説明

定着装置および画像形成装置

【課題】誘導加熱方式における発熱効率の低下を生じさせることなく、定着ベルトへの損傷部の発生を抑制することが可能な構成を備える定着装置および画像形成装置を提供する。
【解決手段】保持部材146の非通紙領域L2には、定着ベルト101と所定の間隔を隔てて配置される定着ベルト移動規制部材106が設けられ、定着ベルト移動規制部材106に定着ベルト101が当接した場合であっても、通紙領域L1においては、保持部材146の定着ベルト101との対向面148と定着ベルト101との間には所定の隙間が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンタ、FAX、これら複合機などに用いられる定着装置および画像形成装置に関し、特に、定着装置内の熱源として誘導加熱方式を用いる定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像形成装置の分野において、省エネルギー、省資源化の要請が高まってきており、高いエネルギー効率の実現と、画像形成装置の高寿命化に対応できる、誘導加熱方式を用いた定着装置が注目されている。
【0003】
省エネルギーの対応として、発熱層を有するベルトの外側に磁束発生装置を載置して、誘導加熱方式でベルトを加熱する定着装置が開発され、さらに、誘導加熱方式を採用した定着装置において、搭載される定着ローラの材料改良を行うことで、定着装置の耐久性向上が図られている(下記特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−84095号公報
【特許文献2】特開2009−276551号公報
【特許文献3】特開2009−288578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記各特許文献に開示される定着装置においては、発熱層を有する定着ベルトの内部に、シリコーンスポンジを有する定着ローラを挿入する構造が採用されている。この構造を備える定着装置において、耐久試験を実施すると、定着ローラのシリコーンスポンジが熱劣化し、定着ローラの外径が小さくなる(シュリンクする)ことが知見された。
【0006】
また、シリコーンスポンジの硬度が低下し、そのとき定着ローラを加圧ローラで押圧し回転すると、定着ベルトが楕円形状になり、定着ベルトの回転時における定着ベルトの振れが大きくなる現象が生じることを知見した。定着ベルトの振れが大きくなると、磁束発生装置のコイルボビンの定着ベルトに対向する面(表面)と定着ベルトとが接触し、定着ベルトに汚れや傷等の損傷部が発生する。
【0007】
定着ベルトに損傷部が発生した場合には、シートが定着ローラと加圧ローラとにより形成される定着ニップ領域を通過する際に、シート上の未定着のトナー像に乱れが生じるおそれがある。
【0008】
この課題を解決するために、コイルボビンの定着ベルトに対向する面(表面)と定着ベルトとの間隔を拡大することが考えられる。しかし、コイルボビンの定着ベルトに対向する面(表面)と定着ベルトとの間隔を拡大すると、誘導加熱方式における発熱効率が低下するという新たな課題が生じる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、誘導加熱方式における発熱効率の低下を生じさせることなく、定着ベルトへの損傷部の発生を抑制することが可能な構成を備える定着装置および画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に基づいた定着装置においては、周回駆動し、誘導加熱方式により発熱する発熱層を有する定着ベルトと、上記定着ベルトの内側に配置される定着ローラと、上記定着ベルトを上記定着ローラとともに加圧することで、通過するシート上の未定着のトナー像を定着させる定着ニップ領域を形成する加圧ローラと、上記定着ベルトが有する上記発熱層に通過させる磁束を発生させるコイルと、上記コイルを保持し、上記定着ベルトに対向配置される保持部材とを含む磁束発生装置とを備える。
【0011】
上記定着ニップ領域は、上記用紙が通過する通紙領域、および上記通紙領域の両側に位置し、上記用紙が通過しない非通紙領域とを含み、上記保持部材の上記非通紙領域には、上記定着ベルトと所定の間隔を隔てて配置される定着ベルト移動規制部材が設けられ、上記定着ベルト移動規制部材に上記定着ベルトが当接した場合であっても、上記通紙領域においては、上記保持部材の上記定着ベルトとの対向面と上記定着ベルトとの間には所定の隙間が生じる。
