトナーが転移され、感光体ドラム10表面にトナー画像が形成される。このトナー画像は、感光体ドラム10の矢印A方向への回転により、中間転写体18との対向位置に搬送され、転写装置24によって中間転写体18表面に静電的に一次転写される。
【0080】
一方、一次転写後に感光体ドラム10表面に残留するトナーが清掃装置20により除去され、清浄化後の感光体ドラム10表面は、除電露光装置22により電位的に初期化され、再び帯電装置12との対向位置に移動する。
【0081】
以後、現像装置16の3つの現像器16B、16C、16Dが順次感光体ドラム10と対向する位置に移動し、同様に2色目、3色目、4色目のトナー画像が順次形成され、4色が重なったところで、一括して中間転写体18表面に重ねて転写される。
【0082】
中間転写体18上に重ね合わされたトナー画像は、中間転写体18の矢印B方向への周回移動により、転写ロール30と転写対向ロール28との対向位置に搬送され、送り込まれた記録紙Pに接触される。転写ロール30と中間転写体18との間には転写用バイアス電圧が印加されており、トナー画像は記録紙P表面に二次転写される。
【0083】
未定着のトナー画像を保持した記録紙Pは、用紙案内部材36を経由して定着装置32へ搬送される。
【0084】
次に、本実施形態に係る定着装置32の動作について説明する。
まず、定着装置32では、例えば上記画像形成装置100におけるトナー画像形成動作が開始されると同時に(無論、当然タイムラグがあってもよい。以下、同様である。)、定着ベルト38と加圧ロール40とが離間した状態で(図4参照)、不図示のモータにより駆動伝達部材50が回転駆動され、これに伴い定着ベルト38が矢印D方向へ例えば周速200mm/secで回転駆動される。
【0085】
この定着ベルト38の回転駆動がなされると共に、不図示の励磁回路から磁界発生装置42に含まれる励磁コイル42Aに交流電流が供給される。励磁コイル42Aに交流電流が供給されると、励磁コイル42Aの周囲に磁束(磁界)が生成消滅を繰り返す。この磁束(磁界)が定着ベルト38の発熱層を横切るとき、その磁界の変化を妨げる磁界が生じるように、当該発熱層に渦電流が発生し、発熱層の表皮抵抗及び発熱層を流れる電流の二乗に比例して発熱する(図5(a)参照)。ここで、図5中、2点鎖線は主磁束を示す。
【0086】
これにより、定着ベルト38は、発熱層により例えば10秒程度で設定温度(例えば150℃)まで加熱される。
【0087】
次に、定着ベルト38に対し加圧ロール40を押圧した状態で、上記定着装置に送り込まれた記録紙Pが定着ベルト38と加圧ロール40との間の接触部に送り込まれ、発熱体により加熱された定着ベルト38と加圧ロール40とによって加熱押圧され、トナー画像が当該記録紙P表面に溶融圧着され、トナー画像が記録紙P表面に定着される。
【0088】
ここで、定着ベルト38及び加圧ロール40による定着の際、定着ベルト38の定着領域幅(軸方向長さ)よりも小さい小サイズの記録紙Pを連続して定着すると、定着ベルト38における通紙部では熱が消費されるのに対し、非通紙部では熱の消費がなされない。このため、定着ベルト38の非通紙部では昇温する。
【0089】
そして、定着ベルト38の非通紙部の温度が、発熱制御部材46を構成する感温磁性金属材料のキューリー点付近となると、定着ベルト38の非通紙部と重なる(接する)発熱制御部材46の領域が非磁性化される。これにより磁性が維持された領域である通紙領域と非磁性化(常磁性化)された非通紙領域に磁束密度の違い(磁場の強弱)が生じ、通紙領域より非通紙領域の発熱層の発熱が少なくなる。このように、発熱制御部材46により、定着ベルト38の発熱層の発熱が制御される。
【0090】
また、発熱制御部材46が非磁性化(比透磁率が1に近づく)することにより、式(1)からわかるように容易に磁束(磁界)が貫通するようになる。このとき、図5(b)に示すように、固有抵抗値の低い非磁性金属材料(銀、銅、アルミなど)で構成された(表皮深さ以上の厚さがある)支持部材本体48Aが存在すると、磁束(磁界)が支持部材本体48Aに渦電流が主に流れ、定着ベルト38の発熱層に流れる渦電流損による発熱がさらに抑制される。また、発熱制御部材46を貫通した磁束(磁界)は、非磁性金属材料で構成された支持部材本体48Aまで達して磁界発生装置42に戻る。加えて、支持部材本体48Aは、定着ベルト38と共に発熱制御部材46とも非接触で設けられており、定着ベルト38から熱エネルギーを奪わないようにする。
【0091】
また、支持材本体48Aが、アルミ、銅や銀からなる低固有抵抗の非磁性金属部材48Dと支持体48Fの構造体で構成されていてもよい。例えば、図7に示すように、発熱制御部材46と支持体48Fとの間に介在するように、湾曲した板状の非磁性金属部材48Dをも設ける構成が挙げられる。低固有抵抗の非磁性金属部材48Dは上述したように定着ベルト38の発熱層に流れる渦電流損による発熱を抑制するための部材で、支持体48Fは加圧ロール40からの荷重を支持するための部材であり、撓みの少ない剛性を有していることが望ましい。さらに、非磁性金属部材48Dは、定着ベルト38と共に発熱制御部材46と接触させた場合には、定着ベルト38と非磁性金属部材48Dとの熱移動の主体は、発熱制御部材46を介した熱伝導となり、単位時間当たりの熱移動量は多くなる。その結果、軸方向の単位時間あたりの熱移動量が多くなるため定着ベルト38自体の非通紙部昇温を軸方向に分散することで昇温抑制効果が得られる。
