説明

定着装置および画像形成装置

【課題】定着回転体における芯金の剛性を低下させることなく、芯金の発熱を抑制する。
【解決手段】定着回転体32と、加圧ローラ33とが相互に圧接されて定着ニップNが形成されている。定着回転体32は、定着ローラ部32Aの外周側に発熱層32cを有する発熱ベルト部32Bが積層されている。定着ローラ部32Aは、芯金32aの外周面に断熱層32bが積層されている。発熱ベルト部32Bの外側に配置された磁束発生ユニット34は、芯金32aの軸方向に沿った状態で発熱ベルト部32Bに対向配置された励磁コイル34bを備えており、励磁コイル34bによって生成される磁束によって交番磁界が形成される。芯金32aには、周方向に沿った複数の溝部32mが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録シート上に形成された未定着画像を、電磁誘導加熱方式によって加熱して記録シートに定着させる定着装置、および、当該定着装置を備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機等の電子写真方式の画像形成装置では、通常、画像データに対応したトナー画像を記録紙、OHPシート等の記録シートに転写した後に、定着装置において記録シートに定着するようになっている。定着装置では、記録シート上のトナー画像を加熱しつつ加圧することによって記録シートに定着している。
電力消費量を低減して省エネルギー化を図る加熱方式の一つとして、電磁誘導方式が提案されている。
【0003】
特許文献1には、導電部材によって中空円筒形状に形成された定着ローラを電磁誘導によって発熱させるために、定着ローラの内部にコイルを設けた定着装置が開示されている。コイルは、金属製のボビンに巻き付けられており、ボビンの内部には鉄心が挿入されている。ボビンには、軸方向に沿ったスリットが形成されており、鉄心によって形成される閉磁路の磁界の方向と直交する方向(ボビンの周方向)に電流が流れないようになっている。記録シートが通過する定着ニップは、定着ローラに加圧ローラが圧接されることによって形成されている。
【0004】
このような構成の定着装置では、定着ニップを形成するために必要とされる部品点数が少なく、また、広いスペースを必要としないことから、小型でコンパクトな構成とすることができる。しかも、定着ローラが電磁誘導によって発熱した場合にも、電磁誘導によって金属製のボビンに電流が流れるおそれがなく、ボビンが発熱することを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−229356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された定着装置は、定着ローラの内部にコイルが配置されているために、コイルが効率よく放熱されず、コイルの温度が上昇するおそれがある。コイルは、内部に鉄心が設けられたボビンに巻き付けられているために、コイルに生じた熱は、ボビン、鉄心等を通して放熱される。これにより、定着装置の熱容量が増加するおそれがある。
【0007】
これらの問題を解決するために、発熱層を備えた発熱ベルトを定着ローラの外周側に嵌合させて、発熱ベルトの外周側に配置された励磁コイルによって発熱層を発熱させる構成の定着装置が開発されている。この場合、定着ローラは、剛性を高めるために、金属によって円筒状あるいは円柱状(中実)に形成された芯金の外周面に断熱層、弾性層等を積層して構成されており、定着ローラの外周側に嵌合された発熱ベルトに加圧ローラが圧接されて定着ニップが形成されている。
【0008】
このような構成の定着装置では、励磁コイルによって発生する交番磁界の磁束が発熱層を通過することにより、発熱層に渦電流が発熱層を流れて、発熱層が発熱する。この場合、励磁コイルによって発生した磁束が、発熱ベルトの発熱層を通過して芯金に達すると、金属によって構成された芯金に渦電流が生じ、これにより、芯金が発熱するおそれがある。
【0009】
芯金上に断熱層が設けられている場合には、芯金において発生した熱は、発熱ベルトに伝達されず、定着ニップを通過する記録シートを加熱するために使用されない。芯金上に断熱層が設けられていない場合には、芯金において発生した熱の一部は、芯金を支持する部材等を介して放熱されることになる。
このように、芯金において発生した熱は、記録シートの加熱に有効に使用されないことから、発熱層に交番磁界を生成するために励磁コイルに供給される電力量が増加するおそれがある。この場合には、消費電力を低減することができず、省エネルギー化を十分に果たすことができなくなる。
【0010】