【0012】
他の形態では、上記定着ベルト移動規制部材は、上記保持部材の上記定着ベルトとの対向面から上記定着ベルトに向かって延びる凸形状部である。
【0013】
他の形態では、上記定着ベルト移動規制部材は、上記保持部材に一体成形されている。
他の形態では、上記保持部材および上記定着ベルト移動規制部材は、耐熱絶縁性樹脂から形成されている。
【0014】
他の形態では、上記定着ベルト移動規制部材の上記定着ベルトに対向する領域には、上記定着ベルトに対して上記定着ベルト移動規制部材の上記保持部材に一体形成された部分よりも摩擦係数が低い領域が設けられている。
【0015】
この発明に基づいた画像形成装置においては、上述したいずれかに記載の定着装置を備える。
【発明の効果】
【0016】
この発明に基づいた定着装置および画像形成装置によれば、誘導加熱方式における発熱効率の低下を生じさせることなく、定着ベルトへの損傷部の発生を抑制することが可能な構成を備える定着装置および画像形成装置の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態における画像形成装置(プリンタ)の全体構成を示す図である。
【図2】実施の形態における画像形成装置に採用される定着装置の構成を示す部分破断斜視図である。
【図3】実施の形態における定着装置の定着ベルトおよび定着ローラの断面図である。
【図4】図2中のIV−IV線矢視に相当する断面図である。
【図5】実施の形態における定着装置のコイルボビン、定着ベルトおよび定着ローラの配置関係を示す断面図である。
【図6】実施の形態におけるコイルボビンのみを示す正面図である。
【図7】実施の形態におけるコイルボビンの斜視図である。
【図8】実施の形態におけるコイルボビンに設けられる凸形状部の断面図である。
【図9】実施の形態におけるコイルボビンに定着ローラおよび定着ベルトを装着した状態の正常状態を示す図である。
【図10】実施の形態におけるコイルボビンに定着ローラおよび定着ベルトを装着した状態の定着ベルト移動規制部材が機能している状態を示す図である。
【図11】定着ベルト移動規制部材が設けられていない状態での、コイルボビンに定着ベルトが当接している状態を示す図である。
【図12】耐久枚数と定着ベルト振れ量およびシュリンク量との関係を示す図である。
【図13】定着ベルトと定着ベルト移動規制部材との摺動耐久評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に基づいた各実施の形態における定着装置および画像形成装置について、以下、図を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。また、各実施の形態における構成を適宜組み合わせて用いることは当初から予定されていることである。
【0019】
(画像形成装置100)
図1に、本実施の形態における画像形成装置100を示す。内部のほぼ中央部にベルト部材として中間転写ベルト1を備えている。中間転写ベルト1の下部水平部の下には、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色にそれぞれ対応する4つの作像ユニット2Y、2M、2C、2Kが中間転写ベルト1に沿って並んで配置され、感光体ドラム3Y、3M、3C、3Kをそれぞれ有している。
【0020】
各感光体ドラム3Y、3M、3C、3Kの周囲には、その回転方向に沿って順に、帯電器4Y、4M、4C、4Kと、プリントヘッド部5Y、5M、5C、5Kと、現像器6Y、6M、6C、6Kと、中間転写ベルト1を挟んで各感光体ドラム3Y、3M、3C、3Kと対向する1次転写ローラ7Y、7M、7C、7Kがそれぞれ配置されている。
【0021】
中間転写ベルト1の中間転写ベルト駆動ローラ8で支持された部分には、2次転写ローラ9が圧接されており、2次転写ローラ9と中間転写ベルト1とのニップ部が、2次転写領域n1になっている。2次転写領域n1後方の搬送路R1の下流位置には、定着ローラ10、加圧ローラ11、磁束発生装置12を有する定着装置20が配置されている。定着ローラ10と加圧ローラ11との圧接部が定着ニップ領域n2となっている。