ここで、図7は、他の本実施形態に係る定着装置の発熱制御部材及び支持部材周辺を示す概略断面図である。
【0092】
一方、定着ベルト38及び加圧ロール40による定着の際、定着ベルト38は、その内周面の形状に倣った形状の発熱制御部材46に非押圧で接触されて、支持されつつ回転し、摺動抵抗を抑制しつつ、定着ベルトの固定部材痕による振れの抑制と電磁力(コイルからの磁界とそれを妨げる方向に発熱層に流れる渦電流が作る反作用磁界との反発力、すなわちベルトにはコイルから遠ざかる方向の力がかかる)を受け止め、ベルトとコイル間距離を安定して保ち、ベルト形状を維持して定着が行われる。
【0093】
そして、記録紙Pは、定着ベルト38と加圧ロール40との接触部から送り出されたとき、その剛性によって送り出された方向に直進しようとし、曲げ回される定着ベルト38から先端が剥離され、その記録紙Pの先端と定着ベルト38との間に剥離部材52(剥離シート52B)が入り込み、記録紙Pを定着ベルト38表面から剥離する。
【0094】
以上説明したようにトナー画像が記録紙Pに形成され、定着が行われる。
【0095】
なお、本実施形態では、定着ベルト38は、その内周面の形状に倣った形状の発熱制御部材46に非押圧で接触されて、支持されつつ回転している形態を示したが、これに限られず、図6に示すように、定着ベルト38と発熱制御部材を接しないように配設してもよい。この形態では、定着ベルト38の熱エネルギーが発熱制御部材46に移動することを防ぐ構成となる。
【0096】
(試験例)
以下、上記実施形態に係る定着装置の試験例を示す。
【0097】
−試験例1−
まず、上記実施形態に係る定着装置(図1及び図2、図6参照)を使用し、以下の評価を行った。各部材は以下のものを用いた。また、
【0098】
・定着ベルト:直径30mmで幅370mm、厚さ60μmのポリイミド樹脂基材の外周面に、厚さ10μmの銅層(発熱層)と、厚さ30μmのPFA層(PFA:テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体)とを順次積層して構成されたベルト(耐熱温度240℃程度)
・加圧ロール:外径28mm、長さ355mmの加圧ロールは、直径18mmのスレンレス製の心金軸にスポンジ弾性層5mm、表面離型層のPFA層30μmを順次積層した構成からなるロール。
・発熱制御部材:厚さ150μm、長さ340mm、直径30mmの円筒の中心角160°に相当する部分を切り出した形状をした湾曲板形状であり、最大比透磁率が10000以上(加工上がりの比透磁率が約400程度の硬質材を焼鈍による熱処理により軟質材化して材料を高透磁率化した)、キューリー温度215〜230℃で、ネオマックスマテリアル製Fe−Ni合金MS−220で構成された発熱制御部材。
・定着ベルトと発熱制御部材間距離:
図2の構成では接触させるが、図6の構成では定着ベルトと非接触で配置する。図6の構成においては、定着ベルトと発熱制御部材間の距離を略1mmとし、配置する。半径14mmの円弧(角度は160°相当分)をおおよそ同心円になるように定着ベルトに非接触に沿わせている。
図6の構成の場合、本試験例ではウオームアップ時間(立ち上がり時間)は6〜8秒と極めて短時間で起動準備が完了できるので、使用する時だけ電力と投入すればよい極めて省エネルギーな定着装置が提供できる。図2の構成におけるウオームアップ時間は11〜13秒の時間を要する。
・支持部材本体:非磁性金属のアルミからなる支持部材本体
【0099】
−評価−
図2の構成、図6の構成のそれぞれにおいて、磁界を発生する装置の出力1100W〜400W内で制御、設定温度160〜170℃、プロセススピード170mm/sの条件で、記録紙(サイズB5で用紙の短手の一辺を先端にして給紙)、坪量98gsm:富士ゼロックス製JD紙)用いて、画像の定着を連続1000枚行って、定着ベルトの通紙部と非通紙部の温度をそれぞれ測定した。
【0100】
この結果、定着ベルトの通紙部の温度は160〜170℃であったのに対し、非通紙部では230℃以下に抑制されていた。
【0101】
−比較例1−
温度制御部材を設けない以外は、試験例1と同様にして評価した。
【0102】
その結果、画像の定着を連続100枚に達する前に、非通紙部の温度は、定着ベルトの耐熱温度である235℃を上回ってしまった。
【0103】
そこで、非通紙部の温度上昇を抑制する温度均一化手段として、加圧ロールに径φ12.7mmのヒートパイプを接触配置して、同様に評価を行ったところ、画像の定着を連続300〜400枚程度で非通紙部の温度は、定着ベルトの耐熱温度である235℃まで達してしまった。
【0104】