また、中空の芯金の場合には、周方向に沿って断続的にスリットを形成すると、芯金を流れる電流量を抑制することができる。また、中空の芯金を軸方向に分割して複数の円筒部分として、リング状の絶縁体によって分割された複数の円筒部分を接続することによって、芯金を電流が流れないように構成することができる。
しかしながら、これらの構成では、芯金の剛性が著しく低下するために、発熱ベルトを介して加圧ローラの圧力が直接的に加わる定着ローラは、変形、破損等が生じるおそれがある。定着ローラに変形等が生じると、定着ニップが変形して、定着ニップを通過する記録シートに、しわ、折れ曲がり等が発生する。また、定着ニップの変形によって、定着ニップの全体に均一な圧力が加わらず、定着ニップを通過した記録シートの画像が定着不良になるおそれもある。
【0011】
本発明は、このような問題を解決するものであり、その目的は、電磁誘導によって発熱する発熱層が芯金の外周側に設けられた定着回転体において、芯金の発熱を抑制するとともに、芯金の剛性が低下することを抑制することができる定着装置を提供することにある。本発明の他の目的は、そのような定着装置を有する画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る定着装置は、交番磁界によって渦電流が生じて発熱する発熱層が導電性の芯金の外周側に設けられており、当該発熱層が周回移動可能になった定着回転体と、当該定着回転体に圧接されて定着ニップを形成する加圧部材と、前記定着回転体に対向して配置された励磁コイルを有し、当該励磁コイルが生成する磁束によって前記発熱層に定着回転体の軸方向に沿って流れる渦電流を生じさせる磁束発生部と、を備え、前記定着回転体の芯金の外周面に、それぞれが当該芯金の軸方向と直交または傾斜する方向に沿った複数の溝部、または螺旋状の溝部が設けられていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る画像形成装置は、前記定着装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の定着装置では、磁束発生部の励磁コイルによって生成された磁束が、発熱層を通過して導電性の芯金に到達することにより、定着回転体の芯金に渦電流が生じても、芯金に形成された溝部によって、芯金を流れる電流量を低減することができる。これにより、芯金における発熱量を低減することができ、発熱層を効率よく発熱させることができる。また、芯金を流れる電流量を低減させる溝部は、定着回転体が変形するほど、芯金の剛性を低下させないことが可能である。
【0015】
好ましくは、前記溝部の深さが、前記磁束発生部にて生成された磁束によって前記芯金において発生する渦電流の表皮深さ以下であって、隣接する溝部との間隔以上であることを特徴とする。
好ましくは、前記溝部のピッチおよび前記溝部の底面における前記芯金の軸方向に沿った幅が、それぞれ、前記表皮深さに等しくなっていることを特徴とする。
【0016】
好ましくは、前記渦電流は、前記発熱層において定着回転体の軸方向の端部において軸方向に直交する方向に流れ、前記芯金における当該端部における外周面には、芯金の軸方向に並行した第2溝部が複数条設けられている。
好ましくは、前記芯金は、金属製の中実の円柱体または円筒体によって構成されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る定着装置が設けられた画像形成装置の一例であるタンデム型カラーデジタルプリンタの概略構成を示す模式図である。
【図2】そのプリンタに設けられた定着装置の主要部の構成を示す横断面図である。
【図3】その定着装置の主要部における一部を破断して示す斜視図である。
【図4】その定着装置に設けられた定着回転体の構成を示す主要部の縦断面図である。
【図5】(a)は、定着装置に設けられた磁束発生ユニットの励磁コイルと、定着回転体の発熱層に生成される電流との関係を説明するための模式的な斜視図、(b)は、励磁コイルと、定着回転体の芯金に生成される電流との関係を説明するための模式的な斜視図である。
【図6】(a)は、定着回転体の芯金を流れる電流を説明するための模式図、(b)は、芯金に溝部が形成されていない場合における芯金を流れる電流を説明するための模式図である。
【図7】本発明の変形例における定着回転体の芯金の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る定着装置および画像形成装置の実施の形態について説明する。
<画像形成装置の構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る定着装置が設けられた画像形成装置の一例であるタンデム型カラーデジタルプリンタ(以下、単に「プリンタ」とする)の概略構成を示す模式図である。
【0019】