【0022】
画像形成装置100の下部には、給紙カセット30が着脱可能に配置されている。給紙カセット30内に積載収容された用紙Pは、給紙ローラ31の回転によって最上部のものから1枚ずつ搬送路R1に送り出されることになる。上記中間転写ベルト1の最下流側の作像ユニット2Kと2次転写領域n1との間には、レジストセンサを兼用するAIDC(画像濃度)センサ40が設置されている。
【0023】
(画像形成装置100の概略動作)
次に、以上の構成からなる画像形成装置100の概略動作について説明する。外部装置(たとえば、パソコン等)から画像形成装置100の画像信号処理部(図示せず)に画像信号が入力されると、画像信号処理部ではこの画像信号をイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックに色変換したデジタル画像信号を作成し、入力されたデジタル信号に基づいて、各作像ユニット2Y、2M、2C、2Kの各プリントヘッド部5Y、5M、5C、5Kを発光させて露光を行なう。
【0024】
これにより、各感光体ドラム3Y、3M、3C、3K上に形成された静電潜像は、各現像器6Y、6M、6C、6Kによりそれぞれ現像されて各色のトナー画像となる。各色のトナー画像は、各1次転写ローラ7Y、7M、7C、7Kの作用により、図1中の矢印A方向に移動する中間転写ベルト1上に順次重ね合わせて1次転写される。
【0025】
このようにして中間転写ベルト1上に形成されたトナー画像は、中間転写ベルト1の移動にしたがって2次転写領域n1に達する。この2次転写領域n1において、重ね合わされた各色トナー画像は、2次転写ローラ9の作用により、用紙Pに一括して2次転写される。
【0026】
(定着装置20)
次に、図2および図3を参照して、定着装置20について説明する。用紙Pに2次転写されたトナー画像は、定着装置20の定着ニップ領域n2に達する。この定着ニップ領域n2において、トナー画像は、定着装置20に備えられた磁束発生装置12により誘導発熱する定着ローラ10および加圧ローラ11の作用により用紙Pに定着される。トナー画像が定着された用紙Pは、排紙ローラ50を介して排紙トレイ60に排出される。
【0027】
定着装置20は、定着ベルト101と、定着ローラ10と、加圧ローラ11と、磁束発生装置12とを備える。定着ベルト101は、図2中の矢印A方向に周回駆動される円筒状のベルトである。
【0028】
(定着ベルト101)
定着ベルト101は、その内径が約40(mm)であり、自立して略円筒形を保持できる弾性の自己形状保持可能なベルトが用いられている。定着ベルト101のベルト幅方向(定着ローラ10の回転軸方向に相当)長さは、最大サイズのシートの幅方向長さよりも長くなっている。図2では、最大サイズよりもサイズの小さい用紙Pが定着ニップ領域n2を通過している様子を示している。
【0029】
図3に示すように、定着ベルト101は、離型層111と、弾性層112と、発熱層113とが、この順に離型層111が表面側になるように積層されてなる。離型層111は、厚みが約20(μm)のPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などからなる。弾性層112は、厚みが約200(μm)のシリコーンゴムなどからなる。発熱層113は、厚みが約10(μm)のニッケルなどからなり、磁束発生装置12から発せられる磁束により発熱する。
【0030】
(定着ローラ10)
図2および図3に示すように、定着ローラ10は、長尺で円柱状の芯金121の周囲に断熱層122が積層されてなり、定着ベルト101の周回経路(周回走行路)内側に配される。芯金121は、アルミニウムまたはステンレス等からなり、断熱層122は、シリコーンスポンジゴム等からなる。定着ローラ10の外径は、約40以下(mm)である。芯金121の両端部には、定着ベルト101がベルト幅方向にずれることを防止するための円板状の部材107が外嵌されている。
【0031】
(加圧ローラ11)
図2に示すように、加圧ローラ11は、長尺で円柱状の芯金131の周囲に、弾性層132を介して離型層133が積層されてなり、定着ベルト101の周回経路外側に配置され、定着ベルト101の外側から定着ベルト101を介して定着ローラ10を押圧して、定着ベルト101表面との間に定着ニップ領域n2を確保する。