以上の試験例の結果から、本試験例では、比較例に比べて、例えば小サイズ等の各種サイズの記録媒体を用いても、定着ベルトにおける非通紙部の昇温を抑制し、過加熱が防止されることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
【図2】本実施形態に係る定着装置を示す概略断面図である。
【図3】本実施形態に係る定着装置を示す概略断面図である。
【図4】本実施形態に係る定着装置において、定着ベルトと加圧ロールとが離間した様子を示す概略断面図である。
【図5】本実施形態に係る定着装置において、定着ベルトを貫通する主磁を模式的に示す概略断面図である。
【図6】他の本実施形態に係る定着装置を示す概略断面図である。
【図7】他の本実施形態に係る定着装置の発熱制御部材及び支持部材周辺を示す概略断面図である。
【図8】他の本実施形態に係る定着装置の発熱制御部材周辺を示す概略平面図である。
【図9】他の本実施形態に係る定着装置の発熱制御部材周辺を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0106】
10 感光体ドラム
12 帯電装置
14 露光装置
16 現像装置
18 中間転写体
20 清掃装置
22 除電露光装置
24 転写装置
26A,26B 支持ロール
28 転写対向ロール
30 転写ロール
32 定着装置
34 清掃装置
36 用紙案内部材
38 定着ベルト
40 加圧ロール
42 磁界発生装置
44 固定部材
46 発熱制御部材
48 支持部材
48A 支持部材本体
48B バネ部材
48C シャフト
48D 非磁性金属部材
50 駆動伝達部材
52 剥離部材
100 画像形成装置
P 記録紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界の作用により発熱する発熱層を有する円筒形状の第1回転体と、
前記第1回転体に接する第2回転体と、
前記第1回転体の内周面又は外周面に対し所定の間隙を持って配置され、前記磁界を発生させる磁界発生手段と、
前記第1回転体を介して前記磁界発生手段と対向して配置され、キューリー点を持つ感温磁性材料を含んで構成され、前記発熱層の発熱を制御する発熱制御部材と、を備えることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記キューリー点が、前記第1回転体の設定温度以上、前記第1回転体の耐熱温度以下の範囲である請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記第1回転体内部に当該第1回転体及び前記発熱制御部材を介し、且つ前記発熱制御部材と非接触で前記磁界発生手段に対向して配置され、非磁性金属材料を含んで構成される非磁性金属部材を備える請求項1に記載の定着装置。
【請求項4】
前記第1回転体内部に当該第1回転体及び前記発熱制御部材を介し、該第1回転体と前記発熱制御部材が接触して配置され、且つ前記発熱制御部材と接触で前記磁界発生手段に対向して配置され、非磁性金属材料を含んで構成される非磁性金属部材を備える請求項1に記載の定着装置。
【請求項5】
前記発熱層が非磁性金属で構成されている請求項1に記載の定着装置。
【請求項6】
前記磁界発生手段からの電磁誘導作用により前記発熱制御部材に発生する渦電流を遮断する遮断手段が設けられている請求項1に記載の定着装置。
【請求項7】
前記遮断手段が前記発熱制御部材に設けられたスリット又は切り欠きである請求項6に記載の定着装置。
【請求項8】
前記第1回転体の軸方向両端の少なくとも一方に設けられ、前記第1回転体へ回転駆動を伝達する駆動伝達部材を備える請求項1に記載の定着装置。
【請求項9】
前記発熱制御部材が前記第1回転体に接している請求項1に記載の定着装置。
【請求項10】
前記発熱制御部材が非押圧で前記第1回転体に接している請求項1に記載の定着装置。
【請求項11】
前記発熱制御部材が前記第1回転体に接していない請求項1に記載の定着装置。
【請求項12】
前記発熱制御部材は非発熱体である請求項1に記載の定着装置。
【請求項13】
前記感温磁性材料が金属材料である請求項1に記載の定着装置。
【請求項14】
前記第1回転体は前記第2回転体との接触時に接触部が内周面側に弾性変形することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項15】
潜像保持体と、
潜像保持体表面に潜像を形成する潜像形成手段と、
電子写真用現像剤を用いて前記潜像を画像に現像する現像手段と、
現像された前記画像を被転写媒体に転写する転写手段と、
前記被転写媒体上の前記画像を定着する定着手段と、
を備え、
前記定着手段が請求項1〜14のいずれか1項に記載の定着装置であることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−152247(P2008−152247A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301146(P2007−301146)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】