このプリンタは、ネットワーク(例えばLAN)を介して外部の端末装置等から入力される画像データ等に基づいて、周知の電子写真方式により、カラーあるいはモノクロの画像を形成して、記録用紙、OHPシート等の記録シートに定着させる。
プリンタの上下方向の略中央部には、周回移動域が水平方向に沿って長くなった中間転写ベルト18が設けられている。中間転写ベルト18は、矢印Xで示す方向に周回移動する。中間転写ベルト18の下方には、画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Kが設けられている。画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Kは、中間転写ベルト18の周回移動方向に沿って、その順番で配置されている。
【0020】
各画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Kは、中間転写ベルト18の下方において中間転写ベルト18に対向した状態で矢印Z方向に回転可能に配置された感光体ドラム11Y、11M、11C、11K上に、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)およびブラック(K)の各色のトナーによってトナー画像を形成する。各画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Kは、トナー画像を形成するためのトナーの色のみがそれぞれ異なっていること以外は概略同様の構成になっていることから、画像形成ユニット10Yの構成のみを説明して、他の画像形成ユニット10M、10C、10Kの構成の説明は省略する。
【0021】
画像形成ユニット10Yは、感光体ドラム11Yの下方において感光体ドラム11Yに対向して配置された帯電器12Yを有している。感光体ドラム11Yは、帯電器12Yによって表面が一様に帯電され、帯電された感光体ドラム11Yの表面には、画像形成ユニット10Yの下方に設けられた露光装置13Yから照射されるレーザ光Lによって静電潜像が形成される。
【0022】
他の画像形成ユニット10M、10C、10Kのそれぞれの下方にも露光装置が設けられており、それぞれの露光装置から照射されるレーザ光Lによって、それぞれの感光体ドラム11M、11C、11K上に静電潜像が形成される。
感光体ドラム11Yの表面に形成された静電潜像は、現像器14YによってY色のトナーにより現像される。現像器14Yは、Y色のトナーを担持する現像ローラを備えており、現像バイアス電圧が印加された現像ローラの回転によって、Y色のトナーが現像ローラの周面を搬送されて、感光体ドラム11Yと対向する位置において、感光体ドラム11Y上に形成された静電潜像に付着する。これにより、感光体ドラム11Yの表面に、Y色のトナー画像が形成される。
【0023】
中間転写ベルト18の周回移動域の内部には、中間転写ベルト18を挟んで感光体ドラム11Yに対向する1次転写ローラ15Yが配置されており、感光体ドラム11Y上に形成されたトナー画像は、転写バイアス電圧が印加された1次転写ローラ15Yによって形成される電界の作用により、中間転写ベルト18上に1次転写される。
他の画像形成ユニット10M、10C、10Kにおいても、それぞれの感光体ドラム11M、11C、11Kの上方には、中間転写ベルト18を挟んで感光体ドラム11M、11C、11Kに対向する1次転写ローラが配置されており、感光体ドラム11M、11C、11K上に形成されたトナー画像は、転写バイアス電圧が印加されたそれぞれの1次転写ローラによって形成される電界の作用により、中間転写ベルト18上に1次転写される。
【0024】
なお、フルカラー画像を形成する場合には、各感光体ドラム11Y、11M、11C、11K上に形成されたそれぞれのトナー画像が中間転写ベルト18上の同じ領域に多重転写されるように、各画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Kのそれぞれの画像形成動作タイミングがずらされる。モノクロ画像を形成する場合には、選択された1つの画像形成ユニット(例えばKトナー用の画像形成ユニット10K)のみが駆動されることによって、その画像形成ユニットに設けられた感光体ドラム上にトナー画像が形成されて、中間転写ベルト18における所定領域上に転写される。
【0025】
トナー画像が形成された中間転写ベルト18の搬送方向下流側の端部(図1において右側の端部)は駆動ローラ17に巻き掛けられており、駆動ローラ17には、駆動ローラ17に巻き掛けられた中間転写ベルト18を挟んで、2次転写ローラ19が対向配置されている。2次転写ローラ19と中間転写ベルト18との間には転写ニップが形成されており、転写ニップに、下部の給紙カセット22からシート搬送経路21に沿って搬送される記録シートPが搬送される。