【0032】
芯金131は、アルミニウム等からなり、弾性層132は、シリコーンスポンジゴム等からなり、離型層133は、PFAやPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)コート等からなる。加圧ローラ11の外径は、約35〔mm〕である。
【0033】
定着ローラ10と加圧ローラ11は、芯金121、131の軸方向両端部が図示しないフレームに軸受部材などを介して回転自在に支持されると共に、加圧ローラ11は、駆動モータ(不図示)からの駆動力が伝達されることにより、図2中に示す矢印B方向に回転駆動される。この加圧ローラ11の回転に伴って定着ベルト101と定着ローラ10が矢印A方向に従動回転する。
【0034】
(磁束発生装置12)
図4に、図2中IV−IV線矢視断面図を示す。図2および図4を参照して、磁束発生装置12は、励磁コイル141aと、消磁コイル141bと、メインコア142と、センターコア143と、裾コア144と、カバー145と、コイルボビン146とを有している。メインコア142、センターコア143、裾コア144は、コイルボビン146の、定着ベルト101側とは反対側の裏面149に固定される。
【0035】
磁束発生装置12は、定着ベルト101の周回経路外側であり、定着ベルト101を挟んで加圧ローラ11と対向する位置に、定着ベルト101にその幅方向に沿うように配置される。
【0036】
コイルボビン146は、定着ベルト101の周回方向(以下、「ベルト周回方向」という。)に沿って円弧状に湾曲してなる板状部材であり、ベルト幅方向両端部が図示しないフレームなどに固定されている。コイルボビン146には、高耐熱の耐熱絶縁性樹脂材料が用いられている。たとえば、コイルボビン146が、定着温度に至ったときの熱による反りを軽減するために、コイルボビン146に、LCP(liquid crystal polymer)を採用すると良い。
【0037】
励磁コイル141aおよび消磁コイル141bは、定着ローラ10の長手方向(回転・移動方向と直交する方向)に沿わせて導線を巻いた構造を有している。励磁コイル141aおよび消磁コイル141bは、コイルボビン146に固定されている。
【0038】
励磁コイル141aは、高周波電源回路202に接続されて10kHz〜100kHz、100W〜2000Wの高周波電力が供給され、耐熱性の樹脂で被覆した細い線を数十本から数百本を束ねたリッツ線を用いる。消磁コイル141bは、励磁コイル141aの長手方向に沿わせて巻かれている。消磁コイル141bにも、リッツ線を用いる。
【0039】
メインコア142は、横断面が台形形状とし、励磁コイル141aの外面を覆うように、軸方向に所定の隙間を設けて配置する。その数は、数個〜十数個程度配置すればよい。また、裾コア144は一体物でも分割物のどちらでも良い。本実施の形態では複数の裾コア144が、隙間無く並べられている。
【0040】
センターコア143は、定着ローラ10の端部からの放熱を補うため、軸方向からみた定着ローラ10の両端の磁気結合を高くしている。センターコア143も、定着ローラ10の軸方向に複数個隙間無く並べられている。
【0041】
メインコア142、および裾コア144は、磁性体コアからなり、励磁コイル141aと定着ベルト101の発熱層113との間の磁気回路の効率を上げ、磁束が外に漏れるのを遮蔽している。上記磁性体コアの材料は、高透磁率かつ低損失のものを用いる。たとえば、フェライト、パーマロイのような合金を用いると良い。
【0042】
(制御)
定着ベルト101の温調制御は制御回路201によって行なわれる。定着ニップ領域n2の近傍に温度センサ200が配設される。温度センサ200は、たとえば非接触赤外線センサである。この温度センサ200による定着ベルト101の表面温度検出信号が制御回路201に入力される。
【0043】
制御回路201は温度センサ200から入力する定着ベルト101の表面温度検出信号をもとに、高周波電源回路202を制御する。高周波電源回路202から磁束発生装置12への電力供給を増減させることで、定着ベルト101の表面温度が所定の一定温度になるように自動制御される。
【0044】
具体的には、高周波電源回路202に設けられた、励磁コイル切り替えリレー203および消磁コイル切り替えリレー204の切り替えを制御回路201で行なうことで、定着ベルト101の温調制御を行なう。