【0026】
中間転写ベルト18上に転写されたトナー画像は、転写バイアス電圧が印加された2次転写ローラ19によって形成される電界の作用により、転写ニップを通過する記録シートPに2次転写される。
中間転写ベルト18と2次転写ローラ19との間の転写ニップを通過した記録シートPは、2次転写ローラ19の上方に配置された定着装置30へ搬送される。定着装置30は、電磁誘導加熱方式で発熱する定着回転体32と、定着回転体32に圧接された加圧ローラ33とを有しており、定着回転体32と加圧ローラ33とが圧接されることによって、記録シートPが通過する定着ニップNが形成されている。
【0027】
定着装置30へ搬送された記録シートPは、定着回転体32と加圧ローラ33との圧接によって形成された定着ニップNを通過する間に加熱および加圧される。これにより、記録シートP上の未定着のトナー画像は、記録シートPに定着される。トナー画像が定着された記録シートPは、排紙ローラ24によって、中間転写ベルト18の上方に配置された排紙トレイ23上に排出される。
【0028】
<定着装置の構成>
図2は、定着装置30の構成を示す横断面図、図3は、定着装置30の主要部における一部を破断して示す斜視図である。なお、図3においては、磁束発生ユニット34が上側に位置するように示すとともに、内部の構成が理解しやすいように、磁束発生ユニット34を、長手方向の途中において部分的に切断して一部を取り除いた状態で示している。
【0029】
図2および図3に示すように、定着装置30は、記録シートPの搬送方向とは直交する方向に沿って配置された加圧ローラ33と、加圧ローラ33とは平行に配置されたローラ形状の定着回転体32と、定着回転体32を電磁誘導によって発熱させるために定着回転体32の外周側に配置された磁束発生ユニット34とを有している。定着回転体32および加圧ローラ33は、それぞれ、不図示の軸受部材によって回転可能に支持されている。
【0030】
加圧ローラ33は、バネなどを用いた不図示の加圧機構によって定着回転体32に向けて付勢されており、定着回転体32の表面に所定圧力で圧接されることによって、定着ニップNを形成している。加圧ローラ33は、不図示の駆動機構により矢印Aで示す方向に所定の周速度で回転駆動される。定着回転体32は加圧ローラ33の回転に伴って、矢印Bで示す方向に従動回転する。
【0031】
図4は、定着回転体32における主要部の縦断面図である。図4に示すように、定着回転体32は、円柱形状の定着ローラ部32Aと、定着ローラ部32Aの外周面上に全周にわたって一体的に積層された発熱ベルト部32Bとを有している。発熱ベルト部32Bは、円筒形状のベルト体によって構成されており、定着ローラ部32Aの外周面に密着するように嵌合されて、定着ローラ部32Aと一体的に密着した状態になっている。
【0032】
定着ローラ部32Aは、軸心部に設けられた中実の円柱形状に構成された芯金32aと、芯金32aの外周面(表面)に積層された断熱層32bとを有している。
芯金32aは、アルミニウム、SUS、非磁性SUS等の導電性を有する金属によって、加圧ローラ33が圧接された状態で変形しないような剛性に構成されている。本実施形態では、例えば、直径が20mm、長さが340mmの非磁性SUSによって構成されている。
【0033】
芯金32aの外周面には、それぞれが周方向に沿って連続した複数の溝部32mが、軸方向に一定の間隔をあけて形成されている。溝部32mの詳細については後述する。
断熱層32bは、シリコーンゴム、シリコーンスポンジ(発泡体)等のように、断熱性とともに弾性を有する材料によって1〜10mm程度の厚さに構成されている。断熱層32bは、芯金32aに形成された各溝部32m内に進入することなく、芯金32aの外周面上に積層されている。従って、各溝部32m内には、空気が充填された状態になっている。なお、各溝部32m内に断熱層を充填する構成としてもよい。
【0034】
定着ローラ部32Aの断熱層32b上に積層状態で配置された発熱ベルト部32Bは、断熱層32b上に密着した状態で嵌合された発熱層32cと、発熱層32cの外周面(表面)上に積層された離型層32dとを有する積層体によって円筒形状に構成されている。
発熱層32cは、電磁誘導によって発熱状態になるように、Ag、Al、Cu、SuS等の非磁性の金属によって構成されている。発熱層32cは、断熱層32bに対して密着状態で数μm程度の厚さに積層されている。このために、発熱層32cは、例えば、断熱層32bの表面を所定の金属によるメッキ処理によって形成される。
【0035】
発熱層32c上に積層された離型層32dは、例えばフッ素樹脂等の離型性を有する材料によって、20μm程度の厚さに形成されている。