【0045】
励磁コイル141aは、コイルボビン146の裏面149上に配置されており、高周波電源回路202に接続される。高周波電源回路202からの交流電力の供給により、定着ベルト101の発熱層113を加熱するための磁束を発生させる。励磁コイル141から発生される磁束は、メインコア142から裾コア144により定着ベルト101に導かれ、定着ベルト101の発熱層113の、主に磁束発生装置12に対向する部分を貫き、この発熱層113の部分に渦電流を発生させて発熱層113自体を発熱させる。
【0046】
この発熱した部分の熱が定着ベルト101の周回駆動により定着ニップ領域n2の位置で加圧ローラ11等に伝わることにより定着ニップ領域n2の領域が昇温される。定着ベルト101の温度を検出するための温度センサ200の検出信号により定着ベルト101の現在の温度を検出し、この検出温度に基づき定着ニップ領域n2の領域の温度が目標温度に維持されるように励磁コイル141への電力供給が制御される。
【0047】
定着ニップ領域n2の領域が目標温度に維持された状態で用紙Pが定着ニップ領域n2を通過する際に、用紙P上の未定着のトナー像が加熱、加圧されて当該用紙P上に熱定着される。
【0048】
図5を参照して、コイルボビン146、定着ベルト101、および定着ローラ10の位置関係を示す。定着ローラ10の軸芯R0を基準とし、図示している各部材の周回距離半径をR(mm)で示す。軸芯R0からコイルボビン146内径(ベルト対向側)までの距離をR1(mm)、軸芯R0から定着ベルト101の外径(コイルボビン対向側)までの距離をR2、軸芯R0から定着ベルト101の内径(定着ローラ対向側)までの距離をR3、軸芯R0から定着ローラ10の外径(ベルト対向側)までの距離をR4とする。
【0049】
コイルボビン146内径(ベルト対向側)までの距離R1(mm)と定着ベルト101の外径(コイルボビン対向側)までの距離R2との間にはギャップG1がある。たとえば、ギャップG1は、1.5mmに設定され、磁束発生装置12と定着ベルト101の発熱層113とは、高い磁気結合を維持している。ギャップG1が大きくなるほど磁気結合が悪化し発熱効率が低下してしまう。
【0050】
定着ローラ10は、定着ベルト101内に挿入されており、定着ローラ10と定着ベルト101は非接着で構成されている。軸芯R0から定着ベルト101の内径(定着ローラ対向側)までの距離R3と、軸芯R0から定着ローラ10の外径(ベルト対向側)までの距離R4との間にはギャップG2があり、たとえば、0.3mmに設定されている。
【0051】
このギャップG2が、大きくなるほど定着ローラ10の回転時に定着ベルト101の振れが大きくなり、コイルボビン146へ接触しやすくなる。定着ローラ10を構成する断熱層122は、シリコーンスポンジゴム等から構成されている場合には、このシリコーンスポンジゴムを冷凍して定着ベルト101内に挿入したり、定着ベルト101と定着ローラ10とを接着することで、定着ベルト101の振れを低減することは可能であるが、製造コストが上昇してしまう。
【0052】
そこで、本実施の形態では、ギャップG2の寸法を小さくしながら、定着ベルト101に定着ローラ10を挿入しやすくする観点から、ギャップG2は、0.1mm〜0.55mm程度に設定される。
【0053】
(コイルボビン146の詳細構造)
次に、図6から図10を参照して、本実施の形態におけるコイルボビン146の詳細構造について説明する。通紙領域L1において定着ベルト101がコイルボビン146に接触しないよう、定着ベルト移動規制部材を非通紙領域L2にもうける構成を検討した。
【0054】
定着ベルト移動規制部材とコイルボビン146の相対位置精度を確保するには、定着ベルト移動規制部材をコイルボビン146に搭載することが望ましく、定着ベルト101の熱容量を増やさない観点から積極的には当接させず、耐久時に補助できる機能を有していることが望ましい。
【0055】
図6から図8を参照して、コイルボビン146の詳細構造を説明する。本実施の形態におけるコイルボビン146は、定着ベルト101が対向する側に、軸方向に延びる湾曲形状の対向面148が設けられている。このコイルボビン146の画像有効幅(通紙領域L1)は305mmである。画像有効幅(通紙領域L1)の両側(外側:非通紙領域L2)の320mmから325mm幅の間に、凸形状の定着ベルト移動規制部材106が設けられている。なお、用紙PとしてA4用紙の幅は297mmであり、通紙領域L1の幅の範囲内の寸法である。