加圧ローラ33は、図2および図3に示すように、円筒状に構成された芯金33aと、芯金33aの外周面(表面)上に積層された弾性層33bと、弾性層33bの外周面(表面)上に積層された離型層33cとを有している。
【0036】
芯金33aは、例えばステンレスなどによって直径10〜30mmから程度に構成されている。本実施形態では直径が20mmになっている。
弾性層33bは、例えば外径が35mmのシリコーンゴムによって構成されている。離型層33cは、例えば厚さが20μmのPFAチューブによって構成されている。
図2および図3に示すように、磁束発生ユニット34は、ローラ形状の定着回転体32に対して加圧ローラ33とは反対側の側方に配置されており、定着回転体32の軸方向に沿って長く延びるコイルボビン34aと、コイルボビン34a内における定着回転体32とは反対側に保持された励磁コイル34bとを有している。コイルボビン34aは、定着回転体32の表面に対向する面が、定着回転体32の周方向に沿って円弧状に湾曲すると共に、定着回転体32の外周面との間に、例えば3mm程度の所定の間隔が開くように、その長手方向両端部が図示しないフレームなどに固定されている。
【0037】
コイルボビン34aは、長手方向(定着回転体32の軸方向)とは直交する幅方向(定着回転体32の周方向)の中央部に、定着回転体32から離れる方向に突出した芯部34gを有しており、芯部34gの周囲に励磁コイル34bが設けられている。励磁コイル34bは、芯部34gにリッツ線を巻き付けることによって、図5(a)に示すように、定着回転体32の軸方向に沿って長く延びる長方形の枠状に形成されている。なお、リッツ線は、金属線を耐熱性の樹脂で被覆して構成された素線を数十〜数百本束ねて構成されている。
【0038】
励磁コイル34bは、定着回転体32の発熱層32cを発熱させるための交番磁場を形成する磁束を発生させるものであり、励磁コイル34bには、高周波電源回路(図示せず)から、例えば10〜100KHz、100〜2000Wの高周波電力が供給される。
励磁コイル34bにおける幅方向(長手方向とは直交する方向)の両側には、定着回転体32の軸方向に沿って延びる帯板状の袖コア34dが、それぞれの幅方向を定着回転体32の放射方向(径方向)に沿うように配置されている。また、励磁コイル34bに対して定着回転体32とは反対側には、複数のメインコア34cが、定着回転体32の軸方向に沿って並んで配置されている。各メインコア34cは、隣接するメインコア34c同士が適当な間隔を開けた状態で、励磁コイル34bを覆うように、両側の袖コア34dの間に架設された状態になっている。
【0039】
各メインコア34cおよび各裾コア34dは、透磁率が1000以上の高透磁率のフェライトによって構成されており、励磁コイル34bから発せられた磁束を定着回転体32に導くとともに、磁束がコイルボビン34aの外部に漏れることを防止するようになっている。各メインコア34cおよび各裾コア34dは、コイルボビン34aに取り付けられたカバー34eによって覆われている。
【0040】
<定着装置の動作>
このような構成の定着装置30では、搬送される記録シートPにトナー画像を定着させる際に、磁束発生ユニット34の励磁コイル34bに、高周波電力回路から高周波電力が供給される。励磁コイル34bは、高周波電力が供給されることによって磁束を発生して、交番磁界を形成する。励磁コイル34bから発生した磁束は、各メインコア34cおよび各裾コア34dによって定着回転体32へと導かれる。
【0041】
励磁コイル34bによって形成された磁束は、定着回転体32の発熱層32cを貫く。発熱層32cは、抵抗率が小さな非磁性の金属によって構成されているために、交番磁界を形成する磁束が発熱層32cを貫くことによって、発熱層32cには、図5(a)に矢印Dで示すように、励磁コイル34bを流れる電流とは逆向きに渦電流が流れる。発熱層32cは、電流が流れることによってジュール熱が生じ、これにより、発熱層32cが全体にわたって均一に発熱する。
【0042】
このような状態で、トナー画像が形成された記録シートPが定着装置30へ搬送されて、定着回転体32と加圧ローラ33との間の定着ニップNを通過する。記録シートPは、定着ニップNを通過する際に、表面が所定の定着温度とされた定着回転体32によって加熱されるとともに、定着回転体32および加圧ローラ33によって加圧される。これにより、記録シートP上のトナー画像が記録シートPに定着される。
【0043】
この場合、励磁コイル34bによって交番磁界を形成する磁束は、発熱層32cおよび断熱層32bを通って芯金32aに達する。これにより、芯金32aには、図5(b)に矢印Eで示すように、発熱層32cに生じた渦電流と同方向に流れる渦電流が生じる。芯金32aは、導電性材料によって構成されているために、電流が流れることによってジュール発熱することになる。
【0044】
芯金32aに電流が生じると、芯金32aに溝部32aが形成されていない場合には、図6(b)に示すように、渦電流の表皮効果によって生じた電流I2は、芯金32aの表面に沿って直線的に流れる。
しかしながら、芯金32aの表面には、それぞれが周方向に沿って断面四角形状の溝部32mが、軸方向に一定の間隔をあけて形成されており、しかも、それぞれの溝部32m内に空気が充填された状態になっているために、図6(a)に示すように、芯金32aに生じた電流I1は、各溝部32mのそれぞれを迂回するように流れることになる。なお、溝部32m内に断熱層が充填されている場合も同様である。
【0045】
従って、芯金32aに溝部32mが形成されている場合に芯金32aを流れる電流I1の距離は、芯金32aに溝部32mが形成されていない場合に芯金32aを流れる電流I2に比べて長くなり、芯金32aの見掛け上の抵抗が増加することになる。
図6(a)および図6(b)に示すそれぞれの場合において起電力が等しければ、芯金32aを流れる電流量は抵抗が高くなるほど小さくなる。従って、芯金32aに溝部32mが形成されていることにより、芯金32aに溝部32mが形成されていない場合に比べて、芯金32aを流れる電流量が低下することになる。
【0046】
芯金32aに流れる電流量が低下すると、芯金32aにおいて渦電流を生成するためのエネルギーが減少し、その減少分が、発熱層32cにおいて渦電流を生成するために使用されることになる。これにより、発熱層32cにおいて生成される電流量が増加する。従って、発熱層32cを所定の定着温度に発熱させるために必要とされる励磁コイル34bへの供給電力量を低減することができる。
【0047】
芯金32aに形成される各溝部32mは、芯金32aに形成される渦電流の電流量が低減できるように、しかも、芯金32aの剛性が低下しないように、形状、大きさ、ピッチ等が設定される。
芯金32aに生じる渦電流は、表皮効果によって、芯金32aの表面から、ほぼ表皮深さまでの深さの範囲を、芯金32aの表面に沿って流れ、表皮深さの位置では、電流量は、1/eにまで減衰する。このために、表皮深さよりも深い位置においては、渦電流がほとんど流れない状態であり、反対に、各溝部32mが深くなることによって、芯金32aの剛性が低下することになる。
【0048】
各溝部32mの深さが浅くなると、芯金32aの表面を流れる渦電流を迂回させる効果を期待することができなくなる。芯金32aの表面を流れる渦電流を迂回させて電流経路の見掛け上の電流量を効果的に低減するためには、各溝部32mの深さが隣接する溝部32mの間隔以上になっていることが好ましい。各溝部32mの深さが隣接する溝部32mの間隔よりも短く(浅く)なると、隣接する溝部32mの間に進入しない電流が発生するために、電流経路の見掛け上の電流量を効果的に低減することができないおそれがある。
【0049】
以上のことから、各溝部32mの深さは、表皮深さ以下であって、隣接する溝部32mの間隔以上になっていることが好ましい。特に、表皮深さとほぼ等しい深さが最適である。
なお、表皮深さdは、次式で表わされる。
d=(R/π・f・μ)1/2
但し、Rは芯金の体積抵抗(Ωm)、πは円周率、fは励磁コイル34bに印加される高周波電力の周波数(駆動周波数、Hz)、μは芯金の透磁率である。
【0050】
なお、溝部32mが形成されることによる芯金32aの剛性の低下について、本実施形態の芯金32aと同様の直径(20mm)および長さ(340mm)のアルミニウム、銅、鉄製のそれぞれの金属棒(円柱体)の断面2次モーメントと、このような金属棒において、40kHzの高周波電力が供給される励磁コイルによって発生した渦電流の表皮深さd分だけ直径を短くした場合の断面2次モーメントとを比較することにより検討した。
【0051】
アルミニウムの表皮深さdは約0.4mm、銅の表皮深さは約0.3mm、鉄の表皮深さ約0.05mmであり、表皮深さdだけ直径を短くした各金属棒は、直径20mmの金属棒に対するそれぞれの断面2次モーメントの低下が、アルミニウムの場合には15%程度、銅の場合には11%程度、鉄の場合には2%程度であった。従って、直径を短くした金属棒に、曲げ変形等が生じる程度には剛性が低下しないことが確認された。その結果、本実施形態において、芯金32aに、深さが表皮深さdの複数の溝部32mを形成しても、曲げ変形するような剛性の低下は生じるおそれがない。
【0052】