【0056】
図6から図10に示すように、定着ベルト移動規制部材106は、対向面148の湾曲面に沿って円周上にそれぞれ2箇所に設けられ、一つの定着ベルト移動規制部材106の周方向の長さは約20mm、両端の位置する定着ベルト移動規制部材106の間隔(L)は約320mm、定着ベルト移動規制部材106の幅(W1)は約5mm、コイルボビン146の対向面148からの高さ(h1)は、0.5mmである。なお、定着ベルト移動規制部材106は、円周上にそれぞれ2箇所設けられているが、一体構造、または、3以上の分割構造でもかまわない。
【0057】
この定着ベルト移動規制部材106を設けることにより、画像有効幅(通紙領域L1)では、定着ベルト101とコイルボビン146との間のギャップG1(図5参照)は、1.5mmとなり、定着ベルト移動規制部材106が設けられるがある非通紙領域L2では、定着ベルト101とコイルボビン146との間のギャップG1は、1.0mmとなる。
【0058】
定着ベルト移動規制部材106の高さ(h1)は、より高くなれば、当接した場合に定着ベルト101との摩擦力が大きくなることから、0.5mm程度が望ましい。また、定着ベルト移動規制部材106の幅(W1)は、小さくなれば定着ベルト移動規制部材106の移動に対する規制力が弱くなり、大きくなれば定着ベルト101との摩擦力が大きくなることから、5mm〜15mm程度がよい。
【0059】
図9は、定着ベルト101に振れが生じていない状態を示す。定着ベルト移動規制部材106と定着ベルト101との間には隙間が生じている。図10に、定着ベルト101に振れが生じている場合を示す。非通紙領域L2においては、定着ベルト移動規制部材106に定着ベルト101が当接している。これにより、定着ベルト101の振れが抑制され、通紙領域L1においては、コイルボビン146の対向面148に定着ベルト101は当接していない。
【0060】
ここで、図11に、定着ベルト移動規制部材が設けられていない状態での、コイルボビン146に定着ベルト101が当接している状態を示し、図12に、耐久枚数と定着ベルト振れ量およびシュリンク量との関係を示す。
【0061】
図12示すように、耐久枚数(用紙の通過枚数:Kは、×1000枚)が増加すると、定着ローラ10のシュリンク(外形が小さくなり)量も大きくなると同時に、定着ベルト101の振れ量も大きくなることが分かる。また、軽圧接(封筒定着圧)モードの場合よりも、圧接力の大きい圧接(普通紙定圧接)モードの場合の方が、定着ローラ10の振れ量も大きくなる。
【0062】
耐久試験の初期時には、定着ベルト101の回転時の振れは、ギャップG1の1.5mmより小さく、定着ベルト101とコイルボビン146の対向面148とは接触しない。しかし、たとえば、1200K枚(Kは、×1000枚)の用紙を通過させた後では、熱劣化により定着ローラ10の外形がシュリンクしてしまうと同時に定着ベルト101の振れが大きくなる結果、定着ベルト101が、定着ニップ領域n2の曲率により楕円状形状となる。また、定着ベルト101の振れが大きくなる要因の一つに、定着ローラ10のゴム硬度が低下し、定着ニップ領域n2の幅が増加することも影響していると考えられる。
【0063】
そのため、軽圧接(封筒定着圧)モードおよび圧接(普通紙定圧接)モードのいずれのモードにおいても、定着ベルト101の回転時の振れは、ギャップG1の1.5mmより大きくなり、図11に示すように、定着ベルト101がコイルボビン146の対向面148に接することになる。その結果、定着ベルト101の表面に微細な傷が発生し、トナーを用紙に定着させるときに画像に傷跡が転写される。
【0064】
また、定着ベルト101からのオフセットトナーや紙粉が、定着ベルト101からコイルボビン146へ集積し固着することも、定着ベルト101に傷が発生する要因の一つである。
【0065】
一方、本実施の形態に示すように、非通紙領域L2において、コイルボビン146の対向面148に定着ベルト移動規制部材106を設けることで、通紙領域L1内でのコイルボビン146と定着ベルト101との接触を抑制することが可能となる。
【0066】
(実施例)
次に、定着ベルト101と定着ベルト移動規制部材106との摩擦による、定着ベルト101の耐久評価を実施した。図13に、定着ベルト101の接触耐久評価結果を示す。評価条件としては、定着ローラ10が室温状態でもっとも振れが大きく、定着ローラ10が暖まると振れが小さくなることから、定着装置20が1日2回、室温からの昇温があると考え、下記の式に基づき算出した3000回を判定基準として、シュリンク量を飽和させた定着ローラ10を作成し、定着ベルト101の耐久評価を実施した。
【0067】
定着ベルト101には、発熱層113として、Ni基材40μm、弾性層112としてSiゴム層、離型層111として、PFAチューブ層を用いた。コイルボビン146の対向面148上に、図6から図8に示した、コイルボビン146と一体成形された定着ベルト移動規制部材106を設けた。定着ベルト移動規制部材106の幅(W)は、7mmとした。材質は、LCP(liquid crystal polymer)を用いた。
【0068】
一般的なオフィス環境での使われ方から、定着ベルト101とコイルボビン146との接触回数を以下のように試算した。
【0069】
(接触回数)
・常温からの定着駆動2回
・1日×1ヶ月間の稼働日(20日)×1年間の月数(12月)×年数(5年)×マージン(1.25)
・2(回)×20(日)×12(月)×5(年)×1.25=3000回
定着ベルト101とコイルボビン146との接触回数を3000回とし、定着ベルト101の表層摩耗を評価した。
【0070】
定着ローラ10と加圧ローラとの加圧モードは、軽圧接モード(封筒定着圧)と圧接モード(普通紙定着圧)とを用いた。定着ローラの最高回転速度は、325mm/sで、20s回転を1回のカウントとした。
【0071】
また、定着ベルト移動規制部材106の材料としてLCP(ポリプラスティク社、ベクトラ(登録商標)S471;耐熱240℃;図13中の材料A)を用いる以外に、定着ベルト移動規制部材106に、フッ素テープを貼り付けた場合(テフロン(登録商標):ニトフロン粘着テープNo.903UL;耐熱180℃:図13中の材料B)、PFAを貼り付けた場合(テフロン(登録商標);ニトフロン粘着テープNo.903UL;耐熱260℃;図13中の材料C)についても、3000回の耐久を評価した。
【0072】
その結果、材料Aを用いた場合には、評価「B」が得られ、材料Bおよび材料Cを用いた場合には、評価「A」が得られ、材料Aから材料Cにおいて良好な評価が得られた。
なお、評価「A」は、わずかな光沢差が見られる程度であり、ほとんど磨耗が発生していないレベル、評価「B」は、微小の磨耗が発生しているレベルである。
【0073】
なお、上記評価においては、定着ベルト移動規制部材106の定着ベルト101に対向する領域に、定着ベルト移動規制部材106よりも摩擦係数が低いフッ素系部材として、材料Bおよび材料Cを貼着した場合について説明したが、同じ性質を有する材料を塗布してもかまわない。
【0074】
以上、定着ベルト101との接触部にフッ素系の材料を用いると、最も定着ベルト101との摺擦痕が少なかった。しかし、コイルボビン146と同じLCPを用いた場合にも、用紙エッジの摺擦痕同等の摩耗しか発生しなかった。
【0075】
コストの観点からは、コイルボビン146の成型金型にて同時に定着ベルト移動規制部材106の凸形状を作ることが、最も安価である。また、LCPは比較的表面の平坦性が良く、耐熱性も優秀である。
【0076】
また、定着ベルト101のさらなる高寿命化を図るには、定着ベルト移動規制部材106の表層にフッ素コーティングを行なったり、フッ素テープを貼り付けたり、PFA樹脂からなる部材を接着もしくは固定しても良い。さらに、回転機能をもったコロ(回転部材)を定着ベルト移動規制部材106に搭載して、定着ベルト101とコイルボビン146との相対位置を軸方向に揺動する機能を持たせてもよい。
【0077】
以上の評価を実施し最終確認として、コイルボビン146にLCPからなる定着ベルト移動規制部材106を設け実機耐久評価を行ったところ、1200k枚以上通紙しても定着装置20の故障、および画像形成装置100における画像品質問題が起きないことが確認できた。
【0078】