また、溝部32mにおける底面の幅方向長さ(芯金32aを軸方向に沿った長さ)およびピッチは、芯金32aを軸方向に沿って流れる電流の経路が各溝部32mを迂回して長くなるように設定される。各溝部32mの幅が長くなれば、電流は、各溝部32mの底面に沿って軸方向に直線的に流れることになり、迂回することによって経路が長くなる割合が低下して、効果的に電流量を低減することができなくなる。しかも、各溝部32mの幅方向長さが広くなることにより、芯金32aの曲げ剛性が低下する。
【0053】
同様に、溝部32mのピッチ(軸方向の間隔)が長くなると、電流が迂回することによって経路が長くなる割合が低下し、効果的に電流量を低減することができなくなる。また、溝部32mのピッチが長くなると、芯金32aの曲げ剛性が低下することになる。反対に、溝部32mのピッチが短くなると、電流は、隣接する溝部32mの間に進入することなく、溝部32mの底面に沿って軸方向に直線的に流れることになり、この場合にも、効果的に電流量を低減することができなくなる。
【0054】
これらのことから、溝部32mの幅方向長さおよびピッチは、それぞれ、表皮深さdと同程度(アルミニウム製の場合には0.4mm、銅製の場合には約0.3mm、鉄製の場合には約0.05mm)であることが好ましい。
なお、各溝部32mの断面形状も、四角形状に限定されるものではなく、底面が円弧状、三角形状に突出するような形状であってもよい。
【0055】
各溝部32mの形成方法は、特に限定されるものではなく、例えば、芯金32aを、各溝部32mに対応した突条が設けられた型を使用して成型することによって、成型と同時に形成してもよい。また、押し出し成型等によって金属棒を形成して、バイト等の切削工具、所定形状の部材の圧入、エッチング等によって、各溝部32mを形成することもできる。さらに、金属棒の表面における各溝部32m以外の部分を電気メッキすることによっても、各溝部32mを形成することができる。
【0056】
なお、本実施形態において使用される芯金32a(直径が20mm、長さが340mmの非磁性SUS)を、30kHzの高周波電力が供給された励磁コイル34bによって発熱させた場合の発熱量について数値解析した。その結果、芯金32aの発熱量は、84.50(W)であった。これに対して、溝部32mが形成されていない芯金(金属棒)について、同様の条件で発熱量を数値解析した。その場合の発熱量は85.66(W)であった。このことから、本実施形態の芯金32aでは、溝部32mが形成されていない芯金(金属棒)に対して、発熱量が1.38%、低下させることができた。
【0057】
このように、芯金32aに溝部32mが形成されているために、励磁コイル34bにて生成された磁束の電磁誘導によって芯金32aが発熱することを抑制することができる。従って、定着回転体32における発熱層32cを、励磁コイル34bにて生成された磁束の電磁誘導によって効率よく発熱させることができる。その結果、定着回転体32の発熱層32cを所定温度に発熱させる際に励磁コイル34bに供給される電力量を低減することができる。
【0058】
しかも、各溝部32mの深さを表皮深さd以下とすれば、芯金32aの剛性が低下するおそれがないために、定着回転体32が変形するおそれがない。これにより、定着ニップNを記録シートPが通過する際に、芯金32aが変形することを抑制でき、芯金32aの変形による定着ニップNの幅方向(記録シートの通過方向とは直交する方向)の長さが変化することによる定着不良が発生することを防止することが可能である。また、芯金32aが変形しないために、定着ニップNを通過する記録シートPに、しわ、折れ曲がり等が発生することを防止することができる。
【0059】
なお、励磁コイル34bは、定着ローラ部32Aの軸方向に沿って長い長方形の枠状に形成されていることから、図7に示すように、芯金32aにおける軸方向の両側の各端部においては、芯金32aの軸方向に並行する複数の溝部32nを周方向に所定の間隔をあけてそれぞれ設ける構成としてもよい。
この場合、芯金32aにおける軸方向の両側の各端部に対向する励磁コイル34bの各端部では、励磁コイル34bの各リッツ線は、芯金32aの軸方向に直交する方向に沿った状態になっており、各溝部32nは、各リッツ線に沿って芯金32aを流れる電流とは直交する方向に沿って形成されている。従って、芯金32aにおける軸方向の両側の各端部においても、流れる電流量を低減することができ、芯金32aの各端部での発熱をさらに抑制することができる。
【0060】
[変形例]
上記の実施形態では、軸方向に直交する周方向に沿った複数本の溝部32mを軸方向に一定の間隔をあけて設ける構成であったが、各溝部32mは、軸方向に対して傾斜した状態で形成されていてもよい。また、芯金32aの外周面に、螺旋状の1本または複数本の溝部を設ける構成としてもよい。いずれの場合にも、溝部32aは、周方向に断続した構成であってもよい。
【0061】
また、芯金32aの全体にわたって溝部32mを設ける構成に限らず、芯金32aにおける軸方向の一部に、周方向に沿った複数本の溝部32mを設ける構成、あるいは螺旋状の1本または複数本の溝部を設ける構成であってもよい。
さらに、上記の実施形態では、芯金32aは中実の円柱形状であったが、円筒形状であってもよい。
【0062】
また、定着回転体32の定着ローラ部32Aと発熱ベルト部32Bとは一体に構成されていたが、発熱ベルト部32Bの内径を定着ローラ部32Aの外径よりも大きくする構成としてもよい。この場合には、発熱ベルト部32Bは、加圧ローラ33と定着ローラ部32Aとによって挟持されて、加圧ローラ33あるいは定着ローラ部32Aが回転駆動されることによって、加圧ローラ33あるいは定着ローラ部32Aに追従して周回移動する。
【0063】
さらに、定着回転体32の発熱層として発熱ベルト部32Bを用いる構成であったが、発熱ベルト部32Bに代えて、定着ローラ部32Aの外周面上に発熱層を積層状態で形成する構成としてもよい。
さらには、発熱ベルトに加圧ローラを圧接して定着ニップを形成する構成であったが、加圧ベルトを用いて定着ニップを形成する構成としてもよい。また、固定的に設けられた加圧部材を用いて定着ニップを形成する構成としてもよい。
【0064】
また、上記実施の形態では、本発明に係る定着装置をタンデム型カラーデジタルプリンタに適用した場合について説明したがこれに限るものではなく、本発明に係る定着装置は、モノクロプリンタ、複写機、FAX、MFP(Multiple Function Peripheral)等の画像形成装置にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、電磁誘導によって発熱する発熱層が設けられた定着回転体に加圧部材が圧接されることによって定着ニップが形成された定着装置において、定着回転体の芯金の発熱を抑制する技術として有用である。
【符号の説明】
【0066】
10Y、10M、10C、10K 画像形成ユニット
18 中間転写ベルト
30 定着装置
32 定着回転体
32A 定着ローラ部
32B 発熱ベルト部
32a 芯金
32b 断熱層
32c 発熱層
32d 離型層
32m 溝部
32n 溝部
33 加圧ローラ
34 磁束発生ユニット
34b 励磁コイル
34c メインコア
34d 袖コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交番磁界によって渦電流が生じて発熱する発熱層が導電性の芯金の外周側に設けられており、当該発熱層が周回移動可能になった定着回転体と、
当該定着回転体に圧接されて定着ニップを形成する加圧部材と、
前記定着回転体に対向して配置された励磁コイルを有し、当該励磁コイルが生成する磁束によって前記発熱層に定着回転体の軸方向に沿って流れる渦電流を生じさせる磁束発生部と、を備え、
前記定着回転体の芯金の外周面に、それぞれが当該芯金の軸方向と直交または傾斜する方向に沿った複数の溝部、または螺旋状の溝部が設けられていることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記溝部の深さが、前記磁束発生部にて生成された磁束によって前記芯金において発生する渦電流の表皮深さ以下であって、隣接する溝部との間隔以上であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記溝部のピッチおよび前記溝部の底面における前記芯金の軸方向に沿った幅が、それぞれ、前記表皮深さに等しくなっていることを特徴とする請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記渦電流は、前記発熱層において定着回転体の軸方向の端部において軸方向に直交する方向に流れ、
前記芯金における当該端部における外周面には、芯金の軸方向に並行した第2溝部が複数条設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記芯金は、金属製の中実の円柱体または円筒体によって構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の定着装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の定着装置を備えていることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−108434(P2012−108434A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258965(P2010−258965)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】