以上、本実施の形態で説明したように、コイルボビン146に定着ベルト移動規制部材106の規制部材を設けることで、定着ローラ10のシリコーンスポンジが収縮しても、通紙領域L1(画像保証領域)内での定着ベルト101とコイルボビン146との接触を抑制することで、コイルボビン146の付着物に起因する定着ベルト101への傷付を抑制し、定着ベルト101の耐久性を向上することができる。
【0079】
これにより、省エネ型の定着装置20の構成を確保しながら、コストを上げることなく、定着装置20の耐久性を向上することができ、また、画像品質が安定した画像形成装置100の実現を可能とした。
【0080】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0081】
1 中間転写ベルト、2Y,2M,2C,2K 作像ユニット、3Y,3M,3C,3K 感光体ドラム、4Y,4M,4C,4K 帯電器、5Y,5M,5C,5K プリントヘッド部、6Y,6M,6C,6K 現像器、7Y,7M,7C,7K 1次転写ローラ、8 中間転写ベルト駆動ローラ、9 2次転写ローラ、10 定着ローラ、11 加圧ローラ、12 磁束発生装置、20 定着装置、30 給紙カセット、31 給紙ローラ、40 センサ、50 排紙ローラ、60 排紙トレイ、100 画像形成装置、101 定着ベルト、106 定着ベルト移動規制部材、107 部材、111,133 離型層、112,132 弾性層、113 発熱層、121,131 芯金、122 断熱層、141,141a 励磁コイル、141b 消磁コイル、142 メインコア、143 センターコア、144 裾コア、145 カバー、146 コイルボビン、148 対向面、149 裏面、200 温度センサ、201 制御回路、202 高周波電源回路、203 励磁コイル切り替えリレー、204 消磁コイル切り替えリレー、G1,G2 ギャップ、L1 通紙領域、L2 非通紙領域、P 用紙、n1 2次転写領域、n2 定着ニップ領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周回駆動し、誘導加熱方式により発熱する発熱層を有する定着ベルトと、
前記定着ベルトの内側に配置される定着ローラと、
前記定着ベルトを前記定着ローラとともに加圧することで、通過するシート上の未定着のトナー像を定着させる定着ニップ領域を形成する加圧ローラと、
前記定着ベルトが有する前記発熱層に通過させる磁束を発生させるコイルと、前記コイルを保持し、前記定着ベルトに対向配置される保持部材とを含む磁束発生装置と、を備え、
前記定着ニップ領域は、前記用紙が通過する通紙領域、および前記通紙領域の両側に位置し、前記用紙が通過しない非通紙領域とを含み、
前記保持部材の前記非通紙領域には、前記定着ベルトと所定の間隔を隔てて配置される定着ベルト移動規制部材が設けられ、
前記定着ベルト移動規制部材に前記定着ベルトが当接した場合であっても、前記通紙領域においては、前記保持部材の前記定着ベルトとの対向面と前記定着ベルトとの間には所定の隙間が生じる、定着装置。
【請求項2】
前記定着ベルト移動規制部材は、前記保持部材の前記定着ベルトとの対向面から前記定着ベルトに向かって延びる凸形状部である、請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記定着ベルト移動規制部材は、前記保持部材に一体成形されている、請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記保持部材および前記定着ベルト移動規制部材は、耐熱絶縁性樹脂から形成されている、請求項3に記載の定着装置。
【請求項5】
前記定着ベルト移動規制部材の前記定着ベルトに対向する領域には、前記定着ベルトに対して前記定着ベルト移動規制部材の前記保持部材に一体形成された部分よりも摩擦係数が低い領域が設けられている、請求項3に記載の定着装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の定着装置を有する、画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−247477(P2012−247477A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116738(P2011−116738)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】